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特許7115491樹脂組成物、およびこれを用いた立体造形物の製造方法、ならびに立体造形物
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  • 特許-樹脂組成物、およびこれを用いた立体造形物の製造方法、ならびに立体造形物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】樹脂組成物、およびこれを用いた立体造形物の製造方法、ならびに立体造形物
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20220802BHJP
   C08F 2/48 20060101ALI20220802BHJP
   B29C 64/135 20170101ALI20220802BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220802BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20220802BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20220802BHJP
【FI】
C08F2/44 Z
C08F2/48
B29C64/135
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y80/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019543642
(86)(22)【出願日】2018-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2018034504
(87)【国際公開番号】W WO2019059183
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2017182476
(32)【優先日】2017-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 健
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-514805(JP,A)
【文献】特開2005-060673(JP,A)
【文献】特開2015-089943(JP,A)
【文献】特開2010-265408(JP,A)
【文献】特表2017-513729(JP,A)
【文献】特開2017-007116(JP,A)
【文献】特開2001-342204(JP,A)
【文献】光造形3Dプリンター(SLA、DLP)の原理と仕組み, [online], [平成30年12月1日検索], インターネット <URL:https://i-maker.jp/blog/photopolymerization-9874.html>,2017年03月09日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/44
C08F 2/48
C08F 290/00
B29C 64/135
B33Y 10/00
B33Y 70/00
B33Y 80/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体状の樹脂組成物に活性エネルギー線を選択的に照射して、前記樹脂組成物の硬化物からなる立体造形物を製造する方法に使用される樹脂組成物であって、
ラジカル重合性を有する、常温で液体状の第1重合性化合物と、
ラジカル重合性を有さない、常温で液体状の第2重合性化合物と、
フィラーと、
を少なくとも含み、
前記フィラーの表面が前記第1重合性化合物と接しないように、前記第2重合性化合物で覆われており、
前記フィラーが、平均粒形が0.6μm~200μmの粒子状である、および/または平均繊維径が0.2μm以上200μm以下である繊維状である
樹脂組成物。
【請求項2】
前記第2重合性化合物が、熱、マイクロ波、化学線、水、酸、塩基、および活性エネルギー線のいずれかによって重合する基を有する、
請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記フィラーが、有機高分子繊維、ウィスカー状無機化合物、粘土化合物、ガラス、セラミック、金属、およびカーボンからなる群から選ばれる少なくとも一種である、
請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記有機高分子繊維が多糖類ナノファイバーである、
請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記フィラーが、前記第2重合性化合物と反応可能な官能基を有する処理剤によって表面処理されている、請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記処理剤が、シランカップリング剤である、請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記第1重合性化合物が、不飽和カルボン酸エステル化合物および/または不飽和カルボン酸アミド化合物である、
請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記第2重合性化合物が、環状エーテル基、シアネート基、イソシアネート基、およびヒドロシリル基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基を含む、
請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物に活性エネルギー線を選択的に照射して、前記第1重合性化合物の硬化物を含む一次硬化物を形成する工程を含む、
立体造形物の製造方法。
【請求項10】
造形槽に充填された前記樹脂組成物に活性エネルギー線を選択的に照射し、前記第1重合性化合物の硬化物を含む第1造形物層を形成する工程と、
前記第1造形物層上に前記樹脂組成物を供給する工程と、
前記樹脂組成物の供給工程で供給された前記樹脂組成物に活性エネルギー線を選択的に照射して、前記第1造形物層上に、前記第1重合性化合物の硬化物を含む第2造形物層を形成する工程と、
を含み、
前記樹脂組成物の供給工程および前記第2造形物層の形成工程を繰り返し行い、前記一次硬化物を立体的に形成する、
請求項に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項11】
前記樹脂組成物および酸素を含み、酸素により前記第1重合性化合物の硬化が阻害されるバッファ領域、ならびに前記樹脂組成物を少なくとも含み、前記バッファ領域より酸素濃度が低く、前記第1重合性化合物の硬化が可能な硬化用領域を、造形物槽内に隣接して形成する工程と、
前記バッファ領域側から前記樹脂組成物に活性エネルギー線を選択的に照射して、前記硬化用領域で前記第1重合性化合物を硬化させる工程と、
を含み、
前記第1重合性化合物の硬化工程では、形成された硬化物を連続的に前記バッファ領域とは反対側に移動させながら、前記硬化用領域に連続的に活性エネルギー線を照射し、前記一次硬化物を形成する、
請求項に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項12】
前記一次硬化物の形成後、前記一次硬化物が含む前記第2重合性化合物を、熱、マイクロ波、化学線、水、酸、塩基、または活性エネルギー線によって硬化させる工程を含む、
請求項11のいずれか一項に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項13】
請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物である、立体造形物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、およびこれを用いた立体造形物の製造方法、ならびに立体造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複雑な形状の立体造形物を比較的容易に製造できる様々な方法が開発されている。立体造形物を製造する方法の一つとして、活性エネルギー線によって硬化する化合物を含む液体状の樹脂組成物に活性エネルギー線を選択的に照射して、所望の形状に樹脂組成物を硬化させる方法が知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
また、上記のような立体造形物の作製の際には、光硬化性樹脂組成物として、ウレタン(メタ)アクリレート、オリゴエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、チオールおよびエン化合物、感光性ポリイミド等の各種ラジカル重合性化合物を含有する樹脂組成物(特許文献2等)や、エポキシ化合物、環状エーテル化合物、環状ラクトン化合物、環状アセタール化合物、環状チオエーテル化合物、スピロオルソエステル化合物、ビニルエーテル化合物等の各種カチオン重合性化合物を含有する樹脂組成物(特許文献3)等が使用されている。
【0004】
ここで、ラジカル重合性化合物を含む樹脂組成物は、硬化速度が速く、得られる立体造形物の機械的強度が高いという利点がある。その一方で、硬化時の収縮が大きく、得られる立体造形物の寸法精度が低くなりやすいとの課題がある。一方、カチオン重合性化合物を含む樹脂組成物は、硬化収縮し難く、得られる立体造形物の寸法精度が高いという利点がある。ただし、硬化速度が比較的遅く、さらには得られる立体造形物の機械的強度(特に耐衝撃性や耐折り曲げ性等の靱性)が十分でない等の課題がある。
【0005】
そこで、例えばラジカル重合性化合物およびカチオン重合性化合物の両方を含む樹脂組成物を、立体造形物の作製に用いることが提案されている(例えば特許文献4)。当該樹脂組成物によれば、硬化速度を比較的早くすることが可能であり、さらに得られる立体造形物の寸法精度を高めることも可能である。ただし、当該樹脂組成物から得られる立体造形物は、汎用の樹脂で作製した立体造形物と比較すると、機械的特性や熱的特性が低いとの課題があり、これらの点でさらなる改良が求められていた。
【0006】
ここで近年、新たな立体造形物の製造方法として、ラジカル重合性化合物を含む液体状の樹脂組成物を連続的に硬化させる方法が提案されている(特許文献5および6)。当該方法では、まず、活性エネルギー線を照射しても樹脂組成物が硬化しないバッファ領域と、活性エネルギー線の照射によって樹脂組成物が硬化する硬化用領域とを、造形槽内に設ける。このとき、バッファ領域が造形槽底部側、硬化用領域が造形槽上部側に位置するよう、それぞれの領域を形成する。そして、硬化用領域に立体造形の基点となるキャリアを配置し、バッファ領域(造形槽底部)側から硬化用領域に活性エネルギー線を選択的に照射する。これにより、キャリア表面に立体造形物の一部(樹脂組成物の硬化物)が形成される。そしてさらに、当該キャリアを造形槽上部側に引き上げながら、連続的に活性エネルギー線を照射することで、キャリアの下方に、樹脂組成物の硬化物が連続的に形成され、継ぎ目のない立体造形物が作製される。
【0007】
なお、上記バッファ領域は、造形槽と樹脂組成物の硬化物とが接触しないように設けられる領域であり、バッファ領域には通常、活性エネルギー線による樹脂組成物の硬化を阻害するための酸素が、連続的に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平6-170954号公報
【文献】特開平1-204915号公報
【文献】特開平1-213304号公報
【文献】特開2013-166893号公報
【文献】特表2016-509962号公報
【文献】特表2016-509964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、立体造形物を種々の用途に適用することが検討されており、より高い強度を有する立体造形物の提供が望まれている。そこで、例えば立体造形物を作製するための樹脂組成物にフィラーを添加することが検討されている。しかしながら、一般的なフィラー(例えば無機フィラー)は、酸素との親和性が高い。そのため、ラジカル重合性化合物を含む樹脂組成物にフィラーを添加すると、樹脂組成物の硬化の際に、フィラーに吸着された酸素によってラジカル重合が阻害されやすく(以下、当該現象を「酸素阻害」とも称する)、得られる立体造形物の強度が却って低下する、との課題があった。
【0010】
また上記酸素阻害は、上述のラジカル重合性化合物およびカチオン重合性化合物の両方を含む樹脂組成物にフィラーを添加した場合にも生じやすかった。そしてさらに、上述の特許文献5または6に記載の方法では、バッファ領域形成のために樹脂組成物および酸素を混合することから、フィラーの添加によって、特に酸素阻害が生じやすかった。したがって、適度な造形速度かつ高い寸法精度で、高い強度を有する立体造形物を作製することが可能な樹脂組成物はいまだ得られていないというのが実状であった。
【0011】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものである。すなわち本発明は、立体造形物を適度な速度および高い寸法精度で作製可能であり、かつ得られる立体造形物の強度が高い樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1は、以下の樹脂組成物にある。
