(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】水性口腔ケア溶液、方法、キット、及び該口腔ケア溶液から誘導されたコーティングを有する歯表面
(51)【国際特許分類】
A61K 8/19 20060101AFI20220802BHJP
A61K 8/23 20060101ALI20220802BHJP
A61K 8/21 20060101ALI20220802BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20220802BHJP
A61K 8/20 20060101ALI20220802BHJP
A61K 8/43 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
A61K8/19
A61K8/23
A61K8/21
A61Q11/00
A61K8/20
A61K8/43
(21)【出願番号】P 2021510927
(86)(22)【出願日】2019-08-27
(86)【国際出願番号】 IB2019057203
(87)【国際公開番号】W WO2020044230
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-02-26
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100110803
【氏名又は名称】赤澤 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】ワン,イチュン
(72)【発明者】
【氏名】リウ, ジエ ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ルーシン,リチャード,ピー.
(72)【発明者】
【氏名】グスタフソン,メリンダ ビー.
(72)【発明者】
【氏名】へーバーライン,インゴ
(72)【発明者】
【氏名】カレラ ヴィダル,カロラ エー.
【審査官】小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第4012839(US,A)
【文献】米国特許第6461161(US,B1)
【文献】国際公開第2018/092889(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0062031(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第107613944(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0156130(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性口腔ケア溶液であって、
銀カチオンと
Ca(SCN)
2を含むチオシアネート源によって提供されたチオシアネートアニオンと、
フッ化物アニオンと、
前記溶液の総重量に基づいて最大57重量%の量の水と、を含み、
ここで、銀イオンのチオシアネートイオンに対するモル比は最大0.40:1である、
水性口腔ケア溶液。
【請求項2】
12.5~20.2重量%の銀カチオンと、
1.0~6.0重量%のフッ化物アニオンと、
を含む、口腔ケア溶液であって、
ここで、前記重量%は前記溶液の総重量に基づくものであり、
銀イオンのチオシアネートイオンに対するモル比は、少なくとも0.10:1かつ最大0.40:1であり、
前記口腔ケア溶液は、追加の水又は唾液と接触すると析出物を形成する、
請求項1に記載の口腔ケア溶液。
【請求項3】
12.5~20.2重量%の銀カチオンと、
2.2~3.5重量%のフッ化物アニオンと、
を含む、請求項2に記載の口腔ケア溶液。
【請求項4】
1~55重量%のCa(SCN)
2を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の口腔ケア溶液。
【請求項5】
フッ化銀、塩化銀、硝酸銀、フッ化ジアンミン銀、及びこれらの組み合わせから選択される銀カチオンの供給源を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の口腔ケア溶液。
【請求項6】
フッ化銀、フッ化ジアンミン銀、フッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム、フッ化アミン、及びこれらの組み合わせから選択されるフッ化物アニオンの供給源を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の口腔ケア溶液。
【請求項7】
増粘剤、カルシウムカチオン、界面活性剤、並びにアンモニウムチオシアネート、ナトリウムチオシアネート、カリウムチオシアネート、グアニジニウムチオシアネート、及びこれらの組み合わせから選択されるチオシアネートアニオンの二次供給源、の1つ以上を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の口腔ケア溶液。
【請求項8】
5.5~9のpHを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の口腔ケア溶液。
【請求項9】
5重量%未満の有機溶媒、及び前記溶液の総重量に基づいて少なくとも20重量%の水、の1つ以上を含む、請求項1~
8のいずれか一項に記載の口腔ケア溶液。
【請求項10】
患者の歯表面に適用することによりフッ化物を前記患者の歯表面に付与するための、請求項1~9のいずれか一項に記載の口腔ケア溶液。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
フッ化物処置は、フッ化物を歯表面に適用して、フッ化アパタイト及びフッ化カルシウムを形成することを含む。
【0002】
現在、2つの主要なインオフィスのフッ化物処置方法が使用されている。1つの処置方法は、トレイ内でフッ化物ゲル/フォームを使用する。この方法は、トレイ内に貯蔵され、次いで患者の口内で歯の上に載置される、数グラムのフッ化物ゲルを必要とする。このトレイは、ゲル/フォームが歯と接触しながら、1~4分間、口内に残される。ゲル/フォーム製剤は、2%のフッ化ナトリウムを含む水性系である。この材料は、不必要な大量のフッ化物の摂取を回避するために、口から余分なゲルを引き出すための吸引の使用を必要とする。
【0003】
別の処置方法は、歯科用フッ化物ワニスである。市場にあるほとんどのフッ化物ワニスは、疎水性の性質を有するロジン/エタノール系製剤である。歯にワニスを塗り、数時間適所に留まらせて、組成物からフッ化物を放出させる。典型的には、歯科医師は、インオフィスのフッ化物処置のためにフッ化物ワニスを使用する。ほとんどの歯科用フッ化物ワニスは、5%のフッ化ナトリウムを含む。ワニスの用量は、約0.5gである。歯科用ワニスは、患者の口内に載置するフッ化物の量が、フッ化物ゲル/フォームと比べてはるかに少ない。したがって、フッ化物ワニスでは、フッ化物の摂取はより少ない。更に、フッ化物ワニスは、患者の歯の上に単純に塗られるので適用がより簡単であるが、フッ化物ワニス処置はゲル処置よりも労働集約的であり、かつフッ化物ワニス処置は、患者に、不快な「汚れている歯」という感覚を残す。
【0004】
ワニスと同様に歯への適用が簡単であり、ゲル/フォーム製剤と同様に短い期間で作用する組成物が望まれている。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】処置しなかった対照象牙質表面である、比較例CE-16の材料の走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
