(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/06 20060101AFI20220803BHJP
C07K 16/42 20060101ALI20220803BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220803BHJP
C12N 5/16 20060101ALI20220803BHJP
C07K 17/00 20060101ALI20220803BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220803BHJP
C07K 16/08 20060101ALI20220803BHJP
C07K 16/12 20060101ALI20220803BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20220803BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20220803BHJP
C07K 1/22 20060101ALI20220803BHJP
A01K 67/027 20060101ALN20220803BHJP
C12N 15/01 20060101ALN20220803BHJP
【FI】
C12N15/06 100
C07K16/42 ZNA
C12P21/08
C12N5/16
C07K17/00
G01N33/53 N
C07K16/08
C07K16/12
C07K16/18
C12N15/54
C07K1/22
A01K67/027
C12N15/01 Z
(21)【出願番号】P 2018539760
(86)(22)【出願日】2017-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2017033126
(87)【国際公開番号】W WO2018052041
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2016179944
(32)【優先日】2016-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-02342
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000162478
【氏名又は名称】ミナリスメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(74)【代理人】
【識別番号】100106574
【氏名又は名称】岩橋 和幸
(72)【発明者】
【氏名】谷口 直之
(72)【発明者】
【氏名】顧 建国
(72)【発明者】
【氏名】小野 達也
(72)【発明者】
【氏名】椎田 真史
(72)【発明者】
【氏名】真木 賢太郎
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-534318(JP,A)
【文献】特開2008-209261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/42
C07K 1/22
C07K 17/00
C12N 5/12
C12N 15/02
C12N 15/09
C12P 21/08
G01N 33/53
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒト免疫グロブリンGに結合し、コアフコースが結合していないN結合型糖鎖をFc領域に含むヒト免疫グロブリンGには結合しないことを特徴とする、抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片。
【請求項2】
コアフコースが結合しているN結合型糖鎖が、フコースが還元末端GlcNAcとα1-6結合しているN結合型糖鎖である、請求項1に記載の抗体又は該抗体断片。
【請求項3】
コアフコースが結合しているN結合型糖鎖が、下記一般式(I)で表される糖鎖を含むN結合型糖鎖である、請求項1又は2に記載の抗体又は該抗体断片。
【化1】
【請求項4】
コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒト免疫グロブリンGが、自己抗原、同種抗原、ウイルス由来抗原、及び、細菌由来抗原からなる群より選ばれる少なくとも一種の抗原と結合するヒト免疫グロブリンGである、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体又は該抗体断片。
【請求項5】
抗体が、モノクローナル抗体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体又は該抗体断片。
【請求項6】
受託番号NITE BP-02342として寄託されているハイブリドーマにより産生される、請求項5に記載の抗体又は該抗体断片。
【請求項7】
請求項5に記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項8】
受託番号NITE BP-02342として寄託されているハイブリドーマ。
【請求項9】
以下の工程を含有することを特徴とする、抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体の製造方法。
(1)コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒト免疫グロブリンG又はそのFc領域断片を免疫原として用いて、
α1-6フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子が欠損した非ヒト動物に免疫する工程;
(2)工程(1)で免疫した非ヒト動物より得られる抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合し、ハイブリドーマを得る工程;
(3)工程(2)で得られるハイブリドーマを培養する工程;
(4)工程(3)で得られた培養物から、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒト免疫グロブリンGに結合し、コアフコースが結合していないN結合型糖鎖をFc領域に含むヒト免疫グロブリンGには結合しない、抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体を産生するハイブリドーマを選択する工程;
(5)工程(4)で選択されたハイブリドーマを培養し、当該培養物から、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒト免疫グロブリンGに結合し、コアフコースが結合していないN結合型糖鎖をFc領域に含むヒト免疫グロブリンGには結合しない、抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体を採取する工程。
【請求項10】
コアフコースが結合しているN結合型糖鎖が、フコースが還元末端GlcNAcとα1-6結合しているN結合型糖鎖である、請求項
9に記載の製造方法。
【請求項11】
コアフコースが結合しているN結合型糖鎖が、下記一般式(I)で表される糖鎖を含むN結合型糖鎖である、請求項
9又は10に記載の製造方法。
【化2】
【請求項12】
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片を用いることを特徴とする、試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの測定方法。
【請求項13】
以下の工程を含有する、請求項
12に記載の測定方法。
(1)試料と、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片とを反応させて、抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片とコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの免疫複合体を生成させる工程;
(2)工程(1)で生成した免疫複合体と、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒト免疫グロブリンGに結合する抗体とを反応させて、抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG、及び、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒト免疫グロブリンGに結合する抗体の免疫複合体を生成させる工程;
(3)工程(2)で生成した免疫複合体を測定する工程。
【請求項14】
以下の工程を含有する、請求項
12に記載の測定方法。
(1)試料と、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒト免疫グロブリンGに結合する抗体とを反応させて、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒト免疫グロブリンGに結合する抗体とコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの免疫複合体を生成させる工程;
(2)工程(1)で生成した免疫複合体と、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片とを反応させて、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒト免疫グロブリンGに結合する抗体、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG、及び、抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片の免疫複合体を生成させる工程;
(3)工程(2)で生成した免疫複合体を測定する工程。
【請求項15】
以下の工程を含有する、請求項
12に記載の測定方法。
(1)試料を、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの競合物質に標識が結合した標識化競合物質、及び、不溶性担体上に固定化された請求項1~6のいずれか一項に記載の抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片と反応させ、該不溶性担体上に、抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片と標識化競合物質との免疫複合体、及び、抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片とコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGとの免疫複合体を生成させる工程;
(2)工程(1)で該不溶性担体上に生成した、抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片と標識化競合物質の免疫複合体における標識化競合物質を測定する工程。
【請求項16】
以下の工程を含有する、請求項
12に記載の測定方法。
(1)試料を、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体、又は該抗体断片及び、不溶性担体上に固定化された、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの競合物質と反応させ、該不溶性担体上に、競合物質と抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片との免疫複合体を生成させる工程;
(2)工程(1)で該不溶性担体上に生成した免疫複合体を測定する工程。
【請求項17】
以下の工程を含有する、請求項
12に記載の測定方法。
(1)試料と、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGが反応する抗原とを反応させて、抗原とコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの免疫複合体を生成させる工程;
(2)工程(1)で生成した免疫複合体と、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片とを反応させて、抗原、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG、及び、抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片の免疫複合体を生成させる工程;
(3)工程(2)で生成した免疫複合体を測定する工程。
【請求項18】
以下の工程を含有する、請求項
12に記載の測定方法。
(1)試料と、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片とを反応させて、抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片とコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGとの免疫複合体を生成させる工程;
(2)工程(1)で生成した免疫複合体と、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGが反応する抗原とを反応させて、抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG、及び、抗原の免疫複合体を生成させる工程;
(3)工程(2)で生成した免疫複合体を測定する工程。
【請求項19】
コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGが反応する抗原が、自己抗原、同種抗原、ウイルス由来抗原、及び、細菌由来抗原からなる群より選ばれる少なくとも一種の抗原である、請求項
17又は
18に記載の測定方法。
【請求項20】
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体または該抗体断片を含むことを特徴とする、試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG測定試薬。
【請求項21】
さらに、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒト免疫グロブリンGに結合する抗体を含む、請求項
20に記載の測定試薬。
【請求項22】
不溶性担体上に固定化された請求項1~6のいずれか一項に記載の抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片、及び、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの競合物質に標識が結合した標識化競合物質を含むことを特徴とする、試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG測定試薬。
【請求項23】
不溶性担体上に固定化されたコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの競合物質、及び、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片を含むことを特徴とする、試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG測定試薬。
【請求項24】
さらに、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGが反応する抗原を含む、請求項
20に記載の測定試薬。
【請求項25】
コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGが反応する抗原が、自己抗原、同種抗原、ウイルス由来抗原、及び、細菌由来抗原からなる群より選ばれる少なくとも一種の抗原である、請求項
24に記載の測定試薬。
【請求項26】
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片を用いることを特徴とする、試料中のコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの精製方法。
【請求項27】
以下の工程を含む、請求項
26に記載の精製方法。
(1)試料と、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片とを反応させて、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGと抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片との免疫複合体を生成させる工程;
(2)工程(1)で生成した免疫複合体から、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを遊離させる工程;
(3)工程(2)で遊離したコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGを回収する工程。
【請求項28】
抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片が不溶性担体上に固定化されている、請求項
26又は
27に記載の精製方法。
【請求項29】
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片が固定化された不溶性担体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片、抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体の製造方法、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの測定方法、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG測定試薬、コアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの精製方法、及び、抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体又は該抗体断片が固定化された不溶性担体に関する。
本願は、2016年9月14日に、日本に出願された特願2016-179944号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの免疫グロブリンG(以下、IgGと記載する)は、獲得免疫機構において成熟したB細胞が血液中に分泌する糖蛋白質である。ヒトIgGは2本の軽鎖(L鎖)と2本の重鎖(H鎖)からなる4量体で、4種類のサブクラス(IgG1、2、3、4)が存在する。2本の重鎖のC末端側ドメイン(C
H2ドメイン及びC
H3ドメイン)が構成するFc領域(定常領域とも呼ぶ)に含まれる重鎖297番目のアスパラギン(N)には、いずれのサブクラスにおいても翻訳後修飾として糖鎖が付加される(
図1)。このIgGのFc領域に含まれる重鎖297番目のアスパラギン(N)に結合した糖鎖をN結合型糖鎖という。ヒトIgG Fc領域のN結合型糖鎖は、2個のN-アセチルグルコサミンと3個のマンノースからなる5糖構造を核とし、これにN-アセチルグルコサミン、ガラクトース、シアル酸、フコースが付加される複合型2分岐糖鎖であり、各単糖の付加の有無や付加数、付加される位置の違いによって構造的多様性を示す(非特許文献1参照)。
【0003】
Fc領域に存在するN結合型糖鎖の構造は、IgGの機能に重要な影響を与えることが知られている。例えば、ヒトIgG Fc領域のN結合型糖鎖には、297番目のアスパラギンに直接結合しているN-アセチルグルコサミン(還元末端GlcNAc)の6位と、フコースの1位とがα1-6結合した糖鎖構造が存在する(このフコースをコアフコースと呼ぶ)。このコアフコースが失われると、細胞傷害性リンパ球の1種であるナチュラルキラー細胞が細胞表面に発現するFcγレセプターIII(別名CD16)と、IgG Fc領域との相互作用が強くなる(非特許文献2参照)。その結果、ヒトIgGが結合した標的(がん細胞、ウイルス感染細胞など)に対して、このヒトIgG Fc領域に結合したナチュラルキラー細胞が発揮する抗体依存性細胞傷害(Antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity、以下、ADCCと記載する)活性が劇的に増強される(非特許文献3、4参照)。
【0004】
この現象はADCC活性を薬効機序とした抗体医薬の開発に利用されており、コアフコースを持たないヒトIgG(以下、非コアフコシル化ヒトIgGと記載する。)の様々な生産方法が報告されている。例えば、コアフコースの付加に関与する酵素であるα1-6フコシルトランスフェラーゼ(以下、Fut8と記載する。)をコードするすべての遺伝子を破壊した細胞を抗体生産細胞として利用する方法(非特許文献5参照)、Fut8をコードするメッセンジャーRNAをsmall interfering RNA(siRNA)で破壊する方法(非特許文献6参照)、抗体産生細胞を糖鎖修飾酵素(αマンノシダーゼI)の阻害剤存在下で培養し、結果的に非コアフコシル化ヒトIgGを得る方法(非特許文献7参照)、バイセクティングN-アセチルグルコサミンの付加を促進する酵素(β1-4N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ)を抗体産生細胞に人工的に発現させ、非コアフコシル化ヒトIgGを得る方法(非特許文献8参照)などが挙げられる。
【0005】
一方、コアフコシル化ヒトIgGの量が、疾患の有無やその病態の度合いに伴い変動する事が知られている。例えばKratzらは、男性不妊を呈する膿精子症(leukocytospermia)の患者において、精漿中に存在するコアフコシル化ヒトIgG量が減少していることを報告し、この変化が膿精子症の診断に有用である可能性を示唆している(非特許文献9参照)。またKodarらは、胃がん患者のがん進行度(がんステージ)に応じたコアフコシル化ヒトIgG量の変動を見出し、コアフコースを含むヒトIgGの糖鎖構造の変化が、胃がんの悪性度や予後を予測する指標として有用である可能性を示唆している(非特許文献10参照)。さらにKapurらは、妊娠中の母体由来の抗体が胎児に移行し、胎児が提示する同種抗原(alloantigen)に反応することで発症する新生児同種免疫性血小板減少症(Neonatal alloimmune thrombocytopenia、NAIT)、及び新生児溶血性疾患(Hemolytic disease of the newborn、HDN)において、同種抗原を認識する母体由来のIgGのコアフコースが特異的かつ顕著に減少していること、またこのコアフコース減少の程度が病態の重篤度と相関することを見出し、各疾患の発症予測や重篤度を予測する指標として有用であることを報告している(非特許文献11、12参照)。
【0006】
現在、研究及び臨床の現場において、コアフコシル化ヒトIgGの測定は、質量分析機や高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた方法(特許文献1、2参照)、あるいはコアフコースに親和性を示すレクチンを用いた方法(特許文献3、4参照)によって行われている。しかしながら、前者では、高額な測定機を準備する必要があり、また、糖鎖分解酵素や蛋白質分解酵素による試料中のコアフコシル化ヒトIgGの分解等の試料の前処理が必要であり、かつ、操作が非常に煩雑であり、効率性に欠けるという問題があり、後者では、レクチンのコアフコースに対する特異性が低いため、コアフコシル化ヒトIgGの高感度測定、及び、効率的精製は難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2011/026640号
【文献】国際公開第2011/039150号
【文献】国際公開第2010/010674号
【文献】特開2007-161633号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Journal of Immunological Methods, http://dx.doi.org/10.1016/j.jim. 2014.12.004
【文献】Proceedings of the National Academy of Sciences, vol.108, p.12669~12674 (2011)
【文献】Journal of Biological Chemistry, vol.277, p.26733~26740 (2002)
【文献】Journal of Biological Chemistry, vol.278, p.3466~3473 (2003)
【文献】Biotechnology and Bioengineering, vol.87, p.614~622 (2004)
【文献】Biotechnology and Bioengineering, vol.88, p.901~908 (2004)
【文献】Biotechnology and Bioengineering, vol.99, p.652~665 (2008)
【文献】Nature Biotechnology, vol.17, p.176~180 (1999)
【文献】Glycoconjugate Journal, DOI 10.1007/s10719-013-9501-y (2013)
【文献】Glycoconjugate Journal, DOI 10.1007/s10719-011-9364-z (2012)
【文献】Blood, vol.123, p.471~480 (2014)
【文献】British Journal of Haematology, vol.166, p.936~945 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合するが、コアフコースが結合していないN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGには結合しない、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を提供することにある。また、本発明の目的は、抗コアフコシル化ヒトIgGモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体の製造方法、コアフコシル化ヒトIgGの測定方法、コアフコシル化ヒトIgG測定試薬、コアフコシル化ヒトIgGの精製方法、及び、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が固定化された不溶性担体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合するが、コアフコースが結合していないN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGには結合しない、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片の取得に成功し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以下の[1]~[30]に関する。
【0011】
[1] コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合し、コアフコースが結合していないN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGには結合しないことを特徴とする、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片。
[2] コアフコースが結合しているN結合型糖鎖が、フコースが還元末端GlcNAcとα1-6結合しているN結合型糖鎖である、[1]に記載の抗体又は該抗体断片。
