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  • 特許-リチウムイオン二次電池用正極材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/36 20060101AFI20220802BHJP
【FI】
H01M4/36 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019123080
(22)【出願日】2019-07-01
(65)【公開番号】P2021009801
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】堀川 大介
(72)【発明者】
【氏名】山本 雄治
(72)【発明者】
【氏名】寺西 貴志
【審査官】式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-099646(JP,A)
【文献】特開2018-163806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池の正極に用いられる正極材料であって、
リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な化合物からなる正極活物質と、
前記正極活物質の表面の少なくとも一部に配置された第1の被覆物と、
前記正極活物質の表面の少なくとも一部に配置された第2の被覆物と、
を備え、ここで、前記第1の被覆物が岩塩構造のニッケル酸化物を含み、かつ、前記第2の被覆物がチタン酸化物を含む、正極材料。
【請求項2】
前記ニッケル酸化物は、NiOおよびNi1-δO(ここで、δは0<δ<1を満たす実数である)で表されるニッケル酸化物であり、
前記チタン酸化物は、以下の(1)および(2)に示すチタン酸化物:
(1)TiOまたはTi2n-1(ここで、nは3以上の整数である)で表されるチタン酸化物:および、
(2)LiとTiとを含む複合酸化物:
のうちの少なくとも1種のチタン酸化物を含む、請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
前記正極活物質の表面の少なくとも一部に、前記第1の被覆物が配置された上に前記第2の被覆物が形成されている、請求項1または2に記載の正極材料。
【請求項4】
前記第1の被覆物は、電子顕微鏡での観察に基づく平均厚みが0.4nm以上55nm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の正極材料。
【請求項5】
前記第2の被覆物に含有されるTiの合計量は、前記正極活物質の全体を100質量%としたとき、0.005質量%以上6質量%以下に相当する量である、請求項1~4のいずれか一項に記載の正極材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極材料に関する。詳しくは、正極活物質と、該正極活物質の表面にニッケル酸化物およびチタン酸化物を含有する被覆物と、を備える正極材料に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池等の二次電池は、軽量かつエネルギー密度が高いことから、近年、パソコンや携帯端末等のいわゆるポータブル電源さらには車両駆動用電源として好ましく用いられている。なかでもリチウムイオン二次電池は、電流密度や単位質量あたりの電池容量が高いことから、特に、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両の駆動用高出力電源として、益々の普及が期待されている。
【0003】
この種のリチウムイオン二次電池に含有される正極材料の構成は、目的に応じて種々検討されている。例えば特許文献1および特許文献2には、正極材料の構成に関する技術が開示されている。
具体的には、例えば特許文献1では、正極活物質の表面に、該正極活物質とは異なる物質が配置された構成の正極材料が開示されている。特許文献1に開示される正極活物質(正極材料)では、当該活物質の本体を構成するリチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面が、Ti化合物で被覆されている。そして、Ti化合物の被覆によって、該正極活物質の出力特性が向上したことが記載されている。
一方、特許文献2では、リチウムニッケル複合酸化物からなる正極活物質を特定の条件で水洗処理している。そして、水洗処理によって表面に付着する不純物又は副生成物の除去が十分に行われているため、当該正極活物質は熱安定性に優れると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-99646号公報
【文献】特開2007-273108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、リチウムイオン二次電池の出力特性は、電池を作動させる温度条件によっては低下しやすくなるといわれている。例えば、特に0℃を下回るような低温条件下では、電解質(電解液および固体電解質)中のリチウムイオンの移動度が常温状態と比較して低下し得る。そうすると、充放電時において、リチウムイオンが正極活物質の表面に十分供給されなくなる虞がある。このことによって、リチウムイオン二次電池における円滑な電池反応の進行が妨げられ、上記低温条件下におけるリチウムイオン二次電池の出力特性が著しく低下してしまうことがある。例えばリチウムイオン電池を寒冷地(例えば冬季の最低温度が-10℃を下回るような地域)で使用するような場合に備え、リチウムイオン二次電池の低温出力特性を向上させる技術が望まれている。
