(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】加熱装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/10 20060101AFI20220803BHJP
B30B 5/06 20060101ALI20220803BHJP
H05B 6/44 20060101ALI20220803BHJP
H05B 6/36 20060101ALI20220803BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20220803BHJP
B29C 70/50 20060101ALI20220803BHJP
B29C 43/52 20060101ALI20220803BHJP
B29C 43/22 20060101ALI20220803BHJP
B29C 35/08 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
H05B6/10 381
B30B5/06 A
H05B6/44
H05B6/36 D
B29C70/16
B29C70/50
B29C43/52
B29C43/22
B29C35/08
(21)【出願番号】P 2018151709
(22)【出願日】2018-08-10
【審査請求日】2021-02-22
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム「革新材料による次世代インフラシステムの構築~安全・安心で地球と共存できる数世紀社会の実現~」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】布谷 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】福永 高之
(72)【発明者】
【氏名】石田 宗則
(72)【発明者】
【氏名】北田 純一
【審査官】石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-034162(JP,A)
【文献】特開平02-010687(JP,A)
【文献】特表2004-531028(JP,A)
【文献】特開2007-200813(JP,A)
【文献】特表2015-531147(JP,A)
【文献】特開2003-187951(JP,A)
【文献】特開昭62-274593(JP,A)
【文献】実開平2-79594(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/02- 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性シートと熱可塑性樹脂シートが積層された成形品を平坦に保持しながら搬送する搬送機構と、
前記成形品の表面側
のみに、表面と平行に配置された第1コイルと、
前記成形品の裏面側
のみに、裏面と平行に配置された第2コイルと、
を含み、前記第1コイルおよび前記第2コイルにそれぞれ電流を供給し、前記成形品中の前記導電性シートを誘導加熱する加熱装置であって、
前記電流は、周波数が20kH以上120kHz以下の高周波電流であり、
前記成形品の表面に対して鉛直方向から見た場合に、前記第1コイルと前記第2コイルとが重ならないことを特徴とする加熱装置。
【請求項2】
前記第1コイルと前記第2コイルは、長円形状にコイルが巻かれた平板状コイルであり、長円の長手方向が、前記成形品が搬送される方向に直交することを特徴とする請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記第1コイルと前記第2コイルは、前記鉛直方向から見た場合に隣接することを特徴とする請求項1または2に記載の加熱装置。
【請求項4】
前記成形品に対して、前記第1コイルおよび前記第2コイルの位置をそれぞれ調整できる調整機構をさらに含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の加熱装置。
【請求項5】
前記鉛直方向から見た場合に、前記第1コイルおよび前記第2コイルの、前記成形品を挟んだ反対側の面にはコイルを配置しないことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の加熱装置。
【請求項6】
前記電流は、周波数が23kH以上50kHz以下の高周波電流であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の加熱装置。
