IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社GSユアサの特許一覧

<>
  • 特許-非水電解質二次電池 図1
  • 特許-非水電解質二次電池 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20220802BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20220802BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20220802BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220802BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20220802BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0569
H01M10/0567
H01M4/13
H01M10/0587
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019549269
(86)(22)【出願日】2018-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2018038324
(87)【国際公開番号】W WO2019078159
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-02-25
(31)【優先権主張番号】P 2017200427
(32)【優先日】2017-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】川副 雄大
(72)【発明者】
【氏名】長嶺 健太
(72)【発明者】
【氏名】穴見 啓介
【審査官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/147000(WO,A1)
【文献】特開2009-218191(JP,A)
【文献】特開2015-176760(JP,A)
【文献】特開2016-058264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極合剤層を備える正極板と負極合剤層を備える負極板とがセパレータを挟んだ状態で巻回されて構成される発電要素と、フッ素化カーボネートを含有する非水電解質(但し、フッ素含有率が31.0~70.0質量%であるフッ素化鎖状カーボネートを含むもの、及び一般式(6)で表される化合物(式中、R8~R12は水素または置換基である。R8~R12は同一であっても、異なっていてもよく、結合していてもよい。Xは-OM、アミノ基またはハロゲン基である。Mは長周期型周期表における1族元素もしくは2族元素、または炭化水素基もしくはアルキルシリル基である。n=0~4である。)を含むものは除く)とを含み、
【化2】

前記負極合剤層が、前記正極合剤層の表面に対向する対向部と、前記対向部と同一面にあり、かつ、前記正極合剤層の表面に対向していない非対向部とから構成され、
前記負極合剤層の前記対向部と前記非対向部とを合わせた面積に対する非対向部の面積比が7%以上であり、
前記非水電解質が環状スルホン化合物を含む、非水電解質二次電池。
【請求項2】
充電時におけるリチウム基準の正極電位が、4.4V(vs.Li/Li+)以上に達する、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記環状スルホン化合物が、一般式(1)で表される環状不飽和スルトン、又は、一般式(2)で表される環状スルホン酸エステル化合物から選択される少なくとも1つである、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【化1】


(一般式(1)において、式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、水素、フッ素、またはフッ素を含んでいてもよい炭素数1~4の炭化水素基であり、nは1~3の整数である。一般式(2)において、式中、R5は水素、フッ素、またはフッ素を含んでいてもよい炭素数1~4の炭化水素基である。R6は式(3)、式(4)または式(5)で表される基である。R7はハロゲンを含んでもよい炭素数1~3のアルキル基である)
【請求項4】
前記非対向部表面における、X線光電子分光スペクトルにおけるSの2p軌道に起因するピークのピーク強度(IS)と、Cの1s軌道に起因するピークのピーク強度(IC)とが、0.05<(IS/IC)の関係を有する、請求項1から3のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記フッ素化カーボネートの含有量は、電解質塩を除く前非水電解質の全量に対して5体積%以上30体積%以下である、請求項1から4のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記負極合剤層の前記対向部と前記非対向部とを合わせた面積に対する非対向部の面積比が7%以上13%以下である、請求項1から5のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記負極合剤層の前記対向部と前記非対向部とを合わせた面積に対する非対向部の面積比が7%以上9%以下である、請求項1から6のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度が高いことから、モバイル機器用の電源として広く普及している。さらに、非水電解質二次電池は、今後、電力貯蔵用、電気自動車用及びハイブリッド自動車用等の用途への展開が見込まれている。
