(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】ランフラットタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 17/00 20060101AFI20220802BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20220802BHJP
B60C 3/00 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
B60C17/00 B
B60C1/00 Z
B60C3/00 Z
(21)【出願番号】P 2021575801
(86)(22)【出願日】2021-02-02
(86)【国際出願番号】 JP2021003701
(87)【国際公開番号】W WO2021157561
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2020016505
(32)【優先日】2020-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 大地
(72)【発明者】
【氏名】中島 郭葵
【審査官】橋本 有佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/109661(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/155992(WO,A1)
【文献】特開2014-31400(JP,A)
【文献】特開2007-69775(JP,A)
【文献】特開平8-53502(JP,A)
【文献】特開平4-59403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 17/00
B60C 1/00
B60C 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイドウォール部にサイド補強層を備えたランフラットタイヤであって、
前記サイド補強層を構成するゴム組成物は、100℃における複素弾性率(E*
100)が5.0~17.0MPa、かつ60℃における損失正接(60℃tanδ)が0.020~0.100であり、
タイヤ断面幅をWt(mm)、タイヤ外径をDt(mm)としたとき、WtおよびDtが、下記式(1)、(2)、または(3)のいずれかを満たすランフラットタイヤ。
Wt<225 かつ Dt≧59.078×Wt^0.460 ・・・(1)
225≦Wt<235 かつ Dt≧59.078×Wt^0.620-967.673 ・・・(2)
235≦Wt かつ Dt≧Wt^0.6+750 ・・・(3)
【請求項2】
前記ゴム組成物の100℃における複素弾性率(E*
100)が7.0~12.0MPaである、請求項1記載のランフラットタイヤ。
【請求項3】
前記ゴム組成物の60℃における損失正接(60℃tanδ)が0.025~0.070である、請求項1または2記載のランフラットタイヤ。
【請求項4】
前記ゴム組成物がイソプレン系ゴムを含むゴム成分を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のランフラットタイヤ。
【請求項5】
前記ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対し、補強用充填剤を20~60質量部含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のランフラットタイヤ。
【請求項6】
前記ゴム組成物が有機架橋剤を含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のランフラットタイヤ。
【請求項7】
タイヤ断面幅Wt(mm)に対する前記ゴム組成物の60℃における損失正接(60℃tanδ)の比(60℃tanδ/Wt)が4.5×10
-4未満である、請求項1~6のいずれか一項に記載のランフラットタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はランフラットタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、従来よりもタイヤの接地幅に対して、タイヤの外径を大きくすることで低燃費性を向上させたタイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような幅狭・大径のタイヤとする技術をランフラットタイヤへと転用する場合、タイヤが装着されるスペースを加味して従来のタイヤと同等の扁平率で外径が近いタイヤを設計すると、タイヤ外径に対するサイドウォール部の高さが低くなることにより、低くなったサイドウォール部に歪みが集中するため、ランフラット耐久性能については満足のいく結果が得られないことが懸念される。
【0005】
一方、タイヤ断面幅を等しくした場合には、タイヤ外径が大きくなることに伴い、サイド部の体積が増えることとなり、転がり抵抗に対する補強層を含めたサイド部の寄与が大きくなることから、低燃費性能の悪化が懸念される。
【0006】
本発明は、ランフラット耐久性能および低燃費性能がバランスよく改善されたランフラットタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、タイヤの断面幅およびタイヤの外径が所定の要件を満たすランフラットタイヤにおいて、サイドウォール部に備えたサイド補強層の粘弾性を特定の条件とすることにより、ランフラット耐久性能および低燃費性能がバランスよく改善されたランフラットタイヤが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
〔1〕サイドウォール部にサイド補強層を備えたランフラットタイヤであって、前記サイド補強層を構成するゴム組成物は、100℃における複素弾性率(E*100)が5.0~17.0MPa、かつ60℃における損失正接(60℃tanδ)が0.020~0.100であり、タイヤ断面幅をWt(mm)、タイヤ外径をDt(mm)としたとき、WtおよびDtが、下記式(1)、(2)、または(3)のいずれかを満たすランフラットタイヤ、
Wt<225 かつ Dt≧59.078×Wt^0.460 ・・・(1)
225≦Wt<235 かつ Dt≧59.078×Wt^0.620-967.673 ・・・(2)
