(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】黄斑変性症を治療するための医薬の製造におけるエンタカポン関連化合物の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/277 20060101AFI20220802BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220802BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220802BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220802BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20220802BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20220802BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
A61K31/277
A61P27/02
A61P43/00 121
A61K9/08
A61K9/06
A61K9/10
A61K39/395 N
(21)【出願番号】P 2021013670
(22)【出願日】2021-01-29
(62)【分割の表示】P 2019510788の分割
【原出願日】2017-08-23
【審査請求日】2021-02-26
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2016/096472
(32)【優先日】2016-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】516307666
【氏名又は名称】ナショナル・インスティチュート・オブ・バイオロジカル・サイエンシズ,ベイジン
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】フアン ニウ
(72)【発明者】
【氏名】ポン シーミン
【審査官】一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】特許第6898429(JP,B2)
【文献】国際公開第2015/095257(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2015/0031655(US,A1)
【文献】国際公開第2010/022140(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/144169(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄斑変性症又は加齢性黄斑変性症の治
療のための医薬の製造におけるエンタカポン又はその薬学的に許容され得る
塩の使用であって、前記
医薬は、他の抗パーキンソン病薬、神経活性剤、抗肥満薬及び/又は抗糖尿病薬を含まない、使用。
【請求項2】
黄斑変性症又は加齢性黄斑変性症の治
療のための医薬の製造におけるエンタカポン誘導体若しく
はその薬学的に許容され得る
塩の使用であって、
前記医薬は、他の抗パーキンソン病薬、神経活性剤、抗肥満薬及び/又は抗糖尿病薬を含まず、
前記エンタカポン誘導体は、以下から選択される、使用。
【表1-1】
【表1-2】
【表2-1】
【表2-2】
【表3-1】
【表3-2】
【表4-1】
【表4-2】
【表5-1】
【表5-2】
【請求項3】
前記
医薬が、黄斑変性症又は加齢性黄斑変性症を治
療するための、第2の異なる薬剤をさらに含む、請求項1~
2のいずれか一項に記載の使用。
【請求項4】
前記
医薬が、点眼剤、軟膏剤、ゲル剤又は乳剤の、局所用の形態の、請求項1~
3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記
医薬が、硝子体内注射製剤の形態又は眼内インプラント製剤の形態の、請求項1~
4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記
医薬が単位剤形である、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記第2の
異なる薬剤が、レバシズマブ、ラニビズマブ、ペガプタニブ及びアフリベルセプトから選択される抗血管新生薬である、請求項
3に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
黄斑変性症は、網膜の黄斑における損傷のために中心視野の喪失を引き起こし得る疾患である。それは世界中で何百万もの人々に影響を及ぼし、そして一般的に高齢者に発生する(いわゆる加齢性黄斑変性症、age-related macular degeneration、AMD)。遺伝的要因がこの病気に関与する可能性があるのと同様に、生活習慣もこの疾患に関与する可能性があり、喫煙、日光への曝露及び不健康なエネルギー摂取量が一般的な危険因子である。2010年には、全世界で2億3500万人の患者がいた。そしてそれは、白内障、早産及び緑内障に次ぐ、失明の第4の最も一般的な原因である。米国では、AMDは50歳以上の人々の視力喪失の最も一般的な原因である。例えば、Mehta, S., Age-Related Macular Degeneration. Prim Care 2015, 42 (3), 377-91; Velez-Montoya, et al.、Current knowledge and trends in age-related macular degeneration: genetics, epidemiology, and prevention. Retina 2014, 34 (3), 423-41を参照。AMDはレーザー凝固や、より一般的には血管の成長を阻害(inhibit)する薬剤、例えば、de Jong PT (2006). "Age-related macular degeneration". N Engl J Med. 355 (14): 1474-1485.によって治療されるが、治療法は無い。
【0002】
我々は以前、米国特許出願公開第2014/0148383A1号明細書において、既知のFDA承認薬である、エンタカポン((2E)-2-シアノ-3-(3,4-ジヒドロキシ-5-ニトロフェニル)-N,N-ジエチルプロップ-2-エナミド)を、高脂肪食誘発肥満(diet induced obesity、DIO)動物モデルにおいて、酵素活性や細胞活性を含む生物活性の測定と組み合わせた構造に基づく仮想スクリーニング方法を用いてFTO阻害剤として同定し、開示した。我々はまた、以前、PCT/CN2015/082052において、関連活性を有するエンタカポンの誘導体を開示した。
【0003】
