(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-01
(45)【発行日】2022-08-09
(54)【発明の名称】塗料性状の予測方法、補正配合組成の予測方法、塗料性状の予測システム、補正配合補正の予測システム、及び塗料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20220802BHJP
C09D 7/80 20180101ALI20220802BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20220802BHJP
G01J 3/46 20060101ALI20220802BHJP
G01N 33/32 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/80
G05B19/418 Z
G01J3/46 Z
G01N33/32
(21)【出願番号】P 2021577702
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2021045719
【審査請求日】2021-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2020207077
(32)【優先日】2020-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000230054
【氏名又は名称】日本ペイントホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【氏名又は名称】山口 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】仲沢 憲幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕之
(72)【発明者】
【氏名】小▲高▼ 智子
(72)【発明者】
【氏名】生原 陸
(72)【発明者】
【氏名】沼田 悠貴
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-506961(JP,A)
【文献】特許第6703639(JP,B1)
【文献】特開2004-323801(JP,A)
【文献】特開平11-228881(JP,A)
【文献】特開2002-226735(JP,A)
【文献】特開2006-213854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/32
G01J 3/46
C09D 1/00-201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料性状を予測する、塗料性状の予測方法であって、
調整前の塗料性状のデータ及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力として含み、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えた際の調整後の塗料性状を出力とする、所定の人工知能モデルにおいて、コンピュータにより、前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成を入力することによって、前記調整後の塗料性状を算出して予測する、塗料性状予測工程を含むことを特徴とする、塗料性状の予測方法。
【請求項2】
機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料性状の変動量を予測する、塗料性状の予測方法であって、
調整前の塗料性状のデータ及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力として含み、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えた際の調整後の塗料性状の変動量を出力とする、所定の人工知能モデルにおいて、コンピュータにより、前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成を入力することによって、前記調整後の塗料性状の変動量を算出して予測する、塗料性状予測工程を含むことを特徴とする、塗料性状の予測方法。
【請求項3】
機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えて、目標となる塗料性状を有する塗料を調製する場合に、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成を予測する方法であって、
請求項1に記載の塗料性状の予測方法の前記塗料性状予測工程によって、前記調整後の塗料性状を算出して予測することを含み、
前記塗料性状予測工程では、複数の前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成を入力し、各々の前記補正配合組成に対応する複数の前記調整後の塗料性状を予測し、
予測した前記複数の前記調整後の塗料性状に基づいて得られる前記補正配合組成を、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、補正配合予測工程をさらに含むことを特徴とする、補正配合組成の予測方法。
【請求項4】
機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えて、目標となる塗料性状を有する塗料を調製する場合に、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成を予測する方法であって、
請求項2に記載の塗料性状の予測方法の前記塗料性状予測工程によって、前記調整後の塗料性状の変動量を算出して予測することを含み、
前記塗料性状予測工程では、複数の前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成を入力し、各々の前記補正配合組成に対応する複数の前記調整後の塗料性状の変動量を予測し、
予測した前記複数の前記調整後の塗料性状の変動量に基づいて得られる前記補正配合組成を、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、補正配合予測工程をさらに含むことを特徴とする、補正配合組成の予測方法。
【請求項5】
前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成、及び調整後の塗料性状の変動量の関係を示す関係データを前記コンピュータに入力する、関係データ入力工程と、
前記所定の人工知能モデルを取得する、人工知能モデル取得工程と、をさらに含み、
前記人工知能モデル取得工程においては、前記コンピュータにより、前記関係データ入力工程において入力された前記関係データを学習データとして機械学習することにより前記所定の人工知能モデルを作成する、請求項2又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記所定の人工知能モデルは、入力として、前記塗料の製造条件に関するデータをさらに含み、
(a)前記塗料の粘度及び加熱残分のいずれか1つ以上、
(b)対象物に前記塗料を塗布する工程における、ロール周速、前記対象物への塗着圧、及び塗料の流量のいずれか1つ以上、
(c)焼き付け工程における焼き付け温度及び焼き付け時間のいずれか1つ以上、及び
(d)製造ラインの温度及び湿度のいずれか1つ以上、
の(a)~(d)うちのいずれか1つ以上を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記塗料性状は、少なくとも前記塗料の色彩を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記塗料性状は、前記色彩に加え、前記塗料の光沢及び/又は粘度をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記機械学習は、決定木、線形回帰、部分的最小二乗回帰、ラッソ回帰、リッジ回帰、多項式回帰、ガウス過程回帰、サポートベクターマシーン、ランダムフォレスト、勾配ブースティング、K近傍法、ニューラルネットワーク、ベイズ推定、又はこれらのアンサンブル学習による予測アルゴリズムを用いている、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記機械学習は、ニューラルネットワークによる予測アルゴリズムを用いている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記補正配合予測工程において、予測した前記複数の前記調整後の塗料性状の変動量の中から前記目標となる塗料性状との差が所定の基準値以下となる前記調整後の塗料性状の変動量に対応する前記補正配合組成を、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、請求項4に記載の方法。
【請求項12】
前記補正配合組成の各原料に対し、それぞれ配合量の数値生成範囲を設定する工程をさらに含み、
前記塗料性状予測工程では、設定された前記数値生成範囲内で生成された各原料の配合量の数値を組み合わせてなる前記複数の前記補正配合組成を入力する、請求項4又は11に記載の方法。
【請求項13】
予測した前記補正配合組成に対する許容範囲を決定する工程をさらに含み、
前記補正配合予測工程において予測した前記補正配合組成の中から、前記許容範囲内のものを、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記調整前の塗料に前記塗料性状調整用の原料を加える調整を複数回行い、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成の予測を複数回行い、
予測した前記塗料性状調整用の原料の配合組成に所定の演算を行うことにより、あるいは、前記目標となる塗料性状を基準値としたギャップ目標値を用いて得られた前記塗料性状調整用の原料のギャップ配合組成に所定の演算を行うことにより、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、請求項4に記載の方法。
【請求項15】
前記調整前の塗料に、請求項4に記載の方法により予測した前記補正配合組成を有する原料を加えて、塗料を調整する、調整工程と、
調整後の塗料性状を測定して合否を判定する、合否判定工程と、をさらに含み、
前記合否判定工程における判定結果が合格となるまで、前記補正配
合予測工程、前記調整工程、及び前記合否判定工程を繰り返す、塗料の製造方法。
【請求項16】
予測した前記補正配合組成、及び前記合否判定工程において測定された前記調整後の塗料性状の変動量のデータの関係を示す関係データを前記コンピュータに入力して前記関係データをアップデートする、関係データアップデート工程をさらに含む、請求項15に記載の塗料の製造方法。
【請求項17】
前記塗料は、コイルコーティング用の塗料である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料の塗料性状を予測するシステムであって、
調整前の塗料性状のデータ及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力として含み、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えた際の調整後の塗料性状を出力とする、所定の人工知能モデルにおいて、前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成を入力することによって、前記調整後の塗料性状を算出して予測する、塗料性状予測部を備えたコンピュータを備えていることを特徴とする、システム。
【請求項19】
機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料の塗料性状の変動量を予測するシステムであって、
調整前の塗料性状のデータ及び前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力として含み、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加えた際の調整後の塗料性状の変動量を出力とする、所定の人工知能モデルにおいて、前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成を入力することによって、前記調整後の塗料性状の変動量を算出して予測する、塗料性状予測部を備えたコンピュータを備えていることを特徴とする、システム。
【請求項20】
機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えて、目標となる塗料性状を有する塗料を調製する際の、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成を予測するシステムであって、
請求項18に記載のシステムの前記塗料性状予測部によって、前記調整後の塗料性状を算出して予測するように構成され、
前記塗料性状予測部は、複数の前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成が入力され、各々の前記補正配合組成に対応する複数の前記調整後の塗料性状を予測するように構成され、
予測した前記複数の前記調整後の塗料性状に基づいて得られる前記補正配合組成を、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、補正配合組成予測部をさらに備えたコンピュータを備えていることを特徴とする、システム。
【請求項21】