【
図2】比較例CE-10溶液で処置した象牙質表面である、比較例CE-17の材料のSEMである。
【
図3】実施例Ex-7溶液で処置した象牙質表面である、実施例Ex-27の材料のSEMである。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、水性口腔ケア溶液、かかる溶液の製造方法、かかる溶液を使用した処置方法(例えば、患者の歯表面にフッ化物を付与する方法)、キット、及び処置された歯を提供する。
【0007】
かかる溶液は、インオフィスの口腔ケア溶液として(例えば、フッ化物処置溶液として)使用することができる。それらは、所望であれば、歯表面上に塗ることができる溶液に製剤することができる。それらは、ゲル/フォーム製剤よりも短い期間で、ワニスの有効性と同様のフッ化物の有効性をもたらすことができる。
【0008】
一実施形態では、本開示は、水性口腔ケア溶液であって、銀カチオンと、Ca(SCN)2を含むチオシアネート源によって提供されたチオシアネートアニオンと、フッ化物アニオンと、溶液の総重量に基づいて最大57重量%の量の水と、を含み、ここで、銀イオンのチオシアネートイオンに対するモル比が、最大0.40:1である、水性口腔ケア溶液を提供する。
【0009】
このような溶液の特定の実施形態では、水性口腔ケア溶液は、12.5~20.2重量%の銀カチオンと、1.0~6.0重量%(好ましくは2.2~3.5重量%)のフッ化物アニオンと、を含み、ここで、重量%は溶液の総重量に基づくものであり、銀イオンのチオシアネートイオンに対するモル比は、少なくとも0.10:1かつ最大0.40:1であり、口腔ケア溶液は、追加の水又は唾液と接触すると析出物(precipitate)(例えば、銀リッチ及びCaF2リッチ層)を形成する。
【0010】
別の実施形態では、本開示は、フッ化物を患者の歯表面に付与する方法を提供する。本方法は、本明細書に開示の水性口腔ケア溶液を患者の歯表面に適用することを伴う。
【0011】
別の実施形態では、本開示は、それを必要とする患者におけるう歯の発生率を低減する方法を提供する。本方法は、本明細書に開示の水性口腔ケア溶液を患者の歯表面に適用することを伴う。
【0012】
別の実施形態では、本開示は、それを必要とする患者における象牙質知覚過敏及び/又は歯根知覚過敏(例えば、虫歯処置中及び/又は露出した歯根上の)を低減する方法を提供する。本方法は、本明細書に開示の水性口腔ケア溶液を患者の歯表面に適用することを伴う。
【0013】
別の実施形態では、本開示は、本明細書に記載の水性口腔ケア溶液と、アプリケータと、を含むキットを提供する。
【0014】
別の実施形態では、本開示は、象牙質細管を有する歯表面と、歯表面上に配置されたコーティングと、を含む歯を提供し、このコーティングは、銀リッチ粒子と、象牙質細管の少なくとも一部分を封鎖するCaF2リッチ層と、を含む。
【0015】
用語「含む」及びその変化形は、これらの用語が本明細書及び特許請求の範囲において現れるところでは、限定的な意味を有するものではない。このような用語は、記述される1つの工程若しくは要素、又は複数の工程若しくは要素の群が含まれることを示唆するが、いかなる他の1つの工程若しくは要素、又は複数の工程若しくは要素の群も除外されないことを示唆すると理解される。「からなる」により、この語句「からなる」の前のいかなるものも含み、これらに限定することを意味する。したがって、語句「からなる」は、列挙された要素が必要又は必須であり、他の要素が存在し得ないことを示す。「から本質的になる」は、この語句の前に列挙されるあらゆる要素を含み、これらの列挙された要素に関して本開示で特定した作用若しくは機能に干渉又は寄与しない他の要素に限定されることを意味する。したがって、語句「から本質的になる」は、列挙された要素が必要又は必須であるが、他の要素は任意であり、列挙された要素の作用若しくは機能に実質的に影響を及ぼすか否かに応じて存在してもよい、又は、しなくてもよいことを示す。
【0016】
「好ましい(preferred)」及び「好ましくは(preferably)」という言葉は、一定の状況下で一定の利益を提供できる、本開示の実施形態を指す。ただし、他の実施形態もまた、同じ又は他の状況において好ましい場合がある。更には、1つ以上の好ましい実施形態の記載は、他の実施形態が有用ではないことを示唆するものではなく、本開示の範囲から他の実施形態を排除することを意図するものではない。
【0017】
本出願では、「a」、「an」、及び「the」などの用語は、単数の実体のみを指すことを意図するものではなく、一般分類を含み、その一般分類の具体例は、例示のために使用し得る。用語「a」、「an」及び「the」は、語句「少なくとも1つ」及び「1つ以上」と互換的に使用される。列挙に後続する「~のうちの少なくとも1つ」及び「~のうちの少なくとも1つを含む」という語句は、列挙内の項目のうちのいずれか1つ、及び、列挙内の2つ以上の項目のいずれかの組み合わせを指す。
【0018】
用語「又は」は、特に内容に別段の明示がない限り、概して「及び/又は」を含むその通常の意味で使用される。
【0019】
用語「及び/又は」は、列挙された要素のうちの1つ若しくは全て、又は列挙された要素のうちの任意の2つ以上の組み合わせを意味する。
【0020】
更に本明細書では、全ての数は用語「約」によって修飾されるものとみなされ、特定の実施形態では、好ましくは、用語「正確に」によって修飾されるものとみなされる。本明細書で使用されるとき、測定した量との関連において、用語「約」は、測定を行い、測定の目的及び使用される測定機器の精度に見合う水準の注意を払う当業者によって予測されるような測定量の変動を指す。本明細書では、「最大」数字(例えば、最大50)は、その数(例えば、50)を含む。
【0021】
更に本明細書では、端点による数値範囲の記載は、その範囲内に包含される全ての数及びその端点を含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。
【0022】
本明細書を通しての「一実施形態(one embodiment)」、「実施形態(an embodiment)」、「特定の実施形態」、又は「いくつかの実施形態」などへの言及は、実施形態に関して記載された特定の特徴、構成、組成、又は特性が、本開示の少なくとも1つの実施形態に含まれていることを意味する。したがって、本明細書を通して様々な箇所でのこのような語句の出現は、必ずしも本開示の同一の実施形態を指しているわけではない。更に、特定の特徴、構成、組成、又は特性は、1つ以上の実施形態において任意の適切な方法で組み合わせてもよい。
【0023】
本開示の上記の概要は、開示されるそれぞれの実施形態、又は本開示の全ての実装形態を説明することを意図していない。以下の説明は、例示的な実施形態をより具体的に例示する。本出願を通し、数箇所において、例の列挙を通して指針が提供されており、これらの例は、様々な組み合わせで用いることができる。それぞれの事例において、記載された列挙項目は、代表的な群としての役割のみを果たすものであり、排他的な列挙として解釈されるべきではない。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示は、水性口腔ケア溶液を提供する。本開示はまた、それを必要とする患者における患者の歯表面にフッ化物を付与する方法、う歯の発生率を低減する方法、及び象牙質知覚過敏及び/又は歯根知覚過敏(例えば、虫歯処置中及び/又は露出した歯根上の)を低減する方法を提供する。このような方法は、本明細書に記載の水性口腔ケア溶液(例えば、フッ化物処置溶液)を患者の歯表面に適用することを伴う。
【0025】
