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  • 特許-トンネル切羽監視方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】トンネル切羽監視方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/00 20060101AFI20220803BHJP
【FI】
E21D9/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018093509
(22)【出願日】2018-05-15
(65)【公開番号】P2019199708
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-11-02
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-26
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000150110
【氏名又は名称】株式会社竹中土木
(73)【特許権者】
【識別番号】591284601
【氏名又は名称】株式会社演算工房
(73)【特許権者】
【識別番号】595160927
【氏名又は名称】計測技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090114
【弁理士】
【氏名又は名称】山名 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100174207
【弁理士】
【氏名又は名称】筬島 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】市川 晃央
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕考
(72)【発明者】
【氏名】芥川 真一
(72)【発明者】
【氏名】林 稔
(72)【発明者】
【氏名】橋村 義人
(72)【発明者】
【氏名】鍛冶 充
(72)【発明者】
【氏名】藤原 伸輝
【合議体】
【審判長】住田 秀弘
【審判官】森次 顕
【審判官】土屋 真理子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-194112(JP,A)
【文献】特開2018-17640(JP,A)
【文献】特開2005-344418(JP,A)
【文献】特開2000-110488(JP,A)
【文献】特開2015-207149(JP,A)
【文献】特開平9-287948(JP,A)
【文献】国際公開第2018/020691(WO,A1)
【文献】特開2013-117812(JP,A)
【文献】赤木渉,佐野理,進士正人,西琢郎,中川浩二,山岳トンネル施工支援のための切羽評価法の適用に関する研究,土木学会論文集,土木学会,2001年9月,No.686/VI-52,pp.121-134
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00 - 9/14
G01C15/00
H04N 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切羽監視用カメラでトンネル工事におけるトンネル切羽常時撮影され、その撮影データがディスプレイに表示されることで、トンネル切羽の状況をコンピュータによりリアルタイムに管理可能なトンネル切羽管理方法であって、
1台の水平監視用計測装置に水平方向に旋回可能な構成で搭載されたレーザー距離計を水平方向に旋回させて、トンネルのスプリングラインと天端部との間の1/2以上、3/4以下の範囲内の任意の高さにレーザー光を照射することにより、リアルタイムな計測データの変化に基づくトンネル切羽の押し出し量が計測されその計測されたデータが予め設定した前記計測データの変化に基づく管理基準値を超えたとき、コンピュータにより、グリーンレーザ等の高速レーザー照射ユニットを作動させて、前記トンネル切羽における前記管理基準値を超えた計測点周辺にマーキングを行うと同時に、スカウター型又は透過式メガネ型の頭部に装着するタイプのウェアラブル端末に、前記レーザー距離計によるトンネル切羽のリアルタイムなトンネル切羽の押し出し量の変位データや、前記管理基準値を超えた危険箇所が可視化さて、常にトンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊予見できる構成であることを特徴とする、トンネル切羽管理方法。