[3] コアフコースが結合しているN結合型糖鎖が、下記一般式(I)で表される糖鎖を含むN結合型糖鎖である、[1]又は[2]に記載の抗体又は該抗体断片。
【0012】
【0013】
[4] コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGが、自己抗原、同種抗原、ウイルス由来抗原、及び、細菌由来抗原からなる群より選ばれる少なくとも一種の抗原と結合するヒトIgGである、[1]~[3]のいずれかに記載の抗体又は該抗体断片。
[5] 抗体が、モノクローナル抗体である、[1]~[4]のいずれかに記載の抗体又は該抗体断片。
[6] 受託番号NITE BP-02342として寄託されているハイブリドーマにより産生される、[5]に記載の抗体又は該抗体断片。
[7] [5]に記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
[8] 受託番号NITEBP-02342として寄託されているハイブリドーマ。
[9] 以下の工程を含有することを特徴とする、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体の製造方法。
(1)コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgG又はそのFc領域断片を免疫原として用いて、非ヒト動物に免疫する工程;
(2)工程(1)で免疫した非ヒト動物より得られる抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合し、ハイブリドーマを得る工程;
(3)工程(2)で得られるハイブリドーマを培養する工程;
(4)工程(3)で得られた培養物から、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合し、コアフコースが結合していないN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGには結合しない、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体を産生するハイブリドーマを選択する工程;
(5)工程(4)で選択されたハイブリドーマを培養し、該培養物から、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合し、コアフコースが結合していないN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGには結合しない、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体を採取する工程。
[10] 非ヒト動物が、α1-6フコシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子が欠損した非ヒト動物である、[9]に記載の製造方法。
[11] コアフコースが結合しているN結合型糖鎖が、フコースが還元末端GlcNAcとα1-6結合しているN結合型糖鎖である、[9]又は[10]に記載の製造方法。
[12] コアフコースが結合しているN結合型糖鎖が、下記一般式(I)で表される糖鎖を含むN結合型糖鎖である、[9]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
【0014】
【0015】
[13] [1]~[6]のいずれかに記載の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を用いることを特徴とする、試料中のコアフコシル化ヒトIgGの測定方法。
[14] 以下の工程を含有する、[13]に記載の測定方法。
(1)試料と、[1]~[6]のいずれかに記載の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片とを反応させて、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片とコアフコシル化ヒトIgGの免疫複合体を生成させる工程;
(2)工程(1)で生成した免疫複合体と、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体とを反応させて、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、コアフコシル化ヒトIgG、及び、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体の免疫複合体を生成させる工程;
(3)工程(2)で生成した免疫複合体を測定する工程。
[15] 以下の工程を含有する、[13]に記載の測定方法。
(1)試料と、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体とを反応させて、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体とコアフコシル化ヒトIgGの免疫複合体を生成させる工程;
(2)工程(1)で生成した免疫複合体と、[1]~[6]のいずれかに記載の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片とを反応させて、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体、コアフコシル化ヒトIgG、及び、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片の免疫複合体を生成させる工程;
(3)工程(2)で生成した免疫複合体を測定する工程。
[16] 以下の工程を含有する、[13]に記載の測定方法。
(1)試料を、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質に標識が結合した標識化競合物質、及び、不溶性担体上に固定化された[1]~[6]のいずれかに記載の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片と反応させ、該不溶性担体上に、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片と標識化競合物質との免疫複合体、及び、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片とコアフコシル化ヒトIgGとの免疫複合体を生成させる工程;
(2)工程(1)で該不溶性担体上に生成した、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片と標識化競合物質との免疫複合体における標識化競合物質を測定する工程。
[17] 以下の工程を含有する、[13]に記載の測定方法。
(1)試料を、[1]~[6]のいずれかに記載の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、及び、不溶性担体上に固定化されたコアフコシル化ヒトIgGの競合物質と反応させ、該不溶性担体上に、競合物質と抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片との免疫複合体を生成させる工程;
(2)工程(1)で該不溶性担体上に生成した免疫複合体を測定する工程。
[18] 以下の工程を含有する、[13]に記載の測定方法。
(1)試料と、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原とを反応させて、抗原とコアフコシル化ヒトIgGの免疫複合体を生成させる工程;
(2)工程(1)で生成した免疫複合体と、[1]~[6]のいずれかに記載の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片とを反応させて、抗原、コアフコシル化ヒトIgG、及び、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片の免疫複合体を生成させる工程;
(3)工程(2)で生成した免疫複合体を測定する工程。
[19] 以下の工程を含有する、[13]に記載の測定方法。
(1)試料と、[1]~[6]のいずれかに記載の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片とを反応させて、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片とコアフコシル化ヒトIgGとの免疫複合体を生成させる工程;
(2)工程(1)で生成した免疫複合体と、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原とを反応させて、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、コアフコシル化ヒトIgG、及び、抗原の免疫複合体を生成させる工程;
(3)工程(2)で生成した免疫複合体を測定する工程。
[20] コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原が、自己抗原、同種抗原、ウイルス由来抗原、及び、細菌由来抗原からなる群より選ばれる少なくとも一種の抗原である、[18]又は[19]に記載の測定方法。
[21] [1]~[6]のいずれかに記載の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を含むことを特徴とする、試料中のコアフコシル化ヒトIgG測定試薬。
[22] さらに、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体を含む、[21]に記載の測定試薬。
[23] 不溶性担体上に固定化された[1]~[6]のいずれかに記載の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、及び、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質に標識が結合した標識化競合物質を含むことを特徴とする、試料中のコアフコシル化ヒトIgG測定試薬。
[24] 不溶性担体上に固定化されたコアフコシル化ヒトIgGの競合物質、及び、[1]~[6]のいずれかに記載の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を含むことを特徴とする、試料中のコアフコシル化ヒトIgG測定試薬。
[25] さらに、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原を含む、[21]に記載の測定試薬。
[26] コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原が、自己抗原、同種抗原、ウイルス由来抗原、及び、細菌由来抗原からなる群より選ばれる少なくとも一種の抗原である、[25]に記載の測定試薬。
[27] [1]~[6]のいずれかに記載の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を用いることを特徴とする、試料中のコアフコシル化ヒトIgGの精製方法。
[28] 以下の工程を含む、[27]に記載の精製方法。
(1)試料と、[1]~[6]のいずれかに記載の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片とを反応させて、コアフコシル化ヒトIgGと抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片との免疫複合体を生成させる工程;
(2)工程(1)で生成した免疫複合体から、コアフコシル化ヒトIgGを遊離させる工程;
(3)工程(2)で遊離したコアフコシル化ヒトIgGを回収する工程。
[29] 抗コアフコシル化ヒトIgG抗体が不溶性担体上に固定化されている、[27]又は[28]に記載の精製方法。
[30] [1]~[6]のいずれかに記載の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が固定化された不溶性担体。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合するが、コアフコースが結合していないN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGには結合しない、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が提供される。また、抗コアフコシル化ヒトIgGモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体の製造方法、コアフコシル化ヒトIgGの測定方法、コアフコシル化ヒトIgG測定試薬、コアフコシル化ヒトIgGの精製方法、及び、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が固定化された不溶性担体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】ヒトIgG4Fc領域-FLAG融合蛋白質(以下、hIgG4Fc-FLAGと記載する)を哺乳類培養細胞で発現させるためのベクターの構造を示す。
【
図3】還元、非還元状態におけるhIgG4Fc-FLAGのSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動像を示す。
【
図4】抗原固相ELISAによって評価した、各レクチン及び抗FLAG抗体の、hIgG4Fc-FLAGに対する反応性を示す。
図4において、「CHO細胞由来」とはCHO細胞由来hIgG4Fc-FLAGを示し、「Fut8KO CHO細胞由来」とはFut8KO CHO細胞由来hIgG4Fc-FLAGを示している。
【
図5】抗原固相ELISAによって評価した、取得したハイブリドーマ株が分泌するモノクローナル抗体の、hIgG4Fc-FLAGに対する反応性を示す。
図5において、「+」とは、コアフコシル化hIgG4Fc-FLAGを示し、「-」とは、非コアフコシル化hIgG4Fc-FLAGを示している。
【
図6】ビアコアによって評価した、取得したハイブリドーマ株が分泌するモノクローナル抗体の、hIgG4Fc-FLAGに対する反応性を示す。
図6において、実線は、コアフコシル化hIgG4Fc-FLAGに対する反応性を示し、破線は、非コアフコシル化hIgG4Fc-FLAGに対する反応性を示している。なお、右下の“抗ヒトIgG抗体とhIgG4Fc-FLAGとの反応”は、ビアコアによって評価した、センサーチップ上に固定化された抗ヒトIgG抗体の、コアフコシル化hIgG4Fc-FLAGおよび非コアフコシル化hIgG4Fc-FLAGに対する反応性を示す。
【
図7】抗原固相ELISAによって評価した、取得したハイブリドーマ株が分泌するモノクローナル抗体の、天然コアフコシル化抗原に対する反応性を示す。
【
図8】抗原固相ELISAによって評価した、取得したハイブリドーマ株が分泌するモノクローナル抗体の、ヒトIgG、ヒト免疫グロブリンA、ヒト免疫グロブリンM、ウサギIgGに対する反応性を示す。
【
図9】ビアコアによって評価した、取得したハイブリドーマ株が分泌するモノクローナル抗体の、ヒトIgGサブクラスに対する反応性を示す。なお、右下の“抗ヒトIgG抗体と各サブクラスヒトIgGとの反応”は、ビアコアによって評価した、センサーチップ上に固定化された抗ヒトIgG抗体の、各サブクラスのヒトIgGに対する反応性を示す。
【
図10】抗原固相ELISAによって評価した、LCAレクチン及び抗ヒトIgG抗体の、過ヨウ素酸処理した各サブクラスのヒトIgG(図において「+」と表示)、及び、過ヨウ素酸処理していない各サブクラスのヒトIgG(図において「-」と表示)に対する反応性を示す。
【
図11】ビアコアによって評価した、取得したハイブリドーマ株が分泌するモノクローナル抗体の、過ヨウ素酸処理した各サブクラスのヒトIgG(破線)、及び、過ヨウ素酸処理していない各サブクラスのヒトIgG(実線)に対する反応性を示す。なお、最下段の3つの図は、ビアコアによって評価した、センサーチップ上に固定化された抗ヒトIgG抗体の、各サブクラスのヒトIgGに対する反応性を示す。
【
図12】抗コアフコシル化ヒトIgG抗体が固定化された不溶性担体を含有するカラムで精製した、ヒトIgG由来のN結合型糖鎖のMSスペクトルを示す。
【
図13】抗コアフコシル化ヒトIgG抗体カラムが固定化された不溶性担体を含有するカラムで精製する前の、ヒトIgG由来のN結合型糖鎖のMSスペクトルのスペクトラムを示す。
【
図14】コアフコシル化ヒトIgG測定系の標準曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[1]抗コアフコシル化ヒトIgG抗体
本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体とは、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合し、コアフコースが結合していないN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGには結合しない抗体である。
【0019】
本発明におけるコアフコースとは、ヒトIgGの2つのFc領域の297番目のアスパラギン(N)に結合しているN結合型糖鎖のうち該アスパラギンに直接結合しているN-アセチルグルコサミン、すなわち、還元末端N-アセチルグルコサミンの6位の炭素と、α1-6結合したフコースをいう。
【0020】
本発明における糖鎖とは、各種の単糖がグリコシド結合によって繋がった化合物をいう。単糖としては、例えばグルコース、ガラクトース、マンノース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、フコース、キシロース、シアル酸等が挙げられる。グリコシド結合とは、単糖のヘミアセタールと他の単糖のヒドロキシル基との間の結合をいい、例えば、2つのN-アセチルグルコサミンの間の結合、2つのマンノースの間の結合、マンノースとN-アセチルグルコサミンとの間の結合、N-アセチルグルコサミンとフコースとの間の結合等が挙げられ、これらの結合様式としてα1-3結合、α1-6結合、β1-4結合等が挙げられる。具体的には、2つのN-アセチルグルコサミンの間のβ1-4結合等が挙げられる。
【0021】
本発明におけるコアフコースが結合しているN結合型糖鎖とは、例えば、下記に示される式(I)~(VII)の構造で表されるN結合型糖鎖等が挙げられる。
【0022】
【0023】
本発明におけるコアフコースが結合していないN結合型糖鎖とは、ヒトIgGの2つのFc領域の297番目のアスパラギン(N)に糖鎖が結合したN結合型糖鎖であって、アスパラギンに直接結合しているN-アセチルグルコサミン、すなわち、還元末端N-アセチルグルコサミンにフコースが結合していない糖鎖であり、例えば、下記に示される式(VIII)~(XIV)の構造で表されるN結合型糖鎖等が挙げられる。
【0024】
【0025】
本発明におけるコアフコシル化ヒトIgGは、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGであり、例えば
図1に示すヒトIgG等が挙げられる。
【0026】
本発明におけるコアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGが結合する抗原としては、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGが結合する抗原であれば特に制限はなく、例えば、自己抗原、同種抗原(alloantigen)、ウイルス由来抗原、及び、細菌由来抗原等が挙げられる。自己抗原としては細胞核内抗原等が挙げられ、同種抗原としては主要組織適合遺伝子複合体抗原(MHC抗原)等が挙げられ、ウイルス由来抗原としてはB型肝炎ウイルスのHBs抗原、C型肝炎ウイルスのコア抗原等が挙げられ、細菌由来抗原としてはグラム陰性菌外膜のO抗原、百日咳菌の百日咳毒素等が挙げられる。
【0027】
本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれでもよいが、モノクローナル抗体が好ましい。モノクローナル抗体としては、ハイブリドーマにより生産されるモノクローナル抗体、抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した形質転換体により生産される遺伝子組換えモノクローナル抗体等が挙げられる。ハイブリドーマにより生産されるモノクローナル抗体としては、例えば、受託番号NITE BP-02342として寄託されているハイブリドーマにより生産されるモノクローナル抗体等が挙げられる。
【0028】
本発明のハイブリドーマとしては、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgGモノクローナル抗体を生産するハイブリドーマであれば特に制限はなく、例えば、受託番号NITE BP-02342として寄託されているハイブリドーマが挙げられる。
【0029】
本発明のハイブリドーマは、公知の方法、例えば、「モノクローナル抗体」(羊土社、1996年)等に記載されている方法等で製造することができる。
【0030】
また、本発明における抗コアフコシル化ヒトIgG抗体の断片としては、例えば、抗体をパパイン処理することにより得られるFab、抗体をペプシン処理することにより得られるF(ab’)2、抗体をペプシン処理-還元処理することにより得られるFab’、抗体軽鎖の可変領域(VL領域)と抗体重鎖の可変領域(VH領域)を人工的に1本のポリペプチドとして繋いだ1本鎖抗体(scFv)、ラクダ科動物等が保有する抗体軽鎖を持たない1本鎖抗体の抗体重鎖の可変領域(VHH領域)断片等が挙げられる。
【0031】
本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体の製造方法としては、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体を製造し得る方法であれば特に制限はなく、例えば以下の工程を含む製造方法等が挙げられる。
[i] コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgG又はそのFc領域断片を免疫原として用いて、非ヒト動物に免疫する工程;
[ii] 工程[i]で免疫した非ヒト動物より得られる抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合し、ハイブリドーマを得る工程;
[iii] 工程[ii]で得られるハイブリドーマを培養する工程;
[iv] 工程[iii]で得られた培養物から、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合し、コアフコースが結合していないN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGには結合しない、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体を産生するハイブリドーマを選択する工程;
[v] 工程[iv]で選択されたハイブリドーマを培養し、該培養物から、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合し、コアフコースが結合していないN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGには結合しない、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体を採取する工程。
【0032】
(工程[i])
工程[i]は、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgG又はそのFc領域断片を免疫原として用いて、非ヒト動物に免疫する工程であり、非ヒト動物に免疫する方法としては、調製した免疫原を、例えば、非ヒト動物の皮下あるいは静脈内あるいは腹腔内に、適当なアジュバントとともに抗原を投与する方法等が挙げられる。
【0033】
免疫原としては、非ヒト動物に本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体を生成し得る免疫原であれば特に制限はなく、例えばコアフコシル化ヒトIgG、又はコアフコシル化ヒトIgGのFc領域断片等が挙げられ、コアフコシル化ヒトIgG、又はコアフコシル化ヒトIgGのFc領域断片にKLH(Keyhole limpet hemocyanin)やアルブミン等のキャリア蛋白質を結合させたものを用いていてもよい。アルブミンとしては、例えば、牛血清アルブミン(BSA)、卵白アルブミン等が挙げられる。
【0034】
非ヒト動物としては、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体を生体内に生成し得るヒト以外の動物であれば特に制限はなく、例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ラクダ、アルパカ等が挙がられ、特に、コアフコースを含むエピトープに対する抗体が生じ易いことが期待される、α1-6フコシルトランスフェラーゼ(以下、Fut8と記載する)をコードする遺伝子が欠損したFut8ノックアウトマウス(以下、Fut8KOマウスと記載する)[Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A.,vol.102,p.15791 (2005)]が好的に用いられる。
【0035】
アジュバントとしては、非ヒト動物に本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体を生成し得るアジュバントであれば特に制限はなく、例えば、Freund’s Complete Adjuvant(FCA)、Freund’s Incomplete Adjuvant(FIA)、Ribiアジュバント等が挙げられる。
【0036】
免疫原の調製方法は、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又はそのFc領域断片を調製し得る方法であれば特に制限はなく、例えば、下記に示す、(a)コアフコシル化ヒトIgG若しくはそのFc領域断片を遺伝子工学的に製造する方法、(b)ヒト血液試料等からコアフコシル化ヒトIgGを調製する方法、(c)ヒト血液試料等から精製したコアフコシル化ヒトIgGをプロテアーゼ処理することでコアフコシル化ヒトIgGのFc領域断片を得る方法、(d)試験管内でコアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片を人工的に合成する方法等が挙げられる。
【0037】
(a)コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片を遺伝子工学的に製造する方法
コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片は、例えば、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に記載された方法等に従い、ヒトIgG又はそのFc領域断片をコードするcDNAを挿入した発現ベクター(以下、組換えベクターという)を作製した後、該組換えベクターを宿主細胞に導入することで形質転換体を作製し、該形質転換体にヒトIgG又はそのFc領域断片を発現させることにより、製造することができる。具体的には以下の(a‐1)~(a‐3)の手順で行うことができる。
【0038】
(a‐1)ヒトIgG又はそのFc領域断片を発現させるための組換えベクターの作製
ヒトIgG又はそのFc領域断片を発現させるための組換えベクターは、ヒトIgG又はそのFc領域断片をコードするcDNA断片を、適当な発現ベクターのプロモーターの下流に挿入することにより作製することができる。
【0039】
ヒトIgG又はそのFc領域断片をコードするcDNAは、以下の方法により取得することができる。