特定の実施形態では、水性口腔ケア溶液を適用することは、口腔ケア溶液を患者の歯表面上に塗ることを含む。
【0026】
特定の実施形態では、水性口腔ケア溶液を適用することは、この口腔ケア溶液を歯科用トレイ中に分配することと、その中に口腔ケア溶液を有するトレイを患者の歯表面に取り付けることと、を含む。特定の実施形態では、歯科用トレイは、歯科矯正用アライナ処置トレイを含む。
【0027】
特定の実施形態では、水性口腔ケア溶液は、銀カチオンと、Ca(SCN)2を含むチオシアネート源によって提供されたチオシアネートアニオンと、フッ化物アニオンと、水と、を含む。
【0028】
特定の実施形態では、銀イオン(本明細書では銀カチオンとも呼ばれる)は、少なくとも12.5重量パーセント(重量%)、少なくとも13.0重量%、少なくとも14.0重量%、又は少なくとも15.0重量%の量で存在し、ここで、重量%は溶液の総重量に基づく。特定の実施形態では、銀カチオンは、最大20.2重量%、最大20.0重量%、最大19.0重量%、又は最大18.0重量%の量で存在し、ここで、重量%は溶液の総重量に基づく。
【0029】
特定の実施形態では、銀カチオンの供給源は、フッ化銀、塩化銀、硝酸銀、フッ化ジアンミン銀、及びこれらの組み合わせから選択される。
【0030】
特定の実施形態では、フッ化物イオン(本明細書ではフッ化物アニオンとも呼ばれる)は、少なくとも1.0重量%、少なくとも1.5重量%、少なくとも2.0重量%、又は少なくとも2.2重量%の量で存在し、ここで、重量%は溶液の総重量に基づく。特定の実施形態では、フッ化物アニオンは、最大6.0重量%、最大5.0重量%、最大4.5重量%、最大4.0重量%、又は最大3.5重量%の量で存在し、ここで、重量%は溶液の総重量に基づく。
【0031】
特定の実施形態では、フッ化物アニオンの供給源は、フッ化銀、フッ化ジアンミン銀、フッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム、フッ化アミン、及びこれらの組み合わせから選択される。
【0032】
特定の実施形態では、水性口腔ケア溶液は、12.5~20.2重量%の銀カチオンと、2.2~3.5重量%のフッ化物アニオンと、を含み、ここで、重量%は溶液の総重量に基づく。特定の実施形態では、チオシアネートイオンは、Ca(SCN)2によって提供され、これは1重量%~55重量%の量で提供される。
【0033】
銀イオンのチオシアネートイオンに対するモル比は、最大0.40:1、最大0.39:1、又は最大0.38:1である。特定の実施形態では、銀イオンのチオシアネートイオンに対するモル比は、少なくとも0.10:1、少なくとも0.15:1、少なくとも0.20:1、少なくとも0.25:1、少なくとも0.27:1、又は少なくとも0.30:1である。特定の実施形態では、チオシアネートイオン(本明細書においてチオシアネートアニオンとも呼ばれる)の供給源は、Ca(SCN)2を含み、任意で、アンモニウムチオシアネート、ナトリウムチオシアネート、カリウムチオシアネート、グアニジニウムチオシアネート、及びこれらの組み合わせから選択されるチオシアネートイオンの二次供給源を含む。
【0034】
特定の実施形態では、水性口腔ケア溶液は、溶液の総重量に基づいて、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、又は少なくとも30重量%の量の水を含む。水の量は、溶液の総重量に基づいて、最大57重量%、最大55重量%、又は最大50重量%である。
【0035】
口腔環境内の追加の水又は唾液と接触すると、口腔ケア溶液は、析出物(すなわち、溶液から形成された固体)を形成する。析出物は、Ag、AgSCN、及びCaF2を含む。得られた銀含有析出物は、抗菌効果をもたらすと考えられる。理論に束縛されるものではないが、CaF2、AgSCN、フッ化物イオン、及び/又は過剰なチオシアネートイオンは、歯内のカルシウムと錯形成すると考えられる。
【0036】
特定の実施形態では、口腔ケア溶液は、12.5~20.2重量%の銀カチオンと、1.0~6.0重量%(又は2.2~3.5重量%)のフッ化物アニオンと(ここで、重量%は溶液の総重量に基づくものである)、チオシアネートアニオンと、を含み、ここで銀イオンのチオシアネートイオンに対するモル比は、少なくとも0.10:1かつ最大0.40:1であり、口腔ケア溶液は、追加の水又は唾液と接触すると析出物を形成する。
【0037】
本開示の口腔ケア溶液は、水性溶液であるが、少量の1つ以上の有機溶媒を含んでもよい。有機溶媒の例は、エタノール、イソプロパノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、イソプレンスルホン(IS)、ブタジエンスルホン(BS)、ピペリレンスルホン(PS)、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸イソプロピル、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、及びこれらの組み合わせから選択される。
【0038】
好ましくは、水性口腔ケア溶液は、(風味剤(flavorants)又は甘味料の担体/溶媒として使用される有機溶媒とは対照的に)液体担体として機能する有機溶媒を含まない。例えば、特定の添加剤は、液体担体として、有機溶媒中の溶液又は分散液として提供されてもよい。本開示の水性口腔ケア溶液中に存在する任意の有機溶媒(液体担体として機能する)が存在する場合、それは、水性溶液の総重量に基づいて5重量%未満の量で存在する。
【0039】
好ましくは、本開示の水性口腔ケア溶液は、歯を着色しない。これは、口腔ケア溶液を1%のリン酸塩溶液と3:1の比で組み合わせ、この混合物を波長430~480nm、出力約1500mW/cm2(-10%/+20%)の青色LED光、例えば商標名3M ELIPAR DEEPCURE-S LED硬化光(3M Company(St.Paul,MN)から入手可能)などに、20秒間曝露し、混合物が黒色析出物を形成するか否かを確認することで決定できる。黒色析出物を形成しない場合、溶液は歯を着色しない。
【0040】
本開示の水性口腔ケア溶液は、層状組成物を形成するという点で概ね貯蔵安定性ではないが、組成物を振盪又はかき混ぜることにより、均質な組成物が得られる場合がある。
【0041】
更なる任意選択の活性薬剤
本開示の水性口腔ケア溶液はまた、フッ化物の供給源に加えて、1つ以上の活性薬剤も含有することができる。含まれる場合、1つ以上の更なる活性薬剤としては、常にではないが通常は、歯、歯肉、頬、舌、口蓋などの、障害、疾患、又は状態に対して口腔内で活性な1つ以上の活性薬剤が挙げられる。
【0042】
使用され得る更なる活性薬剤の例としては、1つ以上の他のフッ素含有化合物、例えば、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化第一スズ、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化亜鉛、フッ化カリウム亜鉛、フッ化マグネシウムカリウム、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0043】
使用され得る更なる活性薬剤の例としては、1つ以上の増白剤、抗結石剤、再石灰化剤、第一スズ源、抗菌剤、抗酸化剤、唾液刺激剤、呼気清涼化剤、抗歯垢剤、抗炎症剤、H2拮抗薬、減感剤、栄養素、及びタンパク質が挙げられる。所望の場合、このような更なる活性薬剤の様々な組み合わせが使用されてもよい。使用される場合、1つ以上の更なる活性薬剤は、典型的には、それらの意図される効果を達成するのに十分な量で使用されることになる。
