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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】複合セラミックスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/563 20060101AFI20220802BHJP
【FI】
C04B35/563
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021155784
(22)【出願日】2021-09-24
【審査請求日】2022-01-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391009419
【氏名又は名称】美濃窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】関根 圭人
(72)【発明者】
【氏名】尾関 文仁
(72)【発明者】
【氏名】坂本 康直
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-143777(JP,A)
【文献】特開2013-184868(JP,A)
【文献】特開平04-214075(JP,A)
【文献】特開昭60-255670(JP,A)
【文献】特開昭60-235764(JP,A)
【文献】特開2003-137656(JP,A)
【文献】特開2017-036170(JP,A)
【文献】特許第4099135(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/563
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ホウ素(B C)及び二ホウ化チタン(TiB )を含む緻密質な複合セラミックス(但し、Alの窒化物(AlN)を含むものを除く)の製造方法であって、
炭化ホウ素(BC)粉末及び二ホウ化チタン(TiB)粉末を含有する平均粒子径1.7μm以下の混合粉末(但し、Alの窒化物(AlN)粉末を含有するものを除く)を成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を2,050~2,215℃で常圧焼成して前記複合セラミックスを得る工程と、を有し、
前記複合セラミックスが、前記炭化ホウ素と前記二ホウ化チタンの合計を基準とする、前記炭化ホウ素の含有量が50~75質量%であるとともに、前記二ホウ化チタンの含有量が25~50質量%であり、
前記二ホウ化チタンが、そのアスペクト比が1.5以上の粒子であり、
相対密度が89%以上であり、
電気抵抗率が9.0×10 -3 Ω・cm以下である複合セラミックスの製造方法。
【請求項2】
前記混合粉末が、アルミニウム(Al)成分をさらに含有し、
前記混合粉末中の前記アルミニウム(Al)成分の含有量が、前記炭化ホウ素(BC)粉末及び前記二ホウ化チタン(TiB)粉末の合計100質量部に対して、Al換算で1~5質量部である請求項に記載の複合セラミックスの製造方法。
【請求項3】
前記成形体をアルミニウム(Al)源の共存下で常圧焼成する請求項又はに記載の複合セラミックスの製造方法。
【請求項4】
前記複合セラミックスが、さらに、遊離炭素を3質量%以下含む請求項1~3のいずれか一項に記載の複合セラミックスの製造方法。
【請求項5】
前記複合セラミックスが、比剛性が140GPa/(g/cm )以上であり、ビッカース硬度が2,000Hv以上である請求項1~4のいずれか一項に記載の複合セラミックスの製造方法。
【請求項6】
前記複合セラミックスが、光学反射ミラーの構成材料として用いられる請求項1~5のいずれか一項に記載の複合セラミックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合セラミックス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ホウ素は、ダイヤモンド及び立方晶窒化ホウ素に次ぐ極めて高い硬度を示すセラミックスである。さらに、炭化ホウ素は、そのかさ比重(密度)が、代表的なセラミックスの一種であるアルミナの約2/3以下であるため、軽量で機械的特性に優れた製品を構成する材料として有用である。炭化ホウ素は、従来、線引きダイスやブラストノズル等の耐摩耗材の他、高い衝撃破壊抵抗性が要求される部品等の構成材料として用いられている。また、炭化ホウ素は高い弾性率を示すことから、そのかさ比重とのパラメータである比剛性(単位質量当たりの変形の程度)が炭素系の複合材料と比較しても高い。このため、半導体製造設備に用いられているステッパーや光学反射ミラー等の高速可動する部材の構成材料としての有用性が認められている。
