(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】ミクロフィブリル化セルロースを含むフィルムの製造方法、フィルム及び紙製品又は板紙製品
(51)【国際特許分類】
D21H 11/18 20060101AFI20220802BHJP
D21H 15/02 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
D21H11/18
D21H15/02
(21)【出願番号】P 2019516498
(86)(22)【出願日】2017-09-27
(86)【国際出願番号】 IB2017055880
(87)【国際公開番号】W WO2018060868
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-08-28
(32)【優先日】2016-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501239516
【氏名又は名称】ストラ エンソ オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ピーコ、リク
(72)【発明者】
【氏名】クンナリ、ヴェサ
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-202101(JP,A)
【文献】特開2011-132501(JP,A)
【文献】特開2007-231438(JP,A)
【文献】特開2006-245550(JP,A)
【文献】Cellulose (2009), Vol.16, p.75-85,2009年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/18
D21H 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、ミクロフィブリル化セルロースを含むフィルムの製造方法:
- 全乾燥重量に基づいて70重量%から100重量%のミクロフィブリル化セルロースを含む懸濁液を提供する工程、
- 前記懸濁液の繊維ウェブを形成する工程、
- 前記ウェブを乾燥装置にて乾燥させ、ここで前記ウェブを熱風を使用することによって75kg(H
2O)/m
2/hを超える乾燥速度で少なくとも部分的に乾燥させ、これによってフィルムを形成する工程、
ただし、前記熱風の空気は、100~350℃の温度を有し、20~100m/sの速度で送風され、
前記フィルムは、乾燥後にASTM D-3985に従って400cc/m
2/24h未満の酸素透過率(OTR)値(23℃、50%RH)を有する
;
ただし、前記ウェブは、支持体に適用され、その後、前記支持体上で前記乾燥装置を通して送られ、前記支持体は金属ベルトである。
【請求項2】
ウェブが支持体に適用される前に、前記支持体が60~150℃の温度に加熱される、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
繊維ウェブが懸濁液を基材上に加えることによって形成され、前記基材は紙基材、板紙基材、ポリマー基材又は金属基材である、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
繊維ウェブが懸濁液を前記基材上にキャスティングすることによって形成される、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
繊維ウェブが懸濁液をワイヤ上に供することによって形成される、請求項1~
3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
乾燥装置でのウェブの乾燥前及び/又は乾燥中に繊維ウェブに圧力が加え
られる、請求項1~
5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
繊維ウェブが乾燥装置にて乾燥される前に10~40重量%の乾燥含量を有する、請求項1~
6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
懸濁液のミクロフィブリル化セルロースが90を超えるShopper-Riegler(SR)値を有する、請求項1~
