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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】燃料電池システム及び電動車両
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20220802BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20220802BHJP
   H01M 8/043 20160101ALI20220802BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20220802BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20220802BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20220802BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20220802BHJP
   B01J 23/62 20060101ALI20220802BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20220802BHJP
【FI】
H01M8/04 J
H01M8/00 Z
H01M8/043
H01M8/04537
H01M8/04746
H01M4/86 B
H01M8/00 A
B60L50/60
B01J23/62 M
H01M8/10 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018149749
(22)【出願日】2018-08-08
(65)【公開番号】P2020024889
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】竹井 力
(72)【発明者】
【氏名】水下 佳紀
(72)【発明者】
【氏名】平光 雄介
(72)【発明者】
【氏名】内田 誠
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 克良
【審査官】西井 香織
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-137887(JP,A)
【文献】特開2006-331672(JP,A)
【文献】特開2016-081584(JP,A)
【文献】特開2005-149742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00 - 8/2495
H01M 4/86
B60L 50/60
B01J 23/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード電極、カソード電極、及び前記アノード電極と前記カソード電極との間に配置された電解質膜を有し、前記アノード電極に燃料ガスが供給されるとともに前記カソード電極に酸化ガスが供給されて発電する燃料電池と、
前記燃料電池の酸化ガスの出口に連通した酸化ガス排出部と、
前記酸化ガス排出部に設けられたカソード背圧弁と、
前記カソード背圧弁の開度を制御する制御部と、を備え、
前記カソード電極は、セラミックスと、前記セラミックスに担持された触媒を備え、
前記制御部は、前記燃料電池の負荷が所定負荷以下であるアイドリング運転状態では、前記カソード背圧弁の開度を前記アイドリング運転状態に変更される以前の状態に比べて小さくする
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載する燃料電池システムにおいて、
前記制御部は、前記燃料電池の前記アイドリング運転状態では、前記カソード背圧弁を閉じる
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
請求項2に記載する燃料電池システムにおいて、
前記制御部は、前記燃料電池の前記アイドリング運転状態では、前記カソード背圧弁を閉じるとともに、前記燃料電池の前記酸化ガスの入口を閉じる
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れか一項に記載する燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池は、前記カソード電極に前記酸化ガスを供給するためのカソード流路を有し、
前記制御部は、前記燃料電池の前記アイドリング運転状態では、前記カソード流路の内部の圧力が所定の圧力以下となるように前記カソード背圧弁の開度を調整する
