(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】ハイドロゲル前駆体配合物およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/00 20060101AFI20220803BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20220803BHJP
C12N 9/74 20060101ALI20220803BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20220803BHJP
C12P 21/04 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
C12N5/00
C12M3/00 A
C12N9/74
C12N9/10
C12P21/04
(21)【出願番号】P 2019504022
(86)(22)【出願日】2017-07-20
(86)【国際出願番号】 EP2017068381
(87)【国際公開番号】W WO2018019704
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-06-09
(32)【優先日】2016-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522087051
【氏名又は名称】プレシジョン・キャンサー・テクノロジーズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リッツィ,シモーネ
(72)【発明者】
【氏名】トウアティ,ジェレミー
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-517694(JP,A)
【文献】Sanborn, T. J. et al,In situ crosslinking of a biomimetic peptide-PEG hydrogel via thermally triggered activation of factor XIII,Biomaterials,2002年,Vol. 23(13),pp. 2703-2710
【文献】リポソーム製剤化技術,菊池 寛,Drug Delivery System,2014年, Vol. 19(6),pp. 530-538
【文献】Jin, R. et al.,Enzyme-mediated fast in situ formation of hydrogels from dextran-tyramine conjugates,Biomaterials,2007年,Vol. 28(18), pp. 2791-2780
【文献】Bakota, E. L. et al.,Enzymatic cross-linking of a nanofibrous peptide hydrogel,Biomacromolecules,2011年,Vol. 12(1),pp. 82-87
【文献】Teixeira, L. S. et al,Enzyme-catalyzed crosslinkable hydrogels: emerging strategies for tissue engineering,Biomaterials,2012年,Vol. 33(5),pp. 1281-1290
【文献】Ranga, A. et al.,Hyaluronic Acid Hydrogels Formed in Situ by Transglutaminase-Catalyzed Reaction,Biomacromolecules,2016年,Vol. 17(5),pp. 1553-1560
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-9/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 活性化酵素
、
- 架橋化酵素、
並びに、
- 少なくとも1つの構造化合物A、
又は、2つの異なる
構造化合物Aおよび構造化合物B、
を含む未反応粉末形態のハイドロゲル前駆体配合物であって、
前記活性化酵素は、トロンビンであり、
前記架橋化酵素は、トランスグルタミナーゼであり、
前記架橋化酵素は、緩衝液を含むかまたは含まない水中で、前記活性化酵素によって活性化可能であり、
前記構造化合物
Aは、
活性化されたときの前記架橋化酵素によって触媒される化学反応を通して結合する親和性のある少なくとも2つの異なる反応性基を含み、それにより前記架橋化酵素を介する選択的反応によって架橋可能であり、ハイドロゲルを形成
する、又は、前記構造化合物Aおよび前記構造化合物Bは、活性化されたときの前記架橋化酵素によって触媒される化学反応を通して結合する親和性のある反応性基を含み、それにより前記架橋化酵素を介する選択的反応によって架橋可能であり、ハイドロゲルを形成する、ハイドロゲル前駆体配合物。
【請求項2】
二価イオ
ンが前記
ハイドロゲル前駆体配合物から除去さ
れている、請求項1に記載のハイドロゲル前駆体配合物。
【請求項3】
前記少なくとも1つの構造化合物は、アシル部
分、およびアミン部
分を含む、請求項1
又は2に記載のハイドロゲル前駆体配合物。
【請求項4】
前記ハイドロゲル前駆体配合物は、少なくとも1つのさらな
る架橋性生物活性化合物を含む、請求項
1から3のいずれかに記載のハイドロゲル前駆体配合物。
【請求項5】
前記
少なくとも1つの構造化合物は、多分岐ポリエチレングリコー
ルである、請求項
1から4のいずれかに記載のハイドロゲル前駆体配合物。
【請求項6】
未反応粉末形態のハイドロゲル前駆体配合
物の製造方法であって、
a)
- 活性化酵素
、
- 架橋化酵
素であって、前記活性化酵素によって水中で活性化可能である、架橋化酵素、
並びに、
- 少なくとも1つの構造化合物A、又は、2つの異なる
構造化合物Aおよび構造化合物Bを、
緩衝液を含むかまたは含まない水中で
、混合する工程、
b)工程a)の前または後に、ゲル特性が、製造時間の期間に依存せ
ずに一定に維持されるのに十分な時間、前記架橋化酵素および前記活性化酵素をインキュベートする工
程を含み、
前記活性化酵素は、トロンビンであり、
前記架橋化酵素は、トランスグルタミナーゼであり、
前記構造化合物
Aが、
活性化されたときの前記架橋化酵素によって触媒される化学反応を通して結合する少なくとも2つの異なる反応性基を含み、それにより前記架橋化酵素を介する選択的反応によって架橋可能であり、工程a)において、成分が、前記架橋化酵素が介する架橋反応を阻害する条件下で混合される、又は、
前記構造化合物Aおよび前記構造化合物Bは、活性化されたときの前記架橋化酵素によって触媒される化学反応を通して結合する親和性のある反応性基を含み、それにより前記架橋化酵素を介する選択的反応によって架橋可能であり、ハイドロゲルを形成する、方法。
【請求項7】
前記工程a)またはb)のうちの後の工程の後に、混合物を凍結乾燥する工程を更に含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
工程a)で得られ
た混合物のインキュベートは、4~37
℃の範囲の温
度で、少なくとも0.5時
間実施される、請求項
