(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】ヒトの皮膚の老化の新規バイオマーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20220802BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
G01N33/53 D
C12Q1/02
(21)【出願番号】P 2019528092
(86)(22)【出願日】2017-11-24
(86)【国際出願番号】 EP2017080414
(87)【国際公開番号】W WO2018096117
(87)【国際公開日】2018-05-31
【審査請求日】2020-11-20
(32)【優先日】2016-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511148237
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ グルノーブル アルプス
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブルゴワン-ヴォワラール,サンドリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】レーマン,シルヴィア マリー-ルイーズ
(72)【発明者】
【氏名】ラチディ,ワリド
(72)【発明者】
【氏名】セーヴ,ミシェル
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/048282(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2002/0012927(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0034613(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0163118(US,A1)
【文献】国際公開第2007/023808(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
C12Q 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の皮膚が生理的皮膚の老化の兆候を示すかどうかを判定するインビトロ法であって、
a)前記対象の皮膚サンプルにおいて、TUBB3遺伝子によってコードされた第1のタンパク質の発現レベル、並びにHMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを判定する工程であって、前記少なくとも1つのさらなるタンパク質が、少なくともHMGN1遺伝子によってコードされたタンパク質及びHMGA2遺伝子によってコードされたタンパク質を含むものである、工程、
b)工程a)で得られた第1のタンパク質の発現レベルを第1のタンパク質の参照発現レベルで割ることで第1のタンパク質の発現比を判定し、及び工程a)で得られた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを少なくとも1つのさらなるタンパク質の参照発現レベルで割ることで少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現比を判定する工程であって、前記参照発現レベルが若年対象の皮膚サンプルにおける同じ遺伝子によってコードされるタンパク質のレベルである、工程、及び
c)皮膚が生理的皮膚の老化の兆候を示すかどうかを判定する工程であって、
TUBB3遺伝子によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程b)で判定された発現比が1より高く、並びにHMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、
及びSRSF7からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程b)で判定された発現比が1より低い、及び/又はHMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程b)で判定された発現比が1より高い場合であって、前記少なくとも1つのさらなるタンパク質が、少なくともHMGN1遺伝子によってコードされたタンパク質及びHMGA2遺伝子によってコードされたタンパク質を含むものである場合、
皮膚が老化の兆候を示すと判定されるものである工程、
を含む、方法。
【請求項2】
対象の生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させることが可能な美容処置の方法であって、
a)前記対象の皮膚サンプルにおいて、TUBB3遺伝子によってコードされた第1のタンパク質の発現レベル、並びにHMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを判定する工程であって、前記少なくとも1つのさらなるタンパク質が、少なくともHMGN1遺伝子によってコードされたタンパク質及びHMGA2遺伝子によってコードされたタンパク質を含むものである、工程、
b)工程a)で得られた第1のタンパク質の発現レベルを第1のタンパク質の参照発現レベルで割ることで第1のタンパク質の発現比を判定し、及び工程a)で得られた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを少なくとも1つのさらなるタンパク質の参照発現レベルで割ることで少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現比を判定する工程であって、前記参照発現レベルが若年対象の皮膚サンプルにおける同じ遺伝子によってコードされるタンパク質のレベルである、工程、
c)皮膚が生理的皮膚の老化の兆候を示すかどうかを推定する工程であって、
TUBB3遺伝子によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程b)で判定された発現比が1より高く、並びにHMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、及びSRSF7からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程b)で判定された発現比が1より低い、及び/又はHMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程b)で判定された発現比が1より高い場合であって、前記少なくとも1つのさらなるタンパク質が、少なくともHMGN1遺伝子によってコードされたタンパク質及びHM
GA2遺伝子によってコードされたタンパク質を含むものである場合、
皮膚が生理的皮膚の老化の兆候を示すと推定されるものである工程、及び
d)皮膚が生理的老化の兆候を示すと判定されると、前記対象を生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させる美容組成物で処置する工程、
を含む、方法。
【請求項3】
生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させることが可能な物質を同定する方法であって、
a)皮膚サンプルを候補物質で処置する工程、
b)工程a)の前記皮膚サンプルにおいて、TUBB3遺伝子によってコードされた第1のタンパク質の発現レベル、並びにHMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを判定する工程であって、前記少なくとも1つのさらなるタンパク質が、少なくともHMGN1遺伝子によってコードされたタンパク質及びHMGA2遺伝子によってコードされたタンパク質を含むものである、工程、
c)処置されていない皮膚サンプルにおいて判定した第1のタンパク質の発現レベルを工程b)で得られた第1のタンパク質の発現レベルで割り第1のタンパク質の発現比を判定し、及び処置されていない皮膚サンプルにおいて判定した少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを工程b)で得られた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルで割り少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現比を判定する工程、
d)TUBB3遺伝子によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程c)で判定された発現比が1より高く、並びにHMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、及びSRSF7からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程c)で判定された発現比が1より低い、及び/又はHMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程c)で判定された発現比が1より高い場合であって、前記少なくとも1つのさらなるタンパク質が、少なくともHMGN1遺伝子によってコードされたタンパク質及びHMGA2遺伝子によってコードされたタンパク質を含むものである場合、
生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させる物質としての前記候補物質を同定する工程、
を含む、方法。
【請求項4】
工程a)の前記皮膚サンプル及び工程c)の前記候補物質で処置されていない前記皮膚サンプルを皮膚の老化を引き起こす環境にさらす、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記皮膚サンプルが角化細胞を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記対象が白人である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記対象が女性である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
TUBB3遺伝子によってコードされた第1のタンパク質の発現レベルを判定するための捕捉リガンド、並びに
HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを判定するための少なくとも1つの捕捉リガンドであって、前記少なくとも1つのさらなるタンパク質が、少なくともHMGN1遺伝子によってコードされたタンパク質及びHMGA2遺伝子によってコードされたタンパク質を含むものであ
り、
前記少なくとも1つの捕捉リガンドが、少なくともHMGN1遺伝子によってコードされたタンパク質の発現レベルを判定するための捕捉リガンド及びHMGA2遺伝子によってコードされたタンパク質の発現レベルを判定するための捕捉リガンドを含むものである、捕捉リガンド
を含む、皮膚の老化の兆候を示すかどうかを判定するためのキット。
【請求項9】
前記捕捉リガンドが抗体である、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
皮膚サンプルにおいて、
TUBB3遺伝子によってコードされた第1のタンパク質の発現レベル、並びに
HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルであって、前記少なくとも1つのさらなるタンパク質が、少なくともHMGN1遺伝子によってコードされたタンパク質及びHMGA2遺伝子によってコードされたタンパク質を含むものである、発現レベル
を判定するための、請求項8又は9に記載のキットの使用
であって、
前記キットが、前記少なくとも1つのさらなるタンパク質として、少なくともHMGN1遺伝子によってコードされたタンパク質の発現レベル及びHMGA2遺伝子によってコードされたタンパク質の発現レベルを判定するために用いられるものである、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象の皮膚が生理的老化の兆候を示すかどうかを判定するインビトロ法、美容処置の方法、及び生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させることが可能な物質を同定する方法に言及する。本発明はさらに、捕捉リガンドを含むキット及び皮膚サンプルにおいて、本発明の文脈において同定された皮膚の老化のマーカーの発現レベルを判定するためのキットの使用に言及する。
【背景技術】
【0002】
先進諸国の平均余命は過去2世紀にわたって著しく長くなっており、21世紀もこの傾向が続けば、そのような国々で2000年以降に誕生した多くの赤ちゃんは100歳になるであろう。また、2030年までに世界中の8人のうち1人が65歳以上になり、人口の世界的高齢化がいくつかの社会的、経済的、そして医療的課題を引き起こすと見込まれている(Christensen et al., 2009, Lancet 374, 1196-1208)。
【0003】
老化は、複数の遺伝及び環境要因に影響される複雑なプロセスであり、複数の生理的機能の進行性の低下を特徴とする。他の臓器と同様に、皮膚はUV照射などの環境要因により加速され得る老化の影響を受ける。経時的老化とも呼ばれる内因性の皮膚の老化は、太陽にさらされていない皮膚で観察され、生物全体の老化の過程を反映する(Makrantonaki et al., 2007, Exp. Gerontol. 42, 879-886)。よって、内臓や細胞と比較して簡単にアクセスできるため、皮膚は内因性の老化の過程を解明するための興味深い代替的アプローチである。皮膚は、小じわ形成、表皮及び真皮の菲薄化、脆弱性やもろさの上昇、乾燥、弾力性低下、バリア機能の障害などの内因性老化を有するいくつかの形態的及び生理的変化を受ける(Zouboulis and Makrantonaki, 2011, Clin. Dermatol. 29, 3-14)。内因性老化の発症機序は、細胞の老化及び増殖能の低下、テロメアの短縮、DNA損傷の増加及びDNA修復過程の減少、ミトコンドリア及びゲノムDNA変異、ホルモン低下及び酸化ストレスなど複数ある(Poljsak et al., 2012, Acta Dermatovenerol. Alp. Pannonica Adriat. 21, 33-36)(Makrantonaki and
Zouboulis, 2007, Dermatol. Basel Switz.