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか一項に記載する燃料電池システムにおいて、
前記燃料電池の燃料ガスの出口に連通した燃料ガス排出管と、
前記燃料ガス排出管に設けられたアノード背圧弁と、を備え、
前記制御部は、前記燃料電池の前記アイドリング運転状態では、前記燃料電池への前記燃料ガスの供給を停止し、前記アノード背圧弁の開度を前記アイドリング運転状態に変更される以前の状態に比べて大きくする
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項6】
電動車両の駆動輪を駆動する駆動モータと、
アノード電極、カソード電極、及び前記アノード電極と前記カソード電極との間に配置された電解質膜を有し、前記アノード電極に燃料ガスが供給されるとともに前記カソード電極に酸化ガスが供給されて発電する燃料電池と、
前記燃料電池が発電した電力を充電するとともに前記駆動モータに電力を供給する二次電池と、
前記燃料電池の酸化ガスの出口に連通した酸化ガス排出部と、
前記酸化ガス排出部に設けられたカソード背圧弁と、
前記カソード背圧弁の開度を制御する制御部と、を備え、
前記カソード電極は、セラミックスと、前記セラミックスに担持された触媒を備え、
前記制御部は、前記燃料電池の負荷が所定負荷以下であるアイドリング運転状態では、前記カソード背圧弁の開度を前記アイドリング運転状態に変更される以前の状態に比べて小さくする
ことを特徴とする電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システム及び燃料電池を備えた電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池自動車等に搭載される燃料電池システムの燃料電池としては、アノードとカソードとで固体高分子電解質膜を挟み、さらにその外側を一対のセパレータで挟持して形成したセルを複数積層して構成したスタックを備えたものがある。そして、アノードに燃料ガスとして水素、カソードに酸化ガスとして空気を供給することで発電させ、その電力で駆動モータを駆動させている。
【0003】
例えば、燃料電池自動車が信号待ちで一時停止しているときなどのアイドリング運転時では、燃料電池の負荷が小さいので、高いセル電圧で燃料電池が運転を継続することになる。このようなアイドリング運転時では、触媒が酸化し、触媒性能が劣化する虞がある。
【0004】
特許文献1には、アイドリング運転時に、燃料電池に負荷を接続するなどして電力を消費し、燃料電池の電圧を下げることが記載されている。このようにセル電圧を低くして触媒性能の劣化を抑制しているが、電力を無駄に消費してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-218398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、発電効率の低下及び触媒の劣化を抑制することができる燃料電池システム及び電動車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、アノード電極、カソード電極、及び前記アノード電極と前記カソード電極との間に配置された電解質膜を有し、前記アノード電極に燃料ガスが供給されるとともに前記カソード電極に酸化ガスが供給されて発電する燃料電池と、前記燃料電池の酸化ガスの出口に連通した酸化ガス排出部と、前記酸化ガス排出部に設けられたカソード背圧弁と、前記カソード背圧弁の開度を制御する制御部と、を備え、前記カソード電極は、セラミックスと、前記セラミックスに担持された触媒を備え、前記制御部は、前記燃料電池の負荷が所定負荷以下であるアイドリング運転状態では、前記カソード背圧弁の開度を前記アイドリング運転状態に変更される以前の状態に比べて小さくすることを特徴とする燃料電池システムにある。
【0008】
第1の態様では、アイドリング運転状態では、燃料電池のカソード流路における圧力を通常運転時よりも増大させる。これにより、燃料電池の抵抗が増大し、カソード電極に用いた触媒の劣化を抑制することができる。また、従来技術のようにアイドリング運転状態において負荷を接続する必要がないので、発電効率の低下も抑制することができる。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載する燃料電池システムにおいて、前記制御部は、前記燃料電池の前記アイドリング運転状態では、前記カソード背圧弁を閉じることを特徴とする燃料電池システムにある。
【0010】
第2の態様では、カソード流路における圧力を加圧するのに要する時間を短縮することができ、触媒の劣化をより一層抑制することができる。
