(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】ホウ素含有非晶質シリカ粉体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/12 20060101AFI20220802BHJP
C01B 33/18 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
C01B33/12 A
C01B33/18 Z
(21)【出願番号】P 2021574811
(86)(22)【出願日】2021-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2021034575
【審査請求日】2021-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2020167312
(32)【優先日】2020-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】村上 泰之
(72)【発明者】
【氏名】元石 さつき
(72)【発明者】
【氏名】小泉 寿夫
(72)【発明者】
【氏名】小森 聡
(72)【発明者】
【氏名】緒方 宏宣
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-169102(JP,A)
【文献】特開昭59-102832(JP,A)
【文献】特開2008-184351(JP,A)
【文献】特開2007-261860(JP,A)
【文献】特開平07-172814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B82Y
C01B 33/00 - 33/193
C01B 35/00 - 35/18
C03B 8/02
C03C 1/00 - 14/00
C04B 35/14
H01B 3/00 - 3/14
H01L 23/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素原子を含む非晶質シリカ粉体であって、
該ホウ素含有非晶質シリカ粉体は、透過型電子顕微鏡写真において無作為に選んだ40個の粒子によって求めた平均粒子径が10~100nmであり、
下記の条件で焼成したときのホウ素含有量の減少率が10質量%以下であることを特徴とするホウ素含有非晶質シリカ粉体。
<焼成条件>
乾燥物5~10gをアルミナ製坩堝に充填して、大気雰囲気中で200℃/時で1000~1100℃まで昇温し、そのまま5時間保持後、室温まで降温する。
【請求項2】
前記ホウ素含有シリカ粉体の酸化物換算でのSiO
2及びB
2O
3の割合は、SiO
2及びB
2O
3の合計100質量%に対して、それぞれ90.0~99.8質量%、0.2~10.0質量%であることを特徴とする請求項1に記載のホウ素含有非晶質シリカ粉体。
【請求項3】
前記ホウ素含有非晶質シリカ粉体は、透過型電子顕微鏡写真において無作為に選んだ40個の粒子によって求めた粒子径の変動係数(粒子径の標準偏差/平均粒子径)が0.25以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のホウ素含有非晶質シリカ粉体。
【請求項4】
前記ホウ素含有非晶質シリカ粉体は、下記の方法により求める平均円形度が0.65以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のホウ素含有非晶質シリカ粉体。
<平均円形度の算出方法>
透過型電子顕微鏡で撮影したTEM像のファイルを画像解析ソフトで読み込み、粒子解析のアプリケーションを用い、100~200個の粒子の平均円形度を測定する。
【請求項5】
前記ホウ素含有非晶質シリカ粉体は、前記条件で焼成したときの酸化物換算でのSiO
2及びB
2O
3の割合が、SiO
2及びB
2O
3の合計100質量%に対して、それぞれ90.0~99.8質量%、0.2~10.0質量%であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のホウ素含有非晶質シリカ粉体。
【請求項6】
前記ホウ素含有非晶質シリカ粉体は、前記条件で焼成したものについての下記の方法で測定される比表面積が5m
2/g以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のホウ素含有非晶質シリカ粉体。
<比表面積の測定方法>
使用機器:自動比表面積測定装置
方法:BET法
雰囲気:窒素ガス(N
2)
外部脱気装置の脱気条件:200℃-60分
【請求項7】
前記ホウ素含有非晶質シリカ粉体は、前記条件で焼成したものについての1GHzにおける比誘電率εが5以下であり、Q値が1000以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のホウ素含有非晶質シリカ粉体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のホウ素含有非晶質シリカ粉体を製造する方法であって、
該製造方法は、ケイ素原子を含む種粒子を得る工程(A)と、
工程(A)で得られたケイ素原子を含む種粒子と、工程(A)で得られた種粒子とは異なるケイ素原子含有化合物と、ホウ素原子含有化合物とを混合する工程(B)と、
工程(B)で得られた生成物を乾燥する工程(C)とを含
み、
該工程(B)は、ケイ素原子含有化合物を加水分解する工程を含むことを特徴とするホウ素含有非晶質シリカ粉体の製造方法。
【請求項9】
前記ホウ素原子含有化合物の使用量はホウ素原子数換算で、ケイ素原子を含む種粒子と、該種粒子とは異なるケイ素原子含有化合物とにおける合計のケイ素原子100モル%に対して0.4~10モル%であることを特徴とする請求項8に記載のホウ素含有非晶質シリカ粉体の製造方法。
【請求項10】
前記ケイ素原子を含む種粒子の使用量はケイ素原子数換算で、ケイ素原子を含む種粒子と、該種粒子とは異なるケイ素原子含有化合物とにおける合計のケイ素原子100モル%に対して1~20モル%であることを特徴とする請求項8又は9に記載のホウ素含有非晶質シリカ粉体の製造方法。
【請求項11】