機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えて、目標となる塗料性状を有する塗料を調製する際の、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成を予測するシステムであって、
請求項19に記載のシステムの前記塗料性状予測部によって、前記調整後の塗料性状の変動量を算出して予測するように構成され、
前記塗料性状予測部は、複数の前記調整前の塗料性状のデータ及び前記補正配合組成が入力され、各々の前記補正配合組成に対応する複数の前記調整後の塗料性状の変動量を予測するように構成され、
予測した前記複数の前記調整後の塗料性状の変動量に基づいて得られる前記補正配合組成を、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、補正配合組成予測部をさらに備えたコンピュータを備えていることを特徴とする、システム。
【請求項22】
前記コンピュータは、前記調整前の塗料に、予測した前記補正配合組成を有する原料を加えた、調整後の塗料性状を測定した結果から合否を判定する、合否判定部をさらに備えている、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記所定の人工知能モデルを取得する、人工知能モデル取得部をさらに備える、請求項18~22のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料性状の予測方法、補正配合組成の予測方法、塗料性状の予測システム、補正配合補正の予測システム、及び塗料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗料を製造する際には、まず調整前の塗料を用意してから調整を繰り返し行って狙いの塗料性状に近づけていた。調整前の塗料を調製する場合は、まず、顔料、樹脂、及び溶剤をSGミル等で分散させて、多数の種類の原色塗料を調製して用意しておく。そして、仕込み工程として、用意した調整前の塗料に、原色塗料、樹脂、溶剤、及び添加剤を加えて、これらを分散して混合させた塗料を用意する。ここで、原色塗料、樹脂、溶剤、及び添加剤の添加量等は、例えば作業管理表等の過去のデータ等を記録しておき、それを参照することである程度狙いの塗料性状に近づけることができる。
【0003】
そして、用意した塗料の粘度を粘度計で測定し、また、用意した塗料を対象物に塗装してその色差や光沢を色差計や光沢計を用いて測定する等して、それぞれの目標とする塗装板との色差や光沢の差及び作業管理表等の過去のデータ等に基づいて、調色士が調整用の原色塗料、溶剤、及び光沢調整剤を手動で添加する。このようなことを、目標とする塗装板との色差や光沢の差が一定以下となるまで繰り返すことにより、所定の塗料性状を有する塗料を得ることができる。
【0004】
このような調色の繰り返し作業の機械化のために、最終色調整工程で用いられるコンピューターカラーマッチング装置が利用されている。一般的な自動車補修塗料や建築用塗料用のコンピューターカラーマッチング装置は、クベルカムンクやダンカンの理論式などに従って、基本的な原色混合時の色彩発現パターンを得る。次に、実際の各々の単一原色を使用したときの塗料の分光反射スペクトルなどの色彩計測値と、それらを各々既定の比率で混ぜた時の色彩計測値から、実測に基づいた理論計算の補正を行うことで、少ない実測データ(プライマリデータ)から、未知の配合比率の色彩を算出したり、目標とする色の配合比率を算出したりする。このような算出の仕組みから、現在の色(配合既知)から、目標とする色(配合算出)に変動させる(配合差を埋める)ための補正配合量を算出する。
【0005】
さらには、より精度の高い色彩の予測や、それに基づく精度の高い補正配合量の算出を目的として、理論式による算出に代えて、機械学習を用いた人工知能モデルによる予測手法により、塗料の製造の効率化を図ることが提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3212101号
【文献】特許第6703639号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、塗料は、用途によって製造毎の色のわずかな違いに対する許容性が異なる。例えば、自動車補修用塗料では、故障車の正常な塗装部分(目標とする塗装板に相当)と修理後に、新規に補修用として調整した塗料を塗装する部分との境をぼかし塗装する(グラデーションする)ことができるため、色の一致度はΔE<0.5程度と厳密には要求されない。一方、プレコート(組み立て前に塗装する)用であるコイルコーティング用塗料は、製造ロットの違う塗装板を製品製造時に隣り合わせて組み立てられることもあるため、製造ロットの違いによる色の違いを許容する幅は、例えばΔE<0.1程度と極めて小さい商品も多い。この色差レベルは色差計の機種によっても、コンディションによっても変化する領域なので、色彩の絶対値では精度が不足し、標準板(目標とする塗装板)を顧客合意のもと準備して、同一コンディションとなる同じタイミングで製造毎、調色毎に標準板との色差を測定し、標準板と所定の色差内に収めるような調整を行う。このレベルの調色は最小では、塗料総量の0.01%程度の原色添加量の調整にて行う必要がある。
【0008】
全体の配合比から色彩を理論式から算出したり、人工知能にその関係を学習させたりして予測させる場合、予測精度のわずかなずれが、補正の方向性を間違える結果がでやすい。例えば、現在の配合が、黒色原色10.0%、白色原色30.0%であって、目標とする色彩の真の配合が黒原色10.1%、白原色29.9%であった場合、黒原色の約0.1%添加とそれに伴う全体配合調整から配合補正量を算出するべきであるが、目標とする色彩の理論式と実測補正から算出または人工知能で予測された配合が、黒色原色9.9%、白色原色30.1%であった場合、白色原色を0.1%添加とそれに伴う全体配合調整から配合補正量を算出することになり、目標とする色から補正によってむしろ色が遠ざかってしまう。
【0009】
厳密なカラーマッチングが不要な場合は、用途によっては、そもそも配合組成の一つの0.1%の配合比の差からくる色彩の差は問題にされないことも多く、従来の全体配合比から色彩を理論式と実測補正から算出または人工知能で予測する方法は有効であるが、コイルコーティング用塗料に代表される、標準板とのわずかな色相の差を0.01%程度の原色塗料量の調整をする塗料においてはこのような方法を用いることができず、熟練の調色士による調整を行わざるを得なかった。
【0010】
ところで、原色塗料は、使用された顔料ロットや製造条件などにより、ロット毎にわずかながら色彩が違う。このわずかな色彩の違いは、必ずしも原色塗料の組成配合が同じならば同一の色彩となるとは限られない。これが、前述の計算誤差/人工知能による予測誤差の要因の一つとなっている。また、塗料を製造する際には、最初の配合から始めるとは限らず、例えば在庫品に対して調整を行う場合や、顧客から塗料の再調製を依頼される場合等があり得る。ところが、塗料は、在庫品として保管しているうちに一部の成分が凝集してしまう場合もあり、あるいは、顧客等に納品後、原色塗料や溶剤等が顧客先でどのように添加されたか不明な状態で再度譲渡されて戻ってくる場合等もある。このような場合には、最早、最初の配合の情報が役に立たないことになる。上記特許文献1、2の手法では、上記のような場合に正確な予測が困難になってしまう可能性がある。
【0011】
そこで、本発明は、機械学習の手法により効率化を達成しつつも、予測精度の高い、塗料性状又は補正配合組成の予測方法、塗料性状又は補正配合組成の予測システムを提供すること、並びに、機械学習の手法により効率化を達成しつつも、塗料性状を所期したものに精度良く近づけることが可能な、塗料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨構成は、以下の通りである。
(1)機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料性状を予測する、塗料性状の予測方法であって、
前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力として含み、調整後の塗料性状を出力とする、所定の人工知能モデルにおいて、コンピュータにより、前記補正配合組成を入力することによって、前記調整後の塗料性状を算出して予測する、塗料性状予測工程を含むことを特徴とする、塗料性状の予測方法。
ここで、「補正配合組成のデータ」は、配合成分及びその配合量に関するデータとすることができ、当該データに代えてあるいは当該データに加えて、商品名(品番)のデータを用いることもできる。配合成分に関しては、色材、バインダー、添加剤等の各成分の形状、化学的性状等や、色彩(L*値、a*値、b*値、分光反射スペクトル)についても当該データに含ませることができる。形状としては、色材等の形状(球状、鱗片状、繊維状等)、平均一次粒子径、平均二次粒子径、平均分散粒子径、粒子径分布、アスペクト比、厚さ等が挙げられる。化学的特性としては、分子量、分子量分布、変色温度、反応性等が挙げられる。
【0013】
(2)機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料性状の変動量を予測する、塗料性状の予測方法であって、
前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力として含み、調整後の塗料性状の変動量を出力とする、所定の人工知能モデルにおいて、コンピュータにより、前記補正配合組成を入力することによって、前記調整後の塗料性状の変動量を算出して予測する、塗料性状予測工程を含むことを特徴とする、塗料性状の予測方法。
【0014】
(3)機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えて、目標となる塗料性状を有する塗料を調製する場合に、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成を予測する方法であって、
請求項1に記載の塗料性状の予測方法の前記塗料性状予測工程によって、前記調整後の塗料性状を算出して予測することを含み、
前記塗料性状予測工程では、複数の前記補正配合組成を入力し、各々の前記補正配合組成に対応する複数の前記調整後の塗料性状を予測し、
予測した前記複数の前記調整後の塗料性状に基づいて得られる前記補正配合組成を、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、補正配合予測工程をさらに含むことを特徴とする、補正配合組成の予測方法。
【0015】
(4)機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えて、目標となる塗料性状を有する塗料を調製する場合に、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成を予測する方法であって、
請求項2に記載の塗料性状の予測方法の前記塗料性状予測工程によって、前記調整後の塗料性状の変動量を算出して予測することを含み、
前記塗料性状予測工程では、複数の前記補正配合組成を入力し、各々の前記補正配合組成に対応する複数の前記調整後の塗料性状の変動量を予測し、
予測した前記複数の前記調整後の塗料性状の変動量に基づいて得られる前記補正配合組成を、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、補正配合予測工程をさらに含むことを特徴とする、補正配合組成の予測方法。
【0016】
(5)前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成、及び調整後の塗料性状の変動量の関係を示す関係データを前記コンピュータに入力する、関係データ入力工程と、
前記所定の人工知能モデルを取得する、人工知能モデル取得工程と、をさらに含み、
前記人工知能モデル取得工程においては、前記コンピュータにより、前記関係データ入力工程において入力された前記関係データを学習データとして機械学習することにより前記所定の人工知能モデルを作成する、上記(2)又は(4)に記載の方法。
【0017】
(6)前記所定の人工知能モデルは、入力として、前記塗料の製造条件に関するデータをさらに含み、
(a)前記塗料の粘度及び加熱残分のいずれか1つ以上、
(b)対象物に前記塗料を塗布する工程における、ロール周速、前記対象物への塗着圧、及び塗料の流量のいずれか1つ以上、
(c)焼き付け工程における焼き付け温度及び焼き付け時間のいずれか1つ以上、及び
(d)製造ラインの温度及び湿度のいずれか1つ以上、
の(a)~(d)うちのいずれか1つ以上を含む、上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の方法。
【0018】
(7)前記所定の人工知能モデルは、前記入力に、前記調整前の塗料の塗料性状に関するデータをさらに含む、上記(1)~(6)のいずれか1つに記載の方法。
【0019】
(8)前記塗料性状は、少なくとも前記塗料の色彩を含む、上記(1)~(7)のいずれか1つに記載の方法。
【0020】
(9)前記塗料性状は、前記色彩に加え、前記塗料の光沢及び/又は粘度をさらに含む、上記(8)に記載の方法。
【0021】
(10)前記機械学習は、決定木、線形回帰、部分的最小二乗回帰、ラッソ回帰、リッジ回帰、多項式回帰、ガウス過程回帰、サポートベクターマシーン、ランダムフォレスト、勾配ブースティング、K近傍法、ニューラルネットワーク、ベイズ推定、又はこれらのアンサンブル学習による予測アルゴリズムを用いている、上記(1)~(9)のいずれか1つに記載の方法。
【0022】
(11)前記機械学習は、ニューラルネットワークによる予測アルゴリズムを用いている、上記(10)に記載の方法。
【0023】
