(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】磁気検出装置及び磁気検出方法
(51)【国際特許分類】
G07D 7/04 20160101AFI20220802BHJP
G07D 7/00 20160101ALI20220802BHJP
G01R 33/02 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
G07D7/04
G07D7/00 J
G01R33/02 Q
(21)【出願番号】P 2018122035
(22)【出願日】2018-06-27
【審査請求日】2021-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001432
【氏名又は名称】グローリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】竹原 大貴
(72)【発明者】
【氏名】上山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】安達 和隆
【審査官】中村 泰二郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-257440(JP,A)
【文献】特開平06-096314(JP,A)
【文献】特表2008-521725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G07D 7/00- 7/207
G01R 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷物の磁気を検出する磁気検出装置であって、
印刷物を周面に保持して回転する金属製のドラム体と、
前記ドラム体の周面に対向して設けられ、印刷物の磁気を検出する磁気センサと、
前記ドラム体が第一の回転速度で回転し、かつ前記ドラム体の周面に印刷物が保持されていない状態での前記磁気センサの出力を第一の差分演算処理用基準データとして記憶する記憶部と、
前記ドラム体が前記第一の回転速度で回転し、かつ前記ドラム体の周面に印刷物が保持されている状態での前記磁気センサの出力を第一の検出データとして取得し、前記第一の検出データから前記記憶部に記憶された前記第一の差分演算処理用基準データを差し引くことにより前記ドラム体に保持された前記印刷物に関する磁気データを算出する制御部と、を備えることを特徴とする磁気検出装置。
【請求項2】
前記記憶部は、前記ドラム体の回転速度が変化するごとに、前記ドラム体の周面に印刷物が保持されていない状態での前記磁気センサの出力を前記第一の差分演算処理用基準データとして記憶することを特徴とする請求項1記載の磁気検出装置。
【請求項3】
前記磁気センサは、印刷物の磁気とともに前記ドラム体の誘導磁界を検出することを特徴とする請求項1又は2記載の磁気検出装置。
【請求項4】
前記第一の差分演算処理用基準データは、前記ドラム体に関する磁気データを含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の磁気検出装置。
【請求項5】
前記記憶部は、周面に印刷物を保持していない前記ドラム体が前記第一の回転速度と異なる複数の回転速度で回転している状態での前記磁気センサの出力である参照データに基づいて算出された前記ドラム体の回転速度に応じた前記磁気センサの出力の関数を記憶し、
前記制御部は、前記関数に基づいて、周面に印刷物を保持していない前記ドラム体が第二の回転速度で回転したときの前記磁気センサの出力を第二の差分演算処理用基準データとして算出するとともに、前記第二の回転速度で回転する前記ドラム体の周面に印刷物が保持された状態での前記磁気センサの出力を第二の検出データとして取得し、前記第二の検出データから前記第二の差分演算処理用基準データを差し引くことにより前記ドラム体に保持された前記印刷物に関する磁気データを算出することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の磁気検出装置。
【請求項6】
前記記憶部は、前記参照データを記憶することを特徴とする請求項5記載の磁気検出装置。
【請求項7】
前記制御部は、算出した前記印刷物に関する磁気データを判定用基準データと比較することにより前記印刷物が磁気を有するか否かを判定することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の磁気検出装置。
【請求項8】
前記ドラム体に保持された前記印刷物は、複数行及び複数列にわたって複数の小切れ面が配列された大判シートであり、
前記制御部は、算出した前記大判シートに関する磁気データを前記小切れ面単位で前記判定用基準データと比較することにより1以上の小切れ面が磁気を有するか否かを判定することを特徴とする請求項7記載の磁気検出装置。
【請求項9】
前記制御部は、算出した前記大判シートに関する磁気データを前記小切れ面単位で前記判定用基準データと比較することにより前記各小切れ面が磁気を有するか否かを判定するとともに、磁気を有すると判定した小切れ面の数を所定の閾値と比較することにより前記大判シートが磁気を有するか否かを判定することを特徴とする請求項8記載の磁気検出装置。
【請求項10】
前記ドラム体に保持された前記印刷物は、複数行及び複数列にわたって複数の小切れ面が配列された大判シートであり、
前記制御部は、算出した前記大判シートに関する磁気データを前記小切れ面単位に分割し、2以上の小切れ面に関する磁気データを平均化することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の磁気検出装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記大判シート全体、同一行ごと、又は同一列ごとのいずれかにおいて、複数の小切れ面に関する磁気データを平均化することを特徴とする請求項10記載の磁気検出装置。
【請求項12】
前記制御部は、平均化した磁気データを判定用基準データと比較することにより前記2以上の小切れ面が磁気を有するか否かを判定することを特徴とする請求項10又は11記載の磁気検出装置。
【請求項13】
