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  • 特許-フランポリマー含浸木材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】フランポリマー含浸木材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B27K 3/15 20060101AFI20220803BHJP
   B27K 3/08 20060101ALI20220803BHJP
   B27K 3/34 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
B27K3/15 Z
B27K3/08
B27K3/34 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019086903
(22)【出願日】2019-04-27
(65)【公開番号】P2020183052
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2021-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】517457274
【氏名又は名称】株式会社テオリアランバーテック
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】丸山 淳治
(72)【発明者】
【氏名】橘 熊野
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-526693(JP,A)
【文献】特開平10-329110(JP,A)
【文献】特開昭61-188101(JP,A)
【文献】特表2004-512193(JP,A)
【文献】特許第4190885(JP,B2)
【文献】特許第4841141(JP,B2)
【文献】特開平01-154703(JP,A)
【文献】特表2007-513807(JP,A)
【文献】特開平05-050409(JP,A)
【文献】特表2010-509562(JP,A)
【文献】国際公開第2017/178983(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27K 3/15
B27K 3/08
B27K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材を所定の加熱処理条件の下で加熱乾燥して、当該木材を酸性化させ、pHが6あるいは5の弱酸性を呈する状態にする前処理工程と、
フルフリルアルコールを含み、当該フルフリルアルコールの重合開始剤を含まない水溶液を、前記木材に含させ、前記前処理工程において前記木材の内部に生成された酸が前記フルフリルアルコールの重合開始剤として機能して、当該フルフリルアルコールが重合するフルフリルアルコール含浸・重合工程と、
を含むフランポリマー含浸木材の製造方法。
【請求項2】
前記の酸は、少なくとも酢酸である請求項1に記載のフランポリマー含浸木材の製造方法。
【請求項3】
前記フルフリルアルコール含浸・重合工程では、フルフリルアルコールと水のみを混ぜた前記水溶液を前記木材に含浸させる
請求項1または2に記載のフランポリマー含浸木材の製造方法。
【請求項4】
前記水溶液は、フルフリルアルコール50wt%と水50wt%を含む請求項1または2に記載のフランポリマー含浸木材の製造方法。
【請求項5】
前記フルフリルアルコール含浸・重合工程では、15気圧下で前記水溶液を前記木材に含浸させる
請求項1ないし4のうちのいずれか一つの項に記載のフランポリマー含浸木材の製造方法。
【請求項6】
前記フルフリルアルコール含浸・重合工程の後に、前記木材を乾燥する後乾燥工程を含む請求項1ないし5のうちのいずれか一つの項に記載のフランポリマー含浸木材の製造方法。
【請求項7】
前記後乾燥工程では、減圧下、100℃の雰囲気中で、前記木材を乾燥する請求項6に記載のフランポリマー含浸木材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材にフルフリルアルコールを含浸させて重合させることによって得られるフランポリマー含浸木材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材は、一般に、腐食しやすく、シロアリ等の食害を受けやすく、また、ねじれ・反りが生じやすいという欠点がある。このような欠点を補うために、木材を樹脂化させて耐久性、寸法安定性を向上させる木材改質化の技術が提案されている。これらのうちの一つに、木材内で、酸を触媒(重合開始剤)としてアルコールを樹脂化させることで、木材に防腐性能、防蟻性能、寸法安定性を付与する技術が知られている。例えば、特許文献1、2には、フランポリマー含浸木材の製法が提案されている。