【請求項7】
前記搬送機構は、2組の対向するローラであり、対向する前記ローラの間に前記成形品が挟持されて搬送されることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の加熱装置。
【請求項8】
前記搬送機構は、スライドテーブルまたは非磁性帯ベルトであり、前記スライドテーブルまたは非磁性帯ベルトに前記成形品が載置されて搬送されることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の加熱装置。
【請求項9】
前記第1コイルに接続された第1インバータ回路と、前記第2コイルに接続された第2インバータ回路をさらに含み、前記第1インバータ回路および前記第2インバータ回路により、前記第1コイルおよび前記第2コイルに供給される電流が互いに独立して制御されることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の加熱装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の加熱装置と、プレス装置とを備え、
前記加熱装置で予備加熱された前記成形品が、前記プレス装置で、所定の温度でプレスされて完成品となることを特徴とする加工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性シートを含む成形品を誘導加熱する加熱装置に関し、特に電磁誘導加熱が可能な炭素繊維熱可塑性プラスチック(CFRTP)等の成形品をプレス加工前に予備加熱するための加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の加熱プレス装置では、例えばローラに巻き掛けられたベルトが対向配置され、その間に、CFRTPの成形品を通し、加熱およびプレスを行うことでCFRTPの完成品を得ていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、CFRTPの成形品をプレス加工して完成品にする場合、炭素繊維材料と熱可塑性樹脂との積層体を加熱プレス装置に挿入した後に、室温から熱可塑性樹脂の含浸温度まで積層体を熱伝導、熱伝達および輻射等の伝熱方式を用いて加熱する必要があり、加熱に時間がかかるという問題があった。特に、積層体の積層数が多くなり成形品の膜厚が厚くなると、成形品の厚さ方向の熱伝導に時間を要し、加熱時間がさらに長くなるという問題があった。さらに、加熱プレス装置内に大型の加熱機構を設ける必要があり、プレス装置の構造が複雑になると共に、小型化が困難であるという問題もあった。
【0005】
そこで、本発明は、プレス装置の前段に誘導加熱装置を設けることにより、炭素繊維材料と熱可塑性樹脂との積層体を、均一で効率的に予備加熱し、小型のプレス装置で迅速にCFRTPの完成品を作製することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
導電性シートと熱可塑性樹脂シートが積層された成形品を平坦に保持しながら搬送する搬送機構と、
成形品の表面側に、表面と平行に配置された第1コイルと、
成形品の裏面側に、裏面と平行に配置された第2コイルと、
を含み、第1コイルおよび第2コイルにそれぞれ電流を供給し、成形品中の導電性シートを誘導加熱する加熱装置であって、
成形品の表面に対して鉛直方向から見た場合に、第1コイルと第2コイルとが重ならないことを特徴とする加熱装置である。
【発明の効果】
【0007】
かかる加熱装置を用いることにより、成形品の予備加熱が可能となり、プレス加工の迅速化、プレス装置の小型化が可能となる。特に、本発明の加熱装置では、成形品中の導電性シートを直接誘導加熱できるため、均一で効率的な成形品の加熱が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態にかかるCFRTPの加工システムの概略図である。
【
図2】本発明の実施の形態にかかる加熱装置を上方から見た場合の概略図である。
【
図3】比較実験に用いたCFRTP成形品を説明する図である。
【
図4】実施例1の、K熱電対による温度測定結果である。
【
図5】実施例1の、サーモグラフィによる温度測定結果である。
【
図6】比較例1の、K熱電対による温度測定結果である。
【
図7】比較例1の、サーモグラフィによる温度測定結果である。
【
図8】比較例2の、サーモグラフィによる温度測定結果である。