印刷物を周面に保持して回転する金属製のドラム体の周面に対向して設けられた磁気センサにより印刷物の磁気を検出する磁気検出方法であって、
前記ドラム体が所定の回転速度で回転し、かつ前記ドラム体の周面に印刷物が保持されていない状態での磁気センサの出力を差分演算処理用基準データとして記憶する差分演算処理用基準データ記憶ステップと、
前記ドラム体が前記所定の回転速度で回転し、かつ前記ドラム体の周面に印刷物が保持されている状態での前記磁気センサの出力を検出データとして取得する検出データ取得ステップと、
前記検出データから前記差分演算処理用基準データを差し引くことにより前記ドラム体に保持された前記印刷物に関する磁気データを算出する差分演算処理ステップと、を備えることを特徴とする磁気検出方法。
【請求項14】
前記差分演算処理用基準データ記憶ステップは、前記ドラム体の回転速度が変化するごとに前記磁気センサにより検出された出力を前記差分演算処理用基準データとして記憶するステップを含むことを特徴とする請求項13記載の磁気検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気検出装置及び磁気検出方法に関する。より詳しくは、回転する金属製のドラム体の周面に保持された印刷物の磁気を検出するのに好適な磁気検出装置及び磁気検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙幣等の紙葉類を印刷する際に小切れを複数並べて大判シート上に印刷し、その印刷された大判シートを検査する検査機が知られている。
【0003】
また、紙幣等の紙葉類は、偽造防止のために磁性材料を含む磁気インクを用いて磁気情報が印刷されており、紙葉類の印刷工程では、印刷された磁気情報の有無や品質を検査する必要がある。
【0004】
印刷物に印刷された磁気情報は、肉眼で見ても分からないため、その検査には一般的に磁気を検出する磁気センサが用いられ、磁気センサによって磁気情報が取得される。磁気情報の検査を安定して高精度で行うためには、磁気センサによる磁気検出においてノイズを軽減する必要がある。
【0005】
特許文献1の第1の実施形態には、媒体の磁気情報を検出する磁気情報検出装置が開示されており、予め媒体を搬送していない状態で搬送ベルトに関する磁気情報をノイズ成分として記憶しておき、搬送ベルトによって搬送されている媒体の磁気情報から記憶していたノイズ成分を差し引くことで、磁気情報のノイズを軽減するという技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、大判シート印刷用の印刷機の搬送胴等のドラム体は、導電材料(電気導電体、通常は金属)を用いて形成されるため、印刷機で印刷された磁気情報を磁気センサにより検出する際に渦電流が発生し、渦電流に起因する磁界、すなわち誘導磁界がノイズとして発生し、安定した磁気検査を行うことができない。また、誘導磁界の強度は、ドラム体の回転速度の増加に伴い大きくなるため、ドラム体自体の傷やドラム体表面の凹み等の傷も明瞭に検出されてしまう。なお、樹脂製ドラムは、加工精度が悪く、また熱膨張係数が大きいため、寸法精度が求められる大判シート検査用ドラム体には適さない。
【0008】
また、大判シートの磁気インク印刷の検査は、大判シートの印刷機に組み込まれ、インラインで行われることが好ましいが、大判シート用の印刷機は、通常、低速搬送で印刷条件を調整し、仕上り状況に応じて搬送速度を高くしていく運用がなされるため、大判シートの磁気検査には、印刷速度、すなわち大判シートの搬送速度の変化に対応した手段が必要となる。
【0009】
それに対して、特許文献1の第1の実施形態に記載の磁気情報検出装置では、記憶されるノイズ成分で削除できるのは、搬送ベルトに付着した磁気ゴミに関する磁気情報のみである。つまり、媒体搬送(ベルト移動)に同期しない情報は削除できない。上述のように、大判シートの磁気検査の場合は、導電材料を含むドラム体を使用するため、誘導磁界ノイズが検出されるが、これはドラム体の回転速度によって大きく変化するため、媒体搬送には同期しないバックノイズとなる。したがって、特許文献1の第1の実施形態に記載の技術は、ドラム体による誘導磁界ノイズに対応することができない。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、金属製のドラム体で搬送される印刷物の磁気情報を安定的に、かつ高精度で検出することができる磁気検出装置及び磁気検出方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、印刷物の磁気を検出する磁気検出装置であって、印刷物を周面に保持して回転する金属製のドラム体と、前記ドラム体の周面に対向して設けられ、印刷物の磁気を検出する磁気センサと、前記ドラム体が第一の回転速度で回転し、かつ前記ドラム体の周面に印刷物が保持されていない状態での前記磁気センサの出力を第一の差分演算処理用基準データとして記憶する記憶部と、前記ドラム体が前記第一の回転速度で回転し、かつ前記ドラム体の周面に印刷物が保持されている状態での前記磁気センサの出力を第一の検出データとして取得し、前記第一の検出データから前記記憶部に記憶された前記第一の差分演算処理用基準データを差し引くことにより前記ドラム体に保持された前記印刷物に関する磁気データを算出する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記発明において、前記記憶部は、前記ドラム体の回転速度が変化するごとに、前記ドラム体の周面に印刷物が保持されていない状態での前記磁気センサの出力を前記第一の差分演算処理用基準データとして記憶することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記発明において、前記磁気センサは、印刷物の磁気とともに前記ドラム体の誘導磁界を検出することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記発明において、前記第一の差分演算処理用基準データは、前記ドラム体に関する磁気データを含むことを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記発明において、前記記憶部は、周面に印刷物を保持していない前記ドラム体が前記第一の回転速度と異なる複数の回転速度で回転している状態での前