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特許7116394マグネシウム合金及びマグネシウム合金の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】マグネシウム合金及びマグネシウム合金の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 23/02 20060101AFI20220803BHJP
   C22F 1/06 20060101ALI20220803BHJP
   C22C 23/04 20060101ALI20220803BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220803BHJP
【FI】
C22C23/02
C22F1/06
C22C23/04
C22F1/00 604
C22F1/00 606
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630C
C22F1/00 630K
C22F1/00 631A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691A
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 694Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018027358
(22)【出願日】2018-02-19
(65)【公開番号】P2018141234
(43)【公開日】2018-09-13
【審査請求日】2020-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2017037769
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、先端的低炭素化技術開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100082876
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100086807
【弁理士】
【氏名又は名称】柿本 恭成
(72)【発明者】
【氏名】ビャン ミンジェ
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 泰祐
(72)【発明者】
【氏名】宝野 和博
(72)【発明者】
【氏名】スー ビョンチャン
(72)【発明者】
【氏名】鎌土 重晴
(72)【発明者】
【氏名】中田 大貴
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03146096(US,A)
【文献】特開2009-120883(JP,A)
【文献】国際公開第2012/049990(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101629260(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 23/02
C22F 1/06
C22C 23/04
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.2~2質量%のAlと、
0.2~1質量%のMnと、
0.2~2質量%のZnと、
少なくとも0.2~1質量%のCaと、を含有し、
残部がMg及び不可避不純物からなり、
Mg、Ca及びAlよりなる析出物がマグネシウム母相の(0001)面上に分散しており、
前記Mg、Ca及びAlよりなる析出物の形状が板状であって、当該板状の長辺が3~6nmの範囲にあり、当該析出物の数密度は10 20 ~10 24 /mm である、マグネシウム合金。
【請求項2】
さらにAl及びMnよりなる析出物を含有している、請求項1に記載のマグネシウム合金。
【請求項3】
前記マグネシウム母相の結晶粒径の平均は20μm以下である、請求項1又は2に記載のマグネシウム合金。
【請求項4】
X線回折により測定した(0002)極点図の正規化したRD-TD面の板厚中央部における(0002)面の集積度が5.0以下である、請求項1~の何れかに記載のマグネシウム合金。
【請求項5】
室温におけるエリクセン値が6.5mm以上である、請求項1~の何れかに記載のマグネシウム合金。
【請求項6】
溶体化処理材の0.2%耐力が120MPa以上である、請求項1~の何れかに記載のマグネシウム合金。
【請求項7】
時効処理材の0.2%耐力が160MPa以上である、請求項に記載のマグネシウム合金。
【請求項8】
破断伸びが20%以上である、請求項1~の何れかに記載のマグネシウム合金。
【請求項9】
0.2~2質量%のAlと、
0.2~1質量%のMnと、
0.2~2質量%のZnと、
少なくとも0.2~1質量%のCaと、を含有し、
残部がMg及び不可避不純物からなり、
Mg、Ca及びAlよりなる析出物がマグネシウム母相の(0001)面上に分散しており、
前記Mg、Ca及びAlよりなる析出物の形状が板状であって、当該板状の長辺が3~6nmの範囲にあり、当該析出物の数密度は10 20 ~10 24 /mm である、マグネシウム合金の製造方法であって、
Mg、Al、Mn、Zn及びCaを溶解して鋳造固体を得る工程1と、
前記鋳造固体を均質化処理して均質化固体を得る工程2と、
前記均質化固体を熱間または温間で加工して有形固体を得る工程3と、
前記有形固体を溶体化処理して冷却固体を得る工程4と、
前記冷却固体を時効処理してマグネシウム合金を得る工程5と、
を含み、
前記工程2において、400℃以上500℃以下で所定時間の均質化処理を行い、前記均質化固体を得、
前記工程5において、140~250℃の温度で所定時間の時効処理をすることで
上記マグネシウム合金を得る、マグネシウム合金の製造方法。
【請求項10】
前記工程4と前記工程5との間に、前記冷却固体を二次加工する二次加工工程を含んでいる、請求項に記載のマグネシウム合金の製造方法。
【請求項11】
0.2%耐力が120MPa以上の前記冷却固体を二次加工し、前記工程5により0.2%耐力を160MPa以上にする、請求項10に記載のマグネシウム合金の製造方法。
【請求項12】
