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特許7116046少ない叩解エネルギーを用いたセルロースフィラメントの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】少ない叩解エネルギーを用いたセルロースフィラメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21D 1/00 20060101AFI20220802BHJP
【FI】
D21D1/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019513901
(86)(22)【出願日】2017-09-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-31
(86)【国際出願番号】 CA2017051073
(87)【国際公開番号】W WO2018049517
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-09-07
(31)【優先権主張番号】62/394,433
(32)【優先日】2016-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507171683
【氏名又は名称】エフピーイノベイションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホア、シュジュン
(72)【発明者】
【氏名】ンジャメン チャプダ、ガイ ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】オウストン、トム
(72)【発明者】
【氏名】ノールト、パトリック
(72)【発明者】
【氏名】フー、トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ベン、ユイシア
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0017394(US,A1)
【文献】特表2016-503465(JP,A)
【文献】特表2018-517856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
20~65重量%の固形分濃度を有する高濃度セルロースパルプを準備すること;
2,000~18,000kWh/tの総比叩解エネルギー(EnergyHC)を用いて前記高濃度セルロースパルプのマルチパス高濃度叩解を行って叩解されたセルロース材料を製造すること;
前記叩解されたセルロース材料を0.1~6重量%の固形分の低濃度に希釈して低濃度セルロース材料を製造すること;及び
15~2,000kWh/tの総比叩解エネルギー(EnergyLC)を用いて前記低濃度セルロース材料の低濃度叩解を行うこと;
を含むセルロースフィラメント(CF)の製造方法であって、
前記マルチパス高濃度叩解のための前記総比叩解エネルギープラス前記低濃度叩解のための前記総比叩解エネルギーの合計(EnergyHC+EnergyLC)である合計の総比叩解エネルギー(Energy)を有する、方法。
【請求項2】
前記マルチパス高濃度叩解のための前記総比叩解エネルギー(EnergyHC)が2,000~12,000kWh/tである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マルチパス高濃度叩解のための前記総比叩解エネルギー(EnergyHC)が2,000~6,000kWh/tである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記マルチパス高濃度叩解のための濃度が25~40重量%固形分である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記低濃度叩解のための濃度が0.5~4重量%固形分である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記低濃度叩解のための前記総比叩解エネルギー(EnergyLC)が15~1,200kWh/tである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記合計の総叩解比エネルギー(Energy)で割った前記低濃度叩解のための前記総比叩解エネルギー(EnergyLC)が0.08~50%のエネルギー割合である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記エネルギー割合が1~40%である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記エネルギー割合が2~30%である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記エネルギー割合が2~20%である、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記セルロースパルプが針葉樹化学パルプである、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、少ない叩解エネルギーを用いたセルロースフィラメントの製造及び当該セルロースフィラメントの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
