IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リケンテクノス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-粘着フィルム 図1
  • 特許-粘着フィルム 図2
  • 特許-粘着フィルム 図3
  • 特許-粘着フィルム 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】粘着フィルム
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20220802BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220802BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220802BHJP
   C09J 7/24 20180101ALI20220802BHJP
   C09J 133/00 20060101ALI20220802BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
C09J7/38
B32B27/00 M
B32B27/30 101
C09J7/24
C09J133/00
C09J175/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018547164
(86)(22)【出願日】2017-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2017030774
(87)【国際公開番号】W WO2018079051
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2019-07-24
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2016209209
(32)【優先日】2016-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】猪股 仁美
(72)【発明者】
【氏名】湧川 滝雄
【合議体】
【審判長】亀ヶ谷 明久
【審判官】瀬下 浩一
【審判官】木村 敏康
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-79232(JP,A)
【文献】特開2005-139323(JP,A)
【文献】特開2007-246797(JP,A)
【文献】特開2010-53185(JP,A)
【文献】特開2001-302999(JP,A)
【文献】特開2002-317061(JP,A)
【文献】特開2016-188459(JP,A)
【文献】特開昭62-201985(JP,A)
【文献】特開平9-174771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 27/00
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層側から順に、(α)ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの層、及び(β)粘着剤層を有する粘着フィルムであって、
上記(β)粘着剤層が、
(A)下記特性(a1)及び(a2):
(a1)酸価が2025mgKOH/gである;
(a2)質量平均分子量が55万~100万である;
を満たすアクリル系重合体100質量部;ならびに、
(B)1分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物1~1.6質量部
を含む粘着剤から形成され、
上記(β)粘着剤層の表面の温度5℃におけるタッキネスが15~25Nであり、
上記(β)粘着剤層の表面の温度35℃におけるタッキネスが12~23Nであり、
上記ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの温度5℃において測定した降伏点応力が30~37MPaである、粘着フィルム。
【請求項2】
温度5℃での90°引き剥がし粘着力が11.3N/25mm以上である、請求項1に記載の粘着フィルム。
【請求項3】
上記(β)粘着剤層を形成する粘着剤が、下記特性(b1)、及び(b2):
(b1)最も低い温度側のtanδのピークトップ値が-20~-5℃である;
(b2)ゲル分率が30~75質量%である;
を満たす、請求項1又は2に記載の粘着フィルム。
【請求項4】
上記(β)粘着剤層の貼着面にエア抜け溝が設けられている、請求項1~3の何れか1項に記載の粘着フィルム。
【請求項5】
壁紙用である、請求項1~4の何れか1項に記載の粘着フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着フィルムに関する。更に詳しくは、本発明は、壁などの化粧・装飾に好適な粘着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、木材、合板、集成材、パーチクルボード、及びハードボード等の木質系材料;鉄、及びアルミニウム等の金属系材料;及び、石膏等の無機質系材料などからなる壁の表面に、化粧・装飾された粘着フィルム(いわゆる壁紙)を貼り、化粧・装飾することが行われている。この際に、壁の表面と壁紙の粘着剤層の表面との間にエアや異物を噛み込んだりして膨れや皺などの外観不良を発生させることなく、粘着フィルムを施工することが求められる。しかし、冬の寒い時期に粘着フィルムを施工すると、施工直後は良好に施工されているように見えるにも係わらず、施工後に室内の温度が上昇したり、窓から差し込んだ日射を受けたりすると膨れが発生するという問題(以下、「低温施工時の経時膨れの問題」と略すことがある。)があった。
【0003】
膨れや皺などの外観不良を発生させることなく粘着フィルムを施工するという課題に対しては、粘着剤層にエア抜け溝を設けることが提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。しかし、本発明者が試験したところ、これらの技術によって低温施工時の経時膨れの問題を解決することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-070273号公報
【文献】特表2002-544364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、低温施工時の経時膨れの問題が解決された粘着フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究した結果、特定の粘着フィルムにより、上記課題を達成できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は以下の諸態様を有する。