235≦Wt かつ Dt≧Wt^0.6+750 ・・・(3)
〔2〕前記ゴム組成物の100℃における複素弾性率(E*100)が7.0~12.0MPaである、上記〔1〕記載のランフラットタイヤ、
〔3〕前記ゴム組成物の60℃における損失正接(60℃tanδ)が0.025~0.070である、上記〔1〕または〔2〕記載のランフラットタイヤ、
〔4〕前記ゴム組成物がイソプレン系ゴムを含むゴム成分を含有する、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のランフラットタイヤ、
〔5〕前記ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対し、補強用充填剤を20~60質量部含有する、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のランフラットタイヤ、
〔6〕前記ゴム組成物が有機架橋剤を含有する、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のランフラットタイヤ、
〔7〕タイヤ断面幅Wt(mm)に対する前記ゴム組成物の60℃における損失正接(60℃tanδ)の比(60℃tanδ/Wt)が4.5×10-4未満である、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のランフラットタイヤ、に関する。
【発明の効果】
【0009】
タイヤの断面幅およびタイヤの外径が所定の要件を満たし、かつサイドウォール部に備えたサイド補強層の粘弾性を特定の条件とした本発明のランフラットタイヤは、ランフラット耐久性能および低燃費性能がバランスよく改善される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示のランフラットタイヤの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示のランフラットタイヤは、タイヤ断面幅をWt(mm)、タイヤ外径をDt(mm)としたとき、WtおよびDtが、下記式(1)、(2)、または(3)のいずれかを満たす。
Wt<225 かつ Dt≧59.078×Wt^0.460 ・・・(1)
225≦Wt<235 かつ Dt≧59.078×Wt^0.620-967.673 ・・・(2)
235≦Wt かつ Dt≧Wt^0.6+750 ・・・(3)
【0012】
前記の関係式を満たす狭幅・大径のランフラットタイヤにおいて、サイド補強層を構成するゴム組成物の100℃における複素弾性率(E*100)を5.0~17.0MPa、かつ60℃における損失正接(60℃tanδ)を0.020~0.100とすることにより、得られたランフラットタイヤは、ランフラット耐久性能および低燃費性能がバランスよく改善される。その理由については、理論に拘束されることは意図しないが、以下のように考えられる。
【0013】
前記ゴム組成物の100℃における複素弾性率(E*100)および60℃における損失正接(60℃tanδ)が上記の要件を満たすことで、タイヤ断面幅およびタイヤ外径が上記の要件を満たすタイヤにおいて、サイド部の高さが低くなり局所的な歪みが生じる場合に、その変形を緩和するとともに発熱性を低減させることができ、ランフラット性能を高めることが可能となる。また、通常走行時においてもサイド部の変形による発熱性を低下させることが可能となるため、ランフラット耐久性能と低燃費性能をバランスよく向上させることができると考えられる。
【0014】
前記ゴム組成物は、操縦安定性の観点から、初期歪10%、動歪1%、周波数10Hzの条件下で、100℃における複素弾性率(E*100)が5.0MPa以上であり、5.5MPa以上が好ましく、6.0MPa以上がより好ましく、6.5MPa以上がさらに好ましく、7.0MPa以上がさらに好ましく、7.5MPa以上が特に好ましい。また、E*100は、歪みの緩和性の観点から、17.0MPa以下であり、16.0MPa以下が好ましく、15.0MPa以下がより好ましく、14.0MPa以下がさらに好ましく、12.0MPa以下がさらに好ましく、11.0MPa以下が特に好ましい。
【0015】
前記ゴム組成物は、静粛性の観点から、初期歪10%、動歪1%、周波数10Hzの条件下で、60℃tanδが0.020以上であり、0.022以上が好ましく、0.025以上がより好ましい。また、60℃tanδは、発熱性の観点から、0.100以下であり、0.095以下が好ましく、0.090以下がより好ましく、0.075以下がさらに好ましく、0.065以下がさらに好ましく、0.055以下がさらに好ましく、0.049以下がさらに好ましく、0.044以下が特に好ましい。
【0016】
前記ゴム組成物は、イソプレン系ゴムを含むゴム成分を含有することが好ましい。イソプレン系を含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、25質量%以上が特に好ましい。また、該含有量は、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましく、50質量%以下が特に好ましい。
【0017】
前記ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対し、補強用充填剤を20~60質量部含有することが好ましい。
【0018】
前記ゴム組成物は、有機架橋剤を含有することが好ましく、硫黄原子を含む有機架橋剤を含有することがより好ましく、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物を含有することがさらに好ましい。有機架橋剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましい。また、該含有量は、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
【0019】
本開示のランフラットタイヤは、タイヤ断面幅Wt(mm)に対する前記ゴム組成物の60℃における損失正接(60℃tanδ)の比(60℃tanδ/Wt)が4.5×10-4未満であることが好ましく、4.0×10-4未満であることがより好ましく、3.5×10-4未満であることがさらに好ましい。タイヤ断面幅Wtが小さくなるに伴い、サイド部での変形による発熱の影響が大きくなるが、同時に60℃tanδも低減させるようにすることで、ランフラット耐久性能および低燃費性能をバランスよく向上させることができると考えられる。なお、60℃tanδ/Wtの下限値は特に限定されないが、1.0×10-4超が好ましい。