【0003】
用途の拡がりに伴い、非水電解質二次電池には、より一層高いエネルギー密度が求められており、そのため、電池の高電圧化が求められている。非水電解液二次電池の電解液として、耐酸化性に優れ、充放電サイクル性能向上効果が期待されるフッ素化カーボネート(例えば、フルオロエチレンカーボネート)を用いることが知られているが、高電圧下でフッ素化カーボネートを用いた場合、フッ素化カーボネートが還元し、還元生成物が正極で酸化分解して電池容量が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特許出願公開2007-188861号公報
【文献】日本国特許出願公開2008-140683号公報
【文献】日本国特許出願公開2014-22335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非水電解質二次電池は、リチウムの析出に起因する内部短絡を回避するために、正極と負極とが対向する面において、負極の負極合剤層の面積が、正極の正極合剤層の面積よりも大きくなるように構成される。本発明の発明者らは、このような構成が、フッ素化カーボネートの還元促進(結果として、電池容量の低下)の一因であることを見出した。より詳細には、正極合剤層と対向していない負極合剤層では、初回充電時に形成される被膜(SEI)が不十分となり得、SEI膜形成が不十分であることが、フッ素化カーボネートが還元される一因であることを見出した。正極合剤層と対向していない部分を多く有する負極合剤層を備える非水電解質二次電池においては、上記の還元生成物の酸化分解による電池容量の低下は特に顕著となる。
【0006】
本発明の課題は、非水電解質にフッ素化カーボネートを含み、かつ、負極合剤層が正極合剤層よりも十分に広面積である非水電解質二次電池でありながら、容量低下が抑制された非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の非水電解質二次電池は、正極合剤層を備える正極板と、負極合剤層を備える負極板と、フッ素化カーボネートを含有する非水電解質とを含み、該負極合剤層が、該正極合剤層の表面に対向する対向部と、該対向部と同一面にあり、かつ、該正極合剤層の表面に対向していない非対向部とから構成され、該負極合剤層の該対向部と該非対向部とを合わせた面積に対する非対向部の面積比が7%以上であり、該非水電解質が環状スルホン化合物を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、非水電解質にフッ素化カーボネートを含み、高電圧であり、かつ、負極合剤層が正極合剤層よりも十分に広面積である非水電解質二次電池でありながら、容量低下が抑制された非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の1つの実施形態による非水電解質二次電池の概略構成を示す一部破断斜視図である。
図2図2は、本発明の1つの実施形態による非水電解質二次電池における正極板と負極板とを模式的に示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<非水電解質二次電池の概要>
図1は、本発明の1つの実施形態による非水電解質二次電池の概略構成を示す一部破断斜視図である。非水電解質二次電池100は、正極合剤層を備える正極板10と、負極合剤層を備える負極板20とを備える。代表的には、図1に示すように、非水電解質二次電池100は、正極板10と負極板20とがセパレータ30を挟んだ状態で巻回されて構成される発電要素110を備える。発電要素110は、セパレータ30に非水電解質を含浸させた状態で、電池ケース120内に収納される。電池ケース120は、例えば、上面側に開口を有する略箱型である。当該開口は板状の電池蓋130によって塞がれている。電池蓋130には正極端子140および負極端子150が設けられており、正極端子140は正極リード160を介して正極板10と、負極端子150は負極リード170を介して負極板20と、それぞれ電気的に接続されている。
【0011】
図2は、本発明の1つの実施形態による非水電解質二次電池における正極板と負極板とを模式的に示す概略断面図である。図2においては、セパレータ等の他の部材の図示を省略している。正極板10は、正極集電体11と、正極集電体11の少なくとも片面に配置された正極合剤層12とを備える。負極板20は、負極集電体21と、負極集電体21の少なくとも片面に配置された負極合剤層22とを備える。正極板10は、正極合剤層12が負極合剤層22に対向するように配置される。負極合剤層22は、正極合剤層12の表面に対向する対向部1と、対向部1と同一面にあり、かつ、正極合剤層12の表面に対向していない非対向部2とから構成される。非対向部2を設けることにより、リチウムの析出に起因する内部短絡を防止することができる。
【0012】
