IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社パイオラックスの特許一覧

<>
  • 特許-弁装置 図1
  • 特許-弁装置 図2
  • 特許-弁装置 図3
  • 特許-弁装置 図4
  • 特許-弁装置 図5
  • 特許-弁装置 図6
  • 特許-弁装置 図7
  • 特許-弁装置 図8
  • 特許-弁装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】弁装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 37/00 20060101AFI20220802BHJP
【FI】
F02M37/00 311K
F02M37/00 301E
F02M37/00 311A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018073442
(22)【出願日】2018-04-05
(65)【公開番号】P2019183707
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000124096
【氏名又は名称】株式会社パイオラックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(72)【発明者】
【氏名】落合 祐介
(72)【発明者】
【氏名】古谷 仁
【審査官】稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-028213(JP,A)
【文献】特開2004-353518(JP,A)
【文献】特開2010-143498(JP,A)
【文献】特開2017-106525(JP,A)
【文献】特開平9-317933(JP,A)
【文献】特許第3953916(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 37/00
B60K 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1弁孔が形成された仕切壁を上方に有し、該仕切壁の下方に燃料タンクに連通する弁室を設けたケースと、
該ケースの上方に取付けられて、前記仕切壁との間に通気室を設けるカバーと、
前記カバー又は前記ケースに設けられ、前記通気室に連通する燃料蒸気配管と、
前記弁室に昇降可能に収容され、前記第1弁孔を開閉するフロート弁とを有し、
前記ケースに連設されて、前記通気室内であって前記仕切壁の上方において、前記第1弁孔に対向するように配置された衝突壁部を有しており、
前記カバーは天井壁を有しており、前記衝突壁部は、前記天井壁の下方に所定隙間をあけて離間して配置されており、
前記仕切壁の、前記衝突壁部側の面には、前記第1弁孔の周囲を少なくとも部分的に囲むリブが設けられており、
前記衝突壁部と、前記リブの上端との間隔は、前記所定隙間よりも大きいことを特徴とする弁装置。
【請求項2】
第1弁孔が形成された仕切壁を上方に有し、該仕切壁の下方に燃料タンクに連通する弁室を設けたケースと、
該ケースの上方に取付けられて、前記仕切壁との間に通気室を設けるカバーと、
前記カバー又は前記ケースに設けられ、前記通気室に連通する燃料蒸気配管と、
前記弁室に昇降可能に収容され、前記第1弁孔を開閉するフロート弁とを有し、
前記ケースに連設されて、前記通気室内であって前記仕切壁の上方において、前記第1弁孔に対向するように配置された衝突壁部を有しており、
前記仕切壁の、前記衝突壁部側の面には、前記第1弁孔の周囲を少なくとも部分的に囲むリブが設けられており、
前記衝突壁部には、前記仕切壁との対向面から下方に延び、かつ、前記リブに対して軸方向に重なる規制壁が、前記リブよりも前記第1弁孔に近い位置に設けられており、
前記規制壁は、前記燃料蒸気配管側が開口した、半円筒状、コ枠状、又は、V字枠状をなしていることを特徴とする弁装置。
【請求項3】
前記規制壁は、前記燃料蒸気配管側が開口した、半円筒状をなしている請求項1記載の弁装置。
【請求項4】
第1弁孔が形成された仕切壁を上方に有し、該仕切壁の下方に燃料タンクに連通する弁室を設けたケースと、
該ケースの上方に取付けられて、前記仕切壁との間に通気室を設けるカバーと、
前記カバー又は前記ケースに設けられ、前記通気室に連通する燃料蒸気配管と、
前記弁室に昇降可能に収容され、前記第1弁孔を開閉するフロート弁とを有し、
前記ケースに連設されて、前記通気室内であって前記仕切壁の上方において、前記第1弁孔に対向するように配置された衝突壁部を有しており、
前記カバーは天井壁を有しており、前記衝突壁部は、前記天井壁の下方に所定隙間をあけて離間して配置されており、