【
図9】CFRTP成形品の膜厚を変えた場合の加熱結果である。
【
図10】CFRTP成形品の膜厚を変えた場合の加熱結果である。
【
図11】CFRTP成形品の膜厚を変えた場合の加熱結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、全体が1000で表される、本発明の実施の形態にかかる炭素繊維熱可塑性プラスチック(CFRTP)の加工システムを横方向から見た場合の概略図である。加工システム1000は、加熱装置100とダブルベルト式のプレス装置200を有し、複数のシート50a~50eのラミネート構造からなる成形品50が矢印Aの方向に搬送されて、加熱装置100で所定の温度に加熱された後、プレス装置200で加熱プレスされ、完成品55となる。成形品50はシート状または平板状である。
【0010】
加熱装置100は、対向配置された第1ローラ15a、15bと、同じく対向配置された第2ローラ16a、16bを備える。成形品50は、第1ローラ15a、15b、および第2ローラ16a、16bの、それぞれの間に挟まれて、プレス装置200の方向(矢印Aの方向)に搬送される。
【0011】
第1ローラ15a、15b、および第2ローラ16a、16bの間には、コイル10a、10bが設けられている。コイル10aは、成形品50の表面側に、表面と平行に配置されている。一方、コイル10bは、成形品50の裏面側に、表面と平行に配置されている。
【0012】
ここでは、第1ローラ15a、15b、および第2ローラ16a、16bを用いて成形品50を搬送する場合について説明したが、スライドボードにのせて矢印Aの方向に所定の速度で搬送しても良い。また、例えばゴムベルト、ガラスクロス、ガラスメッシュのような非磁性体ベルトを用いて成形品50を搬送しても構わない。
【0013】
図2は、加熱装置100を上方(Z軸方向)から見た場合の概略図である。コイル10a、10bは、例えば長円形状の平板状のコイルからなる。コイルの巻数は、例えば10~20ターンであるが、適宜変更しても構わない。
【0014】
2つのコイル10a、10bは、長円形状の長手方向が、搬送方向Aに直交する方向(X軸方向)であることが好ましい。
【0015】
また、2つのコイル10a、10bは、成形品50の表面に対して鉛直方向(Z軸方向)から見た場合、重複部分が無いように配置される。
図2では、2つのコイル10a、10bは、Z軸方向から見た場合に、隣接するように配置されているが、間隔を隔てて配置しても良い。
【0016】
2つのコイル10a、10bの位置は、X、Y、Z軸方向に可動であっても良い。例えば、成形品50を構成するシート50a等の数により成形品50の膜厚が異なる場合、成形品50の膜厚に合わせてX軸方向の間隔を調整することができる。
【0017】
また、2つのコイル10a、10bの幅(X軸方向の長さ)は、成形品50の幅より大きくなっている。成形品50に含まれる炭素繊維材料の方向(例えば編み込みの方向)と、磁束の方向との関係で、成形品50の加熱効率が変化する。このためコイル10a、10bの両端のターン部分以外の、直線部分で成形品50を加熱することで、成形品50を均一に加熱することが可能となる。
【0018】
コイル10a、10bには、それぞれインバータ回路20a、20bが接続されている。商用電源(図示せず)から供給される交流電流は、インバータ回路20a、20bで一旦整流された後、高周波電流に変換されてコイル10a、10bに供給される。コイル10a、10bに供給される高周波電流の周波数は、例えば20kHz以上120kHz以下であり、より好ましくは23kHz以上50kHz以下である。
【0019】
コイル10aおよびコイル10bに供給される高周波電流の大きさは、インバータ回路20a、20bにより、別々に制御できる。コイル10a、10bに供給する高周波電流の周波数は、加熱する成形品50の種類、特に成形品50に含まれる炭素繊維材料の種類、形状、編み込み方向等に応じて調整することができる。
【0020】
加熱装置100で予備加熱された成形品50は、矢印Aの方向に搬送されて、ダブルベルト式のプレス装置200に入る。
【0021】
ダブルベルト式のプレス装置200は、2つの第1駆動ローラ80aに巻き掛けられて周回走行する第1ベルト60aと、第1ベルト60aの下側で、2つの第2駆動ローラ80bに巻き掛けられて周回走行する第2ベルト60bとを有する。第1ベルト60aおよび第2ベルト60bは、エンドレスベルトからなることが好ましい。また、第1ベルト60aおよび第2ベルト60bは、電磁誘導加熱が可能な材料からなり、例えばステンレス鋼、特に、低炭素、マルテンサイト系、析出硬化系ステンレス鋼からなることが好ましい。