[1]液体状の樹脂組成物に活性エネルギー線を選択的に照射して、前記樹脂組成物の硬化物からなる立体造形物を製造する方法に使用される樹脂組成物であって、ラジカル重合性を有する、常温で液体状の第1重合性化合物と、ラジカル重合性を有さない、常温で液体状の第2重合性化合物と、フィラーと、を少なくとも含み、前記フィラーの表面が前記第2重合性化合物で覆われている、樹脂組成物。
【0013】
[2]前記第2重合性化合物が、熱、マイクロ波、化学線、水、酸、塩基、および活性エネルギー線のいずれかによって重合する基を有する、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記フィラーが、有機高分子繊維、ウィスカー状無機化合物、粘土化合物、ガラス、セラミック、金属、およびカーボンからなる群から選ばれる少なくとも一種である、[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[4]前記フィラーが繊維状である、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0014】
[5]前記有機高分子繊維が多糖類ナノファイバーである、[3]に記載の樹脂組成物。
[6]前記フィラーが、前記第2重合性化合物と反応可能な官能基を有する処理剤によって表面処理されている、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7]前記処理剤が、シランカップリング剤である、[6]に記載の樹脂組成物。
[8]前記第1重合性化合物が、不飽和カルボン酸エステル化合物および/または不飽和カルボン酸アミド化合物である、[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[9]前記第2重合性化合物が、環状エーテル基、シアネート基、イソシアネート基、およびヒドロシリル基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0015】
本発明の第2は、以下の立体造形物の製造方法、および立体造形物にある。
[10]上記[1]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物に活性エネルギー線を選択的に照射して、前記第1重合性化合物の硬化物を含む一次硬化物を形成する工程を含む、立体造形物の製造方法。
[11]造形槽に充填された前記樹脂組成物に活性エネルギー線を選択的に照射し、前記第1重合性化合物の硬化物を含む第1造形物層を形成する工程と、前記第1造形物層上に前記樹脂組成物を供給する工程と、前記樹脂組成物の供給工程で供給された前記樹脂組成物に活性エネルギー線を選択的に照射して、前記第1造形物層上に、前記第1重合性化合物の硬化物を含む第2造形物層を形成する工程と、を含み、前記樹脂組成物の供給工程および前記第2造形物層の形成工程を繰り返し行い、前記一次硬化物を立体的に形成する、[10]に記載の立体造形物の製造方法。
【0016】
[12]前記樹脂組成物および酸素を含み、酸素により前記第1重合性化合物の硬化が阻害されるバッファ領域、ならびに前記樹脂組成物を少なくとも含み、前記バッファ領域より酸素濃度が低く、前記第1重合性化合物の硬化が可能な硬化用領域を、造形物槽内に隣接して形成する工程と、前記バッファ領域側から前記樹脂組成物に活性エネルギー線を選択的に照射して、前記硬化用領域で前記第1重合性化合物を硬化させる工程と、を含み、前記第1重合性化合物の硬化工程では、形成された硬化物を連続的に前記バッファ領域とは反対側に移動させながら、前記硬化用領域に連続的に活性エネルギー線を照射し、前記一次硬化物を形成する、[10]に記載の立体造形物の製造方法。
[13]前記一次硬化物の形成後、前記一次硬化物が含む前記第2重合性化合物を、熱、マイクロ波、化学線、水、酸、塩基、または活性エネルギー線によって硬化させる工程を含む、[10]~[12]のいずれかに記載の立体造形物の製造方法。
[14]上記[1]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物の硬化物である、立体造形物。
【発明の効果】
【0017】
本発明の樹脂組成物を用いた立体造形物の製造方法によれば、立体造形物を適度な速度、かつ高い寸法精度で作製することが可能である。また、本発明の樹脂組成物によれば、高い強度を有する立体造形物を作製することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る立体造形物の製造装置の模式図である。
図2図2Aおよび図2Bは、本発明の他の実施形態に係る立体造形物の製造装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
前述のように、立体造形物の強度向上等のために、各種樹脂組成物にフィラーを添加することが検討されている。しかしながら、一般的なフィラーは、酸素との親和性が高い。そして、このようなフィラーを、ラジカル重合性化合物を含む樹脂組成物に含めると、樹脂組成物の硬化(活性エネルギー線による硬化)の際に、ラジカル重合が酸素によって阻害されやすく、樹脂の硬化が不十分になりやすかった。したがって、樹脂組成物にフィラーを添加しても、立体造形物の強度が十分に高まらなかったり、却って強度が低下する等の課題があった。
【0020】
これに対し、本発明の樹脂組成物では、フィラーの表面が、ラジカル重合性を有さない第2重合性化合物、すなわち酸素によって重合が阻害され難い化合物で覆われている。そのため、樹脂組成物の調製の際に、フィラーが酸素を吸着していたとしても、当該酸素がラジカル重合性化合物の重合等に影響を及ぼし難い。したがって、樹脂組成物を十分に硬化させることが可能となり、強度の高い立体造形物が得られやすい。また、当該樹脂組成物には、ラジカル重合性を有する第1重合性化合物と、ラジカル重合性を有さない第2重合性化合物とが含まれる。そのため、当該樹脂組成物は、第1重合性化合物由来の比較的早い硬化速度、および第2重合性化合物由来の高い寸法精度も兼ね備える。
【0021】
ここで、本明細書において、フィラーの表面が、第2重合性化合物で覆われているとは、フィラーの表面が実質的に第1重合性化合物と接しないように、第2重合性化合物によって覆われていればよく、その状態は特に制限されない。例えば各フィラーが第2重合性化合物によって個別に覆われていてもよく、複数のフィラーが、一塊もしくは一続きの第2重合性化合物中に分散された状態等であってもよい。
【0022】
フィラーの表面が第2重合性化合物で覆われているか否かは、樹脂組成物の硬化物の断面を顕微鏡で画像観察することにより確認することができる。具体的には、樹脂組成物の硬化物を機械研磨装置等で研磨し、断面を作製する。そして、当該断面に対して赤外顕微鏡にてATRイメージング測定を行い、フィラーの周囲に存在する樹脂の官能基の種類を分析する。これにより、フィラーがどのような樹脂によって覆われているかを特定することができる。
【0023】
以下、樹脂組成物について先に説明し、その後、当該樹脂組成物を用いた立体造形物の製造方法を説明する。
【0024】
1.樹脂組成物
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物には、ラジカル重合性を有する、液体状の第1重合性化合物と、ラジカル重合性を有さない、液体状の第2重合性化合物と、フィラーと、が少なくとも含まれる。樹脂組成物には通常、上記成分以外にラジカル重合開始剤や硬化剤がさらに含まれる。また、樹脂組成物には、各種添加剤等が含まれていてもよい。
【0025】
1-1.第1重合性化合物
樹脂組成物に含まれる第1重合性化合物(以下、「ラジカル重合性化合物」とも称する)は、常温で液体状であり、活性エネルギー線の照射によってラジカル重合し、硬化する化合物であればよい。ラジカル重合性化合物は、モノマーであってもよく、オリゴマーであってもよく、プレポリマーであってもよく、これらの混合物であってもよい。樹脂組成物には、ラジカル重合性化合物が1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。ラジカル重合性化合物を重合させる活性エネルギー線の例には、紫外線、X線、電子線、γ線、可視光線等が含まれる。
【0026】
ラジカル重合性化合物は、活性エネルギー線の照射によってラジカル重合可能な基を有していればその種類は特に制限されず、例えば、エチレン基、プロペニル基、ブテニル基、ビニルフェニル基、アリルエーテル基、ビニルエーテル基、マレイル基、マレイミド基、(メタ)アクリルアミド基、アセチルビニル基、ビニルアミド基、(メタ)アクリロイル基、等を分子内に1つ以上有する化合物とすることができる。これらの中でも、分子内に不飽和カルボン酸エステル構造を1つ以上含む後述の不飽和カルボン酸エステル化合物であることが好ましく、(メタ)アクリロイル基を含む(メタ)アクリレート系化合物であることが特に好ましい。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」との記載は、メタクリルおよび/またはアクリルを表し、「(メタ)アクリロイル」との記載は、メタクリロイルおよび/またはアクリロイルを表し、「(メタ)アクリレート」との記載は、メタクリレートおよび/またはアクリレートを表す。
【0027】
上記ラジカル重合性化合物の一つである「アリルエーテル基を有する化合物」の例には、フェニルアリルエーテル、o-,m-,p-クレゾールモノアリルエーテル、ビフェニル-2-オールモノアリルエーテル、ビフェニル-4-オールモノアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテル、シクロヘキサンメタノールモノアリルエーテル、フタル酸ジアリルエーテル、イソフタル酸ジアリルエーテル、ジメタノールトリシクロデカンジアリルエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノールジアリルエーテル、アルキレン(炭素数2~5)グリコールジアリルエーテル、ポリエチレングリコールジアリルエーテル、グリセリンジアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ポリグリセリン(重合度2~5)ジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、グリセリントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル及びテトラアリルオキシエタン、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ジグリセリントリアリルエーテル、ソルビトールトリアリルエーテルおよびポリグリセリン(重合度3~13)ポリアリルエーテル等が含まれる。
【0028】
また、上記「ビニルエーテル基を有する化合物」の例には、ブチルビニルエーテル、ブチルプロペニルエーテル、ブチルブテニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、1,4-ブタンジオールジビニルエーテル、エチルヘキシルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、エチルエトキシビニルエーテル、アセチルエトキシエトキシビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、トリシクロデカンビニルエーテル、アダマンチルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリシクロデカンジメタノールジビニルエーテル、ビスフェノールAのEO付加物ジビニルエーテル、シクロヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロペンタジエンビニルエーテル、ノルボルニルジメタノールジビニルエーテル、ジビニルレゾルシン、ジビニルハイドロキノン、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールビニルエーテル、ブチレンジビニルエーテル、ジブチレングリコールジビニルエーテル、4-シクロヘキサンジビニルエーテル、オキサノルボナンジビニルエーテル、ネオペンチルグリコールジビニルエーテル、グリセリントリビニルエーテル、オキセタンジビニルエーテル、グリセリンエチレンオキシド付加物トリビニルエーテル(エチレンオキシドの付加モル数6)、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、トリビニルエーテルエチレンオキシド付加物トリビニルエーテル(エチレンオキシドの付加モル数3)、ペンタエリスリトールトリビニルエーテル、ジトリメチロールプロパンヘキサビニルエーテルおよびそれらのオキシエチレン付加物等が含まれる。
【0029】
上記「マレイミド基を有する化合物」の例には、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、n-ヘキシルマレイミド等が含まれる。
【0030】
上記「(メタ)アクリルアミド基を有する化合物」の例には、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ビスメチレンアクリルアミド、ジ(エチレンオキシ)ビスプロピルアクリルアミド、およびトリ(エチレンオキシ)ビスプロピルアクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等が含まれる。
【0031】
