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特許7115940ベーカリー製品用乳化油脂組成物とそれを用いたベーカリー製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】ベーカリー製品用乳化油脂組成物とそれを用いたベーカリー製品
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20220802BHJP
   A23D 7/005 20060101ALI20220802BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20220802BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A23D7/005
A21D13/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018166865
(22)【出願日】2018-09-06
(65)【公開番号】P2019047782
(43)【公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2017171842
(32)【優先日】2017-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174702
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 拓
(72)【発明者】
【氏名】小川 優子
(72)【発明者】
【氏名】田中 久恵
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 将来
(72)【発明者】
【氏名】向原 岳
【審査官】吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-074848(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0004621(US,A1)
【文献】特開平02-227019(JP,A)
【文献】特開昭63-157934(JP,A)
【文献】特開平11-225670(JP,A)
【文献】特開2009-165369(JP,A)
【文献】特開昭58-158120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サポニンおよびモノグリセリン脂肪酸エステルを含有し、前記サポニンに対する前記モノグリセリン脂肪酸エステルの質量比が129以上であるベーカリー製品用乳化油脂組成物。
【請求項2】
前記ベーカリー製品用乳化油脂組成物が水中油型乳化油脂組成物である請求項1に記載のベーカリー製品用乳化油脂組成物。
【請求項3】
水相に乳化分散されている油滴の粒度分布の標準偏差が0.7以下であり、且つモード径が5μm以上である請求項2に記載のベーカリー製品用乳化油脂組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のベーカリー製品用乳化油脂組成物を用いたベーカリー製品
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー製品用乳化油脂組成物とそれを用いたベーカリー製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ベーカリー製品、特にスポンジケーキを製造するための方法として、1)全卵と砂糖を攪拌混合し、泡立てたものに、小麦粉、食用油脂やバター等の油脂を混合する共立て法、2)卵黄と砂糖、卵白と砂糖とをそれぞれ個別に攪拌混合し、泡立てたものを混合し、さらに小麦粉、食用油脂やバター等の油脂を混合する別立て法が知られている。これらの方法は、スポンジケーキ生地の代表的な製法であるが、卵のホイップ加減や小麦粉、油脂の添加の方法等が難しく、ボリューム感のあるスポンジケーキを安定して製造するには、非常に熟練した技術が必要とされるため、大量生産には向かないという問題があった。
【0003】
そこで、近年では、製菓製パンメーカーにおいてスポンジケーキ等のベーカリー製品を大量生産する際には、全卵、砂糖、小麦粉、食用油脂に加えて、起泡剤を添加して攪拌混合し、生地を起泡させるオールインミックス製法が採用されている。この方法により、スポンジケーキ等のベーカリー製品の量産化が可能となった。しかしながら、起泡性を向上させるために油脂を含有しない起泡性乳化剤組成物を使用しても、別添の食用油脂の消泡作用によって気泡が消失したり、起泡が抑制されて気泡不足となることがあった。また、生地撹拌時の気泡安定性を向上させるために油脂を含有する起泡性乳化油脂組成物が種々提案されている(非特許文献1、特許文献1および2参照)が、焼成時の生地安定性の点において必ずしも満足のいくものではなかった。