前記衝突壁部は、長板状に延びており、その長手方向の先端から下方に向けて、ひさし部が設けられていることを特徴とする弁装置。
【請求項5】
第1弁孔が形成された仕切壁を上方に有し、該仕切壁の下方に燃料タンクに連通する弁室を設けたケースと、
該ケースの上方に取付けられて、前記仕切壁との間に通気室を設けるカバーと、
前記カバー又は前記ケースに設けられ、前記通気室に連通する燃料蒸気配管と、
前記弁室に昇降可能に収容され、前記第1弁孔を開閉するフロート弁とを有し、
前記ケースに連設されて、前記通気室内であって前記仕切壁の上方において、前記第1弁孔に対向するように配置された衝突壁部を有しており、
前記カバーは天井壁を有しており、前記衝突壁部は、前記天井壁の下方に所定隙間をあけて離間して配置されており、
前記衝突壁部は、長板状に延びており、その長手方向の基端側から先端側に向けて、前記仕切壁との間隔が次第に狭くなるように、傾斜した形状をなしていることを特徴とする弁装置。
【請求項6】
前記仕切壁には、前記弁室と前記通気室とを連通する第2弁孔が形成されており、
前記仕切壁の、前記通気室側には、前記第2弁孔を開閉するリリーフ弁が配置されており、
前記衝突壁部は、前記ケースと別体で設けられており、前記リリーフ弁を支持する支持部をなしている請求項1~5のいずれか1つに記載の弁装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロート弁を有し、燃料流出防止弁等として用いられる、弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、オートバイや自動車等の車両の、燃料タンクには、車両が傾いたり横転したりしたときに、燃料タンク内の燃料が、燃料タンク外へ漏れるのを防止する弁装置が取付けられている。
【0003】
この弁装置は、一般的にはハウジングとフロート弁とを有し、ハウジングは、開口を有する仕切壁によって、上方に通気室、下方に弁室が形成されており、弁室内にフロート弁が昇降可能に配置されている。そして、燃料が揺動して、フロート弁に浮力が作用すると、フロート弁が上昇して開口を閉じ、通気室側への燃料流入が規制される。しかし、車両が悪路等を走行して、燃料液面が激しく揺れたような場合には、フロート弁が上昇して開口を閉じる前に、燃料が開口から勢いよく噴出して通気室内に流入することがあった。
【0004】
このような問題に対処するため、例えば、下記特許文献1には、上方壁部にエバポ開口を形成したアッパケースと、該アッパケース上方に装着されて、通気室を画成すると共に、側方からニップルが延出したカバーと、アッパケース下方に装着された筒体と、アッパケース内に昇降可能に配置され、エバポ開口を開閉するフロート弁とを備えた、燃料流出規制装置が記載されている。カバーの天井壁内面からは、エバポ開口に向かって、筒状の液受け部が突設されている。そして、燃料液面が激しく上下動して、エバポ開口から燃料が噴出すると、燃料が液受け部に衝突して落下するため、ニップル側への燃料侵入が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3953916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の装置の場合、エバポ開口から噴出した燃料の拡散を抑制すべく、燃料が液受け部に衝突するタイミングを早めようとした場合、液受け部を設けた、カバーの天井壁を下げる必要がある。この場合、通気室の容積が減少してしまって、燃料タンク内の燃料蒸気を流通させにくくなり、燃料タンク内と燃料タンク外との空気の流通等に支障が生じる可能性がある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、通気室の容積を維持しつつ、ケースの弁孔から通気室内に流入する燃料に衝突させやすくして拡散を抑制することができる、弁装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の弁装置は、第1弁孔が形成された仕切壁を上方に有し、該仕切壁の下方に燃料タンクに連通する弁室を設けたケースと、該ケースの上方に取付けられて、前記仕切壁との間に通気室を設けるカバーと、前記カバー又は前記ケースに設けられ、前記通気室に連通する燃料蒸気配管と、前記弁室に昇降可能に収容され、前記第1弁孔を開閉するフロート弁とを有し、前記ケースに連設されて、前記通気室内であって前記仕切壁の上方において、前記第1弁孔に対向するように配置された衝突壁部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、通気室内であって仕切壁上方において、第1弁孔に対向するように配置された衝突壁部を有するので、燃料タンク内での燃料の揺動等によって、燃料が第1弁孔から通気室側へ流入しても、該燃料を衝突壁部に衝突させて周囲に拡散するのを抑制して、燃料蒸気配管に燃料が入り込むことを抑制できる。