(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】ダイヤルスタンド
(51)【国際特許分類】
G01B 5/00 20060101AFI20220802BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20220802BHJP
G01B 3/22 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
G01B5/00 L
B23Q17/00 A
G01B3/22 Z
(21)【出願番号】P 2018078969
(22)【出願日】2018-04-17
【審査請求日】2021-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】100125737
【氏名又は名称】廣田 昭博
(72)【発明者】
【氏名】長井 修
(72)【発明者】
【氏名】木下 武
(72)【発明者】
【氏名】中馬 準一
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】実開昭51-161141(JP,U)
【文献】実開昭57-147708(JP,U)
【文献】特開2015-024466(JP,A)
【文献】特開平09-026428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 3/00-3/08
3/11-3/56
5/00-5/30
21/00-21/32
B23Q 17/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定基準面に対して
摺動させる台ブロックと、
前記台ブロックに固定された第1アーム部材と、
前記第1アーム部材に連結部材を介して連結された第2アーム部材と、
前記第2アーム部材に取り付けられたダイヤルゲージと、
前記台ブロックを前記測定基準面に吸着した状態を静的に維持しつつ、前記第1アームの付け根部に作用するモーメントが変化することにより前記台ブロックの摺動面が測定基準面から離れてしまうように、その吸引保持力の調整が可能な吸着保持手段と、
を有するダイヤルスタンド。
【請求項2】
前記吸着保持手段は、前記台ブロックに形成された一または二以上の雌ネジ部に、マグネットを備えたボルトが挿入されたものである請求項1に記載のダイヤルスタンド。
【請求項3】
前記吸着保持部材は、前記マグネットを備えたボルトを軸方向に押し付けるセットボルトを有する請求項2に記載のダイヤルスタンド。
【請求項4】
前記吸着保持手段は、前記台ブロックの
摺動面に開口する貫通孔が形成され、前記貫通孔に接続されたエアホースを介して吸引ポンプが接続されたものである請求項1に記載のダイヤルスタンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定基準面に対する吸着保持力を作用させた状態の測定を可能とするダイヤルスタンドに関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械のような精密機械では可動部の平面度や平行度などについて測定が行われる。そのような測定には、例えば、アームの先端部にダイヤルゲージを取り付けた構造のダイヤルスタンドが使用される。下記特許文献1には従来のダイヤルスタンドが開示されている。このダイヤルスタンドは、測定基準面に接する台ブロックに対して第1アームが固定され、その第1アームに交差するように、第2アームがジョイント部材を介して連結されている。第2アームの先端部にはダイヤルゲージが取り付けられ、ジョイント部材によって第2アームの角度を調整することにより、ダイヤルゲージの測定子について位置調整が可能となっている。台ブロックの内底部にはマグネットが設けられ、その台ブロックに設けられたスイッチを回転操作することにより測定基準面に対する磁着が可能になっている。なお、そうしたマグネットによる磁着の切り換え構造については、例えば下記特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-24466号公報
【文献】実開昭57-147708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1にはダイヤルスタンドの使用方法として、マグネットによって測定基準面にダイヤルスタンドを磁着させた状態で行う測定が開示されている。一方、前述した工作機械について行う平面度や平行度などの測定では、ダイヤルスタンドを測定基準面上で摺動させ、ダイヤルゲージによる測定位置を連続して変化させる必要がある。そのときダイヤルゲージが測定する数値変化は数μであり、測定値を正しくとらえるにはダイヤルスタンドの摺動はそれ以下に安定させなければならない。そこでこれまでは、従来例のダイヤルスタンドに摺動ブロックを磁着させた使用方法がとられていた。