負極合剤層22の対向部1と非対向部2とを合わせた面積に対する非対向部2の面積比は7%以上である。本実施形態においては、後述のように非水電解質に環状スルホン化合物を含有させることにより、非対向部2の面積を大きくしても(すなわち、面積比を7%以上としても)、非水電解質二次電池の容量低下を抑制することができる。1つの実施形態においては、負極合剤層22の対向部1と非対向部2とを合わせた面積に対する非対向部2の面積比は、好ましくは7%~20%であり、より好ましくは7%~15%である。いくつかの態様において、上記非対向部2の面積比は、例えば9%以上であってもよく、10%以上(例えば12%以上)であってもよい。ここに開示される技術は、上記非対向部2の面積比が9%以上20%以下(例えば12%以上18%以下)である態様でも実施され得る。
【0013】
上記非水電解質は、フッ素化カーボネートと環状スルホン化合物とを含む。酸化されにくいフッ素化カーボネートを用いることにより、高電圧下においても、ガス発生等の不具合を抑制することができる。また、サイクル特性に優れる非水電解質二次電池を得ることができる。
【0014】
本実施形態においては、非水電解質に環状スルホン化合物を含有させることにより、負極合剤層にSEI膜を良好に形成させることができる。すなわち、上記環状スルホン化合物は、初期充電の際に負極の表面で還元分解され、その分解物により硫黄を含有する強固な重合性被膜を負極の表面に形成し得る。また、充電時に負極合剤層の対向部に比べて電位が下がりにくい負極合剤層の非対向部においても、上記還元分解が適切に進行するため、負極合剤層の非対向部にも強固な重合性被膜が十分に形成され得る。そのため、特に、負極合剤層の非対向部において、良好にSEI膜を形成させることができ、フッ素化カーボネートの還元分解を有効に防止することができると推測される。その結果、負極合剤層の非対向部の面積が大きく、非水電解質にフッ素化カーボネートを含む非水電解質二次電池であっても、容量低下を抑制することができる。フッ素化カーボネートの分解による容量低下は高電圧下で顕著になるところ、特に、充電時におけるリチウム基準の正極電位が4.4V(vs.Li/Li)以上に達する非水電解質二次電池において、非対向部における良好なSEI膜の形成は容量低下の抑制に効果的である。
【0015】
<非水電解質>
1つの実施形態においては、非水電解質は、非水電解液である。上記のとおり、非水電解質はフッ素化カーボネートを含む。フッ素化カーボネートとしては、カーボネートが有する水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された化合物を特に限定なく使用することができる。本明細書において「カーボネート」とは、分子内にカーボート構造(‐O‐(C=O)‐O‐)を有する化合物をいう。上記カーボネートは、鎖状カーボネートであってもよく、環状カーボネートであってもよい。なお、ここでいう環状カーボネートは、その各幾何異性体を包含する概念である。
【0016】
鎖状カーボネートとしては、炭素数3~15(例えば3~10、好ましくは3~8、より好ましくは3~6)である鎖状カーボネートを好ましく採用し得る。炭素数3~15の鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート等が例示される。上記鎖状カーボネートが有する水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたフッ素化鎖状カーボネートを好適に用いることができる。上記フッ素化鎖状カーボネートにおけるフッ素原子の数は1つ以上であれば特に限定されないが、例えば1~10であり、好ましくは1~8であり得る。いくつかの態様において、上記フッ素化鎖状カーボネートにおけるフッ素原子の数は、例えば1~6であってもよく、1~4(例えば1または2)であってもよい。
【0017】
環状カーボネートとしては、炭素数3~15(例えば3~10、好ましくは3~8、より好ましくは3~6)である環状カーボネートを好ましく採用し得る。炭素数3~15の環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC;1,3‐ジオキソラン‐2‐オンとも称する。)、プロピレンカーボネート(PC;4-メチル-1,3‐ジオキソラン‐2‐オンとも称する。)、ブチレンカーボネート(BC;4,5-ジメチル-1,3‐ジオキソラン‐2‐オンとも称する。)、ペンチレンカーボネート、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、若しくはこれらの誘導体が例示される。上記環状カーボネートが有する水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたフッ素化環状カーボネートを好適に用いることができる。上記フッ素化環状カーボネートにおけるフッ素原子の数は1つ以上であれば特に限定されないが、例えば1~10であり、好ましくは1~8であり得る。いくつかの態様において、上記フッ素化環状カーボネートにおけるフッ素原子の数は、例えば1~6であってもよく、1~4(例えば1または2)であってもよい。
【0018】
上記フッ素化環状カーボネートの好適例として、モノフルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)等のフッ素化エチレンカーボネート;モノフルオロプロピレンカーボネート(FPC)、ジフルオロプロピレンカーボネート(DFPC)、トリフルオロプロピレンカーボネート(TFPC)等のフッ素化プロピレンカーボネート;モノフルオロブチレンカーボネート、ジフルオロブチレンカーボネート、トリフルオロブチレンカーボネート等のフッ素化ブチレンカーボネート;等が挙げられる。なかでも、高電圧下での充放電サイクル特性を向上させる観点から、FEC、DFEC、FPC、TFPCが好ましく、FECまたはDFECがより好ましく、FECが特に好ましい。