ヒト末梢血から単離した白血球から全RNAを調製し、該全RNAからmRNAを抽出した後、該mRNAからcDNAを合成する。該cDNAを鋳型として、ヒトIgG又はそのFc領域断片をコードするcDNAを増幅するように設計したプライマーを用いてpolymerase chain reaction(PCR)を行い、ヒトIgG又はそのFc領域断片をコードするcDNAを増幅する。cDNA断片がコードするヒトIgG又はそのFc領域断片のサブクラスは、IgG1~4のいずれでもよい。また該cDNA断片に必要に応じてHis、Myc、FLAG等のエピトープタグをコードする配列を付加してもよい。
【0040】
全RNAからのmRNAの調製は、オリゴ(dT)固定化セルロースカラム法[Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)]、又はOligo-dT30<Super> mRNA Purification Kit(タカラバイオ社製)等のキットを用いて行うことができる。また、Fast Track mRNA Isolation Kit(インビトロジェン社製)、又はQuickPrep mRNA Purification Kit(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)等のキットを用いてハイブリドーマ細胞からmRNAを調製することもできる。
【0041】
mRNAからのcDNAの合成は、PrimeScript(登録商標) II 1st strand cDNA Synthesis Kit(タカラバイオ社製)等のキットを用いて行うことができる。
【0042】
(a‐2)形質転換体の作製
(a‐1)で作製した組換えベクターを、発現ベクターに適合した宿主細胞に導入することにより、ヒトIgG又はそのFc領域断片を生産する形質転換体を得ることができる。
組換えベクターの宿主細胞への導入方法としては、宿主細胞にDNAを導入し得る方法であれば特に制限はなく、例えば、エレクトロポレーション法[Cytotechnology,vol.3,p.133(1990)]、リン酸カルシウム法(特開平2-227075号公報)、リポフェクション法[Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A.,vol.84,p.7413 (1987)]などが挙げられる。
【0043】
コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片を得るための宿主細胞としては、導入した発現ベクターがコードするヒトIgG又はそのFc領域断片を発現できる動物細胞、酵母、昆虫細胞等であって、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖を付加する能力を有するものであればいずれをも用いることができる。なお、該宿主細胞には、遺伝子改変によりコアフコースが結合しているN結合型糖鎖を付加する能力を獲得した宿主細胞も含まれる。
【0044】
動物細胞としては、例えばナマルバ(Namalwa)細胞、サルの細胞であるCOS細胞、チャイニーズハムスターの細胞であるCHO細胞、HBT5637細胞(特開昭63-299号公報)等が挙げられる。酵母としては、例えばサッカロミセス属、シゾサッカロミセス属、クリュイベロミセス属、トリコスポロン属、シュワニオミセス属等に属する微生物等が挙げられる。具体的には、例えば、Saccharomyces cerevisiae、Schizosaccharomyces pombe、Kluyveromyces lactis、Trichosporon pullulans、Schwanniomyces alluvius等がそれぞれ挙げられる。昆虫細胞としては、例えばSpodopterafrugiperdaの卵巣細胞であるSf9細胞、Sf21細胞[Current Protocols in Molecular Biology,Baculovirus Expression Vectors,A Laboratory Manual,W.H.Freeman and Company,New York(1992)]及びTrichoplusianiの卵巣細胞であるHigh 5(インビトロジェン社製)等が挙げられる。
【0045】
発現ベクターとしては、使用する宿主細胞において自律複製可能又は染色体中への組込が可能で、ヒトIgG又はそのFc領域断片をコードするcDNAを転写できる位置に適当なプロモーターを含有しているものが用いられる。
【0046】
動物細胞を宿主として用いる場合の発現ベクターとしては、ヒトIgG又はそのFc領域断片を発現し得る発現ベクターであれば特に制限はなく、例えば、pcDNAI、pcDM8(フナコシ社より市販)、pAGE107[特開平3-22979号公報;Cytotechnology,vol.3,p.133 (1990)]、pAS3-3(特開平2-227075号公報)、pCDM8[Nature,vol.329,p.840 (1987)]、pcDNAI/Amp(インビトロジェン社製)、pcDNA3.1(インビトロジェン社製)、pREP4(インビトロジェン社製)、pAGE103[J.Biochemistry,vol.101,p.1307 (1987)]、pAGE210、pME18SFL3、pKANTEX93[国際公開第1997/10354号]等が挙げられる。
【0047】
酵母を宿主として用いる場合の発現ベクターとして、ヒトIgG又はそのFc領域断片を発現し得る発現ベクターであれば特に制限はなく、例えば、YEP13(ATCC37115)、YCp50(ATCC37419)等が挙げられる。
【0048】
昆虫細胞を宿主として用いる場合の発現ベクターとして、ヒトIgG又はそのFc領域断片を発現し得る発現ベクターであれば特に制限はなく、例えば、pVL1392、pBlueBacIII(ともにインビトロジェン社製)等が挙げられる。
【0049】
動物細胞用の発現ベクターにおけるプロモーターとしては、動物細胞中で機能を発揮し得るものであれば特に制限はなく、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)のIE(immediate early)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーター、モロニーマウス白血病ウイルス(moloney murine leukemia virus)のプロモーター及びエンハンサー等が挙げられる。また、ヒトCMVのIE遺伝子のエンハンサーをプロモーターと共に用いてもよい。
【0050】
酵母用の発現ベクターにおけるプロモーターとしては、酵母中で機能を発揮し得るものであれば特に制限はなく、例えば、ヘキソースキナーゼ等の解糖系の遺伝子のプロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、gal 1プロモーター、gal 10プロモーター、ヒートショック蛋白質プロモーター、MFα1 プロモーター及びCUP 1プロモーター等が挙げられる。
【0051】
昆虫細胞用の発現ベクターにおけるプロモーターとしては、昆虫細胞中で機能を発揮し得るものであれば特に制限はなく、例えば、ポリヘドリンプロモーター、p10プロモーター等が挙げられる。
【0052】
(a‐3)形質転換体からコアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片を製造する方法
(a‐2)で得られる形質転換体を培地で培養し、培養物中にコアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片を生産させ、該培養物から採取することにより、コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片を製造することができる。
培養は、通常pH6~8、30~40℃、5%CO2存在下等の条件下で1~7日間行う。また、培養中必要に応じて、カナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0053】
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、例えば、RPMI1640培地[The Journal of the American Medical Association,vol.199,p.519 (1967)]、EagleのMEM培地[Science,vol.122,p.501 (1952)]、ダルベッコ改変MEM培地[Virology,vol.8,p.396 (1959)]、199培地[Proc.Soc.Exp.Biol.Med.,vol.73,p.1 (1950)]又はこれら培地にウシ胎児血清(FCS)等を添加した培地等を用いることができる。酵母を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、例えばYPD培地等が挙げられる。昆虫細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、例えばグレース昆虫培地等が挙げられる。
【0054】
形質転換体を用いてコアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片を生産する方法としては、宿主細胞内に生産させる方法、宿主細胞外に分泌させる方法、及び宿主細胞外膜上に生産させる方法があり、使用する宿主細胞を変えることにより、適切な方法を選択することができる。
【0055】
コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片の生産方法として、宿主細胞内に生産させる方法としては、例えばポールソンらの方法[J.Biol.Chem.,vol.264,p.17619 (1989)]、ロウらの方法[Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A.,vol.86,p.8227 (1989);Genes Develop.,vol.4,p.1288 (1990)]等が挙げられ、宿主細胞外膜上に生産させる方法としては、例えばポールソンらの方法[J.Biol.Chem.,vol.264,p.17619 (1989)]、ロウらの方法[Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A.,vol.86,p.8227 (1989);Genes Develop.,vol.4,p.1288 (1990)]等が挙げられ、宿主細胞外に分泌させる方法としては、例えば特開平5-336963号公報、国際公開第1994/23021号等に記載の方法等が挙げられる。
【0056】
宿主細胞から生産されたコアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片は、例えば、以下のようにして、調製することができる。
コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片が細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後に細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー、ダイノミル等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、通常のタンパク質の単離精製法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化学社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(GEヘルスケア・ジャパン社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独又は組み合わせて用い、精製品を得ることができる。
【0057】
コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分としてコアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片の不溶体を回収する。回収したコアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片の不溶体をタンパク質変性剤で可溶化する。該可溶化液を希釈又は透析することにより、コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片を正常な立体構造に戻した後、前記と同様の調製法によりコアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片を得ることができる。
【0058】
(b)ヒト血液試料等からコアフコシル化ヒトIgGを調製する方法
ヒト血液試料等からコアフコシル化ヒトIgGを調製する方法としては、例えば、ヒトから採取した血液を遠心分離することによって得られる血清から、前述の(a‐3)に記載の通常のタンパク質の単離精製法を用いて、コアフコシル化ヒトIgGを調製する方法等が挙げられる。
【0059】
(c)ヒト血液試料等から調製したコアフコシル化ヒトIgGをプロテアーゼ処理することによりコアフコシル化ヒトIgGのFc領域断片を得る方法
ヒト血液試料等から調製したコアフコシル化ヒトIgGをプロテアーゼ処理することによりコアフコシル化ヒトIgGのFc領域断片を得る方法としては、例えば、前述(b)記載の方法により調製したコアフコシル化ヒトIgGを、プロテアーゼにより可変領域とFc領域とに切断した後、前述の(a‐3)に記載の通常のタンパク質の単離精製法を用いて、該Fc領域断片を調製する方法等が挙げられる。プロテアーゼとしては、例えばペプシン、パパイン等が挙げられる。コアフコシル化ヒトIgGをプロテアーゼ処理する時間としては、コアフコシル化ヒトIgGのFc領域断片を得ることができる時間であれば特に制限はなく、通常、1~48時間であり、2~24時間が好ましい。コアフコシル化ヒトIgGをプロテアーゼ処理する温度は、コアフコシル化ヒトIgGのFc領域断片を得ることができる温度であれば特に制限はなく、通常、0~50℃であり、5~45℃が好ましく、20~40℃が特に好ましい。
【0060】
(d)試験管内でコアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片を人工的に合成する方法
試験管内でコアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片を人工的に合成する方法としては、例えば、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖が結合したアスパラギンを用いたペプチドの固相合成法[J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1,vol.3,p.549 (1998)]等により作製したコアフコースが結合したN結合型糖鎖が結合したヒトIgG又はそのFc領域のペプチド断片と、それ以外の部分のヒトIgG又はそのFc領域のペプチド断片とをネイティブケミカルライゲーション法[Science,vol.226,p.5186 (1994)]等を用いて連結する方法等が挙げられる。
【0061】
(工程[ii])
工程[ii]は、工程[i]で免疫した非ヒト動物より得られる抗体産生細胞と、ミエローマ細胞とを融合し、ハイブリドーマを作製する工程である。
【0062】
抗体産生細胞としては、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体を生成し得る抗体産生細胞であれば特に制限はなく、例えば、免疫原を免役した非ヒト動物の脾臓、リンパ節、又は末梢血から得られるB細胞等が挙げられる。
【0063】
ミエローマ細胞としては、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体を生成し得るミエローマ細胞であれば特に制限はなく、例えば、8-アザグアニン耐性マウス(BALB/c由来)骨髄腫細胞株P3-X63Ag8-U1(P3-U1)[Current Topics in Microbiology and Immunology,vol.18,p.1 (1978)]、P3-NS1/1-Ag41(NS-1)[European J. Immunology,vol.6,p.511 (1976)]、SP2/O-Ag14(SP-2)[Nature,vol.276,p.269 (1978)]、P3-X63-Ag8653(653)[J.Immunology,vol.123,p.1548 (1979)]、P3-X63-Ag8(X63)[Nature,vol.256,p.495 (1975)]等が挙げられる。
【0064】
細胞の融合方法としては、抗体産生細胞とミエローマ細胞を融合できる方法であれば特に制限はなく、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)を用いる方法、電気パルス法等が挙げられる。
【0065】
(工程[iii])
工程[iii]は、工程[ii]で作製したハイブリドーマを培養する工程であり、ハイブリドーマを培養する方法としては、例えば、選択培地[10%(v/v) BM-condimed H1、2%(v/v) HAT supplementを含むGIT培地(和光純薬工業社製)]を用い、37℃、5% CO2インキュベーター内で培養する方法等が挙げられる。
【0066】
(工程[iv])
工程[iv]は、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合し、コアフコースが結合していないN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGには結合しない、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体を産生するハイブリドーマのみを選択する工程であり、当該ハイブリドーマのみを選択する方法としては、例えば、以下の方法等が挙げられる。
【0067】
コアフコシル化ヒトIgG又は非コアフコシル化ヒトIgGを固相化したマイクロタイタープレートの各ウェルに、工程[iii]記載のハイブリドーマの培養方法によって得られる培養上清を分注し25℃で反応させる。各ウェルを洗浄液[0.05%(v/v) Tween20を含むPBS緩衝液]で洗浄した後、酵素等で標識した抗IgG抗体を分注して反応させる。各ウェルを洗浄液で洗浄後、各ウェルの標識量を測定することにより、コアフコシル化ヒトIgG、培養上清中の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体、及び標識化抗IgG抗体からなる免疫複合体A、又は、非コアフコシル化ヒトIgG、培養上清中の抗非コアフコシル化ヒトIgG抗体、及び標識化抗IgG抗体からなる免疫複合体Bが形成したウェルを検出することができ、培養上清に含まれるモノクローナル抗体が、コアフコシル化ヒトIgG又は非コアフコシル化ヒトIgGに結合するか否かを判定することができる。この結果から、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合し、コアフコースが結合していないN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGには結合しない、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体を産生するハイブリドーマのみを選択することができる。
【0068】
ハイブリドーマの選択に用いるコアフコシル化ヒトIgGは、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGであり、例えば、前述の工程(i)の(a)~(d)の方法等により製造することができる。
【0069】
ハイブリドーマの選択に用いる非コアフコシル化ヒトIgGは、コアフコースが結合していないN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGであり、例えば、下記に示す、(e)遺伝子工学的に非コアフコシル化ヒトIgGを製造する方法、(f)化学合成法等の方法により製造することができる。
【0070】
(e)遺伝子工学的に非コアフコシル化ヒトIgGを製造する方法
非コアフコシル化ヒトIgGは、例えば、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に記載された方法等に従い、非コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片を発現させるための組換えベクターを作製した後、該組換えベクターを宿主細胞に導入した形質転換体を作製し、該形質転換体に非コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片を発現させることにより、製造することができる。具体的には、以下の(e‐1)~(e‐3)の手順で行うことができる。
【0071】
(e‐1)非コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片を発現させるための組換えベクターの作製
非コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片を発現させるための組換えベクターは、前述の(a‐1)の方法により作製することができる。
【0072】
(e‐2)形質転換体の作製
(e‐1)で得られた組換えベクターを、発現ベクターに適合した宿主細胞に導入することにより、非コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片を生産する形質転換体を得ることができる。
【0073】
組換えベクターを宿主細胞へ導入する方法としては、組換えベクターを宿主細胞へ導入し得る方法であれば特に制限はなく、例えば、前述の(a‐2)に記載の方法等が挙げられる。
【0074】
宿主細胞としては、非コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片を生産し得る宿主細胞であれば特に制限はなく、例えば、N結合型糖鎖にコアフコースを結合させる酵素の活性を低下又は欠損させた動物細胞、糖鎖付加能のない原核細胞等が挙げられる。
【0075】
N結合型糖鎖にコアフコースを結合させる酵素としては、例えば、Fut8等が挙げられる。
【0076】
N結合型糖鎖にコアフコースを結合させる酵素の活性を低下又は欠損させた動物細胞としては、N結合型糖鎖にコアフコースを結合させる酵素の活性が低下又は欠損した動物細胞であれば特に制限はなく、例えば、Fut8活性が低下又は欠損したナマルバ(Namalwa)細胞、Fut8活性が低下又は欠損したCOS細胞、Fut8活性が低下又は欠損したCHO細胞、Fut8活性が低下又は欠損したHBT5637細胞等が挙げられる。
【0077】
Fut8活性を低下又は欠損させる方法としては、アンチセンス法、リボザイム法[Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A.,vol.96,p.1886 (1999)]、相同組換え法[Manipulating the Mouse Embryo A Laboratory Manual, Second Edition,Cold Spring Harbor LaboratoryPress (1994);Gene Targeting,A Practical Approach,IRL Press at Oxford University Press (1993)]、RNA-DNA oligonucleotide(RDO)法、RNA interference(RNAi)法[Nature,vol.391,p.806 (1998);Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A.,vol.95,p.15502 (1998);Nature,vol.395,p.854 (1998);Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A.,vol.96,p.5049 (1999);Cell,vol.95,p.1017 (1998);Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A.,vol.96,p.1451 (1999);Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.,vol.95,p.13959 (1998);Nature Cell Biol.,vol.2,p.70 (2000)]、レトロウイルスを用いた方法、トランスポゾンを用いた方法[Nature Genetics,vol.25,p.35 (2000)]等が挙げられる。
【0078】
糖鎖付加能のない原核細胞を有する原核生物としては、例えばエシェリヒア属等に属する微生物等が挙げられ、エシェリヒア属等に属する微生物としては、例えば、大腸菌XL1-Blue、大腸菌XL2-Blue、大腸菌DH1、大腸菌MC1000、大腸菌KY3276、大腸菌W1485、大腸菌JM109、大腸菌HB101、大腸菌No.49、大腸菌W3110、大腸菌NY49、大腸菌DH5α等が挙げられる。
【0079】
動物細胞を宿主として用いる場合の発現ベクターは、使用する宿主細胞において自律複製可能又は染色体中への組込が可能で、ヒトIgG又はそのFc領域断片をコードするcDNAを転写できる位置に適当なプロモーターを含有しているものを用いることができる。
【0080】
動物細胞を宿主として用いる場合の発現ベクターとしては、ヒトIgG又はそのFc領域断片を発現し得る発現ベクターであれば特に制限はなく、例えば、前述の(a‐2)に記載の発現ベクター等が挙げられる。
【0081】
動物細胞を宿主として用いる場合の発現ベクターにおけるプロモーターとしては、動物細胞中で機能を発揮し得るものであれば特に制限はなく、例えば、前述の(a‐2)に記載のプロモーター等が挙げられる。
【0082】
動物細胞を宿主として用いる場合の組換えベクターにおけるヒトIgG又はそのFc領域断片をコードするcDNAの塩基配列においては、宿主内での発現に最適なコドンとなるように塩基を置換することができ、これにより、目的とするヒトIgG又はそのFc領域断片の生産率を向上させることができる。さらに、前記組換えベクターにおける遺伝子の発現には転写終結配列は必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。
【0083】
糖鎖付加能のない原核細胞を宿主細胞として用いる場合の発現ベクターは、原核生物中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列を含む発現ベクターを用いることができる。リボソーム結合配列としては、例えばシャイン・ダルガルノ(Shine-Dalgarno)配列等が挙げられる。また、該発現ベクターは、さらに、プロモーターを制御する遺伝子を含んでいてもよい。
【0084】
糖鎖付加能のない原核細胞を宿主細胞として用いる場合の発現ベクターとしては、ヒトIgG又はそのFc領域断片を発現し得る発現ベクターであれば特に制限はなく、例えば、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(いずれもロシュ社製)、pKK233-2(ファルマシア社製)、pSE280(インビトロジェン社製)、pGEMEX-1(プロメガ社製)、pQE-8(キアゲン社製)、pKYP10(特開昭58-110600号公報)、pKYP200[Agricultural Biological Chemistry,vol.48,p.669 (1984)]、pLSA1[Agric.Biol.Chem.,vol.53,p.277 (1989)]、pGEL1[Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A.,vol.82,p.4306 (1985)]、pBluescript II SK(-)(アジレント・テクノロジー社製)、pTrs30[大腸菌JM109/pTrS30(FERM BP-5407)より調製]、pTrs32[大腸菌JM109/pTrS32(FERM BP-5408)より調製]、pGHA2[大腸菌IGHA2(FERM BP-400)より調製、特開昭60-221091号公報]、pGKA2[大腸菌IGKA2(FERM BP-6798)より調製、特開昭60-221091号公報]、pTerm2(米国特許第4686191号明細書、米国特許第4939094号明細書、米国特許第5160735号明細書)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pEG400[J.Bacteriol.,vol.172,p.2392 (1990)]、pGEX(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)、pETシステム(ノバジェン社製)、pME18SFL3(東洋紡社製)等が挙げられる。
