(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20220802BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220802BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220802BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
(21)【出願番号】P 2019125338
(22)【出願日】2019-07-04
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000208662
【氏名又は名称】第一稀元素化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 隆太
(72)【発明者】
【氏名】堀川 大介
(72)【発明者】
【氏名】柳下 定寛
(72)【発明者】
【氏名】西川 拓
【審査官】式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-517243(JP,A)
【文献】国際公開第2013/047877(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池であって、
前記正極活物質は、
リチウム遷移金属化合物からなる正極活物質粒子と、
前記正極活物質粒子の表面の少なくとも一部を覆う被覆部と、
を備え、
前記被覆部は、
リチウムと、リン酸基と、イットリウムを含むリチウムイオン伝導体を含み、
前記リチウムイオン伝導体は、
イットリウムの割合が相対的にリッチな領域Aと、
イットリウムの割合が相対的にプアな領域Bと、
を含む、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記リチウムイオン伝導体は非晶質である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記リチウムイオン伝導体は、以下の一般式:
Li
xY
yPO
4-z
(式中、x,yは、1.5≦x≦4、0.005≦y≦3を満たし、zは酸素欠損量を示す。);
で表される、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記領域Aは、前記イットリウムの割合がリンの割合以上であり、
前記領域Bは、前記イットリウムの割合がリンの割合より少なく、
前記領域Aおよび前記領域Bの面積の合計に対する前記領域Aの面積の比Rは、0.01以上0.5以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記被覆部は、さらに、イットリウム塩を備えている、請求項1~4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
リチウム遷移金属化合物からなる正極活物質粒子と、
前記正極活物質粒子の表面の少なくとも一部を覆う被覆部と、
を備え、
前記被覆部は、
リチウムと、リン酸基と、イットリウムを含むリチウムイオン伝導体を含み、
前記リチウムイオン伝導体は、
イットリウムの割合が相対的にリッチな領域Aと、
イットリウムの割合が相対的にプアな領域Bと、
を含む、正極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、軽量で高いエネルギー密度が得られることから、ポータブル電源や車両搭載用の高出力電源等として好ましく用いられている。この非水電解質二次電池は、実用化が進むに連れて、用途に応じた各種特性の改善要求がより一層高まっている。例えば、二次電池において電荷担体を吸蔵放出する活物質については、瞬時に多量のリチウムイオンをよりスムーズに脱挿入することが、電池の内部抵抗を低減する上で好ましい。そのため、例えば、正極活物質粒子の表面を、リチウムイオン伝導性を有する被覆材で被覆することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、特許文献1には、硫化物系の全固体電池において、Sc、Ti、V、Y、Zr、Nb、Ca、Sr、Ba、Hf、Ta、Cr、Mo、Wのうちいずれか一種以上の元素と、リチウムと、リン酸とを含有しイオン伝導性を備える被覆材によって正極活物質を被覆することが開示されている。特許文献1には、このような構成の正極活物質を用いることにより、固体電解質層と正極層との間で効率よくリチウムイオンを伝導させることに加え、硫化物系固体電解質層と正極層との間の反応を抑制し、固体電解質層と正極層との間の高い界面抵抗を低減できることが記載されている。しかしながら、本発明者らの検討によると、正極活物質の構成については、更なる改善の余地があった。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、抵抗特性と過充電特性とが向上されている非水電解質二次電池を提供することにある。また、他の側面において、この非水電解質二次電池に好適に使用し得る正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、電池性能の更なる改善を目的として、リチウムイオン伝導性を有する材料で被覆された正極活物質について鋭意検討を重ねていた。その結果、特定の結晶構造を有するリチウムイオン伝導体に所定の元素を導入することで、抵抗特性と過充電特性とが大きく改善されることを見出し、本技術を完成するに至った。すなわち、ここに開示される非水電解質二次電池は、正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを備え、上記正極活物質は、リチウム遷移金属化合物からなる正極活物質粒子と、上記正極活物質粒子の表面の少なくとも一部を覆う被覆部と、を備えている。そして、上記被覆部は、リチウムと、リン酸基と、イットリウムを含むリチウムイオン伝導体を含み、このリチウムイオン伝導体は、イットリウムの割合が相対的にリッチな領域Aと、イットリウムの割合が相対的にプアな領域Bと、を含む。
【0007】
リチウムとリン酸基とを含む化合物としては、例えば、一般式:Li3PO4;などで表される組成のリン酸トリリチウム(以下、単に「LPO」と記す場合がある。)が挙げられる。このLPOは、LISICON(LIthium Super Ionic CONductor)と呼ばれるγ-Li3PO4型構造を有するリチウムイオン伝導性材料と同様、PO4四面体とLiO6八面体により形成される骨格構造を有し、Li欠損や過剰Liを導入することでリチウムイオン伝導性を示し得る。そこで、LPOにより正極活物質粒子の表面を覆うとともに、このLPOにイットリウム(Y)を導入した場合にLPOの骨格構造に歪みが生じ、当該被覆部におけるリチウムイオン伝導性が高められると考えられる。また、Yは3価のカチオンとなり得、過充電時には、正極活物質の過剰なリチウム欠乏によって脱離する酸素をトラップし、酸素と電解質との発熱反応を好適に抑制し得ると考えられる。加えて、被覆部においてYをYリッチ領域AとYプア領域Bとに局在化させることで、これらの効果が顕著に高められる。このような正極活物質を用いることにより、抵抗特性と過充電耐性とが向上されている非水電解質二次電池を実現することができる。
【0008】
ここに開示される非水電解質二次電池の好ましい一態様において、上記リチウムイオン伝導体は非晶質である。これにより、被覆部のイオン伝導性が高められるとともに、酸素トラップサイトが増大し、抵抗特性と過充電耐性とがより一層向上された二次電池が提供される。
