(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】車両の制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
B60W 10/02 20060101AFI20220802BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20220802BHJP
F16D 48/02 20060101ALI20220802BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20220802BHJP
F02D 41/12 20060101ALI20220802BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20220802BHJP
F02M 26/49 20160101ALI20220802BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20220802BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20220802BHJP
【FI】
B60W10/02 900
B60W20/00 ZHV
F16D48/02 640Q
F16D48/02 640H
F02D29/00 G
F02D41/12
F02D45/00
F02M26/49
F01N3/20 C
B60L50/16
(21)【出願番号】P 2018113241
(22)【出願日】2018-06-14
【審査請求日】2021-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100100103
【氏名又は名称】太田 明男
(74)【代理人】
【識別番号】100173163
【氏名又は名称】石塚 信洋
(74)【代理人】
【識別番号】100134522
【氏名又は名称】太田 朝子
(74)【代理人】
【識別番号】100135024
【氏名又は名称】本山 敢
(72)【発明者】
【氏名】金子 敦史
(72)【発明者】
【氏名】小野 雅広
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-203194(JP,A)
【文献】特開2014-047693(JP,A)
【文献】特開2010-215183(JP,A)
【文献】特開2010-179712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-20/50
B60K 6/20- 6/547
B60L 1/00-58/40
F16D 48/02
F02D 29/00-45/00
F02M 26/49
F01N 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪に連結される走行用モータ及びエンジンを備えたハイブリッド車両を制御する車両の制御装置において、
前記ハイブリッド車両の減速時に前記走行用モータを回生駆動する回生制御部と、
前記減速時に燃料噴射を停止する燃料噴射制御部と、
前記回生駆動時に前記エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達の可否を切り換えるクラッチを解放するクラッチ制御部と、
前記クラッチを締結し、かつ、燃料噴射を停止した燃料カット状態で行われる複数の診断
に関する複数の実行条件がすべて成立しているか否かを判定する条件成立判定部と、
前記クラッチが締結された状態で前記ハイブリッド車両が減速し前記回生駆動
が開始
される時に前記
複数の診断
に関する複数の実行条件がすべて成立している場合に前記クラッチの解放を遅らせるディレイ制御部と、
を備える、車両の制御装置。
【請求項2】
前記ディレイ制御部は、前記クラッチの解放を遅らせている間に、前記クラッチの解放許可条件が成立したときに前記クラッチの解放を許可する、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記ディレイ制御部は、前記クラッチの解放許可条件として、前記複数の診断において、前記燃料カット状態で実行すべき処理が終了したか否かを判定する、請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記ディレイ制御部は、前記クラッチの解放許可条件として、あらかじめ設定された時間が経過したか否かを判定する、請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記診断が、排気通路に設けられる酸素濃度センサの診断、空燃比センサの診断、EGRバルブの診断又は触媒の診断のうちの少なくとも2つを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
駆動輪に連結される走行用モータ及びエンジンを備えたハイブリッド車両の減速時に前記エンジンへの燃料噴射を停止するとともに前記走行用モータを回生駆動する制御する車両の制御方法において、
前記回生駆動時に前記エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達の可否を切り換えるクラッチを解放するステップを備え、
前記クラッチが締結された状態で前記ハイブリッド車両が減速し前記回生駆動
が開始
される時に、燃料カット状態で行われる複数の診断