【0085】
糖鎖付加能のない原核細胞を宿主細胞として用いる場合の発現ベクターにおけるプロモーターとしては、使用する宿主細胞中で機能を発揮し得るものであれば特に制限はなく、例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター、T7プロモーター等の、大腸菌やファージ等に由来するプロモーターが挙げられる。また、Ptrpを2つ直列させたタンデムプロモーター、tacプロモーター、lac T7プロモーター、let Iプロモーター等のように、人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。
【0086】
糖鎖付加能のない原核細胞を宿主細胞として用いる場合の組換えベクターにおいて、リボソーム結合配列であるシャイン・ダルガルノ配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6~18塩基)に調節したものを用いることが好ましい。
【0087】
前記組換えベクターにおけるヒトIgG又はそのFc領域断片をコードするcDNAの塩基配列においては、宿主内での発現に最適なコドンとなるように塩基を置換することができ、これにより、目的とする非コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片の生産率を向上させることができる。さらに、前記組換えベクターにおける遺伝子の発現には転写終結配列は必ずしも必要ではないが、構造遺伝子の直下に転写終結配列を配置することが好ましい。
【0088】
(e‐3)形質転換体から非コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片を製造する方法
(e‐2)で得られる形質転換体を培地で培養し、培養物中に非コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片を生産させ、該培養物から採取することにより、非コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片を製造することができる。
【0089】
動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、例えば、前述の(a‐3)に記載の培地等が挙げられる。
【0090】
糖鎖付加能のない原核生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、例えば、LB培地等が挙げられる。
【0091】
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した該原核生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した該原核生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた組換えベクターで形質転換した該原核生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
【0092】
遺伝子の発現方法としては、直接発現以外に、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
【0093】
非コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片の生産方法としては、宿主細胞内に生産させる方法、宿主細胞外に分泌させる方法、及び宿主細胞外膜上に生産させる方法があり、使用する宿主細胞を変えることにより、適切な方法を選択することができる。
【0094】
非コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片の生産方法として、宿主細胞内に生産させる方法としては、例えばポールソンらの方法[J.Biol.Chem.,vol.264,p.17619 (1989)]、ロウらの方法[Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A.,vol.86,p.8227 (1989);Genes Develop.,vol.4,p.1288 (1990)]等が挙げられ、宿主細胞外膜上に生産させる方法としては、例えばポールソンらの方法[J.Biol.Chem.,vol.264,p.17619 (1989)]、ロウらの方法[Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A.,vol.86,p.8227 (1989);Genes Develop.,vol.4,p.1288 (1990)]等が挙げられ、宿主細胞外に分泌させる方法としては、例えば特開平5-336963号公報、国際公開第1994/23021号等に記載の方法等が挙げられる。
【0095】
形質転換体を用いて、非コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片を生産する方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0096】
非コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片が細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後に細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液に懸濁後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー、ダイノミル等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、通常の酵素の単離精製法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化学社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(GEヘルスケア・ジャパン社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独又は組み合わせて用い、精製品を得ることができる。
【0097】
非コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として非コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片の不溶体を回収する。回収した非コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片の不溶体をタンパク質変性剤で可溶化する。該可溶化液を希釈又は透析することにより、非コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片を正常な立体構造に戻した後、前記と同様の単離精製法により非コアフコシル化ヒトIgG又はそのFc領域断片の精製標品を得ることができる。
【0098】
(f)非コアフコシル化ヒトIgGの化学合成法
非コアフコシル化ヒトIgGの化学合成法としては、例えば、コアフコースが結合していないN結合型糖鎖が結合したアスパラギンを用いたペプチドの固相合成法[J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1,vol.3,p.549 (1998)]等により作製したコアフコースが結合していないN結合型糖鎖が結合したヒトIgG又はそのFc領域のペプチド断片と、それ以外の部分のヒトIgG又はそのFc領域のペプチド断片とをネイティブケミカルライゲーション法[Science,vol.226,p.5186 (1994)]等を用いて連結する方法等が挙げられる。
【0099】
(工程[v])
工程[v]は、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体を採取する工程である。
抗コアフコシル化ヒトIgG抗体を採取する方法としては、例えば、前述の工程[iv]の方法で選択されたハイブリドーマを工程[iii]の方法で培養し、得られる培養上清中から、抗体に結合する分子を用いて、該抗体を採取する方法等が挙げられる。
【0100】
工程[v]における抗体に結合する分子としては、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体に結合できる分子であれば特に制限はなく、例えば、プロテインA、プロテインG、ヒトIgGのFc領域に結合する抗体等が挙げられる。
【0101】
[2]コアフコシル化ヒトIgGの測定方法
本発明のコアフコシル化ヒトIgGの測定方法は、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を用いるコアフコシル化ヒトIgGの測定方法である。本発明の測定方法の具体的態様を以下に示す。
【0102】
・測定方法1(サンドイッチ法1)
以下の工程を含有する、試料中のコアフコシル化ヒトIgGの測定方法。
(1)試料と、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片とを反応させて、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片とコアフコシル化ヒトIgGの免疫複合体1を生成させる工程;
(2)工程(1)で生成した免疫複合体1と、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体とを反応させて、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、コアフコシル化ヒトIgG、及び、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体の免疫複合体2を生成させる工程;
(3)工程(2)で生成した免疫複合体2を測定する工程;
(4)試料の代わりに既知濃度のコアフコシル化ヒトIgGを用いて前記工程(1)~(3)を行い、コアフコシル化ヒトIgG濃度と免疫複合体2の測定値との関係を表す検量線を作成する工程;
(5)工程(4)で作成された検量線と、工程(3)で測定された免疫複合体2の測定値とから、試料中のコアフコシル化ヒトIgG濃度を決定する工程。
【0103】
工程(1)及び工程(2)は順次行っても、同時に行ってもよい。工程(1)と工程(2)の間に洗浄工程を挿入してもよい。また、工程(2)と工程(3)の間に洗浄工程を挿入してもよい。工程(1)において、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片は、不溶性担体に固定化されていても、固定化されていなくてもよいが、固定化されていることが好ましい。N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体は、標識物質で標識化されていても、標識化されていなくてもよいが、標識化されていることが好ましい。標識化された、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体を用いる場合には、工程(3)において、免疫複合体2の標識物質を測定すればよい。
【0104】
抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が不溶性担体に固定化されている場合、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が固定化された不溶性担体は抗原抗体反応の反応液中で生成されてもよく、この場合、一組の親和性物質の片方(A)が結合した抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片と、一組の親和性物質のもう一方(a)が結合した不溶性担体とを抗原抗体反応の反応液中で反応させることにより、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が固定化された不溶性担体を抗原抗体反応の反応液中で生成させることができる。A-aの組み合わせとしては、例えば以下の組み合わせ等が挙げられる。
・ビオチン-アビジン類(アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジン等);
・アビジン類(アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジン等)-ビオチン;
・抗コアフコシル化ヒトIgG抗体のFc領域-Fc領域と結合する抗体。
【0105】
・測定方法2(サンドイッチ法2)
以下の工程を含有する、試料中のコアフコシル化ヒトIgGの測定方法。
(1)試料と、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体とを反応させて、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体とコアフコシル化ヒトIgGの免疫複合体3を生成させる工程;
(2)工程(1)で生成した免疫複合体3と、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片とを反応させて、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体、コアフコシル化ヒトIgG、及び、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片の免疫複合体4を生成させる工程;
(3)工程(2)で生成した免疫複合体4を測定する工程;
(4)試料の代わりに既知濃度のコアフコシル化ヒトIgGを用いて前記工程(1)~(3)を行い、コアフコシル化ヒトIgG濃度と免疫複合体4の測定値との関係を表す検量線を作成する工程;
(5)工程(4)で作成された検量線と、工程(3)で測定された免疫複合体4の測定値とから、試料中のコアフコシル化ヒトIgG濃度を決定する工程。
【0106】
工程(1)及び工程(2)は順次行っても、同時に行ってもよい。工程(1)と工程(2)の間に洗浄工程を挿入してもよい。また、工程(2)と工程(3)の間に洗浄工程を挿入してもよい。工程(1)において、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体は、不溶性担体に固定化されていても、固定化されていなくてもよいが、固定化されていることが好ましい。抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片は、標識物質で標識化されていても、標識化されていなくてもよいが、標識化されていることが好ましい。標識化された抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を用いる場合には、工程(3)において、免疫複合体4の標識物質を測定すればよい。
【0107】
N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体が不溶性担体に固定化されている場合、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体が固定化された不溶性担体は抗原抗体反応の反応液中で生成されてもよく、この場合、一組の親和性物質の片方(B)が結合した、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体と、一組の親和性物質のもう一方(b)が結合した不溶性担体とを抗原抗体反応の反応液中で反応させることにより、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体が固定化された不溶性担体を抗原抗体反応の反応液中で生成させることができる。B-bの組み合わせとしては、例えば以下の組み合わせ等が挙げられる。
・ビオチン-アビジン類(アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジン等;
・アビジン類(アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジン等)-ビオチン;
・N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体のFc領域-N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体のFc領域と結合する抗体。
【0108】
・測定方法3(競合法1)
以下の工程を含有する、試料中のコアフコシル化ヒトIgGの測定方法。
(1)試料と、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質に標識物質が結合した標識化競合物質、及び、不溶性担体上に固定化された本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片とを反応させ、不溶性担体上に、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片と標識化競合物質の免疫複合体5、及び、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片とコアフコシル化ヒトIgGの免疫複合体6を生成させる工程;
(2)工程(1)で不溶性担体上に生成した、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片と標識化競合物質の免疫複合体5における標識物質を測定する工程;
(3)試料の代わりに既知濃度のコアフコシル化ヒトIgGを用いて前記工程(1)~(2)を行い、コアフコシル化ヒトIgG濃度と標識物質の測定値との関係を表す検量線を作成する工程;
(4)工程(3)で作成された検量線と、工程(2)で測定された標識物質の測定値とから、試料中のコアフコシル化ヒトIgG濃度を決定する工程。
【0109】
工程(1)と工程(2)の間に洗浄工程を挿入してもよい。
工程(1)において、試料と、不溶性担体上に固定化された抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片とを反応させた後、該反応の反応液に該標識化競合物質を添加してもよい。また、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が固定化された不溶性担体は抗原抗体反応の反応液中で生成されてもよく、この場合、一組の親和性物質の片方(C)が結合した抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片と、一組の親和性物質のもう一方(c)が結合した不溶性担体とを抗原抗体反応の反応液中で反応させることにより、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が固定化された不溶性担体を抗原抗体反応の反応液中で生成させることができる。C-cの組み合わせとしては、例えば以下の組み合わせ等が挙げられる。
・ビオチン-アビジン類(アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジン等);
・アビジン類(アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジン等)-ビオチン;
・抗コアフコシル化ヒトIgG抗体のFc領域-抗コアフコシル化ヒトIgG抗体のFc領域と結合する抗体。
【0110】
・測定方法4(競合法2)
以下の工程を含有する、試料中のコアフコシル化ヒトIgGの測定方法。
(1)試料を、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、及び、不溶性担体上に固定化された、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質と反応させ、不溶性担体上に、競合物質と抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片の免疫複合体7を生成させる工程;
(2)工程(1)で不溶性担体上に生成した免疫複合体7を測定する工程;
(3)試料の代わりに既知濃度のコアフコシル化ヒトIgGを用いて前記工程(1)~(2)を行い、コアフコシル化ヒトIgG濃度と免疫複合体7の測定値との関係を表す検量線を作成する工程;
(4)工程(3)で作成された検量線と、工程(2)で測定された免疫複合体7の測定値とから、試料中のコアフコシル化ヒトIgG濃度を決定する工程。
【0111】
工程(1)と工程(2)の間に洗浄工程を挿入してもよい。また、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片は、標識物質で標識化されていてもよい。標識化された抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を用いる場合には、工程(2)において、免疫複合体7の標識物質を測定すればよい。
【0112】
工程(1)において、試料と、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片とを反応させた後、該反応の反応液に、不溶性担体上に固定化された、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質を添加してもよい。また、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質が固定化された不溶性担体は抗原抗体反応の反応液中で生成されてもよく、この場合、一組の親和性物質の片方(D)が結合した、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質と、一組の親和性物質のもう一方(d)が結合した不溶性担体とを抗原抗体反応の反応液中で反応させることにより、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質が固定化された不溶性担体を抗原抗体反応の反応液中で生成させることができる。D-dの組み合わせとしては、例えば以下の組み合わせ等が挙げられる。
・ビオチン-アビジン類(アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジン等);
・アビジン類(アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジン等)-ビオチン。
【0113】
・測定方法5(抗原特異的なコアフコシル化ヒトIgGの測定方法1)
以下の工程を含有する、試料中のコアフコシル化ヒトIgGの測定方法。
(1)試料と、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原とを反応させて、抗原と試料中のコアフコシル化ヒトIgGの免疫複合体8を生成させる工程;
(2)工程(1)で生成した免疫複合体8と、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片とを反応させて、抗原、コアフコシル化ヒトIgG、及び、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片の免疫複合体9を生成させる工程;
(3)工程(2)で生成した免疫複合体9を測定する工程;
(4)試料の代わりに既知濃度のコアフコシル化ヒトIgGを用いて前記工程(1)~(3)を行い、コアフコシル化ヒトIgG濃度と免疫複合体9の測定値との関係を表す検量線を作成する工程;
(5)工程(4)で作成された検量線と、工程(3)で測定された免疫複合体9の測定値とから、試料中のコアフコシル化ヒトIgG濃度を決定する工程。
【0114】
工程(1)及び工程(2)は順次行っても、同時に行ってもよい。工程(1)と工程(2)の間に洗浄工程を挿入してもよい。また、工程(2)と工程(3)の間に洗浄工程を挿入してもよい。工程(1)において、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原は、不溶性担体に固定化されていても、固定化されていなくてもよいが、固定化されていることが好ましい。抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片は、標識物質で標識化されていても、標識化されていなくてもよいが、標識化されていることが好ましい。標識化された抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を用いる場合には、工程(3)において、免疫複合体9の標識物質を測定すればよい。
【0115】
コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原が不溶性担体に固定化されている場合、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原が固定化された不溶性担体は抗原抗体反応の反応液中で生成されてもよく、この場合、一組の親和性物質の片方(E)が結合したコアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原と、一組の親和性物質のもう一方(e)が結合した不溶性担体とを抗原抗体反応の反応液中で反応させることにより、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原が固定化された不溶性担体を抗原抗体反応の反応液中で生成させることができる。E-eの組み合わせとしては、例えば以下の組み合わせ等が挙げられる。
・ビオチン-アビジン類(アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジン等);
・アビジン類(アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジン等)-ビオチン。
【0116】
・測定方法6(抗原特異的なコアフコシル化ヒトIgGの測定方法2)
以下の工程を含有する、試料中のコアフコシル化ヒトIgGの測定方法。
(1)試料と、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片とを反応させて、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片と試料中のコアフコシル化ヒトIgGの免疫複合体10を生成させる工程;
(2)工程(1)で生成した免疫複合体10と、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原とを反応させて、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、コアフコシル化ヒトIgG、及び、抗原の免疫複合体11を生成させる工程;
(3)工程(2)で生成した免疫複合体11を測定する工程;
(4)試料の代わりに既知濃度のコアフコシル化ヒトIgGを用いて前記工程(1)~(3)を行い、コアフコシル化ヒトIgG濃度と免疫複合体11の測定値との関係を表す検量線を作成する工程;
(5)工程(4)で作成された検量線と、工程(3)で測定された免疫複合体11の測定値とから、試料中のコアフコシル化ヒトIgG濃度を決定する工程。
【0117】
工程(1)及び工程(2)は順次行っても、同時に行ってもよい。工程(1)と工程(2)の間に洗浄工程を挿入してもよい。また、工程(2)と工程(3)の間に洗浄工程を挿入してもよい。工程(1)において、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片は、不溶性担体に固定化されていても、固定化されていなくてもよいが、固定化されていることが好ましい。コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原は、標識物質で標識化されていても、標識化されていなくてもよいが、標識化されていることが好ましい。標識化された、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原を用いる場合には、工程(3)において、免疫複合体11の標識物質を測定すればよい。