また、衝突壁部は、カバー側に設けられたものではなく、仕切壁上方において第1弁孔に対向するようにケースに連設されているので、通気室の天井壁を下げることなく、第1弁孔に近い位置に衝突壁部を設けることができ、その結果、通気室の容積を確保しながら、第1弁孔からの通気室側への燃料流入を効果的に抑制できる、弁装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る弁装置の、一実施形態を示す分解斜視図である。
図2】同弁装置を構成する衝突壁部を示しており、(a)はその斜視図、(b)は(a)とは異なる方向から見た場合の斜視図である。
図3】同弁装置を構成するケースに、衝突壁部を組付けた状態を示す斜視図である。
図4】同弁装置において、フロート弁が下降して第1弁孔が開いた状態の断面図である。
図5】同弁装置において、フロート弁が上昇して第1弁孔が閉じた状態の断面図である。
図6】本発明に係る弁装置の、他の実施形態を示しており、その断面図である。
図7】同弁装置を構成する衝突壁部の斜視図である。
図8】本発明に係る弁装置の、更に他の実施形態を示しており、その断面図である。
図9】弁装置の揺動試験を示しており、(a)は燃料液面が水平状態の場合の説明図、(b)は燃料タンクを燃料液面に対して42°傾けた場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図1~5を参照して、本発明に係る弁装置の一実施形態について説明する。なお、以下の説明において、「燃料」とは、液体の燃料(燃料の飛沫も含む)を意味し、「燃料蒸気」とは、蒸発した燃料を意味するものとする。
【0012】
図1及び図4に示すように、この実施形態における弁装置10は、第1弁孔27が形成された仕切壁23を上方に有し、下方が開口した略筒状をなしたケース本体20と、このケース本体20の下方に装着されるキャップ40とからなる、ケース15を有している。このケース15の上方には、燃料蒸気配管57が設けられたカバー50が取付けられるようになっている。更に図1図4に示すように、この弁装置10は、ケース15の弁室Vに昇降可能に収容されるフロート弁60と、ケース15に連設されて、通気室R内であって仕切壁23の上方において、第1弁孔27に対向するように配置された、衝突壁部70とを有している。
【0013】
前記ケース本体20は、略円筒状をなした周壁21を有しており、その上方に仕切壁23が配置されている。前記周壁21には、複数の通気孔21aが形成されている共に、下方に係止孔21bが形成されている。また、周壁21の上方には、係止突部21cが突設されている。更に前記キャップ40は、複数の通口41を有していると共に、その外周に複数の係止爪43が形成されている。
【0014】
したがって、キャップ40の係止爪43をケース本体20の係止孔21bに係止させることで、図3図4に示すように、ケース本体20の下方にキャップ40が装着されると共に、仕切壁23を介して、ケース下方側に燃料タンク1に連通する弁室V(図4参照)が形成される。なお、ケース本体20の上方にカバー50が取付けられることで、仕切壁23を介して、ケース上方側に通気室R(図4参照)が形成されるようになっている。
【0015】
また、上記弁室V内には、フロート弁60が、前記キャップ40との間に、第1スプリング63を介在させた状態で、昇降可能に配置されるようになっている。このフロート弁60の上面中央からは、先端を平面カットしたような略円錐状をなした弁頭61が突設されている。そして、このフロート弁60は、燃料浸漬時に自身の浮力及び第1スプリング63の付勢力で上昇し、燃料の非浸漬時に自重で下降するようになっている。
【0016】
ケース本体20の説明に戻ると、図4に示すように、この実施形態の仕切壁23は、周壁21の上方開口部の内周に設けられ、中央に円形孔24aを形成した底壁24と、該底壁24の、円形孔24aの表側周縁から立設した筒状壁25と、該筒状壁25の上端内周に設けられた上壁26とから構成されている。
【0017】
前記上壁26の中央に、前記筒状壁25の内部空間に連通する第1弁孔27が形成されており、この第1弁孔27の下面周縁に弁座27aが突設されている。この弁座27aにフロート弁60の弁頭61が接離して、第1弁孔27が開閉される(図4及び図5参照)。また、第1弁孔27を通して、ケース15内の弁室Vと通気室Rとが連通されている。また、図4に示すように、上壁26の上面は、外周縁部が高く、径方向中央に向って次第に低くなる、すり鉢状をなしている。