一方、上述の「(メタ)アクリレート系化合物」の例には、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、イソミルスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、メトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ペンタクロロフェニル(メタ)アクリレート、ペンタブロモフェニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリン(メタ)アクリレート、7-アミノ-3,7-ジメチルオクチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、およびt-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等を含む単官能の(メタ)アクリレートモノマー;
トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジイルジメチレンジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、およびトリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等を含む2官能の(メタ)アクリレートモノマー;
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、およびペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート等を含む3官能以上の(メタ)アクリレートモノマー;
およびこれらのオリゴマーやプレポリマー等が含まれる。
【0032】
また、「(メタ)アクリレート系化合物」は、各種(メタ)アクリレートモノマーやそのオリゴマーをさらに変性したもの(変性物)であってもよい。変性物の例には、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート等のエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレートモノマー;トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート、プロピレンオキサイド変性グリセリントリ(メタ)アクリレート等のプロピレンオキサイド変性(メタ)アクリレートモノマー;カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のカプロラクトン変性(メタ)アクリレートモノマー;カプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のカプロラクタム変性(メタ)アクリレートモノマー;等が含まれる。
【0033】
「(メタ)アクリレート系化合物」はさらに、各種オリゴマーを(メタ)アクリレート化した化合物(以下、「変性(メタ)アクリレート系化合物」とも称する)であってもよい。このような変性(メタ)アクリレート系化合物の例には、ポリブタジエン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリイソプレン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物、シリコーン(メタ)アクリレート系化合物、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、および直鎖(メタ)アクリルオリゴマー等が含まれる。これらの中でも特に、エポキシ(メタ)アクリレート系化合物、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物、およびシリコーン(メタ)アクリレート系化合物を好適に用いることができる。樹脂組成物にウレタン(メタ)アクリレート系化合物やシリコーン(メタ)アクリレート系化合物が含まれると、第1重合性化合物が重合して得られた分子鎖内に、後述の第2重合性化合物との反応起点が得られることから、第1重合性化合物の重合体と第2重合性化合物の重合体が相互に結合され、得られる立体造形物の強度が高まったりする。
【0034】
エポキシ(メタ)アクリレート系化合物は、一分子内にエポキシ基と、(メタ)アクリレート基とをそれぞれ1つ以上含む化合物であればよく、その例には、ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF型エポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェニル型エポキシ(メタ)アクリレート、トリフェノールメタン型エポキシ(メタ)アクリレートや、クレゾールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート、フェノールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート等のノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート等が含まれる。
【0035】
ウレタン(メタ)アクリレート系化合物は、2つ以上のイソシアネート基を有する脂肪族ポリイソシアネート化合物または2つ以上のイソシアネート基を有する芳香族ポリイソシアネート化合物と、水酸基を有する(メタ)アクリル酸誘導体等とを反応させて得られる、ウレタン結合および(メタ)アクリロイル基を有する化合物とすることができる。
【0036】
上記ウレタン(メタ)アクリレート系化合物の原料となるイソシアネート化合物の例には、イソホロンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)、水添MDI、ポリメリックMDI、1,5-ナフタレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添XDI、リジンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオフォスフェート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート等が含まれる。
【0037】
また、上記ウレタン(メタ)アクリレート系化合物の原料となるイソシアネート化合物の例には、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、トリメチロールプロパン、カーボネートジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカプロラクトンジオール等のポリオールと過剰のイソシアネート化合物との反応により得られる鎖延長されたイソシアネート化合物も含まれる。
【0038】
一方、上記ウレタン(メタ)アクリレート系化合物の原料となる、水酸基を有する(メタ)アクリル酸誘導体の例には、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ポリエチレングリコール等の二価のアルコールのモノ(メタ)アクリレート;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン等の三価のアルコールのモノ(メタ)アクリレートやジ(メタ)アクリレート;ビスフェノールA型エポキシアクリレート等のエポキシ(メタ)アクリレート等が含まれる。
【0039】
上記構造のウレタン(メタ)アクリレート系化合物は、市販されているものであってもよく、その例には、M-1100、M-1200、M-1210、M-1600(いずれも東亞合成社製)、EBECRYL210、EBECRYL220、EBECRYL230、EBECRYL270、EBECRYL1290、EBECRYL2220、EBECRYL4827、EBECRYL4842、EBECRYL4858、EBECRYL5129、EBECRYL6700、EBECRYL8402、EBECRYL8803、EBECRYL8804、EBECRYL8807、EBECRYL9260(いずれもダイセル・オルネクス社製)、アートレジンUN-330、アートレジンSH-500B、アートレジンUN-1200TPK、アートレジンUN-1255、アートレジンUN-3320HB、アートレジンUN-7100、アートレジンUN-9000A、アートレジンUN-9000H(いずれも根上工業社製)、U-2HA、U-2PHA、U-3HA、U-4HA、U-6H、U-6HA、U-6LPA、U-10H、U-15HA、U-108、U-108A、U-122A、U-122P、U-324A、U-340A、U-340P、U-1084A、U-2061BA、UA-340P、UA-4000、UA-4100、UA-4200、UA-4400、UA-5201P、UA-7100、UA-7200、UA-W2A(いずれも新中村化学工業社製)、AH-600、AI-600、AT-600、UA-101I、UA-101T、UA-306H、UA-306I、UA-306T(いずれも共栄社化学社製)等が含まれる。
【0040】
一方、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物は、ポリイソシアネートのイソシアネート基を(メタ)アクリレート基を有するブロック剤によりブロック化して得られるブロックイソシアネートを用いることができるであってもよい。
【0041】
ブロックイソシアネートを得るために用いられるポリイソシアネートは、前述の「ウレタン(メタ)アクリレート系化合物の原料となる「イソシアネート化合物」であってもよく、これらの化合物とポリオールやポリアミンとを反応させた化合物であってもよい。ポリオールの例には、従来公知のポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリマーポリオール、植物油ポリオール、さらには含リンポリオールやハロゲン含有ポリオール等の難燃ポリオール等が含まれる。これらのポリオールは、ブロックイソシアネート中に1種のみ含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0042】
イソシアネート等と反応させる上記ポリエーテルポリオールの例には、少なくとも2個以上の活性水素基を有する化合物(具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール類、;エチレンジアミン等のアミン類、;エタノールアミン、ジエタノールアミン等のアルカノールアミン類;等が例示される。)を出発原料としてと、これとアルキレンオキサイド(具体的には、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等が例示される。)との付加反応により製造されたものが挙げられる調製される化合物が含まれる。[ポリエーテルポリオールの調製方法は、例えば、GunterOertel,“Polyurethane Handbook”(1985) Hanser Publishers社(ドイツ),p.42-53に記載の方法参照とすることができる]。
【0043】
上記ポリエステルポリオールの例には、アジピン酸、フタル酸等の多価カルボン酸と、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の多価アルコールとの縮合反応物や、ナイロン製造時の廃物、トリメチロールプロパン、ペンタエリストールの廃物、フタル酸系ポリエステルの廃物、廃品を処理し誘導したポリエステルポリオール等が含まれる(例えば、岩田敬治「ポリウレタン樹脂ハンドブック」(1987)日刊工業新聞社p.117の記載参照)。
【0044】
上記ポリマーポリオールの例には、上記ポリエーテルポリオールとエチレン性不飽和単量体(例えば、ブタジエン、アクリロニトリル、スチレン等が挙げられる)とをラジカル重合触媒の存在下に反応させた重合体ポリオールが含まれる。ポリマーポリオールとしては、分子量が5000~12000程度のものが特にであることがより好ましい。
【0045】
植物油ポリオールの例には、ひまし油、やし油等のヒドロキシル基含有植物油等が挙げられる含まれる。また、ひまし油又は水添ひまし油を原料として得られるひまし油誘導体ポリオールも好適に用いることができる。ひまし油誘導体ポリオールとしては、ひまし油、多価カルボン酸及び短鎖ジオールの反応で得られるひまし油ポリエステル、ひまし油やひまし油ポリエステルのアルキレンオキシド付加物等が含まれる。
【0046】
難燃ポリオールの例には、リン酸化合物にアルキレンオキシドを付加して得られるリン含有ポリオールや;、エピクロルヒドリンやトリクロロブチレンオキシドを開環重合して得られるハロゲン含有ポリオール、;芳香環を有する活性水素化合物にアルキレンオキシドを付加して得られる芳香族系エーテルポリオール、;芳香環を有する多価カルボン酸と多価アルコールの縮合反応で得られる芳香族系エステルポリオール;等が含まれる。
【0047】
上記イソシアネート等と反応させるポリオールの水酸基価としては、5~300mgKOH/gであることが好ましく、10~250mgKOH/gであることがより好ましい。水酸基価は、JIS-K0070に規定された方法で測定できる。
【0048】
また、イソシアネート等と反応させる前述のポリアミンの例には、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、ヘキサメチレンペンタアミン、ビスアミノプロピルピペラジン、トリス(2-アミノエチル)アミン、イソホロンジアミン、ポリオキシアルキレンポリアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が含まれる。
