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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】成膜装置及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20220802BHJP
   H01L 21/208 20060101ALI20220802BHJP
   C23C 16/448 20060101ALI20220802BHJP
   C30B 29/16 20060101ALI20220802BHJP
   C30B 25/14 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
H01L21/205
H01L21/208
C23C16/448
C30B29/16
C30B25/14
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019011144
(22)【出願日】2019-01-25
(65)【公開番号】P2020120032
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永岡 達司
(72)【発明者】
【氏名】西中 浩之
(72)【発明者】
【氏名】吉本 昌広
(72)【発明者】
【氏名】田原 大祐
【審査官】田中 崇大
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-070248(JP,A)
【文献】国際公開第2018/235773(WO,A1)
【文献】実開平04-111400(JP,U)
【文献】特開2003-117307(JP,A)
【文献】特開平07-310185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
H01L 21/208
C23C 16/448
C30B 29/16
C30B 25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の表面に溶液のミストを供給して前記基体の前記表面に膜をエピタキシャル成長させる成膜装置であって、
前記基体を収容して加熱する加熱炉と、
前記溶液を貯留する貯留槽と、
前記貯留槽内に貯留されている前記溶液を加熱するヒータと、
前記貯留槽内に貯留されている前記溶液に超音波を印加することによって、前記貯留槽内に前記溶液の前記ミストを発生させる超音波振動子と、
前記貯留槽から前記加熱炉に前記ミストを搬送するミスト供給路、
を備え、
前記膜をエピタキシャル成長させる工程中に、前記貯留槽内に貯留されている前記溶液の温度が、前記貯留槽内に貯留されている前記溶液の水面よりも上側に位置する前記貯留槽の外壁の内面の温度よりも高い温度に制御される、
成膜装置。
【請求項2】
基体の表面に溶液のミストを供給して前記基体の前記表面に膜をエピタキシャル成長させる成膜装置であって、
前記基体を収容して加熱する加熱炉と、
前記溶液を貯留する貯留槽と、
前記貯留槽内に貯留されている前記溶液を加熱するヒータと、
前記貯留槽内に貯留されている前記溶液に超音波を印加することによって、前記貯留槽内に前記溶液の前記ミストを発生させる超音波振動子と、
前記貯留槽から前記加熱炉に前記ミストを搬送するミスト供給路と、
前記貯留槽に搬送ガスを供給する搬送ガス供給路
を備え、
前記膜をエピタキシャル成長させる工程中に、前記貯留槽内に貯留されている前記溶液の温度が、前記貯留槽内の前記搬送ガスの温度よりも高い温度に制御される
成膜装置。
【請求項3】
成膜装置を用いて半導体装置を製造する製造方法であって、
前記成膜装置が、
基体を収容して加熱する加熱炉と、
溶液を貯留する貯留槽と、
前記貯留槽内に貯留されている前記溶液を加熱するヒータと、
前記貯留槽内に貯留されている前記溶液に超音波を印加することによって、前記貯留槽内に前記溶液のミストを発生させる超音波振動子と、
前記貯留槽から前記加熱炉に前記ミストを搬送するミスト供給路、
を備えており、
前記製造方法が、
前記ヒータによって前記貯留槽内に貯留されている前記溶液を加熱しながら前記超音波振動子によって前記貯留槽内に貯留されている前記溶液に超音波を印加することによって前記ミストを発生させ、発生させた前記ミストを前記加熱炉内に収容された前記基体の表面に供給して前記基体の前記表面に膜をエピタキシャル成長させる工程、
を有し、