【0044】
使用される場合、増白剤は、多様な、好適な増白剤であり得る。増白剤には、例えば、過酸化物増白剤、非過酸化物増白剤、又はその両方が挙げられる。過酸化物増白剤としては、過酸化水素、アルカリ又はアルカリ土類金属の過酸化物、例えば、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、過酸化リチウム、過酸化マグネシウム、過酸化カルシウム、過酸化バリウムなど、過酸化水素グリセリル、過酸化水素アルキル、過酸化ジアルキル、過酸又は過酸塩、過酸化ベンゾイル(benxoyl peroxide)、過酸化尿素などが挙げられる。過酸化水素が、最も一般的である。非過酸化物増白剤としては、二酸化塩素、亜塩素酸、及び次亜塩素酸が挙げられる。亜塩素酸及び次亜塩素酸は、典型的には、アルカリ又はアルカリ土類金属塩の形態、例えば、リチウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、又はバリウムの塩の形態である。着色剤、二酸化チタン、及びヒドロキシアパタイトもまた、使用することができる。
【0045】
使用される場合、抗結石剤は、多様な、好適な抗結石剤であり得る。抗結石剤には、例えば、ホスフェート、ポリホスフェート、例えばピロホスフェート、スルホン酸ポリオレフィン、リン酸ポリオレフィン、ジホスホネート、ホスホノアルカンカルボン酸、及びこれらの塩、典型的にはアルカリ金属塩又はアンモニウム塩が挙げられる。
【0046】
使用される場合、再石灰化剤は、多様な、好適な再石灰化剤であり得る。再石灰化剤としては、例えば、カルシウムイオン、リン含有イオン、又はその両方を放出する材料、例えば、リン酸カルシウム(例えば、リン酸モノカルシウム、リン酸ジカルシウム、及び/又はリン酸トリカルシウム)、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
【0047】
カルシウムイオンを放出する材料の例は、水溶性のカルシウム塩、例えば、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸グルコン酸カルシウム、酢酸カルシウム、これらの水和物、及びこれらの組み合わせから選択されるものである。特定の実施形態では、カルシウム塩は、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、これらの水和物、及びこれらの組み合わせから選択される。
【0048】
カルシウム塩はまた、フッ化物放出プロファイルを調節するために使用され得る。
【0049】
使用される場合、第一スズ源は、多様な、好適なスズイオンの源であり得る。第一スズイオン源には、例えば、ハロゲン化第一スズ、有機第一スズカルボン酸塩、例えばギ酸第一スズ、酢酸第一スズ、グルコン酸第一スズ、乳酸第一スズ、酒石酸第一スズ、及びクエン酸第一スズが挙げられる。フッ化物源がフッ化第一スズである場合、これはまた、第一スズ源としても機能することができる。
【0050】
使用される場合、抗菌剤としては、多様な、経口的に許容される抗菌剤が挙げられる。例としては、トリクロサン、8-ヒドロキシキノリン、亜鉛イオン、第一スズイオン、第二銅化合物、フタル酸及びその塩、第四級アンモニウム化合物、サンギナリン、サリチルアニリド、サリチル酸、チモール、オイゲノール、ネオマイシン、カナマイシン、クリンダマイシン、アモキシシリン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、メトロニダゾール、クロロヘキシジンなどが挙げられる。
【0051】
使用される場合、抗酸化剤は、多様な、経口的に許容できる抗酸化剤であり得る。例としては、ブチル化ヒドロキシアニゾン、ブチル化ヒドロキシトルエン、ビタミンA、カロテノイド、ビタミンE、フラボノイド、ポリフェノール、アスコルビン酸又はその塩、クロロフィル、メラトニンなどが挙げられる。
【0052】
使用される場合、唾液刺激剤は、多様な、経口的に許容される唾液刺激剤であり得る。例としては、クエン酸、乳酸、コハク酸、アスコルビン酸、アジピン酸、フマル酸、及び酒石酸が挙げられる。
【0053】
使用される場合、呼気清涼化剤は、多様な、経口的に許容可能な呼気清涼化剤であり得る。例としては、亜鉛塩、例えばグルコン酸、クエン酸、亜塩素酸、α-イオノンなどの亜鉛塩が挙げられる。
【0054】
使用される場合、抗歯垢剤は、多様な、経口的に許容される抗歯垢剤であり得る。例としては、第一スズ塩、銅、マグネシウム又はストロンチウムの塩、ジメチコンコポリオール、例えば、セチルジメチコンコポリオール、パパイン、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼ、尿素、乳酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、ポリアクリル酸ストロンチウムなどが挙げられる。抗歯垢剤の更なる例としては、バイオフィルム阻害剤、詳細には、米国特許第8,968,709号(Yang et al.)に記載されているものが挙げられる。
【0055】
使用される場合、抗炎症剤は、多様な、経口的に許容される抗炎症剤であり得る。例としては、ステロイド、例えばフルシノロン及びヒドロコルチゾン、非ステロイド抗炎症薬剤、例えばケトロラク、フルルビプロフェン、イブプロフェン、ナプロキセン、インドメタシン、ジクロフェナク、エトドラク、インドメタシン、スリンダク、トルメチン、ケトプロフェン、フェノプロフェン、ピロキシカム、ナブメトン、アセチルサリチル酸、サリチル酸、ジフルニサル、メクロフェナメート、メフェナム酸、オキシフェンブタゾン、フェニルブタゾンなどが挙げられる。
【0056】
使用される場合、H2拮抗剤は、多様な、経口的に許容されるH2拮抗剤であり得る。例としては、シメチジン、エチニジン、ラニチジン、チオチジン、ルピチジン、デネチジン、ファモチジン、ロキサチジン、ピファチジン、ラムチジン、ザルチジン、ニザチジン、ミフェンチジン、ラミキソチジン、ロキシチジン、ビスフェンチジン、サフォチジン、エブロチジン、イムプロミジンなどが挙げられる。
【0057】
使用される場合、減感剤は、多様な、経口的に許容される減感剤であり得る。例としては、クエン酸カリウム、塩化カリウム、酒石酸カリウム、重炭酸カリウム、シュウ酸カリウム、硝酸カリウム、ストロンチウム塩、アルギニン、アセチルサリチル酸又はその塩、サリチル酸又はその塩、コデイン、アセトアミノフェンなどが挙げられる。
【0058】
使用される場合、栄養素は、多様な、経口的に許容される栄養素であり得る。例としては、ビタミン、例えばビタミンC、ビタミンD、チアミン、リボフラビン、葉酸、ニコチンアミド、ナイアシン、ピリドキシン、ビオフラボノイドなど、サプリメント、例えばアミノ酸、脂肪作用薬、魚油、多価不飽和脂肪酸、エイコサペンタン酸、ドコサヘキサン酸、コエンザイムQ10、ユビキノン、カリウムなどのミネラルなどが挙げられる。
【0059】
使用される場合、タンパク質には、多様な、経口的に許容されるタンパク質が挙げられ得る。例としては、乳タンパク質、過酸化物産生酵素、アミラーゼ、パパイン、グルコアミラーゼ、グルコースオキシダーゼなどが挙げられる。
【0060】
緩衝剤