【請求項2】
前記管理基準値は、少なくとも変位速度および絶対変位量に基づいて設定されることを特徴とする、請求項1に記載したトンネル切羽管理方法。
【請求項3】
前記管理基準値を超えたとき、前記コンピュータにより、インターネットを介して、スマートフォンやタブレット、PC等の端末機器にてメール発信され、前記リアルタイムなトンネル切羽の押し出し量を含むトンネル切羽状況が、映像データ及び/又は画像データで工事関係者に通知されることを特徴とする、請求項1又は2に記載したトンネル切羽管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル切羽管理方法に関し、さらに言えば、山岳トンネル工事におけるトンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊を予見するために常時監視して、責任者や作業員、事務職員などトンネル工事関係者全員がトンネル切羽の状況をリアルタイムに(特には映像データ及び/又は画像データで)把握可能なトンネル切羽管理方法の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
平成28年12月26日付で「山岳トンネル工事のトンネル切羽における肌落ち災害防止対策に係るガイドライン」が厚生労働省から策定され、その後の肌落ち災害の発生状況を踏まえ、平成30年1月18日にガイドラインが改正された。この改正の中に、断面の制限はあるものの、「トンネル切羽監視責任者」の選任が義務付けられている。このような背景の中、山岳トンネル工事におけるトンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊の監視システムの要素技術として、作業員や事務職員などトンネル工事関係者全員がトンネル切羽の状況をリアルタイムに把握可能な技術を開発することが急務とされている。
【0003】
この点、従来は、トンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊の監視事例から、警告音や警告灯によりトンネル切羽作業員に対して即座に注意喚起する技術は存在している。
また、例えば下記特許文献1には、トンネルの坑内に設置されたレーザ距離計によってトンネル切羽面の押し出し量を監視するトンネル切羽面監視方法であって、レーザ距離計によって、トンネル切羽面までの距離を計測するトンネル切羽面測定工程と、繰り返し実行されるトンネル切羽面進行工程によるトンネル切羽面の進行によってレーザ距離計からトンネル切羽面までの距離が離れ、レーザ距離計での計測距離の精度が不十分である場合に、レーザ距離計を取り外して、トンネル切羽面に近い位置に再設置する盛替え工程と、を備え、盛替え工程にてレーザ距離計を再設置した際にはレーザ距離計にNDフィルターを装着してレーザ光または反射光を減光し、トンネル切羽面の進行の結果、距離の計測に減光不要と判断される場合には、NDフィルターを計測器から取り外す技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-8399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のトンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊の監視事例にあるような、警告音や警告灯でトンネル切羽作業員に対して即座に注意喚起する方法は、トンネル切羽で起きている地山の押し出し挙動を、リアルタイムでトンネル工事関係者全員に知らせるものではない。そのため、トンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊による甚大な労働災害がたびたび発生している。
また、上述した特許文献1のトンネル切羽面監視方法は、計測器によってトンネル切羽面までの距離を計測できる範囲を広げ、盛替えの頻度を軽減するのには役立つが、やはり、トンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊を予見するために常時監視し、作業員や事務職員などトンネル工事関係者全員がトンネル切羽の状況をリアルタイムに把握可能な技術ではない。
【0006】