7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
乾燥装置が衝突乾燥装置である、請求項1~
8のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミクロフィブリル化セルロースを含むフィルムの製造方法、該方法に従って製造されたミクロフィブリル化フィルム及び紙製品又は板紙製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ミクロフィブリル化セルロース(MFC)を含むフィルムは、良好な強度及び酸素バリア特性を有することが知られている。これは、例えば、Syverud、“Strength and barrier properties of MFC films”、Cellulose 2009 16:75-85に記載されており、そこでは、15から30gsmの間の坪量を有するMFCフィルムが製造され、その強度及びバリア特性が調べられた。
【0003】
MFCフィルムの製造中に高速で脱水してフィルムを製造するのは、ミクロフィブリル化セルロースの特徴的な特性のために、容易ではない。また、MFCフィルムを、例えばバリアとして使用する場合、バリア特性に悪影響を及ぼし得るピンホール又は他の欠陥がフィルムにないことが極めて重要である。従って、MFCフィルムの表面が平滑であることが重要である。
【0004】
MFCフィルムの製造に、湿式(wet laid)技術(即ちワイヤ上で前記MFCを含む完成紙料(furnish)を脱水すること)を使用することができる。この方法には、フィルムの表面上に、バリア特性及びフィルムの光沢又は半透明性等の光学的特性に悪影響を与えるワイヤマークが付くという欠点がある。その後、フィルムを湿式プレスにかけるが、これによっても、フィルムの表面が粗い構造になると共に、この技術には乾燥中にフィルムが収縮するという重大な問題がある。表面を平滑にするために、2つ又は幾つかの硬いニップを使用する従来のカレンダー加工によって、製造後にMFCフィルムをカレンダー加工することもまた、MFCフィルムが高密度であるために困難であることが示されている。
【0005】
フィルムキャスティング法を使用すること(即ちフィルムをプラスチック表面上にキャスティングし、次にフィルムをゆっくりと乾燥させること)によってもまた、平滑なMFCフィルムを作製することが可能である。キャスティング法によって、良好なバリア特性を有する非常に平滑な表面を有するMFCフィルムが得られることが示されている。しかしながら、この方法は、商業的規模での製造には遅過ぎて、非効率的である。
従って、高い平滑性及び改善されたバリア特性を有するMFCフィルムを作製する新しい方法が必要である。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、フィルムのバリア特性に悪影響を及ぼすことなく、更に、先行技術の方法の欠点の少なくとも幾つかを除去又は緩和する効率的な方法で、ミクロフィブリル化セルロースを含むフィルムを製造する方法を提供することである。
本発明は、添付の特許請求の範囲の独立請求項に定義する。実施形態は、添付の特許請求の範囲の従属請求項及び以下の説明に記載する。
【0007】
本発明は、ミクロフィブリル化セルロースを含むフィルムの製造方法であって、全乾燥重量に基づいて70重量%から100重量%のミクロフィブリル化セルロースを含む懸濁液を提供する工程、前記懸濁液の繊維ウェブを形成する工程、前記ウェブを乾燥装置にて乾燥させるが、ここで前記ウェブは、熱風(hot air)を使用して75kg(H2O)/m2/hを超える乾燥速度で少なくとも部分的に乾燥され、これによりフィルムが形成される工程を含む、前記方法に関する。驚くべきことに、繊維ウェブを熱風に曝すことによって75kg(H2O)/m2/hを超える乾燥速度で該ウェブを乾燥させることによる効率的な方法で、良好なバリア特性を有するMFCフィルムを製造することが可能であることを見出した。通常では、MFCフィルムの乾燥速度はもっとかなり遅いので、MFCフィルムの乾燥には長い時間がかかり過ぎる。
【0008】
乾燥装置で使用される熱風は、好ましくは100から350℃の温度を有し、20から100m/sの速度で送風される。
