(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】有機EL素子の封止用のカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
H05B 33/04 20060101AFI20220802BHJP
H01L 27/32 20060101ALI20220802BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20220802BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20220802BHJP
C09D 11/38 20140101ALI20220802BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20220802BHJP
C08L 33/02 20060101ALI20220802BHJP
C08K 5/02 20060101ALI20220802BHJP
C08F 2/50 20060101ALI20220802BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20220802BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
H05B33/04
H01L27/32
H05B33/14 A
H05B33/10
C09D11/38
C08L63/00 C
C08L33/02
C08K5/02
C08F2/50
G09F9/30 309
G09F9/00 338
G09F9/30 365
(21)【出願番号】P 2018235435
(22)【出願日】2018-12-17
【審査請求日】2020-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000162434
【氏名又は名称】協立化学産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】飯田 広希
(72)【発明者】
【氏名】徳永 大輔
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-050143(JP,A)
【文献】国際公開第2016/167347(WO,A1)
【文献】特開2009-203308(JP,A)
【文献】特開2018-111792(JP,A)
【文献】国際公開第2013/035740(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/04
H01L 27/32
H01L 51/50
H05B 33/10
C09D 11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性樹脂(A)、光カチオン重合開始剤(B)及びアクリル系界面活性剤(C)(但し、Siを有するアクリル系界面活性剤を除く)を含む、有機EL素子の封止用のカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物であって、前記光カチオン重合開始剤(B)が、ヨードニウム塩であり、前記硬化性樹脂(A)が、シリコーン化合物を含み、前記シリコーン化合物が、下記式(II)
で表される化合物と下記式(III)で表される化合物
との組み合わせである、有機EL素子の封止用のカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物。
【化21】
(式(II)中、
R
4は、互いに独立に、C
1~C
6アルキル基であり、
X
2は、互いに独立に、-R
5-R
6で表される基又はR
7であり、
X
3は、互いに独立に、-R
8-R
9で表される基であり、
R
5及びR
8は、互いに独立に、単結合又はC
1~C
3アルキレン基であり、
R
6及びR
9は
、下記式で表され
る構造であり、
【化22】
R
7は、互いに独立に、C
1~C
6アルキル基であり、
式(III)中、
R
10、R
11、R
12は、互いに独立に、メチル基、メトキシ基又はエトキシ基であって、R
10、R
11及びR
12の中の少なくとも1つがメトキシ基又はエトキシ基であり、
R
13は
、下記式で表され
る構造であり、
【化23】
aは1~4の整数である。)
【請求項2】
前記アクリル系界面活性剤(C)が、アクリル重合物である、請求項1に記載の有機EL素子の封止用のカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物。
【請求項3】
硬化性樹脂(A)中のシリコーン化合物の割合が、10~100質量%である、請求項1又は2に記載の有機EL素子の封止用のカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物。
【請求項4】
さらにチオキサントン系増感剤(D)を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の有機EL素子の封止用のカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物。
【請求項5】
25℃における粘度が20mPa・s以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の有機EL素子の封止用のカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物。
【請求項6】
基板と、
前記基板上に形成された、第1の電極層及び第2の電極層並びに前記第1の電極層と第2の電極層との間の有機電界発光層からなる素子本体部と、
前記素子本体部上に形成された、有機層と無機層とが交互に積層されたバリア膜とを備えた有機EL素子であって、
前記バリア膜における前記有機層が請求項1~5のいずれか一項に記載の有機EL素子の封止用のカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物の硬化物である、有機EL素子。
【請求項7】
前記バリア膜において、前記素子本体部側の第1層が有機層となるように前記有機層と前記無機層とが交互に積層されている、請求項6に記載の有機EL素子。
【請求項8】