[1].表層側から順に、(α)ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの層、及び(β)粘着剤層を有する粘着フィルムであって、
上記(β)粘着剤層が、
(A)下記特性(a1)及び(a2):
(a1)酸価が18~27mgKOH/gである;
(a2)質量平均分子量が50~100万である;
を満たすアクリル系重合体100質量部;ならびに、
(B)1分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物0.1~3質量部
を含む粘着剤から形成されている、粘着フィルム。
[2].表層側から順に、(α)ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの層、及び(β)粘着剤層を有する粘着フィルムであって、
上記(β)粘着剤層の表面の温度5℃におけるタッキネスが12~25Nであり、
上記(β)粘着剤層の表面の温度35℃におけるタッキネスが12~23Nである、粘着フィルム。
[3].上記(β)粘着剤層を形成する粘着剤が、下記特性(b1)、及び(b2):
(b1)最も低い温度側のtanδのピークトップ値が-20~-5℃である;
(b2)ゲル分率が30~75質量%である;
を満たす、上記[1]又は[2]項に記載の粘着フィルム。
[4].上記(β)粘着剤層の貼着面にエア抜け溝が設けられている、上記[1]~[3]項の何れか1項に記載の粘着フィルム。
[5].上記ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの温度5℃において測定した降伏点応力が30~40MPaである、上記[1]~[4]項の何れか1項に記載の粘着フィルム。
[6].壁紙用である、上記[1]~[5]項の何れか1項に記載の粘着フィルム。
【発明の効果】
【0008】
冬の寒い時期に粘着フィルムを施工すると、施工直後は良好に施工されているように見えるにも係わらず、施工後に室内の温度が上昇したり、窓から差し込んだ日射を受けたりすると膨れが発生するという問題が、本発明の粘着フィルムによって解決されている。また、本発明の粘着フィルムは、初期粘着力、耐剥れ性、耐めくれ性、耐目隙性、折り曲げ施工性、エア抜け性、耐衝撃性、及び加熱延伸性に優れていることが望ましい。そのため、本発明の粘着フィルムは、壁などの化粧・装飾に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の粘着フィルムの一例を示す断面の概念図である。
図2図2は、実施例で用いたスキージーの断面の概念図である。
図3図3は、実施例で用いた積層装置の概念図である。
図4図4は、降伏点応力を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「フィルム」の用語は、シートをも含む用語として使用する。「樹脂」の用語は、2以上の樹脂を含む樹脂混合物や、樹脂以外の成分を含む樹脂組成物をも含む用語として使用する。「ある層が他の層の表層側にある」とは、粘着フィルムが壁に施工された後、視認される側となる面により近い位置にあることを意味する。「ある層と他の層とを積層すること」は、それらの層を直接積層すること、及び、それらの層の間にアンカーコートなどの別の層を1層以上介在させて積層することの両方を含む。数値範囲に係る「以上」の用語は、ある数値又はある数値超の意味で使用する。例えば、20%以上は、20%又は20%超を意味する。数値範囲に係る「以下」の用語は、ある数値又はある数値未満の意味で使用する。例えば、20%以下は、20%又は20%未満を意味する。更に数値範囲に係る「~」の記号は、ある数値、ある数値超かつ他のある数値未満、又は他のある数値の意味で使用する。ここで、他のある数値は、ある数値よりも大きい数値とする。例えば、10~90%は、10%、10%超かつ90%未満、又は90%を意味する。
実施例以外において、または別段に指定されていない限り、本明細書および請求の範囲において使用されるすべての数値は、「約」という用語により修飾されるものとして理解されるべきである。請求の範囲に対する均等論の適用を制限しようとすることなく、各数値は、有効数字に照らして、および通常の丸め手法を適用することにより解釈されるべきである。
【0011】
本発明の粘着フィルムは、表層側から順に、(α)ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの層、及び(β)粘着剤層を有する。
【0012】
(α)ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの層
上記層(α)は、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムからなる層である。上記層(α)は、本発明の粘着フィルムの基材となる層である。
【0013】
上記層(α)のポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの材料として用いるポリ塩化ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル(塩化ビニル単独重合体);塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、塩化ビニル・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、塩化ビニル・マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル・エチレン共重合体、塩化ビニル・プロピレン共重合体、塩化ビニル・スチレン共重合体、塩化ビニル・イソブチレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル・スチレン・無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル・スチレン・アクリロニトリル三元共重合体、塩化ビニル・ブタジエン共重合体、塩化ビニル・イソプレン共重合体、塩化ビニル・塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル・塩化ビニリデン・酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル・アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル・各種ビニルエーテル共重合体等の塩化ビニル及び塩化ビニルと共重合可能な他のモノマーの塩化ビニル系共重合体;後塩素化ビニル共重合体等のポリ塩化ビニルや塩化ビニル系共重合体を改質(塩素化等)したものなどを挙げることができる。更には塩素化ポリエチレン等の、化学構造がポリ塩化ビニルと類似する塩素化ポリオレフィンを用いてもよい。このような化学構造がポリ塩化ビニルと類似する塩素化ポリオレフィンも、(α)ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの層を構成する「ポリ塩化ビニル系樹脂」の範疇に入る。上記ポリ塩化ビニル系樹脂としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0014】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂には、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物に通常使用される他の樹脂を、更に含ませることができる。他の樹脂の配合割合は、本発明の目的に反しない限り特に制限されないが、上記ポリ塩化ビニル系樹脂と他の樹脂の合計を100質量%として、通常0~40質量%、好ましくは0~30質量%、より好ましくは5~25質量%であってよい。