214, 352-360)。
【0004】
皮膚の老化は複雑なプロセスであり、皮膚の老化の生物学をより理解し、皮膚の老化及び関連する病理学を診断し、予防し、処置するのに役立てることのできる新たな特定の標的を同定するためにたくさんの努力がなされてきた。過去10年間で、いくつかのトランスクリプトミクス研究により、いくつかの生物モデル及びヒトにおける遺伝子発現への老化の影響が調べられてきた(Zahn et al., 2007, PLoS Genet. 3, e201)(Zahn and Kim, 2007, Curr. Opin. Biotechnol. 18, 355-359)。
【0005】
皮膚の老化に関して、ヒトにおいては4つの研究のみが行われてきた。第1の研究は、高齢及び若年のヒトの男性の皮膚において異なって発現した遺伝子が代謝、シグナル伝達、アポトーシス、転写調節などの様々な細胞プロセスに関与していたことを示している(Lener et al., 2006, Exp.Gerontol. 41, 387-397)。さらに最近では、研究は、両方の性における老化に応じた太陽にさらされていない皮膚からの遺伝子発現プロフィールを比較してきた。両方の性において39の遺
伝子のみが共通して異常調節され、それらのうち4つが反対の様式で調節されるという、両方の性において加齢とともに著しく異なる反応があった。これらの結果から、WNTシグナル経路は両方の性において加齢とともに主要下方調節経路として現れた(Makrantonaki et al., 2012, PLoS ONE 7)。そして最近は、ヒトの表皮において年齢状況にしたがって異なって発現した75の遺伝子が同定された(Raddatz et al., 2013, Epigenetics Chromatin 6, 36)。経路分析は、これらの遺伝子が主に細胞移動、がん、皮膚疾患、及び細胞増殖に関与したことを明らかにした。また、表皮の形成に関与した遺伝子は有意に強化され、角化細胞の分化の全体の下方調節が観測された。
【0006】
タンパク質は細胞の馬車馬であり、多数の細胞プロセスの主要なエフェクターである。複雑なプロセスを解明し、細胞の標準状態及び病理状態を説明するため、定量的質量分析を基にしたプロテオミクスがそのタンパク質動力学の説明に対する有用性を証明した。それらの最近の技術的進歩、特に質量分析においては、プロテオームの大規模な調査を可能にした。これらの研究はタンパク質発現調節の一般的な理解を変え、mRNA濃度などの遺伝子転写物の濃度が必ずしも対応するタンパク質の濃度及び活性に反映しないことを証明した。
【0007】
比較的まれな研究では皮膚の老化を調べるためプロテオミクスを用いてきており、それらは全て、プロテオームの包括度がより低くなる2次元ゲル電気泳動アプローチを用いてきた。結果としてごく少数の異常調節されたタンパク質が同定された一方で、ゲルのないアプローチでは老化のプロテオミクスの特徴を提供することができた(Laimer et al., 2010, Exp. Dermatol. 19, 912-918)(Delattre et al., 2012, Exp. Dermatol. 21, 205-210)(Gromov et al., 2003)。
【0008】
皮膚はいくつかの細胞層からなり、以前の研究では、皮膚全体又は角質層サンプルにおけるタンパク質の発現レベルを調べていた。しかし、異なる細胞層は大きく異なった振る舞いをし、老化に対して異なった反応を示す。角化細胞は、皮膚の最も表面にありアクセスできる層である表皮の主要構成要素である。培養下の角化細胞に重点を置くことは、皮膚の老化におけるより深い洞察を得、表皮の増殖区画にアクセスするのを助ける。
【0009】
本発明の発明者らは、若年及び高齢の白人女性から得られた太陽にさらされていない皮膚由来のヒト初代角化細胞におけるタンパク質発現プロフィールの変化を調べた。老化に影響を与える1つの主要因子であるホルモンを考慮すると、血中ホルモンが若年女性では高いレベルとなり高齢女性では最も低いレベルとなるように年齢カテゴリーが選択された。
【0010】
本発明の発明者らは、その発現が有意に異常調節された、若年及び高齢のヒト初代角化細胞の定量的プロテオミクスアプローチを用いた内因性の皮膚の老化の推定の候補バイオマーカーである58のタンパク質を同定した。
【0011】
特に、本発明の発明者らは、生理的老化の兆候を示す皮膚を同定するために特によく適したバイオマーカーとして、タンパク質TUBB3、HMGA2、及びHMGN1を同定した。
【発明の概要】
【0012】
本発明の発明者らは、より高齢の皮膚対より若い皮膚で有意に異なって発現する58のタンパク質を同定した(p値<0.05)。
【0013】
定量的プロテオミクスにより同定されたように、これら58のバイオマーカーから、加齢とともに40が下方調節され18が上方調節された。これらのマーカーの2つ、TUBB3及びHMGA2の診断価値はさらに、他の対象からの皮膚サンプルを用いたウエスタンブロット分析によって確認された。
【0014】
したがって、本発明は、対象の皮膚が生理的皮膚の老化の兆候を示すかどうかを判定するインビトロ法に関し、インビトロ法は
a)対象の皮膚サンプルにおいて、TUBB3、HMGA2及びHMGN1、好ましくはTUBB3及びHMGA2、より好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質の発現レベル、並びにHMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを判定し、
b)皮膚が生理的皮膚の老化の兆候を示すかどうかを判定する
工程を含む。
【0015】
本発明はさらに、対象の生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させることが可能な美容処置の方法に言及し、美容処置の方法は
a)対象の皮膚サンプルにおいて、TUBB3、HMGA2及びHMGN1、好ましくはTUBB3及びHMGA2、より好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質の発現レベル、並びにHMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを判定し、
b)工程a)で判定した第1のタンパク質の発現レベル及び少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルから皮膚が生理的皮膚の老化の兆候を示すかどうかを推定し、及び
c)皮膚が生理的老化の兆候を示すと判定されると、対象を生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させる美容組成物で処置する
工程を含む。
【0016】
本発明はさらに、生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させることが可能な物質を同定する方法に言及し、物質を同定する方法は
a)皮膚サンプルを候補物質で処置し、
b)工程a)の皮膚サンプルにおいて、TUBB3、HMGA2及びHMGN1、好ましくはTUBB3及びHMGA2、より好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選
択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質の発現レベル、並びにHMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを判定し、
c)第1のタンパク質及び少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを候補物質で処置されていない皮膚サンプルにおける第1のタンパク質及び少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルと比較し、
d)生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させる物質としての候補物質を同定する
工程を含む。
【0017】
本発明はさらに、
TUBB3、HMGA2及びHMGN1、好ましくはTUBB3及びHMGA2、より好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質の発現レベルを判定するための少なくとも1つの捕捉リガンド、並びに
HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、TUBB3、HMGA2*、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを判定するための少なくとも1つの捕捉リガンド
を含むキットに言及する。
【0018】
本発明はさらに、
皮膚サンプルにおいて、TUBB3、HMGA2及びHMGN1、好ましくはTUBB3及びHMGA2、より好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質の発現レベル、並びに
HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを判定するための、本明細書において上記で定義したキットの使用に言及する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】サーモフィッシャー又はインビトロジェンから入手できるβ-3チューブリン抗体(2G10)MA1-118を使用したウエスタンブロット分析を用いた高齢及び若年者におけるTUBB3の発現の判定である。A)はβ-3チューブリン抗体(2G10)MA1-118を使用した高齢及び若年者におけるTUBB3の発現のウエスタンブロットであり、B)はSDSpageで視覚化した総タンパク質含有量であり、C)はTUBB3によってコードされたタンパク質の正規化量を示すグラフである。正規化は総タンパク質濃度を用いて行った。
【
図2】サーモフィッシャー又はインビトロジェンから入手できるβ-3チューブリン抗体(2G10)MA1-118を使用したウエスタンブロット分析を用いた高齢及び若年者におけるTUBB3の発現の判定である。D)は若年及び高齢患者におけるβ-3チューブリンの正規化量を示すグラフである。E)は0.9048の曲線下面積(AUC)を有する、対応する受信者動作特性(ROC)曲線(GraphPad Prism version 7.00 for Windows、ラホヤ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国、www.graphpad.com)である。
【
図3】HMGA2抗体PA5-25276を使用したウエスタンブロット分析を用いた高齢及び若年者におけるHMGA2の発現の判定である。A)はHMGA2抗体PA5-25276を使用した高齢及び若年者におけるHMGA2の発現のウエスタンブロットであり、B)はSDSpageで視覚化した総タンパク質含有量であり、C)はHMGA2によってコードされたタンパク質の正規化量を示すグラフである。正規化は総タンパク質濃度を用いて行った。
【
図4】HMGA2抗体PA5-25276を使用したウエスタンブロット分析を用いた高齢及び若年者におけるHMGA2の発現の判定である。D)は若年及び高齢患者におけるHMGA2の正規化量を示すグラフである。E)は0.8776の曲線下面積(AUC)を有する、対応する受信者動作特性(ROC)曲線(GraphPad Prism version 7.00 for Windows、ラホヤ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国、www.graphpad.com)である。
【
図5】A)は0.806の曲線下面積(AUC)を有する、若年及び高齢患者におけるβ-チューブリンの発現に対応する受信者動作特性(ROC)曲線(GraphPad Prism version 7.00 for Windows、ラホヤ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国、www.graphpad.com)である。B)は0.939の曲線下面積(AUC)を有する、若年及び高齢患者におけるHMGA2の発現に対応する受信者動作特性(ROC)曲線(GraphPad Prism version 7.00 for Windows、ラホヤ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国、www.graphpad.com)である。C)は0.592の曲線下面積(AUC)を有する、若年及び高齢患者におけるHMGN1の発現に対応する受信者動作特性(ROC)曲線(GraphPad Prism version 7.00 for Windows、ラホヤ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国、www.graphpad.com)である。
【
図6】1の曲線下面積(AUC)を有する、若年及び高齢患者におけるβ-チューブリン、HMGA2、及びHMGN1の発現の組み合わせに対応する受信者動作特性(ROC)曲線(GraphPad Prism version 7.00 for Windows、ラホヤ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国、www.graphpad.com)である。モデル方程式は以下の通りである。予測=83.76-(992.91×β-チューブリン)-(4936.61×HMGA2)+(273.40×HMGN1)
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明の詳細な説明
本発明の文脈における「老化」は皮膚の老化作用のことを言い、本明細書では「皮膚の老化」と称する。
【0021】
「生理的皮膚の老化」とも称する「皮膚の老化」は、しわ、しみ、むらのある皮膚の色、及びたるんだ皮膚などの特徴を有する皮膚として臨床的に記載することができる。継承された遺伝的形質に加えて、多くの他の要因がホルモン状態、並びに気候、労働、社会的及び文化的条件などの老化の過程を修正することができる。皮膚上の老化作用は内因性要因と外因性要因のどちらにも影響を受けることが当業者には理解されよう。他の臓器と同様に、ヒトの皮膚は分子損傷の蓄積により次第に機能低下する。酸化ストレス及び分子損傷は、経時的老化とも呼ばれる内因性老化と外因性老化とも呼ばれる環境要因の結果としての老化の両方の原因となる。結果として、老化した皮膚又は「より高齢の皮膚」は若々しい皮膚と比べると多くの相違点を示し、経時的に起こる構造的及び生理的変化による皮膚疾患に対して著しい感受性も有する。
【0022】
経時的老化及び外因性老化に加えて、皮膚病の発生が皮膚の生理的老化を引き起こす可能性があり、「皮膚病由来の皮膚の老化」と称され得ることが当業者にはさらに理解されよう。
【0023】