【0018】
なお、この実施形態における仕切壁は、その中央部が筒状に隆起した形状となっているが(筒状壁25参照)、例えば、ケース本体20の上方開口周縁に配置された円板状としたり、周壁21の軸方向途中に配置された円板状としたりしてもよく、その形状や位置等は特に限定されるものではない。
【0019】
更に、仕切壁23を構成する上壁26の周縁からは、前記第1弁孔27の周囲の全周を囲むように、円筒状をなしたリブ29が所定高さで立設されている。図3図4に示すように、このリブ29の内側には、衝突壁部70の後述する規制壁77が配置されるようになっている。なお、この実施形態のリブ29は、第1弁孔27の全周を囲む円筒状をなしているが、リブとしては、例えば、その周方向の一部を切り欠いたような形状としてもよく、仕切壁の、衝突壁部70側の面に設けられ、第1弁孔27の周囲を少なくとも部分的に囲むことが可能な形状であればよい。
【0020】
また、仕切壁23を構成する底壁24の、衝突壁部70側の面であって、前記筒状壁25の外周には、同筒状壁25に対して同心状をなした環状壁30が、筒状壁25よりも短い長さで立設されている。この環状壁30を設けたことによって、底壁24と環状壁30と筒状壁25との間に、上方が開口した環状枠形をなした、燃料貯留空間31が形成されるようになっている。
【0021】
更に図4に示すように、底壁24の、燃料貯留空間31が位置する所定箇所には、円形状をなした第2弁孔32が形成されている。この第2弁孔32は、通気室R内に位置する燃料貯留空間31と、弁室Vとを連通させるものとなっている。また、第2弁孔32の、通気室R側の内周面は、テーパ状の弁座32aをなしている。この弁座32aに、金属製のボール状をなした、リリーフ弁65が接離して、第2弁孔32が開閉されるようになっている。
【0022】
なお、図4図5に示すように、このリリーフ弁65は、第2スプリング67によって上方から押されて、第2弁孔32を閉じる方向に付勢されている。そして、車両の走行等によって、燃料タンク1内における燃料蒸気の圧力が上昇したときに、第2スプリング67の付勢力に抗して、リリーフ弁65が押し上げられて弁座32aから離れて第2弁孔32を開くことで(図5の二点鎖線参照)、燃料蒸気を通気室R側に逃がすようになっている。
【0023】
更に、リリーフ弁65は金属製であり、ケース15は樹脂製で弁座32aも樹脂製で形成され、リリーフ弁65が弁座32aに当接した状態でも、両者間に微小な隙間が生じるように構成されている。そのため、リリーフ弁65が第2弁孔32を閉じた状態においても、第2弁孔32を通じて、通気室R内の空気を弁室V内へ流入可能となっている。なお、この実施形態のリリーフ弁65は球形のボール状をなしているが、板状等をなしていてもよく、特に限定はされない。
【0024】
また、図1に示すように、底壁24の燃料貯留空間31内には、前記第2弁孔32の周方向両側から、角柱状をなした一対の衝突壁支持部34,34が立設されていると共に、前記筒状壁25の周方向両側から、略円柱状をなした一対の衝突壁固定部35,35が立設されている。一対の衝突壁支持部34,34は、衝突壁部70の基端側両側部を支持する部分であり、また、一対の衝突壁固定部35,35は、衝突壁部70の後述する一対の固定アーム75,75を固定する部分である。
【0025】
更に図1図4に示すように、周壁21の上方周縁からは、環状凸状をなした取付部36が設けられており、この取付部36の内周と、仕切壁23の環状壁30の内周との間に、環状凹状をなした凹部37が形成されている。
【0026】
次に、カバー50について説明する。図1に示すように、この実施形態のカバー50は、円筒状をなした周壁51と、該周壁51の上方を閉塞する天井壁53と、周壁51の下方周縁からフランジ状に広がってなる取付部54とを有しており、全体として略ハット状をなしている。また、取付部54の下面側からは、ケース本体20の係止突部21cに係止する、枠状の係止片55が垂設されている。更に図4に示すように、取付部54の内面には、ケース本体20側の凹部37に挿入される、環状凸状をなした凸部56が突設されている。なお、取付部54の下面側周縁部を、燃料タンク1の開口部1aの表側周縁に接着や溶着等によって固着することによって、燃料タンク1に弁装置10が取付けられるようになっている(図4参照)。
【0027】
また、図4に示すように、周壁51の周方向所定箇所には、通気室Rに連通する円形状の通気孔57aが形成されており、この通気孔57aの外周縁部から、略円筒状をなした燃料蒸気配管57が所定長さで延設されている。この燃料蒸気配管57には、燃料タンク1の外部に配置されるキャニスター等に連通する、図示しないチューブが接続される。