【0011】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載する燃料電池システムにおいて、前記制御部は、前記燃料電池の前記アイドリング運転状態では、前記カソード背圧弁を閉じるとともに、前記燃料電池の前記酸化ガスの入口を閉じることを特徴とする燃料電池システムにある。
【0012】
第3の態様では、カソード流路の内部圧力を加圧した状態で維持することができる。このため、アイドリング運転中における触媒の劣化をより一層抑制することができる。
【0013】
本発明の第4の態様は、第1から第3の何れか一つの態様に記載する燃料電池システムにおいて、前記燃料電池は、前記カソード電極に前記酸化ガスを供給するためのカソード流路を有し、前記制御部は、前記燃料電池の前記アイドリング運転状態では、前記カソード流路の内部の圧力が所定の圧力以下となるように前記カソード背圧弁の開度を調整することを特徴とする燃料電池システムにある。
【0014】
第4の態様では、燃料電池の内部から外部へ燃料ガス及び酸化ガスのリークを抑制することができ、特に燃料ガスが発電に使われずに外部へ漏れてしまうことを防止できる。
【0015】
本発明の第5の態様は、第1から第4の何れか一つの態様に記載する燃料電池システムにおいて、前記燃料電池の燃料ガスの出口に連通した燃料ガス排出管と、前記燃料ガス排出管に設けられたアノード背圧弁と、を備え、前記制御部は、前記燃料電池の前記アイドリング運転状態では、前記燃料電池への前記燃料ガスの供給を停止し、前記アノード背圧弁の開度を前記アイドリング運転状態に変更される以前の状態に比べて大きくすることを特徴とする燃料電池システムにある。
【0016】
第5の態様では、燃料ガス、すなわち水素ガスがカソード電極側に到達することを抑制できるので、カソード電極の劣化をより一層抑制することができる。
【0017】
本発明の第6の態様は、電動車両の駆動輪を駆動する駆動モータと、アノード電極、カソード電極、及び前記アノード電極と前記カソード電極との間に配置された電解質膜を有し、前記アノード電極に燃料ガスが供給されるとともに前記カソード電極に酸化ガスが供給されて発電する燃料電池と、前記燃料電池が発電した電力を充電するとともに前記駆動モータに電力を供給する二次電池と、前記燃料電池の酸化ガスの出口に連通した酸化ガス排出部と、前記酸化ガス排出部に設けられたカソード背圧弁と、前記カソード背圧弁の開度を制御する制御部と、を備え、前記カソード電極は、セラミックスと、前記セラミックスに担持された触媒を備え、前記制御部は、前記燃料電池の負荷が所定負荷以下であるアイドリング運転状態では、前記カソード背圧弁の開度を前記アイドリング運転状態に変更される以前の状態に比べて小さくすることを特徴とする電動車両にある。
【0018】
第6の態様では、アイドリング運転状態では、燃料電池の内部の酸化ガスの流路であるカソード流路における圧力を通常運転時よりも増大させる。これにより、燃料電池の抵抗が増大し、カソード電極に用いた触媒の劣化を抑制することができる。また、従来技術のようにアイドリング運転状態において負荷を接続する必要がないので、発電効率の低下も抑制することができる。さらに、アイドリング運転状態において運転者が加速するなどして出力が要求されても二次電池の電力により応えることができる。したがって、加速要求に応じるために燃料電池を通常運転に切り替えるための時間を要したとしても、運転者の加速要求に応えることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、発電効率の低下及び触媒の劣化を抑制することができる燃料電池システム及び電動車両が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】電動車両のブロック図である。
図2】電動車両の動作を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、実施形態の説明は例示であり、本発明は以下の説明に限定されない。
【0022】
図1は、本実施形態に係る電動車両1のブロック図である。電動車両1は、燃料電池20で発電された電力を二次電池11に充電し、二次電池11の電力で駆動モーター12を駆動する、いわゆるレンジエクステンダー電動車両である。二次電池11は、充放電可能な電池であり、特に限定はないが、例えばリチウムイオン電池を用いることができる。
【0023】
燃料電池20は、燃料ガスとして水素と、酸化ガスとして空気が供給され、酸素と水素の電気化学反応によって発電する固体高分子形燃料電池である。燃料電池20の具体的な構成は特に限定はないが、ここでは、複数のセルがセパレータを介して複数積層されたスタック構造を有する。
【0024】