【0019】
上述したフッ素化カーボネート(すなわちフッ素化鎖状カーボネートおよびフッ素化環状カーボネート)は、1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
非水電解質は、フッ素化カーボネート以外の任意の適切な非水溶媒をさらに含み得る。当該非水溶媒としては、例えば、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジフェニルカーボネート等の鎖状カーボネート;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、プロピオラクトン等の環状エステル等が挙げられる。なかでも、EMC、DMC、DECが好ましく、EMCが特に好ましい。これらのフッ素化カーボネート以外の非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
上記フッ素化カーボネートの含有量は、電解質塩を除く非水電解質の全量に対して、好ましくは5体積%~30体積%であり、より好ましくは8体積%~25体積%であり、さらに好ましくは10体積%~20体積%である。このような範囲であれば、高電圧下での充放電サイクル特性に優れる非水電解質二次電池を得ることができる。また、本実施形態においては、環状スルホン化合物を含有させることにより、フッ素化カーボネートの還元分解が抑制されるため、フッ素化カーボネートを多量に用いずとも、その効果(例えば、充放電サイクル特性向上)が得られ得る。フッ素化カーボネート使用量を少なくすれば、適切な粘度を有し、イオン伝導性に優れる非水電解質を得ることができる。
ここに開示される技術は、フッ素化カーボネートの含有量が、非水電解質の全重量に対して、例えば8重量%超35重量%以下(特には10重量%以上30重量%以下)である態様で好ましく実施され得る。
【0021】
好ましくは、環状スルホン化合物の還元電位は、前記フッ素化カーボネートの還元電位よりも高い。このような環状スルホン化合物は、フッ素化カーボネートに先んじて、SEI膜の形成に寄与し得る。したがって、フッ素化カーボネートよりも還元電位が高い環状スルホン化合物を用いれば、フッ素化カーボネートの還元分解が抑制され、容量低下が少ない非水電解質二次電池を得ることができる。
【0022】
上記のような観点から好ましい環状スルホン化合物としては、下記一般式(1)で表される環状不飽和スルトン化合物Aまたは下記一般式(2)で表される環状硫酸エステルBが挙げられる。
【化1】

一般式(1)において、式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して、水素、フッ素、またはフッ素を含んでいてもよい炭素数1~4の炭化水素基であり、nは1~3の整数である。nは、例えば1または2であり得る。一般式(2)において、式中、R5は水素、フッ素、またはフッ素を含んでいてもよい炭素数1~4の炭化水素基である。R6は式(3)、式(4)または式(5)で表される基である。R7はハロゲンを含んでもよい炭素数1~3のアルキル基である。なお、式(3)~(5)の構造式の左端の「‐」は結合を表す。また、ここでいう環状スルホン化合物は、その各幾何異性体を包含する概念である。
【0023】
上記一般式(1)で表される環状不飽和スルトン化合物Aにおいて、R1、R2、R3およびR4は、同一であっても互いに異なっていてもよい。R1、R2、R3およびR4は、水素原子、フッ素原子、あるいはフッ素を含んでいてもよい炭素数1~4の炭化水素基であり得る。R1、R2、R3およびR4が炭化水素基の場合、R1、R2、R3およびR4は直鎖状でもよく分岐状でもよい。非水電解液の低粘度化などの観点から、炭化水素基は直鎖状であることが好ましい。例えば、R1、R2、R3およびR4は、炭素数1~4(例えば1~3、典型的には1または2)のアルキル基であり得る。炭素原子数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n‐プロピル基、イソプロピル基、n‐ブチル基、イソブチル基、sec‐ブチル基、t‐ブチル基等が例示される。また、耐酸化性を高める等の観点から、これらアルキル鎖骨格の水素原子の1または2つ以上がフッ素原子で置換された構造の基(すなわち炭素数1~4のフッ素化アルキル基)であってもよい。フッ素化アルキル基を採用する場合、フッ素原子の数は1つ以上であれば特に限定されないが、例えば1~12(典型的には1~6、例えば1~3)とすることができる。上記環状不飽和スルトン化合物Aは、Sを含む環状基に不飽和結合があり、還元分解によって速やかに重合して保護機能を有する被膜を形成しやすい。そのため、上記環状不飽和スルトン化合物Aを添加すれば、特に負極合剤層の非対向部において良好にSEI膜を形成させることができ、フッ素化カーボネートの還元分解を有効に防止することができる。また、非水電解質の粘度を適切に維持し得る点でも好ましい。さらに、環状不飽和スルトン化合物Aを用いることで、熱的安定性が高い被膜を形成し得るため、高温での容量低下を抑制するという効果が得られる点でも好ましい。
【0024】