記磁気センサの出力である参照データに基づいて算出された前記ドラム体の回転速度に応じた前記磁気センサの出力の関数を記憶し、前記制御部は、前記関数に基づいて、周面に印刷物を保持していない前記ドラム体が第二の回転速度で回転したときの前記磁気センサの出力を第二の差分演算処理用基準データとして算出するとともに、前記第二の回転速度で回転する前記ドラム体の周面に印刷物が保持された状態での前記磁気センサの出力を第二の検出データとして取得し、前記第二の検出データから前記第二の差分演算処理用基準データを差し引くことにより前記ドラム体に保持された前記印刷物に関する磁気データを算出することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、上記発明において、前記記憶部は、前記参照データを記憶することを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、上記発明において、前記制御部は、算出した前記印刷物に関する磁気データを判定用基準データと比較することにより前記印刷物が磁気を有するか否かを判定することを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、上記発明において、前記ドラム体に保持された前記印刷物は、複数行及び複数列にわたって複数の小切れ面が配列された大判シートであり、前記制御部は、算出した前記大判シートに関する磁気データを前記小切れ面単位で前記判定用基準データと比較することにより1以上の小切れ面が磁気を有するか否かを判定することを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、上記発明において、前記制御部は、算出した前記大判シートに関する磁気データを前記小切れ面単位で前記判定用基準データと比較することにより前記各小切れ面が磁気を有するか否かを判定するとともに、磁気を有すると判定した小切れ面の数を所定の閾値と比較することにより前記大判シートが磁気を有するか否かを判定することを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、上記発明において、前記ドラム体に保持された前記印刷物は、複数行及び複数列にわたって複数の小切れ面が配列された大判シートであり、前記制御部は、算出した前記大判シートに関する磁気データを前記小切れ面単位に分割し、2以上の小切れ面に関する磁気データを平均化することを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、上記発明において、前記制御部は、前記大判シート全体、同一行ごと、又は同一列ごとのいずれかにおいて、複数の小切れ面に関する磁気データを平均化することを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、上記発明において、前記制御部は、平均化した磁気データを判定用基準データと比較することにより前記2以上の小切れ面が磁気を有するか否かを判定することを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、ドラム体の周面に対向して設けられた磁気センサにより印刷物の磁気を検出する磁気検出方法であって、ドラム体が所定の回転速度で回転し、かつ前記ドラム体の周面に印刷物が保持されていない状態での磁気センサの出力を差分演算処理用基準データとして記憶する差分演算処理用基準データ記憶ステップと、前記ドラム体が前記所定の回転速度で回転し、かつ前記ドラム体の周面に印刷物が保持されている状態での前記磁気センサの出力を検出データとして取得する検出データ取得ステップと、前記検出データから前記差分演算処理用基準データを差し引くことにより前記ドラム体に保持された前記印刷物に関する磁気データを算出する差分演算処理ステップと、を備えることを特徴とする。
【0024】
また、本発明は、上記発明において、前記差分演算処理用基準データ記憶ステップは、前記ドラム体の回転速度が変化するごとに前記磁気センサにより検出された出力を前記差分演算処理用基準データとして記憶するステップを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の磁気検出装置及び磁気検出方法によれば、金属製のドラム体で搬送される印刷物の磁気情報を安定的に、かつ高精度で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施形態1に係る磁気検出装置によって磁気検出される大判紙幣の一例を示す平面模式図である。
【
図2】本発明者らが作製した実験装置が備える試験台の断面模式図である。
【
図3】
図2に示した試験台上に磁気印刷媒体をおいて磁気ラインセンサユニットにより磁気検出を行った結果を示し、左側に得られた検出画像を、右側に検出画像中の破線上のチャンネル波形を、それぞれ示す。
【
図4】
図2に示した試験台上に磁気印刷媒体をおいて磁気検出したときの誘導磁界ノイズ除去の様子を示す。
【
図5】実施形態1に係る磁気検出装置の概略図である。
【
図6】実施形態1に係る磁気ラインセンサユニットの平面模式図である。
【
図7】実施形態1に係る磁気検出装置の構成を示すブロック図である。
【
図8】実施形態1におけるドラム体の回転速度の制御例を示す図である。
【
図9】実施形態2に係る磁気検出装置の構成を示すブロック図である。
【
図10】実施形態3に係る磁気検出装置の構成を示すブロック図である。
【
図11】実施形態3に係る磁気検出方法(判定処理無し)の概要を示す模式図である。
【
図12】実施形態3に係る磁気検出装置の別の構成を示すブロック図である。
【
図13】実施形態3に係る磁気検出方法(判定処理有り)の概要を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る磁気検出装置及び磁気検出方法の好適な実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0028】
