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特許7115717ケラチンを含有する有機肥料および土壌改良剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】ケラチンを含有する有機肥料および土壌改良剤
(51)【国際特許分類】
   C05F 11/00 20060101AFI20220802BHJP
   C05C 11/00 20060101ALI20220802BHJP
   C09K 17/32 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
C05F11/00
C05C11/00
C09K17/32 H
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019511535
(86)(22)【出願日】2017-08-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 AU2017000165
(87)【国際公開番号】W WO2018039698
(87)【国際公開日】2018-03-08
【審査請求日】2020-07-30
(31)【優先権主張番号】2016903498
(32)【優先日】2016-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】519061631
【氏名又は名称】ヴェラチン プロプライエタリー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(74)【代理人】
【識別番号】100161665
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 知之
(74)【代理人】
【識別番号】100121153
【弁理士】
【氏名又は名称】守屋 嘉高
(74)【代理人】
【識別番号】100178445
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 淳二
(74)【代理人】
【識別番号】100188994
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100194892
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 麻美
(74)【代理人】
【識別番号】100207653
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡
(72)【発明者】
【氏名】ボウロス,ラミズ
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-059080(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02317886(GB,A)
【文献】英国特許出願公告第00785652(GB,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0232345(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101514122(CN,A)
【文献】特開2001-000956(JP,A)
【文献】特開平06-040786(JP,A)
【文献】RSC Advances,2016年,Vol.6,20095-20101
【文献】Green Chemistry,2014年,Vol.16,2857-2864
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05B1/00-21/00
C05C1/00-13/00
C05D1/00-11/00
C05F1/00-17/993
C05G1/00-5/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の生長促進に利用され、塩化コリンおよび尿素を含む共晶融液を用いた羊毛の分解により羊毛から得られたケラチンを含有する肥料および/または土壌改良剤。
【請求項2】
植物丈、生物量、正規化植生指標(NDVI)、根重量、茎葉重量および全植物重量からなる植物成長パラメターのうち一以上の植物成長パラメターが高くなることを特徴とする請求項1に記載の肥料および/または土壌改良剤。
【請求項3】
塩化コリンおよび尿素の混合物が加熱されたものであることを特徴とする請求項に記載の肥料および/または土壌改良剤。
【請求項4】
尿素に対する塩化コリンのモル比が20:1から1:20までにあることを特徴とする請求項またはに記載の肥料および/または土壌改良剤。
【請求項5】
共晶融液を用いた羊毛の分解に加熱が含まれることを特徴とする請求項1~の何れか一項に記載の肥料および/または土壌改良剤。
【請求項6】
共晶融液に対する羊毛の重量容積比が1g:1mlから1g:100mlまでにあることを特徴とする請求項1~の何れか一項に記載の肥料および/または土壌改良剤。
【請求項7】
塩化コリンおよび尿素を含む共晶融液を用いて羊毛を分解することによりケラチンを含有する肥料および/または土壌改良剤を形成するステップと、
前記肥料および/または土壌改良剤を植物または土壌に施用するステップと、
を含むことを特徴とする植物の生長を促進させる方法。
【請求項8】