6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記架橋化酵素は、工程b)の後に50~100
%の活性化度を有する、請求項
6~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
工程a)において、少なくとも1つのさらな
る架橋性生物活性化合物が添加される、請求項
6から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
請求項
1から5のいずれかに記載のハイドロゲル前駆体配合物で満たされた少なくとも1つの容器、
及び反応緩衝液を含む容
器を含むキット。
【請求項12】
取扱説明書を更に含む、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
前記反応緩衝液は、1~200m
Mの範囲のカルシウムイオンを含有する、請求項
11又は12に記載のキット。
【請求項14】
前記反応緩衝液のpHは、5~
8である、請求項
11~13のいずれかに記載のキット。
【請求項15】
a)請求項
1から5のいずれかに記載のハイドロゲル前駆体配合物を、反応緩衝液
中に再懸濁する工
程
を含むハイドロゲルの製造方法。
【請求項16】
細胞懸濁液を再懸濁された前記ハイドロゲル前駆体配合物に添加する工程
を更に含む、請求項15に記載のハイドロゲルの製造方法。
【請求項17】
少なくとも1つのゲルがハイドロゲル前駆体溶液で成型される、請求項15
又は16に記載の方法。
【請求項18】
ハイドロゲル前駆体溶液のゲル化時間は、4~37
℃の範囲の温度で、1~20分
間の範囲である、請求項
15~17のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、ハイドロゲル前駆体配合物、ハイドロゲル前駆体配合物の製造方法、独立請求項のプリアンブルに記載のハイドロゲルを製造するためのキットおよび方法に関する。
【0002】
三次元細胞培養の足場は、従来の皿での二次元細胞培養と比べて生体組織をより近く再現する遺伝子発現パターンおよび他の細胞活動をもたらすとして認識されている。
【0003】
このことは、合成高分子ハイドロゲルの新規ファミリーの開発につながっており、これらの合成高分子ハイドロゲルは、細胞外基質の多くの特徴を再現するため多くの場合人工ECM(aECM)と呼ばれる。主要な課題の1つは、細胞または生体分子が存在する中で基質の架橋をもたらすだけでなく、基質そのものへの生体分子の安定な結合をもたらす化学組成を提供することである。
【0004】
近年、細胞または生体分子が存在する中でゲルを形成させる様々な機構が開発された。例えば、ペプチド(Estroffら:Water gelation by small organic molecules、chem. Rev.2004、104巻(3号)、1201~18ページ)またはウレイドピリミジノン(Zhang S.:Fabrication of novel biomaterials through molecular self-assembly、Nat.Bio-technol.2003、21巻(10号)、1171~8ページ)といった低分子量ビルディングブロック、および中分子量両親媒性ブロック共重合体(例えば、Hartgerinkら:Peptide-amphiphile nonofibers:A versatile scaffold for the preparation of self-assembling materials、Proc.Nat.Acad.Sci.、アメリカ合衆国、2002、99巻(8号)、5133~8ページ参照)の自己組織化に基づく機構が提案されている。
【0005】
ハイドロゲルは、非酵素的機構または酵素的機構のいずれかによる、ハイドロゲル前駆体分子内に位置する官能基の共有結合架橋に基づいて製造され得る。酵素的機構は、官能基間の架橋反応を触媒する架橋化酵素を介する共有結合架橋であると定義される。血液凝固系で知られる架橋化酵素は、例えば、タンパク質/ペプチド結合リジンといったアミン基とタンパク質/ペプチド結合グルタミンのアシル基との間のイソペプチド結合形成を、カルシウムイオンの存在中で触媒する、トランスグルタミナーゼ群に属す。トランスグルタミナーゼの使用は、これまでにハイドロゲルの製造に適応された。
【0006】
当分野で知られるハイドロゲルは、例えば、Sanbornらによって「In situ cross-linking of a biomimetic peptide-PEG hydrogel via thermally triggered activation of factor XIII」(Biomaterials23巻(2002)、2703~2710ページ)に開示される。Sanbornらは、ヒト組み換え第XIII因子の活性化に、カルシウムを担持させたリポソームの熱誘発によって放出制御されるカルシウムイオンを利用する。カルシウムが放出されると、ゲル成分はヒト組み換え第XIII因子によって架橋される。したがって、早期にゲル化させることなく、ゲル化系全体を室温で水溶液中に保管することができる。
【0007】
WO2014/180970A1は、PEG系前駆体分子、およびトロンビンで活性化された第XIIIa因子を使用するハイドロゲルの製造を開示する。第XIII因子は、凍結乾燥粉末から再構成され、トロンビンを用いて37℃、30分間で活性化される。活性化された第XIIIa因子のアリコートは、後で使用するために-80℃で保管される。ハイドロゲルを形成する前駆体溶液は、50mMの塩化カルシウムを含有するトリス緩衝液(TBS、50mM、pH7.6)中で調製される。架橋反応は、トロンビンで活性化された第XIIa因子を添加し、激しく混合することによって開始される。この方法の1つの欠点は、第XIIIa因子の活性化がゲル形成工程前に独立して行われることである。
【0008】
したがって、本発明の目的は、既知のハイドロゲル前駆体配合物に起因する不利益を回避することであり、具体的には、ハイドロゲルを再現性よく形成するハイドロゲル前駆体配合物を提供することである。この課題は、請求項1に記載のハイドロゲル前駆体配合物によって解決される。
【0009】
本発明は、未反応粉末形態のハイドロゲル前駆体配合物に関する。未反応粉末は、活性化酵素、好ましくはトロンビン、および架橋化酵素、好ましくはトランスグルタミナーゼ、より好ましくは第XIII因子トランスグルタミナーゼを含む。架橋化酵素は、緩衝液を含むかまたは含まない水中で、好ましくは緩衝液を含むかまたは含まない、導電率が5μS/cm未満であり、かつ/または好ましくはpHが5~8、より好ましくは6~8、最も好ましくは6.5~8の範囲である水中で、活性化酵素によって活性化可能である。さらに、粉末は、少なくとも1つの構造化合物A、好ましくは2つの異なる構造化合物AおよびBを含む。前述の構造化合物は、架橋化酵素を介する選択的反応によって架橋可能であり、ハイドロゲルを形成し、ここで架橋化酵素は、50~100%、好ましくは75~100%、より好ましくは実質的に100%の活性化度で好ましくは活性化される。100%の活性化とは、100%の第XIII因子が第XIIIa因子に活性化されることを意味し、75%の活性化とは、第XIII因子の75%が第XIIIa因子に活性化されることを意味する。50%の活性化とは、第XIII因子の50%が第XIIIa因子に活性化され、50%は第XIII因子のままであることを意味する。