前記工程5において、前記マグネシウム合金の硬さが増大する時間時効処理する、請求項10に記載のマグネシウム合金の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム合金及びマグネシウム合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金は、実用金属中最軽量の金属として知られており、アルミニウム合金に代わる軽量材料として鉄道、航空機、自動車などへの適用が検討されている。しかし、マグネシウム合金展伸材はアルミニウム合金に比べて強度や加工性に劣る。この点を克服し、マグネシウム合金の用途を拡大するために、新しい展伸材の開発を含む様々な研究が行われてきた。
【0003】
従来の展伸マグネシウム合金は、強加工による結晶粒微細化や、希土類金属元素と亜鉛を合金元素として添加することで300MPaを超える強度を得ている(例えば特許文献1参照)。しかし、従来技術により開発された合金には実用上多くの問題点が存在する。
【0004】
特許文献1のように希土類金属を合金元素として添加した合金は優れた強度を有する。しかし、高価な希土類金属を使用するために原料コストが高くなる。また、容易に熱間加工などの1次加工や最終形状への2次加工ができないため製造コストも高い。したがって、自動車や鉄道などに適用できるような汎用的な材料が開発できる可能性は著しく低い。
【0005】
また、強加工による結晶粒微細化により強度を向上させた展伸材が知られている(例えば非特許文献1参照)。しかし、変形組織が形成され、既に加工硬化した状態になっているため、室温での2次加工が著しく困難である。それだけでなく、大型部材を作製することも困難である。
【0006】
一方、高強度合金の開発に加え、常温での加工性の向上に関する研究についてもこれまで多数行われている(特許文献2,3参照)。これらの報告例ではエリクセン値(IE値)によって常温の加工性が評価されている。
【0007】
幾つかの報告において、合金元素添加や圧延プロセスの改良などによって、アルミニウム合金に匹敵する優れた常温での加工性を有する合金を開発した例が報告されている(特許文献3参照)。しかし常温加工性の向上に伴い強度が低下する傾向があった。なお、特定の鋳造材や押出材において時効処理を用いて強度を改善した例も報告されている(特許文献4,5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-79436号公報
【文献】特開2004-10959号公報
【文献】特開2010-13725号公報
【文献】特開2002-266044号公報
【文献】特開2016-169427号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】W.J.Kim, I.B.Park, S.H.Han, Scripta Materialia 66 (2012) 590 - 593
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、例えば自動車のボディパネルの場合、機械的性質として求められる160MPaの0.2%耐力と8mm程度のエリクセン値を有する合金が求められており、多くの用途において、強度と常温での優れた2次加工性の両者を発現する合金が強く求められている。ところが従来のマグネシウム合金やマグネシウム合金の製造方法では、強度と常温における2次加工性とを十分に兼ね備えた汎用性の高い材料は得られていなかった。
【0011】
そこで本発明では、常温を含む温度範囲における加工性と強度とを両立させることが可能で、汎用性の高いマグネシウム合金及びマグネシウム合金の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決する方法としては時効処理の適用が挙げられる。T6処理と呼ばれる熱処理は、熱間または温間における加工によって得た展伸材に対して施す熱処理プロセスの一種であり、合金中に合金元素を過飽和に固溶させる溶体化処理(T4処理)と、析出物を分散させて最大硬度まで強化する時効処理よりなる。
【0013】
T6処理を板材や棒材などの塑性加工品に適用すると、T4処理後は析出物の母相への固溶や母相の回復、再結晶、および結晶配向度の低下により塑性加工品が軟化するので成形加工性を向上させることができ、その後の時効処理により微細な析出物を高密度に分散させることで強度を付与できる。現在の商用マグネシウム合金の板材として知られるMg-3Al-1Zn合金などは時効硬化しないためにこうした熱処理は適用できないが、本発明者らにおいて鋭意検討の結果、特定のマグネシウム合金であれば、T6処理を利用して常温を含む温度範囲における加工性と強度とを両立させることが可能であることを見出し、本発明に至った。
【0014】
即ち、上記目的を達成する本発明のマグネシウム合金は、0.2~2質量%のAlと、0.2~1質量%のMnと、0.2~2質量%のZnと、少なくとも0.2~1質量%のCaと、を含有し、残部がMg及び不可避不純物からなり、Mg、Ca及びAlよりなる析出物がマグネシウム母相の(0001)面上に分散しており、Mg、Ca及びAlよりなる析出物の形状が板状であって、当該板状の長辺が3~6nmの範囲にあり、当該析出物の数密度は10 20 ~10 24 /mm である
本発明のマグネシウム合金は、さらにAl及びMnよりなる析出物を含有していてもよい。
【0015】
またマグネシウム母相の結晶粒径の平均は20μm以下であるのがよい。
【0016】
このマグネシウム合金では、X線回折により測定した(0002)極点図の正規化したRD-TD面の板厚中央部における(0002)極の集積度が5.0以下であるのが好適である。
【0017】
本発明のマグネシウム合金では、室温におけるエリクセン値が6.5mm以上であるのが好適である。また、溶体化処理材の0.2%耐力が120MPa以上であるのがよく、最終的に成形後時効処理を施したマグネシウム合金の0.2%耐力が160MPa以上であるのが好ましい。また何れの段階においても破断伸びが20%以上であるのが好適である。
【0018】
上記目的を達成する本発明のマグネシウム合金の製造方法は、Mg、Al、Mn、Zn及びCaを溶解して鋳造固体を得る工程1と、鋳造固体を均質化処理して均質化固体を得る工程2と、均質化固体を熱間または温間で加工して有形固体を得る工程3と、有形固体を溶体化処理して冷却固体を得る工程4と、冷却固体を時効処理してマグネシウム合金を得る工程5と、を含み、工程2において400℃以上500℃以下で所定時間の均質化処理を行うことで均質化固体を得、工程5において140~250℃の温度で所定時間の時効処理をすることで
0.2~2質量%のAlと、0.2~1質量%のMnと、0.2~2質量%のZnと、少なくとも0.2~1質量%のCaと、を含有し、残部がMg及び不可避不純物からなり、Mg、Ca及びAlよりなる析出物がマグネシウム母相の(0001)面上に分散しており、Mg、Ca及びAlよりなる析出物の形状が板状であって、当該板状の長辺が3~6nmの範囲にあり、当該析出物の数密度は10 20 ~10 24 /mm であるマグネシウム合金を得ている。
