(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】プレス成形方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/20 20060101AFI20220802BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
B21D22/20 C
B21D22/20 Z
B21D22/20 E
C21D9/00 A
(21)【出願番号】P 2019100346
(22)【出願日】2019-05-29
【審査請求日】2021-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390010227
【氏名又は名称】株式会社三五
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角本 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】北井 康之
(72)【発明者】
【氏名】小倉 修平
(72)【発明者】
【氏名】杉野 弘宜
(72)【発明者】
【氏名】瀧下 一穂
【審査官】山本 裕太
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-080439(JP,A)
【文献】特開2014-024074(JP,A)
【文献】国際公開第2017/158635(WO,A1)
【文献】特開2018-103221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/20
C21D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス加工装置の押圧部を高強度鋼板に押圧することによって該高強度鋼板を前記押圧部の形状に沿わせてプレス加工するプレス成形方法において、
前記押圧部は、前記プレス加工において前記高強度鋼板に初めに接触する中央部と、該中央部の端である肩部と、該肩部に連続して延在する縦壁部とを有し、
前記高強度鋼板において前記押圧部の前記中央部および前記肩部が接触する接触部分よりも外側に位置する外側領域の少なくとも一部のみを加熱する部分加熱工程と、
前記部分加熱工程の後、
冷却風ノズルから吹き出される冷却風を前記加熱された領域の延在方向に沿って相対的に移動させ、その移動軌跡を複数回通過させることにより、当該加熱された領域に対して前記冷却風を複数回に亘って吹き付けていくことによって前記加熱された領域を冷却して焼き戻しする冷却工程と、
前記冷却工程の後、前記高強度鋼板を前記プレス加工装置にセットして該高強度鋼板を前記押圧部によって押圧し、該高強度鋼板を、前記押圧部の前記中央部、前記肩部、前記縦壁部の形状に沿わせて成形するプレス加工工程とを備えていることを特徴とするプレス成形方法。
【請求項2】
請求項1記載のプレス成形方法において、
前記高強度鋼板の外縁形状は、一方向に延在する第1縁部、この第1縁部の延在方向とは直交する方向に延在する第2縁部、前記第1縁部の延在方向の一端から前記第2縁部の延在方向の一端に亘って所定の曲率で湾曲する第3縁部、前記第1縁部の延在方向の他端から前記第2縁部の延在方向の他端に亘って所定の曲率で湾曲する第4縁部で成っており、
前記プレス加工工程では、前記第3縁部から、当該第3縁部に対して所定寸法を有する内側線までの範囲であって、当該第3縁部の延在方向に沿う第1の範囲、および、前記第4縁部から、当該第4縁部に対して所定寸法を有する内側線までの範囲であって、当該第4縁部の延在方向に沿う第2の範囲それぞれが折り曲げ加工されるようになっており、
前記押圧部の前記肩部は、前記各内側線それぞれに沿った円弧状となっており、
