(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】光学フィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 59/04 20060101AFI20220802BHJP
B29C 41/24 20060101ALI20220802BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20220802BHJP
B29L 11/00 20060101ALN20220802BHJP
【FI】
B29C59/04 Z
B29C41/24
B29L7:00
B29L11:00
(21)【出願番号】P 2020525231
(86)(22)【出願日】2019-01-23
(86)【国際出願番号】 JP2019001994
(87)【国際公開番号】W WO2019239625
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2018113768
(32)【優先日】2018-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】特許業務法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森藤 亨
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-240228(JP,A)
【文献】特開2017-217866(JP,A)
【文献】国際公開第2008/026454(WO,A1)
【文献】特開2009-073106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 59/00-59/18
B29C 41/00-41/52
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子非含有のドープを金属支持体上に流延してウェブを形成する流延工程と、
前記ウェブを金属支持体から剥離する剥離工程と、
剥離された前記ウェブの表面に、加工ロールによって凹凸形状を形成する凹凸形成工程と、
前記凹凸形状を有する前記ウェブを光学フィルムとして巻き取る巻取工程とを有し、
巻き取られた前記光学フィルムは、表面の250000μm
2の範囲内に1個以上の凹凸を有しており、
前記範囲内で前記凹凸の周囲の表面粗さSaは、1.5nm以下
であり、
前記凹凸形成工程では、最大高さRyが2μm以上となる表面加工が施された前記加工ロールによって、前記ウェブの表面に前記凹凸形状を形成する、光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
微粒子非含有のドープを金属支持体上に流延してウェブを形成する流延工程と、
前記ウェブを金属支持体から剥離する剥離工程と、
剥離された前記ウェブの表面に、加工ロールによって凹凸形状を形成する凹凸形成工程と、
前記凹凸形状を有する前記ウェブを光学フィルムとして巻き取る巻取工程とを有し、
巻き取られた前記光学フィルムは、表面の250000μm
2
の範囲内に1個以上の凹凸を有しており、
前記範囲内で前記凹凸の周囲の表面粗さSaは、1.5nm以下であり、
前記光学フィルムの表面において、
前記凹凸の長径は、5~15μmであり、
最大高さ粗さRzが、100~1000nmである、光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記凹凸形成工程では、最大高さRyが2μm以上となる表面加工が施された前記加工ロールによって、前記ウェブの表面に前記凹凸形状を形成する、請求項2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記表面粗さSaは、0.9nm以下である、請求項1から3のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記凹凸形成工程において、前記加工ロールによって前記凹凸形状を形成するときの前記ウェブの残留溶媒量が、5~35質量%である、請求項1から4のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記光学フィルムは、表面の250000μm
2の範囲内に2個以上20個以下の前記凹凸を有している、請求項1から5のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記ドープは、樹脂および溶媒を含み、
前記樹脂は、シクロオレフィン系樹脂である、請求項1から6のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項8】
微粒子非含有の光学フィルムであって、
前記光学フィルムは、表面の250000μm
2の範囲内に1個以上の凹凸を有しており、
前記範囲内で前記凹凸の周囲の表面粗さSaは、1.5nm以下
であり、
前記光学フィルムの表面において、
前記凹凸の長径は、5~15μmであり、
最大高さ粗さRzが、100~1000nmである、光学フィルム。
【請求項9】
前記表面粗さSaは、0.9nm以下である、請求項8に記載の光学フィルム。
【請求項10】
前記光学フィルムは、表面の250000μm
2
の範囲内に2個以上20個以下の前記凹凸を有している、請求項8または9に記載の光学フィルム。
【請求項11】
シクロオレフィン系樹脂を含む、請求項8から10のいずれかに記載の光学フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンなどの軽量化、薄膜化が要求される用途の部品において、ガラスから光学フィルムへの代替が進んでいる。この代替が実現すると、軽量化や薄膜化だけでなく、コストダウンといったメリットもある。しかし、光学フィルムがガラスの代替となるためには、光学フィルムのヘイズ値をガラスに近づける必要がある。
【0003】
ここで、低ヘイズの光学フィルムについては、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1では、微粒子を表面調整剤とともに光学フィルムに含有させることにより、微粒子を光学フィルムの片面に偏在させて滑り性を付与し、これによって、微粒子の含有量を低減して、ヘイズの低い光学フィルムを実現するようにしている。
【0004】