以前はセルロースナノフィラメント(CNF)と呼ばれていたセルロースフィラメント(CF)は、紙の製造において添加剤として使用された場合に紙の乾燥及び湿潤強度特性を増加させることをはじめとした多くの興味深い特性を有することが知られている。それらは、高濃度叩解機を使用して高レベルの比エネルギーで木材又は他の植物の繊維をマルチパス高濃度叩解することによって製造される(Hua,X.ら.High Aspect Ratio Cellulose Nanofilaments and Method for their Production.(高アスペクト比セルロースナノフィラメント及びその製造方法)米国特許第9.051,684B2号明細書、2015年;国際出願PCT/CA2012/000060号;国際公開第2012/097446A1号パンフレット、2012年)。それらは、木材パルプ繊維の機械的フィブリル化のための他の方法を用いて作製されたミクロフィブリル化セルロース(MFC)又はナノフィブリル化セルロース(NFC)などの他のセルロースのミクロ材料又はナノ材料よりも優れた強化能力を有している。これは、繊維切断を最小限に抑える特有のマルチパスかつ高濃度の製造プロセスの結果として、CFの長さが長くなり、アスペクト比が大きくなることによる。濃度は、セルロース材料と水との混合物中のセルロース材料の重量パーセントである。繊維加工における高濃度(HC)とは、典型的には20~65%の範囲の濃度を指す。高濃度叩解機は、排出濃度が20%を超える叩解機である。
【0003】
優れた強化能力を有するCFの製造は、典型的には、木材又は他の植物の繊維材料を高濃度叩解機に2~14回通過させることを含む。加えられる総比叩解エネルギーは、2,000~20,000kWh/tの範囲内である。優れた強化能力を有するCFを製造するための1つの欠点は、高いエネルギー消費量である。
【0004】
サーモメカニカルパルプ(TMP)系の紙料の強化のために、さらし針葉樹クラフトパルプ繊維のシングルパス高濃度(35%)叩解それに続くシングルパス低濃度(LC)(2%)叩解が評価されている(Sjoberg,J.C.and Hoglund,H.Proceedings to International Mechanical Pulping Conference,Minneapolis,MN,May 2007)。このようなHC叩解及びその後のLC叩解が行われたクラフトパルプ及びTMPパルプから製造された紙の引張エネルギー吸収(TEA)は、HC及びその後のLC叩解のために加えられた総エネルギー(332~398kWh/t)が参照のLC叩解のもの(84~89kWh/t)よりも有意に高かったとしても、参照のLC叩解クラフトパルプ及びTMPパルプから製造された紙に対してわずか(3~12%)な改善しか得られなかった。
【0005】
セルロース繊維のマルチパス低濃度(1~6%)叩解を使用したミクロフィブリル化セルロース(MFC)繊維の製造方法は記述されている(Suzuki,M.及びHattori,Y.国際公開第2004/009902号パンフレット;米国特許第7,381,294B2号明細書、2008年)。MFC繊維の数平均繊維長及び保水値は、それぞれ0.2mm以下及び10mL/g以上であると報告された。しかしながら、MFC繊維の強化能力は示されていなかった。
【0006】
セルロースのシングルパス高濃度(>15%)叩解/前処理、それに続くマルチパス中濃度(6~15%)、又はそれに続くマルチパス中濃度(6~15%)及びその後マルチパス低濃度(<6%)叩解を使用するミクロフィブリル化セルロース(MFC)の製造方法は記述されている(Sabourin,M.及びLuukkonen,A.米国特許第8,906,198B2号明細書、2014年)。MFCの保水値は20mL/g以上であるとされている一方で、製造されたMFCの平均繊維長も0.2mm以下であると報告されている。しかしながら、MFCの強化能力は示されていなかった。更に、この方法では、高濃度叩解/前処理に加えられるエネルギーは600kWh/t以下に制限される。
【0007】
パルプ繊維の低~中濃度(<12.5%)叩解、それに続く脱水及びその後の中~高濃度(12.5~20%)叩解を使用するMFCの製造方法が報告されている(Heiskanen,I.ら、国際公開第2014/106684A1号パンフレット)。報告された方法を使用することの目的の1つはMFC製造におけるエネルギー消費を減らすことであったものの、低~中濃度叩解又は中~高濃度叩解のものに対する、報告されている方法のエネルギーデータは提示されていなかった。この刊行物では、一定の低い濃度での一連の叩解工程は段階的に増加するエネルギーを必要とし、そのため効果的ではなく、また予備/先行の低濃度叩解なしの高濃度叩解は同様にエネルギーを消費し、効果的でないことが示唆された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本明細書の前に、600~20,000kWh/tのエネルギー入力を用いたマルチパス高濃度叩解、それに続く低濃度叩解又は低濃度非叩解機械的処理は、セルロースフィラメント(CF)、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)、又はナノフィブリル化セルロース(NFC)の製造のためには報告されていない。更に、その間にCF、MFC、又はNFCの強化能力を保持又は改善しながらも必要エネルギーを低減するための機械的方法は述べられていない。より少ないエネルギーしか用いない及び/又は優れた強化能力を有するCFの製造方法が本明細書で記述される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様によれば、木材又は他の植物の繊維のマルチパス高濃度叩解、それに続く低濃度叩解又は低濃度非叩解機械的処理を含む、セルロースフィラメントの製造方法が提供される。
【0010】