【0010】
したがって、ハイドロゲル前駆体配合物は、ハイドロゲルの製造に必要とされる本質的な成分を含む。これは、最終利用者が個々の成分を秤量および/または混合する必要がないため、有益である。秤量および混合は、本発明の配合物によって低減される誤差原因である。最終利用者は、ハイドロゲルを形成するための条件(例えばpHおよび/またはイオン強度)を与える適切な緩衝液中にハイドロゲル前駆体配合物を再懸濁させる。したがって、ハイドロゲル前駆体配合物から製造されるハイドロゲルの再現性は向上し、ハイドロゲルの製造は簡略化される。
【0011】
驚くべきことに、活性化された第XIII因子は、製造用混合物中で少なくとも24時間安定である。これは、ハイドロゲルを生じさせる(活性化された第XIII因子を含有する)製造用混合物が、ハイドロゲルの調製、または凍結乾燥(以下、「製造時間」)前に、例えば室温で、そのままの状態であった期間にかかわらず、結果として得られるハイドロゲルの物理化学的特性(例えば、ゲル化時間、せん断弾性率G’、膨潤率Q)は変化しなかったことを意味する。したがって、ハイドロゲルの最終的な物理化学的ゲル特性の安定性は、製造用混合物の製造時間に依存しない。これは、これらの条件下で架橋化酵素および/または活性化酵素の活性に損失が認められないことを表す。
【0012】
「室温」という用語は、20~25℃の範囲の温度に関する。しかし、上昇した温度、例えば熱帯地方の国における空調設備のない実験室内の温度も室温であると考えられ得る。
【0013】
より好ましくは、架橋化酵素は、緩衝液を含むかまたは含まない、導電率が5μS/cm以下、ならびに/またはカルシウムイオンが10ppm未満でありかつ/もしくはマグネシウムイオンが10ppm未満である水中で、活性化酵素によって活性化可能である。
【0014】
ハイドロゲル前駆体配合物の未反応粉末は、任意の大きさおよび形状の粒子を含んでもよい。または、粉末は、加圧タブレットまたは錠剤として与えられてもよい。最も好ましくは、粉末は、例えば容器の底部に、安定な固形成型体の形態で与えられる。これは、粉末が容器の底部に位置するため、前駆体配合物の取り扱いを簡略化する。粉末を底部に集めるために、粉末を溶解させる前に遠心分離する必要はない。これは、ゲル形成の再現性を高める。
【0015】
粉末は未反応であり、少なくとも1つの構造化合物Aのほとんどは、架橋を形成する選択的反応に関与する反応物質と反応していないことを意味する。好ましくは、70%を超える、より好ましくは85%を超える、最も好ましくは95%を超える化合物が選択的反応を起こしていない。
【0016】
好ましくは、構造化合物Aは、少なくとも3つの官能性、好ましくは4つ以上の官能性を有する。「官能性」は、分子上の反応性部位、例えば反応性基の数を意味する。
【0017】
一価イオンは前駆体配合物から実質的に除去され得、最終利用者によって一価イオンが添加されなければ、一価イオンの濃度は、好ましくは1~60mM、好ましくは10~30mMの範囲であり得る。一価イオンが除去されたハイドロゲル前駆体配合物を用いてハイドロゲルが製造される場合、形成されたハイドロゲル中の一価イオンの量は、最小限に抑えられる。したがって、最終用途に従って最終利用者が添加する緩衝液によって、形成されたハイドロゲル中の一価イオンの量を調整することができる。一価イオンは、最終利用者によってハイドロゲルに包埋される細胞に影響を与える可能性がある。細胞増殖または生存能といった特性は、一価イオンの存在による悪影響を受けない。したがって、ハイドロゲル前駆体配合物は、包埋される細胞に対する悪影響が低減されたハイドロゲルをもたらす。
【0018】
二価イオン、好ましくはカルシウムイオンは、前駆体配合物から実質的に除去され得、二価イオンの濃度は、好ましくは10μM未満、より好ましくは1μM未満、最も好ましくは10ppm未満であり得る。ハイドロゲル前駆体配合物中に存在する二価イオン、特にカルシウムイオンの低減により、二価イオン添加前にハイドロゲルを形成しない配合物がもたらされる。カルシウムイオンは、トロンビンで活性化された第XIII因子の触媒作用に必要である。したがって、トロンビンで活性化された第XIII因子を含む前駆体配合物の早期ゲル化は、カルシウムイオン添加前に起こらない。既知のハイドロゲル前駆体配合物と比較し、早期ゲル化が大幅に低減される。したがって、ハイドロゲルのゲル化は、二価イオン、好ましくはカルシウムイオンが実質的に除去されたハイドロゲル前駆体配合物を使用することによって制御されるか、または制御可能である。カルシウムイオンの量は、第XIII因子20U/ml、トロンビン0.2U/mlおよび5%w/vの構造化合物がトリス緩衝生理食塩水(トリス0.65mM、NaCl1.5mM、pH7.5)中に存在する中で、室温で30時間まで、好ましくは100時間までゲル化が達成されないよう選択され得る。
【0019】
さらに、少なくとも1つの構造化合物Aは、少なくとも2つの異なる反応性基を含み得る。異なる反応性基は、活性化された架橋化酵素によって触媒される化学反応を通してハイドロゲルを形成するよう互いに結合、例えば架橋することを意味する、親和性のある基であり得る。または、前駆体配合物は、構造化合物Aおよび構造化合物Bを含み、構造化合物Aおよび構造化合物Bは、大きさならびに/または官能性および/もしくは官能基/反応性基が異なる。ハイドロゲル前駆体配合物は、構造化合物Aおよびリンカー化合物を含んでもよい。「リンカー化合物」は、当該化合物が構造化合物の2つの分子間、または2つの構造化合物の2つの分子間に、それぞれリンカーを形成することを意味する。リンカー化合物は、直鎖/非分岐分子であるため、ハイドロゲルの3D構成に寄与しない。「構造化合物」は、分岐分子であると規定され、したがってハイドロゲルの3D構造に寄与する。
【0020】
少なくとも1つの構造化合物Aは、アシル部分、好ましくは2つのアシル部分、より好ましくは3つのアシル部分、およびアミン部分、好ましくは2つのアミン部分、好ましくは3つのアミン部分を含み得る。アシル部分はグルタミンであり得、アミン部分はリジンであり得る。
【0021】
配合物中に2つの構造化合物AおよびBが配合される場合、両方が少なくとも1つのグルタミンおよび少なくとも1つのリジンを含んでもよい。または、2つの構造化合物AおよびBの一方が、少なくとも1つのグルタミンおよび少なくとも1つのリジンを含み、もう一方の構造化合物は、少なくとも1つのグルタミンまたは少なくとも1つのリジンのいずれかをそれぞれ含むことによって親和性のある反応性基を含む。
【0022】
ハイドロゲル前駆体配合物は、少なくとも1つのさらなるハイドロゲル化合物、好ましくは少なくとも1つの架橋性生物活性化合物を含み得る。少なくとも1つのさらなるハイドロゲル化合物、好ましくは少なくとも1つの架橋性生物活性化合物は、ハイドロゲルの2つのサブユニットへの架橋反応によってハイドロゲル網目構造に共有結合的に組み込まれ得る。さらなるハイドロゲル化合物は、グルタミンおよび/またはリジンを含み得る。さらなる化合物が1つのグルタミンまたは1つのリジンのみを含む場合、さらなる化合物は、いわゆるぶら下がり分子としてゲルに組み込まれ、さらなる化合物の組み込みが鎖の末端を決定することを意味する。ここで、追加のサブユニットは付着できない。
【0023】