【0003】
特許文献1に記載の製法においては、水に、フルフリルアルコール、無水マレイン酸などの重合開始剤と、硼酸とリグノスルフォン酸のナトリウム塩からなる安定剤とを混合させた重合性フルフリルアルコールモノマー混合液を、改質対象の木材に含浸させ、含浸後の木材を加熱乾燥して、フランポリマー含浸木材を得ている。特許文献2に記載の製法においては、水に、フルフリルアルコールと、アルコールあるいはアセトンからなる安定化補助溶剤と、マレイン酸などの重合開始剤とを混合させた重合性フルフリルアルコールモノマー混合液を、改質対象の木材に含浸させ、含浸後の木材を加熱乾燥させて、フランポリマー含浸木材を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4190885号公報
【文献】特許第4841141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2においては、フルフリルアルコールと重合開始剤(触媒)を混ぜた時点からフルフリルアルコールの重合が開始しないように、安定化剤あるいは安定化補助剤も一緒に混合して、混合液のpHを中性に維持している。これにより、混合した水溶液を木材に含浸させる過程においてフルフリルアルコールの重合を抑え、木材内部の各部にフルフリルアルコールを行き渡らせるようにしている。硬化工程(重合工程)においては、加熱乾燥等により、木材内部から安定化剤、安定化補助剤を蒸発させて除去して、木材内部を酸性にして、フルフリルアルコールを重合させるようにしている。
【0006】
このように、従来のフランポリマー含浸木材の製造方法では、フルフリルアルコールとその重合開始剤を含む水溶液に、安定剤あるいは安定化補助剤を添加して中性に保つことで、水溶液の保存性を高め、木材内部への浸透性を高めている。したがって、水溶液には、フルフリルアルコールの重合開始剤と共に、重合を抑制するための安定剤あるいは安定化補助剤の添加が必要である。また、木材に水溶液を含浸させた後は、フルフリルアルコールの重合を開始させるために、木材を加熱乾燥して、安定剤等を蒸発させて回収する必要がある。このため、水溶液の調製コストが掛かり、また、安定剤等を木材から蒸発させて回収するための設備コストも掛かる。
【0007】
本発明の目的は、このような点に鑑みて、重合開始剤を外部から木材に注入することなく木材内部においてフルフリルアルコールを重合させることのできるフランポリマー含浸木材の製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明のフランポリマー含浸木材の製造方法は、
木材を所定の加熱処理条件の下で加熱乾燥して、当該木材を酸性化させ、pHが6あるいは5の弱酸性を呈する状態にする前処理工程、および、
フルフリルアルコールを含み、当該フルフリルアルコールの重合開始剤を含まない水溶液を、木材に含させ、前処理工程において木材の内部に生成された酸フルフリルアルコールの重合開始剤として機能して、当該フルフリルアルコールが重合するフルフリルアルコール含浸・重合工程
を経て、フランポリマー含浸木材を製造することを特徴としている。
【0009】
本発明の方法では、フルフリルアルコールを木材に含浸させる工程に先立って、木材に、所定の加熱処理条件の下で前処理を施すことで、木材内部に酢酸等の酸を生成させ、木材を酸性にしている。木材内部に生成した酸を、フルフリルアルコールの重合開始剤として利用することで、フルフリルアルコールと共にその重合開始剤(酸触媒)を木材の外部からその内部に含浸あるいは注入する必要がない。
【0010】
したがって、フルフリルアルコールを含む水溶液として、フルフリルアルコールと水のみを含む水溶液を用いることができる。水溶液の保存・管理が極めて容易になる。また、水溶液を木材に含浸させた後に、フルフリルアルコールの重合を抑制している安定剤等を蒸発・回収する工程も不要になる。よって、本発明の方法によれば、廉価に調製可能なフルフリルアルコールの水溶液および廉価な装置構成を用いて、フランポリマー含浸木材の製造を廉価なランニングコストで行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明を適用したフランポリマー含浸木材の製造工程の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したフランポリマー含浸木材の製造方法の一例を説明する。なお、以下に述べる実施の形態は本発明の方法の一例であり、本発明の方法を当該実施の形態に限定することを意図したものではない。
【0013】
図1を参照してフランポリマー含浸木材の製造工程を説明する。改質対象の木材は、例えば、国産木材の杉、桧、唐松、赤松等である。まず、木材の生木(丸太)が、製材機により、所定断面、所定長さの製材に加工される(製材工程ST1)。