【0019】
本発明のマグネシウム合金の製造方法では、工程4と工程5との間に冷却固体を二次加工する二次加工工程を含めることができる。その場合、0.2%耐力が120MPa以上の冷却固体を二次加工し、工程5により0.2%耐力を160MPa以上にすることが好ましい。また工程3において、熱間または温間での加工により処理するのが好適である。さらに工程5において、マグネシウム合金の硬さが増大する時間時効処理するのが好適である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、常温を含む温度範囲における加工性と強度とを両立させることが可能で、高価な希土類金属元素を合金元素として用いないことから、汎用性の高いマグネシウム合金及びマグネシウム合金の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施例1における工程4の冷却固体である溶体化処理材の光学顕微鏡像を示す。
図2】実施例1における工程4の冷却固体である溶体化処理材のX線回折より得た(0002)極点図を示す。
図3】実施例1における工程4の冷却固体である溶体化処理材と工程5の時効処理材の引張応力-ひずみ曲線を示す。
図4】実施例1の時効処理材を透過型電子顕微鏡により観察したもので、(a)は明視野TEM像、(b)は[011(バー)0]、[112(バー)0]方位から得た制限視野回折像、(c)は3次元アトムマップを示す図である。
図5】実施例1の時効処理材を透過型電子顕微鏡により観察したもので、(a)は明視野TEM像、(b)はHAADF-STEM像(High-angle Annular Dark Field Scanning Transmission Electron Microscopy、高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡像)、(c)は(b)のHAADF-STEM像の拡大図、(d)は(c)の矢印に沿った元素分析の結果を示す図である。
図6】実施例5における工程4の冷却固体である溶体化処理材の光学顕微鏡像を示す図である。
図7】実施例5における工程4の冷却固体である溶体化処理材のX線回折より得た(0002)極点図を示す。
図8】実施例5における工程4の冷却固体である溶体化処理材と工程5の時効処理材の引張応力-ひずみ曲線を示す。
図9】実施例7における工程4の冷却固体である溶体化処理材の光学顕微鏡像を示す図である。
図10】実施例7における工程4の冷却固体である溶体化処理材のX線回折より得た(0002)極点図を示す。
図11】実施例7における工程4の冷却固体である溶体化処理材と工程5の時効処理材の引張応力-ひずみ曲線を示す。
図12】実施例9における工程4の冷却固体である溶体化処理材の光学顕微鏡像を示す図である。
図13】実施例9における工程4の冷却固体である溶体化処理材のX線回折より得た(0002)極点図を示す。
図14】実施例9における工程4の冷却固体である溶体化処理材と工程5の時効処理材の引張応力-ひずみ曲線を示す。
図15】比較例1における工程4の冷却固体である溶体化処理材の光学顕微鏡像を示す図である。
図16】比較例1における工程4の冷却固体である溶体化処理材のX線回折より得た(0002)極点図を示す。
図17】比較例1における工程4の冷却固体である溶体化処理材と工程5の時効処理材の引張応力-ひずみ曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明のマグネシウム合金は、0.2~2質量%のAlと、0.2~1質量%のMnと、0.2~2質量%のZnと、少なくとも0.2~1質量%のCaと、を含有し、残部がMg及び不可避不純物からなる合金である。
【0023】
このマグネシウム合金は、Mg又はAl、Mn、Zn及びCaを固溶したMgからなるマグネシウム母相と、Al、Mn、Zn及びCaのうちの1種以上を含む析出物とを有している。マグネシウム合金の形態は、特に限定されず、例えば板材等の各種素材の形態であってもよく、中間体や最終製品の形態であってもよい。
【0024】
本発明のマグネシウム合金におけるマグネシウム母相では、T4処理により結晶配向度が低下し、析出物を形成する合金元素であるAl、Ca、Zn、Mnが固溶している。マグネシウム母相の結晶粒径の平均は20μm以下であるのがよい。結晶粒径が過剰に大きいと、クラックの起点となる変形双晶の形成が容易となり、常温での成形加工性を著しく低下させることになるため好ましくない。
【0025】
本発明のマグネシウム合金に含有されるAlの割合は、0.2~2質量%とするのがよい。Alの含有割合が少ないと、後述する有用な析出物を得にくく、一方、過剰であると、析出する相が強化に有効ではないAlCa相などの粗大な析出物に変化するために好ましくない。
【0026】
本発明のマグネシウム合金に含有されるMnの割合は、0.2~1質量%とするのがよい。Mnの含有割合が少ないと、結晶粒の粗大化を抑制する役割を果たすAl-Mn系化合物が形成され易く、一方、過剰であると、Al-Mn系化合物の形成にAlが使われてしまうので大きな時効硬化を示さなくなるため好ましくない。
【0027】
本発明のマグネシウム合金に含有されるZnの割合は、0.2~2質量%とするのがよい。Znの含有割合が少ないと、結晶の配向度が高くなるので優れた常温加工性が得られない。一方で過剰であると、合金の融点が下がり、溶体化処理後の冷却時に割れる可能性があるだけでなく、時効硬化能が著しく低下し易いため好ましくない。
【0028】
本発明のマグネシウム合金に含有されるCaの割合は、0.2~1質量%とするのが好ましい。Caの含有割合が少ないと、後述する有用な析出物を得にくく、一方、Caの含有割合が過剰であると、AlとCa、またはMgとCaよりなる析出物が形成し、成形性や延性の低下を招くために好ましくない。
【0029】
本発明のマグネシウム合金における析出物は、Mg、Ca及びAlよりなる析出物とAl及びMnよりなる析出物とが存在する。Mg、Ca及びAlよりなる析出物は、マグネシウム母相の(0001)面上に分散したGuinier.Preston.Zone(G.P.Zone、G.P.ゾーン)と呼ばれるナノサイズの析出物である。Mg、Ca及びAlよりなる析出物を時効処理中に形成することで、合金の強度を向上することができる。