【0022】
また、プレス装置200は、所定の温度で成形品50を加熱プレスする加熱プレスモジュール70a、70bを有する。加熱プレスモジュール70a、70bは、第1ベルト60a、第2ベルト60bと接触する複数の加圧ローラ72a、72bを有する。
【0023】
加圧ローラ72a、72bの間には、それぞれ誘導加熱機74a、74bが設けられている。誘導加熱機74a、74bは、電磁誘導加熱により、それぞれ第1ベルト60aおよび第2ベルト60bを加熱する。
【0024】
プレス装置200では、第1ベルト60aと第2ベルト60bの間に挟まれて供給された成形品50が、上下の加熱プレスモジュール70a、70bの間で、加熱されながら加圧され、完成品55となる。成形品50は、例えば導電性シートと熱可塑性樹脂シートとが交互に重ねられた積層体からなり、プレス装置200で、熱可塑性樹脂の含浸温度に加熱された状態で加圧されて完成品55になる。
【0025】
本発明の実施の形態では、プレス装置200の前段に加熱装置100を設けて、成形品50を予備加熱した後に、プレス装置200で加熱プレスすることにより、成形品50の均一で効率的な予備加熱が可能となり、プレス装置200での加熱時間を短くできる。さらに、プレス装置200中の誘導加熱機74a、74bを小さくでき、プレス装置200の小型化が可能となる。
【0026】
ここでは、プレス装置200での加熱を、誘導加熱機74a、74bを用いた誘導加熱で行ったが、熱風や熱流体を用いた加熱でも構わない。
【0027】
なお、本発明の実施の形態では、プレス装置200の前段に加熱装置100を配置して成形品50の予備加熱を行ったが、加熱装置100単独で加熱装置として用いることも可能であることは言うまでも無い。
【0028】
次に、加熱装置100について、2つのコイル10a、10bの位置を変えて、加熱特性、特に加熱温度の均一性について行った比較実験の結果を説明する。
【0029】
コイル10a、10bの配置は、以下の(1)~(3)の3種類とした。以下で述べる配置は、Z軸方向に見た場合の配置である。
【0030】
(1)実施例1:2つのコイルが隣接する配置(本実施の形態の配置)
(2)比較例1:2つのコイルが半分重なる配置(Y軸方向にコイル幅の1/2が重複)
(3)比較例2:2つのコイルが完全に重なる配置
【0031】
図3は、比較実験に用いたCFRTP成形品を説明する図である。
図3(a)に示すように、幅(X軸方向の長さ)が500mmのCFRTP成形品をスライドボードに載せて、矢印で示す搬送方向に移動させて加熱した。移動速度は50mm/秒とした。
【0032】
コイルには、長円形状の平板状コイルを用い、巻数は17ターンとした。2つのコイルの配置は、長円形状の長手方向が、搬送方向に直交するように(
図2参照)配置した。
【0033】
CFRTP成形品の加熱の目標温度は80℃とした。CFRTP成形品の温度は、K(クロメル-アルメル)熱電対と、サーモグラフィを用いて測定した。温度の測定は、
図3(a)に示すように、CFRTP成形品の搬送方向の先端から350mmの位置で、中心点、および中心点から左右にそれぞれ100mm、200mm、245mmの点で行った。
【0034】
CFRTP成形品には、
図3(b)に示すように、カプトンシート(熱可塑性樹脂シート)とカーボンシート(導電性シート)を、上端および下端がカプトンシートとなるように交互に積層したものを用いた。カーボンシートの枚数は14枚とした。
【0035】
K熱電対は、
図3(a)に示した位置で、下から4枚目、7枚目(中央)、10枚目のカーボンシート取り付けた。
図3(b)に示すように、各測定点は、CH1~CH21と呼ぶ。
【0036】
一方、サーモグラフィは、K熱電対の貼り付け位置の直上で行った。
【0037】
比較実験の結果を
図4~8に示す。
図4、5は、(1)実施例1:2つのコイルが隣接する配置(本実施の形態の配置)の、K熱電対による温度測定結果、およびサーモグラフィによる温度測定結果である。また、
図6、7は、(2)比較例1:2つのコイルが半分重なる配置(Y軸方向にコイル幅の1/2が重複)の、K熱電対による温度測定結果、およびサーモグラフィによる温度測定結果である。一方、
図8は、(3)比較例2:2つのコイルが完全に重なる配置の、サーモグラフィによる温度測定結果であり、後述するようにこの配置では加熱ができなかった。
【0038】