【0014】
製材加工後の木材1には、加熱乾燥による前処理が施される(前処理工程ST2)。前処理においては、木材1を、所定の加熱処理条件の下で、加熱乾燥させる。例えば、木材処理装置2の処理室2aに入れた木材に、減圧乾燥処理および加圧乾燥処理を施す。減圧・加圧機能を備えた木材処理装置2として、例えば、ヒートコンディショナー(ヒルデブランド株式会社)を用いることができる。
【0015】
木材1を所定の加熱処理条件の下で加熱乾燥して、当該木材1に、耐久性および寸法安定性を付与すると共に、酸性を帯びさせる。加熱処理条件を樹種に応じて適切に設定することで、前処理後の木材1の内部には酢酸(エタン酸)などの酸が生成され、pHが6あるいは5程度の弱酸性を呈する状態になる。また、加熱乾燥処理によって、木材のフルフリルアルコールの含浸性が改善され、後続の工程において、木材内部の全体に亘って均一にフルフリルアルコールを含浸させることが容易になり、最終的に得られるフランポリマー含浸木材の強度その他の特性を改善できる。
【0016】
なお、加熱処理方法としては、処理対象の木材1を、常圧・過熱蒸気雰囲気下で加熱処理する方法、高圧・不活性ガス雰囲気中で加熱処理する方法など、各種の公知の方法から適切な方法を採用することができる。いずれの方法においても、減圧および加圧に用いる処理圧力、減圧保持時間、加圧保持時間、加熱温度、加熱媒体等の加熱処理条件は、樹種、木材寸法、目標とする酸性度(pH値)等に応じて適宜選定する。
【0017】
また、加熱処理により木材の耐久性、寸法安定性等を改善する木材の改質技術が知られており、加熱処理木材は、「ヒートウッド(登録商標)」、「ThermoWood(登録商標)」、「エステックウッド(登録商標)」などの名称で製品化されている。本例の前処理工程ST2においても、これらの加熱処理技術を適用できる。
【0018】
前処理後の木材1には、フルフリルアルコール(FA)含浸・重合工程ST3が施される。フルフリルアルコール含浸・重合工程ST3では、フルフリルアルコールと水の混合液である水溶液3を用いる。本例の水溶液3は、フルフリルアルコールを水に混ぜただけの混合液であり、重合開始剤その他の化合物は含まれていない。例えば、フルフリルアルコール50重量%、水50重量%の混合液を用いる。なお、必要に応じて、重合開始剤以外の化合物を混合させることも可能である。
【0019】
水溶液3は、例えば、事前に調製されて溶液タンク4に貯留される。木材1は、加圧・減圧機能を備えた注入装置5の注入室5aに投入される。溶液タンク4から水溶液3を供給し、注入室5a内を所定の加圧状態、例えば、15気圧の状態に所定時間に亘って維持する。これにより、水溶液3が木材1の内部まで十分に行き渡る。この後は、余剰の水溶液3を回収し、注入室5a内を真空引きして所定の減圧状態を形成し、注入室5a内を、所定時間に亘ってこの状態に維持して、水溶液3を含浸させた木材1を乾燥させる。
【0020】
この工程において、水溶液3中のフルフリルアルコールは、木材1に含浸しながら、その内部に生成されている酢酸等の酸と反応して重合する。重合しながらフルフリルアルコールは木材1の各部に行き亘る。これにより、内部がフルフリルアルコールポリマー(フランポリマー)で充填された状態(樹脂化された状態)のフランポリマー含浸木材10が得られる。
【0021】
なお、この工程においても、水溶液3を木材1に含浸させる方法として各種の公知の方法を用いることができる。例えば、減圧加圧含浸法により、減圧工程および加圧工程を経て水溶液3を木材1に含浸させてもよい。いずれの方法においても、処理圧力、保持時間等の処理条件は、樹種、木材寸法、目標とする水溶液3の含浸量(注入量)などに応じて適宜設定すればよい。
【0022】
この後は、フランポリマー含浸木材10には、後乾燥工程ST4が施される。後乾燥工程ST4では、加圧・減圧機能を備えた木材乾燥装置8を用いて、例えば、減圧下で100℃の温度状態で、フランポリマー含浸木材10を所定時間に亘って、乾燥する。減圧下での乾燥では沸点が下がり、より低い加熱温度で乾燥ができるので、乾燥時間・費用の削減に有利である。
【0023】
なお、乾燥後のフランポリマー含浸木材10は、木材成形機に掛けて、所定の寸法・形状となるように成形される(成形工程ST5)。木材成形機は、例えば、ヴァイニッヒモルダー(ミカエル・ヴァイニッヒ・ジャパン株式会社)を用いることができる。
【符号の説明】
【0024】
ST1 製材工程
ST2 前処理工程
ST3 フルフリルアルコール含浸・重合工程
ST4 後乾燥工程
ST5 成形工程
1 木材
2 木材処理装置
2a 処理室
3 水溶液
4 溶液タンク
5 注入装置
5a 注入室
8 木材乾燥装置
10 フランポリマー含浸木材
図1