また、特許文献2では、微粒子を含有するポリカーボネート樹脂をダイスからフィルム状に溶融押出し、マットロールとゴムロールとからなる一対のロールで挟持加圧してマットロールのマット模様をフィルムに転写することで、低光沢のマットフィルムを得るようにしている。さらに、特許文献3では、溶液流延製膜法による光学フィルムの製造において、ウェブ中の残留溶媒量が所定範囲であるときに、ウェブの一方の面上に、微粒子を含有する微粒子分散液の液滴をインクジェットヘッド方式で吐出し、着弾、付着させて微細凸構造を形成することにより、光学フィルム中のマット剤を減量しながら滑り性を向上させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-122855号公報(請求項1、段落〔0009〕、〔0010〕、〔0018〕等参照)
【文献】特許第3676896号公報(請求項1、段落〔0004〕~〔0006〕、〔0024〕、
図1等参照)
【文献】特許第5182092号公報(請求項1、段落〔0005〕、〔0024〕、
図1等参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の光学フィルムは、ヘイズが低いものでも、ガラスには及ばない。これは、製造時のハンドリング性を向上させるための有機または無機の微粒子が光学フィルムに少なからず添加されており、フィルム表面が平坦でないことによる。したがって、光学フィルムにおいて、ガラスに近い低ヘイズを実現するためには、微粒子を含有しない光学フィルムを実現することが望まれる。この点、上述した特許文献1~3の光学フィルムは、いずれも微粒子が含有されており、ガラスに近い低ヘイズを実現することが困難である。
【0007】
一方、光学フィルムが微粒子を含有しない場合、光学フィルムに滑り性が付与されないため、ハンドリング性が低下し、歩留まりが低下することが懸念される。つまり、光学フィルムの滑り性が悪いと、製造時にフィルムがロール(例えば鏡面ロール)に貼り付きながら搬送されるため、小さい搬送キズがフィルム表面につく場合がある。また、滑り性の悪い光学フィルムがロールに強く貼り付くことで、複数のロール間で強いシワが発生してしまい、最悪の場合、光学フィルムが破断することがある。
【0008】
したがって、ガラスに近い低ヘイズを実現すべく、微粒子を含有しない構成であっても、製造時に搬送キズがつきにくく、シワの発生も低減することができる搬送性の良好な光学フィルムが求められるが、このような光学フィルムを従来同様の大量生産可能な製造方法で作製することは未だ実現されてはいない。
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、ガラスに近い低ヘイズを実現すべく、微粒子を含有しない構成であっても、製造時に搬送キズがつきにくく、シワの発生も低減することができ、これによって、大量生産可能な製法で作製できるとともに、低ヘイズと製造時の良好な搬送性とを両立させることができる光学フィルムと、その製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、以下の製造方法または構成によって達成される。
【0011】
本発明の一側面に係る光学フィルムの製造方法は、微粒子非含有のドープを金属支持体上に流延してウェブを形成する流延工程と、前記ウェブを金属支持体から剥離する剥離工程と、剥離された前記ウェブの表面に、加工ロールによって凹凸形状を形成する凹凸形成工程と、前記凹凸形状を有する前記ウェブを光学フィルムとして巻き取る巻取工程とを有し、巻き取られた前記光学フィルムは、表面の250000μm2の範囲内に1個以上の凹凸を有しており、前記範囲内で前記凹凸の周囲の表面粗さSaは、1.5nm以下である。
【0012】
本発明の他の側面に係る光学フィルムは、微粒子非含有の光学フィルムである。前記光学フィルムは、表面の250000μm2の範囲内に1個以上の凹凸を有しており、前記範囲内で前記凹凸の周囲の表面粗さSaは、1.5nm以下である。
【発明の効果】
【0013】
光学フィルムが微粒子を含有しない構成であっても、製造時に搬送キズがつきにくく、シワの発生も低減することができ、これによって、大量生産可能な製法(例えば溶液流延製膜法)で光学フィルムを作製できるとともに、ガラスに近い低ヘイズと、製造時の良好な搬送性とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係る光学フィルムの製造装置の概略の構成を示す説明図である。
【
図2】上記光学フィルムの製造工程の流れを示すフローチャートである。
【
図3】最大高さRyの計算方法を模式的に示す説明図である。
【
図4】上記光学フィルムの断面形状を模式的に示す断面図である。
【
図5】表面粗さSaの計算方法を模式的に示す説明図である。
【
図6】表面粗さRaの計算方法を模式的に示す説明図である。
【
図7】最大高さ粗さRzの計算方法を模式的に示す説明図である。
【
図8】実施例の光学フィルムにおける表面粗さSaの測定範囲と、凹凸個数の算出範囲との関係を模式的に示す説明図である。
【
図9】ツレまたはシワが生じた各フィルムの幅手方向に沿った断面形状を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば以下の通りである。なお、本明細書において、数値範囲をA~Bと表記した場合、その数値範囲に下限Aおよび上限Bの値は含まれるものとする。なお、本発明は、以下の内容に限定されるわけではない。
【0016】
〔光学フィルムの製造方法〕
まず、本実施形態の光学フィルムの製造方法の概要について説明する。
図1は、本実施形態の光学フィルムの製造装置1の概略の構成を示す説明図である。また、
図2は、光学フィルムの製造工程の流れを示すフローチャートである。本実施形態の光学フィルムの製造方法は、溶液流延製膜法によって光学フィルムを製造する方法であり、
図2に示すように、攪拌調製工程(S1)、流延工程(S2)、剥離工程(S3)、凹凸形成工程(S4)、第1乾燥工程(S5)、延伸工程(S6)、第2乾燥工程(S7)、切断工程(S8)、エンボス加工工程(S9)、巻取工程(S10)を含む。以下、各工程について説明する。
【0017】
<攪拌調製工程>
攪拌調製工程では、攪拌装置50の攪拌槽51にて、少なくとも樹脂および溶媒を攪拌し、支持体3上に流延するドープを調製する。支持体3は、例えばステンレス鋼(SUS)からなる金属支持体である。支持体3は、例えばエンドレスベルトで構成されるが、ドラムで構成されてもよい。本実施形態では、上記ドープに、搬送性を向上させるための微粒子(マット剤)は含有されていない。
【0018】
