(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】3-ヒドロキシイソ吉草酸の一価カチオン塩の結晶および該結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 51/43 20060101AFI20220802BHJP
C07C 59/01 20060101ALI20220802BHJP
C07C 51/347 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
C07C51/43
C07C59/01
C07C51/347
(21)【出願番号】P 2021030365
(22)【出願日】2021-02-26
(62)【分割の表示】P 2017551951の分割
【原出願日】2016-11-18
【審査請求日】2021-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2015226876
(32)【優先日】2015-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016108805
(32)【優先日】2016-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】308032666
【氏名又は名称】協和発酵バイオ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000149435
【氏名又は名称】株式会社大塚製薬工場
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横井 友哉
(72)【発明者】
【氏名】長野 宏
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆雪
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-536065(JP,A)
【文献】国際公開第2014/166273(WO,A1)
【文献】特表2014-525410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/00
C07C 59/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)pHが4.0~10.0である一価カチオン含有化合物を含むHMBの水溶液を20~60℃で減圧濃縮することにより、前記水溶液中に前記HMB一価カチオン塩の結晶を析出させる工程、及び、前記水溶液からHMB一価カチオン塩の結晶を採取する工程を含むか、または
(ii)pHが4.0~10.0である一価カチオン含有化合物を含むHMBの水溶液に、種晶としてHMB一価カチオン塩の結晶を添加する工程、前記水溶液中に前記HMB一価カチオン塩の結晶を析出させる工程、及び、前記水溶液からHMB一価カチオン塩の結晶を採取する工程を含む、HMB一価カチオン塩の結晶の製造方法であって、
前記一価カチオン含有化合物、前記一価カチオン塩および前記HMB一価カチオンの結晶が以下の(a)
または(b)である、製造方法。
(a)前記一価カチオン含有化合物がナトリウム含有化合物であり、前記一価カチオン塩がナトリウム塩であり、前記HMB一価カチオン塩の結晶が粉末X線回折において、回折角(2θ)が、8.4±0.2°、6.6±0.2°、19.7±0.2°、13.3±0.2°、および29.4±0.2°にピークを有する結晶である
(b)前記一価カチオン含有化合物がナトリウム含有化合物であり、前記一価カチオン塩がナトリウム塩であり、前記HMB一価カチオン塩の結晶が粉末X線回折において、回折角(2θ)が、6.7±0.2°、13.3±0.2°、および20.0±0.2°にピークを有する結晶であ
る
【請求項2】
前記HMB一価カチオン塩の結晶を析出させる工程が、ニトリル類及びケトン類からなる群より選ばれる溶媒を添加または滴下することにより、HMB一価カチオン塩の結晶を析出させる工程である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ニトリル類が、アセトニトリルであり、ケトン類が、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、およびジエチルケトンからなる群より選ばれる溶媒である、請求項2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、健康食品、医薬品または化粧品等の製品、原料または中間体等として有用である3-ヒドロキシイソ吉草酸(β-hydroxy-β-methylbutyrate)(以下、HMBという。)の一価カチオン塩の結晶および該結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
HMBは、例えば、健康食品、医薬品または化粧品等の製品、原料または中間体等として有用である。HMBは、体内でのロイシン代謝により得られる有機酸であり、筋肉の増強効果や分解抑制に効果があるとされている(非特許文献1及び2)。
【0003】
商業上HMBは、遊離カルボン酸体またはCa塩のいずれかの形態でのみ市場に流通している。特にサプリメント・健康食品用途としては、Ca塩がハンドリングに優れた粉末であることからCa塩が使用されることがほとんどである(非特許文献3)。
【0004】
Caは体内で骨の形成、神経の働き、筋肉運動等を担う重要なミネラルである。しかしながら最近、Caの過剰摂取によって、心臓血管疾患や虚血性心疾患による死亡リスクが増加することが報告されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/166273号
【文献】米国特許第6248922号明細書