したがって、本発明の文脈において用いられる「皮膚の老化」又は「生理的皮膚の老化」は、経時的老化、外因性老化及び/又は皮膚病による老化、好ましくは経時的老化及び/又は外因性老化のことを言う。
【0024】
特定の一実施形態において、皮膚の老化は皮膚病由来の皮膚の老化である。
【0025】
「経時的老化」又は「内因性老化」は個人の遺伝的背景を反映し、時の経過とともに起こる。内的に老化した皮膚は典型的に滑らかで汚れがない。経時的老化のみでは、高齢者は小じわのある薄い皮膚、軟部組織再分布のある脂肪萎縮、及び骨再形成を示すものである。肌が白いタイプの人に比べて、有色人たちは10年後に現れる兆候のある重度の内因性顔面老化をあまり示さないことが当業者には知られている。
【0026】
「外因性老化」は日光暴露、喫煙、食習慣、運動などの個人の習慣に関連する環境暴露、健康、及び生活様式と関係しており、したがって、例えば、光老化を含む。累積日光暴露は、皮膚の老化において最も重要な外因性要因である。肌質によっては、色素沈着症は光老化の最も一般的な特徴の一つである。光老化の一般的な臨床兆候は黒子、しわ、毛細血管拡張症、ダークスポット、及び弾力性低下を含む。年齢を適合させた白人の同等の人々に比べて、有色の皮膚は日光により引き起こされた損傷にあまり影響を受けないため、これらの老化の臨床症状はそれほどひどくなく典型的に10~20年後に起こることが当業者には知られている。喫煙、過度のアルコール、及び栄養不足などの他の外因性要因もまた皮膚の老化の原因になり得る。
【0027】
皮膚の生理的老化を引き起こすおそれがある「皮膚病」の非限定例は、例えば、アトピー性皮膚炎、脂漏性角化症、後天性表皮水疱症、乾癬、エリテマトーデスにおける皮膚の変化、皮膚筋炎、強皮症、慢性にきび、慢性セルライト、掻痒、及び糖尿病及び早期老化症における異常な又は欠陥のある瘢痕形成である。
【0028】
本明細書での「早期老化症」は皮膚の早期老化を特徴とする疾病のことを言い、ハッチンソン・ギルフォード早老症候群(HGPS)、非定型早老症候群(APS)、下顎骨異形成(MAD)、ウェルナー症候群(WS)、ブルーム症候群(BS)、ロスムンド・トムソン症候群(RTS)、コケイン症候群(CS)、色素性乾皮症(XP)、硫黄欠乏性毛髪発育異常症(TTD)、ファンコニ貧血(FA)、毛細血管拡張性運動失調症(AT
)、及び先天性角化異常症(DC)を含むがこれらに限らない。
【0029】
上記にしたがって、「皮膚の老化の兆候」は、全ての外見上で視覚的及び触覚的に認知できる症状だけでなく皮膚の老化によるその他のマクロ又はミクロの作用を含むがこれに限らない。これらの兆候は、しわ及び粗く深いしわ、小じわ、皮膚のしわ、割れ目、こぶ、大きな毛穴(例えば、汗腺管、皮脂腺、又は毛包などの付属器の構造に関連)、又はむら又は粗さ、皮膚の弾力性低下(機能的な皮膚のエラスチンの低下及び/又は不活性化)、たるみ(目の領域や顎のむくみを含む)、皮膚の堅さの低下、皮膚のつっぱり感の低下、変形からの皮膚の跳ね返りの低下、変色(目の下のくまを含む)、斑点、黄ばみ、年齢によるしみ及びそばかすなどの色素過剰の皮膚領域、角化症、異常な分化、過角化、弾性線維症、コラーゲン分解、及び角質層、真皮、表皮、皮膚の血管系(例えば、毛細血管拡張症又はクモ状血管)、及び特に皮膚に最も近い下層組織(例えば、脂肪及び/又は筋肉)における他の組織学的変化などのテクスチャの不連続性の発達を含むがこれに限らない過程に起因する可能性がある。
【0030】
「皮膚」は全体重の約1/6を含む最大のヒトの臓器である。皮膚は環境へのバリアとしての機能を果たすなど、ヒトの生理学において複雑な役割を行い、その腺の一部(皮脂腺)によって作られた皮脂は抗感染特性を有する。皮膚は外界への伝達のための経路として働き、我々を水分損失、摩擦による傷、及び衝撃による傷から保護し、太陽の紫外線から我々を保護するために特殊化した色素細胞を用いる。皮膚は、太陽光線にさらされると表皮層にビタミンDを生成する。皮膚は汗腺を通して体温を調節するのを助け、代謝を調節するのを助ける。皮膚は3つの機能層、表皮、真皮、及び皮下組織から成る。したがって、一実施形態において、皮膚は表皮、真皮、及び皮下組織、好ましくは表皮及び真皮、より好ましくは表皮のことを言う。
【0031】
したがって、本発明の文脈にあるように「皮膚サンプル」は、好ましくは表皮、真皮、及び皮下組織、好ましくは表皮及び真皮、より好ましくは表皮を含む。
【0032】
本明細書で使われる「表皮」は皮膚の外層のことを言い、角質層、透明層、顆粒層、有棘層、及び基底層を含む5つの層に分けられる。角質層は多くの死んだ層、基本的にケラチンで満たされた無核角化細胞を含む。健康な皮膚であっても、角質層の最外層は絶えずはがれ落ちている。透明層は2~3層の無核細胞を含む。顆粒層はケラトヒアリン顆粒を含むデスモソームにより結合した2~4層の細胞を含む。有棘層は同様にデスモソームにより結合した8~10層のやや活性の分裂細胞を含む。基底層は有糸分裂により能動的に分裂し上部の表皮層を通り角質層へ移動することになる細胞を供給する単層の円柱細胞を含む。したがって、表皮の主要細胞型は角化細胞である。これらの細胞は、細胞が角質層を形成する角質細胞又は扁平上皮細胞として知られる細胞に変わる基底層で形成され、表皮層を通り顆粒層まで存在する。この形質転換過程の間、核は消化され、細胞質は消失し、脂質は細胞間隙に放出され、ケラチン中間径フィラメントは集合して微小繊維を形成し、細胞膜は表面に共有結合した脂質を有する架橋タンパクからなる細胞外皮に置き換えられる。
【0033】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は皮膚サンプルを得るための工程0)をさらに含む。
【0034】
一実施形態において、本発明の文脈における皮膚サンプルは皮膚細胞を含む。したがって、本発明の文脈における皮膚サンプルはまた皮膚サンプル細胞と称してもよい。
【0035】
一実施形態において、皮膚サンプル細胞は角化細胞、好ましくは初代角化細胞である。
【0036】
したがって、一実施形態において、本発明の文脈における皮膚サンプルは角化細胞、好ましくは初代角化細胞を含む。
【0037】
皮膚サンプルを得る方法は当業者には広く知られている。一例を挙げると、皮膚サンプルは、典型的に再生皮膚、特に3D再生皮膚、又は皮膚生検後の皮膚サンプルに含まれる皮膚細胞の単離及び培養、例えば初代角化細胞の単離及び培養を用いて得られる。
【0038】
一例を挙げると、乳房の形成手術後に典型的に太陽から保護され太陽にさらされていない皮膚の皮膚生検が得られ、ヒト初代角化細胞を25μg/mLのBPEと0.9ng/mLのEGFが補充されたKSFM培地で培養した。
【0039】
一実施形態において、皮膚サンプルは保護され太陽にさらされていない皮膚に由来する。
【0040】
一実施形態において、本発明の方法はタンパク質発現レベルを判定する前に皮膚サンプルを準備するさらなる工程を含む。本発明の文脈において、準備は通常タンパク質抽出のことを言う。
【0041】
したがって、一実施形態において、本発明の方法の文脈において、タンパク質発現レベルを判定する前にタンパク質は皮膚サンプル、好ましくは皮膚サンプル細胞から抽出される。
【0042】
したがって、一実施形態において、皮膚サンプルは皮膚サンプルのタンパク質抽出物、好ましくは皮膚サンプル細胞のタンパク質抽出物のことを言う。
【0043】
一例を挙げると、典型的に皮膚サンプルの皮膚細胞の凍結ペレットを30分間、例えば4°で、例えば40mMのHEPES PH7.4、100mMのNaCl、1mMのEDTA、0.02%のトリトン、0.02%のデオキシコール酸ナトリウム、0.2mMのTCEP、及びロシュ製のプロテアーゼ及びフォスファターゼの阻害剤混合物(PhosSTOP)を含む溶液中で溶解する。典型的に、溶解は氷上での短時間の超音波処理で達成され、溶解物は、例えば14000rpm、20分間、4°での遠心分離により除去される。
【0044】
「角化細胞」は表皮、つまり皮膚の最外層における主要細胞型であり、そこでみられる細胞の90%を構成する。さらなる分析のため、角化細胞は当業者に知られている方法で分離してもよい。
【0045】
したがって、一例を挙げると、皮膚サンプルは、例えば60%、65%、70%、75%、80%、85%の角化細胞のように少なくとも50%の角化細胞を含む。
【0046】
本明細書での「初代角化細胞」はヒトの皮膚サンプルから分離された角化細胞のことを言う。
【0047】
広く使われる「バイオマーカー」と言う表現は、単独で又は集団で生体系の流れを反映又は未来像を予測するあらゆる生体分子(遺伝子、タンパク質、脂質、代謝産物)のことを言う。バイオマーカーとしてのタンパク質は、典型的にm-RNAより長い半減期を有し、したがって一定期間を通して濃度がより安定するという利点を有する。本明細書で使われるように、本明細書で下記の「本発明の方法」の項で記載された異なるタンパク質は、生理的皮膚の老化の指標であるバイオマーカーとして同定される。本発明の文脈において同定されたバイオマーカーの非限定例は、遺伝子TUBB3、HMGA2及び/又はH
MGN1によってコードされたタンパク質である。本発明のバイオマーカーについては、本発明の方法の文脈において本明細書でさらに以下に記載する。
【0048】
本明細書で使われる「遺伝子」は、転写及び/又は翻訳制御配列、及び/又はコード領域、及び/又は非翻訳配列(例えば、イントロン、5’-及び3’-非翻訳配列)を含むゲノム遺伝子でもよい。遺伝子のコード領域は、アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、又は長鎖及び短鎖非コードRNAなどの機能性RNA(例として、tRNA、rRNA、触媒RNA、及びミクロRNA)でもよい。遺伝子はまた、連鎖した5’-又は3’-非翻訳配列を任意で含む、コード領域に対応したmRNA又はcDNA(例えば、エクソン及びミクロRNA)でもよい。遺伝子はまた、コード領域及び/又は連鎖した5’-又は3’-非翻訳配列の全部又は一部を含む、増幅又は合成核酸分子でもよい。
【0049】
対象
本発明の文脈において、「対象」は動物、好ましくは非ヒト又はヒト哺乳類のことを言う。非ヒト哺乳類の例としては、齧歯類及び霊長類が挙げられる。最も好ましくは、対象はヒトである。
【0050】
「ヒト」はさらに様々な人種に区別することができる。3つの主な人種は、アーリア人、ハム族、セム族を含む白色人種、例えば北モンゴル人、中国人及びインドシナ人、日本人及び韓国人、チベット人、マレー人、ポリネシア人、マオリ人、ミクロネシア人、エスキモー、アメリカインディアンを含む蒙古人種、例えばアフリカ人、ホッテントット、メラネシア人/パプア、「ネグリト」、オーストラリア先住民、ドラヴィダ人、シンハラ人を含む黒色人種である。
【0051】
当業者に知られるように、本明細書において上記で定義した皮膚の老化作用は内因性要因と外因性要因のどちらにも影響を受け、根本的な構造及び機能の違いを考慮すると、種族的出身によって異なることがたびたびある。
【0052】
したがって、一実施形態において、ヒトは白人、蒙古人、又は黒人、好ましくは白人である。
【0053】
したがって、一つの好ましい実施形態において、対象は白人である。
【0054】
「白人」という用語は、ヨーロッパ人、北アフリカ人、及び南西アジア人系統の個人の身体的特徴の組み合わせを言うのに一般的に用いられる。
【0055】
この「白人対象」のグループは、メラニン量の減少に伴う小さな凝集メラノソームにより証明される色素の少ない皮膚の人々を含む。減少した表皮メラニン成分は、白人に他の集団よりも光老化の早期兆候を示しやすくする。構成的な色素沈着の低いヨーロッパ系アメリカ人は、ヒスパニック及び東アジア人に比べて著しく高い日焼け(burn)反応性と低い日焼け(tanning)能力を有する。加えて、白人の皮膚は、加齢に伴うコラーゲンの喪失及び真皮の弾性線維の崩壊とともに薄く凝集力が弱まった角質層、減少した皮膚の伸展性により例示される。これらの特徴が臨床的に脆弱な皮膚をもたらし、老化の過程の原因となる。
【0056】
ホルモンは老化の一つの要因であり、ホルモンの量及び種類は同じ年齢層の男女の対象間で異なる。
【0057】
したがって、一実施形態において、本明細書でのヒトは男性又は女性、好ましくは女性のことを言う。
【0058】
したがって、一実施形態において、対象は女性である。
【0059】
一実施形態において、対象の年齢は18~95歳、好ましくは例えば45~80歳などの32~80歳、より好ましくは45~80歳である。
【0060】
本発明の方法
本発明の文脈における「少なくとも1つのさらなるタンパク質」は、1つのさらなるタンパク質、2つのさらなるタンパク質、3つのさらなるタンパク質、4つのさらなるタンパク質、5つのさらなるタンパク質、6つのさらなるタンパク質、7つのさらなるタンパク質、8つのさらなるタンパク質、9つのさらなるタンパク質、又は10のさらなるタンパク質、好ましくは1つのさらなるタンパク質、2つのさらなるタンパク質、3つのさらなるタンパク質、4つのさらなるタンパク質のことを言う。
【0061】
本発明の文脈における少なくとも1つのさらなるタンパク質は、HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされる。
【0062】
本発明の文脈において用いられるこれら58のバイオマーカーのアミノ酸配列は、本明細書で下記に記載され2016年1月15日にアクセス可能なアクセッションコードでUniProtKBデータベースから入手できる。
【0063】
【0064】
一つの好ましい実施形態において、少なくとも1つのさらなるタンパク質はTUBB3、HMGA2、又はHMGN1から選択される。関連する実施形態において、本明細書での「少なくとも1つのさらなるタンパク質」は、1つのさらなるタンパク質又は2つのさらなるタンパク質のことを言う。
【0065】
したがって、一実施形態において、本発明の文脈における第1のタンパク質はTUBB3によってコードされ、及び少なくとも1つのさらなるタンパク質はHMGA2又はHM
GN1によってコードされる。
【0066】
さらなる実施形態において、本発明の文脈における第1のタンパク質はTUBB3によってコードされ、並びに2つの少なくとも1つのさらなるタンパク質はHMGA2及びHMGN1によってコードされる。
【0067】
したがって、さらなる一実施形態において、本発明の文脈における第1のタンパク質はHMGA2によってコードされ、及び少なくとも1つのさらなるタンパク質はTUBB3又はHMGN1によってコードされる。
【0068】
したがって、さらなる一実施形態において、本発明の文脈における第1のタンパク質はHMGN1によってコードされ、少なくとも1つのさらなるタンパク質はTUBB3又はHMGA2によってコードされる。
【0069】
本発明の文脈において、第1のタンパク質がTUBB3によってコードされる場合、少なくとも1つのさらなるタンパク質はTUBB3を除いた遺伝子のリストから選択された遺伝子によってコードされる、すなわち、少なくとも1つのさらなるタンパク質は、HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされることが当業者には理解されよう。
