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  • 特許-防爆構造を有する電気回路 図1
  • 特許-防爆構造を有する電気回路 図2
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  • 特許-防爆構造を有する電気回路 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】防爆構造を有する電気回路
(51)【国際特許分類】
   H02J 1/00 20060101AFI20220802BHJP
   F22B 37/38 20060101ALI20220802BHJP
   H02H 9/00 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
H02J1/00 306L
F22B37/38 B
H02H9/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021070240
(22)【出願日】2021-04-19
(62)【分割の表示】P 2017022753の分割
【原出願日】2017-02-10
(65)【公開番号】P2021108537
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2021-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(72)【発明者】
【氏名】時岡 良宜
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-182875(JP,A)
【文献】特開2015-065724(JP,A)
【文献】特開2012-034426(JP,A)
【文献】特開2015-224865(JP,A)
【文献】特開2007-148867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 1/00
F22B 37/38
H02H 9/00
H02J 50/10
H02J 50/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源から供給された電力を昇圧して出力するDC/DCコンバータであって、所定容量の電荷を蓄電することが可能な第一の蓄電部を含むDC/DCコンバータ、
前記DC/DCコンバータに連続して接続され、前記DC/DCコンバータから出力された電力を定電圧化するツェナーダイオード、
前記ツェナーダイオードに連続して接続され、かつ接続経路上で抵抗を生じさせる抵抗部、
前記抵抗部に連続して接続され、所定容量の電荷を蓄電することが可能な第二の蓄電部を含むセンサ回路、
を備えた防爆構造を有する電気回路であって、
前記抵抗部は、前記電源からの電力供給が開始された場合に、前記DC/DCコンバータにおける前記第一の蓄電部への蓄電タイミングと、前記センサ回路における前記第二の蓄電部への蓄電タイミングとにずれを生じさせることにより、最大電荷量を抑制する、
ことを特徴とする防爆構造を有する電気回路。
【請求項2】
請求項1に係る防爆構造を有する電気回路において、
第一の蓄電部及び第二の蓄電部の双方又はいずれか一方はコンデンサによって構成されている、
ことを特徴とする防爆構造を有する電気回路。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に係る防爆構造を有する電気回路において、
危険領域に位置するスチームトラップに接触し、スチームトラップの温度又は振動のいずれか一方または双方を検出して、検出データを発信する検出部をさらに備え、
前記センサ回路は、前記検出部に連続して接続されている、
ことを特徴する防爆構造を有する電気回路。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願に係る防爆構造を有する電気回路は、電気回路の構成に関するものであり、本質安全防爆構造を実現する電気回路の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
産業プラント等では、可燃性液体の蒸気等が大気中に放出・漏洩し、これが空気と混合して可燃性のガスになることがある。このようなガスが電気火花や高温物体等の点火源に触れると爆発や火災が引き起こされる危険が生じる。このため、プラント内の危険場所に設置される機器は、公的な基準をクリアする防爆構造を備えている必要があり、計測・制御・通信等の機器については電気回路で危険な火花や高熱を本質的に発生させない本質安全防爆構造が求められる。
【0003】
産業プラント等の危険場所に置かれる電気回路を有する機器としては種々のものがあるが、配管系統の随所に設けられたスチームトラップの温度や振動をモニタリングするためのセンサにも電気回路が組み込まれている。スチームトラップは配管内に滞留したドレンを自動的に外部に排出するための装置であり、スチームトラップに排出不良や密閉不良といった異常が発生した場合、これにともなってスチームトラップの表面温度が低下し、又は異常音(振動)が発生する。