前記バリア膜において、前記素子本体部側の第1層が無機層となるように前記有機層と前記無機層とが交互に積層されている、請求項6に記載の有機EL素子。
【請求項9】
前記バリア膜における有機層を、
請求項1~5のいずれか1項に記載の有機EL素子の封止用のカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物をインクジェットにより塗布する工程(i)と、
塗布した有機EL素子の封止用のカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物を光照射及び/又は加熱により硬化させる工程(ii)とにより形成する、請求項6~8のいずれか1項に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項10】
請求項6~8のいずれか1項に記載の有機EL素子を有する表示体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子の封止用のカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」ともいう。)は高輝度で消費電力が少ないため、次世代の照明又はディスプレイ等の電子デバイスに使用されている。有機EL素子は、水や酸素に接触すると、劣化し、輝度が低下したり、発光しなくなったりする問題が生じる。従って、電子デバイスに侵入した水や酸素から、有機EL素子を保護する必要がある。
【0003】
デバイスをフレキシブル化しながら、水や酸素から有機EL素子を保護する方法として、有機EL素子上に無機層及び有機層を交互に複数積層したバリア膜を形成して、有機EL素子を封止する方法がある。この方法によれば、バリア膜により、水及び酸素の透過経路が延長され、電子デバイスに侵入した水や酸素から、有機EL素子を保護することが可能となる。このバリア膜の無機層の形成方法としてはALD法、CVD法及びスパッタリング法がある。また、バリア膜の有機層の形成方法としては、インクジェット法により組成物を塗布して有機層を形成する方法がある。
【0004】
特許文献1には、有機EL素子封止用バリア膜の有機層に用いられるインクジェット塗布用の組成物として、特定の範囲の飽和蒸気圧を有する重合性化合物の組み合わせと、重合開始剤と、フッ素系界面活性剤とを含む、硬化性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたインクジェット塗布用の組成物では、塗布した直後の濡れ広がり性(初期の濡れ広がり性)が十分ではなく、吐出間隔が大きい場合、液滴同士が接触できず膜にならなくなってしまう、またはピンホールとして残ってしまうなど成膜性、平坦性が損なわれる問題が有った。
【0007】
よって、本発明は、初期の濡れ広がり性に優れる、有機EL素子の封止用のインクジェット用樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]硬化性樹脂(A)、光カチオン重合開始剤(B)及びアクリル系界面活性剤(C)(但し、Siを有するアクリル系界面活性剤を除く)を含む、有機EL素子の封止用のカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物であって、前記光カチオン重合開始剤(B)が、ヨードニウム塩である有機EL素子の封止用のカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物。
[2]前記アクリル系界面活性剤(C)が、アクリル重合物である、[1]に記載の有機EL素子の封止用のカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物。
[3]前記硬化性樹脂(A)が、シリコーン化合物を含む[1]又は[2]に記載の有機EL素子の封止用のカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物。
[4]前記シリコーン化合物が、下記式(I)、(II)及び(III)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む[3]に記載の有機EL素子の封止用のカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物。
【化1】
(式(I)中、
R
1は、互いに独立に、C
1~C
6アルキル基であり、
X
1は、互いに独立に、-R
2-R
3で表される基であり、
R
2は、互いに独立に、単結合又はC
1~C
3アルキレン基であり、
R
3は、互いに独立に、下記式で表されるいずれかの構造であり、
【化2】
mは0~3の整数であり、nは0~3の整数であり、
式(II)中、
R
4は、互いに独立に、C
1~C
6アルキル基であり、
X
2は、互いに独立に、-R
5-R
6で表される基又はR
7であり、
X
3は、互いに独立に、-R
8-R
9で表される基であり、
R
5及びR
8は、互いに独立に、R
2と同義であり、
R
6及びR
9は、互いに独立に、R
3と同義であり、
R
7は、互いに独立に、C
1~C
6アルキル基であり、
式(III)中、
R
10、R
11、R
12は、互いに独立に、メチル基、メトキシ基又はエトキシ基であって、R
10、R
11及びR
12の中の少なくとも1つがメトキシ基又はエトキシ基であり、
R
13は、R
3と同義であり、
aは1~4の整数である。)
[5]さらにチオキサントン系増感剤(D)を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の有機EL素子の封止用のカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物。
[6]25℃における粘度が20mPa・s以下である[1]~[5]のいずれかに記載の有機EL素子の封止用のカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物。
[7]基板と、
前記基板上に形成された、第1の電極層及び第2の電極層並びに前記第1の電極層と第2の電極層との間の有機電界発光層からなる素子本体部と、
前記素子本体部上に形成された、有機層と無機層とが交互に積層されたバリア膜とを備えた有機EL素子であって、
前記バリア膜における前記有機層が[1]~[6]のいずれかに記載の有機EL素子の封止用のカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物の硬化物である有機EL素子。