【0070】
同様に、第1のタンパク質がHMGA2によってコードされる場合、少なくとも1つのさらなるタンパク質はHMGA2を除いた遺伝子のリストから選択された遺伝子によってコードされる、すなわち、少なくとも1つのさらなるタンパク質は、HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、TUBB3、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされる。
【0071】
さらに、第1のタンパク質がHMGN1によってコードされる場合、少なくとも1つのさらなるタンパク質はHMGN1を除いた遺伝子のリストから選択された遺伝子によってコードされる、すなわち、少なくとも1つのさらなるタンパク質は、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、
CLTB、MYH11、SRSF7、TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされる。
【0072】
本明細書での「発現レベル」は遺伝子産物のタンパク質レベルのことを言い、値とみなしてもよい。
【0073】
本明細書で使われるように、「判定する」という用語は、制御又は所定の発現レベルへの言及の有無にかかわらず定性的及び/又は定量的検出(すなわち、発現レベルを検出及び/又は測定する)を含む。
【0074】
本明細書で使われるように、「検出する」は、バイオマーカー、すなわち本明細書において上記で定義した遺伝子によってコードされたタンパク質、が生体サンプル内に存在するか否かを判定することを意味し、「測定する」は、皮膚サンプル内のバイオマーカーの量、すなわち本明細書において上記で定義した遺伝子によってコードされたタンパク質の量、を判定することを意味する。
【0075】
第1のタンパク質又は少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルは、対象のタンパク質を結合することのできるあらゆる捕捉リガンドを用いた免疫学的方法を用いて、本発明の方法で定義したような遺伝子の翻訳生成物(すなわちタンパク質)を検出することによって判定してもよい。捕捉リガンドは対象のアミノ酸配列を特異的に識別する抗体、アプタマー、及びポリペプチドからなる群から選択してもよく、典型的には捕捉リガンドはポリクローナル又はモノクローナル抗体である。したがって、適切な免疫学的方法は、例えば、本発明の文脈において定義したような遺伝子によってコードされたタンパク質に結合した抗体、抗体フラグメント、受容体リガンド、又は他の作用物質を用いた免疫組織化学(IHC)、酵素結合免疫測定法(ELISA)、サンドイッチ、直接、間接、又は競合ELISA測定法、酵素結合免疫スポット測定法(ELIspot)、放射免疫測定法(RIA)、フローサイトメトリー測定法(FACS)、ウエスタンブロット、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)測定法、及びタンパク質チップ測定法を含む。
【0076】
いくつかの実施形態において、発現レベルはまた、質量分析などの生物物理化学的方法を用いて判定することもできる。
【0077】
当業者に知られるように、適切な免疫学的方法で用いてもよい抗体は市販されている。
【0078】
例えば、TUBB3によってコードされた第1のタンパク質の発現レベルは、サーモフィッシャー又はインビトロジェンから入手できるβ-3チューブリン抗体(2G10)MA1-118を用いたウエスタンブロットなどの適切な免疫学的方法を用いて判定してもよい。
【0079】
例えば、HMGA2によってコードされた第1のタンパク質の発現レベルは、例えばインビトロジェンから入手できるHMGA2抗体PA5-25276を用いたウエスタンブロットなどの適切な免疫学的方法を用いて判定してもよい。
【0080】
例えば、HMGN1によってコードされた第1のタンパク質の発現レベルは、例えばアブカムから入手できるHMGN1抗体ab5212を用いたウエスタンブロットなどの適切な免疫学的方法を用いて判定してもよい。
【0081】
一実施形態において、第1のタンパク質及び少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルは、酵素結合免疫測定法(ELISA)又はウエスタンブロットを用いて判定される。
【0082】
本明細書において特定の遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルだけでなく特定の遺伝子によってコードされた第1のタンパク質の発現レベルは、その遺伝子によってコードされた全てのアイソフォームのことを言うことが当業者には理解されよう。
【0083】
本発明の方法の工程a)又はb)において、皮膚サンプルにおいて判定された第1のタンパク質及び少なくとも1つのさらなるタンパク質の量が、用いられた皮膚サンプルに含まれる細胞の量、質、及び代表性(representativity)に依存することが当業者にはさらに理解されよう。
【0084】
したがって、一実施形態において、工程a)における第1のタンパク質及び少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルは典型的に正規化発現レベルのことを言うことが当業者には理解されよう。
【0085】
本明細書での「正規化」は、例えば、異なるサンプルに対して得られた異なるデータセットを比較できるようにデータをスケーリングすることを言う。一例を挙げると、サンプル内で測定されたタンパク質の総量を用いて正規化を行ってもよい。しかしながら、正規化を当業者に知られている他の方法で、例えば、いわゆる参照遺伝子又はハウスキーピング遺伝子によってコードされたタンパク質の量を用いて行ってもよい。
【0086】
したがって、一実施形態において、本発明の文脈にあるように「発現レベル」は正規化発現レベルである。
【0087】
一実施形態において、皮膚サンプルにおいて判定されたタンパク質の総量を用いて発現レベルを正規化する。
【0088】
タンパク質の総量を判定する方法は当業者に知られている。一例を挙げると、皮膚サンプルのタンパク質の総量をBCAタンパク質定量キット(サーモフィッシャーサイエンティフィック、イリノイ州、アメリカ合衆国)を用いて判定する。
【0089】
本発明の文脈における皮膚サンプルは、本明細書において上記の「定義」の項で定義している。
【0090】
本発明の方法はさらに、第1のタンパク質の発現レベルを参照レベルと比較し、少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを参照レベルと比較する工程を含む。
【0091】
一実施形態において、本発明の文脈における「参照発現レベル」は、対象、好ましくはより若年の対象、より好ましくは若年対象の皮膚サンプルにおける同じ遺伝子によってコードされたタンパク質の参照発現レベルのことを言う。
【0092】
好ましくは、参照発現レベルは、同じ皮膚領域から得られ、本発明の方法の工程a)の対象の皮膚サンプルと同じ方法で得られた皮膚サンプルで測定される。
【0093】
一例を挙げると、それら参照発現レベルは所定の参照発現レベルであり、特定の値又は範囲であり得る。
【0094】
参照発現レベルは、例えば、より若い皮膚、好ましくは若い皮膚を示す特定の遺伝子の発現のレベルの間を区別する様々な統計的尺度であり得る。
【0095】
したがって、いくつかの実施形態において、参照発現レベルは対象から、好ましくはより若年の対象から、より好ましくは若年対象から得られた皮膚サンプルにおける特定の遺伝子のタンパク質発現レベルである。
【0096】
したがって、いくつかの実施形態において、参照発現レベルは対象、好ましくはより若年の対象、より好ましくは若年対象、又は対象の人口、好ましくはより若年の対象の人口、より好ましくは若年対象の人口から得られた皮膚サンプルにおける特定の遺伝子のタンパク質発現レベルの中央値である。
【0097】
一実施形態において、参照発現レベルは受信者操作特性(ROC)曲線により判定したような閾値である。
【0098】
一実施形態において、参照発現レベルは少なくとも2、4、10、30、50、又は100のサンプルを用いて判定してもよく、それらのサンプルは異なる対象由来であることが好ましい。
【0099】
一実施形態において、参照発現レベルは少なくとも2つのサンプルを用いて判定してもよく、それらのサンプルは異なる対象由来であることが好ましい。
【0100】
本明細書での「より若い」、「若い」、「高齢の」、及び「より高齢の」という用語は実年齢のことを言い、例えば「より若い」は、本発明の方法を適用する対象、すなわち、対象の皮膚が生理的老化の兆候を示すかどうかを判定する対象、の実年齢と比較した参照サンプルが由来する対象の実年齢のことを言う。
【0101】
本明細書において上記で定義した「皮膚の老化」は、老化を加速する外因性老化の要因を考慮しなければ通常実年齢32歳から始まる。
【0102】
したがって、一実施形態において、本明細書での「若い」は18歳から32歳、好ましくは32歳未満、より好ましくは30歳未満のことを言う。
【0103】
一実施形態において、「高齢の」は40歳から65歳又はそれ以上、好ましくは40歳超え、45歳超え、50歳超え、55歳超え、より好ましくは65歳超えのことを言う。
【0104】
発現レベルを参照発現レベルと比較した場合、その発現レベルは参照発現レベルよりも高いか低いかのどちらかであることが当業者には理解されよう。本発明の文脈におけるタンパク質の発現レベルが参照発現レベルよりも高い場合、そのレベルが参照発現レベルより有意に高いことが好ましい。本発明の文脈におけるタンパク質の発現レベルが参照発現レベルよりも低い場合、そのレベルが参照発現レベルより有意に低いことが好ましい。
【0105】
本明細書での「有意に」は統計的に有意なことを言う。
【0106】
一実施形態において、p<0.05値を統計的に有意とみなす。
【0107】
一実施形態において、第1のタンパク質の発現レベルと少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルをそれらの参照発現レベルと比を用いて比較する。ここで、特に定義されなければ、本発明の方法の工程a)又はb)において測定した発現レベルを参照発現レベルで割る。
【0108】
したがって、一実施形態において、本発明の文脈における発現比が1より高い場合、発現比は1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.8、2、2.2、2.3、2.4、2.6、2.8、3.0、3.2、3.4など、1より有意に高い。
【0109】
比がタンパク質発現レベルを同じタンパク質の参照発現レベルで割ることにより得られる場合、1より高い発現比はタンパク質が参照発現レベルと比較して上方調節されている(過剰発現している)ことを示すことが当業者にはさらに理解されよう。
【0110】
関連する実施形態において、本発明の文脈における発現比が1より低い場合、発現比は0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1など、1より有意に低い。
【0111】
比がタンパク質発現レベルを同じタンパク質の参照発現レベルで割ることにより得られる場合、1より低い発現比はタンパク質が参照発現レベルと比較して下方調節されていることを示すことが当業者には理解されよう。
【0112】
対象の皮膚が生理的皮膚の老化の兆候を示すかどうかを判定する方法
一実施形態において、対象の皮膚が生理的皮膚の老化の兆候を示すかどうかを判定するインビトロ法は、第1のタンパク質の発現レベルを参照レベルと比較し、少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを参照レベルと比較する工程をさらに含む。
【0113】
したがって、一実施形態において、対象の皮膚が生理的皮膚の老化の兆候を示すかどうかを判定するインビトロ法は、
a)対象の皮膚サンプルにおいて、TUBB3、HMGA2及びHMGN1、好ましくはTUBB3及びHMGA2、より好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質の発現レベル、並びにHMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを判定し、
b)第1のタンパク質の発現レベルを参照レベルと比較し、少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを参照レベルと比較し、及び
c)皮膚が生理的皮膚の老化の兆候を示すかどうかを判定する
工程を含む。
【0114】
参照レベルは、本明細書において上記の「本発明の方法」の項で定義している。
【0115】
特定の一実施形態において、工程a)で得られた第1のタンパク質の発現レベルを参照発現レベルで割り第1のタンパク質の発現比を判定することにより、工程b)で第1のタンパク質の発現レベルを参照レベルと比較し、及び
工程a)で得られた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを参照発現レベルで割り少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現比を判定することにより、工程b)で少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを参照レベルと比較する。
【0116】
一実施形態において、第1のタンパク質の発現レベルを第1のタンパク質の参照レベルと比較し、少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを少なくとも1つのさらなるタンパク質の参照レベルと比較する。
【0117】
したがって、一つの好ましい実施形態において、工程a)で得られた第1のタンパク質の発現レベルを第1のタンパク質の参照発現レベルで割り第1のタンパク質の発現比を判定することにより、及び工程a)で得られた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを少なくとも1つのさらなるタンパク質の参照発現レベルで割り少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現比を判定することにより、第1のタンパク質及び少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを参照発現レベルと比較する。
【0118】
したがって、さらなる一実施形態において、本発明は、対象の皮膚が生理的皮膚の老化の兆候を示すかどうかを判定するインビトロ法に関し、インビトロ法は