【0118】
抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が不溶性担体に固定化されている場合、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が固定化された不溶性担体は抗原抗体反応の反応液中で生成されてもよく、この場合、一組の親和性物質の片方(F)が結合した抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片と、一組の親和性物質のもう一方(f)が結合した不溶性担体とを抗原抗体反応の反応液中で反応させることにより、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が固定化された不溶性担体を抗原抗体反応の反応液中で生成させることができる。F-fの組み合わせとしては、例えば以下の組み合わせ等が挙げられる。
・ビオチン-アビジン類(アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジン等);
・アビジン類(アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジン等)-ビオチン;
・抗コアフコシル化ヒトIgG抗体のFc領域-Fc領域と結合する抗体。
【0119】
本発明の測定方法における試料としては、本発明の測定方法を可能とする試料であれば特に制限はなく、例えば全血(血液)、血球、血清、血漿、髄液、尿、精漿、羊水、唾液、組織、培養細胞が挙げられ、血清及び血漿が好ましい。
【0120】
本発明における、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGとしては、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGであれば特に制限はなく、例えばコアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgG、及び、コアフコースが結合していないN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGが含まれる。
【0121】
本発明における、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体は、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGのいずれかの部分と結合する抗体であれば特に制限はなく、例えばコアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体、コアフコースが結合していないN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体、抗ヒトIgG抗体、抗N結合型糖鎖抗体等が挙げられる。
【0122】
本発明における、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGの競合物質としては、本発明の前記競合法1又は2による測定方法を可能とする競合物質であれば特に制限はなく、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体が認識するエピトープの構造と同じ構造を有している物質が好ましく、さらに本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体に対する結合の強さが、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体に対するコアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGの結合の強さと同程度であるものが好ましい。このような競合物質としては、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGそのものが例示される。
【0123】
コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原としては、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGが結合し得る抗原であれば特に制限はなく、例えば、前述の抗原等が挙げられる。
【0124】
本発明の測定方法は、ドライケミストリーでも溶液中の反応でも適用可能である。本発明の測定方法において、抗原抗体反応、すなわち、測定方法1、2、5、6における工程(1)及び工程(2)、並びに、測定方法3、4における工程(1)における反応温度としては、本発明の測定方法を可能とする反応温度であれば特に制限はなく、通常、0~50℃であり、4~40℃が好ましい。反応時間としては、本発明の測定方法を可能とする反応時間であれば特に制限はなく、通常、1分間~72時間であり、5分間~20時間が好ましい。
【0125】
洗浄工程において使用される洗浄液としては、本発明における抗原抗体反応の反応液を除去し得る洗浄液であれば特に制限はなく、例えばリン酸緩衝化生理食塩水[0.15mol/L塩化ナトリウムを含有する10mmol/Lリン酸緩衝液、pH7.2(以下、PBSと記す。)]、界面活性剤を含有するPBS、後述の水性媒体等を挙げることができる。該界面活性剤としては、例えばTween20等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0126】
本発明の測定方法における不溶性担体としては、本発明の測定方法を可能とする不溶性担体であれば特に制限はない。不溶性担体の好ましい素材としてはポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ゼラチン、アガロース、セルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、酢酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート等の高分子素材、ガラス、セラミックス、磁性粒子や金属等が挙げられる。不溶性担体の好ましい形状としてはチューブ、ビーズ、プレート、ラテックス等の微粒子、スティック等が挙げられ、96ウェル/枚のポリスチレン製マイクロタイタープレート等が好ましい。
【0127】
本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片の不溶性担体との結合、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体と不溶性担体との結合、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原と不溶性担体との結合、及び、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質と不溶性担体との結合としては、物理吸着、化学結合等が挙げられる。物理吸着としては、例えば静電的結合、水素結合、疎水結合等が挙げられる。化学結合としては、例えば共有結合、配位結合等が挙げられる。
【0128】
本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原、又は、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質は、前述の物理吸着及び/又は化学結合を利用して、直接、不溶性担体に固定化してもよく、間接的に不溶性担体に固定化してもよい。
【0129】
本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原、又は、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質を直接、不溶性担体に固定化する方法としては、例えば本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原、又は、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質の溶液を、不溶性担体であるポリスチレン製マイクロタイタープレートに具備されているウェルに添加して、1時間から1日間、4~30℃でインキュベートすることにより、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原、又は、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質をウェルに物理吸着させて固定化する方法等が挙げられる。
【0130】
本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原、又は、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質を、間接的に不溶性担体に固定化する方法としては、例えばビオチンとアビジン類(アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン等)との特異的結合を介して、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原、又は、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質を不溶性担体に固定化する方法等が挙げられる。また、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原、又は、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質は、リンカーを介した共有結合により不溶性担体に固定化してもよい。
【0131】
リンカーとしては、例えば、不溶性担体表面の官能基と、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原、又は、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質が有する官能基の両者を共有結合できる分子であれば特に制限はなく、例えば、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原、又は、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質が有する官能基と反応することができる第1の反応活性基と、不溶性担体表面の官能基と反応することができる第2の反応活性基とを同時に持つ分子であり、第1の反応活性基と第2の反応活性基が異なる基であることが好ましい。本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原、又は、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質の官能基及び不溶性担体がその表面に保持している官能基としては、例えばカルボキシル基、アミノ基、グリシジル基、スルフヒドリル基、水酸基、アミド基、イミノ基、N-ヒドロキシスクシンイミド基(NHS基)、マレイミド基等が挙げられる。リンカーにおける反応活性基としては、例えばアリルアジド、カルボジイミド、ヒドラジド、アルデヒド、ヒドロキシメチルホスフィン、イミドエステル、イソシアネート、マレイミド、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル、ペンタフルオロフェニル(PFP)エステル、ソラレン、ピリジルジスルフィド、ビニルスルホン等の基が挙げられる。
【0132】
測定方法1、2、5及び6における工程(3)において、各測定方法における工程(2)で生成した各免疫複合体(免疫複合体2;免疫複合体4;免疫複合体9;免疫複合体11)を測定する方法は、各測定方法における工程(2)で生成した各免疫複合体を測定し得る方法であれば特に制限はなく、例えば、水晶振動子を用いる方法、電極を用いる方法、凝集を測定する方法等が挙げられる。また、測定方法1の工程(2)におけるN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体が、標識物質で標識化されたN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体である場合、測定方法2及び測定方法5の工程(2)における本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が、標識物質で標識化された抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片である場合、及び、測定方法6の工程(2)におけるコアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原が、標識物質で標識化されたコアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原である場合、工程(3)において、各測定方法における工程(2)で生成した免疫複合体を測定する方法としては、各測定方法における工程(2)で生成した各免疫複合体中の標識物質を測定する方法等が挙げられる。
【0133】
測定方法3における工程(2)において、工程(1)で生成した免疫複合体5を測定する方法は、工程(1)で生成した免疫複合体5を測定し得る方法であれば特に制限はなく、例えば、水晶振動子を用いる方法、電極を用いる方法、凝集を測定する方法、標識物質を測定する方法等が挙げられる。
【0134】
測定方法4における工程(2)において、工程(1)で生成した免疫複合体7を測定する方法は、工程(1)で生成した免疫複合体7を測定し得る方法であれば特に制限はなく、例えば、水晶振動子を用いる方法、電極を用いる方法、凝集を測定する方法等が挙げられる。また、工程(1)における本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が、標識物質で標識化された抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片である場合、工程(2)において、工程(1)で生成した免疫複合体7を測定する方法としては、工程(1)で生成した免疫複合体中の標識物質を測定する方法等が挙げられる。
【0135】
標識物質としては酵素、蛍光物質、発光物質、放射性同位元素、ビオチン、ジゴキシゲニン、タグ配列を含むポリペプチド、金属コロイド粒子、着色ラテックス粒子等が挙げられる。酵素としては、例えば、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、ガラクトシダーゼ、グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ等が挙げられる。蛍光物質としては、例えば、FITC(フルオレッセイン イソチオシアナート)、RITC(ローダミンB-イソチオシアナート)等が挙げられる。その他の蛍光物質として、例えばquantum dot[Science,vol.281,p.2016-2018 (1998)]、フィコエリスリン等のフィコビリ蛋白質、GFP(Green fluorescent Protein)、RFP(Red fluorescent Protein)、YFP(Yellow fluorescent Protein)、BFP(Blue fluorescent Protein)等の蛍光を発する蛋白質が挙げられる。発光物質としては、例えば、アクリジニウム及びその誘導体、ルテニウム錯体化合物、ロフィン等が挙げられる。またルテニウム錯体化合物としては、電子供与体と共に電気化学的に発光する、Clin. Chem.,vol.37(9),p.1534-1539 (1991)に示されたものが好ましい。放射性同位元素としては、例えば、3H、14C、35S、32P、125I、131I等が挙げられる。
【0136】
タグ配列を含むポリペプチドとしては、FLAGペプチド(FLAGタグ、Asp Tyr Lys Asp Asp Asp Asp Lys)、ポリヒスチジン(Hisタグ、His His His His His His)、mycエピトープペプチド(mycタグ、Glu Gln Lys Leu Ile Ser Glu Glu Asp Leu)、ヘマグルチニンエピトープペプチド(HAタグ、Tyr Pro Tyr Asp Val Pro Asp Tyr Ala)等が挙げられる。
【0137】
N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGの競合物質、及び、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原の各物質の標識物質による標識化は、該各物質の官能基と標識物質の官能基との間で、リンカーを介して又は介さず共有結合を生じる反応によって行うことができる。官能基としては、カルボキシル基やアミノ基、グリシジル基、スルフヒドリル基、水酸基、アミド基、イミノ基、ヒドロキシサクシニルエステル基、マレイミド基、イソチオシアナート基等が挙げられる。この官能基同士の間で縮合反応を行わせることが可能である。
【0138】
リンカーを介さない結合方法としては例えば、EDC等のカルボジイミド化合物を用いる方法等が挙げられる。この場合、NHS又はその誘導体等の活性エステルを使用することも可能である。イソチオシアナート基とアミノ基の間の縮合反応は、他の試薬を必要とせず、中性~弱アルカリ性の条件で混合するだけで進行するため、好ましい。
【0139】
リンカーとしては、例えば、該各物質の官能基に反応する官能基と、標識物質の官能基に反応する官能基の両方の官能基を分子内に有するものが挙げられ、第2抗体のアミノ酸残基と反応することができる第1の官能基と、標識物質の官能基と反応することができる第2の官能基とを同一分子内に有する分子が好ましく、その中でも、第1の官能基と第2の官能基とが異なる基である分子が特に好ましい。リンカーの官能基としては、例えば前述の官能基が挙げられる。
【0140】
放射性同位元素を化学的に結合させる方法としては、例えば文献[Antibody Immunoconj. Radiopharm.,vol.3,p.60 (1990)]記載の方法が挙げられる。
【0141】
標識物質が酵素、アビジン、蛍光を発する蛋白質、フィコビリ蛋白質、タグ配列を含むポリペプチド等のポリペプチドである場合には、公知の遺伝子組換え技術[Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)]に従って、標識物質と抗体の融合蛋白質をコードするDNAを含む発現ベクターを作製し、発現ベクターを適当な宿主に導入して、宿主を培養することにより製造することができる。融合蛋白質をコードするDNAは、抗体及び標識物質をそれぞれコードするDNAをPCR等でクローニングし、それぞれのDNAをリガーゼ反応で連結することにより得ることができる。
【0142】
検出工程、すなわち、測定方法1、2、5及び6の工程(3)、及び、測定方法3及び4の工程(2)において、測定方法1、2、5及び6の工程(2)で生成した免疫複合体中の標識物質の量、及び、測定方法3及び4の工程(1)で生成した免疫複合体中の標識物質の量を測定する場合、標識物質の量の測定は、標識物質に応じて適切な方法を選択することができる。標識物質が発色物質、すなわち、ある波長の光を吸収する物質の場合には、分光光度計やマルチウェルプレートリーダー等を用いることができる。標識物質が蛍光物質の場合には、蛍光光度計や蛍光マルチウェルプレートリーダー等を用いることができる。標識物質が発光物質の場合には、発光光度計や発光マルチウェルプレートリーダー等を用いることができる。標識物質が放射性同位元素である場合、放射性同位元素の量は、放射活性をシンチレーションカウンター、γ-ウェルカウンター等により測定することができる。
【0143】
標識物質が酵素である場合、標識物質の量の測定とは、酵素活性を測定することを意味する。酵素の基質を該酵素と反応させ、生成した物質を測定することにより、酵素活性、すなわち、標識物質の量を測定することができる。酵素がペルオキシダーゼである場合には、例えば吸光度法、蛍光法、発光法等によりペルオキシダーゼ活性を測定することができる。吸光度法によりペルオキシダーゼ活性を測定する方法としては、例えばペルオキシダーゼとその基質である過酸化水素及び酸化発色型色原体の組み合わせとを反応させ、反応液の吸光度を分光光度計やマルチウェルプレートリーダー等で測定する方法等が挙げられる。酸化発色型色原体としては、例えばロイコ型色原体、酸化カップリング発色型色原体等が挙げられる。
【0144】
ロイコ型色原体は、過酸化水素及びペルオキシダーゼ等の過酸化活性物質の存在下、単独で色素へ変換される物質である。具体的には、テトラメチルベンジジン、o-フェニレンジアミン、10-N-カルボキシメチルカルバモイル-3,7-ビス(ジメチルアミノ)-10H-フェノチアジン(CCAP)、10-N-メチルカルバモイル-3,7-ビス(ジメチルアミノ)-10H-フェノチアジン(MCDP)、N-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミン ナトリウム塩(DA-64)、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミン、ビス〔3-ビス(4-クロロフェニル)メチル-4-ジメチルアミノフェニル〕アミン(BCMA)等が挙げられる。
【0145】
酸化カップリング発色型色原体は、過酸化水素及びペルオキシダーゼ等の過酸化活性物質の存在下、2つの化合物が酸化的カップリングして色素を生成する物質である。2つの化合物の組み合わせとしては、カプラーとアニリン類(トリンダー試薬)との組み合わせ、カプラーとフェノール類との組み合わせ等が挙げられる。カプラーとしては、例えば4-アミノアンチピリン(4-AA)、3-メチル-2-ベンゾチアゾリノンヒドラジン等が挙げられる。アニリン類としては、N-(3-スルホプロピル)アニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(TOOS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン(MAOS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン(DAOS)、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(TOPS)、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン(HDAOS)、N,N-ジメチル-3-メチルアニリン、N,N-ジ(3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)アニリン、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-(3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)アニリン、N-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N’-サクシニルエチレンジアミン(EMSE)、N-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N’-アセチルエチレンジアミン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-4-フルオロ-3,5-ジメトキシアニリン(F-DAOS)等が挙げられる。フェノール類としては、フェノール、4-クロロフェノール、3-メチルフェノール、3-ヒドロキシ-2,4,6-トリヨード安息香酸(HTIB)等が挙げられる。
【0146】
蛍光法によりペルオキシダーゼ活性を測定する方法としては、例えばペルオキシダーゼとその基質である過酸化水素及び蛍光物質の組み合わせとを反応させ、蛍光光度計や蛍光マルチウェルプレートリーダー等で生成した蛍光の強度を測定する方法等が挙げられる。該蛍光物質としては、例えば4-ヒドロキシフェニル酢酸、3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、クマリン等が挙げられる。
【0147】
発光法によるペルオキシダーゼ活性を測定する方法としては、例えばペルオキシダーゼとその基質である過酸化水素及び発光物質の組み合わせとを反応させ、発光強度計や発光マルチウェルプレートリーダー等で生成した発光の強度を測定する方法等が挙げられる。該発光物質としては、例えばルミノール化合物、ルシゲニン化合物等が挙げられる。
【0148】
酵素がアルカリホスファターゼである場合には、例えば発光法等によりアルカリホスファターゼ活性を測定することができる。発光法によりアルカリホスファターゼ活性を測定する方法としては、例えばアルカリホスファターゼとその基質とを反応させ、生成した発光の発光強度を発光強度計や発光マルチウェルプレートリーダー等で測定する方法等が挙げられる。アルカリホスファターゼの基質としては、例えば3-(2'-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3'-ホスホリルオキシ)フェニル-1,2-ジオキセタン・二ナトリウム塩(AMPPD)、2-クロロ-5-{4-メトキシスピロ[1,2-ジオキセタン-3,2'-(5'-クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン]-4-イル}フェニルホスフェート・二ナトリウム塩(CDP-Star(登録商標))、3-{4-メトキシスピロ[1,2-ジオキセタン-3,2'-(5'-クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン]-4-イル}フェニルホスフェート・二ナトリウム塩(CSPD(登録商標))、9-[(フェニルオキシ)(ホスホリルオキシ)メチリデン]-10-メチルアクリダン・二ナトリウム、9-[(4-クロロフェニルチオ)(ホスホリルオキシ)メチリデン]-10-メチルアクリダン・二ナトリウム(Lumigen(登録商標) APS-5)等が挙げられる。
【0149】
酵素がβ-D-ガラクトシダーゼである場合には、例えば吸光度法(比色法)、発光法又は蛍光法等によりβ-D-ガラクトシダーゼ活性を測定することができる。吸光度法(比色法)によりβ-D-ガラクトシダーゼ活性を測定する方法としては、例えば、β-D-ガラクトシダーゼとその基質とを反応させ、反応液の吸光度を分光光度計やマルチウェルプレートリーダー等で測定する方法等が挙げられる。β-D-ガラクトシダーゼの基質としては、例えば、o-ニトロフェニル-β-D-ガラクトピラノシド等が挙げられる。発光法によりβ-D-ガラクトシダーゼ活性を測定する方法としては、例えばβ-D-ガラクトシダーゼとその基質とを反応させ、反応液の発光強度を発光強度計や発光マルチウェルプレートリーダー等で測定する方法等が挙げられる。β-D-ガラクトシダーゼの基質としては、例えばガラクトン-プラス[Galacton-Plus、アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)社製]又はその類似化合物等が挙げられる。蛍光法によりβ-D-ガラクトシダーゼ活性を測定する方法としては、例えばβ-D-ガラクトシダーゼとその基質とを反応させ、反応液の蛍光度を蛍光光度計や蛍光マルチウェルプレートリーダー等で測定する方法等が挙げられる。β-D-ガラクトシダーゼの基質としては、例えば4-メチルウンベリフェリル-β-D-ガラクトピラノシド等が挙げられる。
【0150】
酵素がルシフェラーゼである場合には、例えば発光法等によりルシフェラーゼ活性を測定することができる。発光法によりルシフェラーゼ活性を測定する方法としては、例えばルシフェラーゼとその基質とを反応させ、反応液の発光強度を発光強度計や発光マルチウェルプレートリーダー等で測定する方法等が挙げられる。ルシフェラーゼの基質としては、例えばルシフェリン、セレンテラジン等が挙げられる。
【0151】