【0004】
特許文献3では、親油性界面活性剤と親水性界面活性剤を含む液状のケーキ用起泡性乳化剤組成物が提案され、その親水性界面活性剤のうちの一例としてサポニンが記載されている。このケーキ用起泡性乳化剤組成物を用いると、スポンジケーキ、パウンドケーキ等の各種ケーキの生地の起泡性を高め、経日的に安定した起泡効果が得られるとされている。特許文献4では、サポニンを含有する粉末状の乳化剤組成物が提案されている。この乳化剤組成物は、ケーキ等の製菓材料として用いると、風味に影響がなく、しかも起泡性が高いとされている。さらにまた、乳化剤組成物自体の長期保存安定性が優れているとされている。
【0005】
しかしながら、特許文献3に記載の起泡性乳化剤組成物は、起泡性、起泡効果の長期安定性に優れてはいるものの、上記例示として記載されたサポニンを配合した組成物について実施例では検討しておらず、さらに起泡性油脂組成物とも記載されている一方で、実施例で具体的に検討したものは油脂を含有しない起泡性乳化剤組成物であるため油脂併用による消泡作用が働き、生地からの液分離等として現れる生地安定性が十分ではなかった。
【0006】
特許文献4に記載の粉末状の乳化剤組成物は、組成物にサポニンを配合してはいるものの、組成物の長期保存安定性の向上を図る目的で使用されており、その組成物を添加して作製した生地における生地安定性に対する効果については十分に検討されていなかった。また油脂を含有しない起泡性乳化剤組成物であるため油脂併用による消泡作用が働き、十分な生地安定性が得られなかった。
【0007】
そのため、ベーカリー製品の生地安定性を向上させてボリュームのあるベーカリー製品を得ることができるベーカリー製品用乳化油脂組成物の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭53-26354号公報
【文献】特開昭61-268122号公報
【文献】特開平2-227019号公報
【文献】特開2006-55137号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】食品用乳化剤第2版、176-177頁、幸書房、1991年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、生地安定性を向上させてボリュームのあるベーカリー製品を得ることができるベーカリー製品用乳化油脂組成物とそれを用いたベーカリー製品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、サポニンを乳化油脂組成物に用いることにより上記課題が解決できることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0012】
(1)本発明のベーカリー製品用乳化油脂組成物は、サポニンを含むことを特徴としている。
【0013】
(2)本発明のベーカリー製品用乳化油脂組成物では、前記ベーカリー製品用乳化油脂組成物が水中油型乳化油脂組成物であることが好ましく考慮される。
【0014】
(3)また、本発明のベーカリー製品用乳化油脂組成物では、水相に乳化分散されている油滴の粒度分布の標準偏差が0.7以下であり、且つモード径が5μm以上であるであることが好ましく考慮される。
【0015】
(4)さらに、本発明のベーカリー製品用乳化油脂組成物では、モノグリセリン脂肪酸エステルを含有し、前記サポニンに対する前記モノグリセリン脂肪酸エステルの質量比が140以上であることが好ましく考慮される。
【0016】
(5)本発明のベーカリー製品は、(1)から(4)のいずれかに記載のベーカリー製品用乳化油脂組成物を用いたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明のベーカリー製品用乳化油脂組成物によれば、生地安定性を向上させてボリュームのあるベーカリー製品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明のベーカリー製品用乳化油脂組成物は、サポニンを含むことを特徴とする。
【0020】
本発明で用いられるサポニンとしては、食品添加物としての使用が認められているトリテルペノイドサポニンであれば特に限定されることはないが、例えば、キラヤサポニン、カンゾウサポニン、大豆サポニン、ニンジンサポニン等が例示される。特に、南米原産の木本植物であるキラヤ由来のキラヤサポニンが好適に用いられる。
【0021】
