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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】膜電極接合体
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1004 20160101AFI20220802BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20220802BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20220802BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
H01M8/1004
H01M8/10 101
H01M4/90 X
H01M4/86 M
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018209051
(22)【出願日】2018-11-06
(65)【公開番号】P2020077496
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】喜多尾 典之
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 健作
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-505330(JP,A)
【文献】特開2006-302871(JP,A)
【文献】特開2007-287415(JP,A)
【文献】特開2007-287412(JP,A)
【文献】特開2018-125163(JP,A)
【文献】特開2008-004453(JP,A)
【文献】特開2020-047432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/1004
H01M 8/10
H01M 4/90
H01M 4/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導性高分子電解質膜、及び前記高分子電解質膜を挟持する一対の電極からなる膜電極接合体であって、
前記電極が、前記高分子電解質膜に接する触媒層と、前記触媒層に接するガス拡散層とを具備し、
前記触媒層が、平均粒子径が100nm以上、500nm以下であるイリジウム酸化物を含み、
前記一対の電極において、アノード側の触媒層におけるイリジウム酸化物の目付量X(μg/cm)とカソード側の触媒層におけるイリジウム酸化物の目付量Y(μg/cm)が、下式
X+Y≦50
の関係にあり、但しX>0、Y>0である、膜電極接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用の膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電気的に接続された2つの電極に燃料ガス(水素ガス)と酸化剤ガス(酸素ガス)を供給し、電気化学的に燃料の酸化を起こさせることで、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する。この燃料電池は、通常、電解質膜を一対の電極で挟持した膜電極接合体を基本構造とする単セルを複数積層して構成されている。中でも、電解質膜として固体高分子電解質膜を用いた固体高分子電解質型燃料電池は、小型化が容易であること、低い温度で作動すること、などの利点があることから、特に携帯用、移動体用電源として注目されている。
【0003】
固体高分子電解質型燃料電池において、水素が供給されたアノード(燃料極)では下記(1)式の反応が進行する。
→ 2H + 2e ・・・(1)
【0004】
上記(1)式で生じる電子は、外部回路を経由し、外部の負荷で仕事をした後、カソード(酸化剤極)に到達する。他方で、上記(1)式で生じたプロトンは、水と水和した状態で、電気浸透により固体高分子電解質膜内をアノード側からカソード側に移動する。
【0005】
一方、カソードでは下記(2)式の反応が進行する。
2H + 1/2O + 2e → HO ・・・(2)