本発明は、上述した背景技術の課題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、トンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊を予見するための監視を常時行い、トンネル切羽で起きている地山の押し出し挙動を即座にトンネル工事関係者に(特には映像データ及び/又は画像データで)知らせ、リアルタイムでトンネル切羽の状況を把握でき、重篤度の高いトンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊による労働災害の発生を抑制するトンネル切羽管理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係るトンネル切羽管理方法は、切羽監視用カメラでトンネル工事におけるトンネル切羽常時撮影され、その撮影データがディスプレイに表示されることで、トンネル切羽の状況をコンピュータによりリアルタイムに管理可能なトンネル切羽管理方法であって、
1台の水平監視用計測装置に水平方向に旋回可能な構成で搭載されたレーザー距離計を水平方向に旋回させて、トンネルのスプリングラインと天端部との間の1/2以上、3/4以下の範囲内の任意の高さにレーザー光を照射することにより、リアルタイムな計測データの変化に基づくトンネル切羽の押し出し量が計測されその計測されたデータが予め設定した前記計測データの変化に基づく管理基準値を超えたとき、コンピュータにより、グリーンレーザ等の高速レーザー照射ユニットを作動させて、前記トンネル切羽における前記管理基準値を超えた計測点周辺にマーキングを行うと同時に、スカウター型又は透過式メガネ型の頭部に装着するタイプのウェアラブル端末に、前記レーザー距離計によるトンネル切羽のリアルタイムなトンネル切羽の押し出し量の変位データや、前記管理基準値を超えた危険箇所が可視化さて、常にトンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊予見できる構成であることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載したトンネル切羽管理方法において、前記管理基準値は、少なくとも変位速度および絶対変位量に基づいて設定されることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載したトンネル切羽管理方法において、前記管理基準値を超えたとき、前記コンピュータにより、インターネットを介して、スマートフォンやタブレット、PC等の端末機器にてメール発信され、前記リアルタイムなトンネル切羽の押し出し量を含むトンネル切羽状況が、映像データ及び/又は画像データで工事関係者に通知されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るトンネル切羽管理方法によれば、レーザー距離計を用いた切羽挙動把握手段により、リアルタイムな計測データの変化に基づくトンネル切羽の押し出し量を監視しつつ、予め設定した前記計測データの変化にかかる管理基準値(閾値)を超えたとき、グリーンレーザー等の高速レーザー照射ユニットにより前記トンネル切羽における前記管理基準値(閾値)を超えた計測点周辺のマーキングを行うと同時に、ウェアラブル端末にトンネル切羽のリアルタイムな変化状況を可視化させるので、常にトンネル工事関係者(全員)がリアルタイムでトンネル切羽の状況を(特には映像データ及び/又は画像データで)把握することができる。さらにいえば、トンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊を予見(予測)でき、安全性が向上する。そのため、トンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊による労働災害の減少に大きく寄与する。
【0011】
また、前記管理基準値(閾値)を超えるような場合、インターネットを介して、スマートフォンやタブレット、PC等の端末機器にてメールを発信して、トンネル切羽状況を画像データで工事関係者(全員)に通知できるので、トンネル坑内にいない関係者でもトンネル切羽のリアルタイムな変化状況を映像データ及び/又は画像データで把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のトンネル切羽管理方法の枢要な工程を示した説明図である。
図2】Aは、水平監視用計測装置によるレーザー光照射でトンネル切羽の押し出し量を監視している状況を示した平面図であり、Bは、同正面図である。なお、B図では図示の便宜上、水平監視用計測装置、レーザー光は省略した。
