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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】選別方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20220803BHJP
   C12Q 1/6881 20180101ALI20220803BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20220803BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220803BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z
C12Q1/6881 Z
C12Q1/06
C12N15/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018037824
(22)【出願日】2018-03-02
(65)【公開番号】P2019149970
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】598162665
【氏名又は名称】株式会社山田養蜂場本社
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100206944
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 絵美
(72)【発明者】
【氏名】鬼木 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 あずさ
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 淳二
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-510906(JP,A)
【文献】THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2011年,VOL. 286, NO. 1,pp. 60-66
【文献】Biochimie,2012年,94,pp. 2126-2130
【文献】Shanghai Med J,2014年,Vol.37, No.9,pp. 765-769
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アディポネクチン多量体化促進のためにメリンジョ由来レスベラトロールを投与する対象を選別する方法であって、
対象が、(1)DsbA-L rs1917760(-1308G/T)における遺伝子型がG/T型又はT/T型である、及び/又は(2)末梢血単核細胞中のDsbA-L mRNA発現量が所定値以下である場合に、該対象を、メリンジョ由来レスベラトロールを投与する対象として選別する工程を含み、前記所定値は複数の対象における前記mRNA発現量の中間値である、方法。
【請求項2】
メリンジョ由来レスベラトロールの摂取によるアディポネクチン多量体化促進作用を予測する方法であって、
対象が、(1)DsbA-L rs1917760(-1308G/T)における遺伝子型がG/T型又はT/T型である場合前記遺伝子型がG/G型である対象と比較して、及び/又は(2)末梢血単核細胞中のDsbA-L mRNA発現量が所定値以下である場合、前記mRNA発現量が前記所定値を超える対象と比較して、該対象が、メリンジョ由来レスベラトロールの摂取による高いアディポネクチン多量体化促進作用を有すると予測する工程を含み、前記所定値は複数の対象における前記mRNA発現量の中間値である、方法。
【請求項3】
グネチンC、グネモノシドA、グネモノシドC及びグネモノシドDからなる群から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含み、
(1)DsbA-L rs1917760(-1308G/T)における遺伝子型がG/T型又はT/T型である、及び/又は(2)末梢血単核細胞中のDsbA-L mRNA発現量が複数の対象における前記mRNA発現量の中間値以下である対象のための、アディポネクチン多量体化促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アディポネクチン多量体化促進のためにメリンジョ由来レスベラトロールを投与する対象を選別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アディポネクチンは脂肪細胞から血中に分泌されるアディポカインの一つであり、血中では主に三量体、六量体又は多量体(HMW)として存在する。アディポネクチンは、インスリン抵抗性改善、抗炎症等の作用を有し、生体内では多量体を形成することで活性化される。