【0006】
従って、電池全体では下記(3)式に示す化学反応が進行し、起電力が生じて外部負荷に対して電気的仕事がなされる。
+ 1/2O → HO ・・・(3)
【0007】
アノード及びカソードの各電極は、一般的に、電解質膜側から順に触媒層、ガス拡散層が積層した構造を有する。触媒層には、通常、上記電極反応を促進させるための白金や白金合金等の電極触媒、プロトン伝導性を確保するための高分子電解質、電子伝導性を確保するための導電性材料等が含まれている。また、ガス拡散層は、通常、触媒層への反応ガスの供給、電極中の余剰の水分の排出等を可能とする導電性多孔質体を用いて形成される。
【0008】
このような構成の燃料電池においては、連続発電運転、起動/停止運転を長時間行うと、アノード及びカソードの両触媒層において、触媒金属、例えばPtが溶解・再析出することが知られている。この溶解した触媒金属は、金属イオンとして触媒層のイオン交換体の中に入り、一部は触媒金属の表面上で再析出することにより触媒金属が肥大化し、触媒有効反応面積の低下を招くという問題がある。
【0009】
また、燃料電池の作動中に、供給される燃料ガス(水素)が欠乏した場合、電池反応に必要となるプロトン(H)を補うために、上記式(1)の反応に代わって下式(4)で表される、アノードの触媒担体であるカーボンの腐食によりプロトンを発生させる反応が進行することがある。
C + 2HO → CO + 4H + 4e ・・・(4)
【0010】
この反応は、起動直後に限らず、発電中に何らかの影響によって燃料ガスがアノード電極触媒層に到達しない場合にも起こり得る。カーボンは触媒金属を担持する担体であり、上記式(4)で表されるカーボン腐食反応が起これば、触媒金属を担持する担体が減少してしまい、また電子のパス(通り道)も減少してしまうため、燃料電池を使用不可能としてしまう可能性があるという問題がある。
【0011】
これらの問題を解決するため、多くの取り組みがなされている。例えば、特許文献1では、Ptを含む電極にイリジウム酸化物を添加し、触媒層中のPtの溶出を抑制することが開示されている。また、特許文献2~4では、触媒層にイリジウム、イリジウム合金、もしくはイリジウム酸化物を添加することにより水の電解を促進し、上記式(4)のカーボン腐食反応を抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2008-091101号公報
【文献】特開2013-178927号公報
【文献】特開2007-287415号公報
【文献】特開2012-094315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のように、触媒層の劣化を抑制するために触媒層にイリジウム酸化物等を添加することが行われていたが、燃料電池の耐久中にイリジウム酸化物が溶出してしまうという問題があり、添加されたイリジウム等の溶出抑制、及びこの溶出に伴う電解質膜のプロトン伝導性低下抑制に関して、改善の余地がある。
【0014】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、触媒層にイリジウム酸化物を添加することにより、水電解機能を付与して触媒層中のカーボンの腐食を抑制するとともに、添加したイリジウム酸化物の溶出を抑制し、電解質膜のプロトン伝導性低下を抑制することができる膜電極接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、以下の手段により上記目的を達成するものである。
【0016】
プロトン伝導性高分子電解質膜、及び前記高分子電解質膜を挟持する一対の電極からなる膜電極接合体であって、
前記電極が、前記高分子電解質膜に接する触媒層と、前記触媒層に接するガス拡散層とを具備し、
前記触媒層が、平均粒子径が100nm以上、500nm以下であるイリジウム酸化物を含み、
前記一対の電極において、アノード側の触媒層におけるイリジウム酸化物の目付量X(μg/cm)とカソード側の触媒層におけるイリジウム酸化物の目付量Y(μg/cm)が、下式
X+Y≦50