しかしながら、上掲の特許文献1および特許文献2に開示される技術は、上記低温条件下において電池を作動させる場合を想定していない。即ち、これら文献に開示される技術によって、上記低温条件下においても優れた出力特性を実現するリチウムイオン二次電池を提供することは難しいと言わざるを得ない。また、特許文献2のように、正極活物質を水洗すると、条件によっては正極活物質と水とが反応して酸化物(例えば、遷移金属酸化物)を生成することがある。このような酸化物が存在すると、正極活物質におけるリチウムイオンの脱離/挿入が妨げられる虞がある。とりわけ低温出力特性を低下させる主な要因の1つとなり得る。
【0006】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、優れた電池性能(例えば低温出力特性等)を実現し得る構成の正極材料を提供することである。そして、このような正極材料を備えたリチウムイオン二次電池を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の正極に用いられる正極材料は、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な化合物からなる正極活物質と、上記正極活物質の表面の少なくとも一部に配置された第1の被覆物と、上記正極活物質の表面の少なくとも一部に配置された第2の被覆物と、を備える。ここで、上記第1の被覆物が岩塩構造のニッケル酸化物を含み、かつ、上記第2の被覆物がチタン酸化物を含む。
かかる構成の正極材料によると、リチウムイオン二次電池の低温出力特性を向上させることができる。
【0008】
また、ここで開示されるリチウムイオン二次電池の正極に用いられる正極材料の好ましい一態様では、上記ニッケル酸化物は、NiOおよびNi1-δO(ここで、δは0<δ<1を満たす実数である)で表されるニッケル酸化物である。
好ましくは、上記チタン酸化物は、以下の(1)および(2)に示すチタン酸化物:
(1)TiOまたはTi2n-1(ここで、nは3以上の整数であり、典型的には3以上10以下である)で表されるチタン酸化物:および、
(2)LiとTiとを含む複合酸化物:
のうちの少なくとも1種のチタン酸化物を含む。
かかる組成のニッケル酸化物およびチタン酸化物が正極活物質の表面に配置されることにより、リチウムイオン二次電池の低温出力特性をより効果的に向上させることができる。
【0009】
さらに、ここで開示されるリチウムイオン二次電池の正極に用いられる正極材料の好ましい一態様では、上記正極活物質の表面の少なくとも一部に、上記第1の被覆物が配置された上に上記第2の被覆物が形成されている。
第1の被覆物が形成された上に第2の被覆物が形成されることにより、正極活物質におけるリチウムイオンの脱離/挿入効率を向上させることができる。
【0010】
また、ここで開示されるリチウムイオン二次電池の正極に用いられる正極材料の好ましい一態様では、上記第1の被覆物は、電子顕微鏡での観察に基づく平均厚みが0.4nm以上55nm以下である。
さらに、好ましくは、上記第2の被覆物に含有されるTiの合計量は、上記正極活物質の全体を100質量%としたとき、0.005質量%以上6質量%以下に相当する量である。
第1の被覆物の電子顕微鏡での観察に基づく平均厚みが所定範囲内にあることによって、リチウムイオンの挿入/脱離がよりいっそう良好になる。また、第2の被覆物に含有されるTiの合計量が上記範囲内にあることによって、正極活物質におけるリチウムイオンの脱離/挿入効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る正極材料を示す模式図である。
図2】一実施形態に係る正極材料を用いて構築されるリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す断面図である。
図3】一実施形態に係る正極材料を用いて構築されるリチウムイオン二次電池の電極体の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば正極材料の組成や性状)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けない他の電池構成要素や電池の一般的な製造プロセス等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、本明細書において数値範囲をA~B(ここでA,Bは任意の数値)と記載している場合は、A以上B以下を意味するものとする。A以上B以下にはAを上回る範囲とBを下回る範囲が包含される。
【0013】
なお、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電解質中のリチウムイオンが電荷の移動を担う二次電池(繰り返し充放電可能な蓄電デバイス)のことをいう。「活物質」とは、リチウムイオン二次電池において電荷担体となる化学種(リチウムイオン)を吸蔵および放出(典型的には挿入および脱離)可能な物質をいう。
以下、ここで開示されるリチウムイオン二次電池用正極材料(以下、単に「正極材料」ともいう。)の好適ないくつかの実施形態について詳細に説明する。なお、本発明をかかる実施形態に記載されたものに限定することを意図したものではない。
【0014】
<正極材料>
まず初めに、ここで開示される正極材料を、図1を参照しつつ説明する。図1は、ここで開示される正極材料を模式的に示す図である。
図示されるように、ここで開示される正極材料10は、正極活物質12と、正極活物質12の表面の少なくとも一部に配置された第1の被覆物14と、正極活物質12の表面の少なくとも一部に配置された第2の被覆物16とを備える。ここで、「配置された」とは、活物質(粒子)の表面の一部に当該被覆物が存在していることを指しており、該被覆物と、活物質(粒子)との結合形態を限定するものではない。
【0015】
<正極活物質>
-正極活物質の種類-
正極活物質12としては、リチウムイオン二次電池の正極活物質として典型的に用いられるリチウム遷移金属複合酸化物であって少なくともニッケル元素を含むリチウム遷移金属複合酸化物を特に制限なく使用することができる。