【0009】
ここに開示される非水電解質二次電池の好ましい一態様において、上記リチウムイオン伝導体は、以下の一般式:LixYyPO4-z;で表される組成を有する。なお、式中、zは酸素欠損量を示す。x,yは、1.5≦x≦4、0.005≦y≦3を満たすことが好ましい。これにより、リン酸骨格に十分な歪みを導入することができ、抵抗特性と過充電耐性とがバランスよく両立された二次電池が提供される。
【0010】
ここに開示される非水電解質二次電池の好ましい一態様において、上記領域Aは、上記イットリウムの割合がリンの割合以上であり、上記領域Bは、上記イットリウムの割合がリンの割合より少なく、上記領域Aおよび前記領域Bの面積の合計に対する上記領域Aの面積の比Rは、0.01以上0.5以下である。かかる構成によると、領域Aと領域Bの界面において、活物質粒子へのイオン供給性が好適に高められたり、酸素のトラップ性能が高められたりするために好ましい。
【0011】
ここに開示される非水電解質二次電池の好ましい一態様において、上記被覆部は、さらに、イットリウム塩を備えている。このような構成によると、過充電時の発熱が顕著に抑制されるために好ましい。
【0012】
ここに開示される構成の正極活物質は、正極活物質粒子の表面に被覆部を備え、この被覆部の寄与によって抵抗特性と過充電特性とが改善されている。なお、特許文献1における抵抗低減は、固体電解質と活物質との直接接触を被覆部によって防止し、界面反応を抑制することにより実現されている。これに対し、上記構成の正極活物質によると、固体電解質を用いた場合のみならず、電解液を用いた場合にも、被覆部自体のイオン伝導性が高められたことにより抵抗低減効果が格段に向上され、さらに過充電耐性もが改善され得る点において有益である。このような特長により、この正極活物質を使用して構成される非水電解質二次電池は、例えば、ハイレート充放電特性および過充電耐性が両立された物として提供される。このような高温時の安全性は、例えば、蓄電要素が複数積層された積層構造(積層型電極体や捲回型電極体)を備え、ハイレートで大電流を繰り返し充放電する用途の二次電池に特に好ましく適用することができる。したがって、ここに開示される非水電解質二次電池は、例えば、車両の駆動用電源(主電源)、中でも例えばハイブリッド自動車やプラグインハイブリッド自動車等の駆動用電源等として特に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態に係るリチウムイオン電池の構成を模式的に示す切欠き斜視図である。
【
図2】捲回型電極体の構成を説明する部分展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の一実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けない非水電解質二次電池の構成や動作等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。なお本技術に関し、数値範囲を示す「A~B」との表記は、「A以上B以下」を意味するものとする。
【0015】
本技術において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイス一般をいい、リチウム二次電池、リチウムポリマー電池等のいわゆる蓄電池、ならびに電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する用語である。また、「非水電解質二次電池」とは、電荷担体として非水系の電解質を用いて充放電を実現する二次電池であり、電解質は固体電解質、ゲル状電解質、および非水電解質のいずれであってもよい。本技術の利益より享受できる構成として、例えば、常温(例えば25℃)において液状を呈し、非水溶媒中に電荷担体となる支持塩(電解質)を溶解させた非水電解液であってよい。また、「活物質」とは、二次電池において電荷担体となる化学種を可逆的に吸蔵および放出し得る物質をいう。以下、非水電解質二次電池がリチウムイオン二次電池である場合を例にして、本技術について説明する。
【0016】
[リチウムイオン二次電池]
図1は、一実施形態に係るリチウムイオン電池(以下、単に「二次電池」等という。)1の構成を示す切欠き斜視図である。
図2は、捲回型電極体20の構成を説明する部分展開図である。このリチウムイオン電池1は、正極30と負極40とセパレータ50とを含む捲回型電極体20が非水電解液(図示せず)とともに電池ケース10に収容されることで構成されている。図中のWは、電池ケース10および捲回型電極体20の幅方向を示し、捲回型電極体20の捲回軸WLと一致する方向である。電極体20は、セパレータ50と負極40とセパレータ50と正極30とをこの順に積層することで構成されている。
【0017】
正極30は、正極集電体32と、正極活物質層34とを備えている。
正極活物質層34は、正極活物質を含む多孔質体であり、電解液を含浸し得る。正極活物質は、電荷担体であるリチウムイオンを、電解液に放出または電解液から吸蔵する。正極活物質層34は、付加的に、導電材やバインダを含むことができる。正極活物質層34は、正極集電体32の表面(片面または両面)の一部に備えられる。正極集電体32は、正極活物質層34を保持し、正極活物質層34に電荷を供給したり回収したりするための部材である。正極集電体32は、電池内の正極環境において電気化学的に安定であり、導電性の良好な金属(例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)からなる導電性部材により好適に構成される。
【0018】
正極活物質層34は、典型的には、粉末状の正極活物質が導電材と共にバインダ(結着剤)により互いに結合されるとともに、正極集電体32に接合されている。導電材を含む構成においては、導電材として、例えば、カーボンブラック(典型的にはアセチレンブラックや、ケッチェンブラック等)、活性炭、黒鉛、炭素繊維等の炭素材料を好適に用いることができる。これらはいずれか1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。バインダとしては、結着性能を有する各種の樹脂組成物を用いることができる。例えば、(メタ)アクリル酸エステル重合体等のアクリル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のハロゲン化ビニル樹脂、ポリエチレンオキサイド(PEO)等のポリアルキレンオキサイド等)が挙げられる。これらは、後述する正極活物質とともに適当な分散媒(例えばN-メチル-2-ピロリドン)に分散させてなる正極スラリーを、正極集電体32の表面に供給した後、乾燥して分散媒を除去することにより作製することができる。
【0019】
正極活物質は、正極活物質粒子と、この正極活物質粒子の表面の少なくとも一部を覆う被覆部と、を備えている。正極活物質は、被覆部を備える複数の正極活物質粒子により粉末状を呈している。ここで、被覆部は、正極活物質粒子の表面に直接備えられている。換言すれば、被覆部は、正極活物質粒子の表面にバインダ等の他の化合物を介することなく直接備えられている。典型的には、被覆部は、正極活物質粒子の表面に析出されている。このことにより、被覆部は、正極活物質粒子の表面に密接に、より好ましくは配向して配置されている。被覆部は、正極活物質粒子の表面の全体を覆っていてもよいし、その一部を覆っていてもよい。
【0020】