サポニンを含有する乳化油脂組成物をベーカリー製品の生地に添加した場合、高い生地安定性を示す。ベーカリー製品用乳化油脂組成物に含まれるサポニンの量としては、特に限定されないが、コスト面、風味、起泡性向上の点から、例えば、ベーカリー製品用乳化油脂組成物100質量部に対し、好ましくは0.0007~0.7質量部、より好ましくは0.0035~0.35質量部、さらに好ましくは0.00525~0.21質量部、特に好ましくは0.007~0.07質量部、殊更好ましくは0.0175~0.035質量部である。
【0022】
サポニンを上記のような量で配合した本発明のベーカリー製品用乳化油脂組成物は、ベーカリー製品の口溶けやソフトさ等の食感や風味を損なうことがない。すなわちサポニンを用いると、ベーカリー製品本来の食感や風味に影響を与えることなく、生地安定性を向上させてボリュームのあるベーカリー製品が得られる。
【0023】
本発明のベーカリー製品用乳化油脂組成物では、該ベーカリー製品用乳化油脂組成物として水中油型乳化油脂組成物、油中水型乳化油脂組成物、水中油中水型乳化油脂組成物、油中水中油型乳化油脂組成物等の態様が挙げられるが、水中油型乳化油脂組成物であることが好ましく考慮される。例えば、本発明のベーカリー製品用乳化油脂組成物は、食用油脂に乳化剤を溶解したものを油相、水に糖・サポニンを溶解したものを水相とし、油相に水相を添加して乳化した後、冷却攪拌することにより水中油型乳化油脂組成物を得ることができる。また、必要に応じて上記冷却攪拌したベーカリー製品用乳化油脂組成物について熟成を行うことも好ましく考慮される。
【0024】
食用油脂は、通常食品に添加することができる油脂であれば特に制限はなく、また、常温で液体、固体等の形態は問わないが、常温で液体であることが好ましく考慮される。このような食用油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、ゴマ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米糠油、小麦胚芽油、ヤシ油、カカオ脂、パーム油、パーム核油および藻類油等の植物油脂が例示される。また、乳脂、豚脂、牛脂、魚油等の動物油脂が例示される。また、これらの食用油脂の分別(例えば分別乳脂低融点部、パームスーパーオレイン等)、硬化、エステル交換から選択される1種又は2種以上の処理を施した加工油脂等が挙げられる。食用油脂は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用した調合油を用いてもよい。
【0025】
ベーカリー製品用乳化油脂組成物に含まれる食用油脂の量としては、特に限定されないが、例えば、ベーカリー製品用乳化油脂組成物100質量部に対し、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、12質量部以上がさらに好ましい。また、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。
【0026】
このようなベーカリー製品用乳化油脂組成物では、水相に乳化分散されている油滴の粒度分布の標準偏差が0.7以下であり、且つモード径が5μm以上であることが好ましく考慮される。油滴のモード径が上記の範囲内であれば、ベーカリー製品用乳化油脂組成物を用いて製造したベーカリー製品の生地安定性だけでなく、起泡性、乳化油脂組成物自体の安定性も良好となる。油滴の粒度分布の標準偏差が0.7以下であれば乳化油脂組成物自体の乳化安定性がより良好であり、且つモード径が5μm以上であれば、ケーキ生地の起泡性がより良好である。油滴のモード径の上限値については、特に制限されることはないが、例えば25μm程度であることが例示される。なお、油滴粒子のモード径とは、粒度分布における最頻粒径のことである。このような水相中の油滴のモード径は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2300、島津製作所製)を用いて測定することが例示される。
【0027】