前記工程(B)において、塩基性触媒を、種粒子とは異なるケイ素原子含有化合物におけるケイ素原子及びホウ素原子含有化合物におけるホウ素原子の合計100モル%に対して10~50モル%添加することを特徴とする請求項8~10のいずれかに記載のホウ素含有非晶質シリカ粉体の製造方法。
【請求項12】
請求項1~7のいずれかに記載のホウ素含有非晶質シリカ粉体の焼成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素含有非晶質シリカ粉体及びその製造方法に関する。より詳しくは、高周波特性に優れた磁器等の材料として好適に使用することができるホウ素含有非晶質シリカ粉体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GHz帯域の高周波で使用される小型の通信機器や電子機器に搭載される回路基板用材料は、誘電率(ε)が小さくかつ誘電正接(tan)が小さいという、高周波伝送特性に優れた低損失材料であることが求められる。また、回路基板やコンデンサ等の電子部品の高性能化や小型化にともない、回路基板の周辺部品(接着剤やレジストインキ、封止材など)の構成材料にも、使用周波数帯において低誘電率かつ低誘電正接の材料が必要とされる。特に、最先端のロジックLSI(大規模集積回路)では、高性能化のため、高集積化が進められている。しかし、高集積化(微細化)によって配線抵抗、配線容量が増加し、配線遅延時間の増大につながるため、低誘電率かつ低誘電正接の材料が必要とされている。
低誘電率を達成するために、例えば、低融点ガラスを用いる技術が開発されているが、Q値が低い点で高周波材料用途において充分ではなかった。
【0003】
従来、セラミック多層配線基板としては、アルミナ質焼結体からなる絶縁基板の表面または内部にタングステンやモリブデンなどの高融点金属からなる配線層が形成されたものが最も普及している。また、最近に至り、高度情報化時代を迎え、使用される周波数帯域は高周波側に移行しつつある。このような高周波配線基板においては、高周波信号を損失なく伝送する上で、配線層を形成する導体の抵抗が小さいこと、また絶縁基板の高周波領域での誘電損失が小さいことが要求される。
【0004】
ところが、従来のタングステンやモリブデンなどの高融点金属は導体抵抗が大きく、信号の伝搬速度が遅く、高周波領域の信号伝搬も困難である。例えば、30GHz以上のミリ波領域の高周波信号が適用される高周波配線基板では、上記の高融点金属を使用することができず、これらの高融点金属に代え、銅、銀、金などの低抵抗金属を使用することが必要である。しかしながらこれらの低抵抗金属は融点が低く、アルミナ等のセラミックスと同時焼成することが不可能である。そのため、低温での同時焼成を可能にすべく、シリカを用いる技術が開発されている(特許文献1、2参照)。
更に、誘電正接及び誘電損失をより低減するために、シリカにホウ素等の元素をドープする技術が開発されている(特許文献3~5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-161518号公報
【文献】特開2001-176329号公報
【文献】特開2008-184351号公報
【文献】特開2011-68507号公報
【文献】特開2019-108263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、従来、種々のホウ素ドープシリカが開発されているが、従来のホウ素ドープシリカは低温焼結性において充分ではなかった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、従来よりも、低温焼結性に優れるホウ素含有非晶質シリカ粉体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ホウ素含有非晶質シリカ粉体について種々検討したところ、所定の条件で焼成したときのホウ素含有量の減少率が10質量%以下であるホウ素含有非晶質シリカ粉体が、低温焼結性に優れることを見出し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、ホウ素原子を含む非晶質シリカ粉体であって、該ホウ素含有非晶質シリカ粉体は、透過型電子顕微鏡写真において無作為に選んだ40個の粒子によって求めた平均粒子径が10~100nmであり、下記の条件で焼成したときのホウ素含有量の減少率が10質量%以下であるホウ素含有非晶質シリカ粉体である。
<焼成条件>
乾燥物5~10gをアルミナ製坩堝に充填して、大気雰囲気中で200℃/時で1000~1100℃まで昇温し、そのまま5時間保持後、室温まで降温する。
【0010】
上記ホウ素含有シリカ粉体の酸化物換算でのSiO2及びB2O3の割合は、SiO2及びB2O3の合計100質量%に対して、それぞれ90.0~99.8質量%、0.2~10.0質量%であることが好ましい。
【0011】
上記ホウ素含有非晶質シリカ粉体は、透過型電子顕微鏡写真において無作為に選んだ40個の粒子によって求めた粒子径の変動係数(粒子径の標準偏差/平均粒子径)が0.25以下であることが好ましい。
【0012】
上記ホウ素含有非晶質シリカ粉体は、下記の方法により求める平均円形度が0.65以上であることが好ましい。
<平均円形度の算出方法>
透過型電子顕微鏡で撮影したTEM像のファイルを画像解析ソフトで読み込み、粒子解析のアプリケーションを用い、100~200個の粒子の平均円形度を測定する。
【0013】
上記ホウ素含有非晶質シリカ粉体は、前記条件で焼成したときの酸化物換算でのSiO2及びB2O3の割合が、SiO2及びB2O3の合計100質量%に対して、それぞれ90.0~99.8質量%、0.2~10.0質量%であることが好ましい。
【0014】
上記ホウ素含有非晶質シリカ粉体は、前記条件で焼成したものについての下記の方法で測定される比表面積が5m2/g以下であることが好ましい。
<比表面積の測定方法>
使用機器:自動比表面積測定装置
方法:BET法
雰囲気:窒素ガス(N2)
外部脱気装置の脱気条件:200℃-60分
【0015】
上記ホウ素含有非晶質シリカ粉体は、前記条件で焼成したものについての1GHzにおける比誘電率εが5以下であり、Q値が1000以上であることが好ましい。
【0016】