被覆部は、本質的に、リチウム(Li)と、リン酸基(PO4-)と、イットリウム(Y)を含むリチウムイオン伝導体を含む。リン酸基の含有は、例えばリン酸成分の含有として把握することができる。このリチウムイオン伝導体は、典型的には、PO4四面体とLiO6八面体とにより形成される骨格構造を有し、LiO6八面体におけるLiの一部またはその間隙に、Yが配置されている。例えば、Li3PO4を母構造(基本骨格)として、Yが部分置換されている。このことにより、基本骨格にLi欠損や格子間Liが導入される。その結果、母構造内にリチウムイオンの偏りが生じ、Li欠損や格子間Liを介してリチウムイオンが移動可能となり、リチウムイオン伝導性が発現されている。そして、被覆部がこのようなリチウムイオン伝導性を示すことにより、正極活物質粒子へのリチウムイオンの吸蔵、および、放出が円滑に行われ、電解質と正極活物質粒子との間の界面抵抗が低減される。ここで、リチウムイオン伝導体とは、リチウムイオン(Li+)のイオン導電性を有する化合物を特に制限なく含み得る。好ましくは、リチウムイオン伝導度が室温近傍(以下、特にことわりのない限り、25℃とする。)で10-10Scm-1以上であり、例えば10-8Scm-1以上、より好ましくは10-7Scm-1以上である。
【0021】
Yは3価の陽イオンとなり得る元素であり、イオン半径は凡そ1~1.2Åとなり得る。ここで、LPOを基本骨格とする被覆部にYが含まれることにより、母構造内にリチウムイオンの偏り(換言すれば、カチオン性の高い部分)やイオン拡散経路が好適に形成され、高いリチウムイオン伝導性を実現する相構造をより低温(電池使用温度域)において安定化できると考えられる。このことにより、Yが含まれない場合や、他の元素が導入された場合と比較して、正極活物質粒子へのリチウムイオンの吸蔵および放出が円滑に行われ、電解質と正極活物質粒子との間の界面抵抗が低下され得る。また、被覆部のカチオン性の高い部分において酸素(O)を好適にトラップする機能が付与され、被覆部が被覆している正極活物質の構造が過充電等によって不安定になった場合に、正極活物質の構成元素である酸素原子の溶出を抑制し、酸素と電解質との反応による発熱を抑制できると考えられる。
【0022】
このリチウムイオン伝導体は、結晶質であってもよいし、非晶質であってもよいし、これらが混在していてもよい。リチウムイオン伝導体は、より好ましくは非晶質である。一般に、結晶質のイオン伝導体と非晶質のイオン伝導体とでは材料設計が大きく異なり、結晶性材料ではイオン伝導により適した結晶構造を構築することでイオン伝導性を向上させるのに対し、非晶質材料ではその構造を乱れさせることでイオン導電性を向上させる。ここに開示されるリチウムイオン伝導体は、上記の通りYが導入されている限り、結晶質であっても非晶質であっても、上記の界面抵抗の低減や正極活物質粒子の発熱の抑制の効果を発現できる。そしてリチウムイオン伝導体が非晶質である場合に、イオン伝導パスを3次元的に構築することができ、正極活物質粒子との界面に存在する活物質の結晶粒界に万遍なく導電パスを繋げることができ、上記効果がより顕著に現われると考えられる。リチウムイオン伝導体による被覆部は、簡便には液相法により正極活物質粒子の表面に形成することができる。例えばこのとき、一般的にはリチウムイオン伝導体(前駆体)を結晶化温度以上に加熱するが、結晶化温度よりも低い温度で加熱することで、被覆部を非晶質にすることができる。
【0023】
なお、被覆部におけるリチウムイオン伝導体が結晶質であるか非晶質であるかは、X線回折(X-ray diffraction:XRD)分析を行うことにより確認することができる。例えば、ここに開示される正極活物質をXRD分析したとき、後述する正極活物質粒子に由来する結晶性のピークの他に、このリチウムイオン伝導体に由来するピークが観察されるかどうか、また観察された場合はそのピーク形状によって、リチウムイオン伝導体の結晶性を評価することができる。例えば、LPOおよびその類縁体(つまり、LPOのY置換体等)に帰属されるピークが得られた場合に、リチウムイオン伝導体は結晶質部分を有するといえる。また、定性および定量分析によりリチウムイオン伝導体の存在が確認されているにもかかわらず、LPOおよびその類縁体に帰属されるピークが検出されない場合は、リチウムイオン伝導体は非晶質であるといえる。
【0024】
このようなリチウムイオン伝導体は、全体として、例えば、一般式:LixYyPO4-z;で表される組成を有する化合物として把握することができる。また、式中のxはLiの割合を示し、厳密に規定されるものではないが、好ましくは1.5≦x≦4であり得る。式中のyはYの割合を示し、0よりも大きい値をとりうる。式中のzは電荷中立条件を担保する酸素欠損量を示す。zは、0≦z≦4であり得るものの、典型的には0~1の値を取り得る。リチウムイオン伝導体がこのような組成を有することで、被覆部が正極活物質粒子に対して上記の効果を安定的に発現することができる。
【0025】
上記一般式で表されるイットリウム含有リン酸リチウムの、化学量論組成におけるLiの割合xは3であるが、xはリチウムイオン伝導性を示しうる構造である限り、様々な値となり得る。Liの割合xは、典型的には、1.5以上4以下の値であるとよい。上記一般式において、リン酸骨格のPO4四面体の中心となるPに対するLiの割合xは、おおよそ1.5以上程度であると、リチウム濃度が少なくなり過ぎずに抵抗低減効果が発揮されやすくなるために好ましい。イオン伝導度の観点から、xはおおよそ2以上が好ましく、2.5以上がより好ましい。なお、Pに対するLiの割合xが3以上であると、過剰リチウムbの存在によりイオン伝導度がより一層高められるために好ましい。しかしながら、Liの割合xが過剰になりすぎるとγ-Li3PO4型の結晶構造が変化し、リチウムイオン伝導度は却って低下してしまう。したがって、後述するYの割合にもよるが、Liの割合xは、おおよそ4以下程度であるとよく、3.8以下や3.5以下程度であるとより好ましい。
【0026】
また、Yの割合yは、0よりも大きいことで構造中にYが含まれて、抵抗改善と過充電特性の向上とを両立することができる。このような効果を明瞭に発揮させるとの観点からは、Yの割合yは、0.005以上であると好ましい。Yの割合yは、0.01以上がより好ましく、0.02以上がより好ましく、例えば、0.05以上や、0.1以上であってよい。しかしながら、Yの過剰な添加は、Yの添加効果を飽和させるだけでなく、構造を変化させて却って効果を低減させ得るために好ましくない。Yの過剰な添加は、5以下程度であってよいが、4以下や、3以下程度、例えば2以下程度とすることが好ましい。
【0027】
被覆部は、正極活物質粒子の表面の全体を覆っていてもよいし、その一部を覆っていてもよい。例えば、正極活物質粒子の表面には、被覆部で覆われていない露出部が存在していてもよい。露出部は、例えば、正極活物質粒子の表面の一部に集約されて存在していてもよいし、複数の部分に分かれるなどして海島状に存在していてもよい。また、被覆部は、正極活物質粒子の表面に、粒状に存在していてもよいし、膜状(層状)に存在していてもよい。例えば、被覆部としての粉末状のリチウムイオン伝導体が、正極活物質粒子の表面に付着または固着された状態であってもよい。また、正極活物質粒子の表面を被覆部としてのリチウムイオン伝導体が膜状に覆った状態であってもよい。具体的な実施例は示していないものの、被覆部は膜状であることで、リチウムイオン伝導体との接触効率が高まり、粒子状で存在する場合に比べて抵抗低減効果が向上(例えば、10~30%程度の向上)するために好ましい。
【0028】