本開示の水性口腔ケア溶液は、薬学的に許容される緩衝剤を含み得る。このような緩衝剤の種類及び量は、少なくとも5.5、少なくとも6、又は少なくとも6.5のpHを有する口腔ケア溶液を提供するように選択される。特定の実施形態では、このような緩衝剤の種類及び量は、最大で9、最大で8.5、最大で7.5、又は最大で7のpHを有する口腔ケア溶液を提供するように選択される。特定の実施形態では、このような緩衝剤の種類及び量は、6.5~7.5のpH、又は7.0のpHを有する口腔ケア溶液を提供するように選択される。多様な、好適な薬学的に許容される緩衝剤を挙げることができる。例としては、酢酸塩(例えば、酢酸ナトリウム)、炭酸ナトリウム、クエン酸塩(例えば、クエン酸ナトリウム)、酒石酸塩、グリシルグリシン、ヒスチジン、グリシン、リジン、アルギニン、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸ナトリウム、トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0061】
増粘剤
特定の実施形態では、本開示の水性口腔ケア溶液は、所望の適用方法を可能にする好適な粘度を有する溶液を提供するために、増粘剤を含む。例えば、反転されたマウスピーストレイアプリケータ内で最大で4分間(専門的に適用されるフッ化物処置のための典型的な時間)溶液を維持するのに適切であり、更に歯科技師にとって許容される取り扱い特性を有する(例えば、歯科用トレイアプリケータ中に分配するとき)のに十分流体であるような、溶液粘度を達成するのに十分な量の好適な増粘剤を使用することができる。又は、十分な量にある好適な増粘剤を、歯表面上を塗るのに適切な溶液粘度を達成するために使用してもよい。
【0062】
特定の実施形態では、増粘剤の種類及び量は、1.0/秒の剪断速度で少なくとも0.5パスカル秒の粘度を有する口腔ケア溶液を提供するように選択される。特定の実施形態では、増粘剤の種類及び量は、1.0/秒の剪断速度で最大で500パスカル秒の粘度を有する口腔ケア溶液を提供するように選択される。
【0063】
特定の実施形態では、増粘剤は、口腔ケア溶液中に、水性溶液の総重量に基づいて2.5重量%未満の量で存在する。特定の実施形態では、増粘剤は、水性溶液の総重量に基づいて少なくとも0.5重量%の量で存在する。
【0064】
好適な増粘剤は、典型的には、ヒトの摂取に一般的に安全である(FDAが、内部使用について承認している)ものであり、フッ化物イオンに結合しないものであり、かつフッ化物イオンの生物学的利用能に有意に影響しないものである。
【0065】
特定の実施形態では、増粘剤は、天然ゴム、非酸セルロース誘導体(例えば、ヒドロキシエチルセルロース)、無機充填剤(例えば、コロイド状シリカ、ヒュームドシリカ、アルミナ、チタニア、及び酸化亜鉛)、アルキレンオキシドポリマー(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのコポリマー)、非酸変性デンプン、並びにこれらの組み合わせから選択される。
【0066】
任意選択の添加剤
特定の実施形態では、本開示の水性口腔ケア溶液は、香味剤(flavoring agents)(すなわち、風味剤(flavorants))及び甘味料を含む1つ以上の任意選択の添加剤を含む。他の任意選択の添加剤としては、界面活性剤が挙げられる。所望であれば、このような添加剤の様々な組み合わせが使用されてもよい。
【0067】
特定の実施形態では、本開示の水性口腔ケア溶液は、甘味料を含む。多様な、経口的に許容される甘味料を使用することができる。一般的な甘味料としては、キシリトール、ソルビトール、スクラロース、アスパルテーム、サッカリン、通常はサッカリンナトリウムなどが挙げられる。存在する場合、甘味料は、任意の好適な量で、ほとんどの場合、溶液に心地よい甘味を付与するのに十分な量で使用できる。その好適な量は、典型的には、水性溶液の総重量に基づいて0.5重量%~15重量%である。
【0068】
特定の実施形態では、本開示の水性口腔ケア溶液は、香味剤を含む。多様な、経口的に許容される香味剤を使用することができる。一般的な香味剤としては、ペパーミント油、スペアミント油、サクランボ香味、クエン酸、オレンジ香味、バニラ、イチゴ香味、ココナツ香味、及び風船ガムの香味が挙げられる。存在する場合、香味剤は、任意の好適な量で、ほとんどの場合、溶液に所望の香味を付与するのに十分な量で使用することができる。その好適な量は、典型的には、水性溶液の総重量に基づいて1重量%~4重量%である。
【0069】
特定の実施形態では、本開示の水性口腔ケア溶液は、界面活性剤を含む。典型的には、このような界面活性剤はアニオン性界面活性剤であり、その例としては、ポリソルベート、グリセロール、ポリグリセロール系界面活性剤、又はこれらの組み合わせが挙げられる。存在する場合、界面活性剤は、任意の好適な量で、ほとんどの場合、湿潤性を付与するのに十分な量で使用することができる。その好適な量は、典型的には、水性溶液の総重量に基づいて0.1重量%~5.0重量%である。
【0070】
キット
特定の実施形態では、本開示の水性口腔ケア溶液は、キットに含まれる。典型的には、このようなキットは、口腔ケア溶液用のアプリケータ(例えば、デンタルブラシ、綿棒)を含む。このようなアプリケータは、口腔ケア溶液をその内部に有する容器に組み込まれていてもよい。
【0071】
特定の実施形態では、口腔ケア溶液は、個別の密封された単位用量容器で提供される。使用時には、このような個別の密封された単位用量容器のシールを破断し、溶液をアプリケータで採取し、溶液を歯表面に適用する。
【0072】
特定の実施形態では、口腔ケア溶液は、複数回用量容器で提供される。使用時には、溶液の液滴を、トレイ、プラスチック片、紙片、皿、ウェル、パンなどに分配することができ、溶液をアプリケータで採取して、溶液を歯表面に適用する。
【0073】
特定の実施形態では、キットは、歯科修復材、トレイ、皿、ウェル、又はパンのうちの1つ以上を更に含んでもよい。歯科修復材の例としては、接着剤、プライマー、セメント、ライナー、シーラント、アマルガム、樹脂、樹脂複合体、ガラスアイオノマー、樹脂変性ガラスアイオノマー、ガラスセラミック、セラミック、金属、プラスチック、又はこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
製造方法及び使用方法
本開示の水性口腔ケア溶液は、当業者に既知の任意の技術を用いて製造することができる。特定の実施形態では、成分は、特別な順序なく、水に一緒に添加され、溶解される。あるいは、添加の順序は、溶液を得る際に重要となり得る。例えば、特定の実施形態では、銀及びフッ化物の供給源(例えば、AgF)を最初に水中に溶解し、次いでチオシアネートの供給源(Ca(SCN)2及び任意で1つ以上のチオシアネートの二次供給源を含む)を添加する。あるいは、各成分を別々に水中に溶解した後、組み合わせて、水性口腔ケア溶液を形成することができる。
【0075】
特定の実施形態では、本開示の水性口腔ケア溶液は、患者の歯表面にフッ化物を付与する方法において使用される。該方法は、本明細書に記載の水性口腔ケア溶液を患者の歯表面に適用することを含む。
【0076】
特定の実施形態では、本開示の水性口腔ケア溶液は、それを必要とする患者におけるう歯の発生率を低減する(例えば、う歯を予防又は抑止することによって)方法において使用される。本方法は、本明細書に記載の水性口腔ケア溶液を患者の歯表面に適用することを含む。
【0077】
特定の実施形態では、本開示の水性口腔ケア溶液は、それを必要とする患者における象牙質知覚過敏及び/又は歯根知覚過敏(例えば、虫歯処置中及び/又は露出した歯根上の)を低減する方法において使用される。本方法は、本明細書に記載の水性口腔ケア溶液を患者の歯表面に適用することを含む。
【0078】
特定の実施形態では、本明細書に記載の方法で処置される患者の歯表面は、エナメル質、象牙質、セメント質、歯根、又はこれらの組み合わせを含む。
【0079】
上記の方法の特定の実施形態では、適用することは、口腔ケア溶液を患者の歯表面上に塗ることを含む。上記の方法の特定の実施形態では、適用することは、口腔ケア溶液を歯科用トレイ(例えば、歯科矯正用アライナ処置トレイ)に分配することと、口腔ケア溶液を有するトレイを患者の歯表面に取り付けることと、を含む。