本発明はまた、上記ホウ素含有非晶質シリカ粉体を製造する方法であって、該製造方法は、ケイ素原子を含む種粒子を得る工程(A)と、工程(A)で得られたケイ素原子を含む種粒子と、工程(A)で得られた種粒子とは異なるケイ素原子含有化合物と、ホウ素原子含有化合物とを混合する工程(B)と、工程(B)で得られた生成物を乾燥する工程(C)とを含むホウ素含有非晶質シリカ粉体の製造方法でもある。
【0017】
上記ホウ素原子含有化合物の使用量はホウ素原子数換算で、ケイ素原子を含む種粒子と、該種粒子とは異なるケイ素原子含有化合物とにおける合計のケイ素原子100モル%に対して0.4~10モル%であることが好ましい。
【0018】
上記ケイ素原子を含む種粒子の使用量はケイ素原子数換算で、ケイ素原子を含む種粒子と、該種粒子とは異なるケイ素原子含有化合物とにおける合計のケイ素原子100モル%に対して1~20モル%であることが好ましい。
【0019】
上記工程(B)において、塩基性触媒を、種粒子とは異なるケイ素原子含有化合物におけるケイ素原子及びホウ素原子含有化合物におけるホウ素原子の合計100モル%に対して10~50モル%添加することが好ましい。
【0020】
本発明はまた、上記ホウ素含有非晶質シリカ粉体の焼成物でもある。
【発明の効果】
【0021】
本発明のホウ素含有非晶質シリカ粉体は、上述の構成よりなり、低温焼結性に優れるため、セラミックス多層配線基板の材料等に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例1で得られた乾燥粉体1、比較例1、2で得られた比較乾燥粉体1、2についてのTG分析結果である。
【
図2】実施例1で得られた乾燥粉体1、比較例1、2で得られた比較乾燥粉体1、2についてのDTA分析結果である。
【
図3】実施例1で得られた乾燥粉体1、比較例1で得られた比較乾燥粉体1を使用したMLCCについてのHALT試験の評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態に該当する。
【0024】
<ホウ素含有非晶質シリカ粉体>
本発明のホウ素含有非晶質シリカ粉体は、透過型電子顕微鏡写真において無作為に選んだ40個の粒子によって求めた平均粒子径が10~100nmであり、上記条件で焼成したときのホウ素含有量の減少率が10質量%以下であるホウ素含有非晶質シリカ粉体である。
本発明のホウ素含有非晶質シリカ粉体は、焼成によるホウ素含有量の減少率が少なく、焼結後の粉体の比表面積を充分に小さくすることができるため、低温焼結性に優れる。また、ホウ素含有非晶質シリカ粉体は、ホウ素とシリカとの結合性が高く、ホウ素が粒子内部に充分に閉じ込められているため、ホウ素の揮発を充分に抑制することができ、基板等に用いた場合の組成のばらつきや、揮発したホウ素により不具合が生じることを充分に抑制することができる。
【0025】
上記ホウ素含有シリカ粉体の酸化物換算でのSiO2及びB2O3の割合は、SiO2及びB2O3の合計100質量%に対して、それぞれ90.0~99.8質量%、0.2~10.0質量%であることが好ましい。これによりシリカ粉体中のホウ素量がより充分となり、低温焼結性により優れる。
また、B2O3の割合が10.0質量%以下であると、ホウ素含有シリカ分散体を積層セラミックコンデンサ(MLCC)等の電子部品材料として用いた場合、電子機器の耐久性がより向上することとなる。
上記B2O3の割合は、好ましくは1.0~8.0質量%であり、より好ましくは2.0~6.0質量%であり、更に好ましくは2.5~5.0質量%である。
上記SiO2及びB2O3の割合は、実施例に記載の方法により求めることができる。
【0026】
上記ホウ素含有シリカ粉体のSiO2の割合として好ましくは92~99質量%であり、より好ましくは93~97質量%であり、更に好ましくは94~96質量%である。
【0027】
上記ホウ素含有シリカ粉体は、40個の粒子についての透過型電子顕微鏡写真に基づいて求めた平均粒子径(以下、TEM平均粒子径ともいう。)が10~100nmである。
上記TEM平均粒子径は、一次粒子径であり、一次粒子径が100nm以下であると、例えば、積層セラミックコンデンサ等に用いられるサブミクロンの誘電体粉末のようなセラミック粉末と同等かそれ以下の粒径であるため、このようなセラミック粉末との混合においてもセラミック粉末の粒界に容易に納まるように分散でき、セラミック粉末間において、より均質かつ薄い粒界相を形成できる。
上記TEM平均粒子径として好ましくは15~75nmであり、より好ましくは20~50nmであり、更に好ましくは25~30nmである。
【0028】
ホウ素含有シリカ粉体は、下記の方法により求める粒度分布の平均粒子径D50が10~100nmであることが好ましい。より好ましくは15~75nmであり、更に好ましくは20~50nmであり、特に好ましくは25~30nmである。
<粒度分布の算出方法>
動的光散乱式粒子径分布測定装置により体積平均粒子径の測定を行う。測定時の粒子濃度を適した濃度(ローディングインデックス=0.01~1の範囲)にホウ素含有非晶質シリカ粒子を含むスラリーをイオン交換水で適宜希釈する。
測定時間は60秒とする。
粒子透過性:透過、粒子屈折率:1.46、形状:真球形、密度(g/cm3):1.00。
溶媒条件:水、屈折率:1.333、粘度は30℃:0.797、20℃:1.002とする。
得られた体積基準粒度分布曲線において積算値が50%のときの粒径値を、平均粒子径D50(nm)とする。
【0029】
上記ホウ素含有非晶質シリカ粉体は、上記平均粒子径の変動係数(標準偏差/40個の粒子についての透過型電子顕微鏡写真に基づいて求めた平均粒子径)が0.25以下であることが好ましい。これにより、粒子径のバラツキを充分に抑制し、誘電体粉末等の他の材料と混合した際の流動性及び成形性低下を充分に抑制するとともに、他の材料とより均一に分散させることができる。より好ましくは変動係数が0.1以下である。
【0030】
上記ホウ素含有非晶質シリカ粉体は、上記粒度分布のD90/D10が4.0以下であることが好ましい。D10とは体積基準での10%積算粒径を意味し、D90とは体積基準での90%積算粒径を意味する。