【0005】
このような測定では、鉛直面のような起立した面について行う場合、作業者は、ダイヤルスタンドを支え、且つ摺動ブロックが僅かでも浮かないように鉛直な測定基準面に押し当て、そしてその摺動ブロックを慎重に摺動させながら、ダイヤルゲージによる数値の変化を確認しなければならなかった。このような測定方法は、前述した数μを測定しなければならない場合に、作業者にとって非常に負担の大きなものであった。そして、摺動ブロックに対する押し付け力の加減によってダイヤルゲージの数値が変わってしまうので、測定のやり直しを繰り返さなければならないことも多かった。
【0006】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、測定における作業者の負担を軽減させるダイヤルスタンドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るダイヤルスタンドは、測定基準面に対して摺動させる台ブロックと、前記台ブロックに固定された第1アーム部材と、前記第1アーム部材に連結部材を介して連結された第2アーム部材と、前記第2アーム部材に取り付けられたダイヤルゲージと、前記台ブロックを前記測定基準面に吸着した状態を静的に維持しつつ、前記第1アームの付け根部に作用するモーメントが変化することにより前記台ブロックの摺動面が測定基準面から離れてしまうように、その吸引保持力の調整が可能な吸着保持手段と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
前記構成によれば、吸着保持手段によって台ブロックの摺動面と測定基準面との間の吸着保持力を調整することにより、台ブロックの摺動面が測定基準面を摺動可能な程度に吸着させた状態で測定作業を行うことができるため、台ブロックを測定基準面から浮かせることなく摺動させなければならない作業者の負担軽減が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】ダイヤルスタンドの使用状態を示した斜視図である。
【
図2】ダイヤルスタンドの第1実施形態を示した斜視図である。
【
図3】測定時のダイヤルスタンドを示した側面図である。
【
図4】台ブロックの断面を示した拡大図であり、吸着保持力を弱めた場合(A)と、吸着保持力を強めた場合(B)とが描かれている。
【
図5】ダイヤルスタンドの第2実施形態を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明に係るダイヤルスタンドの一実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。本実施形態では、工作機械の駆動装置について行う、摺動部分の平面度に関する検査を例に挙げて説明する。
図1は、ダイヤルスタンドの使用状態を示した斜視図である。図面には工作機械1の一部が示されている。この工作機械1は、水平方向に回転軸をもった主軸台11に対して、不図示のタレット装置を加工軸方向に移動させるようにした旋盤である。ここで、主軸台11の回転軸と平行な方向をZ軸とする。よって、この工作機械1は、工具を備えたタレット装置がそのZ軸方向と、Z軸に対して直交する上下のX軸方向とを加工軸とする2軸旋盤である。
【0011】
工作機械1には、主軸装置11の横にコラム12が立設し、主軸側には2本のガイドレール13が鉛直方向に固定され、そのガイドレール13に対してX軸スライド14が摺動自在に組み付けられている。コラム12の上部にはX軸用サーボモータ15が固定され、その回転がタイミングベルト16を介してボールネジ機構に伝達されるように構成されている。従って、このX軸駆動装置では、X軸用サーボモータ15の出力によりネジ軸17が回転し、その回転運動がナットの直線運動に変換され、X軸スライド14がX軸方向に昇降するようになっている。
【0012】
X軸スライド14にはZ軸ガイド21が固定され、そのZ軸ガイド21に対してZ軸スライド22が摺動自在に嵌め込まれている。そして、Z軸スライド22には図面右側端部にタレット装置が一体的に組み付けられることとなる。また、X軸スライド14には支持フレーム23が一体に組み付けられており、そこにZ軸用サーボモータ24が固定されている。Z軸用サーボモータ24の回転は、タイミングベルトを介してネジ軸25に伝達されるようになっている。従って、Z軸用サーボモータ24の出力によりネジ軸25が回転し、その回転運動がナットの直線運動に変換され、Z軸スライド22がZ軸方向に水平移動することとなる。