植物丈、生物量、正規化植生指標(NDVI)、根重量、茎葉重量および全植物重量からなる植物成長パラメターのうち一以上の植物成長パラメターを高くすることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項9】
既知の肥料および/または土壌改良剤への添加剤として、ケラチンを含有する肥料および/または土壌改良剤を利用することを含む請求項またはに記載の方法。
【請求項10】
ケラチンを含有する肥料および/または土壌改良剤を複数回に分けて施用することを含む請求項7~9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
ケラチンを含有する肥料および/または土壌改良剤を、土壌の表面、土壌内における植物位置の近傍に、液体として施用することを含むことを特徴とする請求項7~10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記共晶融液を用いた羊毛の分解を含む、請求項1~の何れか一項に記載の肥料および/または土壌改良剤の調製における共晶融液の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機肥料および土壌改良剤に関する。より具体的には、本発明は肥料および/または土壌改良剤として使用される窒素原としての有機タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
肥料と土壌改良剤は農産業に加えて、家庭菜園でも幅広く使用されており、また肥料と土壌改良剤には両者の間に数多くの用途と使用例が存在する。肥料を利用して植物による吸収される養分を提供し、また土壌改良剤を利用して植物が成長する土壌の有効性を高めることにより、植物の生長を促進することができる。肥料および土壌改良剤の栄養的側面は、様々な成長促進活性に対して、3つの主要な主要栄養素である、窒素、リンおよびカリウムのうちの1つ以上の供給が関係している場合がある。
【0003】
肥料および土壌改良剤は多くの場合は合成あるいは無機的である。通常、これらの製造には種々の化学処理が必要とされる。無機の肥料および土壌改良剤は、植物または土壌に施用されると、通常は天然または有機の肥料および土壌改良剤と比較して、より大きな成果が得られる。しかしながら、有機の肥料や土壌改良剤は様々な理由により好まれており、これは環境への配慮のみに留まらない。したがって、新規で効果的な有機の肥料および土壌改良剤を同定する必要性がある。
【0004】
これまで、土壌にタンパク質として自然に存在する窒素を、植物が直接利用することはできないものと考えられてきた。これは植物がこれら有機質を分解して利用するために、微生物や地中動物群に依存しているという考え方による。しかし近年になって、根がタンパク質分解酵素を用いて植物自身の根以外を酵素消化するか、またはエンドサイトーシスによる根吸収を利用することなどにより、根がタンパク質に直接アクセスすることができることが近年わかってきた。(PNAS,2008,105:11,4524を参照)
【0005】
さらに、タンパク質源としての羊毛は豊富に利用可能であって、また利用不能となった大量の羊毛が定期的に廃棄されている。したがって、羊毛を有益に再生利用することは経済的にも環境的にも利点がある。
【0006】
本発明は、従来の肥料および土壌改良剤に存在していた上記の欠点の少なくとも一部を解消しようと試みるものである。
【発明の概要】
【0007】
本発明に係る一態様により、ケラチンを含有し、植物の生長促進に使用される肥料および/または土壌改良剤が提供される。
【0008】
植物丈、生物量、正規化植生指標(Normalised Difference Vegetation Index:NDVI)、根重量、茎葉重量および全植物重量からなる植物成長パラメターのうち、一以上のパラメターを促進させることができる。
【0009】
羊毛からケラチンを得ることができる。ケラチンは共晶融液を用いた羊毛の分解から得ることができる。
【0010】
共晶融液は塩化コリンと尿素を含有することができる。塩化コリンと尿素の混合物は加熱される場合がある。尿素に対する塩化コリンのモル比は、約20:1から約1:20とすることができる。
【0011】
共晶融液を用いた羊毛の分解に加熱を含むことができる。共晶融液に対する羊毛の重量容積比は、約1g:1mlから約1g:100mlまでとすることができる。
【0012】
本発明に係る第2の態様により、ケラチンを含有する肥料および/または土壌改良剤を利用して植物の生長を促進させる方法が提供される。
【0013】
本方法により、植物丈、生物量、正規化植生指標(Normalised Difference Vegetation Index:NDVI)、根重量、茎葉重量および全植物重量からなる植物成長パラメターのうち一以上のパラメターを促進させることができる。
【0014】
植物の生長を促進させる本方法には、既知の肥料および/または土壌改良剤への添加剤として、ケラチンを含有する肥料および/または土壌改良剤を使用することを含むことができる。
【0015】
本方法には、植物にケラチンを含有する肥料および/または土壌改良剤を複数回に分けて与えることを含むことができる。
【0016】
ケラチンを含有する肥料および/または土壌改良剤は、土壌の表面、土壌内における植物位置の近傍に、液体として施用することができる。
【0017】
次に添付の図面を参照しながら実施例として本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は実施例1に係る植物丈の結果を示すグラフである。
