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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】レジンコンクリート構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/08 20060101AFI20220802BHJP
   E02D 29/045 20060101ALI20220802BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20220802BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20220802BHJP
   B29C 65/48 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
E21D11/08
E02D29/045 A
C08J5/24 CFD
B29C70/06
B29C65/48
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020185662
(22)【出願日】2020-11-06
(65)【公開番号】P2022075100
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2020-11-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591287222
【氏名又は名称】株式会社サンレック
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】平原 学
(72)【発明者】
【氏名】古田 圭一
(72)【発明者】
【氏名】安原 宏行
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-183576(JP,A)
【文献】実開昭60-130948(JP,U)
【文献】特開2014-031681(JP,A)
【文献】特開2020-157588(JP,A)
【文献】特開2008-002175(JP,A)
【文献】特開2003-039591(JP,A)
【文献】特開昭50-082172(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1090298(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/08
E02D 29/045
C08J 5/24
B29C 70/06
B29C 65/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリエステル製のレジンコンクリート構造体を補強するための補強構造によって補強されるレジンコンクリート構造体の製造方法であって、
前記レジンコンクリート構造体の補強構造は、
前記レジンコンクリート構造体をあらかじめ定めた使用条件下に設置したときに、引張応力が生じる面である引張応力発生面に配置された炭素繊維シートと、
前記炭素繊維シートを前記レジンコンクリート構造体の面に接着する接着樹脂と、
を備え、
離型剤が付着していない前記引張応力発生面に前記接着樹脂を塗布し、
前記引張応力発生面に前記炭素繊維シートを接着し、
前記接着樹脂を前記炭素繊維シートに含浸させるために再度塗布することで、前記炭素繊維シートを一体化させた構造であり、
前記炭素繊維シートは、中弾性率タイプ炭素繊維で形成されている
ことを特徴とし、
前記レジンコンクリート構造体の製造方法は、
前記引張応力発生面が形成される位置の金型の表面に、離型紙を貼り付ける工程と、
前記金型を用いて前記レジンコンクリート構造体を成形する工程と、
を有するレジンコンクリート構造体の製造方法。
【請求項2】
補強された不飽和ポリエステル製のレジンコンクリート構造体の製造方法であって、
前記レジンコンクリート構造体をあらかじめ定めた使用条件下に設置したときに引張応力が生じる面である引張応力発生面が形成される位置の金型の表面に、離型紙を貼り付ける工程と、
前記金型を用いて前記レジンコンクリート構造体を成形する工程と、
前記引張応力発生面に接着樹脂を塗布する工程と、
前記引張応力発生面に炭素繊維シートを接着する工程と、
前記接着樹脂を前記炭素繊維シートに含浸させるために再度塗布することで、前記炭素繊維シートを一体化させる工程と、
を有するレジンコンクリート構造体の製造方法。
【請求項3】
請求項記載のレジンコンクリート構造体の製造方法であって、
前記接着樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂である
ことを特徴とするレジンコンクリート構造体の製造方法。
【請求項4】
請求項または記載のレジンコンクリート構造体の製造方法であって、
前記炭素繊維シートは、中弾性率タイプ炭素繊維で形成されている