【0003】
ジスルフィド結合形成酸化還元酵素A様タンパク質(Disulfide bond-forming oxidoreductase A-Like protein、DsbA-L)は、アディポネクチンの多量体化に関わるタンパク質である。これまで、in vitro又はマウスin vivoの検討では、ブドウから抽出されたトランス-レスベラトロールの投与により、DsbA-Lが活性化され、アディポネクチンの多量体化が促進されたことが報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Mohammadi-Sartang M. et al.,Pharmacological Research, 2017, Vol. 117, p394-405
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、トランス-レスベラトロールを用いたヒト試験では、有効性について一貫した結果が得られていない(非特許文献1)。一方、メリンジョ由来レスベラトロールについては、これまでアディポネクチンに関する効果は確認されていない。本発明者らは、メリンジョ由来レスベラトロールが特定の対象群において高い多量体化促進作用を有することを見出した。
【0006】
本発明は、メリンジョ由来レスベラトロールの摂取による、より有効なアディポネクチン多量体化促進作用を有する対象を選別する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アディポネクチン多量体化促進のためにメリンジョ由来レスベラトロールを投与する対象を選別する方法であって、対象が、(1)DsbA-L rs1917760(-1308G/T)における遺伝子型がG/T型又はT/T型である、及び/又は(2)末梢血単核細胞中のDsbA-L mRNA発現量が所定値以下である場合に、該対象を、メリンジョ由来レスベラトロールを投与する対象として選別する工程を含む方法を提供する。上記方法により、メリンジョ由来レスベラトロールの摂取による、より高いアディポネクチン多量体化促進作用を有するものが投与対象として選別される。
【0008】
本発明はまた、メリンジョ由来レスベラトロールの摂取によるアディポネクチン多量体化促進作用を予測する方法であって、対象が、(1)DsbA-L rs1917760(-1308G/T)における遺伝子型がG/T型又はT/T型である、及び/又は(2)末梢血単核細胞中のDsbA-L mRNA発現量が所定値以下である場合に、該対象が、メリンジョ由来レスベラトロールの摂取による高いアディポネクチン多量体化促進作用を有すると予測する工程を含む方法を提供する。上記方法により、メリンジョ由来レスベラトロールの摂取による高いアディポネクチン多量体化促進作用を有するか否かを、実際の投与を必要とせずに予測することができる。
【0009】
本発明はさらに、対象の性質を判断する方法であって、メリンジョ由来レスベラトロールの摂取によるアディポネクチン多量体化促進作用を有する対象が、(1)DsbA-L rs1917760(-1308G/T)における遺伝子型がG/T型又はT/T型である者、及び(2)末梢血単核細胞中のDsbA-L mRNA発現量が所定値以下である者の少なくとも一方に該当すると判断する工程を含む方法を提供する。上記方法により、メリンジョ由来レスベラトロールの摂取によって高いアディポネクチン多量体化促進作用を有する対象の、生理学的性質を判断することができる。
【0010】
上記判断方法は、上記対象の、メリンジョ由来レスベラトロールの摂取後の血液中全アディポネクチン濃度及び高分子量アディポネクチン濃度を測定する工程と、該血液中全アディポネクチン濃度及び高分子量アディポネクチン濃度に基づいて、上記対象における、メリンジョ由来レスベラトロールの摂取によるアディポネクチン多量体化促進作用を評価する工程とを更に含んでもよい。
【0011】
本発明はまた、グネチンC、グネモノシドA、グネモノシドC及びグネモノシドDからなる群から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含み、(1)DsbA-L rs1917760(-1308G/T)における遺伝子型がG/T型又はT/T型である、及び/又は(2)末梢血単核細胞中のDsbA-L mRNA発現量が所定値以下である対象のための、アディポネクチン多量体化促進剤を提供する。本発明に係るアディポネクチン多量体化促進剤は、上記対象に対して優れたアディポネクチン多量体化促進作用を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、メリンジョ由来レスベラトロールの摂取による、より有効なアディポネクチン多量体化促進作用を有する対象を選別する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本発明は、アディポネクチン多量体化促進のためにメリンジョ由来レスベラトロールを投与する対象を選別する方法を提供する。アディポネクチン多量体化促進とは、具体的には、血中の全アディポネクチン濃度における高分子量(HMW)アディポネクチン濃度の割合を上昇させることをいう。高分子量アディポネクチンとは、6量体より大きい多量体を形成しているアディポネクチンをいう。