標識物質が蛍光物質、発光物質、放射性同位元素及び酵素以外の物質(物質Aとする)である場合は、物質Aに特異的に結合する物質(物質B)を蛍光物質、発光物質、放射性同位元素、酵素等で標識した標識化物質Bと、検出工程で生成した物質Aを含有する免疫複合体とを反応させて、物質A及び標識化物質Bを含有する免疫複合体を生成させて、生成したこの免疫複合体中の標識化物質Bの量を前述の方法により測定することにより、試料中の測定対象成分を測定することができる。物質Bとしては、例えば物質Aに対する抗体、アビジン(物質Aが、ビオチンの場合)、ストレプトアビジン(物質Aが、ビオチンの場合)、ビオチン(物質Aが、アビジン、ストレプトアビジンの場合)等が挙げられる。物質Aに対する抗体としては、抗体フラグメントでもよく、抗体フラグメントとしては、例えば前述のFab、F(ab’)2、Fab’等が挙げられる。
【0152】
本発明の測定方法において、抗原抗体反応、すなわち、測定方法1、2、5及び6の工程(1)及び工程(2)、及び、測定方法3及び4の工程(1)は水性媒体中で行われてもよい。また、本発明の測定方法において、検出工程は水性媒体中で行われてもよい。本発明の測定方法において使用される水性媒体としては、本発明の測定方法を可能とする水性媒体であれば特に制限はなく、例えば脱イオン水、蒸留水、緩衝液等が挙げられ、緩衝液が好ましい。緩衝液の調製に使用される緩衝剤としては、緩衝能を有するものならば特に限定されないが、pH1~11の例えば乳酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、コハク酸緩衝剤、フタル酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、トリエタノールアミン緩衝剤、ジエタノールアミン緩衝剤、リジン緩衝剤、バルビツール緩衝剤、イミダゾール緩衝剤、リンゴ酸緩衝剤、シュウ酸緩衝剤、グリシン緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、グリシン緩衝剤、トリス緩衝剤、グッド緩衝剤等が挙げられる。
【0153】
グッド緩衝剤としては、例えば2-モルホリノエタンスルホン酸(MES)緩衝剤、ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis-Tris)緩衝剤、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)緩衝剤、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)緩衝剤、ピペラジン-N,N’-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)緩衝剤、2-[N-(2-アセトアミド)アミノ]エタンスルホン酸(ACES)緩衝剤、3-モルホリノ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(MOPSO)緩衝剤、2-[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]エタンスルホン酸(BES)緩衝剤、3-モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)緩衝剤、2-{N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}エタンスルホン酸(TES)緩衝剤、N-(2-ヒドロキシエチル)-N’-(2-スルホエチル)ピペラジン(HEPES)緩衝剤、3-[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(DIPSO)緩衝剤、2-ヒドロキシ-3-{[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}プロパンスルホン酸(TAPSO)緩衝剤、ピペラジン-N,N’-ビス(2-ヒドロキシプロパン-3-スルホン酸)(POPSO)緩衝剤、N-(2-ヒドロキシエチル)-N’-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)ピペラジン(HEPPSO)緩衝剤、N-(2-ヒドロキシエチル)-N’-(3-スルホプロピル)ピペラジン(EPPS)緩衝剤、トリシン[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン]緩衝剤、ビシン[N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン]緩衝剤、3-[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノプロパンスルホン酸(TAPS)緩衝剤、2-(N-シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES)緩衝剤、3-(N-シクロヘキシルアミノ)-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(CAPSO)緩衝剤、3-(N-シクロヘキシルアミノ)プロパンスルホン酸(CAPS)緩衝剤等が挙げられる。
【0154】
緩衝液の濃度は測定に適した濃度であれば特に制限はされないが、0.001~2.0mol/Lが好ましく、0.005~1.0mol/Lがより好ましく、0.01~0.1mol/Lが特に好ましい。
【0155】
本発明の測定方法においては、金属イオン、塩類、糖類、防腐剤、蛋白質、蛋白質安定化剤等を共存させることができる。金属イオンとしては、例えばマグネシウムイオン、マンガンイオン、亜鉛イオン等が挙げられる。塩類としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム等が挙げられる。糖類としては、例えばマンニトール、ソルビトール等が挙げられる。防腐剤としては、例えばアジ化ナトリウム、抗生物質(ストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン等)、バイオエース、プロクリン300、プロキセル(Proxel)GXL等が挙げられる。蛋白質としては、例えばウシ血清アルブミン(BSA)、ウシ胎児血清(FBS)、カゼイン、ブロックエース(大日本製薬社製)等が挙げられる。蛋白質安定化剤としては、例えばペルオキシダーゼ安定化緩衝液[Peroxidase Stabilizing Buffer、ダコサイトメーション(DakoCytomation)社製]等が挙げられる。
【0156】
[3]コアフコシル化ヒトIgG測定試薬
本発明のコアフコシル化ヒトIgG測定試薬は、本発明のコアフコシル化ヒトIgGの測定方法に用いられる試薬であり、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を含有することを特徴とする試薬である。本発明の測定試薬の具体的態様を以下に示す。
【0157】
・測定試薬1
本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を含む、試料中のコアフコシル化ヒトIgG測定試薬。
【0158】
・測定試薬2
不溶性担体に固定化された、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を含む、試料中のコアフコシル化ヒトIgG測定試薬。
抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が固定化された不溶性担体は、試料と抗コアフコシル化ヒトIgG抗体との反応の反応液中で生成されてもよい。この場合、本発明の測定試薬には、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が固定化された不溶性担体の代わりに、一組の親和性物質の片方(G)が結合した抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片と、一組の親和性物質のもう一方(g)が結合した不溶性担体とが含まれる。一組の親和性物質の組み合わせ、すなわち、Gとgの組み合わせとしては、例えば以下の組み合わせ等が挙げられる。
・ビオチン-アビジン類(アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジン等);
・アビジン類(アビジン、ニュートラアビジン、ストレプトアビジン等)-ビオチン;
・抗コアフコシル化ヒトIgG抗体のFc領域-Fc領域と結合する抗体。
【0159】
・測定試薬3
本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、及び、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体を含む、試料中のコアフコシル化ヒトIgG測定試薬。
【0160】
・測定試薬4
不溶性担体に固定化された、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、及び、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体を含む、試料中のコアフコシル化ヒトIgG測定試薬。
N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体は、標識物質により標識化されていることが好ましい。また、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が固定化された不溶性担体は、試料と抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片との反応の反応液中で生成されてもよい。この場合、本発明の測定試薬には、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が固定化された不溶性担体の代わりに、一組の親和性物質の片方(A)が結合した抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片と、一組の親和性物質のもう一方(a)が結合した不溶性担体とが含まれる。一組の親和性物質の組み合わせ、すなわち、Aとaの組み合わせとしては、例えば前述のAとaの組み合わせ等が挙げられる。
【0161】
・測定試薬5
不溶性担体に固定化された、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体、及び、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を含む、試料中のコアフコシル化ヒトIgG測定試薬。
抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片は、標識物質により標識化されていることが好ましい。また、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体が固定化された不溶性担体は、試料と、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体との反応の反応液中で生成されてもよい。この場合、本発明の測定試薬には、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体が固定化された不溶性担体の代わりに、一組の親和性物質の片方(B)が結合した、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体と、一組の親和性物質のもう一方(b)が結合した不溶性担体とが含まれる。
一組の親和性物質の組み合わせ、すなわち、Bとbの組み合わせとしては、例えば前述のBとbの組み合わせ等が挙げられる。
【0162】
・測定試薬6
不溶性担体上に固定化された、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、及び、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質に標識物質が結合した標識化競合物質を含む、試料中のコアフコシル化ヒトIgG測定試薬。
抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が固定化された不溶性担体は、試料と抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片との反応の反応液中で生成されてもよい。この場合、本発明の測定試薬には、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が固定化された不溶性担体の代わりに、一組の親和性物質の片方(C)が結合した抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片と、一組の親和性物質のもう一方(c)が結合した不溶性担体とが含まれる。一組の親和性物質の組み合わせ、すなわち、Cとcの組み合わせとしては、例えば前述のCとcの組み合わせ等が挙げられる。
【0163】
・測定試薬7
不溶性担体上に固定化された、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質、及び、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を含む、試料中のコアフコシル化ヒトIgG測定試薬。
抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片は、標識物質により標識化されていてもよい。また、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質が固定化された不溶性担体は、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質と抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片との反応の反応液中で生成されてもよい。この場合、本発明の測定試薬には、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質が固定化された不溶性担体の代わりに、一組の親和性物質の片方(D)が結合したコアフコシル化ヒトIgGの競合物質と、一組の親和性物質のもう一方(d)が結合した不溶性担体とが含まれる。一組の親和性物質の組み合わせ、すなわち、Dとdの組み合わせとしては、例えば前述のDとdの組み合わせ等が挙げられる。
【0164】
・測定試薬8
本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、及び、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原を含む、試料中のコアフコシル化ヒトIgG測定試薬。
【0165】
・測定試薬9
不溶性担体上に固定化された、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原、及び、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を含む、試料中のコアフコシル化ヒトIgG測定試薬。
抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片は、標識物質で標識化されていることが好ましい。また、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原が固定化された不溶性担体は、試料と、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原との反応の反応液中で生成されてもよい。この場合、本発明の測定試薬には、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原が固定化された不溶性担体の代わりに、一組の親和性物質の片方(E)が結合した、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原と、一組の親和性物質のもう一方(e)が結合した不溶性担体とが含まれる。一組の親和性物質の組み合わせ、すなわち、Eとeの組み合わせとしては、例えば前述のEとeの組み合わせ等が挙げられる。
【0166】
・測定試薬10
不溶性担体上に固定化された、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、及び、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原を含む、試料中のコアフコシル化ヒトIgG測定試薬。
コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原は、標識物質で標識化されていることが好ましい。また、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が固定化された不溶性担体は、試料と抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片との反応の反応液中で生成されてもよい。この場合、本発明の測定試薬には、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が固定化された不溶性担体の代わりに、一組の親和性物質の片方(F)が結合した抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片と、一組の親和性物質のもう一方(f)が結合した不溶性担体とが含まれる。一組の親和性物質の組み合わせ、すなわち、Fとfの組み合わせとしては、例えば前述のFとfの組み合わせ等が挙げられる。
【0167】
本発明の測定試薬は、保存、運搬、流通等の観点から、キットの形態を取ることもできる。キットの形態としては、例えば2試薬系キット、3試薬系キット等が挙げられる。本発明の測定キットの具体的態様を以下に示す。
【0168】
・測定キット1
本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を含有する第1試薬と、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体を含有する第2試薬とを含むキット。
【0169】
・測定キット2
不溶性担体に固定化された、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を含有する第1試薬と、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体を含有する第2試薬とを含むキット。
N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体は、標識物質により標識化されていることが好ましい。抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が固定化された不溶性担体は、試料と抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片との反応の反応液中で生成されてもよい。この場合、本発明の測定キットには、一組の親和性物質の片方(A)が結合した抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片と、一組の親和性物質のもう一方(a)が結合した不溶性担体とがそれぞれ別の試薬に含まれることが好ましく、例えば測定キット3の態様が挙げられる。一組の親和性物質の組み合わせ、すなわち、Aとaの組み合わせとしては、例えば前述のAとaの組み合わせ等が挙げられる。
【0170】
・測定キット3
一組の親和性物質の片方(A)が結合した抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を含有する第1試薬と、一組の親和性物質のもう一方(a)が結合した不溶性担体を含有する第2試薬と、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体を含有する第3試薬とを含むキット。
一組の親和性物質の組み合わせ、すなわち、Aとaの組み合わせとしては、例えば前述のAとaの組み合わせ等が挙げられる。
【0171】
・測定キット4
不溶性担体に固定化された、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体を含有する第1試薬と、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を含有する第2試薬とを含むキット。
抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片は、標識物質により標識化されていることが好ましい。N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体が固定化された不溶性担体は、試料と、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体との反応の反応液中で生成されてもよい。この場合、本発明の測定キットには、一組の親和性物質の片方(B)が結合した、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体と、一組の親和性物質のもう一方(b)が結合した不溶性担体とがそれぞれ別の試薬に含まれることが好ましく、例えば測定キット5の態様が挙げられる。一組の親和性物質の組み合わせ、すなわち、Bとbの組み合わせとしては、例えば前述のBとbの組み合わせ等が挙げられる。
【0172】
・測定キット5
一組の親和性物質の片方(B)が結合した、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体を含有する第1試薬と、一組の親和性物質のもう一方(b)が結合した不溶性担体を含有する第2試薬と、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を含有する第3試薬とを含むキット。
一組の親和性物質の組み合わせ、すなわち、Bとbの組み合わせとしては、例えば前述のBとbの組み合わせ等が挙げられる。
【0173】
・測定キット6
不溶性担体に固定化された、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を含有する第1試薬と、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質に標識物質が結合した標識化競合物質を含む第2試薬とを含有するキット。
抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が固定化された不溶性担体は、試料と抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片との反応の反応液中で生成されてもよい。この場合、本発明の測定キットには、一組の親和性物質の片方(C)が結合した抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片と、一組の親和性物質のもう一方(c)が結合した不溶性担体とがそれぞれ別の試薬に含まれることが好ましく、例えば測定キット7の態様が挙げられる。一組の親和性物質の組み合わせ、すなわち、Cとcの組み合わせとしては、例えば前述のCとcの組み合わせ等が挙げられる。
【0174】
・測定キット7
一組の親和性物質の片方(C)が結合した抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を含有する第1試薬と、一組の親和性物質のもう一方(c)が結合した不溶性担体を含有する第2試薬と、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質に標識物質が結合した標識化競合物質を含有する第3試薬とを含むキット。
一組の親和性物質の組み合わせ、すなわち、Cとcの組み合わせとしては、例えば前述のCとcの組み合わせ等が挙げられる。
【0175】
・測定キット8
不溶性担体に固定化された、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質を含有する第1試薬と、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を含有する第2試薬とを含むキット。
抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片は、標識物質により標識化されていてもよい。また、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質が固定化された不溶性担体は、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質と抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片との反応の反応液中で生成されてもよい。この場合、本発明の測定キットには、一組の親和性物質の片方(D)が結合したコアフコシル化ヒトIgGの競合物質と、一組の親和性物質のもう一方(d)が結合した不溶性担体とがそれぞれ別の試薬に含まれることが好ましく、例えば測定キット9の態様が挙げられる。一組の親和性物質の組み合わせ、すなわち、Dとdの組み合わせとしては、例えば前述のDとdの組み合わせ等が挙げられる。
【0176】
・測定キット9
一組の親和性物質の片方(D)が結合した、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質を含有する第1試薬と、一組の親和性物質のもう一方(d)が結合した不溶性担体を含有する第2試薬と、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を含有する第3試薬とを含むキット。
一組の親和性物質の組み合わせ、すなわち、Dとdの組み合わせとしては、例えば前述のDとdの組み合わせ等が挙げられる。
【0177】
・測定キット10
本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を含有する第1試薬と、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原を含有する第2試薬とを含むキット。
【0178】
・測定キット11
不溶性担体上に固定化された、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原を含有する第1試薬と、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を含有する第2試薬とを含むキット。
抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片は、標識物質で標識化されていることが好ましい。また、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原が固定化された不溶性担体は、試料とコアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原との反応の反応液中で生成されてもよい。この場合、本発明の測定キットには、一組の親和性物質の片方(E)が結合した、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原と、一組の親和性物質のもう一方(e)が結合した不溶性担体とがそれぞれ別の試薬に含まれることが好ましく、例えば測定キット12の態様が挙げられる。一組の親和性物質の組み合わせ、すなわち、Eとeの組み合わせとしては、例えば前述のEとeの組み合わせ等が挙げられる。
【0179】
・測定キット12
一組の親和性物質の片方(E)が結合した、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原を含有する第1試薬と、一組の親和性物質のもう一方(e)が結合した不溶性担体を含有する第2試薬と、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を含有する第3試薬とを含むキット。
一組の親和性物質の組み合わせ、すなわち、Eとeの組み合わせとしては、例えば前述のEとeの組み合わせ等が挙げられる。
【0180】
・測定キット13