(12)前記補正配合予測工程において、予測した前記複数の前記調整後の塗料性状の変動量の中から前記目標となる塗料性状との差が所定の基準値以下となる前記調整後の塗料性状の変動量に対応する前記補正配合組成を、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、上記(4)に記載の方法。
【0024】
(13)前記補正配合組成の各原料に対し、それぞれ配合量の数値生成範囲を設定する工程をさらに含み、
前記塗料性状予測工程では、設定された前記数値生成範囲内で生成された各原料の配合量の数値を組み合わせてなる前記複数の前記補正配合組成を入力する、上記(4)又は(12)に記載の方法。
【0025】
(14)予測した前記補正配合組成に対する許容範囲を決定する工程をさらに含み、
前記補正配合予測工程において予測した前記補正配合組成の中から、前記許容範囲内のものを、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、上記(13)に記載の方法。
【0026】
(15)前記調整前の塗料に前記塗料性状調整用の原料を加える調整を複数回行い、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成の予測を複数回行い、
予測した前記塗料性状調整用の原料の配合組成に所定の演算を行うことにより、あるいは、前記目標となる塗料性状を基準値としたギャップ目標値を用いて得られた前記塗料性状調整用の原料のギャップ配合組成に所定の演算を行うことにより、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、上記(4)に記載の方法。
【0027】
(16)前記調整前の塗料に、請求項4に記載の方法により予測した前記補正配合組成を有する原料を加えて、塗料を調整する、調整工程と、
調整後の塗料性状を測定して合否を判定する、合否判定工程と、をさらに含み、
前記合否判定工程における判定結果が合格となるまで、前記補正配合組成予測工程、前記調整工程、及び前記合否判定工程を繰り返す、塗料の製造方法。
【0028】
(17)予測した前記補正配合組成、及び前記合否判定工程において測定された前記調整後の塗料性状の変動量のデータの関係を示す関係データを前記コンピュータに入力して前記関係データをアップデートする、関係データアップデート工程をさらに含む、上記(16)に記載の塗料の製造方法。
【0029】
(18)前記塗料は、コイルコーティング用の塗料である、上記(1)~(17)のいずれか1つに記載の方法。
【0030】
(19)機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料の塗料性状を予測するシステムであって、
前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力として含み、調整後の塗料性状を出力とする、所定の人工知能モデルにおいて、前記補正配合組成を入力することによって、前記調整後の塗料性状を算出して予測する、塗料性状予測部を備えたコンピュータを備えていることを特徴とする、システム。
【0031】
(20)機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料の塗料性状の変動量を予測するシステムであって、
前記塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力として含み、調整後の塗料性状の変動量を出力とする、所定の人工知能モデルにおいて、前記補正配合組成を入力することによって、前記調整後の塗料性状の変動量を算出して予測する、塗料性状予測部を備えたコンピュータを備えていることを特徴とする、システム。
【0032】
(21)機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えて、目標となる塗料性状を有する塗料を調製する際の、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成を予測するシステムであって、
上記(19)に記載のシステムの前記塗料性状予測部によって、前記調整後の塗料性状を算出して予測するように構成され、
前記塗料性状予測部は、複数の前記補正配合組成が入力され、各々の前記補正配合組成に対応する複数の前記調整後の塗料性状を予測するように構成され、
予測した前記複数の前記調整後の塗料性状に基づいて得られる前記補正配合組成を、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、補正配合組成予測部をさらに備えたコンピュータを備えていることを特徴とする、システム。
【0033】
(22)機械学習の手法により、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えて、目標となる塗料性状を有する塗料を調製する際の、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成を予測するシステムであって、
上記(20)に記載のシステムの前記塗料性状予測部によって、前記調整後の塗料性状の変動量を算出して予測するように構成され、
前記塗料性状予測部は、複数の前記補正配合組成が入力され、各々の前記補正配合組成に対応する複数の前記調整後の塗料性状の変動量を予測するように構成され、
予測した前記複数の前記調整後の塗料性状の変動量に基づいて得られる前記補正配合組成を、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、補正配合組成予測部をさらに備えたコンピュータを備えていることを特徴とする、システム。
【0034】
(23)前記コンピュータは、前記調整前の塗料に、予測した前記補正配合組成を有する原料を加えた、調整後の塗料性状を測定した結果から合否を判定する、合否判定部をさらに備えている、上記(22)に記載のシステム。
【0035】
(24)前記所定の人工知能モデルを取得する、人工知能モデル取得部をさらに備える、上記(19)~(23)のいずれか1つに記載のシステム。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、機械学習の手法により効率化を達成しつつも、予測精度の高い、塗料性状又は補正配合組成の予測方法、塗料性状又は補正配合組成の予測システムを提供すること、並びに、機械学習の手法により効率化を達成しつつも、塗料性状を所期したものに精度良く近づけることが可能な、塗料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる塗料性状の予測方法のフローチャートである。
【
図2】本発明の一実施形態にかかる補正配合組成の予測方法のフローチャートである。
【
図3】本発明の一実施形態にかかる塗料の製造方法のフローチャートである。
【
図4】本発明の一実施形態にかかる塗料の製造方法のサブフローを示すフローチャートである。
【
図5】本発明の一実施形態にかかる塗料性状の予測システムのブロック図である。
【
図6】本発明の一実施形態にかかる補正配合組成の予測システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に例示説明する。
【0039】
<塗料性状の予測方法>
図1は、本発明の一実施形態にかかる塗料性状の予測方法のフローチャートである。以下、
図1を参照して、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)を予測する方法の一実施形態を例示説明する。なお、本実施形態の塗料性状の予測方法は、一例としては、後述の本発明の一実施形態にかかる塗料性状の予測システムを用いて実行することができる。ここで、予測する塗料性状は、少なくとも塗料の色彩を含むことが好ましく、また、色彩に加え、塗料の光沢及び/又は粘度をさらに含むことも好ましい。なお、予測する塗料性状は、色彩、光沢、粘度以外には、例えば、膜厚、隠ぺい率、フリップフロップ性、平滑性、目視外観、電気抵抗、接触角、汚染性、日射反射率、紫外線透過率、耐候性、粘弾性、塗膜異常、曳糸性、引火点、泡立ち性等を含むこともできる。特に、光沢を変化させると色彩も変化し、原色塗料を加えると光沢が変化する。粘度を調整するために溶剤や水などの希釈剤や粘性調整剤を加えると同様に色彩が変化し、原色塗料を加えると粘度が変化するように、互いに影響を及ぼすので、色彩調整において光沢、粘度を同時に予測して調整することが好ましい。
【0040】
例えば、調整前の塗料に原色塗料を少量加えると、塗膜の色彩が変化し、また、イソホロンを添加すると、加熱残分が変化するため膜厚が変化する。ここでいう「塗料性状」には、このような塗膜の色彩、膜厚等の塗膜性状を含むものとする。
【0041】
色彩は、例えばL*a*b*色空間におけるL*値、a*値、b*値(JIS Z8781-4(2013年))、X Y Z 表色系、R G B 表色系、Yxy表色系、ハンターL a b 表色系、L* C* h*表色系、マンセル表色系等の表色系に基づくものを用いることができる。色彩は、既知の色彩測定方法を用いて測定することができ、一例として、コニカミノルタ株式会社から市販のCM-512m3を用いて、塗膜に垂直にある受光部を0°とした場合に、25°、45°、75°となる角度から光源を照射して測定されるL*値、a*値、b*値を測定することができる。あるいは、X-Rite MA68II(エックスライト社製)を用いて測定することができる。測定角度は、目的又は使用する機器に応じて適宜調整することができる。その他任意の指標を用いることができる。さらに例えば、反射スペクトルデータであり、380nm~780nmの5nm毎の反射スペクトル強度を色彩とした指標等、任意の指標を用いることもできる。光沢は、特には限定されないが、グロスを指標として用いることができる。グロスは、既知の光沢測定方法を用いて測定することができ、一例として、試験板に形成した塗膜の60°光沢度を、鏡面光沢度計(光沢計VG 7000(日本電色工業社製))を用い、JIS K 5600-4-7(鏡面光沢度)に準拠して測定することができる。粘度は、既知の粘度測定方法を用いることができ、一例としては、JIS K 5600-2-2(フローカップ法)に準拠して測定することができる。平滑性は、ウェーブスキャン値を指標として用いることが好ましい。ウェーブスキャン値は、du(波長0.1mm以下)、Wa(波長0.1~0.3mm)、Wb(波長0.3~1.0mm)、Wc(波長1.0~3.0mm)、Wd(波長3.0~10.0mm)、We(波長10.0~30.0mm)、Lw(波長1.2~12mm)、及びSw(波長0.3~1.2mm)のいずれか1つ以上であることが好ましい。なお、ウェーブスキャン値は、値が小さいほど表面における当該波長の凹凸が少なく、塗膜の外観品質が良いことを意味する。フリップフロップ性は、変角色差計等を用いて計測することができる。塗膜異常は、具体的には、ムラ、フクレ、割れ、タレ、ピンホール、額縁等である。これらについても、それぞれ既知の手法で測定することができる。
【0042】
配合組成(原色塗料、添加材や主樹脂などすべての構成材料や、原色塗料のみの配合組成)から、塗料性状(例えば色彩)(の絶対値)を算出する方法ではなく、熟練の調色士の作業結果等から、「調整前の塗料に、ある原料を何%入れたら、塗料性状(例えば色彩)がどちらの方向にどれだけ変動したか」の結果のデータを大量に取得し、それを機械学習によって学習することによって、補正の方向と距離を予測しやすい、精度の高い人工知能モデルを作成できることを、本発明者らは見出した。
さらに、この方法は、一例としては、必要塗料量の90~98%を仕込む初期仕込みの段階で一度測色することで当該原色ロットを用いることができる。これにより、現在の色彩値を得ることができるので、原色ロットの色彩差があっても、残り2~10%しかないので影響を小さくすることができる。さらには、初期仕込みの色彩の情報から、当該原色ロットの着色力を反映して残りの2~10%の仕込み量を調整することもできる。
【0043】
ここで、調整前の塗料は、例えば塗料を調製して用意する場合には、例えば、顔料、樹脂、及び溶剤をSGミル等で分散させて、多数の種類の顔料等を調製して用意した原色塗料に、樹脂、溶剤、及び添加剤を加えて、これらを分散させ、その後調整を繰り返すことにより用意したものとすることができる。なお、調整した直後であれば、原料が判明した状態にしておくことができ、また、調整してから長時間経過したものであれば、組成物の一部が凝集する等して原料の情報が塗料性状を予測するのに不正確なものとなっている場合がある。あるいは、例えば塗料を顧客から塗料の再調製を依頼される等の場合には、原料の情報が不明である場合も想定され、また、顧客等に納品後に原料等が顧客先でどのように添加されたか不明な状態で再度戻ってくる場合等も想定される。
なお、調整前の塗料は、特には限定されないが、形態としては、例えば、水性塗料、溶剤系塗料、粉体塗料、無溶剤塗料等とすることができる。また、用途としては、例えば、コイル用塗料、一般工業用塗料、自動車用塗料、自動車補修用塗料、建築用塗料、重防食塗料、船舶用塗料とすることができ、塗装方法としては、スプレー塗装、ローラー塗装、刷毛塗装、ロール塗装(ナチュラル、リバース回転含む)、カーテンフロー塗装、ダイコート、電着塗装、粉体塗装、静電塗装とすることができ、乾燥方法としては、焼き付け乾燥、強制乾燥、自然乾燥、紫外線硬化とすることができ、配合組成としては、樹脂原料、顔料、意匠原料、溶媒(水を含む)、添加剤などが挙げられる。樹脂原料としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、アミノメラミン樹脂、イソシアネート樹脂、ブロックイソシアネート樹脂、ウレタン変性ポリエステル樹脂などのそれらの互いの変性樹脂とすることができ、顔料としては、無機顔料、有機顔料、着色顔料、体質顔料、意匠原料としては、メタリック、パール等の光輝材、骨材、シリカ、樹脂ビーズ、ワックス等、添加剤としては、粘度調整剤、シリコーン系添加剤、防錆剤、触媒、消泡剤等が挙げられる。
【0044】