a)対象の皮膚サンプルにおいて、TUBB3、HMGA2及びHMGN1、好ましくはTUBB3及びHMGA2、より好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質の発現レベル、並びにHMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを判定し、
b)工程a)で得られた第1のタンパク質の発現レベルを第1のタンパク質の参照発現レベルで割ることで第1のタンパク質の発現比を判定し、及び工程a)で得られた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを少なくとも1つのさらなるタンパク質の参照発現レベルで割ることで少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現比を判定し、及び
c)皮膚が生理的皮膚の老化の兆候を示すかどうかを判定する
工程を含む。
【0119】
一実施形態において、TUBB3、HMGA2及びHMGN1、好ましくはTUBB3及びHMGA2、より好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程b)で判定された発現比が1より高く又は低く、
HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より高い又は低い場合、
対象の皮膚が老化の兆候を示す。
【0120】
さらなる実施形態において、TUBB3及びHMGA2、好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程b)で判定された発現比が1より高く、及び
TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より高い場合、又は
TUBB3及びHMGA2、好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より高く、及び
HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、及びSRSF7からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より低い場合、又は
遺伝子HMGN1によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より低く、及び
TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より高い場合、又は
遺伝子HMGN1によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より低く、及び
HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、及びSRSF7からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より低い場合、
対象の皮膚が老化の兆候を示す。
【0121】
したがって、一実施形態において、本発明は、対象の皮膚が生理的皮膚の老化の兆候を示すかどうかを判定するインビトロ法に言及し、インビトロ法は
a)対象の皮膚サンプルにおいて、TUBB3、HMGA2及びHMGN1、好ましくはTUBB3及びHMGA2、より好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質の発現レベルを判定し、対象の皮膚サンプルにおいて、HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、
TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを判定し、
b)工程a)で得られた第1のタンパク質の発現レベルを第1のタンパク質の参照発現レベルで割ることで第1のタンパク質の発現比を判定し、及び工程a)で得られた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを少なくとも1つのさらなるタンパク質の参照発現レベルで割ることで少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現比を判定し、及び
c)皮膚が生理的皮膚の老化の兆候を示すかどうかを判定する
工程を含み、
TUBB3及びHMGA2、好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程b)で判定された発現比が1より高く、及び
TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より高い場合、又は
TUBB3及びHMGA2、好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より高く、及び
HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、及びSRSF7からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より低い場合、又は
遺伝子HMGN1によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より低く、及び
TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より高い場合、又は
遺伝子HMGN1によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より低く、及び
HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、及びSRSF7からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より低い場合、
対象の皮膚が老化の兆候を示す。
【0122】
一実施形態において、TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH
3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1.4より高い場合、対象の皮膚が生理的老化の兆候を示す。
【0123】
さらなる実施形態において、HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、及びSRSF7からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質に対し、工程b)で判定された比が0.7より低い場合、対象の皮膚が生理的老化の兆候を示す。
【0124】
美容処置の方法
本発明はさらに、上記の「発明の概要」の項で定義した美容処置の方法に言及する。
【0125】
本明細書での美容処置は、生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させることが可能な処置のことを言う。本明細書において上記で説明したように、皮膚の老化は、経時的老化などの内因性要因及び環境要因などの外因性要因に影響を受けた、又は皮膚病に起因した可能性のあるしわ、しみ、むらのある皮膚の色、及びたるんだ皮膚などの特徴のことを言う。
【0126】
当業者に知られているように、老化の目に見える兆候のない滑らかな皮膚が美しいと考えられている。したがって、一実施形態において、人の見た目を改善するために、生理的皮膚の老化の目に見える兆候の減少又は回復が行われる。したがって、一実施形態において、本発明は、人の見た目を改善するために行われる「美容処置」に言及しており、よって、非治療的である。
【0127】
本明細書において上記で述べたように、皮膚の生理的老化はまた、本明細書において上記の「定義」の項で定義したように皮膚病により引き起こされる可能性があり、「皮膚病由来の皮膚の老化」と称され得る。そのような場合、美容処置の方法は、例えば、皮膚科医により指示される。
【0128】
したがって、特定の一実施形態において、生理的皮膚の老化は皮膚病由来の皮膚の老化である。
【0129】
一実施形態において、本明細書において上記で定義した美容処置の方法及びその使用は、本明細書において上記の「対象の皮膚が生理的皮膚の老化の兆候を示すかどうかを判定する方法」の項で定義したように、第1のタンパク質の発現レベルを参照レベルと比較し、少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを参照レベルと比較する工程をさらに含む。
【0130】
参照レベルは、本明細書において上記の「本発明の方法」の項で定義している。
【0131】
したがって、一実施形態において、本発明は、対象の生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させることが可能な美容処置の方法に言及し、美容処置の方法は
a)対象の皮膚サンプルにおいて、TUBB3、HMGA2及びHMGN1、好ましくはTUBB3及びHMGA2、より好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質の発現レベル、並びにHMGN1、H
IST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを判定し、
b)第1のタンパク質の発現レベルを参照レベルと比較し、少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを参照レベルと比較し、
c)工程b)の比較から皮膚が生理的皮膚の老化の兆候を示すかどうかを推定し、及び
d)皮膚が生理的老化の兆候を示すと判定されると、対象を生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させる美容組成物で処置する
工程を含む。
【0132】
「生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させる美容組成物」は、抗酸化物質及び/又はレチノール及びそれらの誘導体を含む組成物などの生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させ得る、当業者から知られるあらゆる組成物のことを言い、例えば、Gancevicuiene R.et al.2012(Dermatoendocrinol.2012 Jul 1;4(3):308-19)に記載されている。
【0133】
「抗酸化物質」は、ビタミンC、レスベラトロル、及びポリフェノールなどの抗酸化物質を含むがこれに限らない。
【0134】
また「ビタミンA」として知られる「レチノール」は、コラーゲンの生合成をし、及びMMP1(コラゲナーゼ1)の発現を減少させ、よって外因性及び内因性の皮膚の老化へ良い影響を与えるものとして当業者に知られている。
【0135】
「レチノールの誘導体」は、例えばトレチノイドである。
【0136】
「第1のタンパク質の発現レベルを参照レベルと比較し、少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを参照レベルと比較する」及び「参照発現レベル」の工程b)は、本明細書において上記で定義している。
【0137】
特定の一実施形態において、工程a)で得られた第1のタンパク質の発現レベルを参照発現レベルで割り第1のタンパク質の発現比を判定することにより、工程b)で第1のタンパク質の発現レベルを参照レベルと比較し、及び
工程a)で得られた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを参照発現レベルで割り少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現比を判定することにより、工程b)で少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを参照レベルと比較する。
【0138】
一実施形態において、第1のタンパク質の発現レベルを第1のタンパク質の参照レベルと比較し、少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを少なくとも1つのさらなるタンパク質の参照レベルと比較する。
【0139】
したがって、一実施形態において、本発明は、対象の生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させることが可能な美容処置の方法に言及し、美容処置の方法は
a)対象の皮膚サンプルにおいて、TUBB3、HMGA2及びHMGN1、好ましくはTUBB3及びHMGA2、より好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質の発現レベル、並びにHMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを判定し、
b)工程a)で得られた第1のタンパク質の発現レベルを第1のタンパク質の参照発現レベルで割ることで第1のタンパク質の発現比を判定し、及び工程a)で得られた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを少なくとも1つのさらなるタンパク質の参照発現レベルで割ることで少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現比を判定し、
c)工程b)の比較から皮膚が生理的皮膚の老化の兆候を示すかどうかを推定し、及び
d)皮膚が生理的老化の兆候を示すと判定されると、対象を生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させる美容組成物で処置する
工程を含む。
【0140】
対象の皮膚が老化の兆候を示す場合を定義する実施形態は、本明細書において上記の「対象の皮膚が生理的皮膚の老化の兆候を示すかどうかを判定する方法」の項で定義しており、美容処置の方法に準用する。
【0141】
上記により、一実施形態において、本発明は、対象の生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させることが可能な美容処置の方法に言及し、美容処置の方法は
a)対象の皮膚サンプルにおいて、TUBB3、HMGA2及びHMGN1、好ましくはTUBB3及びHMGA2、より好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質の発現レベル、並びにHMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを判定し、
b)工程a)で得られた第1のタンパク質の発現レベルを第1のタンパク質の参照発現レベルで割ることで第1のタンパク質の発現比を判定し、及び工程a)で得られた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを少なくとも1つのさらなるタンパク質の参照発現レベルで割ることで少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現比を判定し、