生物活性化合物は、RGDペプチド配列、例えばNQEQVSPLGRGDSPG-NH2といったTG-RGDGlnペプチド、もしくはAc-FKGGRGDSPG-NH2といったTG-RGDLysペプチド、またはフィブロネクチン由来のRGD配列もしくはラミニン由来のYISG配列、ヘパリン結合部位といった成長因子結合部分、プロテアーゼ結合部位または治療的活性化合物を含み得る。生物活性化合物は、好ましくは細胞接着部位、最も好ましくはRGD配列を含む。
【0024】
生物活性化合物は、選択的反応を起こす活性基を少なくとも1つ含む。好ましくは、生物活性化合物は、少なくとも1つのリジンおよび/または1つのグルタミンを含む。
【0025】
生物活性化合物は、選択的反応を通して構造化合物と結合可能であり得る。好ましくは、この選択的反応は、ハイドロゲルの形成に用いられる選択的反応と同一の反応である。または、生物活性化合物は、選択的反応を通してハイドロゲルの形成前に構造化合物と結合してもよい。
【0026】
構造化合物は、多分岐ポリエチレングリコール、好ましくは8アーム型ポリエチレングリコールであり得る。好ましくは、8アーム型ポリエチレングリコールは、30~50kDa、好ましくは35~45kDaの範囲、より好ましくは40kDaの大きさを有する。構造化合物の各枝は、好ましくは官能基を含む。
【0027】
本発明のさらなる態様は、未反応粉末形態のハイドロゲル前駆体配合物の製造方法に関する。製造方法は、工程a)、b)および任意でc)を含む。
【0028】
工程a)は、緩衝液を含むかまたは含まない水中で、好ましくは緩衝液を含むかまたは含まない、導電率が5μS/cm未満であり、かつ/または好ましくはpHが5~8、より好ましくは6~8、最も好ましくは6.5~8の範囲である水中で、活性化酵素、架橋化酵素および少なくとも1つの構造化合物Aを混合する工程を含む。架橋化酵素は、前述の水中で、活性化酵素によって活性化可能である。
【0029】
活性化酵素は、好ましくはトロンビンである。架橋化酵素は、好ましくはトランスグルタミナーゼ、より好ましくは第XIII因子トランスグルタミナーゼである。好ましくは、2つの異なる構造化合物AおよびBは、工程a)で混合される。
【0030】
工程b)は、工程a)の前または後に実施され得る。工程b)は、ハイドロゲル前駆体配合物から製造されたゲルのゲル化時間、せん断弾性率G’および膨潤率Qといったゲル特性が、製造時間の期間にかかわらず実質的に一定のままとなるのに十分な時間、架橋化酵素および活性化酵素をインキュベートすることを含む。実質的に一定とは、ゲル特性の経時変化が15%未満、好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満であることを意味する。十分にインキュベートすることにより前述の特性のプラトーが達成される(下記参照)ことが実験により示されており、これは、製造時間にかかわらず特性が変化しないことを意味する。以下、選択肢i)は、工程b)が工程a)の後に実施されることに関する。以下、選択肢ii)は、工程b)が工程a)の前に実施されることに関する。
【0031】
好ましくは、1~200mM、好ましくは10~100mMの範囲のカルシウムイオンを含む、pHが6.5~8.5の範囲の緩衝液中で、1~20%w/vの構造化合物、0.1~100U/mlの架橋化酵素、および0.001~20U/mlの活性化酵素が4~37℃の温度で使用される場合に、前駆体配合物を用いて製造可能であるかまたは製造されるハイドロゲルのゲル化時間が、好ましくは0.5~30分間、より好ましくは1~20分間、最も好ましくは2~10分間の範囲となるような条件下で、十分な時間、架橋化酵素および活性化酵素はインキュベートされる。
【0032】
好ましくは、1~200mM、好ましくは10~100mMの範囲のカルシウムイオンを含む、pHが6.5~8.5の範囲の緩衝液中で、1~20%w/vの構造化合物、0.1~100U/mlの架橋化酵素、および0.001~20U/mlの活性化酵素が4~37℃の温度で使用される場合に、前駆体配合物を用いて製造可能であるかまたは製造されるハイドロゲルのせん断弾性率G’が、好ましくは100~15’000Pa、より好ましくは200~5’000Paの範囲となるような条件下で、十分な時間、架橋化酵素および活性化酵素はインキュベートされる。
【0033】
好ましくは、1~200mM、好ましくは10~100mMの範囲のカルシウムイオンを含む、pHが6.5~8.5の範囲の緩衝液中で、1~20%w/vの構造化合物、0.1~100U/mlの架橋化酵素、および0.001~20U/mlの活性化酵素が4~37℃の温度で使用される場合に、前駆体配合物を用いて製造可能であるかまたは製造されるハイドロゲルの膨潤率Qが、好ましくは10~100、より好ましくは20~80の範囲となるような条件下で、十分な時間、架橋化酵素および活性化酵素はインキュベートされる。
【0034】
任意の工程c)は、工程a)またはb)のうちの後の工程の後に混合物の凍結乾燥を含む。
【0035】
構造化合物は、架橋化酵素を介する選択的反応によって架橋可能である。工程a)において、成分は、架橋化酵素が介する架橋反応を阻害する条件下で混合される。
【0036】
本発明のハイドロゲル前駆体配合物の製造方法は、i)架橋化酵素、活性化酵素および構造化合物といった成分が、全て即時使用可能な粉末として混合および調製される(選択肢i)に準じ、工程a)の後に工程b))か、またはii)架橋化酵素が、好ましくは緩衝液を含むかもしくは含まない、示される最低限の導電率の水中で、残りのゲル化合物と混合する前に活性化される(選択肢ii)に準じ、工程a)の前に工程b))ため、有利である。
【0037】
選択肢i)は、ゲル成分の混合が1つの工程のみで行われるため、ハイドロゲル前駆体配合物の製造方法を簡略化する。即時使用可能な粉末が緩衝液中に再懸濁され、ハイドロゲル前駆体へ架橋化酵素を添加する必要がないことも、ハイドロゲルの形成を簡略化する。全体を通して、前述の方法の再現性は向上する。選択肢i)において、インキュベートする時間は、製造時間に相当する。
【0038】
ハイドロゲルを形成するための架橋化酵素の最終濃度を自由に選択することができるため、選択肢ii)は、ハイドロゲル系を最終利用者の需要に適合させることができる。ここで、活性化された架橋化酵素はハイドロゲル形成前にハイドロゲル化合物に添加され得るため、架橋化酵素の最終濃度はハイドロゲル前駆体の乾燥質量に依存しない。選択肢ii)において、ハイドロゲル前駆体および活性化された架橋化酵素は、予め混合されてまたは別個の容器内で凍結乾燥され得る。
【0039】
例として、選択肢ii)によると、架橋化酵素第XIII因子は、導電率が5μS/cm未満、pHが6~8の範囲の水中で、またはトリス緩衝生理食塩水(例えば、トリス0.9mM、NaCl13mM、pH7.6)中で、活性化酵素トロンビンによって、カルシウムイオンの非存在中、37℃、30分間で活性化される。興味深いことに、活性化された第XIII因子は、製造用混合物に混合された際、室温で24時間まで安定である。これは、そこからハイドロゲルを生じさせる(活性化された第XIII因子およびハイドロゲル前駆体を含有する)製造用混合物が凍結乾燥前に室温でそのままの状態であった期間にかかわらず、結果として得られるハイドロゲルの物理化学的特性(ゲル化時間、せん断弾性率G’、膨潤率Q)は変化しなかったことを意味する。したがって、最終的なゲルの物理化学的特性の安定性は、製造時間に依存しない。これは、これらの条件下で架橋化酵素および/または活性化酵素の活性に損失が認められないことを表す。