調整前の塗料の塗料性状に関するデータは塗料特性値、配合成分及びその配合補正量に関するデータや塗装後の塗膜の画像とすることができ、塗料特性値は、加熱残分、pH、酸価、アミン価、電導度、顔料濃度、SP、塗料比重、塗膜比重、顔料濃度などが挙げられる。配合成分に関しては、色材、バインダー、添加剤等の各成分の形状、化学的性状等や、色彩(L*、a*、b*値、分光反射スペクトル)が挙げられ、当該データに代えてあるいは当該データに加えて、商品名(品番)のデータを用いることもできる。形状としては、色材等の形状(球状、鱗片状、繊維状等)、平均一次粒子径、平均二次粒子径、平均分散粒子径、粒子径分布、アスペクト比、厚さ等が挙げられる。化学的特性としては、分子量、分子量分布、変色温度、反応性等が挙げられる。画像は「静止画又は動画」が含まれる。
【0045】
性状調整用原料は、補正前の塗料の原料そのものを用いることもできるし、性状調整用原料として製造された中間材料を準備することもできる。補正前の塗料の原料そのものを使う例としては、粘度調整用として溶媒や水、粘度調整剤、光沢調整用としてはシリカ、アクリルビーズなどの光沢調整剤、色彩調整としては、原色塗料、染料、パール、メタリック光輝材などが挙げられる。性状調整用原料として製造または商品として購入された中間材料としては、色彩調整として単一着色顔料で製造された調整前の塗料とほぼ同一の塗料、単一着色顔料で製造され顔料濃度を高くした原色塗料、光輝材を樹脂溶液で分散させた光輝材分散液が挙げられる。光沢調整用として先の光沢調整原料を溶媒や少量の分散機能を有する樹脂溶液で分散したもの等が挙げられる。
【0046】
塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータは、配合成分及びその配合補正量に関するデータとすることができ、補正に使用する原料の種類とそれぞれの量の組み合わせが挙げられる。具体的には、黒色原色、黄色原色、光沢調整剤と溶媒を補正に使う場合、各々の補正量として[0.5%, 0.02%, 0.6%, 3.5%]という配合補正量の組み合わせで表される。当該データに代えてあるいは当該データに加えて、商品名(品番)のデータを用いることもできる。配合成分に関しては、色材、顔料、バインダー、添加剤等の各成分の形状、化学的性状等や、色彩(L*、a*、b*値、分光反射スペクトル)についても当該データに含ませることができる。形状としては、色材等の形状(球状、鱗片状、繊維状等)、平均一次粒子径、平均二次粒子径、平均分散粒子径、粒子径分布、アスペクト比、厚さ等が挙げられる。化学的特性としては、分子量、分子量分布、変色温度、反応性等が挙げられる。塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータは、割合として表すこともでき、例えば、「個別原料添加量/調整前の塗料全量」や「個別原料添加量/調整前の塗料の原色全量」等とすることもできる。
【0047】
塗料性状の予測に関連条件データを用いても良い。関連条件データは、下地データ、塗装条件データ、測定条件データなどが挙げられる。予測に用いるデータとして塗装条件データを用いても良い。塗装条件データは、下地の種類や下地の色彩、表面張力、表面粗度が挙げられ、単なる商品名や物質をデータとして使用することができる。塗装条件データとしては、ロールコートであれば、ラインスピード、ロール周速、ニップ圧、塗着圧および塗料の流量、アプリケーターロールの状態、材質、硬さ、ピックアップロールの種類、焼き付け工程における焼き付け温度、焼き付け時間、温度及び湿度、板厚、塗装ライン、最高到達温度、下塗り・上塗り付着量、炉温、色差計、下塗りの種類や色、粗度、種類などの物性データ、化学的性質データ等などが挙げられる。スプレー塗装であれば吐出圧、吐出量、ガンのタイプ、焼き付け工程における焼き付け温度、焼き付け時間、温度及び湿度などが挙げられる。電着塗料であれば、塗装電圧、液温、通電時間、塗装方向(水平面か垂直面か)などが挙げられる。予測に用いるデータとして測定条件データを用いても良い。測定条件データは、色差計の機種、測定温度、機器通電からの時間、個別測定器名が挙げられる。
所定の人工知能モデルは、入力として、塗料の製造条件に関するデータをさらに含み、
(a)塗料の粘度及び加熱残分のいずれか1つ以上、
(b)対象物に前記塗料を塗布する工程における、ロール周速、対象物への塗着圧、及び塗料の流量のいずれか1つ以上、
(c)焼き付け工程における焼き付け温度及び焼き付け時間のいずれか1つ以上、及び
(d)製造ラインの温度及び湿度のいずれか1つ以上、
の(a)~(d)うちのいずれか1つ以上を含むことが好ましい。
【0048】
調整後の塗料性状は、色彩、光沢、粘度、膜厚、隠ぺい率、フリップフロップ性、ミクロ光輝感、平滑性、目視外観、電気抵抗、接触角、汚染性、日射反射率、紫外線透過率、耐候性、粘弾性、曳糸性、引火点、泡立ち性等を含むこともできる。特に、光沢を変化させると色彩も変化し、原色塗料を加えると光沢が変化する。粘度を調整するために溶剤や水などの希釈剤や粘性調整剤を加えると同様に色彩が変化し、原色塗料を加えると粘度が変化するように、互いに影響を及ぼすので、色彩調整において光沢、粘度を同時に予測して調整することが好ましい。
また、塗装条件等で膜厚が変動しうる場合は、特に隠蔽の完全でない塗膜の場合は、膜厚も色彩や光沢に影響を与えるので、膜厚も同時に予測したり、一度膜厚を予測したりして、その膜厚データを使用して、再度、色彩や光沢予測をしても良い。
【0049】
調整前の塗料を調製して用意する場合、ある程度所期した塗料性状に近づけておくことが好ましく、一例としては、作業管理表等の過去のデータを用いる等して、適切と考えられる原料の配合比で調製を行うことが好ましい。その際類似した調整記録をコンピュータで探しても良い。
ここで、本明細書における「塗料性状の変動量」は、上記調整後の塗料性状の変動量の数値(値)そのものであってもよく、上記調整後の塗料における塗料性状の変動割合であってもよい。ここで「塗料性状の変動割合」として、例えば、「調整後の塗料性状の変動量の数値(値)/塗料性状調製用の原料の添加量」や「調整後の塗料性状の数値(値)/塗料性状調製用の原料の添加割合」や「各調整後の塗料性状の数値(値)/調整後の塗料性状の数値(値)の絶対値の総和」などが挙げられる。
【0050】
図1に示すように、本実施形態では、まず、調整前の塗料の塗料性状、塗料性状調整用の原料の補正配合組成、及び調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)の関係を示す関係データを準備する(ステップS101)。当該関係データは、例えば製造実績データ、実験で得られたデータ、市販のコンピューターカラーマッチング装置で算出したデータ、クベルカムンクやダンカンの式などの理論式から算出したデータ等を用いて(コンピュータに入力可能な形式にして)準備することができる。なお、上述したように、予測する塗料性状は、少なくとも塗料の色彩を含むことが好ましく、従って、当該関係データは、少なくとも、調整前の塗料の色彩(例えばL
*a
*b
*色空間におけるL
*値、a
*値、b
*値であり、他の色空間等の指標、さらに例えば、反射スペクトルデータであり、380nm~780nmの5nm毎の反射スペクトル強度を色彩とした指標等、任意の指標を用いることもできる)の数値と、調整前の塗料に加えた原料の各原色塗料(黒原色塗料、白原色塗料、青原色塗料、黄原色塗料、赤原色塗料等)の量などの指標の数値や色彩の数値と、調整後の塗料の色彩の数値とが関連付けられた(後述の機械学習に必要十分な)多数のデータ群であることが好ましい。また、予測する塗料性状は、色彩に加え、塗料の光沢及び/又は粘度をさらに含むことも好ましいため、当該関係データは、色彩の数値に加え、塗料の光沢及び/又は粘度の数値(それぞれ他の指標を用いることもできる)と、調整前の塗料に加えた原料塗料の各原色(黒原色塗料、白原色塗料、青原色塗料、黄原色塗料、赤原色塗料等)の量等の指標の数値に加え、光沢調整剤及び/又は粘性調整剤の量の指標の数値や色彩の数値と、調整後の塗料の色彩の数値に加え、光沢及び/又は粘度の数値とが関連付けられた多数のデータ群とすることが好ましい。ここでも、データは、過去のデータに限らず、実験で得られたデータ、コンピューターカラーマッチング装置で算出したデータ、クベルカムンクやダンカンの式などの理論式から算出したデータ等を用いても良い。
なお、補正配合組成は、例えば調整前塗料組成物の総量で各補正配合量を除した値を用いることができ、あるいは、原色の総量で各補正配合量を除した値を用いることもできる。
また、関係データは、調整前の塗料の塗料性状、塗料性状調整用の原料の補正配合組成、及び調整後の塗料性状に加え、例えば塗膜作製時のプライマー情報及び/又は色彩、光沢測色時の測定器情報との関係を含んでいても良い。
なお、色彩の数値でなく、反射スペクトルの形状そのものを画像データとして指標とし、色彩データとしてもよい。
【0051】
なお、上記関係データは、より正確な予測を可能にするために、常に又は適時に又は定期的にアップデートされることが好ましい。
【0052】
図1に示すように、本実施形態では、次いで、調整前の塗料の塗料性状、塗料性状調整用の原料の補正配合組成、及び調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)の関係を示す関係データをコンピュータに入力する(関係データ入力工程:ステップS102)。
【0053】
次いで、
図1に示すように、コンピュータによる機械学習によって、調整前の塗料の塗料性状のデータ、及び、塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力とし、調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)を出力とする、所定の人工知能モデルを作成する(人工知能モデル作成工程:ステップS103)。なお、本実施形態においては、本ステップにおいて人工知能モデルを作成しているが、人工知能モデルは必ずしも作成する必要はなく、作成された人工知能モデルを外部から取得することもできる。例えば、コンピュータの通信部により人工知能モデルを取得することもでき、あるいは、人間により譲渡等により取得することもできる。
【0054】
機械学習のアルゴリズムは、任意の既知のアルゴリズムを用いることができ、例えば、決定木、線形回帰、部分的最小二乗回帰、ラッソ回帰、リッジ回帰、多項式回帰、ガウス過程回帰、サポートベクターマシーン、ランダムフォレスト、勾配ブースティング、K近傍法、ニューラルネットワーク、ベイズ推定、又はこれらのアンサンブル学習による予測アルゴリズムを用いることができる。
機械学習は、ニューラルネットワークによる予測アルゴリズムを用いていることが特に好ましい。ニューラルネットワークには、畳み込みニューラルネットワーク及びドロップアウトを行いながら3~数百の層を形成するディープラーニングを使用しても良い。
また、人工知能を作成するにあたって、TensorFlow、Keras、Caffe、PyTorch、Chainer、Scikit-learnなどの機械学習フレームワークを使用しても良い。
【0055】
ここで、機械学習は、教師あり学習(強化学習を含む)とすることができる。本実施形態では、人工知能モデル作成工程(ステップS103)は、コンピュータにより、関係データ入力工程(ステップS102)において入力された上記関係データを学習データ(本例では教師ありデータ)として機械学習(教師あり学習)することにより行われる。
【0056】
ここで、アルゴリズムは、以下の手法により決定することが好ましい。すなわち、種々の機械学習のアルゴリズムを用いて人工知能モデルを複数作成し、予め解答が判明しているデータを用いて出力の予測値と当該解答を比較することで各人工知能モデルの精度を確認する。そして複数のアルゴリズムのうち、精度の高いアルゴリズムについて、例えばクロスバリデーションでモデルを作成したり、ベイズ最適化などを利用したりして、最適なハイパーパラメータを決定する。決定したハイパーパラメータで全データを再学習させることにより、調整前塗料の塗料性状のデータ、及び、塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力とし、調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)を出力とする、人工知能モデルを作成することができる。
【0057】
ここで、本実施形態では、準備した上記関係データに対して前処理を行う。ここでは、準備した上記関係データに対して例えば、データの正規化/標準化や、対数をとったり、累乗を掛けたり(累乗処理)などの所定の演算を加えたり、新たなデータの生成といった加工処理や、不適切なデータを取り除くデータフィルタリング処理などの処理を行う。例えば、塗料性状の実測値と予測値との差異の大きかったデータに対して精査をし、入力ミスや記載ミスなどが疑われるデータを削除することができる。
上述のように、本実施形態では、様々な機械学習のアルゴリズムを用いることができるが、上記の前処理は、複数ないし全てのアルゴリズムに共通に適用できるものとすることができ(例えばいずれの機械学習アルゴリズムでも不適切と判断されると考えられる異常値のようなデータを取り除く)、あるいは、実際に用いる機械学習アルゴリズムにもっぱら適用できるものとすることもできる(例えば特定のアルゴリズムにおいてエラーを生じさせやすいデータを取り除く)。
【0058】
また、前処理においては、塗料性状調整用の原料の補正配合組成の添加量が0である場合に、調整による塗料性状の変化量が0であるという関係を示すゼロ点関係データを追加することが好ましい(ゼロ点追加)。機械学習に用いるデータは、例えば調色士による調色の記録のデータである場合、「補正配合を添加しない(添加量が0である)」というデータが含まれないことになり、機械学習により得られる結果が、検量線が原点(補正配合の添加量が0であり、且つ、塗料性状の変化量が0である点)を通らないものとなってしまい、予測の精度が低下してしまう懸念がある。そこで、上記のゼロ点関係データを追加することで、このような問題を回避し、予測の精度をより一層向上させることができる。ここではゼロに変えて、ゼロに近い数値でも良い。