結晶構造としては従来の正極活物質と同様であり、例えば、層状岩塩構造、岩塩構造、スピネル構造、オリビン構造、ペロブスカイト構造等、種々の結晶構造のリチウム遷移金属複合酸化物を採用することができる。
正極活物質12としては層状岩塩構造またはスピネル構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が特に好ましい。
【0016】
-層状岩塩構造のリチウム遷移金属複合酸化物-
例えば、層状岩塩構造のリチウム遷移金属複合酸化物の具体例として、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等が挙げられる。
ここで、上述した各種の複合酸化物は、名称中に含まれる金属元素が主要金属元素ではあるが、それら主要金属元素以外の金属元素を含み得る。例えば、上記の「リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物」の場合、Li、Ni、Co、Mnが主要構成金属元素であるが、これら以外の遷移金属元素、典型金属元素等を1種または2種以上含む酸化物を包含し得る。かかる添加的な元素の例としては、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Si、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Na、Fe、Zn、Sn等の遷移金属元素や典型金属元素等が挙げられる。また、添加的な元素は、B、C、Si、P等の半金属元素や、S、F、Cl、Br、I等の非金属元素であってもよい。なお、このことは上述したリチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物以外のリチウム金属複合酸化物についでも同様である。
例えば、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物としては、以下の式(1):

Li1+xNiCoMn(1-y-z)α2-ββ (1)

で表される化合物が挙げられる。ここで式中、0≦x≦0.7、0.1<y<0.9、0.1<z<0.4、0≦α≦0.1、0≦β≦0.5であり得る。Mは、Zr,Mo,W,Mg,Ca,Na,Fe,Cr,Zn,Si,Sn,Alのうちから選択される1種または2種以上の元素であり得る。また、Aは、F,Cl,Brのうちから選択される1種または2種以上の元素であり得る。エネルギー密度および熱安定性の観点から、yおよびzはそれぞれ、0.3≦y≦0.5、0.20≦z<0.4を満たすことが好ましい。
【0017】
-スピネル構造のリチウム金属複合酸化物-
また、例えばスピネル構造の複合酸化物としては、例えば、以下の式(2):

Li1+xMn2-y (2)

で表される化合物が挙げられる。ここで、Mは、Niであるか、あるいは、Ni、および、Al、Mg、Co、Fe、Znから選ばれる一種以上の金属元素であり得る。また、xおよびyはそれぞれ、0≦x<1、0≦y<2を満たすことが好ましい。
【0018】
-ポリアニオン系化合物-
あるいはまた、LiMPOあるいはLiMVOあるいはLiMSiO(Mは、Niであるか、あるいは、Ni、および、Al、Mg、Co、Fe、Znから選ばれる一種以上の金属元素)等の一般式で表されるようなポリアニオン系化合物を正極活物質として用いてもよい。
【0019】
-正極活物質の形状-
正極活物質12の形状は、特に限定されず、球状、板状、針状、不定形状等であってよい。また、正極活物質12は、一次粒子が凝集した二次粒子の形態であってもよく、中空粒子の形態であってもよい。
正極活物質12の平均粒子径(D50)は、特に制限されないが、例えば、0.05μm以上20μm以下であり、好ましくは0.5μm以上15μm以下であり、より好ましくは3μm以上15μm以下である。
なお、正極活物質粒子の平均粒子径(D50)は、例えば、レーザー回折散乱法等により求めることができる。
【0020】
<第1の被覆物>
第1の被覆物14は、結晶構造が岩塩構造(NaCl型構造)のニッケル酸化物を含む。ニッケル酸化物は、例えばNiOまたはNi1-δO(ここで、δは0<δ<1を満たす実数である。)で表される。δは0<δ<1を満たす実数である限り特に制限はないが、好ましくは0.0001以上0.01以下の実数である。
従来から知られているように、ニッケル酸化物(即ち、遷移金属酸化物)が例えば正極活物質の表面に存在すると、条件によっては電池反応時におけるリチウムイオンの脱離/挿入を妨げ得る。しかしながら、本発明においては、第1の被覆物14としてのニッケル酸化物と、後述する第2の被覆物16とを、ともに正極活物質12の表面に配置することによって、ニッケル酸化物が正極活物質におけるリチウムイオンの脱離/挿入を妨げるのを抑制することができる。そればかりでなく、リチウムイオンの脱離/挿入効率を向上させることによって、リチウムイオン二次電池において優れた低温出力特性を実現することができる。
【0021】
-第1の被覆物の厚み-
第1の被覆物14は、本発明の目的を実現する限りにおいて厚みに制限はないが、平均厚みTが0.4nm以上55nm以下であることが好ましい。平均厚みTが55nmより厚くなりすぎると、正極活物質12におけるリチウムイオンの脱離/挿入を妨げる虞がある。そのため、平均厚みTを上記範囲に設定することによって、正極活物質12におけるリチウムイオンの脱離/挿入を妨げるのを抑制することができる。また、本発明の効果をより効率よく実現させる観点からは、平均厚みTは0.5nm以上50nm以下であることが好ましい。