本発明のベーカリー製品用乳化油脂組成物では、モノグリセリン脂肪酸エステルを含有し、サポニンに対するモノグリセリン脂肪酸エステルの質量比が140以上であることが好ましく考慮される。モノグリセリン脂肪酸エステルとしては、特に限定されないが、構成脂肪酸は飽和脂肪酸が好ましく、その中でも炭素数16以上の飽和脂肪酸が特に好ましい。ベーカリー製品用乳化油脂組成物中に含まれるモノグリセリン脂肪酸エステルの量としては、特に限定されないが、例えば、ベーカリー製品用乳化油脂組成物100質量部に対し、好ましくは1~20質量部、より好ましくは2~15質量部、さらに好ましくは4~10質量部である。サポニンを乳化油脂組成物に配合すると生地安定性は向上するが、モード径が小さくなってしまうことで起泡性が損なわれてしまう。そこで、モノグリセリン脂肪酸エステルを併用することでモード径を大きくし、起泡性を向上させることができる。サポニンに対するモノグリセリン脂肪酸エステルの質量比としては、特に限定されないが、140以上が好ましく、200以上がより好ましく、260以上がさらに好ましい。前記範囲内であれば、ベーカリー製品用乳化油脂組成物中における油滴のモード径を所望の範囲に調整することが可能であり、それによって生地安定性に加えて起泡性も良好なものとなる。なお、サポニンに対するモノグリセリン脂肪酸エステルの質量比の上限値としては、2000以下であることが好ましく、1600以下であることがより好ましく、1200以下であることがさらに好ましい。
【0028】
本発明のベーカリー製品用乳化油脂組成物には上記以外に必要に応じてモノグリセリン脂肪酸エステル以外の乳化剤、糖類、増粘安定剤、タンパク質、アルコール、着色料、香料等を含有していてもよい。
【0029】
上記モノグリセリン脂肪酸エステル以外の乳化剤としては、通常食品に添加することができる乳化剤であれば特に制限はなく、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、レシチン、酵素分解レシチン、ポリソルベート、ステアロイル乳酸塩(ナトリウム、カルシウム)等が例示され、1種単独または2種以上を併用することが好ましく考慮される。これらの中でも、起泡性向上の点からアニオン性乳化剤であるグリセリン有機酸脂肪酸エステルやステアロイル乳酸塩(ナトリウム、カルシウム)を併用することが特に好ましい。前記モノグリセリン脂肪酸エステル以外の乳化剤としては、特に限定されないが、構成脂肪酸は飽和脂肪酸が好ましく、その中でも炭素数16以上の飽和脂肪酸が特に好ましい。グリセリン有機酸脂肪酸エステル等のアニオン性乳化剤は、生地安定性とベーカリー製品のボリュームに加えて起泡性も向上する傾向がある。
【0030】
上記グリセリン有機酸脂肪酸エステルとしては、例えばグリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル又はグリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル等が挙げられ、これらの中でも、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルが特に好ましい。サポニンに対するグリセリン有機酸脂肪酸エステルの質量比が1~1000であることが起泡性の点で好ましく、5~500であることがより好ましく、10~200であることがさらに好ましく、14~100であることが特に好ましく、20~80であることが殊更好ましい。
【0031】
上記糖類としては、例えば、砂糖、異性化糖、液糖、澱粉糖化物、糖アルコール、乳糖等が例示される。前記糖アルコールとしては、1糖アルコール(ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ガラクチトール等)、2糖アルコール(マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール)、3糖アルコール(マルトトリイトール、イソマルトトリイトール、パニトール等)、4糖アルコール(マルトテトライトール等)等が例示される。ベーカリー製品用乳化油脂組成物の水相中における糖濃度(Brix)としては、好ましくは30~70%、より好ましくは40~65%、さらに好ましくは50~60%である。
【0032】
上記増粘安定剤としては、例えば、寒天、アルギン酸ナトリウム、PGA(アルギン酸プロピレングリコールエステル)、カラギーナン、キサンタンガム、グァーガム、グルコマンナン、ジェランガム、大豆多糖類、イヌリン、タラガム、ローカストビーンガム、カードラン、アラビアガム、タマリンドシードガム、ウェランガム、ペクチン、結晶セルロース、セルロースエーテル等が例示される。前記セルロースエーテルとしては、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が例示され、これらの中でも生地安定性と起泡性向上の点からヒドロキシプロピルメチルセルロースが好ましく考慮される。前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースの量としては、特に限定されないが、例えば、ベーカリー製品用乳化油脂組成物100質量部に対し、好ましくは0.05~5質量部、より好ましくは0.1~3質量部、さらに好ましくは0.2~1質量部である。
【0033】