【0049】
一方、ポリイソシアネートのイソシアネート基をブロックするためのブロック剤としては、(メタ)アクリロイル基を有し、かつ、イソシアネート基と反応し、加熱により脱離できるものであればよい。
【0050】
このようなブロック剤の具体的例には、t-ブチルアミノエチルメタクリレート(TBAEMA)、t-ペンチルアミノエチルメタクリレート(TPAEMA)、t-ヘキシルアミノエチルメタクリレート(THAEMA)、t-ブチルアミノプロピルメタクリレート(TPAEMA)、t-ヘキシルアミノエチルメタクリレート(THAEMA)、t-ブチルアミノプロピルメタクリレート(TBAPMA)等が含まれる。
【0051】
ポリイソシアネートのブロック化反応は、一般に-20~150℃で行うことができるが、好ましくは0~100℃である。150℃以下であれば副反応を防止することができ、他方、-20℃以上であれば反応速度が小さすぎることがなくなるを適度な範囲とすることができる。ポリイソシアネート化合物とブロック剤のブロック化反応は、溶剤の存在の有無に関わらず、行うことができる。溶剤を用いる場合は、イソシアネート基に対して不活性な溶剤を用いるのが好ましい。ブロック化反応においては、反応触媒を使用することができる。具体的な反応触媒の例には、錫、亜鉛、鉛等の有機金属塩、金属アルコラート、及び3級アミン等が含まれる。
【0052】
上述のように調製されるこのようなブロックイソシアネートをラジカル重合性化合物として用いることにより場合、まず、光照射によりアクリロイル基部分を重合させる。そのたのちに後、加熱することによってブロック剤を外し外すことで、生成したイソシアネート化合物を新たにポリオールやポリアミン等と重合させることによってができ、ポリウレタンやポリウレアまたはこれらの混合物を含む立体造形物を得ることができる。
【0053】
一方、シリコーン(メタ)アクリレート系化合物は、主鎖にポリシロキサン結合を有し、その末端および/または側鎖に(メタ)アクリル酸を付加した化合物とすることができる。シリコーン(メタ)アクリレート系化合物の原料となるシリコーンは、公知の1官能、2官能、3官能、または4官能のシラン化合物(例えばアルコキシシラン等)が任意の組み合わせで重合したオルガノポリシロキサンとすることができる。シリコーンアクリレートの具体例には、市販のTEGORad2500(商品名:テゴケミーサービスGmbH社製)の他、X-22-4015(商品名:信越化学工業株式会社製)の様な-OH基を有する有機変性シリコーンとアクリル酸とを酸触媒下でエステル化させたもの、;KBM402、KBM403(商品名:いずれも信越化学工業株式会社製)の様なエポキシシラン等の有機変性シラン化合物とアクリル酸とを反応させたもの;等が含まれる。
【0054】
ここで、樹脂組成物に含まれる第1重合性化合物(ラジカル重合性化合物)の総量は、樹脂組成物の全質量に対して10~70質量%であることが好ましく、20~60質量%であることがより好ましく、30~50質量%であることがさらに好ましい。第1重合性化合物の量が当該範囲であると、後述のように、立体造形物を作製する際に、第1重合性化合物の硬化物によって、所望の形状が形成されやすくなる。
【0055】
1-2.第2重合性化合物
第2重合性化合物は、常温で液体状であり、ラジカル重合性を有さず、ラジカル重合以外の重合方式で硬化する化合物であればよい。ラジカル重合以外の重合方式の例には、例えばカチオン重合やアニオン重合等の連鎖重合;、および重縮合、重付加、付加縮合等の逐次重合等が含まれ、いずれの重合方式で重合するものであってもよい。このような第2重合性化合物は、例えば熱、マイクロ波、化学線、水、酸、または塩基によって重合する基を有する化合物とすることができる。また、第1重合性化合物とは異なる波長の活性エネルギー線によって重合する化合物であってもよい。樹脂組成物には、第2重合性化合物が一種のみ含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよい。
【0056】
このような第2重合性化合物の例には、環状エーテル基、シアネート基、イソシアネート基、およびヒドロシリル基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基を含む化合物が含まれる。
【0057】
「環状エーテル基を有する化合物」の例には、エポキシドやオキセタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等を含む化合物が含まれる。これらの中でも、重合性等の観点から、エポキシ基を有する化合物(以下、「エポキシ系化合物」とも称する)が好ましい。エポキシ系化合物の例には、分子内に1つまたは2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ系化合物が含まれる。エポキシ系化合物の例には、ビフェニル型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、スチルベン型エポキシ化合物、ハイドロキノン型エポキシ化合物等の結晶性エポキシ化合物;クレゾールノボラック型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、ナフトールノボラック型エポキシ化合物等のノボラック型エポキシ化合物;フェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ化合物、ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ化合物、フェニレン骨格含有ナフトールアラルキル型エポキシ化合物等のフェノールアラルキル型エポキシ化合物;トリフェノールメタン型エポキシ化合物、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ化合物、グリシジルアミン、4官能ナフタレン型エポキシ化合物等の多官能型エポキシ化合物;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ化合物、テルペン変性フェノール型エポキシ化合物、シリコーン変性エポキシ化合物等の変性フェノール型エポキシ化合物;トリアジン核含有エポキシ化合物等の複素環含有エポキシ化合物;ナフチレンエーテル型エポキシ等が含まれる。
【0058】
また、「シアネート基を有する化合物」は、分子内に1つまたは2つ以上のシアネート基を有する化合物であればよい。その例には、1,3-または1,4-ジシアナトベンゼン;1,3,5-トリシアナトベンゼン;1,3-、1,4-、1,6-、1,8-、2,6-、または2,7-ジシアナトナフタレン;1,3,6-トリシアナトナフタレン;2,2’-または4,4’-ジシアナトビフェニル;ビス(4-シアナトフェニル)メタン;2,2-ビス(4-シアナトフェニル)プロパン;2,2-ビス(3,5-ジクロロ-4-シアナトフェニル)プロパン;2,2-ビス(3-ジブロモ-4-ジシアナトフェニル)プロパン;ビス(4-シアナトフェニル)エーテル;ビス(4-シアナトフェニル)チオエーテル;ビス(4-シアナトフェニル)スルホン;トリス(4-シアナトフェニル)フォスファイト;トリス(4-シアナトフェニル)フォスフェート;ビス(3-クロロ-4-シアナトフェニル)メタン:4-シアナトビフェニル;4-クミルシアナトベンゼン;2-t-ブチル-1,4-ジシアナトベンゼン;2,4-ジメチル-1,3-ジシアナトベンゼン;2,5-ジ-t-ブチル-l,4-ジシアナトベンゼン;テトラメチル-1,4-ジシアナトベンゼン;4-クロロ-1,3-ジシアナトベンゼン;3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’ジシアナトジフェニルビス(3-クロロ-4-シアナトフェニル)メタン:1,1,1-トリス(4-シアナトフェニル)エタン;1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン;2,2-ビス(3,5-ジクロロ-4-シアナトフェニル)プロパン;2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-シアナトフェニル)プロパン;ビス(p-シアノフェノキシフェノキシ)ベンゼン;ジ(4-シアナトフェニル)ケトン;シアン酸化ノボラック;シアン酸化ビスフェノールポリカーボネートオリゴマー等が含まれる。
【0059】
「イソシアネート基を有する化合物」は、分子内に1つまたは2つ以上のイソシアネート基を有する化合物であれば特に制限されず、その例には、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン等の脂環族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオフォスフェート、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートの1対3付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートの環状3量体等の3官能以上のポリイソシアネート;これらの化合物のイソシアネート基をブロック剤(例えば、アルコール類、フェノール類、ラクタム類、オキシム類、アセト酢酸アルキルエステル類、マロン酸アルキルエステル類、フタルイミド類、イミダゾール類、塩化水素、シアン化水素、亜硫酸水素ナトリウム等)で保護したブロックイソシアネート基を有するブロックイソシアネート;等が含まれる。
【0060】
また、「ヒドロシリル基を有する化合物」は、分子内に1つまたは2つ以上のヒドロシリル基を有する化合物であればよく、その例には、メチルヒドロシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー等が含まれる。これらの「ヒドロシリル基を有する化合物」は、末端または側鎖にビニル基を有するポリオルガノシロキサンと付加反応することにより得られる。ビニル基を有するポリシロキサンの例には、各末端ケイ素原子にビニル基が置換されたポリジメチルシロキサン、各末端ケイ素原子にビニル基が置換されたジメチルシロキサン-ジフェニルシロキサンコポリマー、各末端ケイ素原子にビニル基が置換されたポリフェニルメチルシロキサン、各末端にトリメチルシリル基を有するビニルメチルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー等が含まれる。
【0061】
上記第2重合性化合物と後述の硬化剤との合計量は、樹脂組成物中の樹脂の総量に対して20~90質量%含まれることが好ましく、30~80質量%含まれることがより好ましく、40~60質量%含まれることがさらに好ましい。第2重合性化合物と硬化剤との合計量が当該範囲含まれると、得られる立体造形物の寸法精度が高まりやすくなる。
【0062】
1-3.フィラー
樹脂組成物に含まれるフィラーは特に制限されず、有機フィラーであってもよく、無機フィラーであってもよい。樹脂組成物には、フィラーが一種のみ含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよい。
【0063】
フィラーの例には、ソーダ石灰ガラス、珪酸ガラス、硼珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、石英ガラス等からなるガラスフィラー;アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、チタン酸ジルコン酸鉛、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化スズ等からなるセラミックフィラー;鉄、チタン、金、銀、銅、スズ、鉛、ビスマス、コバルト、アンチモン、カドミウム等の金属単体、あるいはこれらの合金等からなる金属フィラー;グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ等からなるカーボンフィラー;ポリエステル、ポリアミド、ポリアラミド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、多糖類等からなる有機高分子繊維;チタン酸カリウムウィスカー、シリコーンカーバイトウィスカー、シリコンナイトライドウィスカー、α-アルミナウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、水酸化マグネシウムウィスカー、塩基性硫酸マグネシウムウィスカー、ケイ酸カルシウムウィスカー等からなるウィスカー状無機化合物(上記セラミックフィラーの針状の単結晶も含む);タルク、マイカ、クレイ、ワラストナイト、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト、ハイデライト、モンモリロナイト、ノントライト、ベントナイト、Na型テトラシリシックフッ素雲母、Li型テトラシリシックフッ素雲母、Na型フッ素テニオライト、Li型フッ素テニオライト等の膨潤性雲母、バーミキュラライト等からなる粘土鉱物等が含まれる。またさらに、フィラーの例には、ポリエチレンやポリプロピレン等からなるポリオレフィンフィラー;FEP(四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体)、PFA(四フッ化エチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体)、ETFE(四フッ化エチレン-エチレン共重合体)等からなるフッ素樹脂フィラー等も含まれる。
【0064】