【0003】
しかし、炭化ホウ素は、難焼結性及び難加工性といった課題を有する材料である。炭化ホウ素は、共有結合性に富んだ結合を有することから、焼結性に著しく劣る。このため、高品質な炭化ホウ素を簡易かつ経済的に製造することは困難であった。さらに、炭化ホウ素は、高硬度であることから形状加工が困難である。
【0004】
このような状況の下、炭化ホウ素粉末、二酸化チタン粉末、及び炭素粉末の混合物を加圧焼結することで、放電加工可能な炭化ホウ素-二ホウ化チタン焼結体を製造する方法が提案されている(特許文献1及び2)。放電加工は、電極と被加工物の間で短い周期で繰り返し発生させるアーク放電によって被加工物の一部を除去する機械加工技術の一種である。放電加工によれば、従来の機械加工技術では困難であった高硬度の材料を加工することができる。但し、放電加工によって加工する被加工物は、導電性を有する必要がある。炭化ホウ素は導電性に乏しいため、特許文献1及び2で提案された方法においては、電気抵抗率が低い二ホウ化チタンを含ませることで導電性を付与し、放電加工に適した材料としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-137656号公報
【文献】特開2009-143777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び2で提案された方法は、加圧条件下で焼成して炭化ホウ素-二ホウ化チタンを製造する方法であるため、加圧するための特別な製造設備が必要であるとともに製造コストもかかり、簡易かつ経済的な方法であるとは言えなかった。このように、加圧焼結によって炭化ホウ素系の焼結体を製造するには、設備面での制約が多く、産業上幅広く応用されている常圧焼結で培われてきた技術をそのまま適用できないという課題があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、高比剛性及び高硬度であるとともに、電気抵抗率が低く、放電加工により所望の形状に加工することが可能な、炭化ホウ素及び二ホウ化チタンを含む緻密質な複合セラミックスを提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記の複合セラミックスを加圧せずとも常圧下で焼成して得ることが可能な複合セラミックスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示す複合セラミックスが提供される。
[1]炭化ホウ素(BC)及び二ホウ化チタン(TiB)を含む緻密質な複合セラミックスであって、前記炭化ホウ素と前記二ホウ化チタンの合計を基準とする、前記炭化ホウ素の含有量が50~75質量%であるとともに、前記二ホウ化チタンの含有量が25~50質量%であり、前記二ホウ化チタンが、そのアスペクト比が1.5以上の粒子であり、相対密度が89%以上である複合セラミックス。
[2]比剛性が140GPa/(g/cm)以上であり、電気抵抗率が9.5×10-3Ω・cm以下であり、ビッカース硬度が2,000Hv以上である前記[1]に記載の複合セラミックス。
[3]光学反射ミラーの構成材料として用いられる前記[1]又は[2]に記載の複合セラミックス。
【0009】
また、本発明によれば、以下に示す複合セラミックスの製造方法が提供される。
[4]前記[1]~[3]のいずれかに記載の複合セラミックスの製造方法であって、炭化ホウ素(BC)粉末及び二ホウ化チタン(TiB)粉末を含有する平均粒子径1.7μm以下の混合粉末を成形して成形体を得る工程と、前記成形体を2,000~2,215℃で常圧焼成して前記複合セラミックスを得る工程と、を有する複合セラミックスの製造方法。
[5]前記混合粉末が、アルミニウム(Al)成分をさらに含有し、前記混合粉末中の前記アルミニウム(Al)成分の含有量が、前記炭化ホウ素(BC)粉末及び前記二ホウ化チタン(TiB)粉末の合計100質量部に対して、Al換算で1~5質量部である前記[4]に記載の複合セラミックスの製造方法。
[6]前記成形体をアルミニウム(Al)源の共存下で常圧焼成する前記[4]又は[5]に記載の複合セラミックスの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高比剛性及び高硬度であるとともに、電気抵抗率が低く、放電加工により所望の形状に加工することが可能な、炭化ホウ素及び二ホウ化チタンを含む緻密質な複合セラミックスを提供することができる。また、本発明によれば、上記の複合セラミックスを加圧せずとも常圧下で焼成して得ることが可能な複合セラミックスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例13の複合セラミックスの電子顕微鏡写真(2,000倍)である。