不溶性担体上に固定化された、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を含有する第1試薬と、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原を含有する第2試薬とを含有するキット。
コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原は、標識物質で標識化されていることが好ましい。また、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が固定化された不溶性担体は、試料と抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片との反応の反応液中で生成されてもよい。この場合、本発明の測定キットには、一組の親和性物質の片方(F)が結合した抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片と、一組の親和性物質のもう一方(f)が結合した不溶性担体とがそれぞれ別の試薬に含まれることが好ましく、例えば測定キット14の態様が挙げられる。一組の親和性物質の組み合わせ、すなわち、Fとfの組み合わせとしては、例えば前述のFとfの組み合わせ等が挙げられる。
【0181】
・測定キット14
一組の親和性物質の片方(F)が結合した抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を含有する第1試薬と、一組の親和性物質のもう一方(f)が結合した不溶性担体を含有する第2試薬と、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原を含有する第3試薬とを含むキット。
一組の親和性物質の組み合わせ、すなわち、Fとfの組み合わせとしては、例えば前述のFとfの組み合わせ等が挙げられる。
本発明の測定試薬及び測定キットにおける抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質、標識物質、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原、不溶性担体としては、例えば前述の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片、N結合型糖鎖をFc領域に含むヒトIgGに結合する抗体、コアフコシル化ヒトIgGの競合物質、標識物質、コアフコシル化ヒトIgGが反応する抗原、不溶性担体がそれぞれ挙げられる。
【0182】
本発明の測定試薬及び測定キットは、必要に応じて、水性媒体、金属イオン、塩類、糖類、防腐剤、蛋白質、蛋白質安定化剤等を含有することができる。水性媒体、金属イオン、塩類、糖類、防腐剤、蛋白質、蛋白質安定化剤としては、例えば前述の水性媒体、金属イオン、塩類、糖類、防腐剤、蛋白質、蛋白質安定化剤等がそれぞれ挙げられる。本発明の測定試薬及び測定キットの形態としては、本発明の測定方法を可能とする形態であれば特に制限はなく、例えば溶液形態、凍結乾燥形態等の形態を取ることができる。
【0183】
[4]コアフコシル化ヒトIgGの精製方法
本発明のコアフコシル化ヒトIgGの精製方法は、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を用いる精製方法である。本発明のコアフコシル化ヒトIgGの精製方法は、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片を用いて、試料中のコアフコシル化ヒトIgGを精製できれば特に制限はなく、例えば以下の工程を含む精製方法等が挙げられる。
(1)試料と、本発明の抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片とを反応させて、試料中のコアフコシル化ヒトIgGと抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片の免疫複合体を生成させる工程;
(2)工程(1)で生成した免疫複合体から、コアフコシル化ヒトIgGを遊離させる工程;
(3)工程(2)で遊離したコアフコシル化ヒトIgGを回収する工程。
【0184】
抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片は、不溶性担体に固定化されていても、固定化されていなくてもよいが、不溶性担体に固定化されていることが好ましい。すなわち、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が固定化されている不溶性担体は、試料中のコアフコシル化ヒトIgGの精製に好適に使用される。試料としては、例えば前述の試料等が挙げられる。不溶性担体としては、例えば前述の不溶性担体等が挙げられる。
【0185】
抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が不溶性担体に固定化されている場合、工程(1)と工程(2)の間に、抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が固定化されている不溶性担体に結合した試料中のコアフコシル化ヒトIgG以外の物質を洗浄液で洗い流す工程が含まれていてもよい。洗浄液としては、不溶性担体上に生成した、コアフコシル化ヒトIgGと抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片の免疫複合体を安定に保持し、不溶性担体から該免疫複合体を遊離させることなく、試料中のコアフコシル化ヒトIgG以外の物質を洗い流すことができる洗浄液であれば特に制限はなく、例えばPBS緩衝液等が挙げられる。
【0186】
抗コアフコシル化ヒトIgG抗体又は該抗体断片が不溶性担体に固定化されている場合、工程(2)において、工程(1)で生成した免疫複合体からコアフコシル化ヒトIgGを遊離させるために溶離液が使用される。溶離液としては、工程(1)で生成した免疫複合体を遊離させることなく、該免疫複合体からコアフコシル化ヒトIgGを遊離させる溶液であれば特に制限はなく、例えばグリシン-塩酸溶液等が挙げられる。
【0187】
工程(3)において、遊離したコアフコシル化ヒトIgGを回収し、精製されたコアフコシル化ヒトIgGを得ることができる。
【実施例】
【0188】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を何ら限定するものではない。尚、以下の実施例においては、次のメーカーの試薬類を使用した。
【0189】
Tris(和光純薬工業社製)、EDTA(同仁化学研究所社製)、塩化カリウム(和光純薬工業社製)、塩化ナトリウム(和光純薬工業社製)、リン酸水素二ナトリウム(関東化学社製)、リン酸二水素ナトリウム(関東化学社製)、リン酸二水素カリウム(和光純薬工業社製)、塩化マグネシウム(和光純薬工業社製)、クマシー・ブリリアント・ブルー(ナカライテスク社製)、BSA(プロライアント社製)、Tween20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート;関東化学社製)、TMB-ONE(主成分:3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン;ケム・エン・テック社製)、0.5mol/L 硫酸(和光純薬工業社製)、過ヨウ素酸ナトリウム(和光純薬工業社製)、エチレングリコール(和光純薬工業社製)、グリシン(関東化学社製)、炭酸水素ナトリウム(和光純薬工業社製)、クエン酸(和光純薬工業社製)、クエン酸ナトリウム(和光純薬工業社製)、重炭酸アンモニウム(和光純薬工業社製)、DTT(ジチオトレイトール;シグマアルドリッチ社製)、ヨードアセトアミド(和光純薬工業社製)、塩酸(和光純薬工業社製)、酢酸(和光純薬工業社製)、アセトニトリル(和光純薬工業社製)、グアニジン(和光純薬工業社製)、トリエチルアミン(和光純薬工業社製)、メタノール(和光純薬工業社製)、無水酢酸(和光純薬工業社製)、DMSO(和光純薬工業社製)、MTT(1-メチル-3-p-トリルトリアゼン、東京化成工業社製)。
【0190】
[参考例1]抗原の調製
(1)抗原発現ベクターの調製
(1-1)変異型ヒトIgG4Fc領域を有するベクターpBShCγ4SPの構築
国際公開第1997/10354号に記載の野生型ヒトIgG4サブクラスの定常領域をコードするcDNAを有するプラスミドpBShCγ4を用いて、野生型ヒトIgG4サブクラスの定常領域(ヒンジ領域)の108番目のSerがProに置換された変異型ヒトIgG4サブクラスの定常領域を有するプラスミドpBShCγ4SPを構築した。
本改変を行うことによりIgGヒンジ領域を介した2量体形成が安定化することが知られている(モレキュラー・イムノロジー、30,105,1993)。
【0191】
鋳型としてプラスミドpBShCγ4の1ngを含む50μLの反応液[10mM Tris-HCl(pH8.3)、50mM 塩化カリウム、1.5mM塩化マグネシウム、0.001% ゼラチン、200μM dNTPs、0.5μM Primer1、0.5μM Primer2及び2unitsのTaKaRa Ex Taq DNA polymerase]を調製し、GeneAmp PCR system 9700(パーキンエルマー社製)を用いて94℃にて2分間、55℃にて2分間、72℃にて2分間のサイクルを30サイクル行った。
【0192】
該反応液をQIAquick PCR Purification Kit(キアゲン社製)を用いて添付の使用説明書に従い精製した後、制限酵素EcoT14I(タカラバイオ社製)で処理し、0.8%アガロースゲル電気泳動にて分離後、QIAquick Gel Extraction Kit(キアゲン社製)を用いて添付の使用説明書に従い、増幅断片を回収した。
【0193】
プラスミドpBShCγ4を制限酵素EcoT14Iで切断後、Alkaline phosphatase(タカラバイオ社製)処理により5’末端のリン酸を除去し、同様に0.8%アガロースゲル電気泳動にて分離後、QIAquick Gel Extraction Kitを用いて添付の使用説明書に従い、プラスミド断片を回収した。前記で回収した増幅断片とプラスミドpBShCγ4由来のプラスミド断片を連結し、目的のcDNAを含むプラスミドpBShCγ4SPを構築した。
【0194】
(1-2)ヒトIgG4Fc領域の部分配列を含むcDNAのクローニング
以下に示すPCRを行うことにより、5’末端に制限酵素NotIサイト、3’末端にBamHI制限酵素サイトを有するヒトIgG4Fc領域をコードするDNA断片を増幅した。0.2mmol/L dNTPs、1mmol/L塩化マグネシウムを含む反応液に、前記(1-1)で構築したpBShCγ4SP 25 ng、1μmol/L 前記の制限酵素サイトを有するヒトIgG4Fc領域をコードするDNA断片を特異的に増幅する2種類のプライマー、及び2.5単位のKOD polymerase(東洋紡社製)を用いて、合計50μLとし、PCRを行った。
【0195】
反応条件は98℃ 15秒間、68℃ 30秒間のサイクルを25サイクルで行った。該反応液を2%アガロースゲル電気泳動で分離後、約700 bpのPCR産物をZero Blunt PCR Cloning Kit(インビトロジェン社製)を用いて添付の使用説明書に従ってpCR-Bluntベクターに導入した。本プラスミドをpCRIgG4FcNotIBamHIとした。
【0196】
(1-3)FLAGタグをコードするDNAの合成
5’末端に制限酵素BamHIサイト、3’末端にSalI制限酵素サイトを有するFLAGタグをコードするDNA断片を、固相合成法により合成した。
【0197】
(1-4)動物細胞用発現ベクターpKANTEX XhoI/SalIの構築
国際公開第1997/10354号に記載されているヒト化抗体発現ベクターpKANTEX93を制限酵素XhoI(タカラバイオ社製)及び制限酵素SalI(タカラバイオ社製)で消化後、0.8%アガロースゲル電気泳動で分離後、Gel Extraction Kit(キアゲン社製)を用いて約9.8 kbpのプラスミド断片を回収した。回収したDNA断片の5’及び3’末端をDNA Ligation Kit(タカラバイオ社製)を用いて連結し、得られた組換えプラスミドDNAを用いて大腸菌DH5α株(東洋紡社製)を形質転換した。
【0198】
得られた複数のアンピシリン耐性コロニーより、QIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン社製)を用いて組換えプラスミドDNAを単離し、抗体軽鎖の発現ユニットが除かれていることを制限酵素NotI(タカラバイオ社製)及びKpnI(タカラバイオ社製)消化により確認した。該プラスミドをpKANTEX XhoI/SalIと命名した。
【0199】
(1-5)ヒトIgG4 Fc領域発現プラスミドpKANTEX hIgG4Fc-FLAGの作製
前記(1-2)で作製したpCRIgG4FcNotIBamHIを、NotI及びBamHIを用いて消化することにより得られる断片、及び、前記(1-3)で作製した、5’末端に制限酵素BamHIサイト、3’末端にSalI制限酵素サイトを有するFLAGタグをコードするDNA断片を、前記(1-4)で得られたpKANTEX XhoI/SalIをNotI及びSalI消化して得られる約8.8kbpのDNA断片に連結することにより、ヒトIgG4のFc領域に、該ヒトIgG4のFc領域のC末端にFLAGタグを付加した融合蛋白質を発現するためのプラスミドpKANTEX hIgG4Fc-FLAGを得た(
図2)。
【0200】
該pKANTEX hIgG4Fc-FLAGを、公知の方法(Molecular Cloning A Laboratory Manual,2nd Edition published by Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)で大腸菌DH5αに導入した。アンピシリン耐性を獲得した大腸菌DH5αを100mLのLB培地(ベクトン・ディッキンソン・バイオサイエンス社製)に播種し、37℃で12時間培養を行った後に菌体を回収し、Qiafilter Plasmid Midi Kit(キアゲン社製)を用いてプラスミドDNAを精製した。該プラスミドDNA 30μgを、制限酵素BspEI(ニュー・イングランド・バイオラボ社製)を用いて37℃で12時間反応させ、線状化した。線状化後、フェノール・クロロフォルム抽出処理及びエタノール沈殿を行い、回収した該線状化DNAを、プラスミド溶解液[1mmol/L Tris-HCl(pH8.0)、0.1mmol/LEDTA]に溶解し、抗原発現ベクターを調製した。
【0201】
(2)抗原hIgG4Fc-FLAGの発現
BIOTECHNOLOGY AND BIOENGINEERING,87,614(2004)に記載の方法に従い、CHO細胞のゲノム上のすべてのFut8をコードする遺伝子をすべて破壊したFut8ノックアウトCHO細胞(以下、Fut8KO CHO細胞と記載する)を樹立した。樹立したFut8KO CHO細胞及びその親株であるCHO細胞に、エレクトポレーション法により(1)で調製した抗原発現ベクター、すなわち、線状化プラスミドDNA pKANTEX hIgG4Fc-FLAGを導入した。エレクトロポレーション法による遺伝子導入は以下の手順で行った。基本培地[10%(v/v) ウシ胎児血清(インビトロジェン社製)、50μg/mL Gentamycin(ナカライテスク社製)を添加したIscove’s Modified Dulbecco’s Medium(インビトロジェン社製)]で継代した各CHO細胞を、K-PBS緩衝液[137mmol/L 塩化カリウム、2.7 mmol/L 塩化ナトリウム、8.1 mmol/L リン酸水素二ナトリウム、1.5mmol/L リン酸二水素カリウム、4mmol/L 塩化マグネシウム]に懸濁して8×106個/mLとし、細胞懸濁液を調製した。調製した細胞懸濁液200μL(1.8×106個)を前記(1)で調製した線状化プラスミドDNA pKANTEX hIgG4Fc-FLAG 10μgと混合した。この細胞-DNA混合液を電極間距離が2mmであるGene Pulser Cuvette(バイオラッド社製)へ移した後、遺伝子導入装置Gene Pulser II(バイオラッド社製)を用いて、パルス電圧0.35kV、電気容量250μFの条件で遺伝子導入を行った。この細胞懸濁液を基本培地10mLに混和し、75cm2接着細胞用フラスコ(グライナー社製)に播種し、37℃、5% CO2インキュベーター内で培養を行った。3日間培養した後、G418(シグマアルドリッチ社製)を最終濃度が0.5mg/mLになるように添加して、さらに10日間培養した。10日後、182cm2接着細胞用フラスコ(グライナー社製)に継代し、コンフルエントになるまで培養を続けた。コンフルエントになった時点で、CHO細胞用無血清培地Hyclone CDM4CHO(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)に培地交換を行い、1週間培養後に培養上清を回収した。
【0202】
(3)抗原hIgG4Fc-FLAGの精製
(2)で培養を行った培養上清を、3000rpm、4℃の条件で10分間遠心分離し、上清を回収した後、0.22μm孔径セルロースアセテートメンブレン(コーニング社製)を用いて上清を濾過した。rProtein A GraviTrapカラム(GEヘルスケア・ジャパン社製)をPBS緩衝液[150mmol/L 塩化ナトリウムを含有する、10mmol/L リン酸緩衝液(pH7.4)]で平衡化後、濾過済み培養上清をカラムに通塔し、PBS緩衝液で洗浄後、rProtein Aに結合したhIgG4Fc-FLAGを0.1mol/L グリシン-HCl溶液(pH2.7)で溶出した。hIgG4Fc-FLAGを含む溶出液の溶媒を、PD-10カラム(GEヘルスケア・ジャパン社製)でPBS緩衝液に置換後、280nmの吸光度を測定し、hIgG4Fc-FLAGのアミノ酸配列から導かれるモル吸光係数を用いてhIgG4Fc-FLAG濃度を算出した。CHO細胞及びFut8KO CHO細胞の約300mLの培養上清から、それぞれ約5mgのhIgG4Fc-FLAGを得た。精製したhIgG4Fc-FLAG 2.5μgをSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動し、クマシー・ブリリアント・ブルーで染色した結果を
図3に示す。いずれの細胞由来のhIgG4Fc-FLAGも、還元条件下においては分子量約30kDaの位置にバンドが観察された。また非還元条件においては、還元条件でみられたバンドの約2倍の分子量を示す位置にバンドが観察されたことから、hIgG4Fc-FLAGは2量体として存在していることがわかった。
【0203】
(4)精製hIgG4Fc-FLAGのレクチン反応性
前記(3)で精製した、CHO細胞由来のhIgG4Fc-FLAG及びFut8KO CHO細胞由来のhIgG4Fc-FLAGにおけるN結合型糖鎖及びコアフコースの有無を確認するため、hIgG4Fc-FLAGに対する各種レクチンの反応性を解析した。それぞれのhIgG4Fc-FLAGをPBS緩衝液で5μg/mLに調製し、96ウェルのEIA用プレート(ヌンク社製)に該hIgG4Fc-FLAGを50μL/ウェルずつ分注し、25℃で12時間静置し、CHO細胞由来のhIgG4Fc-FLAGが固相化されたウェル、又はFut8KO CHO細胞由来のhIgG4Fc-FLAGが固相化されたウェルを作製した。この際、PBS緩衝液のみを50μL分注したウェルを用意し、ブランク用ウェルとした。ついで、各ウェルにブロッキング液[1%(w/v) BSA、0.05%(v/v) Tween20、150mmol/L 塩化ナトリウムを含有する、10mmol/L リン酸緩衝液(pH7.4)]を200μL/ウェル分注し、25℃で2時間静置してプレートをブロッキングした。その後ブロッキング液を捨て、350μLの洗浄液[0.05%(v/v) Tween20、150mmol/L 塩化ナトリウムを含有する、10mmol/L リン酸緩衝液(pH7.4)]で3回洗浄した後、試料希釈液[ブロッキング液を洗浄液で10倍に希釈した溶液]で5,000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識レンズマメレクチン(以下、LCAレクチンと記載する。J-オイルミルズ社製)、又は5,000倍希釈したビオチン標識ヒイロチャワンタケレクチン(以下、AALレクチンと記載する。J-オイルミルズ社製)、又は2,000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識コンカナバリンAレクチン(以下、ConAレクチンと記載する。J-オイルミルズ社製)、又は1,000倍に希釈したぺルオキシダーゼ標識抗FLAG抗体(シグマアルドリッチ社製)を50μL/ウェルずつ分注し、25℃で1時間静置した。ビオチン標識AALレクチンを分注したウェルについてのみ、350μLの洗浄液で3回洗浄した後、試料希釈液で10,000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を50μL/ウェルずつ分注し、25℃で1時間静置した。その後、全てのウェルを350μLの洗浄液で3回洗浄した後、TMB-ONEを50μL/ウェルで添加し、25℃で20分間静置した。停止液として0.5mol/L 硫酸を50μL/ウェル添加し、プレートリーダー(Emax、モレキュラーデバイス社製)を用いて反応の吸光度を主波長450nm、副波長650nmで測定した。結果を
図4に示す。本実験で使用したLCAレクチン及びAALレクチンはコアフコースが結合しているN結合型糖鎖に結合する性質を有し、ConAレクチンはコアフコースの有無に関わらずN結合型糖鎖に結合する性質を有する。
図4において、ConAレクチンはいずれのhIgG4Fc-FLAGにも反応し、LCAレクチン、AALレクチンはCHO細胞由来のhIgG4Fc-FLAGにのみ反応したことから、いずれのhIgG4Fc-FLAGにもN結合型糖鎖は存在するが、コアフコースはCHO細胞由来のhIgG4Fc-FLAGにのみ存在し、Fut8KO CHO細胞由来のhIgG4Fc-FLAGには存在しない事がわかった。すなわち、CHO細胞由来のhIgG4Fc-FLAGは、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖を持ち、Fut8KO CHO細胞由来のhIgG4Fc-FLAGはコアフコースが結合していないN結合型糖鎖を持つことが判明した。以下、CHO細胞由来のhIgG4Fc-FLAGをコアフコシル化hIgG4Fc-FLAG、Fut8KO CHO細胞由来のhIgG4Fc-FLAGを非コアフコシル化hIgG4Fc-FLAGと称する。
【0204】
[実施例1]抗コアフコシル化ヒトIgG抗体の産生
(1)動物への免疫と抗体産生細胞の調製
Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A.,vol.102,p.15791 (2005)に記載の方法に従い、ゲノム上のすべてのFut8をコードする遺伝子を破壊したFut8KOマウスを作出し、このFut8KOマウスを免疫対象動物として使用した。参考例1で調製したコアフコシル化hIgG4Fc-FLAG 50μgを、2mgのアルミニウムゲル(コスモ・バイオ社製)及び百日咳ワクチン(千葉県血清研究所製)1×109細胞とともに、作出した6週齢のFut8KOマウスに投与し、さらに2週間後、3週間後、4週間後に50μgのコアフコシル化hIgG4Fc-FLAGを1回ずつ投与した(計4回投与)。免疫を終了したマウスから最終免疫3日後に脾臓を摘出した。脾臓をRPMI培地(ギブコ社製)中で細断し、ピンセットでほぐし、1200rpm、5分間、25℃で遠心分離した後、上清を捨て、赤血球溶解バッファー(シグマアルドリッチ社製)で1~2分間処理して赤血球を除去し、RPMI培地で3回洗浄して脾臓細胞を取得し、細胞融合に用いた。
【0205】
(2)マウス骨髄腫細胞の調製
マウス骨髄腫細胞として8-アザグアニン耐性マウス骨髄腫細胞株P3-U1を用意し、GIT培地(和光純薬工業社製)を用いて2×107個以上の細胞が得られるまで培養した。
【0206】
(3)細胞融合
前記(1)で得られた脾臓細胞と前記(2)で得られた骨髄腫細胞とを、10:1の細胞数の比になるよう混合した後、該細胞混合液を1200rpm、5分間、25℃で遠心分離した。該細胞混合液から上清を除去し、沈澱した細胞群をよくほぐした。この細胞混合液を25℃で攪拌しながら、該細胞混合液に1mLのPEG1500(ロシュ社製)を1分間かけて添加した。その後、1分間毎にRPMI培地1~2mLを4回加えた後、全量が50mLになるようにRPMI培地を加えた。該細胞液を900rpm、5分間、25℃で遠心分離した後、上清を捨て、細胞を37℃に温めた選択培地[10%(v/v) BM-condimed H1(ロシュ社製)、2%(v/v) HAT supplement(50×、ギブコ社製)を含むGIT培地(和光純薬工業社製)]100mL中で穏やかに懸濁した。この懸濁液を96ウェル培養用プレートに100μL/ウェルずつ分注し、5% CO2インキュベーター中、37℃ で10~14日間培養した。
【0207】
(4)ハイブリドーマ株の選択
参考例1で取得したコアフコシル化hIgG4Fc-FLAG及び非コアフコシル化hIgG4Fc-FLAGを参考例1(3)記載のPBS緩衝液で 各5μg/mLに調製し、96ウェルEIA用プレートに50μL/ウェルずつ分注した。25℃で12時間静置し、コアフコシル化hIgG4Fc-FLAGが固相化されたウェル、及び非コアフコシル化hIgG4Fc-FLAGが固相されたウェルを作製した。この際、PBS緩衝液のみを50μL分注したウェルを用意し、ブランク用ウェルとした。抗原溶液を除去した後、参考例1(4)記載のブロッキング液を200μL/ウェルで分注し、25℃で2時間静置してプレートをブロッキングした。ブロッキング液を除去した後、参考例1(4)記載の試料希釈液で100倍に希釈したハイブリドーマ培養上清を50μL/ウェルで分注し、25℃で1時間静置した。希釈ハイブリドーマ培養上清を除去し、350μLの参考例1(4)記載の洗浄液で3回洗浄した後、試料希釈液で10,000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を50μL/ウェルで分注し、25℃で1時間静置した。標識抗体希釈液を除去し、350μLの洗浄液で3回洗浄した後、TMB-ONEを50μL/ウェルで添加し、25℃で20分間静置した。停止液として0.5mol/L 硫酸を50μL/ウェル添加した後、プレートリーダーを用いて反応液の吸光度を主波長450nm、副波長650nmで測定した。コアフコシル化hIgG4Fc-FLAGを固相したウェルで強く発色し、非コアフコシル化hIgG4Fc-FLAGを固相したウェルで弱く、あるいは発色しないハイブリドーマ株を選択し、限界希釈法により2回のクローニングを繰り返した。その結果、ハイブリドーマ株18-2D3、18-3D11、18-4E11、18-4F11、18-6A7、18-6D4、18-6F9、18-9E10、18-10G1、18-11E5、18-12F7、25-4F5、25-4H7、25-4H8の14株を得た。ハイブリドーマ株18-3D11は、2016年8月30日付で、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に、受領番号NITE AP-02342として寄託され、2017年8月4日付で受託番号NITE BP-02342として受託されている。プレートに固相したコアフコシル化hIgG4Fc-FLAG、非コアフコシル化hIgG4Fc-FLAGに対する各ハイブリドーマ株培養上清の反応性を
図5に示す。なお、
図5に示した「抗FLAG抗体」のグラフは、ハイブリドーマ株上清及びペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体の代わりに、ペルオキシダーゼ標識抗FLAG抗体を用いた結果を示したグラフであり、コアフコシル化hIgG4Fc-FLAG、非コアフコシル化hIgG4Fc-FLAGがほぼ同量プレートに固相されていることを示している。
【0208】
(5)抗体クラス・サブタイプ・軽鎖タイプの同定