前記部分加熱工程にあっては、前記第1の範囲の少なくとも一部の領域であって前記第3縁部の延在方向に沿う円弧状の領域および前記第2の範囲の少なくとも一部の領域であって前記第4縁部の延在方向に沿う円弧状の領域のみが加熱されることを特徴とするプレス成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレス成形方法に係る。特に、本発明はワークである高強度鋼板を加熱する工程を備えたプレス成形方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車体の生産において該車体を構成する金属板(例えば高強度鋼板)をプレス加工によって所定形状に成形することが行われている。また、この種のプレス加工において、特許文献1に開示されているように、金属板を加熱することも行われている。この特許文献1には、金属板の全体を加熱した状態で成形型によるプレス加工を行い、型締め状態のまま金属板を冷却することで、焼入れされたプレス成形品を得る熱間プレス成形方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のものでは、金属板を加熱した状態で成形型によるプレス加工を行うため、プレス加工装置に炉等の加熱装置を直結または内蔵させた構成とする必要があり、プレス加工装置(プレス設備)の製造コストの高騰を招いてしまう。また、金属板の全体を加熱するものであるため、金属板の全体の焼き戻しによりプレス成形品全体の強度が低下してしまうことが懸念される。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高強度鋼板を加熱する工程を備えたプレス成形方法において、プレス加工装置の製造コストの高騰を抑制でき、また、プレス成形品全体の強度が低下してしまうことを抑制できるプレス成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するための本発明の解決手段は、プレス加工装置の押圧部を高強度鋼板に押圧することによって該高強度鋼板を前記押圧部の形状に沿わせてプレス加工するプレス成形方法を前提とする。前記押圧部は、前記プレス加工において前記高強度鋼板に初めに接触する中央部と、該中央部の端である肩部と、該肩部に連続して延在する縦壁部とを有している。そして、このプレス成形方法は、前記高強度鋼板において前記押圧部の前記中央部および前記肩部が接触する接触部分よりも外側に位置する外側領域の少なくとも一部のみを加熱する部分加熱工程と、前記部分加熱工程の後、冷却風ノズルから吹き出される冷却風を前記加熱された領域の延在方向に沿って相対的に移動させ、その移動軌跡を複数回通過させることにより、当該加熱された領域に対して前記冷却風を複数回に亘って吹き付けていくことによって前記加熱された領域を冷却して焼き戻しする冷却工程と、前記冷却工程の後、前記高強度鋼板を前記プレス加工装置にセットして該高強度鋼板を前記押圧部によって押圧し、該高強度鋼板を、前記押圧部の前記中央部、前記肩部、前記縦壁部の形状に沿わせて成形するプレス加工工程とを備えていることを特徴とする。
【0007】
この特定事項により、高強度鋼板のプレス成形にあっては、先ず、高強度鋼板においてプレス加工装置の押圧部の中央部および肩部が接触する接触部分よりも外側に位置する外側領域の少なくとも一部のみを加熱する(部分加熱工程)。これにより、高強度鋼板では、部分的な材料軟化がなされる。その後、冷却風ノズルから吹き出される冷却風を前記加熱された領域の延在方向に沿って相対的に移動させ、その移動軌跡を複数回通過させることにより、当該加熱された領域に対して前記冷却風を複数回に亘って吹き付けていくことによって前記加熱された領域を冷却して焼き戻しする(冷却工程)。これにより、部分的な材料軟化に加えて材料の延性が向上する。このような処理が行われた後、高強度鋼板をプレス加工装置にセットし、高強度鋼板を押圧部によって押圧するプレス加工工程が行われる。前述したように、部分加熱工程および冷却工程が行われたことによって材料軟化および材料の延性の向上が図れているため、複雑な形状のプレス加工が難しかった高強度鋼板であっても、押圧部の形状に沿った所定形状に高い精度で成形されることになり、また、割れや皺の発生が抑制されることになる。また、部分加熱工程では高強度鋼板の一部のみが加熱されるので、高強度鋼板の全体を加熱するものに比べて、プレス成形品全体の強度を高めることができる。また、プレス加工工程の前段階で部分加熱工程および冷却工程が行われるため、高強度鋼板を加熱したり冷却したりするための装置をプレス加工装置に直結させたり内蔵させたりする必要がなく、プレス加工装置の製造コストの高騰を抑制することができる。