【0059】
また、連続した調色作業の記録をデータとしてする際は、それらを合算したものを一つの調色記録としてデータを増幅させても良い(コンビネーション)。例えば、1回目と2回目の調色記録において、1回目に黒原色を0.1%加えてL*値が0.5下がった記録と、2回目に黒と赤原色を0.1%ずつ加えてさらにL*値がさらに1.1下がった記録を合算して、当初から、黒原色0.2%、赤原色0.1%加えて、L*値が1.6下がった調色記録をデータとして追加する操作となる。これにより、大きく変動したデータを学習させる効果と、データが増える効果の両面から予測の精度をより一層向上させることができる。
【0060】
前処理として、データ間に推測データを追加することもできる。例えば、データから近似直線や近似曲線を求め、当該近似直線や近似曲線上の点を推測データとすることができる。これにより、データ数を増大させて予測の精度をより向上させ得る。また、過去のデータとデータ間を線形や曲線で結び、その線上に任意の数のデータを増幅させても良い。
【0061】
このような前処理や正規化により、後述の機械学習において、より精度の高い塗料性状の予測を可能にする。ただし、本開示において、前処理を行うことは必須ではなく、この工程を省略することもできる。
上記と同様の方法で前処理後のデータを用いて所定の人工知能モデルを作成することができる。
【0062】
次いで、本実施形態では、コンピュータにより、上記の人工知能モデルにおいて、調整前の塗料の塗料性状のデータ、及び、補正配合組成を入力することによって、調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)を算出して予測する(塗料性状予測工程:ステップS104)。
【0063】
まず、塗料性状予測工程(ステップS104)において、入力する調整前の塗料の塗料性状のデータは、該調整前の塗料の塗料性状を測定することにより準備することができる。色彩は、任意の既知の色差計等を用いて測定することができる、また、光沢は、任意の既知の光沢計を用いて測定することができ、粘度は、任意の既知の粘度計を用いて測定することができる。他の塗料性状についても、任意の既知の測定手段により測定を行うことができる。各塗料性状の測定方法は、特には限定されないが、例えば塗料を塗布する予定の物品に実際に当該塗料を塗布したものを測定することもでき、あるいは、塗布前の塗料のまま測定(液測色)することもできる。塗装(塗布)を行う場合においては、塗装(塗布)を行う場合においては、バーコーター塗装、ロール塗装、スプレー塗装、ディップ塗装、電着塗装、印刷塗装、カーテンフロー塗装、はけ塗装、ロールコーター塗装、エアレススプレー塗装、粉体塗装、オフセット塗装、フレキソ印刷塗装、静電塗装、エアースプレー塗装、アプリケーター塗装、スピンコーター塗装等、様々な塗装があり得る。
なお、本実施形態では、ステップS101~ステップ104において、調整前の塗料の塗料性状のデータを用いており、人工知能モデルではこれを説明変数としているが、必ずしも説明変数に調整前の塗料の塗料性状のデータを含めなくても良い。例えば、自動車補修用塗料の色調整においては、車種の情報や塗色ナンバーを説明変数とすることもできる。
一方で、調整前の塗料の塗料性状のデータを用いる場合、特に塗布を行ったものを測定してデータを得る場合においては、板厚、膜厚、PMT(到達最高温度) 、焼付温度、及び下塗り条件等のデータを説明変数の調整前の塗料の塗料性状のデータに含めることができる。
【0064】
また、塗料性状予測工程(ステップS104)において、入力する補正配合組成は、予測する塗料性状が色彩である場合には、原料の各原色塗料(黒原色塗料、白原色塗料、青原色塗料、黄原色塗料、赤原色塗料等)の量の指標の数値となり、それに光沢及び粘度が加わる場合には、光沢調整剤及び/又は粘性調整剤の量の指標の数値とすることができる。
入力する補正配合組成は、予測の精度を高めるために、機械学習のために入力した上記関係データの元となるデータ(例えば製造実績データ等)を参照する等して、予め候補となる範囲を絞っておくことが好ましい。
【0065】
このようにして、上記の人工知能モデルにおいて、調整前の塗料の塗料性状のデータ、及び、補正配合組成を入力することによって、コンピュータにより調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)を算出することができる。なお、算出される塗料性状の予測値は、単一の値でも良く、あるいは、複数の候補群からなっていても良い。算出される塗料性状の予測値が複数の候補群からなる場合には、所定の基準を用いて適宜その中から単一の値を選択する工程をさらに含むことが好ましい。上記所定の基準は、様々なものとすることができ、例えば色彩の場合、E値(ΔE=(ΔL*2 +Δa*2 +Δb*2)0.5 )が所定の範囲内(例えばΔEが0.1以下、光沢0.2以下など)となるように選択することができる。一例としては、ΔEが最小となるように選択することができる。
なお、「塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力として含み、調整後の塗料性状を出力とする、所定の人工知能モデルにおいて、コンピュータにより、補正配合組成を入力することによって、調整後の塗料性状を算出して予測する」における「調整後の塗料性状を算出して予測する」には、調整後の塗料性状が有する所望性状と、調整前の塗料に塗料性状調製用の原料を加えた際の予測塗料性状との差が、機械学習の手法により予測されることによって、調整後の塗料性状が算出され予測される態様が含まれうる。この場合、機械学習により上記差がダイレクトに予測されることにより、調整後の塗料性状が算出され予測される。
【0066】
本実施形態の塗料性状の予測方法によれば、人工知能モデルを用いてデータを入力することで塗料性状の予測値を得ることができるため、効率化を達成することができる。また、人工知能モデルは、調整前の塗料の塗料性状のデータ、及び、塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力とし、調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)を出力とするものであるため、調整前の塗料の原料の情報が現時点での塗料性状を予測するのに役に立つものであるかどうかにかかわらず、実際に測定した調整前の塗料の塗料性状のデータを入力して上記の予測値を得ることができ、たとえ現時点での塗料性状が当初の原料から得られる塗料性状から変化しているような場合であっても、そのことは予測値の算出に影響せず、調整後の塗料性状を高い精度で予測することができる。
本例のように、塗料性状として色彩に加えて光沢及び/又は粘度を同時に予測することにより、これらの相互の影響まで考慮したより一層高い精度での予測が可能となる。
また、所定の人工知能モデルの出力に塗料性状の変動量を用いることにより、計測器による誤差やばらつきを相殺して、予測の精度をさらに高めることができる。
【0067】
<補正配合組成の予測方法>
図2は、本発明の一実施形態にかかる補正配合組成の予測方法のフローチャートである。以下、
図2を参照して、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えて、目標となる塗料性状を有する塗料を調製する場合に、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成を予測する方法の一実施形態を例示説明する。なお、本実施形態の補正配合組成の予測方法は、一例としては、後述の本発明の一実施形態にかかる補正配合組成の予測システムを用いて実行することができる。ここで、
図1の実施形態と同様に、塗料性状は、少なくとも塗料の色彩を含むことが好ましく、また、色彩に加え、塗料の光沢及び/又は粘度をさらに含むことも好ましい。なお、塗料性状は、色彩、光沢、粘度以外には、例えば、膜厚、隠ぺい率、フリップフロップ性、平滑性、目視外観、電気抵抗、接触角、汚染性、日射反射率、紫外線透過率、耐候性、粘弾性、塗膜異常、曳糸性、泡立ち性等を含むこともできる。また、予測する補正配合組成は、一例としては、原料の各原色塗料(黒原色塗料、白原色塗料、青原色塗料、黄原色塗料、赤原色塗料等)の量の指標の数値や色彩の数値や、光沢調整剤及び/又は粘性調整剤の量の指標の数値である。その他の詳細については、
図1の実施形態と同様であるため説明を省略する。なお、調整前の塗料の調製については、
図1の実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0068】
図2に示すように、本実施形態では、まず、調整前の塗料の塗料性状、塗料性状調整用の原料の補正配合組成、及び調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)の関係を示す関係データを準備し(ステップS201)、次いで、調整前の塗料の塗料性状、塗料性状調整用の原料の補正配合組成、及び調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)の関係を示す関係データをコンピュータに入力し(ステップS202)、次いで、コンピュータによる機械学習によって、調整前の塗料の塗料性状のデータ、及び、塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力とし、調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)を出力とする、所定の人工知能モデルを作成する(ステップS203)。これらのステップS201~S203については、
図1の実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0069】
図2に示すように、本実施形態では、次いで、コンピュータにより、上記の人工知能モデルにおいて、調整前の塗料の塗料性状のデータ、及び、補正配合組成を入力することによって、調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)を算出して予測する(塗料性状予測工程:ステップS204)。ここで、
図2の実施形態における塗料性状予測工程(ステップS204)では、予め候補として選定した複数の補正配合組成を入力し、各々の補正配合組成に対応する複数の調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)を予測する。予め複数の補正配合組成を選定するに当たっては、例えば作業管理表等の過去のデータを参照することができる。
例えば、コンピュータに、調整前塗料組成物の塗料性状、塗料性状調整用の原料の標準配合および、調整前塗料組成物製造時に加えた原料の配合を入力する。配合予測のデータ入力は、塗料性状調整用の原料の補正配合変動範囲の下限、上限値を設定し、その設定した補正配合の変動範囲に基づいて、塗料性状調整用の原料の補正配合組成の組み合わせ候補(各原色塗料、つや消し材、粘度調整剤の添加量の組み合わせ)(例えば)10万通りの候補データを作成する。塗料性状調整用の原料の補正配合変動範囲の下限、上限値を可能性のある最大の範囲(例えば、原色塗料と光沢調整剤は調整前塗料全量に対して0~2%の範囲の量、粘度調整剤は同じく0~10%の範囲)に設定した補正配合の変動範囲に基づいて、塗料性状調整用の原料の補正配合組成の候補データを準備することができる。また、予め多数の候補データを作成することに代えて、ベイズ最適化のような逐次探索アルゴリズムや遺伝的アルゴリズムを用いて複数の候補データおよび塗料性状(又は塗料性状の変動量)の予測値を得ることもできる。
【0070】
本実施形態では、次いで、予測した複数の調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)に基づいて得られる補正配合組成を、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する(補正配合予測工程:ステップS205)。
具体的には、一例としては、補正配合予測工程(ステップS205)において、予測した複数の調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)の中から目標となる塗料性状との(例えばE値の)差が所定の基準値以下(例えばΔEが0.1以下、光沢0.2以下など)調整後の塗料性状(又はその変動量)に対応する補正配合組成を、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する。一例としては、ΔEが最小となるように選択することができる。
【0071】
本実施形態の補正配合組成の予測方法によれば、人工知能モデルを用いてデータを入力することで補正配合組成の予測値を得ることができるため、効率化を達成することができる。また、人工知能モデルは、調整前の塗料の塗料性状のデータ、及び、塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力とし、調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)を出力とするものである。さらに、本実施形態では、予め候補として選定した複数の補正配合組成を入力して複数の塗料性状(又は塗料性状の変動量)の予測値を出力として得て、当該予測値に基づいて(本例では目標値との差が所定の基準値以下となるように)調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)に対応する補正配合組成を、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定している。このため、調整前の塗料の原料の情報が現時点での塗料性状を予測するのに役に立つものであるかどうかにかかわらず、実際に測定した調整前の塗料の塗料性状のデータを入力して上記の予測値を得ることができ、たとえ現時点での塗料性状が当初の原料から得られる塗料性状から変化しているような場合であっても、そのことは予測値の算出に影響せず、目標とする塗料性状にするための補正配合組成を高い精度で予測することができる。