前記膜をエピタキシャル成長させる工程中に、前記貯留槽内に貯留されている前記溶液の温度を、前記貯留槽内に貯留されている前記溶液の水面よりも上側に位置する前記貯留槽の外壁の内面の温度よりも高い温度に制御する、
製造方法。
【請求項4】
成膜装置を用いて半導体装置を製造する製造方法であって、
前記成膜装置が、
基体を収容して加熱する加熱炉と、
溶液を貯留する貯留槽と、
前記貯留槽内に貯留されている前記溶液を加熱するヒータと、
前記貯留槽内に貯留されている前記溶液に超音波を印加することによって、前記貯留槽内に前記溶液のミストを発生させる超音波振動子と、
前記貯留槽から前記加熱炉に前記ミストを搬送するミスト供給路と、
前記貯留槽に搬送ガスを供給する搬送ガス供給路、
を備えており、
前記製造方法が、
前記ヒータによって前記貯留槽内に貯留されている前記溶液を加熱しながら前記超音波振動子によって前記貯留槽内に貯留されている前記溶液に超音波を印加することによって前記ミストを発生させ、発生させた前記ミストを前記加熱炉内に収容された前記基体の表面に供給して前記基体の前記表面に膜をエピタキシャル成長させる工程、
を有し、
前記膜をエピタキシャル成長させる工程中に、前記貯留槽内に貯留されている前記溶液の温度を、前記貯留槽内の前記搬送ガスの温度よりも高い温度に制御する、
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、成膜装置及び成膜方法に関する。
【0002】
特許文献1には、基体の表面に溶液のミストを供給して、基体の表面に膜を成長させる成膜装置が開示されている。この成膜装置は、加熱炉と、貯留槽と、超音波振動子と、ミスト供給路を有している。加熱炉は、基体を収容して加熱する。貯留槽は、溶液を貯留している。超音波振動子は、貯留槽内に貯留されている溶液に超音波を印加することによって、貯留槽内に溶液のミストを発生させる。ミスト供給路は、貯留槽から加熱炉にミストを搬送する。加熱炉内でミストが基体の表面に付着することで、基体の表面に膜が成長する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-070248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、貯留槽内に溶液のミストを発生させるときに、ミストを効率的に発生させることが困難であった。本明細書では、貯留槽内でミストを効率的に発生させる技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示の成膜装置は、基体の表面に溶液のミストを供給して前記基体の前記表面に膜をエピタキシャル成長させる。この成膜装置は、前記基体を収容して加熱する加熱炉と、前記溶液を貯留する貯留槽と、前記貯留槽内に貯留されている前記溶液を加熱するヒータと、前記貯留槽内に貯留されている前記溶液に超音波を印加することによって前記貯留槽内に前記溶液の前記ミストを発生させる超音波振動子と、前記貯留槽から前記加熱炉に前記ミストを搬送するミスト供給路、を備える。
【0006】
なお、前記ヒータは、貯留槽内に貯留されている溶液を加熱することができればどのようなものであってもよい。例えば、前記ヒータは、電熱線ヒータであってもよいし、加熱された液体との熱交換によって溶液を加熱するものであってもよい。
【0007】
この成膜装置は、ヒータによって貯留槽内の溶液を加熱しながら、超音波振動子によって貯留槽内の溶液に超音波を印加することができる。溶液を加熱しながらその溶液に超音波を印加すると、その溶液から効率的にミストを発生させることができる。したがって、この成膜装置によれば、基体の表面に膜を好適に成長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1の成膜装置の構成図。
図2】実施例2の成膜装置の構成図。
図3】実施例3の成膜装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0009】
図1に示す成膜装置10は、基板70の表面に膜をエピタキシャル成長させる装置である。成膜装置10は、基板70が配置される加熱炉12と、加熱炉12を加熱するヒータ14と、加熱炉12に接続されたミスト供給装置20と、加熱炉12に接続された排出管80を備えている。
【0010】
加熱炉12の具体的な構成は特に限定されない。一例ではあるが、図1に示す加熱炉12は、上流端12aから下流端12bまで延びる管状炉である。加熱炉12の長手方向に垂直な断面は、円形である。但し、加熱炉12の断面は円形に限定されない。
【0011】