また、前記高強度鋼板の外縁形状は、一方向に延在する第1縁部、この第1縁部の延在方向とは直交する方向に延在する第2縁部、前記第1縁部の延在方向の一端から前記第2縁部の延在方向の一端に亘って所定の曲率で湾曲する第3縁部、前記第1縁部の延在方向の他端から前記第2縁部の延在方向の他端に亘って所定の曲率で湾曲する第4縁部で成っており、前記プレス加工工程では、前記第3縁部から、当該第3縁部に対して所定寸法を有する内側線までの範囲であって、当該第3縁部の延在方向に沿う第1の範囲、および、前記第4縁部から、当該第4縁部に対して所定寸法を有する内側線までの範囲であって、当該第4縁部の延在方向に沿う第2の範囲それぞれが折り曲げ加工されるようになっており、前記押圧部の前記肩部は、前記各内側線それぞれに沿った円弧状となっており、
前記部分加熱工程にあっては、前記第1の範囲の少なくとも一部の領域であって前記第3縁部の延在方向に沿う円弧状の領域および前記第2の範囲の少なくとも一部の領域であって前記第4縁部の延在方向に沿う円弧状の領域のみが加熱されるようにしている。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、高強度鋼板をプレス加工装置の押圧部によって押圧するプレス加工工程の前段階で、高強度鋼板において押圧部の中央部および肩部が接触する接触部分よりも外側に位置する外側領域の少なくとも一部のみを加熱する部分加熱工程と、この加熱された領域を冷却して焼き戻しする冷却工程とを行うようにしている。このため、高強度鋼板の全体を加熱するものに比べて、プレス成形品全体の強度を高めることができる。また、高強度鋼板を加熱したり冷却したりするための装置をプレス加工装置に直結させたり内蔵させたりする必要がなく、プレス加工装置の製造コストの高騰を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係るプレス成形の各工程を説明するための図である。
【
図2】第1実施形態の部分加熱工程における高強度鋼板の加熱領域を説明するための図である。
【
図3】
図1(d)におけるIII-III線に沿った断面図である。
【
図5】第2実施形態に係るプレス成形を説明するための図である。
【
図6】
図5(b)におけるVI-VI線に沿った断面図である。
【
図7】第2実施形態で使用したプレス加工装置のポンチを示す斜視図である。
【
図8】第2実施形態におけるプレス加工工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車の車体の生産において該車体を構成する高強度鋼板をプレス加工によって所定形状に成形するプレス成形方法として本発明を適用した場合について説明する。
【0011】
<第1実施形態>
-プレス成形の各工程-
図1は、本実施形態に係るプレス成形の各工程を説明するための図である。このプレス成形では、
図1(a)に示す略円形の高強度鋼板1を使用し、後述する各工程によって
図1(d)に示す略有底円筒形状(断面がハット形状)のプレス成形品2を成形するものとなっている。この高強度鋼板1としては、例えば引張り強度が980MPa以上の高張力鋼板である。
【0012】
そして、このプレス成形品2を成形するための工程としては、部分加熱工程(
図1(a)を参照)、冷却工程(
図1(b)を参照)、プレス加工工程(
図1(c)を参照)が順に行われる。
【0013】
以下、各工程について説明する。
【0014】
(部分加熱工程)
部分加熱工程は、高強度鋼板1の外周部11のみを加熱する工程である。具体的には、後述するプレス加工装置3のポンチ(押圧部)31の上面である中央部31bおよび肩部31aが接触する接触部分よりも外側に位置する外側領域(前記外周部)11のみを加熱する。
【0015】
本実施形態では、前述したように略有底円筒形状のプレス成形品2を成形するため、ポンチ31は略円柱形状となっている。そして、このポンチ31の円形の上面が前記中央部31bに相当することになり、この中央部31bの端(外縁)が前記肩部31aに相当することになる。前記中央部31bは、プレス加工工程において高強度鋼板1に初めに接触する部分となる。また、この肩部31aに連続して延在する円筒部分が縦壁部31cとなっている。このため、高強度鋼板1における前記接触部分は、高強度鋼板1の中央部分であって、ポンチ31の中央部31bおよび肩部31aが接触する円形となっている。