D90/D10は、体積基準粒度分布のシャープさの指標である。この値(D90/D10)が大きい程、粒度分布がブロードであることを意味し、この値が小さい程、粒度分布がシャープであることを意味する。D90/D10が4.0以下であれば、粒子径のバラツキを充分に抑制し、誘電体粉末等の他の材料と混合した際の流動性及び成形性低下を充分に抑制するとともに、他の材料とより均一に分散させることができる。
【0031】
上記ホウ素含有非晶質シリカ粉体は、D100が300nm以下であることが好ましい。より好ましくは200nm以下であり、更に好ましくは100nm以下である。
上記ホウ素含有非晶質シリカ粉体において上記粒度分布のD90/D10が4.0以下かつD100が300nm以下である形態は本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0032】
上記ホウ素含有非晶質シリカ粉体は、上記方法により求める平均円形度が0.65以上であることが好ましい。これにより誘電体粉末等の他の材料と混合した際の流動性及び成形性低下を充分に抑制するとともに、他の材料とより均一に分散させることができる。また、樹脂成形時に成形金型の摩耗を抑制することもできる。
【0033】
上記ホウ素含有非晶質シリカ粉体は、上記条件で焼成したしたものについての上記方法で測定される比表面積が5m2/g以下であることが好ましい。より好ましくは3m2/g以下である。
上記ホウ素含有非晶質シリカ粉体(焼成前)の比表面積は特に制限されないが、好ましくは150m2/g以下であることが好ましい。より好ましくは100~140m2/gであり、更に好ましくは110~130m2/gである。
【0034】
上記ホウ素含有非晶質シリカ粉体は、上記条件で焼成したものについての1GHzにおける比誘電率εが5以下であることが好ましい。より好ましくは4以下であり、更に好ましくは3以下である。上記比誘電率は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0035】
上記ホウ素含有非晶質シリカ粉体は、上記条件で焼成したものについての1GHzにおけるQ値が1000以上であることが好ましい。このようなホウ素含有非晶質シリカ粉体を積層セラミックコンデンサ(MLCC)等に用いた場合に、損失が低減されるため好ましい。Q値としてより好ましくは1500以上であり、更に好ましくは2000以上である。上記Q値は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0036】
<ホウ素含有非晶質シリカ粉体の製造方法>
本発明のホウ素含有非晶質シリカ粉体の製造方法は特に制限されないが、ケイ素原子を含む種粒子を得る工程を行い、得られた種粒子と、該種粒子とは異なるケイ素原子含有化合物と、ホウ素原子含有化合物とを混合することによりホウ素含有シリカ分散体を製造し、これを乾燥することにより製造することができる。
本発明は、ケイ素原子を含む種粒子を得る工程(A)と、工程(A)で得られたケイ素原子を含む種粒子と、工程(A)で得られた種粒子とは異なるケイ素原子含有化合物と、ホウ素原子含有化合物とを混合する工程(B)と、工程(B)で得られた生成物を乾燥する工程(C)とを含むホウ素含有非晶質シリカ粉体の製造方法でもある。
上記工程(B)において、ケイ素原子を含む種粒子を用いることにより、ホウ素含有非晶質シリカ粉体においてホウ素を均一にドープすることができる。
工程(B)で用いる「種粒子とは異なるケイ素原子含有化合物」は、工程(A)で得られたもの以外のものであれば、化合物の組成について種粒子と同じであってもよい。
【0037】
ホウ素含有非晶質シリカ粉体の製造方法では、ケイ素原子含有化合物の加水分解物にホウ素原子含有化合物から析出させたホウ素を反応させて製造することが好ましい。ケイ素原子含有化合物の加水分解速度はホウ素の析出速度に対して遅いため、通常はこれらが別々の粒子として析出してしまうが、ケイ素原子を含む種粒子を用いることにより、種粒子が反応場となって、種粒子とは異なるケイ素原子含有化合物が加水分解するとともにホウ素が巻き込まれて粒子が成長することができるため、ホウ素を均一にドープすることができると考えられる。
【0038】
上記工程(A)はケイ素原子を含む種粒子を得る限り特に制限されないが、ケイ素含有化合物を分解する工程であることが好ましい。
上記工程(A)で用いるケイ素含有化合物は特に制限されないが、ケイ素アルコキシド等が好ましい。
上記工程(A)においてケイ素アルコキシドを用いる場合、ケイ素アルコキシドが加水分解されて種粒子として二酸化ケイ素、オルトケイ酸、メタケイ酸、メタ二珪酸等が生じる。
【0039】
上記ケイ素アルコキシドとして好ましくはテトラメトキシシラン等のメチルシリケート;テトラエトキシシラン等のエチルシリケート;テトライソプロポキシシラン等のイソプロピルシリケート等が挙げられる。中でも好ましくはエチルシリケートであり、より好ましくはテトラエトキシシラン(TEOS)である。
【0040】
上記工程(A)で得られるケイ素原子を含む種粒子の平均粒子径としては特に制限されないが、40個の粒子についての透過型電子顕微鏡写真に基づいて求めた平均粒子径が5~15nmであることが好ましい。より好ましくは10~13nmである。
また、上記方法で測定する粒度分布の平均粒子径D50が1~15nmであることが好ましい。より好ましくは5~10nmである。
【0041】
上記工程(A)において、ケイ素アルコキシドと水と触媒とを反応させることが好ましい。
触媒としては塩基性触媒が好ましく、より好ましくは、アルギニン、リシン、ヒスチジン、トリプトファン等の塩基性アミノ酸等であり、更に好ましくはアルギニンである。アルギニンを用いることでより小さい種粒子を得ることができる。
【0042】
上記工程(A)における触媒の使用量は特に制限されないが、ケイ素アルコキシド100モル%に対して0.5~3モル%であることが好ましい。より好ましくは1.5~2.5モル%である。
【0043】
上記工程(A)における反応温度は特に制限されないが、40~70℃であることが好ましい。より好ましくは55~65℃である。
【0044】
上記工程(A)における原料の添加方法は特に制限されないが、水と触媒との混合物にケイ素アルコキシドを添加することが好ましい。
【0045】