【0015】
上記他の樹脂としては、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体;エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体;エチレン・(メタ)アクリル酸エチル共重合体;メタクリル酸エステル・スチレン/ブタジエンゴムグラフト共重合体、アクリロニトリル・スチレン/ブタジエンゴムグラフト共重合体、アクリロニトリル・スチレン/エチレン・プロピレンゴムグラフト共重合体、アクリロニトリル・スチレン/アクリル酸エステルグラフト共重合体、メタクリル酸エステル/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体、メタクリル酸エステル・アクリロニトリル/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体等のコアシェルゴムなどを挙げることができる。他の樹脂としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0016】
また、上記ポリ塩化ビニル系樹脂には、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物に通常使用される可塑剤を、更に含ませることができる。上記可塑剤の配合量は、上記ポリ塩化ビニル系樹脂と上記他の樹脂との合計を100質量部として、通常100質量部以下、好ましくは10~30質量部、より好ましくは15~25質量部であってよい。
【0017】
上記可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸エステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤、イタコン酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、シクロヘキサンジカルボキシレート系可塑剤、及びエポキシ系可塑剤などを挙げることができる。
【0018】
上記可塑剤としては、例えば、多価アルコールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-へキサンジオール、1,6-へキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどを用い、多価カルボン酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、トリメリット酸、ピメリン酸、スベリン酸、マレイン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などを用い、必要により一価アルコール、モノカルボン酸をストッパーに使用したポリエステル系可塑剤を挙げることができる。
【0019】
上記フタル酸エステル系可塑剤としては、例えば、フタル酸ジブチル、フタル酸ブチルヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジウンデシル、フタル酸ジトリデシル、フタル酸ジラウリル、フタル酸ジシクロヘキシル、及びテレフタル酸ジオクチルなどを挙げることができる。
【0020】
上記トリメリット酸エステル系可塑剤としては、例えば、トリ(2-エチルヘキシル)トリメリテート、トリ(n-オクチル)トリメリテート、及びトリ(イソノニル)トリメリテートなどを挙げることができる。
【0021】
上記アジピン酸エステル系可塑剤としては、例えば、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル、及びアジピン酸ジイソデシルなどを挙げることができる。
【0022】
上記エポキシ系可塑剤としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化脂肪酸オクチルエステル、及びエポキシ化脂肪酸アルキルエステルなどを挙げることができる。
【0023】
上記可塑剤としては、その他、トリメリット酸系可塑剤、テトラヒドロフタル酸ジエステル系可塑剤、グリセリンエステル系可塑剤、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジエステル系可塑剤、イソソルバイドジエステル系可塑剤、ホスフェート系可塑剤系、アゼライン酸系可塑剤、セバシン酸系可塑剤、ステアリン酸系可塑剤、クエン酸系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、ビフェニルテトラカルボン酸エステル系可塑剤、及び塩素系可塑剤などを挙げることができる。
【0024】
上記可塑剤としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0025】
また、上記ポリ塩化ビニル系樹脂には、ポリ塩化ビニル系樹脂組成物に通常使用される物質を、本発明の目的に反しない限度において、更に含ませることができる。含み得る任意成分としては、顔料、無機フィラー、有機フィラー、樹脂フィラー;滑剤、酸化防止剤、耐候性安定剤、熱安定剤、核剤、離型剤、帯電防止剤、尿素-ホルムアルデヒドワックス、及び、界面活性剤等の添加剤などを挙げることができる。これらの任意成分の配合量は、ポリ塩化ビニル系樹脂と上記他の樹脂との合計を100質量部としたとき、通常0.01~50質量部程度である。
【0026】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂を用いて上記ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムを得る方法は、特に制限されない。上記方法としては、例えば、カレンダーロール圧延加工機と引巻取機とを備える装置を使用する方法、押出機、Tダイ、及び引巻取機を備える装置を使用する方法などを挙げることができる。
【0027】
上記カレンダーロール圧延加工機としては、例えば、直立型3本ロール、直立型4本ロール、L型4本ロール、逆L型4本ロール、及びZ型ロールなどを挙げることができる。