図2図2は実施例1に係る植物生物量の結果を示すグラフである。
図3図3は実施例1に係るNDVIの結果を示すグラフである。
図4図4は実施例1に係る茎葉重量の結果を示すグラフである。
図5図5は実施例1に係る根重量の結果を示すグラフである。
図6図6は実施例1に係る全植物重量の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ケラチンとは上皮細胞に自然に存在する繊維状の構造タンパク質のことである。ケラチン繊維には2種類あり、1つは毛髪および羊毛などに認められるαケラチンであって、もう1つは爪や嘴などの材質に認められ、より硬いとされるβ-ケラチンである。タンパク質として、ケラチンにはその構造を構成するアミノ酸に由来する窒素が含まれている。植物における窒素の働きはよく知られている。
【0020】
ケラチン、より具体的には羊毛抽出物に由来するケラチンを含む組成物には著しい生物刺激活性があり、これにより有機窒素源、ひいては肥料および/または土壌改良剤、または肥料および/または土壌改良剤への添加剤として有効と示されることが最近になってわかってきた。
【0021】
本発明によれば、羊由来の羊毛を分解することにより、植物の吸収に利用可能なケラチンタンパク質が得られる。この羊毛抽出物は、肥料および/または土壌改良剤そのものとして、または肥料および/または土壌改良剤への添加物としての活性を示した。
【0022】
この抽出物の調製には、安全な塩化コリン-尿素深共晶溶媒融液を用いた羊毛の分解によるケラチンの生成が含まれる。共晶融液は、塩化コリンと尿素を約20:1から約1:20までのモル比で混合し、数分加熱することにより形成することができる。その後、この共晶融液に羊毛が熱を利用して約1g:lmlから約1g:100mlまでの重量容積比で溶解される。このような羊毛加工は材質の有機成分を破壊しない。(RSCAdv.,2016,6,20095の調製方法が反映されている)
【0023】
上記プロセスの加熱ステップにより、少なくとも一部の尿素成分がアンモニアに変換されることが当業者に理解されよう。得られたアンモニアガスが外部に放たれることにより、混合物中の窒素成分が減少する。このアンモニアの存在により刺激臭も確認される。
【0024】
以下の実施例は本発明の効果を示している。
実施例1-生物活性
【0025】
本発明に係る組成物を鉢植えのグロッセ・リッセトマトに対して試験することにで、植物成長を評価した。適応された処理は、Verigrow-1:塩化コリン+尿素(加熱なし);Verigrow-2:塩化コリン+尿素(加熱あり);Verigrow-3:塩化コリン+尿素+羊毛(加熱あり)であって、何れも水により植物(1ポット)あたり5.4mL,10.8mLおよび21.6mLで1:10に希釈されて調整された。適応された処理はまた、1植物あたり141.3mLの市販の海藻植物処理(シーソル(登録商標))であった。処理は、植え替え時(主稈葉数3~4)と花序の出現が50%の時に二度施用されたか、または、50%の花序出現の時に一度だけ施用された。イベント時系列と処理は表1と表2にそれぞれ下記の通り示される。
【表1】

【表2】
【0026】
図1図6には、Aの施用後またはBの施用後(DAAAまたはDAAB)における様々な日における結果が示されている。
【0027】
植物丈、生物量、正規化植生指標(NDVI)および重量(根および茎葉)が測定され、3つのVerigrow製剤すべてに対してすべてのファクターが大きく上昇し、全部のVerigrow配合の増加率に対して著しい用量反応があった。Verigrow製剤の二度の施用により、一度の施用と比較して、植物丈、生物量、正規化植生指標(NDVI)および重量(根および茎葉)が大きく上昇した。海藻による植物処理の一度と二度の処理は、植物丈、生物量、NDVIおよび重量(根および茎葉)に関して、未処理の対照群と比較して大きい変化はなかった。
【0028】
Verigrow-2と比較したときのVerigrow-1の優れた結果から認められるように、共晶融液の加熱により窒素が失われていることがこれらの結果から確認される。しかし、ケラチン含有製剤であるVerigrow-3により得られた結果は、未加熱の混合物と類似しているため、加熱プロセスにも関わらず、残っている窒素は植物に利用可能であった。
【0029】
以前示した通り(PNAS,2008,105:11,4524を参照のこと)、有機窒素はタンパク質またはアミノ残の形態で植物に利用可能である。本発明に係る羊毛処理の効果は、得られたケラチンタンパク質が有機窒素源として生物学的に利用可能となる点にある。この窒素は、エンドサイトーシスによりタンパク質そのものの形態で、または酵素消化から生じるより単純なアミノ酸として(根のタンパク質分解活性または土壌に存在する微生物に由来する)、根吸収により植物が利用することができる。
【0030】
本発明は無機窒素源と比べてより長い持続性などを有するという利点を有することがわかった。さらに、窒素源としてのタンパク質により、植物がより広範囲に根を張り巡らせる能力が高くなる。羊毛の分解により本組成物から利用可能となるケラチンタンパク質は、植物への有機窒素源として、生物学的に利用可能であるものとして理解される。本発明は羊毛廃棄物を無くすかあるいは低減させるための道を切り開き、また羊毛生産者の追加資金源として役立つという利点をさらに提供する。
【0031】
当業者に明らかであろう修正および変形は本発明の範囲内にあるとみなされる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6