IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポスコの特許一覧

特許7116064リッジング性および表面品質に優れたフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法
<>
  • 特許-リッジング性および表面品質に優れたフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法 図1
  • 特許-リッジング性および表面品質に優れたフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法 図2
  • 特許-リッジング性および表面品質に優れたフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】リッジング性および表面品質に優れたフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220802BHJP
   B21B 1/22 20060101ALI20220802BHJP
   B21B 3/02 20060101ALI20220802BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20220802BHJP
   C22C 38/34 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
B21B1/22 F
B21B3/02
C21D9/46 R
C22C38/34
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019531659
(86)(22)【出願日】2017-07-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-02
(86)【国際出願番号】 KR2017007099
(87)【国際公開番号】W WO2018110785
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2019-06-13
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-24
(31)【優先権主張番号】10-2016-0169696
(32)【優先日】2016-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク,スウ ホ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ゲ マン
【合議体】
【審判長】平塚 政宏
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】池渕 立
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-328524(JP,A)
【文献】特開2006-328525(JP,A)
【文献】特開2003-73741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C38/00-38/60
C21D 8/00- 8/04
C21D 9/46- 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.005~0.1%、Si:0.01~2.0%、Mn:0.01~1.5%、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Cr:10~30%、N:0.005~0.1%、Al:0.005~0.2%、残りのFeおよびその他不可避な不純物からなり、
下記式(1)により計算される、オーステナイト安定度の指数であるγmaxが20%以上50%未満であり、
冷間圧延後に焼鈍処理した素材の断面の厚さ中心部のバンド組織の平均縦横比が4.0以下であり、
光学顕微鏡で撮影される表面の微細溝の面積率が2.0%以下であり、
15%引張試験後に測定されたr値から計算されるr-bar値が1.2以上であり、
表面粗度測定で把握されるリッジング高さが12μm以下であることを特徴とするリッジング性および表面品質に優れたフェライト系ステンレス鋼板。
式(1) 420×C+470×N+10×Mn+180-11.5×Cr-11.5×Si-52.0×Al
ここで、C、N、Mn、Cr、Si、Alは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【請求項2】
重量%で、C:0.005~0.1%、Si:0.01~2.0%、Mn:0.01~1.5%、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Cr:10~30%、N:0.005~0.1%、Al:0.005~0.2%、残りのFeおよびその他不可避な不純物からなり、下記式(1)で表されるγmaxが20%以上50%未満を満たすスラブを製造する段階と、