ミスト供給装置20は、加熱炉12の上流端12aに接続されている。加熱炉12の下流端12bには、排出管80が接続されている。ミスト供給装置20は、加熱炉12内にミスト62を供給する。ミスト供給装置20によって加熱炉12内に供給されたミスト62は、加熱炉12内を下流端12bまで流れた後に、排出管80を介して加熱炉12の外部に排出される。
【0012】
加熱炉12内には、基板70を支持するための基板ステージ13が設けられている。基板ステージ13は、加熱炉12の長手方向に対して基板70が傾くように構成されている。基板ステージ13に支持された基板70は、加熱炉12内を上流端12aから下流端12bに向かって流れるミスト62が基板70の表面にあたる向きで支持される。
【0013】
ヒータ14は、前述したように、加熱炉12を加熱する。ヒータ14の具体的な構成は特に限定されない。一例ではあるが、図1に示すヒータ14は、電熱線式のヒータであって、加熱炉12の外周壁に沿って配置されている。ヒータ14は加熱炉12の外周壁を加熱し、それによって加熱炉12内の基板70が加熱される。
【0014】
ミスト供給装置20は、貯留槽22と、ヒータ30と、超音波振動子28を有している。
【0015】
貯留槽22は、密閉型の容器である。貯留槽22は、基板70の表面にエピタキシャル成長させる膜の原料を含む溶液60を貯留している。例えば、酸化ガリウム(Ga)の膜をエピタキシャル成長させる場合には、溶液60としてガリウムが溶解した溶液を用いることができる。また、溶液60中に、酸化ガリウム膜にn型またはp型のドーパントを付与するための原料(例えば、フッ化アンモニウム等)がさらに溶解していてもよい。また、溶液60中に、塩酸が含まれていてもよい。溶液60の水面60aと貯留槽22の上面の間には、空間22aが設けられている。
【0016】
超音波振動子28は、貯留槽22の底面に設置されている。超音波振動子28は、貯留槽22内に貯留されている溶液60に超音波を印加する。溶液60に超音波が印加されると、溶液60の水面60aが振動して、溶液60の上部の空間22aに溶液60のミスト62が発生する。
【0017】
ヒータ30は、貯留槽22の外側に配置されている。ヒータ30は、貯留槽22の外周壁に沿って螺旋状に伸びる電熱線により構成されている。ヒータ30は、貯留槽22の外周壁を加熱し、それによって貯留槽22内の溶液60が加熱される。ヒータ30は、貯留槽22内の溶液60の水面60aよりも下側に配置されている。すなわち、ヒータ30は、溶液60の上部の空間22aに相当する高さ範囲には配置されていない。このため、ヒータ30が貯留槽22を加熱すると、溶液60の温度は上昇し易いが、水面60aよりも上側の貯留槽22の外壁(すなわち、貯留槽22の外周壁と天板)の温度はそれほど上昇しない。このため、溶液60が、水面60aよりも上側の貯留槽22の外壁の内面よりも高温となる。
【0018】
ミスト供給装置20は、ミスト供給路40と、搬送ガス供給路42と、希釈ガス供給路44をさらに備えている。
【0019】
ミスト供給路40の上流端は、貯留槽22の上面に接続されている。ミスト供給路40の下流端は、加熱炉12の上流端12aに接続されている。ミスト供給路40は、貯留槽22から加熱炉12へミスト62を供給する。
【0020】
搬送ガス供給路42の下流端は、貯留槽22の外周壁の上部に接続されている。搬送ガス供給路42の上流端は、図示しない搬送ガス供給源に接続されている。搬送ガス供給路42は、搬送ガス供給源から貯留槽22内の空間22aに搬送ガス64を供給する。搬送ガス64は、窒素ガスまたは他の不活性ガスである。貯留槽22内に流入した搬送ガス64は、貯留槽22からミスト供給路40へ流れる。このとき、貯留槽22内のミスト62が、搬送ガス64とともにミスト供給路40へ流れる。
【0021】
希釈ガス供給路44の下流端は、ミスト供給路40の途中に接続されている。希釈ガス供給路44の上流端は、図示しない希釈ガス供給源に接続されている。希釈ガス供給路44は、希釈ガス供給源からミスト供給路40へ希釈ガス66を供給する。希釈ガス66は、窒素ガスまたは他の不活性ガスである。ミスト供給路40に流入した希釈ガス66は、ミスト62及び搬送ガス64とともに加熱炉12へ流れる。希釈ガス66によって、ミスト供給路40内のミスト62が希釈される。
【0022】
次に、成膜装置10を用いた成膜方法について説明する。ここでは、基板70として、β型酸化ガリウム(β-Ga)の単結晶によって構成された基板を用いる。また、溶液60として、塩化ガリウム(GaCl、GaCl)とフッ化アンモニウム(NHF)が溶解した水溶液を用いる。また、搬送ガス64として窒素ガスを用い、希釈ガス66として窒素ガスを用いる。