エンタカポンは、パーキンソン病の治療に用いられるカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(catechol-O-methyltransferase、COMT)阻害剤であり、一般的に、ドーパミン誘導体レボドパ(L-DOPA)又はカルビドパと組み合わせて投与される。Comtan Full Prescribing Information-Novartisを参照。国際公開2015095257号は、ドーパミンを用いて糖尿病又は糖尿病性網膜症を治療することを開示しており、実施形態において、ドーパミンは、エンタカポン、トルカポン又はニテカポンなどのCOMT阻害剤と組み合わせて投与される。
【0004】
本明細書では、黄斑変性症又は加齢性黄斑変性症を治療するためのエンタカポン及び関連製剤の使用について開示する。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、黄斑変性症、特に加齢性黄斑変性症を治療又は阻害(inhibit)するための、エンタカポン関連化合物、組成物及び方法を提供する。
【0006】
ある態様において、本発明は、黄斑変性症又は加齢性黄斑変性症の治療又は阻害が必要なヒトに対する、好ましくはパーキンソン病、肥満、糖尿病又は糖尿病網膜症ではないヒトに対する、エンタカポン、エンタカポン誘導体若しくは立体異性体、水素化物又はその薬学的に許容され得る塩の使用又は使用方法を提供する。
【0007】
本発明は多様なエンタカポン誘導体を用いて実施することができ、活性は経験的に容易に確認される。代表的な適した誘導体は、米国特許第5,112,861号明細書、国際公開第2007144169号、欧州特許出願公開第1978014A1号明細書及び国際公開第2016/206573号に開示されている。特定の実施形態では、誘導体はFTO阻害剤である。
【0008】
特定の実施形態では、エンタカポン誘導体が、国際公開2016/206573号の式Iの構造、その立体異性体、その水素化物又はその薬学的に許容され得る塩を含み、
【化1】
I
R1及びR2は独立したH又はMeであって、
R3はH、OH又はNHRであって、Rは、H又は、置換基を有していてもよく(optionally substituted)、ヘテロ基を有していてもよく、環状のC1-C18ヒドロカルビルを有していてもよく、
R4は置換基を有していてもよく、ヘテロ基を有していてもよく、環状のC1-C18ヒドロカルビルを有していてもよい。
【0009】
特定の実施形態では、エンタカポン誘導体が、米国特許第5112861号明細書の式Iの構造、その立体異性体、その水素化物又はその薬学的に許容され得る塩を含み、
【化2】
R1及びR2は独立した水素、2~5個の炭素原子を有するアルキルカルバモイル又は2~5個の炭素原子を有するアルキルカルボニルを表し、Xはニトロ又はシアノを表し、R3は、
【化3】
を表し、
R4はシアノ又は2~5個の炭素原子を有するアルキルカルボニルを表し、R5はシアノ;2~5個の炭素原子を有するアルキルカルボニル;又は、非置換のカルバモイル又は1~8個の炭素原子を含むアルキルで置換されたカルバモイル、若しくは、1~8個の炭素原子を含むヒドロキシアルキルで置換されたカルバモイルを表す。
【0010】
特定の実施形態では、エンタカポン誘導体が、国際公開第2007144169号の式(I)の構造、その立体異性体、その水素化物又はその薬学的に許容され得る塩を含み、
【化4】
(I)
Yは硫黄又は酸素であり、
R
1は下記式(II)の基、
【化5】
又は、YがSの場合は、R
1はさらにHで有り得、
R
2はH、又は、R
1と同一若しくは異なっていてもよい式IIの基であり、
R
3はそれぞれ独立して(C
1-C
20)アルキル、(CR
4R
5)
X-R
6、(C
1-C
20)-アルキレン-(C
1-C
20)-アルコキシ、(C
2-C
20)-アルケニル、(C
2-C
20)-アルキニル、(C
0-C
20)-アルキレン-(C
3-C
18)-シクロアルキル、(C
0-C
20)-アルキレン-(3-l8員環)-ヘテロシクロアルキル、(C
1-C
20)-アルキレン-(C
3-C
18)-シクロアルケニル、(C
0-C
20)-アルキレン-(3-18員環)-ヘテロシクロアルケニル、(C
0-C
20)-アルキレン-(C
6-C
18)-アリール(C
0-C
20)-アルキレン-(5-18員環)-ヘテロアリール、(C
2-C
20)-アルケニレン-(C
3-C
18)-シクロアルキル、(C
2-C
20)-アルケニレン-(3-18員環)-ヘテロシクロアルキル、(C
2-C
20)-アルケニレン-(C
3-C
18)-シクロアルケニル、(C
2-C
20)-アルケニレン-(3-18員環)-ヘテロシクロアルケニル、(C
2-C
20)-アルケニレン-(C
6-C
18)-アリール、又は(C
2-C
20)-アルケニレン-(5-18員環)-ヘテロアリール、であって、
R
3が有する炭素原子数の合計数は30以下であり、
R
4及びR
5は互いにそれぞれ独立して、H、(C
1-C
20)-アルキル、(C
1-C
20)-アルキレン-ヒドロキシ、(C
0-C
20)-アルキレン-(C
1-C
20)-アルコキシ、OH、(C
0-C
20)-アルキレン-N(R
7)CO-(C
1-C
20)-アルキル、(C
0-C
20)-アルキレン-CON(R
8)(R
9)、(C
0-C
20)-アルキレン-COO-(C
1-C
20)-アルキル、(C
0-C
20)-アルキレン-N(R
10)(R
11)、SO
3R
17、(C
0-C
20)-アルキレン-(C
6-C
18)-アリール及び(C
0-C
20)-アルキレン-(5-18員環)-ヘテロアリールを含む群から選択され、
又は、
(CR
4R
5)と同じ群のR
4及びR
5、又は、(CR
4R
5)とは異なる群のR
4及びR
5は、3~6個の原子を有する環状炭素若しくは複素環をともに形成してもよく、さらに、1以上の隣接していない(CR
4R
5)の群は、O、CO、OCO、COO、CON(R
19)、N(R
20)CO又はNR
21で置換されていてもよく、
R
6は独立してH、(C
1-C
20)-アルキル、(C
2-C
20)-アルケニル、(C
2-C
20)-アルキニル、OH、O-(C
1-C
8)-アルキル、O-(C
0-C
8)-アルキレン-(C
6-C
14)-アリール、CO-O-(C
1-C
8)-アルキル、CO-N(R
12)(R
13)、N(R
14)CO-(C
1-C
8)-アルキル、N(R
15)(R
16)、SO
3R
18、(C
0-C
20)-アルキレン-(5-18員環)-ヘテロアリール又は(C
0-C
20)-アルキレン-(C
6-C
18)-アリールであって、
R
7、R
14、R
17、R
18、R
19、R
20、R
21は互いに独立したH又は(C
1-C
20)-アルキルであり、
R
8、R
9、R
10、R
11、R
12、R
13、R
15、R
16は互いに独立したH又は(C
1-C
20)-アルキルであり、
R
22及びR
23はH及び(C
1-C