【0040】
工程a)で得られる混合物のインキュベーションは、4~37℃、好ましくは10~25℃の範囲の温度、より好ましくは室温で、少なくとも0.5時間、好ましくは24時間未満、より好ましくは2~4時間実施され得る。
【0041】
選択肢ii)に準じ、工程b)が工程a)の前に実施される場合、工程b)における混合物のインキュベーションは、37℃で好ましくは15分間~1時間、特に30分間実施される。選択肢i)に準じ、工程b)が工程a)の後に実施される場合、工程b)における混合物のインキュベーションは、ハイドロゲル前駆体配合物から製造されるハイドロゲルのゲル特性(ゲル化時間、せん断弾性率G’、膨潤率Q)が実質的に一定となるプラトーを達成するために、好ましくは20℃で2~4時間、または37℃で1~2時間実施される。選択肢i)において、基本的にインキュベートする時間は製造時間に相当する。
【0042】
架橋化酵素は、工程b)の後、50~100%、好ましくは75%~100%、より好ましくは実質的に100%の活性化度を有し得る。
【0043】
さらに、工程a)において、少なくとも1つのさらなるハイドロゲル化合物、好ましくは少なくとも1つの架橋性生物活性化合物が添加され得る。少なくとも1つのさらなるハイドロゲル化合物、好ましくは少なくとも1つの架橋性生物活性化合物は、ハイドロゲルの少なくとも1つのサブユニットへの選択的架橋反応によってハイドロゲル網目構造に共有結合的に組み込まれ得る。さらなるハイドロゲル化合物は、グルタミンおよび/またはリジンを含み得る。さらなる化合物が1つのグルタミンまたは1つのリジンのみを含む場合、さらなる化合物は、いわゆるぶら下がり分子としてゲルに組み込まれ、さらなる化合物の組み込みが結合したサブユニット鎖の末端を決定することを意味する。ここで追加のサブユニットは付着できない。
【0044】
ハイドロゲル前駆体配合物の製造方法は、工程a)において、1~100U/ml、好ましくは2~50U/ml、より好ましくは4~25U/mlの架橋化酵素および/または0.01~10U/ml、好ましくは0.02~5U/ml、より好ましくは0.04~0.7U/mlの活性化酵素を含む混合物を使用し得る。
【0045】
工程a)において、方法は、少なくとも1つの構造化合物Aを、0.5~25%w/v、好ましくは1~20%w/v、より好ましくは2~10%w/v含む混合物を使用し得る。
【0046】
工程a)において、方法は、ペプチドといった架橋性生物活性化合物を0.005~10%w/v、好ましくは0.01~2%w/v含む混合物を使用し得る。または、工程a)における混合物は、組み換えタンパク質またはヒトもしくは動物組織から精製されたタンパク質といった架橋性生物活性化合物を0.005~5%mg/ml、好ましくは0.2~2.5%mg/ml含み得る。タンパク質としてラミニンが例示される。
【0047】
本発明のハイドロゲル前駆体配合物の製造方法に使用される緩衝液組成物は、遊離二価イオン、特に遊離カルシウムイオンの濃度を最小限に抑える手段を含み得る。これらの手段は、例えばEDTAまたはEGTAといったキレート剤である。細胞の種類および曝される時間に依存し、100~500μMの範囲の濃度のEDTAは、細胞に有毒であり得る。しかし、細胞がハイドロゲル中に包埋され、培地中に置かれる場合、EDTA濃度は、3~10倍に希釈される。EDTAは、培地の交換、例えば洗い流されることによって除去され得る。
【0048】
さらに、本発明のハイドロゲルの製造方法におけるハイドロゲル前駆体を含む混合物は、凍結乾燥前に混合物のろ過、好ましくは滅菌ろ過を含み得る。これは、汚染し害を及ぼす可能性のある成分、例えば細菌が除去された前駆体配合物をもたらす。
【0049】
工程a)で得られる混合物は、下流の工程に有用な量を取り扱うために、滅菌ろ過および/または分取され得る。
【0050】
凍結乾燥後、前駆体配合物の酸素含有量は、窒素といった不活性気体環境中で配合物を保管することによって低減され得る。これにより、前駆体配合物中の酸素によって誘発される酸化過程が最小限に抑えられ、配合物の保存性は向上する。
【0051】
本発明のさらなる態様は、説明される本発明の方法によって得られるかまたは得られたハイドロゲル前駆体配合物に関する。
【0052】
本発明のさらなる態様は、説明されるハイドロゲル前駆体配合物で満たされた少なくとも1つの容器、反応緩衝液を含む容器、および任意で取扱説明書を含むキットに関する。キットは、ハイドロゲルを製造するための本質的な成分を全て提供し、最終利用者による迅速で単純なハイドロゲルの製造を助長する。
【0053】
キットの反応緩衝液は、1~200mM、好ましくは10~100mM、より好ましくは20~100mMの範囲でカルシウムイオンを含有し得る。架橋化酵素、好ましくはトランスグルタミナーゼ、より好ましくは第XIII因子トランスグルタミナーゼの作用に重要なカルシウムイオンは、反応緩衝液から供給され、したがってハイドロゲルの形成は、ハイドロゲル前駆体配合物の粉末を反応緩衝液中に再懸濁させることによって引き起こされる。反応緩衝液は、好ましくは生理食塩水緩衝溶液、より好ましくはトリス緩衝生理食塩水溶液(TBS)である。
【0054】
さらに、反応緩衝液のpHは、5~8、好ましくは6~8、より好ましくは6.5~8の範囲であり得る。
【0055】
本発明のさらなる態様は、説明されるハイドロゲル前駆体配合物を、好ましくはカルシウムイオンを含む反応緩衝液中に再懸濁する工程、および任意で細胞培養懸濁液を添加する工程を含むハイドロゲルの製造方法に関する。
【0056】
ハイドロゲル製造方法において、少なくとも1つのゲルがハイドロゲル前駆体溶液で成型され得る。
【0057】
ゲル前駆体溶液のゲル化時間は、4~37℃、好ましくは10~30℃、より好ましくは15~25℃の範囲の温度で、1~20分間、好ましくは2~10分間、より好ましくは2~7分間の範囲であり得る。ゲル化時間は、ゲル化が起こる前の、ゲル前駆体溶液が液体である時間である。
【0058】
ゲル前駆体溶液の重合時間は、4~37℃の範囲、好ましくは37℃の温度で、10~60分間、好ましくは15~45分間の範囲であり得る。重合時間は、ゲル化時間の終了と共に開始し、ゲルの重合が完了するまで持続する時間である。
【0059】
ゲル前駆体溶液の重合は、細胞培養のために好ましくは37℃で、かつ/または加湿環境中で実施される。
細胞培養培地または緩衝液は、重合後に添加され得る。
【0060】
化合物
構造化合物は、好ましくはオリゴマー、ポリマー、生合成または天然のタンパク質またはペプチド、および多糖からなる群から選択される。好ましくは、構造化合物は、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(エチレン-co-ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレン-co-アクリル酸)、ポリ(エチルオキサゾリン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(エチレン-co-ビニルピロリドン)、ポリ(マレイン酸)、ポリ(エチレン-co-マレイン酸)、ポリ(アクリルアミド)もしくはポリ(エチレンオキシド)-co-ポリ(プロピレンオキシド)ブロックコポリマーまたはそれらの混合物からなる群から選択されるポリマーである。構造化合物は、3、4または5以上のアームを有する分岐ポリ(エチレングリコール)であることがより好ましく、8アーム型ポリ(エチレングリコール)であることが最も好ましい。