【0015】
メリンジョは、インドネシア原産のグネツム科に属する植物であり、学名はGnetum Gnemon L.である。メリンジョ由来レスベラトロールは、メリンジョに含まれるレスベラトロール類の総称であり、具体的には、グネチンC、グネチンL、グネモノシドA、グネモノシドC及びグネモノシドDを指す。メリンジョ由来レスベラトロールは、グネチンC、グネモノシドA、グネモノシドC及びグネモノシドDからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。メリンジョ由来レスベラトロールは、トランス-レスベラトロールよりも血中滞留時間が長いという特徴を持っており、より安定的に有効性を示すため好ましい。
【0016】
グネモノシドA、グネモノシドC及びグネモノシドDは、グネチンCの配糖体である。上記化合物の構造式を以下に示す。
【0017】
【化1】
【0018】
グネチンCは、上記一般式(1)において、R、R及びRが水素原子であり、Rが水酸基である。グネチンLは、上記一般式(1)において、Rが-OCHで表される基であり、R及びRが水素原子であり、Rが水酸基である。グネモノシドAは、上記一般式(1)において、R及びRが水素原子であり、Rが-OGlcで表される基であり、RがGlcである。グネモノシドCは、上記一般式(1)において、R、R及びRが水素原子であり、Rが-OGlcで表される基である。グネモノシドDは、上記一般式(1)において、R及びRが水素原子であり、Rが水酸基であり、Rが-Glcで表される基である。Glcはグルコース残基(D-グルコピラノシル)を示す。
【0019】
メリンジョ由来レスベラトロールを含む原料としては、例えばメリンジョ抽出物を用いることができる。メリンジョ抽出物は、例えば、メリンジョの種子を水、エタノール、メタノール、アセトン等の溶媒によって、抽出することによって得ることができる。メリンジョ抽出物は、更に分画、精製等の処理が行われたものであってもよい。
【0020】
本実施形態に係る選別方法は、対象が、(1)DsbA-L rs1917760(-1308G/T)における遺伝子型がG/T型又はT/T型である、及び/又は(2)末梢血単核細胞中のDsbA-L mRNA発現量が所定値以下である場合に、該対象を、メリンジョ由来レスベラトロールを投与する対象として選別する工程を含む。上記(1)及び(2)の少なくとも一方に該当する対象は、メリンジョ由来レスベラトロールの投与による高いアディポネクチン多量体化促進作用を有する可能性が高い。
【0021】
本実施形態に係る選抜方法において選別される対象について説明する。DsbA-L rs1917760(-1308G/T)における遺伝子型は、G/G型、G/T型及びT/T型が存在する。本実施形態に係る選抜方法において、対象がDsbA-L rs1917760(-1308G/T)における遺伝子型がG/T型又はT/T型である場合には、該対象はメリンジョ由来レスベラトロールを投与する対象として選別される。メリンジョ由来レスベラトロールは、G/T型又はT/T型の遺伝子型を有する対象において、高いアディポネクチン多量体化促進作用を有する可能性が高い。
【0022】
DsbA-L rs1917760(-1308G/T)における遺伝子型決定は、公知の方法で行うことができ、例えば、市販のキットを用いて解析することができる。遺伝子型決定の検査試料としては、例えば血液、唾液等の試料を用いることができる。本実施形態に係る選別方法はさらに、対象から採取された検査試料からDNAを抽出する工程、該DNA中のDNA配列を解析して対象のDsbA-L rs1917760(-1308G/T)における遺伝子型を決定する工程を含んでいてもよい。
【0023】
メリンジョ由来レスベラトロールは、末梢血単核細胞中のDsbA-L mRNA発現量が低い対象において、高いアディポネクチン多量体化促進作用を有する可能性が高い。本実施形態に係る選抜方法において、対象の末梢血単核細胞中のDsbA-L mRNA発現量が所定値以下である場合には、該対象はメリンジョ由来レスベラトロールを投与する対象として選別される。