ことを特徴とするレジンコンクリート構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジンコンクリート構造体を補強するレジンコンクリート構造体の補強構造、レジンコンクリート構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、工場床や道路舗装等のためのレジンコンクリートに炭素繊維を混合することが示されている。また、炭素繊維の種類については非特許文献1に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平2-275739号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】炭素繊維協会、“炭素繊維の種類”,[令和2年9月11日検索]、インターネット<https://www.carbonfiber.gr.jp/material/type.html>.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示されているようにレジンコンクリートに炭素繊維を混入すると成形性が悪くなる(金型全体に隙間なくレジンコンクリートを充填することが難しくなる)。本発明は、成形性を維持しながらレジンコンクリート構造体の強度を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の不飽和ポリエステル製のレジンコンクリート構造体の補強構造は、炭素繊維シートと接着樹脂を備える。炭素繊維シートは、レジンコンクリート構造体をあらかじめ定めた使用条件下に設置したときに、引張応力が生じる面である引張応力発生面に配置される。接着樹脂は、炭素繊維シートをレジンコンクリートの面に接着する。まず、離型剤が付着していない引張応力発生面に接着樹脂を塗布する。そして、引張応力発生面に炭素繊維シートを接着する。その後、接着樹脂を炭素繊維シートに含浸させるために再度塗布することで、炭素繊維シートを一体化させた構造である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のレジンコンクリート構造体の補強構造によれば、レジンコンクリート構造体を成型後に炭素繊維シートで補強するので、成形性を維持した上で、耐力およびじん性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】レジンコンクリート構造体の補強構造の例を示す図。
図2】補強されたレジンコンクリート構造体の製造方法の処理フローを示す図。
図3】本発明のレジンコンクリート構造体の強度を確認する実験およびシミュレーションの条件を示す図。
図4】補強構造の有無の違いを示す図。
図5】炭素繊維シートによる補強の効果の違いを示す第1の図。
図6】炭素繊維シートによる補強の効果の違いを示す第2の図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例1】
【0010】
図1にレジンコンクリート構造体の補強構造の例を示す。図2に補強されたレジンコンクリート構造体の製造方法の処理フローを示す。本発明は、レジンコンクリート構造体100を補強するための補強構造である。レジンコンクリート構造体100には、例えば地下に配置されるマンホール、トンネルなどの地下空間を形成するものがある。図1に示したレジンコンクリート構造体100は断面を示しており、中空となっている。レジンコンクリート構造体100を地下に配置すると、道路を通過する車両からの輪荷重や土圧などにより、引張応力が生じる面と圧縮応力が生じる面がある。引張応力発生面150は特に引張応力が生じやすい面である。
【0011】
レジンコンクリート構造体100の補強構造は、炭素繊維シート200と接着樹脂300を備える。レジンコンクリート構造体100は、不飽和ポリエステル製である。炭素繊維シート200は、レジンコンクリート構造体100をあらかじめ定めた使用条件下に設置したときに、引張応力が生じる面である引張応力発生面150に配置される。より具体的には、炭素繊維シート200は、引張応力発生面150を含むように、広めに配置すればよい。接着樹脂300で、炭素繊維シートをレジンコンクリートの面に接着する。接着樹脂300には、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、またはエポキシ樹脂を用いればよい。特に、接着樹脂に不飽和ポリエステル樹脂を用いれは、レジンコンクリート構造体100と炭素繊維シート200を一体化させやすい。炭素繊維シート200には、中弾性率タイプ炭素繊維で形成されたものを使用すればよい。中弾性率タイプ炭素繊維とは、非特許文献1に示されたとおり、引張弾性率が280~350GPaの炭素繊維である。炭素繊維シート200は、レジンコンクリート構造体100に発生する引張応力の作用方向に沿って炭素繊維を配向させる。
【0012】
まず、離型剤が付着していない引張応力発生面150に接着樹脂を塗布する(S130)。引張応力発生面150を含む炭素繊維シート200を配置する範囲は離型剤が付着していないようにする。特に、引張応力発生面150には、離型剤が付着していないようにする。処理の順番が前後するが、ステップS130を行う前に、レジンコンクリート構造体100の成形(S110,S120)が行われる。レジンコンクリート構造体100の成形は金型を利用する。この際、レジンコンクリートが金型から外れやすくするために、金型の表面に離型剤を塗布するのが一般的である。しかし、離型剤を塗布した場合、金型から取り外したレジンコンクリートの表面に離型剤が付着している。したがって、金型に離型剤を塗布する場合は、少なくとも引張応力発生面150を研削処理し、離型剤をサンディングなどで除去する必要がある。離型剤がレジンコンクリートの表面に付着しないようにする方法としては、離型剤の代わりに離型紙を用いる方法がある。図2に示すように、引張応力発生面150が形成される位置の金型の表面に、離型紙を貼り付ける(S110)。引張応力発生面150が形成される位置よりも広い範囲に離型紙を貼り付ければよい。そして、金型を用いて前記レジンコンクリート構造体を成形する(S120)。このようにレジンコンクリート構造体100を成型すれば、引張応力発生面150を含む炭素繊維シート200を配置する範囲は離型剤が付着していない状態にできる。サンディングでは粉塵発生による作業環境の問題と、かなりの労力が必要になるという問題がある。離型紙を用いれば、これらの問題は生じないので効率的で作業環境の悪化も防げる。ステップS120の後、ステップS130の接着樹脂300の塗布を行う。