【0004】
このようなスチームトラップの異常をモニタリングするために、各スチームトラップにはセンサが取り付けられている。それぞれのセンサはスチームトラップの温度や振動を検出して送信し、この検出データを受信した制御装置はこれに基づいてスチームトラップの異常を認識する。
【0005】
このように、スチームトラップに対して取り付けられるセンサは、産業プラント等の危険場所に位置することになるため、本質安全防爆構造を有している必要がある。電気回路の本質安全防爆構造に関しては、後記特許文献1に開示されている防爆電子機器の電源回路がある。この電源回路は、負荷にかかる電圧や負荷に流れる電流を精度よく制限することを目的としており、電源に昇圧回路を接続し、昇圧回路から抵抗を介して負荷に電流を供給している。このとき負荷にかかる電圧を使って昇圧回路の昇圧電圧を制御することによって、負荷にかかる電圧を安定化させている。また、ツェナーダイオードが、負荷に並列に接続され、負荷にかかる電圧を所定の値に制限している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-182875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電気回路内のコンデンサに基準値以上の過度の量の電荷が蓄積される場合、本質安全防爆構造としての基準をクリアすることができない。ここで、電気回路内の複数のコンデンサについて、各々のコンデンサに蓄積される電荷の量は基準を満たすものであっても、同時に複数のコンデンサに電荷が蓄積された場合、電気回路全体としてはトータルの電荷量が一時的に本質安全防爆構造に必要な基準値を超えてしまうことがある。
【0008】
図4のグラフはこのような状態を示している。今かりに、電気回路内に2つのコンデンサが設けられており、それぞれのコンデンサに蓄積されている電荷量をC11、C12とする。この電荷量C11、C12は、それぞれ本質安全防爆構造に必要な基準値CAよりも小さい。ところが、各コンデンサに同時に(又はほぼ同時に)電荷が蓄積される結果、この電気回路におけるトータルの電荷量C11+C12は基準値CAを超えてしまうという問題がある。
【0009】
また、近年の電子部品の小型・高性能化にともない基板への各種部品の実装が高密度化しており、電気回路の発熱の問題も深刻化している。電気回路の発熱は本質安全防爆上の観点からも改善が求められるが、電気回路に対して放熱の機構を設けると構成が複雑化してしまう。
【0010】
前記特許文献1記載の技術は、コンデンサに蓄積される電荷量を抑え、かつ簡易な構成で電気回路の発熱を抑えるための構成ではないため上述の問題を解決することはできない。
【0011】
そこで本願に係る防爆構造を有する電気回路は、電気回路全体に蓄積されるトータルの電荷量を小さくすることができ、かつ簡易な構成で回路の発熱を抑制することができる防爆構造を有する電気回路の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願に係る防爆構造を有する電気回路は、
電源から供給された電力を昇圧して出力するDC/DCコンバータであって、所定容量の電荷を蓄電することが可能な第一の蓄電部を含むDC/DCコンバータ、
前記DC/DCコンバータに連続して接続され、前記DC/DCコンバータから出力された電力を定電圧化するツェナーダイオード、
前記ツェナーダイオードに連続して接続され、かつ接続経路上で抵抗を生じさせる抵抗部、
前記抵抗部に連続して接続され、所定容量の電荷を蓄電することが可能な第二の蓄電部を含むセンサ回路、
を備えた防爆構造を有する電気回路であって、
前記抵抗部は、前記電源からの電力供給が開始された場合に、前記DC/DCコンバータにおける前記第一の蓄電部への蓄電タイミングと、前記センサ回路における前記第二の蓄電部への蓄電タイミングとにずれを生じさせることにより、最大電荷量を抑制する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本願に係る防爆構造を有する電気回路においては、接続経路上で抵抗を生じさせる抵抗部が接続経路上に設けられている。
【0014】
したがって、抵抗部が接続経路上で抵抗を生じさせることによって、第一の蓄電部と第二の蓄電部との蓄電のタイミングにずれが生じ、電荷の同時蓄電を回避することができる。
【0015】
このため、電気回路全体に蓄積されるトータルの電荷量を小さくすることができ、電気回路の本質安全防爆構造を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本願に係る防爆構造を有する電気回路の一実施形態を示す主要回路構成のブロック図である。
図2図1に示すDC/DCコンバータ30内のコンデンサに蓄電された電荷量C1、センサ回路40内のコンデンサに蓄電された電荷量C2の変化を表すグラフである。