乾燥装置にてウェブを乾燥する前に、ウェブを支持体に適用するのが好ましい。支持体上でウェブは前記乾燥装置にて乾燥される。支持体は好ましくは金属ベルトであり、ウェブを支持体に適用する前に、支持体を60から150℃の温度に加熱するのが好ましい。更に、支持体は乾燥装置の一部であってもよい。驚くべきことに、フィルムの乾燥速度は、乾燥前に加熱した支持体に、ウェブを供することによって改善されることを見出した。
【0009】
懸濁液を基材上に加えることによって、繊維ウェブを形成するのが好ましい。懸濁液を基材上にキャスティングすることによって、繊維ウェブを加えるのが好ましい。また、懸濁液を基材上に印刷することによって、懸濁液を加えることもまた可能である。基材は紙基材又は板紙基材であってもよく、この場合は、MFCフィルムで被覆された板紙基材又は紙基材が形成される。基材はまた、ポリマー基材又は金属基材であってもよい。従って、ポリマーフィルム上にMFCフィルムを追加することが可能である。次に、キャスティングした繊維ウェブを乾燥させて、任意選択的に基材から剥離することができる。繊維ウェブと基材とを含む多層構造体を製造する場合には、追加した繊維ウェブは基材から剥離しない。その後、剥離した繊維ウェブ又は繊維ウェブと基材とを含む多層構造体は、本発明に従って、乾燥装置にて乾燥される。
【0010】
基材はまた、多孔性ワイヤであってもよい。繊維ウェブは、懸濁液をワイヤ上に供することによって形成することができる。次に、形成された繊維ウェブは、ワイヤから除去され、その後、乾燥装置にて、好ましくは支持体上で乾燥させることができる。
繊維ウェブを乾燥装置にて乾燥させる前及び/又は乾燥中に、該ウェブに圧力を加えることが可能な場合がある。5kN/mを超える圧力が好ましい。繊維ウェブを乾燥装置にて乾燥させる前及び/又は乾燥中、該ウェブを支持体に確実に接触させるために、圧力を加えてもよい。
【0011】
繊維ウェブは、乾燥装置で乾燥させる前に、10から40重量%の乾燥含量(dry content)を有するのが好ましい。従って、形成されたウェブを、乾燥装置に送る前に、ウェブが適切な乾燥含量を有するようにするために、任意の従来の方法、例えば加圧又は従来のシリンダー乾燥によって、真空を使用することによって及び/又は熱風を使用することによって、乾燥又は脱水することができる。
懸濁液のミクロフィブリル化セルロースは、好ましくは90を超えるShopper-Riegler(SR)値を有する。
フィルムは、好ましくは乾燥後にASTM D-3985に従って400cc/m2/24h未満の酸素透過率(OTR)値(23℃、50%RH)を有する。従って、フィルムの酸素バリア特性は依然として非常に良好である。
【0012】
乾燥装置は好ましくは衝突(impingement)乾燥装置である。
本発明はまた、上記の方法によって得られたミクロフィブリル化セルロースを含むフィルムにも関する。フィルムは、40gsm未満、好ましくは30gsm未満の坪量、及びび700kg/cm3を超える密度を有するのが好ましい。フィルムは、ASTM D-3985に従って400cc/m2/24h未満の酸素透過率(OTR)値(23℃、50%RH)を有するのが好ましい。本発明によるフィルムは、高密度、高平滑性及び良好なバリア特性を有する薄い半透明又は透明フィルムであるのが好ましい。
本発明はまた、繊維ウェブが紙支持体又は板紙支持体上に形成される上記の方法によって得られる紙基材又は板紙基材にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図2は、異なる乾燥温度でのMFCフィルムの乾燥速度を示す。
【
図3】
図3は、異なる乾燥温度でのMFCフィルムの乾燥時間を示す。
【0014】
詳細な説明
驚くべきことに、多量のミクロフィブリル化セルロースを含む繊維ウェブを熱風に曝すことによって、フィルムのバリア特性に悪影響を及ぼすことなく、75kg(H2O)/m2/hを超える、好ましくは100kg(H2O)/m2/hを超える乾燥速度でMFCフィルムを乾燥させることが可能であることを見出した。高い乾燥速度で熱風を使用することにより、フィルム中の水は沸騰するであろうと考えられた。また、MFCフィルムが高密度であるため、水はフィルムの内側で沸騰し、フィルムのバリア特性を破壊するであろう、即ち、フィルムの平滑な表面を破壊することなく、MFCフィルムの内側から沸騰した水が「逃げる」ことは不可能であろうと考えられた。乾燥速度は、乾燥の前と後のフィルムの乾燥含量、時間及び乾燥されるフィルムの面積を測定することによって決定される。懸濁液は、全乾燥重量に基づいて70重量%から100重量%のミクロフィブリル化セルロースを含む。従って、製造されたMFCフィルムは多量のMFC、好ましくは70から100重量%のMFCを含み、この量は最終的な被覆層が追加される前のフィルム自体のMFCの量に関係する。