上記の中でも、有機高分子繊維が好ましく、特に多糖類からなるナノファイバーであることが好ましい。多糖類の例には、セルロース、ヘミセルロース、リグノセルロース、キチンおよびキトサン等が含まれる。これらのうち、得られる立体造形物の強度をより高める観点からは、セルロースおよびキチンが好ましく、セルロースがより好ましい。
【0065】
セルロースからなる繊維状のフィラー、すなわちセルロースナノファイバー(以下、単に「ナノセルロース」ともいう。)は、植物由来の繊維質もしくは植物の細胞壁の機械的な解繊、酢酸菌による生合成、2,2,6,6-tetramethylpiperidine-1-oxyl radical(TEMPO)等のN-オキシル化合物による酸化または電解紡糸法等によって得られる、繊維状のナノフィブリルを主成分とするセルロースナノファイバーであってもよい。また、ナノセルロースは、植物由来の繊維質もしくは植物の細胞壁を機械的に解繊した後に酸処理等をして得られる、ウィスカー状(針状)に結晶化したナノフィブリルを主成分とするセルロースナノクリスタルであってもよく、その他の形状であってもよい。ナノセルロースは、セルロースを主成分とすればよく、リグニンおよびヘミセルロース等を含んでいてもよい。脱リグニン処理を行わず、疎水性であるリグニンを含有するナノセルロースは、上記第2重合性化合物等との親和性が高いため好ましい。
【0066】
上記フィラーの形状は特に制限されず、例えば繊維状(ウィスカー状を含む)であってもよく、粒子状であってもよいが、立体造形物の強度向上との観点から、繊維状であることが好ましい。一般的に、繊維状のフィラーでは、枝分かれしたりすることで表面積が増えやすく、酸素が表面に吸着されやすいことから、上述の酸素阻害を引き起こしやすい。これに対し、本実施形態では、上述のように、フィラーが第2重合性化合物によって覆われている。そのため、フィラーがいずれの形状を有していたとしても、フィラー表面に付着した酸素がラジカル重合性化合物の重合に影響を及ぼし難く、強度の高い立体造形物が得られやすい。
【0067】
なお、フィラーが粒子状である場合、その平均粒径は0.005~200μmであることが好ましく、0.01~100μmであることがより好ましく、0.1~50μmであることがさらに好ましい。粒子状のフィラーの平均粒径が0.1μm以上であると、立体造形物の強度が高まりやすくなる。一方、平均粒径が50μm以下であると、立体造形物を高精細に形成しやすくなる。なお、平均粒径は、樹脂組成物を透過型電子顕微鏡(TEM)で撮像して得られた画像を解析して、測定することができる。
【0068】
一方、フィラーが繊維状である場合、その平均繊維径は、0.002μm以上20μm以下であることが好ましい。上記平均繊維径が0.002μm以上であると、立体造形物の強度が高まりやすくなる。平均繊維径が20μm以下であると、フィラーが樹脂組成物の粘度を高めすぎず、立体造形物の精度が良好になりやすい。フィラーの平均繊維径は、0.005μm以上10μm以下であることがより好ましく、0.01μm以上8μm以下であることがさらに好ましく、0.02μm以上5μm以下であることが特に好ましい。
【0069】
フィラーの平均繊維長は、0.2μm以上200μm以下であることが好ましい。上記平均繊維長が0.2μm以上であると、立体造形物の強度が高まりやすくなる。上記平均繊維長が100μm以下であると、フィラー同士が絡み合うことによって生じるフィラーの沈降が生じにくい。フィラーの平均繊維長は、0.5μm以上100μm以下であることがより好ましく、1μm以上60μm以下であることがさらに好ましく、1μm以上40μm以下であることが特に好ましい。
【0070】
フィラーのアスペクト比は、10以上10000以下であることが好ましい。アスペクト比が10以上であると、立体造形物の強度がより高くなりやすい。アスペクト比が10000以下であると、フィラー同士が絡み合って生じるフィラーの沈降が生じにくい。フィラーのアスペクト比は、12以上8000以下であることがより好ましく、15以上2000以下であることがさらに好ましく、18以上800以下であることが特に好ましい。
【0071】
フィラーの平均繊維径、平均繊維長およびアスペクト比は、樹脂組成物を透過型電子顕微鏡(TEM)で撮像して得られた画像を解析して、測定することができる。
【0072】
ここで、樹脂組成物に含まれるフィラーの量は、樹脂組成物の全質量に対して1~50質量%であることが好ましく、5~40質量%であることがより好ましい。フィラーの量が当該範囲であると、強度の高い立体造形物が得られやすくなる。
【0073】
ここで、上記フィラーは、第2重合性化合物と反応可能な官能基を有する処理剤によって表面処理されていてもよい。フィラーが表面処理されていると、フィラーと第2重合性化合物との密着性が高まり、より強度の高い立体造形物が得られやすくなる。処理剤は、第2重合性化合物と反応可能な基、およびフィラーに結合可能もしくはフィラーに吸着可能な基を有するものであればよく、その種類は特に制限されない。
【0074】
処理剤に含まれる、フィラーに結合可能もしくはフィラーに吸着可能な基や構造の例には、Si原子や、Ti原子、Zr原子、カルボキシル基、アミノ基、イミノ基、シアノ基、アゾ基、アジ基、チオール基、スルホ基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、イソシアネート基等が含まれる。これらの中でも、フィラーに対する反応性等の観点から、Si原子、Ti原子、Zr原子が好ましく、特にSi原子が好ましい。また、処理剤に含まれる第2重合性化合物と反応可能な基の例には、アミノ基、イミノ基、エポキシ基、グリシジル基、オキセタニル基、イソシアネート基、シアネート基、ビニル基、スチリル基、ヒドロシリル基、メルカプト基、ウレイド基等が含まれる。
【0075】
以上のことから、処理剤は、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、またはジルコニウム系カップリング剤であることが好ましく、シランカップリング剤であることが特に好ましい。
【0076】
シランカップリング剤の例には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等の反応性官能基を有する化合物;
トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-プロピルトリブトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジヘキシルジメトキシシラン、トリヘキシルメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、n-プロピルトリアセトキシシラン、n-プロピルトリクロロシラン、1-プロピン-3-イルトリメトキシシラン、1-プロピン-3-イルトリエトキシシラン、1-プロピン-3-イルトリブトキシシラン、2-シクロヘキセン-1-イルトリエトキシシラン、1,3-ヘキサジイン-5-イルトリエトキシシラン等の脂肪族炭化水素基を有する化合物;
フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ナフチルトリメトキシシラン、ナフチルトリエトキシシラン、アンスリルトリメトキシシラン、フェナンスリルトリメトキシシラン、ビフェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、2-メチルベンジルトリメトキシシラン、3-メチルベンジルトリメトキシシラン、4-メチルベンジルトリメトキシシラン等の芳香族炭化水素基を有する化合物;
ヘキサメチルジシラザン等シラザン系化合物等が含まれる。
【0077】
また、チタンカップリング剤の具体例には、メチルトリメトキシチタン、エチルトリエトキシチタン、n-プロピルトリメトキシチタン、i-プロピルトリエトキシチタン、n-ヘキシルトリメトキシチタン、シクロヘキシルトリエトキシチタン、フェニルトリメトキシチタン、3-クロロプロピルトリエトキシチタン、3-アミノプロピルトリメトキシチタン、3-アミノプロピルトリエトキシチタン、3-(2-アミノエチル)-アミノプロピルトリメトキシチタン、3-(2-アミノエチル)-アミノプロピルトリエトキシチタン、3-(2-アミノエチル)-アミノプロピルメチルジメトキシチタン、3-アニリノプロピルトリメトキシチタン、3-メルカプトプロピルトリエトキシチタン、3-イソシアネートプロピルトリメトキシチタン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシチタン、3-ウレイドプロピルトリメトキシチタンなどのトリアルコキシチタン類;ジメチルジエトキシチタン、ジエチルジエトキシチタン、ジ-n-プロピルジメトキシチタン、ジ-i-プロピルジエトキシチタン、ジ-n-ペンチルジメトキシチタン、ジ-n-オクチルジエトキシチタン、ジ-n-シクロヘキシルジメトキシチタン、ジフェニルジメトキシチタン等が含まれる。
【0078】
さらに、ジルコニウム系カップリング剤の具体例には、トリ-n-ブトキシ・エチルアセトアセテートジルコニウム、ジ-n-ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、n-ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(n-プロピルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(アセチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ-n-ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム等が含まれる。
【0079】
上記の中でも、特に反応性の官能基を有するシランカップリング剤が好ましい。なお、フィラーを処理剤で表面処理する方法は特に制限されず、例えば任意の溶媒にフィラーを分散させ、当該分散液内に処理剤を添加して、攪拌した後に濾過等で溶媒を除去し、加熱乾燥する方法等とすることができる。フィラーを処理剤で表面処理する際には、フィラー100質量部に対して、処理剤0.1~5質量部程度添加して処理することが好ましい。
【0080】
1-4.ラジカル重合開始剤
樹脂組成物に含まれるラジカル重合開始剤は、活性エネルギー線の照射によってラジカルを発生させることが可能であり、上述の第1重合性化合物を重合させることが可能な化合物であれば特に制限されず、公知のラジカル重合開始剤とすることができる。
【0081】
ラジカル重合開始剤の例には、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(BASF社製、IRGACURE 1173(「IRGACURE」は同社の登録商標)等)、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチループロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン(BASF社製、IRGACURE 127等)、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(BASF社製、IRGACURE 2959等)、2,2-ジメトキシー1,2-ジフェニルエタンー1-オン(BASF社製、IRGACURE 651等)、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、ベンジル、メチルフェニルグリオキシエステル、ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル-4-フェニルベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、ミヒラ-ケトン、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン、10-ブチル-2-クロロアクリドン、2-エチルアンスラキノン、9,10-フェナンスレンキノン、カンファーキノンおよび2,4-ジエチルオキサンテン-9-オン等が含まれる。
【0082】
ラジカル重合開始剤は、樹脂組成物の総量に対して0.01~10質量%含まれることが好ましく、0.1~5質量%含まれることがより好ましく、0.3~3質量%含まれることがさらに好ましい。ラジカル重合開始剤が当該範囲含まれると、上述の第1重合性化合物(ラジカル重合性化合物)を効率よく重合させることが可能となる。
【0083】
1-5.硬化剤
樹脂組成物には、上述の第2重合性化合物を硬化させるための硬化剤や硬化促進剤がさらに含まれていてもよい。硬化剤や硬化促進剤の種類は、上述の第2重合性化合物の種類等に応じて適宜選択される。
【0084】