前記スラブを再加熱して熱間圧延する段階と、
前記熱間圧延された熱延板を巻き取る段階と、
前記巻き取られた熱延板を熱延焼鈍処理することなく、30%以上の圧下率で非対称冷間圧延する段階と、
前記冷間圧延された冷延板を焼鈍処理する段階を含み、
前記非対称冷間圧延は、上下圧延ロールの速度比(Vh/Vl)が1.25以上であり、圧延形状因子(l/d)が1.7以上である圧延条件で実施され、
前記冷延板への焼鈍処理は、550~950℃の温度範囲で60分以内で実施され、前記冷延板への焼鈍処理した後に、素材の断面の厚さ中心部のバンド組織の平均縦横比(圧延方向の粒径/板厚さ方向の粒径)が4.0以下であり、
光学顕微鏡で撮影される表面の微細溝の面積率が2.0%以下であり、
15%引張試験後に測定されたr値から計算されるr-bar値が1.2以上であり、
表面粗度測定で把握されるリッジング高さが12μm以下であることを特徴とするリッジング性および表面品質に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
式(1) 420×C+470×N+10×Mn+180-11.5×Cr-
11.5×Si-52.0×Al
式(1)中、C、N、Mn、Cr、Si、Alは、各元素の含量(重量%)を意味する。
前記上下圧延ロールの速度比(Vh/Vl)でVhは速いロール速度、Vlは遅いロール速度を示す。
前記圧延形状因子(l/d)は、式(2)で求められる値であり、
式(2)中の記号の意味は、下記のとおり。
l:圧延ロールバイト内のロールと板材の接触弧を投影した長さ
d:板材の平均厚さd=(h+h)/2
r:圧延ロールの半径
:板材の初期厚さ
h:板材の最終厚さ
【請求項3】
前記熱延板を巻き取る段階での巻取温度は、750℃以上であることを特徴とする請求項2に記載のリッジング性および表面品質に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リッジング性および表面品質に優れたフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法に関し、より詳細には、熱間圧延後、熱延焼鈍熱処理前に冷間圧延をさらに実施することによって、厚さ中心部の組織を改善して、リッジング性および表面品質を向上させたフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ステンレス鋼は、成分系や金属組織によって分類される。金属組織による場合、ステンレス鋼は、オーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系、二相系に分類される。このようなステンレス鋼のうちフェライト系ステンレス鋼は、高価な合金元素が少なく添加されながらも、耐食性に優れていて、各種キッチン用品、自動車排気系部品、建築材料、家電製品などに主に使用されており、外装用に使用される場合、高品質の表面光沢度が要求される鋼種である。
【0003】
しかしながら、フェライト系ステンレス鋼は、ディープドローイング(deep drawing)のような成形加工時に圧延方向に平行なシワ形状の表面欠陥であるリッジング(ridging)欠陥が発生する問題点を有している。リッジング欠陥は、製品の外観を悪化させると共に、リッジングがひどく発生する場合、成形後に研磨工程が追加されて製造時間が増加し、製造コストが上昇する問題が発生する。そのため、フェライト系ステンレス鋼の用途拡大のためには、リッジング特性の改善と共に、優れた表面品質の確保が必要である。
【0004】
リッジングの発生原因は、根源的に鋳造組織内の柱状晶の発達に起因する。すなわち、一定の方位を有する柱状晶が、圧延または焼鈍工程で破壊されずに残留する場合、引張加工時に周辺の再結晶組織と異なる幅および厚さ方向の変形挙動によってリッジング欠陥として表出される。このようなリッジング欠陥を解消するために、リッジングを誘発する組織を除去するための多様な試みが行われてきた。主に等軸晶率を向上させて柱状晶の分率を減らすことによって、リッジング性を改善したり、製造工程中に熱間圧延温度、熱間圧延の圧下率、焼鈍温度の制御など工程変数の調節を通じてリッジングを低減した。
【0005】
しかしながら、熱間圧延後に高温で巻き取った熱延板を熱延焼鈍の前に対称圧延または非対称圧延した後、連続して焼鈍熱処理して集合組織を改善しようとする試みは殆どないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国特許公開第10-2008-0061863号公報(2008.07.03.公開)