【0024】
末梢血単核細胞中のDsbA-L mRNA発現量は、公知の方法により測定することができる。本実施形態に係る選別方法は、対象の末梢血単核細胞中のDsbA-L mRNA発現量を測定する工程を更に含んでいてもよい。対象の末梢血単核細胞中のDsbA-L mRNA発現量を測定する工程は、例えば、対象から採取された血液試料から末梢血単核細胞中RNAを抽出する工程、該RNAから転写されたcDNAを得る工程、及び得られたcDNA量に基づいてDsbA-L mRNA発現量を測定する工程を含んでいてもよい。
【0025】
本実施形態に係る選抜方法における、末梢血単核細胞中のDsbA-L mRNA発現量の所定値は、例えば、複数の対象における当該mRNA発現量の中間値又は平均値であってよい。
【0026】
本実施形態に係る選別方法により、メリンジョ由来レスベラトロールの摂取によるアディポネクチン多量体化促進作用を有する対象を選別することができる。上記(1)及び(2)のいずれにも該当しない対象は、メリンジョ由来レスベラトロールを摂取してもアディポネクチン多量体化促進作用が奏されないか、又は非常に低い可能性が高く、メリンジョ由来レスベラトロールの投与対象から除外することができる。本実施形態に係る選別方法を用いることにより、メリンジョ由来レスベラトロール投与によるアディポネクチン多量体化促進作用が乏しい対象が、不要にメリンジョ由来レスベラトロールを摂取することを回避することができる。
【0027】
本実施形態に係る選別方法において、対象は、ヒト等の哺乳類であってよい。
【0028】
(予測方法)
(1)DsbA-L rs1917760(-1308G/T)における遺伝子型がG/T型又はT/T型である、及び/又は(2)末梢血単核細胞中のDsbA-L mRNA発現量が所定値以下であるものは、メリンジョ由来レスベラトロールの摂取による高いアディポネクチン多量体化促進作用が奏される可能性が高い。したがって、本発明はまた、メリンジョ由来レスベラトロールの摂取によるアディポネクチン多量体化促進作用を予測する方法であって、対象が、(1)DsbA-L rs1917760(-1308G/T)における遺伝子型がG/T型又はT/T型である、及び/又は(2)末梢血単核細胞中のDsbA-L mRNA発現量が所定値以下である場合に、該対象が、メリンジョ由来レスベラトロールの摂取による高いアディポネクチン多量体化促進作用を有すると予測する工程を含む方法を提供する。対象が上記(1)及び(2)に該当するか否かを判断する態様は、上述の選別方法と同様の態様を適用できる。
【0029】
(対象性質判断方法)
本発明はまた、対象の性質を判断する方法であって、メリンジョ由来レスベラトロールの摂取によるアディポネクチン多量体化促進作用を有する対象が、(1)DsbA-L rs1917760(-1308G/T)における遺伝子型がG/T型又はT/T型である者、及び(2)末梢血単核細胞中のDsbA-L mRNA発現量が所定値以下である者の少なくとも一方に該当すると判断する工程を含む方法を提供する。上記方法により、対象の遺伝子型又はDsbA-L mRNA発現量を直接測定しなくても、対象の遺伝子型又はDsbA-L mRNA発現量を判断することができる。
【0030】
本実施形態に係る判断方法は、例えば、対象の、メリンジョ由来レスベラトロール摂取後の血液中全アディポネクチン濃度及び/又は高分子量アディポネクチン濃度を測定する工程、全アディポネクチン濃度における高分子量アディポネクチン濃度の割合を測定する工程等の工程を含んでいてもよい。
【0031】
本実施形態に係る判断方法は、更に、対象の、メリンジョ由来レスベラトロール摂取前の全アディポネクチン濃度における高分子量アディポネクチン濃度の割合を測定する工程と、摂取前後の全アディポネクチン濃度における高分子量アディポネクチン濃度の割合を比較する工程とを含んでいてもよい。
【0032】
本実施形態に係る判断方法は、測定された血液中の全アディポネクチン濃度及び高分子量アディポネクチン濃度に基づいて、上記対象における、メリンジョ由来レスベラトロールの摂取によるアディポネクチン多量体化促進作用を評価する工程を更に含んでいてもよい。評価工程では、例えば、メリンジョ由来レスベラトロール摂取後に、摂取前と比較して血液中全アディポネクチン濃度における高分子量アディポネクチン濃度の割合が一定以上増加した場合、例えば6%以上増加した場合に、当該対象が、高いアディポネクチン多量体化促進作用を有すると評価することができる。
【0033】
本実施形態に係る判断方法において、対象が、メリンジョ由来レスベラトロールの摂取によるアディポネクチン多量体化促進作用を有する場合には、該対象は、1)DsbA-L rs1917760(-1308G/T)における遺伝子型がG/T型又はT/T型である者、及び(2)末梢血単核細胞中のDsbA-L mRNA発現量が所定値以下である者の少なくとも一方に該当すると判断することができる。