各セルは、アノード電極、カソード電極及びこれらの間に配置された電解質膜(例えば、固体高分子電解質膜)を備えている。アノード電極は、電解質膜に接触する電極触媒層と、電極触媒層の電解質膜とは反対側に設けられるガス拡散層とからなる。同様に、カソード電極も、電極触媒層とガス拡散層とからなる。
【0025】
電極触媒層は、通常、アノード電極及びカソード電極における電極反応に対して触媒活性を有する。具体的には、電極触媒層は、担体に担持された触媒を備えている。触媒としては、アノード電極の燃料の酸化反応又はカソード電極の酸化剤の還元反応に対して触媒活性を有しているものであれば、特に限定されず、高分子形燃料電池に一般的に用いられているものを使用することができる。例えば、白金、又はルテニウム、鉄、ニッケル、マンガン、コバルト、銅等の金属と白金との合金等が挙げられる。
【0026】
カソード電極の電極触媒層の担体は、セラミックスを用いることができ、特に、酸化スズを用いることが好ましい。その他のセラミックスとしては、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化モリブデン、酸化タングステン等を用いることができる。アノード電極の電極触媒層の担体は、カソード電極の担体と同様にセラミックスを用いることができるが、カーボンブラック等の炭素粒子や炭素繊維のような導電性炭素材料、金属粒子や金属繊維等の金属材料も用いることができる。
【0027】
このようなセルを有する燃料電池20には、アノード電極のガス拡散層やこれに連通する流路からなるアノード流路、及びカソード電極のガス拡散層やこれに連通する流路からなるカソード流路が設けられている。アノード流路には燃料ガス供給管31及び燃料ガス排出管35が連通しており、カソード流路には酸化ガス供給管41及び酸化ガス排出部(酸化ガス排出管)45が連通している。
【0028】
燃料電池20は、DC/DCコンバータ14を介して二次電池11に接続され、二次電池11は、インバータ13及びDC/DCコンバータ14を介して駆動モーター12に接続されている。
【0029】
燃料電池20で発電された直流電力は、DC/DCコンバータ14により所定電圧にされて二次電池11に充電される。二次電池11に充電された直流電力は、インバータ13により交流電力に変換されてして駆動モーター12に供給される。駆動モーター12は、二次電池11からの電力によって、駆動輪(図示せず)を駆動するためのプラス側の駆動力(トルク)を発生する。
【0030】
また、駆動モーター12は、減速時等には発電機として作動しマイナス側の回生力(トルク)を発生する。この回生電力は、インバータ13により直流電力に変換され二次電池11に充電される。
【0031】
これらの燃料電池20、二次電池11及び駆動モーター12の充放電や駆動についての制御は、ECU50により行われているが、公知の技術であるので詳細な説明は省略する。
【0032】
電動車両1は、燃料ガスタンク30を備えている。燃料ガスタンク30は、燃料ガス(水素ガス)を貯蔵した装置である。貯蔵の形態は、特に限定はなく、気体の水素、液体の水素を貯蔵したものであったり、金属に水素を吸蔵させたもの、さらにはメタノール等から水素に改質するものなど、公知のものを適用することができる。
【0033】
燃料ガスタンク30と燃料電池20のアノード側の入口(アノード流路)とは、燃料ガス供給管31で接続されている。燃料ガス供給管31には、元弁32、減圧弁33、再流量調節弁34が設けられている。元弁32は、燃料ガスタンク30の開口部の開閉をする弁であり、減圧弁33は、燃料ガスタンク30から供給された燃料ガスを所定圧力まで減圧させ、一定圧力にするための弁である。再流量調節弁34は、循環配管37からの燃料ガスが燃料ガス供給管31に再流入してくる量を調節するための弁である。これらの弁の調節により、燃料ガスタンク30から燃料電池20のアノード電極に燃料ガスが一定圧力で供給される。
【0034】
燃料電池20のアノード側の出口(アノード流路)には、燃料ガス排出管35が接続されている。燃料ガス排出管35は、燃料電池20のアノード側から排出された排ガスの流路である。当該排ガスは、特に図示しないが、気液分離機(図示せず)に送られる。気液分離機において分離されたガス(電気化学反応しなかった水素)は、循環配管37を経由し、循環配管37に設けられた再循環ポンプ38により所定圧力に昇圧されて燃料ガス供給管31に送られる。
【0035】
燃料ガス排出管35には、アノード背圧弁36が設けられている。アノード背圧弁36は、調節弁であり、燃料ガス排出管35の開度を任意に調節可能なものである。アノード背圧弁36の開度を調整することで、燃料電池20のアノード電極に供給される燃料ガスの圧力を調節することが可能となっている。
【0036】