c)工程b)で得られた比から皮膚が生理的皮膚の老化の兆候を示すかどうかを推定し、
ここで、TUBB3及びHMGA2、好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より高く、及び
TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より高い場合、又は
TUBB3及びHMGA2、好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より高く、及び
HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、及びSRSF7からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より低い場合、又は
遺伝子HMGN1によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より低く、及び
TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より高い場合、又は
遺伝子HMGN1によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より低く、及び
HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、及びSRSF7からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1より低い場合、
皮膚が生理的皮膚の老化の兆候を示し、
d)皮膚が生理的老化の兆候を示すと判定されると、対象を生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させる美容組成物で処置する
工程を含む。
【0142】
一実施形態において、TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質に対し、工程b)で判定された比が1.4より高い場合、対象の皮膚が生理的老化の兆候を示す。
【0143】
さらなる実施形態において、HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、
及びSRSF7からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質に対し、工程b)で判定された比が0.7より低い場合、対象の皮膚が生理的老化の兆候を示す。
【0144】
物質を同定する方法
発明者らは、より若い皮膚における同じタンパク質の発現と比較して、老化すると、いろいろなタンパク質の発現が変化し上方又は下方調節されると証明した。
【0145】
したがって、生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させることが可能な物質は、より若い皮膚と比較して、タンパク質発現におけるこれらの違いを再調整又はそれらのタンパク質のいくつかの上方又は下方調節を減少させることができる。
【0146】
本明細書での工程a)における「皮膚サンプルを候補物質で処置する」は、例えば、皮膚サンプル、好ましくは皮膚サンプル細胞を候補物質に2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、24時間など1分間~48時間、好ましくは1~30時間、1~24時間、2~24時間、4~24時間、6~24時間、7~24時間、8~24時間、8~12時間接触させることを言う。
【0147】
当業者は、皮膚サンプル、好ましくは皮膚サンプル細胞を候補物質に接触させる時間が候補物質の濃度や皮膚サンプル、特に皮膚サンプル細胞の培養条件などの要因に依存することを知っている。
【0148】
一実施形態において、皮膚サンプルを候補物質に少なくとも5分間、少なくとも10分間、少なくとも20分間、少なくとも40分間、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも3時間、少なくとも4時間、少なくとも5時間、少なくとも6時間、少なくとも7時間、少なくとも8時間接触させる。
【0149】
本明細書での工程b)における「皮膚サンプルにおいて発現レベルを判定する」は、例えば、本明細書において上記で定義したように、皮膚サンプルを候補物質に接触させた後少なくとも6時間、少なくとも8時間、少なくとも10時間、少なくとも12時間、少なくとも14時間、少なくとも18時間、少なくとも24時間で発現レベルを判定することを言う。
【0150】
「皮膚サンプルを候補物質に接触させた後」の「後」という言葉は皮膚サンプルと物質が接触した時点を言うことが当業者には理解されよう。例えば、皮膚サンプルを候補物質に接触させた後8時間で発現を判定し物質を細胞に6時間接触させた場合、6時間の工程a)の接触時間の後、工程b)で発現を2時間で判定することになる。
【0151】
好ましくは、候補物質で処置された工程a)の皮膚サンプル及び候補物質で処置されていない工程c)の皮膚サンプルは工程a)の前では同一であることが当業者には理解されよう。本明細書での「同一」は、典型的に1回の生検で得られた皮膚サンプルのことを言い、生検ではサンプル及びそれに含まれる細胞が、最終的にサンプルの凍結を含む同じ処置を受け最終的に細胞単離及び細胞培養される。典型的に、皮膚サンプル、特に皮膚サンプル細胞は本発明の方法の工程a)の前に2つの部分に分けられる。
【0152】
好ましくは、物質を同定する方法の文脈における皮膚サンプルは再生皮膚、好ましくは3D再生皮膚であることが当業者にはさらに理解されよう。
【0153】
一実施形態において、候補物質で処置された工程a)の皮膚サンプル及び候補物質で処置されていない工程c)の皮膚サンプルはさらに皮膚の老化を引き起こす環境にさらされる。
【0154】
関連する実施形態において、候補物質を同定する方法はさらに、皮膚サンプルを皮膚の老化を引き起こす環境にさらす工程a2)を含む。同じ実施形態において、工程a)の皮膚サンプルとして、候補物質で処置されていない皮膚サンプルを皮膚の老化を引き起こす同じ環境にさらす。
【0155】
本明細書での「皮膚の老化を引き起こす環境」は、例えば、酸化ストレス誘導因子、炎症誘発性サイトカイン、汚染物質、及びUV照射、より詳細にはUV-A照射への暴露のことを言う。
【0156】
「炎症誘発性サイトカイン」は当業者に知られており、IL1β及びTNFを含むがこれに限らない。
【0157】
「生理的皮膚の老化の目に見える兆候」は本明細書において上記で定義している。
【0158】
特定の一実施形態において、工程c)で候補物質で処置されていない皮膚サンプルにおいて判定した第1のタンパク質の発現レベルを工程b)で得られた第1のタンパク質の発現レベルで割り第1のタンパク質の発現比を判定することにより、及び工程c)で得られた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを工程b)で得られた発現レベルで割り少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現比を判定することにより、工程b)で判定した第1のタンパク質及び少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを候補物質で処置されていない皮膚サンプルにおける第1のタンパク質及び少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルと工程c)において比較する。
【0159】
したがって、一実施形態において、本発明は、生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させることが可能な物質を同定する方法に言及し、物質を同定する方法は
a)皮膚サンプルを候補物質で処置し、
b)皮膚サンプルにおいて、TUBB3、HMGA2及びHMGN1、好ましくはTUBB3及びHMGA2、より好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質の発現レベル、並びにHMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを判定し、
c)処置されていない皮膚サンプルにおいて判定した第1のタンパク質の発現レベルを工程b)で得られた第1のタンパク質の発現レベルで割り第1のタンパク質の発現比を判定し、及び処置されていない皮膚サンプルにおいて判定した少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを工程b)で得られた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルで割り少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現比を判定し、
d)生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させる物質としての候補物質を同定する
工程を含む。
【0160】
一実施形態において、TUBB3、HMGA2及びHMGN1、好ましくはTUBB3
及びHMGA2、より好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程c)で判定された発現比が1より高く又は低く、
HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程c)で判定された比が1より高い又は低い場合、
工程d)で生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させることが可能であるとして物質が同定される。
【0161】
さらなる実施形態において、TUBB3及びHMGA2、好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程c)で判定された発現比が1より高く、及び
TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程c)で判定された比が1より高い場合、又は
TUBB3及びHMGA2、好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程c)で判定された比が1より高く、及び
HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、及びSRSF7からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程c)で判定された比が1より低い場合、又は
遺伝子HMGN1によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程c)で判定された比が1より低く、及び
TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程c)で判定された比が1より高い場合、又は
遺伝子HMGN1によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程c)で判定された比が1より低く、及び
HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、N
EB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、及びSRSF7からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程c)で判定された比が1より低い場合、
工程d)で生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させることが可能であるとして物質が同定される。
【0162】
したがって、特定の一実施形態において、本発明は、生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させることが可能な物質を同定する方法に言及し、物質を同定する方法は
a)皮膚サンプルを候補物質で処置し、
b)皮膚サンプルにおいて、TUBB3、HMGA2及びHMGN1、好ましくはTUBB3及びHMGA2、より好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質の発現レベル、並びにHMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを判定し、
c)処置されていない皮膚サンプルにおいて判定した第1のタンパク質の発現レベルを工程b)で得られた第1のタンパク質の発現レベルで割り第1のタンパク質の発現比を判定し、及び処置されていない皮膚サンプルにおいて判定した少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを工程b)で得られた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルで割り少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現比を判定し、
d)TUBB3及びHMGA2、好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程c)で判定された比が1より高く、及び
TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程c)で判定された比が1より高い場合、又は
TUBB3及びHMGA2、好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程c)で判定された比が1より高く、及び
HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、及びSRSF7からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程c)で判定された比が1より低い場合、又は
遺伝子HMGN1によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程c)で判定された比が1より低く、及び
TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PR
DX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程c)で判定された比が1より高い場合、又は
遺伝子HMGN1によってコードされた第1のタンパク質に対し、工程c)で判定された比が1より低く、及び
HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、及びSRSF7からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質に対し、工程c)で判定された比が1より低い場合、
生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させる物質としての候補物質を同定する
工程を含む。
【0163】
さらなる実施形態において、TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質に対し、工程c)で判定された比が1.4より高い場合、工程d)で生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させることが可能であるとして物質が同定される。
【0164】
さらなる実施形態において、HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、及びSRSF7からなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質に対し、工程c)で判定された比が0.7より低い場合、工程d)で生理的皮膚の老化の目に見える兆候を減少又は回復させることが可能であるとして物質が同定される。
【0165】
キット
「捕捉リガンド」は、TUBB3、HMGA2及びHMGN1、好ましくはTUBB3及びHMGA2、より好ましくはTUBB3からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質を結合することのできるリガンド、又はHMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質を結合することのできるリガンドを意味する。
【0166】
したがって、捕捉リガンドは、本明細書において上記で参照した遺伝子によってコードされたタンパク質のアミノ酸配列に特異的に結合する。「本明細書で上記に記載した遺伝子の1つによってコードされたアミノ酸配列に特異的に結合する」は、典型的にそのアミノ酸配列のエピトープに特異的に結合することを意味する。
【0167】
好ましくは、捕捉リガンドは、本明細書で上記に記載した遺伝子の1つによってコードされたタンパク質のアミノ酸配列を特異的に識別する抗体、アプタマー、及びポリペプチドからなる群から選択される。
【0168】
この文脈において、「抗体」という用語はあらゆるポリクローナル又はモノクローナル抗体のことを言う。
【0169】
フラグメントscFv、Fab、Fab’、F(ab’)2もラクダ科一本鎖抗体も本明細書で上記に記載した遺伝子の1つによってコードされたタンパク質のアミノ酸配列を特異的に識別する抗体フラグメントの例である。
【0170】
「アプタマー」は当業者にはよく知られている。アプタマーはヌクレオチド、特にリボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチド、又は標的、特にタンパク質標的に特異的に結合できるペプチド様の化合物である。ヌクレオチド様のアプタマー及びその生産物は、特にEllington et al.(1990)Nature 346:818-22及びBock et al.(1992)Nature 355:564-6に記載されている。ペプチド様のアプタマー及びその生産物は、特にHoppe-Seyler et al.(2000)J.Mol Med. 78:426-30に記載されている。
【0171】
リガンドはまた、化学合成又は遺伝子工学により得ることができる。
【0172】
一つの好ましい実施形態において、捕捉リガンドは抗体である。
【0173】
本明細書で上に記載した遺伝子の1つによってコードされたタンパク質のアミノ酸配列に対する抗体は市販されている。
【0174】
例えば、TUBB3によってコードされたタンパク質に対する抗体は、サーモフィッシャー又はインビトロジェンから入手できるβ-3チューブリン抗体(2G10)MA1-118である。
【0175】
例えば、HMGA2によってコードされたタンパク質に対する抗体は、例えばインビトロジェンから入手できるHMGA2抗体PA5-25276である。
【0176】
例えば、HMGN1によってコードされたタンパク質に対する抗体は、例えばアブカムから入手できるHMGN1抗体ab5212である。
【0177】
本発明の文脈における「少なくとも1つの捕捉リガンド」は、1つの捕捉リガンド、2つの捕捉リガンド、3つの捕捉リガンド、4つの捕捉リガンド、5つの捕捉リガンド、6つのさらなる捕捉リガンド、7つの捕捉リガンド、8つの捕捉リガンド、9つの捕捉リガンド、又は10の捕捉リガンド、好ましくは1つの捕捉リガンド、2つの捕捉リガンド、3つの捕捉リガンド、4つの捕捉リガンドのことを言う。
【0178】
「少なくとも1つのさらなるタンパク質」は、本明細書において上記で定義している。
【0179】
特定の一実施形態において、キットは、
TUBB3、HMGA2及びHMGN1、好ましくはTUBB3及びHMGA2、より好ましくはTUBB3からなる群から選択される遺伝子によってコードされた第1のタンパク質の発現レベルを判定するための少なくとも1つの捕捉リガンド、並びに
HMGN1、HIST1H2BK、PPFIA2、COX5A、MT1E、HMGN2、EEA1、CDV3、ZC3H11A、HMGA1、PTMA、SERBP1、PDAP1、TMSB10、PSMD9、CALM1、MT1G、TPM4、SPRR1B、GBF1、HDGF、HSPE1、DBI、TRIM6、PTMS、IMUP、SH3BGRL3、RPS28、STMN1、AHSG、PFDN6、SUMO2、PFDN2、NEB、HMGB1、TMSB4X、CLTB、MYH11、SRSF7、TUBB3、HMGA2、ATP6V1A、SQRDL、IDH3A、PFKP、PRDX3、RPS13、PDIA4、GSTO1、GSTP1、ACTR3、SLC2A1、CCT5、PSMB2、PLS3、PSMD2、IGHG4、及びRPL13からなる遺伝子の群から選択される遺伝子によってコードされた少なくとも1つのさらなるタンパク質の発現レベルを判定するための少なくとも1つの捕捉リガンド
を含む。
特定のいくつかの実施形態において、キットは、
TUBB3によってコードされた1つのさらなるタンパク質の発現レベルを判定するための少なくとも1つの捕捉リガンド、
HMGA2によってコードされた1つのさらなるタンパク質の発現レベルを判定するための少なくとも1つの捕捉リガンド、及び/又は
HMGN1によってコードされた1つのさらなるタンパク質の発現レベルを判定するための少なくとも1つの捕捉リガンド
を含む。
【0180】
一実施形態において、捕捉リガンドは固相に固定される。
【0181】
固相の非限定例として、デンマークのヌンクから販売されているものなどのマイクロプレート、特にポリスチレンマイクロプレートを用いることができる。ディナル、メルク-ユーロラボ(フランス)(EstaporTMという商標)及びポリマー・ラボラトリーで製造されたものなどの固形の粒子又はビーズ、常磁性ビーズ、又は平らなポリスチレン又はポリプロピレン試験管、ガラス、プラスチック又はシリコンチップなどもまた用いてもよい。
【0182】
一実施形態において、これらのキットは、例えば試薬及び/又は説明書などの他の要素を追加的に含んでもよい。
【0183】
本出願全体を通して、「及び/又は」という用語は、接続する事例の1つ又は複数が起こり得ることを包含すると解釈されるべき文法上の接続詞である。例えば、「「判定する」という用語は定性的及び/又は定量的検出を含む」という語句における「定性的及び/又は定量的検出」という表現は、判定するという用語が定性的検出、又は定量的検出、又は定性的検出及び定量的検出に言及し得ることを示す。
【0184】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において用いられるように、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、内容が別途明確に指示しない限り、言及された複数の対象などの複数の言及を含む。
【0185】
本出願全体を通して、「含む」という用語は、全ての具体的に述べられた特徴及び任意の追加の特定されていない特徴を包含すると解釈されるべきである。本明細書において用
いられるように、「含む」という用語の使用は、具体的に述べられた特徴以外の特徴が存在しない(すなわち「からなる」)実施形態も開示する。
【0186】
ここで、以下の実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。本明細書で引用されている全ての文献及び特許文献は、参照により本明細書に組み込まれる。上記の説明で本発明を詳細に例示し説明しているが、実施例は、実例又は典型例であり限定的でないとみなされるべきである。
【実施例】
【0187】
実施例1
1.材料及び方法
1.1 細胞培養
初代角化細胞の単離及び培養:健康な人の承諾書を受けて、乳房の形成手術後、皮膚生検を得た。提供者は、以下、それぞれ高齢及び若年を意図する2つの年齢層に分類された60及び65歳(n=2)と27及び32歳(n=2)のヨーロッパの白人女性である(Codecoh(Conservation D’Element du Corps Humain)からの承諾番号DC-2008-444)。皮膚生検は太陽から保護され太陽にさらされていない皮膚である。ヒト初代角化細胞を25μg/mLのBPEと0.9ng/mLのEGFが補充されたKSFM培地で培養した。
【0188】
1.2 タンパク質抽出
凍結細胞ペレットを30分間、4°で、40mMのHEPES ph7.4、100mMのNaCl、1mMのEDTA、0.02%のトリトン、0.02%のデオキシコール酸ナトリウム、0.2mMのTCEP、及びロシュ製のプロテアーゼ及びフォスファターゼの阻害剤混合物(PhosSTOP)を含む溶液中で溶解した。溶解は氷上での短時間の超音波処理で達成され、溶解物は、14000rpm、20分間、4°での遠心分離により除去された。タンパク質抽出物の濃度は、BCAタンパク質定量キット(サーモフィッシャーサイエンティフィック、イリノイ州、アメリカ合衆国)を用いて判定した。
【0189】
1.3 タンパク質消化及びiTRAQ標識
製造業者の説明書に従って8プレックスセットのiTRAQ試薬(iTRAQ試薬8プレックスアプリケーションキット;エービー・サイエックス、フレーミングハム、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)でタンパク質サンプルを標識した。手短に言うと、若年提供者由来の細胞から得られたタンパク質抽出物の等量を計100μgとするためプールした。同じ手順を高齢提供者からの細胞に適用した。サンプルを37℃で1時間、20mMのTCEP(トリス-(2-カルボキシエチル)ホスフィン)で還元し、システイン残基を室温で10分間、10mMのMMTS(メタンチオスルホン酸メチル)でブロックし、続いて37℃で一晩中、1:10(トリプシン:タンパク質)の割合でトリプシン(プロメガ)消化を行った。それぞれのペプチド溶液を1つのiTRAQ試薬で標識した:iTRAQレポーターイオンのm/zは若年者が113.1、高齢者が117.1であった。iTRAQ標識は全ての反応に対して検証され、OFFGELペプチド分画の前にサンプルを1:1の割合でプールし真空遠心分離で乾燥した。
【0190】
1.4 ペプチドOFFGEL等電点電気泳動法
製造業者の説明書の通り、pIに従ったペプチド分画を3100 OFFGEL分画装置及びOFFGEL Kit linear pH3-10(アジレント・テクノロジー)で24ウェルの構成で行った。24のフラクションの分離のために3~10までの直線的なpH勾配を有する24cmの長さのIPGゲル片を用いて装置を構成した。iTRAQで標識したペプチド混合物を真空遠心分離で乾燥し、24のウェルそれぞれへのローディング前にfocusing OFFGEL緩衝液で再懸濁した。50kVhに達するま
でペプチドを50μAの定電流で泳動した。分画完了後、ペプチドサンプルを各ウェルから回収し、真空濃縮器内で乾燥した後、C18ZipTips(ミリポア、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国)を用いて脱塩した。
【0191】
1.5 逆相ナノ液体クロマトグラフィー
Chromeleon v. 6.80ソフトウェア(ダイオネクス/サーモサイエンティフィック/LCパッキング、アムステルダム、オランダ)により制御され、μCarrier 2.0ソフトウェア(ダイオネクス/サーモサイエンティフィック/LCパッキング、アムステルダム、オランダ)により制御されたPROBOT MALDIスポッティング装置と連動したUltimate 3000 C18逆相ナノ液体クロマトグラフィー(RP-nanoLC)システム(Ultimate 3000、ダイオネクス/サーモサイエンティフィック)でさらなるペプチド分離を行った。
【0192】
流速20μL/分で5分間、2%ACN及び0.05%TFAを流したナノトラップカラム(C18、3μm、細孔径100Å;LCパッキング)への注入前に、真空乾燥させたフラクションを緩衝液A(98%水、2%ACN、及び0.05%TFA)で再懸濁した。その後、流速0.3μL/分で緩衝液A(2%ACN及び0.05%TFA)及び緩衝液B(80%ACN及び0.04%TFA)のバイナリ勾配を有する逆相クロマトグラフィー(Acclaim PepMap300 75μm、15cm、nanoViper C18、3μm、細孔径100Å;サーモサイエンティフィック)により、捕捉されたペプチドを分離した。分離操作を全体で60分間続け、ナノLC勾配を次のように構成した:5~35分、8~42%B;35~40分、42~58%B、40~50分、58~90%B、及び50~60分、90%B。溶出した溶液からのフラクションを回収し、15秒ごとに1スポットの頻度でMALDIサンプルプレート(エービー・サイエックス、レ・ジュリス、フランス)にスポットした。α-シアノ-4-ヒドロキシ-桂皮酸マトリクス(HCCA、70%ACN及び0.1%TFA中2mg/mL)を流速0.9μL/分で連続してカラム溶出液に添加したことで、MALDIサンプルプレートの各スポットになじませた。
【0193】
1.6 MALDI-TOF/TOF分析
ナノLC-オフラインスポットしたペプチドサンプルのMS及びMS/MS分析を4000 Series Explorerソフトウェア v. 3.5により制御された4800 MALDI-TOF/TOF Analyzer(エービー・サイエックス、レ・ジュリス、フランス)を用いて行った。質量分析計をポジティブリフレクターモードで操作した。各スペクトルをPeptide Calibration Standard