【0034】
血液中全アディポネクチン濃度及び高分子量アディポネクチン濃度の測定は、公知の方法により行うことができる。メリンジョ由来レスベラトロール摂取後の血液中全アディポネクチン濃度及び高分子量アディポネクチン濃度の測定は、メリンジョ由来レスベラトロールの摂取を3日間以上、1週間以上、2週間以上又は1ヶ月以上継続した後で行われてもよい。
【0035】
(アディポネクチン多量体化促進剤)
本発明はまた、グネチンC、グネモノシドA、グネモノシドC及びグネモノシドDからなる群から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含むアディポネクチン多量体化促進剤を提供する。本実施形態に係るアディポネクチン多量体化促進剤は、(1)DsbA-L rs1917760(-1308G/T)における遺伝子型がG/T型又はT/T型である、及び/又は(2)末梢血単核細胞中のDsbA-L mRNA発現量が所定値以下である対象のためのものである。
【0036】
本実施形態に係るアディポネクチン多量体化促進剤は、グネチンC、グネモノシドA、グネモノシドC及びグネモノシドDからなる群から選ばれる少なくとも1種を有効成分として含むため、特に上記(1)及び(2)の少なくともいずれかに該当する対象において、当該アディポネクチン多量体化促進剤を摂取することによって、アディポネクチン多量体化の促進が可能である。
【0037】
グネチンC、グネモノシドA、グネモノシドC及びグネモノシドDは、市販品であってもよく、天然由来のものであってもよい。グネチンC、グネモノシドA、グネモノシドC及びグネモノシドDは、例えばメリンジョ由来のものであってよい。グネチンC、グネモノシドA、グネモノシドC及びグネモノシドDからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む原料としては、例えばメリンジョ抽出物を用いることができる。メリンジョ抽出物は、例えば、メリンジョの種子を水、エタノール、メタノール、アセトン等の溶媒によって、抽出することによって得ることができる。メリンジョ抽出物は、更に分画、精製等の処理が行われたものであってもよい。
【0038】
本実施形態に係るアディポネクチン多量体化促進剤は、上記有効成分を含むため、特に末梢血単核細胞中のDsbA-L mRNA発現量が所定値以下である対象において、DsbA-L mRNA発現量を増加させる作用を有する。したがって本実施形態に係るアディポネクチン多量体化促進剤は、末梢血単核細胞中のDsbA-L mRNA発現量が所定値以下であるものを対象とする、DsbA-L mRNA発現促進剤ということもできる。所定値は、例えば、複数の対象における当該mRNA発現量の中間値又は平均値であってよい。
【0039】
本実施形態に係るアディポネクチン多量体化促進剤は、アディポネクチン多量体化促進剤全量に対して上記有効成分を、例えば0.2質量%以上、0.4質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上又は3質量%以上含んでいてよく、5質量%以上含むことが好ましく、10質量%以上含むことがより好ましい。本実施形態に係るアディポネクチン多量体化促進剤は、アディポネクチン多量体化促進剤全量に対して上記有効成分を例えば100質量%以下、95質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、50.0質量%以下、40.0質量%以下、30.0質量%以下、20.0質量%以下又は10.0質量%以下含んでいてよい。
【0040】
本実施形態に係るアディポネクチン多量体化促進剤において、有効成分は、グネチンC、グネモノシドA、グネモノシドC及びグネモノシドDからなる群から選ばれる2種以上の混合物であることが好ましく、3種以上の混合物であることがより好ましく、グネチンC、グネモノシドA、グネモノシドC及びグネモノシドDを全て含むことが更に好ましい。
【0041】
グネチンC、グネモノシドA、グネモノシドC及びグネモノシドDの総量に対して、グネチンCの含有量は10~20質量%であることが好ましく、12~16質量%であることがより好ましい。上記総量に対して、グネモノシドAの含有量が45~60質量%であることが好ましく、50~55質量%であることがより好ましい。上記総量に対して、グネモノシドCの含有量が5~15質量%であることが好ましく、7~12質量%であることがより好ましい。上記総量に対して、グネモノシドDの含有量が20~30質量%であることが好ましく、22~27質量%であることがより好ましい。
【0042】