別の態様によれば、20~65重量%の固形分濃度を有する高濃度セルロースパルプを準備すること;2,000~18,000kWh/tの総比叩解エネルギー(EnergyHC)を用いて高濃度セルロースパルプのマルチパス高濃度叩解を行って叩解されたセルロース材料を製造すること;叩解されたセルロース材料を0.1~6重量%の固形分の低濃度に希釈して低濃度セルロース材料を製造すること;及び15~2,000kWh/tの総比叩解エネルギー(EnergyLC)を用いて低濃度セルロース材料の低濃度叩解を行うこと;を含むセルロースフィラメント(CF)の製造方法であって、マルチパス高濃度叩解のための総比叩解エネルギープラス低濃度叩解のための総比叩解エネルギーの合計(EnergyHC+EnergyLC)である合計の総比叩解エネルギー(Energy)を有する方法が提供される。
【0011】
別の態様によれば、マルチパス高濃度叩解のための総比叩解エネルギー(EnergyHC)が2,000~12,000kWh/tである、本明細書に記載の方法が提供される。
【0012】
別の態様によれば、マルチパス高濃度叩解のための総比叩解エネルギー(EnergyHC)が2,000~6,000kWh/tである、本明細書に記載の方法が提供される。
【0013】
別の態様によれば、マルチパス高濃度叩解のための濃度が25~40重量%固形分である、本明細書に記載の方法が提供される。
【0014】
別の態様によれば、低濃度叩解のための濃度が0.5~4重量%固形分である、本明細書に記載の方法が提供される。
【0015】
別の態様によれば、低粘濃度叩解のための総比叩解エネルギー(EnergyLC)が15~1200kWh/tである、本明細書に記載の方法が提供される。
【0016】
別の態様によれば、合計の総叩解比エネルギー(Energy)で割った低濃度叩解のための総比叩解エネルギー(EnergyLC)が、0.08~50%のエネルギー割合である、本明細書に記載の方法が提供される。
【0017】
別の態様によれば、エネルギー割合が1~40%である、本明細書に記載の方法が提供される。
【0018】
別の態様によれば、エネルギー割合が2~30%である、本明細書に記載の方法が提供される。
【0019】
別の態様によれば、エネルギー割合が2~20%である、本明細書に記載の方法が提供される。
【0020】
別の態様によれば、セルロースパルプが針葉樹化学パルプである、本明細書に記載の方法が提供される。
【0021】
別の態様によれば、20~65重量%の固形分濃度を有する高濃度セルロースパルプを準備する工程、2,000~18,000kWh/tの総比叩解エネルギー(EnergyHC)を用いる高濃度セルロースパルプのマルチパス高濃度叩解を行って叩解されたセルロース材料を製造する工程;叩解されたセルロース材料を0.1~6重量%の固形分の低濃度に希釈して低濃度セルロース材料を製造する工程;及び3,000kWh/t未満の比機械的エネルギー(EnergyMT)で非叩解装置を用いて低濃度セルロース材料を機械的に処理する工程;を含むセルロースフィラメント(CF)の製造方法が提供される。
【0022】
別の態様によれば、セルロースパルプが針葉樹化学パルプである、本明細書に記載の方法が提供される。
【0023】
別の態様によれば、機械的処理が非叩解装置内で1~30分間行われる、本明細書に記載の方法が提供される。
【0024】
別の態様によれば、非叩解装置が、ナノフィラメンター、パルパー、パルプ混合槽、撹拌機、再循環ポンプ、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、本明細書に記載の方法が提供される。
【0025】
別の態様によれば、紙、ティッシュ、板紙、又は複合材料の製造における強化添加剤としての、本明細書に記載の方法により製造されたセルロースフィラメント(CF)の使用が提供される。
【0026】
別の態様によれば、食品、コーティング、又は掘削液中の粘度調整剤としての、本明細書に記載の方法において製造されたセルロースフィラメント(CF)の使用が提供される。
【0027】
別の態様によれば、包装用途及び複合材料用途のためのフィルムを形成するための、本明細書に記載の方法において製造されたセルロースフィラメント(CF)の使用が提供される。
【0028】
以降で添付の図面を参照して、本明細書に記載の特定の実施形態を説明のために示す。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】それぞれ、参照のNBSKパルプのマルチパス高濃度叩解を使用する1組のCFを製造するため、及びNBSKパルプのマルチパス高濃度叩解それに続く低濃度叩解を使用する2組のCFを製造するために必要とされる総比叩解エネルギーに対するCFフィルム(20g/m)の比引張強さのプロットである。
図2】それぞれ、参照のNBSKパルプのマルチパス高濃度叩解を使用する1組のCFを製造するため、及びNBSKパルプのマルチパス高濃度叩解それに続く低濃度叩解を使用する2組のCFを製造するために必要とされる総比叩解エネルギーに対するCFフィルム(20g/m)の比引張エネルギー吸収量(TEA)のプロットである。
図3】それぞれ、参照のNBSKパルプのマルチパス高濃度叩解を使用する1組のCFを製造するため、及びNBSKパルプのマルチパス高濃度叩解それに続く低濃度叩解を使用する1組のCFを製造するために必要とされる総比叩解エネルギーに対する、90重量%のHWKパルプと10重量%のCFとから作製された手すき紙(60g/m)の比引張強さのプロットである。
図4】それぞれ、参照のNBSKパルプのマルチパス高濃度叩解を使用する1組のCFを製造するため、及びNBSKパルプのマルチパス高濃度叩解それに続く低濃度叩解を使用する1組のCFを製造するために必要とされる総比叩解エネルギーに対する、90重量%のHWKパルプと10重量%のCFとから作製された手すき紙(60g/m)の比引張エネルギー吸収量(TEA)のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