【文献】国際公開第2013/025775号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Journal of Applied Physiology, Vol. 81, p2095, 1996
【文献】Nutrition & Metabolism, Vol. 5, p1, 2008
【文献】Journal of the International Society of Sports Nutrition Vol . 10, p6, 2013
【文献】The BMJ., Vol. 346, p228, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
調剤分野では、Ca塩由来のCaがリン酸などの他の成分と結合して不溶性塩を作りやすく、高濃度の溶液を調製できないなどの課題がある。Ca塩(特許文献1-3)およびMg塩(特許文献1)は、結晶化を利用した製造方法が開示されている一方で、CaおよびMg以外の塩形態については、いずれの塩形態についても、既知の結晶は知られておらず、産業上有用なHMB塩の結晶および製造方法が求められている。
【0008】
したがって、本発明の課題は、溶解性に優れ、取り扱い容易なHMB一価カチオン塩の結晶、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の(1)~(23)に関する。
(1)HMBの一価カチオン塩の結晶。
(2)一価カチオン塩が、ナトリウム塩である、上記(1)の結晶。
(3)一価カチオン塩が、カリウム塩である、上記(1)の結晶。
(4)一価カチオン塩が、アンモニウム塩である、上記(1)の結晶。
(5)粉末X線回折において、回折角(2θ)が、8.4±0.2°、6.6±0.2°、19.7±0.2°、13.3±0.2°、および29.4±0.2°にピークを有する、上記(2)の結晶。
(6)粉末X線回折において、回折角(2θ)が、さらに、35.1±0.2°、17.3±0.2°、24.5±0.2°、17.8±0.2°、および29.9±0.2°にピークを有する、上記(5)の結晶。
(7)粉末X線回折において、回折角(2θ)が、さらに、16.6±0.2°、23.9±0.2°、18.8±0.2°、18.0±0.2°、および25.3±0.2°にピークを有する、上記(6)の結晶。
(8)粉末X線回折において、回折角(2θ)が、6.7±0.2°、13.3±0.2°、および20.0±0.2°にピークを有する、上記(2)の結晶。
(9)粉末X線回折において、回折角(2θ)が、さらに、6.0±0.2°、47.7±0.2°、40.6±0.2°、26.7±0.2°、および12.0±0.2°にピークを有する、上記(8)の結晶。
(10)およそ-180℃で測定した場合、次の概略的単位胞パラメーター:a=10.6679Å;b=5.8862Å;c=26.736Å;α=90°;β=97.966°;γ=90°;V=1662.6Å3;Z=8;を有し、計算密度(Dcalc、gcm-3)が1.407gcm-3であり;かつ空間群がC2/c;である、上記(8)または(9)の結晶。
(11)粉末X線回折において、回折角(2θ)が、9.0±0.2°、27.1±0.2°、23.8±0.2°、16.1±0.2°、および22.9±0.2°にピークを有する、上記(3)の結晶。
(12)粉末X線回折において、回折角(2θ)が、さらに、30.7±0.2°、8.1±0.2°、6.4±0.2°、32.1±0.2°、および28.5±0.2°にピークを有する、上記(11)の結晶。
(13)粉末X線回折において、回折角(2θ)が、さらに、40.1±0.2°、31.1±0.2°、24.6±0.2°、18.7±0.2°、および34.4±0.2°にピークを有する、上記(12)の結晶。
(14)粉末X線回折において、回折角(2θ)が、19.9±0.2°、21.1±0.2°、29.9±0.2°、17.3±0.2°、および18.0±0.2°にピークを有する、上記(4)の結晶。
(15)粉末X線回折において、回折角(2θ)が、さらに、25.6±0.2°、8.6±0.2°、18.2±0.2°、39.6±0.2°、および40.5±0.2°にピークを有する、上記(14)の結晶。
(16)粉末X線回折において、回折角(2θ)が、さらに、28.8±0.2°、39.7±0.2°、18.6±0.2°、15.5±0.2°、および14.3±0.2°にピークを有する、上記(15)の結晶。
(17)pHが4.0~10.0である一価カチオン含有化合物を含むHMBの水溶液を20~60℃で減圧濃縮することにより、該水溶液中にHMB一価カチオン塩・無水和物の結晶を析出させる工程、及び、該水溶液からHMB一価カチオン塩の結晶を採取する工程、を含むHMB一価カチオン塩の結晶の製造方法。
(18)pHが4.0~10.0である一価カチオン含有化合物を含むHMBの水溶液に、種晶としてHMB一価カチオン塩の結晶を添加する工程、該水溶液中にHMB一価カチオン塩の結晶を析出させる工程、及び、該水溶液からHMB一価カチオン塩の結晶を採取する工程、を含むHMB一価カチオン塩の結晶の製造方法。
(19)HMB一価カチオン塩の結晶を析出させる工程が、ニトリル類及びケトン類からなる群より選ばれる溶媒を添加または滴下することにより、HMB一価カチオン塩の結晶を析出させる工程である、上記(18)の製造方法。
(20)ニトリル類が、アセトニトリルであり、ケトン類が、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、およびジエチルケトンからなる群より選ばれる溶媒である、上記(19)の製造方法。
(21)一価カチオン含有化合物が、ナトリウム含有化合物であり、一価カチオン塩が、ナトリウム塩である、上記(17)~(20)のいずれか1つの製造方法。
(22)一価カチオン含有化合物が、カリウム含有化合物であり、一価カチオン塩が、カリウム塩である、上記(17)~(20)のいずれか1つの製造方法。