【文献】韓国特許公開第10-2014-0080348号公報(2014.06.30.公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、フェライト系ステンレス鋼の熱延焼鈍熱処理前に冷間圧延をさらに実施することによって、断面の中心部の微細組織を変化させて、最終製品のリッジング特性および表面品質に優れたフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施例によるリッジング性および表面品質に優れたフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.005~0.1%、Si:0.01~2.0%、Mn:0.01~1.5%、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Cr:10~30%、N:0.005~0.1%、Al:0.005~0.2%、残りのFeおよびその他不可避な不純物を含み、下記式(1)で表されるγmaxが20%以上50%未満である。
【0009】
(1)420×C+470×N+10×Mn+180-11.5×Cr-11.5×Si-52.0×Al
【0010】
ここで、C、N、Mn、Cr、Si、Alは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0011】
また、本発明の一実施例によれば、前記ステンレス鋼は、表面の微細溝の面積率が2.0%以下であってもよい。
【0012】
また、本発明の一実施例によれば、前記ステンレス鋼は、リッジング高さが12μm以下であってもよい。
【0013】
また、本発明の一実施例によれば、前記ステンレス鋼は、r-bar値が1.2以上であってもよい。
【0014】
本発明の一実施例によるリッジング性および表面品質に優れたフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.005~0.1%、Si:0.01~2.0%、Mn:0.01~1.5%、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Cr:10~30%、N:0.005~0.1%、Al:0.005~0.2%、残りのFeおよびその他不可避な不純物を含み、下記式(1)で表されるγmaxが20%以上50%未満を満たすスラブを製造する段階と、前記スラブを再加熱して熱間圧延する段階と、前記熱間圧延された熱延板を巻き取る段階と、前記巻き取られた熱延板を熱延焼鈍熱処理する前に、冷間圧延する段階と、を含む。
【0015】
(1)420×C+470×N+10×Mn+180-11.5×Cr-11.5×Si-52.0×Al
【0016】
ここで、C、N、Mn、Cr、Si、Alは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0017】
また、本発明の一実施例によれば、前記熱延板を巻き取る段階での巻取温度は、750℃以上であってもよい。
【0018】
また、本発明の一実施例によれば、前記冷間圧延する段階は、非対称冷間圧延で実施することができる。
【0019】
また、本発明の一実施例によれば、前記冷間圧延または前記非対称冷間圧延は、30%以上の圧下率で実施することができる。
【0020】
また、本発明の一実施例によれば、前記非対称冷間圧延は、上下圧延ロールの速度比(V/V)が1.25以上であり、圧延形状因子(l/d)が1.7以上である圧延条件で実施することができる。
【0021】
また、本発明の一実施例によれば、前記非対称冷間圧延後に熱延焼鈍、2次冷間圧延および冷延焼鈍を実施して製造されたステンレス鋼のリッジング高さが10μm以下であってもよい。
【0022】
また、本発明の一実施例によれば、前記冷間圧延する段階後に、熱延焼鈍熱処理する段階;をさらに含むことができる。
【0023】
また、本発明の一実施例によれば、前記熱延焼鈍熱処理は、550~950℃の温度範囲で60分以内で実施することができる。
【0024】
また、本発明の一実施例によれば、前記熱延焼鈍熱処理後に、熱延焼鈍材の断面の厚さ中心部の組織の平均縦横比が4.0以下であってもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の実施例によるフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法は、熱延焼鈍熱処理前に冷間圧延を通じて鋼板断面の厚さ中心部の組織のバンド組織の縦横比を低く制御して、製品表面のリッジング欠陥の発生を抑制することができる。
【0026】
また、本発明の実施例によるフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法は、鋼板表面の微細溝の面積率が低いため、優れた表面光沢度を示すことができる。
【0027】
また、本発明の実施例によるフェライト系ステンレス鋼およびその製造方法は、優れたリッジング性と共に、高いr値を有し、成形時にリッジング高さを減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施例による比較例3の圧延方向に平行な断面の微細組織写真である。