の関係にあり、但しX>0、Y>0である、膜電極接合体。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、所定の粒径を有するイリジウム酸化物を所定量添加することにより、触媒層中のカーボンの腐食を抑制するとともに、添加したイリジウム酸化物の溶出を抑制し、電解質膜のプロトン伝導性低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の膜電極接合体の基本構成を示す断面図である。
図2】イリジウム酸化物の平均粒子径と耐久後のイリジウムの溶出量の関係を示すグラフである。
図3】イリジウム酸化物の平均粒子径と耐久性能の関係を示すグラフである。
図4】イリジウム酸化物の平均粒子径と耐久性能の関係を示すグラフである。
図5】イリジウム流出量と耐久時間の関係を示すグラフである。
図6】電解質膜中のカチオンコンタミ量とプロトン輸送抵抗の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の膜電極接合体は、
プロトン伝導性高分子電解質膜、及び前記高分子電解質膜を挟持する一対の電極からなり、
前記電極が、前記高分子電解質膜に接する触媒層と、前記触媒層に接するガス拡散層とを具備し、
前記触媒層が、平均粒子径が100nm以上、500nm以下であるイリジウム酸化物を含み、
前記一対の電極において、アノード側の触媒層におけるイリジウム酸化物の目付量X(μg/cm)とカソード側の触媒層におけるイリジウム酸化物の目付量Y(μg/cm)が、下式
X+Y≦50
の関係にあり、但しX>0、Y>0である。
【0020】
燃料電池では、種々の運転状況においてアノードの入り口や出口が閉塞してしまう不具合が発生することがある。一例として、氷点下始動時にアノードの出口部分が凍結し、閉塞するような状態に陥る場合がある。このような場合、電極面内に燃料水素が供給されず、燃料欠状態となる。この燃料欠状態では、下式(4)
C + 2HO → CO + 4H + 4e ・・・(4)
で表される反応が進行し、アノードにおいて触媒金属を担持しているカーボンや拡散層に含まれるカーボンが劣化する。また、アノードにおいて燃料欠状態から復帰し、アノードに水素が供給し始めると、アノードの入り口付近にのみ水素が存在し、アノード出口に水素がいきわたっていない状態が形成され、電極面内で内部電池が形成され、カソードの一部が高電位に晒される異常電位状態に陥る。このような異常電位に晒されると、カソードにおいて構成材料が劣化することとなる。
【0021】
そこで、燃料欠対策として、イリジウム酸化物をアノード及びカソードに配置することが行われていた。イリジウム酸化物は水電解を促進する触媒であり、アノードに配置することにより、アノードが燃料欠状態に陥っても、下式(5)
2HO → O + 4H + 4e ・・・(5)
で表される反応を生じさせることができ、上記式(4)で表される反応を抑制し、アノードの構成材料の劣化を抑制することができる。
【0022】
燃料欠状態からの復帰時に高電位状態に晒されたカソードでは、以下の反応が生じる。
C + 2HO → CO + 4H + 4e ・・・(4)
2HO → O + 4H + 4e ・・・(5)
Pt → Pt2+ + 2e ・・・(6)
【0023】
固体高分子電解質膜は湿潤状態下でイオン伝導性能を発現するため、カソードには、加湿された空気が供給されている。また、燃料電池の通常作動時には、下式(2)
2H + 1/2O + 2e → HO ・・・(2)
で表されるように水が生成される。それゆえ、電池内には通常、水が存在し、高電位状態に曝されたカソードでは、上記式(4)~式(6)の反応が生じ得る。ここで、上記式(4)は、カーボンが水と反応する、カーボンの酸化反応であり、この反応が進むと、カソードに備えられるカーボン(触媒を担持しているカーボンや、カソード拡散層を構成するカーボン等)が劣化する。一方、上記式(6)は、白金の酸化反応であり、カチオン(Pt2+)が水に溶出することにより進行する。上記式(4)又は式(6)の反応が進むと、上記式(2)の反応が起こり難くなる。
【0024】