【0016】
図2は、本実施形態の部分加熱工程における高強度鋼板1の加熱領域(前記外側領域)11を説明するための図である。この
図2において一点鎖線で示した円がポンチ31の肩部31aが接触する部分である。そして、部分加熱工程にあっては、前記接触部分(中央部31bおよび肩部31aが接触する部分)よりも僅かに外周側の領域であって高強度鋼板1の外縁に亘る円環状の領域が加熱領域(
図2にドットを付した領域)11とされ、この加熱領域11のみが加熱されることになる。言い替えると、高強度鋼板1の中央部である円形の領域(
図2にドットを付していない領域)は非加熱領域12とされ、それ以外の領域が加熱領域11とされている。
【0017】
なお、ポンチ31の肩部31aが接触する部分(一点鎖線で示した円の部分)と加熱領域11の内縁(破線で示した円の部分)とは一致していてもよい。
【0018】
この部分加熱工程を実施するための装置構成の一例としてはレーザ照射装置4(
図1(a)を参照)を備えている。このレーザ照射装置4は、高強度鋼板1を載置する基台(図示省略)の上方に配置され、レーザ発振器を内蔵している。このレーザ発振器で生成されたレーザ光が、図示しないレーザスキャナに導かれ、高強度鋼板1に向けて照射されることになる(
図1(a)における一点鎖線を参照)。レーザ発振器およびレーザスキャナの構成は周知であるため、ここでの説明は省略する。レーザ光としては、例えば炭酸ガスレーザ、YAGレーザ、ファイバーレーザ等を用いることができる。
【0019】
より具体的に、本実施形態における高強度鋼板1の外径寸法(
図2における寸法D)は100mmであり、ポンチ31の外径寸法(
図2における寸法d1;前記接触部分の外径寸法)は50mmであり、加熱領域11の幅寸法(
図2における寸法d2)は20mmである。これら寸法や寸法比率はこれに限定されるものではなく、適宜設定される。
【0020】
また、この部分加熱工程では、高強度鋼板1の加熱領域11を例えば500℃程度まで加熱する。このため、レーザスキャナから高強度鋼板1に向けて照射されるレーザ光は、その焦点が高強度鋼板1の表面からずれた位置、例えば、高強度鋼板1よりも下側の位置に設定されることになる。例えば、高強度鋼板1の上面におけるレーザ光の照射範囲を前記加熱領域11の幅寸法d2に一致させるようにレーザ光の焦点を設定し、この状態で、レーザ光の照射位置が加熱領域に沿って移動するように(円形の軌跡上を移動するように)レーザ光を走査する。また、高強度鋼板1が載置されている基台を回転させる回転機構(所謂ターンテーブル)を備えさせ、レーザ光の照射位置を固定した状態で基台を回転させ、これによって加熱領域11を周方向に亘って順に加熱していくようにしてもよい。このように加熱領域11を加熱していく場合、加熱領域11の全領域で温度差(温度勾配)が生じないように、加熱領域11の周方向に亘ってレーザ光を複数回に亘って照射してい
く(複数回転で部分加熱工程を完了させる)ことが好ましい。
【0021】
このような部分加熱工程が行われることにより、高強度鋼板1における外周部(前記加熱領域)11の材料軟化がなされる。
【0022】
(冷却工程)
冷却工程は、前記部分加熱工程によって加熱された領域(加熱領域)11を冷却して焼き戻しする工程である。
【0023】
この冷却工程を実施するための装置構成としては冷却風ノズル5(
図1(b)を参照)を備えている。この冷却風ノズル5は、前記基台上に配置された高強度鋼板1の加熱領域11に冷却風を吹き付けることによって該加熱領域11を冷却する。
【0024】
より具体的には、冷却風ノズル5はブロワ(図示省略)に接続されており、このブロワの作動によって生じた気流が冷却風ノズル5を経て高強度鋼板1における加熱領域11に向けて吹き付けられることになる。この場合の風量および冷却時間は任意に設定可能であるが、低速冷却による焼き戻しが行われる値として実験やシミュレーションによって設定される。例えば前述したように500℃程度まで加熱された加熱領域11を数十secの期間で200℃未満の温度まで冷却するように設定される。これら時間および温度はこれに限定されるものではなく、適宜設定される。