図3】高速レーザー照射ユニットでトンネル切羽にマーキングによる描画を行っている状況を例示した説明図である。
図4】Aは、ウェアラブル端末の一例であるスカウター型のウェアラブル端末と、その着用者のスカウター型のウェアラブル端末にリアルタイムに映し出されるトンネル切羽の変化状況を可視化(映像化)させた状態を例示した説明図であり、Bは、ウェアラブル端末の一例である透過式メガネ型のウェアラブル端末の着用者の当該ウェアラブル端末にリアルタイムに映し出されるトンネル切羽の変化状況を可視化させた状態を例示した説明図である。
図5】インターネット経由でPCやタブレット等の端末機器にメールを発信してトンネル切羽状況が通知される工程を示した説明図である。
図6】本発明のトンネル切羽管理方法によるトンネル切羽の肌落ち監視事例を示したグラフである。
図7図6に係るトンネル切羽の肌落ち監視時のトンネル切羽を撮影した写真である。
図8】A、Bは、3Dレーザースキャナを用いて切羽挙動把握手段を実施した場合の前記図4の可視化に対応する説明図である。具体的には、前記ウェアラブル端末にリアルタイムに映し出されるトンネル切羽の変化状況を、当該切羽に対する各計測ポイントの設定を任意にメッシュ状に分割表示して可視化させた状態を例示した説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明に係るトンネル切羽管理方法の好適な実施形態を、図面にしたがって説明する。
本発明に係るトンネル切羽管理方法は、図1等に示したように、切羽監視用カメラでトンネル工事におけるトンネル切羽常時撮影され、その撮影データがディスプレイに表示されることで、トンネル切羽の状況をコンピュータによりリアルタイムに管理可能なトンネル切羽管理方法であって、
1台の水平監視用計測装置に水平方向に旋回可能な構成で搭載されたレーザー距離計を水平方向に旋回させて、トンネルのスプリングラインと天端部との間の1/2以上、3/4以下の範囲内の任意の高さにレーザー光を照射することにより、リアルタイムな計測データの変化に基づくトンネル切羽の押し出し量が計測され、予め設定した前記計測データの変化にかかる管理基準値を超えたとき、コンピュータにより、グリーンレーザ等の高速レーザー照射ユニットを作動させて、前記トンネル切羽における前記管理基準値を超えた計測点周辺にマーキングを行うと同時に、スカウター型又は透過式メガネ型の頭部に装着するタイプのウェアラブル端末に、前記レーザー距離計によるトンネル切羽のリアルタイムなトンネル切羽の押し出し量の変位データや、前記管理基準値を超えた危険箇所が可視化さて、常にトンネル切羽の肌落ちや崩落・崩壊予見できる構成であることを特徴とする。
ちなみに図中の符号Jは、削孔マシーンを示している。符号Bは、トンネルTの天端部に吊り支持させた切羽監視用カメラを示している。そして、前記切羽監視用カメラBでトンネル切羽1を常時撮影し、その撮像データをディスプレイ(図示省略)で表示しながら、上述したトンネル切羽管理方法に基づく崩落・崩壊を予見するための監視が常時行われる。なお、前記切羽監視用カメラBの設置部位は、視界が良好であればトンネルTの天端部に限らない。
【0014】
要するに、図1に枢要な工程を示したトンネル切羽管理方法は、トンネル工事におけるトンネル切羽1の肌落ちや崩落・崩壊を常時監視して、トンネル切羽監視責任者S(図4参照)をはじめトンネル工事関係者(全員)がトンネル切羽1の状況をリアルタイムに(特には映像データ及び/又は画像データで)把握し、常にトンネル切羽1の肌落ちや崩落・崩壊の監視(より正確には予見するため監視)を行うものである。
【0015】
なお、本実施形態では、前記切羽挙動把握手段について、水平方向にレーザー光3を照射し、照射点までの距離を計測するレーザー距離計を搭載した水平監視用計測装置2を採用して実施している。
【0016】
以上を踏まえ、本発明に係るトンネル切羽管理方法は、まず、図2A、Bに示したように、切羽挙動把握手段である、照射点までの距離を計測するレーザー距離計を搭載した1台の水平監視用計測装置2によって、トンネルTのトンネル切羽1に対し、水平方向にレーザー光3を常時照射する。
この水平監視用計測装置2は、トンネル切羽1にレーザー光3を照射して照射点で反射されたレーザー光3を検知することで前記照射点までの距離を計測するレーザー距離計と、前記レーザー距離計の水平方向の旋回と停止を可能にする水平方向旋回装置と、前記水