上記樹脂としては、セルロースエステル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂(COP)、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂のいずれかを用いることができる。上記溶媒としては、良溶媒および貧溶媒の混合溶媒を用いることができる。なお、良溶媒とは、樹脂を溶解させる性質(溶解性)を有する有機溶媒を言い、1,3-ジオキソラン、THF(テトラヒドロフラン)、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸メチル、塩化メチレン(ジクロロメタン、メチレンクロライド)、トルエンなどがこれに相当する。一方、貧溶媒とは、単独では樹脂を溶解させる性質を有していない溶媒を言い、メタノールやエタノールなどがこれに相当する。
【0019】
<流延工程>
流延工程では、攪拌調製工程で調製されたドープを、加圧型定量ギヤポンプ等を通して、導管によって流延ダイ2に送液し、支持体3上の流延位置に流延ダイ2からドープを流延する。そして、流延したドープを支持体3上で乾燥させて、流延膜としてのウェブ5を形成する。流延ダイ2の傾き、すなわち、流延ダイ2から支持体3へのドープの吐出方向は、支持体3の面(ドープが流延される面)の法線に対する角度で0°~90°の範囲内となるように適宜設定されればよい。
【0020】
支持体3は、一対のロール3a・3bおよびこれらの間に位置する複数のロール(不図示)によって保持されている。ロール3a・3bの一方または両方には、支持体3に張力を付与する駆動装置(不図示)が設けられており、これによって支持体3は張力が掛けられて張った状態で使用される。
【0021】
流延工程では、支持体3上に流延されたドープにより形成されたウェブ5を、支持体3上で加熱し、支持体3から剥離ロール4によってウェブ5が剥離可能になるまで溶媒を蒸発させる。溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法や、支持体3の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があり、適宜、単独であるいは組み合わせて用いればよい。
【0022】
<剥離工程>
上記の流延工程にて、支持体3上でウェブ5が剥離可能な膜強度となるまで乾燥固化あるいは冷却凝固させた後、剥離工程では、ウェブ5を、自己支持性を持たせたまま、支持体3から剥離ロール4によって剥離する。
【0023】
なお、剥離時点での支持体3上でのウェブ5の残留溶媒量は、乾燥の条件の強弱、支持体3の長さ等により、25~80質量%の範囲であることが望ましい。残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、ウェブ5が柔らか過ぎると剥離時平面性を損ね、剥離張力によるシワや縦スジが発生しやすいため、経済速度と品質との兼ね合いで剥離時の残留溶媒量が決められる。なお、残留溶媒量は、下記式で定義される。
【0024】
残留溶媒量(質量%)=(ウェブの加熱処理前質量-ウェブの加熱処理後質量)/(ウェブの加熱処理後質量)×100
ここで、残留溶媒量を測定する際の加熱処理とは、115℃で1時間の加熱処理を行うことを表す。
【0025】
<凹凸形成工程>
凹凸形成工程では、剥離されたウェブ5の表面に、加工ロール20によって凹凸形状を形成する。加工ロール20には、最大高さRyが2μm以上となる表面加工が施されている。回転する加工ロール20にウェブ5が接触すると、加工ロール20の表面の凸部がウェブ5の表面に食い込む。これにより、ウェブ5の表面において、加工ロール20の凸部と接触した部分が凹むと同時に、その周囲が盛り上がり、ウェブ5の表面に凹凸形状が形成される。なお、加工ロール20の最大高さRyは、少なくとも1μmあればよい。
【0026】
図3は、最大高さRyの計算方法を模式的に示す説明図である。最大高さRyは、JIS B 0601-1994で定義される値である。すなわち、最大高さRyは、粗さ曲線から、その平均線mの方向に基準長さLだけを抜き取り、この抜き取り部分の山頂線と谷底線との間隔(Ry)を、粗さ曲線の縦倍率の方向に測定し、この値をマイクロメートル(μm)で表したものである。JISは、日本工業規格を示す“Japanese Industrial Standards”の略である。
【0027】
<第1乾燥工程>
加工ロール20によって表面に凹凸が形成されたウェブ5は、乾燥装置6にて乾燥される。乾燥装置6内では、複数の搬送ロールによってウェブ5が搬送され、その間にウェブ5が乾燥される。乾燥装置6での乾燥方法は、特に制限はなく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等を用いてウェブ5を乾燥させる。簡便さの点から、熱風でウェブ5を乾燥させる方法が好ましい。なお、第1乾燥工程は、必要に応じて行われればよい。
【0028】
<延伸工程>
延伸工程では、乾燥装置6にて乾燥されたウェブ5を、テンター7によって延伸する。このときの延伸方向としては、フィルム搬送方向(MD方向;Machine Direction)、フィルム面内で上記搬送方向に垂直な幅手方向(TD方向;Transverse Direction)、これらの両方向、のいずれかである。延伸工程では、ウェブ5の両側縁部をクリップ等で固定して延伸するテンター方式が、フィルムの平面性や寸法安定性を向上させるために好ましい。なお、テンター7内では、延伸に加えて乾燥を行ってもよい。
【0029】
なお、S6の延伸工程は、必要に応じて行われればよく、省略することが可能である。例えば、光学フィルムを巻き取った後に延伸を行う場合は、巻取前の上記延伸工程を省略することができる。
【0030】
<第2乾燥工程>
必要に応じてテンター7にて延伸されたウェブ5は、乾燥装置8にて乾燥される。乾燥装置8内では、複数の搬送ロールによってウェブ5が搬送され、その間にウェブ5が乾燥される。乾燥装置8での乾燥方法は、特に制限はなく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等を用いてウェブ5を乾燥させる。簡便さの点から、熱風でウェブ5を乾燥させる方法が好ましい。
【0031】
ウェブ5は、乾燥装置8にて乾燥された後、光学フィルムFとして巻取装置11に向かって搬送される。
【0032】
<切断工程、エンボス加工工程>
乾燥装置8と巻取装置11との間には、切断部9およびエンボス加工部10がこの順で配置されている。切断部9では、製膜された光学フィルムFを搬送しながら、その幅手方向の両端部を、スリッターによって切断する切断工程が行われる。光学フィルムFにおいて、両端部の切断後に残った部分は、フィルム製品となる製品部を構成する。一方、光学フィルムFから切断された部分は、シュータにて回収され、再び原材料の一部としてフィルムの製膜に再利用される。
【0033】