本実施形態に係るアディポネクチン多量体化促進剤は、有効成分量換算で、例えば、体重60kgの成人に1日当たり1mg~1gの用量で用いることができ、10~500mgの用量で用いることが好ましい。用量は、摂取する人の健康状態、投与方法及び他の剤との組み合わせ等の因子に応じて、上記範囲内で適宜設定することができる。
【0043】
本実施形態に係るアディポネクチン多量体化促進剤は、経口投与(摂取)されてもよく、非経口投与されてもよい。本発明のアディポネクチン多量体化促進剤は、一日当たりの有効成分量が上述した範囲内にあれば、一日一回投与されてもよいし、一日二回、一日三回等、複数回に分けて投与されてもよい。
【0044】
本実施形態に係るアディポネクチン多量体化促進剤は、長期投与用に好適に用いることができる。上記アディポネクチン多量体化促進剤は、長期投与によって、アディポネクチン多量体化促進効果がより一層顕著なものとなる。本実施形態に係るアディポネクチン多量体化促進剤は、1週間以上の期間にわたり投与されることが好ましく、2週間以上の期間にわたり投与されることがより好ましく、4週間以上の期間にわたり投与されることが更に好ましく、3ヶ月以上の期間にわたり投与されることがより更に好ましい。
【0045】
本実施形態に係るアディポネクチン多量体化促進剤は、グネチンC、グネモノシドA、グネモノシドC及びグネモノシドDからなる群から選ばれる1種以上に加えて、グネチンL、トランス-レスベラトロール等のレスベラトロール類を含んでいてもよい。本実施形態に係るアディポネクチン多量体化促進剤は、例えば、メリンジョ種子抽出物及び別途添加されたトランス-レスベラトロールを含んでいてもよい。上記アディポネクチン多量体化促進剤におけるトランス-レスベラトロールの含有量は、例えば0.1~20質量%であってよく、1~10質量%であってよい。本実施形態に係るアディポネクチン多量体化促進剤におけるトランス-レスベラトロールの含有量は、0~1質量%であってよく、0~0.5質量%であってもよい。
【0046】
本実施形態に係るアディポネクチン多量体化促進剤は、上記有効成分のみを含有するものであってもよく、メリンジョ抽出物のみを含有するものであってもよく、本発明による効果を妨げない限り、他の成分を更に含有していてもよい。他の成分としては、例えば、薬学的に許容される成分(例えば、賦形剤、結合材、滑沢剤、崩壊剤、乳化剤、界面活性剤、基剤、溶解補助剤、懸濁化剤)、食品として許容される成分(例えば、ミネラル類、ビタミン類、フラボノイド類、キノン類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘味料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、安定化剤、防腐剤、徐放調整剤、界面活性剤、溶解剤、湿潤剤)を挙げることができる。
【0047】
本実施形態に係るアディポネクチン多量体化促進剤は、固体、液体、ペースト等のいずれの形状であってもよく、タブレット(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠、トローチ剤等を含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、シロップ、ペースト、注射剤(使用時に、蒸留水又はアミノ酸輸液若しくは電解質輸液等の輸液に配合して液剤として調製する場合を含む)等の剤形であってもよい。これらの各種製剤は、例えば、上記有効成分と、必要に応じて他の成分とを混合して上記剤形に成形することによって調製することができる。本実施形態に係るアディポネクチン多量体化促進剤は、遮光容器に保存されることが好ましい。
【0048】
本実施形態に係るアディポネクチン多量体化促進剤は、医薬品、医薬部外品及び食品組成物そのものとして、並びに医薬品、医薬部外品及び食品組成物に添加して、使用することができる。食品組成物としては、食品の3次機能(体調調節機能)が強調された食品であることが好ましい。食品の3次機能が強調された食品としては、例えば、健康食品、機能性表示食品、栄養補助食品、栄養機能食品、サプリメント及び特定保健用食品を挙げることができる。
【0049】
本実施形態に係るアディポネクチン多量体化促進剤からなる医薬品、医薬部外品若しくは食品組成物、又は本実施形態に係るアディポネクチン多量体化促進剤を含む医薬品、医薬部外品若しくは食品組成物は、アディポネクチン多量体化促進用であってよく、例えば、インスリン抵抗性の改善、TNF-α産生の抑制、及び2型糖尿病、動脈硬化、冠動脈疾患、腎不全、心筋梗塞、高血圧、肝線維化等の予防又は改善効果がある旨などの表示が付されていてもよい。
【0050】