【0028】
上記押出機としては、例えば単軸押出機、同方向回転二軸押出機、及び、異方向回転二軸押出機などを挙げることができる。
【0029】
上記Tダイとしては、例えば、マニホールドダイ、フィッシュテールダイ、及び、コートハンガーダイなどを挙げることができる。
【0030】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの厚み(上記ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムが、意匠性の観点から、凹凸模様が設けられたものにあっては、凹凸模様形成前の厚み、乃至は凹凸のない部分における厚み)は、特に制限されないが、ハンドリング性の観点から、通常20μm以上、好ましくは50μm以上、より好ましくは80μm以上であってよい。一方、上記ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの厚みは、施工時の作業性の観点から、通常400μm以下、好ましくは300μm以下、より好ましくは250μm以下であってよい。一実施形態において、上記ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの厚みは、通常、20μm以上400μm以下、好ましくは、20μm以上300μm以下、20μm以上250μm以下、50μm以上400μm以下、50μm以上300μm以下、50μm以上250μm以下、80μm以上400μm以下、80μm以上300μm以下、または80μm以上250μm以下であってよい。
上記ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの厚み(上記ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムが、意匠性の観点から、凹凸模様が設けられたものにあっては、凹凸模様形成前の厚み、乃至は凹凸のない部分における厚み)は、フィルム全体において実質的に一定である。ここでいう「実質的に一定の厚み」とは、工業的に通常行われる工程・品質管理の振れ幅である-5~+5μm程度の幅の範囲内であることを指す。例えば、製造されるべき上記ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの厚みを160μmに設定する際、フィルムのある位置の厚みが155μmであり、フィルムのある別の位置の厚みが165μmというように最大で-5~+5μmの変動を生じる場合、それは実質的に一定の厚み160μmを有するといってよい。
【0031】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムについて、JIS K7127:1999に準拠し、フィルムのマシン方向が引張方向となるように打抜いて得た試験片タイプ1Bの試験片を用い、温度5℃、及び引張速度200mm/分の条件で測定した降伏点応力は、低温施工性の観点から、通常45MPa以下、好ましくは40MPa以下、より好ましくは39MPa以下、更に好ましくは38MPa以下、最も好ましくは37MPa以下であってよい。一方、この降伏点応力は、高温施工性の観点から、好ましくは25MPa以上、より好ましくは30MPa以上、更に好ましくは32MPa以上、最も好ましくは33MPa以上であってよい。一実施形態において、この降伏点応力は、好ましくは、25MPa以上45MPa以下、より好ましくは25MPa以上40MPa以下、25MPa以上39MPa以下、25MPa以上38MPa以下、25MPa以上37MPa以下、30MPa以上45MPa以下、30MPa以上40MPa以下、30MPa以上39MPa以下、30MPa以上38MPa以下、30MPa以上37MPa以下、32MPa以上45MPa以下、32MPa以上40MPa以下、32MPa以上39MPa以下、32MPa以上38MPa以下、32MPa以上37MPa以下、33MPa以上45MPa以下、33MPa以上40MPa以下、33MPa以上39MPa以下、33MPa以上38MPa以下、または33MPa以上37MPa以下であってよい。
【0032】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの上記(β)粘着剤層形成面とは反対側の面(粘着フィルムが壁に施工された後、視認される側となる面)の上には、所望により、印刷層などの任意の層を設けてもよい。更にその上に透明樹脂フィルム層、及び保護コート層などの任意の層を設けてもよい。
【0033】
(β)粘着剤層
上記層(β)は、粘着剤から形成された層である。本発明のある態様においては、上記層(β)を形成する粘着剤は、(A)下記特性(a1)、及び(a2)を満たすアクリル系重合体100質量部;及び、(B)1分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物0.1~3質量部を含む。ここで上記成分(A)のアクリル系重合体が満たすべき特性(a1)及び(a2)は以下のとおりである。
(a1)酸価が18~27mgKOH/gである。
(a2)質量平均分子量が50~100万である。
【0034】
上記成分(A)はアクリル系重合体である。上記成分(A)のアクリル系重合体は、粘着剤の主剤として、粘着性を発現するとともに、上記成分(B)の1分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物、及びその他の任意成分を包含する働きをする。
【0035】
上記成分(A)のアクリル系重合体の酸価は、温度5℃におけるタッキネスを高くする観点から、通常27mgKOH/g以下、好ましくは26mgKOH/g以下、より好ましくは25mgKOH/g以下である。一方、上記成分(A)のアクリル系重合体の酸価は、初期粘着力、剥れの防止、めくれの防止、及び目隙の防止の観点から、通常18mgKOH/g以上、好ましくは20mgKOH/g以上、より好ましくは22mgKOH/g以上である。一実施形態において、上記成分(A)のアクリル系重合体の酸価は、通常18mgKOH/g以上27mgKOH/g以下、好ましくは18mgKOH/g以上26mgKOH/g以下、18mgKOH/g以上25mgKOH/g以下、20mgKOH/g以上27mgKOH/g以下、20mgKOH/g以上26mgKOH/g以下、20mgKOH/g以上25mgKOH/g以下、22mgKOH/g以上27mgKOH/g以下、22mgKOH/g以上26mgKOH/g以下、または22mgKOH/g以上25mgKOH/g以下であってよい。
【0036】
本明細書において酸価は、試料1g中に含有する遊離脂肪酸、樹脂酸などを中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数であり、JIS K0070-1992の3.1中和滴定法に従い測定した値である。
【0037】