上記工程(B)におけるケイ素原子を含む種粒子の使用量は、ケイ素原子数換算で、ケイ素原子を含む種粒子と、該種粒子とは異なるケイ素原子含有化合物とにおける合計のケイ素原子100モル%に対して1~20モル%であることが好ましい。上記種粒子の使用量を1モル%以上とすることにより、最終的に得られる粒子の粒子径が大きくなりすぎることを充分に抑制することができる。また、上記種粒子の使用量を1モル%以上とすることにより、種粒子とは異なるケイ素原子含有化合物の加水分解速度に対して種粒子の成長速度がより好適な範囲となり、種粒子上以外で新たな粒子が生じることを抑制し、粒度分布が広がることを充分に抑制することができる。
また、上記使用量を20モル%以下とすることにより、種粒子とは異なるケイ素原子含有化合物の加水分解を充分に進行させることができる。
上記種粒子の使用量としてより好ましくは5~20モル%であり、更に好ましくは10~15モル%である。
【0046】
上記工程(B)におけるホウ素原子含有化合物の使用量は、ホウ素原子数換算で、ケイ素原子を含む種粒子と、該種粒子とは異なるケイ素原子含有化合物とにおける合計のケイ素原子100モル%に対して1~10モル%であることが好ましい。上記ホウ素原子含有化合物の使用量を10モル%以下とすることにより、ホウ酸塩が形成して凝集及び沈降することを充分に抑制することができる。また、上記ホウ素原子含有化合物の使用量を10モル%以下とすることにより、未反応のホウ素原子含有化合物が残存することも充分に抑制し、未反応ホウ素原子含有化合物による凝集も充分に抑制することができる。
上記ホウ素原子含有化合物の使用量としてより好ましくは1~5モル%であり、更に好ましくは2~3モル%である。
【0047】
上記工程(B)において、塩基性触媒を用いることが好ましい。
これにより触媒としての作用の他に、塩基を添加することにより反応液における分散性を充分に高め、粘度を充分に下げる効果を得ることもできる。
塩基性触媒としては特に制限されないが、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、アンモニア、尿素、エタノールアミン、テトラメチル水酸化アンモニウム、上述の塩基性アミノ酸等が挙げられる。
塩基性触媒として好ましくはアンモニア、塩基性アミノ酸であり、より好ましくはアンモニア、アルギニンである。アンモニアを用いることにより、得られる粒子の形状をより球形に近いものとすることができる。また、アルギニンを用いることにより、得られる粒子の粒子径をより小さくすることができる。
上記塩基性触媒を2種以上併用する形態が好ましく、塩基性触媒としてアンモニアとアルギニンとを用いる形態は本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0048】
上記工程(B)における塩基性触媒の使用量は、種粒子とは異なるケイ素原子含有化合物におけるケイ素原子及びホウ素原子含有化合物におけるホウ素原子の合計100モル%に対して10~50モル%であることが好ましい。塩基性触媒の使用量が50モル%以下であれば、粒子の成長反応が促進されすぎて周囲の粒子を巻き込みネッキングが生じることを充分に抑制することができるため、粒子が大きくなりすぎて沈降することを充分に抑制することができる。
上記塩基性触媒の使用量としてより好ましくは20~40モル%であり、更に好ましくは25~35モル%である。
【0049】
塩基性触媒としてアンモニアを使用する場合の使用量としては、種粒子とは異なるケイ素原子含有化合物におけるケイ素原子及びホウ素原子含有化合物におけるホウ素原子の合計100モル%に対して10~50モル%であることが好ましい。
アンモニアの使用量を10モル%以上とすることにより、分散性をより向上させ粒子の沈降を充分に抑制することができる。アンモニアの使用量を50モル%以下とすることにより、ホウ酸アンモニウムの発生を充分に抑制し、これによる凝集を充分に抑制することができる。上記アンモニアの使用量としてより好ましくは20~40モル%であり、更に好ましくは25~35モル%である。
【0050】
上記工程(B)における種粒子とは異なるケイ素原子含有化合物は、工程(A)で得られた種粒子とは異なるものであって、ケイ素原子を含むものであれば特に制限されないが、上述のケイ素アルコキシドが好ましい。より好ましくはエチルシリケートであり、更に好ましくはテトラエトキシシラン(TEOS)である。
【0051】
上記工程(B)におけるホウ素原子含有化合物は、ホウ素原子を含むものであれば特に制限されないが、例えば、ホウ素アルコキシド;酸化ホウ素;メタホウ酸、オルトホウ酸等のホウ素のオキソ酸等が挙げられる。中でも好ましくはホウ素アルコキシドである。
ホウ素アルコキシドとして好ましくはトリメトキシボラン等のメチルボレート;トリエトキシボラン等のエチルボレート;トリイソプロポキシボラン等のイソプロピルボレート等が挙げられる。中でも好ましくはエチルボレートであり、より好ましくはトリエトキシボラン(TEOB)である。
【0052】
上記工程(B)において溶媒を用いることが好ましい。溶媒として好ましくは水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~3のアルコール類である。より好ましくは水及び上記アルコールの混合溶媒である。
上記アルコール類として好ましくはエタノールである。
【0053】
上記溶媒として水とアルコール類との混合溶媒を用いる場合、アルコール類の割合は水100質量%に対して140~150質量%であることが好ましい。より好ましくは143~147質量%である。
【0054】
上記工程(B)において原料の添加方法は特に制限されないが、工程(B)は、溶媒、種粒子及び塩基性触媒を混合する工程(B1)と、工程(B1)で得られた混合液に、種粒子とは異なるケイ素原子含有化合物及びホウ素原子含有化合物を添加する工程(B2)とを含むことが好ましい。
【0055】
上記工程(B1)の温度は特に制限されないが20~30℃であることが好ましい。
上記工程(B1)では、攪拌することが好ましい。
【0056】
上記工程(B2)におけるケイ素原子含有化合物及びホウ素原子含有化合物を添加する方法は特に制限されず、これらを別々に添加しても、混合して添加してもよい。好ましくは混合して添加する形態である。
上記工程(B2)において、ケイ素原子含有化合物及びホウ素原子含有化合物を一括添加しても逐次添加してもよいが、逐次添加することが好ましい。
【0057】