【0020】
なお、本明細書において、「タイヤ断面幅」とは、正規状態において、タイヤ側面に模様または文字などがある場合にはそれらを除いたものとしてのサイドウォール外面間の最大幅である。「タイヤ外径」とは、正規状態におけるタイヤの外径である。また、「タイヤ断面高さ」とは、正規状態におけるタイヤ断面高さであり、前記タイヤ外径とリム径(mm)の呼びとの差(タイヤ外径Dt(mm)-リム径(mm))の1/2である。
【0021】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、JATMAであれば“標準リム”、TRAであれば“Design Rim”、ETRTOであれば“Measuring Rim”である。なお、前記の規格体系において定めを持たないサイズのタイヤの場合は、そのタイヤにリム組可能であり、リム/タイヤの間でエア漏れを発生させない最小径のリムのうち、最も幅の狭いものを指すものとする。
【0022】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば“最高空気圧”、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”である。なお、前記の規格体系において定めを持たないサイズのタイヤの場合は、正規内圧を250kPaとする。
【0023】
「正規状態」は、タイヤが正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。なお、前記の規格体系において定めを持たないサイズのタイヤの場合は、そのタイヤが前記の最小リムにリム組みされかつ250kPaが充填され、しかも、無負荷の状態をいうものとする。
【0024】
「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば“最大負荷能力”、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”である。なお、前記の規格体系において定めを持たないサイズのタイヤの場合、正規荷重WL(kg)は、正規状態で測定されたタイヤ断面幅をWt(mm)、タイヤ断面高さをH1(mm)、タイヤ外径をDt(mm)としたとき、下記式(4)および(5)により見積もることが可能である。
V={(Dt/2)2-(Dt/2-H1)2}×π×Wt ・・・(4)
WL=0.000011×V+175 ・・・(5)
【0025】
「最大負荷能力」は、JATMA規格で定められる使用条件下で、そのロードインデックス(LI)を有するタイヤに対応する最高空気圧(kPa)を充填した時の負荷能力値(kg)である。
【0026】
本開示の一実施形態であるサイド補強層を含むタイヤの作製手順について、以下に詳細に説明する。但し、以下の記載は本開示を説明するための例示であり、本発明の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を示す場合、その両端の数値を含むものとする。
【0027】
<ゴム成分>
本開示に係るサイド補強層を構成するゴム組成物(以下、本開示のゴム組成物という)は、ゴム成分としてイソプレン系ゴムを含有することが好ましく、イソプレン系ゴムおよびブタジエンゴム(BR)を含有することがより好ましい。またゴム成分は、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、およびスチレンブタジエンゴム(SBR)を含有してもよい。
【0028】
(イソプレン系ゴム)
イソプレン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)および天然ゴム等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。天然ゴムには、非改質天然ゴム(NR)の他に、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム、グラフト化天然ゴム等の改質天然ゴム等も含まれる。これらのイソプレン系ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
NRとしては、特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを用いることができ、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20等が挙げられる。
【0030】
イソプレン系を含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、複素弾性率の観点から、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、25質量%以上が特に好ましい。一方、サイド部での減衰性の確保の観点からは、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましく、50質量%以下が特に好ましい。
【0031】
(SBR)
SBRとしては特に限定はなく、溶液重合SBR(S-SBR)、乳化重合SBR(E-SBR)、これらの変性SBR(変性S-SBR、変性E-SBR)等が挙げられる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性されたSBR、スズ、ケイ素化合物等でカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するもの等)等が挙げられる。なかでも、低燃費性能および耐摩耗性能を良好に改善できるという点から、S-SBRおよび変性SBRが好ましい。さらに、これらSBRの水素添加物(水素添加SBR)等も使用することができる。これらのSBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
本開示で使用できるS-SBRとしては、JSR(株)、住友化学(株)、宇部興産(株)、旭化成(株)、ZSエラストマー(株)等によって製造販売されるS-SBRが挙げられる。
【0033】
SBRのスチレン含量は、サイド部での減衰性の確保の観点から、15質量%以上が好ましく、20質量%以上より好ましい。また、発熱に伴う耐久性能の観点からは、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。なお、本明細書において、SBRのスチレン含量は、1H-NMR測定により算出される。