図2】本発明の実施例による参考例2の表面を光学顕微鏡で撮影した写真である。
図3】本発明の実施例による比較例4の表面を光学顕微鏡で撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の一実施例によるリッジング性および表面品質に優れたフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.005~0.1%、Si:0.01~2.0%、Mn:0.01~1.5%、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Cr:10~30%、N:0.005~0.1%、Al:0.005~0.2%、残りのFeおよびその他不可避な不純物を含み、下記式(1)で表されるγmaxが20%以上50%未満である。
【0030】
(1)420×C+470×N+10×Mn+180-11.5×Cr-11.5×Si-52.0×Al
【0031】
ここで、C、N、Mn、Cr、Si、Alは、各元素の含量(重量%)を意味する。
【0032】
以下では、本発明の実施例を添付の図面を参照して詳細に説明する。以下の実施例は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に本発明の思想を十分に伝達するために提示するものである。本発明は、ここで提示した実施例だけに限定されず、他の形態に具体化されることもできる。図面は、本発明を明確にするために、説明と関係ない部分の図示を省略し、理解を助けるために構成要素のサイズを多少誇張して表現することができる。
【0033】
本発明の一実施例によるリッジング性および表面品質に優れたフェライト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.005~0.1%、Si:0.01~2.0%、Mn:0.01~1.5%、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Cr:10~30%、N:0.005~0.1%、Al:0.005~0.2%、残りのFeおよびその他不可避な不純物を含み、γmaxが20%以上50%未満を満たす。
【0034】
本発明によるフェライト系ステンレス鋼に含まれる各成分の役割およびその含量について説明すると、次の通りである。下記成分に対する%は、重量%を意味する。
【0035】
Cの含量は、0.005%以上0.1%以下である。
【0036】
Cは、鋼材の強度に大きく影響を及ぼす元素であって、その含量が多すぎる場合、鋼材の強度が過度に上昇して軟性が低下するところ、0.1%以下に制限する。ただし、その含量が低い場合、鋼材に必要な強度が満たされないところ、0.005%以上添加する。
【0037】
Siの含量は、0.01%以上2.0%以下である。
【0038】
Siは、製鋼時に溶鋼の脱酸とフェライト安定化のために添加される元素であって、本発明では、0.01%以上添加する。ただし、その含量が多すぎる場合、材質の硬化を起こして、鋼の軟性が低下するところ、2.0%以下に制限する。
【0039】
Mnの含量は、0.01%以上1.5%以下である。
【0040】
Mnは、耐食性の改善に有効な元素であって、本発明では、0.01%以上添加し、より好ましくは0.2%以上添加する。ただし、その含量が多すぎる場合、溶接時にMn系フュームの発生が急増して溶接性が低下し、過度なMnS析出物の形成によって鋼の軟性が低下するところ、1.5%以下に限定し、より好ましくは1.0%以下に限定する。
【0041】
Pの含量は、0以上0.05%以下である。
【0042】
Pは、鋼中に不可避に含有される不純物であって、酸洗時に粒界腐食を起こしたり、熱間加工性を阻害する主要原因となる元素であるので、その含量をできるだけ低く制御することが好ましい。本発明では、前記P含量の上限を0.05%に管理する。
【0043】
Sの含量は、0以上0.005%以下である。
【0044】
Sは、鋼中に不可避に含有される不純物であって、結晶粒界に偏析して熱間加工性を阻害する主要原因となる元素であるので、その含量をできるだけ低く制御することが好ましい。本発明では、前記S含量の上限を0.005%に管理する。
【0045】
Crの含量は、10%以上30%以下である。
【0046】
Crは、鋼の耐食性の向上に効果的な元素であって、本発明では、10%以上添加する。ただし、その含量が多すぎる場合、製造費用が急増する問題があるところ、30%以下に限定する。
【0047】
Nの含量は、0.005%以上0.03%以下である。
【0048】
Nは、窒化物を形成させる元素であって、侵入型として存在するので、過度に含有される場合、衝撃靭性および成形性の低下を招くところ、0.03%以下に限定する。
【0049】
Alの含量は、0.005%以上0.2%以下である。
【0050】