上記式(5)は水の電気分解反応である。上記式(4)及び式(6)の反応よりも上記式(5)の反応を優先的に進行させることができれば、カーボンや白金の酸化反応よりも水の電気分解反応が優先的に進行するので、カソードの構成材料の劣化を抑制することができる。さらに、水の電気分解反応を優先的に進行させれば、式(4)においてカーボンと反応する水、及び、式(6)においてPt2+の溶出先である水、の絶対量を低減することができるので、これによっても、式(4)及び式(6)の反応を抑制し、カソードの構成材料の劣化を防止することができる。したがって、カソードにイリジウム酸化物を配置することにより、水の電気分解反応を促進し、カソードの材料劣化を抑制することができる。
【0025】
ところが、イリジウム酸化物を電極中に配置した場合には、燃料電池の作動中に電極からイリジウム酸化物が溶出して、電解質膜に移動し、それによって電解質膜におけるプロトン伝導性が低下するという現象が生ずる問題が明らかとなった。そこで、本発明においては、このイリジウム酸化物の平均粒子径を100nm以上、500nm以下とし、かつアノード側の触媒層におけるイリジウム酸化物の目付量X(μg/cm)とカソード側の触媒層におけるイリジウム酸化物の目付量Y(μg/cm)が、下式
X+Y≦50
の関係にあり、但しX>0、Y>0であることとすることにより、イリジウム酸化物の溶出及び電解質膜におけるプロトン伝導性の低下を抑制している。
【0026】
具体的には、イリジウム酸化物の平均粒子径が100nm以上では、イリジウムの溶出を抑制することができ、500nm以下では、イリジウム酸化物を均一に分散させることができる。また、X+Y≦50とすることにより、車両寿命中に溶出するとされる、イリジウム酸化物の仕込み量の20%が、10μg/cm以下という、電池性能の維持に必要な電解質膜中のカチオンコンタミ量以下とすることができる。
【0027】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0028】
〈膜電極接合体〉
本発明の膜電極接合体の基本構成を、図1を参照して説明する。
【0029】
図1において、10は本発明の膜電極接合体を示す。この膜電極接合体10は、プロトン伝導性高分子電解質膜11、及びプロトン伝導性高分子電解質膜11を挟持する一対の電極12a、12bからなる。プロトン伝導性高分子電解質膜11は、燃料電池において一般的に用いられている、湿潤状態において良好なプロトン伝導性を示す固体高分子薄膜であり、例えば、デュポン社製ナフィオン(登録商標)などのフッ素系樹脂のイオン交換膜によって構成される。
【0030】
電極12a、12bは、触媒層13a、13b及びガス拡散層14a、14bを備え、触媒層13a、13bはともにプロトン伝導性高分子電解質膜11に密着して接している。触媒層13a、13bのそれぞれは、触媒を担持する導電性粒子、例えば、白金担持カーボンと、プロトン伝導性高分子電解質膜11と同種または類似の固体電解質樹脂との分散溶液の乾燥塗膜として形成されている。
【0031】
ガス拡散層14a、14bのそれぞれは触媒層13a、13bに密着して配置されている。
【0032】
ガス拡散層14a、14bのそれぞれは、図示していないセパレータに形成されているガス流路溝を介して供給された反応ガスを触媒層13a、13bの全体に行き渡らせる。また、ガス拡散層14a、14bのそれぞれは、触媒層13a、13bとセパレータとの間の導電経路として機能する。燃料電池の運転中には、ガス拡散層14a、14bに供給された反応ガスは、ガス拡散層14a、14bの内部の貫通細孔内を流通し、ガス拡散層14a、14bの積層方向に直交する面方向に沿って拡散されながら、触媒層13a、13bに到達する。
【0033】
ガス拡散層14a、14bは、導電性多孔体から構成され、ガス流路溝を通じて供給された反応ガスを分散させ、触媒層13a、13bに対して均一に供給し、触媒層13a、13bにおける酸化反応により生じた生成水を単セル外部に排出する役割を有する。従って、拡散層14a、14bは、燃料電池において拡散層として一般に用いられる、触媒層に効率良くガスを供給することができるガス拡散性、導電性、及びガス拡散層を構成する材料として要求される強度を有するもの、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等の炭素質多孔質体や、チタン、アルミニウム、銅、ニッケル、ニッケル-クロム合金、銅及びその合金、銀、アルミ合金、亜鉛合金、鉛合金、チタン、ニオブ、タンタル、鉄、ステンレス、金、白金等の金属から構成される金属メッシュ又は金属多孔質体等の導電性多孔質体を用いることができる。