上記環状不飽和スルトン化合物Aの一好適例として、R1、R2、R3およびR4の全部が水素原子またはフッ素原子であるものが挙げられる。かかる環状不飽和スルトン化合物Aにおけるフッ素原子の数は、3以下(例えば2以下、典型的には0または1)であることが好ましい。そのような環状不飽和スルトン化合物Aの具体例として、1,3-プロペンスルトン、1-フルオロ-1,3-プロペンスルトン、2-フルオロ-1,3-プロペンスルトン、3-フルオロ-1,3-プロペンスルトン等が挙げられる。なかでも、環状不飽和スルトン化合物Aによる作用を好適に発現させる観点から、1,3-プロペンスルトンまたは1-フルオロ-1,3-プロペンスルトンが好ましく、1,3-プロペンスルトンが特に好ましい。
【0025】
上記環状不飽和スルトン化合物Aの他の好適例として、R1、R2、R3およびR4のいずれか1つがフッ素を含んでいてもよい炭素数1~4の炭化水素基であり、かつ、残りの3つが水素原子またはフッ素原子であるものが挙げられる。そのような環状不飽和スルトン化合物Aの具体例として、1-メチル-1,3-プロペンスルトン、2-メチル-1,3-プロペンスルトン、3-メチル-1,3-プロペンスルトン等が挙げられる。
【0026】
上記環状不飽和スルトン化合物Aの他の好適例として、R1、R2、R3およびR4のいずれか2つがフッ素を含んでいてもよい炭素数1~4の炭化水素基であり、かつ、残りの2つが水素原子またはフッ素原子であるものが挙げられる。そのような環状不飽和スルトン化合物Aの具体例として、1,3-プロパンスルトン、1,1-ジメチル-1,3-プロペンスルトン、1,2-ジメチル-1,3-プロペンスルトン等が挙げられる。
【0027】
上記一般式(2)で表される環状硫酸エステルBにおいて、R5は、水素原子、フッ素原子、あるいはフッ素を含んでいてもよい炭素数1~4の炭化水素基であり得る。R5が炭化水素基の場合、R5は直鎖状でもよく分岐状でもよい。非水電解液の低粘度化などの観点から、炭化水素基は直鎖状であることが好ましい。例えば、R5は、炭素数1~4(例えば1~3、典型的には1または2)のアルキル基であり得る。炭素原子数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n‐プロピル基、イソプロピル基、n‐ブチル基、イソブチル基、sec‐ブチル基、t‐ブチル基等が例示される。また、耐酸化性を高める等の観点から、これらアルキル鎖骨格の水素原子の1または2つ以上がフッ素原子で置換された構造の基(すなわち炭素数1~4のフッ素化アルキル基)であってもよい。フッ素化アルキル基を採用する場合、フッ素原子の数は1つ以上であれば特に限定されないが、例えば1~12(典型的には1~6、例えば1~3)とすることができる。R7はハロゲンを含んでもよい炭素数1~3のアルキル基である。炭素原子数1~3のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n‐プロピル基、イソプロピル基等が例示される。また、これらアルキル鎖骨格の水素原子の1または2つ以上がハロゲン原子で置換された構造の基(すなわち炭素数1~3のハロゲン化アルキル基)であってもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子(F)、塩素原子(Cl)、臭素原子(Br)等が例示される。ハロゲン化アルキル基を採用する場合、ハロゲン原子の数は1つ以上であれば特に限定されないが、例えば1~9(典型的には1~3、例えば1または2)とすることができる。上記環状硫酸エステルBは、骨格内に2つの硫酸エステル構造を有するため、還元分解によって速やかに重合して保護機能を有する被膜を形成しやすい。そのため、上記環状硫酸エステルBを添加すれば、特に負極合剤層の非対向部において良好にSEI膜を形成させることができ、フッ素化カーボネートの還元分解を有効に防止することができる。また、非水電解質の粘度を適切に維持し得る点でも好ましい。さらに、環状硫酸エステルBを用いることで、Liイオン伝導性の高い被膜を形成し得るため、特に低温での抵抗を低減するという効果が得られる点でも好ましい。
【0028】
上記環状硫酸エステルBの一好適例として、R5が水素原子、フッ素原子またはフッ素を含んでもよい炭素数1~4の炭化水素基であり、かつ、R6が式(4)で表される基であるものが挙げられる。なかでも、R5が水素原子または炭素数1~3のアルキル基であり、かつ、R6が式(4)で表される基であるものが好ましい。そのような環状硫酸エステルBの具体例としては、ジグリコールサルフェート等が挙げられる。このように、1つの環状硫酸エステル構造に、さらに環状硫酸エステル構造を加えた構造骨格を有する化合物を電解液に含有させることにより、フッ素化カーボネートの継続的な還元分解がより良く抑制され得る。
【0029】
上記環状硫酸エステルBの他の好適例として、R5が水素原子、フッ素原子またはフッ素を含んでもよい炭素数1~4の炭化水素基であり、R6が式(3)で表される基であり、かつ、R7がハロゲンを含んでもよい炭素数1~3のアルキル基であるものが挙げられる。なかでも、R5が水素原子または炭素数1~4のアルキル基であり、R6が式(3)で表される基であり、かつ、R7が炭素数1~3のアルキル基であるものが好ましい。そのような環状硫酸エステルBの具体例としては、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、4-エチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン等が挙げられる。このように、環は1つであるが、2つのスルホン酸と化合した化合物を電解液に含有させることにより、フッ素化カーボネートの継続的な還元分解がより良く抑制され得る。