[8]前記バリア膜において、前記素子本体部側の第1層が有機層となるように前記有機層と前記無機層とが交互に積層されている[7]に記載の有機EL素子。
[9]前記バリア膜において、前記素子本体部側の第1層が無機層となるように前記有機層と前記無機層とが交互に積層されている[7]に記載の有機EL素子。
[10]前記バリア膜における有機層を、
[1]~[6]のいずれかに記載の有機EL素子の封止用のカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物をインクジェットにより塗布する工程(i)と、
塗布した有機EL素子の封止用のカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物を光照射及び/又は加熱により硬化させる工程(ii)とにより形成する[7]~[9]のいずれかに記載の有機EL素子の製造方法。
[11][7]~[9]のいずれかに記載の有機EL素子を有する表示体。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、初期の濡れ広がり性に優れる有機EL素子の封止用の樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.カチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物
有機EL素子の封止用のカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう)は、硬化性樹脂(A)、光カチオン重合開始剤(B)及びアクリル系界面活性剤(C)を含み、前記光カチオン重合開始剤(B)が、ヨードニウム塩である。ここで、「カチオン重合硬化型組成物」とは、酸を開始剤として重合する硬化性組成物であることをいう。
樹脂組成物は、さらに、低粘度であって、硬化性に優れ、着色の問題がない。
【0011】
(1)硬化性樹脂(A)
硬化性樹脂(A)は、光又は熱により硬化するカチオン硬化性官能基を有する樹脂であり、好ましくは光により硬化する樹脂である。本明細書において、カチオン硬化性官能基とは、酸により重合する官能基をいい、ヘテロ環含有基及び電子供与基を有する電子密度の高いビニル基が挙げられる。カチオン硬化性官能基としては、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基(CH2=CH-O-)が好ましく、エポキシ基が特に好ましい。硬化性樹脂としては、シリコーン化合物、及び他の硬化性樹脂(即ち、エポキシ化合物、オキセタン化合物、更なる硬化性樹脂)が挙げられる。
硬化性樹脂(A)は、1種又は2種以上の組み合わせであってもよい。
【0012】
(1-1)シリコーン化合物
硬化性樹脂(A)は、シリコーン化合物を含むことが好ましい。硬化性樹脂(A)がシリコーン化合物を含む場合、組成物の初期の濡れ広がり性をより向上させることができる。シリコーン化合物は、カチオン硬化性官能基を有するシリコーン化合物が好ましく、脂環式エポキシシリコーン化合物及び脂肪族エポキシシリコーン化合物が特に好ましい。
【0013】
カチオン硬化性官能基を有するシリコーン化合物としては、下記式(I)、(II)及び(III)からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。下記式(I)、(II)及び(III)で示されるシリコーン化合物は、硬化性を高めることができ、また、分子量が大きく低粘度であるため、揮発性が低減できる。
【化3】
【0014】
式(I)中、R
1は、互いに独立に、C
1~C
6アルキル基であり、X
1は、互いに独立に、-R
2-R
3で表される基であり、R
2は、互いに独立に、単結合又はC
1~C
3アルキレン基であり、R
3は、互いに独立に、下記式で表されるいずれかの構造:
【化4】
であり、mは0~3の整数であり、nは0~3の整数である。
【0015】
本明細書において、C1~C6アルキル基は、直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、メチル基、エチル基、プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘプチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。
【0016】
本明細書において、C1~C3アルキレン基は、直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基等が挙げられる。
【0017】
R1は、同じであって、メチル基又はエチル基であることが好ましい。R2は、同じであって、C2~C3アルキレン基であることが好ましい。R3は、同じであって、グリシジルオキシ基、3,4-エポキシシクロペンチル基、3,4-エポキシシクロヘキシル基であることが好ましい。-R2-R3で表される基としては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、2-(3,4-エポキシシクロペンチル)エチル基、グリシジルオキシプロピル基、グリシジルオキシエチル基であることが好ましい。
【0018】
式(I)で表される化合物としては、以下の化合物が特に好ましい。
【化5】
【0019】
式(II)中、R4は、互いに独立に、C1~C6アルキル基であり、X2は、互いに独立に、-R5-R6で表される基又はR7であり、X3は、互いに独立に、-R8-R9で表される基であり、R5及びR8は、R2と同義であり、R6及びR9は、R3と同義であり、
R7は、互いに独立に、C1~C6アルキル基である。
【0020】
R4は、同じであって、メチル基又はエチル基であることが好ましく、R5は、同じであって、メチル基、エチル基又は2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基であることが好ましい。X2がR7である場合、メチル基又はエチル基であることが好ましい。-R5-R6で表される基であるX2と、X3は、-R2-R3で表される基において述べたとおりであり、これらは同じであって、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基又はグリシジルオキシプロピル基であることが好ましい。X2は、同じであって、R7又は-R5-R6で表される基であることが好ましい。