【0025】
また、高強度鋼板1における加熱領域11は円環状であるため、冷却風ノズル5の吹き出し口が加熱領域11に沿って移動するように(円形の軌跡上を移動するように)、移動機構が備えられている。また、高強度鋼板1が載置されている基台を回転させる回転機構を備えさせ、冷却風ノズル5の吹き出し口を加熱領域11に対向させた状態で基台を回転させ、これによって加熱領域11を順に冷却していくようにしてもよい。この場合も、加熱領域11の全領域で温度差(温度勾配)が大きくならないように、加熱領域11の周方向に亘って冷却風を複数回に亘って吹き付けていく(複数回転で冷却工程を完了させる)ことが好ましい。
【0026】
このような冷却工程が行われることにより、高強度鋼板1における外周部(前記加熱領域)11が冷却されて焼き戻しされる。
【0027】
(プレス加工工程)
プレス加工工程は、前述した部分加熱工程および冷却工程を経た高強度鋼板1が基台からプレス加工装置3に移動(セット)され、このプレス加工装置3によって高強度鋼板1が所定形状に成形される工程である。
【0028】
図1(c)に示すように、プレス加工装置3は、複数のダイ32,32,…およびそれに対応したポンチ31,31,…がそれぞれ併設された構成となっている。そして、これらダイ32とポンチ31との間に高強度鋼板1を配置した状態で型締めすることで、ダイ32とポンチ31との間に形成される空間の形状に沿うプレス成形品2が成形されることになる。これにより、高強度鋼板1は、ポンチ31の中央部31b、肩部31a、縦壁部31cの形状に沿って成形されることになる。本実施形態に係るプレス加工装置3は複数のダイ32,32,…およびポンチ31,31,…が併設されているため、1回のプレス加工によって複数個のプレス成形品2,2,…を得ることができる。
【0029】
-プレス成形品-
図1(d)は、プレス加工装置3によって成形されたプレス成形品2を示している。
図3は、
図1(d)におけるIII-III線に沿った断面図である。
【0030】
このプレス成形品2は、ポンチ31の中央部31bとダイ32の底面との間で成形される円板部21、ポンチ31の縦壁部31cとダイ32の内周面との間で成形される円筒部22、ポンチ31の外縁部(ブランクホルダ)とダイ32の外縁部との間で成形されるフランジ部23とを備えている。
【0031】
-実施形態の効果-
前述したように、本実施形態にあっては、部分加熱工程によって、高強度鋼板1における外周部(前記加熱領域)11の材料軟化がなされる。また、その後の冷却工程によって、加熱領域が冷却されて焼き戻しされる。これにより、高強度鋼板1における外周部11は、材料軟化に加えて材料の延性が向上することになる。このような処理が行われた後、プレス加工工程が行われるため、複雑な形状のプレス加工が難しかった高強度鋼板1であっても、ポンチ31の形状に沿った所定形状に高い精度で成形されることになり、また、割れや皺の発生が抑制されることになる。特に、従来技術(前記部分加熱工程や前記冷却工程を行わないもの)にあっては、プレス成形品の円筒部に割れが発生したり、フランジ部に皺が発生したりしていたが、本実施形態にあっては、これら割れの発生や皺の発生を抑制することができる。
【0032】
また、部分加熱工程では高強度鋼板1の一部のみが加熱されるので、高強度鋼板1の全体を加熱するものに比べて、プレス成形品2全体の強度を高めることができる。
【0033】
また、プレス加工工程の前段階で部分加熱工程および冷却工程が行われ、これらの工程の後に、高強度鋼板1がプレス加工装置3にセットされるため、高強度鋼板1を加熱したり冷却したりするための装置をプレス加工装置3に直結させたり内蔵させたりする必要がなく、プレス加工装置3の製造コストの高騰を抑制することができる。
【0034】
更には、従来技術において、高強度鋼板の全体を加熱した状態でプレス加工装置によるプレス加工を行うものにあっては、高温の環境下でダイやポンチが高強度鋼板と摺接することになり、ダイやポンチの表面が損傷する可能性があった。これに対し、本実施形態では、前記冷却工程を経た後にプレス加工工程が行われるため、高強度鋼板1の温度が比較的低い状態でダイ32やポンチ31が高強度鋼板1と摺接することになる。このため、ダイ32やポンチ31の表面が損傷する可能性が低くなり、プレス加工装置3の長寿命化およびメンテナンス費用の削減を図ることができる。