15)-アルキルを含む群から独立して選択され、
及び、
xは1~14であって、
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクロアルケニル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、アルケニレン基及びアルキレン基が、非置換又はさらに置換されていてもよい。
【0011】
一実施形態において、結果として生じる黄斑変性症の阻害を検出する工程をさらに含む使用。
【0012】
他の態様では、本発明は、
(a)エンタカポン、エンタカポン誘導体若しくは立体異性体、水素化物、又はその薬学的に許容され得る塩を含む眼科用組成物であって、前記組成物は、レボドパ(L-DOPA)又はカルビドパのような、ドーパミン又はドーパミン誘導体を含まず;
(b)エンタカポン、エンタカポン誘導体若しくは立体異性体、水素化物、又はその薬学的に許容され得る塩を含む局所眼科用組成物;又は、
(c)黄斑変性症又は加齢性黄斑変性症を治療又は阻害するための、第2の異なる薬剤と一緒に包装若しくは一緒に処方された、エンタカポン、エンタカポン誘導体若しくは立体異性体、水素化物、又はその薬学的に許容され得る塩を含む組成物;
を含む、医薬組成物又は医薬製剤を提供する。
【0013】
実施形態において:
・組成物又は製剤は、他の抗パーキンソン病薬、神経活性剤、抗肥満薬、抗糖尿病薬及び/又は他の活性医薬成分(API)を含まない。抗パーキンソン病薬は、例えば、L-DOPA、デプレニル、チロシンヒドロキシラーゼ、アポモルヒネ、トリヘキシフェニジル(benzhexol)やオルフェナドリンなどの抗コリン薬、及び、N-フェニル-7-(ヒドロキシルイミノ)シクロプロパ[b]クロメン-1a-カルボキサミド(PHCCC)などのmGluR4増強剤などを含み;
・組成物又は製剤は、点眼剤、軟膏剤、ゲル剤又は乳剤の、局所用の形態であり;
・組成物又は製剤は、硝子体内注射製剤又は眼内インプラント製剤の形態であり;
・組成物又は製剤は、エンタカポン、エンタカポン誘導体又はその薬学的に許容され得る塩が単位剤形であり;及び/又は
・組成物又は薬剤は、第2の薬剤が、レバシズマブ(revacizumab)、ラニビズマブ、ペガプタニブ及びアフリベルセプトから選択される抗血管新生薬(例えば、VEGF阻害剤)である。
【0014】
実施形態において、エンタカポン、エンタカポン誘導体若しくは立体異性体、水素化物、又はその薬学的に許容され得る塩は、点眼剤、軟膏剤、ゲル剤又は乳剤の局所用の形態で眼に投与されるか、又は、眼の硝子体若しくは強膜に投与される。例えば、硝子体内注射又は眼内インプラントや、強膜組織中における薬剤負荷固体インプラント(drug-loaded solid implants)の外科的な投与(surgical administration)(すなわち、強膜内部への送達(intrascleral delivery))により投与される。例えば、Falavarjani et al., Eye (2013) 27, 787-794; Adverse events and complications associated with intravitreal injection of anti-VEGF agents: a review of literature; Marra,et al. AAPS PharmSciTech. 2011 Mar; 12(1): 362-371. Solution Formulation Development of a VEGF Inhibitor for Intravitreal Injection等を参照。
【0015】
本発明は、それぞれが別々に、苦労して列挙(laboriously recited)されたように、本明細書に列挙された特定の実施形態のすべての組み合わせを包含する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】眼の血管の直径。値は平均値±標準誤差(n=10)として示されている。モデル群と比較、***p<0.001。
【
図2】血管径の回復率。値は平均値±標準誤差(n=10)として示されている。モデル群と比較、***p<0.001。
【0017】
<本発明の特定の実施形態の説明>
特定の実施形態及び実施例に関する以下の説明は、限定としてではなく例として提供されている。当業者は、本質的に同様の結果を得るために変更又は修正することができる様々な重要ではないパラメータを容易に認識するであろう。
【0018】
禁忌又は別段の記載が無い限り、これらの説明及び本明細書全体を通して、用語「a」及び「an」は1以上を意味し、用語「又は」は「及び/又は」を意味し、ポリヌクレオチド配列は、本明細書に記載されている逆ストランド(opposite strands)並びに代替骨格(alternative backbones)を包含するものと理解される。さらに、属(genuses)は属のすべてのメンバーの列挙の省略表現として列挙されている。例えば、(C1-C3)アルキルの列挙は、メチル、エチル及びプロピルと、その異性体を含むすべてのC1-C3アルキルの列挙の省略表現である。
【0019】
ヒドロカルビル基は、1~15個の炭素原子を含み、1以上のヘテロ原子をその炭素骨格に含んでいてもよい、置換若しくは非置換の、直鎖、分枝若しくは環状の、アルキル、アルケニル、アルキニル、アシル、アリール、アリールアルキル、アリールアルケニル、アリールアルキニル、アルキルアリール、アルケニルアリール又はアルキニルアリール基である。
【0020】
本明細書における用語「ヘテロ原子(heteroatom)」は、一般に、炭素又は水素以外のすべての原子を意味する。ヘテロ原子は、好ましくは、酸素(O)、リン(P)、硫黄(S)、窒素(N)及びハロゲンを含み、また、ヘテロ原子官能基は、好ましくは、ハロホロミル(haloformyl)、ヒドロキシル、アルデヒド、アミン、アゾ、カルボキシル、シアニル、チオシアニル、カルボニル、ハロ、ヒドロペルオキシル、イミン、アルジミン、イソシアニド、イスシアンテ(iscyante)、硝酸、ニトリル、亜硝酸、ニトロ、ニトロソ、リン酸、ホスホノ、スルフィド、スルホニル、スルホ及びスルフヒドリルを含む。
【0021】
それ自体、又は他の置換基の一部としての用語「アルキル」は、別段の記載が無い限り、指定された数の炭素原子を有し(すなわち、C1~C8は1~8個の炭素を意味する)、完全飽和された、直鎖若しくは分子鎖又は環状の炭化水素基(hydrocarbon radical)又はそれらの組み合わせを意味する。アルキル基の例には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、t-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、シクロヘキシル、(シクロヘキシル)メチル、シクロプロピルメチル並びにその同族体(homologs)及び異性体、例えば、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチルなどを含む。