【0021】
式(II)で表される化合物としては、以下の化合物が特に好ましい。
【化6】
【化7】
【0022】
式(III)中、R10、R11、R12は、互いに独立に、メチル基、メトキシ基又はエトキシ基であって、R10、R11及びR12の中の少なくとも1つがメトキシ基又はエトキシ基であり、R13は、R3と同義であり、aは1~4の整数である。
【0023】
R
10、R
11及びR
12は、互いに独立に、メトキシ基又はエトキシ基であることが好ましく、R
13は、下記式で表される構造であることが好ましい。
【化8】
【0024】
式(III)で表される化合物としては、下記式で表される化合物が挙げられる。これらの化合物は、信越シリコーン株式会社のKBM-403、KBM-402、KBE-403、KBE-402、KBM-303として市販されている。
【化9】
【0025】
式(III)で表される化合物としては、以下の化合物が特に好ましい。
【化10】
【0026】
式(I)で表される化合物、式(II)で表される化合物及び式(III)で表される化合物は、単独又は2種以上の組合せであってもよい。シリコーン化合物の中でも、式(II)で表される化合物及び式(III)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましい。
【0027】
(1-2)他の硬化性樹脂
シリコーン化合物以外の他の硬化性樹脂は、分子内にエポキシ基を有する化合物、分子内にオキセタニル基を有する化合物、分子内にビニルエーテル基を有する化合物又は更なる硬化性樹脂が挙げられる。これらの他の硬化性樹脂は、Siを有さない。他の硬化性樹脂は、それぞれ単独で、又は、シリコーン化合物と組み合わせた際に粘度、表面張力等がインクジェットの塗布に適するように選択できる。
【0028】
分子内にエポキシ基を有する化合物としては、芳香族エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物及びその他のエポキシ樹脂を挙げることができる。カチオン重合性がより高く、効率的に光硬化が進行することから、脂環式エポキシ化合物が好ましい。
【0029】
芳香族エポキシ化合物としては、フェニルグリシジルエーテルのような化合物の他、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールAD型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物等のビスフェノール型エポキシ化合物;ナフタレン型エポキシ化合物;フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物等のノボラック型エポキシ化合物;水添ビスフェノールA型エポキシ化合物等のアルコール型エポキシ化合物;臭素化エポキシ化合物等のハロゲン化エポキシ化合物;多官能型エポキシ化合物を挙げることができ、その具体例としては、DIC社製のEPICLON850、850-S、EXA-850CPR等のビスフェノールA型エポキシ化合物;DIC社製のEPICLON830-S、EXA-830LVP等のビスフェノールF型エポキシ化合物;DIC社製のEPICLONのHP-4032D、HP-7200H等のナフタレン型エポキシ化合物;DIC社製のEPICLON N-740、N-770等のフェノールノボラック型エポキシ化合物;DIC社製のEPICLON N-660、N-670、N-655-EXP-S等のクレゾールノボラック型エポキシ化合物;テトラ(ヒドロキシフェニル)アルカンのグリシジルエーテル、テトラヒドロキシベンゾフェノンのグリシジルエーテル、エポキシ化ポリビニルフェノール等の多官能エポキシ化合物を挙げることができる。
【0030】
脂肪族エポキシ化合物としては、多価アルコール又はそのアルキレンオキシド付加物のポリグリシジルエーテルを挙げることができ、その具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,9-ノナンジオールジグリシジルエーテル、1,12-ドデカンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(共栄社化学社製のエポライト100MF)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0031】
脂環式エポキシ化合物としては、前記芳香族エポキシ化合物の水添物、シクロヘキサン系、シクロヘキシルメチルエステル系、シクロヘキシルメチルエーテル系、スピロ系及びトリシクロデカン系エポキシ化合物が挙げられ、その具体例としては、ADEKA社製のKRM-2408、JER社製のYX-8034等の水添ビスフェノールA型エポキシ化合物;3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、1,2:8,9-ジエポキシリモネン、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1-ブタノールの1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加物(ダイセル社製のEHPE3150)、下記式(IV-1)で示される化合物等の脂環型エポキシ化合物を挙げることができる。
【化11】
【0032】
その他の分子内にエポキシ基を有する化合物として、異節環状型エポキシ化合物、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、ゴム変成エポキシ化合物、ウレタン変成エポキシ化合物、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、エポキシ基含有ポリエステル化合物、エポキシ基含有ポリウレタン化合物、エポキシ基含有アクリル化合物等が挙げられる。
【0033】