機械的処理方法によるセルロースフィラメント(CF)、又はミクロフィブリル化セルロース(MFC)などのフィブリル化セルロースの製造のためには、エネルギーが主要なコストを占める。CFの、又はMFCなどのフィブリル化セルロースの強化能力を維持又は更には改善しながらも前記製造のためのエネルギー消費を低減することは、紙、ティッシュ、板紙、及び複合製品の製造における強化添加剤としての、あるいは食品、コーティング、及び掘削泥などの製品における粘度調整剤やレオロジー調整剤としての、CF又はフィブリル化セルロースのより広範な使用を可能にする。
【0031】
木材又は他の植物の繊維を薬剤又は酵素で前処理することにより、MFCの製造におけるエネルギー消費を有意に低減できることが報告されている(Sirond Plackett,D.,“Microfibrillated cellulose and new nanocomposite materials;a review”(「ミクロフィブリル化セルロース及び新しいナノ複合材料;総説」)Cellulose,17:459-494,2010)。しかしながら、薬剤又は酵素の使用は、MFCの収率を低下させ、単位操作及び排水処理の観点から製造工程を複雑にすることになる。MFCを製造するために、木材パルプ繊維の<600kWh/tのエネルギー入力でのシングルパス高濃度叩解と、それに続くマルチパス中濃度及び/又はマルチパス低濃度叩解が使用されてきたものの、シングルパス高濃度叩解とマルチパス中濃度及び/又はマルチパス低濃度叩解との組み合わせからは、例えばマルチパス高濃度叩解を超えるエネルギーの低減は報告されていない。パルプ繊維の低~中濃度(<12.5%)叩解と、それに続く脱水、及びその後の中~高濃度(12.5~20%)叩解が、目的の1つがエネルギー消費量の低減であるMFCを製造するために主張されているものの、エネルギー低減データが提示されていない。更に、CFの、又はMFCなどのフィブリル化セルロースの製造におけるエネルギー必要量を低減するため又は強化能力を改善するために、非叩解機械的処理は使用されていないか報告されていない。
【0032】
予期しなかったことには、特定の総比叩解エネルギーを用いて木材又は他の植物の繊維をマルチパス高濃度叩解し、引き続き低濃度叩解を行うと、セルロースフィラメント(CF)の強化能力を保持又は改善しながらも、セルロースフィラメント(CF)の製造に必要な総比叩解エネルギーが有意に減少することが見出された。また、マルチパス高濃度叩解に使用される総比叩解エネルギー(EnergyHCと略される)及び低濃度叩解に使用される総比叩解エネルギー(EnergyLCと略される)に対する、低濃度叩解(EnergyLC)に使用される総比叩解エネルギーの最適な割合の範囲が存在することも見出された。そのような「EnergyLC/(EnergyHC+EnergyLC)」の最適な割合の範囲は、とりわけ、マルチパス高濃度叩解(EnergyHC)に使用される総比叩解エネルギーに依存することが見出された。EnergyHC+EnergyLCの合計も、Energyと略されるか、本明細書中に記載の合計の総比叩解エネルギーと呼ばれる。
【0033】
これも予期しなかったことには、木材又は他の植物の繊維を特定の総比叩解エネルギーを用いてマルチパス高濃度叩解し、引き続き非叩解機械的処理を行うと、セルロースフィラメント(CF)の強化能力を保持又は改善しながらも、セルロースフィラメント(CF)の製造に必要な総比叩解エネルギーが減少することが見出された。
【0034】
木材又は他の植物の繊維のマルチパス高濃度叩解と、それに続く低濃度叩解又は非叩解機械的処理によりCFの強化能力を保持又は更には改善しながらも、セルロースフィラメント(CF)の製造に必要とされる総比叩解エネルギーを予想外かつ有意に減少させることは、おそらく高濃度叩解中のごく一部のもつれた又は絡み合ったCFの形成、及び低濃度叩解又は非叩解機械的処理の、もつれた又は絡み合ったCFを解くための高濃度叩解に勝る予想外かつ優れた能力によるものであろう。もつれた又は絡み合ったCFを解くことは、十分に分離されたセルロースフィラメントをもたらし、結果として製造されるCFの表面積、結合能力、及び強化能力を増加させることになる。
【0035】
一態様によれば、木材又は他の植物の繊維のマルチパス高濃度叩解と、それに続く低濃度叩解又は非叩解機械的処理は、セルロースフィラメント(CF)の強化能力を保持又は改善しながらも、セルロースフィラメント(CF)の製造のための総比叩解エネルギーを低減する。
【0036】
別の態様によれば、マルチパス高濃度叩解のための総比叩解エネルギーは、好ましくは2,000~18,000kWh/t、より好ましくは2,000~12,000kWh/tである。
【0037】
また別の態様によれば、低濃度叩解のための総比叩解エネルギーは、好ましくは15~2,000kWh/t、より好ましくは15~1200kWh/tである。
【0038】
更にまた別の態様によれば、前記マルチパス高濃度叩解と、それに続く低濃度叩解のための総比叩解エネルギーに対する、低濃度叩解のための総比叩解エネルギーの割合は、好ましくは0.08~50%、より好ましくは1~40%、最も好ましくは2~30%である。
【0039】
更に別の態様によれば、非叩解機械的処理は、叩解機以外の装置において0.1~6%の濃度で1~30分間行われる。
【0040】
更に別の態様によれば、非叩解機械的処理は、カナダ特許出願公開第2799123A1号明細書に記載のセルロースナノフィラメンターにおいて0.1~6%の濃度で1~30分間行われる。
【0041】