【0022】
それ自体、又は他の置換基の一部としての用語「アルケニル」は、指定された数の炭素原子を有し(すなわち、C2~C8は2~8個の炭素を意味する)、1以上の二重結合を有する、一不飽和又は多価不飽和であってもよい直鎖若しくは分子鎖又は環状の炭化水素基、又はそれらの組み合わせを意味する。アルケニル基の例には、ビニル、2-プロペニル、クロチル、2-イソペンテニル、2-(ブタジエニル)、2,4-ペンタジエニル、3-(1,4-ペンタジエニル)並びにその高級同族体及び異性体を含む。
【0023】
それ自体、又は他の置換基の一部としての用語「アルキニル」は、指定された数の炭素原子を有し(すなわち、C2~C8は2~8個の炭素を意味する)、1以上の三重結合を有する、一不飽和又は多価不飽和であってもよい直鎖若しくは分子鎖の炭化水素基又はそれらの組み合わせを意味する。アルキニル基の例には、エチニル、1-プロピニル及び3-プロピニル、3-ブチニル並びにその高級同族体及び異性体を含む。
【0024】
それ自体、又は他の置換基の一部としての用語「アルキレン」は、アルキルから誘導される二価の基を意味し、例えば、-CH2-CH2-CH2-CH2-が挙げられる。典型的には、アルキル(又はアルキレン)基は1~24個の炭素原子を有し、それらの基が10個以下の炭素原子を有することが、本発明では好ましい。「低級アルキル」又は「低級アルキレン」は、より短鎖のアルキル基又はアルキレン基であり、通常8個以下の炭素原子を有する。
【0025】
用語「アルコキシ」、「アルキルアミノ」及び「アルキルチオ」(又はチオアルコキシ)は、それらの従来の意味で用いられ、それぞれ、酸素原子、アミノ基又は硫黄原子を介して、分子の残部に結合したアルキル基を指す。
【0026】
それ自体、又は他の用語と組み合わせた用語「ヘテロアルキル」は、別段の記載が無い限り、前述の数の炭素原子及びO、N、P、Si及びSを含む群から選択される1~3個のヘテロ原子であって、安定な直鎖若しくは分子鎖又は環状の炭化水素基又はそれらの組み合わせを意味し、窒素、硫黄及び亜リン酸原子は酸化されていてもよく、窒素ヘテロ原子は四級化されていてもよい。ヘテロ原子(単数又は複数)O、N、P及びSは、ヘテロアルキル基の任意の内部の位置に配置されていてもよい。ヘテロ原子Siは、アルキル基が分子の残部に結合した位置を含め、ヘテロアルキル基の任意の位置に配置されていてもよい。例としては、-CH2-CH2-O-CH3、-CH2-CH2-NH-CH3、-CH2-CH2-N(CH3)-CH3、-CH2-S-CH2-CH3、-CH2-CH2,-S(O)-CH3、-CH2-CH2-S(O)2-CH3、-CH=CH-O-CH3、-Si(CH3)3、-CH2-CH=N-OCH3及び-CH=CH-N(CH3)-CH3を含む。2個までのヘテロ原子が連続していてもよく、例えば、-CH2-NH-OCH3や-CH2-O-Si(CH3)3などである。
【0027】
同様に、それ自体、又は他の置換基の一部としての用語「ヘテロアルキレン」は、ヘテロアルキルから誘導された二価の基を意味し、例えば、-CH2-CH2-S-CH2-CH2-や-CH2-S-CH2-CH2-NH-CH2-が挙げられる。ヘテロアルキレン基については、ヘテロ原子が鎖末端の一方又は両方を占めることもできる(例えば、アルキレンオキシ、アルキレンジオキシ、アルキレンアミノ、アルキレンジアミノなど)。さらに、アルキレン及びヘテロアルキレン連結基については、連結基の配向性は示唆されていない。
【0028】
それ自体、又は他の用語と組み合わせた用語「シクロアルキル」及び「ヘテロシクロアルキル」は、別段の記載が無い限り、それぞれ、「アルキル」及び「ヘテロアルキル」の環状バージョンを表す。したがって、シクロアルキル基は指定された数の炭素原子を有し(すなわち、C3~C8は、3~8個の炭素を意味する)、1個又は2個の二重結合を有していてもよい。ヘテロシクロアルキル基は、指定された数の炭素原子、並びにO、N、Si及びSを含む群から選択される1~3個のヘテロ原子を含み、窒素原子及び硫黄原子は酸化されていてもよく、窒素ヘテロ原子は四級化されていてもよい。さらに、ヘテロシクロアルキルについては、ヘテロ原子は、複素環が分子の残部に結合した位置を占めることができる。シクロアルキルの例は、シクロペンチル、シクロヘキシル、1-シクロヘキセニル、3-シクロヘキセニル、シクロヘプチルなどを含む。ヘテロシクロアルキルの例は、1-(1,2,5,6-テトラヒドロピリジル)、1-ピペリジニル、2-ピペリジニル、3-ピペリジニル、4-モルフォリニル、3-モルフォリニル、テトラヒドロフラン-2-イル、テトラヒドロフラン-3-イル、テトラヒドロチエン-2-イル、テトラヒドロチエン-3-イル、1-ピペラジニル、2-ピペラジニルなどを含む。
【0029】
それら自体、又は他の置換基の一部としての用語「ハロ」及び「ハロゲン」は、別段の記載が無い限り、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素原子を意味する。さらに、「ハロアルキル」などの用語は、1から(2m’+1)個の範囲の数の、同一でも異なっていてもよいハロゲン原子で置換されたアルキルを含むことを意味する。ここでm’は、アルキル基中の炭素原子の総数である。例えば、用語「ハロ(C1-C4)アルキル」は、トリフルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、4-クロロブチル、3-ブロモプロピルなどを含むことを意味する。したがって、用語「ハロアルキル」は、ハロアルキル(1個のハロゲン原子で置換されたアルキル)と、ポリハロアルキル(2個から(2m’+1)個の範囲の数のハロゲン原子で置換されたアルキルであって、m’はアルキル基中の炭素原子の総数である)とを含む。用語「ペルハロアルキル(perhaloalkyl)」は、別段の記載が無い限り、(2m’+1)個のハロゲン原子で置換されたアルキルであって、m’はアルキル基中の炭素原子の総数である。例えば、用語「パーハロ(C1-C4)アルキル」は、トリフルオロメチル、ペンタクロロエチル、1,1,1-トリフルオロ-2-ブロモ-2-クロロエチルなどを含むことを意味する。
【0030】
用語「アシル」は、酸のヒドロキシ部を除いた有機酸から誘導されるそれらの基を指す。したがって、アシルには、例えば、アセチル、プロピオニル、ブチリル、デカノイル、ピバロイル、ベンゾイルなどを含むことを意味する。
【0031】
用語「アリール」は、別段の記載が無い限り、共に縮合又は共有結合的に結合されている、単環でも多環(3環まで)でもよい、多価不飽和の、典型的には芳香族炭化水素置換基を意味する。アリール基の非限定的な例は、フェニル、1-ナフチル、2-ナフチル、4-ビフェニル及び1,2,3,4-テトラヒドロナフタレンを含む。
【0032】