【0034】
本発明の膜電極接合体を燃料電池に組み込む際、ガス拡散層14a、14bのそれぞれの外側にセパレータが配置され、膜電極接合体10が積層方向に圧縮されることで、ガス拡散層14a、14bのそれぞれは、触媒層13a、13bに圧着されて膜電極接合体10として一体化している。
【0035】
本発明においては、触媒層13a、13bが、平均粒子径が100nm以上、500nm以下、好ましくは120nm以上、300nm以下であるイリジウム酸化物を含む。本発明において、この平均粒子径はメディアン径(D50)を意味し、当該分野において一般的な粒度分布測定装置により測定された値である。またイリジウムは、+2、+3、+4、+6の原子価を取り得るため、イリジウム酸化物はこれらの原子価のイリジウムの酸化物、すなわちIrO、Ir、IrO、IrOを意味する。
【0036】
また、触媒層13a、13b中のイリジウム酸化物の量は、アノード側の触媒層におけるイリジウム酸化物の目付量X(μg/cm)とカソード側の触媒層におけるイリジウム酸化物の目付量Y(μg/cm)が、下式
X+Y≦50
の関係にあり、但しX>0、Y>0であるような量である。
【0037】
このイリジウム酸化物は、触媒層中に微粒子の状態で存在する。この触媒層は、電解質膜又はカーボンペーパー等のガス拡散層に、カーボン担持触媒、イリジウム酸化物微粒子、高分子電解質等を含む触媒層形成用塗工液を塗布し、乾燥、焼成させることにより形成される。従って、触媒層中のイリジウム酸化物の目付量を上記範囲とするには、例えば、触媒層を形成する際の触媒層形成用塗工液中のイリジウム酸化物の量を調整することにより達成することができる。
【実施例
【0038】
〈膜電極接合体の製造〉
電解質成分(デュポン社製ナフィオン)を有機溶媒に溶解させ、溶解した電解質成分に白金担持カーボン及びイリジウム酸化物微粒子を分散させ、触媒層形成用塗工液を調製した。この触媒層形成用塗工液を電解質膜(デュポン社製ナフィオン)の両面に塗布し、乾燥させた。次いで、炭素繊維からなるカーボンペーパーより構成される一対のガス拡散層を触媒層に接合させ、1cmの膜電極接合体を製造した。さらに、この膜電極接合体の両側、すなわちガス拡散層の外側に、反応ガス流路が形成されているセパレータを配置することにより、燃料電池を製造した。
【0039】
〈イリジウム酸化物の平均粒子径と耐久後のイリジウムの溶出量の関係〉
得られた燃料電池(アノードPt/C(Pt目付量50μg/cm)、カソードPtCo/C(Pt目付量350μg/cm)、アノード側の触媒層におけるイリジウム酸化物の目付量X:10μg/cm、カソード側の触媒層におけるイリジウム酸化物の目付量Y:0μg/cm、イリジウム酸化物の平均粒子径:3nm、80nm、120nm、300nm)について、30℃において、0-1.65Vのアノード電位にて1200サイクルの負電圧耐久試験を行った。試験後、触媒層から溶出したイリジウムを電解質膜から抽出し、ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光)によりイリジウム量を定量した。結果を図2に示す。
【0040】
図2に示すように、イリジウム酸化物の平均粒子径が100nm未満では、燃料電池の耐久中に触媒層からイリジウムが電解質膜へ溶出してしまう。イリジウム酸化物の平均粒子径が100nm以上では、イリジウムの溶出は少ないが、500nmを超えた領域では、粒子が大きすぎるため、触媒層を均一に形成することが困難であり、触媒層抵抗が増加し、電池性能の低下をもたらすと考えられる。
【0041】
〈イリジウム酸化物の平均粒子径と耐久性能の関係〉
得られた燃料電池(アノード側の触媒層におけるイリジウム酸化物の目付量X:20μg/cm、カソード側の触媒層におけるイリジウム酸化物の目付量Y:10μg/cm、イリジウム酸化物の平均粒子径:250nm、3nm)、及びイリジウム酸化物を添加しない燃料電池について、30℃において、0-1.65Vのアノード電位にて0-1500サイクルの負電圧耐久試験を行った。試験後、アノード触媒層及びカソード触媒層におけるPt/CのECSA(白金有効利用面積)を、サイクリックボルタンメトリーにより測定した。結果を図3及び図4に示す。