Alは、強力な脱酸剤であって、溶鋼中酸素の含量を低減する役割をするので、本発明では、0.005%以上添加する。ただし、その含量が多すぎる場合、非金属介在物の増加によって冷延ストリップのスリーブ欠陥が発生すると同時に、溶接性を劣化させるところ、0.2%以下に限定し、より好ましくは0.15%以下に限定する。
【0051】
γmaxは、高温での最大オーステナイト量に対応するよく知られたオーステナイト安定度の指数である。γmaxは、下記式(1)により計算される。本発明では、γmax値が20%以上50%未満を満たす。
【0052】
(1)420×C+470×N+10×Mn+180-11.5×Cr-11.5×Si-52.0×Al
【0053】
γmaxが20%未満であれば、熱間圧延中にオーステナイト相によるフェライト相の十分な変形の蓄積が行われず、フェライトバンドの再結晶が促進されないため、リッジング性の改善が得られない。一方、γmaxを高めるために、C、N、MnおよびNiなどのオーステナイト形成元素の含有量を高く制御することができるが、これらは、鋼材の硬質化や費用の上昇を招くので、γmaxは、50%未満とする必要がある。
【0054】
上記のような成分系およびγmaxの範囲を満たすフェライト系ステンレス鋼の場合、熱延焼鈍熱処理前に再結晶のための変形エネルギー蓄積が十分であるので、リッジング性および成形性に有利な集合組織が形成され得る。
【0055】
例えば、本発明の一実施例によるフェライト系ステンレス鋼は、リッジング高さが12μm以下であってもよく、r-bar値が1.2以上であってもよい。
【0056】
また、本発明の一実施例によるフェライト系ステンレス鋼は、鋼表面の微細溝の面積率が2.0%以下であってもよい。表面の微細溝の面積率は、光沢度と相関性があり、微細溝の面積率が低いほど光沢度が高くなる。本発明によるフェライト系ステンレス鋼は、鋼表面の微細溝の面積率が2.0%以下を満たして、美麗な表面を示すことができる。
【0057】
次に、リッジング性および表面品質に優れたフェライト系ステンレス鋼の製造方法について説明する。
【0058】
フェライト系ステンレス鋼のリッジング性および表面品質を向上させるためには、成形性に有利な集合組織の形成を促進させ、リッジングを誘発するバンド組織を除去しなければならない。前記集合組織の形成およびバンド組織の除去のためには、熱延板の焼鈍熱処理時に再結晶を促進させることが重要であり、このために、焼鈍熱処理前に変形エネルギーを十分に蓄積させることが必要である。熱延板に変形エネルギーを蓄積させるために、熱間圧延仕上げ温度を低下させる試みが行われてきたが、変形エネルギーの蓄積には不十分であった。これに伴い、本発明では、変形エネルギーの蓄積による再結晶を促進するために熱延焼鈍熱処理前に冷間圧延を実施して、成形性に有利な集合組織を形成した。
【0059】
一般的に板材の圧延変形時に変形状態は、せん断変形と平面変形の二つの因子で示すことができる。従来の対称圧延では、板材の表面層は、せん断変形が作用し、中央層に行くほど本質的特性である対称性に起因してせん断変形率が減少して、板材の中央層では、せん断変形率が常に0である。すなわち板材の中央層には、常に平面変形が作用する。本発明では、非対称圧延を適用して板材の厚さ中心部にせん断変形を作用させることができる。非対称圧延を適用するとき、多くの圧延変数が存在し、この変数を最適化する場合にのみ、すべての厚さ層で適切なせん断変形率が作用して再結晶を活性化させて微細組織を変化させることによって、最終冷延製品の表面品質に重要なリッジング高さを低減することができる。
【0060】
本発明の一実施例によるフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.005~0.1%、Si:0.01~2.0%、Mn:0.01~1.5%、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Cr:10~30%、N:0.005~0.1%、Al:0.005~0.2%、残りのFeおよびその他不可避な不純物を含み、γmaxが20%以上50%未満を満たすスラブを製造する段階と、前記スラブを再加熱して熱間圧延する段階と、前記熱間圧延された熱延板を巻き取る段階と、前記巻き取られた熱延板を熱延焼鈍熱処理する前に、冷間圧延する段階と、を含む。
【0061】
熱間圧延された熱延板を熱延焼鈍熱処理する前に、さらに冷間圧延を実施することによって、再結晶促進のための変形エネルギーを蓄積することができる。
【0062】
前記冷間圧延に先立って、製造されたスラブは、再加熱されて熱間圧延される。熱間圧延された熱延板は、巻取器で高温巻取(black coil)されるが、熱間圧延後、巻き取る間にオーステナイト相からフェライト相に相変態させるために、巻取温度は、750℃以上であってもよい。
【0063】
一方、本発明の一実施例によるフェライト系ステンレス鋼の製造方法は、巻き取られた熱延板を熱延焼鈍熱処理する前に冷間圧延する段階において、前記冷間圧延は、非対称冷間圧延で実施することができる。