電動車両1は、空気圧縮機40を備えている。空気圧縮機40は、外気を取り込み所定圧力に昇圧する装置である。空気圧縮機40と燃料電池20のカソード側の入口(カソード流路)とは、酸化ガス供給管41で接続されている。酸化ガス供給管41には、切替弁42、流量調整弁43が設けられている。切替弁42は、走行中に電動車両1の前方から取り込まれる外気と、空気圧縮機40から送られた空気とを切り替えるための弁である。流量調整弁43は、燃料電池20のカソード側へ供給される酸化ガスの流量を調整するための弁である。これらの弁の調節により、外気又は空気圧縮機40から燃料電池20のカソード電極に酸化ガスが一定圧力で供給される。
【0037】
燃料電池20のカソード側の出口(カソード流路)には、酸化ガス排出管45が接続されている。酸化ガス排出管45は、燃料電池20のカソード側から排出された排ガスの流路である。当該排ガスは、電動車両1の外部へ放出される。
【0038】
酸化ガス排出管45には、カソード背圧弁46が設けられている。カソード背圧弁46は、調節弁であり、酸化ガス排出管45の開度を任意に調節可能なものである。カソード背圧弁46の開度を調整することで、燃料電池20のカソード電極に供給される酸化ガスの圧力を調節することが可能となっている。
【0039】
なお、外気又は空気圧縮機40を切り替えて燃料電池20に酸化ガスを供給する構成を例示したが、これに限定されず、何れか一方のみを用いる構成であってもよい。
【0040】
ECU50は、請求項に記載の制御部の一例であり、中央処理装置と主記憶装置とを備えるマイクロコンピューターによって構成されている。ECU50は、各種センサから検知信号を得ることが可能となっている。
【0041】
燃料電池20に取り付けた各種センサは、燃料電池出力(図ではFC出力と表記)、燃料電池抵抗、アノード電極FC内部圧力、カソード電極FC内部圧力、アノード流量、カソード流量、EV出力を検知する。また、二次電池11に取り付けたセンサはSOCを検知し、駆動モーター12に取り付けたセンサーはモーター出力を検知する。
【0042】
アノード電極FC内部圧力とは、燃料電池20に設けられたのアノード流路内における燃料ガスの圧力であり、カソード電極FC内部圧力とは、燃料電池20に設けられたカソード流路内における酸化ガスの圧力である。アノード流量とは、アノード流路を流通する燃料ガスの流量であり、カソード流量とは、カソード流路を流通する酸化ガスの流量である。
【0043】
ECU50は、これらの検知信号を各種センサから得て、元弁32、減圧弁33、再流量調節弁34、アノード背圧弁36、切替弁42、流量調整弁43、カソード背圧弁46を制御する。
【0044】
図2を用いて、ECU50による電動車両1の制御について説明する。図2の横軸は時間を表している。縦軸の燃料電池抵抗、アノード流量、カソード流量、アノード電極FC内部圧力、カソード電極FC内部圧力、FC出力、EV出力、SOC、車速(モータ出力)は、各種センサーから得られた検出値を表している。また、縦軸のアノード背圧開度はアノード背圧弁36の開度を表し、カソード背圧開度はカソード背圧弁46の開度を表している。
【0045】
燃料電池20は、時刻T0からT4までは通常運転時、時刻T4からT10はアイドリング運転時の制御がなされている。ここで、通常運転時とはアイドリング運転状態に変更される以前の状態を表現している。
【0046】
燃料電池20のアイドリング運転状態とは、燃料電池20に負荷が接続されていない状態又は低負荷の状態、すなわち、所定負荷以下の状態で最低限度の発電を行い、通常負荷又は高負荷の発電要求に即応可能な状態である。燃料電池20の通常運転状態とは、燃料電池20が発電要求に応答して発電をしている状態である。なお、アイドリング運転状態では、燃料電池20のセル電圧が0.9Vから1.0Vであり、通常運転状態では、燃料電池20のセル電圧が0.5Vから0.8V程度である。
【0047】
ECU50は、二次電池11のSOCが所定値以上であるときは、燃料電池20をアイドリング状態とし、二次電池11の電力のみで駆動モーター12を駆動させる。一方、ECU50は、二次電池11のSOCが所定値未満となったら、燃料電池20を通常運転状態にする(時刻T0~時刻T4)。
【0048】
FC出力は、時刻T0~T4の間、FC発電出力でほぼ一定である。FC出力は、駆動モーター12で要求される電力よりも高いため、FC出力の一部が余剰出力となっている。二次電池11では、この余剰出力分によりSOCが増大している。また、時刻T0~T4においては、二次電池11の出力(EV出力)はゼロである。
【0049】
ECU50は、通常運転状態において二次電池11のSOCがアイドリング制御開始SOCに達したとき(時刻T4)、燃料電池20をアイドリング運転状態にする。このため、同図のFC出力は、時刻T4においてゼロになる。燃料電池20がアイドリング運転状態である間(時刻T4からT10)に、駆動モーター12のモータ出力が要求された場合は、二次電池11に充電された電力が駆動モーター12に供給されるため、同図のEV出力はモータ出力に応じて増減している。そして、二次電池11のSOCはEV出力に応じて減少している。