【0061】
本発明のさらなる態様および詳細は、以下に与えられる図面および実施例から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【
図1】ゲル前駆体溶液、第XIII因子およびトロンビンを含む製造用混合物が凍結および凍結乾燥前に処理された時間(製造時間)の関数としてのハイドロゲルの特性、粉末は、その後再懸濁されてハイドロゲルを形成し、それらの特性が測定された。
【
図2】WO2014/180970A1に記載されるハイドロゲルと比較した本発明のハイドロゲル前駆体配合物から製造されたハイドロゲルの特性。
【
図3】ゲル前駆体溶液、第XIII因子およびトロンビンを異なる濃度で含む、凍結および凍結乾燥前の製造用混合物の製造時間に依存するハイドロゲルの特性、粉末は、その後再懸濁されてハイドロゲルを形成し、それらの特性が測定された。
【
図4】単一成分ゲル(C;D)および二成分ゲル(A;B)に使用するためのハイドロゲル前駆体。
【
図5】WO2014/180970A1に記載されるハイドロゲルと比較した、増加させた製造時間を経過した本発明のハイドロゲル前駆体配合物から製造されたハイドロゲルの特性。
【
図6】本発明に従って時間を経過した製造用混合物中の第VIII因子の活性範囲。
【
図7】ゲル化時間終了時の液体ゲル滴の写真である。
【0063】
図1は、ゲル前駆体溶液、第XIII因子およびトロンビンを含む混合物が凍結および凍結乾燥前に室温で保持された時間(「製造工程の時間」である製造時間)の関数としてのハイドロゲルの特性を表すグラフを示す。
【0064】
本発明のハイドロゲルは、
図6に関して概説されるように製造された(選択肢i)に準じ、工程a)に次いで工程b)および工程c))。これらの特性は、ゲル化時間(A)、せん断弾性率G’(B)および膨潤率Q(C)に関する。5%w/vの構造化合物A(グルタミン含有基質で官能化)およびB(リジン含有基質で官能化)、20U/mlの第XIII因子、ならびに0.2U/mlのトロンビンを含み、カルシウムイオンを含まない混合物を調製し、室温(20~25℃)で放置した。様々な時点で混合物を使用してバイアルを満たし、-80℃で凍結させ、その後凍結乾燥した。凍結乾燥後、バイアルを密封し、蓋を被せ、-20℃で保管した。その後、バイアルを使用し、50mMのカルシウムイオンを含有する適切な緩衝液(トリス緩衝液50mM、pH7.6)中に凍結乾燥させた混合物を再懸濁させ、最終濃度10U/mlの活性化された第XIII因子によって触媒されるゲル化を引き起こすことにより、2.5%w/vの構造化合物でゲルを形成させた。
図1のグラフA、BおよびCは、最終的なハイドロゲル特性の水平なプラトーが約2~4時間の製造時間後に達成されることを示す。これは、2時間を超える製造工程が最終的なハイドロゲル特性に影響を与えないことを意味する。ハイドロゲルの性質(ハイドロゲル特性)は、製造時間が2時間を超える場合、実質的に一定に維持される。
【0065】
図2は、本発明の方法によって選択肢i)に準じて製造されたハイドロゲル(A、BおよびCにおける左の棒)とWO2014/180970A1の従来技術の方法に従って製造されたハイドロゲル(A、BおよびCにおける右の棒)との特性の比較を示す。本発明の混合物は
図1に関して記載されるように調製されたものであり、製造時間は、最終的なハイドロゲル特性の水平なプラトーをもたらす(ここでハイドロゲル特性は、実質的に一定に維持される)。WO2014/180970A1は、活性化された第XIII因子を凍結させる前に、カルシウム含有緩衝液中、37℃、30分間でトロンビンによって第XIII因子を別個に活性化し、その後ハイドロゲル前駆体溶液に添加してハイドロゲルを形成させることを開示する。驚くべきことに、第XIII因子を別個に予め活性化させない本発明の方法によって製造されたハイドロゲルは、当分野で知られるハイドロゲルと同様のゲル化時間、せん断弾性率G’および膨潤率Qを示すことがデータの比較により示された。しかし、秤量を行うことなく、より少ない混合工程で(これらは誤差の原因となり得る)、適切な緩衝液を添加して架橋反応を起こすことによって凍結乾燥粉末を直接使用することができるため、本発明の方法から得られる製造物の取り扱いは、最終利用者にとってより容易である。
【0066】
図3は、製造時間に依存するハイドロゲル特性の比較を示し、ここでゲル前駆体溶液、第XIII因子およびトロンビンを異なる濃度で含む混合物は、凍結および凍結乾燥前に室温で保持された。混合物中に存在するトロンビンの、結果として得られるゲル中における最終濃度は、0.1U/ml、0.3U/mlおよび1U/mlに達した。グラフA、BおよびCは、混合物中でより高濃度のトロンビンを使用することにより、最終的なゲル特性(ゲル化時間、せん断弾性率G’、膨潤率Q)を示す水平なプラトーはより速く達成されることを表す。混合物は、各トロンビン濃度についてグラフの横軸(X軸)に示される製造時間で、
図1に関して示されるように(選択肢i)に準じて)調製された。
【0067】
図4は、本発明のハイドロゲル前駆体配合物またはハイドロゲル前駆体配合物の製造方法に使用され得るゲル成分を示す。単一成分ゲル(C、D)および二成分ゲル(A、B)の構造化合物が示される。第XIII因子を架橋するためのXと称されるGln含有基質、および第XIII因子を架橋するためのYと称されるLys含有基質といった官能性分子は、ポリ(エチレングリコール)のアームに結合する。
図4のCは、2つのグルタミン残渣および2つのリジン残渣を含む構造成分としての4アーム型ポリ(エチレングリコール)を示す。
図4のDは、4つのグルタミン残渣および4つのリジン残渣を含む構造成分としての8アーム型ポリ(エチレングリコール)を示す。したがって、
図4のCおよび
図4のDの構造成分は、高分子網目構造、例えばカルシウムイオンの存在中で第XIII因子によって触媒される架橋に基づくハイドロゲルを形成する。
【0068】
二成分ゲルは、2つの異なる種類の分子を必要とし、ここで例えば構造成分は、少なくとも3つのグルタミン残渣を含むマルチアーム型ポリ(エチレングリコール)および2つのリジン残渣を含むリンカー化合物である(
図4のA)。リンカー化合物は、カルシウムイオンの存在中で第XIII因子によって触媒される架橋によって構造化合物の個々の分子を共有結合的に連結する。しかし、リンカー化合物は、分岐構造化合物によってもたらされるハイドロゲルの3D構成に直接寄与しない。
【0069】
2つの構造化合物AおよびBの概要を
図4のBに示す。構造化合物AおよびBは、グルタミン含有基質(構造化合物A)およびリジン含有基質(構造化合物B)で官能化される8アーム型ポリ(エチレングリコール)に基づく。いずれの構造化合物も、カルシウムイオンの存在中で第XIII因子によって触媒される架橋によって形成されるハイドロゲルの3D構成に寄与する。
【0070】
図5
図5は、WO2014/180970A1に記載されるハイドロゲルと比較した、増加させた製造時間を経過した本発明のハイドロゲル前駆体配合物、すなわち選択肢ii)(工程a)の前に工程b)、続いて工程c))から製造されるハイドロゲルの特性(すなわちゲル化時間、せん断弾性率G’、膨潤率Q)を示す。
【0071】
本発明のハイドロゲル前駆体配合物から製造されるハイドロゲルを以下のように製造した:
既に記載されるように(Ehrbar M、Rizzi SC、Hlushchuk R、Djonov V、Zisch AHら(2007)Enzymatic formation of modular cell-instructive fibrin analogs for tissue engineering、Biomaterials28巻、3856~3866ページ;Bott K、Upton Z、Schrobback K、Ehrbar M、Hubbell JA、Lutolf MP、Rizzi SC、The effect of matrix characteristics on fibroblast proliferation in 3D gels、Biomaterials、2010年11月、31巻(32号)、8454~64ページ)、マルチアーム型PEG(8アーム型PEG-OH、Mn=40kDa、Nektar、Huntsville、アラバマ州、アメリカ合衆国)をビニルスルホン基(8アーム型PEG-VS)で官能化した。簡潔に述べると、FXIIIで触媒される架橋のための相補的基質、NQEQVSPLERCG-NH2(TG-Gln)またはAc-FKGGGPQGIWGQERCG-NH2(W-Lys)を含有するペプチド(Bachem、スイス)を、末端官能化PEGのビニルスルホン基とペプチドシステイン残渣のチオールとの間のマイケル型共役付加を介して8アーム型PEG-VSに結合させ、ハイドロゲル前駆体8アーム型TG-PEG(構造化合物A)および8アーム型Lys-PEG(構造化合物B)をそれぞれ生成した。カップリング反応の後、溶液を超純ddH2Oで広範に透析し、その後凍結乾燥した。W-Lysペプチドは、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)基質も含んでおり、最終的なハイドロゲルのタンパク質分解に対する感受性を高める。アミノ酸配列を適切に改変することで、他の種の動態および/または他のタンパク質分解酵素に対する感受性によってゲルを作製することも可能である。
【0072】
図5に関して試験されたハイドロゲルは、選択肢ii)に準じ、工程a)、工程a)の前の工程b)、および工程c)の工程を含む本発明の方法に従って製造された。
使用された化合物は、上述されるように調製された。簡潔に述べると、水または緩衝液(Ca2+の非存在中、15mMのNaClを含む1mMトリス緩衝液)中のFXIII(最終的に172または200U/mL)およびトロンビン(最終的に1.72または2U/mL)を混合し、37Cで30分間プレインキュベートした(工程b)。したがって第XIII因子は、工程a)に使用される前に十分に活性化された。その後、このFXIII/トロンビン溶液を、反応基が化学量論的に釣り合う状態で、水(導電率5μS/cm未満)中に構造化合物AおよびBの両方を含有する溶液と室温で混合した(工程a)。必要に応じ、架橋性生物活性化合物、例えばTG-RGDGInも製造用混合物に添加され得る。必要に応じ、架橋性生物活性化合物、例えばTG-RGDGInも製造用混合物に添加され得る。工程a)の後、(グラフのx軸に示される)特定の時点で、試料を分取して凍結させ、工程c)を実施した。未反応粉末プレミックス(活性化酵素、トロンビン、架橋化酵素、FXIII、ならびに構造化合物AおよびB、ならびに任意で生体活性化合物TG-RGDGInを含む)を適切な緩衝液(下記参照)で再懸濁した後、結果として得られるゲルの最終的な組成および特性は、以下の従来技術に関して記載されるものと同じである。
【0073】
従来技術の方法-従来技術の方法を使用して形成され、本出願に記載される新規方法で製造されたハイドロゲルの基準として使用されるFXIII触媒PEG系ハイドロゲル(ゲル)
第XIII因子(FXIII)をFXIIIaへ予め活性化するため、従来技術に記載されるようにFXIII(Behring、スイス)を活性化してFXIIIaを形成した(Ehrbar M、Rizzi SC、Hlushchuk R、Djonov V、Zisch AHら(2007)Enzymatic formation of modular cell-instructive fibrin analogs for tissue engineering、Biomaterials28巻、3856~3866ページ;WO2014/180970A1;Bott K、Upton Z、Schrobback K、Ehrbar M、Hubbell JA、Lutolf MP、Rizzi SC、The effect of matrix characteristics on fibroblast proliferation in 3D gels、Biomaterials、2010年11月、31巻(32号)、8454~64ページ)。簡潔に述べると、凍結乾燥粉末由来の再構成FXIII(172.41または200U/mL)を、15mMのNaCLおよび2.5mMのCaCl2を含む1mMのトリス緩衝液(pH7.6)中で、ヒトトロンビン(Sigma、1.72または2U/mL)を用いて37℃で30分間活性化した。その後、分取したFXIIIaを-80℃で保管し、以下に記載されるようにゲルの形成に使用する。
【0074】
簡潔に述べると、ゲルは、前述のとおりに製造された、化学量論的に釣り合いのとれた8アーム型TG-PEG(構造化合物A)と8アーム型Lys-PEG(構造化合物B)のFXIIIで触媒される架橋によって形成された。例えば、100μLのゲル(乾燥質量2.5%w/v)は、1.22mgの構造化合物Aおよび1.28mgの構造化合物Bを含有する。ゲル形成反応は、通常、50mMの塩化カルシウムを含有し、FXIIIaの最終濃度が10U/mLであるトリス緩衝液(TBS、50mM、pH7.6)中で起き、トリス緩衝液は、構造化合物AおよびBを混合した後に最終工程として添加される。必要に応じ、FXIIIa添加前に、細胞接着ペプチドRGD(TG-RGEGIn、アミノ酸配列:NQEQVSPL-GRGDSPG-NH2、Bachem、スイス)が例示される架橋性生物活性化合物もゲル形成反応に添加される(ゲル中での最終濃度50μM)。架橋反応混合物は、次いで5%CO2加湿環境中、37℃で30~45分間インキュベートされる。
【0075】
ハイドロゲルの機械的および膨潤試験
ゲル化時間は、最終利用者によって操作されるゲルを形成するゲル前駆体溶液が、固体になり、液体操作装置によって操作することができなくなるゲルになり始める前に液体のままである時間である。簡潔に述べると、(本発明に記載されるように製造され、ゲルを作製する全ての化合物を含有する)未反応粉末プレミックスが、最終利用者によって適切な緩衝液に再懸濁され、架橋反応(すなわちゲル化)が開始し、
図7に示されるように液体溶液1がピペットの先端3に付着する「小フィラメント」2を形成するまでの時間が測定される。フィラメント2は、最終利用者が液体操作装置でこの硬化ゲル溶液1を操作することができなくなる指標である。最終的なゲルを形成する重合反応は、次いで反応基が消費されるまで継続する。従来技術の方法を用いて調製されるゲルについて同じ測定を実施し、この場合、ゲル化時間の測定は、予め活性化されたFXIII(FXIIIa)が最終利用者によって最後の成分として全てのゲル化合物を含有する溶液に添加され、架橋反応が開始する時点で開始される。
【0076】