上記工程(B2)において、ケイ素原子含有化合物及びホウ素原子含有化合物を固体として添加しても、溶液として添加してもよいが、溶液として添加することが好ましい。
ケイ素原子含有化合物及びホウ素原子含有化合物の混合溶液を、工程(B1)で得られた混合液に滴下することが好ましい。
滴下時間としては特に制限されないが、2~4時間が好ましい。より好ましくは2時間である。
【0058】
上記工程(B2)の温度は特に制限されないが45~65℃であることが好ましい。
上記工程(B2)では、攪拌することが好ましい。
【0059】
本発明のホウ素含有非晶質シリカ粉体の製造方法は、上記工程(B)の後、熟成工程を行うことが好ましい。
熟成温度は特に制限されないが20~30℃であることが好ましい。
熟成時間は特に制限されないが12~16時間であることが好ましい。
【0060】
本発明のホウ素含有非晶質シリカ粉体の製造方法は、上記工程(B)又は熟成工程後に濃縮工程を行ってもよい。
上記濃縮工程における濃縮方法は特に制限されないが、例えば凝集剤を添加して吸引ろ過する方法、限外ろ過する方法が挙げられる。
上記凝集剤としては、アンモニア水および酸、高分子凝集剤等が挙げられる。好ましくはアンモニア水および酢酸である。
上記濃縮工程において限外ろ過することが好ましい。
本発明のホウ素含有非晶質シリカ粉体は、ホウ素とシリカとの結合性が高いため、限外ろ過してもB2O3の割合を保つことができる。
【0061】
本発明のホウ素含有非晶質シリカ粉体の製造方法における乾燥工程(C)は、上記工程(B)で得られた生成物から溶媒を蒸発させて乾燥させる限り特に制限されない。例えば、箱型乾燥機等を用いて乾燥することが好ましい。
乾燥温度は特に制限されず、80℃~150℃で行うことができる。
乾燥時間は特に制限されず、通常10~24時間であり、好ましくは12~18時間である。
【0062】
<焼成物>
本発明のホウ素含有非晶質シリカ粉体は低温焼結性に優れるため、ホウ素含有非晶質シリカ粉体の焼成物は、セラミックス多層配線基板等のセラミックス材料等に好適に用いることができる。また、上記ホウ素含有非晶質シリカ粉体は、比誘電率が低く、Q値が高いため、ホウ素含有非晶質シリカ粉体の焼成物は、高周波用セラミックス多層配線基板、MLCC等のセラミックス材料等に特に好適に用いることができる。
本発明はまた、上記ホウ素含有非晶質シリカ粉体の焼成物でもある。
【0063】
<セラミックス材料の焼結助剤>
本発明のホウ素含有非晶質シリカ粉体は、ホウ素を含み低温焼結性に優れるため、セラミックス多層配線基板等のセラミックス材料の焼結助剤として好適に用いることができる。特に好ましくは高周波用セラミックス多層配線基板等のセラミックス材料の焼結助剤として用いることである。
本発明は、本発明のホウ素含有非晶質シリカ粉体を含む焼結助剤でもある。
【実施例】
【0064】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味するものとする。
【0065】
1、各種測定は以下のようにして行った。
(1)粒度分布の平均粒径
実施例及び比較例で得たスラリーについて、動的光散乱法粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル製Nanotrac WaveII UT151)により粒度分布測定を行った。
測定時の粒子濃度を適した濃度(ローディングインデックス=0.01~1の範囲)にホウ素含有非晶質シリカ粒子を含むスラリーをイオン交換水で適宜希釈した。固形分が沈降している試料は、超音波洗浄器(ASONE製ASU-10)にサンプル瓶ごと浸して超音波処理を10分間行い、試料の懸濁液を準備した。
測定時間は60秒とした。
粒子透過性:透過、粒子屈折率:1.46、形状:真球形、密度(g/cm3):1.00、
溶媒条件:水、屈折率:1.333、粘度は30℃:0.797、20℃:1.002とした。
【0066】
(2)顕微鏡観察での粒径分析
実施例および比較例で得られた合成スラリーについて粒径分析を行った。電界放射型走査電子顕微鏡(日本電子社製、JSM-7000F)または透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JSM-2100F)を用いて、写真に少なくとも100個以上見える倍率で試料を撮影した。撮影した画像ファイルを画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング社製、A像くん)で読み込み、円形粒子解析のアプリケーションを用いて輪郭が明確な粒子40個の粒径を測定した。
(i)SEMでの観察
試料台にマイクロスパチュラで溶液を1滴乗せて、105℃で2~3分乾燥させる。得られたサンプルをプラチナコーター(日本電子社製、JFC-1600)により60秒でコートする。
コートした試料を電界放射型走査電子顕微鏡により観察した。測定条件は次のように設定した。(加速電圧15.00kV、WD10mm)
(ii)TEMでの観察
支持膜なしマイクログリッド(日本電子社製、図番規格:CV 200MESH)を使用した。マイクログリッドのセルを分析するスラリーに浸漬させ、セルに付いた余分な水分を飛ばし、ヘアドライヤーで完全に乾燥させた。乾燥させた試料を透過型電子顕微鏡により観察した。
【0067】
(3)熱減量分析
実施例および比較例で得られたシリカ乾燥粉体について熱分析装置(株式会社リガク製、Thermo plas EVO TG 8120)により焼成工程における重量減量分析を行った。測定条件は次のように設定した。(リファレンス:アルミナ、サンプルパン:白金、試料重量:10mg、雰囲気:Air、測定温度範囲:25-1000℃、昇温速度:10.0℃/min)
【0068】
(4)元素分析(ホウ素の含有量及び減少率の算出)
実施例及び比較例で得たシリカ乾燥粉体及びシリカ焼成物(焼成粉)について、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製:型番 ZSX PrimusII)の含有元素スキャニング機能であるEZスキャンにより元素分析を行った。