図3図1に示す電気回路を有するセンサがスチームトラップに取り付けられた状態を示す外観図である。
図4】従来技術の問題点を説明するためのグラフであり、2つのコンデンサにおいて各々蓄電される電荷量C11、C12の変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施形態における用語説明]
実施形態において示す主な用語は、それぞれ本願に係る防爆構造を有する電気回路の下記の構成要素に対応している。
電磁誘導伝導部18…抵抗部
通信ライン15…通信線
測定部25…検出部
DC/DCコンバータ30内のコンデンサ…第一の蓄電部、電圧変換コンデンサ
センサ回路40…検出処理部
センサ回路40内のコンデンサ…第二の蓄電部、検出処理コンデンサ
端末機60…制御機器
【0018】
[第1の実施形態]
本願に係る防爆構造を有する電気回路の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は電気回路の主要な回路構成の一実施形態を示すブロック図であり、図2はDC/DCコンバータ30内のコンデンサに蓄電された電荷量C1、センサ回路40内のコンデンサに蓄電された電荷量C2の変化を表すグラフであり、図3は本実施形態における電気回路を有するセンサがスチームトラップに取り付けられた状態を示す外観図である。
【0019】
(スチームトラップとセンサの動作の概要説明)
まず、図3に基づいてスチームトラップ90とセンサ2の動作の概要を説明する。産業プラントには、ボイラーで生成された蒸気を供給先に向けて高温・高圧で移送する配管系統が設置されていることがある。この配管内で蒸気が液化するとドレン(蒸気の凝縮水)が滞留し、蒸気移送のための空間が縮小される結果、蒸気の移送効率が低下してしまう。
【0020】
このような事態を回避するために、図3に示すように配管80には随所に多数のスチームトラップ90が設けられている。スチームトラップ90の内部空間は弁室91として形成されており、ここに配管80から蒸気やドレンが流入する。弁室91の下方には排出口97が設けられているが、通常時においては、この排出口97はフロート95によって塞がれており蒸気漏れが生じないようになっている。フロート95は中空の球状体として構成されている。
【0021】
弁室91にドレンが滞留しドレン水量が一定レベルに達した場合、フロート95はこれにともなって浮上し排出口97を自動的に開放する。これによって、配管80内の高圧の勢いに従い、ドレンは排出口97からドレン回収管82に排出される。
【0022】
ところで、スチームトラップ90に作動不良が生じると、適正な蒸気の移送が妨げられ、産業プラントの効率的な稼動が確保できない。スチームトラップ90の作動不良としては排出不良と密閉不良の二つのケースがある。
【0023】
排出不良は、異物の混入等が原因で排出口97が閉塞することによって発生する作動不良であり、排出不良が生じると配管内に過度のドレンが滞留してしまう。一方、密閉不良はフロート95の摩耗や変形等が原因で、本来、密閉すべき排出口97とフロート95との間に隙間が生じることによって発生する作動不良であり、排出口97を密閉できなければ、ここから蒸気の漏洩が生じ、蒸気の移送効率の低下等を招く。
【0024】
スチームトラップ90に排出不良が生じている場合、ドレンの滞留によってスチームトラップ90自体の表面温度が低下するため、スチームトラップ90の表面温度を検出して温度低下を把握すれば排出不良を検知することができる。一方、スチームトラップ90に密閉不良が生じている場合、蒸気の漏洩に伴って漏洩音が発生し、スチームトラップ90が振動するため、スチームトラップ90の表面の振動を検出すれば密閉不良を検知することができる。
【0025】
このような、スチームトラップ90の温度変化や振動の発生をモニタリングするために、各スチームトラップ90には図3に示すようにセンサ2が取り付けられている。スチームトラップ90の温度変化や振動は微細なことがあるため、より正確な検出を目指してセンサ2は接触型のものが用いられる。すなわち、センサ2が備える測定部25が直接、スチームトラップ90に接して取り付けられ、スチームトラップ90の微細な温度変化や振動を検出する。
【0026】
また、スチームトラップ90の作動不良をより確実に検出するために、無線方式ではなく有線方式のセンサ2が採用されており、スチームトラップ90の温度や振動の検出データはデータ送信用の通信ライン15を通じて送信される。なお、センサ2には電源ライン10を通じて電源からの電力が供給されている。
【0027】
(センサの回路構成の説明)
次に、図1に基づいてセンサ2の回路構成を説明する。センサ2は前述のようにスチームトラップ90に取り付けられるため、防爆電気設備上の危険領域に位置することになる。危険領域とは、可燃性ガスや蒸気等が大気中に放出・漏洩して形成された爆発性雰囲気の量が無視できないほど多く、電気機器等の着火源によって爆発事故が発生する可能性が認められる場所をいう。
【0028】