本発明の対象となる印刷物としては、紙幣(銀行券)、小切手、商品券、手形、帳票、有価証券、カード状媒体等の印刷物(以下、小切れとも言う。)、及び、これらの小切れが複数印刷された大判の印刷物(以下、大判シートとも言う。)等が適用可能である。また、本発明の対象となる印刷物に用いられる基材は、植物繊維を素材にした紙が一般的であるが、耐久性や耐水性、セキュリティ性等の向上を目的として、合成繊維を素材とした紙や、合成樹脂のシートであるポリマーシートが用いられてもよい。ポリマーシートから作られた紙幣は、ポリマー紙幣と呼ばれる。以下においては、紙幣を対象とする装置及び方法を例として、本発明を説明する。
【0029】
一般的に、紙幣の印刷は、複数の紙幣が同時に印刷できる大判シートで行う。紙幣が完成するまでには、複数の紙幣で共通の図柄を印刷する工程と、図柄の印刷品質を検査する工程と、紙幣毎に異なる記番号を印刷する工程と、記番号の印刷品質を検査する工程と、大判シートを各紙幣に裁断する工程と、裁断された紙幣(小切れ)を検査する工程とがある。以下では、本発明に係る紙幣の磁気検出について説明するが、本発明は、大判シートの状態で図柄又は記番号の印刷品質を検査する工程と、小切れの状態で図柄又は記番号の印刷品質を検査する工程とのいずれにも適用可能である。
【0030】
また、図柄の印刷工程と、本発明に係る紙幣の磁気検出工程とは、同一の装置で行ってもよいし、別の装置で行ってもよい。同様に、記番号の印刷工程と、本発明に係る紙幣の磁気検出工程とは、同一の装置で行ってもよいし、別の装置で行ってもよい。例えば、図柄又は記番号を印刷する印刷部と図柄又は記番号の磁気を検出する磁気検出装置とを備えた装置で行ってもよい。一方、印刷部を備えない磁気検出装置で行ってもよい。
【0031】
以下では、印刷部と磁気検出装置とを備えた大判紙幣用の図柄又は記番号の印刷装置の、特に大判紙幣の磁気を検出する磁気検出装置を例として、本発明を説明する。
【0032】
<実施形態1>
本実施形態に係る磁気検出装置は、縦横に複数の小切れ(紙幣)が印刷された大判紙幣の磁気検出装置であり、大判紙幣の図柄又は記番号の印刷装置に設置されている。そして、図柄又は記番号の印刷装置のドラム体の周面に保持されている大判紙幣の磁気画像を取得し、基準画像と比較する。
【0033】
本実施形態に係る磁気検出装置によって磁気が検出される大判紙幣110は、
図1に示すように、複数の小切れ面(紙幣面)111が縦横に印刷された大判の印刷物(大判シート)であり、各小切れ面111には、磁気インクで印刷された図柄及び/又は記番号が印刷装置によって印刷されている。なお、記番号は、紙幣を1枚毎に区別するための固有の通し番号であり、文字、数字等の記号から構成されており、それらの記号自体の情報と、それらの記号の色情報とを有しており、これらの情報によって各紙幣が区別される。
【0034】
大判紙幣110の可視光画像を撮像すると、可視光画像には可視光吸収インクで印刷された図柄及び/又は記番号が存在しており、可視光画像により、それらの位置ずれやかすれ等の印刷品質は検査できる。しかしながら、可視光画像では磁気は検出できない。そこで、本実施形態に係る磁気検出装置は、大判紙幣110の磁気画像を取得可能なように構成されている。
【0035】
なお、本明細書において、「磁気画像」とは、磁気センサによって被検出媒体から取得した磁気データ、すなわち磁気センサの出力に基づく画像を意味する。また、「磁気センサの出力」とは、磁気センサの出力(磁気データ)そのもののみならず、その出力に基づくデータ全般(好適には画像データ)をも包含するものとする。
【0036】
ここでまず、本実施形態のポイントについて説明する。
【0037】
磁気センサと金属製(例えばアルミ製)のドラム体との間で発生する誘導磁界の強度は、ドラム体の回転速度の増加に伴い大きくなり、ドラム体に形成された溝のエッジ部で急峻に増大する。また、ドラム体の表面の凹みや傷等も明瞭に検出される。これらは大判紙幣110の磁気信号の100倍以上あり、大判紙幣110の磁気検査の課題となっていた。
【0038】
このような課題を解決する本実施形態のポイントは以下の通りである。
(1)ドラム体の回転速度が一定になった時点において、大判紙幣110を搬送しない状態で磁気センサにより差分演算処理用基準データとして磁気画像(オフセット画像)を取得して記憶部に記憶しておき、その後、その回転速度で回転するドラム体で大判紙幣110を搬送して磁気センサにより検出データとして磁気画像(検出画像)を取得し、この検出画像と先のオフセット画像との間の差分演算処理により大判紙幣110に関する磁気データ(ターゲット画像)を得る。
(2)上記(1)の処理をドラム体の回転速度毎(回転速度が変化する度)に行う。
(3)オフセット画像は、ドラム体の回転速度が同じであれば、事前に採取したものであってもよい。
【0039】
上記(1)の処理において、
ターゲット画像(不要なバックノイズが削除されたデータ)=検出画像-オフセット画像
検出画像=大判紙幣110の磁気検出信号+ドラム体の誘導磁界検出信号+ドラム体に付着した磁気ゴミ検出信号
オフセット画像=ドラム体の誘導磁界検出信号+ドラム体に付着した磁気ゴミ検出信号
となる。
【0040】
次に、
図2及び3を用いて、本発明者らが作製した実験装置における誘導磁界発生の様子について説明する。
【0041】
図2に示すように、用いた試験台120は、鉄ネジ122が固定されたアルミニウム板121(厚さ10mm)と、アルミニウム板121上に配置され、2枚のアルミニウム板が互いに溶接され、溶接部124にて接合されたアルミニウム板123(厚さ10mm)とを有しており、アルミニウム板123上に磁気印刷媒体125を配置した。
【0042】
用いた磁気印刷媒体125は、磁気インクにより大小2つの「500」の文字を紙片上に印刷した実験用サンプルであり、後述する磁気ラインセンサユニットの下を試験台120を400~500mm/秒で水平移動させながら磁気ラインセンサユニットにより磁気検出し、その出力から磁気画像を作成し、検出画像とした。
【0043】
その結果、
図3に示すように、検出画像(磁気印刷媒体あり)では、アルミニウム板123のエッジ部に起因する誘導磁界ノイズ126が大きく、明瞭に検出されてしまい、また、アルミニウム板123の下の鉄ネジ122の検出信号127も検出されてしまう。更に、アルミニウム板123の溶接部124の検出信号128もわずかながら検出されてしまう。他方、磁気印刷媒体125の「500」の文字の検出信号129も検出されているが、非常に弱い。
【0044】
次に、
図4を用いて、試験台120上に磁気印刷媒体125をおいて検出したときの誘導磁界ノイズ除去の様子を示す。