そしてここに開示される正極活物質において、被覆部を構成するリチウムイオン伝導体は、部分的に組成が異なっていてもよい。例えば、組成が部分的に異なっている場合であって、リチウムイオン伝導体の全体として上記組成に収まることが好ましい。換言すると、被覆部は、Yの割合が相対的にリッチな領域Aと、Yの割合が相対的にプアな領域Bと、を含んでいるとよい。被覆部における元素Yの分布にムラがあることで、被覆部のリチウムイオン導電性に新たな機能を付与することができる。具体的には、被覆部にYの割合がリッチな領域Aとプアな領域Bとが含まれることで、その境界領域においてリチウムイオン伝導性に局所的に差が生じ、例えば、正極活物質粒子の表面に垂直な被覆部の厚み方向にイオン伝導性の高いリチウムイオン伝導経路が形成され得る。これにより、被覆部内に外部の電解質等と正極活物質粒子との間のリチウムイオン供給性が高められると考えられる。また、カチオン性領域の局在化により、酸素のトラップ能も高められると考えられる。
【0029】
ここで、Yリッチ領域Aは、Yの割合がリン(P)の割合と同じかそれ以上である領域とすることができる。このとき領域AにおいてYの原子比はP以上となり、Yの割合はかなり高い。また、Yプア領域Bを、Yの割合がPの割合より少ない領域とすることができる。このとき、被覆部における領域Aおよび領域Bの割合に特に制限はない。ただし、被覆部全体としてのYの割合を過剰に多くすることなく、領域Aおよび領域Bの境界領域の割合を増大して境界領域における効果をよりよく利用するとの観点からは、領域Bのなかに局所的に領域Aが存在することが好ましい。例えば、被覆部の全体(すなわち領域Aおよび領域Bの面積の合計)に対する領域Aの面積の比Rは、0より大きければ上記効果が得られるものの、0.005以上であってよく、0.01以上がより好ましく、例えば0.05以上、0.1以上、0.15以上であってよい。なお、この領域Aの面積比Rは、換言すれば、元素Yの局在比Rとして把握することができる。ここで、YがPよりも多く含まれる領域が過剰に増えると、被覆部全体としてYの割合が過剰となったり、PO4四面体とLiO6八面体とにより形成される骨格構造を安定して維持することが困難となったりするために好ましくない。したがって、Yの局在比Rは、凡そ0.7以下程度が適切であり、0.6以下や0.5以下が好ましく、例えば0.45以下、0.4以下、0.35以下であってよい。
【0030】
なお、被覆部における元素Yの局在比Rは、例えば、以下の手順で把握することができる。すなわち、正極活物質の被覆部について、Y、Pの元素分布を調べ、被覆部を元素Yがリッチな領域Aと元素Yがプアな領域Bとに区画する。そして、領域A、領域Bの面積をそれぞれ算出し、領域Aおよび領域Bの面積の合計(被覆部の面積)に対する、領域Aの面積の割合を面積比R(換言すれば、局在比R)として算出すればよい。ここで、領域Aと領域Bの区画は、例えば、エネルギー分散型X線分析(Energy Dispersive x-ray Spectrometry:EDS)や、電子エネルギー損失分光法(Electron Energy-Loss Spectroscopy:EELS)によって、電子顕微鏡(SEM,TEM,STEM等)により観察した観察像における被覆部のY、およびPの元素分布を調べることにより実施することができる。
【0031】
なお、被覆部は、上記のリチウムイオン伝導体の他に、イットリウム塩を含んでいてもよい。被覆部がイットリウム塩を含むことで、正極活物質粒子が過充電状態にあるときに、例えば電解質との反応を抑制して発熱量を低く低減することができる。このような効果が得られる理由は定かではないが、イットリウム塩は水和しやすく、例えば電池内では不可避的に含まれる水分と水和して存在している。そこで、正極活物質粒子が過充電状態に陥って発熱し始めたときに、被覆部のイットリウム塩が脱水するなどして、この発熱を好適に緩和したり抑制したりすることが予想される。イットリウムの塩の種類については特に制限されず、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、リン酸塩、塩化物などであってよい。被覆部に含まれるイットリウム塩の割合は、例えば、10質量%以下程度が適切である。
【0032】
このような被覆部の割合は厳密には制限されず、正極活物質粒子の表面に少しでも形成されていることで、上記効果を発現することができる。上記効果を明瞭に得るとの観点からは、被覆部は、正極活物質粒子100質量部に対し、例えば、0.01質量部以上が好ましく、0.03質量部以上、0.05質量部以上、0.08質量部以上がより好ましい。しかしながら、過剰な被覆部の存在は正極活物質の単位質量当たりの理論容量を低減してしまう点において好ましくない。したがって、被覆部は、正極活物質粒子100質量部に対し、例えば、1質量部以下が好ましく、0.8質量部以下、0.5質量部以下、0.3質量部以下がより好ましく、例えば0.1質量部以下であってよい。
【0033】
ここに開示される正極活物質粒子は、リチウム遷移金属化合物によって構成されている。リチウム遷移金属化合物としては、この種の非水電解質二次電池の正極活物質として使用されている各種の化合物を用いることができる。リチウム遷移金属化合物の好適例として、例えば、リチウムコバルト酸化物(例えばLiCoO2)や、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)等に代表される層状岩塩型の結晶構造を有するリチウム遷移金属化合物や、リチウムマンガン酸化物(例えば、LiMn2O4、LiMn2-xNiyO4)等に代表されるスピネル型の結晶構造を有するリチウム遷移金属化合物や、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)等のオリビン型結晶構造を有するリチウム遷移金属リン酸塩等が挙げられる。これらは、遷移金属元素として、Ni,CoおよびMn以外の元素、換言すれば、元素周期律表の3族から11族に属する各種の遷移金属元素(ただし、Ni,CoおよびMnを除く)を含んでいてもよく、具体的には、B,F,Mg,Al,Ca,Ti,V,Cr,Fe,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,およびWを含んでいてもよい。また、遷移金属元素の他に、Ca,Mg,Al,B,およびF等の元素を含んでいてもよい。これらはいずれか1種を単独で含んでもよいし、2種以上を組み合わせて含んでもよい。
【0034】
正極活物質の平均粒子径(D50)は特に制限されず、典型的には0.5μm以上、好ましくは1μm以上、2μm以上、例えば3μm以上であり、例えば20μm以下、典型的には15μm以下、好ましくは10μm以下、例えば7μm以下である。正極活物質層34全体に占める正極活物質の割合は、およそ50質量%以上、典型的には60質量%以上、例えば70質量%以上であってよく、典型的には95質量%以下、例えば90質量%以下であり得る。正極活物質層34における導電材の割合は、正極活物質100質量部に対して、典型的には0.1質量部以上、好ましくは1質量部以上、例えば3質量部以上であり、典型的には15質量部以下、好ましくは12質量部以下、例えば10質量部以下である。正極活物質層34におけるバインダの割合は、正極活物質100質量部に対して、典型的には0.5質量部以上、好ましくは1質量部以上、例えば2質量部以上であり、典型的には10質量部以下、好ましくは8質量部以下、例えば5質量部以下とすることができる。また、正極活物質層34のプレス後の厚み(平均厚みである。以下同じ。)は、典型的には10μm以上、例えば15μm以上であって、典型的には50μm以下、例えば30μm以下とすることができる。また、正極活物質層34の密度は特に限定されないが、典型的には1.5g/cm3以上、例えば2g/cm3以上であって、3g/cm3以下、例えば2.5g/cm3以下とすることができる。