硬化剤や硬化促進剤の例には、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の炭素数2~20の直鎖脂肪族ジアミン、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、パラキシレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-ジアミノジフェニルプロパン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジシクロヘキサン、ビス(4-アミノフェニル)フェニルメタン、1,5-ジアミノナフタレン、メタキシレンジアミン、パラキシレンジアミン、1,1-ビス(4-アミノフェニル)シクロヘキサン、N,N-ジメチル-n-オクチルアミン、ジシアノジアミド等のアミノ類;アニリン変性レゾール樹脂やジメチルエーテルレゾール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert-ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;フェニレン骨格含有フェノールアラルキル樹脂、ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル樹脂等のフェノールアラルキル樹脂;ナフタレン骨格やアントラセン骨格のような縮合多環構造を有するフェノール樹脂;ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン;ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)等の脂環族酸無水物、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)等の芳香族酸無水物を含む酸無水物等;ポリサルファイド、チオエステル、チオエーテル等のポリメルカプタン化合物;イソシアネートプレポリマー、ブロック化イソシアネート等のイソシアネート化合物;カルボン酸含有ポリエステル樹脂等の有機酸類等;ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸スズ、オクチル酸コバルト、ビスアセチルアセトナートコバルト(II)、トリスアセチルアセトナートコバルト(III)、アセチルアセトナート亜鉛等の有機金属塩が含まれる。樹脂組成物には硬化剤や硬化促進剤が1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。当該硬化剤や硬化促進剤の量は、熱硬化性樹脂の種類や量に合わせて適宜選択される。
【0085】
1-6.その他の成分
樹脂組成物には、活性エネルギー線の照射による立体造形物の形成を可能にし、かつ得られる立体造形物に強度のムラを顕著に生じさせない限りにおいて、光増感剤、重合阻害剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、染料および顔料等の色材、消泡剤ならびに界面活性剤等の任意の添加剤がさらに含まれていてもよい。
【0086】
1-7.樹脂組成物の物性
本発明の樹脂組成物は、JIS K-7117-1に準拠する方法で、回転式粘度計を用いて測定される、25℃の粘度が0.2~100Pa・sであることが好ましく、1~10Pa・sであることがより好ましい。樹脂組成物の粘度が当該範囲であると、造形槽内のバッファ領域および硬化用領域において適度な流動性が得られることから、造形速度を向上させることができるとともに、樹脂組成物内でフィラー等が沈降し難くなり、ひいては立体造形物の強度が高まりやすくなる。
【0087】
1-8.樹脂組成物の調製方法
上記樹脂組成物は、例えば、以下の方法で調製することができる。まず、第2重合性化合物と、フィラーとを混合し、十分に攪拌等を行う。これにより、フィラー表面が第2重合性化合物によって覆われる。その後、当該混合物に、第1重合性化合物やラジカル重合開始剤、硬化剤等を添加し、さらに混合する。第2重合性化合物とフィラーとの混合・攪拌、その他の成分の混合・攪拌は、公知の方法で行うことができる。
【0088】
樹脂組成物の混合に用いられる装置としては公知のものを使用できる。例えば、ウルトラタラックス(IKAジャパン社製)、TKホモミクサー(プライミクス社製)、TKパイプラインホモミクサー(プライミクス社製)、TKフィルミックス(プライミクス社製)、クレアミックス(エム・テクニック社製)、クレアSS5(エム・テクニック社製)、キャビトロン(ユーロテック社製)、ファインフローミル(太平洋機工社製)のようなメディアレス撹拌機、ビスコミル(アイメックス製)、アペックスミル(寿工業社製)、スターミル(アシザワ、ファインテック社製)、DCPスーパーフロー(日本アイリッヒ社製)、エムピーミル(井上製作所社製)、スパイクミル(井上製作所社製)、マイティーミル(井上製作所社製)、SCミル(三井鉱山社製)などのメディア攪拌機等やアルティマイザー(スギノマシン社製)、スターバースト(スギノマシン社製)、ナノマイザー(吉田機械社製)、NANO 3000(美粒社製)などの高圧衝撃式分散装置が挙げられる。
【0089】
また、あわとり練太郎(シンキー社製)やカクハンター(写真化学社製)等の自転公転ミキサーや、ハイビスミックス(プライミクス社製)、ハイビスディスパー(プライミクス社製)等の遊星式混合機、Nanoruptor(ソニック・バイオ社製)等の超音波分散装置も好適に用いることが可能である。
【0090】
2.立体造形物の製造方法
上述した液体状の樹脂組成物は、活性エネルギー線を選択的に照射して、前記第1重合性化合物の硬化物を含む一次硬化物を形成する工程を含む、立体造形物の製造方法に使用することができる。
【0091】
上述の樹脂組成物を用いた立体造形物の製造方法では、まず樹脂組成物に選択的に活性エネルギー線を照射し、上述の第1重合性化合物を所望の形状に硬化させて、一次硬化物を形成する。活性エネルギー線は、第1重合性化合物を十分に重合させることが可能であれば特に制限されず、例えば紫外線、X線、電子線、γ線および可視光線などとすることができる。そして一次硬化物の形成後、当該一次硬化物内に含まれる第2重合性化合物を、任意の方法で硬化(重合)させて、立体造形物を得る。
【0092】
このような立体造形物の製造方法の例には、以下の2つの実施形態が含まれるが、本発明の方法は、これらの方法に限定されない。
【0093】
2-1.積層造形法
図1は、積層造形法により一次硬化物を作製するための装置(立体造形物の製造装置)の一例を示す模式図である。製造装置500は、液体状の樹脂組成物550を貯留可能な造形槽510と、造形槽510の内部で上下方向(深さ方向)に往復移動可能な造形ステージ520と、造形ステージ520を支持するベース521と、活性エネルギー線の光源530と、活性エネルギー線を造形槽510の内部に導くガルバノミラー531等を有する。
【0094】
造形槽510は、製造しようとする一次硬化物を収容可能な大きさを有していればよい。また、活性エネルギー線を照射するための光源530には、公知のものを使用することができる。例えば紫外線を照射する光源530の例には、半導体レーザー、メタルハライドランプ、水銀アークランプ、キセノンアークランプ、蛍光ランプ、炭素アークランプ、タングステン-ハロゲン複写ランプ、および太陽光等が含まれる。
【0095】
当該方法ではまず、樹脂組成物550を造形槽510内に充填する。またこのとき、樹脂組成物550の液面から、作製する造形物層(第1造形物層)の厚み分だけ下方に造形ステージ520を配置する。この状態で、光源530から出射された活性エネルギー線を、ガルバノミラー531等で導いて走査し、造形ステージ520上の樹脂組成物550に照射する。このとき、第1造形物層を形成する領域にのみ選択的に活性エネルギー線を照射することで、所望の形状に第1造形物層が形成される。
【0096】
その後、造形ステージ520を1層分の厚み(次に作製する第2造形物層の厚み分)だけ降下(深さ方向へ移動)させて、第1造形物層を樹脂組成物550の中に沈下させる。これにより、上記第1造形物層上に樹脂組成物が供給される。続いて上記と同様に、光源530から出射された活性エネルギー線を、ガルバノミラー531等で導き、第1造形物層より上方に位置する樹脂組成物550に照射する。このときも、第2造形物層を形成する領域にのみ選択的に活性エネルギー線を照射する。これにより、前述の第1造形物層上に第2造形物層が積層される。
【0097】
その後、造形ステージ520の降下(樹脂組成物の供給)、および活性エネルギー線の照射、を繰り返すことで、所望の形状に一次硬化物が形成される。なお、上記方法で作製する一次硬化物の形状は、最終的に作製する立体造形物の形状と同様とする。
【0098】
その後、一次硬化物に含まれる第2重合性化合物を、各種方法により硬化させて、立体造形物を得る。第2重合性化合物を硬化させる方法は、第2重合性化合物の種類(重合方式)に応じて適宜選択される。例えば、一次硬化物を加熱する方法であってもよく、マイクロ波や化学線を照射する方法であってもよい。また、水や、酸、塩基等に浸漬させて、これらと反応させる方法等であってもよい。さらに、一次硬化物作製のために照射する活性エネルギー線とは異なる波長の活性エネルギー線を照射して、第2重合性化合物を硬化させてもよい。
【0099】
上記の中でも好ましくは、一次硬化物を加熱する方法、もしくは一次硬化物作製のために照射する活性エネルギー線とは異なる波長の活性エネルギー線を照射する方法であり、特に好ましくは一次硬化物を加熱する方法である。なお、一次硬化物を加熱する際には、一次硬化物が変形しない温度とすることが好ましく、例えば第1重合性化合物の硬化物のTgより低い温度とすることが好ましい。
【0100】
2-2.連続造形法
図2Aおよび図2Bは、連続造形法により一次硬化物を作製するための装置(立体造形物の製造装置)の一例を示す模式図である。図2Aに示すように、製造装置600は、液体状の樹脂組成物を貯留可能な造形槽610と、上下方向(深さ方向)に往復移動可能な造形ステージ620と、活性エネルギー線を照射するための光源630等と、を有する。造形槽610は、その底部に、樹脂組成物を透過させず、活性光線および酸素は透過させる窓部615を有する。なお、造形槽610は、製造しようとする立体造形物よりも広い幅を有し、かつ樹脂組成物と相互作用しないものであれば、その材質等は特に制限されない。また、窓部615の材質も、本実施形態の目的および硬化を損なわない範囲であれば特に制限されない。
【0101】
また、活性エネルギー線を照射するための光源630は公知のものを使用することができ紫外線を照射する光源630の例には、半導体レーザー、メタルハライドランプ、水銀アークランプ、キセノンアークランプ、蛍光ランプ、炭素アークランプ、タングステン-ハロゲン複写ランプ、および太陽光等が含まれる。また、光源630に液晶パネルやデジタルミラーデバイス(DMD)等の空間光変調器(Spatial Light Modulator:SLM)を有するSLM投影光学系を用いることで、活性エネルギー線を所望の領域に面照射することができる。
【0102】
当該方法では、まず、造形槽610に上述の樹脂組成物650を充填する。そして、造形槽610の底部に設けられた窓部615から、造形槽610の底部側に酸素を導入する。酸素の導入方法は特に制限されず、例えば造形槽610の外部を酸素濃度が高い雰囲気とし、当該雰囲気に圧力をかける方法等とすることができる。
【0103】
このように窓部615から造形槽610内に酸素を供給することにより、窓部615側の領域では、酸素濃度が上昇し、活性エネルギー線を照射されても第1重合性化合物が硬化しないバッファ領域642が形成される。一方で、バッファ領域642より上側の領域では、酸素の濃度がバッファ領域642より十分に低くなり、活性エネルギー線の照射によって、第1重合性化合物が硬化可能な硬化用領域644となる。
【0104】
続いて、前記バッファ領域側642から活性エネルギー線を選択的に照射して、硬化用領域644で第1重合性化合物の硬化物を形成する工程を行う。具体的には、図2Aに示すように、一次硬化物作製の基点となる造形ステージ620を、硬化用領域644とバッファ領域642との界面近傍に配置する。そして、バッファ領域642側に配置された光源630から造形ステージ620の底面側に、選択的に活性エネルギー線を照射する。これにより、造形ステージ620の底面近傍(硬化用領域644)の樹脂組成物中の第1重合性化合物が硬化して、一次硬化物の最上部が形成される。
【0105】
その後、図2Bに示すように、造形ステージ620を上昇(バッファ領域642から離れる方向に移動)させる。これにより、硬化物651より造形槽610底部側の硬化用領域644に、未硬化の樹脂組成物650が新たに供給される。そして、造形ステージ620および硬化物651を連続的に上昇させながら、光源630から活性エネルギー線を連続的、かつ選択的(硬化させる領域)に照射する。これにより、造形ステージ620底面から造形槽610の底部側にかけて硬化物が連続して形成され、継ぎ目がなく、強度の高い一次造形物が製造される。なお、本実施形態においても、一次硬化物の形状は、最終的に作製する立体造形物の形状と同様とする。
【0106】
その後、一次硬化物に含まれる第2重合性化合物を、各種方法により硬化させて、立体造形物を得る。第2重合性化合物を硬化させる方法は、第2重合性化合物の種類(重合方式)等に応じて適宜選択され、上述の積層造形法における第2重合性化合物の硬化方法と同様とすることができる。
【実施例
【0107】
以下において、本発明の具体的な実施例を説明する。なお、これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0108】
1.フィラーの準備
実施例および比較例では、以下に示すフィラーを用いた。
【0109】
・硫酸マグネシウムウィスカーウィスカー1(未処理)
塩基性硫酸マグネシウムウィスカー(宇部マテリアルズ社製モスハイジ(平均繊維径0.5μ、平均繊維長20μm))を硫酸マグネシウムウィスカー1とした。
【0110】
・硫酸マグネシウムウィスカーウィスカー2(処理剤による処理有り)
900gの水に硫酸マグネシウムウィスカー1を100g加え、スターラーで撹拌した。その後、当該分散液にN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM-603)を1.5g添加し、20分間撹拌を続け、濾過した。そして、120℃で1時間乾燥させたものを硫酸マグネシウムウィスカー2とした。