塗料性状として色彩に加えて光沢及び/又は粘度を同時に予測することにより、これらの相互の影響まで考慮したより一層高い精度での予測が可能となる。
また、所定の人工知能モデルの出力に塗料性状の変動量を用いることにより、計測器による誤差やばらつきを相殺して、予測の精度をさらに高めることができる。
【0072】
なお、これらの方法をプログラム化して、実際に調色することなく、シミュレーションして、アプローチ率やギャップ率、補正配合数値入力範囲、補正配合組成の候補数などの条件が適切か、試行錯誤しながら実際の調色前の予備確認に利用してもよい。
【0073】
ここで、人工知能を用いた塗料の調製において、色彩等の塗料性状から必要な補正配合を予測する場合、解が1つではなく、実績記録とはかけ離れた(例えば目的の色彩を得ることはできるが、原色配合量が多くなることで、原色に含まれない添加剤比が少なくなり、添加剤補正の工数が生じる場合等)予測配合を提示することも起こり得る。従って、人工知能が予測した補正配合の精度を検証するために都度塗料を調製して確認するのは、上記のような不合理な予測に対しても調製を行うこととなるため効率が悪いという問題がある。
そこで、補正配合組成の各原料に対し、それぞれ配合量の数値生成範囲を設定する工程をさらに含み、塗料性状予測工程(ステップS204)では、設定された数値生成範囲内で生成された各原料の配合量の数値を組み合わせてなる複数の前記補正配合組成を入力することが好ましい。これによれば、予測を効率的に行うことができる。
【0074】
また、予測した補正配合組成に対する許容範囲を決定する工程をさらに含み、補正配合予測工程(ステップS205)において予測した補正配合組成の中から、許容範囲内のものを、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定することも好ましい。これによれば、予め許容範囲を設定してから補正配合の予測を行うことができるため、無駄な配合を生じる可能性が低下するため、より精度の高い補正配合組成の予測結果を効率良く得ることができる。
なお、上記数値生成範囲を許容範囲と同一の範囲として、設定された数値生成範囲(許容範囲)内で生成された各原料の配合量の数値を組み合わせてなる複数の補正配合組成を入力しても良い。
【0075】
上記の数値生成範囲は、予め設定された調整後の塗料配合の標準値又は実績値からの一定範囲に基づいて求めることができる。これにより標準値や実績値からのずれの小さい予測値を得ることができる。
【0076】
あるいは、上記の数値生成範囲は、調整後の塗料配合の塗膜の耐候性試験の合格範囲、及びメタメリズム試験の合格範囲の少なくともいずれかに基づいて求めることもできる。本予測を用いて調整された塗料性状を有する塗膜は、屋外で用いられることも多く、耐候性や耐食性と呼ばれる長期にわたる耐久試験(10~30年)をクリアする必要がある場合がある。しかしながら、特定の色彩を実現させるための配合は複数あるため、調色の過程で耐久性試験をかけた際の配合と相違がでてしまうと、耐候性や耐食性が低下し、予定より早く劣化してしまうおそれがある。そこで、耐候性試験の合格範囲を数値生成範囲とすることにより、このような問題に対処することができる。また、メタメリズムの観点では、原色配合比がずれると、色差計では同じ色彩を示すものの太陽に当たった際の色彩が異なる等に現象が生じ得るため、メタメリズム試験の合格範囲を数値生成範囲とすることにより、このような問題に対処することができるからである。
【0077】
ここで、塗料性状予測工程(ステップS204)において入力する複数の補正配合組成は、10の補正配合組成の各原料の数の指数通り以上の候補からなることが好ましい。例えば、原料の数が4の時、104=1000通りの組み合わせ総数となる。この1000通りは、黄色原料の許容される補正配合量0~10%の場合、1%間隔の10段階で候補配合を作成し、同様のことを赤色原料、黒色原料、白色原料と4原料で行ったときの総当たりの数に相当する。色彩の違いにシビアでさらに細かい微調色が求められることが多い場合、10の補正配合組成の各原料の数+1の指数通り(4原料の場合10000)、さらには、特にコイルコーティング等の用途など、特別に色彩の違いにシビアな場合や許容される補正配合範囲が大きい場合においては、補正配合組成の各原料の数+2の指数通り(4原料の場合100000)の候補とすることで、そのような微調色に対応した予測を行うことができるからである。
【0078】
また、各塗料性状調整用の原料の配合量の数値を生成し、生成した数値をランダムに組み合わせてなる補正配合組成の候補を生成し、候補に対して目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成を予測することが好ましい。特に上記のような微調色が必要な場合や原料の数が多い場合、補正配合範囲が大きい場合においては、総当たりの組み合わせは1兆通り(例えば4原料で0.01%間隔の場合)以上となる場合もあり、予測値を求めることが難しくなり実用的でなくなる問題がある。そこで、上記のようなランダム組み合わせを用いることで、0.01%間隔で100万通りとして、例えば並んだ順番で組み合わせを行う等することにより、組み合わせ数を削減して予測値を得るための計算時間を短縮することができる。総当たりの組み合わせは、他にも例えば、10万通り、1000万通り、1億通りといった桁の数となる場合もあり得る。
数値そのものを数値生成範囲内でランダムに生成しても良い
【0079】
ここで、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加える調整を複数回行い、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成の予測を複数回行い、予測した塗料性状調整用の原料の配合組成に所定の演算を行うことにより、あるいは、目標となる塗料性状を基準値としたギャップ目標値を用いて得られた塗料性状調整用の原料のギャップ配合組成に所定の演算を行うことにより、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定することが好ましい。
予測した塗料性状調整用の原料の配合組成に所定の演算を行う場合としては、例えば、予測値に70%等の値を乗じることが例示される。塗料の調色においては、マイナー原色を入れ過ぎた場合(例えば、白っぽいベージュの塗料に黒色原料を1%入れるべきところ、黒色原料を2%入れてしまうと、白色原料を99%入れて元に戻す必要が生じてしまう。原色は、ロット間にばらつきがあることが知られており、また、人工知能による予測精度が100%とは限らないため、上記のような原色を入れ過ぎてしまう問題が生じやすい。そこで、合格しないとわかっていてもあえて上記のような演算を行うことで、ロット間のばらつきや予測誤差等に起因する入れ過ぎを防止することができる。
ギャップ目標値を用いる場合の第1の例としては、例えば目標のΔL*の70%の点に設定することができる。例えば、ΔL*=3、ギャップ目標値を目標とのΔL*の70%の点に設定すると、3回の調整により、3→0.9→0.27→0.08と目標値からの差を0.1以下とすることができる。調色士による調整でも通常3~4回以上かかるとされているため、それと同等以下の調整回数で済むこととなる。ギャップ目標値を用いる場合の第2の例としては、目標のΔL*の800%の点に設定して、得られた予測値に10%を乗じても良い。
【0080】
また、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加える調整を複数回行い、目標を達成するために最適な塗料性状調整用の原料の配合組成の予測を複数回行い、補正配合予測工程で決定した最適な塗料性状調整用の原料の配合組成の3~99%の配合量の配合組成を用いることが好ましい。この方法によっても、ロット間のばらつきや予測誤差等に起因する入れ過ぎを防止することができる。
【0081】
さらには、大きな変動の予測精度が小さな変動の予測精度より高いことが事前にわかっている場合、目標変動値を目標との差より大きく設定することができる。例えばL*値の変動させたい量の300%の点にギャップ目標値を設定し、補正配合予測工程で決定した最適な塗料性状調整用の原料のギャップ配合組成の1~33%の配合組成を用いることもできる。
【0082】
<塗料の製造方法>
図3は、本発明の一実施形態にかかる塗料の製造方法のフローチャートである。また、
図4は、本発明の一実施形態にかかる塗料の製造方法のサブフローを示すフローチャートである。以下、
図3、4を参照して、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えて、目標となる塗料性状を有する塗料を調製して製造する方法の一実施形態を例示説明する。ここで、
図1、
図2の実施形態と同様に、塗料性状は、少なくとも塗料の色彩を含むことが好ましく、また、色彩に加え、塗料の光沢及び/又は粘度をさらに含むことも好ましい。なお、塗料性状は、色彩、光沢、粘度以外には、例えば膜厚、隠ぺい率、フリップフロップ性、平滑性、目視外観、電気抵抗、接触角、汚染性、日射反射率、紫外線透過率、耐候性、粘弾性、塗膜異常、曳糸性、泡立ち性等を含むこともできる。また、予測する補正配合組成は、一例としては、原料の各原色塗料(黒原色塗料、白原色塗料、青原色塗料、黄原色塗料、赤原色塗料等)の量の数値や色彩の数値や、光沢調整剤及び/又は粘性調整剤の量の数値である。その他の詳細については、
図1、
図2の実施形態と同様であるため説明を省略する。また、調整前の塗料の調製については、
図1、
図2の実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0083】
図3に示すように、本実施形態では、まず、調整前の塗料の塗料性状、塗料性状調整用の原料の補正配合組成、及び調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)の関係を示す関係データを準備し(ステップS301)、次いで、調整前の塗料の塗料性状、塗料性状調整用の原料の補正配合組成、及び調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)の関係を示す関係データをコンピュータに入力し(ステップS302)、次いで、コンピュータによる機械学習によって、調整前の塗料の塗料性状のデータ、及び、塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力とし、調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)を出力とする、所定の人工知能モデルを作成する(ステップS303)。次いで、コンピュータにより、上記の人工知能モデルにおいて、調整前の塗料の塗料性状のデータ、及び、補正配合組成を入力することによって、調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)を算出して予測する(ステップS304)。次いで、予測した複数の調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)に基づいて得られる補正配合組成を、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する(ステップS305)。これらのステップS301~S305については、
図2の実施形態と同様(ステップS301~S303については、
図1の実施形態とも同様)であるため、詳細な説明は省略する。
【0084】
図3に示すように、本実施形態では、次いで、調整前の塗料に、予測した補正配合組成(ステップS305で決定したもの)を有する原料を加えて、塗料を調整する(調整工程:ステップS306)。
【0085】
次いで、調整後の塗料性状を測定して合否を判定する(合否判定工程:ステップS307)。色彩は、任意の既知の色差計等を用いて測定することができる、また、光沢は、任意の既知の光沢計を用いて測定することができ、粘度は、任意の既知の粘度計を用いて測定することができる。他の塗料性状についても、任意の既知の測定手段により測定を行うことができる。各塗料性状の測定方法は、特には限定されないが、例えば塗料を塗布する予定の物品に実際に当該塗料を塗布したものを測定することもでき、あるいは、塗布前の塗料のまま測定(液測色)することもできる。塗装(塗布)を行う場合においては、バーコーター塗装、ロール塗装、スプレー塗装、ディップ塗装、電着塗装、印刷塗装、カーテンフロー塗装、はけ塗装、ロールコーター塗装、エアレススプレー塗装、粉体塗装、オフセット塗装、フレキソ印刷塗装、静電塗装、エアースプレー塗装、アプリケーター塗装、スピンコーター塗装等、様々な塗装があり得る。
【0086】
そして、合否判定工程(ステップS307)における判定結果が合格となるまで、補正配合組成予測工程(ステップS305)、調整工程(ステップS306)、及び合否判定工程(ステップS307)を繰り返す。予測した複数の調整後の塗料性状の中から目標となる塗料性状との(例えばE値の)差が所定の範囲内(例えばΔEが0.1以下、光沢0.2以下など)調整後の塗料性状に対応する補正配合組成を、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として再度決定することができ(一例としては、ΔEが2番目に小さくなるように再度決定する)、あるいは、別の基準を用いることにより、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成を選定し直すこともできる。このような一連の調色は、連続的に流れる製造ラインに測色計を設置し、色の変動を連続的にモニターしながら、標準色とのずれを調色しても良い。