【0023】
まず、加熱炉12内の基板ステージ13上に基板70を設置する。次に、ヒータ14によって、基板70を加熱する。また、ヒータ30によって、貯留槽22内に貯留されている溶液60を加熱する。ヒータ14とヒータ30は、成膜工程中は継続して動作させる。基板70の温度と溶液60の温度が安定したら、超音波振動子28を動作させることによって、貯留槽22の空間22a内に溶液60のミスト62を発生させる。同時に、搬送ガス供給路42から貯留槽22に搬送ガス64を導入し、希釈ガス供給路44からミスト供給路40に希釈ガス66を導入する。搬送ガス64は、貯留槽22を通って、矢印50に示すようにミスト供給路40内に流入する。このとき、貯留槽22内のミスト62が、搬送ガス64と共にミスト供給路40内に流入する。また、希釈ガス66は、ミスト供給路40内でミスト62と混合される。これによって、ミスト62が希釈化される。ミスト62は、窒素ガス(すなわち、搬送ガス64と希釈ガス66)とともにミスト供給路40内を下流側に流れ、矢印52に示すようにミスト供給路40から加熱炉12内に流入する。加熱炉12内では、ミスト62は、窒素ガスとともに下流端12b側へ流れ、排出管80へ排出される。
【0024】
加熱炉12内を流れるミスト62の一部は、加熱された基板70の表面に付着する。すると、ミスト62(すなわち、溶液60)が、基板70上で化学反応を起こす。その結果、基板70上に、β型酸化ガリウム(β-Ga)が生成される。基板70の表面に継続的にミスト62が供給されるので、基板70の表面に酸化ガリウム膜が成長する。基板70の表面に単結晶の酸化ガリウム膜がエピタキシャル成長する。溶液60がドーパントの原料を含む場合には、酸化ガリウム膜には、ドーパントが取り込まれる。例えば、溶液60がフッ化アンモニウムを含む場合には、フッ素がドープされた酸化ガリウム膜が形成される。
【0025】
上述したように、この成膜装置では、貯留槽22内の溶液60をヒータ30で加熱しながら、その溶液60に超音波振動子28によって超音波を印加する。このように、溶液60を加熱しながら溶液60に超音波を加えると、溶液60から高効率でミスト62を発生させることができる。すなわち、単位時間当たりに発生するミスト62の数が多くなる。
【0026】
基板70の表面に供給されるミストの濃度は、搬送ガス64と希釈ガス66の流量によって調節することができる。しかしながら、搬送ガス64と希釈ガス66の流量を変化させると、基板70の表面におけるミスト62の流速が変化する。ミスト62の流速の変化は、基板70の表面に成長する酸化ガリウム膜の特性に影響する。これに対し、実施例1の成膜装置10では、基板70の表面に供給されるミストの濃度を、溶液60の温度によっても制御することができる。この場合、基板70の表面におけるミスト62の流速から独立して、基板70の表面に供給されるミストの濃度を制御することができる。このため、基板70の表面に成長する酸化ガリウム膜の特性をより正確に制御することができる。
【0027】
また、この成膜装置では、ヒータ30によって溶液60が加熱されるので、成膜工程中における溶液60の温度が安定する。すなわち、ヒータ30による加熱を行わない場合、成膜工程の開始時には溶液60の温度は略常温である。この場合、成膜工程中に、超音波振動子28で生じる熱や加熱炉12で生じる熱の影響によって、溶液60の温度は徐々に上昇する。このため、成膜工程中に、意図せず、ミスト62の発生効率が変化し、基板70の表面における酸化ガリウム膜の成長レートが変化する。これによって、酸化ガリウム膜の特性を正確に制御できない。これに対し、実施例1の成膜装置10では、成膜工程中にヒータ30によって溶液60を加熱するので、溶液60が超音波振動子28で生じる熱や加熱炉12で生じる熱の影響を受け難い。成膜工程中に溶液60の温度が意図せず変化することが生じ難いので、基板70の表面に成長する酸化ガリウム膜の特性をより正確に制御することができる。
【0028】
なお、成膜工程中に、溶液60の温度を略一定に制御してもよいし、溶液60の温度を変化させてもよい。
【0029】
成膜工程中に溶液60の温度を略一定に制御する場合には、溶液60の温度をセンサで測定しながら溶液60の温度が略一定となるように、図示しない制御装置によってヒータ30をフィードバック制御してもよい。また、ヒータ30を、略一定の電力で動作させて、溶液60の温度を略一定に制御してもよい。いずれの制御方法でも、ヒータ30で溶液60を加熱しない場合に比べて、成膜工程中における溶液60の温度を安定させることができる。このように、溶液60の温度を略一定に制御することで、均質な酸化ガリウム膜を成長させることができる。