もう1つの態様によれば、本明細書に記載のセルロースフィラメント(CF)は、紙、ティッシュ、及び板紙などのセルロース繊維製品を強化するための、又はプラスチック、熱硬化性樹脂、又は他の材料で作られた複合材料を強化するための添加剤として使用される。
【0042】
更にもう1つの態様によれば、本明細書に記載のセルロースフィラメント(CF)は、食品、コーティング、又は掘削泥などの製品における粘度調整剤又はレオロジー調整剤として使用される。
【0043】
また更にもう1つの態様によれば、本明細書に記載のセルロースフィラメント(CF)は、CF材料の貯蔵及び/又は輸送のために抄紙機上に乾燥CFフィルムを形成するために使用される。
【0044】
CFフィルムは、複合材料の製造及び包装又は他の用途のための頑丈でリサイクル可能なフィルムとして使用することもできる。
【0045】
本明細書に記載の方法に従って製造されたセルロースフィラメント(CF)は、国際公開第2012/097446A1号パンフレットに記載のセルロースナノフィラメント(CNF)と呼ばれるCFよりも少ない総比叩解エネルギーを必要とするが、国際公開第2012/097446A1号パンフレットに記載のものと同じ強化能力を有し、あるいは好ましい実施形態においては、国際公開第2012/097446A1号パンフレットに記載のものよりも大きい強化能力を有する。好ましい実施形態において本明細書に記載の方法に従って製造されるCFは、少なくとも200のアスペクト比及び約30~500nmの直径を有する。これは、他の機械的叩解及び/又は離解方法を用いて調製されたミクロフィブリル化セルロース(MFC)のような他のフィブリル化セルロースとは構造的に大きく異なる。
【0046】
本明細書に記載の方法に従って製造されたCFの強化能力又は粘度調整能力は、とりわけ、木材又は他の植物の繊維の起源、マルチパス高濃度叩解のための叩解機の種類、サイズ、構成、及び運転条件、並びにパスの回数、並びにエネルギー入力に依存する。これは、その後の低濃度叩解のための叩解機の種類、サイズ、構成及び運転条件、並びにエネルギー入力、又は、後続の非叩解機械的処理の装置構成及び運転条件(混合速度や時間等)にも依存する。
【0047】
本明細書に記載の叩解機は、木材又は他の植物の繊維の高濃度又は低濃度の叩解に適した、当業者に公知の任意の種類、サイズ、及び構成の叩解機であってもよい。それらとしては、限定するものではないが、シングルディスク叩解機、ダブルディスク叩解機、コニカル叩解機、Conflo叩解機が挙げられる。本明細書に記載のセルロースフィラメント(CF)を製造するために、木材又は他の植物の繊維のマルチパス高濃度叩解、及び低濃度叩解のそれぞれに、任意の種類、サイズ、及び構成の単一の叩解機又は一連の叩解機を使用することができる。
【0048】
本明細書に記載の非叩解機械的処理は、叩解機ではないが、木材又は他の植物の繊維の機械的処理に適した当業者に公知の任意の装置で行うことができる。
【0049】
「非叩解機械的処理」という表現は、叩解機ではない装置における任意の機械的処理を説明するために本明細書において定義される。好ましい実施形態においては、非叩解装置は、ナノフィラメンター、パルパー、パルプ混合槽、撹拌機、再循環ポンプ、及びこれらの組み合わせである。
【0050】
濃度は、本明細書では、水と、木材若しくは他の植物の繊維又はセルロースフィラメント(CF)などの固形分との混合物中の、木材若しくは他の植物の繊維又はセルロースフィラメント(CF)などの固形分の重量(wt)割合として定義される。
【0051】
高濃度は、本明細書では、20~65重量%固形分の濃度として定義され、例えば、30重量%固形分の濃度は、30%の濃度と略される場合もある。
【0052】
低濃度は、本明細書では、0.1~6重量%固形分の濃度として定義され、例えば、2重量%固形分の濃度は、2%の濃度と略される場合もある。
【0053】
高濃度叩解と、それに続く低濃度叩解のための総比叩解エネルギーに対する、低濃度叩解のための総比叩解エネルギーの割合は、本明細書では[EnergyLC/(EnergyHC+EnergyLC)]x100%として定義及び計算され、式中のEnergyLCは低濃度叩解に使用される総比叩解エネルギーであり、EnergyHCは高濃度叩解に使用される総比叩解エネルギーである。
【0054】
坪量は、本明細書では、セルロースフィラメント(CF)のフィルム又はパルプ繊維及びCFのシートの、前記フィルム又はシートの1平方メートル(m)当たりのグラム(g)単位での重量として定義される。
【0055】
本明細書に記載のオーブン乾燥(od)基準の重量は、水の重量を除いた重量を指す。CFなどの湿った材料については、これはその濃度から計算される材料の水分を含まない重量である。
【0056】
本明細書に記載のセルロースフィラメント(CF)の製造方法は、限定するものではないが、以下の例によって説明される。
【実施例
【0057】
基本手順A:北部さらし針葉樹クラフト(NBSK)パルプのマルチパス高濃度叩解によるセルロースフィラメント(CF)
別段の規定がない限り、NBSKパルプを30%の濃度及び800~12,000kWh/tの総比叩解エネルギーで叩解することにより、国際公開第2012/097446A1号パンフレットに記載の方法に基づいて、NBSKパルプのマルチパス高濃度叩解によってCFの試料を製造した。
【0058】
基本手順B:NBSKのマルチパス高濃度叩解と、それに続く低濃度叩解によるCF