具体的には、測定サンプル台にプレスしたサンプルをセットし、次の条件を選択(測定範囲:B-U、測定径:30mm、試料形態:金属、測定時間:標準、雰囲気:真空)することで、粉体中のSi含有量及びB含有量を測定した。得られた測定値を酸化物に換算しSiO2およびB2O3含有量を算出した。粉体中のSi含有量及びB含有量に基づいて、粉体中のSiO2換算量とB2O3換算量の和を100重量部とした場合に対するB2O3の含有量(重量部)を算出した。結果を表1に示す。
焼成粉はそれ単体ではプレスしても成型できないため、PVA溶液と混合し造粒させて加圧成型しやすくした。具体的には、焼成粉に対してPVAが0.8~1.5wt%になるように10wt%PVA水溶液を少しずつ添加しながら全体が均一になるまで乳鉢で混合した。混合粉を110℃1時間乾燥し、乳鉢で解砕した。目開き150μm前後のふるいに通して焼成粉のXRF測定サンプルとした。
ホウ素の減少率は、以下の式によって求めた。
ホウ素の減少率(%)=(シリカ乾燥粉体のB2O3の含有量-シリカ焼成物B2O3の含有量)/(シリカ乾燥粉体のB2O3の含有量)×100
【0069】
(5)比表面積(SSA)の測定
実施例および比較例で得られた焼成粉について比表面積測定装置(micromeritics社製、Gemini VII2390)によりBET測定を行った。粉体を秤量して前処理として窒素ガスを充填しながら200℃1時間行った。ここで得られた試料を測定サンプルおよびサンプル量として測定を実施した。
【0070】
(6)比誘電率およびQ値の測定
実施例および比較例で得られた焼成粉について、比誘電率およびQ値(品質係数)を株式会社エーイーティー製の空洞共振器とKeysight Technologies社製のネットワークアナライザ(Keysight Streamline VNA)を使用して測定した。試料は、1GHz測定用ガラスセルに測定粉体をセルの高さ60mmとなるように充填し、1GHzで測定した。
【0071】
2、シリカ乾燥粉体、焼成物の製造
<実施例1>
(i)種粒子(シード)の製造
イオン交換水(5361.5g)とL(+)-アルギニン(和光純薬社製、10.5g)を混合してヒーターを用いて60℃まで加熱する。150rpmで撹拌し、そこに正珪酸エチル(多摩化学社製、628.0g)を添加する。正珪酸エチルを添加してから7時間後に加熱を止め、加熱停止後から約16時間後に回収した。得られたシードスラリー1は透明で沈殿物はなかった。
(ii)シリカ分散体の製造
イオン交換水(1368.5g)と工業用アルコール製剤(甘糟化学産業社製、アルコゾールP-5、1376.1g)とシードスラリー1(997.2g)とを混合させた。さらにL(+)-アルギニン(1.33g)と25%アンモニア水(大盛化工社製、81.0g)を加えてヒーターを用いて溶液温度を55℃とした。その溶液を750rpmにて撹拌し、そこに、正珪酸エチル(675.9g)とホウ酸トリエチル(東京化成工業社製、26.2g)の混合溶液を240分かけて添加した。溶液は徐々に濁りはじめ、最終的に半透明のスラリー1を得た。その後、スラリー1を旭化成製UF膜モジュール「マイクローザ」型式ACP-1013D(限外ろ過膜の分画分子量:13,000)を用いて供給液流量:3660ml/分で、液量に対して6倍水洗することにより、シリカ分散体1を得た。得られたシリカ分散体1中のシリカ粒子はアモルファスであった。
(iii)シリカ乾燥粉体の製造
上記スラリー1を限外濾過により水洗をして分散体を得てから蒸発皿へ移し、105℃で一晩乾燥し、水分を除去し、シリカ乾燥粉体1を得た。
(iv)シリカ焼成物(焼成粉)の製造
上記シリカ乾燥粉体1を乳鉢で解砕し、アルミナ製坩堝に20g充填して、大気雰囲気中で200℃/時で1100℃まで昇温し、そのまま5時間保持後、室温まで降温した。こうして得られた焼成物を乳鉢で解砕し、シリカ焼成物1を得た。得られたシリカ焼成物1はアモルファスであった。また、シリカ乾燥粉体1及びシリカ焼成物1(焼成粉)の元素分析を行いホウ素の減少率を求めたところホウ素の減少率は、8.3%であった。
【0072】
<実施例2>
(i)種粒子(シード)の製造
イオン交換水(5361.5g)とL(+)-アルギニン(和光純薬社製、10.5g)を混合してヒーターを用いて60℃まで加熱する。150rpmで撹拌し、そこに正珪酸エチル(多摩化学社製、628.0g)を添加する。正珪酸エチルを添加してから7時間後に加熱を止め、加熱停止後から約16時間後に回収した。得られたシードスラリー2は透明で沈殿物はなかった。
(ii)シリカ分散体の製造
イオン交換水(1368.5g)と工業用アルコール製剤(甘糟化学産業社製、アルコゾールP-5、1376.1g)とシードスラリー2(997.2g)とを混合させた。さらにL(+)-アルギニン(1.33g)と25%アンモニア水(大盛化工社製、81.0g)を加えてヒーターを用いて溶液温度を55℃とした。その溶液を750rpmにて撹拌し、そこに、正珪酸エチル(675.9g)とホウ酸アンモニウム・八水和物(和光純薬社製、11.3g)6.5質量%水溶液を240分かけて同時添加した。溶液は徐々に濁りはじめ、最終的に半透明のスラリー2を得た。その後、スラリー2を旭化成製UF膜モジュール「マイクローザ」型式ACP-1013D(限外ろ過膜の分画分子量:13,000)を用いて供給液流量:3660ml/分で15質量%前後になるまで濃縮し、液量に対して6倍水洗することにより、シリカ分散体2を得た。得られたシリカ分散体2中のシリカ粒子はアモルファスであった。
次に実施例1の(iii)と同じ操作を行いシリカ乾燥粉体2を得、実施例1の(iv)において1000℃まで昇温する以外は同じ操作を行いシリカ焼成物2を得た。得られたシリカ焼成物2はアモルファスであった。また、シリカ乾燥粉体2及びシリカ焼成物2(焼成粉)の元素分析を行いホウ素の減少率を求めたところホウ素の減少率は、6.5%であった。
【0073】
<実施例3>
(i)種粒子(シード)の製造
実施例1と同様にして種粒子を合成する。
(ii)シリカ分散体の製造
イオン交換水(339.1g)と工業用アルコール製剤(甘糟化学産業社製、アルコゾールP-5、764.5g)とシードスラリー1(554g)とを混合させた。さらにL(+)-アルギニン(0.7g)と25%アンモニア水(大盛化工社製、216.5g)を加えてヒーターを用いて溶液温度を50℃とした。その溶液を180rpmにて撹拌し、そこに、正珪酸エチル(375.5g)とホウ酸トリエチル(東京化成工業社製、14.5g)の混合溶液を240分かけて添加した。溶液は徐々に濁りはじめ、最終的に白濁したスラリーを得た。
