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特許7115732寒天組成物、寒天組成物を含有する食品及び寒天易溶化剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】寒天組成物、寒天組成物を含有する食品及び寒天易溶化剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/256 20160101AFI20220802BHJP
   A23L 17/60 20160101ALI20220802BHJP
   A23L 29/212 20160101ALI20220802BHJP
   A23L 29/294 20160101ALI20220802BHJP
【FI】
A23L29/256
A23L17/60 101
A23L29/212
A23L29/294
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018043109
(22)【出願日】2018-03-09
(65)【公開番号】P2019154279
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000118615
【氏名又は名称】伊那食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三澤 卓也
(72)【発明者】
【氏名】根橋 怜美
(72)【発明者】
【氏名】小島 正明
(72)【発明者】
【氏名】柴 克宏
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106107924(CN,A)
【文献】特開2005-176742(JP,A)
【文献】特開平06-269251(JP,A)
【文献】特開2007-037531(JP,A)
【文献】特開2015-133986(JP,A)
【文献】特開昭49-061362(JP,A)
【文献】特開2006-006252(JP,A)
【文献】特開2017-025443(JP,A)
【文献】特開2004-089028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
寒天、重量平均分子量が8000~800000である澱粉加水分解物及び重合リン酸塩の分子が互いに絡み合った構造を有することを特徴とする寒天組成物。
【請求項2】
寒天、重量平均分子量が8000~800000である澱粉加水分解物及び重合リン酸塩を水に添加して加熱溶解し、45~180℃で乾燥することを特徴とする寒天組成物の製造方法
【請求項3】
前記寒天及び前記澱粉加水分解物の重量比率が10:1~1:3であることを特徴とする請求項1記載の寒天組成物。
【請求項4】
前記寒天及び前記澱粉加水分解物の重量比率が1:3~1:10であることを特徴とする請求項1記載の寒天組成物。
【請求項5】
請求項1、3、または4記載の寒天組成物を含有することを特徴とする食品。
【請求項6】
重量平均分子量が8000~800000である澱粉加水分解物及び重合リン酸塩を含有することを特徴とする寒天易溶化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温の水に容易に溶解することができる寒天組成物、寒天組成物を含有する食品及び寒天易溶化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
寒天は、天草やオゴノリなどの紅藻類より熱水抽出された多糖類で、精製・脱水され乾物化されたものである。寒天は、熱水に溶解してゾルとなり、冷却により凝固してゲルとなる熱可逆性のハイドロコロイドである。寒天の濃度が1.5%である水溶液の凝固温度、すなわちゲル化温度は35~45℃であり、ゲルの融解温度は80℃以上であるので、寒天の溶液は、ゼラチンと異なり冷蔵庫に入れなくてもゲル化し、ゲル化されたゼリーは、常温で溶け出さないのが特徴である。
【0003】
寒天のゲル化のメカニズムは、次のように考えられている。すなわち、寒天の分子は、自由度の高いランダムコイルとして存在し、温度が低下すると分子運動が不活発になり、水素結合により束縛され、ついには二重螺旋状分子になり、さらにこれらの二重螺旋状分子が会合して三次元の網目構造をとることが知られている。寒天に特徴的なことは、一度ゲルになった状態から再度水溶液にするためには、より高い温度まで上げる必要があること、すなわち凝固点よりも融点が高いことであり、その差は、40~60℃である。
【0004】
このような寒天のゾル-ゲル転移を応用した寒天易溶化技術が種々検討されており、例えば特許文献1~3に開示されている。
【0005】
通常、寒天の製造は、熱水抽出したゾルを一旦冷却してゲル化させ、このゲルを脱水して乾燥し乾物化しているのに対し、特許文献1及び2に記載された即溶性寒天は、寒天ゾルを冷却することなく、そのまま脱水乾燥しているため、寒天分子が二重螺旋状に転移する前の分子形態を保っており、このため、容易に溶解させることができる。
【0006】