【0064】
上述したように、本発明では、非対称圧延を適用して板材の厚さ中心部にせん断変形を起こすことができる。厚さ中心部に適切なせん断変形が作用して再結晶を活性化させて微細組織を変化させることによって、最終冷延製品の表面品質に重要なリッジング高さを低減することができる。
【0065】
非対称冷間圧延は、圧下率30%以上、上下圧延ロールの速度比(V/V)が1.25以上および圧延形状因子(l/d)が1.7以上である圧延条件で実施することができる。
【0066】
非対称冷間圧延で厚さ中心部までせん断変形を起こすためには、上下圧延ロールの速度比(V/V)が1.25以上でなければならない。1.25未満では、厚さ中心部までせん断変形が付与されないことがある。ここで、Vは、速いロールの速度を意味し、Vは、遅いロールの速度を意味する。
【0067】
圧延形状因子(l/d)も、厚さ中心部までせん断変形を起こすために、1.7以上が要求される。それ未満では、厚さ中心部までせん断変形が付与されないことがある。圧延ロールのサイズおよび圧下率に関連した圧延形状因子は、圧延時にせん断変形を付加する尺度であって、下記式(2)で定義される。
【0068】
【0069】
ここで、lは、圧延ロールバイト内のロールと板材の接触弧を投影した長さ、dは、板材の平均厚さ(d=(h+h)/2)、rは、圧延ロールの半径、hは、板材の初期厚さ、hは、板材の最終厚さを意味する。
【0070】
本発明は、熱延焼鈍熱処理前に冷間圧延するにあたって、非対称圧延時の圧延変数とリッジング性、成形性および表面品質との相関性を調査した結果であって、上下圧延ロールの速度比、圧下率、そして圧延形状因子(l/d)を調節して、リッジング性および表面品質を改善することにその特徴がある。
【0071】
前記冷間圧延または非対称冷間圧延を実施した熱延板に、引き続いて熱延焼鈍熱処理を実施することができる。熱延焼鈍熱処理は、550~950℃の温度範囲で60分以内で実施することができる。熱延焼鈍熱処理は、熱間圧延された熱延板の軟性をより向上させるために実施される工程であって、これを通じて炭窒化物の析出と再結晶を誘導することができる。このためには、焼鈍温度550℃以上で実施する必要がある。ただし、焼鈍温度が950℃を超過したり焼鈍時間が60分を超過する場合、結晶粒が粗大化されて、成形性やリッジング特性を低下させるおそれがある。一方、焼鈍時間の下限は、特に定める必要はないが、十分な効果を得るためには、30秒以上実施することが好ましい。
【0072】
前記熱処理した熱延焼鈍板は、圧延方向に平行な方向の断面の厚さ中心部の組織の平均縦横比が4.0以下であってもよい。縦横比とは、圧延方向のフェライト粒径と板厚さ方向のフェライト粒径の比(圧延方向の粒径/板厚さ方向の粒径)を言う。平均縦横比が4.0を超過する場合、圧延方向に展伸したフェライト組織により冷間加工性が低下し得る。また、厚さ中心部に圧延方向に長く伸びたバンド組織が熱延焼鈍板に残存すると、冷間圧延時にバンド組織に起因した変形不均一により表面に凹凸が発生して、表面光沢度を低下させるので、平均縦横比を4.0以下に限定する。
【0073】
本発明によるリッジング性および表面品質に優れたフェライト系ステンレス鋼の製造方法を上述したように制御した場合以外に特に限定しない条件は、通常のフェライト系ステンレス鋼の製造方法に準じて行うことができる。また、前記熱延焼鈍板を冷間圧延および冷延焼鈍熱処理して冷延鋼鈑に製造することができることはもちろんである。
【0074】
以下、好ましい実施例を通じて本発明をより詳細に説明することとする。
【0075】
実施例
下記表1の組成を有する溶鋼を連続鋳造してスラブを製造し、スラブを再加熱して熱間圧延後に初期厚さ3~7mmの熱延板を熱延焼鈍熱処理前に1次冷間圧延を実施した。
【0076】
【表1】
【0077】
1次冷間圧延は、通常の冷間圧延または非対称冷間圧延で20~50%の圧下率で圧延した。1次冷間圧延された熱延板を熱延焼鈍熱処理および酸洗した後の50~85%の圧下率で2次冷間圧延を実施し、冷延焼鈍熱処理および酸洗を経て試験片を製作した。
【0078】
前記試験片の圧延方向に対して0°、45°、90°方向の引張試験片を加工して、15%引張試験後にr値(Lankford value)を測定した。方向別に測定されたr値(r、r45、r90)からr-bar値(r-bar=(r+r90+2*r45)/4)を計算した。また、リッジング高さは、前記試験片を加工して15%引張試験後に表面粗度を測定した。下記表2に本実施例に使用されたフェライト系ステンレス鋼の圧延条件の変化によるr-barおよびリッジング高さ(Wt)の測定結果を示した。
【0079】
【表2】
【0080】