【0013】
こうした工作機械1では、駆動部であるX軸スライド14やZ軸スライド22の摺動箇所について平面度や平行度などの測定が行われる。工作機械1では、摺動するガイドレール13やZ軸スライド22の平面を利用して他方の平面度の測定などが行われる。例えば、図示するように、X軸方向のガイドレール13の表面を測定基準面131としてダイヤルスタンド5を押し当て、図面の破線矢印で示すように摺動させることにより、Z軸スライド22の摺動面(以下、「第1測定面221」と「第2測定面222」という)の平面度に関する測定が行われる。
【0014】
図2は、ダイヤルスタンドの第1実施形態を示した斜視図である。ダイヤルスタンド5は、測定基準面131に対して
摺動させる直方体形状の台ブロック31を有し、そこに第1アーム32がネジ部の締め付けにより、突き立てられるようにして固定されている。そして、その第1アーム32には第2アーム33が交差するように、アームジョイント35によって連結されている。第1アーム32および第2アーム33は、共にバー材であって、第1アーム32の方が径の大きいものが使用されている。
【0015】
アームジョイント35は、第1アーム32および第2アーム33を保持する第1クランプ351と第2クランプ352とを有し、その両者がそれぞれレバー353の付いたボルトによって一体になるように形成されている。第1クランプ351と第2クランプ352は、ボルトを介して相対的な角度調整が可能になっている。よって、第1クランプ351および第2クランプ352に対する第1アーム32と第2アーム33の各々の相対的な位置や角度を特定し、レバー353によってボルトを締め付けることにより、アームジョイント35の取付け位置による第1アーム32および第2アーム33の長さと、第1アーム32に対する第2アーム33の角度とが決定され、その状態が維持される。
【0016】
次に、第2アーム33の先端部には、ダイヤルゲージ36がゲージジョイント37によって取り付けられている。このゲージジョイント37も、第1クランプ371と第2クランプ372とを有し、その両者がそれぞれレバー373の付いたボルトによって一体になるように形成されている。そして、第1クランプ371と第2クランプ372は、ボルトを介して相対的な角度調整が可能になっている。よって、レバー373によるボルトの締め付けにより、第2アーム33に対するダイヤルゲージ36の位置および接触子361の角度が決定され、その状態が維持される。
【0017】
ダイヤルスタンド5は、第1アーム32に対する第2アーム33の長さや角度、そして第2アーム33に対するダイヤルゲージ36の位置や角度が調整され、
図1に示すようにガイドレール13に対して台ブロック31が押し当てられる。ここで、
図3は、測定時のダイヤルスタンド5を示した側面図である。この図に示すように、第1および第2測定面221,222のような鉛直な面の測定では、作業者は、台ブロック31をガイドレール13に対して水平方向に押し付けつつ、測定基準面131から僅かでも浮かせることなく摺動させなければならない。
【0018】
しかし、工作機械1での測定は、前述したように数μの数値変化をとらえるものであるため、僅かなズレであっても測定のやり直しが必要になってしまう。例えば、これまでの作業者は、実線の白抜き矢印で示すように測定基準面131に台ブロック31を押し付けつつ、破線の白抜き矢印で示すように上方へ台ブロック31を慎重に摺動させ、更にダイヤルゲージ36における値の変化を目視で確認しなければならなかった。しかも、失敗によってこうした測定のやり直しを繰り返すことも多く、作業者への負担が大きかった。
【0019】
そこで、本実施形態では、台ブロック31に対して測定基準面131からの浮き上がりを防止するように、吸着保持力を発生させる構造が採られている。具体的には、
図2に示すように、台ブロック31に対して四隅を貫通する雌ネジ部311が形成され、各々の雌ネジ部311にマグネットを備えた吸着ボルト41とセットボルト42がねじ込まれている。
図2の丸枠内には、そうした構造を示す台ブロック31の断面が示されている。また、
図4は、その断面部分を示した拡大図であり、吸着保持力を弱めた場合(A)と、吸着保持力を強めた場合(B)とが描かれている。
【0020】