用語「ヘテロアリール」は、N、O及びSから選択される0~4個のヘテロ原子を含むアリール基(又は環)を指し、窒素及び硫黄原子は酸化されていてもよく、窒素ヘテロ原子は四級化されていてもよい。ヘテロアリール基は、ヘテロ原子を介して分子の残部に結合することができる。ヘテロアリール基の非限定的な例は、1-ピロリル、2-ピロリル、3-ピロリル、3-ピラゾリル、2-イミダゾリル、4-イミダゾリル、ピラジニル、2-オキサゾリル、4-オキサゾリル、2-フェニル-4-オキサゾリル、5-オキサゾリル、3-イソオキサゾリル(isoxazolyl)、4-イソオキサゾリル、5-イソオキサゾリル、2-チアゾリル、4-チアゾリル、5-チアゾリル、2-フリル、3-フリル、2-チエニル、3-チエニル、2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジル、2-ピリミジル、4-ピリミジル、5-ベンゾチアゾリル、プリニル(purinyl)、2-ベンゾイミダゾリル(benzimidazolyl)、5-インドリル、1-イソキノリル、5-イソキノリル、2-キノキサリニル、5-キノキサリニル、3-キノリル及び6-キノリルを含む。
【0033】
簡潔のため、用語「アリール」が他の用語と組み合わせて用いられる場合(例えば、アリールオキシ、アリールチオキシ、アリールアルキル)は、上記で定義されたように、アリール環及びヘテロアリール環の両方を含む。したがって、用語「アリールアルキル」は、アリール基がアルキル基に結合している基(例えば、ベンジル、フェネチル、ピリジルメチルなど)を含み、炭素原子(例えば、メチレン基)が例えば酸素原子(例えば、フェノキシメチル、2-ピリジルオキシメチル、3-(1-ナフチルオキシ)プロピルなど)で置換されているアルキル基を含むことを意味する。
【0034】
上記各用語(例えば、「アルキル」「ヘテロアルキル」「アリール」及び「ヘテロアリール」)は、示された基の置換型及び非置換型の両方を含むことを意味する。各種類の基に対する好ましい置換基を以下に提供する。
【0035】
アルキル基及びヘテロアルキル基(同様に、アルキレン、アルケニル、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、シクロアルケニル及びヘテロシクロアルケニルと呼ばれる基)の置換基は、-OR’、=O、=NR’、=N-OR’、-NR’R”、-SR’、ハロゲン、-SiR’R”R’”、-OC(O)R’、-C(O)R’、-CO2R’、-CONR’R”、-OC(O)NR’R”、-NR”C(O)R’、-NR’-C(O)NR”R’”、-NR’-SO2NR’”、-NR”CO2R’、-NH-C(NH2)=NH、-NR’C(NH2)=NH、-NH-C(NH2)=NR’、-S(O)R’、-SO2R’、-SO2NR’R”、-NR”SO2R、-CN及び-NO2から選択される種々の基とすることができ、0~3個の範囲の数であり、0個、1個又は2個の置換基を有する基が特に好ましい。R’、R”及びR’”は、それぞれ独立して、水素、非置換の(C1-C8)アルキル及びヘテロアルキル、非置換のアリール、1~3個のハロゲンで置換されたアリール、非置換のアルキル、アルコキシ若しくはチオアルコキシ基、又はアリール-(C1-C4)アルキル基を指す。R’及びR”が同一の窒素原子に結合した場合、当該窒素原子と結合して5、6又は7員環を形成することができる。例えば、-NR’R”は、1-ピロリジニル及び4-モルフォリニルを含むことを意味する。典型的には、アルキル又はヘテロアルキル基は0~3個の置換基を有し、2個以下の置換基を有する基が、本発明において好ましい。より好ましくは、アルキル又はヘテロアルキル基は、非置換又は一置換であろう。最も好ましくは、アルキル又はヘテロアルキル基は、非置換であろう。以上の置換基についての記載より、当業者は用語「アルキル」はトリハロアルキル(例えば、-CF3や-CH2CF3)などの基を含むことを意味すると理解するであろう。
【0036】
アルキル基及びヘテロアルキル基の好ましい置換基は、-OR’、=O、-NR’R”、-SR’、ハロゲン、-SiR’R”R’”、-OC(O)R’、-C(O)R’、-CO2R’、-CONR’R”、-OC(O)NR’R”、-NR”C(O)R’、-NR”CO2R’、-NR’-SO2NR”R’”、-S(O)R’、-SO2R’、-SO2NR’R”、-NR”SO2R、-CN及び-NO2から選択され、R’及びR”は、上記で定義された通りである。さらに好ましい置換基は、-OR’、=O、-NR’R”、ハロゲン、-OC(O)R’、-CO2R’、-CONR’R”、-OC(O)NR’R”、-NR”C(O)R’、-NR”CO2R’、-NR’-SO2NR”R’”、-SO2R’、-SO2NR’R”、-NR”SO2R、-CN及び-NO2から選択される。
【0037】
同様に、アリール基及びヘテロアリール基の置換基は多様であり、0個から芳香族環系の開放原子価(open valences)の総数の範囲の数で、ハロゲン、-OR’、-OC(O)R’、-NR’R”、-SR’、-R’、-CN、-NO2、-CO2R’、-CONR’R”、-C(O)R’、-OC(O)NR’R”、-NR”C(O)R’、-NR”CO2R’、-NR’-C(O)NR”R’”、-NR’-SO2NR”R’”、-NH-C(NH2)=NH、-NR’C(NH2)=NH、-NH-C(NH2)=NR’、-S(O)R’、-SO2R’、-SO2NR’R”、-NR”SO2R、-N3、-CH(Ph)2、パーフルオロ(C1-C4)アルコキシ及びパーフルオロ(C1-C4)アルキルから選択され、R’、R”及びR’”は独立して、水素、(C1-C8)アルキル及びヘテロアルキル、非置換のアリール及びヘテロアリール、(非置換のアリール)-(C1-C4)アルキル並びに(非置換のアリール)オキシ-(C1-C4)アルキルから選択される。アリール基が1,2,3,4-テトラヒドロナフタレンである場合、置換若しくは非置換の(C3-C7)スピロシクロアルキル基によって置換されてもよい。当該(C3-C7)スピロシクロアルキル基は、本明細書において「シクロアルキル」について定義したのと同様に置換されていてもよい。典型的には、アリール基又はヘテロアリール基は0~3個の置換基を有し、2個以下の置換基を有することが本発明では好ましい。本発明の一態様においては、アリール基若しくはヘテロアリール基は非置換又は一置換であろう。他の態様においては、アリール基又はヘテロアリール基は非置換であろう。
【0038】
アリール基及びヘテロアリール基の好ましい置換基は、ハロゲン、-OR’、-OC(O)R’、-NR’R”、-SR’、-R’、-CN、-NO2、-CO2R’、-CONR’R”、-C(O)R’,-OC(O)NR’R”、-NR”C(O)R’、-S(O)R’、-SO2R’、-SO2NR’R”、-NR”SO2R、-N3、-CH(Ph)2、パーフルオロ(C1-C4)アルコキシ及びパーフルオロ(C1-C4)アルキルから選択され、R’及びR”は、上記で定義された通りである。さらに好ましい置換基は、ハロゲン、-OR’、-OC(O)R’、-NR’R”、-R’、-CN、-NO2、-CO2R’、-CONR’R”、-NR”C(O)R’、-SO2R’、-SO2NR’R”、-NR”SO2R、パーフルオロ(C1-C4)アルコキシ及びパーフルオロ(C1-C4)アルキルから選択される。