図2図1の二値化像である。
図3】比較例5の複合セラミックスの電子顕微鏡写真(2,000倍)である。
図4図3の二値化像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<複合セラミックス>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の一実施形態である複合セラミックスは、炭化ホウ素(BC)及び二ホウ化チタン(TiB)を含む緻密質な複合セラミックスであり、炭化ホウ素と二ホウ化チタンの合計を基準とする、炭化ホウ素の含有量が50~75質量%であるとともに、二ホウ化チタンの含有量が25~50質量%である。そして、二ホウ化チタンが、そのアスペクト比が1.5以上の粒子であり、相対密度が89%以上の緻密な複合セラミックスである。以下、本実施形態の複合セラミックスの詳細について説明する。
【0013】
従来、炭化ホウ素の含有量の多い炭化ホウ素-二ホウ化チタン複合セラミックスを常圧下での焼結によって製造することは困難であった。本発明者らは、より経済性に優れているとともに、簡易な方法によって上記の複合セラミックスを製造する方法について鋭意検討した。その結果、原料の組成及び粒径、並びに焼成温度を適切に制御することで、これまで困難とされていた常圧焼成によって、高比剛性及び高硬度であるとともに、放電加工により所望の形状に加工することが可能な複合セラミックスが得られることを見出し、本発明に至った。
【0014】
高比剛性及び高硬度であるとともに、放電加工により所望の形状に加工しうる程度に電気抵抗率が低い炭化ホウ素及び二ホウ化チタンを含む緻密質な複合セラミックスとするには、第一に、炭化ホウ素と二ホウ化チタンの合計を基準とする、炭化ホウ素の含有量を50~75質量%、好ましくは60~70質量%とし、二ホウ化チタンの含有量を25~50質量%、好ましくは30~40質量%とすることが重要である。第二に、複合セラミックス中の二ホウ化チタンは、そのアスペクト比が1.5以上の粒子であることが重要である。
【0015】
上記の要件をいずれも満たす本実施形態の複合セラミックスは、例えば、比剛性が140GPa/(g/cm)以上、好ましくは145~152GPa/(g/cm)である。また、本実施形態の複合セラミックスは、例えば、電気抵抗率が9.5×10-3Ω・cm以下である。さらに、本実施形態の複合セラミックスは、例えば、ビッカース硬度が2,000Hv以上、好ましくは3,000Hv以上である。このため、本実施形態の複合セラミックスは、その特性を生かし、例えば、高速駆動するとともに高い位置精度が要求される光学反射ミラーの他、半導体搬送装置、摺動部材、ノズル、切削工具、及び防弾板等の構成材料として有用である。
【0016】
本明細書における「アスペクト比」は、試料となる複合セラミックスの表面を走査型電子顕微鏡で観察及び撮影して得た写真を使用し、画像解析ソフト(WinROOF)を用いて測定した任意の30個以上の粒子の短径に対する長径の比(長径/短径)の値の平均値である。
【0017】
本明細書における「ビッカース硬度」は、JIS R1610:2003に準拠して測定される値であり、市販のビッカース硬度計を使用し、室温下、荷重3~10kgf、保持時間10秒の条件にて測定される値である。なお、ビッカース硬度は、例えば「102(無単位)≒1GPa」と換算することができる。
【0018】
複合セラミックスの相対密度は89%以上であり、好ましくは93%以上である。複合セラミックスの相対密度が89%未満であると、複合セラミックス中に気孔(いわゆる欠陥)が多く存在することになるため、耐久性が低下する。なお、複合セラミックスの相対密度は、例えば、焼成温度や焼成時間を調整することによって制御することができる。
【0019】
本実施形態の複合セラミックスは、具体的には、炭化ホウ素からなるマトリックス中に、電気抵抗率が低い二ホウ化チタンが粒子状に分散した組織構造を有する。一般に、複合材料の電気抵抗率と材料比率の関係は、パーコレーション理論で説明されている。パーコレーション理論とは、対象とする材料が複合材料内でどのように繋がっているか、その繋がり方の特徴が複合材料の特性にどの様な影響を与えるかを対象とする理論である。対象材料が繋がってできた塊はクラスターと呼ばれ、ある特定濃度(閾値)以上でクラスターが生成され、複合材料全体の特性が大きく変化する。パーコレーション理論では、アスペクト比が1より大きなフレーク状及び繊維状などの導電性材料を添加した複合材料では導電性材料同士が繋がりやすく、アスペクト比が1に近い球状粒子が複合化された場合よりも低い添加比率で導電性パスが形成されることが報告されている。本発明の場合、二ホウ化チタン量と複合セラミックスの電気抵抗率の関係がパーコレーション理論で説明できると考えられる。すなわち、粒子状の二ホウ化チタンのアスペクト比を大きくすることにより、より少量の二ホウ化チタンで電気抵抗率を下げることができる。そして、二ホウ化チタンの粒子のアスペクト比を1.5以上としたことで特有の導電パスが形成され、電気抵抗率が低いといった特性を示す。