【0045】
まず、試験台120上に磁気印刷媒体125を配置せずに、上記磁気ラインセンサの下を試験台120を検出画像の場合と同じ速度で水平移動させながら上記磁気ラインセンサにより磁気検出し、その出力から磁気画像を作成し、オフセット画像とした。
【0046】
その結果、
図4に示すように、オフセット画像(磁気印刷媒体なし)においても、検出画像(磁気印刷媒体あり)と同様に、アルミニウム板123のエッジ部に起因する誘導磁界ノイズ126が明瞭に検出されるとともに、鉄ネジ122の検出信号127が検出され、更に、アルミニウム板123の溶接部124の検出信号128もわずかながら検出された。
【0047】
それに対して、検出画像からオフセット画像を差し引いて増幅処理したターゲット画像(差分画像)では、アルミニウム板123のエッジ部に起因する誘導磁界ノイズ126と、鉄ネジ122の検出信号127と、アルミニウム板123の溶接部124の検出信号128とは確認できず、磁気印刷媒体125の「500」の文字の検出信号129のみを明瞭に検出することができた。
【0048】
以上より、本実施形態によれば、金属製のドラム体の回転により発生する不要なバックノイズ(誘導磁界ノイズ)が削除された大判紙幣110に関する磁気データが得られ、搬送される大判紙幣110の磁気情報を安定的に、かつ高精度で検出可能である。
【0049】
以下、本実施形態に係る磁気検出装置101の構成について説明する。
【0050】
図5に示すように、本実施形態に係る磁気検出装置101は、大判紙幣110を搬送する金属製のドラム体(以下、単にドラム)10、11及び12と、ドラム11の周面に対向配置された磁気ラインセンサユニット20と、ドラム11の内側であって磁気ラインセンサユニット20に対向する位置に配置され、ドラム11によって搬送される大判紙幣110の先頭位置を検出するトリガ13と、ドラム11に接続されたロータリエンコーダ14と、を備えている。
【0051】
各ドラム10、11、12は、金属(例えばアルミニウム)から形成された円筒部を備え、円筒部の表面、すなわち周面(外周面)が形成されている。なお、円筒部の円周方向の一部は、欠けていてもよい。各ドラム10、11、12の周面には大判紙幣110を保持する保持機構(図示せず)が設けられており、周面上の所定の位置に大判紙幣110を保持可能なように構成されている。各ドラム10、11、12は、任意の速度で回転するように磁気検出装置101によって制御されている。
【0052】
図6に示すように、磁気ラインセンサユニット20は、主走査方向(大判紙幣110の搬送方向に対して直交する方向)に千鳥状に配置された複数の磁気ラインセンサ21と、複数の磁気ラインセンサ21が固定される筐体22と、筐体22内に設けられ、磁気ラインセンサ21を制御する制御基板23と、を備え、大判紙幣110の磁気を検出する。
【0053】
磁気ラインセンサユニット20は、ドラム11の軸方向にライン状に配置されている。磁気ラインセンサユニット20の主走査方向の検出幅は、ドラム11の周面の幅に対して長く、大判紙幣110に印刷された磁気インクによる磁気情報を大判紙幣110の全面で検出する。
【0054】
各磁気ラインセンサ21は、主走査方向にライン状に配列された複数の磁気センサ素子を有する多チャンネルのセンサであり、各磁気センサ素子で取得した磁気データを出力する。全ての磁気ラインセンサ21に含まれる磁気センサ素子は、主走査方向に等ピッチで配置されている。
【0055】
図7に示すように、磁気検出装置101は、複数の磁気ラインセンサ21を備える磁気ラインセンサユニット20と、制御部30としてのパーソナルコンピュータ40及び制御回路50と、ロータリエンコーダ14と、トリガ13と、を備えている。
【0056】
制御回路50は、FPGA(Field Programmable Gate Array)等の論理デバイスから構成されており、データ集約回路51を含んでいる。
【0057】
データ集約回路51は、各磁気ラインセンサ21の出力(磁気データ)をデジタル変換するとともに1枚の大判紙幣110につき1つの画像データに集約し、パーソナルコンピュータ40に出力する。
【0058】
パーソナルコンピュータ40は、ロータリエンコーダ14からのパルス信号に基づいてドラム11の回転速度を監視する速度モニタ41と、ロータリエンコーダ14からのパルス信号と、トリガ13からのトリガ信号と、速度モニタ41から出力されたドラム11の回転速度とに基づいて、各磁気ラインセンサ21が磁気データを取得するタイミングを制御するデータ取得制御部42と、データ集約回路51から出力された画像データとして、後述するオフセット画像を記憶する記憶部43と、差分演算処理を行い、ターゲット画像を生成する差分演算部44と、を備えている。
【0059】
記憶部43には、所定の回転速度でドラム11が回転し、かつドラム11の周面に大判紙幣110が保持されていない状態での各磁気ラインセンサ21の出力(磁気データ)から生成された磁気画像、すなわちオフセット画像が差分演算処理用基準データとして保存される。記憶部43に保存されるオフセット画像は、磁気インクによる印刷が適切に行われた基準大判紙幣から検出した磁気データに基づいて作成されたものである。この基準画像は、誘導磁界ノイズの効果的な除去と効率性との観点から、磁気検出装置101の各磁気ラインセンサ21によって検出された磁気データに基づいて作成されるが、他の磁気センサによって検出された磁気データに基づいて作成されてもよい。
【0060】
差分演算部44には、上記所定の回転速度でドラム11が回転し、かつドラム11の周面に大判紙幣110が保持された状態での各磁気ラインセンサ21の出力(磁気データ)から生成された磁気画像、すなわち検出画像が検出データとしてデータ集約回路51から入力される。そして、差分演算部44は、データ集約回路51から入力された検出画像から記憶部43に保存されたオフセット画像を差し引く差分演算処理を行い、ターゲット画像を生成し、出力する。ターゲット画像は、上述のように、ドラム11の回転による誘導磁界ノイズ等の不要なバックノイズが除去され、大判紙幣110(ほぼ大判紙幣110のみ)に関する磁気データから構成される。
【0061】
次に、
図8を用いて、本実施形態に係る磁気検出装置101の動作、及び本実施形態に係る磁気検出方法の処理フローを説明する。