(23)一価カチオン含有化合物が、アンモニウム含有化合物であり、一価カチオン塩が、アンモニウム塩である、上記(17)~(20)のいずれか1つの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、取り扱いしやすいHMB一価カチオン塩の結晶およびその製造方法が提供される。本発明のHMB一価カチオン塩の結晶はカルシウム塩と比較して高い溶解度を示し、不溶性の塩を作らず、電解質異常を誘発しないなど、優位性のある塩結晶である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例1で得られた、HMBナトリウム塩・無水和物の結晶の粉末X線回折の結果を表わす。
【
図2】
図2は、実施例1で得られた、HMBナトリウム塩・無水和物の結晶の赤外分光(IR)分析の結果を表わす。
【
図3】
図3は、実施例2で得られた、HMBナトリウム塩・無水和物の結晶の粉末X線回折の結果を表わす。
【
図4】
図4は、実施例2で得られた、HMBナトリウム塩・無水和物の結晶の赤外分光(IR)分析の結果を表わす。
【
図5】
図5は、実施例5で得られた、HMBカリウム塩・無水和物の結晶の粉末X線回折の結果を表わす。
【
図6】
図6は、実施例5で得られた、HMBカリウム塩・無水和物の結晶の赤外分光(IR)分析の結果を表わす。
【
図7】
図7は、実施例7で得られた、HMBアンモニウム塩・無水和物の結晶の粉末X線回折の結果を表わす。
【
図8】
図8は、実施例7で得られた、HMBアンモニウム塩・無水和物の結晶の赤外分光(IR)分析の結果を表わす。
【
図9】
図9は、実施例3で得られた、HMBナトリウム塩・2水和物の結晶の粉末X線回折の結果を表わす。
【
図10】
図10は、実施例3で得られた、HMBナトリウム塩・2水和物の結晶の赤外分光(IR)分析の結果を表わす。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.本発明の結晶
本発明の結晶は、HMBの一価カチオン塩の結晶であり、より具体的にはHMBナトリウム塩、HMBカリウム塩、および、HMBアンモニウム塩(以下、「本発明の結晶」ともいう。)である。本発明の結晶がHMBの結晶であることは、後述の分析例に記載のHPLCを用いた方法により確認することができる。
【0013】
本発明の結晶がナトリウム塩の結晶であることは、当該結晶中に含まれるナトリウム含量を、後述の分析例に記載の原子吸光光度計を用いて測定することにより確認することができる。例えば、本発明の結晶が1ナトリウム塩の結晶であることは、該結晶中のナトリウム含量が、通常16.4±3.0重量%、好ましくは16.4±2.0重量%、最も好ましくは16.4±1.0重量%であることにより確認することができる。
【0014】
また、本発明の結晶がカリウム塩の結晶であることは、当該結晶中に含まれるカリウム含量を、後述の分析例に記載の原子吸光光度計を用いて測定することにより確認することができる。例えば、本発明の結晶が1カリウム塩の結晶であることは、該結晶中のカリウム含量が、通常25.0±3.0重量%、好ましくは25.0±2.0重量%、最も好ましくは25.0±1.0重量%であることにより確認することができる。
【0015】
また、本発明の結晶がアンモニウム塩の結晶であることは、当該結晶中に含まれるアンモニウム含量を、後述の分析例に記載のHPLCを用いて測定することにより確認することができる。例えば、本発明の結晶が1アンモニウム塩の結晶であることは、該結晶中のアンモニウム含量が、通常13.3±3.0重量%、好ましくは13.3±2.0重量%、最も好ましくは13.3±1.0重量%であることにより確認することができる。
【0016】
本発明の結晶が無水和物又は水和物の結晶であることは、後述の分析例に記載のカールフィッシャー法を用いて測定することにより確認することができ、特に当該方法で測定した水分含量が、通常1.5重量%以下、好ましくは1.3重量%以下、最も好ましくは1.0重量%以下である結晶は無水和物結晶であると確認することができる。HMBナトリウム塩の結晶が2水和物であることは、当該方法で測定した水分含量が、通常20.5±5.0重量%、好ましくは20.5±3.0重量%、最も好ましくは20.5±1.0重量%であることから確認することができる。
【0017】
HMBナトリウム塩・無水和物の結晶としては、X線源としてCuKαを用いた粉末X線回折パターンが、
図1および3、ならびに表1および3に示す値で規定される、HMBナトリウム塩・無水和物の結晶を挙げることができる。なお、
図1と表1、
図3と表3がそれぞれのHMBナトリウム塩・無水和物の結晶の回折結果に対応する。
【0018】
また、HMBナトリウム塩・無水和物の結晶としては、後述の分析例に記載の赤外(IR)分析に供した場合、
図2および
図4に示す赤外吸収スペクトルを示すHMBナトリウム塩・無水和物の結晶を挙げることができる。
【0019】
HMBナトリウム塩・無水和物の結晶は、具体的には、X線源としてCuKαを用いた粉末X線回折において、下記(i)に記載の回折角(2θ)にピークを有することが好ましく、さらに下記(i)に記載の回折角(2θ)におけるピークに加えて下記(ii)に記載の回折角(2θ)にピークを有することがより好ましく、さらに下記(i)および(ii)に記載の回折角(2θ)におけるピークに加えて下記(iii)に記載の回折角(2θ)にピークを有することがさらに好ましい。
(i)8.4±0.2°、好ましくは8.4±0.1°、6.6±0.2°、好ましくは6.6±0.1°、19.7±0.2°、好ましくは19.7±0.1°、13.3±0.2°、好ましくは13.3±0.1°、および29.4±0.2°、好ましくは29.4±0.1°
(ii)35.1±0.2°、好ましくは35.1±0.1°、17.3±0.2°、好ましくは17.3±0.1°、24.5±0.2°、好ましくは24.5±0.1°、17.8±0.2°、好ましくは17.8±0.1°、および29.9±0.2°、好ましくは29.9±0.1°