特許文献3には、DEが18以下であるデキストリン及びイヌリン、並びにこれらの糖アルコールのいずれか1以上を主成分とする寒天易溶化剤が開示されている。実施例2には、寒天易溶化剤及び寒天を水に加熱溶解させた後、表面温度120℃のドラムドライヤーによって乾燥することによって、低温易溶性寒天を作製したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第1520304号公報
【文献】特許第2036090号公報
【文献】特許第4727427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び2の即溶性寒天は、ゾル-ゲル転移を起こす温度帯以上の温度、例えば50℃や60℃であれば理論上溶解するが、実際は、80℃以上ないとほとんど溶解することができない。これは、スプレードライやドラムドライヤーなどにより即溶性寒天を製造するときに、寒天濃度が高くなることや寒天が濃縮されることから、寒天分子が重なり合って絡みついた状態で乾燥されてしまうためであると考えられる。このため、寒天分子は、緻密な分子塊を形成し、これが即溶性寒天を溶解するときに、最外部の寒天分子が溶解することにより、内部への熱水の浸透を妨げるダマ現象を起こすことになり、その結果、溶解させるのに理論上の溶解温度よりも高い温度、例えば80℃が必要となるのである。
【0009】
特許文献3に記載の寒天易溶化剤を用いた低温易溶性寒天は、溶解された寒天の分子の絡みつきが少なく、ダマの発生を防止することができ、これにより低温の水に容易に溶解させることを可能としている。該低温易溶性寒天は、60℃の水に対する溶解率が95.4%(実施例10)であるが、より低温の水に対しても高い溶解性を得ることについて、検討の余地がある。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、低温の水に容易に溶解することができる寒天組成物、寒天組成物を含有する食品及び寒天易溶化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、寒天、重量平均分子量が8000~800000である澱粉加水分解物及び重合リン酸塩の分子が絡み合った構造を有する寒天組成物とすることによって、45~60℃という低温の水にも高い溶解率で容易に溶解できることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る寒天組成物は、寒天、重量平均分子量が8000~800000である澱粉加水分解物及び重合リン酸塩の分子が互いに絡み合った構造を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る寒天組成物は、寒天、重量平均分子量が8000~800000である澱粉加水分解物及び重合リン酸塩を水に添加して加熱溶解し、前記寒天のゲル化による構造転移が生じない温度で乾燥することにより得られることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る寒天易溶化剤は、重量平均分子量が8000~800000である澱粉加水分解物及び重合リン酸塩を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、低温の水に容易に溶解することができる寒天組成物、寒天組成物を含有する食品及び寒天易溶化剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明における「分子が互いに絡み合った構造」について説明する。溶液状態で寒天の直鎖高分子はランダムコイルとして自由度を持っているのに対し、乾燥により濃縮が進むほど、直鎖分子といえども分子ローテーションして絡みつき合い、解れづらくなる状態で乾燥されてしまう。このとき寒天分子の間に、重量平均分子量が8000~800000である澱粉加水分解物が入ると、寒天同士の絡みつきを緩和し、寒天と澱粉加水分解物の「分子が互いに絡み合った構造」になる。澱粉加水分解物は冷水に溶解できるので、寒天分子同士が距離を持ち疎になるため、寒天自身の溶解を助けることができる。また、重合リン酸塩は、硫酸基やピルビン酸基などを含むアガロペクチンに作用し、寒天の溶解を助ける。重合リン酸塩も寒天分子に絡み合った状態の方が、より溶解性を高めることになる。
【0017】
寒天の重量平均分子量は、30000~1000000であることが好ましく、80000~800000であることがより好ましく、200000~500000であることがさらに好ましい。
【0018】
澱粉加水分解物は、澱粉を酸や酵素などによって加水分解したものであって、例えば、デキストリン、マルトデキストリン、シクロデキストリン、水飴等が挙げられる。澱粉としては、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉など、公知のものを使用することができる。
【0019】
デキストリンとしては、直鎖状、分岐状、環状構造を有するものなど、構造は特に限定されない。
【0020】
澱粉加水分解物の重量平均分子量は、8000~800000であり、10000~500000であることが好ましい。
【0021】
ゲルを形成するための澱粉加水分解物の含有量は、寒天と澱粉加水分解物の重量比率として、10:1~1:3重量%であることが好ましく、5:1~1:1重量%であることがより好ましく、3:1~1:1重量%であることがさらに好ましい。