【0087】
本実施形態では、合否判定工程(ステップS307)の後、調整前の塗料の塗料性状のデータ、予測した補正配合組成、及び合否判定工程(ステップS307)において測定された調整後の塗料の塗料性状のデータの関係を示す関係データをコンピュータに入力して関係データをアップデートすることが好ましい。これにより、関係データをアップデートしてより多くのデータに基づく人工知能モデルの作成が可能となる。アップデートは、新たなデータが得られた直後に行うこともできるし、定期的又は適時に行うこともできる。ただし、この工程は必須ではなく省略することもできる。
【0088】
本実施形態では、合否判定工程(ステップS307)における判定結果が所定の回数不合格となった場合に、サブフロー(ステップS308)を行う。サブフローは、
図4に示しているので、以下、
図4を参照して説明する。
【0089】
図4に示すように、サブフロー(ステップS308)においては、コンピュータによる機械学習によって、調整前の塗料の塗料性状のデータ、及び、塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力とし、調整後の塗料の塗料性状(又は塗料性状の変動量)を出力とする、別の人工知能モデルを作成する(人工知能モデル作成サブ工程:ステップS308-1)。次いで、コンピュータにより、上記別の人工知能モデルにおいて、調整前の塗料の塗料性状のデータ、及び、補正配合組成を入力することによって、別の前記調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)を算出して予測する(塗料性状予測サブ工程:ステップS308-2)。塗料性状予測サブ工程(ステップS308-2)では、予め候補として選定した複数の補正配合組成を入力し、各々の補正配合組成に対応する複数の調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)を予測する。次いで、予測した複数の調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)に基づいて、別の最適な補正配合組成を、目標を達成するための別の塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する(補正配合予測サブ工程:ステップS308-3)。次いで、調整前の塗料に、予測した別の補正配合組成を有する原料を加えて、塗料を調整する(調整サブ工程:ステップS308-4)。次いで、調整後の塗料性状を測定して合否を判定する(合否判定サブ工程:ステップS308-5)。そして、合否判定サブ工程(ステップS308-5)における判定結果が合格となるまで、塗料性状予測サブ工程(ステップS308-2)、補正配合予測サブ工程(ステップS308-3)、調整サブ工程(ステップS308-4)、及び合否判定サブ工程(ステップS308-5)を繰り返す。
【0090】
各サブ工程は、別の人工知能モデルを用いて別の予測結果を得るという点を除いては、
図3に示す本工程の各対応する工程と同様に行うことができる。
図3に示す本工程における合否判定工程又は
図4に示すサブ工程における合否判定サブ工程の判定結果が合格となった時点で、本実施形態のフローを終了する(ステップS309)。なお、本開示において、必ずしもサブフローを行う必要はない。
【0091】
本実施形態の塗料の製造方法によれば、人工知能モデルを用いてデータを入力することで補正配合組成の予測値を得て塗料性状が所定の狙い値に精度良く近づくまでこれを繰り返すことができるため、例えば調色士が都度作業管理表等に基づいて調整と測定とを繰り返す場合と比べて効率化を達成し得る。また、人工知能モデルは、調整前の塗料の塗料性状のデータ、及び、塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力とし、調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)を出力とするものである。さらに、本実施形態では、予め候補として選定した複数の補正配合組成を入力して複数の塗料性状(又は塗料性状の変動量)の予測値を出力として得て、当該予測値に基づいて(本例では目標値との差が最も小さくなるように)調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)に対応する補正配合組成を、目標を達成するために最適な塗料性状調整用の原料の配合組成として決定している。このため、調整前の塗料の原料の情報が現時点での塗料性状を予測するのに役に立つものであるかどうかにかかわらず、実際に測定した調整前の塗料の塗料性状のデータを入力して上記の予測値を得ることができ、たとえ現時点での塗料性状が当初の原料から得られる塗料性状から変化しているような場合であっても、そのことは予測値の算出に影響せず、塗料性状を所定の狙い値に精度良く近づけることができる。
塗料性状として色彩に加えて光沢及び/又は粘度を同時に予測することにより、これらの相互の影響まで考慮したより一層高い精度での予測が可能となり、塗料性状をより一層所期したものに近づけ得る。
また、所定の人工知能モデルの出力に塗料性状の変動量を用いることにより、計測器による誤差やばらつきを相殺して、予測の精度をさらに高めて塗料性状をさらに所定の狙い値に近づけ得る。
【0092】
<塗料性状の予測システム>
図5は、本発明の一実施形態にかかる塗料性状の予測システムのブロック図である。本システムは、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えた際の、調整後の塗料の塗料性状を予測するシステムである。
図5に示すように、本実施形態の塗料性状の予測システム10は、コンピュータ11を備えている。コンピュータ11は、機械学習する機能を有する。また、コンピュータ11は、人工知能モデル取得部12、塗料性状予測部13を有する。人工知能モデル取得部12は、調整前の塗料の塗料性状のデータ、塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力とし、調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)を出力とする、所定の人工知能モデルを機械学習により作成するものである。人工知能モデル取得部12は、人工知能モデルを外部から通信等により取得する通信部とすることもできる。本実施形態では、コンピュータ11の人工知能取得部12により人工知能モデルを取得するものとしているが、外部から入手する場合には必ずしもコンピュータ11を用いる必要はなく、人間によって譲渡等により取得することもできる。塗料性状予測部13は、人工知能モデルにおいて、調整前の塗料の塗料性状のデータ、及び、補正配合組成を入力することによって、調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)を算出して予測するものである。人工知能モデル取得部12及び塗料性状予測部13は、プロセッサとすることができる。
【0093】
コンピュータ11には、上述の関係データが入力される。本実施形態では、コンピュータ11は、関係データや取得(本例では作成)した人工知能モデルを記憶するための記憶部14(メモリ)及び関係データを送受信するための通信部15を有する。通信部15は、関係データのみならず、他のデータを送受信することもできる。人工知能モデル取得部12は、入力された関係データを学習データ(例えば教師ありデータ)として機械学習する機能を有することが好ましい。また、コンピュータ11は、関係データに対して前処理を行う機能部をさらに有することが好ましい。前処理の詳細は、塗料性状の予測方法の実施形態で説明したのと同様であるため、再度の説明は省略する。また、本予測システム10は、予測結果を表示する表示部(ディスプレイ)を備えることが好ましい。
本予測システム10によれば、人工知能モデルを用いてデータを入力することで塗料性状(又はその変動量)の予測値を得ることができるため、効率化を達成することができる。また、人工知能モデルは、調整前の塗料の塗料性状のデータ、及び、塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力とし、調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)を出力とするものであるため、調整前の塗料の原料の情報が現時点での塗料性状を予測するのに役に立つものであるかどうかにかかわらず、実際に測定した調整前の塗料の塗料性状のデータを入力して上記の予測値を得ることができ、たとえ現時点での塗料性状が当初の原料から得られる塗料性状から変化しているような場合であっても、そのことは予測値の算出に影響せず、調整後の塗料性状を高い精度で予測することができる。
塗料性状として色彩に加えて光沢及び/又は粘度を同時に予測することにより、これらの相互の影響まで考慮したより一層高い精度での予測が可能となる。
また、所定の人工知能モデルの出力に塗料性状の変動量を用いることにより、計測器による誤差やばらつきを相殺して、予測の精度をさらに高めることができる。
【0094】
<補正配合組成の予測システム>
図6は、本発明の一実施形態にかかる補正配合組成の予測システムのブロック図である。本システムは、調整前の塗料に、塗料性状調整用の原料を加えて、目標となる塗料性状を有する塗料を調整する際の、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成を予測するシステムである。
図6に示すように、本実施形態の補正配合組成の予測システム20は、コンピュータ21で構成されている。コンピュータ21は、機械学習する機能を有する。また、コンピュータ21は、人工知能モデル取得部22、塗料性状予測部23、記憶部24、及び通信部25を有する。これらについては、
図5に示した補正配合組成の実施形態での人工知能モデル取得部12、塗料性状予測部13、記憶部14、及び通信部15で説明したのと同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0095】
塗料性状予測部23は、予め候補として選定した複数の補正配合組成が入力され、各々の補正配合組成に対応する複数の調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)を予測するように構成されている。
コンピュータ21は、予測した複数の調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)に基づいて得られる補正配合組成を、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、補正配合組成予測部26をさらに有する。補正配合組成予測部26は、プロセッサとすることができる。なお、補正配合組成予測部26は、予測した複数の調整後の塗料性状の中から目標となる塗料性状との差が所定の範囲内となる(例えばΔEが0.1以下、光沢が0.2以下等)調整後の塗料性状(又はその変動量)に対応する補正配合組成を、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定することができるように構成されている。また、コンピュータ21は、関係データに対して前処理を行う機能部をさらに有することが好ましい。前処理の詳細は、塗料性状の予測方法の実施形態で説明したのと同様であるため、再度の説明は省略する。また、本予測システム20は、予測結果を表示する表示部(ディスプレイ)を備えることが好ましい。
本実施形態の補正配合組成の予測システムによれば、人工知能モデルを用いてデータを入力することで補正配合組成の予測値を得ることができるため、効率化を達成することができる。また、人工知能モデルは、調整前の塗料の塗料性状のデータ、及び、塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力とし、調整後の塗料性状(又は塗料性状の変動量)を出力とするものである。さらに、本実施形態では、予め候補として選定した複数の補正配合組成を入力して複数の塗料性状(又は塗料性状の変動量)の予測値を出力として得て、当該予測値に基づいて(本例では目標値との差が所定の範囲内になるように(例えばΔEが0.1以下、光沢が0.2以下等))調整後の塗料性状に対応する補正配合組成を、目標を達成するために最適な塗料性状調整用の原料の配合組成として決定している。このため、調整前の塗料の原料の情報が現時点での塗料性状を予測するのに役に立つものであるかどうかにかかわらず、実際に測定した調整前の塗料の塗料性状のデータを入力して上記の予測値を得ることができ、たとえ現時点での塗料性状が当初の原料から得られる塗料性状から変化しているような場合であっても、そのことは予測値の算出に影響せず、目標とする塗料性状にするための補正配合組成を高い精度で予測することができる。
塗料性状として色彩に加えて光沢及び/又は粘度を同時に予測することにより、これらの相互の影響まで考慮したより一層高い精度での予測が可能となる。
また、所定の人工知能モデルの出力に塗料性状の変動量を用いることにより、計測器による誤差やばらつきを相殺して、予測の精度をさらに高めることができる。
ここで、コンピュータ21は、調整前の塗料に、予測した補正配合組成を有する原料を加えた、調整後の塗料性状を測定した結果から合否を判定する、合否判定部27をさらに備えていることが好ましい。合否判定部27は、プロセッサとすることができる。これによれば、上述の実施形態にかかる塗料の製造方法のフローを実行することができる。
【0096】
ここで、方法の実施形態と同様に、補正配合組成の各原料に対し、それぞれ配合量の数値生成範囲を設定し、塗料性状予測部は、設定された数値生成範囲内で生成された各原料の配合量の数値を組み合わせてなる複数の補正配合組成が入力されることが好ましい。