本実施形態に係るアディポネクチン多量体化促進剤を含む食品組成物は、上記有効成分を例えば0.2~10.0質量%含んでいてよい。食品組成物としては以下のようなものが挙げられ、これらの製造工程中の中間製品、又は最終製品に上記アディポネクチン多量体化促進剤を混合して、上記の目的に用いられる食品組成物を得ることができる:コーヒー、ジュース及び茶飲料等の清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、並びに、日本酒、洋酒、果実酒及びハチミツ酒等の酒などの飲料;カスタードクリーム等のスプレッド;フルーツペースト等のペースト;チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、ガム、ゼリー、キャンデー、クッキー、ケーキ及びプリン等の洋菓子;大福、餅、饅頭、カステラ、あんみつ及び羊羹等の和菓子;アイスクリーム、アイスキャンデー及びシャーベット等の氷菓;カレー、牛丼、雑炊、味噌汁、スープ、ミートソース、パスタ、漬物、ジャム等の調理済みの食品;ドレッシング、ふりかけ、旨味調味料及びスープの素等の調味料。
【実施例
【0051】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
<試験方法>
体質及び生活習慣について以下の適格基準を満たす男性の健康成人28名を本試験の対象とした。
1)消化管、心臓、肺及び肝臓の疾患、先天性代謝異常症等の、薬物代謝及び排泄に影響を及ぼす疾患を有さない。
2)喫煙経験がない。
3)日常的に脂肪又は糖代謝に関わる機能性食品を摂取していない。
4)日常的に赤ワインを飲用していない。
【0053】
1錠あたりメリンジョ種子抽出物粉末を150mg、うちレスベラトロール類として30mg含有するメリンジョ由来レスベラトロール試験食を用意した。上記メリンジョ種子抽出物粉末1.0g中に含まれるレスベラトロール類の量を表1に示す。プラセボ試験食としてメリンジョ種子抽出物粉末を含まないものを用意した。用いたメリンジョ由来レスベラトロール試験食及びプラセボ試験食には、添加物としてデキストリン、セルロース、ショ糖脂肪酸エステル及びゼラチンが含まれる。
【0054】
【表1】
【0055】
被験者を14名ずつの2グループに無作為に割り付けし、それぞれ試験群及びプラセボ群とした。試験群には、上記メリンジョ由来レスベラトロール試験食を1日1回2錠ずつ、プラセボ群にはプラセボ試験食を1日1回2錠ずつ摂取させた。被験者には、試験食内服2日前から試験終了まで、酒、グレープフルーツ及びレスベラトロール含有食品を摂取しないよう指示した。被験者は各試験食の内服(朝食前)を14日間続けた。初回の試験食内服直前、及び内服14日目に被験者の採血を行った。
【0056】
(アディポネクチン濃度の測定)
採取した血液試料から抽出した血清を用いて、各被験者のTotalアディポネクチン(μg/ml)及びHMWアディポネクチン(μg/ml)のタンパク量を測定した。また、各被験者のTotalアディポネクチンに占めるHMWアディポネクチンの割合(%)を算出した。測定には、ELISAキットを用いた(Human TotalAdiponectin/Acrp30 and Human HMW Adiponectin/Acrp30 Quantikine ELISA Kits、R&Dシステムズ社)。
【0057】
(遺伝子発現量)
RNA iso Blood(タカラバイオ社)を用いて、採取した血液試料から末梢血単核細胞(PBMC)中のRNAを抽出した。その後、total RNAの収量をUV(260nm)の吸光度より算出し、OD260/OD280の比が1.7以上であり、高純度のRNAが得られていることを確認した。さらに、Prime Script(登録商標)RT reagent Kit with gDNA Eraser Perfect Real Time(タカラバイオ社)を用いてゲノム除去反応(42℃で2分)、逆転写反応(37℃で15分、85℃で5秒、4℃で∞;1サイクル)を行い、complementary DNA(cDNA)を得た。
【0058】
得られたcDNAを用いてDsbA-Lの遺伝子発現量を測定した。測定には、Step One PlusリアルタイムPCRシステムversion 2.1(アプライドバイオシステムズ)を使用し、quantitative TaqMan ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法により定量した。相対的な標的遺伝子DsbA-LのmRNA量は、比較Ct法(ΔΔCt法)により算出した。内部標準遺伝子にはグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)を用いた。
【0059】
(遺伝子型判定)