ゲル化を阻害するための澱粉加水分解物の含有量は、寒天組成物全体に対し、1:3~1:10重量%であることが好ましく、1:3~1:5重量%であることがより好ましい。
【0022】
重合リン酸塩としては、ポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムなどを用いることができ、中でもヘキサメタリン酸ナトリウムが好ましい。
【0023】
重合リン酸塩の含有量は、寒天に対する重量比として、1~10重量%であることが好ましく、2~8重量%であることがより好ましく、3~6重量%であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明に係る寒天組成物は、寒天、重量平均分子量が8000~800000である澱粉加水分解物及び重合リン酸塩を水に添加して加熱溶解し、易溶化技術(ドラムドライ、スプレードライなど)により、寒天のゲル化による構造転移が生じない温度で乾燥することにより得られる。
【0025】
寒天、澱粉加水分解物及び重合リン酸塩を加熱溶解させる際の温度は、通常寒天を溶解する条件であればよく、沸騰(100℃)させることがよい。また寒天を沸騰溶解したあとに、澱粉加水分解物及び重合リン酸塩を加えて溶解してもよい。また寒天は加水分解しない範囲で100~130℃の加圧状態で溶解してもよい。
【0026】
本発明に係る寒天組成物は、粉末状、顆粒状、粒子状又はフレーク状であることが好ましい。寒天組成物を食品に容易に溶解するためには粒子状、フレーク状よりも粉末状や顆粒状であることがより好ましい。粉末状の寒天組成物が得られる乾燥方法として、ドラムドライ、スプレードライ、バキュームドライ、バキュームベルトドライ、エクストルーダーなどを採用することができる。顆粒状とは、粉末状の寒天組成物が造粒機等により造粒されたものをいう。顆粒を造粒する方法は、流動層、押し出し、撹拌など公知の方法で作製できる。顆粒状は、溶解時にだまになりづらく溶解を容易にすることができる。粒子状とは、平均粒子径が500μmより大きいものをいう。フレーク状とは、鱗片状のものや、多孔質に加工されて比重が0.3以下になっているものなど、一般的にフレーク状と呼ばれるものをいう。
【0027】
乾燥温度は、寒天のゲル化による構造転移が生じない温度、すなわち45~180℃であり、60~150℃であることが好ましく、80~130℃であることがより好ましい。寒天がゲル化する温度で乾燥を行うと、寒天の分子が二重螺旋状分子となり、これらが会合して三次元の網目構造を形成してしまい、45~60℃の低温の水に溶解しにくくなってしまう。
【0028】
乾燥は、寒天組成物の含水率が20%以下となるように行うことが好ましい。寒天組成物の含水率は、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明に係る寒天組成物は、寒天と澱粉加水分解物との重量比率を10:1~1:3とすることができる。寒天と澱粉加水分解物との重量比率を上記の範囲内とすることにより、45~60℃の低温の水に溶解しやすくなり、ゲルを形成することができる。
【0030】
また、本発明に係る寒天組成物は、寒天と澱粉加水分解物との重量比率を1:3~1:10とすることもできる。なお、この比率が1:10より大きくなると、寒天が少なくそもそも固まらないということになる。寒天と澱粉加水分解物との重量比率を上記の範囲内とすることにより、寒天のゲル強度の増大を阻害でき、ペースト状ゲルを得ることができる。本発明に係る寒天組成物は、低強度寒天のように寒天の分子を切断したペースト状ゲルとは異なり、寒天の分子が長いまま溶解した状態でゲル化阻害を受けている。これにより、例えば酵素や酸で澱粉加水分解物を低分子化した場合や、食塩やタンパク質で重合リン酸塩の作用を封鎖し加熱した場合には、元の寒天本来のゲル強度を復元することができる。
【0031】
以上のようにして得られた寒天組成物は、寒天、澱粉加水分解物及び重合リン酸塩の分子が互いに絡み合った構造を有している。寒天の分子は、ゲル転移していないランダムコイルの状態である。本発明に係る寒天組成物は、このような構造を有することにより、低温溶解性の効果の他に、寒天のゲル強度が阻害されてペースト状ゲルとしての特徴を有する。単独で易溶化された寒天粉末に澱粉加水分解物及び重合リン酸塩を単に混合した場合は、寒天分子が重なり合って絡みついた状態となってしまい、45~60℃の低温の水に溶解しにくくなる。
【0032】
本発明に係る寒天組成物は、例えば1.5%の濃度で45℃の水に溶解することができる。すなわち、45℃の水に溶解させた後冷却凝固させたゲル強度が、沸騰溶解して完全溶解させた後冷却凝固させたゲル強度とほぼ同等である。
言い換えると、本発明に係る寒天組成物は、寒天のゾル-ゲル転移温度の35~45℃より高い温度であれば溶解することができる。
【0033】
従来の寒天は、糖度45~50以下でないと直接糖液に溶解できないため、高糖度の寒天の溶液を得る場合には、水又は低糖度の溶液に溶解して煮詰める操作が必要であった。このため熱履歴が長く、例えば機能性成分やたんぱく質の変質、変色、においの発生など、製品ダメージが大きいという問題があった。特に乳製品は、還元糖成分によりメイラード反応を起こし褐色化する。加熱温度が高い、あるいは加熱が長時間となると、メイラード反応を起こしやすい。本発明に係る寒天組成物の牛乳への溶解率は、70℃の牛乳に対し1分程度で95%である。一方、従来の寒天では95℃の牛乳に添加して20分加熱しても容易に溶解しない。