第1の被覆物14の平均厚みTは、正極材料10の電子顕微鏡(透過型電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)等)での観察に基づいて算出することができる。具体的には、例えば、電子顕微鏡での観察下において、第1の被覆物14と正極活物質12との境界から、外側面への最大距離を求める。これを少なくとも10個(20個以上、30個以上、50個以上または100個程度)行い、得られた値を平均することで求めることができる。
【0022】
<第2の被覆物>
第2の被覆物16は、チタン酸化物を含む。チタン酸化物は、例えば以下の(1)および(2)に示すチタン酸化物:
(1)TiOまたはTi2n-1(ここで、nは3以上の整数である)で表されるチタン酸化物:および、
(2)LiとTiとを含む複合酸化物:
のうちの少なくとも1種のチタン酸化物を含む。
第2の被覆物16が(1)である場合、Ti2n-1のnは、3以上の整数である限り特に制限されないが、好ましくは3以上9以下の整数であり、より好ましくは3以上5以下の整数である。即ち、Ti2n-1は、より好ましくはTi、Ti、およびTiである。
第2の被覆物16が(2)である場合、例えばTiに対するLiの原子数比(Li/Ti)が0.1以上3以下であり得る。即ち、第2の被覆物16は、リチウムチタン複合酸化物(あるいはチタン酸リチウム;LTO)を含み得る。
なお、種々のLiとTiとの原子数比を有するLTOの合成法が公知である。また、チタン酸化物、リチウム酸化物、およびLTOからなる群より選ばれる少なくとも2種を所定の混合比でメカノケミカル処理して複合化することにより、LiとTiとの原子数比を調整することができる。
【0023】
-第2の被覆物の厚み-
第2の被覆物の厚みは、本発明の目的を実現する限りにおいて特に限定は無いが、例えば0.1nm以上100nm以下であることが好ましい。第2の被覆物の厚みは、例えば、上述したような方法を用いることによって求めることができる。
【0024】
<第2の被覆物における合計Ti量>
第2の被覆物16に含有されるTiの合計量は、正極活物質12の全体を100質量%としたとき、0.005質量%以上6質量%以下に相当する量であることが好ましい。当該合計Ti量が上記範囲内にあることによって、本発明の効果がより効率的に実現され得る。また、本発明の効果をより効率よく実現させる観点からは、上記Tiの合計量は0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
なお、被覆物中のTiの量は、例えば高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP分析法)等によって求めることができる。
【0025】
<被覆物の配置および被覆率>
ここで開示される正極材料においては、正極活物質12の表面の少なくとも一部に、第1の被覆物14が配置された上に第2の被覆物16が形成されていることが好ましい。この時、本発明の効果が、より確実に実現され得る。ただし、正極活物質12の表面において第1の被覆物14および第2の被覆物16の全てが上述したような状態になっていなくてもよい。なお、図1の四角枠内において、第1の被覆物14の上に第2の被覆物16が形成されている部位が示されている。
第1の被覆物14が配置された上に第2の被覆物16が形成されていることは、正極材料10を電子顕微鏡で観察することによって確認することができる。また、例えばエネルギー分散型X線分析(EDS、EDX)を行うことによって、被覆物の元素組成を分析しつつ被覆物を区別することができる。
なお、正極活物質12の表面において、第1の被覆物および第2の被覆物による被覆率は、例えば、概ね3%以上30%以下であり得る。
【0026】
<正極材料の作製方法>
-第1の被覆物-
第1の被覆物14を正極活物質12の表面の少なくとも一部に配置させる方法は、特に限定されない。例えば、従来公知の方法により作製された正極活物質または市販されている正極活物質とアルカリ性水溶液とを混合して所定時間放置する。次いで、エバポレータを用いて水分を除去することにより、第1の被覆物が形成された正極活物質を得ることができる。ここで、上記アルカリ性水溶液の種類は特に限定されず、例えばLiOH水溶液およびNaOH水溶液等を選択することができる。ただし、アルカリ性水溶液としてNaOH水溶液を使用する場合には、イオンクロマトグラフィー等でナトリウムイオンを除去する必要がある。また、上記アルカリ性水溶液の濃度および放置時間を適宜変更することによって、例えば第1の被覆物としてのニッケル酸化物の種類および平均厚みTを調整することができる。
【0027】
-第2の被覆物-
第2の被覆物16については、第1の被覆物14が配置された正極活物質12と第2の被覆物16としてのチタン酸化物とをあらかじめ用意しておき、従来法(例えば、活物質に被覆物を形成させるような従来法)によって活物質12の表面に第2の被覆物16を配置させることができる。
上記従来法の一例として、種々のメカノケミカル装置を用いて行う、メカノケミカル処理が特に好ましく挙げられる。例えば、ボールミル、遊星ミル、ビーズミル等の粉砕および混合装置を使用することにより、所望のメカノケミカル反応を生じさせ、例えば第2の被覆物16を正極活物質12の表面に配置させることができる。
具体的には、例えば、まず所定のメカノケミカル装置に、正極活物質(粉末材料)と、チタン酸化物(粉末材料)とを投入する。次いで、所定の回転数で運動エネルギーを所定時間与える。これによって、活物質の表面に被覆物を付着させることができる。そして、メカノケミカル処理後、概ね200~1000℃(例えば300~800℃)の温度において焼成処理を行ってもよい。
【0028】
<検出手段>
活物質の表面に配置された被覆物の存在は、種々の検出手段によって検出(観察)することができる。
例えば、上述したSEM、TEM、および走査型透過電子顕微鏡(STEM)等の電子顕微鏡を用いることができる。また、EDS(EDX)、二次イオン質量分析(SIMS)、X線光電子分光分析(XPS)、X線回折(XRD)、蛍光X線分析(XRF)等の手法を採用し、元素組成および結晶性等を定性的および定量的に解析することができる。