別段の規定がない限り、800~12,000kWh/tの比叩解エネルギーでのNBSKパルプのマルチパス高濃度叩解からのCF試料を基本手順Aに従って製造し、これを更に再循環あり又はなしでフィラメントの発達レベルに達するまで1つの単一の低濃度(LC)叩解機又は一連のLC叩解機の中で叩解した。目標の特性を達成するために使用される叩解パスの数及び総比叩解エネルギーは、高濃度叩解段階でCFの初期発達に使用される総比叩解エネルギー、叩解機の種類(例えばコニカル又はシングル若しくはダブルディスク叩解機)、LC叩解機フィリング又はプレート(例えば材料、パターン、及び磨耗)、並びに叩解条件(濃度、1パス当たりの比叩解エネルギー、及びLC叩解機の叩解強度等)に依存する。
【0059】
基本手順C:CFのラボ分散
別段の規定がない限り、基本手順A又はBに従って製造された24g(od基準)のCFを、英国式離解機の中で既知量の脱イオン水(DI HO)を用いて1.2%濃度に希釈した。CFスラリーを80℃の温度で15分間3000rpmで混合した。
【0060】
基本手順D:NBSKのマルチパス高濃度叩解と、それに続く低濃度非叩解機械的処理によるCF
別段の規定がない限り、800~12,000kWh/tの比叩解エネルギーでのNBSKパルプのマルチパス高濃度叩解によるCFの試料を基本手順Aに従って製造し、これをカナダ特許出願公開第2799123A1号明細書に記載の通りにセルロースナノフィラメンターの中で2%の濃度で2~30分間機械的に処理した。
【0061】
基本手順E:標準型手すき機でのCFフィルムの作製
次の通りの修正したPAPTAC試験法、規格C.5を使用して、0.02mのサイズの丸いCFフィルムを作製した。別段の規定がない限り、基本手順A又はB及び基本手順Cに従って、あるいは基本手順A及び基本手順Dに従って調製された0.4g(od基準)のCFを、DI HOで希釈して0.05%の濃度のCFスラリーを得た。テフロン(登録商標)スプーンを使用して分散液を標準型手すき機の中に移した。標準型手すき機内の分散液を、テフロン(登録商標)棒を使用してデッケル(すなわち取り外し可能な金属フレーム)を横切るように前後に穏やかに攪拌し、次いで静置した。その後、標準型手すき機の排水バルブを解放して排水させ、水がデッケルから排出されてCFフィルムがスチールメッシュの上に形成されたときに排水バルブを閉じた。
【0062】
デッケルを開き、1枚のWhatman#1濾紙(直径185mm)を湿ったCFフィルムの上に置いた。2枚の吸取紙を濾紙の上に置き、クーチプレート及びクーチロールを使用してクーチングを行った。15回前後に横断させた後、クーチプレート及び2枚の吸取紙を注意深く取り除いた。その後、CFフィルムが貼り付いている濾紙をスチールメッシュからゆっくり剥がした。
【0063】
鏡面研磨されたステンレス鋼製プレートをCFフィルム側に置いた。その後、PAPTAC試験方法、規格C.5に記載のプレス手順に従ってCFフィルムのプレスを行った。1回目及び2回目のプレスをそれぞれ5分間及び2分間行った。
【0064】
プレス後、濾紙とステンレス鋼板の間に挟まれたCFフィルムを乾燥リングの中に入れ、恒温恒湿(23℃及び相対湿度50%)の室内で一晩乾燥させた。その後、約20g/mのCFの坪量を有するフィルムを、濾紙と共に鋼製プレートから剥がした。フィルムをできるだけ平らに保ちながらフィルムから濾紙を剥がすことによってフィルムと濾紙を分離した。フィルムの比引張強さ及び比引張エネルギー吸収量(TEA)は、PAPTAC試験法、規格D.34に従って決定した。
【0065】
基本手順F:広葉樹クラフトパルプとCF製品との混合物からの手すき紙の作製
別段の規定がない限り、ドライラップ形態の完全さらし広葉樹クラフト(HWK)パルプを最初にDI HOと混合し、8%の濃度、400rpm、及び23℃で2分間、ヘリカルパルパーの中でリパルプ/離解させた。次いで、リパルプしたHWKパルプを、基本手順A(又はB)及び基本手順Cに従って、あるいは基本手順A及び基本手順Dに従って調製したCF分散液の試料と、90/10又は95/5(HWKパルプ/CF)の重量(od基準)比で混合してからDI HOと混合することで濃度0.33%のパルプとCFとの混合物のスラリーを得た。手すき紙(60g/m)を、PAPTAC試験法、規格C.4に従って作製した。シートの比引張強さ及び比引張エネルギー吸収量(TEA)は、PAPTAC試験法、規格D.34に従って決定した。別の実験で、100%のHWKパルプからの手すき紙(60g/m)も作製し、それらの比引張強さ及び比TEAを測定した。
【0066】
実施例1
1組のセルロースフィラメント(CF)を、基本手順Aに従って、それぞれ2000、3387、6458、及び7500(kWh/t)の総比叩解エネルギーでのマルチパス高濃度(30%)叩解によってNBSKパルプから製造した。CFの試料を基本手順Cに従ってラボで分散させた。このCFはCF(HC、参照)と呼ばれる。
【0067】
1組のCFを、基本手順Aに従う2000kWh/tの総比叩解エネルギーでのマルチパス高濃度(30%)叩解、及びそれに続く基本手順Bに従う232~435kWh/tの総比叩解エネルギーでの低濃度Conflo叩解機中での低濃度(3.2~3.6%)叩解によってNBSKパルプから製造した。CFの試料を基本手順Cに従ってラボで分散させた。このCFはCF(HC2000kWh/t+LC)と呼ばれる。
【0068】
1組のCFを、基本手順Aに従う3387kWh/tの総比叩解エネルギーでのマルチパス高濃度(30%)叩解、及びそれに続く基本手順Bに従う80~357kWh/tの総比叩解エネルギーでの低濃度Conflo叩解機中での低濃度(2.5~3.1%)叩解によってNBSKパルプから製造した。CFの試料を基本手順Cに従ってラボで分散させた。このCFはCF(HC3387kWh/t+LC)と呼ばれる。
【0069】