上記成分(A)のアクリル系重合体の質量平均分子量は、粘着剤に適度な硬度を付与し、剥れ、めくれ、及び目隙を防止する観点から、通常50万以上、好ましくは55万以上であってよい。一方、上記成分(A)のアクリル系重合体の質量平均分子量は、塗工性の観点から、通常100万以下、好ましくは80万以下であってよい。一実施形態において、上記成分(A)のアクリル系重合体の質量平均分子量は、通常50万以上100万以下、好ましくは50万以上80万以下、55万以上100万以下、または55万以上80万以下であってよい。
【0038】
本明細書において質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を使用して求めた。GPC測定は、昭和電工株式会社の高速液体クロマトグラフィシステム「SHODEX GPC-101」(商品名)、ポリスチレンカラム(排除限界が4×10のカラムと1×10のカラムを各1本連結。)を使用し、測定温度40℃、流速1mL/分、移動相:高速液体クロマトグラフィ用のテトラヒドロフラン(THF)、及び試料濃度1mg/mLの条件で行った。分子量の較正曲線は、標準ポリスチレンを使用して作成した。
なお、当業者は、上で具体的な商品名として特定された以外の高速液体クロマトグラフィシステムを用いることによっても、実質的に同じ質量平均分子量を得ることができることを理解するであろう。
【0039】
上記成分(A)のアクリル系重合体のガラス転移温度は、低温施工時の作業性を良好にする観点から、上記成分(B)の1分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物の種類や配合量にもよるが、好ましくは-50℃以下、より好ましくは-55℃以下であってよい。一方、上記成分(A)のアクリル系重合体のガラス転移温度は、高温時に粘着力を保持し、剥れ、めくれ、及び目隙を防止する観点から、好ましくは-70℃以上、より好ましくは-60℃以上であってよい。一実施態様において、上記成分(A)のアクリル系重合体のガラス転移温度は、好ましくは-70℃以上-50℃以下、より好ましくは-70℃以上-55℃以下、-60℃以上-50℃以下、または-60℃以上-55℃以下であってよい。
【0040】
本明細書において上記成分(A)のアクリル系重合体のガラス転移温度は、常法によって求められる計算値、即ち下記式(Foxの式)から求めた値である。
1/(Tg+273)=W/(Tg+273)+W/(Tg+273)+W/(Tg+273)+・・・+W/(Tg+273)
式中、Tgは、n種の単量体からなる重合体のガラス転移温度(℃)であり、W、W、W・・・Wは、単量体組成物中の各単量体の質量%であり、Tg、Tg、Tg・・・Tgは、各単量体のホモポリマーのガラス転移温度(℃)である。各ホモポリマーのTgは、例えば、ポリマーハンドブックなどに記載されている数値を使用することができる。
【0041】
上記成分(A)のアクリル系重合体としては、上記特性(a1)、及び(a2)を満たすこと以外は制限されず、好ましくは更にガラス転移温度が-70~-50℃であること以外は制限されず、任意のアクリル系重合体を用いることができる。上記アクリル系重合体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、及び(メタ)アクリル酸ステアリルなどの(メタ)アクリル酸エステルモノマー;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、及びβ-カルボキシエチル(メタ)アクリレートなどのカルボキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸グリシジル、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテルなどのエポキシ基含有モノマー;(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸-3-ヒドロキシブチル、及び(メタ)アクリル酸-4-ヒドロキシブチルなどの水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーなどの1種又は2種以上の混合物をモノマーとする重合体又は共重合体を挙げることができる。なお、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸の意味である。(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートの意味である。上記成分(A)のアクリル系重合体としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0042】
上記成分(B)は、1分子中に2以上のイソシアネート基(-N=C=O)を有する化合物である。上記成分(B)の1分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物は、粘着剤に適度な硬度を付与し、剥れ、めくれ、及び目隙を防止する働きをする。
【0043】
上記1分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物としては、例えば、メチレンビス-4-シクロヘキシルイソシアネート;トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、トリレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレット体等のポリイソシアネート;及び、上記ポリイソシアネートのブロック型イソシアネート等のウレタン架橋剤などを挙げることができる。上記1分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。また、架橋の際には、必要に応じてジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジエチルヘキソエートなどの触媒を添加してもよい。
【0044】
上記成分(B)の1分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物の配合量は、上記成分(A)のアクリル系重合体100質量部に対して、粘着剤に適度な硬度を付与し、剥れ、めくれ、及び目隙を防止する観点から、通常0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。一方、上記成分(B)の1分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物の配合量は、低温時の粘着力を保持する観点から、通常3質量部以下、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1.6質量部以下である。一実施形態において、上記成分(B)の1分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物の配合量は、通常0.1質量部以上3質量部以下、好ましくは、0.1質量部以上2質量部以下、0.1質量部以上1.6質量部以下、0.5質量部以上3質量部以下、0.5質量部以上2質量部以下、0.5質量部以上1.6質量部以下、1質量部以上3質量部以下、1質量部以上2質量部以下、または1質量部以上1.6質量部以下であってよい。