【0015】
フィルムは、良好なガス、芳香又はグリース若しくは油のバリア特性、好ましくは酸素バリア特性を有する薄い基材を意味する。フィルムは、好ましくは40g/m2未満の坪量及び700から1400kg/m3の範囲の密度を有する。23℃及び50%の相対湿度で30g/m2の坪量を有するフィルムの酸素透過率(OTR)値は、ASTM D-3985に従って、好ましくは30cc/m2/24h未満である。
好ましくは、乾燥装置で使用される熱風は、100から350℃、好ましくは150から250℃の温度を有し、20から100m/s、好ましくは30から60m/sの速度で送風される。
【0016】
乾燥装置にて乾燥される前に、好ましくは、ウェブは支持体に適用され、その後、前記支持体上のウェブは、乾燥装置を通して送られる。支持体は、好ましくは金属ベルトであり、ウェブを支持体に適用する前に、支持体を60から150℃、好ましくは60から100℃の温度に加熱するのが好ましい。驚くべきことに、フィルムの乾燥速度は、乾燥前に、ウェブを加熱した支持体に供することによって改善されることが見出された。支持体に供されるウェブの温度は、好ましくは室温である。即ち、供される繊維ウェブと加熱した支持体との間には温度差がある。支持体はまた、乾燥装置の一部、例えば乾燥装置のベルト又はロールであってもよい。
【0017】
好ましくは、繊維ウェブは、基材上に、懸濁液を加えることによって、好ましくは懸濁液をキャスティングすることによって形成される。基材は紙基材又は板紙基材であってもよく、この場合は、MFCフィルムで被覆された板紙基材又は紙基材が形成される。基材はまた、ポリマー基材又は金属基材であってもよい。次に、キャスティングした繊維ウェブを任意の従来の方法で乾燥させ、その後基材から剥離することができる。その後、剥離した繊維ウェブは、本発明に従って乾燥装置にて乾燥される。基材と支持体が同じであることもまた可能であり、即ちこれは、懸濁液が支持体上に直接キャスティングされ、その後乾燥装置にて乾燥されることを意味する。
【0018】
基材はまた、多孔性ワイヤ、好ましくは紙又は板紙の抄紙機のワイヤであってもよい。従って、本方法を紙又は板紙の抄紙機のウェットエンドで利用することが可能である。繊維ウェブは、懸濁液をワイヤ上、好ましくは紙又は板紙の抄紙機のウェットエンドのワイヤ上に供することによって形成することができる。次に、形成された繊維ウェブはワイヤから除去され、その後、乾燥装置にて、好ましくは支持体上で乾燥することができる。紙又は板紙の抄紙機は、紙、板紙、ティッシュ又は任意の類似の製品を製造するために使用される、当業者に知られている任意の種類の製紙機械を意味する。
【0019】
乾燥装置におけるウェブの乾燥前及び/又は乾燥中に、繊維ウェブに圧力を加えることが可能である場合がある。好ましくは、加えられる圧力は5kN/mを超える。乾燥装置におけるウェブの乾燥前及び/又は乾燥中に、繊維ウェブを支持体に確実に接触させるために圧力を加えてもよく、これにより、乾燥装置にて除去される水が隙間内で沸騰することにより、フィルムのバリア特性が破壊される恐れを回避する。圧力は、任意の従来の方法、例えばシリンダーによって加えることができる。
【0020】
繊維ウェブは、乾燥装置で乾燥させる前に、好ましくは10から40重量%の乾燥含量を有する。従って、形成されたウェブを、乾燥装置に送る前に、ウェブが適切な乾燥含量を有するようにするために、任意の従来の方法、例えば加圧又は従来のシリンダー乾燥によって、真空を使用することによって及び/又は熱風を使用することによって、乾燥又は脱水することができる。好ましくは、乾燥装置における乾燥後のMFCフィルムの乾燥含量は、70重量%超過、好ましくは80重量%超過、更により好ましくは85から97重量%である。製造されたMFCフィルムは、乾燥装置にて乾燥した後、追加的な乾燥工程で更に乾燥してもよい。任意の従来の乾燥装置を使用することができる。