なお、析出物が分散しているとは、微細なナノオーダーの析出物が多数析出している状態であればよい。マグネシウム合金の時効処理材で観察されるMg、Ca及びAlよりなる析出物(G.P.Zone)は板状析出物であってもよい。このナノサイズの板状析出物は、例えば板状の長辺が3~6nmの範囲にあり、元素組成式はMg(Ca,Al)である。すなわち、Mgが67at%、Ca+Alが33at%となっているが、これらの寸法や元素組成式に限定されない。
【0030】
Al及びMnよりなる析出物は、棒状のAl-Mn系析出物である。このAl-Mn系析出物は、AlとMnとにより均質化処理や溶体化処理の際に析出物が形成されることにより、組織を微細化できる。Al及びMnよりなる析出物は、マグネシウム合金の溶体化処理材及び時効処理材で観察される。棒状のAl-Mn系析出物は、例えば長さが50nm~300nm程度であり、直径が2-20nm程度であるが、これに限定されるものではない。
【0031】
Mg、Ca及びAlよりなる析出物(G.P.Zone)の数密度は1020~1024/mmであるのが好適である。数密度が過剰に低いと、ナノ析出物による強度を向上する効果が得にくくなるため好ましくない。一方、AlとMnよりなる析出物の数密度は、1020~1021/mm程度である。このAlとMnよりなる析出物の数密度をG.P.Zoneの数密度である1020~1024/mmと比較すると、10~10mm-3程度低い値であるので、マグネシウム合金の強度には大きく影響しない。
【0032】
結晶粒の配向度は、(0002)極点図の正規化したRD-TD面の板厚中央部における(0002)面の集積度が5.0未満とされている。これにより結晶粒の配向度を低くすることができ、優れた成形性を得ることができる。
【0033】
本発明のマグネシウム合金は、室温におけるエリクセン値が6.5mm以上であるのがよい。これによりマグネシウム合金の常温でのプレス等の加工性を向上することができ、加熱状態での加工性も一層向上することができる。このエリクセン値(IE値)は、エリクセン試験により外周部を固定した薄板に球頭パンチを一定のスピードで押し当てることで薄板を変形させて、材料に破断が生じるまでのくぼみの高さによって常温での加工性を評価するものである。
【0034】
一方、本発明のマグネシウム合金は、常温での加工性を向上しつつも、0.2%耐力が120MPa以上であるのがよく、破断伸びが20%以上であるのがよい。0.2%耐力は、降伏応力とも呼ばれている。さらにビッカース硬さが45HV以上であるのが望ましい。本発明のマグネシウム合金の時効処理材の0.2%耐力は、160MPa以上であるのが好ましい。
【0035】
次に、マグネシウム合金の製造方法について説明する。
この製造方法は、Mg、Al、Mn、Zn及びCaを溶解して鋳造することで鋳造固体を得る工程1と、鋳造固体を均質化処理して均質化固体を得る工程2と、均質化固体を熱間または温間加工して有形固体を得る工程3と、有形固体を溶体化処理して冷却固体を得る工程4と、冷却固体を時効処理してマグネシウム合金を得る工程5と、を含んでいる。
【0036】
(工程1:鋳造)
工程1では、0.2~2質量%のAlと、0.2~1質量%のMnと、0.2~2質量%のZnと、少なくとも0.2~1質量%のCaと、を含有し、残部がMg及び不可避不純物からなる合金成分を溶解して鋳造することで鋳造固体を作製する。溶解の際に用いる溶解炉や鋳造固体のサイズは特に限定されるものではなく、所望の組成の鋳造固体が作製できればよい。
【0037】
(工程2:均質化処理)
工程2では、鋳造固体を400℃以上500℃以下で所定時間の均質化処理を行うことで均質化固体を作製する。均質化処理では、鋳造固体中に存在する合金元素分布を均質化し、溶湯の冷却中に形成される析出物をマグネシウム母相に固溶させる。
【0038】
Znが高濃度にマクロ偏析している領域では、340℃以上の温度で熱処理を開始すると合金が融解するおそれがある。そのため、まず340℃未満の温度で熱処理することで、鋳造時に形成されたMg-Zn相の初期溶融を抑制してZnを分散した後、400℃以上500℃以下において所定時間の熱処理を施すことで、Znの分布を均質化して均質化固体を得る。
【0039】
なお、均質化処理の条件は特に限定されるものではなく、鋳造固体や合金元素成分に応じて設定することができ、所定の温度及び時間の条件における熱処理により合金元素がマグネシウム母相に固溶できればよい。
【0040】
(工程3:熱間または温間加工)
工程3では、均質化固体を温間における圧延により板材に加工することで、板状の有形固体を作製する。圧延では、試料温度、ロール温度、圧下率、ロール周速、通過数、試料の中間熱処理の有無、中間熱処理の温度及び時間などの圧延条件を設定して、均質化固体を板材に加工する。
試料温度及びロール温度は圧延中に試料が割れない程度に低くしてもよい。また圧下率は圧延中に試料が割れない程度に大きくしてもよい。試料の中間熱処理は圧延途中で行う熱処理であり、冷却過程においてクラックが生じず、かつ局所的な融解が起きない範囲の高温で行ってもよい。
なお、熱間または温間加工は特に圧延加工に限定されるものではなく、微細組織が作製できる展伸加工法であればよく、例えば双ロール鋳造圧延をはじめ鍛造や押出加工など如何なる方法でもよい。
【0041】
(工程4:溶体化処理)
工程4では、板状の有形固体を溶体化処理し、これを冷却することで冷却固体を作製する。溶体化処理では、有形固体を熱処理することで、熱間または温間加工中に形成された微細析出物をマトリックス中に固溶させ、かつ再結晶させて組織を形成する。
【0042】
熱間または温間加工後に溶体化処理を施すことで、結晶粒の配向をランダムに配向させることができ、優れた成形性を付与することができる。溶体化処理では、有形固体に応じ350℃から500℃の溶体化処理温度で、15分から24時間の溶体化処理時間保持することで行う。ただし、熱処理時間の長時間化は製造コストの増加につながるので必要以上の時間を行う必要はない。
【0043】
(二次加工工程)
工程4の後、溶体化処理後に得られた冷却固体の形状とは異なる形状のマグネシウム合金を製造する場合、冷却固体に対して二次加工を実施することができる。二次加工は特に限定されるものではなく、所望の形状に応じてプレス加工、絞り加工等の板金加工や機械加工などを適宜行うことができる。また溶体化処理により得られた冷却固体の形状のままでマグネシウム合金を製造する場合には、二次加工を実施することなく次工程を行うことが可能である。
【0044】
(工程5:時効処理)
工程5では、冷却固体を熱処理により時効硬化処理することで、溶体化処理された冷却固体に析出した析出物を分散させて強度を付与して、本発明のマグネシウム合金を作製する。ここでは商用マグネシウム合金では従来使われなかった時効処理を用いることで、マグネシウム合金の大幅な強化を達成することができる。
