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  • 特許-メマンチン含有経皮吸収型液剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】メマンチン含有経皮吸収型液剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/13 20060101AFI20220803BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
A61K31/13
A61K9/08
A61K47/24
A61K47/10
A61K47/18
A61P43/00 111
A61P25/28
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019512507
(86)(22)【出願日】2018-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2018014984
(87)【国際公開番号】W WO2018190313
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2017078559
(32)【優先日】2017-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017090921
(32)【優先日】2017-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017111885
(32)【優先日】2017-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302005628
【氏名又は名称】株式会社 メドレックス
(74)【代理人】
【識別番号】100104802
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 尚人
(72)【発明者】
【氏名】山崎 啓子
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/186157(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/024354(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 9/00
A61K 47/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メマンチン又はその塩に加えて、
(a) ホスファチジルコリン 0.05~1.5重量%
(b) プロピレングリコール 35~55重量%
(c) グリセリン 18~30重量%
(d) 水 22~32重量
を含む、経皮吸収型液剤(但し、カルニチンを含むものを除く。)
【請求項2】
さらに、アルカノールアミン及び/又は高級アルコールを含む、請求項1に記載の経皮吸収型液剤。
【請求項3】
アルカノールアミンが、トリエタノールアミンである、請求項2に記載の経皮吸収型液剤。
【請求項4】
高級アルコールが、オレイルアルコールである、請求項2又は3に記載の経皮吸収型液剤。
【請求項5】
(a) ホスファチジルコリン 0.05~1.5重量%
(b) プロピレングリコール 35~55重量%
(c) グリセリン 18~30重量%
(d) 水 22~32重量
を含む、皮膚刺激が低減された、メマンチン又はその塩を有効成分とする経皮吸収型液剤(但し、カルニチンを含むものを除く。)用の経皮吸収促進剤。
【請求項6】
さらに、アルカノールアミン及び/又は高級アルコールを含む、請求項5に記載の経皮吸収促進剤。
【請求項7】
アルカノールアミンが、トリエタノールアミンである、請求項6に記載の経皮吸収促進剤。
【請求項8】
高級アルコールが、オレイルアルコールである、請求項6又は7に記載の経皮吸収促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性成分としてメマンチンを含む経皮吸収型液剤に関し、特に皮膚刺激が低減された外用剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
メマンチンは、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体阻害作用を有し、アルツハイマー型認知症治療剤として用いられる。現在、メマンチン塩酸塩の経口投与製剤であるフィルムコート錠及び口腔内崩壊錠が入手可能である。しかし、認知症の症状が進行した場合には、治療薬の経口投与が困難になる場合がある。そこで、メマンチンを貼付製剤により経皮投与することが提案されている。ところが、メマンチンを経皮投与すると、強い皮膚刺激を示すため、長期間の継続投与には適さない。