【0021】
MFCの他に、フィルムは、より長いセルロース繊維、硬材繊維又は軟材繊維のいずれか、好ましくはクラフトパルプ軟材繊維を更に含んでもよい。フィルムは、顔料、カルボキシメチルセルロース(CMC)、保持化学物質(retention chemicals)、デンプン等の他の添加剤を更に含んでもよい。
懸濁液のミクロフィブリル化セルロースは、90超過、好ましくは95超過のShopper-Riegler(SR)値を有する。
乾燥装置は好ましくは衝突乾燥装置である。驚くべきことに、高温及び高乾燥速度を使用する衝突乾燥では、バリア性を有するMFCフィルムを乾燥することが可能である。
【0022】
本発明はまた、上記の方法によって得られたミクロフィブリル化セルロースを含むフィルムにも関する。好ましくは、フィルムは、40gsm未満、好ましくは30gsm未満の坪量及び700kg/cm3を超える密度を有する。好ましくは、フィルムは、ASTM D-3985に従って400cc/m2/24h未満、より好ましくは100cc/m2/24h未満の酸素透過率(OTR)値(23℃、50%RH)を有する。本発明によるフィルムは、好ましくは、高密度、高平滑性及び良好なバリア特性を有する薄い半透明又は透明フィルムである。
本発明はまた、繊維ウェブが紙支持体又は板紙支持体上に形成される上記の方法によって得られる紙基材又は板紙基材にも関する。従って、非常に効率的な方法で良好なバリア特性を有するMFCフィルムで被覆された(coating)紙製品又は板紙製品を製造することが可能である。
【0023】
ミクロフィブリル化セルロース(MFC)は、本特許出願の文脈では、100nm未満の少なくとも1つの寸法を有するナノスケールセルロース粒子繊維又はフィブリルを意味するものとする。MFCは、部分的に又は完全にフィブリル化されたセルロース又はリグノセルロース繊維を含む。遊離した(liberated)フィブリルの径は100nm未満であるが、実際のフィブリルの径若しくは粒度分布及び/又はアスペクト比(長さ/幅)は、供給源及び製造方法によって異なる。最も小さなフィブリルは、エレメンタリーフィブリル(elementary fibril)と呼ばれ、約2から4nmの径を有する(参照:例えば、Chinga-Carrasco,G.の文献:Cellulose fibres,nanofibrils and microfibrils,:The morphological sequence of MFC components from a plant physiology and fibre technology point of view,Nanoscale research letters 2011,6:417)が、一方、ミクロフィブリルとしても定義されているエレメンタリーフィブリルの凝集形態(Fengel,D.の文献:Ultrastructural behavior of cell wall polysaccharides,Tappi J.,March 1970,Vol 53,No.3.)は、例えば拡張叩解工程又は圧力降下離解工程を使用して、MFCを製造するときに得られる主生成物であることが一般的である。供給源及び製造工程に応じて、フィブリルの長さは、1マイクロメートル前後から10マイクロメートルを越える範囲に及び得る。粗いMFCグレードは、実質的な部分のフィブリル化された繊維、即ち、仮導管から突き出ているフィブリル(セルロース繊維)と、特定量の仮導管から遊離したフィブリル(セルロース繊維)とを含有し得る。
【0024】
セルロースミクロフィブリル、フィブリル化セルロース、ナノフィブリル化セルロース、フィブリル凝集体、ナノスケールセルロースフィブリル、セルロースナノファイバー、セルロースナノフィブリル、セルロースミクロファイバー、セルロースフィブリル、ミクロフィブリル状セルロース、ミクロフィブリル凝集体、及びセルロースミクロフィブリル凝集体等のMFCには、種々の頭字語が存在する。更に、MFCは、大きな表面積、又は、水中に分散するときの、低い固形分(1から5重量%)でのゲル状物質形成能等の、種々の物理的特性又は物理化学的特性によっても特徴付けることができる。セルロース繊維は、BET法を用いて凍結乾燥物質について測定した場合、形成されたMFCの最終比表面積が約1から約200m2/g、更に好ましくは50から200m2/gである程度にまでフィブリル化されることが好ましい。