時効処理では、140~250℃の温度で所定時間の時効処理を行う。時効処理を行う時間はマグネシウム合金の硬さが増大する時間、好ましくはマグネシウム合金の硬さが最大となる時間行う。
【0045】
このようにして製造される本発明のマグネシウム合金は、0.2~2質量%のAlと、0.2~1質量%のMnと、0.2~2質量%のZnと、少なくとも0.2~1質量%のCaと、を含有し、残部がMg及び不可避不純物からなり、Mg、Ca及びAlよりなる析出物がマグネシウム母相の(0001)面上に分散し、好ましくはさらにAl及びMnよりなる析出物を含有している合金である。
上記のようなマグネシウム合金及びその製造方法によれば、圧延後に溶体化処理を施すことで結晶粒の配向をランダムに配向させることができ、これにより優れた成形性を付与することができる。また結晶粒の配向をランダムに配向させることで強度が急激に低下するが、時効処理によりナノサイズの析出物を形成させることで成形性、強度、延性を両立させることが可能である。
【0046】
さらにこれらのマグネシウム合金及びその製造方法によれば、常温を含む温度範囲における加工性と強度との両立が可能な汎用性の高いマグネシウム合金が得られる。例えば自動車のボディパネル等の自動車材料として、適用可能な機械的性質として求められる耐力や常温加工性を実現することができる。
高価かつ資源の少ない重希土類金属元素を用いることなく、比較的安価な合金元素からなり、また既存の設備を利用して単純な圧延と熱処理の組み合わせで行う熱処理や加工により、従来の商用マグネシウム合金板材を大きく上回る優れた成形性と室温強度を発現させることができる。これにより例えば自動車応用に要求される特性を満たすことも可能である。
【0047】
なお、上記実施形態は、本発明の範囲内において適宜変更可能である。例えば上記マグネシウム合金の製造方法では、熱間または温間加工後に溶体化処理した状態のマグネシウム合金を、絞り、曲げなどの各種の加工を施して成形体を作製し、その後に時効処理を施すことで強化する例について説明したが、熱間または温間加工後に溶体化処理及び時効処理してマグネシウム合金を作製し、その後絞り、曲げなどの各種の加工を施して成形体を作製することも可能である。その場合、マグネシウム合金の製造方法としては、熱間または温間加工後に溶体化処理して時効処理を施さない状態で完了することもでき、加工材料の製造方法として本発明を適用することが可能である。
【実施例
【0048】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、合金組成は全て質量%にて記載している。
[実施例1]
(工程1:鋳造)
高周波誘導溶解炉(ULVAC社製、FMI-I-20F)を用い、表1のA-1に示すように、Mg-1.2Al-0.3Ca-0.4Mn-0.3Znの組成の合金を溶解及び鋳型を用いて鋳造して鋳造固体を作製した。Mg以外の元素であるAl、Ca、Mn、Znの前に記載している数字は、各元素の質量%を示している。鋳造固体の厚みを概略10mmとした。
【0049】
(工程2:均質化処理)
鋳造固体を300℃で4時間保持後、昇温速度10℃/hで500℃まで昇温し、その後6時間保持した後、室温まで水冷することで均質化処理を施し、均質化固体を作製した。この均質化処理では、鋳造時に形成されたMg-Zn相の初期溶融を抑制するために、まず300℃で熱処理し、その後500℃で熱処理することでZnの分布を均質化した。
【0050】
(工程3:熱間または温間加工)
圧延装置(ウエノテックス株式会社製、H9132)を用いてロールにより加圧可能な圧延通路に均質化固体を通過させることで、粗圧延工程と最終圧延工程とに分けて圧延処理を行い、有形固体を作製した。粗圧延工程では、表1に示すように、ロールの周速が2m/minの圧延装置を用い、試料温度及びロール温度を300℃とし、圧下率15%で圧延通路を4回通過させて、厚み10mmの均質化固体を厚み5mmにまで圧延した。
【表1】
【0051】
粗圧延工程に引き続いて最終圧延工程を、表1に示すように、ロールの周速が2m/minの圧延装置を用い、中間熱処理を行いつつ実施した。最終圧延工程では、試料温度及びロール温度を100℃とし、圧下率23%で圧延通路を6回通過させた。圧延通路を通過させる毎に、試料再加熱温度500℃で5分間保持して空冷する中間熱処理を施しつつ最終圧延を行うことで、厚みを1mmまで圧延し、有形固体を作製した。
【0052】
(工程4:溶体化処理)
板状の有形固体を溶体化処理することで冷却固体を作製した。溶体化処理温度を450℃とし溶体化処理時間を1時間として加熱した。
得られた冷却固体の機械的強度を測定したところ、表2に示すように、エリクセン試験(試験器:エリクセン社製、111型)により評価した成形性(index Erichsen value)であるエリクセン値が7mm、ビッカース硬さが47VHN、0.2%耐力が127MPa、引張強さが223MPa、破断伸びが30%であった。
【表2】
【0053】
図1に冷却固体である溶体化処理材の光学顕微鏡像(ニコン社製、Eclipse LV-100)を示す。切片法により算出した結晶粒径は12.0μmであった。結晶粒径は、米国材料試験協会(ASTM)のlineal intercept method (E112-13)に則って算出した。また図2に溶体化処理材のX線回折より得た(0002)極点図を示す。(0002)極の集積度(maximum random distribution、m.r.d.又は集合組織強度とも呼ばれる)は3.6であった。ここで、集合組織強度は(0002)面集合組織の相対強度(ランダムに配向した時を1とする)を示す尺度である。
【0054】
(工程5:時効処理)
冷却固体に対し、表3に示すように、時効温度200℃として時効時間として0.5hとして時効処理を施した。得られた冷却固体の機械的強度を測定したところ、表3に示すように、ビッカース硬さが57VHN、0.2%耐力が187MPa、引張強さが248MPa、破断伸びが28%であった。
【表3】
【0055】
図3に工程4の冷却固体である溶体化処理材(T4)と工程5の時効処理材(T6)の引張応力-ひずみ曲線を示す。時効処理によって、降伏強度は187MPaまで著しく増加していた。
【0056】
図4は、実施例1の時効処理材を透過型電子顕微鏡により観察した像を示し、(a)は明視野TEM像、(b)は[011(バー)0]、 [112(バー)0]方位から得た制限視野回折像、(c)は3次元アトムマップを示す図である。透過型電子顕微鏡としては、FEI社の走査透過電子顕微鏡(Titan、 G2 80-200)を用いた。
図4(a)の明視野TEM像中の線状のひずみコントラスト及び制限視野回折像のストリークによってG.P.Zoneの存在が確認できた。