【0042】
この結果から明らかなように、250nmの平均粒子径を有するイリジウム酸化物をアソード及びアノードの両極に混錬した膜電極接合体では、3nmの平均粒子径を有するイリジウム酸化物を混錬した場合と比較して、アノード及びカソード共に触媒Pt/Cの劣化を抑制することができる。3nmの平均粒子径を有するイリジウム酸化物を混錬した場合では、イリジウムが溶出し、水電解機能が低下するため、耐久性能が低いと考えられる。
【0043】
〈イリジウム流出量と耐久時間の関係〉
触媒層に250nmの平均粒子径を有するイリジウム酸化物を添加した燃料電池(アノード側の触媒層におけるイリジウム酸化物の目付量X:10μg/cm、カソード側の触媒層におけるイリジウム酸化物の目付量Y:0μg/cm)について、30℃において、0-1.65Vのアノード電位にて負電圧耐久試験を行った。300、600、900、1200、及び1500サイクルにおけるイリジウム量を定量し、仕込みイリジウム量に対する溶出イリジウム量の割合を算出した。結果を図5に示す。
【0044】
250nmという、100nm以上のイリジウム酸化物を用いても、耐久中にイリジウムの溶出は徐々に進行した。車両寿命に相当する1200サイクルにおいて、Ir仕込み量に対しておよそ20%のイリジウムが溶出することがわかった。
【0045】
〈電解質膜中のカチオンコンタミ量とプロトン輸送抵抗の関係〉
電解質中に様々な濃度のカチオンを含む燃料電池において、プロトン伝導度を測定し、プロトン輸送抵抗(1/(プロトン伝導度/膜厚))を算出した。この結果を図6に示す。
【0046】
触媒層中の金属や不純物がカチオンとして電解質膜に含侵すると、電解質膜中のスルホン酸基とカチオン成分がイオン交換し、電解質のプロトン伝導性が低下し、プロトン輸送抵抗が高くなる。図6に示すように、カチオンコンタミ量が10μg/cm以上となると、プロトン輸送抵抗が増加傾向となり、電池性能を低下させると考えられる。100~500nmの平均粒子径を有するイリジウム酸化物微粒子を添加した燃料電池においても、図5に示すように、車両寿命を想定するとおおよそ20%のイリジウムが溶出し、カチオンとして電解質膜中に含侵する。従って、アノード極への仕込みイリジウム酸化物目付X及びカソード極への仕込みイリジウム酸化物目付Yの合計量の20%、すなわち0.2×(X+Y)が、車両寿命中のイリジウム溶出量であると想定される。そして図6の結果より、この車両寿命中のイリジウム溶出量0.2×(X+Y)が、10μg/cm以下であることが必要である。従って、0.2×(X+Y)≦10より、X+Y≦50が導き出される。
【0047】
〈アノード及びカソードにおけるイリジウム酸化物仕込み量とプロトン輸送抵抗の関係〉
アノード側の触媒層におけるイリジウム酸化物の目付量X及びカソード側の触媒層におけるイリジウム酸化物の目付量が異なる燃料電池(アノードPt/C(Pt目付量50μg/cm)、カソードPtCo/C(Pt目付量350μg/cm)、イリジウム酸化物の平均粒子径:250nm)について、30℃において、0-1.65Vのアノード電位にて1200サイクルの負電圧耐久試験を行った。試験後、触媒層から溶出したイリジウムを電解質膜から抽出し、ICP-AES(誘導結合プラズマ発光分光)によりイリジウム量を定量した。また、耐久前後のプロトン輸送抵抗を算出した。結果を以下の表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
サンプル1及び2(本発明の実施例)においては、耐久後のイリジウム溶出量が10μg/cm未満に抑制されており、耐久後のプロトン輸送抵抗の増加は確認されていない。一方、サンプル3~5(比較例)においては、耐久後のイリジウム溶出量が10μg/cm以上を示し、耐久後のプロトン輸送抵抗の増加が確認されている。これは、耐久中にイリジウムが溶出し、カチオンコンタミとして電解質膜中に入り、電解質のスルホン酸基とイオン交換した結果、プロトン伝導性を低下させた結果である。
【符号の説明】
【0050】
11 プロトン伝導性高分子電解質膜
12a、12b 電極
13a、13b 触媒層
14a、14b ガス拡散層
図1
図2
図3
図4
図5
図6