センサ2の筐体20内にはセンサ回路40が設けられており、このセンサ回路40は測定部25からの検出データを取り込み、所定の処理を行って検出データを送信する。前述のように測定部25はスチームトラップ90に直接、接して取り付けられる(図3)。この測定部25は熱電対及び圧電素子を有して構成されており、スチームトラップ90の温度及び振動を計測する。
【0029】
センサ回路40が送信した検出データは、通信ライン15を通じて非危険領域に設置されている端末機60に与えられる。端末機60は産業プラント内の配管系統に設けられた各スチームトラップの温度変化や振動をモニタリングし、特定のスチームトラップに作動不良が認められれば表示部に警告等の表示を行う。オペレータはこれを認識してスチームトラップの作動不良に対する適切な処置を行う。
【0030】
センサ回路40には、電源2から電源ライン10を通じて電力が供給されている。この供給電力は、抵抗11を介して昇圧型のDC/DCコンバータ30で昇圧され、ツェナーダイオード50によって定電圧化されてセンサ回路40に給電される。すなわち、図1に示すようにDC/DCコンバータ30とセンサ回路40とは、直列的な接続経路によって電気的に接続されている。
【0031】
なお、危険領域に過大電圧や過大電流が供給されることを防止するために、非危険領域内において電力供給の電源ライン10 に本質安全防爆関連機器である安全保持器(絶縁バリア)を設置することもできる。
【0032】
ここで、DC/DCコンバータ30及びセンサ回路40の内部には、それぞれ所定の静電容量を有しており、所定容量の電荷を蓄電可能なコンデンサが設けられている。そして、DC/DCコンバータ30とセンサ回路40との間の接続経路上に電磁誘導伝導部18が設けられている。
【0033】
この電磁誘導伝導部18は非接触で電気を導電するものであり、本実施形態における電磁誘導伝導部18は、送電側と受電側との間で発生する誘導磁束を利用して送電する電磁誘導方式を用いたものである。すなわち、電磁誘導伝導部18には、送電部としての送電側コイルと受電部としての受電側コイルが内蔵されており、送電側コイルに電流が与えられると磁束が生じ、受電側コイルにも電流が流れる。これによって、非接触状態の下で電力供給を行うことができるため、回路の発熱を回避することができる。さらに、センサ回路40に対する電源ライン10からのノイズを排除することも可能である。
【0034】
また、電磁誘導伝導部18は、DC/DCコンバータ30とセンサ回路40との間の接続経路上において一定の抵抗を生じさせる。このため、DC/DCコンバータ30内のコンデンサへの蓄電タイミングに対し、センサ回路40内のコンデンサへの蓄電タイミングにずれを生じさせることができる。図2はこの状態を示すグラフであり、DC/DCコンバータ30内のコンデンサに蓄積されている電荷量をC1、センサ回路40内のコンデンサに蓄積されている電荷量をC2で表している。
【0035】
図2に示すように、電荷量C1が最大値に達する時点P1と電荷量C2が最大値に達する時点P2との間には間隔t1のずれが生じる。この結果、電気回路におけるトータルの電荷量C1+C2を、本質安全防爆構造に必要な基準値CAよりも小さくすることが可能になる。
なお、本実施形態において、筐体20の内面と各種回路との間隔を2mm以上に設定すれば、より一層確実に本質安全防爆構造を実現することができる。
【0036】
[その他の実施形態]
前述の実施形態においては、スチームトラップに取り付けられるモニタリング用のセンサに本願に係る防爆構造を有する電気回路を適用した例を示したが、コンデンサ等の蓄電部を複数有している電気回路であれば、他の機器に適用することもできる。
【0037】
また、図1に示す通信ライン15上に、フォトカプラ(図示せず)を設け、非接触による絶縁を保ったまま検出データを端末機60に送信するようにしてもよい。フォトカプラは発光素子と受光素子を内蔵しており、電気信号が発光素子によって光に変換され、これが受光素子によって受光され電気信号に再変換されることによってデータ通信を行うものである。通信ライン15上にフォトカプラを設けることによって、電磁誘導伝導部18が非接触状態で電力供給を行うことと相まって、回路の発熱をより確実に回避することができ、さらにセンサ回路40に対するノイズをより確実に排除することができる。
【0038】
また、前述の実施形態においては、電源2からの電力供給に関し、非接触給電における電磁誘導方式を用いた電磁誘導伝導部18を例示したが、非接触給電に関する他の方式、すなわち電磁界の共鳴現象を利用した電磁界共鳴方式、又は電力を電磁波に変換して送受信する電波方式を採用し、非接触状態で電力供給を行うようにしてもよい。さらに、接続経路上で抵抗を生じさせるものである限り、非接触給電以外の方法を用いて給電することもできる。
【符号の説明】
【0039】
2:センサ
15:通信ライン
18:電磁誘導伝導部
30:DC/DCコンバータ
40:センサ回路
60:端末機
90:スチームトラップ

図1
図2
図3
図4