に関する複数の実行条件がすべて成立している場合には前記クラッチの解放を遅らせる、車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両の動力源としてエンジン及びモータをともに備えたハイブリッド車両が知られている。例えばモータの出力のみによって走行する第1の走行モードと、エンジンの出力とモータの出力とを組み合わせながら走行する第2の走行モードとを切り替えながら駆動制御が行われる方式のハイブリッド車両がある。また、エンジンを主の動力源として使用し、車両の要求トルクが大きい場合にモータによりアシストトルクを出力させる方式のハイブリッド車両がある。
【0003】
これらのハイブリッド車両においては、車両の減速時に駆動輪の運動エネルギを利用してモータに発電させ、発電された電力をバッテリに充電する回生制御が行われる。回生制御時には、エンジンを駆動輪から切り離す制御が行われる。この制御により、駆動輪の運動エネルギがエンジンに伝達されなくなるため回生効率が向上する。また、この制御により、エンジンを駆動輪から切り離している間にエンジンへの燃料噴射を停止することができるため、燃料消費量を削減することができる。
【0004】
ここで、ハイブリッド車両において、エンジンへの燃料噴射を停止した状態で診断制御が実行される場合がある。例えば、特許文献1には、アクセルがオフになり、車速が事前に定められた減速範囲となる惰行走行条件が満足されたとき、エンジンクラッチをオープンにし、ハイブリッドスタータジェネレータによりエンジンを事前に定められた基準速度で駆動させ、エンジンの燃料噴射が停止したときに酸素センサの診断を行う技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、内燃機関への燃料噴射を停止して内燃機関をモータリングしながら行われる内燃機関の排気系に取り付けられたセンサ又は装置の故障診断のうちの少なくとも1つの故障診断が未実施の状態でかつ内燃機関の燃料噴射が行われて内燃機関が運転されている状態でアクセルオフされたときに、内燃機関への燃料噴射が停止された状態で内燃機関がモータリングされて未実施の故障診断が実施される技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-43851号公報
【文献】特開2010-179712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、ハイブリッドスタータジェネレータやモータリング用モータを備えていないハイブリッド車両では、エンジンの駆動状態で燃料噴射を停止する制御(以下、この制御を「燃料カット制御」ともいい、燃料カット制御中の状態を「燃料カット状態」ともいう。)を実行するには、エンジンクラッチを接続し、駆動輪の運動エネルギがエンジンに伝達される状態を維持する必要がある。このため、ある診断の実行条件が成立している場合には、ドライバがアクセルペダルを解放して車両の要求トルクがゼロになったときにエンジンクラッチの解放を遅らせて燃料カット制御を行い、センサ又は装置の診断を行うようにされている。
【0008】
しかしながら、燃料カット状態を利用して実行される診断が複数存在する場合に、それぞれの診断の実行条件の成立時にエンジンクラッチの解放を所定時間遅らせる制御が行われると、燃料カット状態が頻発する。このため、回生制御時に、エンジンを駆動輪から切り離す時間が短くなって、回生効率が低下するおそれがある。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、ハイブリッド車両においてエンジンクラッチの解放を遅らせる制御の回数を少なくして回生効率を向上可能な、車両の制御装置及び制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、駆動輪に連結される走行用モータ及びエンジンを備えたハイブリッド車両を制御する車両の制御装置において、ハイブリッド車両の減速時に走行用モータを回生駆動する回生制御部と、減速時に燃料噴射を停止する燃料噴射制御部と、回生駆動時にエンジンと駆動輪との間の動力伝達の可否を切り換えるクラッチを解放するクラッチ制御部と、クラッチを締結し、かつ、燃料噴射を停止した燃料カット状態で行われる複数の診断に関する複数の実行条件がすべて成立しているか否かを判定する条件成立判定部と、クラッチが締結された状態でハイブリッド車両が減速し回生駆動が開始される時に複数の診断に関する複数の実行条件がすべて成立している場合にクラッチの解放を遅らせるディレイ制御部と、を備える、車両の制御装置が提供される。
【0011】
ディレイ制御部は、クラッチの解放を遅らせている間に、クラッチの解放許可条件が成立したときにクラッチの解放を許可してもよい。
【0012】
ディレイ制御部は、クラッチの解放許可条件として、複数の診断において、燃料カット状態で実行すべき処理が終了したか否かを判定してもよい。
【0013】
ディレイ制御部は、クラッチの解放許可条件として、あらかじめ設定された時間が経過したか否かを判定してもよい。
【0014】