【0034】
SBRのビニル含量は、シリカとの反応性の担保、ゴム強度の観点から、10モル%以上が好ましく、13モル%以上がより好ましく、16モル%以上がさらに好ましい。また、SBRのビニル含量は、破断伸びおよび耐摩耗性能の観点から、70モル%以下が好ましく、65モル%以下がより好ましく、60モル%以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、SBRのビニル含量(1,2-結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定される。
【0035】
SBRの重量平均分子量(Mw)は、ゴム強度の観点から、15万以上が好ましく、20万以上がより好ましく、25万以上がさらに好ましい。また、Mwは、加工性の観点から、250万以下が好ましく、200万以下がより好ましい。なお、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製のGPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTIPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0036】
SBRを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、サイド部での減衰性の確保の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。また、サイド部の発熱抑制の観点からは、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましい。
【0037】
(BR)
BRとしては特に限定されるものではなく、例えば、シス含量(シス-1,4結合含量)が50質量%未満のBR(ローシスBR)、シス含量が90質量%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。これらのBRは、宇部興産(株)、住友化学(株)、JSR(株)、ランクセス(株)等より市販されているものを使用することができる。これらのBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
希土類系BRは、タイヤ工業において一般的に用いられているもの使用することができる。希土類系BRの合成(重合)に使用する希土類元素系触媒は、公知のものを使用でき、例えば、ランタン系列希土類元素化合物、有機アルミニウム化合物、アルミノキサン、ハロゲン含有化合物、必要に応じてルイス塩基を含む触媒が挙げられる。なかでも、高シス含量、低ビニル含量のBRが得られる観点から、ランタン系列希土類元素化合物としてネオジム(Nd)含有化合物を用いたNd系触媒が好ましい。
【0039】
SPB含有BRは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散しているものが挙げられる。
【0040】
変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合を行ったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)や、ブタジエンゴムの活性末端に縮合アルコキシシラン化合物を有するブタジエンゴム(シリカ用変性BR)等が挙げられる。
【0041】
BRの重量平均分子量(Mw)は、ゴム強度の観点から、30万以上が好ましく、35万以上がより好ましく、40万以上がさらに好ましい。また、加工性の観点からは、200万以下が好ましく、100万以下がより好ましい。なお、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製のGPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTIPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0042】
BRを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、耐亀裂性の観点から、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましく、50質量%以上が特に好ましい。また、加工性の観点からは、80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましく、65質量%以下が特に好ましい。
【0043】
(その他のゴム成分)
本開示のゴム成分として、前記のイソプレン系ゴム、SBRおよびBR以外のゴム成分を含有してもよい。他のゴム成分としては、タイヤ工業で一般的に用いられる架橋可能なゴム成分を用いることができ、例えば、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等が挙げられる。これらその他のゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
<補強用充填剤>
本開示のゴム組成物は、補強用充填剤として、カーボンブラックを含有することが好ましく、さらにシリカやその他の補強用充填剤を含有してもよい。補強用充填剤は、カーボンブラックのみからなる補強用充填剤としてもよく、カーボンブラックおよびシリカのみからなる補強用充填剤としてもよい。