【0045】
上記層(β)の形成に用いる粘着剤は、塗工し易い濃度に希釈するため、所望に応じて溶剤を含んでいてもよい。上記溶剤は粘着剤成分と反応したり、これらの成分の自己反応(劣化反応を含む)を触媒(促進)したりしないものであれば、特に制限されない。上記溶剤としては、例えば、1-メトキシ-2-プロパノール、イソプロパノール、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ダイアセトンアルコール、及びアセトンなどを挙げることができる。上記溶剤としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0046】
上記層(β)の形成に用いる粘着剤には、本発明の目的に反しない限度において、上記成分(A)及び(B)以外の任意成分を、所望に応じて、更に含ませることができる。上記任意成分としては、例えば、難燃剤、光重合開始剤、帯電防止剤、界面活性剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、汚染防止剤、印刷性改良剤、酸化防止剤、耐候性安定剤、耐光性安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、顔料、及びフィラーなどの添加剤を挙げることができる。上記任意成分の配合量は、特に制限されないが、上記成分(A)を100質量部として、通常0.01~10質量部程度であってよい。
【0047】
上記層(β)の形成に用いる粘着剤は、これらの成分を混合、攪拌することにより得ることができる。
【0048】
上記層(β)の形成に用いる粘着剤のゲル分率は、粘着剤に適度な硬度を付与し、剥れ、めくれ、及び目隙を防止する観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは45質量%以上であってよい。一方、粘着剤のゲル分率は、粘着力と凝集力との特性バランス、及びタック性の観点から、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下であってよい。一実施形態において、粘着剤のゲル分率は、好ましくは、30質量%以上75質量%以下、より好ましくは30質量%以上70質量%以下、45質量%以上75質量%以下、または45質量%以上70質量%以下であってよい。
【0049】
本明細書において、粘着剤のゲル分率は、株式会社NBCメッシュテックの濾過メッシュ「T-NO355T」(商品名)の質量を測定し、粘着剤0.1gを入れ、粘着剤を入れた濾過メッシュの、酢酸エチル抽出前の質量を測定し、酢酸エチル(試薬特級)100mlを入れた蓋付ガラス瓶に投入し、ガラス瓶の蓋をして、常温(25℃)で4日間静置した後、濾過メッシュを135℃で1時間送風乾燥し、粘着剤を入れた濾過メッシュの、酢酸エチル抽出後の質量を測定した後、下記式より算出した。
ゲル分率(%)=(W-W)/(W-W) ×100
ここで、Wは濾過メッシュの質量:Wは粘着剤を入れた濾過メッシュの、酢酸エチル抽出前の質量:Wは粘着剤を入れた濾過メッシュの、酢酸エチル抽出後の質量である。
なお、当業者は、上で具体的な商品名として特定された以外の濾過メッシュを用いることによっても、実質的に同じゲル分率を得ることができることを理解するであろう。
【0050】
上記層(β)の形成に用いる粘着剤の最も低い温度側のtanδのピークトップ値は、施工時の作業性を良好にする観点から、好ましくは-5℃以下、より好ましくは-10℃以下であってよい。一方、粘着剤の最も低い温度側のtanδのピークトップ値は、高温時に粘着力を保持し、剥れ、めくれ、及び目隙を防止する観点から、好ましくは-20℃以上、より好ましくは-15℃以上であってよい。一実施形態において、粘着剤の最も低い温度側のtanδのピークトップ値は、好ましくは、-20℃以上-5℃以下、より好ましくは-20℃以上-10℃以下、-15℃以上-5℃以下、または-15℃以上-10℃以下であってよい。
【0051】
本明細書において、粘着剤の最も低い温度側のtanδのピークトップ値は、セイコーインスツル株式会社の動的粘弾性測定装置「EXSTAR 6100DMS」(商品名)を使用し、1mm厚シートから打抜いて得た直径5mm、厚さ1mmの円盤状サンプルをずりチャックの先端の両側に各1枚添えて、ずりクランプベースによりセットし、温度-45℃で10分間保持した後、昇温速度3℃/分、周波数0.1Hzの条件で、温度100℃まで昇温して得た温度-tanδ曲線における最も低い温度側に現れるピークのピークトップ温度である。ここで上記1mm厚シートは、粘着フィルムから粘着剤を掻き採り、掻き採った粘着剤100質量部に対して、溶剤(酢酸エチルと酢酸ブチルの2:1(体積比)混合溶剤)150質量部を加えて良く溶解させた後、乾燥後の厚みが1mmになるように、平型に流し込み、静置して、室温(23℃)で24時間乾燥し、更に温度30℃で8時間真空乾燥して作成した。
なお、当業者は、上で具体的な商品名として特定された以外の動的粘弾性測定装置を用いることによっても、実質的に同じ最も低い温度側のtanδのピークトップ値を得ることができることを理解するであろう。
【0052】
上記粘着剤を用いて上記層(β)を形成する方法は、特に制限されず、公知のウェブ塗布方法を使用することができる。上記方法としては、例えば、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、エアナイフコート、及びダイコートなどの方法を挙げることができる。上記層(β)は、上記層(α)の上記層(β)形成面の上に直接形成してもよく、剥離紙の易剥離面の上に形成し、これを上記層(α)の上記層(β)形成面の上に転写してもよい。
【0053】
上記層(β)の厚み(後述のエア抜け溝を設ける態様にあっては、溝以外の部分における厚み)は、特に制限されないが、施工時の作業性の観点から、通常10μm以上、好ましくは30μm以上、より好ましくは40μm以上であってよい。一方、上記層(β)の厚みは、貼着面にエア抜け溝を設ける態様における外観不良防止と初期粘着力との特性バランスの観点から、通常75μm以下、好ましくは55μm以下、より好ましくは50μm以下であってよい。一実施形態において、上記層(β)の厚みは、通常10μm以上75μm以下、好ましくは、10μm以上55μm以下、10μm以上50μm以下、30μm以上75μm以下、30μm以上55μm以下、30μm以上50μm以下、40μm以上75μm以下、40μm以上55μm以下、または40μm以上50μm以下であってよい。