【0030】
成膜工程中に図示しない制御装置によってヒータ30に供給する電力を変化させることによって、貯留槽22内に貯留されている溶液60の温度を意図的に上昇または低下させてもよい。例えば、基板70の表面に成長させる酸化ガリウム膜の特性を意図的に変化させる場合に、溶液60の温度を上昇または低下させてもよい。また、成膜工程中に、貯留槽22内に貯留されている溶液60から水分が蒸発することで、溶液60の粘土が上昇する場合がある。このような粘土の変化は、溶液60がドナーやアクセプタの材料を含む場合に特に生じやすい。このように溶液60の粘土が上昇する場合には、溶液60の温度を徐々に上昇させて、溶液60の粘土の上昇を抑制してもよい。溶液60の粘土の上昇を抑制することで、ミスト62の発生効率を安定化させ、均質な酸化ガリウム膜を成長させることができる。
【0031】
また、貯留槽22内の空間22aで発生したミスト62の一部は、貯留槽22の外壁の内面に付着する。すると、外壁の内面に付着した溶液(ミスト62を構成していた溶液)は、貯留槽22内に貯留されている溶液60の水面60aまで外壁の内面に沿って流れ落ちる。水面60aよりも上側の外壁の内面の温度が高いと、溶液がその内面に沿って流れ落ちる間に溶液から水分が蒸発し、溶液の濃度が上昇する。このような溶液が水面60aまで流れ落ちると、貯留されている溶液60の濃度が上昇する。すなわち、成膜工程中に溶液60の濃度が変化し、基板70の表面に成長させる酸化ガリウム膜の特性が意図せず変化するおそれがある。これに対し、上述した成膜装置10では、水面60aよりも下側にのみヒータ30が配置されている。このため、水面60aよりも上側の外壁の内面の温度が、貯留されている溶液60の温度よりも低い。したがって、空間22a内のミスト62が外壁の内面に付着しても、外壁の内面に付着した溶液(ミスト62を構成していた溶液)から水分が蒸発し難い。このため、貯留槽22内に貯留されている溶液60の濃度が変化し難い。したがって、基板70の表面に成長させる酸化ガリウム膜の特性が意図せず変化することを抑制することができる。
【0032】
また、搬送ガス64の温度が高いと、空間22a内に存在するミスト62(すなわち、搬送ガス64中で浮遊しているミスト62)から水分が蒸発し、ミスト62を構成する溶液の濃度が変化する。これに対し、上述した成膜装置10では、水面60aよりも下側にのみヒータ30が配置されている。このため、成膜工程中に、貯留槽22内の搬送ガス64の温度が、貯留槽22内に貯留されている溶液60よりも低温となる。このため、ミスト62から水分が蒸発することが抑制される。このため、基板70の表面に成長させる酸化ガリウム膜の特性を正確に制御することができる。
【0033】
なお、水面60aよりも上側の外壁を冷却する冷却機構(例えば、冷却水による冷却機構)を設けて、水面60aよりも上側の外壁の内面の温度、及び、空間22a内の搬送ガス64の温度を低温で安定させてもよい。
【実施例2】
【0034】
図2に示す実施例2の成膜装置は、ミスト供給装置20の構造が実施例1の成膜装置10とは異なる。実施例2の成膜装置では、ミスト供給装置20が、水槽24と循環式加熱器32を有している。水槽24は、上部が解放された容器であり、内部に水58を貯留している。実施例2では、超音波振動子28は、水槽24の底面に設置されており、水槽24内の水58に超音波振動を加える。貯留槽22の底部は、水槽24内の水58に浸漬されている。水槽24内に貯留されている水58の水面58aは、貯留槽22内に貯留されている溶液60の水面60aよりも上側に位置している。貯留槽22の底面22bは、フィルムにより構成されている。これによって、水槽24内の水58から貯留槽22内の溶液60に超音波が伝わり易くなっている。超音波振動子28が水槽24内の水58に超音波振動を加えると、水58を介して溶液60に超音波振動が伝わる。すると、溶液60の水面60aが振動して、溶液60の上部の空間22aに溶液60のミスト62が発生する。循環式加熱器32は、水槽24内の水58を循環させながら加熱する。貯留槽22内に貯留された溶液60は、水槽24内の水58によって加熱される。水58の水面58aが溶液60の水面60aよりも上側に位置するので、水58によって溶液60の全体を加熱することができる。このため、溶液60の内部での温度ムラを抑制することができる。実施例2の成膜装置のその他の構成は、実施例1の成膜装置10と等しい。
【0035】