【0045】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては特に限定されず、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等、タイヤ工業において一般的なものを使用でき、具体的にはN110、N115、N120、N125、N134、N135、N219、N220、N231、N234、N293、N299、N326、N330、N339、N343、N347、N351、N356、N358、N375、N539、N550、N582、N630、N642、N650、N660、N683、N754、N762、N765、N772、N774、N787、N907、N908、N990、N991等を好適に用いることができ、これ以外にも自社合成品等も好適に用いることができる。これらのカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、耐候性や補強性の観点から、10m2/g以上が好ましく、20m2/g以上がより好ましく、30m2/g以上がさらに好ましい。また、分散性および低燃費性能の観点からは、250m2/g以下が好ましく、200m2/g以下がより好ましく、150m2/g以下がさらに好ましく、90m2/g以下がさらに好ましく、70m2/g以下がさらに好ましく、50m2/g以下が特に好ましい。なお、本明細書におけるカーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217-2「ゴム用カーボンブラック基本特性-第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」のA法に準じて測定される値である。
【0047】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、耐候性や補強性の観点から、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましい。また、サイド部の発熱抑制の観点からは、70質量部以下が好ましく、60質量部以下がより好ましく、50質量部以下がさらに好ましく、40質量部以下が特に好ましい。
【0048】
(シリカ)
シリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。これらのシリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、補強性およびサイドウォール部での減衰性の確保の観点から、140m2/g以上が好ましく、150m2/g以上がより好ましく、160m2/g以上がさらに好ましく、170m2/g以上が特に好ましい。また、発熱性および加工性の観点からは、350m2/g以下が好ましく、300m2/g以下がより好ましく、250m2/g以下がさらに好ましい。なお、本明細書におけるシリカのN2SAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0050】
シリカの平均一次粒子径は、20nm以下が好ましく、18nm以下がより好ましい。該平均一次粒子径の下限は特に限定されないが、1nm以上が好ましく、3nm以上がより好ましく、5nm以上がさらに好ましい。シリカの平均一次粒子径が前期の範囲であることによって、シリカの分散性をより改善でき、補強性、破壊特性、耐摩耗性をさらに改善できる。なお、シリカの平均一次粒子径は、透過型または走査型電子顕微鏡により観察し、視野内に観察されたシリカの一次粒子を400個以上測定し、その平均により求めることができる。
【0051】
シリカを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、サイド部での減衰性の確保の観点から、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましい。また、ゴムの比重を低減させ軽量化を図る観点、およびサイド部での発熱抑制の観点からは、70質量部以下が好ましく、60質量部以下がより好ましく、50質量部以下がさらに好ましく、40質量部以下が特に好ましい。
【0052】
(その他の補強用充填剤)
シリカおよびカーボンブラック以外の補強用充填剤としては、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルク等、従来からタイヤ工業において一般的に用いられているものを配合することができる。
【0053】
補強用充填剤のゴム成分100質量部に対する合計含有量は、補強性の観点から、20質量部以上が好ましく、25質量部以上がより好ましく、30質量部以上がさらに好ましい。また、サイド部での発熱抑制の観点からは、100質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましく、60質量部以下がさらに好ましく、50質量部以下が特に好ましい。
【0054】
(シランカップリング剤)
シランカップリング剤としては、特に限定されず、タイヤ工業において、従来シリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができるが、例えば、下記のメルカプト基を有するシランカップリング剤;ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド基を有するシランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル基を有するシランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系のシランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系のシランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系のシランカップリング剤等が挙げられる。なかでも、スルフィド基を有するシランカップリング剤および/またはメルカプト基を有するシランカップリング剤が好ましく、スルフィド基を有するシランカップリング剤がより好ましい。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
メルカプト基を有するシランカップリング剤は、下記式(1)で表される化合物、および/または下記式(2)で表される結合単位Aと下記式(3)で表される結合単位Bとを含む化合物であることが好ましい。
【化1】
(式中、R
101、R
102、およびR
103は、それぞれ独立して、炭素数1~12のアルキル、炭素数1~12のアルコキシ、または-O-(R
111-O)
z-R
112(z個のR
111は、それぞれ独立して、炭素数1~30の2価の炭化水素基を表し;R
112は、炭素数1~30のアルキル、炭素数2~30のアルケニル、炭素数6~30のアリール、または炭素数7~30のアラルキルを表し;zは、1~30の整数を表す。)で表される基を表し;R
104は、炭素数1~6のアルキレンを表す。)
【化2】
【化3】
(式中、xは0以上の整数を表し;yは1以上の整数を表し;R