平方向旋回装置の任意の角度での旋回と停止を制御する制御装置とを備えている。要するに、前記水平監視用計測装置2は、レーザー距離計が水平方向に自在に旋回可能な構成とされ、トンネル切羽1に対して順次レーザー光3を設定したピッチ(本実施例では約1.0m間隔で計測点Pを10個(No.1~No.10)設定)で照射し、照射点までの距離を順次、自動的に計測することが可能な装置である。
前記水平監視用計測装置2が、計測制御用のコンピュータ(通常はPC、以下同じ。)10Aと有線で接続されて連動している。前記コンピュータ10Aは、前記水平監視用計測装置2の遠隔操作や、データを演算処理等する。
【0017】
また、マーキング(による描画)5を行う高速レーザー照射ユニット4と前記切羽監視用カメラBがそれぞれ、図1に示したコンピュータ10Bと無線で作動自在に接続されている。但し、有線で接続してもよい。そして、前記水平監視用計測装置2と接続されたコンピュータ10Aは、前記コンピュータ10Bに対し、データ転送自在に接続されている。その接続方法は、無線のほか有線であってもよい。
【0018】
よって、上記の水平監視用計測装置2によるトンネル切羽1へのレーザー光3の照射の間、図1に例示した前記コンピュータ10Aで、リアルタイムな計測データDの変化に基づくトンネル切羽1の押し出し量を常時監視する。そのとき、予め設定しておいた前記計測データDの変化(変位速度、絶対変位量等)に基づく管理基準値(閾値)Kを超えるような場合、コンピュータ10Bが高速レーザー照射ユニット4を作動させ、図3に示したように、同ユニット4によって前記トンネル切羽1にマーキング5を行う。前記マーキング5は、トンネル切羽1に対し、図示例のような略枠体で、例えば緑色に表示される。
【0019】
一方、本実施例では、図4に例示したように、トンネル切羽監視責任者Sと作業員、削孔マシーンオペレーター、事務職員等の工事関係者全員に、予めウェアラブル端末としてスカウター型(図4A参照)や透過式メガネ型(図4B参照)の頭部に装着するタイプのウェアラブル端末6が着用される。
そして、前記トンネル切羽1へのマーキング5と同時に、前記トンネル切羽1の変化状況を前記ウェアラブル端末6にてリアルタイムに可視化(映像化)7させる。その可視化7は、前記コンピュータ10Bが無線で制御・指示して行う。図4A、Bの右方に拡大して示したリアルタイムな可視化(された描画)7は、例えば危険度に応じて、危険な順から赤色、黄色、緑色等の色分けと、表示範囲(例えば、円や矩形、或いは斜線)の大きさを区別する等して表示される(3Dレーザースキャナによる面的な切羽挙動把握手段で実施した場合は一例として図8A、B参照)。ちなみに本実施例では、トンネル切羽監視責任者Sに前記した頭部に装着するタイプのウェアラブル端末6の着用を義務づけ、片方の眼で前記ウェアラブル端末6によって可視化7されたトンネル切羽1の変化状況を見ると共に、他方の眼で、トンネル切羽1の直接的な目視を行って監視に万全が期されている。
【0020】
前記可視化7とは、具体的に、現状のトンネル切羽1の映像撮影用のカメラで実際にトンネル切羽1の映像を撮影し、前記レーザー距離計で監視している変位データと結合することで、ウェアラブル端末6にトンネル切羽1の変化状況を現実的に補完し可視化させることを意味する。このウェアラブル端末は、トンネル坑内が狭所で暗い場所が多いため、前記スカウター型や透過式メガネ型を標準タイプとして、できるだけ視界の妨げにならないものを選定する。
なお、前記可視化7(図4図8参照)には、前記変位データ(数値)等を含む。すなわち、前記ウェアラブル端末6には映像データや画像データの他に、必要に応じ、変位データ(数値、文字)そのもの、或いは当該変位データ(例えば、前記押し出し量)の遷移状況を心電図のような折れ線グラフ(例えば、押し出し量変位を縦軸、時間を横軸)でリアルタイムに表示することもできる。
また、トンネル坑内に立ち入る工事関係者全員にバイブレーション機能を装着させたり、警告音(サイレン)等の警報手段を作動させたりすることにより当該工事関係者全員に即座に注意を喚起する等の工夫は適宜行われるところである。
【0021】
さらに、上述した管理基準値Kを超えるような場合、前記コンピュータ10Bは、図5に示したように、インターネットを介して、スマートフォンやタブレット、PC等の端末機器8に、リアルタイムなトンネル切羽1の押し出し量を含む映像データや画像データ等を添付したメール9を発信して、前記工事関係者全員にトンネル切羽状況が通知される方法が併用される。これにより、前記ウェアラブル端末6を着用しない工事関係者にもトンネル切羽1の危険状況を即座に知らせることができる。なお、図5の下図のように、トンネルTにおけるトンネル切羽1の周辺を、ネットワークカメラCで常に監視する。