【0039】
本明細書にて使用される置換基-CO2Hは、そのため、生物学的等価性の置換(bioisosteric replacements)を含む。例えば、The Practice of Medicinal Chemistry; Wermuth, C. G., Ed.; Academic Press: New York, 1996; p. 203を参照。
【0040】
アリール環又はヘテロアリール環の隣接する原子上の置換基のうちの2つが、式-T-C(O)-(CH2)q-U-の置換基で置換されていてもよく、T及びUは独立して、-NH-、-O-、-CH2-又は一重結合であり、qは0~2の整数である。あるいは、アリール環又はヘテロアリール環の隣接する原子上の置換基のうちの2つが、式-A-(CH2)r-B-の置換基で置換されていてもよく、A及びBは独立して、-CH2-、-O-、-NH-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、-S(O)2NR’-又は一重結合であり、rは1~3の整数である。このように形成された新たな環の一重結合のうちの1つは、二重結合に置換されてもよい。あるいは、アリール環又はヘテロアリール環の隣接する原子上の置換基のうちの2つが、式-(CH2)s-X-(CH2)t-の置換基で置換されていてもよく、s及びtは独立して、0~3の整数であり、Xは-O-、-NR’-、-S-、-S(O)-、-S(O)2-、又は-S(O)2NR’-である。
-NR’-及び-S(O)2NR’における置換基R’は、水素又は非置換の(C1-C6)アルキルから選択される。
【0041】
好ましい置換基が本明細書に開示され、また、表、構造、実施例及び請求項に例示され、本発明の種々の化合物にも適用し得る。すなわち、いずれの所与の化合物の置換基も、他の化合物と組み合わせて使用され得る。
【0042】
特定の実施形態において、適用可能な置換基は独立して、置換若しくは非置換のヘテロ原子、置換若しくは非置換のヘテロ原子C1-C6アルキルを有していてもよく、置換若しくは非置換のヘテロ原子C2-C6アルケニルを有していてもよく、置換若しくは非置換のヘテロ原子C2-C6アルキニルを有していてもよく、又は置換若しくは非置換のヘテロ原子C6-C14アリールを有していてもよく、ヘテロ原子は独立して、酸素、リン、硫黄若しくは窒素である。
【0043】
さらに特定の実施形態では、適用可能な置換基は独立して、アルデヒド、アルジミン、アルカノイルオキシ、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アルキルオキシ、アルキル、アミン、アゾ、ハロゲン、カルバモイル、カルボニル、カルボキシアミド、カルボキシル、シアニル、エステル、ハロ、ハロホロミル(haloformyl)、ヒドロペルオキシル、ヒドロキシル、イミン、イソシアニド、イスシアンテ(iscyante)、N-ターシャル(tert)-ブトキシカルボニル、硝酸、ニトリル、亜硝酸、ニトロ、ニトロソ、リン酸、ホスホノ、スルフィド、スルホニル、スルホ、スルフヒドリル、チオール、チオシアニル(thiocyanyl)、トリフルオロメチル又はトリフルロメチル(trifluromethyl)エーテル(OCF3)である。
【0044】
用語「薬学的に許容され得る塩」は、本明細書に記載の化合物で見出された特定の置換基に応じて、比較的無毒の酸若しくは塩基によって調製され、医薬用途に適した活性化合物の塩を含むことを意味する。本発明の化合物が比較的酸性の官能基(functionalities)を含む場合、そのような化合物の中性形態と、十分な量の所望の塩基とを、そのまま(neat)若しくは適した不活性溶媒中において接触させることによって、塩基付加塩(base addition salts)を得ることができる。薬学的に許容され得る塩基付加塩の例は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、アンモニウム、有機アミノ又はマグネシウム塩又は類似の塩を含む。本発明の化合物が比較的塩基性の官能基を含む場合、そのような化合物の中性形態と、十分な量の所望の酸とを、そのまま若しくは適した不活性溶媒中において接触させることによって、酸付加塩(acid addition salts)を得ることができる。薬学的に許容され得る酸付加塩の例は、無機酸から誘導される、塩酸、臭化水素酸、硝酸、炭酸、炭酸一水素酸(monohydrogencarbonic)、リン酸、リン酸一水素酸(monohydrogenphosphoric)、リン酸二水素酸(dihydrogenphosphoric)、硫酸、硫酸一水素酸(monohydrogensulfuric)、ヨウ化水素酸、又は亜リン酸などを含み、同様に、比較的無毒性の有機酸から誘導される塩の例は、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、安息香酸、コハク酸、スベリン酸、フマル酸、マンデル酸、フタル酸、ベンゼンスルホン酸、p-トリルスルホン酸(p-tolylsulfonic)、クエン酸、酒石酸、メタンスルホン酸などを含む。また、アルギネート酸塩(arginate)などのアミノ酸塩や、グルクロン酸又はグルクロニック酸(galactunoric acids)などの有機酸塩も含まれる。本発明のある特定の化合物は、塩基及び酸の両方の官能基を含み、それにより化合物を塩基付加塩若しくは酸付加塩に変換することができる。
【0045】
化合物の中性形態(neutral forms)は、従来のように塩を、塩基若しくは酸と接触させて親化合物を単離することによって再生させることができる。親形態(parent form)の化合物は、極性溶媒中の溶解度などのある物理的性質において種々の塩形態(salt forms)とは異なるが、しかし、それ以外は、塩は本発明の目的のための化合物の親形態と等価である。
【0046】
塩形態に加えて、本発明はプロドラッグ形態の化合物を提供する。本明細書に記載の化合物のプロドラッグは、生理学的条件下で化学変化を受けて本発明の化合物を提供する化合物である。さらに、プロドラッグは、生体外(ex vivo)の環境において、化学的又は生化学的な方法によって本発明の化合物に変換することができる。例えば、プロドラッグは、経皮吸収型貼付剤のリザーバーに適した酵素又は化学試薬とともに入れた場合、本発明の化合物にゆっくりと変換することができる。プロドラッグは、いくつかの状況では、親薬剤(parent drug)に比べてより投与が容易で有り得るため、しばしば有用である。それらは例えば、親薬剤に比べ、経口投与によって生体利用可能で有り得る。プロドラッグはまた、親薬剤よりも薬理学的化合物での改善された溶解度を有し得る。プロドラッグの加水切断又は酸化的活性化によるものなど、多種多様なプロドラッグ誘導体が当技術分野では周知である。プロドラッグの例は、限定されないが、エステル(「プロドラッグ」)として投与される本発明の化合物で有り得、次いで代謝的に加水分解され、活性物質であるカルボン酸になる。さらなる例には、本発明の化合物のペプチジル誘導体を含む。