また、粘度が高いものは煮詰めが難しいという問題もあった。例えば澱粉などの糊化する素材は煮詰めそのものが難しく、粘度が上昇して寒天の溶解を阻害するため、さらにゲル化を難しくする傾向にあった。
【0034】
本発明に係る寒天組成物は、糖度65以上、場合により糖度75以上の糖液に直接溶解することができるので、煮詰める必要がなく製品ダメージが少ない。煮詰める必要がないため、エクストルーダーなどで直接他の素材と混錬して低水分で溶解でき、グミ製造と同様の製造が可能である。本発明に係る寒天組成物は、澱粉などの固形物が多い食品などにも容易に溶解し、寒天の物性を付与することにより食感を改良できる。
【0035】
本発明に係る寒天組成物を含有する食品として、通常寒天を添加することができる様々な食品があり、例えば、惣菜、畜肉製品、乳製品、菓子、飲料、米飯、麺類、たれ、漬物、調味料などが挙げられる。
【0036】
特に、本発明に係る寒天組成物は、畜肉製品、例えばハムの保水、結着目的のインジェクション剤として、カラギナンなどのように低温殺菌(例えば75℃)で溶解する素材と同様に溶解でき、従来の寒天では不可能であった用途に利用できる。さらに、乳製品としてチーズフードなど低水分で固形量の多い系でも効果を発揮することができる。特に、従来効果を得るのが難しく、本発明により効果を発揮することが可能になった用途について、以下に記載した。
【0037】
(畜肉・魚肉製品)
ボンレスハムやロースハムなどの中で比較的低価格に仕上げるハムは、大豆タンパクやリン酸塩、調味液、カラギナンなどが水に分散されたピックル液を肉にインジェクションして歩留を上げている。この肉はケーシングに詰められ70~80℃で熱処理される。この時、この温度(70~80℃)で溶解できるカラギナンなどは、均一に溶解して肉汁を抱え込み、冷却されて肉組織内でゼリーとなり、保水や食感に寄与する。従来、寒天は高温でないと溶解しないため、熱処理しても溶けず機能を発揮することが出来なかった。本発明に係る寒天組成物はこの問題を改善し、容易にインジェクションができ、70℃の加熱でも溶解し機能を発揮することができる。また、一度ゲル化した寒天は、カラギナンより耐熱性があり、肉本来の味たちもいいという結果を得た。同様にウインナーやベーコン類なども有効である。
一方、魚肉製品では、寒天組成物を魚肉スリミ、澱粉、リン酸塩、調味料などと水を加えて混錬して使用できる。この魚肉混錬物はケーシングに充填され、クリップ止め後熱処理される。このとき寒天組成物は、容易に溶解し、冷却工程によりゲル化する。寒天組成物が使用されたソーセージは、従来のタンパク変成したぼそぼそ感の食感が改善し、また味たちもよく品質向上につなげることができる。
【0038】
(たれ・漬物・調味料類)
佃煮などで使われる澱粉、タマリンドなどの増粘剤や寒天のたれは、佃煮素材に絡みつき液だれ防止として利用される。特に寒天は艶(照り)を出す素材として有効である。しかしながら、他の多糖類に比べて寒天を溶解するのが容易でない。一般的には素材と調味料を一緒に混ぜて煮詰めていくが、寒天は、塩分が多く糖度が高い溶液では溶解できないので、別に水で溶解してから加えなければならない。このため手間と煮詰め時間を要する。本発明に係る寒天組成物では、高糖度で直接溶解するため煮詰め時間の短縮ができる。同様に、焼き肉のタレや中華ダレ、ソース類などにも幅広く応用できる。
ドレッシング用途において寒天は、溶解後ゲル化してしまうので使いづらい素材である。このため低分子の凝固力の弱い寒天が開発され利用されている。しかし、水分保持力が弱いことと比重分離しやすいことなどの問題がある。一方、凝固阻害された食酢、砂糖等を加えて作製した本発明に係る寒天組成物のペーストは、これらの欠点を改善できる。
【0039】
(麺類)
食感の腰とツルミが付与される機能を期待して麺類に寒天を加えることが検討されてきた。従来は、麺を成形しやすく、麺としての食感が整う範囲で加水されていて、生麺では加水量は対粉(小麦粉など)に対し決まっている。このため粉末寒天を混ぜて溶解する場合には、寒天に十分な水が得られず、生麺を茹でて麺が加熱されても寒天が十分溶解できない。また溶解水は、中華麺ではかん水であったり、うどんでは塩水であったりするためこれらの塩類が寒天の溶解を阻害している。しかしながら、本発明に係る寒天組成物を使用すると、加熱による溶解が容易で、特に寒天がゲル化する冷麺で特に食感の腰とツルミが付与される。本発明に係る寒天組成物を入れる麺としての用途は、中華麺、うどん、冷や麦、素麺、パスタ、蕎麦や広くは春雨、ビーフンなども含まれる。
一方、粉末寒天ではなく寒天をあらかじめ湯に溶かし混合することも検討されている。小麦粉や蕎麦粉などは、湯ではα化が始まり付着性が強くなり、またべとついて食味を壊してしまう。このため冷水を使うが、寒天溶液の場合ゲル化してこれを壊さなければならない。壊したゲルも微細にはなるが、不均一化しているため麺の成型性を阻害する。本発明のように、寒天と澱粉加水分解物の重量比率が1:3~1:10にあり、加熱溶解後冷却してゲル化が阻害されていることを特徴とする寒天組成物を使用すれば、容易に低温で溶解でき、且つゲル化阻害しているので容易に麺に利用することができる。