【0028】
そして、図4に示すように、ケース本体20の環状壁30の外周にシールリング58を装着した状態で、カバー50の凸部56をケース本体20の凹部37に挿入して、シールリング58を挟持すると共に、枠状の係止片55を、ケース本体20の係止突部21cに係止させることで、仕切壁23との間に通気室Rが形成されるように、ケース本体20の上方にカバー50が取付けられるようになっている。この際、ケース本体20に設けた第2弁孔32に対して、通気孔57a及び燃料蒸気配管57が、ケース15の周方向反対側に位置するように、ケース本体20にカバー50が取付けられている(図4及び図5参照)。
【0029】
なお、この実施形態においては、カバー50が、通気室Rを形成するために、中央部が隆起した略ハット状をなしており、同カバー50側に燃料蒸気配管57が設けられているが、例えば、通気室Rを形成するための壁部をケース15側に設けて、カバーを単なる板状形状として、ケース側に燃料蒸気配管を設けてもよい。すなわち、燃料蒸気配管は、カバー又はケースのいずれに設けてもよい。
【0030】
次に、衝突壁部70について説明する。この実施形態における衝突壁部70は、ケース15とは別体の別部材となっており、かつ、カバー50とも別体の別部材となっており、また、図2(A),(B)に示すように、略長方形の長板状をなしている。
【0031】
更に衝突壁部70の、長手方向基端側の両側部からは、衝突壁部70の面方向に対して直交する、突部73,73が所定長さで延設されている。各突部73の延出方向先端からは、衝突壁部70の長手方向先端側に向けて、かつ、衝突壁部70の面方向と平行になるように、固定アーム75がそれぞれ延設されている。各固定アーム75は、基端側が幅狭で先端側に向けて次第に幅広となる形状をなしており、先端側には、円形状の固定孔75aが形成されている。
【0032】
そして、一対の固定アーム75,75の固定孔75a,75aに、ケース本体20に設けた一対の衝突壁固定部35,35の先端部35a,35aを挿入することで、ケース本体20に対して衝突壁部70が位置決め及び回り止めされると共に、ケース本体20に設けた一対の衝突壁支持部34,34の上端面が、衝突壁部70の、ケース15の仕切壁23との対向面71(以下、単に「対向面71」ともいう)であって、その長手方向基端側に当接することで、衝突壁部70が支持される。この状態で、固定アーム75の固定孔75a内に挿入された衝突壁固定部35の先端部35aを、溶着したり接着したりすることで、図3に示すように、ケース本体20に衝突壁部70が固定されて、衝突壁部70がケース15に連設されることとなる。
【0033】
上記構造をなした衝突壁部70がケース15に連設された状態で、同衝突壁部70は、図4図5に示すように、ケース15及びカバー50により画成された通気室R内であって、ケース15に設けた仕切壁23の上方において、第1弁孔27に対向するように配置されるようになっている。
【0034】
この実施形態においては、ケース15に衝突壁部70が連設された状態では、図4図5に示すように、衝突壁部70は、その面方向が、仕切壁23の底壁24に対して平行で、かつ、第1弁孔27の開口方向(ケース15の軸方向)に対して直交するように配置される。
【0035】
更に、ケース15に衝突壁部70が連設された状態においては、図4及び図5に示すように、衝突壁部70は、カバー50に設けた天井壁53に対して、その下方に所定隙間Sをあけて離間して配置されるようになっている。この実施形態では、天井壁53の内面と、衝突壁部70の、対向面71とは反対側の面とが、互いに平行となるように、衝突壁部70が配置されている。なお、前記隙間Sは、1.0mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましい。
【0036】
なお、本発明において、衝突壁部が「ケースに連設され」とは、衝突壁部がカバーとは別体であることを前提として、(1)衝突壁部がケースの別体の場合は、ケースに対して、その軸方向(上下方向)に連なった状態となるように、衝突壁部をケースに固定すること、又は、(2)衝突壁部がケースと一体の場合は、ケースに対して、その軸方向に連なった状態となるように、衝突壁部がケースに一体に形成されていること、を意味する。
【0037】
また、衝突壁部70の、ケース15の仕切壁23との対向面71であって、長手方向中央よりもやや先端寄りの位置からは、下方に向けて(すなわち、仕切壁23側に向けて)、側方及び下方が開口した半円筒状をなした規制壁77が所定長さで延設されている。具体的には、この実施形態の規制壁77は、図2(B)に示すように、衝突壁部70の面方向に対して直交して延び、かつ、衝突壁部70がケース15に連設された状態で、カバー50に設けた燃料蒸気配管57側に、開口77aを向けた半円筒状をなしている。