【0030】
上記環状硫酸エステルBの他の好適例として、R5が水素原子、フッ素原子またはフッ素を含んでもよい炭素数1~4の炭化水素基であり、かつ、R6が式(5)で表される基であるものが挙げられる。なかでも、R5が水素原子または炭素数1~3のアルキル基であり、かつ、R6が式(5)で表される基であるものが好ましい。このように、1つの環状硫酸エステル構造に、さらに環状硫酸エステル構造を加えた構造骨格を有する化合物を電解液に含有させることにより、フッ素化カーボネートの継続的な還元分解がより良く抑制され得る。
【0031】
本実施形態の非水電解質二次電池において使用し得る環状スルホン化合物の他の例として、1,3-プロパンスルトン、硫酸エチレン、メチレンメタンジスルホネート、エチレンメタンジスルホネート、プロピレンメタンジスルホネート、エチレングリコール環状サルフェート、プロピレングリコール環状サルフェート等が挙げられる。
【0032】
上述した環状スルホン化合物は、1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。好ましい一態様では、非水電解質は、環状スルホン化合物として、前述した環状不飽和スルトン化合物Aと環状硫酸エステルBとを含む。このように環状不飽和スルトン化合物Aと環状硫酸エステルBとを組み合わせて用いることにより、前述した高温での容量低下抑制効果と低温での抵抗低減効果とが高いレベルで両立され得る。
【0033】
環状スルホン化合物の含有量は、非水電解質100重量部に対して、好ましくは0.1重量部~5.0重量部であり、より好ましくは0.2重量部~4.0重量部であり、さらに好ましくは0.5重量部~2.0重量部である。このような範囲であれば、良好にSEI膜を形成させることができ、容量低下がより少ない非水電解質二次電池を得ることができる。なお、環状スルホン化合物を5.0重量部以下とすることにより、環状スルホン化合物の分解反応によるガス発生を抑制することができる。その結果、内部抵抗増大等の不具合が防止され得る。
【0034】
環状スルホン化合物の含有量は、フッ素化カーボネート100重量部に対して、好ましくは0.3重量部~90重量部であり、より好ましくは10重量部~70重量部であり、さらに好ましくは20重量部~50重量部である。いくつかの態様において、環状スルホン化合物の含有量は、フッ素化カーボネート100重量部に対して、例えば40重量部以下であってもよく、30重量部以下(例えば25重量部以下)であってもよい。このような範囲であれば、良好にSEI膜を形成させることができ、容量低下がより少ない非水電解質二次電池を得ることができる。なお、環状スルホン化合物を90重量部以下とすることにより、環状スルホン化合物の分解反応によるガス発生や過剰なSEI膜の形成を抑制することができる。その結果、内部抵抗増大等の不具合が防止され得る。
【0035】
非水電解質は電解質塩をさらに含み得る。電解質塩としては、広電位領域において安定であるリチウム塩等を用いることができる。具体的には、LiPF、LiPF(CおよびLiPF(C)、LiClO、LiBF、LiAsF、LiCFCO等のリチウム塩が挙げられる。電解質塩は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
非水電解質における電解質塩の濃度は、好ましくは0.1mol/L~5mol/Lであり、より好ましくは0.5mol/L~2.5mol/Lである。
【0037】
非水電解質は、必要に応じて、負極被膜形成剤、正極保護剤、過充電防止剤等の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0038】
<負極板>
上記のとおり、負極板は、負極集電体と、負極集電体の少なくとも片面に配置された負極合剤層とを備える。負極集電体としては、例えば、銅箔等の金属箔が用いられる。
【0039】
負極合剤層は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば、グラファイト(天然黒鉛、人造黒鉛)、コークス類、活性炭等の炭素材料、アルミニウム、ケイ素、鉛、錫、亜鉛、カドミウム等とリチウムとの合金、金属リチウム、LiFe、WO、MoO、SiO、CuO等の金属酸化物等が挙げられる。負極活物質は、単独で用いてもよく、2以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
負極合剤層は、結着剤、導電剤、増粘剤、フィラー等の添加剤をさらに含み得る。結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエン・ゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、フッ素ゴム、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体等が挙げられる。導電剤としては、例えば、金属、導電性セラミック等の導電性無機化合物、導電性ポリマー等の導電性有機化合物等が挙げられる。
【0041】