(iii)16.6±0.2°、好ましくは16.6±0.1°、23.9±0.2°、好ましくは23.9±0.1°、18.8±0.2°、好ましくは18.8±0.1°、18.0±0.2°、好ましくは18.0±0.1°、および25.3±0.2°、好ましくは25.3±0.1°
【0020】
HMBナトリウム塩・2水和物の結晶としては、X線源としてCuKαを用いた粉末X線回折パターンが、
図9、および表5に示す値で規定される、HMBナトリウム塩・2水和物の結晶を挙げることができる。
【0021】
また、HMBナトリウム塩・2水和物の結晶としては、後述の分析例に記載の赤外(IR)分析に供した場合、
図10に示す赤外吸収スペクトルを示すHMBナトリウム塩・2水和物の結晶を挙げることができる。
【0022】
HMBナトリウム塩・2水和物の結晶は、具体的には、X線源としてCuKαを用いた粉末X線回折において、下記(iv)に記載の回折角(2θ)にピークを有することが好ましく、さらに下記(iv)に記載の回折角(2θ)におけるピークに加えて下記(v)に記載の回折角(2θ)にピークを有することがより好ましい。
(iv)6.7±0.2°、好ましくは6.7±0.1°、13.3±0.2°、好ましくは13.3±0.1°、20.0±0.2°、好ましくは20.0±0.1°
(v)6.0±0.2°、好ましくは6.0±0.1°、47.7±0.2°、好ましくは47.7±0.1°、40.6±0.2°、好ましくは40.6±0.1°、26.7±0.2°、好ましくは26.7±0.1°、および12.0±0.2°、好ましくは12.0±0.1°
【0023】
結晶構造を決定する方法としては、単結晶X線回折装置による構造解析を挙げることができる。HMBの一価カチオン塩の単結晶を回折計に取り付け、室温の大気中または所定の温度の不活性ガス気流中で、所定の波長のX線を用いて、回折画像を測定する。回折画像から算出された面指数と回折強度の組から、直接法による構造決定と最小二乗法による構造精密化を行い、単結晶構造を得る。
【0024】
一実施形態において、HMBナトリウム塩・2水和物の結晶形態は、おおよそ以下の結晶パラメーター、すなわち:およそ-180℃で測定した場合、単位格子寸法:a=10.6679Å;b=5.8862Å;c=26.736Å;α=90°;β=97.966°;γ=90°;V=1662.6Å3;Z=8;を有し、計算密度(Dcalc、gcm-3)が1.407gcm-3であり;かつ空間群がC2/c;である単結晶X線結晶学的解析結果を示すことが好ましい。一実施形態において、HMBナトリウム塩・2水和物の結晶形態は式[Na+・(C5H9O4)-・2H2O]で表されることが好ましい。
【0025】
HMBカリウム塩・無水和物の結晶としては、X線源としてCuKαを用いた粉末X線回折パターンが、
図5、および表8に示す値で規定される、HMBカリウム塩・無水和物の結晶を挙げることができる。
【0026】
また、HMBカリウム塩・無水和物の結晶としては、後述の分析例に記載の赤外分光(IR)分析に供した場合、
図6に示す赤外吸収スペクトルを示すHMBカリウム塩・無水和物の結晶を挙げることができる。
【0027】
HMBカリウム塩・無水和物の結晶は、具体的には、X線源としてCuKαを用いた粉末X線回折において、下記(vi)に記載の回折角(2θ)にピークを有することが好ましく、さらに下記(vi)に記載の回折角(2θ)におけるピークに加えて下記(vii)に記載の回折角(2θ)にピークを有することがより好ましく、さらに下記(vi)および(vii)に記載の回折角(2θ)におけるピークに加えて下記(viii)に記載の回折角(2θ)にピークを有することがさらに好ましい。
(vi)9.0±0.2°、好ましくは9.0±0.1°、27.1±0.2°、好ましくは27.1±0.1°、23.8±0.2°、好ましくは23.8±0.1°、16.1±0.2°、好ましくは16.1±0.1°、および22.9±0.2°、好ましくは22.9±0.1°
(vii)30.7±0.2°、好ましくは30.7±0.1°、8.1±0.2°、好ましくは8.1±0.1°、6.4±0.2°、好ましくは6.4±0.1°、32.1±0.2°、好ましくは32.1±0.1°、および28.5±0.2°、好ましくは28.5±0.1°
(viii)40.1±0.2°、好ましくは40.1±0.1°、31.1±0.2°、好ましくは31.1±0.1°、24.6±0.2°、好ましくは24.6±0.1°、18.7±0.2°、好ましくは18.7±0.1°、および34.4±0.2°、好ましくは34.4±0.1°
【0028】
HMBアンモニウム塩・無水和物の結晶としては、X線源としてCuKαを用いた粉末X線回折パターンが、
図7および表10に示す値で規定される、HMBアンモニウム塩・無水和物の結晶を挙げることができる。
【0029】
また、HMBアンモニウム塩・無水和物の結晶としては、後述の分析例に記載の赤外分光(IR)分析に供した場合、
図8に示す赤外吸収スペクトルを示すHMBアンモニウム塩・無水和物の結晶を挙げることができる。
【0030】
HMBアンモニウム塩・無水和物の結晶は、具体的には、X線源としてCuKαを用いた粉末X線回折において、下記(ix)に記載の回折角(2θ)にピークを有することが好ましく、さらに下記(ix)に記載の回折角(2θ)におけるピークに加えて下記(x)に記載の回折角(2θ)にピークを有することがより好ましく、さらに下記(ix)および(x)に記載の回折角(2θ)におけるピークに加えて下記(xi)に記載の回折角(2θ)にピークを有することがさらに好ましい。
(ix)19.9±0.2°、好ましくは19.9±0.1°、21.1±0.2°、好ましくは21.1±0.1°、29.9±0.2°、好ましくは29.9±0.1°、17.3±0.2°、好ましくは17.3±0.1°、および18.0±0.2°、好ましくは18.0±0.1°