3次元アトムプローブ(3 dimensional atom Probe, 3DAPとも呼ぶ)は、試料に高電圧を印加し、試料の表面から電界蒸発するイオンを、質量分析装置で検出して、個々に検出されたイオンを深さ方向へ連続的に検出し、検出された順番にイオンを並べることにより、3次元の原子分布を測定する方法である。3次元アトムプローブは、国立研究開発法人物質・材料研究機構の発明者(宝野和博)が自作し、イオン分析には、カメカ社製の質量分析装置(ADLD detector)を用いた。
図4(c)の3次元アトムマップから図4(a)で観察したG.P.Zoneが、Mg、Ca及びAlよりなることが確認できた。G.P.Zoneの典型的な元素組成式はMg(Ca,Al)で、Mgが67at%、Ca+Alが33at%との理論解析があるが、この理論と一致していることが分かった。
【0057】
図5は、実施例1の時効処理材を透過型電子顕微鏡により観察したもので、(a)は明視野TEM像、(b)はHAADF-STEM像(High-angle Annular Dark Field Scanning Transmission Electron Microscopy、高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡像)、(c)は(b)のHAADF-STEM像の拡大図、(d)は(c)の矢印に沿った元素分析の結果を示す図である。元素分析は、FEI社の走査透過電子顕微鏡に付加したEDS(FEI社のEDS元素分析装置(Super X)を用いて行った。
図5(a)~(c)に示すように、マグネシウム母相中には、図4で示したCaとAlよりなるG.P.Zone以外の析出物が観察された。この析出物は、元素分析の結果、図5(d)に示すように、AlとMnよりなることが確認できた。図5(d)に示すように、Mg:80~90at%、Al:5~10at%、Mn:5~10at%で、ZnとCaは0.5at%~1.0at%と読める。しかし、これはTEM-EDS元素分析では、試料の膜厚よりも析出物のサイズが小さいため、析出物周辺のマグネシウム母相からでる信号を含む為である。すなわち、析出物単体の元素分析信号に対して、マグネシウム母相がノイズとして影響を与える為である。
以上より明らかなように、常温付近の温度範囲における加工性と強度とを両立できるマグネシウム合金を得ることができた。
【0058】
[実施例2]
工程4において有形固体を溶体化処理することで冷却固体を作製する際、表2に示すように、溶体化処理時間を2時間にした他は、実施例1と同様にして、マグネシウム合金を製造した。
得られた固体の製造条件及び機械的特性と微細組織の特徴を表2及び表3に示す。表2及び表3から明らかなように、実施例1と同様に、常温付近の温度範囲における加工性が確保でき、加工性と強度とを両立できるマグネシウム合金が得られていた。
実施例2の溶体化処理を行った試料について、実施例1で観察したAlとMnよりなる析出物(図5参照)の数密度を測定したところ、数密度は1020~1021mm-3程度であった。AlとMnよりなる析出物の数密度は、G.P.Zoneの数密度である1020~1024/mmよりも10~10mm-3程度低いことが判った。これにより、AlとMnよりなる析出物は、G.P.Zoneと比較すると、マグネシウム合金の強度には大きく影響しないことが判明した。
【0059】
[実施例3]
工程4において有形固体を溶体化処理することで冷却固体を作製する際、表2に示すように、溶体化処理時間を4時間にした他は、実施例1と同様にして、マグネシウム合金を製造した。
得られた固体の製造条件及び機械的特性と微細組織の特徴を表2及び表3に示す。表2及び表3から明らかなように、実施例1と同様に、常温付近の温度範囲における加工性が確保でき、加工性と強度とを両立できるマグネシウム合金が得られていた。
【0060】
[実施例4]
工程1において、表1のA-2に示すように、Mg-1.2Al-0.3Ca-0.4Mn-0.3Znの組成の合金を溶解及び鋳型で鋳造して鋳造固体を作製し、最終圧延工程におけるロール温度を200℃とした。また工程5において、表3に示すように時効温度を450℃とし時効時間を2時間とした。その他は実施例1と同様にして、マグネシウム合金を製造した。
得られた固体の製造条件及び機械的特性と微細組織の特徴を表2及び表3に示す。表2及び表3から明らかなように、圧延処理条件と時効処理条件とを変化させても、加工性と強度とを両立できるマグネシウム合金が得られていた。
【0061】
[実施例5]
工程3において均質化固体を圧延処理することで有形固体を作製する際、表1のA-2に示すように、最終圧延工程における試料温度及びロール温度を200℃とし、表2に示すように、工程4において有形固体を溶体化処理することで冷却固体を作製する際、溶体化処理時間を2時間にした他は、実施例1と同様にして、マグネシウム合金を製造した。
得られた固体の製造条件及び機械的特性と微細組織の特徴を表2及び表3に示す。表2及び表3から明らかなように、圧延処理条件と溶体化処理条件とを変化させても、加工性と強度とを両立できるマグネシウム合金が得られていた。
【0062】
[実施例6]
工程1において、表1のB-1に示すようにMg-1.2Al-0.5Ca-0.4Mn-0.3Znの組成の合金を溶解及び鋳型で鋳造して鋳造固体を作製し、工程2において鋳造固体を300℃で4時間保持後、昇温速度7.5℃/hで450℃まで昇温し、その後6時間保持した後、室温まで水冷することで均質化処理を施し、均質化固体を作製した。
工程3において最終圧延工程の試料再加熱温度を450℃とし、また工程5において、表3に示すように時効温度を350℃とし時効時間を4時間とした。その他は実施例1と同様にしてマグネシウム合金を製造した。
得られた固体の製造条件及び機械的特性と微細組織の特徴を表2及び3に示す。表2及び表3から明らかなように、組成、均質化条件、圧延処理条件、時効処理条件を変化させても、加工性と強度とを両立できるマグネシウム合金が得られていた。
【0063】
[実施例7]
工程1において、表1のB-1に示すようにMg-1.2Al-0.5Ca-0.4Mn-0.3Znの組成の合金を溶解及び鋳型により鋳造して鋳造固体を作製し、工程2において鋳造固体を300℃で4時間保持後、昇温速度7.5℃/hで450℃まで昇温し、その後6時間保持した後、室温まで水冷することで均質化処理を施し、均質化固体を作製した。
工程3において最終圧延工程の試料再加熱温度を450℃とし、また工程5において、表3に示すように時効時間を0.25hにした。その他は実施例1と同様にしてマグネシウム合金を製造した。
【0064】
得られた固体の製造条件及び機械的特性と微細組織の特徴を表2及び表3並びに図6図8に示す。