直方体形状の台ブロック31は、測定基準面131と全面が接することがないように、摺動面313側に凹部315が形成され、その範囲内に4つの雌ネジ部311が形成されている。そして、その雌ネジ部311にそれぞれ吸着ボルト41が挿入されている。雌ネジ部311内の吸着ボルト41は、台ブロック31の凹部315側つまり摺動面313側の端部にマグネット43が埋設され、反対の第1アームが突き立てられた表面側には六角穴が形成されている。従って、六角レンチを使用して吸着ボルト41を雌ネジ部311内にねじ込むことにより、図(A),(B)に示すように、マグネット43と測定基準面131との距離L1,L2、つまり台ブロック31を測定基準面131に吸着保持させる磁力の大きさの調整が可能になっている。
【0021】
また、雌ネジ部311にはセットボルト42もねじ込まれている。セットボルト42が吸着ボルト41を押し込む方向に締め付けられることにより、ネジ山が軸方向に押さえつけられ、吸着ボルト41の位置決めが行われる。ここで、吸着ボルト41の位置の調整は、
図3において矢印で示す方向に作用する吸着保持力Fの調整である。その吸着保持力Fは、ダイヤルスタンド5に支えがないとしても、摺動面313が鉛直な測定基準面131に接した状態を維持することができる大きさである。しかし、その吸着保持力Fが大き過ぎると、作業者が台ブロック31に対してX方向(上方)に移動させる際の抵抗が大きくなってしまう。そのため、例えば吸着保持力Fは、図示する状態を静的に維持しつつ、第1アーム32の付け根部に作用するモーメントMが僅かに変化しただけで、摺動面313が測定基準面131から離れてしまう程度の大きさである。
【0022】
従って、測定を行う作業者は、台ブロック31を測定基準面131に押し付けつつ、
図1及び
図3の破線矢印で示す方向に連続して摺動させる。そのとき吸着ボルト41の吸着保持力Fが作用するため、押さえ付け方向に力をかける必要がほとんどなく、移動方向にかける力の調整だけでよい。しかも、台ブロック31の摺動面313が測定基準面131から浮いてしまうことがないため、測定作業をスムーズに行うことが可能になる。特に、第1測定面221および第2測定面222ように、鉛直な面であって間をあけた長い距離を移動させなければならない場合において作業者の負担が大幅に軽減される。また、スムーズに測定作業を行うための吸着保持力Fは、六角レンチを使用した吸着ボルト41の位置調整でよいため、微妙な調整を簡単に行うことができる。そして、セットボルト42を使用することにより、吸着ボルト41の位置つまり吸着保持力Fを安定させることができる。
【0023】
次に、ダイヤルスタンドの第2実施形態について説明する。
図5は、第2実施形態のダイヤルスタンド7を示した斜視図であり、第1実施形態と同じ構成については同じ符号が付されている。ダイヤルスタンド7は、台ブロック51の構造が異なっており、それ以外の構成は第1実施形態のものと同じである。特に、台ブロック51に吸着保持力を発生させる構造が異なっている。台ブロック51は、直方体形状のブロックであり、前記第1実施形態と同様に摺動面側に凹部が形成され、反対の表面515から凹部に通じる貫通孔が形成されている。そして、その貫通孔には調整弁52を介してエアホース53が接続され、そのエアホース53が真空ポンプに接続されている。
【0024】
よって、ダイヤルスタンド7によれば、台ブロック51の凹部により測定基準面131との間にできる空間について真空引きが行われる。そして、調整弁52によって圧力調整することにより、測定基準面131に対する台ブロック51の吸着保持力F(
図3参照)が、前述した吸着ボルト41と同様な考えに基づいて設定される。そのため、作業者は、台ブロック51を測定基準面131に押し付けつつ、
図1に破線矢印で示すように連続して摺動させるが、押さえ付け方向に力をかける必要がほとんどなく、移動方向にかける力の調整だけでよい。しかも、台ブロック51の摺動面が測定基準面131から浮いてしまうことがないため、測定作業をスムーズに行うことが可能になる。特に、鉛直な面を長い距離を移動させなければならない場合において作業者の負担が大幅に軽減される。また、吸着保持力Fは、手元の調整弁52により簡単に調整を行うことができる。
【0025】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、台ブロック31,51を立方体形状として側面を使った平行度の測定も可能としているが、その形状は特に限定されない。
また、第1実施形態では、台ブロック31に対して4本の吸着ボルト41が四隅に配置されているが、その数や位置などは機能が発揮できれば任意に変更可能である。
【符号の説明】
【0026】
1…工作機械 5…ダイヤルスタンド 13…ガイドレール 31…台ブロック 32…第1アーム 33…第2アーム 35…アームジョイント 36…ダイヤルゲージ 37…ゲージジョイント 41…吸着ボルト 42…セットボル 43…マグネット 131…測定基準面 221…第1測定面 222…第2測定面 311…雌ネジ部