上記層(β)の厚みは、層全体において実質的に一定である。ここでいう「実質的に一定の厚み」とは、工業的に通常行われる工程・品質管理の振れ幅である-2~+2μm程度の幅の範囲内であることを指す。例えば、製造されるべき上記層(β)の厚みを45μmに設定する際、層のある位置の厚みが43μmであり、層のある別の位置の厚みが47μmというように最大で-2~+2μmの変動を生じる場合、それは実質的に一定の厚み45μmを有するといってよい。
【0054】
上記(β)粘着剤層の表面の温度5℃におけるタッキネスは、低温施工時の経時膨れの問題を解決する観点から、好ましくは12N以上、より好ましくは15N以上、更に好ましくは17N以上である。一方、上記(β)粘着剤層の表面の温度5℃におけるタッキネスは、低温施工時の経時膨れの問題解決と高温時のべとつき抑制とのバランスの観点から、好ましくは25N以下、より好ましくは23N以下であってよい。一実施形態において、上記(β)粘着剤層の表面の温度5℃におけるタッキネスは、好ましくは、12N以上25N以下、より好ましくは、12N以上23N以下、15N以上25N以下、15N以上23N以下、17N以上25N以下、または17N以上23N以下であってよい。
上記(β)粘着剤層の表面の温度35℃におけるタッキネスは、施工作業性の観点から、好ましくは12N以上、より好ましくは15N以上であってよい。一方、上記(β)粘着剤層の表面の温度35℃におけるタッキネスは、高温時のべとつきを抑制する観点から、好ましくは23N以下、より好ましくは20N以下であってよい。一実施形態において、上記(β)粘着剤層の表面の温度35℃におけるタッキネスは、好ましくは、12N以上23N以下、より好ましくは、12N以上20N以下、15N以上23N以下、または15N以上20N以下であってよい。
【0055】
本明細書において、温度5℃におけるタッキネスは、温度5℃、相対湿度50%の環境で24時間以上粘着フィルムの状態調節をした後、同環境下において、株式会社東洋精機製作所のタッキネスチェッカ(型式HTC-1)を使用し、接触子の種類はフラット面圧子(型式AL-M1)、接触子圧着力5N、圧着時間3秒、及び繰返し試験数5回の条件で測定した値である。温度35℃におけるタッキネスは、温度35℃、相対湿度50%の環境で24時間以上粘着フィルムの状態調節をした後、同環境下において、温度5℃におけるタッキネスと同様にして測定した値である。なお、後述のエア抜け溝を設ける態様にあっては、溝の存在を考慮せずに測定した値をそのまま使用する。
なお、当業者は、上で具体的な商品名として特定された以外のタッキネスチェッカを用いることによっても、実質的に同じタッキネスを得ることができることを理解するであろう。
【0056】
冬の寒い時期に粘着フィルムを施工すると、施工直後は良好に施工されているように見えるにも係わらず、施工後に室内の温度が上昇したり、窓から差し込んだ日射を受けたりすると膨れが発生するという問題があった。理論に拘束される意図はないが、寒い時期に施工すると、タック力が低いため、壁の表面と粘着剤層の表面とが密着していない部分、即ち外観不良を生じない程度の少量のエアを噛み込んだ部分を生じ、その噛み込まれたエアが室温の上昇等により膨張することにより、このような問題が起こると考えられる。従って、本発明が上記の問題を解決することができた理由の1つは、粘着剤の低温におけるタック力を高めたことにあると考えられる。
【0057】
上記層(β)の壁などとの貼着面に、少なくとも1つのエア抜け溝を設けることは好ましい。膨れや皺などの外観不良であって、施工後、直ちに分かるようなものは、上記エア抜け溝を設けることにより防止ないし抑制することができる。上記エア抜け溝の形状、及び上記エア抜け溝を設ける方法は、例えば、特開2006-070273号公報、特表2002-544364号公報、及び国際公開2005/100499号などに記載されている公知の形状、及び方法であってよい。
【0058】
図1は本発明の粘着フィルムの一例を示す断面の概念図である。この粘着フィルムは、ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの層1、及び粘着剤層2を有し、粘着剤層2側の面の上には、粘着フィルムが施工されるまでの取扱性の観点から、剥離紙が積層されている。
【実施例
【0059】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
物性の測定・評価方法
(i)温度5℃におけるタッキネス
温度5℃、相対湿度50%の環境で24時間以上粘着フィルムの状態調節をした後、同環境下において、株式会社東洋精機製作所のタッキネスチェッカ(型式HTC-1)を使用し、接触子の種類はフラット面圧子(型式AL-M1)、接触子圧着力5N、圧着時間3秒、及び繰返し試験数5回の条件で、粘着フィルムの粘着剤層側の面のタッキネス(単位:N)を測定した。表に記載した結果は、5回の試験の平均値である。
【0061】
(ii)温度35℃におけるタッキネス
温度35℃、相対湿度50%の環境で24時間以上粘着フィルムの状態調節をした後、同環境下において、上記試験(i)と同様にタッキネス(単位:N)の測定を行った。
【0062】
(iii)低温施工時の経時膨れ(促進試験)
吉野石膏株式会社の12.5mm厚の石膏ボード「タイガーボード」(商品名)に、株式会社サンゲツのゴム系プライマー剤「ベンリダイン NEW RT」(商品名)を、スポンジローラーを使用して塗布、乾燥し、下地処理を行った。次に、上記で得た処理済石膏ボードと粘着フィルムを温度5℃、湿度50%の環境下で24時間以上状態調節した後、粘着フィルムを処理済石膏ボードの下地処理面に、刃先1.5mm、幅10cmのスキージー(図2に断面の概念図を示す。)を使用し、150~230gfの荷重をかけて圧着した。続いて、粘着フィルムを圧着した処理済石膏ボードの粘着フィルム側の表面を、1200Wの家庭用ドライヤーを使用し、粘着フィルムから5cm離れた位置から、粘着フィルム表面の全体の温度が40℃になるまで送風・加熱した。粘着フィルムの表面を目視観察し、以下の基準で評価した。
ランク6:膨れの発生なし。
ランク5:膨れの発生は僅かである。膨れの発生した部分の面積は全体の5%未満である。
ランク4:膨れの発生は少ない。膨れの発生した部分の面積は全体の5%以上、15%未満である。
ランク3:膨れの発生は多くない。膨れの発生した部分の面積は全体の15%以上、25%未満である。
ランク2:膨れの発生は多い。膨れの発生した部分の面積は全体の25%以上、40%未満である。
ランク1:膨れの発生は非常に多い。膨れの発生した部分の面積は全体の40%以上である。
【0063】
(iv)低温粘着力(低温施工直後の粘着力)
上記試験(iii)と同様にして得た処理済石膏ボードを試験板とし、その処理面を粘着フィルム貼合面として、温度5℃の条件で測定したこと以外は、JIS Z0237:2009の10粘着力に準拠して、90°引き剥がし粘着力(単位:N/25mm)を測定した。
【0064】
(v)低温折り曲げ性