図6に冷却固体である溶体化処理材の光学顕微鏡像を示す。切片法により算出した結晶粒径は9.7μmであった。また図7に溶体化処理材のX線回折より得た(0002)極点図を示す。(0002)極の集積度は3.7であり、圧延方向に傾斜していた。
図8に工程4の冷却固体である溶体化処理材(T4)と工程5の時効処理材(T6)の引張応力-ひずみ曲線を示す。また応力-ひずみ曲線から得た0.2%耐力、引張強さ及び伸び(E)を表3に示す。
溶体化処理材の降伏強度は142MPaであり、エリクセン値が7.5mmの優れた常温成形性を有していた。その後の時効により、降伏強度は201MPaまで著しく増加していた。
以上より明らかなように、常温付近の温度範囲における加工性と強度とを両立できるマグネシウム合金を得ることができた。
【0065】
[実施例8]
工程1において、表1のB-2に示すように、最終圧延工程における試料温度及びロール温度を200℃とする他は、実施例7と同様にしてマグネシウム合金を製造した。
得られた固体の製造条件及び機械的特性と微細組織の特徴を表2及び表3に示す。表2及び表3から明らかなように、実施例7と同様に、常温付近の温度範囲における加工性が確保でき、加工性と強度とを両立できるマグネシウム合金が得られていた。
【0066】
[実施例9]
工程1において、表1のC-1に示すようにMg-1.2Al-0.5Ca-0.4Mn-0.8Znの組成の合金を溶解及び鋳型で鋳造して鋳造固体を作製し、工程2において鋳造固体を300℃で4時間保持後、昇温速度7.5℃/hで450℃まで昇温し、その後6時間保持した後、室温まで水冷することで均質化処理を施し、均質化固体を作製した。
工程3において試料再加熱温度を450℃とし、表2に示すように、工程4において有形固体を溶体化処理することで冷却固体を作製する際、溶体化処理温度を350℃として溶体化処理時間を4時間にし、また工程5において、表3に示すように時効温度を200℃とし時効時間を2時間とした。
その他は実施例1と同様にしてマグネシウム合金を製造した。
得られた固体の製造条件及び機械的特性と微細組織の特徴を表2及び表3に示す。表2及び表3から明らかなように、組成、均質化条件、圧延処理条件、時効処理条件を変化させても、加工性と強度とを両立できるマグネシウム合金が得られていた。
【0067】
[実施例10]
工程1において、表1のC-1に示すようにMg-1.2Al-0.5Ca-0.4Mn-0.8Znの組成の合金を溶解及び鋳型で鋳造して鋳造固体を作製し、工程2において鋳造固体を300℃で4時間保持後、昇温速度7.5℃/hで450℃まで昇温し、その後6時間保持した後、室温まで水冷することで均質化処理を施し、均質化固体を作製した。また工程3において、最終圧延工程の試料再加熱温度を450℃とし、工程5において、表3に示すように時効時間を1hにした。その他は実施例1と同様にしてマグネシウム合金を製造した。
【0068】
得られた固体の製造条件及び機械的特性と微細組織の特徴を表2及び表3並びに図9図11に示す。
図9に冷却固体である溶体化処理材の光学顕微鏡像を示す。切片法により算出した結晶粒径は10.7μmであった。また図10に溶体化処理材のX線回折より得た(0002)極点図を示す。(0002)極の集積度は3.5であった。
図11に工程4の冷却固体である溶体化処理材(T4)と工程5の時効処理材(T6)の引張応力-ひずみ曲線を示す。また応力-ひずみ曲線から得た0.2%耐力、引張強さ、伸び及びエリクセン値を表3に示す。溶体化処理材の降伏強度は144MPaであり、エリクセン値が7.7mmの優れた常温成形性を有していた。その後の時効処理によって、降伏強度は204MPaまで著しく増加した。
以上より明らかなように、常温付近の温度範囲における加工性と強度とを両立できるマグネシウム合金を得ることができた。
【0069】
[実施例11]
工程1において、表1のC-2に示すように、最終圧延工程における試料温度及びロール温度を200℃とする他は、実施例10と同様にしてマグネシウム合金を製造した。
得られた固体の製造条件及び機械的特性と微細組織の特徴を表2及び表3に示す。表2及び表3から明らかなように、実施例10と同様に、常温付近の温度範囲における加工性が確保でき、加工性と強度とを両立できるマグネシウム合金が得られていた。
【0070】
[実施例12]
工程1において、表1のD-1に示すようにMg-1.2Al-0.5Ca-0.4Mn-1.6Znの組成の合金を溶解及び鋳型で鋳造して鋳造固体を作製し、工程2において鋳造固体を300℃で4時間保持後、昇温速度7.5℃/hで450℃まで昇温し、その後6時間保持した後、室温まで水冷することで均質化処理を施し、均質化固体を作製した。また、第3工程において、最終圧延工程の試料再加熱温度を450℃とし、工程4において有形固体を溶体化処理することで冷却固体を作製する際、表2に示すように、溶体化処理温度を350℃とし、溶体化処理時間を4時間にし、工程5において、表3に示すように時効時間を1hにした。その他は実施例1と同様にしてマグネシウム合金を製造した。
【0071】
得られた固体の物性の製造条件及び機械的特性と微細組織の特徴を表2及び表3並びに図12図14に示す。図12に冷却固体である溶体化処理材の光学顕微鏡像を示す。切片法により算出した結晶粒径は8.5μmであった。また図13に溶体化処理材のX線回折より得た(0002)極点図を示す。(0002)極の集積度は3.7であった。
図14に工程4の冷却固体である溶体化処理材(T4)と工程5の時効処理材(T6)の引張応力-ひずみ曲線を示す。また応力-ひずみ曲線から得た0.2%耐力、引張強さ、伸び及びエリクセン値を表3に示す。
溶体化処理材の降伏強度は160MPaであり、エリクセン値が値8.3mmの優れた常温成形性を有していた。時効処理を行っても降伏強度はあまり増加しなかった。
以上より明らかなように、常温付近の温度範囲における加工性と強度とを両立できるマグネシウム合金を得ることができた。
【0072】
[実施例13]
工程4において有形固体を溶体化処理することで冷却固体を作製する際、表2に示すように、溶体化処理温度を450℃にし、工程5において、表3に示すように時効時間を0.5hにした他は、実施例12と同様にして、マグネシウム合金を製造した。
得られた固体の製造条件及び機械的特性と微細組織の特徴を表2及び表3に示す。表2及び表3から明らかなように、実施例12と同様に、常温付近の温度範囲における加工性が確保でき、加工性と強度とを両立できるマグネシウム合金が得られていた。
【0073】
[実施例14]
工程1において、表1のD-2に示すように、最終圧延工程における試料温度及びロール温度を200℃とし、表2に示すように、溶体化処理時間を1時間にした他は、実施例12と同様にしてマグネシウム合金を製造した。