【0029】
<作用効果1:低温出力特性の向上>
ここで開示される正極材料は、正極活物質の表面の少なくとも一部に第1の被覆物と第2の被覆物とを備えている。また、第1の被覆物は岩塩構造のニッケル酸化物を含み、かつ、第2の被覆物はチタン酸化物を含む。これによって、リチウムイオン二次電池の低温出力特性を向上させることができる。
本発明によってこのような効果が得られる機序については、例えば以下のようなものが考えられる。
リチウムイオン二次電池を-10℃以下或いは-20℃以下のような厳しい低温条件で作動させる場合、電解質(非水電解液および固体電解質等)におけるリチウムイオンの移動度が低下する。そうすると、正極活物質表面へのリチウムイオンの到達が遅れてしまい、円滑な電池反応の進行が妨げられることとなる。このように、厳しい低温条件下ではリチウムイオン二次電池の出力特性は低下し得る。
本発明においては、正極活物質表面において、第1の被覆物および第2の被覆物の両方に近接する領域において、電解質中ではリチウムイオン濃度が特異的に増加する。このようなリチウムイオン濃度が高い領域があることによって、正極活物質表面におけるリチウムイオンの欠乏を防止することができる。その結果、-10℃以下或いは-20℃以下のような厳しい低温条件下においても電池の出力特性の低下を抑制することができる。そして、特に正極活物質の表面に配置された第1の被覆物の上に第2の被覆物が配置されることによって、リチウムイオン濃度が高い領域が広くなり得る。これにより、リチウムイオン二次電池の低温出力特性がより一層向上されることとなる。
【0030】
<作用効果2:耐久性の向上>
ここで開示される正極材料は、上述したような優れた低温出力特性の他、リチウムイオン二次電池の耐久性をも向上し得る。
上記リチウムイオン濃度が高い領域では、負電荷を帯びた酸素イオンおよび溶存酸素が同時に濃縮され得る。その結果、正極活物質表面において見かけの酸素分圧または酸素濃度が上昇することとなる。これによって、正極活物質からの酸素の放出が抑制され、リチウムイオン二次電池において優れた耐久性が実現される。
【0031】
<作用効果3:耐候性の向上>
ここで開示される正極材料は、さらに、リチウムイオン二次電池の耐候性を向上させることができる。
正極活物質を大気環境下に放置すると、大気中の水分と正極活物質とが反応することによって、正極活物質中のリチウムイオンが消費されることがある。このような正極活物質はリチウムイオン二次電池の電池容量を縮小してしまう。しかしながら、ここで開示される正極材料を大気環境下に放置した後にリチウムイオン二次電池を構築した場合であっても、該リチウムイオン二次電池の電池容量が縮小されない。
【0032】
<リチウムイオン二次電池の提供>
ここで開示される正極材料は、上述のように低温出力特性のみならず耐久性および耐候性を向上させることができるため、リチウムイオン二次電池の正極の構成に好適に用いることができる。これによって、良好な電池性能を有するリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0033】
<リチウムイオン二次電池の例>
ここで開示される正極材料を電極に備えること以外は、リチウムイオン二次電池の構築方法、使用される各種材料、電池の形態等に制限はなく、従来と同様でよい。
例えば、電解質として非水電解液を備える非水電解液二次電池(例えば非水電解液リチウムイオン二次電池)、電解質として固体電解質を備える全固体電池(例えば全固体リチウムイオン二次電池)、電解質としてゲル状のポリマーを備える二次電池(例えばリチウムイオンポリマー二次電池)等、種々の形態のリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0034】
次に、ここで開示される正極材料を含み得るリチウムイオン二次電池について図2および図3を参照しつつ説明する。図2は、一実施形態に係る正極材料を用いて構築されるリチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す断面図である。図3は、一実施形態に係る正極材料を用いて構築されるリチウムイオン二次電池の電極体20の構成を示す模式図である。
図示されるように、リチウムイオン二次電池100は、扁平形状の捲回電極体20と電池ケース30と図示しない電解質(非水電解液)とを備えている。
電池ケース30は、上端部に開口部を有する有底直方体状のケース本体と、その開口部に取り付けられて該開口部を塞ぐ蓋体とから構成される。電池ケース30は、例えばアルミニウム製である。蓋体には外部接続用の正極端子42、負極端子44、および安全弁36が形成されている。
捲回電極体20は、長尺なシート状の正極シート50、負極シート60、およびセパレータ70を重ね合わせ、長手方向に捲回することにより構成されている。
【0035】
正極シート50は、シート状のアルミ箔等からなる正極集電体52の一方の表面若しくは両方の表面に、ここで開示される正極材料を導電材、バインダ等の添加材とともに混合して調製した組成物(例えば、非水系溶媒を加えて調製したペースト状(スラリー状)供給材料を、所定の厚みに付着させることにより形成された正極活物質層54を有する。また、正極集電体52には、正極活物質層54が塗工されない未塗工部52aが設定されており、正極端子42の先端部分42aが接合されている。
負極シート60は、シート状の銅箔等からなる負極集電体62の一方の表面若しくは両方の表面に、負極活物質をバインダ、増粘剤等の添加材とともに混合して調製した組成物(例えば、非水系溶媒を加えて調製したペースト状(スラリー状)供給材料を、所定の厚みに付着させることにより形成された負極活物質層64を有する。また、負極集電体62には、負極活物質層64が塗工されない未塗工部62aが設定されており、負極端子44の先端部分44aが接合されている。