切断工程の後、光学フィルムFの幅手方向の両端部には、エンボス加工部10により、エンボス加工(ナーリング加工)が施される。エンボス加工は、加熱されたエンボスローラーを光学フィルムFの両端部に押し当てることにより行われる。エンボスローラーの表面には細かな凹凸が形成されており、エンボスローラーを光学フィルムFの両端部に押し当てることで、上記両端部に凹凸が形成される。このようなエンボス加工により、次の巻取工程での巻きズレやブロッキング(フィルム同士の貼り付き)を極力抑えることができる。
【0034】
<巻取工程>
最後に、エンボス加工が終了した光学フィルムFを、巻取装置11によって巻き取り、光学フィルムFの元巻(フィルムロール)を得る。すなわち、巻取工程では、光学フィルムFを搬送しながら巻芯に巻き取ることにより、フィルムロールが製造される。光学フィルムFの巻き取り方法は、一般に使用されているワインダーを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の張力をコントロールする方法があり、それらを使い分ければよい。光学フィルムFの巻長は、1000~7200mであることが好ましい。また、その際の幅は1000~3200mm幅であることが望ましく、膜厚は10~60μmであることが望ましい。
【0035】
図4は、上記の製造方法によって製造された光学フィルムFの断面形状を模式的に示す断面図である。上記したように、凹凸形成工程において、加工ロール20によってウェブ5の表面に凹凸形状を形成することにより、製造された光学フィルムFの表面においては、250000μm
2(500μm×500μm)の範囲内に、ウェブ5の凹凸に対応する凹凸F
PVが1個以上存在している。すなわち、微粒子非含有の光学フィルムFは、表面の250000μm
2の範囲内に1個以上の凹凸F
PVを有する。この結果、光学フィルムFの表面には、凹凸F
PVが形成された凹凸領域Faと、凹凸F
PVを除く非凹凸領域Fbとが混在する。なお、上記面積の範囲内での凹凸F
PVの数の上限および下限は、凹凸領域Faと非凹凸領域Fbとが混在するように、凹凸F
PVの大きさ(深さ、長径)に応じて適宜設定されればよい。なお、ここでは、光学フィルムFの表面の凹部と凸部との組(ペア)を、「凹凸」と呼ぶ。したがって、例えば1個の凹凸とは、凹部と凸部とが1個ずつの組を指す。
【0036】
光学フィルムFの表面において、凹凸FPVの周囲(非凹凸領域Fb)の表面粗さSaは、1.5nm以下であり、ほとんど平面(平坦)に近い。本実施形態において、凹凸FPVの周囲の表面粗さSaの好ましい範囲は、0.9nm以下である。
【0037】
図5は、表面粗さSaの計算方法を模式的に示す説明図である。表面粗さSaは、ISO 25178表面性状(面粗さ測定)のパラメータである。ISOは、国際標準化機構を示す“International Organization for Standardization”の略である。表面粗さSaは、表面粗さRa(線の算術平均高さ)を面に拡張したパラメータであり、表面の平均面S
AVEに対する凹凸(各点の高さ)の絶対値の平均を表す。
【0038】
図6は、参考として、上記の表面粗さRaの計算方法を模式的に示す説明図である。表面粗さRaは、算出平均粗さとも呼ばれ、JIS B0601-1994またはJIS B 0601-2001で定義される値である。表面粗さRaは、粗さ曲線から、その平均線mの方向に基準長さLだけを抜き取り、この抜き取り部分の平均線mの方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、同図中の式によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したものである。
【0039】
また、光学フィルムFの表面において、凹凸FPVの長径は、5~15μmであり、最大高さ粗さRzは、100~1000nmである。凹凸FPVの長径および最大高さ粗さRzは、例えば、最大高さRyの異なる加工ロール20を複数用意しておき、複数の加工ロール20の中から適切な加工ロール20を選択して使用することによって調整できる。
【0040】
図7は、最大高さ粗さRzの計算方法を模式的に示す説明図である。最大高さ粗さRzの定義は、最大高さRyと同じであるが、最大高さRyは、μm単位で表され、金属研磨などの分野で一般的に使われる。フィルム表面状態のパラメータとしては、nm単位で表される最大高さ粗さRzを用いることが多いため、ここでは、最大高さ粗さRzを用いて凹凸F
PVを表している。
【0041】
本実施形態では、上述した光学フィルムFの製造において、加工ロール20によってウェブ5の表面に凹凸形状を形成する。これにより、ウェブ5が微粒子を含有していなくても、そのウェブ5に滑り性が付与される。したがって、その後、ウェブ5が乾燥装置6およびテンター7内を各ロールによって搬送される場合でも、ウェブ5が各ロールに貼り付くのを低減することができる。その結果、ウェブ5の表面に小さい搬送キズがつきにくくなる。また、ウェブ5の滑り性が悪いと、ウェブ5の搬送時に複数のロール間で引っ張られることによって、ウェブ5にツレやシワが発生しやすくなるが、ウェブ5に滑り性が付与されて貼り付きが低減されるため、そのようなツレやシワの発生を低減しながら、ウェブ5を良好に搬送することができる。なお、ツレおよびシワの詳細な定義については後述する。
【0042】
また、光学フィルムFの表面において、凹凸FPVの周囲(非凹凸領域Fb)の表面粗さSaは、1.5nm以下である。非凹凸領域Fbはほぼ平坦であり、表面ヘイズが小さくなるため、フィルム全体としてガラスに近い低ヘイズを実現することができる。
【0043】
つまり、光学フィルムFが微粒子を含有しない構成であっても、製造時に搬送キズがつきにくく、ツレやシワの発生も低減することができ、これによって、大量生産可能な製法(例えば溶液流延製膜法)で光学フィルムFを作製できるとともに、ガラスに近い低ヘイズと、製造時の良好な搬送性とを両立させることができる。
【0044】
また、光学フィルムFを他のフィルムと貼り合わせたり、光学フィルムF上に何らかの機能層(例えばハードコート層)を塗布すべく、一旦巻き取った光学フィルムFを再度繰り出して搬送する場合でも、その光学フィルムFが搬送ロールに貼り付くのを凹凸FPVの存在によって低減することができ、光学フィルムFの良好な搬送性を実現することが可能となる。
【0045】
また、非凹凸領域Fbの表面粗さSaが0.9nm以下である場合、非凹凸領域Fbの表面ヘイズがより小さくなるため、低ヘイズの光学フィルムFを確実に実現することができる。また、光学フィルムFの表面の250000μm2の範囲内に凹凸FPVが2個以上20個以下存在する場合、凹凸領域Faと非凹凸領域Fbとがバランスよく存在するため、ヘイズ低減の効果と、製造時の良好な搬送性を確保する効果とをバランスよく得ることができる。
【0046】