分子内にオキセタニル基を有する化合物の具体例としては、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン(オキセタンアルコール)(例えば、東亞合成社製OXT-101)、2-エチルヘキシルオキセタン(例えば、東亞合成社製OXT-212)、キシリレンビスオキセタン(XDO:例えば、東亞合成社製OXT-121)、3-エチル-3{[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタン(例えば、東亞合成社製OXT-221)、オキセタニルシルセスキオキセタン(例えば、東亜合成社製OXT-191)、フェノールノボラックオキセタン(例えば、東亜合成社製PHOX)及び3-エチル-3-フェノキシメチルオキセタン(POX:例えば、東亞合成社製OXT-211)、3-エチル-3-アリルオキシメチルオキセタン(例えば、四日市合成社製AL-EOX)を挙げることができる。
【0034】
分子内にビニルエーテル基を有する化合物の具体例としては、ヒドロキシブチルビニルエーテル(例えば、日本カーバイド工業社製HBVE)、1,4-シクロヘキサンジメタノールのビニルエーテル(例えば、日本カーバイド工業社製CHVE)、トリエチレングリコールジビニルエーテル(例えば、ISP社製DVE-3)、ドデシルビニルエーテル(例えば、日本カーバイド工業社製DVE)、及びシクロヘキシルビニルエーテル(例えば、日本カーバイド工業社製CVE)を挙げることができる。
【0035】
他の硬化性樹脂としては、表面張力及び粘度のバランスがよく、インクジェットによる塗布に適するとともに、薄膜を形成することが可能となる観点から、下記式(IV-1)~(IV-4)で表される化合物が特に好ましい。
【化12】
【0036】
(2)光カチオン重合開始剤(B)
光カチオン重合開始剤(B)はヨードニウム塩である。ヨードニウム塩は、少量の使用で優れた硬化性を得ることができるため、着色などの問題がない。
ヨードニウム塩としては、下記式(V)で表される化合物が挙げられる。
Ar1-I+-Ar2・X- (V)
式(V)中、Ar1及びAr2は、独立して、置換又は非置換のアリール基であり、X-は、アニオンである。
【0037】
式(V)における「アリール基」は、炭素数6~18の芳香族炭化水素基、好ましくは、フェニル基又はナフチル基を意味する。アリール基は、非置換であっても、1つ以上の任意の置換基で置換されていてもよく、そのような置換基として、炭素数1~18の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基、炭素数1~18の直鎖又は分岐鎖状のアルコキシ基、炭素数2~18の直鎖又は分岐鎖状のアルコキシカルボニル基、炭素数2~18の直鎖又は分岐鎖状のアシルオキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基等を挙げることができる。
【0038】
式(V)におけるアニオン部分X-としては、Cl-、Br-、SbF6
-、PF6
-、BF4
-、下記式(VI)で表わされるアニオン部分、PF4(CF3CF2)2
-、PF5(CF3CF2)-、(C6F5)4B-、((CF3)2C6H3)4B-、(C6F5)4Ga-、((CF3)2C6H3)4Ga-等が挙げられ、下記式(VI)で表わされるアニオン部分又は(C6F5)4B-であることが好ましく、下記式(VI)で表わされるアニオン部分が特に好ましい。
PFn(CpF2p+1)6-n
- (VI)
式(VI)中、nは、3~5の整数であり、pは、1~3の整数である。
式(VI)において、6-nが1以上であるため、アニオンがフッ化炭素鎖を有し、相対的に強い酸として働く。そのため、カチオン重合性能が高くなり、UV硬化性がより良好になる。
式(VI)で表わされるアニオン部として、[P(C2F5)3F3]-が好ましい。
ヨードニウム塩としては、オニウムフッ素化アルキルフルオロリン酸ヨードニウム塩が好ましく、特に上記式(V)におけるAr1が4-メチルフェニル基で、Ar2が4-イソプロピルフェニル基であり、X-が[P(C2F5)3F3]-である化合物が好ましい。
光カチオン重合開始剤(B)の市販品としては、IK-1(サンアプロ社製)が挙げられる。
【0039】
光カチオン重合開始剤(B)は、1種又は2種以上の組み合わせであってもよい。
【0040】
(3)アクリル系界面活性剤(C)
アクリル系界面活性剤(C)(但し、Siを有するアクリル系界面活性剤を除く)は、組成物の表面張力を大幅に低下させることができる成分である。アクリル系界面活性剤(C)としては、アクリル重合物(即ち、(メタ)アクリル酸系共重合体)が挙げられる。ここで(メタ)アクリル酸系共重合体は、一般的に、下記式で示される構造を有するものが挙げられる。
【0041】
【化13】
(式(VII)中、pは、1以上の整数であり、2~90であることが好ましく、R
21は、各出現の際に独立して、水素又はメチル基であり、R
22は、各出現の際に独立して、ポリエーテル基、アルキル基又はポリエステル基である)
【0042】
アクリル系界面活性剤の市販品としては、例えば、LF-1980、LF-1982(-50)、LF-1983(-50)、LF-1984N,LHP-95,LHP-96,UVX-35、UVX-36、UVX-270、UVX-271,UVX-272、AQ-7120、AQ-7130(いずれも、楠本化成社製);BYK-350、BYK-352,BYK-354,BYK-355,BYK-358,BYK-380,BYK-381,BYK-392(いずれも、BYK社製)、ポリフローNo.57、77、95(いずれも、共栄社化学社製)等が挙げられる。
アクリル系界面活性剤(C)は、1種又は2種以上の組み合わせであってもよい。
【0043】
(4)チオキサントン系増感剤(D)
組成物は、さらにチオキサントン系増感剤(D)を含むことが好ましい。チオキサントン系増感剤としては、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2ークロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、チオキサントンアンモニウム塩等が挙げられ、2,4-ジエチルチオキサントンが好ましい。
チオキサントン系増感剤(D)は、1種又は2種以上の組み合わせであってもよい。
【0044】
(5)その他の成分
樹脂組成物は、本発明の効果を奏する範囲内で、更なる成分を含むことができる。更なる成分として、保存安定剤、酸化防止剤、可塑剤、粘弾性調整剤、アクリル系界面活性剤(C)以外の界面活性調整剤(濡れ剤や消泡剤)、及び充填剤か等が挙げられる。
【0045】
保存安定剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を使用することができ、例えばイルガノックス1010、イルガノックス565、イルガノックス1035FF(いずれもBASF社製)を使用することができる。