【0003】
このようなメマンチンの皮膚刺激の問題を解決する手段として、メマンチンの皮膚透過速度を一定の値以下とする方法(特許文献1)、ホスファチジルコリンを含む組成物により皮膚刺激を低減する方法(特許文献2)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-13171号公報
【文献】国際公開第2016/186157号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、皮膚刺激が低減され、且つ、皮膚透過性に優れ、長期間連続投与に適したメマンチンを含有する外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討した結果、メマンチンの経皮吸収型液剤において、ホスファチジルコリン、プロピレングリコール、グリセリン、及び水を一定の割合で含む組成物により上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
本発明として、例えば、下記(1)~(3)を挙げることができる。
[1]メマンチン又はその塩に加えて、
(a)ホスファチジルコリン 0.05~1.5重量%
(b)プロピレングリコール 35~55重量%
(c)グリセリン 18~30重量%
(d)水 22~32重量%
を含む、経皮吸収型液剤。
[2]さらに、アルカノールアミン及び/又は高級アルコールを含む、上記[1]に記載の経皮吸収型液剤。
[3]アルカノールアミンが、トリエタノールアミンである、上記[2]に記載の経皮吸収型液剤。
[4]高級アルコールが、オレイルアルコールである、上記[2]又は[3]に記載の経皮吸収型液剤。
【0007】
[5]
(a)ホスファチジルコリン 0.05~1.5重量%
(b)プロピレングリコール 35~55重量%
(c)グリセリン 18~30重量%
(d)水 22~32重量%
を含む、皮膚刺激が低減された、メマンチン又はその塩を有効成分とする経皮吸収型液剤用の経皮吸収促進剤。
[6]さらに、アルカノールアミン及び/又は高級アルコールを含む、上記[5]に記載の経皮吸収促進剤。
[7]アルカノールアミンが、トリエタノールアミンである、上記[6]に記載の経皮吸収促進剤。
[8]高級アルコールが、オレイルアルコールである、上記[6]又は[7]に記載の経皮吸収促進剤。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】ホスファチジルコリンの濃度変化に依存したメマンチンの皮膚透過量の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の経皮吸収型液剤(以下、「本発明液剤」という。)は、メマンチン(1-アミノ-3,5-ジメチルアダマンタン)又はその塩(以下、併せて単に「メマンチン」ともいう。)を有効成分として含む。メマンチンの塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;プロピオン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、フマル酸円、マレイン酸塩、クエン酸塩、マロン酸塩等の有機酸塩が例示できる。この中、メマンチン塩酸塩が一般的に用いられる。メマンチン又はその塩は、本発明液剤の総重量に対して、例えば0.1~25重量%、1~15重量%、又は4~12重量%含有することができる。
【0010】
メマンチン又はその塩は、ホスファチジルコリン、プロピレングリコール、グリセリン、及び水からなる水性溶媒に溶解し、又はコロイド分散している。
【0011】
ホスファチジルコリンは、式(I)で示される化合物の総称であり、通常、R及びRの種類及び組み合わせの異なる混合物として提供される。
【0012】
【化1】
(式中、R及びRは同一又は異なって、C12-22炭化水素基を示す)
【0013】
本発明では、R、Rの少なくとも一方が、不飽和炭化水素基である、不飽和ホスファチジルコリンを用いることができる。R、Rとしてパルミチル基(16:0)、ステアリル基(18:0)等の飽和炭化水素基を含んでいてもよいが、本発明で使用できる不飽和ホスファチジルコリンは、このような飽和炭化水素基の含有率が80%未満、好ましくは70%未満、さらに好ましくは60%未満、特に好ましくは50%未満である。不飽和炭化水素基としては、パレミトイル基(16:1)、オレイル基(18:1)、リノレイル基(18:2)、リノレニル基(18:3)を例示できる。本発明において不飽和ホスファチジルコリンは、オレイル基、リノレイル基、リノレニル基等の炭素数18である不飽和炭化水素基の含有率が20%以上であるのが好ましく、さらに好ましくは30%以上、特に好ましくは40%以上である。不飽和ホスファチジルコリンを用いると、皮膚透過性に優れた安定な溶液又はコロイド分散液を調製することができる。