小麦粉の代わりに米粉を使用した麺も、例えばグルテンフリーとして利用されている。従来、澱粉より作られる麺もあるが風味が足りないばかりかツルミに劣る。米麺は、餅餅した柔らかさはあるがグルテンの持つ腰が出ない。本寒天製剤を加えることにより改善を図ることができる。小麦アレルギーを持つ人に麺を利用戴く上で有効である。
本発明に係る寒天組成物を入れた麺は生麺ばかりでなく、乾麺、即席麺、冷凍麺、LL麺などにも利用できる。
【0040】
(パン類)
製パンにおいても、麺同様に本発明に係る寒天組成物が利用できる。本発明に係る寒天組成物は、小麦粉やイーストなどと混合し水を加えて混捏され、発酵され焼成される。二次発酵時において加温により、従来の寒天よりも溶解する比率が高く、効果を発揮しやすい。本発明に係る寒天組成物を添加すると発酵時嵩高になり、焼成後も焼き縮みが少ない。また保湿性も高くパサつき感も少ない。米粉パンではこれが顕著に表れ老化を遅らせることができる。パンの配合としてはリッチパン、リーンパン両方に有効である。製パン類としては、食パンや菓子パン、フランスパン、コッペパン、サンドウィッチ、ハンバーガーバンズ他パイやデニッシュ、万頭、ドーナツ、パンケーキなども応用できる。また小麦パンばかりでなく全粒パン、ライ麦パンなどのパンや米粉パンにも応用できる。流通も冷凍パン、チルドパン、常温パンなどに有効である。
【0041】
(菓子類)
本発明に係る寒天組成物は、特に常温で流通する水分活性の低い菓子に有効である。例えばグミゼリー、半生乾燥ゼリー、チョコレート、チューインガム、キャラメル、ビスケット、せんべい、焼き菓子、羊羹、かりんとう(油菓子)、豆菓子などである。この場合は出来るだけ溶解水を少なくすることが求められ、本発明の寒天組成物は、高糖度でも溶解が容易で、例えば半生チョコのべたつき防止や融点コントロール、ソフトクッキーや焼まんじゅうのしっとり感の保持、キャラメルの口腔内付着性防止、チューイングガムの噛み応えと食感保持など多くの機能が期待できる。和菓子にも糖度の高い餡製品など多くの応用が可能である。
【0042】
(デザート類・乳製品(ヨーグルト・チーズ類等)・飲料)
デザート・乳製品として、生クリームに低温で凝固阻害された寒天組成物のペーストを混合することにより気泡のオーバーランが良く、気泡が保持されやすく、味たちもよくすることができる。このペーストをUHTにて無菌的に作り、ヨーグルト発酵ベースと混合すると、滑らかで従来のペクチンよりも保形性のあるソフトヨーグルトが出来る。同様にドリンクヨーグルトでは、濃厚な食感ながら切れのいいべたつかないドリンクヨーグルトが出来る。さらにハードヨーグルトにおいても寒天の溶解が容易になり使いやすい。
また、プロセスチーズやチーズフードにおいてナチュラルチーズに溶融塩を加えて溶融する際に本発明に係る寒天組成物を加えることで、容易に高濃度で溶解でき、食感改良、剥離性向上、歩留向上などの効果が得られる。
飲料としてのコーヒー乳飲料やココア飲料、トマト・青汁などの野菜飲料、果汁飲料、スムージーなども同様に、本発明に係る寒天組成物を加えることで、飲料のボディー感やキレを付与することができる。
【0043】
本発明に係る寒天易溶化剤は、重量平均分子量が8000~800000である澱粉加水分解物及び重合リン酸塩を含有する。
【0044】
本発明に係る寒天易溶化剤は、寒天に対して0.05~20倍の量を添加することが好ましい。
【0045】
本発明に係る寒天組成物の製造方法は、寒天、重量平均分子量が8000~800000である澱粉加水分解物及び重合リン酸塩を水に添加して加熱溶解する工程と、寒天のゲル化による構造転移が生じない温度で乾燥する工程と、を備える。
【実施例
【0046】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。また、%表示は特に指定がない場合は重量%を示す。
【0047】
[実験例1:寒天組成物の作製]
(実施例1)
伊那寒天(重量平均分子量200000:伊那食品工業製)70部と澱粉加水分解物(DE3のデキストリン:松谷化学製)30部、メタリン酸ナトリウム(太平化学産業製)7部を粉体混合し、水2200部に分散し、沸騰して完全に加熱溶解させた。この溶液をドラムドライ(楠木製作所製)にて120℃にて乾燥させた。粉砕機にて粉末化させ、寒天のランダムコイル状態の分子がデキストリン分子及びメタリン酸ナトリウムと分子状態で混合されている寒天組成物(実施例1)を得た。
【0048】
(比較例1)
澱粉加水分解物及びメタリン酸ナトリウムいずれも添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る寒天組成物を得た。
【0049】
(比較例2)
メタリン酸ナトリウムを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例2に係る寒天組成物を得た。
【0050】
(低温溶解性の評価)