なお、本明細書において「平均粒子径」とは、特にことわりのない限り、レーザ回折散乱法によって得られる体積基準の粒度分布における累積50%粒子径(D50)である。
【0035】
負極40は、負極集電体42上に負極活物質層44が備えられることで構成されている。負極集電体42には、集電のために負極活物質層44が形成されず、負極集電体42が露出している非塗工部42Aが設けられている。負極活物質層44は負極活物質を含む。典型的には、粒子状の負極活物質がバインダ(結着剤)により互いに結合されるとともに、負極集電体42に接合された形態であり得る。負極活物質は、充放電に伴い電荷担体であるリチウムイオンを電解液から吸蔵し、また、電解液に放出する。負極活物質としては、従来からリチウムイオン電池の負極活物質として用いられる各種の材料を特に制限なく使用することができる。好適例として、人造黒鉛、天然黒鉛、アモルファスカーボンおよびこれらの複合体(例えばアモルファスカーボンコートグラファイト)等に代表される炭素材料、あるいは、シリコン(Si)等のリチウムと合金を形成する材料、これらのリチウム合金(例えば、LiXM2、M2は、C、Si、Sn、Sb、Al、Mg、Ti、Bi、Ge、PbまたはP等であり、Xは自然数。)、シリコン化合物(SiO等)等のリチウム貯蔵性化合物が挙げられる。この負極40は、例えば、粉末状の負極活物質とバインダ(例えば、スチレンブタジエン共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)等のゴム類、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース系ポリマー等)とを適当な分散媒(例えば、水やN-メチル-2-ピロリドン、好ましくは水。)に分散させてなる負極スラリーを負極集電体42の表面に供給した後、乾燥して分散媒を除去することにより作製することができる。負極集電体としては、導電性の良好な金属(例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)からなる導電性部材を好適に使用することができる。
【0036】
負極活物質粒子の平均粒子径(D50)は特に制限されず、例えば、0.5μm以上であってよく、1μm以上が好ましく、より好ましくは5μm以上である。また、30μm以下であってよく、20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましい。負極活物質層44全体に占める負極活物質の割合は、およそ50質量%以上とすることが適当であり、好ましくは90質量%~99質量%、例えば95質量%~99質量%である。バインダを使用する場合には、負極活物質層44に占めるバインダの割合を、負極活物質100質量部に対して例えば0.1質量部~5質量部程度とすることができ、通常はおよそ0.5質量部~2質量部とすることが適当である。負極活物質層44の厚み(平均厚みである。以下同じ。)は、例えば10μm以上、典型的には20μm以上であって、80μm以下、典型的には50μm以下とすることができる。また、負極活物質層44の密度は特に限定されないが、例えば0.8g/cm3以上、典型的には1.0g/cm3以上であって、1.5g/cm3以下、典型的には1.4g/cm3以下、例えば1.3g/cm3以下とすることができる。
【0037】
セパレータ50は、正極30と負極40とを絶縁するとともに、正極活物質層34と負極活物質層44との間で電荷担体の移動経路を提供する構成要素である。このようなセパレータ50は、典型的には上記正極活物質層34と負極活物質層44との間に配置される。セパレータ50は、非水電解液の保持機能や、所定の温度において電荷担体の移動経路を閉塞するシャットダウン機能を備えていてもよい。このようなセパレータ50は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのオレフィン系樹脂、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる微多孔性樹脂シートにより好適に構成することができる。なかでも、PEやPP等のポリオレフィン樹脂からなる微多孔性シートは、シャットダウン温度を80℃~140℃(典型的には110℃~140℃、例えば120℃~135℃)の範囲に好適に設定できるために好ましい。シャットダウン温度とは、電池が発熱した際に電池の電気化学反応を停止させる温度であり、シャットダウンは典型的にはこの温度においてセパレータ50が溶融または軟化することで発現される。かかるセパレータ50は、単一の材料から構成される単層構造であってもよく、材質や性状(例えば、平均厚みや空孔率等)の異なる2種以上の微多孔質樹脂シートが積層された構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造等)であってもよい。
【0038】
セパレータ50の厚み(平均厚みである。以下同じ。)は特に限定されないが、通常、10μm以上、典型的には15μm以上、例えば17μm以上とすることができる。また、上限については、40μm以下、典型的には30μm以下、例えば25μm以下とすることができる。基材の平均厚みが上記範囲内にあることで、電荷担体の透過性を良好に保つことができ、かつ、微小な短絡(漏れ電流)がより生じ難くなる。このため、入出力密度と安全性とを高いレベルで両立することができる。
【0039】
非水電解液としては、典型的には、非水溶媒中に電解質としての支持塩(例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩等であり、リチウムイオン電池ではリチウム塩)を溶解または分散させたものを特に制限なく用いることができる。あるいは、液状の非水電解質にポリマーが添加されてゲル状となった、いわゆるポリマー電解質や固体電解質等であってもよい。非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン電池において電解液として用いられるカーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の各種の有機溶媒を特に制限なく用いることができる。例えば、具体的には、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状カーボネートや、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)等の環状カーボネートが挙げられる。なかでも正極の酸性雰囲気で分解されて水素イオンを発生する溶媒(例えば環状カーボネート)等は一部に含むことが好ましい。このような非水溶媒は、フッ素化されていてもよい。また非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を混合溶媒として用いることができる。支持塩としては、一般的なリチウムイオン電池に用いられる各種のものを適宜選択して採用することができる。例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、Li(CF3SO2)2N、LiCF3SO3等のリチウム塩を用いることが例示される。ここに開示される技術では、過充電時の発熱を抑制する効果が得られることから、例えば、過充電時に分解されてフッ化水素(HF)を発生するフッ素を含んだリチウム化合物を支持塩として用いる場合に、本技術の効果が明瞭に発揮されるために好ましい。このような支持塩は、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。支持塩は、非水電解質における濃度が0.7mol/L~1.3mol/Lの範囲内となるように調製するとよい。