【0038】
更に、この規制壁77は、衝突壁部70がケース15に連設された状態、ここでは上述したように、一対の固定アーム75,75を介してケース本体20に衝突壁部70を固定した状態において、図4図5に示すように、ケース本体20の第1弁孔27を囲むリブ29に対して、軸方向に重なるように(ラップするように)、かつ、同リブ29よりも第1弁孔27に近い位置となるように配置されるようになっている。
【0039】
なお、この実施形態における規制壁77は、燃料蒸気配管57側が開口した半円筒状をなしているが(図2(B)参照)、壁部全周が連続した円筒状や角筒状としたり、コ字枠状やV字枠状としたり、更には、壁部に設けた開口を、燃料蒸気配管57に整合しない位置としたりしてもよく、少なくとも第1弁孔27を囲むリブ29に対して軸方向に重なり、かつ、同リブ29よりも第1弁孔27に近い位置に配置可能であれば、その形状に限定はない。
【0040】
また、衝突壁部70の対向面71であって、その長手方向基端側からは、円柱状をなしたリリーフ弁支持部79が、衝突壁部70の面方向に対して直交して所定長さで延びている(図2(B)参照)。図4に示すように、このリリーフ弁支持部79は、前記規制壁77よりも仕切壁23側に向けて長く延びている。
【0041】
そして、このリリーフ弁支持部79は、ボール状のリリーフ弁65を付勢する第2スプリング67の上端部内周に挿入されて、同第2スプリング67の上端部を支持して、同第2スプリング67を介してリリーフ弁65を間接的に支持するものとなっている。このように、この実施形態では、ケース15とは別体で設けられた衝突壁部70が、リリーフ弁65を支持する支持部をなしている。なお、リリーフ弁支持部を、リリーフ弁の可動範囲を損なわない程度に、リリーフ弁に近接する位置まで延出してもよく(この場合は、リリーフ弁を直接的に支持することとなる)、支持部の形状や構造に特に限定はない。
【0042】
次に、上記構成からなる本発明の弁装置10の作用効果について説明する。
【0043】
図4に示すように、燃料タンク1内の燃料液面が上昇せず、フロート弁60が燃料に浸漬されていない状態では、第1弁孔27が開いている。また、第2スプリング67によって、リリーフ弁65が付勢されて、第2弁孔32を閉じている。この状態で、車両の走行等によって、燃料タンク1内での燃料蒸気が増大してタンク内圧が高まると、燃料蒸気は、キャップ40の通口41や、ケース本体20の通気孔21aから、弁室V内に流入し、第1弁孔27を通過して、通気室R内へと流れて、燃料蒸気配管57を介して図示しないキャニスターに送られて、燃料タンク1内の圧力の上昇が抑制される。
【0044】
そして、車両が、カーブを曲がったり、凹凸のある道や坂道等を走行したり、或いは、事故によって転倒したりして、燃料タンク内の燃料が激しく揺動して燃料液面が上昇すると、第1スプリング63の付勢力及びフロート弁60自体の浮力によって、フロート弁60が上昇して、図5に示すように、弁頭61が弁座27aに当接して、第1弁孔27を閉じるので、燃料が第1弁孔27を通じて通気室R内に流入することが阻止されて、燃料タンク1の外部への燃料漏れを防止することができる。
【0045】
なお、図5に示すように、フロート弁60が上昇して第1弁孔27を閉じた状態で、なおも燃料タンク内の燃料蒸気が増大してタンク内圧が高まると、第2スプリング67の付勢力に抗して、リリーフ弁65が押し上げられて第2弁孔32を開くので(図5の二点鎖線参照)、燃料蒸気を通気室R側に逃がすことができる。
【0046】
ところで、図5に示すように、燃料揺動時にフロート弁60が上昇して、弁頭61が第1弁孔27内に入り込んで、弁座27aの内周に当接して第1弁孔27を閉じた後に、燃料液面が水平に戻ってフロート弁60に浮力が生じなくなった場合でも、フロート弁60の弁頭61が弁座27aに張り付いたような状態となって、フロート弁60が自重で下降しないことがある(スティック状態等という)。
【0047】
この際、上述したように、リリーフ弁65が第2弁孔32を閉じた状態においても、第2弁孔32を通じて、通気室R内の空気を弁室V内へ流入させることができる構造となっているので、通気室R内の空気を弁室V側に吸引でき、通気室R内の圧力を変動させることができるため、フロート弁60の弁頭61を第1弁孔27の弁座27aから引き離しやすくして、フロート弁60を下降させやすくすることができる。
【0048】