【0047】
本発明のある化合物は、非溶媒和化合物の形態及び、水和物の形態を含む溶媒和化合物の形態で存在することができる。一般に、溶媒和形態は非溶媒和形態と等価であり、本発明の範囲に包含されるように意図されるものである。本発明のある化合物は、複数の結晶形態又はアモルファス形態で存在してもよい。一般に、すべての物理的な形態は、本発明によって考えられる使用と等価であり、本発明の範囲に包含されるように意図されるものである。
【0048】
対象の化合物のいくつかは、不斉炭素原子(光学中心)又は二重結合を有する。ラセミ体、ジアステレオマー、幾何異性体及び、明確に指定された若しくは示されたキラリティーが好ましく、多くの場合で最適な活性に重要な意味を持つ。しかしながら、すべてのこのような異性体は、本発明の範囲に包含されるように意図されるものである。
【0049】
本発明の化合物はまた、そのような化合物を構成する1以上の原子において、非天然な割合(unnatural proportions)の同位体原子を含み得る。例えば、当該化合物は、例としてトリチウム(3H)、ヨウ素-125(125I)若しくは炭素-14(14C)のような放射性同位元素によって放射標識されてもよい。本発明の化合物のすべての同位体のバリエーションは、放射性であるか否かにかかわらず、本発明の範囲に包含されるように意図されるものである。
【0050】
用語「治療有効量」は、投薬の際などに研究者、獣医師、医師若しくは他の臨床医によって求められる、組織、系、動物若しくはヒトの生体反応若しくは医学的応答(medical response)を著しい程度に引き出し、治療される1以上の病気の症状若しくは疾患の発生を予防するために十分な、又はある程度軽減する、対象の化合物の量を指す。治療有効量は、化合物、疾患及びその重症度、並びに治療される哺乳動物の年齢や体重等によって異なるであろう。
【0051】
本発明はまた、対象の化合物及び薬学的に許容され得る賦形剤を含む医薬組成物を提供し、特に、そのような組成物は対象の化合物を単位投与量(unit dosage)含み、特に、そのような組成物は、(本明細書中の)適用可能な疾患(disease)又は病気(condition)を治療するための当該組成物の使用を説明する説明書とともに包装される。
【0052】
投与のための組成物は、バルク溶液若しくは懸濁液、又はバルク粉剤の形態をとることができる。しかし、より一般的には、組成物は正確な投与を容易にするための単位剤形(unit dosage form)で提供される。用語「単位剤形」は、ヒト対象者及び他の哺乳動物への単位投与量として適した、物理的に別々の単位を指し、各単位は、所望の治療効果を生じさせるように計算された、予め決められた量の有効物質(active material)を、適した賦形剤(excipient)とともに含む。典型的な単位剤形は、液体組成物の場合は予め充填され、予め計量されたアンプル若しくはシリンジを含み、又は、固形組成物の場合は丸剤、錠剤、カプセル剤、菱形剤(lozenges)などを含む。このような組成物において、化合物は通常微量な成分(約0.1~約50重量%、又は好ましくは約1~約40重量%)であり、残部が、所望の剤形を形成するために有益な賦形剤(vehicles)若しくは担体及び加工助剤である。
【0053】
適した賦形剤若しくは担体及び投与可能な組成物の製造方法が公知であるか、当業者に明らかであって、例えばRemington's Pharmaceutical Science, Mack Publishing Co, NJ (1991)に、より詳細に記載されている。さらに、化合物は、本明細書に記載の他の治療剤又は当該技術分野で既知のもの、特に他の抗ネクローシス剤と組み合わせて有利に使用され得る。したがって、組成物は別々に、一緒に、又は単一投与単位中で併用されて、投与され得る。
【0054】
投与される量は、化合物の処方や投与経路などによるものであり、一般に、ルーチン的な試験によって経験的に決定され、標的、宿主及び投与経路によってバリエーションが必ず生じるであろう。一般に、製剤の単位投与量における活性化合物の量は、特定の適用によって、約1、5、25若しくは100~約5、25、100、500、1000若しくは2000mgまで、変動若しくは調整され得る。特定の実施形態において、単位剤形は、少なくとも6、9又は12単位剤形のシートを含むブリスターパックなどの、連続的な使用に適合するマルチパックにパッケージされる。用いられる実際の投与量は、患者の必要量、及び、治療する病気の重症度に応じて異なり得る。特定の状態のための適切な投与量の決定は、当業者の範囲内である。一般に、治療は、化合物の最適な投与量より、より少量の投与量から開始される。その後、その状況下で最適な効果に達するまで、投与量が少量ずつ増加される。利便性のため、所望する場合は、1日の総投与量を分割し、1日の間に一部ずつ投与することができる。
【0055】
化合物は、限定されないが、予防及び/又は治療用処置のために、非経口投与、局所的(topical)投与、経口投与、又は、噴霧剤(エアロゾル)若しくは経皮的などの局所(local)投与を含む多様な方法で投与することができる。また、熟練した臨床医の知識によって、治療プロトコール(例えば、投与量及び投与時間)は、患者に投与された治療薬の観察された効果、及び、投与された治療薬に対する疾患の観察された応答を考慮して、変更することができる。
【0056】
本発明の治療は、患者を治療するために治療効果があるプロトコールのプロセスにおいて、治療効果がある投与量及び量を投与することができる。最適な投与量は化合物特異的であり、一般に各化合物に関して経験的に決定されるが、より効能がある化合物については、患者1キログラムあたりマイクログラム(μg)の量、例えば、患者の体重について、約1、10、100、1000、10000、20000μg/kg~約10、100、1000、10000、20000又は80000μg/kgの範囲で十分で有り得る。
【0057】
一般に、臨床試験でのルーチン的な実験では、最適な治療効果のため、各治療のため、各投与プロトコールのための特定の範囲を決定し、また、特定の患者への投与では、患者の状態、及び初期投与に対する応答性に応じて、効果的であり安全な範囲に調整されるであろう。しかし、最終的な投与プロトコールは、患者の年齢、状態及びサイズ、並びに化合物の効力、治療される疾患の重症度などの要因を考慮する主治医の判断に従って調節されるであろう。例えば、化合物の投与量レジメンは、2~4(好ましくは2)の分割投与で、10mg~2000mg/日、好ましくは、10~1000mg/日、さらに好ましくは、50~600mg/日の経口投与とすることができる。また、間欠療法(例えば、3週間のうち1週間、又は、4週間のうち3週間)も用いられ得る。
【0058】
特定の実施形態において、対象のエンタカポン誘導体が、国際公開2016/206573号の式Iの構造、その立体異性体、その水素化物又はその薬学的に許容され得る塩を含む。