次に実施例1の(iii)と同じ操作を行いシリカ乾燥粉体3を得、実施例1の(iv)において1000℃まで昇温する以外は同じ操作を行いシリカ焼成物3を得た。得られたシリカ焼成物3はアモルファスであった。また、シリカ乾燥粉体3及びシリカ焼成物3(焼成粉)の元素分析を行いホウ素の減少率を求めたところ10%であった。
【0074】
<比較例1>
(i)種粒子(シード)の製造
実施例1と同様にして種粒子を合成する。
(ii)シリカ分散体の製造
イオン交換水(6392g)と工業用アルコール製剤(甘糟化学産業社製、アルコゾールP-5、7644g)とシードスラリー1(5540g)とを混合させた。さらにL(+)-アルギニン(7g)と25%アンモニア水(大盛化工社製、1664g)を加えてヒーターを用いて溶液温度を40℃とした。その溶液を120rpmにて撹拌し、そこに、正珪酸エチル(3753g)を240分かけて添加した。溶液は徐々に濁りはじめ、最終的に半透明のスラリーを得た。
次に実施例1の(iii)と同じ操作を行い比較シリカ乾燥粉体1を得、実施例1の(iv)において1000℃まで昇温する以外は同じ操作を行い比較シリカ焼成物1を得た。得られた比較シリカ焼成物1はアモルファスであった。
【0075】
<比較例2>
(i)シリカの製造
正珪酸エチル(119g)と酸化ホウ素(和光純薬社製、2g)を工業用アルコール製剤(甘糟化学産業社製、アルコゾールP-5、1184g)と混合し溶解させる。その溶液を300rpmにて撹拌し、そこに、25%アンモニア水(大盛化工社製、10g)を添加し12時間撹拌する。溶液は徐々に濁りはじめ、最終的に白濁したスラリーを得た。静置すると固形分は沈降した。
次に実施例1の(iii)と同じ操作を行い比較シリカ乾燥粉体2を得、実施例1の(iv)において1000℃まで昇温する以外は同じ操作を行い比較シリカ焼成物2を得た。得られた比較シリカ焼成物2はアモルファスであった。また、シリカ乾燥粉体のホウ素量を測定した結果、ホウ素が検出されなかった。
【0076】
<比較例3>
(i)シリカの製造
ホウ酸(和光純薬社製、9.5g)を純水(101g)に溶解させ、さらに25%アンモニア水(1058g)を添加する。これをA液とする。正珪酸エチル(99.5g)を工業用アルコール製剤(595g)と混合し、B液とする。A液を400rpmにて撹拌し、そこに、B液を添加し30分撹拌する。そこに、25%アンモニア水(1512g)と純水(838g)の混合溶液を加え、18時間撹拌する。溶液は徐々に濁りはじめ、最終的に白濁したスラリーを得た。静置すると固形分は沈降した。スラリーを20μmフィルターでろ過し、ろ液側のスラリーを回収した。
次に実施例1の(iii)と同じ操作を行い比較シリカ乾燥粉体3を得、実施例1の(iv)において1000℃まで昇温する以外は同じ操作を行い比較シリカ焼成物3を得た。得られた比較シリカ焼成物3はアモルファスであった。また、シリカ乾燥粉体のホウ素量を測定した結果、ホウ素が検出されなかった。
【0077】
<比較例4>
(i)種粒子(シード)の製造
実施例1と同様にして種粒子を合成する。
(ii)シリカ分散体の製造
イオン交換水(456.2g)と工業用アルコール製剤(甘糟化学産業社製、アルコゾールP-5、458.7g)とシードスラリー1(332.4g)とを混合させた。さらに25%アンモニア水(大盛化工社製、81.0g)を加えてヒーターを用いて溶液温度を45℃とした。その溶液を490rpmにて撹拌し、そこに、正珪酸エチル(225.3g)とホウ酸トリエチル(東京化成工業社製、23.4g)の混合溶液を240分かけて添加した。溶液は徐々に濁りはじめ、最終的に半透明のスラリーを得た。
次に実施例1の(iii)と同じ操作を行い比較シリカ乾燥粉体4を得、実施例1の(iv)において1000℃まで昇温する以外は同じ操作を行い比較シリカ焼成物4を得た。得られた比較シリカ焼成物4はアモルファスであった。また、シリカ乾燥粉体4及びシリカ焼成物4(焼成粉)の元素分析を行いホウ素の減少率を求めたところホウ素の減少率は、11%であった。
【0078】
実施例1~3、比較例1~4における原料組成及び得られたシリカ乾燥粉体及びシリカ焼成物の各種物性を表1に示す。
【0079】
【0080】
実施例1~3で得られたシリカ乾燥粉体1~3は、焼成後のSSAの値が小さく、低温焼結性に優れることが明らかとなった。
実施例1で得られた乾燥粉体1、比較例1、2で得られた比較乾燥粉体1、2について、熱減量分析によるTG分析結果を
図1に、DTA分析結果を
図2に示す。
熱減量分析の結果、本願実施例1のシリカ乾燥粉体は、加熱による重量減少は確認されなかった。比較例2の重量減少は加水分解が完了しないまま縮合し粒子形成なされたために原料の有機部が残存したものであると考えられる。このことから、実施例1では十分に加水分解され、不純物が少ないシリカ粒子が生成されていることが示唆されている。
【0081】
MLCCのHALT試験
実施例1と比較例1で得られた粉体をMLCC材料として使用し,HALT試験に供した。MLCCはBaTiO
3を主剤とし、実施例1と比較例1で得られた粉体をBaTiO
3に対して0.1重量%の割合で添加し作成した。ドーパントとしてY-Dy-Mg-Mn-V系を使用した。MLCCの形状は3225サイズで層間厚みは3μmとした。
作製したMLCCを用いてHALT試験を実施した。HALT試験では印加電圧は全て40(V/μm)一定とし、加速温度140℃、加速電圧128Vの条件で評価した。
結果を表2および
図3に示す。表2および
図3から明らかなように,実施例1に記載のホウ素含有シリカは優れた平均故障時間(MTTF)を示した。
【0082】
【要約】
本発明は、従来よりも、低温焼結性に優れるホウ素含有非晶質シリカ粉体を提供する。
本発明は、ホウ素原子を含む非晶質シリカ粉体であって、該ホウ素含有非晶質シリカ粉体は、透過型電子顕微鏡写真において無作為に選んだ40個の粒子によって求めた平均粒子径が10~100nmであり、下記の条件で焼成したときのホウ素含有量の減少率が10質量%以下であることを特徴とするホウ素含有非晶質シリカ粉体である。
<焼成条件>
乾燥物5~10gをアルミナ製坩堝に充填して、大気雰囲気中で200℃/時で1000~1100℃まで昇温し、そのまま5時間保持後、室温まで降温する。