得られた固体の製造条件及び機械的特性と微細組織の特徴を表2及び表3に示す。表2及び表3から明らかなように、実施例12と同様に、常温付近の温度範囲における加工性が確保でき、加工性と強度とを両立できるマグネシウム合金が得られていた。
【0074】
[実施例15]
工程4において有形固体を溶体化処理することで冷却固体を作製する際、表2に示すように、溶体化処理温度を450℃にし、工程5において、表3に示すように時効時間を0.25hにした他は、実施例12と同様にして、マグネシウム合金を製造した。
得られた固体の製造条件及び機械的特性と微細組織の特徴を表2及び表3に示す。表2及び表3から明らかなように、実施例12と同様に、常温付近の温度範囲における加工性が確保でき、加工性と強度とを両立できるマグネシウム合金が得られていた。
【0075】
[比較例1]
工程4において有形固体を溶体化処理することで冷却固体を作製する際、表2に示すように、溶体化処理温度を350℃にして溶体化処理時間を4hにし、工程5において時効処理を行わない他は、実施例1と同様にしてマグネシウム合金を製造した。
【0076】
得られた固体の製造条件及び機械的特性と微細組織の特徴を表1乃至表3並びに図15図17に示す。図15に冷却固体である溶体化処理材の光学顕微鏡像を示す。切片法により算出した結晶粒径は9.9μmであった。また図16に溶体化処理材のX線回折より得た(0002)極点図を示す。(0002)極の集積度は4.0であった。
図17に工程4の冷却固体である溶体化処理材(T4)と工程5の時効処理材(T6)の引張応力-ひずみ曲線を示す。また応力-ひずみ曲線から得た0.2%耐力、引張強さ、伸び及びエリクセン値を表3に示す。溶体化処理材の降伏強度は149MPaであり、エリクセン値が6.4mmであった。そのため表2から明らかなように加工性が不足していた。
【0077】
[比較例2]
工程4において有形固体を溶体化処理することで冷却固体を作製する際、表2に示すように、溶体化処理温度を450℃にして溶体化処理時間を0.17hとする他は、比較例1と同様にしてマグネシウム合金を製造した。
得られた固体の製造条件及び機械的特性と微細組織の特徴を表2に示す。表2に示すように、比較例2の溶体化処理材のエリクセン値は6.2mmであり、明らかに加工性が不足していた。
【0078】
[比較例3]
工程4において有形固体を溶体化処理することで冷却固体を作製する際、表2に示すように、溶体化処理温度を500℃にして溶体化処理時間を1hとする他は、比較例1と同様にしてマグネシウム合金を製造した。
得られた固体の製造条件及び機械的特性と微細組織の特徴を表2に示す。表2に示すように、比較例3の溶体化処理材のエリクセン値は5.6mmであり、明らかに加工性が不足していた。
【0079】
[比較例4]
工程4において有形固体を溶体化処理することで冷却固体を作製する際、表2に示すように、溶体化処理温度を500℃にして溶体化処理時間を24hとする他は、比較例1と同様にしてマグネシウム合金を製造した。
得られた固体の製造条件及び機械的特性と微細組織の特徴を表2に示す。表2から明らかなように結晶粒径が過剰に大きく、0.2%耐力が不足していた。
【0080】
[比較例5]
工程3において均質化固体を圧延処理することで有形固体を作製する際、表1のA-2に示すように、最終圧延工程における試料温度及びロール温度を200℃とし、表2に示すように、工程4において溶体化処理温度を450℃にして溶体化処理時間を4hにする他は、比較例1と同様にして、マグネシウム合金を製造した。
得られた固体の製造条件及び機械的特性と微細組織の特徴を表2に示す。表2に示すように、比較例4の溶体化処理材のエリクセン値は4mmであり、明らかに加工性が不足していた。
【0081】
[比較例6、比較例7、比較例8]
工程3において均質化固体を圧延処理することで有形固体を作製する際、表1のA-3に示すように、最終圧延工程における試料温度及びロール温度を300℃とし、表2に示すように、工程4において溶体化処理温度を450℃にし、溶体化処理時間を1h(比較例6)、2h(比較例7)、4h(比較例8)にする他は、比較例1と同様にして、マグネシウム合金を製造した。
得られた固体の製造条件及び機械的特性と微細組織の特徴を表2に示す。表2から明らかなように、比較例6、比較例7、比較例8において、エリクセン値はそれぞれ、6.3mm、5.4mm、5.3mmと何れも小さく、結晶粒径が大きいため、加工性が不足していた。
【0082】
[比較例9、比較例10、比較例11]
工程3において均質化固体を圧延処理することで有形固体を作製する際、表1のA-4に示すように、最終圧延工程における試料温度及びロール温度を300℃とし、試料の再加熱を行わないで熱間または温間加工を行い、表2に示すように、工程4において溶体化処理温度を450℃にし、溶体化処理時間を1h(比較例9)、2h(比較例10)、4h(比較例11)にする他は、比較例1と同様にして、マグネシウム合金を製造した。
得られた固体の製造条件及び機械的特性と微細組織の特徴を表2に示す。表2から明らかなように、比較例9、比較例10、比較例11において、エリクセン値はそれぞれ、5.3mm、6.2mm、5.9mmと何れも小さく、結晶粒径が大きいため、加工性が不足していた。
【0083】
[比較例12]
工程1において、表1のB-2に示すようにMg-1.2Al-0.5Ca-0.4Mn-0.3Znの組成の合金を溶解及び鋳型で鋳造して鋳造固体を作製し、工程2において鋳造固体を300℃で4時間保持後、昇温速度7.5℃/hで450℃まで昇温し、その後6時間保持した後、室温まで水冷することで均質化処理を施し、均質化固体を作製した。工程3において、最終圧延工程の試料温度及びロール温度を200℃とし、表2に示すように、工程4において有形固体を溶体化処理することで冷却固体を作製する際、溶体化処理温度を350℃として溶体化処理時間を1時間にした他は、比較例1と同様にして、マグネシウム合金を製造した。
得られた固体の製造条件及び機械的特性と微細組織の特徴を表2に示す。表2に示すように、比較例12の溶体化処理材のエリクセン値は5.8mmであり、明らかに加工性が不足していた。
【0084】
上記実施例1~15と比較例1~12から、実施例1~15は、優れた常温加工性、つまり大きなエリクセン値と共に、強度が高いことが判明した。
【0085】
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれることはいうまでもない。
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