株式会社ミスミのアルミフレーム「ブラケット用アルミフレーム 厚型ブラケット用」(商品名)及び粘着フィルムを温度5℃、湿度50%の環境下で24時間以上状態調節した後、粘着フィルムをアルミフレームの90°折り曲げ部分(当該部分の曲率は0.2R)に上記スキージー及び指を使用して圧着した際の施工性を以下の基準で評価した。
ランク5:容易に、かつ良好に圧着することができる。
ランク4:良好に圧着することができる。
ランク3:十分にしごくことにより、良好に圧着することができる。
ランク2:十分にしごいても、アルミフレームの90°折り曲げ部分、及びその近傍に浮きが少し残る。
ランク1:十分にしごいても、アルミフレームの90°折り曲げ部分、及びその近傍に浮きが残る。
【0065】
使用した原材料
(α)ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム
(α-1)重合度800の塩化ビニル単独重合体95質量部、三菱ケミカル株式会社のアクリル系コアシェルゴム(メタクリル酸エステル・スチレン/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体)「メタブレンW-300A」(商品名)5質量部、及びフタル酸エステル系可塑剤(フタル酸ジノルマルオクチル)20質量部を含む樹脂組成物からなる白色の厚み160μmのフィルム:降伏点応力36.2MPa
(α-2)重合度800の塩化ビニル単独重合体95質量部、三菱ケミカル株式会社のアクリル系コアシェルゴム(メタクリル酸エステル・スチレン/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体)「メタブレンW-300A」(商品名)5質量部、及びフタル酸エステル系可塑剤(フタル酸ジノルマルオクチル)22質量部を含む樹脂組成物からなる白色の厚み160μmのフィルム:降伏点応力33.2MPa
(α-3)重合度800の塩化ビニル単独重合体95質量部、三菱ケミカル株式会社のアクリル系コアシェルゴム(メタクリル酸エステル・スチレン/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体)「メタブレンW-300A」(商品名)5質量部、及びフタル酸エステル系可塑剤(フタル酸ジノルマルオクチル)25質量部を含む樹脂組成物からなる白色の厚み160μmのフィルム:降伏点応力31.4MPa
(α-4)重合度800の塩化ビニル単独重合体95質量部、三菱ケミカル株式会社のアクリル系コアシェルゴム(メタクリル酸エステル・スチレン/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体)「メタブレンW-300A」(商品名)5質量部、及びフタル酸エステル系可塑剤(フタル酸ジノルマルオクチル)17質量部を含む樹脂組成物からなる白色の厚み160μmのフィルム:降伏点応力39.6MPa
【0066】
(A)アクリル系重合体
(A-1)酸価23.3mgKOH/g、質量平均分子量80万、及びガラス転移温度-58℃のアクリル系重合体(アクリル酸、アクリル酸ブチル、水酸基含有アクリル系モノマーに由来する構成単位を含む)。
(A-2)酸価23.3mgKOH/g、質量平均分子量60万、及びガラス転移温度-58℃のアクリル系重合体(アクリル酸、アクリル酸ブチル、水酸基含有アクリル系モノマーに由来する構成単位を含む)。
(A-3)酸価26.8mgKOH/g、質量平均分子量50万、及びガラス転移温度-53℃のアクリル系重合体(アクリル酸、アクリル酸ブチル、水酸基含有アクリル系モノマーに由来する構成単位を含む)。
(A-4)酸価30.1mgKOH/g、質量平均分子量45万、及びガラス転移温度-56℃のアクリル系重合体(アクリル酸、アクリル酸ブチル、水酸基含有アクリル系モノマーに由来する構成単位を含む)。
【0067】
(B)1分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物
(B-1)東ソー株式会社のトリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体「コロネートL」(商品名)を用いた。なお、表に記載した配合量は、固形物換算の量である。
【0068】
(C)任意成分
(C-1)アルベマール社の臭素系難燃剤「SAYTEX8010」(商品名)
(C-2)日本精鉱株式会社の三酸化二アンチモン「PATOX-M」(商品名)
(C-3)酢酸エチル。
【0069】
例1
上記成分(A-1)100質量部、上記成分(B-1)を固形分換算で1.22質量部、上記成分(C-1)22.5質量部、上記成分(C-2)7.5質量部、及び上記成分(C-3)69質量部を混合攪拌し、粘着剤を得た。次に、ロールコーターを使用し、剥離紙の剥離面の上に、上記で得た粘着剤を乾燥後の厚みが45μmとなるように塗布し、乾燥炉で乾燥し、粘着剤層を形成した。続いて図3に概念図を示す装置を使用し、上記で得た剥離紙と粘着剤層との積層体5と上記(α-1)ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム6を、積層体5の粘着剤層が上記(α-1)ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム6側となるように、積層体5が金属ラミネートロール7側となるようにして、温度30℃に予熱された回転する金属ラミネートロール7と回転する圧着ロール8により重ねて、押圧し、剥離紙が付された粘着フィルム9を得た。剥離紙を除去した粘着フィルム9に対して、上記試験(i)~(v)を行った。結果を表1に示す。なお、表中にはポリ塩化ビニル系樹脂フィルムをPVCフィルム、低温施工時の経時膨れを経時膨れと表記している。
【0070】
例2~7
粘着剤の配合量(質量部)を表1に示すように変更したこと以外は、例1と同様に、粘着フィルムの製造及び物性の測定・評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0071】
例8~10
ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムとして上記(α-1)の替わりに表1に示すものに変更したこと以外は、例1と同様に、粘着フィルムの製造及び物性の測定・評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
これらの結果から、本発明の粘着フィルムは、低温施工時の経時膨れの問題が大きく改善されたことが分かる。また、本発明の粘着フィルムによれば、35℃におけるタッキネスの値から高温(夏場)であっても良好な施工性を有すると考察できる。
【符号の説明】
【0074】
1:ポリ塩化ビニル系樹脂フィルムの層
2:粘着剤層
3:剥離紙
4:刃先
5:剥離紙と粘着剤層との積層体
6:ポリ塩化ビニル系樹脂フィルム
7:金属ラミネートロール
8:圧着ロール
9:粘着フィルム
10:降伏点ひずみ
11:降伏点応力
図1
図2
図3
図4