(x)25.6±0.2°、好ましくは25.6±0.1°、8.6±0.2°、好ましくは8.6±0.1°、18.2±0.2°、好ましくは18.2±0.1°、39.6±0.2°、好ましくは39.6±0.1°、および40.5±0.2°、好ましくは40.5±0.1°
(xi)28.8±0.2°、好ましくは28.8±0.1°、39.7±0.2°、好ましくは39.7±0.1°、18.6±0.2°、好ましくは18.6±0.1°、15.5±0.2°、好ましくは15.5±0.1°、および14.3±0.2°、好ましくは14.3±0.1°
【0031】
2.本発明のHMB一価カチオン塩の結晶の製造方法
本発明の結晶の製造方法は、以下に記載の製造方法(以下、「本発明の結晶の製造方法」ともいう。)である。
【0032】
本発明の結晶の製造方法としては、pHが4.0~10.0である一価カチオン含有化合物、より具体的にはナトリウム含有化合物、カリウム含有化合物、およびアンモニア含有化合物から選ばれる少なくとも1を含むHMBの水溶液を20~60℃で濃縮することにより該水溶液からHMB一価カチオン塩、より具体的にはHMBナトリウム塩の結晶、HMBカリウム塩の結晶、およびHMBアンモニウム塩の結晶から選ばれる少なくとも1を析出させる工程、および該水溶液からHMB一価カチオン塩の結晶を採取する工程、を含むHMB一価カチオン塩の結晶の製造方法を挙げることができる。
【0033】
HMBの水溶液に含有されるHMBは、発酵法、酵素法、天然物からの抽出法または化学合成法等のいずれの製造方法によって製造されたものであってもよい。
【0034】
HMBの水溶液に、結晶化の障害となる固形物が含まれる場合には、遠心分離、濾過またはセラミックフィルタ等を用いて固形物を除去することができる。また、HMBの水溶液に、結晶化の障害となる水溶性の不純物や塩が含まれる場合には、イオン交換樹脂等を充填したカラムに通塔する等により、水溶性の不純物や塩を除去することができる。
【0035】
また、HMBの水溶液に、結晶化の障害となる疎水性の不純物が含まれる場合には、合成吸着樹脂や活性炭等を充填したカラムに通塔する等により、疎水性の不純物を除去することができる。
該水溶液は、HMBの濃度が通常500g/L以上、好ましくは600g/L以上、より好ましくは700g/L以上、最も好ましくは800g/L以上となるように調製することができる。
【0036】
ナトリウム含有化合物としては、例えば、水酸化ナトリウムのような塩基性化合物、またはナトリウムの炭酸化物、ナトリウムの硫酸化物、ナトリウムの硝酸化物若しくはナトリウムの塩化物のような中性塩を挙げることができる。中性塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、または塩化ナトリウムを挙げることができる。
【0037】
ナトリウム含有化合物として塩基性化合物を用いる場合、当該塩基性化合物を使用してHMBの水溶液のpHを調整することにより、pHが通常4.0~10.0、好ましくは4.5~9.5、最も好ましくは5.0~9.0であるナトリウム含有化合物を含むHMBの水溶液を取得することができる。
【0038】
カリウム含有化合物としては、例えば、水酸化カリウムのような塩基性化合物、またはカリウムの炭酸化物、カリウムの硫酸化物、カリウムの硝酸化物若しくはカリウムの塩化物のような中性塩を挙げることができる。中性塩としては、例えば、炭酸カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム、または塩化カリウムを挙げることができる。
【0039】
カリウム含有化合物として塩基性化合物を用いる場合、当該塩基性化合物を使用してHMBの水溶液のpHを調整することにより、pHが通常4.0~10.0、好ましくは4.5~9.5、最も好ましくは5.0~9.0であるカリウム含有化合物を含むHMBの水溶液を取得することができる。
【0040】
アンモニウム含有化合物としては、例えば、アンモニア水溶液のような塩基性化合物、またはアンモニアの炭酸化物、アンモニアの硫酸化物、アンモニアの硝酸化物若しくはアンモニアの塩化物のような中性塩を挙げることができる。中性塩としては、例えば、炭酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、または塩化アンモニウムを挙げることができる。
【0041】
アンモニウム含有化合物として塩基性化合物を用いる場合、当該塩基性化合物を使用してHMBの水溶液のpHを調整することにより、pHが通常4.0~10.0、好ましくは4.5~9.5、最も好ましくは5.0~9.0であるアンモニウム含有化合物を含むHMBの水溶液を取得することができる。
【0042】
前記水溶液中に、HMB一価カチオン塩の結晶を析出させる方法としては、該水溶液を減圧濃縮する方法、該水溶液中にニトリル類及びケトン類からなる群より選ばれる溶媒を添加または滴下する方法等を挙げることができる。また、これらの方法は、1以上の方法を組み合わせて用いることもできる。
【0043】
前記水溶液を減圧濃縮する方法における、該水溶液の温度としては、通常0~100℃、好ましくは10~90℃、最も好ましくは20~60℃を挙げることができる。前記水溶液を減圧濃縮する方法における、減圧時間としては、通常1~120時間、好ましくは2~60時間、最も好ましくは3~50時間を挙げることができる。
【0044】
前記水溶液中にニトリル類及びケトン類からなる群より選ばれる溶媒を添加または滴下することにより、HMB一価カチオン塩の結晶を析出させる方法においては、ニトリル類及びケトン類からなる群より選ばれる溶媒の添加または滴下を開始する前または開始した後、HMB一価カチオン塩の結晶が析出する前に、種晶としてHMB一価カチオン塩の結晶を添加してもよい。前記結晶としては、前記水溶液を減圧濃縮する方法によって製造されるHMB一価カチオン塩の結晶を挙げることができる。