診断が、排気通路に設けられる酸素濃度センサの診断、空燃比センサの診断、EGRバルブの診断又は触媒の診断のうちの少なくとも2つを含んでもよい。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、駆動輪に連結される走行用モータ及びエンジンを備えたハイブリッド車両の減速時にエンジンへの燃料噴射を停止するとともに走行用モータを回生駆動する制御する車両の制御方法であって、回生駆動時にエンジンと駆動輪との間の動力伝達の可否を切り換えるクラッチを解放するステップを備え、クラッチが締結された状態でハイブリッド車両が減速し回生駆動が開始される時に、燃料カット状態で行われる複数の診断に関する複数の実行条件がすべて成立している場合にはクラッチの解放を遅らせる、車両の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明によれば、ハイブリッド車両においてエンジンクラッチの解放を遅らせる制御の回数が少なくなって回生効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態に係る車両の制御装置を適用可能なハイブリッド車両の構成例を示す模式図である。
【
図2】同実施形態に係る車両の制御装置の構成例を示すブロック図である。
【
図3】同実施形態に係る車両の制御方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】同実施形態に係る車両の制御方法の一例を示す説明図である。
【
図5】比較例に係る車両の制御方法の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
<1.ハイブリッド車両の全体構成例>
まず、本発明の実施の形態に係る車両の制御装置を適用可能なハイブリッド車両の構成例を説明する。
図1は、車両の制御装置100を備えたハイブリッド車両1を示す模式図である。以下、パワーユニット10と制御装置100とに分けて、ハイブリッド車両1の全体構成例を説明する。
【0020】
(1-1.パワーユニット)
ハイブリッド車両1のパワーユニット10は、動力源としてエンジン11及びモータジェネレータ31を備える。モータジェネレータ31は走行用モータとして機能する。また、パワーユニット10は、プライマリプーリ27及びセカンダリプーリ29を有する無段変速機(以下、「CVT」ともいう。)25を備える。
【0021】
プライマリプーリ27の軸の一方側にはトルクコンバータ21を介してエンジン11が連結されている。プライマリプーリ27の軸の他方側にはモータジェネレータ31が連結されている。セカンダリプーリ29の軸には、駆動輪出力軸41及びデファレンシャル機構45を介して駆動輪47が連結されている。このように、駆動輪47にはモータジェネレータ31及びエンジン11が連結されている。
【0022】
モータジェネレータ31には、インバータ115を介してバッテリ117が接続されている。インバータ115は、直流電力と交流電力とを相互に変換する機能を有している。モータジェネレータ31が力行状態で制御される際には、インバータ115により直流電力が交流電力に変換され、バッテリ117からインバータ115を介してモータジェネレータ31に電力が供給される。一方、モータジェネレータ31が発電状態つまり回生状態で制御される際には、インバータ115によって交流電力が直流電力に変換され、モータジェネレータ31からインバータ115を介してバッテリ117に電力が供給される。
【0023】
トルクコンバータ21とプライマリプーリ27との間、つまりエンジン11と駆動輪47との間には、締結状態と解放状態とに切り替えられるエンジンクラッチ23が設けられている。エンジンクラッチ23を締結状態に切り替えることにより、プライマリプーリ27に対してトルクコンバータ21が接続され、駆動輪47に対してエンジン11が接続される。一方、エンジンクラッチ23を解放状態に切り替えることにより、プライマリプーリ27からトルクコンバータ21が切り離され、駆動輪47からエンジン11が切り離される。
【0024】
なお、エンジンクラッチ23を解放状態に切り替えることにより、駆動輪47からエンジン11を切り離した場合であっても、駆動輪47とモータジェネレータ31との接続状態は維持される。つまり、エンジンクラッチ23を解放状態に切り替えることにより、駆動輪47とモータジェネレータ31とを互いに接続した状態のもとで、駆動輪47とエンジン11とを互いに切り離すことができる。
【0025】
(1-2.制御装置)
ハイブリッド車両1の制御装置100の全体構成を説明する。
図1に示すように、ハイブリッド車両1は、パワーユニット10の作動状態を制御するため、マイクロコンピュータ等を備える各種コントローラを備える。各種コントローラとして、エンジンコントローラ103、ミッションコントローラ105、モータコントローラ107、バッテリコントローラ109及びメインコントローラ101が備えられている。
【0026】
それぞれのコントローラの一部又は全部は、例えばマイクロコンピュータ、マイクロプロセッサユニット等で構成されていてもよい。また、それぞれのコントローラの一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されていてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0027】
また、それぞれのコントローラは、マイクロコンピュータ等により実行されるプログラムや種々の演算に用いるパラメータ、検出データ、演算結果の情報等を記憶する図示しない記憶装置を備える。記憶装置は、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の記憶素子であってもよく、HDD(Hard Disk Drive)やCD-ROM、ストレージ装置等の記憶装置であってもよい。