(4)で取得したハイブリドーマ株の培養上清を用いて、各ハイブリドーマ株が産出する抗体の抗体クラス(アイソタイプ)、サブクラス、軽鎖タイプを、IsoQuickモノクローナル抗体アイソタイプ判定キット マウス用(シグマアルドリッチ社製)を用いて判定した。判定結果を表1に示す。
【0209】
【0210】
[実施例2]抗コアフコシル化ヒトIgG抗体の反応性解析
(1)ビアコアによるhIgG4Fc-FLAGに対する反応性解析
蛋白質は、プレートに固相することで変性し、特殊な立体構造をとることが一般的に知られている。そのため、プレートに固相した抗原には反応するものの、非固相状態の抗原(すなわち、プレートに固相化せずに、溶液中に存在する抗原)には反応しない抗体を取得してしまうことが度々生じる。実施例1で取得したハイブリドーマ株が産生する抗体が、非固相状態のコアフコシル化hIgG4Fc-FLAGにも反応するか、加えて非固相状態においてもコアフコシル化hIgG4Fc-FLAGと非コアフコシル化hIgG4Fc-FLAGを明確に区別する抗体であるか、Biacore 2000 (GEヘルスケア・ジャパン社製)を使用し、表面プラズモン共鳴法(SPR法)により解析した。
【0211】
Human Antibody Capture Kit(GEヘルスケア・ジャパン社製)に同封のAnti-human IgG(Fc) antibodyを、添付のプロトコールに従い、アミンカップリング法によりCM5センサーチップ(GEヘルスケア・ジャパン社製)に固定化した。参考例1で取得したコアフコシル化hIgG4Fc-FLAG、又は非コアフコシル化hIgG4Fc-FLAGを、固定化したAnti-human IgG(Fc) antibodyに捕捉させた後、ハイブリドーマ株の培養上清をセンサーチップ上に流し、センサーチップ上に捕捉された各hIgG4Fc-FLAGに対する反応性を評価した。結果を
図6に示す。(4)の結果と同様に、いずれのハイブリドーマ株由来の抗体も、コアフコシル化hIgG4Fc-FLAG(実線)に反応するが、非コアフコシル化hIgG4Fc-FLAG(破線)には反応しないことが判明した。なお、
図6の右下に示した「抗ヒトIgG抗体とhIgG4Fc-FLAGとの反応」のグラフは、センサーチップ上に固定化したヒトIgGのFc領域に対する抗体に捕捉されたコアフコシル化hIgG4Fc-FLAG量及び非コアフコシル化hIgG4Fc-FLAG量がほぼ同量であることを示している。
【0212】
(2)天然コアフコシル化抗原に対する反応性
実施例1で取得したハイブリドーマ株の培養上清を用いて、各ハイブリドーマ株が産生する抗体の、天然コアフコシル化抗原に対する反応性を抗原固相ELISAで評価した。
天然コアフコシル化抗原として、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖で修飾されていることが公知である、ヒト母乳由来ラクトフェリン(シグマアルドリッチ社製)、ウシ血液由来サイログロブリン(シグマアルドリッチ社製)、ヒト血液由来IgG(イノベーティブリサーチ社製)を用いた。該天然コアフコシル化抗原を、参考例1(3)記載のPBS緩衝液で5μg/mLに調製し、参考例1と同様の方法で、各抗原が固相化されたウェルを作製した。参考例1(4)記載の試料希釈液で100倍希釈したハイブリドーマ株の培養上清を50μL/ウェル分注し、25℃で1時間静置した。希釈されたハイブリドーマ培養上清を除去し、350μLの参考例1(4)記載の洗浄液で3回洗浄した後、試料希釈液で10,000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体を50μL/ウェル分注し、25℃で1時間静置した。標識抗体希釈液を除去し、350μLの洗浄液で3回洗浄した後、TMB-ONEを50μL/ウェルで添加し、25℃で20分間静置した。停止液として0.5mol/L 硫酸を50μL/ウェルで添加し、プレートリーダーを用いて各ウェルの吸光度を主波長450nm、副波長650nmで測定した。結果を
図7に示す。取得したハイブリドーマ株が生産する抗体は、天然ヒトIgGのコアフコースには反応するが、ヒトラクトフェリン、ウシサイログロブリンのコアフコースには反応しないことが判明した。なお、
図7に示した「LCAレクチン」のグラフは、ペルオキシダーゼ標識LCAレクチンをハイブリドーマ培養上清及びペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体の代わりに用いた結果を示す。
【0213】
(3)抗体クラス(アイソタイプ)に対する反応性
ヒトの抗体クラス(アイソタイプ)、ウサギIgGに対する反応性を抗原固相ELISAで評価した。ヒトIgG(イノベーティブリサーチ社製)、ヒト免疫グロブリンA(リーバイオソリューションズ社製)、ヒト免疫グロブリンM(イムノリージェント社製)、ウサギIgG(ダコ社製)を参考例1(3)記載のPBS緩衝液で5μg/mLに調整した。この各抗原溶液を96ウェルのEIA用プレートに50μL/ウェルずつ分注し、25℃で12時間静置して抗原をプレートに固相した。抗原溶液を除去し、次いで参考例1(4)記載のブロッキング液を200μL/ウェル分注し、25℃で2時間静置してプレートをブロッキングした。ブロッキング液を除去した後、参考例1(4)記載の試料希釈液で10倍希釈したハイブリドーマ株18-2D3、18-3D11、18-12F7の培養上清を50μL/ウェル分注し、25℃で1時間静置した。希釈したハイブリドーマ培養上清を除去し、350μLの参考例1(4)記載の洗浄液で3回洗浄した後、試料希釈液で10,000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体を50μL/ウェル分注し、25℃で1時間静置した。標識抗体希釈液を除去し、350μLの洗浄液で3回洗浄した後、TMB-ONEを50μL/ウェルで添加し、25℃で20分間静置した。停止液として0.5mol/L 硫酸を50μL/ウェル添加し、プレートリーダーを用いて各ウェルの吸光度を主波長450nm、副波長650nmで測定した。結果を
図8に示す。評価したハイブリドーマ株が生産する抗体は、ヒトIgGのコアフコースには反応するが、ヒト免疫グロブリンA、ヒト免疫グロブリンM、ウサギIgGのコアフコースには反応しないことが判明した。なお、
図8に示した「LCAレクチン」のグラフは、ペルオキシダーゼ標識LCAレクチンをハイブリドーマ培養上清及びペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体の代わりに用いた結果を示す。
【0214】
(4)ヒトIgGサブクラスに対する反応性
ヒトIgGの各サブクラスに対する反応性を、Biacore 2000を使用し、表面プラズモン共鳴法にて解析した。Human Antibody Capture Kitに同封のAnti-human IgG(Fc) antibodyを添付プロトコールに従い、アミンカップリング法によりCM5センサーチップに固定化した。ヒトIgG1(フィッツジェラルド社製)、ヒトIgG2(フィッツジェラルド社製)、ヒトIgG3(フィッツジェラルド社製)、ヒトIgG4(フィッツジェラルド社製)をセンサーチップ上に固定化したマウス抗ヒトIgG(Fc)モノクローナル抗体に捕捉させた後、ハイブリドーマ株18-2D3、18-3D11、18-12F7の培養上清をセンサーチップ上に流し、各ヒトIgGサブクラスに対する反応性を評価した。結果を
図9に示す。いずれのハイブリドーマ株由来の抗体も、すべてのヒトIgGサブクラスに結合することが判明した。なお、
図9に示した「抗ヒトIgG抗体と各サブクラスヒトIgGとの反応」のグラフは、センサーチップ上に固定化したヒトIgGのFc領域に対する抗体に捕捉された各ヒトIgGサブクラス抗原量を示している。
【0215】
(5)過ヨウ素酸ナトリウムによる、コアフコースを変性させたヒトIgGの調製
前記(2)、(3)、(4)で明らかになった、天然ヒトIgGに対する反応性が、コアフコースに依存したものであるかを確認するため、以下のようにして過ヨウ素酸ナトリウム処理によりコアフコースのジオール構造を酸化開裂し、コアフコースを変性させたヒトIgGを調製した。
【0216】
参考例1(3)記載のPBS緩衝液で調製した2mg/mLの各サブクラスのヒトIgG(ヒトIgG1、ヒトIgG3、ヒトIgG4)溶液100μLに、200mmol/L 過ヨウ素酸ナトリウム溶液を10μL、PBS緩衝液を90μL加え、4℃で12時間インキュベートした。その後、エチレングリコール溶液を200μL加えて反応を停止した。過ヨウ素酸ナトリウム処理によるコアフコースの変性を確認するため、LCAレクチンの反応性を評価した。過ヨウ素酸ナトリウム処理した各サブクラスのヒトIgGをPBS緩衝液で5μg/mLに希釈し、96ウェルのEIA用プレートに50μL/ウェルずつ分注し、25℃で12時間静置して抗原をプレートに固相した。抗原溶液を除去し、次いで参考例1(4)記載のブロッキング液を200μL/ウェル分注し、25℃で2時間静置してプレートをブロッキングした。ブロッキング液を除去した後、参考例1(4)記載の試料希釈液で1000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識LCAレクチン、あるいは試料希釈液で10,000倍に希釈したペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を50μL/ウェル分注し、25℃で1時間静置した。希釈標識レクチン、抗体溶液を除去し、350μLの参考例1(4)記載の洗浄液で3回洗浄した後、TMB-ONEを50μL/ウェルで添加し、25℃で20分間静置した。停止液として0.5mol/L 硫酸を50μL/ウェル添加し、プレートリーダーを用いて各ウェルの吸光度を主波長450nm、副波長650nmで測定した。得られた結果を
図10に示す。過ヨウ素酸ナトリウム処理により、ヒトIgG1、ヒトIgG3、ヒトIgG4へのLCAレクチン反応性がほぼ消失したことがわかった。これにより、過ヨウ素酸ナトリウム処理により、コアフコースが変性したヒトIgGが調製されたことが確認された。
【0217】
(6)過ヨウ素酸ナトリウム処理したヒトIgGに対する反応性
前記(5)で調製した過ヨウ素酸ナトリウム処理した各ヒトIgG各サブクラス抗原、すなわちコアフコースが変性したヒトIgGを用いて、実施例1で取得したハイブリドーマ株が産生する抗体のヒトIgGに対する反応性が、コアフコース依存的であるかを、Biacore 2000を使用し、表面プラズモン共鳴法により解析した。Human Antibody Capture Kitに同封のマウス抗ヒトIgG(Fc)モノクローナル抗体を添付プロトコールに従い、アミンカップリング法によりCM5センサーチップに固定化した。過ヨウ素酸ナトリウム処理した、あるいは処理していないヒトIgG1、ヒトIgG3、ヒトIgG4を、センサーチップ上に固定化したマウス抗ヒトIgG(Fc)モノクローナル抗体に捕捉させた後、ハイブリドーマ株18-2D3、18-3D11、18-12F7の培養上清をセンサーチップ上に流し、過ヨウ素酸ナトリウム処理された、あるいはされていない各ヒトIgGサブクラス抗原に対する反応性を評価した。結果を
図11に示す。いずれのハイブリドーマ株由来の抗体においても、コアフコースが変性したヒトIgGに対する反応性はほぼ消失、あるいは大きく減衰した。なお、
図11の最下段に示した「抗ヒトIgG抗体と各サブクラスヒトIgGとの反応」のグラフは、センサーチップ上に固定化したヒトIgGのFc領域に対する抗体に捕捉された、過ヨウ素酸ナトリウム処理された各サブクラスのヒトIgG、及び、過ヨウ素酸ナトリウム処理されていない各サブクラスのヒトIgGの量を示す。これにより、実施例1で取得したハイブリドーマ株が産生するモノクローナル抗体が、コアフコース依存的にヒトIgGに反応する抗体であることが確認された。
【0218】
[実施例3]コアフコシル化ヒトIgGの精製
(1)抗コアフコシル化ヒトIgG抗体の精製
実施例1で取得したハイブリドーマ株の内、18-3D11株を520mLのハイブリドーマ用無血清培地Hyclone SFM4MAb-Utility(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)で培養し、培養上清を回収した。3000rpm、10分間、25℃で遠心分離を行い、上清を回収した後、0.22μm孔径セルロースアセテートメンブレンを用いて上清を濾過し、最終濃度3mol/Lとなる様に塩化ナトリウム(和光純薬工業社製)を添加し、pH8.9に調整した。rProtein A GraviTrapカラム(GEヘルスケア・ジャパン社製)を参考例1(3)記載のPBS緩衝液で平衡化した後、濾過済みの前記上清をカラムに通塔した。その後、PBS緩衝液でカラムを洗浄し、rProtein Aに結合した18-3D11株由来の抗体(以下、18-3D11抗体と記載する)を、0.1mol/L グリシン-HCl溶液(pH2.7)を通過させることによりで溶出した。その後、PD-10カラム(GEヘルスケア・ジャパン社製)を用いて、18-3D11抗体を含む溶出液の溶媒をPBS緩衝液に置換した後、PBS緩衝液に置換された18-3D11抗体溶液の280nmの吸光度を吸光光度計(U-3000、日立製作所社製)で測定し、モル吸光係数1.4として18-3D11抗体濃度を算出し、約2.5mgの18-3D11抗体を得た。
【0219】
(2)コアフコシル化ヒトIgG親和性精製カラムの調製
コアフコシル化ヒトIgG測定系の標準物質として用いるコアフコシル化ヒトIgGを精製するための親和性カラムを以下のようにして調製した。前記(1)で精製した18-3D11抗体2mgを、PD-10カラムを用いてカップリング溶液[0.2mol/L 炭酸水素ナトリウム、0.5mol/L 塩化ナトリウム、pH8.3]に置換し、1.68mg/mLの抗体溶液を調製した。「はじめてのリガンドカップリングハンドブック」(GEヘルスケア・ジャパン社製)に記載の方法に従い、この抗体溶液1mLをHiTrap NHS-activated HPカラム(GEヘルスケア・ジャパン社製)にカップリングした。算出したカップリング効率は90.3%であった。
【0220】
(3)コアフコシル化ヒトIgGの精製
前記(2)で調製したアフィニティーカラムを用いて、ヒト血液から精製されたヒトIgG(イノベーティブリサーチ社製)から、以下のようにしてコアフコシル化ヒトIgGを精製した。アフィニティーカラムを10mLの参考例1(3)記載のPBS緩衝液で平衡化し、PBS緩衝液で1.5mg/mLの濃度に調整したヒトIgG6mLをカラムに添加した。10mLのPBS緩衝液でカラムを洗浄後、5mLのクエン酸緩衝液[0.1mol/L クエン酸(和光純薬工業社製)溶液と0.1mol/L クエン酸ナトリウム(和光純薬工業社製)溶液をpH3.7になる様に混合した緩衝液]をカラムに添加し、カラムに結合したコアフコシル化ヒトIgGを溶出した。この操作を複数回繰り返し、最終的に約280μgのコアフコシル化ヒトIgGを精製した。
【0221】
[実施例4]コアフコシル化ヒトIgGの糖鎖構造解析
(1)コアフコシル化ヒトIgGからのN結合型糖鎖の分離
実施例3で精製したコアフコシル化ヒトIgGの溶媒を、PD-10カラムを用いて参考例1(3)記載のPBS緩衝液に置換した後、限外濾過により濃縮して2.1mg/mLのコアフコシル化ヒトIgG溶液を調製した。このコアフコシル化ヒトIgG試料50μLに、5μLの1mol/L 重炭酸アンモニウム水溶液、5μLの120mmol/L DTT水溶液を添加してよく撹拌した後、60℃で30分間インキュベートした。その後、10μLの123mmol/L ヨードアセトアミド水溶液を添加し、遮光下、25℃で1時間インキュベートした。その後、1mmol/L 塩酸で40ユニット/μLに調整した蛋白質分解酵素トリプシン(シグマアルドリッチ社製)を10μL添加し、37℃、1時間反応させ、コアフコシル化ヒトIgGをペプチドに消化した。反応終了後、90℃、5分間の熱処理によりトリプシンを失活させた後、N結合型糖鎖の還元末端を切断するN-グリコシダーゼF(ロシュ社製)を5ユニット添加し、37℃、12時間反応させることでペプチドからN結合型糖鎖を遊離させた。
【0222】
(2)N結合型糖鎖の捕捉とシアル酸の保護
糖鎖精製標識化キットBlotGlyco(住友ベークライト社製)を用い、キットに付属の糖鎖結合性ポリマービーズに純水500μLを加え、よく撹拌した後、50μLのポリマービーズ分散液を分取し、キットに付属の反応用チューブの底部に注入した。卓上遠心機で数秒間遠心分離して水を排出し、白色に乾いたポリマービーズに180μLの2% 酢酸/アセトニトリル溶液[2%(v/v) 酢酸、98%(v/v) アセトニトリル]と、前記(1)の反応液20μLを添加し、チューブの蓋をあけた状態で80℃、1時間インキュベートし、N結合型糖鎖をポリマービーズに結合させた。溶媒が完全に蒸発し、ポリマービーズが乾燥していることを確認後、200μLの2mol/L グアニジンで2回、200μLの純水で2回、200μLの1% トリエチルアミン/メタノール溶液[1%(v/v) トリエチルアミン、99%(v/v) メタノール]で2回、ポリマービーズを洗浄した。次に100μLの10% 無水酢酸/メタノール溶液[10%(v/v) 無水酢酸、90%(v/v) メタノール]を加え、25℃で30分間インキュベートして、ポリマービーズ上の官能基をキャッピングした。卓上遠心機で数秒間遠心分離して10% 無水酢酸/メタノール溶液を排出した後、200μLの10 mmol/L 塩酸で2回、200μLのメタノールで2回、200μLのDMSOで2回洗浄した。次に100μLのMTT/DMSO溶液[MTT 74.6mgを1mLのDMSOで溶解]を添加し、チューブの蓋をあけた状態で60℃、1時間インキュベートし、N結合型糖鎖に存在するシアル酸をメチルエステル化して保護した。卓上遠心機で数秒間遠心分離してMTT/ジメチルスルホキシド溶液を排出した後、200μLのメタノールで2回、200μLの純水で2回、ポリマービーズを洗浄した。
【0223】
(3)N結合型糖鎖の高感度MALDI-TOF MS測定用標識化
次に、前記(2)で得られたポリマービーズに、20μLのMALDI-TOF MS用標識化合物溶液[20mmol/L Labeling reagent for MALDI-TOF MS(住友ベークライト社製、BlotGlycoキットに付属)]を添加し、続いて180μLの2% 酢酸/アセトニトリル溶液を添加して、チューブの蓋をあけた状態で80℃、1時間インキュベートした。これによりポリマービーズから糖鎖を遊離させ、その還元末端をMALDI-TOF MS用標識化合物で標識化した。溶媒が完全に蒸発し、ポリマービーズが乾燥していることを確認後、50μLの純水を加え、卓上遠心機で数秒間遠心分離して標識化N結合型糖鎖を回収した。
【0224】
(4)未反応のMALDI-TOF MS用標識化合物の除去
キットに付属のクリーンアップカラム(未反応のMALDI-TOF MS用標識化合物除去用カラム)を200μLの純水で1回、200μLのアセトニトリルで2回洗浄後、回収した標識化N結合型糖鎖溶液50μLに950μLのアセトニトリルを加えた試料を全量添加し、10分間自然落下によりクリーンアップカラムを通過させた。卓上遠心機で数秒間遠心分離して残りの溶液を通過させた後、300μLのアセトニトリルで2回クリーンアップカラムを洗浄した。卓上遠心機で数秒間遠心分離し、クリーンアップカラムからアセトニトリルを完全に除去した後、純水50μLを添加し、さらに数秒間遠心分離して標識化N結合型糖鎖溶液を回収した。
【0225】
(5)MALDI-TOF MS解析
MALDIマトリックスグレードの2,5-ジヒドロキシ安息香酸(和光純薬工業社製)10mgに、300μLのアセトニトリル、700μLの純水を加えて溶解し、マトリックス溶液を調製した。このマトリックス溶液1μLに、(4)で回収した標識化N結合型糖鎖溶液1μLを混合した。MALDIターゲットプレートにこの混合液1μLをスポットし、静置して乾燥させた後、MALDI-TOF MS Autoflex III smartbeam(ブルカー・ダルトニクス社製)でMALDI-TOF MS解析を行った。得られたMSスペクトルを
図12に示す。また糖鎖構造推定ソフトGlycoMod Tool[Proteomics,vol.1,p.340 (2001)]を用いて各質量ピークに推定された糖鎖構造を表2に示す。一方、比較対象として同様に分析した、実施例1で得られた抗コアフコシル化IgG抗体(18-3D11)で精製する前のヒトIgG(イノベーティブリサーチ社製)から得られたMSスペクトルを
図13に、推定されたN結合型糖鎖構造を表3に示す。表中、質量電荷比(m/z)はピーク毎の実測イオン質量、「dmass」は推定されたN結合型糖鎖構造の理論イオン質量と実測イオン質量の差を示す。また推定糖鎖構造において、「GlcNAc」はN-アセチルグルコサミン、「Man」はマンノース、「NeuAc」はN-アセチルノイラミン酸、「Deoxyhexose」はフコース、「HexNAc」はN-アセチルグルコサミン又はN-アセチルガラクトサミン、「Hex」はマンノース又はガラクトースを示す。抗コアフコシル化IgG抗体(18-3D11)で精製する前のヒトIgG(イノベーティブリサーチ社製)においては、実測イオン質量(m/z)1746.692、1908.756、2070.818、2375.940、2681.026にフコース(Deoxyhexose)を含まないN結合型糖鎖構造による微小ピークが検出されたのに対し、抗コアフコシル化IgG抗体(18-3D11)で精製した後のヒトIgGではこれらのピークが消失し、推定されたN結合型糖鎖構造すべてがフコース(Deoxyhexose)を持つことが判明した。このことから、抗コアフコシル化IgG抗体(18-3D11)を用いた精製により取得したヒトIgGは、ほぼ100%コアフコシル化ヒトIgGであり、コアフコシル化ヒトIgG測定系の標準物質として適当であることが判明した。
【0226】
【0227】
【0228】
[実施例5]コアフコシル化ヒトIgG測定系の構築
(1)抗ヒトIgGポリクローナル抗体固相化プレートの調製
96ウェルのEIA用プレートに、参考例1(3)記載のPBS緩衝液で5μg/mLに希釈した抗ヒトIgGポリクローナル抗体(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を50μL/ウェルずつ分注し、25℃で12時間静置して抗体をプレートに固相した。抗体溶液を除去後、参考例1(4)記載のブロッキング液を200μL/ウェルで分注し、25℃で2時間静置してプレートをブロッキングした。ブロッキング液を除去後、コアフコシル化ヒトIgGの測定に使用した。
【0229】
(2)ぺルオキシダーゼ標識抗コアフコシル化ヒトIgG抗体の調製
実施例3(1)で精製した200μgの18-3D11抗体を、Peroxidase Labeling Kit-NH2(同仁化学研究所社製)を用いて、添付マニュアルに従いぺルオキシダーゼで標識した。キットに付属のStorage Bufferでぺルオキシダーゼ標識18-3D11抗体を懸濁し、これをぺルオキシダーゼ標識抗コアフコシル化ヒトIgG抗体溶液とした。
【0230】
(3)標準物質の調製
実施例3(3)で精製したコアフコシル化ヒトIgGを、参考例1(4)記載の試料希釈液で725.5ng/mL、362.8ng/mL、181.4ng/mL、90.7ng/mL、45.4ng/mL、22.7ng/mL、11.3ng/mLの各濃度に調整した。この2倍希釈系列を標準曲線を得るための標準物質とし、コアフコシル化ヒトIgGの測定に使用した。
【0231】
(4)コアフコシル化ヒトIgGの測定
前記(1)で調製した抗ヒトIgGポリクローナル抗体固相化プレートに、前記(3)で調製した標準物質、あるいは参考例1(4)記載の試料希釈液で100,000倍あるいは200,000倍に希釈したヒト血清検体を50μL/ウェルずつ分注した。25℃で1時間静置した後、試料を除去し、350μLの参考例1(4)記載の洗浄液で3回ウェルを洗浄した。次に(2)で調製したペルオキシダーゼ標識抗コアフコシル化ヒトIgG抗体溶液を試料希釈液で10,000倍に希釈し、この溶液を50μL/ウェルずつ分注した。25℃で1時間静置した後、標識抗体溶液を除去し、350μLの洗浄液で3回ウェルを洗浄した。TMB-ONEを50μL/ウェルで添加し、25℃で20分間静置した。停止液として0.5mol/L 硫酸を50μL/ウェル添加し、プレートリーダーを用いて各ウェルの吸光度を主波長450nm、副波長650nmで測定した。得られた標準曲線を
図14に示す。ヒト血清検体中のコアフコシル化ヒトIgG濃度は、得られた吸光度を標準曲線で換算し、検体希釈液による希釈率を補正して算出した。
【0232】
[実施例6]コアフコシル化ヒトIgG測定系の性能評価
(1)希釈直線性試験
実施例5で構築したコアフコシル化ヒトIgG測定系の希釈直線性試験を実施した。3種類の健常人血清検体(検体I~III)(アリエス社製)を準備し、各々を参考例1(4)記載の試料希釈液で100,000倍希釈した。この希釈検体と試料希釈液を、その混合比が10容:0容(希釈率:10/10)、9容:1容希釈率:9/10)、8容:2容希釈率:8/10)、7容:3容(希釈率:7/10)、6容:4容(希釈率:6/10)、5容:5容(希釈率:5/10)、4容:6容(希釈率:4/10)、3容:7容(希釈率:3/10)、2容:8容(希釈率:2/10)、1容:9容(希釈率:1/10)となるように混合し、10段階希釈系列を調製した。これらのコアフコシル化ヒトIgG濃度を実施例5(4)記載の方法で測定し、100,000倍希釈検体のコアフコシル化ヒトIgG濃度の実測値と、希釈倍率から理論的に算出される理論濃度とから対理論率[対理論率(%)=実測値(ng/mL)/理論値(ng/mL)×100]を算出した。結果を表4に示す。いずれの検体、いずれの希釈率においても対理論率は90~110%の範囲内であり、本測定系は良好な希釈直線性を示した。希釈直線性は、検体中のコアフコシル化ヒトIgG以外の物質を非特異的に測り込む等により不良となることから本測定系はコアフコシル化ヒトIgGを特異的に測定することができることが判明した。
【0233】
【0234】
(2)添加回収試験
実施例5で構築したコアフコシル化ヒトIgG測定系の添加回収率を評価するため、3種類の検体に、それぞれ2種類の標準物質(標準物質a、標準物質b)を添加した検体を調製し、該検体を用いて添加回収試験を実施した。本試験において、標準物質(a)として725.5ng/mLのコアフコシル化ヒトIgG溶液、標準物質(b)として181.4ng/mLのコアフコシル化ヒトIgG溶液を用いた。
【0235】
3種類の健常人血清検体(検体I~III)(アリエス社製)を準備し、各々を参考例1(4)記載の試料希釈液で200,000倍希釈した。この200,000倍希釈検体9容に試料希釈液1容を混合した検体試料(以下、Aと記載する)を調製した。標準物質(a)又は標準物質(b)の標準物質溶液1容に試料希釈液9容を混合した標準物質試料(以下、Bと記載する)を調製した。さらに200,000倍希釈検体9容に標準物質(a)又は標準物質(b)の標準物質溶液1容を混合した添加検体試料(以下、Cと記載する)を調整した。これら試料のコアフコシル化ヒトIgG濃度を実施例5(4)記載の方法で測定し、検体に添加した標準物質の回収率[添加回収率(%)=C(ng/mL)/{A(ng/mL)+B(ng/mL)}×100]を算出した。結果を表5に示す。いずれの検体、いずれの標準物質添加量においても添加回収率は90~110%の範囲内に収束しており、本測定系は良好な添加回収率を示した。添加回収率は、検体中に含まれる多様な成分(マトリックス)の影響を測定系が受けると不良となることから、本測定系は検体成分の影響を受けずに、コアフコシル化ヒトIgGを正確に測定することができることが判明した。
【0236】
【産業上の利用可能性】
【0237】
本発明により、コアフコースが結合しているN結合型糖鎖をFc領域に含むヒト免疫グロブリンGに結合し、コアフコースが結合していないN結合型糖鎖をFc領域に含むヒト免疫グロブリンGには結合しない、抗コアフコシル化ヒト免疫グロブリンG抗体、該抗体を産生するハイブリドーマ、該抗体の製造方法、該抗体を用いるコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの測定方法、該抗体を含有するコアフコシル化ヒト免疫グロブリンG測定試薬、該抗体を用いるコアフコシル化ヒト免疫グロブリンGの精製方法、及び、該抗体が固定化された不溶性担体が提供される。これらは、臨床診断において有用である。
【配列表】