201は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシルもしくはカルボキシルで置換されていてもよい炭素数1~30のアルキル、炭素数2~30のアルケニル、または炭素数2~30のアルキニルを表し;R
202は、炭素数1~30のアルキレン、炭素数2~30のアルケニレン、または炭素数2~30のアルキニレンを表し;ここにおいて、R
201とR
202とで環構造を形成してもよい。)
【0056】
式(1)で表される化合物としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシランや、下記式(4)で表される化合物(エボニックデグサ社製のSi363)等が挙げられ、下記式(4)で表される化合物を好適に使用することができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【化4】
【0057】
式(2)で示される結合単位Aと式(3)で示される結合単位Bとを含む化合物としては、例えば、モメンティブ社等より製造販売されているものが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
シランカップリング剤を含有する場合のシリカ100質量部に対する含有量は、シリカの分散性を高める観点から、1.0質量部以上が好ましく、3.0質量部以上がより好ましく、5.0質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の低下を防止する観点からは、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。
【0059】
<熱硬化性樹脂>
本開示のゴム組成物は、良好な硬さと発熱性を得る目的で、熱硬化性樹脂を含有してもよい。熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、カシューオイル変性フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、変性レゾルシノール樹脂、クレゾール樹脂、変性クレゾール樹脂等が挙げられ、カシューオイル変性フェノール樹脂が好ましい。これらの熱硬化性樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。熱硬化性樹脂を配合することにより、複素弾性率を向上させることができる。
【0060】
カシューオイル変性フェノール樹脂は、例えば、フェノールと、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラール等のアルデヒド類とを酸またはアルカリ触媒で反応させることにより得られるフェノール樹脂を、カシューオイルを用いて変性した樹脂である。
【0061】
レゾルシノール樹脂としては、例えば、レゾルシノール・ホルムアルデヒド縮合物が挙げられる。変性レゾルシノール樹脂としては、例えば、レゾルシノール樹脂の繰り返し単位の一部をアルキル化したものが挙げられる。
【0062】
クレゾール樹脂としては、例えば、クレゾール・ホルムアルデヒド縮合物が挙げられる。変性クレゾール樹脂としては、例えば、クレゾール樹脂の末端のメチル基を水酸基に変性したもの、クレゾール樹脂の繰り返し単位の一部をアルキル化したものが挙げられる。
【0063】
熱硬化性樹脂を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、複素弾性率およびランフラット耐久性能の観点から、5質量部以上が好ましく、8質量部以上がより好ましい。また、熱硬化性樹脂の含有量は、低燃費性能、破断時伸び、加工性(シート圧延性)およびランフラット耐久性能の観点から、20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。
【0064】
熱硬化性樹脂を硬化させるための硬化剤としては、特に限定されないが、例えば、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサメトキシメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテル(HMMPME)の部分縮合物等が挙げられる。硬化剤を配合することにより、熱硬化性樹脂の硬度をより上昇させ、低燃費性能を向上させることができる。これらの硬化剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
前記の硬化剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、複素弾性率の観点から、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましい。また、破断時伸びの観点からは、15質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、8質量部以下がさらに好ましく、6質量部以下がさらに好ましく、4質量部以下が特に好ましい。
【0066】
<その他の配合剤>
本開示のゴム組成物には、前記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤、例えば、オイル、ワックス、熱硬化性樹脂以外の樹脂成分、加工助剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、架橋剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0067】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、動物油脂等が挙げられる。前記プロセスオイルとしてはパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等が挙げられる。また、環境対策で多環式芳香族(polycyclic aromatic compound:PCA)化合物の含量の低いプロセスオイルが挙げられる。前記低PCA含量プロセスオイルとしては、オイル芳香族系プロセスオイルを再抽出したTreated Distillate Aromatic Extract(TDAE)、アスファルトとナフテン油の混合油であるアロマ代替オイル、軽度抽出溶媒和物(mild extraction solvates:MES)、および重ナフテン系オイル等が挙げられる。