【0028】
エンジンコントローラ103はエンジン11を制御する。ミッションコントローラ105はCVT25等を制御する。モータコントローラ107はモータジェネレータ31を制御する。バッテリコントローラ109はバッテリ117を制御する。メインコントローラ101はこれらのコントローラを統合的に制御する。これらのコントローラは、CAN(Controller Area Network)又はLIN(Local InterNet)等の一つ又は複数の車載ネットワーク91を介して互いに通信可能に接続されている。
【0029】
メインコントローラ101は、それぞれのコントローラに制御信号を出力し、パワーユニット10を構成するエンジン11やモータジェネレータ31等を互いに協調させて制御する。メインコントローラ101には、アクセルセンサ81、ブレーキセンサ83、車速センサ85及びエンジン回転数センサ87が接続されている。アクセルセンサ81はアクセルペダルの操作量を検出する。ブレーキセンサ83はブレーキペダルの操作量を検出する。車速センサ85は車速を検出する。エンジン回転数センサ87はクランク軸の回転速度であるエンジン回転数を検出する。
【0030】
メインコントローラ101は、それぞれのセンサやコントローラから送信される情報に基づいてエンジン11やモータジェネレータ31等の制御目標を設定し、設定された制御目標に基づいてそれぞれのコントローラに制御信号を出力する。メインコントローラ101から制御信号を受信したそれぞれのコントローラは、以下のようにエンジン11やモータジェネレータ31等を制御する。
【0031】
つまり、エンジンコントローラ103は、スロットルバルブ13やインジェクタ15等に制御信号を出力し、エンジントルクやエンジン回転数等を制御する。ミッションコントローラ105は、作動油を調圧するバルブユニット113に制御信号を出力し、CVT25、エンジンクラッチ23及びトルクコンバータ21等の作動状態を制御する。モータコントローラ107は、インバータ115に制御信号を出力し、モータジェネレータ31のモータトルクやモータ回転数等を制御する。バッテリコントローラ109は、バッテリ117の充放電を監視するとともに、必要に応じてバッテリ117内のリレー等を制御する。このように、各コントローラによって、エンジン11、モータジェネレータ31及びエンジンクラッチ23等が制御されている。
【0032】
<2.減速制御の基本動作>
次に、コースト走行時の車両減速制御の基本動作について説明する。コースト走行時とは、アクセルペダル及びブレーキペダルの踏み込みがともに解除される車両減速時、つまりドライバによるアクセル操作とブレーキ操作とがともに解除される車両減速時をいう。
【0033】
アクセルペダルの踏み込みが解除されるコースト走行においては、エンジン11への燃料噴射が停止するとともに、モータジェネレータ31が回生状態に制御される。このとき、エンジンクラッチ23は解放状態にされ、駆動輪47からパワーユニット10に入力される運動エネルギはモータジェネレータ31によって電気エネルギに変換される。コースト走行時の車両減速度は、モータジェネレータ31の回転抵抗つまり回生トルクによる調整が可能である。
【0034】
ここで、コースト走行時においては、車速等に基づきハイブリッド車両1の目標減速トルクが設定される。目標減速トルクとは、コースト走行時にドライバに対して違和感を与えることなくハイブリッド車両1を減速させるためのトルクである。この目標減速トルクに応じて目標モータトルクが設定され、目標モータトルクに基づいてモータジェネレータ31の回生トルクが制御される。これにより、ハイブリッド車両1を目標減速トルクで減速させることができ、ドライバに違和感を与えることなくハイブリッド車両1を減速させることができる。
【0035】
しかしながら、コースト走行時においても、エンジンクラッチ23を締結状態で維持し、エンジン11の駆動状態で燃料噴射を停止する燃料カット制御が実行される場合がある。具体的には、燃料カット状態を利用して実行可能な種々の診断の実行条件が成立している場合には、コースト走行時であってもエンジンクラッチ23の解放を遅らせて燃料カット制御が実行される。
【0036】
エンジンクラッチ23を解放した場合、エンジン11は短期間で停止する。これに対して、燃料カット制御中にはエンジン11は駆動状態で維持されるため、タイミングベルト等を介してクランクシャフトに連結されたカムシャフトの回転に伴って吸気弁及び排気弁の開閉は継続する。つまり、燃料カット状態を利用して実行される診断は、エンジン11の出力トルクがゼロであり、かつ、排気管内に排気の流れが存在する状態を要する診断である。このような診断の例を、以下に簡単に説明する。
【0037】
(a)酸素濃度センサの故障診断
燃料カット制御が開始されると、エンジン11から排出される排気は大気に支配される。このため、燃料カット制御の開始から所定時間経過後の酸素濃度センサのセンサ信号の値が、大気の酸素濃度に相当する値になるか否かを監視することにより、酸素濃度センサの故障の有無を判定することができる。このときの所定時間は、あらかじめ実験等により設定することができる。
【0038】
酸素濃度センサの故障診断の実行条件は、例えば排気温度が酸素濃度センサの活性温度以上であること、走行中であること、つまり排気通路に排気の流れがあること、及び、今回のドライビングサイクル中に実行されていないこと、であってよい。
【0039】
(b)空燃比センサの故障診断