【0046】
樹脂組成物は有機溶媒を含まないことが好ましい。組成物を低粘度化するためには通常有機溶媒が用いられるが、有機EL素子封止用途の組成物に有機溶媒が含まれると、有機溶媒が積層体である有機EL素子の各界面に染み込みガス化して界面剥離の原因となったり、残存した有機溶媒により電子及びホールであるキャリアをクエンチし、有機EL素子の機能を妨げる原因となることから、組成物を有機溶媒により希釈して低粘度化することは望ましくないからである。ここで、有機溶媒を含まないとは、組成物の粘度や有機EL素子の機能に影響を与える量の有機溶媒を含まないことをいい、これらに影響を与えない痕跡量の有機溶媒を含むことを排除するものではない。有機溶媒としては、25℃における粘度が1mPa・s未満の有機化合物、特に25℃における粘度が1mPa・s未満のアルコール類、エーテル類、ラクトン類が挙げられる。粘度の測定は実施例記載の方法による。樹脂組成物は、有機EL素子に影響を与えるため、溶媒としての水を含まないことが好ましいが、大気中の水分の混入を排除するものではない。
【0047】
(6)樹脂組成物の粘度
インクジェットのノズルから組成物を好適に吐出するために、組成物の粘度は、25℃で20mPa・s以下であることが好ましく、5~20mPa・sであることが特に好ましい。有機EL素子封止用途の組成物は、加温しないで低粘度化することが好まれる。よって、組成物の粘度が前記した範囲であると、組成物を加温することなく、好適にインクジェット法により塗布することができる。
【0048】
(7)組成物の組成
硬化性樹脂(A)100質量部に対して、光カチオン重合開始剤(B)の含有量は0.5~2質量部であることが好ましく、0.5~1質量部であることが特に好ましい。このような範囲であると、硬化性を十分発揮できるとともに、着色が生じることがない。
【0049】
硬化性樹脂(A)がシリコーン化合物を含む場合、硬化性樹脂(A)中のシリコーン化合物の割合は、10~100質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることが特に好ましい。
【0050】
硬化性樹脂(A)が、式(I)、(II)及び(III)で表される化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を含む場合、硬化性を良好にし、低粘度とする観点から、以下の含有量が好ましい。硬化性樹脂(A)中の上記式(I)で表される化合物の割合は10~80質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることが特に好ましい。硬化性樹脂(A)中の上記式(II)で表される化合物の割合は10~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることが特に好ましい。硬化性樹脂(A)中の上記式(III)で表される化合物の割合は10~60質量%であることが好ましく、20~50質量%であることが特に好ましい。
【0051】
硬化性樹脂(A)が、他の硬化性樹脂を含む場合、シリコーン化合物と組み合わせた際に粘度、表面張力等がインクジェットの塗布に適するような配合量とすることができる。 硬化性樹脂(A)が、他の硬化性樹脂を含む場合、硬化性を良好にし、低粘度とする観点から、硬化性樹脂(A)中の他の硬化性樹脂の割合は1~50質量%であることが好ましく、5~40質量%であることが特に好ましい。また、硬化性を良好にし、表面張力をインクジェット塗布用に適切な値とし、さらに低粘度とする観点から、硬化性樹脂(A)中のオキセタニル基を有する化合物の割合は10~60質量%が好ましく、10~40質量%が特に好ましい。また、硬化性樹脂(A)は、オキセタニル基を有する化合物以外の他の硬化性樹脂の割合が10質量%未満であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、シリコーン化合物又はシリコーン化合物とオキセタニル基を有する化合物以外の硬化性樹脂を含まないことが特に好ましい。
【0052】
硬化性樹脂(A)100質量部に対して、アクリル系界面活性剤(C)の含有量は0.001~10質量部であることが好ましく、0.1~7質量部であることがより好ましく、0.4~5質量部であることが特に好ましい。このような範囲であると、硬化性を十分発揮できるとともに、着色が生じることがない。また、組成物の経時(例えば、塗布後1分以内、及び/又は1分経過後)の濡れ広がりにより優れる。
【0053】
組成物がチオキサントン系増感剤(D)を含む場合、硬化性樹脂(A)100質量部に対して、チオキサントン系増感剤(D)の含有量は0.01~1質量部であることが好ましく、0.01~0.05質量部であることが特に好ましい。このような範囲であると、硬化性を十分発揮できるとともに、着色が生じることがない。
【0054】
組成物中のその他の成分の割合は、10質量%未満であることが好ましく、3質量%未満であることが特に好ましい。保存安定剤(保存安定剤として使用される酸化防止剤を含む)の含有量は、組成物中の硬化性樹脂(A)100質量部に対して、0.01~1.0質量部が好ましく、0.01~0.50質量部が特に好ましい。
【0055】
(8)樹脂組成物の製造方法
樹脂組成物は、上記各成分を混合する工程を含む方法により製造することができる。
【0056】
(9)樹脂組成物の用途
樹脂組成物は、有機EL素子の封止用に用いられる。
【0057】
2.有機EL素子及びその製造方法
有機EL素子は、基板と、前記基板上に形成された、第1の電極層及び第2の電極層並びに前記第1の電極層と第2の電極層との間の有機電界発光層からなる素子本体部と、前記素子本体部上に形成された、有機層と無機層とが交互に積層されたバリア膜とを備える。
【0058】
有機EL素子は、素子本体部と、バリア膜との間にさらにフッ化リチウムなどのイオン性無機化合物の蒸着膜や、パリレン等の有機物等からなる保護膜・機能膜を有していてもよい。