実施例1および比較例1~2で作製した寒天組成物において寒天組成物中の寒天量が0.7%となる量にぶどう糖10%を混合し、45℃、50℃、60℃の温水を合計100%になるように加え混合攪拌し、それぞれの寒天組成物溶液を作製した。対照として100℃の熱水に同様にそれぞれ加え混合攪拌し、寒天組成物溶液を作製した。これを容器に入れ10℃の水槽でゲル化させ、テクスチャーアナライザーTA.XT.Plus(英弘精機)にてゲル強度を測定し、以下の数式にて溶解率Aを求めた。これらの結果を表1に示した。尚、ぶどう糖を混合するのは、だまにならないように均一な溶液をつくるためである。
【0051】
【数1】
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示すように、比較例1及び2と比較して実施例1は、45℃でも良く溶け、しっかりとしたゼリーを作ることがわかった。
【0054】
(実施例2~5)
伊那寒天(重量平均分子量200000:伊那食品工業製)と澱粉加水分解物(DE3のデキストリン:松谷化学製)、メタリン酸ナトリウム(太平化学産業製)を表2に示す割合にて粉体混合し、水2200部に分散し、沸騰して完全に加熱溶解させた。この溶液をドラムドライ(楠木製作所製)にて乾燥させ、粉砕機にて粉末化させ、寒天のランダムコイル状態の分子がデキストリン分子及びメタリン酸ナトリウムと分子状態で混合されている寒天組成物(実施例2~5)を得た。
【0055】
【表2】
【0056】
(低温溶解性とゲル化阻害性の評価)
実施例2~6で作製した寒天組成物において寒天組成物中の寒天量が0.5%となる量にぶどう糖10%を混合し、60℃及び100℃の熱水を合計100%になるようにそれぞれ加え混合攪拌し、寒天組成物溶液を作製した。これを容器に入れ10℃の水槽でゲル化させ、テクスチャーアナライザーTA.XT.Plus(英弘精機)にてゲル強度を測定した。この結果を表3に示した。
【0057】
【表3】
【0058】
表3に示すように、100℃と60℃でゲル強度は等しく、実施例2~6は、低温でもよく溶解していることがわかった。また伊那寒天よりもデキストリンの比率が高くなるほど、凝固力を阻害することがわかった。
【0059】
[実験例2:うどんの作製]
(実施例7)
表4に示す配合にて、あらかじめ小麦粉に寒天組成物又は粉末寒天を粉体混合し、混錬機に移し食塩水を加え常温下で混錬し、実施例7に係るうどんの生地を得た。なお、寒天組成物として、実施例2の寒天組成物を使用した。生地は圧延し、切出機で厚さ5mm、幅5mmに切り出し、麺とした。麺は沸騰したお湯で15~20分茹で、直に冷水で洗い水を切った物を官能評価に用いた。なお、食感・麺のこしは茹でた後15分経過したものを調べた。
【0060】
(比較例3)
寒天組成物を添加しなかったこと以外は実施例7と同様にして、比較例3に係るうどんを作製した。
【0061】
(比較例4)
寒天組成物の代わりに粉末寒天を0.43部使用したこと以外は実施例6と同様にして、比較例4に係るうどんを作製した。
【0062】
(食感・麺のこし)
茹でた麺の食感を5人のパネラーによって評価した。評価は5人の評価に基づいて、以下の3段階とした。結果を表4に示す。
○:コシ、ツルミがあり良好な食感
△:コシが足りない、ツルミが無いなど食感が良好ではない。
×:コシ、ツルミが無く食感が悪い。
【0063】
(麺の硬さ)
麺の硬さはテクスチャーアナライザーTA.XT.Plus(英弘精機)を使用し、歯型のプランジャーを使用し、測定深さ3mmまでの最高の値を硬さ(g)とした。測定温度は、10℃である。
【0064】
【表4】
【0065】
[実験例3:チーズの作製]
(実施例8)
市販のナチュラルチーズ80部をチーズ乳化機に入れ、あらかじめポリリン酸Na2部と、実施例3の寒天組成物とを分散した水20部を加え、攪拌しながら80℃まで昇温し10分間混合した後、カップ型容器に充填して5℃まで冷却することによって、実施例8に係るチーズを得た。硬さは5℃で24時間放置後、テクスチャーアナライザー(プランジャー:断面積1cm円柱)TA.XT.Plus(英弘精機)を使用して深さ5mmまでの最高強度を硬さ(g/cm)とした。
【0066】
(比較例5)
寒天組成物を添加しなかったこと以外は実施例8と同様にして、比較例5に係るチーズを作製した。
【0067】
(比較例6)
寒天組成物の代わりに粉末寒天を0.1重量%使用したこと以外は実施例8と同様にして、比較例6に係るチーズを作製した。
【0068】
(容器剥離性)
容器に充填し、冷却凝固させたチーズの容器からの剥離性を5人のパネラーにより評価した。結果を表5に示す。
○:容器から綺麗に剥離する。
△:剥離しにくい箇所がある。
×:剥離が悪い。
【0069】
【表5】
【0070】
[実験例4:チーズフードの作製]
(実施例9)
下記の表6に示す配合にて、あらかじめ伊那寒天、澱粉加水分解、メタリン酸Naを粉体混合し、水94.3%に分散、加熱溶解した。沸騰1~2分で火を止め、重量を100%に調製し、容器に流し冷却してゲル化後、高速撹拌機にてゲルを粉砕し、寒天組成物のペーストを得た。
【0071】
【表6】
【0072】
クリームチーズ50部をチーズ乳化機に入れ、予め作製した寒天組成物ペーストを50部加え撹拌しながら80℃まで昇温し、10分間混合した後容器に充填して5℃まで冷却し実施例9に係るチーズフードを作製した。
【0073】
【表7】
【0074】