【0035】
<プレス加工装置の変形例>
図4は、プレス加工装置3の変形例を示す図である。この
図4に示すプレス加工装置3は、ダイ32、ポンチ31に加えてブランクホルダ33を備えている。ブランクホルダ33は、ダイ32との間で高強度鋼板1の外周部(加熱領域)11の外側を挟持する。このようにしてブランクホルダ33とダイ32との間で加熱領域11が挟持された状態で型締めされることにより、前述したプレス成形品2が成形されることになる。
【0036】
このようなプレス加工装置3を使用した場合においても、プレス加工工程の前段階で部分加熱工程および冷却工程を行うことによって、高強度鋼板1における外周部11は、材料軟化に加えて材料の延性が向上することになる。このため、複雑な形状のプレス加工が難しかった高強度鋼板1であっても、ポンチ31の形状に沿った所定形状に高い精度で成形されることになり、また、割れや皺の発生が抑制されることになる。また、部分加熱工程および冷却工程の後に、高強度鋼板1がプレス加工装置3にセットされるため、高強度鋼板1を加熱したり冷却したりするための装置をプレス加工装置3に直結させたり内蔵させたりする必要がなく、プレス加工装置3の製造コストの高騰を抑制することができる。
【0037】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。本実施形態は、前述した実施形態のものとは成形されるプレス成形品2の形状が異なっている。
図5は、本実施形態に係るプレス成形を説明するための図である。本実施形態のプレス成形では、
図5(a)に示すような略帯状(略扇状)の高強度鋼板1を使用し、その外縁部を折り曲げ加工することでプレス成形品2(
図5(b)を参照)を成形するものとなっている。
図6は、
図5(b)におけるVI-VI線に沿った断面図である。
【0038】
そして、本実施形態において、このプレス成形品2を成形するための工程としても、前述した実施形態の場合と同様に、部分加熱工程、冷却工程、プレス加工工程が順に行われる。
【0039】
図5(a)に示す高強度鋼板(プレス加工前の高強度鋼板)1の形状としては、一方向に延在する第1縁部13、この第1縁部13の延在方向とは直交する方向に延在する第2縁部14、第1縁部13の延在方向の一端から第2縁部14の延在方向の一端に亘って所定の曲率で湾曲する第3縁部15、第1縁部13の延在方向の他端から第2縁部14の延在方向の他端に亘って所定の曲率(第3縁部15よりも大きい曲率)で湾曲する第4縁部16を外縁形状とするものとなっている。そして、プレス加工工程では、第3縁部15における外縁から所定幅寸法の範囲、および、第4縁部16における外縁から所定幅寸法の範囲が折り曲げ加工されることになる。つまり、第3縁部15における外縁から所定幅寸法が折り曲げ加工されることで、この領域が伸びフランジとされる。また、第4縁部16における外縁から所定幅寸法の範囲が折り曲げ加工されることで、この領域が縮みフランジとされる。
【0040】
本実施形態では、
図5(b)に示す形状のプレス成形品2を成形するため、
図7に示すように、ポンチ31は、高強度鋼板1の中央部を押圧するものであり、前記各縁部13~16に対応する凸形状となっている。そして、このポンチ31の上面である中央部31bの外縁部が肩部31a,31aに相当することになる。このため、高強度鋼板1における前記接触部分は、ポンチ31の中央部31bおよび肩部31a,31aが接触する略円弧状となっている。
【0041】
図5(a)において一点鎖線で示した円弧がポンチ31の肩部31aが接触する部分である。そして、部分加熱工程にあっては、中央部31bおよび肩部31a,31aが接触する接触部分よりも僅かに外側の領域であって高強度鋼板1の外縁(第3縁部15および第4縁部16)に亘る円弧状の領域が加熱領域(
図5(a)にドットを付した領域)11,11とされ、この加熱領域11,11のみが加熱されることになる。
【0042】
なお、ポンチ31の肩部31aが接触する部分(一点鎖線で示した円弧部分)と加熱領域11,11の内側縁(破線で示した円弧部分)とは一致していてもよい。