また、上述した方法で光学フィルムFに凹凸FPVを形成することにより、光学フィルムFを巻き取るまでは、良好な搬送性を確保するために凹凸FPVを残存させておき、上記光学フィルムFを使用する場合には、光学フィルムFを繰り出して熱処理を行うことにより、凹凸FPVを消失または緩和させることができる。これにより、微粒子非含有の光学フィルムFを、光学特性の良好なフィルムとして使用することが可能となる。なお、上記の緩和とは、凹凸FPVのサイズまたは高さが熱処理によって小さくなることを意味する。
【0047】
ここで、熱処理によって凹凸FPVを消失または緩和させる原理については、以下のように推察している。すなわち、支持体3は、金属製であり、支持体3上に流延したドープ中の溶媒は、支持体3には浸透しない。このように溶媒が浸透しない支持体3上に製膜したウェブ5は、支持体3からの剥離後、表面の近傍のみ乾燥して固くなるが、その内部は、溶媒が多く残留しているため柔らかい。その状態で、ウェブ5が加工ロール20上で搬送されると、ウェブ5には加工ロール20によって凹凸が形成されるが、その凹みは内部の柔らかい部分が押しつぶされた状態になっている。上記のようにして形成された凹凸に対して、樹脂のガラス転移温度(Tg)以上の高温で熱処理すると、光学フィルムFにおける上記部分(押しつぶされた部分)が分子運動によって元の形(状態)に復元しようとし、これによって凹凸FPVが消失するか、緩和される。
【0048】
また、凹凸形成工程では、最大高さRyが2μm以上となる表面加工が施された加工ロール20によって、ウェブ5の表面に凹凸形状を形成するため、最終的な光学フィルムFとして、表面の250000μm2の範囲内に凹凸FPVが1個以上存在し、凹凸FPVの周囲の表面粗さSaが1.5nm以下である光学フィルムFを確実に実現することができる。
【0049】
また、最大高さRyが2μm未満である加工ロール20を用いてウェブ5の表面に凹凸を形成した場合、上記凹凸の長径および最大高さ粗さRzが小さくなって、ウェブ5の搬送時の貼り付き低減効果が小さくなり、搬送性を向上させる効果が小さくなることが懸念される。加工ロール20の最大高さRyが2μm以上であることにより、ウェブ5の搬送性向上の効果を確実に得ることができる。なお、ウェブ5の搬送性向上の効果をより確実に得る観点では、加工ロール20の最大高さRyは、4μm以上であることが望ましい。
【0050】
上記のように、最大高さRyが2μm以上の加工ロール20を用いてウェブ5の表面に凹凸形状を形成すると、長径が5~15μmで、最大高さ粗さRzが100~1000nmの凹凸FPVが表面に形成された光学フィルムFが得られることが、後述する実施例からわかっている。したがって、光学フィルムFの表面において、凹凸FPVの長径が5~15μmであり、最大高さ粗さRzが100~1000nmであれば、光学フィルムFの製造時(ウェブ5の搬送時)における搬送性向上の効果を確実に得ることができると言える。
【0051】
ところで、凹凸形成工程において、加工ロール20によって凹凸を形成するときのウェブ5の残留溶媒量が5質量%未満であると、ウェブ5が硬くなり、加工ロール20との接触によってウェブ5に凹凸が形成されにくくなる。このため、光学フィルムFにおいて、凹凸FPVの長径および最大高さ粗さRzが小さくなり、搬送性向上の効果が得られにくくなる。逆に、上記残留溶媒量が35質量%を超えると、ウェブ5が柔らかくなり、加工ロール20との接触によってウェブ5に凹凸が形成されやすくなる。このため、光学フィルムFにおいて、凹凸FPVの長径および最大高さ粗さRzが大きくなり、その後の熱処理によって凹凸FPVを消失または緩和させる効果が得られにくくなる。
【0052】
したがって、以上のことから、凹凸形成工程において、加工ロール20によって凹凸を形成するときのウェブ5の残留溶媒量は、5~35質量%であることが望ましい。なお、上記残留溶媒量のさらに望ましい範囲は、6~33質量%である。
【0053】
また、支持体3上に流延するドープは、樹脂および溶媒を含み、上記樹脂は、シクロオレフィン系樹脂(COP)であってもよい。この場合、COPを用い、溶液流延製膜法によって光学フィルムFを製造する場合において、上述した本実施形態の効果を得ることができる。
【0054】
〔実施例〕
以下、本発明の実施例について、比較例も挙げながら説明する。なお、本発明は、以下の実施例には限定されない。
【0055】
<実施例1>
(ドープの調製)
シクロオレフィン系樹脂(G7810、JSR株式会社製)
120質量部
ジクロロメタン 357質量部
エタノール 19質量部
以上を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、安積濾紙(株)製の安積濾紙No.24を使用して濾過し、ドープを調製した。
【0056】
次に、ベルト流延製膜装置(
図1の製造装置1)を用い、ステンレスバンド支持体(支持体3)上に、微粒子非含有のドープを均一に流延した。支持体上で、残留溶媒量が40質量%になるまで溶媒を蒸発させ、ステンレスバンド支持体上からウェブを剥離した。その後、残留溶媒量が12質量%の状態で、最大高さRy=4μmの加工ロールを用いてウェブに凹凸形状を付与した。その後、得られたウェブを130℃の乾燥装置内を多数のローラーで搬送させながら15分間乾燥させた後、1.0m幅にスリットし、巻芯に巻き取り、シクロオレフィン系樹脂からなる光学フィルム101を得た。光学フィルム101の厚さは15μm、巻長は5000mであった。
【0057】
(表面粗さSaの測定)
白色干渉顕微鏡Zygoを用い、巻き取り後の光学フィルム101の両面の表面粗さSaを測定した。より具体的には、光学フィルム101の表面上で無作為に5箇所を選び、選んだ各箇所で凹凸が含まれない視野(約85μm×85μmの範囲)において、白色干渉顕微鏡Zygoによって表面粗さSaをそれぞれ(5箇所)測定し、その平均値を最終的な表面粗さSaとした。その結果、両面の表面粗さSaは0.9nmであった。なお、顕微鏡の接眼レンズの倍率は2倍であり、対物レンズの倍率は50倍であった。
【0058】
(凹凸個数の測定)
光学顕微鏡(レンズ20倍、微分干渉フィルタを使用)を用い、視野内で見える光学フィルム101の凹凸の個数を測定し、これを500μm×500μm=250000μm
2の領域での個数に換算した。このとき、光学フィルム101の表面上で無作為に5箇所を選び、選んだ各箇所で凹凸の個数を測定し、上記領域での個数に換算した後、5箇所の平均値を算出し、最終的な凹凸の個数とした。この結果、光学フィルム101の凹凸の個数は、250000μm
2あたり4個であった。ちなみに、
図8は、光学フィルム101における表面粗さSaの測定範囲と、凹凸個数の算出範囲との関係を模式的に示している。