同様に、燃料カット制御が開始されると、エンジン11から排出される排気は大気に支配される。このため、燃料カット制御の開始から所定時間経過後の空燃比センサのセンサ信号の値が、大気相当の空燃比の値になるか否かを監視することにより、空燃比センサの故障の有無を判定することができる。このときの所定時間は、あらかじめ実験等により設定することができる。
【0040】
空燃比センサの故障診断の実行条件は、例えば排気温度が空燃比センサの活性温度以上であること、及び、走行中であること、つまり排気通路に排気の流れがあること、燃料カット制御実行開始前の空燃比が大気相当の空燃比でないこと、及び、今回のドライビングサイクル中に実行されていないこと、であってよい。
【0041】
(c)EGR装置の故障診断
EGR(Exhaust Gas Recirculation)装置では、EGRバルブを開いたときに吸気通路に生じる負圧により排気が吸気側に導入される。燃料カット制御中にはエンジン11の負荷変動は極めて小さいことから、EGR装置が正常である場合、EGRバルブの開閉に伴って吸気圧が比較的大きく変動する。このため、燃料カット制御中に、EGRバルブを強制的に全開にしたときの吸気圧と、EGRバルブを強制的に全閉にしたときの吸気圧との差があらかじめ設定した閾値を超えるか否かを判定することにより、EGR装置の故障の有無を判定することができる。
【0042】
このようなEGR装置の故障診断の実行条件は、例えば水温が所定値以上であること、走行中であること、エンジン回転数が所定範囲内であること、及び、今回のドライビングサイクル中に実行されていないこと、であってよい。
【0043】
(d)排気浄化触媒の故障診断
エンジン11の排気系には排気ガスの浄化に用いられる排気浄化触媒が備えられている。例えばガソリンエンジンの排気系には、排気中の炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NO)を削減する三元触媒が備えられている。三元触媒は、劣化に伴って酸素吸蔵能力が低下する特性を有する。このため、燃料カット制御を所定時間実行した場合に、三元触媒の酸素吸蔵能力に応じた量の酸素が三元触媒に吸蔵される。
【0044】
したがって、燃料カット制御の終了後、エンジン11への燃料噴射を再開する際に、空燃比を燃料リッチにして触媒に吸蔵された酸素を放出させて、触媒下流側の空燃比センサあるいは酸素濃度センサが燃料リッチ状態を検出するまでの理論空燃比に対する余剰燃料量に基づいて、触媒の酸素吸蔵能力が低下しているか否かを判定することができる。このような診断は、三元触媒に限らず酸素吸蔵能力を有する触媒に適用することができる。
【0045】
このような排気浄化触媒の故障診断の実行条件は、例えば触媒温度が活性温度以上であること、走行中であること、及び、今回のドライビングサイクル中に実行されていないこと、であってよい。
【0046】
なお、例示した上記の診断(a)~(d)の実行条件は、例えばハイブリッド車両1のスタートスイッチを起動してから遮断するまでの1ドライビングサイクルごとに1回ずつ実行されるように設定されている。また、燃料カット状態を利用して実行される診断は、上記の診断(a)~(d)の例に限られるものではなく、例示した診断以外の診断が実行可能になっていてもよい。
【0047】
本実施形態に係るハイブリッド車両1の制御装置100は、アクセルペダルの踏み込みが解除されモータジェネレータ31が回生駆動されるコースト走行時において、コースト走行開始時に上記の複数の診断の実行条件がすべて成立している場合に、エンジンクラッチ23の解放を遅らせる制御(以下、「解放ディレイ制御」ともいう。)を実行する。つまり、制御装置100は、個々の診断の条件が成立している場合に、診断ごとに独立してエンジンクラッチ23の解放を遅らせる要求を出すのではなく、すべての診断の条件が成立している場合にのみエンジンクラッチ23の解放を遅らせる要求を出すように構成される。
【0048】
<3.制御装置の具体例>
次に、上記の解放ディレイ制御を実行可能な本実施形態に係るハイブリッド車両1の制御装置100の具体例を説明する。
【0049】
図2は、
図1に示した複数のコントローラにより構成される車両の制御装置100のうち、解放ディレイ制御に関連する部分の機能構成を示す説明図である。制御装置100は、回生制御部121、燃料噴射制御部123、クラッチ制御部125、条件成立判定部127、ディレイ制御部129及び診断制御部131を備える。
【0050】
(回生制御部)
例えばメインコントローラ101及びモータコントローラ107が回生制御部121として機能する。回生制御部121は、ハイブリッド車両1の減速時にモータジェネレータ31を回生駆動する。具体的に、回生制御部121は、アクセルセンサ81からの入力信号に基づいてアクセルペダルの踏み込みの解除を検出したときに、モータジェネレータ31を回生状態に制御する。
【0051】
本実施形態において、アクセルペダルの踏み込みが解除された場合であっても解放ディレイ制御の実行中にはエンジンクラッチ23が締結状態に維持される。この場合、エンジンブレーキが作動するため、エンジントルクは減速側に出力される。回生制御部121は、エンジンクラッチ23の締結状態においては、車速等に基づいて設定された目標減速トルクからエンジントルクを減算することで目標モータトルクを設定する。また、回生制御部121は、エンジンクラッチ23の解放状態においては、ハイブリッド車両1の目標減速トルクを目標モータトルクとして設定する。
【0052】