【0050】
ECU50は、このようなアイドリング運転状態では、カソード背圧開度を通常運転状態に比べて小さくする。同図に示す例では、通常運転状態におけるカソード背圧開度は、所定の開度である「FC発電カソード背圧弁開度」になっており、時刻T4から時刻T5に掛けて徐々に小さくなっている。アイドリング運転状態の時刻T5におけるカソード背圧開度はゼロになっている(同図では、アイドリング制御ソード背圧開度になっている)。すなわち、酸化ガス排出管45は、カソード背圧弁46により閉鎖された状態となる。
【0051】
また、ECU50は、時刻T4から時刻T5に掛けて、燃料電池20への酸化ガスの供給を停止する。具体的には、ECU50は、空気圧縮機40を停止したり、流量調整弁43を閉じることで酸化ガスの供給を停止する。同図に示す例では、流量調整弁43が絞られることにより、時刻T4から時刻T5に掛けてカソード流量が減少し、流量調整弁43が閉鎖された時刻T5でゼロになっている。同図のFC発電カソード流量は、通常運転時におけるカソード流量であり、アイドリング制御カソード流量は、アイドリング運転時におけるカソード流量を表している。
【0052】
このように酸化ガス排出管45がカソード背圧弁46により閉鎖され、酸化ガスの供給が停止するので、アイドリング運転状態におけるカソード電極FC内部圧力は、通常運転状態におけるカソード電極FC内部圧力よりも高くなっている。なお、同図のアイドリング制御カソード圧力は、アイドリング運転状態におけるカソード電極FC内部圧力を表している。
【0053】
カソード電極の電極触媒層の担体としてセラミックスを用いた燃料電池20において、アイドリング運転状態におけるカソード流路の圧力を通常運転状態よりも高くすると、燃料電池抵抗が大きくなる。このような燃料電池抵抗の増大は、担体に炭素粒子、導電性炭素材料、金属材料を用いた燃料電池では見られない特徴であり、本発明者らにより得られた新たな知見である。これによる効果の詳細については後述する。
【0054】
また、アノード側については、ECU50は次のように制御する。ECU50は、アイドリング運転状態では、アノード背圧開度を通常運転状態に比べて大きくする。同図に示す例では、通常運転状態におけるアノード背圧開度は所定の開度である「FC発電アノード背圧弁開度」になっており、時刻T4から時刻T5に掛けて徐々に大きくなっている。アイドリング運転状態の時刻T5におけるアノード背圧開度は、所定の開度であるアイドリング制御アノード背圧開度になっている。
【0055】
また、ECU50は、時刻T4から時刻T5に掛けて、燃料電池20への燃料ガスの供給を停止する。具体的には、ECU50は、減圧弁33を徐々に閉じ、所定時間後に元弁32を閉じることで燃料ガスの供給を停止する。同図に示す例では、時刻T4にて元弁32を閉じることでアノード流量がゼロになっている。同図のFC発電アノード流量は、通常運転時におけるアノード流量であり、アイドリング制御アノード流量は、アイドリング運転時におけるアノード流量を表している。
【0056】
このように燃料ガス排出管35のアノード背圧弁36の開度が大きくなり、燃料ガスの供給が停止するので、アイドリング運転状態におけるアノード電極FC内部圧力は、ほぼ大気圧(図にはアイドリング制御アノード圧力と表記)となっている。なお、同図のアイドリング制御アノード圧力は、アイドリング運転状態におけるアノード電極FC内部圧力を表している。
【0057】
このように、アイドリング運転状態では、アノード流路は大気開放されるので、アノード電極FC内部圧力は、通常運転時の高圧の状態から、それより低い大気圧になる。これによる効果の詳細については後述する。
【0058】
以上に説明したように、本実施形態の電動車両1では、アイドリング運転状態では、カソード背圧弁46の開度を小さくしてカソード背圧開度を下げる。これにより、アイドリング運転状態では、カソード電極FC内部圧力が通常運転時よりも増大する。
【0059】
本発明者らは、本実施形態のセラミックスからなる担体を用いた燃料電池20では、アイドリング運転状態でカソードFC内部圧力を大きくすると、燃料電池抵抗が増大し、これに起因して触媒の劣化を抑制することができるという新たな知見を得た。
【0060】
このことを詳細に説明する。例えば、触媒としてPt(白金)を用いた場合、触媒の劣化は、「Pt→Pt2++2e」という化学反応式で表される。担体に炭素粒子、導電性炭素材料、金属材料を用いた燃料電池は、電流が流れ易いことから上記化学反応式が進む方向、すなわち劣化が進行しやすい。
【0061】