【0059】
(凹凸の長径、最大高さ粗さRzの測定)
光学フィルム101の表面上で凹凸箇所を無作為に5箇所選び、選んだ各箇所で、凹凸の長径および最大高さ粗さRzを、白色干渉顕微鏡Zygoによって測定した。そして、5箇所の平均値を最終的な凹凸の長径および最大高さ粗さRzとした。その結果、凹凸の長径は10μmであり、最大高さ粗さRzは200nmであった。なお、顕微鏡の接眼レンズの倍率は2倍であり、対物レンズの倍率は50倍であった。
【0060】
<比較例1>
支持体として、表面に意図的に凹凸状の打痕を付けた支持体(PET製)を用い、この支持体上に、実施例1と同様のドープを流延し、ウェブを剥離した後、加工ロールによる凹凸の付与を行わずにウェブを搬送した。それ以外については実施例1と同様にして、光学フィルム201を作製した。ウェブには支持体の表面の凹凸が転写されるが、このときのウェブの残留溶媒量は、200質量%であった。
【0061】
この光学フィルム201に対して、実施例1と同様の方法で、表面粗さSa、凹凸個数、凹凸の長径および最大高さ粗さRzを測定した。その結果、両面の表面粗さSaは1.8nmであり、凹凸の個数は、250000μm2あたり3個であり、凹凸の長径は10μmであり、最大高さ粗さRzは240nmであった。
【0062】
<比較例2>
特許文献2に記載の方法により、光学フィルム202を作製した。具体的には、溶融流延製膜法を用い、実施例1で用いた樹脂をペレット化したものをTダイスからフィルム状に溶融押出し、マットロールとゴムロールとで挟持加圧して、マットロールのマット模様をフィルム表面に転写することにより、光学フィルム202を作製した。このとき、マットロールの表面の最大高さRyは、75μmであった。
【0063】
この光学フィルム202に対して、実施例1と同様の方法で、両面の表面粗さSaを測定した。その結果、フィルムにおけるマットロールとの接触側の表面粗さSaは5.0nmであり、反対側の表面粗さSaは1.5nmであった。なお、光学フィルム202の表面全体が凹凸状態であるため、凹凸の個数等は計測不能であった。
【0064】
<比較例3>
実施例1で用いたドープ中に、無機系の微粒子(アエロジル R812)を1.0質量部添加し、このドープを支持体上に流延し、ウェブを剥離した後、加工ロールによる凹凸の付与を行わずにウェブを搬送した。それ以外については実施例1と同様にして、光学フィルム203を作製した。
【0065】
この光学フィルム203に対して、実施例1と同様の方法で、表面粗さSa、凹凸個数を測定した。その結果、両面の表面粗さSaは2.3nmであった。また、凹凸は、250000μm2の領域内では見つからなかった。
【0066】
<比較例4>
特許文献3に記載の方法により、光学フィルム204を作製した。具体的には、支持体上に実施例1と同様のドープを流延してウェブを形成し、ウェブの残留溶媒量が200質量%であるときに、平均粒経が25~200nmの微粒子を含有する微粒子分散液をインクジェットヘッドから液滴として吐出し、ウェブの一方の面上に、着弾、付着させて、微細凸構造を形成した。そして、ウェブを剥離した後、加工ロールによる凹凸の付与を行わずにウェブを搬送した。それ以外については実施例1と同様にして、光学フィルム204を作製した。
【0067】
この光学フィルム204に対して、実施例1と同様の方法で、表面粗さSa、凹凸個数、凹凸の長径および最大高さ粗さRzを測定した。その結果、凹凸付与面の表面粗さSaは8.3nmであり、凹凸の個数は、250000μm2あたり50個であり、凹凸の長径は10μmであり、最大高さ粗さRzは120nmであった。
【0068】
<評価>
(搬送性)
〈ツレ、シワ〉
一旦巻き取った光学フィルムを後工程において繰り出し搬送させた際の搬送中の光学フィルムの表面を目視で観察して、ツレおよびシワ(折れシワ)の発生の有無を確認し、以下の基準に基づいて、フィルムの品質を評価した。なお、ここでは、光学フィルムの搬送速度を20m/minとし、搬送張力を100Nとし、鏡面ロールに90°の角度でフィルムが抱かれて搬送されている箇所を観察した。
【0069】
なお、上記のツレとは、発生しても跡が残らない(元に戻る)フィルム変形を指し、英語では例えば“wrinkle”がこれに相当する。また、上記のシワとは、発生すると跡が残るフィルム変形(折れシワ)を指し、英語では例えば“crease”がこれに相当する。
図9は、ツレまたはシワが生じた各フィルムの幅手方向に沿った断面形状を模式的に示している。同図に示すように、断面が波状となるフィルム変形は、フィルムがロールに抱かれると(フィルムがロールの外周面と接触すると)、元の変形のない断面形状に戻るため、このようなフィルム変形はツレである。一方、フィルムが折れ込むような変形は、ロールに抱かれた後も残るため(元の変形のない断面形状には戻らないため)、シワである。
《評価基準》
◎:ツレおよびシワが全く確認されなかった。
○:ツレが1箇所確認されたが、シワは確認されず、問題はない。
△:ツレが複数箇所確認されたが、シワは確認されず、問題はない。
×:シワが発生していることが確認された。
【0070】
〈搬送キズ〉
巻き取った光学フィルムを繰り出して、目視にてキズの発生(耐傷性)の有無を下記の方法で調べた。すなわち、繰り出した光学フィルムに対して、その巻外側から、暗室にてナトリウムランプ(KNL-35D、株式会社ライテスト社製)と市販の三波長蛍光灯を点灯させて光を照射し、フィルム表面で長さ2mm以上の方向性のある欠陥をキズとして認定した。なお、キズの認定は、フィルムの端部から5cmの範囲を除いた部分(上記範囲よりもフィルム内側の表面部分)で行った。そして、以下の基準に基づいて、キズ(搬送キズ)を評価した。
《評価基準》
◎:キズが全く確認されなかった。
○:キズがほとんど確認されなかった。
△:キズが軽微に確認されたが、実用上問題はない。
×:キズが明らかに発生しており、実用上問題がある。
【0071】
(ヘイズ)
ヘイズメーター(日本電色工業(株)製、NDH2000)を用いて光学フィルムのヘイズを測定した。そして、以下の評価基準に基づいてヘイズを評価した。
《評価基準》
◎:ヘイズ値が0.10%未満である。
○:ヘイズ値が0.10%以上0.20%未満である。
△:ヘイズ値が0.20%以上0.30%未満である。
×:ヘイズ値が0.30%以上である。
【0072】
(熱処理による凹凸消失)
作製した光学フィルムに対して、Tgを樹脂のガラス転移温度として、Tg+5℃以上の温度下で、固定端状態で5分以上加熱して熱処理を行った。そして、光学フィルムの表面における熱処理後の凹凸の個数について、光学顕微鏡を用いて上記と同様の方法で測定し、250000μm2での領域の個数に換算した。また、光学フィルムの凹凸の最大高さ粗さRzを、白色干渉顕微鏡Zygoを用いて上記と同様の方法で測定した。そして、以下の評価基準に基づいて、熱処理による凹凸の消失(緩和)の効果について評価した。