【0111】
・ガラス粒子1(未処理)
ガラス粒子として、ポッターズ・バロティーニ社製マイクロガラスビーズ EMB-10(平均粒径5μm)を、ガラス粒子1とした。
【0112】
・ガラス粒子2(処理剤による処理有り)
900gの水にガラス粒子1を100g加え、スターラーで撹拌した。その後、当該分散液に3-グリシドキシプロピルトリメチルシラン(信越化学工業社製KBM-403)を1.5g添加し、20分間撹拌を続け、濾過した。そして、120℃で1時間乾燥させたものをガラス粒子2とした。
【0113】
・ガラス繊維1(未処理)
ガラス繊維(日本無機社製フィラトミクタFM350-9KS)をRetsch社製ボールミルPM100CMにより粉砕し、平均繊維径1μm、平均繊維長20μmとしたものをガラス繊維1とした。
【0114】
・ガラス繊維2(処理剤による処理有り)
900gの水にガラス繊維1を100g加え、スターラーで撹拌した。その後、当該分散液にヘキシルトリエトキシシラン(信越化学工業社製KBE-3063)1.5gを添加し、20分間撹拌を続け、濾過した。そして、120℃で1時間乾燥させたものをガラス繊維2とした。
【0115】
・ガラス繊維3(処理剤による処理有り)
900gの水にガラス繊維1を100g加え、スターラーで撹拌した。その後、当該分散液に3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM-903)1.5gを添加し、20分間撹拌を続け、濾過した。そして、120℃で1時間乾燥させたものをガラス繊維3とした。
【0116】
・カーボン粒子1(未処理)
SECカーボン社製人造黒鉛SGP(平均粒径10μm)をカーボン粒子1とした。
【0117】
・カーボン繊維1(処理剤による処理有り)
900gの水に、東レ社製トレカ ミルドファイバーMLD-30(平均繊維径7μm、平均繊維長30μm)を100g加え、スターラーで撹拌した。その後、当該分散液に、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製KBE-9007)を1.5g添加し、20分間撹拌を続け、濾過した。そして、120℃で1時間乾燥させたものをカーボン繊維1とした。
【0118】
・金属粒子1(未処理)
イーエムジャパン社製酸化鉄(III)ナノ粒子NP-FE(平均粒径100nm)を金属粒子1とした。
【0119】
・金属繊維1(処理剤による処理有り)
900gの水に、イーエムジャパン社製銀ナノワイヤー NW-AG-20(平均繊維径20nm、平均繊維長20μm)を100g加え、スターラーで撹拌した。当該分散液に、これにヘキサメチルジシラザン(信越化学工業社製SZ-31)を1.5g添加し、20分間撹拌を続け、濾過した。そして、120℃で1時間乾燥させることにより金属繊維1を得た。
【0120】
・多糖類ナノファイバー1(未処理)
スギノマシン社製のセルロースナノファイバー2質量%分散液であるBiNFi-sをエタノールで溶媒置換した分散液を、多糖類ナノファイバー1とした。
【0121】
・多糖類ナノファイバー2(処理剤による処理有り)
スギノマシン社製のセルロースナノファイバー2質量%分散液であるBiNFi-s 1000gをスターラーで撹拌しながら、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製KBE-9007)を0.3g添加した。その後、20分間撹拌を続け、エタノールで溶媒置換を行い、多糖類ナノファイバー2を得た。
【0122】
・多糖類ナノファイバー3(未処理)
針葉樹クラフトパルプ100gを蒸留水5000g中に懸濁させ、蒸留水500gに、1gのTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル)および10gの臭化ナトリウムを溶解させた溶液をさらに加えた。続いて2mol/Lの次亜塩素酸ナトリウム水溶液600gを滴下により添加し、酸化反応を開始させた。反応中のpHは、水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより、10に保ち続けた。水酸化ナトリウムの添加量が、原料セルロースの乾燥重量を基準として、4.5mmol/gに達した時点で、約200mLのエタノールを添加し、反応を停止させた。その後、孔径20μmのナイロンメッシュを用いて蒸留水によるろ過洗浄を繰り返し、酸化パルプを得た。得られた酸化パルプ50gを蒸留水で希釈することにより、5Lの混合溶液を得た。この混合溶液を吉田機械興業社製の湿式高圧分散装置であるナノヴェイタを用いて100MPaの圧力で解繊処理を行った。得られた分散液をエタノールで溶媒置換を行い、多糖類ナノファイバー3を得た。
【0123】
・セラミック粒子1(未処理)
イーエムジャパン社製酸化アルミニウムナノ粒子 NP-ALO(平均粒径80nm)をセラミック粒子1とした。
【0124】
・セラミック繊維1(処理剤による処理有り)
900gの水に、イーエムジャパン社製酸化チタンナノワイヤー NW-TIO-A(平均繊維径100nm、平均繊維長20μm)を100g加え、スターラーで撹拌した。当該分散液にビニルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM-1003)5gを添加し、20分間撹拌を続けてから濾過した。そして、120℃で1時間乾燥させることによりセラミック繊維1を得た。
【0125】
・粘土鉱物1(未処理)
日本タルク社製ナノタルクD-600(平均粒径0.6μm)を粘土鉱物1とした。
【0126】
2.樹脂組成物の調製
・サンプル1
(A)第1重合性化合物としてウレタンアクリレート(Sartomer社製CN983)237.5g、ジエチレングリコールジメタクリレート(Sartomer社製SR231 171g、およびビスフェノールA型エポキシアクリレート(Sartomer社製CN153)57gと、(D)ラジカル重合開始剤としてジフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィンオキシド(Irgacure TPO)9.5gと、(E)硬化剤として4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルアニリン)190gと、(B)第2重合性化合物として、ポリ[2-(クロロメチル)オキシラン-alt-4,4’-(プロパン-2,2-ジイル)ジフェノール](Huntsman社製 Araldite 506)285gを混合した。そして、当該混合物を遊星方式混練機(プライミクス社製ハイビスミックス2P-1)により、公転速度60rpm、自転速度180rpmで5分間混練した。
【0127】
・サンプル2
(A)第1重合性化合物としてウレタンアクリレート(Sartomer社製CN983)225g、ジエチレングリコールジメタクリレート(Sartomer社製SR231)162g、およびビスフェノールA型エポキシアクリレート(Sartomer社製CN153)54gと、(D)ラジカル重合開始剤としてジフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィンオキシド(Irgacure TPO)9gと、(E)硬化剤として4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルアニリン)180gと、(C)フィラーとして、硫酸マグネシウムウィスカーウィスカー1を100g混合した。当該混合物を遊星方式混練機(プライミクス社製ハイビスミックス2P-1)により、公転速度60rpm、自転速度180rpmで5分間混練した。
続いて、当該混合液に(B)第2重合性化合物としてポリ[2-(クロロメチル)オキシラン-alt-4,4’-(プロパン-2,2-ジイル)ジフェノール](Huntsman社製Araldite 506)270gを添加し、さらに5分間混練した。
【0128】
・サンプル3
全ての成分を同時に遊星方式混練機(プライミクス社製ハイビスミックス2P-1)に投入し、公転速度60rpm、自転速度180rpmで10分間混練した以外は、サンプル2と同様に調製した。
【0129】
・サンプル4
(C)フィラー以外の成分を遊星方式混練機(プライミクス社製ハイビスミックス2P-1)に投入し、公転速度60rpm、自転速度180rpmで5分間混練した後、(C)フィラーを添加し、さらに5分間混練した以外は、サンプル2と同様に調製した。
【0130】
・サンプル5
(B)第2重合性化合物および(C)フィラーを遊星方式混練機(プライミクス社製ハイビスミックス2P-1)に投入し、公転速度60rpm、自転速度180rpmで5分間混練した後、その他の成分を添加し、さらに5分間混練した以外は、サンプル2と同様に調製した。
【0131】
・サンプル6
(C)フィラーとして硫酸マグネシウムウィスカーウィスカー1の代わりに硫酸マグネシウムウィスカーウィスカー2を用いた以外はサンプル5と同様に調製した。
【0132】
・サンプル7
(C)フィラーとして硫酸マグネシウムウィスカーウィスカー1の代わりにガラス粒子1を用いた以外はサンプル5と同様に調製した。
【0133】
・サンプル8
(C)フィラーとして硫酸マグネシウムウィスカーウィスカー1の代わりにガラス粒子2を用いた以外はサンプル5と同様に調製した。
【0134】
・サンプル9
(B)第2重合性化合物としてポリ[2-(クロロメチル)オキシラン-alt-4,4’-(プロパン-2,2-ジイル)ジフェノール](Huntsman社製Araldite 506)135gと、(C)フィラーとしてガラス粒子2を450gと、を混合し、遊星方式混練機(プライミクス社製ハイビスミックス2P-1)により、公転速度60rpm、自転速度180rpmで5分間混練した。
当該混合液に、(A)第1重合性化合物としてウレタンアクリレート(Sartomer社製CN983)112.5g、ジエチレングリコールジメタクリレート(Sartomer社製SR231)81g、およびビスフェノールAエポキシアクリレート(Sartomer社製CN153)27gと、(D)ラジカル重合開始剤としてジフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィンオキシド(Irgacure TPO)4.5gと、(E)硬化剤4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルアニリン)90gとを添加し、さらに5分間混練した。
【0135】
・サンプル10
(C)フィラーとして硫酸マグネシウムウィスカーウィスカー1の代わりにガラス繊維1を用いた以外は、サンプル5と同様に調製した。
【0136】
・サンプル11
(C)フィラーとして硫酸マグネシウムウィスカーウィスカー1の代わりにガラス繊維2を用いた以外は、サンプル5と同様に調製した。
【0137】
・サンプル12
(C)フィラーとして硫酸マグネシウムウィスカーウィスカー1の代わりにガラス繊維3を用いた以外は、サンプル5と同様に調製した。
【0138】
・サンプル13
(A)第1重合性化合物として、ウレタンジアクリレート(Sartomer社製CN983)53g、トリメチルプロパントリアクリレート348g、およびジアクリレート(Sartomer社製CN120Z)87.3gと、(D)ラジカル重合開始剤としてジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(Irgacure TPO)10gと、(E)硬化剤として亜鉛(II)アセチルアセトナート一水和物を1500ppm含有するイソボルニルアクリレート溶液25gおよび2-(5-クロロ-2-ベンゾトリアゾリル)-6-tert-ブチル-p-クレゾール1gと、(B)第2重合性化合物として1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン480gと、を混合し、遊星方式混練機(プライミクス社製ハイビスミックス2P-1)により、公転速度60rpm、自転速度180rpmで5分間混練した。
【0139】
・サンプル14
(A)第1重合性化合物として、ウレタンジアクリレート(Sartomer社製CN983)42.4g、トリメチルプロパントリアクリレート278g、およびジアクリレート(Sartomer社製CN120Z)70gと、(D)ラジカル重合開始剤としてジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(Irgacure TPO)8gと、(E)硬化剤として亜鉛(II)アセチルアセトナート一水和物を1500ppm含有するイソボルニルアクリレート溶液20gおよび2-(5-クロロ-2-ベンゾトリアゾリル)-6-tert-ブチル-p-クレゾール0.8gと、(B)第2重合性化合物として1,1-ビス(4-シアナトフェニル)エタン384gと、(C)フィラーとしてカーボン粒子1を200gと、を遊星方式混練機(プライミクス社製ハイビスミックス2P-1)により、公転速度60rpm、自転速度180rpmで10分間混練した。
【0140】
・サンプル15
(B)第2重合性化合物および(C)フィラーを遊星方式混練機(プライミクス社製ハイビスミックス2P-1)に投入し、公転速度60rpm、自転速度180rpmで5分間混練した後、上記以外の成分を添加し、さらに5分間混練した以外は、サンプル14と同様に調製した。
【0141】
・サンプル16
(C)フィラーとしてカーボン粒子1の代わりにカーボン繊維1を用いた以外は、サンプル15と同様に調製した。
【0142】
・サンプル17