II(ブルカー・ダルトニクス、ブレーメン、ドイツ)を用いて外部較正し、ペプチド質量公差を50ppmに設定した。MSスペクトルはm/z700~4000の範囲で得た。MS/MS分析のために、40より高いS/N(信号/雑音)比を特徴とするスポット位置ごとに30までの最も強いイオンが選択された。これらのペプチドの配列を判定しそれらを定量化するのに必要な対応するMS/MSスペクトルを得るためにCID(衝突誘起解離)活性化モードを用いて選択されたイオンを断片化した。
【0194】
1.7 iTRAQデータの分析
同定及び相対定量のために、Paragon(商標)アルゴリズムを有するProteinPilot(商標)ソフトウェア v 4.0(エービー・サイエックス、レ・ジュリス、フランス)及びMascotを用いることでMS及びMS/MSスペクトルを用いた。分析はUniProtKB release 2015_06-June, 2015のヒトデータベース/Swiss-Prot(欧州バイオインフォマティクス研究所、ヒンクストン、イギリス)で行った。ProteinPilot検索に関しては、search effortを「Thorough ID」に設定し、1%の偽発見率分析(F
DR)を適用した。定量化のため、バイアス及びバックグラウンド補正を適用し、ペプチド信頼度が95%の少なくとも1つのペプチドを有する定量化されたタンパク質のみを含めた。Mascot検索に対しては、FDRを1%より低く設定し、30より高いスコアを有するペプチドのみを考慮した。ProteinPilot及びMascot分析の後、データをペプチドレベルで併合した。定量的分析での高い品質を得るために、発明者らはデータをタンパク質/ペプチド調節の統計的有意性の判定を可能にするRパッケージアイソバー(Breitwieser et al., 2011, J. Proteome Res. 10, 2758-2766)で分析した。ノーマルフィットを用い、その後、p値比及びp値サンプル<0.05の比を有するタンパク質のみを年齢によって有意に異なって発現したものとみなした。我々の定量的iTRAQの結果の出力には、タンパク質の相対的定量化比を表すために全てのタンパク質比を若年者分の高齢者(117:113)として表した。質量データ分析に適用されたパラメータの要約を本明細書において下記の表1に示す。
【0195】
【0196】
1.8 遺伝子オントロジー及び経路分析
PANTHER(http://www.pantherdb.org/)(Mi et al., 2013, Nucleic Acids Res. 41, D377-D386)を用いて異常調節されたタンパク質のリストを取り込むことにより遺伝子オントロジー及び経路分析を行い、タンパク質をPANTHERファミリー;タンパク質クラス;GO-Slim分子機能、生物学的プロセス、及び細胞の構成要素、及び経路に関する1つ又はいくつかのカテゴリーに分類した(データ示さず)。
【0197】
1.9 ウエスタンブロット分析
8人の若年提供者(年齢:18;21;24;26;27(2人の提供者);30;32)及び10人の高齢提供者(57;59;60;62(2人);65(2人);66;68;71)の皮膚生検からヒト初代角化細胞を採取し培養した。初期継代(2回又は3回、細胞がまだ増殖型である時)で、プロテアーゼ阻害剤(Complete Miniプロテアーゼ阻害剤混合物、ロシュ、スイス)、1mMのDTT、及び100μMのPMSFを含むRIPA緩衝液(シグマアルドリッチ)内で振とうすることにより細胞を溶解した。その後、サンプルを15分間、14000rpmで遠心分離し、上清を回収した。MicroBC Assay(インターチム)でタンパク質濃度を判定し、20μgの総タンパク質をTGX Stain-Free(商標)FastCast(商標)12%アクリルアミドゲル(バイオラッド)にロードした。タンパク質をTrans-Blot(登録商標)Turbo(商標)転写システム(バイオラッド)を用いてニトロセルロース膜上に移した。5%の無脂肪乳を含むTBS-Tween0.5%で膜をブロックした。一次抗体を5%の無脂肪乳を含むTBS-Tween0.5%内、一晩中4℃で以下の希釈:チューブリンβ-3鎖抗体(MA1-118;サーモサイエンティフィック)に対し1/1000及びコーニフィン-B抗体(PA5-26062;サーモサイエンティフィック)に対し1/1000、でインキュベートした。TBS-Tween0.5%で洗浄後、膜を1時間室温でHRP結合二次抗体(アマシャムECL抗マウス及び抗ウサギIgG HRP結合、全抗体、GEヘルスケア)でインキュベートした。その後、膜をTBS-Tween0.5%で洗浄し、ブロットの画像をMolecular Imager Gel Doc XR+及びChemidoc XRS+システム(バイオラッド)上で得た。特定の検出されたバンドをImage LAb 2.0ソフトウェア(バイオラッド)で定量化し、対応する強度を総タンパク質含有量で正規化し、比として表した。
【0198】
TUBB3及びHMGA2のウエスタンブロットの結果をボックスプロットで示し、受信者動作特性曲線(ROC曲線)をGraphPad Prism version 7.00 for Windows、(グラフパッドソフトウェア、ラホヤ、カリフォルニア州、アメリカ合衆国、www.graphpad.com)を用いることにより作成した。
【0199】
2.結果
2.1 プロテオミクス分析による年齢状況により異なって発現した58のタンパク質の同定
高齢及び若年提供者由来の角化細胞の定量的なプロテオミクスマップを得るため、前に述べたようにOFFGEL分画及びオフラインナノLC/MS/MSと併用したiTRAQ標識を用いた(Martin-Bernabe et al., 2014, J. Proteome Res. 13, 4695-470)。ProteinPilot及びMascotを用いた生物情報分析では、1%のFDRを用い、信頼度が≧95%及びスコアが>30の少なくとも1つのペプチドを有するタンパク質のみを考慮して、517の固有のタンパク質の同定という結果となった。アイソバーパッケージと定量化された446のタンパク質を用いた統計的分析が行われた。高齢者の細胞をiTRAQm/z117タグで標識し、若年者の細胞をiTRAQm/z113タグで標識した。したがって、比117:113(高齢者:若年者)は、高齢者と若年者の細胞サンプル間のタンパク質の相対存在度を示している。UniProtKBアクセッション番号、ID、タンパク質及び遺伝子の名前、ペプチド数、スペクトル数、配列包括度、高齢者の細胞対若年者の細胞に対するiTRAQ比、p値比、及びp値サンプルを含む、同定されたタンパク質を網羅したリストを捕捉データに提供する(データ示さず)。
【0200】
p値比及びp値サンプルがいずれも<0.05の場合、タンパク質を有意に異なって発現したものとみなした。これらの基準を適用し、有意に異なって発現した58のタンパク質を年齢状況により同定した。これらから、加齢とともに40が下方調節され18が上方
調節された(表2及び表3)。
【0201】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【表3-5】
【0202】
【0203】
2.2 遺伝子オントロジー分析
すでに同定された58のタンパク質をPANTHER(Mi et al., 2013, Nucleic Acids Res. 41, D377-D386)を用いて分析し、以下の遺伝子オントロジー及びPANTHERのカテゴリー:タンパク質ファミリー;タンパク質クラス;分子機能;生物学的プロセス;細胞の構成要素及び経路に分類した(データ示さず)。主に代表的な生物学的プロセスのカテゴリーは、代謝(30%)、細胞プロセス(21%)、細胞の構成要素の組織化及び生物学的調節(10%)、局在化及び発達プロセス(8%)、刺激に対する反応(4%)、多細胞生物プロセス及び免疫システムプロセス(3%)、及び生物学的接着(1%)である。タンパク質クラスに関しては、異常調節されたタンパク質は主に以下のタンパク質クラス:核酸結合(25%)、細胞骨格タンパク質(13%)、酵素調節因子(12%)、酸化還元酵素及びシグナル伝達分子(8%)、シャペロン(6%)、トランスフェラーゼ及び転写因子(4%)、細胞外基質タンパク質、加水分解酵素、キャリアタンパク質、膜輸送タンパク質、細胞間結合タンパク質、キナーゼ、イソメラーゼ及び受容体(2%)に属する(グラフ表示せず)。
【0204】
2.3 プロテオミクス分析を有効にする候補タンパク質のウエスタンブロット分析
個人間変動を排除しより多くの提供者のプロテオミクスの結果を有効にするため、同じ提供者のみならずさらに10人の他の提供者からのヒト初代角化細胞で、対象の2つの候補タンパク質をウエスタンブロットによりさらに分析した。プロテオミクスの実験により得られた対応する比を有する選択されたタンパク質は、比が2.6のチューブリンβ-3鎖(TBB3_HUMAN)及び比が0.52の高移動度グループタンパク質HMGI-C(HMGA2_HUMAN)である。ウエスタンブロットの画像及び定量化の結果はそれぞれ
図2及び
図4に示す。
【0205】
3.考察
皮膚の老化は、定量的プロテオミクスなどの新たな技術的アプローチを用いて解明することのできる多元的な原因を持つ複雑なプロセスである。若年及び高齢提供者からのヒト初代角化細胞プロテオームにおける変化を同定し定量化するため、iTRAQ-MALDI-TOF/TOF MS及びMS/MS分析を行った。517のタンパク質が、コーニフィン-Bや角化細胞の活性化、増殖、及び角質化に関連するケラチン-2eなどの角化細胞で主に見られるタンパク質を含むと同定された(Collin et al., 1992, Exp. Cell Res. 202, 132-141)。ロバスト統計的分析を適用した後、58のタンパク質が年齢状況により有意に異なって発現したことが分かり、そのうち加齢とともに40が下方調節され18が上方調節された。
【0206】
発明者らは、女性における遺伝子発現の研究(Makrantonaki et al., 2012, PLoS ONE 7)からの以前の結果と一致して、加齢とともに上方調節(18)よりも多くのタンパク質が下方調節(40)されることに気付いた。発現が年齢によって影響を受けるタンパク質の大半は代謝(30%)及び核酸結合(25%)に関与する。同様の結果が以前のトランスクリプトミクス研究で観察されてきた(Lener et al., 2006, Exp. Gerontol. 41, 387-397)。
【0207】
本研究において、女性の表皮(Raddatz et al., 2013, Epigenetics Chromatin 6, 36)及び皮膚生検(McGrath et al., 2012, Br. J. Dermatol. 166 Suppl
2, 9-15)を用いた2つのトランスクリプトミクス研究において以前に報告されたように、コーニフィン-Bが加齢とともに下方調節されることが分かってきた。コーニフィン-Bは角化細胞の分化のマーカーであり(Tesfaigzi and Carlson, 1999, Cell Biochem. Biophys. 30, 243-265)、加齢に伴う角化細胞の分化の下方調節はすでに観察されている(Radd
atz et al., 2013, Epigenetics Chromatin 6, 36)。
【0208】
我々の研究では、ペルオキシレドキシン3(PrxIII)、チオレドキシン(Trx)ペルオキシダーゼの抗酸化物質ファミリーのミトコンドリアメンバー、は加齢とともに上方調節されることが分かっている。以前の報告において、2つの他のファミリーメンバー、ペルオキシレドキシン1及び2もまた上方調節されている(Laimer et al., 2010, Exp. Dermatol. 19, 912-918)。ペルオキシレドキシンは重要な細胞抗酸化物質であり、実際に過酸化水素及び有機ヒドロペルオキシドスカベンジャーとして働く(Nystrom et al., 2012, Genes Dev. 26, 2001-2008)。加齢とともに活性酸素種(ROC)の生産が増加し、抗酸化活性が減少し、どちらも経時的老化の要因となることは確立されている(Poljsak et al., 2012, Acta Dermatovenerol. Alp. Pannonica Adriat. 21, 33-36)。酸化的ストレス条件において、PrxIIIは過酸化しそれに続く不可逆的失活を受ける。そしてラットにおいては、この修飾PrxIIIフォームが加齢とともに蓄積することが示されてきた(Musicco et al., 2009)。本分析において、スルホン酸に過酸化したシステインを含むペプチドは同定されておらず、したがって、2つのフォームは判別されていないため、その結果なぜタンパク質の全体的な上方調節が観察されたのかを説明する。
【0209】
我々の研究では、6-ホスホフルクトキナーゼ、血小板型(PFKAP_HUMAN)が加齢とともに上方調節されている。この酵素は、解糖の最初の関与工程であるATPによるフルクトース1、6-ビスリン酸へのD-フルクトース6-リン酸のリン酸化反応を触媒する。高齢提供者由来のヒト初代角化細胞が、解糖の増加に向かう代謝の変化の指標であるより高いグルコースの取り込み及び乳酸産生の増加を示すことが示されてきた(Prahl et al., 2008, BioFactors Oxf. Engl.
32, 245-255)。よって、観察されたPFKAPの上方調節は初代角化細胞における解糖の増加と関連している。
【0210】
我々の結果を皮膚の老化のバイオマーカーの同定を目的とする他の研究と比較すると、皮膚サンプルの異なるタイプ/起源、性、ワークフロー全体にわたるサンプル処理の違い、及びmRNAとタンパク質発現レベルの間の可変相関により説明できるいくつかの相違点を示す(Schwanhausser et al., 2011, Nature 473, 337-342)。
【0211】
加齢とともに異なったタンパク質の特徴を定義すると、たとえこれらの変化が起因となるとしても、適応又は代償的事象は皮膚の老化の我々のさらなる知識に不可欠である。この研究は、皮膚の老化の生物学をより理解し、皮膚の老化及び関連する病理学を診断し、予防し、処置するのに役立てることのできる新たな特定の標的を同定するための新たな努力をもたらす。
【0212】
実施例2
上記の実施例1に開示した方法を用い、発明者らは、本発明のマーカーの組み合わせを用いた場合に得られた感度及び特異性の改善をさらに証明した。
【0213】
図5A、B、及びCは、それぞれβ-チューブリン、HMGA2、及びHMGN1に対し、それぞれ0.806、0.939、及び0.592の曲線下面積を示す。
【0214】
しかしながら、
図6に示すように、β-チューブリン、HMGA2、及びHMGN1を
組み合わせて用いた場合、1の曲線下面積に対応する100%の感度及び特異性を達成することができる。そのような感度及び特異性を得るために用いられるモデル方程式は以下の通りであった。
予測=83.76-(992.91×チューブリン)-(4936.61×HMGA2)+(273.40×HMGN1)