(比較例7)
比較例7として表6の寒天組成物ペーストの替わりに水のみを使用して表7のチーズフードを作製した。
【0075】
(比較例8)
比較例8として表6の寒天組成物ペーストの替わりにメタリン酸ナトリウムのみを含まない寒天組成物ペーストを使用して表7のチーズフードを作製した。
【0076】
(比較例9)
比較例9として表6の寒天組成物ペーストの替わりに伊那寒天のみを含まない寒天組成物ペーストを使用して表7のチーズフードを作製した。
【0077】
これらのチーズフードについて硬さ、食感を調べた。硬さはテクスチャーアナライザーTA.XT.Plus(英弘精機)にて測定した。(プランジャー:断面積1cm2の円柱,測定温度20℃ )を使用して深さ5mmまでの最高強度を硬さ(g/cm2)とした。食感については下記の官能検査指標で行った。結果を表8に示す。
(食感)
凝固させたチーズフードの食感を5人のパネラーにより評価した。
○:濃厚感があり、滑らかで良好な食感。
△:濃厚感が足りない、滑らかでないなど物足りない食感。
×:食感が悪い。
【0078】
【表8】
【0079】
[実験例5:ハムの作製]
(実施例10)
あらかじめリン酸塩を冷水に溶解させ、続いて亜硝酸塩を加え溶解させる。実施例1の寒天組成物・ブドウ糖・食塩調味料を前述のリン酸塩溶液に分散し、アスコルビン酸ナトリウムを加えることで、インジェクション液(ピックル液)を調整した。
ローラー等を使用し表面積を増加させた豚肉に、上記ピックル液の60~80%をインジェクションした。残りのインジェクション液と原材料豚肉を真空式のタンブラーに入れ真空度90%にし、40分間回転作動20分間寝かせの作業を16時間続けた。ケーシングに処理肉を充填し、70℃で加温し冷却後、実施例10に係るハムを得た。
【0080】
(比較例10)
寒天組成物を添加しなかったこと以外は実施例10と同様にして、比較例10に係るハムを作製した。
【0081】
(比較例11)
寒天組成物の代わりに粉末寒天を0.35重量%使用したこと以外は実施例10と同様にして、比較例11に係るハムを作製した。
【0082】
(食感)
加熱処理後冷蔵保存したハムの食感を5人のパネラーにより評価した。結果を表9に示す。
○:しっとりしつつ、弾力のある良好な食感。
△:○に比べ弾力が少ない。物足りない食感。
×:パサつき感があり食感的に劣る。
【0083】
(歩留り)
下記の式にて、歩留りを求めた。結果を表9に示す。
加熱後の重量÷加熱前重量×100
【0084】
【表9】
【0085】
[実験例6:パンの作製]
(実施例11)
表10の配合にて、比較例12をコントロールとして、イギリスパンを下記の条件にて常法により実施例11に係るパンを作製した。寒天組成物として、実施例4の寒天組成物を使用した。寒天組成物の添加量は小麦粉100に対して1.42とし、加水量は、コントロールの70から73へ増やして試験を行なった。
【0086】
(比較例12)
寒天組成物を添加しなかったこと以外は実施例11と同様にして、比較例12に係るパンを作製した。
【0087】
(比較例13)
寒天組成物の代わりに粉末寒天を0.2重量%使用したこと以外は実施例11と同様にして、比較例13に係るパンを作製した。
【0088】
混捏時間:L3M2H2↓L2M5H4
捏ね上げ温度:28℃
発酵時間・温度:60分、28℃/75%
ベンチタイム:20分
ホイロ条件:37℃/85%、40分
焼成温度:200℃
焼成時間:30分
発酵(ホイロは福島工業株式会社製ドゥコンディショナーQBX-162DC2を使用)
焼成(パヴァイエ社製のオーブンを使用した)
【0089】
(パンの強度)
初期強度及び3日後の強度は、テクスチャーアナライザー:TA.XT.Plus(英弘精機)を使用して測定した(プランジャーは断面積1cm2の円柱タイプ,測定温度20℃)にて測定した。結果を表10に示す。
【0090】
(復元性)
10cm×10cm×10cmに切断したパンを手で上部から押して、手を離した時の戻り具合を肉眼的に評価した。
(評価)
官能により生地のきめや食味、見た目、復元性を5点評価した。結果を表10に示す。
点数が大きいほど良好な結果とした。
【0091】
【表10】
【0092】
[実験例7:グミゼリーの作製]
(実施例12)
ゼラチン7部、グラニュー糖25部、還元澱粉糖化物50部、液糖ソルビトール20部、水20部を加熱溶解し糖度80まで煮詰める。あらかじめ液糖ソルビトール10部に寒天組成物(実施例2)を分散し、煮詰めたゼラチン溶液に加えしっかり撹拌し火を止める。クエン酸、5倍濃縮果汁、香料・色素を加え80℃でホールドし、脱泡する。モールドに充填し冷却・乾燥させ実施例12の寒天入りグミを作製した。
【0093】
(比較例14)
比較例14として寒天組成物を添加しないこと以外は実施例12と同様にしてグミを作製した。
【0094】
(比較例15)
比較例15として寒天組成物の替わりに粉末寒天を使用したこと以外は実施例12と同様にしてグミを作製した。
【0095】
実験例7で作製したグミゼリーについて噛みごたえ及び歯への付着性を測定し、結果を表11に記載した。評価方法は以下に記載した。
(噛みごたえ)
寒天入りグミの食感を5人のパネラーにより評価した。
○:比較例15より噛み応えがある。
△:噛み応えがある。