【0020】
焼結助剤として遊離炭素を含有させてもよいが、複合セラミックス中の遊離炭素の含有量は、好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以下である。遊離炭素の含有量を3質量%以下とすることで、複合セラミックスの焼結性を向上させることができる。その際、平均粒子径0.05μm以上2.0μm以下の原料粉末を用いることが好ましい。
【0021】
遊離炭素とは、金属炭化物等を構成する炭素成分を除く、遊離した炭素(C)を意味する。複合セラミックス中の遊離炭素の含有量は、以下の方法によって測定することができる。まず、試料となる複合セラミックスを微粉砕した後、融剤を添加し、高周波誘導加熱等により短時間で高温まで加熱して試料を分解し、二酸化炭素を発生させる。赤外分光法により、発生した二酸化炭素の量から総炭素量を算出する。また、ホウ素(B)及びチタン(Ti)の含有量については、それぞれ別の方法によって定量する。その後、X線回折等により結晶相を同定し、特定された化学式から、ホウ素と炭素の比率、及びチタンと炭素の比率をそれぞれ算出し、これらの差から遊離炭素の含有量を求めることができる。
【0022】
<複合セラミックスの製造方法>
本実施形態の複合セラミックスは、以下に示す方法によって製造することができる。すなわち、本発明の複合セラミックスの製造方法の一実施形態は、上述の複合セラミックスを製造する方法であり、炭化ホウ素(BC)粉末及び二ホウ化チタン(TiB)粉末を含有する平均粒子径1.7μm以下の混合粉末を成形して成形体を得る工程(成形工程)と、この成形体を2,000~2,215℃で常圧焼成して複合セラミックスを得る工程(焼成工程)と、を有する。
【0023】
成形工程では、例えば、炭化ホウ素粉末及び二ホウ化チタン粉末を含有する平均粒子径1.7μm以下、好ましくは1.5μm以下の混合粉末を、非加熱条件下、20MPa以下の圧力条件で加圧成形して、所望とする形状の成形体を得る。得られる複合セラミックス中に遊離炭素(C)を含有させる場合には、その平均粒子径が0.05μm以上1.7μm以下の炭素(C)粉末を混合粉末に含有させればよい。また、得られる複合セラミックス中に遊離炭素を含有させる場合には、混合粉末の平均粒子径を0.5μm以上とすることが好ましい。本明細書における平均粒子径とは、体積基準の累積50%粒子径(メジアン径(D50))を意味する。
【0024】
混合粉末には、アルミニウム(Al)成分をさらに含有させることが好ましい。アルミニウム成分としては、アルミニウムや、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムなどのアルミニウムを含む化合物(アルミニウム化合物)を用いることができる。アルミニウム成分を、例えば、炭化ホウ素(BC)粉末及び二ホウ化チタン(TiB)粉末の合計100質量部に対して、Al換算で1~5質量部含有する混合粉末を用いることで、アルミニウム成分を含有しない混合粉末を用いる場合に比して、100~200℃低い焼成温度によって、同等の特性を有する複合セラミックスを得ることができる。
【0025】
焼成工程では、成形体を2,000~2,215℃、好ましくは2,100~2,200℃で常圧焼成する。これにより、所望とする本実施形態の複合セラミックスを得ることができる。加圧することなく常圧で焼成するため、特殊な加圧設備等が不要であり、容易かつ安価に複合セラミックスを製造することができる。また、炭化ホウ素セラミックスの一般的な焼成温度よりも低い温度で焼成することで、エネルギー面で有利であるとともに、電気抵抗率の局所的なバラつきを抑制し、ワイヤー放電加工等による加工性に優れた複合セラミックスとすることができる。
【0026】
焼成工程では、アルミニウム(Al)源の共存下で成形体を常圧焼成することが好ましい。すなわち、アルミニウムを含有する蒸気が存在する雰囲気中で焼成することで、より緻密化することができるとともに、電気抵抗率をさらに低下させることが可能であり、同等以上の特性を有する複合セラミックスを得ることができる。
【0027】