【0080】
上記の方法の特定の実施形態では、口腔ケア溶液は、歯表面に適用された後に続いて(例えば、流動空気を使用して)乾燥される。流動空気供給源は、115ポンド/平方インチ(psi)の圧力上限で送達する空気圧縮機から供給することができる。好適な空気圧縮機の一例は、Dental EZ Integrated Solutions(Malvern,PA)又はPatterson Dental(St.Paul,MN)から市販されているRAMVAC(モデルOSP22、OSP13、OSP23、OSP24、OSP25、OSP28)からのOsprey Compressorである。空気圧縮機の別の例は、Patterson Dental(St.Paul,MN)から市販されているAIR TECHNIQUES(AirStar 10 Neo、AirStar 21 Neoなどのモデル)である。あるいは、加圧ガス装置は、大部分の歯科医院で見られる、加圧空気を送達するための典型的なエア/ウォーターシリンジであり得る。典型的なエア/ウォーターシリンジを用いた最適な空気圧は、40~80psiである。このようなシリンジは、歯を乾燥させるため、又は除去した歯石を歯から吹き飛ばすために使用される。このようなシリンジの一例は、Patterson Dental Supply Inc.から、Patterson品番:404-1893で市販されているJohnson Promident 3-Wayエア/ウォーターシリンジである。手段にかかわらず、何らかの加圧ガス源によってガスが吹き込まれ、ガスは空気又は何らかの他の不活性ガス又はガス混合物であってもよい。例えば、ガスは、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、又は亜酸化窒素であってもよい。加圧ガス源は、恒久的に設置された「院内」(in-house)加圧空気/ガスシステム、又は手持ち式の内蔵型キャニスタの一部であり得る。
【0081】
上記の方法の特定の実施形態では、口腔ケア溶液が歯表面に適用されて、その上に(すなわち、歯表面上に)析出物を形成した後、続いて水が口腔ケア溶液に適用される。上記の方法の特定の実施形態では、続いて唾液が歯表面上の口腔ケア溶液と接触して、その上に(すなわち、歯表面上に)析出物を形成する。
【0082】
上記の方法の特定の実施形態では、方法は、口腔ケア溶液が適用された歯表面上に歯科修復材を載置すること(溶液が乾燥される前若しくは後、又は歯表面上に析出物が形成される前若しくは後のいずれかに)を更に含む。歯科修復材の例としては、接着剤、プライマー、セメント、ライナー、シーラント、アマルガム、樹脂、樹脂複合体、ガラスアイオノマー、樹脂変性ガラスアイオノマー、ガラスセラミック、セラミック、金属、プラスチック、又はこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
特定の実施形態では、象牙質細管を有する歯表面と、歯表面上に配置されたコーティングと、を含む歯が提供され、このコーティングは、銀リッチ粒子と、象牙質細管の少なくとも一部分を封鎖するCaF2リッチ層と、を含む。
【0084】
Ca(SCN)
2四水和物を含有する本開示の水性口腔ケア溶液(実施例Ex-7溶液)で処置された象牙質表面である
図3のSEMに示すように、歯表面300は、象牙質細管開口部320及び銀リッチ粒子330(例えば、「雪片様」銀結晶の形態)を有する象牙質表面310と、象牙質表面上で乾燥され、それによって象牙質細管の少なくとも一部を封鎖するフッ化カルシウムリッチ層340とを有する。これは、象牙質表面110が多数の(非封鎖)象牙質細管開口部120を有する歯表面100を示す
図1のSEM、及び象牙質表面210が(非封鎖)象牙質細管開口部220及び銀リッチ粒子230(例えば、「雪片様」銀結晶の形態)を有するがフッ化カルシウムリッチ層がない歯表面200を示す
図2のSEMと対照的である。
【0085】
封鎖された象牙質細管は、う歯の発生率の低減(例えば、う歯を予防又は抑止することによって)、象牙質知覚過敏及び/若しくは歯根知覚過敏の低減(例えば、虫歯処置中及び/又は露出した歯根上の)、並びに/又は歯構造の再石灰化及び強化に寄与する。
【0086】
例示的な実施形態
実施形態1は、水性口腔ケアフッ化物溶液であって、銀カチオンと、カルシウムチオシアネート(Ca(SCN)2)を含むチオシアネート源によって提供されたチオシアネートアニオンと、フッ化物アニオンと、溶液の総重量に基づいて最大57重量%(最大55重量%、又は最大50重量%)の量の水と、を含み、ここで、銀イオンのチオシアネートイオンに対するモル比は最大0.40:1である、水性口腔ケアフッ化物溶液である。
【0087】
実施形態2は、溶液の総重量に基づいて、少なくとも12.5重量%、少なくとも13.0重量%、少なくとも14.0重量%、又は少なくとも15.0重量%の銀カチオンを含む、実施形態1に記載の口腔ケア溶液である。
【0088】
実施形態3は、溶液の総重量に基づいて、最大20.2重量%、最大20.0重量%、最大19.0重量%、又は最大18.0重量%の銀カチオンを含む、実施形態1又は2に記載の口腔ケア溶液である。
【0089】
実施形態4は、溶液の総重量に基づいて、少なくとも1.0重量%、少なくとも1.5重量%、少なくとも2.0重量%、又は少なくとも2.2重量%のフッ化物アニオンを含む、実施形態1~3のいずれか1つに記載の口腔ケア溶液である。
【0090】
実施形態5は、溶液の総重量に基づいて、最大6.0重量%、最大5.0重量%、最大4.5重量%、最大4.0重量%、又は最大3.5重量%のフッ化物アニオンを含む、実施形態1~4のいずれか1つに記載の口腔ケア溶液である。
【0091】
実施形態6は、銀イオンのチオシアネートイオンに対するモル比が、最大0.39:1、又は最大0.38:1である、実施形態1~5のいずれか1つに記載の口腔ケア溶液である。
【0092】
実施形態7は、銀イオンのチオシアネートイオンに対するモル比が、少なくとも0.10:1、少なくとも0.15:1、少なくとも0.20:1、少なくとも0.25:1、少なくとも0.27:1、又は少なくとも0.30:1である、実施形態1~6のいずれか1つに記載の口腔ケア溶液である。
【0093】
実施形態8は、カルシウムチオシアネート(Ca(SCN)2)が、溶液の総重量に基づいて少なくとも1重量%の量で提供される、実施形態1~7のいずれか1つに記載の口腔ケア溶液である。
【0094】
実施形態9は、カルシウムチオシアネート(Ca(SCN)2)が、溶液の総重量に基づいて最大55重量%の量で提供される、実施形態1~8のいずれか1つに記載の口腔ケア溶液である。
【0095】
実施形態10は、溶液の総重量に基づいて、少なくとも20重量%、少なくとも25重量%、又は少なくとも30重量%の水を含む、実施形態1~9のいずれか1つに記載の口腔ケア溶液である。
【0096】
実施形態11は、12.5~20.2重量%の銀カチオンと、1.0~6.0重量%のフッ化物アニオンと、を含む口腔ケア溶液であって、ここで、重量%は溶液の総重量に基づくものであり、銀イオンのチオシアネートイオンに対するモル比は、少なくとも0.10:1かつ最大0.40:1であり、上記口腔ケア溶液は、追加の水又は唾液と接触すると析出物(例えば、Ag及びCaF2)を形成する、実施形態1~10のいずれか1つに記載の口腔ケア溶液である。
【0097】
実施形態12は、溶液の総重量に基づいて、12.5~20.2重量%の銀カチオンと、1~55重量%のCa(SCN)2と、2.2~3.5重量%のフッ化物アニオンと、を含む、実施形態1~11のいずれか1つに記載の口腔ケア溶液である。