【0062】
図8に示すように、まず、ドラム10~12によって大判紙幣110を搬送しない状態でドラム10~12の回転速度を所定の回転速度n1まで徐々に上げていく(ドラム加速ステップ)。
【0063】
次に、回転速度n1で回転しているドラム10~12に大判紙幣110を搬送しない状態で、ロータリエンコーダ14の出力パルスのタイミングに合わせて、ドラム11の周面全幅に対向する磁気ラインセンサユニット20によって磁気データを所定のライン数だけ検出し、その出力に基づいてオフセット画像Aを生成し、記憶部43に記憶する(差分演算処理用基準データ記憶ステップ)。
【0064】
次に、回転速度n1で回転しているドラム10~12によって複数の大判紙幣110を順次搬送する。各大判紙幣110は、各ドラム10、11、12の保持機構によって各ドラム10、11、12の周面上の所定の位置を搬送される。そして、順次搬送される各大判紙幣110について以下の処理を行う。すなわち、大判紙幣110の先頭位置がトリガ13上に到達し、トリガ13からのトリガ信号を受信したタイミングから、ロータリエンコーダ14の出力パルスのタイミングに合わせて、磁気ラインセンサユニット20によって磁気データを所定のライン数だけ検出し、その出力に基づいて検出画像Aを生成する(検出データ取得ステップ)。これにより、ドラム11上の常に同じ位置で検出画像Aを取得する。その後、検出画像Aからオフセット画像Aを差し引くことによりドラム11に保持された大判紙幣110のターゲット画像Aを生成する(差分演算処理ステップ)。
【0065】
次に、ドラム10~12によって大判紙幣110を搬送しない状態でドラム10~12の回転速度を所定の回転速度n2まで徐々に上げていく(ドラム加速ステップ)。
【0066】
次に、回転速度n2で回転しているドラム10~12に大判紙幣110を搬送しない状態で、ロータリエンコーダ14の出力パルスのタイミングに合わせて、磁気ラインセンサユニット20によって磁気データを所定のライン数だけ検出し、その出力に基づいてオフセット画像Bを生成し、記憶部43に記憶する(差分演算処理用基準データ記憶ステップ)。
【0067】
次に、回転速度n2で回転しているドラム10~12によって複数の大判紙幣110を順次搬送する。各大判紙幣110は、各ドラム10、11、12の保持機構によって各ドラム10、11、12の周面上の所定の位置を搬送される。そして、回転速度n1の場合と同様にして、順次搬送される各大判紙幣110について以下の処理を行う。すなわち、大判紙幣110の先頭位置がトリガ13上に到達し、トリガ13からのトリガ信号を受信したタイミングから、ロータリエンコーダ14の出力パルスのタイミングに合わせて、磁気ラインセンサユニット20によって磁気データを所定のライン数だけ検出し、その出力に基づいて検出画像Bを生成する(検出データ取得ステップ)。その後、検出画像Bからオフセット画像Bを差し引くことによりドラム11に保持された大判紙幣110のターゲット画像Bを生成する(差分演算処理ステップ)。
【0068】
その後、必要に応じて、上述した、ドラム加速ステップ、差分演算処理用基準データ記憶ステップ、検出データ取得ステップ、及び差分演算処理ステップを繰り返していく。
【0069】
このように、本実施形態に係る磁気検出装置101、及び本実施形態に係る磁気検出方法によれば、ドラム11の回転速度によらず、ドラム11の回転による誘導磁界ノイズ等の不要なバックノイズが除去されたターゲット画像を大判紙幣110に関する磁気データとして取得可能であるため、ドラム11で搬送される大判紙幣110の磁気情報を安定的に、かつ高精度で検出することができる。
【0070】
また、記憶部43(差分演算処理用基準データ記憶ステップ)は、ドラム11の回転速度が変化するごとに、ドラム11の周面に大判紙幣110が保持されていない状態での磁気ラインセンサユニット20の出力に基づく磁気画像(オフセット画像)を差分演算処理用基準データとして記憶することから、ドラム11の回転速度が変化する度に、大判紙幣110に印刷された磁気情報を安定的に、かつ高精度で検出することができる。また、オフセット画像を予め取得しておく場合に比べて、より精度の良いオフセット画像を得ることができるため、大判紙幣110に印刷された磁気情報をより安定的に、かつより高精度で検出することができる。
【0071】
このように、オフセット画像の精度を向上する観点からは、ドラム11が一定の回転速度で回転している状態で複数のオフセット画像を取得し、それらのオフセット画像を平均化した画像を用いてもよい。
【0072】
なお、特許文献1の第2の実施形態には、搬送ベルトに沿って、媒体の磁気検出用のセンサに加えて、搬送ベルト上のノイズ成分だけを検出するノイズセンサを別途設け、磁気検出用のセンサで検出された、ノイズ成分を含む媒体の磁気情報から、ノイズセンサで検出されたノイズ成分を除去する磁気情報検出装置が記載されている。しかしながら、この装置では、磁気検出用のセンサとノイズセンサとの間の出力のばらつき等の性能の不一致に起因して、正確にノイズ除去できない場合が有る。
【0073】
それに対して、本実施形態では、オフセット画像作成のための磁気データ採取と、検出画像作成のための磁気データ採取とを同じ磁気ラインセンサユニット20で行うため、ドラム11の回転による誘導磁界ノイズ等の不要なバックノイズを効果的に除去することができる。
【0074】
<実施形態2>
本実施形態では、本実施形態に特有の特徴について主に説明し、実施形態1と重複する内容についての詳細な説明は省略する。また、本実施形態と実施形態1とにおいて、同一又は同様の機能を有する部材には同一の符号を付し、本実施形態において、その部材の詳細な説明は省略する。
【0075】
紙幣等の紙葉類の偽造防止手段として磁気インクは有効であるが、一方で、大判紙幣の印刷工程においてインクの入れ間違いが発生しやすく、これを検査する必要がある。しかしながら、磁気インクを用いた大判紙幣は、室内光で肉眼で見ても磁気インクに関する印刷品質の検査ができないため、その製造工程において、インクの入れ間違いを発見するためには特別な方法が必要となる。本実施形態と、後述する実施形態3とは、そのような大判紙幣の製造工程におけるインクの入れ間違いを発見するのに好適である。
【0076】