CF(HC、参照)、CF(HC2000kWh/t+LC)、及びCF(HC3387kWh/t+LC)からのCFフィルム(20g/m)をそれぞれ作製し、基本手順Eに従ってフィルムの比引張強さ及び比TEAを測定した。表1には、それぞれNBSKのマルチパス高濃度(HC)叩解を使用する、及びマルチパスHC叩解と、それに続く低濃度(LC)叩解を使用する、CFの製造のために加えられた総比叩解エネルギー、「HC+LC」叩解(EnergyHC+EnergyLC)に対するLC叩解(EnergyLC)の総比叩解エネルギーの割合、CFフィルム(20g/m)の比引張強さ及び比TEA、並びにHC叩解だけを使用したものに対する「HC+LC」叩解を使用したものの比引張強さの増加率及び比TEAの変化が列挙されている。データは、マルチパスHC叩解を行い、例えば2000又は3387kWh/tの総比叩解エネルギーの際に停止し、引き続きEnergyLC/(EnergyHC+EnergyLC)≧5.9%でLC叩解を行うと、CFフィルムの比引張強さ又は比TEAが保持又は改善されながらも総比叩解エネルギーが有意に減少することを示している。例えば、3387kWh/tの総比叩解エネルギーでの単純なマルチパス高濃度叩解を用いて製造されたCFフィルムの比引張強さが77.22N・m/gなのに対し、2289kWh/tの総比叩解エネルギーでのマルチパス高濃度叩解と、それに続く低濃度叩解を用いて製造されたCFのフィルムの比引張強さは90.06N・m/gである。前記マルチパス高濃度叩解と、それに続く低濃度叩解のための2289kWh/tの総比叩解エネルギーのうち、2000kWh/tの総比叩解エネルギーはマルチパス高濃度叩解用であり、289kWh/tの総比叩解エネルギーは低濃度叩解用のものであった。図1及び図2は、NBSKパルプの参照のマルチパス高濃度叩解を使用して1組のCFを製造するために、及びNBSKパルプのマルチパス高濃度叩解と、それに続く低濃度叩解を使用して2組のCFを製造するために、必要とされる総比叩解エネルギーに対する、CFフィルム(20g/m)のそれぞれ比引張強さ及び比TEAのプロットである。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
実施例2
さらし広葉樹クラフト(HWK)パルプ及び実施例1からのCF(HC、参照)から、90/10の重量(od基準)比のHWK/CFで手すき紙(60g/m)を作製し、基本手順Fに従って手すき紙の比引張強さ及び比TEAを測定した。
【0073】
同じHWK及び実施例1からのCF(HC2000kWh/t+LC)からも、90/10の重量(od基準)比のHWK/CFで手すき紙(60g/m)を作製し、基本手順Fに従って手すき紙の比引張強さ及び比TEAを測定した。
【0074】
同じHWK及び実施例1からのCF(HC3387kWh/t+LC)からも、90/10の重量(od基準)比のHWK/CFで手すき紙(60g/m)を作製し、基本手順Fに従って手すき紙の比引張強さ及び比TEAを測定した。
【0075】
別の実験で、100%のHWK(CFなし)からも手すき紙(60g/m)を作製し、基本手順Fに従って手すき紙の比引張強さ及び比TEAを測定した。
【0076】
表2には、NBSKのマルチパス高濃度(HC)叩解を使用する、及びマルチパスHC叩解と、それに続く低濃度(LC)叩解を使用する、CFの製造のためにそれぞれ必要とされる総比叩解エネルギー、「HC+LC」叩解のもの(EnergyHC+EnergyLC)に対するLC叩解の総比叩解エネルギー(EnergyLC)の割合、HWK及びCFから製造された手すき紙(60g/m)の比引張強さ及び比TEA、並びにHC叩解だけを使用したものに対する「HC+LC」叩解を使用したものの比引張強さの増加率及び比TEAの変化が列挙されている。データは、マルチパスHC叩解を行い、例えば2000又は3387kWh/tの総比叩解エネルギーの際に停止し、引き続きEnergyLC/(EnergyHC+EnergyLC)が2~18%の範囲又は好ましくは4~18%の範囲でLC叩解を行うと、10/90のCF/HWK重量比でHWKパルプのためのCFの強化能力が改善されながらも総比叩解エネルギーが有意に減少することを示している。100%HWKパルプ(CFなし)から製造された手すき紙の比引張強さ及び比TEAはそれぞれ19.9N・m/g及び163mJ/gであった。例えば3387kWh/tの総比叩解エネルギーでマルチパス高濃度叩解を使用して製造されたCF10%をHWKパルプ紙料へ添加すると、手すき紙の比引張強さ及び比TEAがそれぞれ30.04N・m/g及び398mJ/gに増加した。注目すべきことには、例えばわずか2289kWh/tの総比叩解エネルギー(EnergyHC+EnergyLC)でマルチパス高濃度叩解と、それに続く低濃度叩解を使用して製造されたCF10%を同じHWKパルプ紙料へ添加すると、手すき紙の比引張強さ及び比TEAは、それぞれ33.01N・m/g及び471mJ/gへと増加した。図3及び4は、NBSKパルプの参照のマルチパス高濃度叩解を使用して1組のCFを製造するために、及びNBSKパルプのマルチパス高濃度叩解と、それに続く低濃度叩解を使用して1組のCFを製造するために、必要とされる総比叩解エネルギーに対する、HWKパルプ及びCFからの手すき紙(60g/m)のそれぞれの比引張強さ及び比TEAのプロットである。
【0077】
【表3】
【0078】
【表4】
【0079】
実施例3
CFを、基本手順Aに従って、8298kWh/tの総比叩解エネルギーでのマルチパス高濃度(30%)叩解によってNBSKパルプから製造した。CFの試料を基本手順Cに従ってラボで分散させ、その後、CFフィルム(20g/m)を作製し、その比TEAを基本手順Eに従って測定した。
【0080】
基本手順Aに従って8298kWh/hの総比叩解エネルギーでマルチパス高濃度(30%)叩解によってNBSKパルプから製造したCFの試料に対して、基本手順Dに従って、2%の濃度で様々な時間(2~30分間)、低濃度非叩解機械的処理を行った。その後、CFフィルム(20g/m)を作製し、その比TEAを基本手順Eに従って測定した。