【0045】
前記種晶を添加する時間としては、HMB一価カチオン塩の結晶が析出される前であれば特に限定されないが、ニトリル類及びケトン類からなる群より選ばれる溶媒の滴下または添加を開始してから、通常0~5時間以内、好ましくは0~4時間以内、最も好ましくは0~3時間以内を挙げることができる。
【0046】
ニトリル類としては、アセトニトリルが好ましい。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンおよびジエチルケトンからなる群より選ばれるケトン類が好ましく、アセトンおよびメチルエチルケトンからなる群より選ばれるケトン類がより好ましく、アセトンがさらに好ましい。
【0047】
ニトリル類及びケトン類からなる群より選ばれる溶媒を添加または滴下するときの該水溶液の温度としては、HMBが分解しない温度であればいずれの温度でもよいが、溶解度を下げてHMB一価カチオン塩の結晶の結晶化率を向上させるために、通常80℃以下、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下、最も好ましくは50℃以下を挙げることができる。温度の下限値としては、通常0℃以上、好ましくは10℃以上を挙げることができる。
【0048】
ニトリル類、ケトン類からなる群より選ばれる溶媒を添加または滴下する量としては、該水溶液の通常1~30倍量、好ましくは2~25倍量、最も好ましくは3~10倍量を挙げることができる。
【0049】
ニトリル類、ケトン類からなる群より選ばれる溶媒を添加または滴下する時間としては、通常1~48時間、好ましくは2~30時間、最も好ましくは3~20時間を挙げることができる。
【0050】
上記のようにしてHMB一価カチオン塩の結晶を析出させた後、さらに析出した結晶を通常1~48時間、好ましくは1~24時間、最も好ましくは1~12時間熟成させることができる。熟成させるとは、HMB一価カチオン塩の結晶を析出させる工程を一旦停止して、結晶を成長させることをいう。
【0051】
結晶を熟成させた後は、HMB一価カチオン塩の結晶を析出させる工程を再開してもよい。HMB一価カチオン塩の結晶を採取する方法としては、特に限定されないが、例えば、濾取、加圧濾過、吸引濾過、遠心分離等を挙げることができる。さらに母液の付着を低減し、結晶の品質を向上させるために、適宜、結晶を洗浄することができる。
【0052】
結晶洗浄に用いる溶液としては、特に制限はないが、例えば、水、メタノール、エタノール、アセトン、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン若しくはジエチルケトン、またはそれらから選ばれる複数種類を任意の割合で混合したものを用いることができる。
【0053】
このようにして得られた湿晶を乾燥させることにより、本発明の結晶を取得することができる。乾燥条件としては、減圧乾燥、真空乾燥、流動層乾燥、および通風乾燥を適用することができる。
乾燥温度としては、付着水分や溶媒を除去できる範囲ならばいずれでもよいが、好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下を挙げることができる。
【0054】
上記の晶析条件によって、高純度のHMB一価カチオン塩の結晶を取得することができる。HMB一価カチオン塩の結晶の純度としては、通常95%以上、好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、最も好ましくは97.5%以上を挙げることができる。
【0055】
上記の製造方法によって製造することができるHMB一価カチオン塩の結晶としては、具体的には、例えば、X線源としてCuKαを用いた粉末X線回折パターンが、
図1および
図3、ならびに表1および表3に示す値で規定される、HMBナトリウム塩・無水和物の結晶、
図9ならびに表5に示す値で規定される、HMBナトリウム塩・2水和物の結晶、
図5ならびに表8に示す値で規定される、HMBカリウム塩・無水和物の結晶、および、
図7ならびに表10に示す値で規定される、HMBアンモニウム・無水和物の結晶を挙げることができる。
【0056】
[分析例]
(1)粉末X線回折
粉末X線回折装置(XRD)Ultima IV(リガク社製)を用い、測定は使用説明書に従って行った。
(2)濃度・純度測定
以下のHPLC分析条件を用いてHMB濃度および純度を測定した。ガードカラムShodex SUGAR SH-G φ6.0×50mmカラム:SUGAR SH1011 φ8.0×300mm×2本直列カラム温度:60℃緩衝液:0.005mol/Lの硫酸水溶液流速:0.6mL/min検出器:UV検出器(波長210nm)
(3)カールフィッシャー法による結晶の水分含量の測定
自動水分測定装置AQV-2200(平沼産業社製)を用い、使用説明書に従って、結晶の水分含量を測定した。
(4)ナトリウム含量、およびカリウム含量の測定
原子吸光光度計Z-2310(日立ハイテクノロジーズ社製)を用い、HMBナトリウム塩の結晶を1mol/Lの硝酸に溶解し、使用説明書に従って、結晶中に含まれるナトリウムイオンの濃度を測定した。
(5)アンモニウム含量の測定
蛍光検出器を有するHPLCを用いてアンモニウム含量をフタルアルデヒド(OPA)法で測定した。
(6)融点の測定
Melting Point M-565(BUCHI社製)を用い、使用説明書に従って、以下の条件を用いて融点を測定した。・60℃~170℃、1℃/min・30℃~250℃、2.5℃/min(HMB Na塩2水和物)
(7)赤外分光(IR)分析
FTIR-8400型(島津製作所製)を用い、使用説明書に従って行った。
(8)単結晶X線構造解析
XtaLAB PRO(リガク社製)を用い、使用説明書に従って行った。
【0057】
[参考例1]HMBフリー体溶液の作製