アルミニウム源の共存下で成形体を常圧焼成するには、例えば、アルミニウムを含有する粉末、成形体、及び焼成体等を炉内に配置すればよい。アルミニウムとしては、好ましくは純度90%以上、さらに好ましくは純度95%以上のものを用いる。アルミニウムの粉末を用いる場合には、アルミニウムの粉末を収容したルツボを炉内に配置すればよい。アルミニウムの成形体や焼結体としては、任意の形状のものを用いることができる。金属アルミニウム、アルミニウム炭化物、及びアルミニウム窒化物を用いると、所望する複合セラミックスをより安定的に得ることができるために好ましい。
【0028】
例えば、アルミニウムの粉末を収容したルツボを炉内に配置して焼成する場合、ほぼすべてのアルミニウムが複合セラミックス中へと移行する。すなわち、得られる複合セラミックス中のアルミニウムの含有量を任意に設計することができる。
【実施例
【0029】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0030】
<複合セラミックスの製造>
(実施例1)
炭化ホウ素粉末(平均粒子径0.8μm、純度99.5%(酸素含有量1.2%及び窒素含有量0.2%を除く))68.4部、及びホウ化チタン粉末(平均粒子径1.7μm、純度99%)31.6部を混合した。さらに、遊離炭素の含有量が2%となる量の樹脂(焼成後の残留炭素量30%)を添加した後、粉砕メディアとしてSiCボール(直径5mmφ)を含むエタノール中でアトライターを使用して混合及び粉砕し、スラリーを得た。得られたスラリーをスプレードライヤーにより乾燥造粒して、平均粒子径1.33μm、BET比表面積11.5m/gの混合粉末を得た。得られた混合粉末を直径25mmの金型に充填し、10MPaにて一軸加圧成形後、200MPaにて静水圧成形し、成形体を得た。得られた成形体を2,215℃で4時間、アルミニウム粉末を配置したルツボ内で常圧焼成して、複合セラミックスを得た。
【0031】
(実施例2~14、16、17、19~21、参考例15、18、比較例1~8)
表1に示す組成及び物性の混合粉末を得るとともに、表1に示す焼成条件で焼成したこと以外は、前述の実施例1と同様にして、複合セラミックスを得た。なお、比較例1及び7については焼成により溶融してしまい、目的とする複合セラミックスを得ることができなかった。実施例13の複合セラミックスの電子顕微鏡写真(2,000倍)、及びその二値化像を図1及び2に示す。また、比較例5の複合セラミックスの電子顕微鏡写真(2,000倍)、及びその二値化像を図3及び4に示す。図1~4中、明色部が二ホウ化チタン粒子を示し、「a」が二ホウ化チタン粒子の短径、「b」が二ホウ化チタン粒子の長径をそれぞれ示す。
【0032】
【0033】
<評価>
(相対密度)
炭化ホウ素の理論密度は2.52g/cmであり、二ホウ化チタンの理論密度は4.51g/cmである。このことから、炭化ホウ素と二ホウ化チタンの質量比率に応じて理論密度を算出し、複合セラミックスのかさ密度(実測値)を理論密度で除して得た値を複合セラミックスの相対密度とした。結果を表2に示す。
【0034】
(弾性率、かさ密度、及び比剛性)
JIS R 1602:1995に準拠した方法により、複合セラミックスの弾性率を測定した。また、JIS R 1628:1997に準拠した方法により、複合セラミックスのかさ密度を測定した。そして、測定した弾性率及びかさ密度から、複合セラミックスの比剛性(=弾性率/かさ密度)を算出した。結果を表2に示す。
【0035】
(電気抵抗率)
JIS R 1650-2:2002に準拠した方法により、複合セラミックスの電気抵抗率を測定した。結果を表2に示す。
【0036】
(ビッカース硬度)
JIS R 1610:2003に準拠した方法により、複合セラミックスのビッカース硬度を測定した。結果を表2に示す。
【0037】
(二ホウ化チタンの(TiB)粒子のアスペクト比)
電子顕微鏡を使用して複合セラミックスの断面を観察し、二ホウ化チタン(TiB)粒子のアスペクト比を測定及び算出した。結果を表2に示す。
【0038】
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の複合セラミックスは、高速駆動するとともに高い位置精度が要求される光学反射ミラーの他、半導体搬送装置、摺動部材、ノズル、切削工具、及び防弾板等の構成材料として有用である。
【要約】
【課題】高比剛性及び高硬度であるとともに、電気抵抗率が低く、放電加工により所望の形状に加工することが可能な、炭化ホウ素及び二ホウ化チタンを含む緻密質な複合セラミックスを提供する。
【解決手段】炭化ホウ素(BC)及び二ホウ化チタン(TiB)を含む緻密質な複合セラミックスである。炭化ホウ素と二ホウ化チタンの合計を基準とする、炭化ホウ素の含有量が50~75質量%であるとともに、二ホウ化チタンの含有量が25~50質量%であり、二ホウ化チタンが、そのアスペクト比が1.5以上の粒子であり、相対密度が89%以上である。
【選択図】図1

図1
図2
図3
図4