実施例2の成膜装置は、成膜工程中に、循環式加熱器32によって水58を加熱しながら、超音波振動子28によって水58に超音波を印加する。成膜工程中に、水58は常時高温に保たれる。加熱された水58から溶液60に熱が伝わることで、溶液60が加熱される。また、超音波振動子28から水58を介して溶液60に超音波が伝わる。したがって、加熱された溶液60に超音波が印加される。このため、貯留槽22内の空間22aに高効率でミスト62を発生させることができる。
【実施例3】
【0036】
図3に示す実施例3の成膜装置は、循環式加熱器32に代えて電熱線型のヒータ34を備えている点で実施例2の成膜装置と異なり、その他の点で実施例2の成膜装置と共通の構成を備えている。ヒータ34は、貯留槽22内に配置されているとともに貯留槽22の外周壁に沿って螺旋状に伸びる電熱線によって構成されている。ヒータ34は、貯留槽22内に貯留されている溶液60に直接接している。ヒータ34は、溶液60の水面60aよりも下側に配置されている。ヒータ34は、貯留槽22の底面22bの中央部を避けて配置されている。これによって、超音波振動子28から溶液60に超音波が伝わり易くなっている。
【0037】
実施例3の成膜装置は、成膜工程中に、ヒータ34によって溶液60を加熱しながら、超音波振動子28によって水58に超音波を印加する。超音波振動子28から水58を介して溶液60に超音波が伝わる。したがって、加熱された溶液60に超音波が印加される。このため、貯留槽22内の空間22aに高効率でミスト62を発生させることができる。また、実施例3では、ヒータ34によって溶液60を直接加熱できるので、溶液60をより速く加熱することができる。
【0038】
なお、実施例1で説明した溶液60の温度制御方法を、実施例2、3の成膜装置で用いてもよい。
【0039】
本明細書が開示する技術要素について、以下に列記する。なお、以下の各技術要素は、それぞれ独立して有用なものである。
【0040】
本明細書が開示する一例の成膜装置では、膜をエピタキシャル成長させる工程中に、貯留槽内に貯留されている溶液の温度が、貯留槽内に貯留されている溶液の水面よりも上側に位置する貯留槽の外壁の内面の温度よりも高い温度に制御されてもよい。
【0041】
貯留槽内で発生したミストの一部は、溶液の水面よりも上側に位置する貯留槽の外壁の内面に付着する。当該内面に付着した溶液は、貯留されている溶液の水面まで流れ落ちる。貯留されている溶液の水面よりも上側に位置する貯留槽の外壁の内面の温度が高いと、当該内面に付着した溶液から水分が蒸発し、当該内面に付着した溶液の濃度が上昇する。このように濃度が上昇した溶液が、貯留されている溶液の水面まで流れ落ちると、貯留されている溶液の濃度が上昇する。これに対し、上記の成膜装置では、貯留槽内に貯留されている溶液の水面よりも上側に位置する貯留槽の外壁の内面の温度が比較的低い温度に制御されるので、貯留されている溶液の濃度の上昇が生じ難い。したがって、エピタキシャル成長させる膜の特性をより正確に制御することができる。
【0042】
本明細書が開示する一例の成膜装置は、貯留槽に搬送ガスを供給する搬送ガス供給路をさらに有していてもよい。この場合、膜をエピタキシャル成長させる工程中に、貯留槽内に貯留されている溶液の温度が、貯留槽内の搬送ガスの温度よりも高い温度に制御されてもよい。
【0043】
この構成によれば、貯留槽内で発生したミストから水分が蒸発し、ミストを構成する溶液の濃度が変化することを抑制することができる。これによって、エピタキシャル成長させる膜の特性をより正確に制御することができる。
【0044】
本明細書が開示する一例の成膜装置は、ヒータが、貯留槽内に貯留されている溶液の水面よりも下側に配置されていてもよい。
【0045】
この構成によれば、溶液の水面よりも上側に位置する貯留槽の外壁の温度上昇を抑制しながら、溶液を加熱することができる。
【0046】
本明細書が開示する一例の成膜装置では、膜をエピタキシャル成長させる工程中に、貯留槽に貯留されている溶液の温度を上昇または低下させてもよい。
【0047】
この構成によれば、膜をエピタキシャル成長させる工程中に、加熱炉に供給されるミストの濃度を制御することができる。
【0048】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0049】
10 :成膜装置
12 :加熱炉
13 :基板ステージ
14 :ヒータ
20 :ミスト供給装置
22 :貯留槽
28 :超音波振動子
30 :ヒータ
40 :ミスト供給路
42 :搬送ガス供給路
44 :希釈ガス供給路
60 :溶液
62 :ミスト
64 :搬送ガス
66 :希釈ガス
70 :基板
80 :排出管
図1
図2
図3