【0098】
実施形態13は、フッ化銀、塩化銀、硝酸銀、フッ化ジアンミン銀、及びこれらの組み合わせから選択される銀カチオンの供給源を含む、実施形態1~12のいずれか1つに記載の口腔ケア溶液である。
【0099】
実施形態14は、フッ化銀、フッ化ジアンミン銀、フッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム、フッ化カリウム、フッ化アミン、及びこれらの組み合わせから選択されるフッ化物アニオンの供給源を含む、実施形態1~13のいずれか1つに記載の口腔ケア溶液である。
【0100】
実施形態15は、アンモニウムチオシアネート、ナトリウムチオシアネート、カリウムチオシアネート、グアニジニウムチオシアネート、及びこれらの組み合わせから選択されるチオシアネートアニオンの二次供給源を含む、実施形態1~14のいずれか1つに記載の口腔ケア溶液である。
【0101】
実施形態16は、薬学的に許容される緩衝剤を更に含む、実施形態1~15のいずれか1つに記載の口腔ケア溶液である。
【0102】
実施形態17は、増粘剤を更に含む、実施形態1~16のいずれか1つに記載の口腔ケア溶液である。
【0103】
実施形態18は、増粘剤が、溶液の総重量に基づいて、0.5~2.5重量%の量で存在する、実施形態17に記載の口腔ケア溶液である。
【0104】
実施形態19は、5.5~9のpHを有する、実施形態1~18のいずれか1つに記載の口腔ケア溶液である。
【0105】
実施形態20は、溶液の総重量に基づいて、5重量%未満の有機溶媒を含む、実施形態1~19のいずれか1つに記載の口腔ケア溶液である。
【0106】
実施形態21は、有機溶媒が、エタノール、イソプロパノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、イソプレンスルホン(IS)、ブタジエンスルホン(BS)、ピペリレンスルホン(PS)、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸イソプロピル、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、及びこれらの組み合わせから選択される、実施形態20に記載の口腔ケア溶液である。
【0107】
実施形態22は、1つ以上の活性薬剤を更に含む、実施形態1~21のいずれか1つに記載の口腔ケア溶液である。
【0108】
実施形態23は、1つ以上の活性薬剤が、増白剤、抗結石剤、再石灰化剤、第一スズ源、抗菌剤、抗酸化剤、唾液刺激剤、呼気清涼化剤、抗歯垢剤、抗炎症剤、H2拮抗薬、減感剤、栄養素、タンパク質、又はこれらの組み合わせを含む、実施形態22に記載の口腔ケア溶液である。
【0109】
実施形態24は、香味剤を更に含む、実施形態1~23のいずれか1つに記載の口腔ケア溶液である。
【0110】
実施形態25は、甘味料を更に含む、実施形態1~24のいずれか1つに記載の口腔ケア溶液である。
【0111】
実施形態26は、カルシウムカチオンを更に含む、実施形態1~25のいずれか1つに記載の口腔ケア溶液である。
【0112】
実施形態27は、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸グルコン酸カルシウム、酢酸カルシウム、これらの水和物、及びこれらの組み合わせから選択されるカルシウムカチオンの二次供給源を含む、実施形態26に記載の口腔ケア溶液である。
【0113】
実施形態28は、界面活性剤を更に含む、実施形態1~27のいずれか1つに記載の口腔ケア溶液である。
【0114】
実施形態29は、界面活性剤がアニオン性界面活性剤である、実施形態28に記載の口腔ケア溶液である。
【0115】
実施形態30は、アニオン性界面活性剤が、ポリソルベート、グリセロール、ポリグリセロール系界面活性剤、及びこれらの組み合わせから選択される、実施形態29に記載の口腔ケア溶液である。
【0116】
実施形態31は、歯を着色しない、実施形態1~30のいずれか1つに記載の口腔ケア溶液である。
【0117】
実施形態32は、1%のリン酸塩溶液と3:1で組み合わせ、この混合物を波長430~480nm、出力約1500mW/cm2の青色LED光に20秒間曝露したときに、黒色析出物を形成しない、実施形態31に記載の口腔ケア溶液である。
【0118】
実施形態33は、フッ化物を患者の歯表面に付与する方法であって、実施形態1~32のいずれか1つに記載の水性口腔ケア溶液を患者の歯表面に適用することを含む、方法である。
【0119】
実施形態34は、それを必要とする患者におけるう歯の発生率を低減する(例えば、う歯を予防又は抑止することによって)方法であって、実施形態1~32のいずれか1つに記載の水性口腔ケア溶液を患者の歯表面に適用することを含む、方法である。
【0120】
実施形態35は、それを必要とする患者における象牙質知覚過敏及び/若しくは歯根知覚過敏(例えば、虫歯処置中及び/又は露出した歯根上の)を低減する方法であって、実施形態1~32のいずれか1つに記載の水性口腔ケア溶液を患者の歯表面に適用することを含む、方法である。
【0121】
実施形態36は、患者の歯表面が、エナメル質、象牙質、セメント質、歯根、又はこれらの組み合わせを含む、実施形態33~35のいずれか1つに記載の方法である。
【0122】
実施形態37は、適用することが、口腔ケア溶液を患者の歯表面に塗ることを含む、実施形態33~36のいずれか1つに記載の方法である。
【0123】
実施形態38は、適用することが、口腔ケア溶液を歯科用トレイ(例えば、歯科矯正用アライナ処置トレイ)に分配することと、口腔ケア溶液を有するトレイを患者の歯表面に取り付けることを含む、実施形態33~36のいずれか1つに記載の方法である。
【0124】
実施形態39は、口腔ケア溶液が、歯表面に適用された後に続いて(例えば、流動空気を使用して)乾燥される、実施形態33~38のいずれか1つに記載の方法である。
【0125】
実施形態40は、口腔ケア溶液が歯表面に適用されて、その上に(すなわち、歯表面上に)析出物を形成した後、続いて水が口腔ケア溶液に適用される、実施形態33~38のいずれか1つに記載の方法である。
【0126】
実施形態41は、続いて唾液が歯表面上の口腔ケア溶液と接触して、その上に(すなわち、歯表面上に)析出物を形成する、実施形態33~38のいずれか1つに記載の方法である。
【0127】
実施形態42は、口腔ケア溶液が適用された歯表面上に歯科修復材を載置すること(溶液が乾燥される前若しくは後、又は歯表面上に析出物が形成される前若しくは後のいずれかに)を更に含む、実施形態33~41のいずれか1つに記載の方法である。
【0128】
実施形態43は、歯科修復材が、接着剤、プライマー、セメント、ライナー、シーラント、アマルガム、樹脂、樹脂複合体、ガラスアイオノマー、樹脂変性ガラスアイオノマー、ガラスセラミック、セラミック、金属、プラスチック、又はこれらの組み合わせを含む、実施形態42に記載の方法である。
【0129】
実施形態44は、実施形態1~32のいずれか1つに記載の水性口腔ケア溶液と、アプリケータ(例えば、歯科用ブラシ、綿棒)と、を含むキットである。
【0130】
実施形態45は、口腔ケア溶液が、個別の密封された単位用量容器で提供される、実施形態44に記載のキットである。
【0131】
実施形態46は、口腔ケア溶液が、複数回用量容器で提供される、実施形態44に記載のキットである。
【0132】
実施形態47は、アプリケータが、口腔ケア溶液をその内部に有する容器に組み込まれている、実施形態44~46のいずれか1つに記載のキットである。
【0133】
実施形態48は、歯科修復材を更に含む、実施形態44~47のいずれか1つに記載のキットである。