×:比較例15より噛み応えがない。
【0096】
(歯への付着性)
○:付着性がない。
△:○に比べ若干付着性がある。
×:付着性が若干ある。
【0097】
【表11】
【0098】
[実験例8:ヨーグルトの作製]
(実施例13)
下記の表12に示す配合にて、あらかじめ寒天組成物ペーストを作製した。伊那寒天、澱粉加水分解、メタリン酸Naを粉体混合し、水94.3部に分散、加熱溶解した。沸騰1~2分で火を止め、重量を100部に調製し、容器に流し冷却後、撹拌機にて撹拌し寒天組成物のペーストを得た。
【0099】
【表12】
【0100】
発酵ベース80部に、予め作製した寒天組成物ペーストを20部加え混合し、実施例13のソフトヨーグルトを作製した(無脂肪固形分8.7% 乳脂肪1.8%)。
【0101】
【表13】
【0102】
(比較例16)
比較例16として伊那寒天、澱粉加水分解物、メタリン酸ナトリウムを使用する替わりにペクチンを使用したこと以外は実施例13と同様にしてソフトヨーグルトを作製した。
【0103】
(比較例17)
比較例17としてメタリン酸ナトリウムを使用しないこと以外は実施例13と同様にしてソフトヨーグルトを作製した。
【0104】
(比較例18)
比較例18として伊那寒天(重量平均分子量20万)の替わりに粉末寒天を使用したこと以外は実施例13と同様にしてソフトヨーグルトを作製した。
【0105】
実施例13及び比較例16~18で作製したソフトヨーグルトについて、ホエー分離、食感を測定し表14に記載した。評価方法は下記に記載した。
(ホエーの分離)
○:分離なく、均一な状態。
△:表面に若干ホエーの分離が見られる。
【0106】
(食感)
ソフトヨーグルトの食感を当社5人のパネラーにより評価した。結果を表14に示す。
○:滑らかで濃厚感があり、切れの良い食感。
△:滑らかで濃厚感がある食感であるがわずかに糊状感がある。
×:糊状感を感じる。
【0107】
【表14】
【0108】
[実験例9:佃煮の作製]
(実施例14)
合計200gとなるように、原料昆布100部を、醤油40部、水飴30部、砂糖15部、水100部と混合し、90℃で60分煮詰めた(Brix50~55)。火を止める直前に、実施例2の寒天組成物0.62部を砂糖5部と粉体混合し、昆布の佃煮に投入してしっかり混ぜ合わせた。火を止め粗熱をとり、実施例14に係る佃煮を得た。
【0109】
(比較例19)
寒天組成物の代わりに粉末寒天を0.2部使用したこと以外は実施例14と同様にして、比較例19に係る佃煮を作製した。
【0110】
(比較例20)
原料昆布100部を、醤油40部、水飴30部、砂糖20部、粉末寒天0.2部、水100部を90℃で60分煮詰める(Brix55~60)ことにより、比較例20に係る佃煮を作製した。
【0111】
実施例14及び比較例19及び20の佃煮のつやおよびたれ落ちを評価し表15に記載した。評価方法は下記に記載した。
(つや)
○:均一につやがある。
△:均一でないなど若干つやが足りない。
【0112】
(たれ落ち)
○:経時的にもたれ落ちが無い。
△:経時的にたれ落ちが見られる。
×:初めからたれが下に落ちる。
【0113】
【表15】
【0114】
[実験例10:飲料の作製]
(実施例15)
全ての原材料を、UHT(120℃,1分)を用いて加熱溶解し、希釈用のベースシロップ(糖度 55、pH 3.8)を作製した。なお、寒天組成物として、実施例1の寒天組成物を使用したものは実施例15とした。
【0115】
(比較例21)
比較例21として寒天組成物及び粉末寒天のいずれも使用していないこと以外は実施例15と同様にしてベースシロップを作製した。
【0116】
(比較例22)
比較例22として寒天組成物の替わりに粉末寒天を使用したこと以外は実施例15と同様にしてベースシロップを作製した。
【0117】
実施例15及び比較例21及び22のベースシロップの粘度を測定した。
(粘度)
5倍量の水で希釈した際の粘度を測定した。結果を表16に示す。
測定条件:B型粘度計 ローターNo.1 60rpm
【0118】
【表16】
【0119】
実施例15は、寒天が十分に溶解していたため粘度が高くなった。
【0120】
[実験例11:フラワーペースト(チョコレートクリーム)の作製]
(実施例16)
常法に従いフラワーペーストを作製した。デンプンを加熱後に寒天組成物1を0.26%添加して実施例16に係るフラワーペーストを作製した。比較として伊那寒天UP-37を0.1%使用して同様な方法でフラワーペーストを作製した。
寒天組成物を使用したものは比較より保形性があり、進展性も良くフィルムへの付着性が比較より少なかった。
【0121】
[実験例12:キャラメルの作製]
(実施例17)
常法に従いキャラメルを作製した。最終加熱後に寒天組成物1を0.26%添加して実施例17に係るキャラメル作製した。比較として伊那寒天UP-37を0.1%使用して同様な方法でキャラメルを作製した。
寒天組成物を使用したものは比較より保形性があり、歯への付着がなく進展性も良くフィルムへの付着性が少なかった。
【0122】
[実験例13:冷菓の作製]
(実施例18)
表6で作製したペーストを冷凍前に10%添加し、常法に従い実施例18に係る冷菓を作製した。添加していないものに比べ、スプーンどおりが良く、且つ常温で溶けにくいものができた。