図9に示すように、本実施形態に係る磁気検出装置102では、制御部30としてのパーソナルコンピュータ40が、ターゲット画像に基づいて大判紙幣110の磁気の有無を判定する判定処理部45を更に備えている。また、記憶部43には、磁気インクにより印刷される適正な図柄や記番号を表した判定用基準データとしてのテンプレート画像が保存されている。判定処理部45は、差分演算部44が算出した大判紙幣110に関するターゲット画像をテンプレート画像と比較することにより大判紙幣110が磁気を有するか否かを判定する。これにより、磁気検出装置102によって、大判紙幣110の磁気印刷の有無を検査することができる。詳細には、ターゲット画像とテンプレート画像とをテンプレートマッチングの手法を用いて照合して、テンプレート画像との類似度が所定の閾値を超える領域がターゲット画像内に存在する場合は、大判紙幣110は、磁気インクで印刷された(正常)と判定し、テンプレート画像との類似度が所定の閾値を超える領域がターゲット画像内に存在しない場合は、大判紙幣110は、磁気インクで印刷されていない(異常)と判定する。
【0077】
ここで、判定処理部45は、差分演算部44が算出した大判紙幣110に関するターゲット画像を小切れ面111単位でテンプレート画像と比較することにより1以上の小切れ面111(好ましくは1枚の大判紙幣110に係る全ての小切れ面111)が磁気を有するか否かを判定してもよい。これにより、磁気検出装置102によって、小切れ面111単位で大判紙幣110が磁気印刷されているか否かを検査することができる。
【0078】
また、判定処理部45は、差分演算部44が算出した大判紙幣110に関するターゲット画像を小切れ面111単位でテンプレート画像と比較することにより各小切れ面111が磁気を有するか否かを判定するとともに、磁気を有すると判定した小切れ面111の数を所定の閾値と比較することにより大判紙幣110が磁気を有するか否かを判定してもよい。これにより、大判紙幣110の波打ちにより、小切れ面111毎に磁気センサ素子までの距離が異なり、磁気ラインセンサユニット20からの出力レベルが高い領域と低い領域とが大判紙幣110内で混在する場合であっても、磁気検出装置102によって、大判紙幣110の磁気印刷の有無を検査することができる。詳細には、判定処理部45は、上述のテンプレートマッチングの手法により、差分演算部44が算出した大判紙幣110に関するターゲット画像を小切れ面111単位でテンプレート画像と比較することにより各小切れ面111(大判紙幣110)が磁気を有するか否かを判定し、磁気を有すると判定された小切れ面111の枚数をカウントする。そして、判定処理部45は、1枚の大判紙幣110につき磁気を有すると判定された小切れ面111の合計枚数を所定の閾値と比較し、合計枚数が所定の閾値を超える場合は、大判紙幣110は、磁気インクで印刷された(正常)と判定し、合計枚数が所定の閾値以下である場合は、大判紙幣110は、磁気インクで印刷されていない(異常)と判定する。
【0079】
<実施形態3>
本実施形態では、本実施形態に特有の特徴について主に説明し、実施形態1、2と重複する内容についての詳細な説明は省略する。また、本実施形態と実施形態1、2とにおいて、同一又は同様の機能を有する部材には同一の符号を付し、本実施形態において、その部材の詳細な説明は省略する。
【0080】
図10に示すように、本実施形態に係る磁気検出装置103では、制御部30としてのパーソナルコンピュータ40が、分割処理部46a及び平均化処理部46bを有している。
【0081】
図11に示すように、分割処理部46aは、差分演算部44によって生成された大判紙幣110全体に関するターゲット画像を小切れ面111単位に分割し、各小切れ面111に関する磁気画像(以下、小切れ画像)を生成する。
【0082】
平均化処理部46bは、2以上の小切れ画像を平均化する。これにより、磁気インクに起因する信号部が主に残り、ノイズは軽減されることから、平均化された画像を用いて、2以上の小切れ面111の磁気印刷の有無をより精度良く検査することができる。詳細には、平均化処理部46bは、分割処理部46aによって生成された2以上の小切れ画像を平均化し、1枚の磁気画像(以下、平均画像)を生成し、出力する。
【0083】
平均化処理部46bは、大判紙幣110全体で、複数の小切れ画像を平均化してもよい。これにより、ノイズがより軽減されるため、平均化された画像を用いて、大判紙幣110の磁気印刷の有無を更に精度良く検査することができる。詳細には、平均化処理部46bは、分割処理部46aによって生成された全ての小切れ画像(1枚の大判紙幣110に係る全小切れ画像)を平均化し、1枚の磁気画像(平均画像)を生成し、出力してもよい。
【0084】
図12に示すように、本実施形態では、制御部30としてのパーソナルコンピュータ40が、判定処理部46cを更に有してもよい。また、記憶部43には、磁気インクにより印刷される適正な図柄や記番号を表した判定用基準データとしてのテンプレート画像が保存されていてもよい。
【0085】
図13に示すように、判定処理部46cは、平均化処理部46bよって生成された平均画像を記憶部43に記憶されたテンプレート画像と比較することにより、2以上の小切れ面111(全小切れ画像を平均化した場合は大判紙幣110)が磁気を有するか否かを判定する。これにより、磁気検出装置103によって、2以上の小切れ面111(全小切れ画像を平均化した場合は大判紙幣110)の磁気印刷の有無をより精度良く検査することができる。詳細には、平均画像とテンプレート画像とをテンプレートマッチングの手法を用いて照合して、テンプレート画像との類似度が所定の閾値を超える領域が平均画像内に存在する場合は、2以上の小切れ面111(全小切れ画像を平均化した場合は大判紙幣110)は、磁気インクで印刷された(正常)と判定し、テンプレート画像との類似度が所定の閾値を超える領域が平均画像内に存在しない場合は、2以上の小切れ面(全小切れ画像を平均化した場合は大判紙幣110)は、磁気インクで印刷されていない(異常)と判定する。
【0086】
また、
図14に示すように、大判紙幣の印刷装置では、インキローラ131への磁気インクの塗りムラ131aにより版胴132上に均一に磁気インクが塗布されず、版胴132及び圧胴133間を搬送される大判紙幣110の特定の列又は行の小切れ面111のみが印刷されないことも想定される。このような塗りムラ131aを検査するために、平均化処理部46bは、同一行又は同一列ごとに、複数の小切れ画像を平均化してもよい。詳細には、平均化処理部46bは、分割処理部46aによって生成された小切れ画像を同一行ごと又は同一列ごとに平均化し、各行又は各列につき1枚の磁気画像(平均画像)を生成してもよい。磁気検出装置103は、