【0014】
本発明では、不飽和ホスファチジルコリンとして、大豆レシチン、卵黄レシチン等の天然由来であり、ホスファチジルコリンの含有量が95%以上である高純度のホスファチジルコリンを好ましく使用できる。水素添加処理を行った水素化ホスファチジルコリンや、酵素処理等により得られるリゾホスファチジルコリン等の化学的及び/又は生物学的修飾がなされたホスファチジルコリンを用いると、安定なコロイド分散液が得られない場合があり、好ましくない。ただし、天然由来レシチンの部分水添物等、化学的及び/又は生物学的修飾がなされたホスファチジルコリンであっても、不飽和度の高い、高純度ホスファチジルコリン(例えば、ヨウ素価が20以上であり、リゾレシチンの含有量が10%未満である)は、本発明の『不飽和ホスファチジルコリン』として用い得る。
【0015】
ホスファチジルコリンの含有量は、通常、本発明液剤の総重量に対して0.01~2重量%から選択される。メマンチンの皮膚透過量は、ホスファチジルコリンの濃度に密接に依存している。好ましいホスファチジルコリンの含有量は、0.05~1.5重量%の範囲であり、より好ましくは0.075~1.0重量%の範囲である。特に0.09~0.11重量%の範囲では、メマンチンの皮膚透過性が著しく向上する。
【0016】
水(例えば、精製水)の含有量は、本発明液剤の総重量に対して約22重量%~約32重量%の範囲である。水の含有量が約22重量%未満であると、皮膚刺激が強くなる場合があり、約32重量%を超えると皮膚透過性が低下する場合がある。
【0017】
グリセリンの含有量は、本発明液剤の総重量に対して約18重量%~約30重量%の範囲である。グリセリンの含有量が約18重量%未満であると、皮膚刺激が強くなる場合があり、約30重量%を超えると皮膚透過性が低下する場合がある。
【0018】
水とグリセリンとの重量比は、例えば、水:グリセリン=0.9:1~1.5:1とすることができ、好ましくは、水:グリセリン=1:0.9~1.4:1とすることができる。
【0019】
プロピレングリコールの含有量は、本発明液剤の総重量に対して約35重量%~約55重量%の範囲であり、好ましくは約40重量%~約50重量%の範囲とすることができる。プロピレングリコールの含有量が約35重量%未満であると皮膚透過性に劣る場合があり、約55重量%を超えると皮膚刺激が強くなる場合がある。
【0020】
水とプロピレングリコールとの重量比は、例えば、水:プロピレングリコール=1:1.2~1:2.1、水:プロピレングリコール=1:1.5~1:2.0とすることができる。
【0021】
グリセリンとプロピレングリコールとの重量比は、例えば、グリセリン:プロピレングリコール=1:1.4~1:2.6、グリセリン:プロピレングリコール=1:1.6~1:2.4とすることができる。
【0022】
本発明液剤には、さらに、アルカノールアミンを含んでいることが好ましい。アルカノールアミンを含むことにより、メマンチンの皮膚透過性がさらに向上する。アルカノールアミンとしては、炭素数2~12の1級、2級、又は3級のアルカノールアミンを使用することができる。これらの中で、2級又は3級アルカノールアミンが好ましく、3級のアルカノールアミンが特に好ましい。具体的には、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンを挙げることができる。皮膚透過促進効果が優れていることから、トリエタノールアミンが特に好ましい。アルカノールアミンの含有量は、本発明液剤の総重量の約0.001重量%~約0.1重量%の範囲から選択することができる。
【0023】
本発明液剤には、さらに、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール等の高級アルコールを含むことができる。高級アルコールを含むことにより、メマンチンの皮膚透過性をさらに向上させることができる。特に、メマンチンの経皮吸収遅延時間が短縮し、皮膚に適用後速やかに最大皮膚透過速度に到達することができる。高級アルコールの含有量は、本発明液剤の総重量に対して、約0.01重量%~約2.0重量%の範囲であり、好ましくは約0.01~約1.0重量%の範囲から、あるいは約0.04~約0.06重量%の範囲から選択することができる。