【0081】
表3には、それぞれNBSKパルプのマルチパス高濃度叩解を使用して製造された、及びNBSKパルプのマルチパスHC叩解と、それに続く様々な時間での低濃度非叩解機械的処理を使用して製造された、CFのフィルムの比TEAが列挙されている。データは、CFフィルムの比TEAが、マルチパス高濃度叩解だけを使用して製造されたCFでよりも、マルチパス高濃度叩解と、それに続く低濃度非叩解機械的処理を使用して製造されたCFで有意に大きいことを示している。例えば、前記マルチパス高濃度叩解と、それに続く5分間の前記低濃度非叩解機械的処理を使用して製造されたCFのフィルムの比TEAは3075mJ/gであり、これは前記マルチパス高濃度叩解だけを使用して製造されたCFについての2666mJ/gよりも約15%大きかった。
【0082】
【表5】
【0083】
実施例4
さらし広葉樹クラフト(HWK)パルプ及び実施例3からのCFの試料から、95/5の重量(od基準)比のHWK/CFで手すき紙(60g/m)をそれぞれ作製し、基本手順Fに従って手すき紙の比TEAを測定した。
【0084】
表4には、HWKパルプと、それぞれNBSKパルプのマルチパス高濃度叩解を使用して製造されたCF及びNBSKパルプのマルチパス高濃度叩解と、それに続く様々な時間での低濃度非叩解機械的処理を使用して製造されたCFとから製造された手すき紙の比TEAが列挙されている。データは、マルチパス高濃度叩解と、それに続く低濃度非叩解機械的処理を使用して製造されたCFで強化された手すき紙の比TEAが、マルチパス高濃度叩解のみを使用して製造されたCFで強化された手すき紙よりもはるかに大きいことを示している。例えば、前記マルチパス高濃度叩解と、それに続く15分間の前記低濃度非叩解機械的処理を使用して製造されたCFで強化された手すき紙の比TEAは474mJ/gであり、前記マルチパス高濃度叩解のみを使用して製造されたCFで強化された手すき紙についての316mJ/gよりも50%大きかった。
【0085】
【表6】
【0086】
実施例5
CFを、基本手順Aに従って、8150kWh/tの総比叩解エネルギーでマルチパス高濃度(30%)叩解によってNBSKパルプから製造した。CFの試料を基本手順Cに従ってラボで分散させた。このCFはCF(HC8150kWh/t)と呼ばれる。
【0087】
基本手順Aに従って、8150kWh/tの総比叩解エネルギーでマルチパス高濃度(30%)叩解によってNBSKパルプから製造したCFに対して、基本手順Bに従って、40~200kWh/tの様々な総比叩解エネルギーでコニカル叩解機の中で低濃度(3%)叩解を行った。この一連のCFはCF(HC8150kWh/t+LC)と呼ばれる。
【0088】
95/5の重量(od基準)比のHWK/CFで混合された、上記のCF及びさらし広葉樹クラフト(HWK)パルプから手すき紙(60g/m)を作製し、基本手順Fに従って手すき紙の比引張強さ及び比TEAを測定した。
【0089】
表5には、それぞれNBSKのマルチパス高濃度(HC)叩解を使用するCFの製造、及びマルチパスHC叩解と、それに続く低濃度(LC)叩解を使用するCFの製造に必要とされる総比叩解エネルギー、「HC+LC」叩解のもの(EnergyHC+EnergyLC)に対するLC叩解の総比叩解エネルギー(EnergyLC)の割合、HWK及びCFから製造された手すき紙(60g/m)の比引張強さ及び比TEA、並びにHC叩解だけを使用したものに対する「HC+LC」叩解を使用したものの比引張強さの増加率及び比TEAの変化が列挙されている。データは、マルチパス高濃度叩解と、それに続くEnergyLC/(EnergyHC+EnergyLC)が0.47~2.39%の範囲での低濃度LC叩解を使用して製造されたCFで強化された手すき紙の比引張強さ及び比TEAが、マルチパス高濃度叩解だけを使用して製造されたCFで強化された手すき紙のものよりも有意に多いことを示している。100%HWKパルプ(CFなし)から製造された手すき紙の比引張強さ及び比TEAはそれぞれ19.8N・m/g及び143mJ/gであった。8150kWh/tの総比叩解エネルギーで高濃度叩解のみを使用して製造されたCF5%をHWKパルプ紙料に添加すると、手すき紙の比引張強さ及び比TEAがそれぞれ26.5N.m/g及び330mJ/gに増加した。注目すべきことに、マルチパス高濃度叩解と、それに続く例えばわずか39kWh/tの総比叩解エネルギー(EnergyLC)での低濃度叩解を使用して製造されたCF5%を同じHWKパルプ紙料に添加すると、手すき紙の比引張強さ及び比TEAは更にそれぞれ27.7N・m/g及び387mJ/gへと増加した。LC叩解で使用された総比叩解エネルギーが78kWh/tであり、EnergyLC/(EnergyHC+EnergyLC)が0.95%である場合、手すき紙の比引張強さ及び比TEAは更に28.2N.m/g及び399mJ/gに改善された。これは、高濃度叩解のみを用いて製造されたCFを使用することにより得られたものと比較して、CFの強化能力においてそれぞれ6.7%及び20.8%の増加であった。表2のデータによれば、CFを高濃度叩解のみで製造する場合、本明細書の実施例5に示したようなマルチパス高濃度叩解と、それに続く低濃度叩解のために78kWh/tのみを使用した低濃度叩解によって得られるものと同様の水準の改善(比引張強さにおける10.6%の増加及び比TEAにおける16.4%の増加)をCF強化能力において得るためには、叩解エネルギーは6458から7500kWh/tまで増加させなければならず、これは1000kWh/tを超える増加であった。
【0090】
【表7】

図1
図2
図3
図4