基板としては、特に制限されないが、ガラス基板;ポリジメチルシロキサン、ジフェニルシロキサンなどのポリシロキサン系ポリマー、シリコーン樹脂/シリコーンゴム、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレートA、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリウレタン、ポリスチレン、フッ素化ポリマー(PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PVdF(ポリビニリデンジフルオリド)等)、ポリ塩化ビニル、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、及びジメチルシロキサンとメチルハイドロジェンシロキサン単位のコポリマーなどで形成された基板;有機若しくは無機の発光体素子;並びに有機若しくは無機の半導体基板が挙げられ、透明でフレキシブルな材料が好ましく、高分子材料が特に好ましい。
【0059】
第1及び第2の電極としては、特に制限されないが、ITO、ZnOやIZO等の亜鉛酸化物、スズ酸化物、亜鉛アルミニウム酸化物、タンタル酸化物、金属薄膜(例えば、厚さ10~20nmのAg、MgAg等の金属膜)等公知の透明電極材料が挙げられる。
有機電界発光層としては、通常、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び電子注入層からなる積層構造を基本とするが、これらの層のいくつかが省略された構造であってもよい。各層の材料としては、公知の材料の中から適宜選択して用いることができる。
【0060】
バリア膜は、素子本体部の基板と接している面と反対側の面を覆うものであり、必要に応じて素子本体部の側面及び素子本体部の周りの基板も覆っていてもよい。また、上記以外にも、素子本体部と基板との間にさらに設けてもよい。
バリア膜における有機層と無機層とは、素子本体部側の第1層が有機層となるように交互に積層されていても、または素子本体部側の第1層が無機層となるように交互に積層されていてもよいが、素子本体部側の第1層が有機層となるように交互に積層されているほうが好ましい。有機EL素子が折り曲げに強くなるとともに、バリア膜を平坦でき、さらには素子本体上の異物の包埋をすることもできるからである。
【0061】
バリア膜に含まれる有機層は、前記カチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物の硬化物であり、前記カチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物をインクジェットにより塗布する工程(i)と、塗布したカチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物を光照射及び/又は加熱により硬化させる工程(ii)とにより形成することができる。有機層をインクジェットを用いて形成することにより、蒸着法により有機層を形成する場合よりも、樹脂組成物のロスが少ないため、樹脂組成物の使用量を減らすことができるとともに、チャンバーを汚染することもない。
【0062】
(工程i)
インクジェット装置としては公知の装置を用いることができる。
インクジェットによる塗布における塗布方式としては、ピエゾ方式、サーマル方式、バルブ方式、コンティニュアス方式等が挙げられるが、有機EL素子の封止用としては、加温しないことが好ましいため、ピエゾ方式、バルブ方式が好ましい。
インクジェット装置における上記樹脂組成物の吐出温度としては、23~55℃が好ましく、23~50℃が特に好ましい。上記樹脂組成物は、加温しなくても吐出可能であり、有機EL素子の製造には加温せずに吐出することが望ましいため、23~27℃が特に好ましい。
【0063】
(工程ii)
工程iiにおける光としては、エネルギー線であれば特に限定されず、可視光線、紫外線、X線、電子線等の活性エネルギー線が挙げられる。エネルギー線の光源としては、例えば、メタルハライドランプ、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀キセノンランプ、ハロゲンランプ、パルスキセノンランプ、LED等が挙げられる。エネルギー線の照射は、エネルギー線の積算光量が100~15,000mJ/cm2となるように照射することができる。積算光量は、500~10,000mJ/cm2であることが好ましく、1,000~6,000mJ/cm2であることが特に好ましい。
【0064】
上記樹脂組成物は、上記光源から照射せる光線の波長は、硬化性の観点からは、可視光領域からより短波長までの波長が好適であり、有機EL素子のダメージを防止する観点からは、可視光領域からより長波長までの波長が好適であることから、硬化性及び有機EL素子のダメージ防止を両立する観点からは可視光領域波長がより好適である。具体的にはLEDのピーク波長は、365nm、405nm、375nm、385nm、395nm及び405nm等が挙げられ、395nm及び405nmが好ましい。
【0065】
バリア膜に含まれる無機層は、ALD、CVD、スパッタリング等により形成することができる。用いられる無機材料としては、窒化金属化合物、酸化金属化合物、ハロゲン化金属化合物等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0066】
素子本体部上に有機層と無機層とが交互に積層されたバリア膜が存在すると、水及び酸素の透過経路が延長され、電子デバイスに侵入した水や酸素から、素子本体部を保護することが可能となる。
有機EL素子は、更なる層を有していてもよい。更なる層として、有機材料、無機材料及びその組み合わせの膜が挙げられ、無機材料膜であることが好ましい。有機材料として、例えば、基材の材料として挙げた有機材料が挙げられる。無機材料として、例えばAl2O3、SiO2、TiO2、ZrO2、ITO等の金属酸化物、Cu、Au、Mg、Ag等の金属、BN、Si3N4、GaN、TiN等の金属窒化物等が挙げられる。更なる層を形成する方法は、特に限定されず、方法は特に限定されず、無機材料の膜である場合、スパッタリング法や電子サイクロトロン共鳴プラズマCVD法等が挙げられる。更なる層の厚みは、特に制限されず、0.01~1,000μmであることが好ましく、0.1~0.2μmであることが特に好ましい。
【0067】
好ましい有機EL素子の製造方法は、
基板上に素子本体部を形成する工程(1)と、
前記素子本体部上に有機層と無機層とが交互に積層されたバリア膜を形成する工程(2)とを含み、
前記工程(2)における有機層は、前記カチオン重合硬化型インクジェット用樹脂組成物をインクジェットにより塗布する工程(i)と、