《評価基準》
◎:250000μm2の範囲で、凹凸が一切見つからなかった。
○:250000μm2の範囲で、凹凸の個数が3個以下であり、最大高さ粗さRzが50nm以下であった。
△:250000μm2の範囲で、凹凸の個数が5個以下であり、最大高さ粗さRzが150nm以下であった。
×:250000μm2の範囲で、凹凸の個数が6個以上であり、最大高さ粗さRzが150nmよりも大きかった。
【0073】
表1は、作製した実施例1の光学フィルム101、比較例1~4の光学フィルム201~204についての評価の結果を示している。
【0074】
【0075】
表1より、比較例1では、フィルムのヘイズ値が高くなっている。これは、支持体の表面凹凸をウェブに転写する方法では、ウェブの表面の平滑性が極端に低くなるためと考えられる。また、比較例2では、マットロールによってフィルム全面に隙間なく凹凸が形成されるため、フィルムのヘイズ値が高くなっていると考えられる。さらに、比較例2では、熱処理による凹凸の消失効果が得られていない。溶融流延製膜法では、溶媒を用いないため、形成された凹凸が硬く、熱処理によって凹凸を変形させて平坦にすることができないためと考えられる。また、比較例3では、フィルムに微粒子が含有されているため、ヘイズ値が高くなっていると考えられる。比較例4では、インクジェット方式でフィルムに表面凹凸を形成しているが、凹凸の個数が多いため、ヘイズ値が高くなっていると考えられる。また、インクジェット方式で形成される表面凹凸は、フィルムの変形によるものではないため、熱処理によってフィルム変形が元に戻るということはなく、熱処理による凹凸の消失効果は全くない。
【0076】
これに対して、実施例1では、搬送性(ツレ、シワ、搬送キズ)、ヘイズ、熱処理による凹凸の消失効果のいずれについても、良好な結果が得られている。実施例1では、フィルム表面において、凹凸が250000μm2の範囲内に1個以上存在しているため、ウェブが微粒子を含有していなくても、上記凹凸によってウェブに滑り性が付与され、その結果、ウェブに搬送キズが付きにくくなるとともに、ツレやシワも発生しにくくなり、搬送性が良好になると考えられる。また、凹凸の周囲の表面粗さSaが0.9nmであり、ほぼ平坦な面であるため、表面ヘイズが小さくなり、ガラスに近い低ヘイズを実現できていると考えられる。また、上記した凹凸の個数(密度)では、熱処理によって凹凸を消失または緩和させることができるため、使用時には、巻き取ったフィルムを再度繰り出して熱処理を行い、表面の凹凸を消失または緩和させて光学特性の良好なフィルムを得ることが可能になると言える。また、フィルムを繰り出して熱処理を行うまでは、フィルム表面に凹凸が残っているため、良好な搬送性を確保することも可能である。
【0077】
なお、凹凸の周囲の表面粗さSaが実施例1の0.9nmであるときに、ヘイズを低減する効果があり、上記表面粗さSaが比較例1の1.8nmであるときに、上記効果がないことから、実施例1の0.9nmと比較例1の1.8nmとの間(例えば1.5nm)に、上記効果が得られる臨界点があると考えられる。したがって、上記効果を得るためには、上記表面粗さSaは1.5nm以下であればよく、0.9nm以下であることがより望ましいと言える。
【0078】
<実施例2~7>
表2に記載の最大高さRyを有する加工ロールでウェブの表面に凹凸を形成した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~7の光学フィルム102~107をそれぞれ作製した。そして、作製した光学フィルム102~107に対して、実施例1と同様の方法で、表面粗さSa、凹凸個数、凹凸の長径および最大高さ粗さRzを測定した。
【0079】
表2は、作製した実施例2~7の光学フィルム102~107についての評価の結果を、実施例1の光学フィルム101についての結果と併せて示している。なお、実施例2は、本発明の単なる参考例であり、本発明の範囲には属さないものである。
【0080】
【0081】
表2より、実施例2では、他の実施例3等に比べると、搬送性を良好にする効果が小さい。実施例2では、加工ロールの最大高さRyが1μmと小さいことから、ウェブの表面を加工ロールの凹凸で抉って(引っ掻いて)、ウェブの表面に適切な大きさの凹凸を形成することができず、搬送時のウェブのロールへの貼り付きを低減する効果が小さくなるためと考えられる。これに対して、実施例1、3~7では、搬送性を良好にする効果が高い。実施例1、3~5では、加工ロールの最大高さRyがいずれも2μm以上であることから、ウェブの表面を加工ロールの凹凸で抉って、ウェブの表面に適切な大きさの凹凸が形成され、これによって、搬送時のウェブのロールへの貼り付き低減効果が大きくなるためと考えられる。
【0082】
加工ロールの最大高さRyがいずれも2μm以上である場合、フィルムの表面には、長径5~15μmで、最大高さ粗さRzが100~1000nmの凹凸が形成されていることがわかる。したがって、このような凹凸がフィルムの表面に形成されることにより、搬送性を良好にする効果を高めることができると言える。
【0083】
なお、加工ロールの最大高さRyが実施例2の1μmであっても(フィルムの表面に長径4μmで最大高さ粗さRzが85nmの凹凸が形成される場合であっても)、搬送性について実用上問題のない結果が得られている。このことから、加工ロールの最大高さRyは1μm以上であればよく、フィルムの表面には、長径4μm以上で最大高さ粗さRzが85nm以上の凹凸が形成されていればよいと言える。
【0084】
<実施例8~14>
表3に記載の最大高さRyを有する加工ロールでウェブの表面に凹凸を形成するとともに、加工ロールによる凹凸付与時の残留溶媒量を表3のように変化させた以外は、実施例1と同様にして、実施例8~14の光学フィルム108~114をそれぞれ作製した。そして、作製した光学フィルム108~114に対して、実施例1と同様の方法で、表面粗さSa、凹凸個数、凹凸の長径および最大高さ粗さRzを測定した。
【0085】
表3は、作製した実施例8~14の光学フィルム108~114についての評価の結果を、実施例1の光学フィルム101についての結果と併せて示している。なお、実施例12は、本発明の単なる参考例であり、本発明の範囲には属さないものである。
【0086】
【0087】