【0025】
MFCを製造するには、例えば、単一又は複数叩解(single or multiple pass refining)、予備加水分解、続いて、叩解又は高剪断離解又はフィブリルの遊離といった種々の方法が存在する。MFCの製造にエネルギー効率と持続可能性を共にもたらすには、通常、1つ以上の前処理工程が必要である。このため、供給されるパルプのセルロース繊維は、例えば加水分解させる、又は繊維を膨潤させる、又はヘミセルロース又はリグニンの量を減少させるように、酵素的又は化学的に前処理され得る。セルロース繊維は、フィブリル化前に化学的に修飾されてもよく、セルロース分子は、元のセルロースにみられる官能基以外の(又は元のセルロースにみられる官能基よりも多くの)官能基を含有する。このような基としては、とりわけ、カルボキシメチル(CMC)、アルデヒド及び/又はカルボキシル基(N-オキシル媒介酸化によって得られるセルロース、例えば「TEMPO」)、又は第四級アンモニウム(カチオン性セルロース)が挙げられる。上述した方法のうちの1つにより修飾又は酸化された後、繊維は、MFC又はナノフィブリルサイズ又はNFCへ更に容易に分解する。
【0026】
ナノフィブリル状セルロースは、一部のヘミセルロースを含有し得るが、その量は、植物源によって異なる。前処理された繊維の機械的離解、例えば、セルロース原料の加水分解、予備膨潤又は酸化は、叩解機、粉砕機、ホモジナイザー、コロイダー、摩擦粉砕機、超音波処理機、マイクロ流動化装置、マクロ流動化装置又は流動化装置型ホモジナイザー等の流動化装置等の適切な装置によって行われる。MFCの製造方法に応じて、製品は、微繊維若しくはナノ結晶セルロース、又は、例えば、木材繊維に若しくは抄紙工程に存在する他の化学物質もまた含有し得る。また、製品は、効果的にフィブリル化されていない種々の量のミクロンサイズの繊維粒子も含有し得る。
MFCは、木材セルロース繊維から、硬材繊維又は軟材繊維の両方から生産される。また、MFCは、微生物源、麦わらパルプ、竹、バガス等の農業繊維、又は他の非木材繊維源から製造することもできる。MFCは、バージン繊維由来のパルプ、例えば、機械的、化学的及び/又は熱機械的パルプを含むパルプから製造されることが好ましい。更に、MFCは、破損した紙又は再生紙から製造することもできる。
【0027】
上述したMFCの定義には、非限定的に、結晶質領域と非晶質領域の両方を有し、5から30nmの幅を有する高いアスペクト比及び通常50を越えるアスペクト比を有する複数のエレメンタリーフィブリルを含有するセルロースナノファイバー材料を定義する新しく提案された、セルロースナノフィブリル(CMF)に関するTAPPI標準W13021が含まれる。
繊維懸濁液は、湿潤強度剤もまた含むことができる。即ち湿潤強度剤を懸濁液に添加することができる。驚くべきことに、湿潤強度剤を含むMFCフィルムを、乾燥装置を用いて高温で乾燥させることが可能であることが見出された。湿潤強度化学物質は、ミクロフィブリル化繊維を架橋することによって、ウェブの強度特性、延いてはフィルムの強度特性を改善し、高温での乾燥装置の使用によって湿潤強度剤及びMFCを含む乾燥フィルムを製造することが可能であるのは驚くべきことであった。種々の湿潤強度剤、例えばウレアホルムアルデヒド(UH)、メラミンホルムアルデヒド(MF)、ポリアミド-エピクロロヒドリン(PEA)、グリオキサール及び/又はポリアクリルアミド(PAM)、又はそれらの混合物を添加することができる。
懸濁液は、架橋剤もまた含むことができる。架橋剤を懸濁液に添加することによって、フィルムは高い相対湿度(RH)値で改善されたバリア特性を有する。種々の架橋剤、例えばクエン酸、ポリイソシアナート、金属イオン、好ましくはアルカリ土類金属イオン、アニオン-カチオン錯体及び/又は高分子電解質錯体を添加することができる。
【0028】