【0043】
この部分加熱工程を実施するための装置構成の一例としても、前記実施形態の場合と同様にレーザ照射装置が備えられている。つまり、このレーザ照射装置で生成されたレーザ光が高強度鋼板1の加熱領域11に向けて照射されることになる。
【0044】
より具体的に、本実施形態における高強度鋼板1の幅寸法(
図5(a)における寸法D)は150mmであり、ポンチ31の幅寸法(
図5(a)における寸法d1;前記接触部分の幅寸法)は100mmであり、加熱領域11の幅寸法(
図5(a)における寸法d2)は20mmである。これら寸法や寸法比率はこれに限定されるものではなく、適宜設定される。
【0045】
また、この部分加熱工程では、高強度鋼板1の加熱領域11,11を例えば600℃程度まで加熱する。そして、冷却工程では、600℃程度まで加熱された加熱領域11,11を数十secの期間で200℃未満の温度まで冷却する。
【0046】
図8は、本実施形態におけるプレス加工工程を説明するための図である。この
図8に示すプレス加工装置3は、ダイ32、ポンチ31に加えてパッド34を備えている。パッド34は、ポンチ31との間で高強度鋼板1の中央部(非加熱領域)12を挟持する。このようにしてパッド34とポンチ31との間で非加熱領域12が挟持された状態でダイ32が下降され、型締めされることにより、前述したプレス成形品2が成形されることになる。
【0047】
本実施形態においても、プレス加工工程の前段階で部分加熱工程および冷却工程を行うことによって、高強度鋼板1における外側部分(加熱領域)11,11は、材料軟化に加えて材料の延性が向上することになる。このため、複雑な形状のプレス加工が難しかった高強度鋼板1であっても、ポンチ31の形状に沿った所定形状に高い精度で成形されることになり、また、割れや皺の発生が抑制されることになる。
【0048】
また、部分加熱工程および冷却工程の後に、高強度鋼板1がプレス加工装置3にセットされるため、高強度鋼板1を加熱したり冷却したりするための装置をプレス加工装置3に直結させたり内蔵させたりする必要がなく、プレス加工装置3の製造コストの高騰を抑制することができる。
【0049】
-他の実施形態-
なお、本発明は、前記各実施形態および前記変形例に限定されるものではなく、特許請求の範囲および該範囲と均等の範囲で包含される全ての変形や応用が可能である。
【0050】
例えば、前記各実施形態および前記変形例では、部分加熱工程および冷却工程を同一の基板上に高強度鋼板1を載置することにより行っていた。本発明はこれに限らず、部分加熱工程と冷却工程とで異なる基板上に高強度鋼板1を載置することにより行うようにしてもよい。
【0051】
また、前記各実施形態および前記変形例では、部分加熱工程における熱源をレーザ光としていた。本発明はこれに限らず、IH(Induction Heating)、近赤外線等を熱源とすることも可能である。
【0052】
また、前記第1実施形態では、部分加熱工程において高強度鋼板1の加熱領域11を500℃程度まで加熱していた。また、前記第2実施形態では、部分加熱工程において高強度鋼板1の加熱領域11,11を600℃程度まで加熱していた。これら値はこれに限定されず、例えば200℃~700℃の間の値に適宜設定される。
【0053】
また、本発明に係るプレス成形方法で使用されるプレス加工装置3としては特に限定されるものではなく、トランスファ型やタンデム型等が使用可能である。
【0054】
また、前記各実施形態および前記変形例では、高強度鋼板1の中央部にポンチ31を押圧するプレス加工を例に挙げて説明した。本発明はこれに限らず、高強度鋼板1の中央部以外の領域(例えば高強度鋼板1の外縁部)にポンチ31を押圧するプレス加工にも適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、プレス加工工程の前段階で高強度鋼板を加熱する工程を実施するプレス成形
方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 高強度鋼板
11 外周部、外側領域、加熱領域
12 非加熱領域
2 プレス成形品
3 プレス加工装置
31 ポンチ(押圧部)
31a 肩部
31b 中央部
31c 縦壁部
4 レーザ照射装置