(C)フィラーとしてカーボン粒子1の代わりに金属粒子1を用いた以外は、サンプル15と同様に調製した。
【0143】
・サンプル18
(C)フィラーとしてカーボン粒子1の代わりに金属繊維1を用いた以外は、サンプル15と同様に調製した。
【0144】
・サンプル19
(A)第1重合性化合物として、ドデカン-1-イルメタクリラート480gと、(D)ラジカル重合開始剤としてジフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィンオキシド(Irgacure TPO)10gと、(B)第2重合性化合物としてポリ(プロピレングリコール)ビス(2-アミノプロピルエーテル)230gと、(E)硬化剤として2,2’-ジメチル-4,4’-メチレンビス(シクロヘキサン-1-イルアミン)230gと、を混合し、遊星方式混練機(プライミクス社製ハイビスミックス2P-1)により、公転速度60rpm、自転速度180rpmで5分間混練した。
【0145】
・サンプル20
(A)第1重合性化合物としてドデカン-1-イルメタクリラート480gと、(D)ラジカル重合開始剤としてジフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィンオキシド(Irgacure TPO)10gと、(C)フィラーとして多糖類ナノファイバー1を50gとを混合し、遊星方式混練機(プライミクス社製ハイビスミックス2P-1)により、公転速度60rpm、自転速度180rpmで5分間混練した。
その後、(B)第2重合性化合物としてポリ(プロピレングリコール)ビス(2-アミノプロピルエーテル)230gと、(E)硬化剤として2,2’-ジメチル-4,4’-メチレンビス(シクロヘキサン-1-イルアミン)230gとを添加し、にさらに5分間混練した。
【0146】
・サンプル21
(B)第2重合性化合物および(C)フィラーを遊星方式混練機(プライミクス社製ハイビスミックス2P-1)により公転速度60rpm、自転速度180rpmで5分間混練した後、上記以外の成分を添加し、さらに5分間混練した以外は、サンプル20と同様に調製した。
【0147】
・サンプル22
(C)フィラーとして多糖類ナノファイバー1の代わりに多糖類ナノファイバー2を用いた以外は、サンプル21と同様に調製した。
【0148】
・サンプル23
(C)フィラーとして多糖類ナノファイバー1 50gの代わりに多糖類ナノファイバー3 20gを用いた以外は、サンプル21と同様に調製した。
【0149】
・サンプル24
(A)第1重合性化合物として、シリコーンアクリレート(Bluestar Silicones社製UV RCA 170)380gと、(D)ラジカル重合開始剤として2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン(Irgacure907)4g、および2-イソプロピルチオキサントン0.4gと、(E)硬化剤としてN,N-ジメチルオクチルアミン12gと、(B)第2重合性化合物として一液付加硬化型シリコーンKE-1056(信越化学工業社製)400gと、を遊星方式混練機(プライミクス社製ハイビスミックス2P-1)により、公転速度60rpm、自転速度180rpmで5分間混練した。
【0150】
・サンプル25
(A)第1重合性化合物としてシリコーンアクリレート(Bluestar Silicones社製UV RCA 170)380gと、(D)ラジカル重合開始剤として2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン(Irgacure907)4g、および2-イソプロピルチオキサントン0.4gと、(E)硬化剤としてN,N-ジメチルオクチルアミン12gと、(C)フィラーとしてセラミック粒子1200gを混合し、プライミクス社製(ハイビスミックス2P-1)により、公転速度60rpm、自転速度180rpmで5分間混練した。
その後、(B)第2重合性化合物として、一液付加硬化型シリコーンKE-1056(信越化学工業社製)400gを添加してさらに5分間混練した。
【0151】
・サンプル26
(B)第2重合性化合物および(C)フィラーを遊星方式混練機(プライミクス社製ハイビスミックス2P-1)により公転速度60rpm、自転速度180rpmで5分間混練した後、上記以外の成分を添加し、さらに5分間混練した以外は、サンプル25と同様に調製した。
【0152】
・サンプル27
(C)フィラーとしてセラミック粒子1の代わりにセラミック繊維1を用いた以外は、サンプル26と同様に調製した。
【0153】
・サンプル28
(C)フィラーとしてセラミック粒子1の代わりに粘土鉱物1を用いた以外は、サンプル26と同様に調製した。
【0154】
3.立体造形物の作製
(第1の立体造形方法(SLA法))
図1に示す構成を有する立体造形物の製造装置の造形槽510に樹脂組成物1~28(サンプル1~28)をそれぞれ投入した。そして、光源530からの半導体レーザー光(出力100mW、波長355nm)の照射および造形ステージ520の降下を繰り返して、JIS K7161-2(ISO 527-2) 1A形の試験片形状の一次硬化物を得た。なお、作製の際には、引張試験片の長手方向が造形方向(ステージの降下方向)となるようにした。
得られた一次硬化物を、イソプロピルアルコールで洗浄した後、サンプル1~12は150℃で1時間、サンプル13~18は180℃で1時間、サンプル19~23は120℃で1時間、サンプル24~28は130℃で1時間、それぞれオーブンにて加熱を行い、(B)第2重合性化合物を硬化させた。
【0155】
(第2の立体造形方法(CLIP法))
立体造形物の作製には、図2Aに示す製造装置600の造形槽610に樹脂組成物650を投入した。当該造形槽610の底部には、重合阻害剤である酸素の透過が可能なBiogeneral社製の0.0025インチ厚のTeflon(登録商標)AF2400フィルム(窓部615)が配置されている。そして、造形槽610の外側の雰囲気を酸素雰囲気としたうえで、適度に加圧を行った。これにより、造形槽610の底部側に、樹脂組成物650および酸素を含むバッファ領域642が形成され、バッファ領域642より上部は、バッファ領域より酸素濃度が低い硬化用領域644が形成された。
そして、紫外線源:LEDプロジェクタ(Texas Instruments社製のDLP(VISITECH LE4910HUV-388))から光を面状に照射しながらステージ620を上昇させた。このとき、紫外線の照射強度は5mW/cmとした。また、ステージの引き上げ速度は、50mm/hrとした。そして、JIS K7161-2(ISO 527-2) 1A形の試験片形状の一次硬化物を作製した。なお、作製の際には、引張試験片の長手方向が造形方向(ステージ620の引き上げ方向)となるようにした。得られた一次硬化物をイソプロピルアルコールで洗浄した後、サンプル1~12は150℃で1時間、サンプル13~18は180℃で1時間、サンプル19~23は120℃で1時間、サンプル24~28は130℃で1時間、それぞれオーブンにて加熱を行い、(B)第2重合性化合物を硬化させた。
【0156】
4.立体造形物の強度測定
得られた立体造形物の強度を、JIS K7161-1に準拠して引張試験にて評価した。このとき、掴み具間の距離は115mm、試験速度は5mm/分とした。そして、破断時の応力を試験片の断面積で割った値を引張強度として算出した。
そして、以下の基準で評価した。
◎◎:フィラーなしで造形したものに対して、強度向上率が50%以上
◎:フィラーなしで造形したものに対して、強度向上率が10%以上50%未満
○:フィラーなしで造形したものに対して、強度向上率が、0%超10%未満
×:フィラーなしで造形したものに対して、強度が向上しなかったまたは低下率10%未満
××:フィラーなしで造形したものに対して、強度低下率10%以上
【0157】
5.フィラー表面の分析
上記立体造形物に含まれるフィラー表面を分析し、フィラー表面がいずれの樹脂等で被覆されていたかを確認した。具体的には、上述の立体造形物を、機械研磨装置(ビューラー社製EcoMet250Pro)で研磨し、断面を作製した。そして、ブルカー・オプティクス社製赤外顕微鏡HYPERION3000を用い、2次元アレイ検出器(素子数64×64)を使用した顕微ATRイメージング測定を行った。
そして、顕微鏡による画像観察をもとに、フィラーと隣接する樹脂領域(0.5μm×0.5μm)の赤外吸収スペクトル(1)と、フィラーから1μm以上離れた領域(0.5μm×0.5μm)の赤外吸収スペクトル(2)を取得し、比較した。
【0158】
例えば、サンプル3、サンプル4、およびサンプル14では、スペクトル(1)およびスペクトル(2)は、ほぼ同等であること等から(C)フィラーが(A)第1重合性化合物および(B)第2重合性化合物によって被覆されていたといえる。一方、サンプル2、サンプル20、およびサンプル25では、スペクトル(1)のほうが、スペクトル(2)より、1250cm-1の吸収および1160cm-1近傍の吸収ピークが明らかに大きかった。1250cm-1および1160cm-1近傍の吸収は、(メタ)アクリロイル基のC-O-C伸縮に帰属されるものであり、(C)フィラーが(A)第1重合性化合物により被覆されていたといえる。一方、サンプル5~12、15~18、21~23、および26~28では、スペクトル(1)のほうが、スペクトル(2)より、1250cm-1の吸収および1160cm-1近傍の吸収ピークが明らかに小さかった。また、サンプル5~12では、スペクトル(1)のほうが、スペクトル(2)より、910cm-1近傍の吸収ピークが明らかに大きかった。910cm-1近傍の吸収は、エポキシ基のC-O伸縮に帰属されるものであり、(C)フィラーが(B)第2重合性化合物により被覆されていたといえる。
【0159】
また、サンプル15~18では、スペクトル(1)のほうが、スペクトル(2)より、1560cm-1近傍の吸収ピークが明らかに大きかった。1560cm-1近傍の吸収は、トリアジン環の-C=N-骨格の振動に帰属されるものであり、(C)フィラーが(B)第2重合性化合物により被覆されていたといえる。
【0160】
また、サンプル21~23では、スペクトル(1)のほうが、スペクトル(2)より、1740cm-1近傍の吸収ピークが明らかに大きかった。1740cm-1近傍の吸収は、ウレタン結合中のC=Oに帰属されるものであり、(C)フィラーが(B)第2重合性化合物により被覆されていたといえる。
【0161】
また、サンプル26~28では、スペクトル(1)のほうが、スペクトル(2)より、2280cm-1近傍の吸収ピークが明らかに大きかった。2280cm-1近傍の吸収は、付加硬化型シリコーンに含まれるヒドロシリル基のSi-H伸縮に帰属されるものであり、(C)フィラーが(B)第2重合性化合物により被覆されていたといえる。
【0162】
【表1】
【0163】
【表2】
【0164】
上記表1および表2に示されるように、樹脂組成物にフィラーが含まれたとしても、(C)フィラーを覆う樹脂が(A)第1重合性化合物(ラジカル重合性化合物)であったり、(A)第1重合性化合物と(B)第2重合性化合物との混合物である場合には、いずれの造形方法においても、フィラーが含まれないサンプル(サンプル1、13、19、および24)と比較して強度が向上しなかった、もしくは強度が低下した(サンプル2~4、14、20、および25)。樹脂組成物の硬化時に、(C)フィラーの周囲に(A)第1重合性化合物が存在すると、(C)フィラーが吸着した酸素によって(A)第1重合性化合物の重合が阻害されやすく、強度が低下しやすかったと推察される。また特に第2の方法(酸素を重合阻害剤として供給しながら樹脂組成物を硬化させる方法)のほうが、第1の方法より立体造形物の強度低下が生じやすかった。
【0165】
一方、(C)フィラーが(B)第2重合性化合物によって被覆されている場合、得られた立体造形物の強度が向上した(サンプル5~12、15~18、21~23、および26~28)。(C)フィラーが(B)第2重合性化合物によって被覆されている場合、(C)フィラーが酸素を吸着していたとしても(A)第1重合性化合物がその影響を受け難く、フィラーの添加効果、すなわち立体造形物の強度向上効果が得られやすかったと推察される。またこれらのサンプルでは、第2の方法で立体造形物を作製したほうが、立体造形物の強度が高かった。第2の方法では、造形物層を形成せずに連続的に立体造形物を形成するため、局所的に強度の低い箇所が生じ難かったと推察される。
【0166】
さらに、(C)フィラーの形状が繊維状である場合に、立体造形物の強度が高まりやすかった(例えばサンプル7および10の比較)。一方で、(C)フィラーが、(B)第2重合性化合物と反応可能な官能基を有する処理剤で処理されている場合(サンプル6、8、9、12、16、22、および27)にも、立体造形物の強度が高まりやすかった。
【0167】
本出願は、2017年9月22日出願の特願2017-182476号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明の樹脂組成物によれば、立体造形物を適度な速度および高い寸法精度で作製可能であり、かつ得られる立体造形物の強度が高い。したがって、本発明は、樹脂組成物を用いた立体造形物の適用の幅を広げ、同分野の技術の進展および普及に貢献することが期待される。
【符号の説明】
【0169】
500、600 製造装置
510、610 造形槽
615 窓部
520、620 造形ステージ
521 ベース
530、630 光源
531 ガルバノミラー
642 バッファ領域
644 硬化用領域
550、650 樹脂組成物
651 硬化物
図1
図2