また、セパレータ70は、例えば、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)等の多孔質ポリオレフィン系樹脂で構成された単層構造のセパレータ或いは積層構造のセパレータを用いることができる。
【0036】
上述したリチウムイオン二次電池の構造、構築材料、等の説明は一般的であり、特に本発明を特徴付けるものではないため、これ以上の詳細な説明や図示は省略する。当業者であれば、ここで開示される正極材料を使用すること以外は、従来の材料や製造プロセスを採用することにより、種々の形態、サイズのリチウムイオン二次電池を容易に構築することができる。
【0037】
以下、本発明に関するいくつかの試験例を説明するが、本発明を試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0038】
≪試験例1.被覆物の組成の検討≫
<評価試験用リチウムイオン二次電池の構築>
-実施例1-
[正極活物質の作製]
まず初めに、正極活物質として層状構造を有するLiNi1/3Co1/3Mn1/3粒子を従来公知の方法によって作製した。
具体的には、Ni、Co、およびMnの硫酸塩を、それぞれNi、Co、およびMnのモル比が1:1:1になるように水に溶解させた。この水溶液にNaOHを添加しながら中和することによって、正極活物質の前駆体であるNi、Co、およびMnを含む複合水酸化物を析出させた。当該複合水酸化物および炭酸リチウムを、それぞれモル比が1:1となるように混合した。この混合物を800℃の温度条件において15時間焼成し、層状構造を有するLiNi1/3Co1/3Mn1/3粒子(正極活物質)を得た。ここで、レーザー回折散乱法によって、正極活物質の平均粒径(D50)を測定したところ、約10μmであることが確認された。
[処理1:第1の被覆物の形成]
次に、100gの正極活物質と、50gの0.1質量%LiOH水溶液とを混合した。この混合物を2時間放置した後、エバポレータを用いて水分を除去した。これによって、正極活物質の表面の少なくとも一部に、第1の被覆物が配置された。
[処理2:第2の被覆物の形成]
次に、TiO粉末と、処理1によって第1の被覆物が配置された正極活物質とをメカノケミカル装置に投入し、6000rpmで30分間、メカノケミカル処理を行った。これによって、正極活物質の表面の少なくとも一部に、第2の被覆物が配置された。なお、TiO粉末の使用量は、正極活物質の全体を100質量%としたとき、第2の被覆物に含有されるTiの合計量が表1に記載される量(質量%)となるようにした。
このようにして、正極活物質の表面の少なくとも一部に、第1の被覆物および第2の被覆物が配置された実施例1に係る正極材料を得た。
【0039】
-実施例2~4-
処理2において、表1に記載のチタン酸化物を使用して正極活物質に第2の被覆物を形成させたこと以外は実施例1と同様にして正極材料を得た。
-実施例5~10-
処理2において、表1に記載のLi/Ti比を有するリチウムチタン複合酸化物(LTO)を使用して正極活物質に第2の被覆物を形成させたこと以外は実施例1と同様にして正極材料を得た。
なお、表1中、「LTO」はリチウムチタン複合酸化物を示しており、Li/Tiはリチウム原子およびチタン原子の原子数比を示している。
【0040】
-比較例1-
実施例1で作製した正極活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)をそのまま正極材料として用いた。
-比較例2~5-
正極活物質に処理1を施さず、第1の被覆物を配置させなかった。処理2において、表1に記載のチタン酸化物を使用して正極活物質に第2の被覆物を配置させたこと以外は実施例1と同様にして正極材料を得た。
-比較例6~11-
正極活物質に処理1を施さず、第1の被覆物を配置させなかった。処理2において、表1に記載のLi/Ti比を有するLTOを使用して正極活物質に第2の被覆物を配置させたこと以外は実施例1と同様にして正極材料を得た。
-比較例12-
処理1を行った後の正極活物質に処理2を施さず、第2の被覆物を配置させなかった。これを正極材料として用いた。
【0041】
[被覆物の観察]
上述したように作製した実施例1~10および比較例1~12に係る正極材料を電子顕微鏡(TEM)で観察した。また、EDXによって元素分析を行った。
実施例1~10に係る正極材料については、正極活物質の表面の少なくとも一部に、第1の被覆物および第2の被覆物が配置されていることが確認された。また、正極活物質の表面において第1の被覆物の上に第2の被覆物が形成されている部位があることも確認された。
一方、比較例1に係る正極材料については、正極活物質上に被覆物は確認されなかった。比較例2~11に係る正極材料については、正極活物質の表面の少なくとも一部に、第2の被覆物のみが配置されていることが確認された。比較例12に係る正極材料については、第1の被覆物のみが配置されていることが確認された。
【0042】
[第1の被覆物の平均厚みの測定]
正極活物質の表面の少なくとも一部に第1の被覆物が配置されている実施例1~10および比較例12について、上記電子顕微鏡での観察に基づく平均厚みを算出した。具体的には、10個程度の第1の被覆物の厚みを測定して平均値を算出した。結果を表1の該当欄に示す。
【0043】
[サンプル電池の構築]
上記作製した実施例1~10および比較例1~12に係る正極材料を用いて、評価試験用のリチウムイオン二次電池(以下、「サンプル電池」という。)を構築した。
具体的には、まず、上記正極材料と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)とを、正極材料:PVdF:AB=80:2:8となるように秤量し、分散媒としてのN-メチルピロリドン(NMP)中でプラネタリミキサを用いて混合し、固形分濃度56質量%の正極スラリーを調製した。この正極スラリーを、ダイコータを用いて帯状のアルミニウム箔(正極集電体、15μm)の長手方向に沿って塗付し、120℃で乾燥させた。そして、乾燥させた正極スラリーをアルミニウム箔と共にプレスした。これにより、正極集電体上に正極活物質層を備えた帯状の正極シートを作製した。