一方、上述したような理由(車両が、カーブを曲がったり、凹凸のある道や坂道等を走行したり、或いは、事故によって転倒したりした場合)によって、燃料タンク内の燃料が激しく揺動した場合に、フロート弁60が上昇して第1弁孔27を閉じる前に、図4の矢印に示すように、燃料が、第1弁孔27から通気室R側に勢いよく噴出して、通気室R側へ流入することがあった。
【0049】
このとき、この弁装置10においては、通気室R内であって仕切壁23の上方において、第1弁孔27に対向するように配置された衝突壁部70を有するので、上述したように、第1弁孔27から勢いよく噴出した燃料が通気室R側へ流入しても、燃料を衝突壁部70に衝突させて、第1弁孔27の周囲に拡散することを抑制することができるため、通気孔57aを通じて燃料蒸気配管57に、燃料が入り込むことを抑制することができ、燃料タンク1の外部への燃料漏れを規制することができる。
【0050】
なお、衝突壁部70に衝突した燃料は、上壁26とその外周縁を囲むリブ29との間の空間内に落下して、すり鉢状をなした上壁26の上面を伝って、第1弁孔27を通じて弁室V内に戻されるか、又は、上方が開口した環状枠形をなした燃料貯留空間31内に落下して、同燃料貯留空間31内に貯留される。
【0051】
また、衝突壁部70は、カバー50側に設けられたものではなく、仕切壁23の上方において第1弁孔27に対向するように、ケース15に連設された構成となっているので、通気室Rを画成する、カバー50に設けた天井壁53を下げることなく、第1弁孔27に近い位置に衝突壁部70を設けることができ、その結果、通気室Rの容積を確保しながら、第1弁孔27からの通気室R側への燃料流入を効果的に抑制できる、弁装置10を得ることができる。
【0052】
更に、この実施形態においては、図4及び図5に示すように、衝突壁部70は、カバー50に設けた天井壁53に対して、その下方に所定隙間Sをあけて離間して配置されるようになっている。そのため、第1弁孔27から噴出して通気室R内に流入した燃料が、天井壁53に付着しても、この燃料を、天井壁53と衝突壁部70との隙間Sに捕捉しやすくすることができ、燃料蒸気配管57への燃料流入を効果的に抑制することができる。
【0053】
また、この実施形態においては、図4に示すように、仕切壁23を構成する上壁26の周縁に、第1弁孔27の全周を囲むリブ29が設けられており、衝突壁部70には、リブ29に対して軸方向に重なる規制壁77が、リブ29よりも第1弁孔27に近い位置に設けられている。このように、第1弁孔27の周囲を少なくとも部分的に囲むリブ29と、このリブ29に対して軸方向に重なる規制壁77が、リブ29よりも第1弁孔27に近い位置に設けられているので、第1弁孔27から噴出して通気室R側へ流入した燃料を、上記のリブ29や規制壁77に衝突させやすくして、燃料をより拡散させにくくすることができ、燃料蒸気配管57への燃料流入を更に効果的に抑制することができる。
【0054】
また、この実施形態においては、図2(B)に示すように、衝突壁部70に設けた規制壁77は、燃料蒸気配管57側が開口した、半円筒状をなしているので、上述したリブ29と規制壁77とによる燃料の拡散しにくさを維持しつつ、燃料蒸気配管57に対する通気性を確保することができる。
【0055】
更に、この実施形態においては、衝突壁部70はケース15とは別体で設けられており、また、図4に示すように、衝突壁部70に設けたリリーフ弁支持部79が、第2スプリング67を介してリリーフ弁65を間接的に支持している。このように、衝突壁部70は、ケース15と別体で設けられており、リリーフ弁65を支持する支持部をなしているので、燃料の拡散を抑制するための衝突壁部70が、リリーフ弁65を支持する部材も兼ねることととなり、通気室R内にリリーフ弁65を支持する部材を別途設ける必要がなくなり、部品点数を削減することができ、構造の簡素化を図ることができる。
【0056】
図6及び図7には、本発明に係る弁装置の、他の実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
【0057】
この実施形態の弁装置10Aは、衝突壁部の構造が前記実施形態と異なっている。すなわち、図7に示すように、この実施形態における衝突壁部70Aは、その長手方向の先端から下方に向けて、かつ、半円筒状をなした規制壁77の開口77aに対向する位置に、ひさし部80が設けられている。このひさし部80の下方への延出方向の先端面80aは、衝突壁部70Aの幅方向(長手方向に直交する方向)の中央部が、下方への突出量が最も大きく、衝突壁部70の幅方向両側に向けて、下方への突出量が次第に小さくなる、曲面状をなしている。また、このひさし部80は、衝突壁部70がケース15に連設された状態で、図6に示すように、燃料蒸気配管57の通気孔57aに対向する位置に配置されるようになっている。
【0058】