【0040】
また、非水電解質は、本発明のリチウムイオン電池の特性を損なわない限り、各種の添加剤等を含んでいても良い。かかる添加剤としては、ガス発生剤、被膜形成剤等として、電池の入出力特性の向上、サイクル特性の向上、初期充放電効率の向上等のうち、1または2以上の目的で使用され得る。かかる添加剤としては、具体的には、フルオロリン酸塩(好ましくはジフルオロリン酸塩。例えば、LiPO2F2で表されるジフルオロリン酸リチウム)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)等のオキサラト錯体化合物が挙げられる。非水電解液に対するこれらの添加剤の濃度は、通常0.1mol/L以下(典型的には0.005mol/L~0.1mol/L)とすることが適当である。
【0041】
なお、
図1に示したリチウムイオン電池1は、電池ケース10として扁平な角型電池ケースを使用している。しかしながら、電池ケース10は、非扁平の角型電池ケースや円筒型電池ケース、コイン型電池ケース等であってもよい。あるいは、リチウムイオン電池1は、金属製シート(典型的にはアルミニウムシート)と樹脂シートが張り合わされて袋状に形成されたラミネートバッグであってもよい。また例えば、電池ケースは、アルミニウム、鉄、およびこれらの金属の合金、高強度プラスチック等により形成されていてもよい。また、
図1に示したリチウムイオン電池1は、例えば、長尺の正極30と負極40とが2枚のセパレータ50で互いに絶縁された状態て積層され、捲回軸WLを中心に断面長円形に捲回された形態の、いわゆる捲回型電極体20を備えている。
図2に示されるように、正極活物質層34の幅W1と、負極活物質層44の幅W2と、セパレータの幅W3とは、W1<W2<W3の関係を満たす。なおかつ、負極活物質層44は幅方向の両端で正極活物質層34を覆い、セパレータ50は幅方向の両端で負極活物質層44を覆う。しかしながら、ここに開示されるリチウムイオン電池1の電極体20は、捲回型電極体に制限されず、例えば、複数枚の正極30と負極40とがそれぞれセパレータ50で絶縁されて積層された形態の、いわゆる平板積層型の電極体20であってもよい。あるいは、正極30と負極40がそれぞれ1枚ずつ電池ケースに収容された単セルであってもよい。
【0042】
電池ケース10は、典型的には、一面に開口を有するケース本体11と、その開口を蓋する蓋部材12とにより構成される。蓋部材12には、従来のリチウムイオン電池の電池ケースと同様に、電池ケースの内部で発生したガスを外部に排出するための安全弁や、電解液の注入を行う注液口等が備えられてもよい。また、蓋部材12には、典型的には、外部接続用の正極端子38と負極端子48とが、電池ケース10とは絶縁された状態で配設され得る。正極端子38および負極端子48は、それぞれ正極集電端子38aおよび負極集電端子48aを介して正極30および負極40と電気的に接続され、外部負荷に電力を供給できるよう構成されている。
【0043】
ここに開示されるリチウムイオン電池は各種用途に利用可能であるが、従来品に比べ、例えば、ハイレートでの繰り返し充放電時でも抵抗が抑制され、高い安全性を兼ね備えたものであり得る。また、これらの優れた電池性能と信頼性(過充電時の熱安定性等の安全性を包含する)とを高いレベルで両立可能なものであり得る。したがって、このような特徴を活かして、高エネルギー密度や高入出力密度が要求される用途、高い信頼性を要求される用途で好ましく用いることができる。かかる用途としては、例えば、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。なお、かかる二次電池は、典型的には複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態で使用され得る。
【0044】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をこれらの具体例で示すものに限定することを意図したものではない。
【0045】
[正極活物質の作製]
まず、下記の手順で各例の正極活物質を調製した。すなわち、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、およびマンガン(Mn)の酢酸塩を、Ni,Co,Mnのモル比が1:1:1となるよう水に溶解させてNiCoMn水溶液を調製した。このNiCoMn水溶液に、pHが11~14(液温25℃)の水酸化ナトリウム水溶液を加えて中和することで、ゾル状のNiCoMnの水酸化物(前駆体)を析出させた。そして、この前駆体に対し、リチウム源としての炭酸リチウム(Li2CO3)を加え、均一に混合したのち焼成することで、リチウム遷移金属酸化物からなる正極活物質を得た。なお、リチウム源の量は、リチウム量が、遷移金属の1.1モル倍と、後述の被覆部形成のためのリンの3モル倍との合計量となるようにやや過剰に調整した。正極活物質は、適宜粉砕することで、平均粒子径が約5μmの粉末状にした。
【0046】
次いで、室温(25℃)において、この正極活物質30gを、100mLの純水・キシレン(1:1)混合液に懸濁させ、イットリウム源としての硝酸イットリウム(III)六水和物(Y(NO3)3・6H2O)を所定量加えて15分間撹拌し、ろ過することで回収した。そして、ろ過後の正極活物質を再び100mLの純水に懸濁させ、リン酸二水素アンモニウム((NH4)2HPO4)を所定量加えて30分間撹拌し、ろ過、乾燥させることで、Y含有LPO被覆正極活物質を得た。
【0047】
なおこのとき、リン酸二水素アンモニウムの添加量は、正極活物質100質量部に対して、化学両論比のLi3PO4が1質量部の割合で形成されるように調整した。また、硝酸イットリウム(III)六水和物の添加量は、リン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4)の添加量1モルに対して、Yの割合が下記の表1に示すY量(モル比[y])となるように調整した。そして最後の乾燥は大気雰囲気中で実施し、下記の表1に示すように、例1~6、14では乾燥温度を400℃に、例7~13では100℃にした。また、例1~2、4~6については、イットリウム源を添加したときの撹拌時間と、リン酸源を添加したときの撹拌時間との比率を、上記の撹拌時間を基準としてそれぞれ異ならせた。また、例14では、イットリウム源を添加して室温で撹拌したのち、さらに、5℃以下の低温環境で5分間撹拌する工程を行ってからろ過するようにした。これにより、例1~14のY含有LPO被覆正極活物質を用意した。なお参考のため、イットリウム源を加えない参考例のLPO被覆正極活物質についても用意した。
【0048】
[Y含有LPO被覆正極活物質のICP分析]