通常、例えば紙を製造する完成紙料に湿潤強度剤又は架橋剤を添加する場合、湿潤強度剤又は架橋剤が潜在する完全な強度に達するために、その紙を硬化させる必要がある。フィルムを製造する場合、乾燥温度は通常(過剰な乾燥を抑制するために)非常に低いので、その後、湿潤強度剤又は架橋剤が完全な潜在性を発揮するために、そのフィルムを硬化させる必要がある。本発明によれば、湿潤強度剤又は架橋剤はフィルムの乾燥中に硬化するので、乾燥後にフィルムを硬化させる必要がない。湿潤強度剤又は架橋剤は、完成紙料に添加、又は湿潤フィルムの上に、例えば、ワイヤ上のフィルムに加えることができ、あるいはフィルムの表面処理工程中に加えることができる。
本発明によるMFCフィルムは、シリアル等の乾燥食品を包装するときの箱詰め用バッグとして、包装基材として、紙、板紙又はプラスチックにおける積層材料として、及び/又は使い捨て電子機器用の基材として使用することができる。
【0029】
例1
図1は、本発明による方法の概略図を示す。
本発明の一実施形態に従う乾燥装置(1)は、熱風(3)を加える衝突フード(2)を含む。その後、特定の温度と速度の熱風は複数のノズル(4)を通して送風される。乾燥装置(1)は、加熱プレート(5)の形態の支持体を更に含み、該プレート上の繊維ウェブ(6)は乾燥装置を通して送られ、熱風が繊維ウェブ上に送風され、MFCフィルムが形成される。
【0030】
例2
乾燥装置にて繊維ウェブ上に異なる温度の空気を送風したときの乾燥速度を調べた。
全乾燥重量に基づいて70重量%のMFCを含む繊維懸濁液を、固形分4%で金属ベルト上にキャスティングした。キャスティング前に金属ベルトを特定の温度に加熱した。ベルト110℃は、金属ベルトが乾燥の終わり頃に110℃の温度であったことを意味する。ベルト120°C及びベルト130°Cのサンプルについても、それぞれ同じことが言える。ベルト110℃、ベルト120℃及びベルト130℃におけるMFCフィルムは加熱した金属ベルト(melt)によって乾燥されただけであり、基準サンプルとして使用することができる。キャスティングしたウェブはその後、剥離し易くなるまで、即ち約90重量%の乾燥含量まで乾燥された。
【0031】
加熱したベルト上にキャスティングした後、3つのサンプルは衝突ドライヤーでも乾燥した。これらのサンプルは、MFC懸濁液を加熱した金属ベルトにキャスティングし(全てのサンプルを110℃の温度のベルト上にキャスティングした)、続いて異なる温度の空気を使用した衝突ドライヤーにて乾燥することにより製造した。空気の風速は全てのサンプルについて30m/sであり、空気の温度は20℃、150℃又は300℃であった。
6つのサンプル全てについての乾燥速度の結果を
図2に見ることができる。乾燥速度は、熱風を使用して衝突乾燥装置にてフィルムを乾燥させた場合に増加した。
【0032】
衝突乾燥を用いて乾燥させたMFCフィルムの酸素透過率(OTR)値は、ASTM D-3985に従って測定した。OTR値の結果を表1に示す。
【表1】
このように、衝突ドライヤーにて乾燥させた全てのMFCフィルムは非常に良好なOTR値を示しているので、フィルムが高い乾燥速度で乾燥された場合であっても良好なバリアフィルムを作製することが可能であることは明らかである。
【0033】
例3
全乾燥重量に基づいて70重量%のミクロフィブリル化セルロースを含む4重量%の濃度(consistency)の懸濁液を、加熱金属ベルト上にキャスティングして、繊維ウェブを形成した。その後、同じ金属ベルト上の繊維ウェブを、衝突ドライヤーを通して送った。ウェブを衝突ドライヤーにて乾燥したが、ここでは熱風をキャスティングした繊維ウェブに向けて送風した。金属ベルト及びキャスティング前の完成紙料について異なる温度で試験して、それがウェブの乾燥時間にどのように影響するかを調べた。
その後、乾燥時間を、フィルムが少なくとも90重量%の乾燥含量を有するまでの時間として測定した。試験中の乾燥速度は80kg(H2O)/m2/hであった。
【0034】
試験結果を
図3に示す。F30は完成紙料の温度が30℃であることを意味し、B30はベルトの温度が30℃であることを意味し、他のサンプルについても同様である。
図3から明らかなように、キャスティング中及び衝突乾燥前のベルトの温度が非常に高い場合、MFCフィルムの乾燥時間は短縮された。
本発明の上記の詳細な説明に鑑みて、当業者には、他の改変及び変更が明らかになる。しかしながら、このような他の改変及び変更を、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく行い得ることは明らかである。