一方、本実施形態においては、カソード電極の担体にセラミックスを用い、アイドリング運転状態では、通常運転時よりもカソード電極FC内部圧力を増大させる。これにより、燃料電池20の燃料電池抵抗が増大するのであるが、これはセラミックス表面に絶縁層が形成されるためであると推測される。
【0062】
燃料電池抵抗が増大すると、電流は流れにくくなることから、上記化学反応式は左辺から右辺への反応が抑制される。すなわち、燃料電池抵抗の増大は、カソード電極に用いられる触媒の劣化を抑制する作用を有する。
【0063】
また、従来技術では、アイドリング運転状態においては、セル電圧が高電圧になると触媒が劣化するため、負荷を接続するなどしてセル電圧を意図的に下げていた。しかしながら、本実施形態では、そのような負荷を接続することなく、アイドリング運転状態における触媒の劣化を抑制することができる。
【0064】
このように本実施形態の電動車両1では、アイドリング運転状態においてカソード電極の触媒の劣化を抑制することができ、また負荷を接続して無駄に電力を消費することがないので、発電効率の低下も抑制することができる。
【0065】
さらに、本実施形態の電動車両1では、アイドリング運転状態において運転者が加速するなどして出力が要求されても二次電池11の電力(EV出力)により応えることができる。したがって、加速要求に応じるために燃料電池20を通常運転に切り替えるための時間を要したとしても、運転者の加速要求に応えることができる。
【0066】
また、本実施形態の電動車両1では、アイドリング運転状態に切り替えるとき、カソード背圧弁46の開度を徐々に絞り、最終的に閉じるようにした。このようにカソード背圧弁46を完全に閉じることで、カソード流路における圧力(カソード電極FC内部圧力)を加圧するのに要する時間を短縮することができ、触媒の劣化をより一層抑制することができる。
【0067】
また、本実施形態の電動車両1では、アイドリング運転状態に切り替えるとき、カソード背圧弁46を閉じるとともに、燃料電池20の酸化ガスの入口側、すなわち、酸化ガス供給管41に設けられた流量調整弁43を閉じた。これにより、カソード流路の内部圧力を通常運転時よりも高く加圧した状態で維持することができる。このため、アイドリング運転中における触媒の劣化をより一層抑制することができる。
【0068】
また、本実施形態の電動車両1では、アイドリング運転状態に切り替えるとき、アノード背圧弁36の開度を通常運転時よりも大きくし、燃料電池20への燃料ガスの供給を停止する。これにより、アイドリング運転状態では、アノード流路内の燃料ガスは大気圧と同等となるので、燃料ガスが電解質膜を透過してカソード電極側へ到達することを抑えられる。燃料ガス、すなわち水素ガスがカソード電極側に到達することを抑制できるので、カソード電極の劣化をより一層抑制することができる。
【0069】
ちなみに、水素ガスは、還元剤として機能するため、水素ガスがカソード電極側の担体であるセラミックス(酸化物)に接触するとセラミックスが還元され劣化してしまう。
【0070】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、勿論、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
【0071】
上述した実施形態の電動車両1は、アイドリング運転状態においてカソード背圧弁46を完全に閉じる構成であったが、これに限定されない。すなわち、カソード背圧弁46は、完全には閉じずに、通常運転時の開度よりも小さい開度であればよい。
【0072】
また、カソード背圧弁46を完全に閉じない場合、もしくは完全に閉じる場合の何れの場合であっても、カソード流路の内部の圧力(カソード電極FC内部圧力)が所定の圧力以下となるようにカソード背圧弁46の開度を調整することが好ましい。これにより、燃料電池20の内部から外部へ燃料ガス及び酸化ガスのリークを抑制することができ、特に燃料ガスが発電に使われずに外部へ漏れてしまうことを防止できる。
【0073】
上述した実施形態の電動車両1は、SOCが所定値に達したときに通常運転状態からアイドリング運転状態に切り替えたが、このようなタイミングに限定されず、任意のタイミングで切り替えてもよい。
【0074】
また、上述した実施形態では電動車両を例示したが、本発明は電動車両に適用される場合に限定されず、燃料電池を備えた燃料電池システムに適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1…電動車両、 11…二次電池、 12…駆動モーター、 20…燃料電池、 30…燃料ガスタンク、 31…燃料ガス供給管、 35…燃料ガス排出管、 36…アノード背圧弁、 40…空気圧縮機、 41…酸化ガス供給管、 45…酸化ガス排出管、 46…カソード背圧弁、 50…ECU(制御部)
図1
図2