回生制御部121は、設定した目標モータトルクに基づいてインバータ115を制御し、モータジェネレータ31を回生駆動する。これにより、モータジェネレータ31による回生発電が行われ、発電された電力がバッテリ117に充電される。
【0053】
(燃料噴射制御部)
例えばメインコントローラ101及びエンジンコントローラ103が燃料噴射制御部123として機能する。燃料噴射制御部123は、アクセルセンサ81からの入力信号に基づいてアクセルペダルの踏み込みの解除を検出したときに、燃料噴射を停止する。具体的に、燃料噴射制御部123は、インジェクタ15による燃料噴射制御を中断する。
【0054】
また、燃料噴射制御部123は、アクセルペダルが再び踏み込まれたときには、例えばアクセル操作量及びエンジン回転数に基づいて設定されるハイブリッド車両1の要求トルクからモータジェネレータ31に出力させるアシストトルクを減算して目標エンジントルクを設定する。燃料噴射制御部123は、設定した目標エンジントルクに基づいてインジェクタ15の通電制御を行い、エンジン11へ燃料を噴射する。これにより、エンジン11は駆動輪47に伝達される駆動トルクを出力する。
【0055】
(クラッチ制御部)
例えばメインコントローラ101及びミッションコントローラ105がクラッチ制御部125として機能する。クラッチ制御部125は、回生制御部121による回生駆動の実行時に、エンジンクラッチ23を解放する。具体的に、クラッチ制御部125は、バルブユニット113を制御してエンジンクラッチ23を解放する。ただし、クラッチ制御部125は、ディレイ制御部129から、クラッチ解放ディレイ要求が生成されている間、エンジンクラッチ23を締結状態のままで待機させる。
【0056】
(条件成立判定部)
例えばメインコントローラ101が条件成立判定部127として機能する。条件成立判定部127は、燃料カット状態を利用して実行される複数の診断の実行条件がすべて成立しているか否かを判定する。本実施形態において、条件成立判定部127は、上記の診断(a)~(d)の実行条件がすべて成立しているか否かを判定する。
【0057】
(ディレイ制御部)
例えばメインコントローラ101がディレイ制御部129として機能する。ディレイ制御部129は、回生制御部121による回生駆動の実行開始時に複数の診断の実行条件がすべて成立している場合に、エンジンクラッチ23の解放を遅らせるクラッチ解放ディレイ要求を生成する。ディレイ制御部129は、例えば、上記の診断(a)~(d)において燃料カット状態で実行すべき制御に要する時間よりも長い時間にあらかじめ設定されたディレイ時間の間、クラッチ解放ディレイ要求を生成してもよい。あるいは、ディレイ制御部129は、上記の診断(a)~(d)において燃料カット状態で実行すべき処理が終了するまでの間、クラッチ解放ディレイ要求を生成してもよい。
【0058】
(診断制御部)
例えばメインコントローラ101及びエンジンコントローラ103が診断制御部131として機能する。診断制御部131は、それぞれの診断の内容に応じて、スロットルバルブ13又はEGR装置等を制御して、あらかじめ定められた複数の診断を実行する。それぞれの診断制御の処理のうち、燃料カット状態で行われる処理は燃料カット制御中に実行される。
【0059】
<4.制御装置の動作例>
次に、本実施形態に係るハイブリッド車両1の制御装置100によるコースト走行時のエンジンクラッチ23の切り離し制御処理を説明する。
【0060】
図3は、制御装置100によるエンジンクラッチ23の切り離し制御処理の一例を示すフローチャートである。
【0061】
まず、回生制御部121は、アクセルセンサ81及びブレーキセンサ83からの入力信号に基づいて、ハイブリッド車両1がコースト走行を開始したか否かを判別する(ステップS11)。例えば、回生制御部121は、ドライバがアクセルペダルの踏み込みを解除したか否かを判別する。回生制御部121は、ハイブリッド車両1がコースト走行を開始するまでステップS11の判定を繰り返す(S11/No)。
【0062】
回生制御部121は、ハイブリッド車両1がコースト走行を開始したと判定した場合(S11/Yes)、回生駆動を開始する(ステップS13)。具体的に、回生制御部121は、車速センサ85からの入力信号に基づいて得られる車速に応じてハイブリッド車両1の目標減速トルクを設定するとともに、エンジンクラッチ23の締結状態を考慮しつつ目標モータトルクを設定し、インバータ115を制御する。
【0063】
以降、回生駆動が継続される間、回生制御部121は、エンジンクラッチ23の締結状態においては目標減速トルクからエンジントルクを減算した値を目標モータトルクに設定してインバータ115を制御する。また、回生制御部121は、エンジンクラッチ23の解放状態においては目標減速トルクを目標モータトルクに設定してインバータ115を制御する。これにより、モータジェネレータ31の回生駆動が行われ、発電された電力がバッテリ117に充電される。
【0064】
次いで、燃料噴射制御部123は、エンジン11への燃料噴射を停止する(ステップS15)。具体的に、燃料噴射制御部123は、インジェクタ15への通電を停止して、インジェクタ15を閉弁状態に保持する。
【0065】