また、予測した補正配合組成に対する許容範囲を決定し、補正配合予測部が、予測した補正配合組成の中から、許容範囲内のものを、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定することが好ましい。
なお、上記数値生成範囲を許容範囲と同一の範囲として、設定された数値生成範囲(許容範囲)内で生成された各原料の配合量の数値を組み合わせてなる複数の補正配合組成が入力されても良い。
また、調整前の塗料に塗料性状調整用の原料を加える調整を複数回行い、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成の予測を複数回行い、予測した前記塗料性状調整用の原料の配合組成に所定の演算を行うことにより、あるいは、目標となる塗料性状を基準値としたギャップ目標値を用いて得られた塗料性状調整用の原料のギャップ配合組成に所定の演算を行うことにより、目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定することも好ましい。
これらの詳細については、方法の実施形態において説明したのと同様であるので、再度の説明は省略する。また、方法の実施形態と同様に、塗料性状の変動量に代えて、塗料性状(の絶対値)を用いることもできる。
【0097】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されない。
【実施例】
【0098】
本発明の効果を確かめるため、実施例1~11にかかる予測及び比較例1、2にかかる予測を行ったので、以下に説明する。
【0099】
先に、実施例1~11及び比較例1、2で用いた調整前の塗料組成物の製造方法について説明する。最初に原色塗料の製造方法について説明する。
<原色製造例1>
アクリル樹脂(固形分濃度:40質量%)39質量部、イソホロン15質量部、酸化チタン46質量部を混合し、サンドミル(分散媒体:ガラスビーズ)を用いて、顔料粗粒の最大粒子径が10μm以下になるまで分散し、白色原色塗料を調製した。
<原色製造例2~5>
顔料をそれぞれ、黒色の焼成顔料、黄色酸化鉄、ベンガラ、に変更する以外は、製造例1の方法で黒原色塗料1、2、黄色原色塗料、赤色原色塗料を以下の表1の通り調製した。
・光沢調整剤
INEOS SILICAS社製GASIL HP395(光沢調整剤1)または、富士シリシア化学社製サイリシア435(光沢調整剤2)を使用して調整した。
・粘度調整剤
イソホロンを使用した。
【0100】
【0101】
表1に示した原色塗料を用いて、以下のように調整前の塗料組成物を製造した。調整前塗料組成物については、以下の表2にまとめている。
・調整前塗料組成物 製造例1
アクリル樹脂(固形分濃度:40質量%)31質量部、シクロヘキサノン3質量部、キシレン11質量部、KTL-20N(喜多村社製)5.5質量部、白色原色85質量部、黒色原色1質量部、黄色原色13質量部、赤色原色1質量部、光沢調整剤3質量部、イソホロン20質量部を加えてディスパーで均一に混合し、調整前塗料組成物1(固形分濃度: 40質量%を製造した。
・調整前塗料組成物 製造例2
以下の表2の通り原色塗料を添加した以外は、製造例1と同様に製造し、調整前塗料組成物2~4(固形分濃度:40質量%)を製造した。
【0102】
【0103】
<塗膜の作製方法>
下塗り塗料として、ファインタフG プライマー(プライマー1)を、乾燥膜厚が5μm になるようにバーコーター塗装した後、素材(亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板)の到達最高温度210℃ となる条件で60秒間焼付けを行い、下塗り塗膜を形成した。次に、塗料組成物1 を、乾燥膜厚が15μmとなるようにバーコーター又はロールコーターで塗装した後、所定の素材最高到達温度で60秒間焼付けた後、ただちに冷却させることで、調整前塗料組成物の塗膜を形成した。
【0104】
<測定方法>
各実施例及び比較例に記載の各測定は、下記記載の方法で測定した。
・色彩データの測定
塗膜の作製方法に記載の方法で記載した各種塗膜について、色彩色差計CR-300 (コニカミノルタ社製)、分光光度計LabScan XE(HunterLab社製)、分光色彩計SE6000(日本電色工業社製)または、カラーメーターSM-T(スガ試験機社製)の各種色差計を用いて色彩を測定した。
・光沢データの測定
塗膜の作製方法に記載の方法で掲載した各種塗膜について、VG7000(日本電色工業社製)を用いて光沢を測定した。
・粘度データの測定
フォードカップ♯4、25℃で各種塗料を測定したときの秒数を粘度の値とした。
・調整前塗料組成物及び調整後塗料組成物の塗料性状の取得
下塗り塗料(プライマー)にはいずれも、日本ペイント・インダストリアルコーティングス社製の
ファインタフG プライマー(プライマー1)
ファインタフC プライマー(プライマー2)
NSC 4800 NCプライマー (プライマー3)
の色相の違う3種類のエポキシ樹脂系プライマーのいずれかを用いて、塗膜作製方法に記載の方法で、調整前塗料組成物及び調整後塗料組成物の塗膜を形成した。
得られた塗膜の色彩は
CR-400(コニカミノルタ社製) (色差計1)
SE6000(日本電色工業社製) (色差計2)
Lab Scan XE(HunterLab社製)(色差計3)
のいずれかを用いて測定し、L*、a*、b*値または、目標とする標準板とのL*、a*、b*値差を取得した。
・調整後塗料組成物の取得
得られた、調整前塗料組成物、塗料性状調整用の原料(各原色塗料、光沢調整剤、イソホロン)を添加、目標とする塗料性状を保有する、調整後塗料組成物を得た。
【0105】
<学習用データの取得>
・人工知能モデル作成用の学習データの取得
上記「調整前塗料組成物 製造例」と同様の方法で作成した27色の塗料種(調整前塗料性状:L*値24~94、a*値-3~10、b*値-2~37、光沢3~55、粘度130~280秒)、膜厚14~22μm、各6ロット、計162個の塗料を準備した。塗装方法はバーコーター3ロット、ロールコーター3ロットとし、合格するまで調整を繰り返し、その塗料性状調整履歴をもとに、調整前塗料組成物の塗料性状、塗料性状調整用の原料の補正配合組成および調整後塗料組成物の塗料性状の人工知能モデル作成用の全5829関係データをコンピュータに入力した。このとき、調整前塗料組成物性状には色彩値、光沢、粘度及び膜厚を用い、調整後塗料組成物の塗料性状には調整により変動した色彩値、光沢、粘度、及び膜厚の変動量を用いた。塗料性状調整用の各原料の補正配合組成は、塗料の総量で各補正配合量を除した値を用いた。さらに、関連条件データとして、焼き付け工程における焼き付け温度(240℃~260℃で変動)、プライマー種、色差計を記録した。
このとき、色差計は色差計1~3をロット毎にランダムに使用した。同様にプライマー種もプライマー1~3をロット毎にランダムに使用した。
【0106】
<評価方法>
(推定精度)
推定精度は、本実施形態にかかわる色彩データについての実測値と予測値とを比較した
誤差から求める。実測値と予測値とに基づいて、各推定対象の実測値と予測値からなる散布図の決定係数を算出する。決定係数は(1-(残差平方和/全平方和))で表される。
実施例1 ~ 11 及び比較例1、2 では、表3 に示す推定対象(L*値、a*値、 b*値、光沢、粘度、膜厚) の決定係数に基づいて算出した。
決定係数の値が1に近いほど、学習した人工知能モデルの精度が高いといえる。
ここで学習した人工知能モデルの精度が高いことは、塗料性状予測システムの予測の精度が高いことを意味する。
(調色回数)
調色回数は、わずかに初期仕込み配合を変更した調整前塗料を5つ用意して、人工知能によって予測された補正配合組成に従って、各々調整した際に合格するまでの調色回数の平均値を示す。ここで調回数が小さいことは、塗料性状予測システムの予測の精度および補正配合組成の算出方法の精度が高いことを意味する。
(製造量率)
製造量率は予定された製造量を1とした時の調整後の製造量の割合を示す。ここで製造量率が100%を大きく超えないことは、塗料性状予測システムの予測の精度および補正配合組成の算出方法の精度が高くかつ、多少の誤差を許容しつつも、無駄な塗料を製造しない効率的なシステムであることを意味する。
【0107】
<塗料調整の合格判定基準>
下記3点の条件すべてを満たすことを合格判定の基準とした。
標準板と調整塗料の塗装板のL*値、a*値、b*値の差をΔL*、Δa*、Δb*とした。
・ΔE=√(ΔL*2 +Δa*2 +Δb*2)の値が0.1以下であり、かつΔL*、Δa*、Δb*各々が0.1以下であること。
・Δ光沢値は、光沢値が10以下は標準板との差異が0.5以下、10~20は1以下、30以上は3以下であること。
・目標値と実測値の粘度の差が10秒以下であること
【0108】
次に、各実施例及び比較例の予測について説明する。
【0109】
<実施例1>
事前にデータクレンジング、ゼロ点導入、コンビネーション、累乗処理、正規化などの前処理を実施した。コンピュータに関係データの調整前塗料組成物の塗料性状であるL*値、a*値、b*値、光沢、粘度データ、及び、塗料性状調整用原料の補正配合のデータ、色差計、プライマー種を説明変数とし、調整後塗料組成物のL*値の変動量を目的変数とする、所定の人工知能モデルをニューラルネットワークを用いて作成した。
同様にしてa*、b*の変動値を予測する人工知能を作成し、合計3つの人工知能を得たのち、それぞれの推定精度を算出して平均推定精度を確認した。
その後、各塗料性状調整用の原料の補正配合組成のうち、白色原色、黒色原色1、黄色原色、赤色原色の4つの原料に対し許容範囲を設定し、その範囲内で各々10万通りの数字を生成したのちに、ランダムに組み合わせて、10万通りの候補データを得た。候補データを学習済みの3つの人工知能に入力し、3つの塗料性状の予測値を得た。
標準板との色差の70%の点をギャップ目標値とし、ギャップ目標値を満たすL,a,bの変動量を同時に満たす4つの原料の補正配合を10万通りの中から一つ取得し、調色を行った。許容範囲を設定した4つの原料以外は補正に用いていない。
ギャップ目標値を用いているので、合格しておらず、2回目の調色をギャップ目標値90%で同様に実施したところ、同様にギャップ目標値を用いているので、合格しなかった。3回目の調色をギャップ目標値100%(ギャップ目標なし)で同様に実施したところ合格した。結果を表3に示す。
【0110】
<比較例1>
予測に使用する配合組成データを調整前塗料の全体配合比とし、予測する調整後の塗料性状を絶対値とし、元となる塗料の塗料性状に関するデータを使わない以外は、実施例1と同様に実施した。
【0111】
<実施例2>
光沢および粘度の予測を加えて、許容範囲を設定する原料に光沢調整剤1とイソホロンを入れること以外は、実施例1と同様に実施した。この際、粘度の推定精度は10で除した数値を使用した。
【0112】
<比較例2>
補正配合組成数を1000通りにする以外は、実施例2と同様に実施した。
【0113】
<実施例3>
許容範囲を設定する原料3にして補正配合組成数を1000通りにする以外は、実施例2と同様に実施した。
【0114】
<実施例4>
予測する調整後の塗料性状を絶対値にする以外は、実施例2と同様に実施した。
【0115】
<実施例5>
学習データ及び予測対象を1種類の塗色とし、元となる塗料の塗料性状に関するデータを使用しないこと以外は、実施例2と同様に実施した。
【0116】
<実施例6>
PLSを使用する以外は、実施例2と同様に実施した。
【0117】
<実施例7>
勾配ブースティングを使用する以外は、実施例2と同様に実施した。
【0118】
<実施例8>
ランダム数値生成およびランダム組み合わせをせず、補正配合量を許容範囲内で等間隔に白色原色、黒色原色1、黄色原色、赤色原色は10段階、光沢調整剤1は5段階、イソホロンは2段階の総当たりで10万通りとすること以外、実施例2と同様に実施した。
【0119】
<実施例9>
ギャップ目標を設定せず、標準板との色差ゼロを初回から狙う方法にて実施する以外は、実施例2と同様に実施した。
【0120】
<実施例10>
配合量の数値生成範囲も許容範囲も設定せず、ランダム組み合わせもせず、作業者が過去の調整記録を参考にして算出した候補補正配合を人工知能に入力して、予測させることによって補正配合を決定すること以外、実施例2と同様に実施した。
【0121】
<実施例11>
焼き付け工程における焼き付け温度を説明変数に加え、さらに、塗料性状変動量として膜厚の変動量予測を加えたこと以外、実施例1と同様に実施した。
【0122】
【0123】
なお、表3における「NN」はニューラルネットワーク、「PLS」は部分的最小二乗回帰、「GB」は勾配ブースティング法を意味する。
【符号の説明】
【0124】
10:予測システム
11:コンピュータ、
12:人工知能モデル取得部、
13:塗料性状予測部、
14:記憶部、
15:通信部、
20:予測システム
21:コンピュータ、
22:人工知能モデル取得部、
23:塗料性状予測部、
24:記憶部、
25:通信部、
26:補正配合組成予測部、
27:合否判定部
【要約】
本発明の塗料性状の予測方法(システム)は、塗料性状調整用の原料の補正配合組成のデータを入力として含み、調整後の塗料性状(塗料性状の変動量)を出力とする、所定の人工知能モデルにおいて、コンピュータにより、補正配合組成を入力することによって、前記調整後の塗料性状(塗料性状の変動量)を算出して予測する。補正配合補正の予測方法(システム)では、複数の前記補正配合組成を入力し、各々の前記補正配合組成に対応する複数の前記調整後の塗料性状(塗料性状の変動量)を予測する。予測した前記複数の前記調整後の塗料性状(塗料性状の変動量)に基づいて得られる前記補正配合組成を、前記目標を達成するための塗料性状調整用の原料の配合組成として決定する、補正配合予測工程をさらに含む。塗料の製造方法では、合否判定を行い、合格となるまで所定の工程を繰り返す。