【0068】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましい。また、低燃費性能および複素弾性率の観点からは、25質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい、10質量部以下が特に好ましい。100℃における複素弾性率(E*100)は、オイルの配合量により調整することができる。なお、本明細書において、オイルの含有量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0069】
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、加硫速度の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0070】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0071】
架橋剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0072】
架橋剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保する観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。また、劣化防止の観点からは、7.0質量部以下が好ましく、6.0質量部以下がより好ましく、5.0質量部以下がさらに好ましい。
【0073】
硫黄以外の架橋剤としては、例えば、田岡化学工業(株)製のタッキロールV200(アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物)、フレクシス社製のDURALINK HTS(1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物)、ランクセス(株)製のKA9188(1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)等の硫黄原子を含む有機架橋剤や、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物等が挙げられる。なかでも、硫黄原子を含む有機架橋剤(特にアルキルフェノール・塩化硫黄縮合物)は、60℃におけるtanδを低下させるために好適に使用される。
【0074】
硫黄以外の架橋剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保する観点から、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましい。また、該含有量は、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
【0075】
加硫促進剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、およびキサンテート系の各加硫促進剤が挙げられ、なかでも、所望の効果がより好適に得られる点から、スルフェンアミド系加硫促進剤が好ましい。これらの加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、CBS(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)、TBBS(N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等が挙げられ、CBSまたはTBBSが好ましい。
【0077】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。また、該含有量は、8質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、6質量部以下がさらに好ましい。
【0078】
本開示のゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロール等の一般的なタイヤ工業で使用される公知の混練機で、前記各成分のうち、加硫剤および加硫促進剤以外の成分を混練りした後、これに、加硫剤および加硫促進剤を加えてさらに混練りし、その後加硫する方法等により製造できる。例えば、混練工程では、80℃~170℃で1分間~30分間混練りし、加硫工程では、130℃~190℃で3分間~20分間加硫する。
【0079】
[ランフラットタイヤ]
本開示のゴム組成物は、ランフラットタイヤのサイド補強層として用いられる。ここで、サイド補強層とは、ランフラットタイヤのサイドウォール部の内側に配置されたゴム層のことをいい、ランフラットタイヤにおいてサイド補強層が存在することで、空気圧が失われた状態でも車輌を支えることができ、優れたランフラット耐久性を付与することができる。
【0080】
図1は、本開示に係るランフラットタイヤの断面図の右半分を示す。なお、
図1は、バンド層等、一部不要な構成を省略した模式図である。
図1において、サイド補強層8はタイヤカーカスプライ3の内側に接してビード部7からショルダー部にわたって配置される。また、サイド補強層8はカーカスプライ本体部分とその折返し部の間にビード部7からトレッド部5にわたって配置される、あるいは複数のカーカスプライまたは補強プライの間に2層に配置される。サイド補強層8は、横断面形状が上下方向の両端に向かうにつれて厚さが漸減する略三日月状をなして配置されているが、この形状に限定されない。
【0081】
上記ゴム組成物から構成されるサイド補強層を備えたタイヤは、通常の方法により製造することができる。すなわち、ゴム成分に対して上記各成分を必要に応じて配合した未加硫のゴム組成物を、サイド補強層8の形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを製造することができる。
【0082】
図1において矢印H1で示されているのは、ベースライン10とトレッド表面のセンター位置とでなすタイヤ断面の高さである。このベースライン10は、ビードコア6の、タイヤ半径方向における最も内側地点を通過する。このベースライン10は、タイヤ軸方向に延びている。
【0083】
タイヤ断面高さH1(mm)に対するサイド補強層の高さH2(mm)の比(H2/H1)は特に限定されないが、30~90%が好ましく、40~80%がより好ましい。
【0084】