上記タンパク質としては、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳、バターミルクパウダー、ホエイパウダー、蛋白質濃縮ホエイパウダー、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、クリームパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、牛乳、生クリーム、チーズ(ナチュラルチーズ、プロセスチーズ等)、発酵乳、大豆蛋白質、エンドウ豆蛋白質、小麦蛋白質等が例示され、その分解物等も好適に使用できる。
【0034】
上記アルコールとしては、例えば、エタノール、グリセリン等が例示される。
【0035】
本発明のベーカリー製品は、上記のとおりのベーカリー製品用乳化油脂組成物を用いたものである。本発明のベーカリー製品は、穀粉等を原料として加熱調理されたベーカリー製品全般、例えば、菓子類(洋菓子、和菓子)、パン類等のベーカリー製品生地に添加することができる。
【0036】
具体的には、サポニンを含有する乳化油脂組成物を原材料に添加して生地を作製し、この生地を焼成や、油ちょう、水蒸気で蒸す等の加熱調理することによってベーカリー製品を製造することができる。
【0037】
ベーカリー製品としては、穀粉等を原料として加熱調理されるものであれば特に限定されないが、例えば、バターケーキ、パウンドケーキ、スポンジケーキ、ドーナツ、ブッセ、ホットケーキ、ワッフル等のケーキ、食パン、テーブルロール、菓子パン、調理パン、フランスパン、ライブレッド等のパン類、シュトーレン、パネトーネ、クグロフ、ブリオッシュ、ドーナツ等のイースト菓子、デニッシュ、クロワッサン、パイ等のペストリー、ビスケット、クッキー、カステラ、どら焼き、蒸しパン等が挙げられる。
【0038】
生地は穀粉を主成分とし、穀粉としては、通常、ベーカリー製品の生地に配合されるものであれば、特に限定されないが、例えば、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉等)、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、大豆粉等が挙げられる。これらは単独または2種類以上を併用することが例示される。
【0039】
生地には、穀粉とベーカリー製品用乳化油脂組成物以外にも、通常、ベーカリー製品の生地に配合されるものであれば、特に制限なく配合することができる。また、これらの配合量も、通常、ベーカリー製品の生地に配合される範囲を考慮して特に制限なく配合することができる。具体的には、例えば、水や乳製品、食用油脂、蛋白質、糖質の他、卵、卵加工品、塩類、乳化剤、可塑性油脂(マーガリン類、ショートニング)、ベーキングパウダー、イースト、イーストフード、カカオマス、ココアパウダー、チョコレート、コーヒー、紅茶、抹茶、野菜類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、肉類、魚介類、豆類、きな粉、豆腐、豆乳、大豆蛋白、膨張剤、甘味料、調味料、香辛料、着色成分、香料等が挙げられる。
【0040】
乳製品としては、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳、バターミルクパウダー、ホエイパウダー、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、クリームパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、牛乳、生クリーム、チーズ(ナチュラルチーズ、プロセスチーズ等)、発酵乳等が例示され、また上記乳製品由来の乳タンパク質やその分解物等も好適に使用できる。
【0041】
糖質としては、例えば、砂糖、異性化糖、液糖、澱粉糖化物、糖アルコール、乳糖、寒天、アルギン酸ナトリウム、PGA(アルギン酸プロピレングリコールエステル)、カラギーナン、キサンタンガム、グァーガム、グルコマンナン、ジェランガム、大豆多糖類、イヌリン、タラガム、ローカストビーンガム、カードラン、アラビアガム、タマリンドシードガム、ペクチン、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が例示される。
【0042】
ベーカリー製品として、特にスポンジケーキを製造する場合、例えば、全卵、薄力粉、砂糖、本発明のベーカリー製品用乳化油脂組成物、ベーキングパウダー、水をミキサーボールに投入し、ホイッパーを使用して、ミキシングを行い、スポンジケーキ生地を得ることができる。
【0043】