【0044】
また、従来公知の材料、部材を用い、従来法に従って負極集電体上に負極活物質層を備えた帯状の負極シートを作製した。
正極シートおよび負極シートを、セパレータを介在させつつ積層して長手方向に捲回することによって、捲回電極体を作製させた。そして、正極シートには正極集電部材を、負極シートには負極集電部材をそれぞれ溶接した。
そして、作製した電極体と非水電解液とを電池ケースに収容して、各々のサンプル電池を構築した。
【0045】
[サンプル電池の活性化および初期容量測定]
上記作製した各々のサンプル電池の活性化および初期容量の測定を行った。
具体的には、活性化(初期充電)として、25℃の温度条件下、各々のサンプル電池を1/3Cの電流値で4.2Vまで定電流(CC)充電を行った。次いで、電流値が1/50Cになるまで定電圧(CV)充電して満充電状態にした。さらに、各サンプル電池を1/3Cの電流値で3.0VまでCC放電した。そして、このときの放電容量を測定し、初期容量を算出した。
【0046】
[低温抵抗の測定]
上記活性化したサンプル電池を、3.70Vの電圧(開放電圧)に調整した。その後、サンプル電池を-28℃の温度環境に置いた。ここで、各々のサンプル電池を20Cの電流値で8秒間放電させた。このときの電圧降下量ΔVを取得し、電流値とΔVを用いて電池抵抗を算出した。比較例1の正極を用いたサンプル電池の抵抗を1としたときの実施例1~10および比較例2~12にかかる各サンプル電池の電池抵抗を算出した。結果を表1に示す。
【0047】
[耐久試験後容量維持率(%)の測定]
上記活性化したサンプル電池を60℃の温度環境に置いた。その後、10Cの電流値で4.2VまでCC充電し、10Cの電流値で3.3VまでCC放電することを1サイクルとする充放電を500サイクル繰り返し行った。500サイクル後の放電容量を初期容量と同様の方法で算出した。
そして、耐久試験後の容量維持率(%)を以下の式(3):

耐久試験後の容量維持率(%)=充放電500サイクル後の放電容量/初期容量 (3)

により求めた。結果を表1に示す。
【0048】
[耐候性試験後規格化容量の測定]
正極材料の耐候性を評価するために、耐候性試験を行った。
具体的には、上述したように作製した実施例1~10および比較例1~12に係る各々の正極シートを25℃の温度条件および100%の湿度条件に設定された密閉容器中で12時間放置した。そして、該密閉容器から取り出した正極シートを用いて、上述した方法と同じように耐候性試験用のサンプル電池を作製した。
次いで、活性化(初期充電)として、25℃の温度条件下、各々のサンプル電池を1/3Cの電流値で4.2VまでCC充電を行った。次いで、電流値が1/50CになるまでCV充電して満充電状態にした。さらに、各耐候性試験用のサンプル電池を1/3Cの電流値で3.0VまでCC放電した。そして、このときの放電容量を測定し、耐候性試験後の放電容量を算出した。そして、比較例1の正極シートを用いた耐候性試験用のサンプル電池の放電容量を1としたときの実施例1~10および比較例2~12にかかる各耐候性試験用のサンプル電池の規格化容量を算出した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示されるように、正極活物質の表面の少なくとも一部に所定のニッケル酸化物(第1の被覆物)およびチタン酸化物(第2の被覆物)が配置されることによって、良好な低温出力特性、耐久性、および、耐候性を有するリチウムイオン二次電池が提供されることが確認された。
【0051】
≪試験例2.第2の被覆物の配置部位の検討≫
本試験例では、第2の被覆物の配置部位が異なる正極材料を作製し、当該正極材料を用いて構築したリチウムイオン二次電池について試験例1と同様の評価を行った。
-実施例11-
まず、実施例1と同様の方法によって、正極活物質としての層状構造を有するLiNi1/3Co1/3Mn1/3を得た。
当該正極活物質を水とエタノールの混合溶媒で洗浄した。次いで、実施例1と同様の処理1を行い、第1の被覆物を配置させた。次いで、これをビニルピロリドン-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリル酸共重合体ジエチル硫酸塩溶液で処理し、バレルスパッタ装置を用いて所定のLi/Ti比を有するLTOを第2の被覆物として配置することによって、実施例11に係る正極材料を作製した。第1の被覆物および第2の被覆物が形成されたことは、電子顕微鏡およびEDX解析により確認した。そして、実施例1と同じ材料、プロセスによってサンプル電池を構築し、試験例1と同様にして特性評価を行った。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
電子顕微鏡およびEDX解析によって、実施例11に係る正極材料は、正極活物質の表面の少なくとも一部に第1の被覆物および第2の被覆物が配置されていることが確認された。しかしながら、第1の被覆物の上に第2の被覆物が形成されていることは確認されなかった。
表2に示されるように、正極活物質の表面の少なくとも一部に第1の被覆物および第2の被覆物が配置されることによって、良好な低温出力特性、耐久性、および、耐候性を有するリチウムイオン二次電池が提供されることが確認された。一方、第1の被覆物の上に第2の被覆物が形成されていると、より優れた電池特性が実現されることが確認された。
【0054】
≪試験例3.第1の被覆物の平均厚みの検討≫
本試験例では、第1の被覆物の平均厚みが異なる正極材料を作製し、当該正極材料を用いて構築したリチウムイオン二次電池について試験例1と同様の評価を行った。
-実施例12~20-