【0024】
本発明液剤には、さらに、必要に応じて外用剤又は化粧料に使用される各種添加剤を含むこともできる。このような添加剤には、香料、抗酸化剤、防腐剤、着色剤、緩衝剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、抗菌剤等が含まれる。酸化剤としては、酢酸トコフェロール、エデト酸ナトリウム、エリソルビン酸、1,3-ブチレングリコール、ピロ亜硫酸ナトリウム等を例示できる。防腐剤としては、ソルビン酸、タウリン等を例示できる。pH調節剤としては、クエン酸、酢酸、酒石酸等の有機酸;リン酸、塩酸等の無機酸、リン酸水素ナトリウム、リン酸二カリウム等のリン酸塩を例示できる。
【0025】
本発明液剤を皮膚に適応する方法は特に制限されず、本発明液剤を塗布又は噴霧する方法、本発明液剤を担持させた適宜な担持体を皮膚上に貼付する方法などが例示できる。これらの中で、本発明液剤を担持した担持体(不織布、発泡マトリックス等)を貼付する方法が、用量調節が容易である事や取扱い性の点から好ましい。
【実施例
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、これら実施例によって本発明は何ら限定されない。
【0027】
[皮膚透過性試験]
表1に示す組成(重量%)で液剤A~Gを調製した。得られた液剤について、フランツセルを用いたin vitro皮膚透過性試験を行った。試験に用いた皮膚は5週齢ヘアレスラット(雄)腹部摘出皮膚であった。表中の日局グリセリンは、水分を約15重量%含むものである(以下同じ)。試験開始後6時間の累積皮膚透過量(μg/cm)を表1に示す。
【0028】
[皮膚刺激性試験]
得られた液剤を不織布に含浸し、哺乳類皮膚表面に24時間貼付し、皮膚刺激性を評価した。結果を表1に示す。刺激性の評価は目視により確認し、以下の基準で行った。
++ :明らかな紅斑が認められた
+ :紅斑が認められた
- : 皮膚刺激は認められない
【0029】
【表1】
【0030】
液剤D及び液剤Gは、皮膚透過性に優れ、かつ皮膚刺激も認められなかった。液剤B及び液剤Cは、皮膚刺激は認められなかったが、メマンチンの皮膚透過も不十分であった。これは、水の含有量が多く、プロピレングリコールの含有量が少ないことに起因すると考えられる。液剤Eは、メマンチンの皮膚透過性に優れているものの、皮膚刺激が認められた。これは、プロピレングリコールの含有量が高く、グリセリンの含有量が低いことに起因すると考えられる。液剤Aは、皮膚透過性が低く皮膚刺激も認められた。これは、グリセリンの含有量が多く、水の含有量が少ないことに起因すると考えられる。液剤Fはプロピレングリコールとホスファチジルコリンを含むことにより優れた皮膚透過性を示すが、明らかな皮膚刺激(紅斑)が認められた。これは、グリセリンを含まないことに起因すると考えられる。
【0031】
[ブタ皮膚を用いたin vitro皮膚透過性試験 / ウサギ皮膚一次刺激性試験]
表2に示す組成(重量%)で実施例1及び2、並びに比較例1の液剤を調製した。得られた液剤についてブタ皮膚を用いたin vitro皮膚透過性試験、及びウサギ皮膚一次刺激性試験を行った。各サンプリングポイントにおける累積皮膚透過量(μg/cm)を表2に示す。
皮膚一次刺激性試験では、ウサギ背部に液剤を含浸した不織布(2.5cm×2.5cm)を24時間貼付して、剥離後の皮膚刺激性をDraiz法により評価した。一次刺激評点(P.I.I.)を表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
実施例の本発明液剤は、十分なメマンチンの皮膚透過性が得られるにもかかわらず、皮膚刺激はほとんど認められなかった。
【0034】
表3に示す組成(重量%)でホスファチジルコリンの濃度の異なる6種の液剤(実3-1~実3-3及び比3-1~3-3)を調製し、フランツセルを用いてメマンチンの皮膚透過量を測定した。
試験に用いた皮膚は5週齢ヘアレスラット(雄)腹部摘出皮膚であった。試験開始後6時間の累積皮膚透過量(μg/cm)を表3及び図1に示す。
【0035】
【表3】
【0036】
メマンチンの皮膚透過は、ホスファチジルコリン濃度が0.1重量%である実施例3-2で最大であり、ホスファチジルコリンの濃度に大きく依存することが示された。
【0037】
[実施例4~6]
表4に示す組成(重量%)で、常法により実施例4~6の液剤を調製した。
【0038】
【表4】
【0039】
実施例4~6の本発明液剤は、十分なメマンチンの皮膚透過性が得られるにもかかわらず、皮膚刺激はほとんど認められなかった。
図1