ベーカリー製品として、パンを製造する場合、例えば、水、イースト、イーストフード、塩、砂糖、脱脂粉乳、本発明のベーカリー製品用乳化油脂組成物および強力粉をミキサーボールに投入し、フックを使用して、ミキシングし、生地を得ることができる。パン生地の製造方法としては、製パン工程において一般に行われている各種の方法、例えば、直捏法、中種法、液種法等が挙げられる。スポンジケーキおよびパンの焼成温度については、公知の製造条件を適宜適用することが可能である。
【0044】
このようにして得られたベーカリー製品用乳化油脂組成物を用いることにより、生地安定性の向上という顕著な効果が得られる。例えば、スポンジケーキの生地安定性の指標としては、焼成前の生地を容器に流し入れた後、焼成温度未満の温度条件下に一定時間静置した際に生地から分離する液体成分の排液量(ドレン量)等を用いることが例示される。スポンジケーキの起泡性の指標としては、生地が目的比重に達するまでに要する攪拌時間等を用いることが例示される。
【0045】
ドレン量としては、生地の配合等にもより特に限定されるものではないが、例えば、65℃で60分静置した場合に、生地100gに対し70ml以下であることが好ましく、50ml以下であることがより好ましく、30ml以下であることがさらに好ましく、0mlであることが特に好ましい。生地が目的比重に達するまでに要する攪拌時間は、目標比重によって変動するが、目標比重が0.45である場合、7分以内であることが好ましく、5分以内であることがより好ましい。
【実施例
【0046】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0047】
本発明のベーカリー製品用乳化油脂組成物を用いて、スポンジケーキを製造し、スポンジケーキの生地安定性、ボリューム、起泡性、ベーカリー製品用乳化油脂組成物中の油滴のモード径、ベーカリー製品用乳化油脂組成物の物性について以下のとおり分析および評価した。
【0048】
<ベーカリー製品用乳化油脂組成物等の調製>
以下の表1、2に示した配合により、実施例1~13および比較例2に関しては、菜種油に乳化剤を溶解したものを油相、ソルビトール(固形分70%)、水、およびサポニン溶液を溶解したものを水相とし、油相に水相を添加して乳化した後、冷却攪拌を行い水中油型乳化油脂組成物とした後、熟成を行うことによりベーカリー製品用乳化油脂組成物を得た。比較例3、4に関しては、乳化剤、ソルビトール(固形分70%)、水、およびサポニン溶液を溶解し、室温程度まで徐冷することによりベーカリー製品用乳化剤組成物を得た。比較例5に関しては、各乳化剤を粉混合することによりベーカリー製品用粉末組成物を得た。なお、表1および表2において、実施例1~13および比較例1、2のベーカリー製品用乳化油脂組成物、比較例3、4のベーカリー製品用乳化剤組成物、比較例5のベーカリー製品用粉末組成物の総称として「ベーカリー製品用乳化油脂組成物等」と表記している。
【0049】
なお、比較例1に関しては、実施例1~13および比較例2と同様の方法で調製を試みたが、乳化油脂組成物自体の乳化ができず、スポンジケーキの試験ができなかった。
【0050】
<スポンジケーキの製造>
全卵、薄力粉、砂糖、ベーカリー製品用乳化油脂組成物等、ベーキングパウダー、水を以下に記載した配合でミキサーボールに投入し、KitchenAid KSM5WH(株式会社エフ・エム・アイ社製)にて全材料をspeed1で30秒攪拌した後、speed2で目標比重0.45に到達するまで攪拌した。得られた生地を6号型に300g流し入れ、180℃のオーブンで32分間焼成し、スポンジケーキを作製した。
【0051】
比較例3~5では、乳化剤とサポニン水溶液との混合物中に油脂が添加されていないため、スポンジケーキ製造時に5gの油脂を添加した。また、スポンジケーキ生地中の乳化剤量を合わせるため、比較例5では、ベーカリー製品用粉末組成物の添加量を3.2gとした。
【0052】
なお、比較例5に関しては、目標比重0.45に到達しなかったが、比重が変化しなくなった時点で生地を焼成し、スポンジケーキを作製した。
(スポンジケーキ生地の配合)
全卵 240g
薄力粉 200g
砂糖 200g
ベーカリー製品用乳化油脂組成物等 20g
ベーキングパウダー 2g
水 80g
実施例1~13および比較例2~5のスポンジケーキについて、次の評価を行った。
[スポンジケーキの生地安定性の評価]
実施例1~13および比較例2~5のスポンジケーキ生地について、目標比重に達した焼成前のスポンジケーキ生地をメスシリンダーに100g流し入れ、これを65℃で60分間静置した後の排液量(ドレン量)を測定し、以下の基準でその生地安定性を評価した。なお、比較例5に関しては、目標比重0.45に到達しなかったが、比重が変化しなくなった時点で生地を流し入れ、生地安定性を評価した。