次いで、診断制御部131は、燃料カット状態を利用して実行される複数の診断の実行条件がすべて成立しているか否かを判別する(ステップS17)。本実施形態において、診断制御部131は、上記の診断(a)~(d)の実行条件がすべて成立しているか否かを判別する。複数の診断の実行条件の少なくとも一部が成立していない場合(S17/No)、クラッチ制御部125は、エンジンクラッチ23を速やかに解放状態にする(ステップS27)。具体的に、クラッチ制御部125は、バルブユニット113を制御することによりエンジンクラッチ23を解放させる。これにより、エンジン11が駆動輪47から切り離され、モータジェネレータ31による回生効率が向上する。
【0066】
一方、ステップS17において、複数の診断の実行条件がすべて成立している場合(S17/Yes)、ディレイ制御部129は、エンジンクラッチ23の解放を遅らせるクラッチ解放ディレイ要求を生成する(ステップS19)。これにより、クラッチ制御部125は、エンジンクラッチ23を締結状態で維持する。
【0067】
次いで、診断制御部131は、燃料カット状態を利用して実行される複数の診断の実行を開始する(ステップS21)。本実施形態において、診断制御部131は、上記の診断(a)~(d)の実行を開始する。
【0068】
次いで、ディレイ制御部129は、クラッチ解放許可条件が成立したか否かを判別する(ステップS23)。クラッチ解放許可条件は、例えば、上記の診断(a)~(d)において燃料カット状態で実行すべき制御に要する時間よりも長い時間にあらかじめ設定されたディレイ時間が経過することであってもよい。この場合、ディレイ制御部129は、診断処理の進行状態を監視する必要がないため、制御装置100の負荷を軽減することができる。あるいは、クラッチ解放許可条件は、上記の診断(a)~(d)において燃料カット状態で実行すべき処理が終了することであってもよい。この場合、実行すべき処理の終了に合わせて速やかにエンジンクラッチ23が解放されるため、エンジンクラッチ23の締結時間をできる限り少なくすることができる。
【0069】
クラッチ解放許可条件が成立していない場合(S23/No)、回生制御部121は、アクセルセンサ81からの入力信号に基づいて、アクセルペダルの踏み込みが行われたか否かを判別する(ステップS33)。アクセルペダルの踏み込みが引き続き解除されている場合(S33/No)、ステップS23に戻って、ディレイ制御部129は、クラッチ解放許可条件が成立したか否かの判定を繰り返す。一方、アクセルペダルの踏み込みが行われている場合(S33/Yes)、診断制御部131が診断の実行を中止し(ステップS35)、回生制御部121が回生駆動を終了させる(ステップS31)。
【0070】
一方、ステップS23において、クラッチ解放許可条件が成立している場合(S23/Yes)、ディレイ制御部129は、クラッチ解放ディレイ要求を解除する(ステップS25)。次いで、クラッチ制御部125は、エンジンクラッチ23を速やかに解放状態にする(ステップS27)。これにより、エンジン11が駆動輪47から切り離され、モータジェネレータ31による回生効率が向上する。
【0071】
次いで、回生制御部121は、アクセルセンサ81からの入力信号に基づいて、アクセルペダルの踏み込みが行われたか否かを判別する(ステップS29)。アクセルペダルの踏み込みが行われている場合(S29/Yes)、回生制御部121は、回生駆動を終了させる(ステップS31)。一方、アクセルペダルの踏み込みが引き続き解除されている場合(S29/No)、回生制御部121は、車速センサ85からの入力信号に基づいて、車速があらかじめ設定された閾値未満であるか否かを判別する(ステップS37)。閾値は、モータジェネレータ31による回生駆動を終了させるためにあらかじめ適切な値に設定される。
【0072】
車速が閾値以上である場合(S37/No)、回生制御部121は、ステップS29に戻って、アクセルペダルの踏み込みが行われたか否かの判定を繰り返す。一方、車速が閾値未満である場合(S37/Yes)、回生制御部121は、回生駆動を終了させる(ステップS31)。
【0073】
このようにして、ドライバがアクセルペダルの踏み込みを解除し、ハイブリッド車両1がコースト走行を開始した後に、モータジェネレータ31による回生駆動が行われる。この間、燃料カット状態を利用して行われる複数の診断の実行条件がすべて成立している場合にのみ、エンジンクラッチ23の解放ディレイ制御が行われ、少なくとも一部の実行条件が成立していない場合には、速やかにエンジンクラッチ23が解放される。したがって、コースト走行時にエンジンクラッチ23が締結状態で維持される時間が減少し、回生効率の向上が図られる。
【0074】
図4及び
図5は、本実施形態に係るハイブリッド車両1の制御装置100の制御処理による効果を示す説明図である。
図4は、本実施形態に係るハイブリッド車両1の制御装置100による制御方法を適用した場合のタイムチャートであり、
図5は、比較例のタイムチャートである。比較例は、複数の診断のすべての実行条件が成立していない場合であっても、それぞれの診断の実行条件が成立している場合に、エンジンクラッチ23の解放を遅らせる制御が実行される例である。
【0075】
ここでは、燃料カット状態を利用して3つの診断X,Y,Zが実行される場合を例に採って、本実施形態に係る制御方法においてエンジンクラッチ23が解放される時間と、比較例においてエンジンクラッチ23が解放される時間との違いを説明する。なお、3つの診断X,Y,Zは、それぞれ1ドライビングサイクルに1回実行されるものとする。
【0076】