【0134】
実施形態49は、歯科修復材が、接着剤、プライマー、セメント、ライナー、シーラント、アマルガム、樹脂、樹脂複合体、ガラスアイオノマー、樹脂変性ガラスアイオノマー、ガラスセラミック、セラミック、金属、プラスチック、又はこれらの組み合わせを含む、実施形態48に記載のキットである。
【0135】
実施形態50は、トレイ、皿、ウェル、又はパンを更に含む、実施形態44~49のいずれか1つに記載のキットである。
【0136】
実施形態51は、銀の供給源及びフッ化物の供給源(これらは同じであってもよく、例えば、AgF)を水中で組み合わせて水中に溶解することと、Ca(SCN)2と、任意に1つ以上のチオシアネートの二次供給源とを含むチオシアネートの供給源を添加し、その中に溶解して水性口腔ケア溶液を形成することと、を含む、実施形態1~32のいずれか1つに記載の水性口腔ケア溶液の製造方法である。
【0137】
実施形態52は、象牙質細管を有する歯表面と、歯表面上に配置されたコーティングとを、含む歯であって、コーティングは、銀リッチ粒子と、象牙質細管の少なくとも一部分を封鎖するCaF2リッチ層と、を含む、歯である。
【実施例】
【0138】
本発明の目的及び利点は、以下の実施例によって更に例示されるが、これらの実施例に記載された特定の材料及びその量、並びに他の条件及び詳細は、本発明を不当に制限するものと解釈されるべきではない。これらの実施例は、単に例示目的のみのものであり、添付の特許請求の範囲を限定することを意味するものではない。別途記載のない限り、全ての量は、重量%単位である。
【0139】
【0140】
実施例の調製及び評価
各実施例又は比較例について、0.5グラムのフッ化銀をプラスチック管に秤量し、0.8グラムの脱イオン(DI)水を加え、十分に混合して溶液を形成した。以下の実施例の表に報告される重量パーセントを達成するために、各実施例又は比較例の残りの成分を秤量し、乾燥混合物として秤量ボート内で組み合わせた。次いで、混合しながら、追加の乾燥成分をフッ化銀溶液にゆっくりと添加した。チオシアネートの添加中に熱が発生したことから、これは、発熱プロセスであった。最初に、追加の乾燥成分を部分的に添加するにつれて、ペースト様析出物が形成された。これを以下の表に報告する。
【0141】
残りの乾燥成分をゆっくりと添加し続けた。実施例では、析出物は、適切な量のチオシアネートの添加後に完全に溶解した。全ての残りの乾燥成分を、カルシウムチオシアネートを含めて、完全に添加した後、実施例の溶液は混濁し、これをボルテックスミキサー上で混合したところ、混濁したままであった。実施例の溶液を室温で1週間静置した。1週間後、実施例の溶液は、上層の透明な溶液と、混濁した下層との2相に分離したことが観察された。
【0142】
比較例については、比較例CE-10を除いて、残りの乾燥成分の添加によって初期析出物は再溶解しなかった。
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
実施例Ex-24
銀及びフッ化物の供給源として、Elevate Oral Careからのフッ化ジアンミン銀水溶液(38%)を使用した。0.122グラムの量のフッ化ジアンミン銀溶液を、0.025グラムのNH4SCN及び0.100グラムのCa(SCN)2四水和物と混合した。最初に析出物が形成された。秤量ボート内で混合した後に、析出物が溶解し、溶液を形成した。
【0151】
実施例の光感受性
以下の実施例は、(1)緩衝溶液(口腔環境内の唾液を模倣するため)を添加して析出物した(precipitated)後、及び(2)3M ELIPAR DEEPCURE-S LED硬化光を使用した光への曝露の後に、本発明の組成物の溶液が黒色に変わらないことを実証した。
【0152】
比較例CE-15
58mgの量のフッ化ジアンミン銀溶液(ADVANTAGE ARRESTフッ化ジアンミン銀溶液(38%))を、108mgの1%KH2PO4水溶液と混合した。混合物は、析出物を形成し、アンモニアを放出した。混合物を、3M ELIPAR DEEPCURE-S LED硬化光を使用して、波長約450nm、出力約1500mW/cm2の青色LED光に20秒間曝露したところ、混合物は黒色に変わった。
【0153】
実施例Ex-25
35mgの量のEx-22溶液を、90mgの1%KH2PO4水溶液と混合した。混合物は析出物を形成した。混合物を、3M ELIPAR DEEPCURE-S LED硬化光を使用して、波長約450nm、出力約1500mW/cm2の青色LED光に20秒間曝露した。混合物は黒色に変わらなかった。
【0154】
実施例Ex-26
40mgの量のEx-24溶液を、104mgの1%KH2PO4水溶液と混合した。混合物は析出物を形成した。混合物を、3M ELIPAR DEEPCURE-S LED硬化光を使用して、波長約450nm、出力約1500mW/cm2の青色LED光に20秒間曝露した。混合物は黒色に変わらなかった。
【0155】
歯の象牙質表面処置及び特性評価
ウシの歯を120グリットのサンドペーパーで研磨して象牙質を露出させた後、320グリットのサンドペーパーを使用して象牙質表面を研磨した。SCOTCHBOND UNIVERSAL ETCHANT(3M Company(St.Paul,MN)から市販されている)を用いて象牙質表面を10秒間エッチングして汚れを除去した。エッチングしたウシの歯を水ですすいで表面を清浄にした後、歯を加圧空気でブロー乾燥した。調製した象牙質表面(歯)に、異なる実施例及び比較例溶液を塗り、1分間静置し、水ですすぎ、次いで空気乾燥した後、卓上走査型電子顕微鏡を使用して評価した。調製象牙質の対照と、実施例及び比較例の溶液で処置した調製象牙質とを、Hitachi TM3000 SEMで調べ、象牙質表面上に堆積したコーティングの構造及び特性を観察した。
【0156】
比較例CE-16
比較例CE-16は、実施例又は比較例溶液で処置しなかった対照調製象牙質表面であり、SEMにより評価した。CE-16のSEMを
図1に示す。酸エッチング、洗浄、及び乾燥された歯表面100は、清浄化された象牙質表面110及び多数の象牙質細管開口部120を示す。
【0157】
比較例CE-17
比較例CE-17は、Ca(SCN)
2四水和物を含有しない比較例CE-10溶液で処置した調製象牙質表面であり、SEMにより評価した。CE-17のSEMを
図2に示す。酸エッチング、洗浄、及び乾燥された歯表面200は、乾燥したCE-1溶液で覆われた清浄化された象牙質表面210を示す。SEMは、象牙質細管開口部220及び象牙質表面で乾燥した「雪片様」銀結晶230を示す。
【0158】
実施例Ex-27
実施例Ex-27は、Ca(SCN)
2四水和物を含有する実施例Ex-7溶液で処置した調製象牙質表面であり、SEMにより評価した。Ex-27のSEMを
図3に示す。酸エッチング、洗浄、及び乾燥された歯表面300は、乾燥したEx-7溶液で覆われた清浄化された象牙質表面310を示す。SEMは、象牙質細管開口部320、象牙質表面で乾燥した「雪片様」銀結晶330及び別のフッ化カルシウム層340を示す。
【0159】
本明細書に引用した特許、特許文献、及び刊行物の全開示は、それぞれが個別に組み込まれたかのごとく、それらの全体が参照により組み込まれる。当業者には、本開示の範囲及び趣旨から逸脱することのない、本開示に対する様々な改変及び変更が明らかとなるであろう。本開示は、本明細書に記載した例示的な実施形態及び実施例によって不当に制限されることは意図していないこと、並びにそのような実施例及び実施形態は、以下のような本明細書に記載の特許請求の範囲によってのみ限定されることを意図した本開示の範囲内の例示としてのみ提示されることを理解されたい。