塗布したインクジェット用樹脂組成物を光照射及び/又は加熱により硬化させる工程(ii)とにより形成される有機EL素子の製造方法である。
【実施例】
【0068】
実施例及び比較例の各組成物を以下の原材料を使用して製造した。
硬化性樹脂(A)
・シリコーン化合物(A1)
A1-1:下記式で表される化合物(分子量:246)(信越化学社製)
【化14】
A1-2:下記式で表される化合物(分子量:697)(シグマアルドリッチ社製)
【化15】
A1-3:下記式で表される化合物(分子量:737)(信越化学社製)
【化16】
A1-4:下記式で表される化合物(分子量:383)(信越化学社製)
【化17】
【0069】
・オキセタン化合物(A2)
A2-1:下記式で表される化合物(分子量:156)(四日市合成社製)
【化18】
・脂環式エポキシ化合物(A3)
A3-1:下記式で表される化合物(分子量:152)(JXTGエネルギー社製)
【化19】
A3-2:下記式で表される化合物(分子量:168)(SYMRISE社製)
【化20】
【0070】
・光カチオン重合開始剤(B)
IK-1:4-メチルフェニル-4-(1-メチルエチル)フェニルヨードニウム・トリ(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(サンアプロ社製)
・増感剤
DETXs:2,4-ジエチルチオキサントン(日本化薬社製)
【0071】
・アクリル系界面活性剤(C)
UVX-35:アクリル系界面活性剤(アクリル重合物)(楠本化成社製)
UVX-36:アクリル系界面活性剤(アクリル重合物)(楠本化成社製)
LF-1984N:アクリル系界面活性剤(アクリル重合物)(楠本化成社製)
ポリフローNo.77:アクリル系界面活性剤(アクリル重合物)(共栄社化学社製)
・その他の界面活性剤
UVX-272:アクリルシリコーン系界面活性剤(楠本化成社製)
LS-460:シリコーン系界面活性剤(楠本化成社製)
FC-4430:含フッ素系ノニオン性界面活性剤(3M社製)
F-510:含フッ素系アニオン性界面活性剤(DIC社製)
F-562:含フッ素系ノニオン性界面活性剤(DIC社製)
F-563:含フッ素系ノニオン性界面活性剤(DIC社製)
F-569:含フッ素系ノニオン性界面活性剤(DIC社製)
【0072】
[実施例1~8、比較例1~4、参考例1~6]
表1~表2に記載の組成に基づき、各成分を容量160mlのナンコー容器に入れ、室温(25℃)でスリーワンモータ(新東科学社製)で攪拌し、約50gの樹脂組成物を得た。
【0073】
<測定方法及び評価基準>
(粘度)
粘度計(東機産業製TV-35)を用い、25℃、No.0.8°×R24ローター、50rpmの条件で測定した。
【0074】
(濡れ広がり性(初期))
インクジェット装置(FUJIFILM Dimatix製DMP-2831(カートリッジDMC-11610))を用いて、10pl(10ピコリットル)の実施例及び比較例の樹脂組成物をSi3N4基板に吐出した。吐出後、直ちに濡れ広がり径を測定して、以下の基準で評価した。
◎:200μm以上
○:150μm以上200μm未満
△:100μm以上150μm未満
×:100μm未満
【0075】
(経時の濡れ広がり性)
「濡れ広がり性」で述べた方法にて、樹脂組成物をSi3N4基板に吐出した後、樹脂組成物の濡れ広がりが止まる時間を、インクジェット装置に備えられているカメラを用いて観察して、以下の基準で評価した。
◎:1分経過後も、樹脂組成物が濡れ広がっていた
○:1分以内で、樹脂組成物の濡れ広がりが止まった
△:吐出直後で、樹脂組成物の濡れ広がりが止まった
【0076】
(濡れ広がり性(初期、参考例))
ガラスキャピラリー(協和界面科学社製、内径25μm)からSi3N4基板上に参考例1~6の樹脂組成物を1滴分滴下し、濡れ広がり径を観察した。参考例2~6では、はじきが観察され、その濡れ広がり径は、いずれも、参考例1の濡れ広がり径未満であった。
【0077】
(経時の濡れ広がり性(参考例))
「濡れ広がり性(初期、参考例)」で述べた方法にて、樹脂組成物をSi3N4基板に滴下した後、樹脂組成物の濡れ広がりが止まる時間を目視により外観観察をした。参考例1~6は、いずれも、滴下直後で、樹脂組成物の濡れ広がりが止まっていた。
【0078】
(薄膜硬化性)
実施例、比較例及び参考例の各樹脂組成物をガラス基板上にスピンコート法で10μmの厚みで塗布し、塗膜に、
(1)395nmのLEDを100mW/cm2で10秒照射(1000mJ/cm2)した場合、
(2)395nmのLEDを100mW/cm2で30秒照射(3000mJ/cm2)した場合、
(3)メタルハライドランプ(MHL)を2回通過させ、3000mJ/cm2照射した場合
のそれぞれについて、光照射後直ちに硬化状態を触指により以下の基準により評価した。
○:膜の表面が乾燥しており、硬化が十分に終了していると判断される。
△:膜に部分的にタック性が残っており、さらに時間を経過させれば硬化が進行するが、上記照射直後では硬化が不十分と判断される。
×:膜が全体的に乾燥しておらず、硬化性が不十分と判断される。
【0079】
(着色)
実施例、比較例及び参考例の各樹脂組成物を厚み100μmとなるようにスライドガラスで挟みこんで、395nmのLEDを100mW/cm2で10秒照射(1000mJ/cm2)し、光照射後直ちに着色状態を目視により外観観察をして、以下の基準で評価した。
○:ほぼ無色である
×:黄色味を帯びている
【0080】
結果を表1~表2にまとめる。表2において、「‐」は、測定していないことを示す。
【0081】
【0082】
【0083】
実施例1~2と実施例3とを比較すると、アクリル系界面活性剤(C)の含有量が0.5重量部以上であると、初期及び経時の濡れ広がり性に優れる。
実施例1、4及び8と実施例5とを比較すると、シリコーン化合物はオキセタン化合物と組み合わせなくても、良好な濡れ広がり性を示すことがわかる。
比較例1~4の組成物は、アクリル系界面活性剤を含まない。比較例1~4は、初期の濡れ広がり性に劣っていた。
参考例1~6の組成物は、アクリル系界面活性剤を含まない。また、参考例2~6の組成物は、フッ素系界面活性剤を含む。参考例1と参考例2~6との比較により、フッ素系界面活性剤を添加することによっては、初期の濡れ広がり性を向上させることはできず、かえってはじくようになり、フッ素系界面活性剤を含まない参考例1の広がり径より小さくなってしまった。