ハイブリッド車両1の走行中、時刻t1において、アクセルペダルの踏み込みが解除される。時刻t1では、3つの診断のうちの診断Xの実行条件が成立している。このとき、本実施形態に係る制御方法では、診断Y,Zの実行条件が成立していないために、クラッチ解放ディレイ要求が生成されることなく、エンジンクラッチ23は速やかに解放される。この場合、実行条件が成立している診断Xは実行されない。その後、アクセルペダルが再び踏み込まれる時刻t3までの間、エンジンクラッチ23が解放され、時刻t3においてエンジンクラッチ23が締結される。
【0077】
時刻t4では、3つの診断のうちの2つの診断X,Yの実行条件が成立している。このとき、本実施形態に係る制御方法では、診断Zの実行条件が成立していないために、クラッチ解放ディレイ要求が生成されることなく、エンジンクラッチ23は速やかに解放される。この場合、実行条件が成立している診断X,Yは実行されない。その後、アクセルペダルが再び踏み込まれる時刻t6までの間、エンジンクラッチ23が解放され、時刻t6においてエンジンクラッチ23が締結される。
【0078】
時刻t7では、3つの診断X,Y,Zのすべての実行条件が成立している。このとき、本実施形態に係る制御方法では、クラッチ解放ディレイ要求が生成され、診断X,Y,Zにおいて燃料カット状態で実行すべき処理がすべて終了する時刻t8までの間、エンジンクラッチ23が締結状態で維持される。そして、すべての処理が終了した時刻t8において、クラッチ解放ディレイ要求が解除される。これにより、アクセルペダルが踏み込まれる時刻t9までの間、エンジンクラッチ23が解放され、時刻t9においてエンジンクラッチ23が締結される。
【0079】
一方、比較例では、時刻t1において、診断Y,Zの実行条件が成立していない場合であってもクラッチ解放ディレイ要求が生成され、診断Xの実行が終了する時刻t2までの間、エンジンクラッチ23が締結状態で維持される。そして、診断Xの実行が終了した時刻t2において、クラッチ解放ディレイ要求が解除される。これにより、アクセルペダルが踏み込まれる時刻t3までの間、エンジンクラッチ23が解放され、時刻t3においてエンジンクラッチ23が締結される。
【0080】
また、比較例では、時刻t4において、診断が終了していない2つの診断Y,Zのうちの診断Yの実行条件が成立すると、診断Zの実行条件が成立していない場合であってもクラッチ解放ディレイ要求が生成される。これにより、診断Yの実行が終了する時刻t5までの間、エンジンクラッチ23が締結状態で維持される。そして、診断Yの実行が終了した時刻t5において、クラッチ解放ディレイ要求が解除される。これにより、アクセルペダルが踏み込まれる時刻t6までの間、エンジンクラッチ23が解放され、時刻t6においてエンジンクラッチ23が締結される。
【0081】
また、比較例では、時刻t7において、診断が終了していない診断Zの実行条件が成立すると、クラッチ解放ディレイ要求が生成され、診断Zの実行が終了する時刻t8までの間、エンジンクラッチ23が締結状態で維持される。そして、診断Zの実行が終了した時刻t8において、クラッチ解放ディレイ要求が解除される。これにより、アクセルペダルが踏み込まれる時刻t9までの間、エンジンクラッチ23が解放され、時刻t9においてエンジンクラッチ23が締結される。
【0082】
このように、比較例では、ハイブリッド車両1がコースト走行を行う時刻t1~t3の期間、時刻t4~t6の期間及び時刻t7~t9の期間のうち、時刻t1~t2の期間、時刻t4~t5の期間及び時刻t7~t8の期間に解放ディレイ要求が生成される。
【0083】
これに対して、本実施形態に係る制御方法では、ハイブリッド車両1がコースト走行を行う時刻t1~t3の期間、時刻t4~t6の期間及び時刻t7~t9の期間のうち、時刻t7~t8の期間のみに解放ディレイ要求が生成される。したがって、ハイブリッド車両1のコースト走行中にエンジンクラッチ23が締結状態で維持される時間が短くなって、エンジンクラッチ23が解放される時間を延ばすことができる。これにより、本実施形態に係る制御方法では、ハイブリッド車両1のコースト走行時におけるモータジェネレータ31による回生効率を向上させることができる。
【0084】
以上説明したように、本実施形態に係るハイブリッド車両1の制御装置100によれば、ハイブリッド車両1の走行中にドライバがアクセルペダルの踏み込みを解除したときに、燃料カット状態を利用して行われる複数の診断のすべての実行条件が成立している場合にのみ、エンジンクラッチ23の解放を遅らせる。このため、モータジェネレータ31による回生駆動の実行中に、エンジンクラッチ23が締結状態で維持される時間を短くすることができる。これにより、回生駆動時にエンジン11に伝達される駆動輪47の運動エネルギが低減され、回生効率を向上させることができる。
【0085】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0086】
例えば、上記実施形態において車両の制御装置100は6つのコントローラを備えているが、本発明はかかる例に限定されない。上記のコントローラの一部又は全部の機能が1つのコントローラに統合されていてもよく、さらに複数のコントローラに分かれていてもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 ハイブリッド車両
11 エンジン
21 トルクコンバータ
23 エンジンクラッチ
25 無段変速機(CVT)
31 モータジェネレータ
47 駆動輪
100 車両の制御装置
121 回生制御部
123 燃料噴射制御部
125 クラッチ制御部
127 条件成立判定部
129 ディレイ制御部
131 診断制御部