フリー体換算で76.5gの試薬HMBカルシウム塩を850mLの水に溶解させた。該水溶液を、640mLの強カチオン性交換樹脂XUS-40232.01(H+)に通液して脱Caを行い、フリー体76.4g含有する溶液1.25Lを取得した。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を示すが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]HMBナトリウム塩・無水和物の結晶の取得-1
参考例1で得られたHMBフリー体水溶液200mLに、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を104mL加え、pHを8.84に調整した。得られた水溶液のうち100mLを次の工程に供した。
【0060】
当該水溶液100mLを50℃、10mbar下で減圧濃縮し、溶媒を除去することによってHMBナトリウム塩結晶を自然起晶させた。当該結晶スラリーをさらに真空乾燥させることにより、4.8gの結晶を得た。
【0061】
当該結晶の粉末X線回折の結果を
図1及び表1に示す。また、当該結晶の赤外分光分析の結果を
図2に示す。表中、「2θ」は回折角(2θ°)を、「相対強度」は、相対強度比(I/I
0)を示す。また、相対強度比が1以上を表示した。
【0062】
【0063】
当該結晶のナトリウム含量を原子吸光法により測定した結果、16.2重量%であり、1ナトリウム塩の理論値(16.4重量%)とほぼ一致した。また、当該結晶に含まれる水分量をカールフィッシャー法により測定した結果、0.7重量%であった。以上から、当該結晶はHMBナトリウム塩・無水和物の結晶であることがわかった。
【0064】
実施例1で取得した結晶の各種物性を表2に示す。
【0065】
【0066】
[実施例2]HMBナトリウム塩・無水和物の結晶の取得-2
参考例1で得られたHMBフリー体水溶液200mLに、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を104mL加え、pHを8.84に調整した。得られた水溶液のうち200mLを次の工程に供した。
【0067】
当該水溶液200mLを濃縮して10mLとし、実施例1で得られたHMBナトリウム塩の結晶を種結晶として50mg添加した。これに、アセトニトリル20mLを添加して結晶を析出させた。結晶スラリーを室温下で1時間撹拌した後に、当該結晶を濾取し、アセトニトリル20mLで洗浄した後、25℃で真空乾燥させることにより、6.7gの結晶を得た。
【0068】
当該結晶の粉末X線回折の結果を
図3及び表3に示す。表中、「2θ」は回折角(2θ°)を、「相対強度」は、相対強度比(I/I
0)を示す。また、相対強度比が1以上を表示した。
【0069】
【0070】
当該結晶のナトリウム含量を原子吸光法により測定した結果、16.7重量%であり、1ナトリウム塩の理論値(16.4重量%)とほぼ一致した。また、当該結晶に含まれる水分量をカールフィッシャー法により測定した結果、0.6重量%であった。以上から、当該結晶はHMBナトリウム塩・無水和物の結晶であることがわかった。
【0071】
実施例2で取得した結晶の各種物性を表4に示す。pHは、HMBフリー体換算で100g/Lの塩結晶水溶液を測定した。
【0072】
【0073】
[実施例3]HMBナトリウム塩・2水和物の結晶の取得
参考例1の手法に従って得られるHMBフリー体210.1gを含む水溶液4.6Lに、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を加え、pHを7.92に調整した。当該水溶液を濃縮して340.6gの水溶液とし、実施例1で得られたHMBナトリウム塩の結晶を種結晶として35℃下で1g添加して結晶を析出させた。
【0074】
結晶スラリーを30℃にて16時間、25℃にて16時間撹拌した後に、当該結晶を濾取し、130gの結晶を得た。さらに当該結晶を真空乾燥(25℃、20hPa、16時間)させることにより、127gの結晶を得た。
【0075】
当該結晶の粉末X線回折の結果を
図9及び表5に示す。また、当該結晶の赤外分光分析の結果を
図10に示す。表中、「2θ」は回折角(2θ°)を、「相対強度」は、相対強度比(I/I
0)を示す。また、相対強度比が1以上を表示した。
【0076】
【0077】
当該結晶のナトリウム含量を原子吸光法により測定した結果、16.4重量%であり、1ナトリウム塩の理論値(16.4重量%)とほぼ一致した。また、当該結晶に含まれる水分量をカールフィッシャー法により測定した結果、19.5重量%であった。以上から、当該結晶はHMBナトリウム塩・2水和物の結晶であることがわかった。
【0078】
実施例3で取得した結晶の各種物性を表6に示す。
【表6】
【0079】
[実施例4]単結晶X線構造解析
実施例3で取得された結晶の構造を決定するために単結晶X線回折(SXRD)を用いた。その結果を表7にまとめる。その結果から、HMB・ナトリウム塩結晶が、単位格子内に水分子を有する2水和物であることが確認された。
【0080】
【0081】
[実施例5]HMBカリウム塩・無水和物の結晶の取得
参考例1で得られたHMBフリー体水溶液200mLに、1mol/L水酸化カリウム水溶液を114mL加え、pHを8.85に調整した。当該水溶液314mLを50℃、10mbar下で減圧濃縮し、溶媒を除去することによってHMBカリウム塩結晶を自然起晶させた。当該結晶スラリーをさらに真空乾燥させることにより、14.8gの結晶を得た。
【0082】
当該結晶の粉末X線回折の結果を
図5及び表8に示す。また、当該結晶の赤外分光分析の結果を
図6に示す。表中、「2θ」は回折角(2θ°)を、「相対強度」は、相対強度比(I/I
0)を示す。また、相対強度比が1以上を表示した。
【0083】
【0084】