【0013】
そして、ステップS130で塗布した接着樹脂300が硬化する前に、引張応力発生面150に炭素繊維シート200を接着する(S140)。炭素繊維シート200をレジンコンクリート構造体100の表面に密着させるため、ローラーなどで含浸・脱泡作業を行う。この作業で、炭素繊維シート200は仮止めされた状態になる。
【0014】
その後、接着樹脂300を炭素繊維シート200の表面に再度塗布し、さらに含浸・脱泡作業をすることで、炭素繊維シート200をレジンコンクリート構造体100に十分密着させる(S150)。このように炭素繊維シート200を接着させれば、炭素繊維シート200とレジンコンクリート構造体100とを一体化できる。
<実験とシミュレーション>
【0015】
図3に本発明のレジンコンクリート構造体の強度を確認する実験およびシミュレーションの条件を示す。幅100mmのレジンコンクリート101を用い、支点間距離Cは800mm、幅Aが120mmの2線荷重で荷重-変位曲線を求めた。炭素繊維シート200を接着する場合の幅Bは700mmとした。図4~6は、この条件での実験およびシミュレーションの結果を示している。
【0016】
図4は補強構造の有無の違いを示す図である。この図は、レジンコンクリート101の厚さHは60mmの場合である。図4(A)は補強構造がない場合であり、図4(B)は目付量300g/m、厚さ0.143mmの高弾性率タイプの炭素繊維シートを用いて補強した場合である。横軸は変位、縦軸は荷重を示している。実線は実験結果、点線はシミュレーション結果を示している。これらの図から、炭素繊維シートを用いて補強した場合には、レジンコンクリートが引張応力発生によりひびが入っても、炭素繊維シートが引張力を負担するため、耐力およびじん性が向上することが分かる。
【0017】
図5図6は炭素繊維シートによる補強の効果の違いを示す図であり、図5はレジンコンクリート101の厚さHは60mm、図6はレジンコンクリート101の厚さHは40mmである。図5(A)と図6(A)は目付量300g/m、厚さ0.165mmの中弾性率タイプの炭素繊維シートを用いて補強した場合である。図5(B)と図6(B)は目付量450g/m、厚さ0.247mmの中弾性率タイプの炭素繊維シートを用いて補強した場合である。図5(C)と図6(C)は目付量300g/m、厚さ0.143mmの高弾性率タイプの炭素繊維シートを用いて補強した場合である。いずれの図も横軸は変位、縦軸は荷重を示している。実線は実験結果、点線はシミュレーション結果を示している。これらの図から、炭素繊維シートとしては中弾性率タイプ炭素繊維を用いたものの方がより補強できていることが分かる。高弾性率タイプは、レジンコンクリートにひびが入ると比較的早期に切断してしまうのに対し、中弾性率タイプは、レジンコンクリートにひびが入っても炭素繊維の強度が高いため、高弾性率タイプよりも耐力およびじん性が向上することが分かる。したがって、レジンコンクリート構造体の補強には、中弾性率タイプ炭素繊維を用いる方が好ましいと考えられる。
【0018】
特に、図6(A),(B)はレジンコンクリートの厚さを40mmにした実験結果であるが、荷重5kNのあたりでひび割れが生じているが、荷重10kN以上まで壊れていないことが分かる。図4(A)に示したレジンコンクリートの厚さが60mmで補強構造がない場合は荷重9kN程度で壊れていることと比較すると、本発明の補強構造を用いれば、レジンコンクリートの厚さを薄くしても同等の耐力を維持できることが分かる。つまり、都市部の地下のように地下空間が限られている場所では、レジンコンクリートの部材厚を薄くすることで、製品寸法も小さくなり、地下空間を有効に利用できる。
【0019】
レジンコンクリート自体は圧縮応力には強いため、引張応力に対する強度を向上できれば、レジンコンクリート構造体の耐力とじん性を向上できる。しかし、セメントコンクリートの場合と同じように補強のために鉄筋を使用すると、補強筋を部材断面に配筋することになるので、結果として部材厚の増加につながるなど、経済性も含めてレジンコンクリート構造体の優位性を失うことになる。また、鉄筋の形態では不連続になるため、分割位置の制約がある。さらに、一般的なセメントコンクリートと異なり、レジンコンクリートは中性のため、鉄筋の防錆効果がない。したがって、レジンコンクリートと鉄筋との組み合わせは、セメントコンクリートと鉄筋の組み合わせに比べると適切ではない。また、前述のようにレジンコンクリートに炭素繊維を混入させると成形性を悪化させる問題がある。
【0020】
レジンコンクリートは、圧縮強度のみでなく引張強度も高いため、単体でも曲げ部材として設計することが可能である。しかし、ひび割れ発生と同時に耐力を失う脆性的な破壊を起こすため、一般的には、曲げひび割れの発生時点を終局限界状態として設定される。従って、この終局限界状態に至るまでのある時点を使用限界状態とするため、必要な安全係数を基に曲げ引張りに対する応力度の制限値を設けることになる。
【0021】
本発明のレジンコンクリート構造体の補強構造であれば、レジンコンクリート構造体を成型・接着後に炭素繊維シートで補強するので、成形性および形状の自由度を維持した上で、耐力およびじん性を向上できる。さらに、鉄筋を使用する場合のような分割位置の制約はない。また、レジンコンクリート構造体のじん性が改善できることで、より高応力レベルでの使用限界状態(応力度の制限値)が設定でき、さらなる部材の薄肉設計が可能になる。
【符号の説明】
【0022】
100 レジンコンクリート構造体 101 レジンコンクリート
150 引張応力発生面 200 炭素繊維シート
300 接着樹脂
図1
図2
図3
図4
図5
図6