通常圧延を実施した比較例3~7は、r-bar値が1以下であり、リッジング高さは、14μm以上と高く現れた。熱間圧延後、熱延焼鈍熱処理に先立って1次冷間圧延を行った比較例1および2の場合には、圧下率が30%未満で行われて、r-bar値が1.2以下と現れて、成形性が不利であることが分かった。参考例1~3のように、熱延焼鈍熱処理前に1次冷間圧延を行い、かつ、圧下率30%以上で行う場合、1.2以上のr-bar値を得ることができ、肉眼で観察が難しいため、加工品の外観特性を低下させない程度である12μm以下のリッジング高さを達成することができた。
【0081】
実施例4~6は、参考例1~3で1次冷間圧延を対称圧延でなく、非対称圧延で実施したことを除いては、残りの条件は、同一であり、比較例8および9も、比較例1および2で1次冷間圧延を対称圧延でなく、非対称圧延で実施したことを除いては、残りの条件は、
同一である。
【0082】
対称圧延と比較して非対称圧延で1次冷間圧延を実施した場合、リッジング高さが約20%以上減少することが分かった。特に、実施例4~6は、10μm以下のリッジング高さを達成することができた。これを通じて、対称圧延でなく、非対称圧延時にせん断変形によってバンド組織を十分に微細化することができ、リッジング性が改善されることが分かった。
【0083】
熱間圧延後、熱延焼鈍熱処理に先立って1次冷間圧延を実施した比較例8および9の場合には、非対称圧延で実施しても、圧下率が30%未満で実施されて、r-bar値が1.2以下と現れて、成形性が不利であることが分かった。
【0084】
すなわち、実施例4~6のように、熱延焼鈍熱処理前に非対称冷間圧延を行い、かつ、総圧下率30%以上で行う場合、1.2以上のr-bar値を得ることができ、肉眼で観察が難しいため、加工品の外観特性を低下させない程度である12μm以下のリッジング高さを達成することができることが分かった。
【0085】
一方、熱延焼鈍前に冷間圧延を実施しない従来の製造方法で製造した熱延焼鈍材と本発明によって製造した熱延焼鈍材の平均縦横比を下記表3に示した。引き続いて、冷間圧延および冷延焼鈍熱処理を経た冷延焼鈍材の微細溝の面積率も、下記表3に示した。
【0086】
平均縦横比は、圧延方向に平行な熱延焼鈍材の断面微細組織を光学顕微鏡を使用して撮影した後、バンド組織の圧延方向の粒径と板厚さ方向の粒径を測定して、5個の結晶粒の平均縦横比を示した。図1は、比較例3の圧延方向に平行な断面の微細組織写真を示す。図1のように断面の微細組織写真から圧延方向に長く伸びたバンド組織の長さ方向と厚さ方向の長さを測定した後、平均縦横比を計算した。
【0087】
微細溝の面積率は、冷延焼鈍材の表面を光学顕微鏡を使用して光源を最大とし、露出時間を長くして50倍で撮影した後、Image Analyzerで面積率を測定して評価した。代表的な測定結果を図2および図3に示した。
【0088】
図2は、参考例2の表面を、図3は、比較例4の表面を示す。図面において微細溝の面積は、濃厚な色相で表現された部分を示す。図2に示された本発明による参考例2の微細溝の面積率が、図3の比較例4に比べて非常に減少したことが分かった。
【0089】
【表3】
【0090】
1次冷間圧延を圧下率30%未満の通常圧延で実施した比較例1は、平均縦横比が6以上と高く、従来の製造方法で製造された比較例3および4は、平均縦横比が1次冷間圧延を実施した前記比較例1に比べて3倍近く上昇した。他方で、熱間圧延後、熱延焼鈍熱処理に先立って1次冷間圧延を圧下率30%以上の通常圧延で実施した参考例2、3と1次冷間圧延を圧下率30%以上の非対称圧延で実施した実施例5、6の場合には、熱延焼鈍材の平均縦横比が3以下と非常に低く現れた。
【0091】
また、1次冷間圧延を通常圧延で実施した比較例1、3、4は、冷延焼鈍材の微細溝の面積率が2.2%以上と高いのに対し、熱間圧延後、熱延焼鈍熱処理に先立って1次冷間圧延を行った参考例2、3と1次冷間圧延を非対称圧延で実施した実施例5、6の場合には、微細溝の面積率が1.8%以下と低く現れた。
【0092】
すなわち参考例2、3、および実施例5、6の結果から明らかなように、熱延焼鈍材の平均縦横比が低いほど冷延焼鈍材の微細溝の面積率が低くなることが分かった。したがって、実施例のように、平均縦横比が4.0以下であり、微細溝の面積率が2.0%以下を満たすことによって、表面品質に優れた冷延鋼鈑が得られた。
【0093】
上述したように、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明は、これに限定されず、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、下記に記載する特許請求範囲の概念と範囲を外れない範囲内で多様な変更および変形が可能であることを理解することができる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の実施例によるフェライト系ステンレス鋼は、鋼板の表面品質および光沢度に優れているので、各種キッチン用品、自動車排気系部品、建築材料、家電製品などに使用することができる。
図1
図2
図3