図10に示したように、各行又は各列の平均画像を出力してもよいし、
図12に示したように、判定処理部46cにおいて、各行又は各列の平均画像をテンプレート画像と比較することにより各行又は各列の小切れ面111が磁気を有するか否かを判定してもよい。
【0087】
上記実施形態2では、判定処理部45が、差分演算部44が算出した大判紙幣110に関するターゲット画像を、小切れ面111単位に分割することなく、小切れ面111単位でテンプレート画像と比較することにより1以上の小切れ面111又は各小切れ面111が磁気を有するか否かを判定する場合について説明したが、差分演算部44が算出した大判紙幣110に関するターゲット画像を小切れ面111単位に分割した上で1以上の小切れ面111又は各小切れ面111が磁気を有するか否かを判定してもよい。詳細には、この場合、制御部30としてのパーソナルコンピュータ40が、上記実施形態3の分割処理部46aと同様の分割処理部を更に備える。分割処理部は、差分演算部44によって生成された大判紙幣110全体に関するターゲット画像を小切れ面111単位に分割し、1以上の小切れ面111又は各小切れ面111に関する磁気画像(以下、小切れ画像)を生成する。そして、判定処理部45は、上述のテンプレートマッチングの手法により、分割処理部によって生成された各小切れ画像を記憶部43に記憶されたテンプレート画像と比較することにより1以上の小切れ面111又は各小切れ面111(大判紙幣110)が磁気を有するか否かを判定する。
【0088】
上記実施形態1~3では、オフセット画像を取得するときのドラム11の回転速度が、検出画像を取得するときのドラム11の回転速度と同じである場合について説明したが、前後の回転速度で得られたオフセット画像から補間したオフセット画像を用いてもよい。詳細には、周面に大判紙幣110を保持していないドラム11が複数の所定の回転速度で回転しているそれぞれの状態での磁気ラインセンサユニット20の出力に基づく複数の磁気画像(以下、参照画像)を参照データとして準備するとともに、これらの参照画像に基づいて、ドラム11の回転速度に応じた磁気ラインセンサユニット20の出力による磁気画像の関数を算出し、算出した関数を記憶部43に記憶する。なお、これらの参照画像も記憶部43に記憶してもよい。また、制御部30により、関数に基づいて、周面に大判紙幣110を保持していないドラム11が所定の回転速度(ただし、参照画像生成時の上記複数の所定の回転速度を除く)で回転したときの磁気ラインセンサユニット20の出力に基づく磁気画像(オフセット画像)を差分演算処理用基準データとして算出する。そして、差分演算部44により、オフセット画像算出時と同じ回転速度で回転するドラム11の周面に大判紙幣110が保持された状態での磁気ラインセンサユニット20の出力に基づく磁気画像(検出画像)を検出データとして取得し、検出画像からオフセット画像を差し引くことによりドラム11に保持された大判紙幣110に関する磁気データ(ターゲット画像)を算出する。これにより、関数が成立する範囲内のドラム11の回転速度であれば、あらゆる回転速度について、磁気ラインセンサユニット20により実際に磁気データを取得することなく、オフセット画像を得ることができるため、オフセット画像取得のための時間を省略でき、磁気検出装置101~103をより柔軟かつ効率的に運用することが可能となる。
【0089】
また、上記実施形態1~3では、印刷物が、複数の小切れ面111が縦横に配列された大判紙幣110である場合について説明したが、印刷物は、一つの小切れのみが配置されたものであってもよく、磁気検出装置101~103は、小切れの磁気を一枚ずつ検出てもよい。
【0090】
この場合、印刷物は、磁気印刷された大判紙幣110から裁断されたものであってもよいし、当初から小切れサイズの基材に磁気印刷したものであってもよい。
【0091】
また、上記実施形態1~3では、磁気ラインセンサユニット20の出力を画像化した磁気画像を処理する場合について説明したが、磁気ラインセンサユニット20の出力を画像化せずに処理してもよい。例えば、磁気ラインセンサユニット20の各チャンネルのピーク値から差分演算処理用基準データ及び検出データを取得し、差分演算処理を行ってもよい。
【0092】
また、上記実施形態1~3では、磁気センサとして複数の磁気ラインセンサ21を備える多チャンネルの磁気ラインセンサユニット20を用いる場合について説明したが、磁気センサは、1つの磁気ラインセンサ21であってもよいし、1チャンネルの磁気データを出力するものであってもよい。
【0093】
以上、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。また、各実施形態の構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜組み合わされてもよいし、変更されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0094】
以上のように、本発明は、金属製のドラム体で搬送される印刷物の磁気情報の検出に有用な技術である。
【符号の説明】
【0095】
10、11、12:ドラム体(ドラム)
13:トリガ
14:ロータリエンコーダ
20:磁気ラインセンサユニット
21:磁気ラインセンサ
22:筐体
23:制御基板
30:制御部
40:パーソナルコンピュータ
41:速度モニタ
42:データ取得制御部
43:記憶部
44:差分演算部
45、46c:判定処理部
46a:分割処理部
46b:平均化処理部
50:制御回路
51:データ集約回路
101、102、103:磁気検出装置
110:大判紙幣
111:小切れ面(紙幣面)
120:試験台
121、123:アルミニウム板
122:鉄ネジ
124:溶接部
125:磁気印刷媒体
126:誘導磁界ノイズ
127:鉄ネジの検出信号
128:溶接部の検出信号
129:磁気インクで印刷された「500」の文字の検出信号
131:インキローラ
131a:塗りムラ
132:版胴
133:圧胴