当該結晶のカリウム含量を原子吸光法により測定した結果、24.3重量%であり、1カリウム塩の理論値(25.0重量%)とほぼ一致した。また、当該結晶に含まれる水分量をカールフィッシャー法により測定した結果、0.6重量%であった。以上から、当該結晶はHMBカリウム塩・無水和物の結晶であることがわかった。
【0085】
実施例5で取得した結晶の各種物性を表9に示す。pHは、HMBフリー体換算で100g/Lの塩結晶水溶液を測定した。
【0086】
【0087】
[実施例6]HMBアンモニウム塩・無水和物の種結晶の取得-1
参考例1で得られたHMBフリー体水溶液20mLに、1.4Mアンモニア水溶液を8.5mL加え、pHを7.90に調整した。当該水溶液28.5mLを濃縮して1.6mLとし、アセトニトリル5mLを添加して該水溶液を室温下で30分静置して結晶を析出させた。結晶スラリーを室温下でさらに1時間撹拌した後に、当該結晶を濾取し、0.4gの種結晶を得た。
【0088】
[実施例7]HMBアンモニウム塩・無水和物の結晶の取得-2
参考例1で得られたHMBフリー体水溶液200mLに、1.4Mアンモニア水溶液を64mL加え、pHを7.75に調整した。
【0089】
得られた246mLの水溶液を濃縮して10.5mLとし、実施例4で得られたHMBアンモニウム塩の結晶を種結晶として15mg添加した。これに、アセトニトリル15mLを添加して結晶を析出させた。結晶スラリーを室温下で1時間撹拌した後に、当該結晶を濾取し、アセトニトリル50mLで洗浄した後、25℃で真空乾燥させることにより、4.7gの結晶を得た。
【0090】
当該結晶の粉末X線回折の結果を
図7及び表10に示す。また、当該結晶の赤外分光分析の結果を
図8に示す。表中、「2θ」は回折角(2θ°)を、「相対強度」は、相対強度比(I/I
0)を示す。また、相対強度比が1以上を表示した。
【0091】
【0092】
当該結晶のアンモニウム含量をHPLCにより測定した結果、13.2重量%であり、1アンモニウム塩の理論値(13.3重量%)とほぼ一致した。また、当該結晶に含まれる水分量をカールフィッシャー法により測定した結果、0.5重量%であった。以上から、当該結晶はHMBアンモニウム塩・無水和物の結晶であることがわかった。
【0093】
実施例7で取得した結晶の各種物性を表11に示す。pHは、HMBフリー体換算で100g/Lの塩結晶水溶液を測定した。
【0094】
【0095】
[実施例8]溶解度の測定
実施例2、5、および7で得られたHMB一価カチオン塩・無水和物の結晶を室温下で水に溶け残るまでそれぞれ添加し、十分な時間、撹拌保持した後、結晶を含まない上澄み液を採取し、HPLC用いてHMB濃度を測定した。測定結果を表12に示す。
【0096】
【0097】
表12に示すように、取得したHMBナトリウム塩・無水和物、HMBカリウム塩・無水和物、および、HMBアンモニウム塩・無水和物の結晶は、既存のカルシウム塩と比較して水に対する溶解度が大幅に向上することがわかった。
【0098】
[実施例9]HMB一価カチオン塩結晶とリン酸緩衝液との混合
実施例2、5、および7で得られたHMB一価カチオン塩結晶・無水和物をフリー体換算で100g/L溶液とし、0.2Mのリン酸緩衝液(pH6.80)と任意の混合比率で混合した。混合した後の液の光透過率(660nm)を測定し、不溶性塩の形成有無を評価した。その結果を表13に示す。表13において、「-」は未評価であることを示す。
【0099】
【0100】
表13に示すように、リン酸緩衝液との混合において、既存のカルシウム塩はで不溶性の塩を生成するのに対して、取得したHMBナトリウム塩・無水和物、HMBカリウム塩・無水和物、および、HMBアンモニウム塩・無水和物の結晶は、不溶性塩を形成しないことがわかった。
【0101】
[実施例10]HMBナトリウム塩結晶と糖アミノ酸電解質輸液製剤との混合
実施例2で得られたHMBナトリウム塩・無水和物をフリー体換算で終濃度0、0.11、0.21および0.42重量/体積%となるよう、末梢静脈栄養用糖アミノ酸電解質輸液剤[pH約6.7、製品名:アミノフリード輸液(株式会社大塚製薬工場)]に混合した直後及び室温放置24時間後の光透過率T%(660nm)を紫外可視分光光度計により測定し、不溶性塩の形成の有無を評価した。その結果を表14に示す。
【0102】
【0103】
表14に示すように、アミノフリード輸液との混合において、既存のカルシウム塩では不溶性塩を形成するのに対して、HMBナトリウム塩・無水和物は、不溶性塩を形成しないことがわかった。
【0104】
[実施例11]HMBナトリウム塩結晶を含有する糖電解質輸液製剤投与時の体内電解質への影響
実施例2で得られたHMBナトリウム塩・無水和物をフリー体換算で終濃度0、および0.42重量/体積%となるよう、リン酸イオンを含まない、糖電解質輸液製剤[製品名:ソリタT3号輸液(エイワイファーマ株式会社)]に混合し、腸管擦過術により手術侵襲を加えたラットに対して標準的用量(240mL/kg/日)で3日間持続投与した。最終投与日に24時間の畜尿を行った尿を採取し、尿中電解質濃度を測定した。その結果を表15および表16に示す。
【0105】
【0106】
【0107】
表15および表16に示すように、ソリタT3号輸液との混合投与において、既存のカルシウム塩は尿中カルシウムの上昇及び尿中リン排泄の減少を誘発するのに対して、取得したHMBナトリウム塩・無水和物の結晶は、上記の電解質異常を誘発しないことが分かった。
【0108】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2015年11月19日付けで出願された日本特許出願(特願2015-226876)および2016年5月31日付けで出願された日本特許出願(特願2016-108805)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明により、例えば、健康食品、医薬品、化粧品等の製品、原料もしくは中間体等として有用であるHMB一価カチオン塩の結晶、およびその製造方法が提供される。