負極合剤層の非対向部表面における、X線光電子分光スペクトルにおけるSの2p軌道に起因するピークのピーク強度(IS)と、Cの1s軌道に起因するピークのピーク強度(IC)とは、好ましくは0.05<(IS/IC)の関係を有し、より好ましくは0.08<(IS/IC)の関係を有し、さらに好ましくは0.10<(IS/IC)<0.50の関係を有する。本実施形態においては、フッ素化カーボネートよりも優先的に環状スルホン化防物がSEI膜の形成に寄与し得る。その結果、SEI膜には、環状スルホン化合物に由来する硫黄原子(S)が存在するようになる。負極合剤層の非対向部表面にける(IS/IC)が0.05より大きければ、すなわち、十分な量のS原子が非対向部表面に存在していれば、容量低下がより少ない非水電解質二次電池を得ることができる。負極合剤層の非対向部表面に、環状スルホン化合物によるSEI膜が良好に形成されて、フッ素化カーボネートの還元分解が有効に抑制されるからである。フッ素化カーボネートの分解による容量低下は、高電圧下で顕著になる傾向があるが、本実施形態においては、0.05<(IS/IC)とすることにより、非水電解質二次電池の高電圧化が可能となる。なお、通常、非水電解質二次電池の初回充電以降において、ISとICとが上記範囲を満足する。
【0042】
X線光電子分光スペクトルにおけるピーク強度は、電圧15kV、電流10mAの条件で放射されるAlKα(単色)線を用いるX線光電子分光法により取得でき、Sの2p軌道に起因するピークは、160eV~175eVにおける最大ピークであり、Cの1s軌道に起因するピークは、295eV~280eVにおける最大ピークである。X線光電子分光法のより詳細な測定条件としては、以下のとおりである。
放電状態の電池をグローブボックス内で解体し、電池容器内から負極板を取り出す。取り出した負極板を純度99.9%以上,水分量20ppm以下のDMCで3回以上洗浄した
後、DMCを真空乾燥により除去した後、所定の領域の負極板を切り出し、トランスファーベッセルを用いて、X線光電子分析装置(KRATOS社製X線光電子分析装置AXIS-NOVA形MB5仕様)内に移し、X線光電子分光測定を行う。
【0043】
<正極板>
上記のとおり、正極板は、正極集電体と、正極集電体の少なくとも片面に配置された正極合剤層とを備える。正極集電体としては、例えば、アルミニウム箔等の金属箔が用いられる。
【0044】
正極合剤層は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含む。正極活物質としては、組成式LiMO、Li、NaMO(ただし、Mは1種類以上の遷移金属、0≦x≦1、0≦y≦2)で表される複合酸化物、トンネル構造または層状構造の金属カルコゲン化物、金属酸化物等の、リチウムを吸蔵放出する遷移金属酸化物を用いることができる。その具体例としては、LiCoO、LiNiO、LiNi1/2Mn1/2、LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiCoNi1-x、LiMn、LiMn等が挙げられる。
【0045】
<セパレータ>
セパレータとしては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂を主成分とする微多孔膜や不織布等が用いられる。微多孔膜は、単独で単層膜として用いてもよいし、複数を組み合わせて複合膜として用いてもよい。また、微多孔膜は、各種の可塑剤、酸化防止剤、難燃剤等の添加剤を適量含有していてもよい。また、上記微多孔膜の表面には、内部短絡の防止等を目的として、無機化合物粒子(無機フィラー)を含む多孔質な耐熱層を備え得る。
【0046】
<非対向部の面積>
正極板と負極板とをセパレータを介して巻回した巻回型電極体では、帯状の正極板および帯状の負極板を用いる。帯状の負極板の幅を帯状の正極板の幅より広くすることで、負極板の非対向部を設けることができる。また、帯状の負極板を帯状の正極板より長くすることで、巻き初め又は巻き終りで負極板の非対向部を設けることができる。
正極板と負極板とをセパレータを介して積層した積層型電極体では、負極板の面積を正極板の面積より大きくすることで、負極板の非対向部を設けることができる。
【0047】
<保管工程>
非水電解質二次電池を充電状態で保管することで、負極板表面の被膜形成を促進することができる。好ましくは、SOC20~50%で充電して(定格容量の20~50%に充電して)、常温(15~35℃)で12時間以上保管する。
【実施例
【0048】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
<正極板の作製>
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中に、導電助剤(アセチレンブラック)4.5重量部と、バインダ(PVdF)4.5重量部と、活物質(LiNi0.8Co0.15Al0.05粒子)91重量部とを投入し、混練することで、正極ペーストを調製した。調製した正極ペーストを正極集電体(アルミニウム箔)の両面に、乾燥後の塗布量(目付量)が15mg/cmとなるように塗工して正極合剤層を形成した。正極集電体と正極合剤層との積層体をロールプレスして、帯状の正極板を得た。
【0050】
<負極板の作製>
黒鉛、スチレン-ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースを重量比95:2:3の割合(固形分比率)で水を溶媒とする負極ペーストを作製した。調製した負極ペーストを負極集電体(銅箔)の両面に、乾燥後の塗布量(目付量)が9mg/cmとなるように塗工して負極合剤層を形成した。負極集電体と負極合剤層との積層体をロールプレスして、帯状の負極板を得た。