各例のY含有LPO被覆正極活物質について、誘導結合プラズマ(Inductivity coupled plasma:ICP)発光分光・質量分析を行うことにより、定性および定量分析を行った。具体的には、Y含有LPO被覆正極活物質を所定量ずつ測り取り、ふっ化水素酸と硝酸との混酸に溶解させることで分析用試料を用意した。そして、以下の測定対象元素と測定質量数:Li:7、Mn:55、Co:59、Ni:60、Y:89、P:31;とについて、同定と、内標準法による定量とを行った。なお、Pの分析には発光分光法を採用した。その結果、Y含有LPO被覆正極活物質の組成と仕込み組成との間にズレがないことを確認した。
【0049】
[Y含有LPO被覆部のXRD分析]
各例のY含有LPO被覆正極活物質について、XRD分析を行うことにより、その構成相を確認した。その結果、全てのY含有LPO被覆正極活物質について、層状岩塩型の結晶構造を有するLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(NCM)に由来するピークが明瞭に検出され、これらの正極活物質はNMCが主相であることが確認された。また、NCMの他に、被覆部として、リン酸トリリチウム(Li3PO4:LPO)およびその類縁体に帰属されるピークが検出されるかどうかを確認した。そして、このようなピークが検出された場合は、被覆部が結晶質であるとして、表1の「結晶性」の欄に「結晶質」と表示し、検出されなかった場合は「非晶質」と表示した。また、NCM、LPOおよびその類縁体の他に、イットリウム源として用いた硝酸イットリウムに帰属されるピークが検出された場合は、表1の「副相」の欄に「あり」と表示し、検出されなかった場合は「なし」と表示した。
【0050】
[Y含有LPO被覆部の濃度分布]
各例のY被覆正極活物質について、走査型電子顕微鏡/エネルギー分散型X線分光(SEM-EDS)分析を行うことにより、正極活物質の表面に形成された被覆部の構成を調べた。具体的には、まず、正極活物質の一個の粒子の全体が観察視野を占めるように取得した表面SEM像について、X、Y方向(像の縦横方向)をそれぞれ10分割して100個の解析領域に区画した。そして、正極活物質粒子の表面の、リチウム(Li)、イットリウム(Y)、リン(P)、および酸素(O)のそれぞれについて定量分析を行った。その結果、正極活物質粒子の表面には、Li、Y、P、およびOが高い割合で存在していることが確認できた。また、その信号強度から、YおよびPについては、各解析領域ごとに各元素の存在割合CY、CPをそれぞれ算出した。これを、各例で20個の正極活物質粒子について行なった。
【0051】
そして、まず、Yが検出されている解析領域を被覆部部分と判断し、被覆部に対応する当該解析領域について以下の解析を進めた。すなわち、Y、およびPの全量に占める、Yの原子比Y/Pを、次式:Y/P=CY÷CP;に基づき算出し、原子比Y/Pが1以上の解析領域をYリッチ領域Aとし、原子比Y/Pが1未満の解析領域をYプア領域Bとした。そして一つの正極活物質粒子に備えられた被覆部に対応する解析領域について、Yリッチ領域Aの数NAとYプア領域Bの数NBとから、一つの正極活物質粒子における元素Yの局在比Rを次式:R=NA/(NA+NB);に基づき算出した。そして、20個の正極活物質粒子について算出した元素Yの局在比Rの算術平均値を、表1の「Y局在比」の欄に記載した。
【0052】
[評価用電池の作製]
各例のY含有LPO被覆正極活物質を用い、評価用の非水電解質二次電池を作製した。すなわち、用意した正極活物質と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、質量比が90:8:2となるようにN-メチルピロリドン(NMP)と混合し、固形分率が60質量%の正極スラリーを調製した。このスラリーを、ダイコータを用いて正極集電体としての長尺のアルミニウム箔の両面に塗布し、乾燥させたのちにプレスすることにより、シート状の正極(例1~14、および参考例)を作製した。なお、正極には、集電のため、幅方向の一方の端部に沿って正極活物質層を形成していない非塗工部を設けた。
【0053】
負極活物質としての天然黒鉛粉末と、バインダとしてのスチレンブタジエン共重合体(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、質量比が98:1:1となるようにイオン交換水と混合して、負極スラリーを調製した。このスラリーを、ダイコータを用いて負極集電体としての長尺の銅箔の両面に塗布し、乾燥させたのちにプレスすることにより、負極集電体上に負極活物質層を備えるシート状の負極を作製した。なお、負極には、集電のため、幅方向の一方の端部に沿って負極活物質層を形成していない非塗工部を設けた。
【0054】
次に、用意した正極シートと負極シートとを、2枚のセパレータを介して絶縁状態で重ねて捲回することで、捲回電極体を得た。このとき、正極の非塗工部と負極の非塗工部が幅方向の反対側に位置するように、また、正極活物質層の幅方向の両端で負極活物質層がはみだすように、正極と負極とを重ね合わせた。セパレータとしては、PP/PE/PPの三層構造の微孔性シートを用いた。用意した捲回電極体の正極非塗工部と負極非塗工部をそれぞれ電池ケースの正極端子および負極端子に接続し、非水電解液とともにケース本体に収容したのち、密閉することにより、例1~14、および参考例の評価用の非水電解質二次電池を得た。非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とをEC:DMC:EMC=1:1:1の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPF6を1mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。
【0055】
[コンディショニング、初期容量]
各例の評価用電池に対し、まず、25℃の温度環境下にて、4.2Vまで1/3Cでのレートで定電流(CC)充電したのち、電流値が1/50Cとなるまで定電圧(CV)充電を行うことで、充電状態(State of Charge:SOC)を満充電(SOC100%)とした。その後、25℃の温度環境下にて、5分間の休止時間を設け、3.0Vまで1/3CのレートでCC放電した。なお、このときのCC放電容量を初期容量とする。また、1Cとは、活物質の理論容量から予測される電池容量(Ah)を1時間で充電できる電流値を意味する。
【0056】
[低温出力抵抗]
コンディショニング後の各例の評価用電池の低温環境における出力抵抗を測定した。まず、各例の評価用電池の開放電圧を、25℃の温度環境下にて、3.70Vに調整した。そしてこれらの電池を、-10℃の温度環境下で、10Cの放電レートにて、電圧が3.00VとなるまでCC放電した。このとき、放電開始から5秒後の端子間電圧値と、放電電流値とから、IV抵抗値(5秒値)を算出した。その結果を、例1の評価用電池についての抵抗値を100として規格化し、表1の「低温抵抗特性」の欄に示した。
【0057】
[過充電特性]
コンディショニング後の各例の評価用電池の過充電時の発熱特性について評価した。まず、各例の評価用電池を、25℃の温度環境下で、SOCが150%となるまで過充電した。その後、セルを慎重に解体し、正極シートから正極活物質層を3mgと、電解液3μLとを採取し、示差走査熱量計(DSC)の試料ホルダに収容した。そして、正極活物質層および電解液を試料として、示差走査熱量測定を行なった。測定条件は、Ar雰囲気下、室温(25℃)から400℃まで、昇温速度5℃/minで加熱するものとした。そして、室温から200℃までの発熱量を積分して総発熱量を求め、その結果を、例1の評価用電池についての総発熱量を100として規格化し、表1の「過充電特性」の欄に示した。
【0058】
【0059】