【化6】
I
(a)
R1及びR2は独立したH又はMeであって、
R3はOH又はNHRであって、Rは、H又は置換基を有していてもよく、ヘテロ基を有していてもよく、環状のC1-C18ヒドロカルビルを有していてもよく、
R4は置換基を有していてもよく、ヘテロ基を有していてもよく、環状のC1-C18ヒドロカルビルを有していてもよい。
(b)
R1及びR2は独立したH又はMeであって、
R3はH、OH又はNHRであって、Rは、H又はC1-C4アルキルであって、
R4はCONHR5であって、
R5は置換基を有していてもよく、ヘテロ基を有していてもよく、環状のC1-C18ヒドロカルビルを有していてもよい。
(c)
R1及びR2は独立したH又はMeであって、
R3はH、OH又はNHRであって、Rは、H又はC1-C4アルキルであって、
R4はCOR5であって、
R5は置換基を有していてもよく、N、O、S及びPから独立に選択される1~n-1個のヘテロ原子を含むn=3~18のn員環を含む複素環のC3-C18ヒドロカルビルである。又は、
(d)
R1及びR2は独立したH又はMeであって、
R3はH、OH又はNHRであって、Rは、H又はC1-C4アルキルであって、
R4は置換基を有していてもよく、N、O、S及びPから独立に選択される1~n-1個のヘテロ原子を含むn=3~18のn員環を含む複素環のC3-C18ヒドロカルビルであって、特に、阻害剤から除外される化合物は、CAS番号:1364322-41-7、1150310-12-5、1150310-15-8及び143542-72-7である。
【0059】
阻害剤又は組成物の実施形態において、複素環のC3-C18ヒドロカルビルは、
置換基を有していてもよい3員環:アジリジン、オキシラン、オキサジリジン;
置換基を有していてもよい4員環:アゼチジン、オキセタン、オキサゼチジン;
置換基を有していてもよい5員環:ピロール、1,2-ジアゾ-ル(ピラゾール)、1,3ジアゾ-ル(イミダゾール)、チアゾール、イソチアゾール、オキサゾール、イソキサゾール、フラン、ジオキソール、チオフェン;
置換基を有していてもよい6員環:ピリジン、ジアジン、トリアジン、オキサジン、チアジン、ダイオキシン、オキサチイン(oxathiine)、ジチイン(dithiine);
置換基を有していてもよい9員環:インドール、ベンゾチアゾール、ベンゾオキサゾール(benzooxazole)、ベンゾフラン、ベンゾジオキソール、ベンゾチオフェン、ベンゾジチオール;又は
置換基を有していてもよい10員環:キノリン、キノキサリン、キナゾリン、クロメン、ベンゾジオキシン、チオクロメン、ベンゾジチイン(benzodithiine)、を含む。
【0060】
阻害剤又は組成物の実施形態において、置換基を有していてもよく、ヘテロ基を有していてもよく、環状のC1-C18ヒドロカルビルを有していてもよい、のそれぞれの例は、1~5個の窒素原子を含むN、S、O若しくはPである1~5個のヘテロ原子を含み、又は、炭化水素で置換されたヘテロ原子を含む、置換基を有していてもよいC1-C9アルキル、C2-C9アルケニル、C2-C9アルキニル若しくはC5-C14アリール炭化水素である。
【0061】
阻害剤又は組成物の実施形態において、R1及びR2のうちの片方又は両方がHであって、
R3がOHであって、及び/又は
RがH又はC1-C4アルキル、特にMeである。
【0062】
本発明は、それぞれが別々に、苦労して列挙(laboriously recited)されたように、本明細書に列挙された特定の実施形態のすべての組み合わせを包含する。例えば、サブセクション(a)はR1及びR2がHであって;R3がNH2であって;及び、R4がピリジンである6員環である、という組み合わせを包含する。また、サブセクション(d)は、R1及びR2がMeであって;R3がOHであって;及び、R4が1,3ジアゾ-ルであるという組み合わせを包含する。
【0063】
実施形態の阻害剤は、以下の表のものである。
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
<化合物の準備>
欧州特許出願公開第1978014号明細書に、エンタカポンの準備方法が開示されており、代表的な誘導体の合成方法は、国際公開第2016/206573号に十分に開示されているため、本明細書では繰り返さない。
【0070】
<治療活性(Therapeutic Activity)>
我々は、低酸素誘導網膜症ゼブラフィッシュモデル(Cao et al., Hypoxia-induced retinopathy model in adult zebrafish. Nat Protoc 2010, 5 (12), 1903-10)において、エンタカポン及び代表的なエンタカポン誘導体の治療効果を測定した。
【0071】
我々は、エンタカポン及びいくつかの代表的なエンタカポン誘導体の治療効果を、低酸素誘導網膜症ゼブラフィッシュモデルにおいて測定した。遺伝子組換えTg(fli1a:EGFP)ゼブラフィッシュは、網膜症を誘発するために4日間、塩化コバルトで処理された。ゼブラフィッシュは、5μM、15μM及び50μMの一連の濃度で、4日間、塩化コバルトと、エンタカポン若しくは誘導体とによって処理された。ポジティブコントロールとして、ゼブラフィッシュは塩化コバルトと、0.3μg/mLのジギタリン及び2μg/mLのエスクリンを含む、100μL/mLの点眼薬(augentropfen)シュトゥルン モノ(stulln mono)とによって処理された。
【0072】
モデル群の眼の血管の直径(22.40)は、未処理群(17.08、p < 0.001)より有意に大きく、モデル群の眼球の体積は、未処理のコントロール群より小さく、モデル群の内網状層及び外網状層は、未処理のコントロール群より薄かった。ポジティブコントロールとして、点眼薬シュトゥルン モノは、網膜の血管新生を阻害し、網膜構造を回復した(表1)。
【0073】
4日間の処理後、5μM、10μM及び50μMの濃度のエンタカポンで処理したゼブラフィッシュでは、網膜の血管の直径は19.33、17.39及び17.47であり(p < 0.001、モデル群と比較)、血管の直径の回復率は、それぞれ58%、94%及び93%であった(
図1)。眼球の体積は、エンタカポン処理後はより大きかった(
図2)。内網状層及び外網状層は、エンタカポン処理群ではモデル群よりも厚かった。代表的なエンタカポン誘導体の結果は一致しており、エンタカポン及びその活性誘導体は、低酸素誘導による網膜血管新生を抑制し、網膜症の病理組織学を向上させることを示している。
【0074】
【0075】
本明細書に記載の実施例及び実施形態は、説明目的のためであり、それを考慮した種々の修正又は変更が当業者に示唆され得、精神及び本明細書の範囲及び付加的な請求項の範囲を含むものであると理解される。本明細書に引用されているすべての刊行物、特許及び特許出願は、その中の引用文献を含み、これによって、すべての目的のために参照によりその全体を包含するものである。