【0051】
<セパレータ>
セパレータとして、片面にアルミナを含む耐熱層を有するポリエチレン製微多孔膜を用いた。なお、耐熱層は正極に対向させた。
【0052】
<非水電解液の調製>
非水電解液としては、以下の方法で調製したものを用いた。非水溶媒として、フッ素化カーボネートとしてのモノフルオロエチレンカーボネート(FEC)10容量部と、エチルメチルカーボネート90容量部との混合溶媒を用いた。この非水溶媒に、濃度が1mol/Lとなるように電解質塩(LiPF)を溶解させ、非水電解液を調製した。さらに、非水溶媒に1,3-プロペンスルトン(PRS)を溶解させた。PRSの添加量は、非水電解液100重量部に対して、2重量部とした。
【0053】
<未注液電池の作製>
上記正極板と上記負極板との間に上記セパレータを介して巻回することで電極体を作製した。帯状の負極板の幅を帯状の正極板の幅より広くして、かつ、巻き初めおよび巻き終りにて負極板を正極板より長くすることで、負極合剤層の非対向部の面積が非対向部と対向部とを合わせた面積に対して7%になるように調整した。巻回して作製した電極体をアルミニウム製ケース本体に挿入し、蓋体に設けられた正極端子および負極端子のそれぞれを正極板および負極板に電気的に接続した後に、ケース本体と蓋体とを溶接することで未注液状態(電解液が注液されていない)の電池を作製した。
【0054】
<注液>
上記蓋体に設けられた注液孔から上記電解液を注液した。注液孔を封口した後に、SOC30%まで充電して(定格容量を100%とした場合の30%まで充電して)、負極板の非対向部表面に被膜を形成させるために25℃で24時間保管させて非水電解質二次電池を得た。
【0055】
[実施例2]
非水電解液に添加する1,3-プロペンスルトンに代えて、ジグリコールサルフェート(DGLST)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を得た。
【0056】
[実施例3]
非対向部の面積を、非対向部と対向部とを合わせた面積に対して、9%となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を得た。
【0057】
[実施例4]
非水電解液に添加する1,3-プロペンスルトンに代えて、ジグリコールサルフェートを用いたこと以外は、実施例3と同様にして非水電解質二次電池を得た。
【0058】
[実施例5]
非対向部の面積を、非対向部と対向部とを合わせた面積に対して、13%となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を得た。
【0059】
[実施例6]
非水電解液に添加する1,3-プロペンスルトンに代えて、ジグリコールサルフェートを用いたこと以外は、実施例5と同様にして非水電解質二次電池を得た。
【0060】
[比較例1~3]
非水電解液に1,3-プロペンスルトンを添加しなかったこと以外は、それぞれ実施例1、実施例3および実施例5と同様にして、比較例1、比較例2および比較例3の非水電解質二次電池を得た。
【0061】
[参考例1~3]
非対向部の面積を、非対向部と対向部とを合わせた面積に対して、5%となるようにしたこと以外は、それぞれ実施例1、実施例2および比較例1と同様にして、参考例1、参考例2および参考例3の非水電解質二次電池を得た。
【0062】
[参考例4、5]
非水電解液の調製時、非水溶媒として、FECの代わりにエチレンカーボネート(EC)を用いたこと以外は、それぞれ参考例1および比較例2と同様にして、参考例4および参考例5の非水電解質二次電池を得た。
【0063】
<評価>
実施例および比較例で得られた非水電解質二次電池を、25℃において1000mAの定電流で4.35Vまで充電し、さらに4.35V(正極電位 4.45(vs.Li/Li))で定電圧にて充電し、定電流充電および定電圧充電を含めて合計3時間充電し、この充電電気量を「初期充電電気量」とした。つぎに、60℃で15日間電池を保管した。その後、25℃において1000mAの定電流にて2.5Vの放電終止電圧まで放電をおこない、この放電容量を「残存容量」とした。(初期充電電気量-残存容量)÷初期充電電気量×100を自己放電率(%)とした。各非水電解質二次電池の自己放電率を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
参考例4と参考例3との比較、および参考例5と比較例2との比較から明らかなように、非水溶媒へのFECの添加は、自己放電増大の原因となる。本願実施例によれば、非水電解液に環状スルホン化合物を含有させることにより、自己放電を抑制することができる。
【0066】
また、参考例3、比較例1、比較例2および比較例3に示すように、非水電解液に環状スルホン化合物含有させていない場合、非対向部面積比が7%以上になると、自己放電増大が顕著となる。一方、実施例1~6に示すように、非水電解液に環状スルホン化合物を含有させれば、非対向部面積比が7%以上であっても、自己放電を抑制することができる。環状スルホン化合物を含有させることで得られる自己放電抑制効果は、非対向部面積比が9%以上である場合に、より顕著となる。
【符号の説明】
【0067】
1 対向部
2 非対向部
10 正極板
11 正極集電体
12 正極合剤層
20 負極板
21 負極集電体
22 負極合剤層
図1
図2