[評価]
ICP分析、XRD分析、およびSEM-EDS分析の結果から、参考例、例1~6のLPO被覆正極活物質は、一般式:LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2;で表されるリチウム遷移金属酸化物粒子の表面に、基本骨格としてLi3PO4型の結晶構造を有するリン酸トリリチウム(Li3PO4)およびその類縁体(一般式:Li3YyPO4、y=0.005~3;で表されるイットリウムリチウムリン酸塩)が形成されていることがわかった。また、この表面のイットリウムリチウムリン酸塩は、被覆部として、リチウム遷移金属酸化物粒子の表面を層状に覆っていることがわかった。なお、これに対し、例7~13のY含有LPO被覆正極活物質については、XRD分析において、リン酸トリリチウムおよびその類縁体に由来するピークが見られなかった。例7~13では、上記組成のイットリウムリチウムリン酸塩が非晶質として形成されているといえる。一般に、正極活物質粒子の表面をLPOで被覆する場合、液相法を採用すると、LPOの結晶化が避けられない。しかしながら、LPOの基本骨格に正電荷をもつYを添加することにより、これらの元素が負電荷をもつリン酸基と相互作用し、一定の条件下では非晶質状態を維持できるものと考えられる。具体的には示していないが、本発明者らの検討によると、Y被覆時の熱処理温度を約300℃以下とすることで、被覆部を概ね非晶質体とすることができ、熱処理温度を約300℃以上とすることで、被覆部は概ね結晶化されることがわかった。
【0060】
参考例と例1の比較から、被覆部にYを含有させることで、Yを含有させない場合と比較して、低温抵抗特性と過充電特性との両方を大きく(例えば、約-20%)改善できることがわかった。換言すると、被覆部であるLPOにYを含有させることで、低温環境におけるハイレート出力時の抵抗を低減でき、また、過充電時の発熱を低く抑えられることがわかった。これは、イオン伝導性を示すLi3PO4の結晶構造内にYが複数存在することで、結晶の構造歪が大きくなり、LPOの有するイオン伝導性の向上に寄与したものと考えられる。また、LPOのイオン伝導体の内部にYを含むことで、過充電状態、すなわちLiが引き抜かれた状態で不安定化した正極活物質から脱離する酸素をトラップし、この酸素が電解質と反応して発熱するのを抑制するものと考えられる。
【0061】
なお、例3と例7との比較から、被覆部は結晶質であるよりも、非晶質である方が、低温抵抗特性をさらに改善できることがわかった。被覆部は、結晶質であっても上記のとおり、Yによるリン酸基との間で生じた構造的な歪によりイオン伝導度が高くなり、その結果、抵抗低減効果が得られている。しかしながら、被覆部が非晶質となることで、イオン伝導パスが基本骨格を外れて3次元的に拡大され、イオン伝導度がさらに向上し、抵抗低減効果が顕著に増大されると考えられる。
【0062】
例1~6は、被覆部におけるLPOへのY添加量を0.005で固定し、Y添加時とリン酸基添加時とで撹拌時間を変化させた例である。このように、被覆部形成時の製造条件(撹拌条件)を変化させることで、正極活物質粒子の表面におけるYの局在比R、換言すれば、Yの割合がリッチな領域Aの割合が増減することがわかった。そして、Yの局在比Rが変わることで、低温抵抗特性および過充電特性が変化することがわかった。低温抵抗特性は、被覆部におけるYの局在比Rが0.005から増大するにつれて改善されていき、Yの局在比Rが0.5のときにその改善効果は最大となることがわかった。しかしながら、Yの局在比Rが0.7にまで増えると改善効果はYの局在比が0.005のときのレベルにまで減退し、過剰なYの局在化は望ましくないことがわかった。また、過充電特性は、被覆部におけるYの局在比Rが0.005から増大するにつれて改善されていき、Yの局在比Rが0.1のときにその改善効果は最大となり、Yの局在比Rがさらに増えると改善効果が低減する傾向にあることがわかった。
【0063】
Yの割合がリッチな領域Aは、Yの割合がプアな領域Bと比較して、相対的にイオン伝導性に劣る場合がある。したがって、被覆部の面方向では領域Aと領域Bの界面でリチウムイオンとYとの親和力が大きく異なり得る。ここで、領域Aが適切な割合で存在することにより、領域Bとの界面が増大し、界面におけるイオン伝導性(活物質粒子へのイオン供給性)が高められると考えられる。しかしながら、領域Aの割合が過剰に増大すると、逆に被覆部全体のイオン伝導性が低下してしまい、抵抗低減効果が損なわれ得るといえる。また、領域Aと領域Bの界面では、カチオン性のリチウムイオンの偏りが生じ得ることから、アニオン性の酸素のトラップ性能が高まることが予想される。詳細は明らかではないが、領域Aが適切な割合で存在することにより、界面において酸素が適切にトラップされ、過充電時の発熱量を好適に低減するものと考えられる。このような著しい低温抵抗特性および過充電特性の改善効果は、これまで予想し得なかったものである。例1~6の結果から、Yの局在比Rは0.01~0.5程度とするのがより好ましいといえる。
【0064】
例7~13は、被覆部においてLPOにYのみを添加量を変化させて含有させた例である。Yの添加量が変わることで、低温抵抗特性および過充電特性も変化することがわかった。低温抵抗特性は、被覆部におけるYの含有量が0.005から増大するにつれて改善されていき、Yの含有量が1のときにその改善効果は最大となり、Yの含有量がさらに増えると改善効果が低減する傾向にあることがわかった。これは、Yの含有量が増えることによりLPOの骨格にひずみを導入する効果が生まれ、イオン導電性が改善されるものの、過剰なYの添加は却ってイオン伝導性を低下させてしまうものと考えられる。過充電特性については、被覆部におけるYの含有量が0.005から0.01に増大することで著しく改善されるものの、Yの含有量が1.5程度までは大きな変化は見られず、Yの含有量が凡そ1.5を超えると改善効果が含有量0.005のレベルにまで失われてしまうことがわかった。Yの含有量は、0.01~2程度とするのがよいことがわかる。
【0065】
例14は、正極活物質粒子の表面に、イットリウムリチウムリン酸塩からなる被覆部のほかに、イットリウム源として用いた硝酸イットリウムがそれぞれ析出されている例である。例3と例14の比較から、正極活物質粒子の表面に硝酸イットリウムが析出していることで、低温抵抗特性および過充電特性の両方が大幅に低減されることが確認された。このようなイットリウム塩による過充電時の発熱抑制のメカニズムは明らかではないが、イットリウム塩は水和しやすいことから、水和状態にあるイットリウム塩が過充電による発熱時に脱水し、脱水時の吸熱反応によって発熱量を低減しているものと推定される。このことから、正極活物質は、イットリウムリチウムリン酸塩からなる被覆部のほかに、イットリウム塩を備える形態も好ましいといえる。
【0066】
以上のことから、ここに開示される正極活物質によると、低温環境における出力抵抗が低減されて、入出力特性が大幅に改善できることが確認された。また、過充電時の発熱量を低減することができ、たとえ過充電に陥っても更なる発熱を抑制でき、安全に電気化学反応を停止できるといえる。これにより、低温出力特性の向上と、過充電安全性とが両立された非水電解質二次電池が提供される。以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0067】
1 二次電池
10 電池ケース
20 電極体
30 正極
32 正極集電体
34 正極活物質層
40 負極
42 負極集電体
44 負極活物質層
50 セパレータ