処理1において、正極活物質と混合するLiOH水溶液の濃度、および、正極活物質とLiOH水溶液の混合物を放置する時間を適宜変更させたこと以外は実施例7と同様にして実施例12~20に係る正極材料を作製した。第1の被覆物および第2の被覆物が形成されたことは、電子顕微鏡およびEDX解析により確認した。そして、実施例1と同じ材料、プロセスによってサンプル電池を構築し、試験例1と同様にして特性評価を行った。結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
表3に示されるように、電子顕微鏡およびEDX解析によって、実施例12~20に係る正極材料は、正極活物質の表面の少なくとも一部に第1の被覆物および第2の被覆物が配置されていることが確認された。そして、第1の被覆物が形成された上に第2の被覆物が形成されている部位も確認された。
表3に示されるように、正極活物質の表面の少なくとも一部に第1の被覆物および第2の被覆物が配置されることによって、良好な低温出力特性、耐久性、および、耐候性を有するリチウムイオン二次電池が提供されることが確認された。また、電池特性を向上させる観点からは、第1の被覆物の平均厚みが0.4~55nmであることが好ましく、0.5~50nmであることがより好ましいことが確認された。
【0057】
≪試験例4.第2の被覆物に含有されるTiの合計量の検討≫
本試験例では、第2の被覆物に含有されるTiの合計量が異なる正極材料を作製し、当該正極材料を用いて構築したリチウムイオン二次電池について試験例1と同様の評価を行った。
-実施例21~28-
処理1において、第1の被覆物の平均厚みが3nmとなるように、正極活物質と混合するLiOH水溶液の濃度、および、正極活物質とLiOH水溶液の混合物を放置する時間を適宜変更させた。また、処理2において、第2の被覆物に含まれるTi量が、正極活物質の全体を100質量%としたとき表4に記載される量(質量%)となるような量のLTO(Li/Ti=1)を添加してメカノケミカル処理を行った。それ以外は実施例1と同様にして実施例21~28に係る正極材料を作製した。正極活物質の表面に第1の被覆物および第2の被覆物が配置されたことは、電子顕微鏡およびEDX解析により確認した。そして、実施例1と同じ材料、プロセスによってサンプル電池を構築し、試験例1と同様にして特性評価を行った。結果を表4に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
表4に示されるように、電子顕微鏡およびEDX解析によって、実施例21~28に係る正極材料は、正極活物質の表面の少なくとも一部に第1の被覆物および第2の被覆物が配置されていることが確認された。そして、第1の被覆物の上に第2の被覆物が形成されている部位も確認された。
表4に示されるように、正極活物質の表面の少なくとも一部に第1の被覆物および第2の被覆物が配置されることによって、良好な低温出力特性、耐久性、および、耐候性を有するリチウムイオン二次電池が提供されることが確認された。また、電池特性を向上させる観点からは、第2の被覆物に含有されるTiの合計量が、正極活物質の全体を100質量%としたとき0.005~6質量%であることが好ましく、0.01~5質量%であることがより好ましいことが確認された。
【0060】
≪試験例5.正極活物質の種類の検討≫
本試験例では、正極活物質の種類が異なる正極材料を作製し、当該正極材料を用いて構築したリチウムイオン二次電池について試験例1と同様の評価を行った。
-実施例29~31-
正極活物質として表5の該当欄に記載される種類のリチウム遷移金属複合酸化物を使用したこと以外は実施例7と同様にして実施例29~31に係る正極材料を作製した。正極活物質の表面に第1の被覆物および第2の被覆物が配置されたことは、電子顕微鏡およびEDX解析により確認した。そして、実施例1と同じ材料、プロセスによってサンプル電池を構築し、試験例1と同様にして特性評価を行った。結果を表5に示す。
-比較例12~14-
表5の該当欄に記載される種類のリチウム遷移金属複合酸化物をそのまま正極材料として使用した。また当該正極材料の表面を電子顕微鏡およびEDX解析により観察した。そして、実施例1と同じ材料、プロセスによってサンプル電池を構築し、試験例1と同様にして特性評価を行った。結果を表5に示す。
【0061】
【表5】
【0062】
表5に示されるように、電子顕微鏡およびEDX解析によって、実施例29~31に係る正極材料は、正極活物質の表面の少なくとも一部に第1の被覆物および第2の被覆物が配置されていることが確認された。そして、第1の被覆物の上に第2の被覆物が形成されている部位も確認された。また、比較例12~14に係る正極材料は、正極活物質の表面において被覆物の形成は確認されなかった。
表5に示されるように、正極材料を構成する正極活物質の種類によらず、正極活物質の表面の少なくとも一部に第1の被覆物および第2の被覆物が配置されることによって、良好な低温出力特性、耐久性、および、耐候性を有するリチウムイオン二次電池が提供されることが確認された。
【0063】
以上のことから、ここで開示される正極材料によれば、リチウムイオン二次電池に、優れた低温出力特性、耐久性、および、耐候性を実現できることが確認された。
【0064】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0065】
10 正極材料
12 正極活物質
14 第1の被覆物
16 第2の被覆物
20 捲回電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
42a 先端部分
44 負極端子
44a 先端部分
50 正極シート
52 正極集電体
52a 未塗工部
54 正極活物質層
60 負極シート
62 負極集電体
62a 未塗工部
64 負極活物質層
70 セパレータ
100 リチウムイオン二次電池
T 平均厚み

図1
図2
図3