評価基準
◎+:ドレン量が0mlである。
◎ :ドレン量が0ml超30ml以下である。
○ :ドレン量が30ml超50ml以下である。
△ :ドレン量が50ml超70ml以下である。
× :ドレン量が70ml超である。
[スポンジケーキのボリューム]
実施例1~13および比較例2~5のスポンジケーキ生地について、焼成したスポンジケーキのボリュームや形状を目視で観察し、以下の基準でそのボリュームを評価した。
評価基準
◎+:かなりボリュームがあり、天面はフラットな形状である。
◎ :ボリュームがあり、天面はフラットな形状である。
○ :ややボリュームがあり、天面はフラットな形状である。
× :ボリュームがなく、天面は山型の形状である。
[ベーカリー用乳化油脂組成物中の油滴のモード径]
実施例1~13および比較例1、2のベーカリー製品用油脂組成物について、この油脂組成物中の油滴の粒度分布をレーザー回折散乱法によって測定し、粒度分布からモード径(最頻値)を算出し、以下の基準で評価した。なお、粒度分布の測定には、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2300、島津製作所製)を用いた。
評価基準
○ :油滴の粒度分布の標準偏差が0.7以下であり、且つモード径が5μm以上である。
△ :油滴の粒度分布の標準偏差が0.7以下であり、且つモード径が5μm未満である。
× :油滴の粒度分布の標準偏差が0.7より大きい。
[ベーカリー用乳化油脂組成物等の物性]
実施例1~13および比較例1~4のベーカリー用乳化油脂組成物等について、この油脂組成物をスパテラですくい、その状態を目視で確認し、以下の基準でその物性を評価した。なお、比較例5に関しては、ペースト状ではないため、本試験を実施しなかった。
評価基準
○ :滑らかで伸展性あり。
× :ボソボソしており伸展性なし。
[起泡性]
実施例1~13および比較例2~5のスポンジケーキ生地について、KitchenAid KSM5WH(株式会社エフ・エム・アイ社製)を用いて、speed2にて撹拌した際、スポンジケーキ生地材料が目標比重0.45に到達するまでにホイップに要した時間を測定し、以下の基準でその起泡性を評価した。
評価基準
◎ :5分未満である。
○ :5分以上7分未満の範囲内である。
△ :7分以上である。
× :目標比重0.45に到達しない。
【0053】
実施例1~13のスポンジケーキ生地における各評価項目の評価結果を表1に、比較例1~5のスポンジケーキ生地における各評価項目の評価結果を表2にそれぞれ示す。
【0054】
表1および表2の評価において、生地安定性、スポンジケーキのボリューム、ベーカリー製品用乳化油脂組成物等の物性、起泡性の各評価項目については、必ずしも限定的ではないが次の指標を基準とした。〇以上はベーカリー製品用乳化油脂組成物として満足し得ると判断した。△は発明の課題解決を最低限満足し得ると判断した。生地安定性、スポンジケーキのボリューム、起泡性の全評価項目のうち×が1つ以上ある場合は、ベーカリー製品用乳化油脂組成物として満足しないと判断した。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
表1に示したように、実施例1~13のスポンジケーキ生地については、生地安定性、スポンジケーキのボリュームおよび起泡性が良好であることが確認された。乳化剤として同一種を用いた実施例1、2と実施例3の比較より、ベーカリー製品用乳化油脂組成物中の油滴の粒度分布の標準偏差と油滴のモード径、サポニンに対するモノグリセリン脂肪酸エステルの質量比を調整することで、生地安定性を損なわずに起泡性がより向上した。また、乳化剤としてモノグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを添加した実施例4~6のスポンジケーキ生地については、実施例1~3よりも生地安定性、スポンジケーキのボリュームおよび起泡性が向上していることが確認された。
【0058】
一方、ベーカリー製品用乳化油脂組成物中にモノグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを含有しているが、サポニンを含有していない比較例2と、サポニンを含有しているが、乳化物ではない比較例3、4のスポンジケーキにおいては、スポンジケーキ生地が目標比重0.45に到達したが、実施例1~13と比較すると生地安定性や焼成後のスポンジケーキのボリュームが劣ることが確認された。また、サポニンを含有しているが、乳化物ではない比較例5においては、スポンジケーキ生地が目標比重0.45に到達せず、実施例1~13と比較すると生地安定性や焼成後のスポンジケーキのボリュームが劣ることが確認された。