なお、前記タイヤ断面高さH1およびサイド補強層の高さH2は、正規状態におけるそれぞれのタイヤ半径方向での高さであり、簡易的にはタイヤを厚さ2~4cmで半径方向に切り出したもののビード部をリム幅に合わせて押さえつけた状態にすることで測定することができる。
【実施例】
【0085】
以下、本開示を実施例に基づいて説明するが、本開示はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0086】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
NR:TSR20
BR1:日本ゼオン(株)製のBR1250H(スズ変性BR、開始剤としてリチウムを用いて重合、シス-1,4結合含量:40質量%、Mw:57万)
BR2:JSR(株)製のBR730(Nd系触媒を用いて合成したBR、シス-1,4結合含量:96.6質量%、Mw:58万)
SBR:JSR(株)製のSBR1502(E-SBR、スチレン含量:23.5質量%、ビニル含量:18モル%、Mw:42万)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN550(N2SA:42m2/g、DBP:113mL/g)
シリカ:エボニックデグサ社製のULTRASIL(登録商標)VN3(N2SA:175m2/g、平均一次粒子径:17nm)
シランカップリング剤:エボニックデグサ社製のSi75(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
オイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスAH-24
熱硬化性樹脂:住友ベークライト(株)製のPR12686(カシューオイル変性フェノール樹脂、軟化点:100℃)
硬化剤:田岡化学工業(株)製のスミカノール507AP(変性エーテル化メチロールメラミン樹脂(ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテル(HMMPME)の部分縮合物)、シリカおよびオイルを合計35質量%含有)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
硫黄:日本乾溜工業(株)製のセイミサルファー(二硫化炭素による不溶物60%以上の不溶性硫黄、オイル分:5質量%、表1の値は純硫黄分量)
有機架橋剤:田岡化学工業(株)製のタッキロールV200(アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物)
加硫促進剤:三新化学工業(株)製のサンセラーNS-G(N-(tert-ブチル)-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS))
【0087】
(実施例および比較例)
表1に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度150~160℃になるまで1~10分間混練りし、混練物を得た。次に、2軸オープンロールを用いて、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
【0088】
表1に示す配合の未加硫ゴム組成物を、所定の形状の口金を備えた押し出し機でサイド補強層の形状に押し出し成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で12分間プレス加硫することにより、表2に示すタイヤサイズ、タイヤ断面幅、およびタイヤ外径を有する試験用タイヤ1~6をそれぞれ製造、準備した。
【0089】
得られた試験用タイヤについて下記の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0090】
<サイド補強層の複素弾性率E*および損失正接tanδの測定>
各試験用タイヤのサイド補強層から、タイヤ断面視において、タイヤの高さおよび幅の中央部付近を採取し、幅4mm、厚さ2mm、長さ40mmとなるように粘弾性測定サンプルを切り出した。なお、ここにおいて長さ方向はタイヤ周方向であり、幅方向、厚さ方向はタイヤの幅方向、高さ方向に対して任意に決定することができる。得られた各サンプルにつき、GABO社製のEPLEXOR(登録商標)を用いて、60℃、初期歪10%、動歪1%、周波数10Hzの条件下で損失正接tanδを測定した。また、得られた各サンプルにつき、100℃、初期歪10%、動歪1%、周波数10Hzの条件下で複素弾性率E*を測定した。なお、各タイヤについて、粘弾性の測定はタイヤ幅方向両側のサイド部にて実施し、表1中に記載の粘弾性の値は、各試験用タイヤの両側のサイド部で測定した結果の平均値である。
【0091】
<ランフラット耐久性能>
タイヤをリムに組み込み、内圧を250kPaで3時間放置し、タイヤの寸法を測定した。試験は25℃±3℃の条件下で、リムのバルブコアを外した状態で、試験用タイヤ1~3については3.62Nの負荷荷重、試験用タイヤ4~6については6.60Nの負荷荷重をかけた状態で、時速80kmでφ2.0mのドラム上を走行させた。走行中のタイヤ高さの変位率が20%超もしくはタイヤから煙が発生した時点で、損傷したと見なし、それまでの走行時間を基準比較例(表3および表4では比較例1、表5および表6では比較例9)を100として指数表示した。指数が大きいほどランフラット耐久性能が良好であることを示す。
【0092】
<低燃費性能>
試験用タイヤ1~3は最大負荷能力を615kg、試験用タイヤ4~6は最大負荷能力を1120kgとし、その他の条件はJIS D 4234:2009に準拠して各試験タイヤの転がり抵抗係数を測定した。転がり抵抗係数の逆数の値を、基準比較例(表3および表4では比較例1、表5および表6では比較例9)を100として指数表示した。指数が大きいほど転がり抵抗が小さく、低燃費性能が良好であることを示す。
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
表1~表6の結果より、タイヤの断面幅およびタイヤの外径が所定の要件を満たし、かつサイドウォール部に備えたサイド補強層の粘弾性を特定の条件とした本開示のランフラットタイヤは、ランフラット耐久性能および低燃費性能がバランスよく改善されていることがわかる。
【符号の説明】
【0100】
1・・・ランフラットタイヤ
3・・・カーカスプライ
5・・・トレッド部
6・・・ビードコア
7・・・ビード部
8・・・サイド補強層
10・・・ベースライン
H1・・・タイヤ断面高さ
H2・・・サイド補強層高さ