表3より、実施例10、12では、搬送性を良好にする効果が小さい。この理由として、実施例10、12では、加工ロールによる凹凸付与時のウェブの残留溶媒量が4質量%と小さいため、ウェブが硬く、加工ロールとの接触によってウェブに凹凸が形成されにくくなり、搬送時のウェブのロールへの貼り付き低減効果が小さくなることが考えられる。また、実施例11、14では、熱処理による凹凸の消失効果が小さい。実施例11、14では、凹凸付与時のウェブの残留溶媒量が37質量%と大きいため、ウェブが柔らかく、加工ロールとの接触によって長径および最大高さ粗さRzの大きい凹凸がウェブに形成されやすくなる。このため、その後の熱処理を行っても、上記凹凸が消失しにくくなり、緩和されるとしてもその量が微小になることが考えられる。
【0088】
これに対して、実施例8、9、13では、搬送性を良好にする効果と、熱処理による凹凸の消失効果とがバランスよく得られている。実施例8、9、13では、凹凸付与時のウェブの残留溶媒量が6~33質量%であることから、搬送時のウェブのロールへの貼り付きを低減するとともに、熱処理によって凹凸を消失させるのに適切な大きさの凹凸がウェブに形成されるためと考えられる。
【0089】
なお、凹凸付与時のウェブの残留溶媒量が実施例10、12の4質量%であるときに、搬送性を良好にする効果が小さく、上記残留溶媒量が実施例8の6質量%であるときに、上記効果が大きいことから、実施例10、12の4質量%と実施例8の6質量%との間(例えば5質量%)に、上記効果を大きくする臨界点があると考えられる。したがって、上記効果を大きくする観点からは、上記残留溶媒量は5質量%以上であることが望ましく、6質量%以上であることがさらに望ましいと言える。
【0090】
また、凹凸付与時のウェブの残留溶媒量が実施例11、14の37質量%であるときに、熱処理による凹凸の消失効果が小さく、上記残留溶媒量が実施例9、13の33質量%であるときに、上記消失効果が大きいことから、実施例11、14の37質量%と実施例9、13の33質量%との間(例えば35質量%)に、上記消失効果を大きくする臨界点があると考えられる。したがって、上記消失効果を大きくする観点からは、上記残留溶媒量は35質量%以下であることが望ましく、33質量%以下であることがさらに望ましいと言える。
【0091】
なお、上記残留溶媒量が実施例10、12の4質量%であっても、搬送性について実用上問題のない結果が得られており、上記残留溶媒量が実施例11、14の37質量%であっても、上記消失効果について実用上問題のない結果が得られている。このことから、上記残留溶媒量は、4質量%以上であってもよく、37質量%以下であってもよいと言える。
【0092】
したがって、上記残留溶媒量の適切な範囲としては、上記した下限(4質量%、5質量%、6質量%)と、上記した上限(37質量%、35質量%、33質量%)との組み合わせで設定することができる。例えば、上記残留溶媒量としては、4~37質量%(4質量%以上37質量%以下)であってもよいが、望ましくは、5~35質量%(5質量%以上35質量%以下)であり、より望ましくは、6~33質量%(6質量%以上33質量%以下)であると言うことができる。
【0093】
〔その他〕
以上で説明した本実施形態の光学フィルムおよびその製造方法は、以下のように表現することができる。
【0094】
1.微粒子非含有のドープを金属支持体上に流延してウェブを形成する流延工程と、
前記ウェブを金属支持体から剥離する剥離工程と、
剥離された前記ウェブの表面に、加工ロールによって凹凸形状を形成する凹凸形成工程と、
前記凹凸形状を有する前記ウェブを光学フィルムとして巻き取る巻取工程とを有し、
巻き取られた前記光学フィルムは、表面の250000μm2の範囲内に1個以上の凹凸を有しており、
前記範囲内で前記凹凸の周囲の表面粗さSaは、1.5nm以下であることを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【0095】
2.前記表面粗さSaは、0.9nm以下であることを特徴とする前記1に記載の光学フィルムの製造方法。
【0096】
3.前記凹凸形成工程では、最大高さRyが2μm以上となる表面加工が施された前記加工ロールによって、前記ウェブの表面に前記凹凸形状を形成することを特徴とする前記1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
【0097】
4.前記光学フィルムの表面において、
前記凹凸の長径は、5~15μmであり、
最大高さ粗さRzが、100~1000nmであることを特徴とする前記1から3のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【0098】
5.前記凹凸形成工程において、前記加工ロールによって前記凹凸形状を形成するときの前記ウェブの残留溶媒量が、5~35質量%であることを特徴とする前記1から4のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【0099】
6.前記光学フィルムは、表面の250000μm2の範囲内に2個以上20個以下の前記凹凸を有していることを特徴とする前記1から5のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【0100】
7.前記ドープは、樹脂および溶媒を含み、
前記樹脂は、シクロオレフィン系樹脂であることを特徴とする前記1から6のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【0101】
8.微粒子非含有の光学フィルムであって、
前記光学フィルムは、表面の250000μm2の範囲内に1個以上の凹凸を有しており、
前記範囲内で前記凹凸の周囲の表面粗さSaは、1.5nm以下であることを特徴とする光学フィルム。
【0102】
9.前記表面粗さSaは、0.9nm以下であることを特徴とする前記8に記載の光学フィルム。
【0103】
10.前記光学フィルムの表面において、
前記凹凸の長径は、5~15μmであり、
最大高さ粗さRzが、100~1000nmであることを特徴とする前記8または9に記載の光学フィルム。
【0104】
11.前記光学フィルムは、表面の250000μm2の範囲内に2個以上20個以下の前記凹凸を有していることを特徴とする前記8から10のいずれかに記載の光学フィルム。
【0105】
12.シクロオレフィン系樹脂を含むことを特徴とする前記8から11のいずれかに記載の光学フィルム。
【0106】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で拡張または変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、微粒子非含有の光学フィルムを溶液流延製膜法によって製造する場合に利用可能である。
【符号の説明】
【0108】
3 支持体(金属支持体)
5 ウェブ
20 加工ロール
FPV 凹凸
Fb 非凹凸領域
F 光学フィルム