上述の工程は、管理基準値Kの許容範囲内である場合は、警告灯を緑色で点灯させる等して、工事関係者に安全であることが知らされる。管理基準値Kを超える異常時には、トンネル切羽監視責任者S等の工事関係者に異常が知らされる。
【0022】
したがって、上述したトンネル切羽管理方法により、トンネル切羽1で刻一刻と起きている地山の押し出し挙動を、トンネル工事関係者全員が絶えず知らされ、リアルタイムでトンネル切羽1の状況を把握でき、同トンネル切羽1の肌落ちや崩落・崩壊による労働災害を防止することができる。
ちなみに、本発明に係るトンネル切羽管理方法の実証実験で得られたトンネル切羽1の肌落ち監視挙動の経時変化の一例を図6に、その時の切羽写真を図7に示す。図6より、計測点PのNo.3の変位速度が24.1mm/h程度と急激に増加した後、また、絶対変位量は、45.5mmを最大とし、肌落ちを確認した。これらの計測実績より、脆弱地山でのトンネル切羽1の押出しの挙動を十分に捉えられることが確認され、変位速度や絶対変位量等に対する管理基準値Kを設定することにより、トンネル切羽1の肌落ちや崩落・崩壊を予見(予測)できる可能性が非常に高いことが実証された。よって、この予見を利用すれば、トンネル工事関係者(全員)にトンネル切羽1の状況をリアルタイムに発信することで、十分に切羽作業の安全性を向上させることができる。
【0023】
ここで、前記水平監視用計測装置2について補足すると、本実施例に係る水平監視用計測装置2は、施工機械の移動等の邪魔にならないスペースを考慮し、例えばアーチ状に形成されたトンネル支保工(のH形鋼のフランジ部等)を利用して設置される。具体的には、トンネル切羽1から所定の距離(トンネル切羽1までの距離を十分に計測できる距離)後方に離れたトンネル支保工にブラケット等の取付部材11を介して設置される。また、前記トンネル支保工に取り付ける適正な高さレベル(計測点Pの高さHに略相当する。)は、トンネルのスプリングラインと天端部との間の1/2以上、3/4以下の範囲内の任意の高さで、トンネル支保工の一側部(図2Aでは右側部)に設置される。前記範囲内でトンネル切羽1を計測する意義は、この範囲内の押し出し量の変化がトンネル切羽1の崩落を把握(予見)するのにもっとも影響を与える部位だからである。
【0024】
以上に本発明の実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
例えば、本実施例では、前記管理基準値Kを、変位速度(変化率)と絶対変位量に基づいて設定しているがこれに限定されない。前記トンネル切羽1の近傍位置に音感知センサーを設置し、トンネル切羽1(岩盤)にクラックが入った場合の音の有無、更には音の周波数等を管理基準値Kの設定要素に採用することもできる。要するに、本発明に係る前記「リアルタイムな計測データDの変化」には音の要素も含む。
また、本実施例では、前記管理基準値Kを超えたときに、トンネル切羽1へのマーキング5とウェアラブル端末6への可視化7を実行して監視しているが、前記管理基準値Kを
超えなくてもトンネル切羽1へのマーキング5とウェアラブル端末6への可視化7を実行する機能は当然に備えている。よって、前記管理基準値Kへあと少しで到達する(例えば、変位データが管理基準値Kの80%の)時点等でトンネル切羽1へのマーキング5及び/又はウェアラブル端末6への可視化7を実行することは適宜行われるところである。
また、トンネル切羽1に対するグリーンレーザー等の高速レーザー照射ユニット4によるマーキング5には、前記段落[0023]で説明した、ウェアラブル端末6への可視化7のバリエーションのうち、前記変位データ(例えば、前記押し出し量)の遷移状況を心電図のような折れ線グラフでリアルタイムに表示する手法を含む。
【符号の説明】
【0025】
1 トンネル切羽
2 水平監視用計測装置
3 レーザー光
4 高速レーザー照射ユニット(グリーンレーザー)
5 マーキング
6 ウェアラブル端末
7 可視化
8 端末機器
9 メール
10A コンピュータ
10B コンピュータ
11 取付部材(ブラケット)
A 警告灯
B 切羽監視用カメラ
C ネットワークカメラ
D 計測データ
H 計測点の高さレベル
J 削孔マシーン
K 管理基準値(閾値)
P 計測点
S トンネル切羽監視責任者
T トンネル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8