前述のように、異なる製造手順でゲル(例えば、乾燥質量2.5%w/v)を調製した。硬化前のゲルの液滴(体積80μL)を、厚さ1mmのスペーサと共に滅菌した疎水性スライドガラス(SigmaCoteで被覆、Sigma、アメリカ合衆国)の間に挟み、5%CO2加湿環境で、37℃で45分間ゲル化させた。ゲル化が完了し、PBS中で24時間膨潤させた後、生検パンチを使用して直径8mmのゲルディスクを製造し、次いで機械的測定の前に同じ緩衝液中で保管した。
【0077】
(MCR302、Anton Paar)を使用し、レオロジー測定を実施した。ゲルを、レオメータの2枚の平行なプレート間に置き、滑りを防ぐため当初の厚さの80%まで圧縮した。ハイドロゲルの線形粘弾性挙動の範囲内で確実に測定を実施するため、一定の周波数でひずみ掃引を行った。一定のひずみで、周波数の関数としてずれ弾性率(G’)を記録した。膨潤したディスク試料それぞれのG’値を、0.1~0.2Hzの間で測定されたG’値の平均値として算出した。全ての測定は、室温(22℃)で実施された。膨潤率Q(=Ws/Wd)を、PBS中で膨潤平衡状態にあるハイドロゲル(Ws)とその理論乾燥質量(Wd)の重量比として算出した(Bott K、Upton Z、Schrobback K、Ehrbar M、Hubbell JA、Lutolf MP、Rizzi SC、The effect of matrix characteristics on fibroblast proliferation in 3D gels、Biomaterials、2010年11月、31巻(32号)、8454~64ページ)。
【0078】
図5は、前述の従来技術の方法と比較した、本発明の方法(選択性ii)を使用して得られた結果を示す。
【0079】
選択肢ii)に準ずる方法は、工程b)の次に工程a)および工程c)を含む製造方法に対応する。簡潔に述べると、架橋化酵素および活性化酵素を予め混合して、37℃で30分間プレインキュベートした(工程b))。その後、室温で酵素プレミックスに構造化合物を添加し(製造用混合物開始)(工程a))、滅菌ろ過し、次いで0.6時間、1時間、2時間、4時間、6時間および21.8時間で分取した製造用混合物を凍結乾燥した(工程c))。
【0080】
前駆体溶液の他の成分(構造化合物を含む)と混合する前に、Ca2+の非存在中、37℃で30分間トロンビンと共にFXIIIのプレインキュベートを実施し、製造用混合物を作製した。このプレインキュベート方法は、FXIIIが既に100%(および/または従来技術と同様に)活性化されていると思われるため、有益である。その後、凍結乾燥前に製造用混合物が室温に置かれた期間(製造時間)にかかわらず、最終的なゲル特性は変化しなかった。
図5におけるグラフA、BおよびCは、最終的なゲル特性(ゲル化時間、せん断弾性率G’、膨潤率Q)は、製造時間、すなわち製造用混合物が凍結乾燥前に室温に留まった時間を経過して安定であることを示す。さらに、最終的なゲル特性は、従来技術の方法で得られるものと同様であった。
【0081】
図6
図6は、本発明(選択肢i)に従う、製造用混合物中における第XIII因子の、時間の経過に伴う活性化を示す。
【0082】
選択肢i)に準じ、工程a)、工程a)の後の工程b)、および工程c)を含む本発明の方法に従って製造されるハイドロゲル
以下、活性化酵素(トロンビン)、架橋化酵素(FXIII)、構造化合物AおよびB、ならびに任意で生体活性化合物TG-RGDGInを含む未反応粉末プレミックスの製造方法を例示する。これらの凍結乾燥プレミックスは、次いで最終利用者に使用され、乾燥質量2.5%w/vのゲルを形成する。最終的な2.5%w/vゲルは、
図5に関して概略される従来技術の方法で製造される2.5%w/vゲルと同一の構造(および生体活性)化合物、FXIII濃度およびトロンビン濃度を含有する。
【0083】
(上記で概略されるように製造された)構造化合物AおよびBの両方の5%w/v溶液を、導電率が5μS/cm未満の水中で作製し、化学量論的に釣り合いのとれた反応基と混合した。最終濃度がそれぞれ約20U/mLおよび約0.2U/mLに達するよう、FXIIIおよびトロンビン(いずれも個別の容器内で水中に溶解される)を5%w/vの構造化合物混合物と混合した。FXIIIユニットのトロンビンユニットに対する比は、従来技術の条件における架橋化酵素と活性化酵素の比を再現するよう100~1に保持された。
【0084】
必要に応じて、架橋性生体活性化合物、例えばTG-RGDGInも製造用混合物に添加され得る。製造用混合物の調製はCa2+の非存在中で実施され、工程は室温で実施された。製造用混合物のpHは、6.5~8の範囲である。
【0085】
前述のとおりに全ての化合物を混合した後、次いで、例えば従来の孔径が0.22μmのシリンジフィルタを使用して製造用混合物を滅菌ろ過した。その後、凍結乾燥用に製造される容器に滅菌溶液を満たし、即時使用可能な未反応粉末を得た。
【0086】
一般的に、特定の時点で(製造用混合物を室温でインキュベートする0.25から25時間の間、
図1および
図6参照)、分取したものを凍結および凍結乾燥させ、ゲルの作製に必要とされる化合物を全て含む未反応粉末を(容器の底に)生成させた。そのような2~4時間を超えて室温に置かれた製造用混合物から製造されるゲルのゲル特性(ゲル化時間、せん断弾性率G’)は、安定なままであった(下記参照)。
【0087】
ゲルの作製に必要とされる化合物を全て含有する凍結乾燥未反応粉末の再懸濁によるゲルの調製
(異なる時間でインキュベートした後に製造用混合物を凍結乾燥することによって製造された、工程c))未反応粉末を、50mMの塩化カルシウムを含有するトリス緩衝液(トリス50mM、pH7.6)中に再懸濁させ、第XIII因子およびトロンビンの最終濃度が(
図5について概説される従来技術の方法で製造されるゲルと同様)それぞれ10U/mLおよび0.1U/mLである、構造化合物乾燥質量2.5%w/vのゲルを形成させた。典型的な再懸濁液の体積は、50~1000μLの範囲である。これらのゲルの物理化学的特性を下記のとおりに測定し、下記に示すように従来技術の方法を使用して製造されたゲルを基準として評価した。
【0088】
図5に関して概説されるように従来技術のゲルを製造し、試験した。試験に用いられた十分に活性化されたFXIII(従来技術の方法に従うとFXIIIa)の濃度は、10U/mL(100%活性化の基準として)および5U/mL(50%活性化の基準として)であった。
図6のAを作成するために、次いでゲル化時間を製造時間(
図1に関して示されるように与えられた)の関数として示す
図1のAの値と共にこれらのデータをプロットした。ゲル化時間に基づき(
図6のA)、製造用混合物中のFXIIIは、約1時間および4時間の製造時間の後に、それぞれ活性化の基準の50%および100%に相当する活性を有すると思われる。
【0089】
同じ試料のG’を
図6のBにプロットし、約2時間の製造時間の後、既に従来技術のゲル(100%活性化の基準)と同様のG’が得られていた。凍結乾燥粉末を適切な緩衝液(50mMトリス緩衝液、50mMCaCl2、pH7.6)に再懸濁させた際にFXIIIの活性化が継続する、および/またはゲル化工程中に完了する可能性があるため、これは、凍結乾燥前の製造用混合物中のFXIIIが、十分に活性化されていなかった(すなわち、100%活性化の基準と比較して)ことを示す。しかし、製造用混合物におけるFXIIIの活性化は、ほぼ100%であることが好ましい。
【0090】