末梢血からのDNA抽出には、Flexi Gene DNA kit(キアゲン社)を用いた。抽出したDNAを用いて、DsbA-L rs1917760(-1308G/T)及びADIPOQ rs3774261、rs182052遺伝子多型を、市販のプローブ及びプライマー(TaqMantm Genotyping Master Mix(アプライドバイオシステムズ); TaqMantm SNP Genotyping Assay (Assay ID: C 11980950 10; C 27479710 10; C 2412785 10)(アプライドバイオシステムズ)によるTaqMan PCR法を用いて判定した。
【0060】
(統計解析)
数値変数の比較には、一元配置分散分析(one-way ANOVA)、スチューデントのt検定、マン・ホイットニーのU検定のいずれかを用いた。カテゴリ変数の比較にはフィッシャーの正確確率検定を用いた。多変量解析には重回帰分析を使用し、影響の度合いを偏回帰係数(標準誤差)で示した。以上の統計解析にはSPSS software package for Windows(version23.0、IBM社)を用い、P<0.05を有意差ありとした。
【0061】
表2に観察開始時の被験者の臨床的背景を示す。
【0062】
【表2】
【0063】
表3に被験者のDsbA-L遺伝子型及びADIPOQ遺伝子型を示す。各遺伝子の遺伝子型頻度は過去の日本人における報告と一致していた。また、各遺伝子型頻度はHardy-weinberg平衡を満たしていた(それぞれP>0.05)
【0064】
【表3】
【0065】
<結果>
(試験食内服前後の臨床検査値)
プラセボ群、試験群のいずれにおいても、BMI、総蛋白、アルブミン、AST、ALT、γ-GT、総ビリルビン、クレアチニン、尿素窒素、尿酸、HDL-C、LDL-C、中性脂肪、及びグリコアルブミンについて、試験食内服前後で有意な変化を認めなかった。
【0066】
(試験食内服前後のアディポネクチン値)
試験食内服前後で、いずれの群においてもTotalアディポネクチン量、HMWアディポネクチン量及びHMWアディポネクチン割合への有意な影響は認めなかった。有意確率の算出にはマン・ホイットニーのU検定を用いた。
【0067】
(試験食内服によるアディポネクチン変化量の群間比較、単変量解析)
メリンジョ由来レスベラトロール試験食内服前後のTotalアディポネクチン量(μg/ml)、HMWアディポネクチン量(μg/ml)及び割合(%)の変化量をプラセボ群と比較した。有意確率の算出にはマン・ホイットニーのU検定を用いた。試験群では、試験食内服前後で、プラセボ群と比較して、Totalアディポネクチン量(μg/ml)、HMWアディポネクチン量(μg/ml)及びHMWアディポネクチン割合(%)の変化量において有意差は認めなかった。
【0068】
(試験食内服によるアディポネクチン変化量の群間比較、多変量解析)
試験食内服によるTotalアディポネクチン量(μg/ml)、HMWアディポネクチン量(μg/ml)及び割合(%)の変化について、多変量解析を行った。表4、5及び6に結果を示す。解析には重回帰分析を用いた。試験食内服前後で、プラセボ群と比較して、試験群ではHMWアディポネクチン(%)が有意に増加した。一方で、Totalアディポネクチン量(μg/ml)及びHMWアディポネクチン量(μg/ml)については有意な影響を認めなかった。
【0069】
【表4】
【0070】
【表5】
【0071】
【表6】
【0072】
(遺伝子型の影響、多変量解析)
試験食内服によるHMW/Totalアディポネクチン比の変化量について、遺伝子型の影響を多変量解析(重回帰分析)により検討した。結果を表7に示す。DsbA-L rs1917760(-1308G/T)G/T又はT/T型保有者で、被験食の内服により、HMWアディポネクチン(%)が有意に増加し、DsbA-L rs1917760(-1308G/T)G/G型保有者では有意な影響を認めなかった。一方で、ADIPOQ遺伝子型で層別化した際には、レスベラトロール類の内服による影響に差異は認めなかった。
【0073】
【表7】
【0074】
各群においてPBMC中のDsbA-L mRNA量の中央値で層別化し、試験食服用前後のHMWアディポネクチン(%)を検討した。解析には重回帰分析を用いた。結果を表8に示す。DsbA-L mRNA量が中央値より低い群では、試験食の内服によって有意にHMWアディポネクチン(%)が増加した。一方、DsbA-L mRNA量が中央値より高い群では影響を認めなかった。
【0075】
【表8】
【0076】
試験食内服前後のDsbA-L mRNAの変化量について、重回帰分析を用いて解析した。結果を表9に示す。全被験者においては、レスベラトロール類内服によるDsbA-L mRNAへの影響を認めなかったが、DsbA-L mRNA量が低い群では、試験群でプラセボ群と比較して、有意にDsbA-L mRNA量が増加した。
【0077】
【表9】