そして、この実施形態の弁装置10Aにおいては、衝突壁部70Aがケース15に連設され、かつ、ケース15にカバー50が取付けられた状態で、図6に示すように、衝突壁部70Aに設けたひさし部80によって、仕切壁23側の壁部との間隔、ここではリブ29の上端面と、ひさし部80との隙間を狭めることができる。その結果、第1弁孔27から噴出して、衝突壁部70Aに衝突した燃料が、燃料蒸気配管57側へ拡散しようとしても、ひさし部80に衝突させやすくできると共に、ひさし部80とリブ29の上端面との隙間を通過させにくくすることができるので、燃料蒸気配管57への燃料流入を一層効果的に抑制することができる。
【0059】
図8には、本発明に係る弁装置の、更に他の実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
【0060】
この実施形態の弁装置10Bは、衝突壁部の構造が前記実施形態と異なっている。すなわち、図8に示すように、この実施形態における衝突壁部70Bが、その長手方向の基端側から先端側に向けて、仕切壁23との間隔が次第に狭くなるように、傾斜した形状をなしている。
【0061】
そして、この実施形態の弁装置10Bにおいては、衝突壁部70Bがケース15に連設され、かつ、ケース15にカバー50が取付けられた状態で、図8に示すように、傾斜した衝突壁部70Bによって、衝突壁部70Bの先端と、仕切壁23側の壁部である、リブ29の上端面との隙間を狭めることができる。その結果、第1弁孔27から噴出して、衝突壁部70Bに衝突した燃料が、燃料蒸気配管57側へ拡散しようとしても、衝突壁部70Bとリブ29の上端面との隙間を通過させにくくすることができるので、燃料蒸気配管57への燃料流入を一層効果的に抑制することができる。
【0062】
なお、以上説明したる弁装置においては、フロート弁60が、燃料の揺動等によって燃料タンク内の液面が異常に上昇したときに、第1弁孔27を閉塞して、燃料の外部漏出を防ぐ、いわゆる燃料流出防止弁として機能するものであるが、燃料タンク内の液面が設定された満タン液面に達すると、第1弁孔27を閉塞して、それ以上の過給油を防止する、いわゆる満タン規制弁としてもよく、特に限定はされない。
【0063】
また、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で、各種の変形実施形態が可能であり、そのような実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【実施例
【0064】
弁装置を燃料タンクにセットして、揺動試験をしたときに、開口部から燃料がどの程度漏れるかを試験した。
【0065】
(実施例)
図1~5に示す弁装置と同様なケースやフロート弁等を備え、衝突壁部を有する、実施例の弁装置を製造した。
【0066】
(比較例)
衝突壁部を有しない以外は、上記実施例と同様の構造をなす、比較例の弁装置を製造した。
【0067】
(試験方法)
燃料を充填した燃料タンク1内に、上記実施例及び比較例の弁装置を取付けて、図示しない傾斜試験装置により、次のサイクルで回転させた。
【0068】
図9(a)に示すように、燃料タンク1に実施例や比較例の弁装置を取付けて、エアーを2L/minで燃料タンク1内に吹き込み、燃料タンク1内を10kPaに保持しつつ、まず左回りで、燃料液面に対して燃料タンク1が42°傾くように燃料タンク1を回動させた後(図9(b)参照)、右回りさせて燃料液面を水平に戻すと共に、燃料液面に対して燃料タンク1が-42°傾くように燃料タンク1を回動させ、その後左回りさせて燃料液面を水平に戻す、という動作(これを1サイクルとする)を繰り返す。この1サイクルの動作を11秒で行い、これを100サイクル(約18分間)繰り返した。また、この動作を、実施例及び比較例の弁装置について、それぞれ2回ずつ行って、第1弁孔からの燃料の漏れ量を測定した。その結果を下記表1に示す。
【表1】
【0069】
その結果、実施例の弁装置は、比較例の弁装置に対して、第1弁孔からの燃料漏れ量が少なく、衝突壁部が燃料漏れに寄与することを確認できた。
【符号の説明】
【0070】
1 燃料タンク
10,10A,10B 弁装置
15 ケース
20 ケース本体
23 仕切壁
26 上壁
27 第1弁孔
29 リブ
32 第2弁孔
40 キャップ
50 カバー
53 天井壁
57 燃料蒸気配管
58 シールリング
60 フロート弁
63 第1スプリング
65 リリーフ弁
67 第2スプリング
70,70A,70B 衝突壁部
77 規制壁
79 リリーフ弁支持部
R 通気室
V 弁室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9