図4、6では、横軸が測定位置(CH1~CH21)、縦軸が測定温度(℃)である。また、
図5、7、8では、横軸が測定位置、縦軸が測定温度(℃)である。温度測定結果について、以下に説明する。
【0039】
<実施例1>
(1)実施例1:2つのコイルが隣接する配置(本実施の形態の配置)の場合、
図4(a)に示すように、最高温度では、CH1等の周辺部で若干温度が低いものの、全体として目標温度の80℃近傍で均一な加熱が可能であった。
【0040】
図4(b)に示すように、カーボン搬送完了直後(CFRTP成形品がコイルを通過した直後)においても、80℃近傍で均一な温度に保たれた。
【0041】
一方、
図4(c)に示すように、カーボン搬送完了直後60秒経過すると、CH1、CH7等の周辺部の温度が下がり、温度にばらつきが出た。
【0042】
図5は、サーモグラフィで測定した、CFRTP成形品の表面温度であり、横軸は幅方向(X軸方向)の測定位置であり、CFRTP成形品の全幅に渡って等間隔で270点(1~271)の測定を行っている。また、縦軸は温度を示す。
図5(a)、(b)に示すように、周辺部を除いて均一な加熱が可能となった。
【0043】
<比較例1>
(2)比較例1:2つのコイルが半分重なる配置(Y軸方向にコイル幅の1/2が重複)の場合、
図6(a)の最高温度、
図6(b)のカーボン搬送完了直後、および
図6(c)のカーボン搬送完了60秒後のいずれにおいても、CH1、CH7等の周辺部の温度が低くなり、加熱温度が不均一となった。
【0044】
図7の、サーモグラフィで測定したCFRTP成形品の表面温度では、特に
図7(b)のカーボン搬送完了直後において温度が不均一となり、十分な加熱ができない部分が発生した。また、加熱温度も、目標温度の80℃より低くなった。
【0045】
<比較例2>
(3)比較例2:2つのコイルが完全に重なる配置では、CFRTP成形品は加熱できなかった。
図8に示すように、カーボン搬送完了直後においても、サーモグラフィで測定した成形品の表面温度は室温(約20℃)のままであった。
【0046】
以上のように、2つのコイルが隣接し、重ならない実施例1では、目標とする温度で、CFRTP成形品の均一な加熱が可能であった。これに対して、比較例1では、2つのコイルの半分が重なることにより、2つのコイルの間で磁場の干渉が発生し、部分的に十分な加熱ができなかった。特に、周辺部で温度が上がらず、温度の均一性も悪くなった。さらに、2つのコイルを完全に重ねて配置した場合は、磁場の干渉により加熱ができなかった。
【0047】
次に、2つのコイルが隣接し重ならない実施例1の装置において、CFRTP成形品の膜厚を変えた場合の加熱結果を
図9~11に示す。
図9~11において、横軸は加熱時間、縦軸は各測定点におけるCFRTP成形品の温度を示す。
【0048】
CFRTP成形品には、カプトンシートとカーボンシートを、上端および下端がカプトンシートとなるように交互に積層したものを用いた。
【0049】
図9のCFRTP成形品では、カーボンシートは14枚、総膜厚を3.0mmとし、成形品の表面から1枚目(上面)、3枚目、7枚目(中心)、11枚目、14枚目(底面)のカーボンシートの温度を測定した。
【0050】
図10のCFRTP成形品では、カーボンシートは25枚、総膜厚を5.0mmとし、成形品の表面から1枚目(上面)、6枚目、12枚目(中心)、19枚目、25枚目(底面)のカーボンシートの温度を測定した。
【0051】
図11のCFRTP成形品では、カーボンシートは50枚、総膜厚を10.0mmとし、成形品の表面から1枚目(上面)、3枚目、12枚目、25枚目(中心)、38枚目、48枚目、50枚目(底面)のカーボンシートの温度を測定した。これらの温度測定は、CFRTP成形品の幅方向に対して中央の位置で、熱電対を用いて行った。
【0052】
図9~11において、CFRTP成形品の移動速度は10mm/秒、目標温度は、それぞれ250℃、200℃、150℃とした。
【0053】
図9のCFRTP成形品(カーボンシート:14枚、総膜厚:3.0mm)では、約30秒間の加熱で、上面(#1)、底面(#14)を除く他の3点(#3、#7、#11)で目標温度に達した。
【0054】
また、
図10のCFRTP成形品(カーボンシート:25枚、総膜厚:5.0mm)では、同じく約30秒間の加熱で、上面(#1)、底面(#25)を除く他の3点(#6、#12、#19)で目標温度に達した。
【0055】
また、
図11のCFRTP成形品(カーボンシート:50枚、総膜厚:10.0mm)では、約40秒間の加熱で、上面(#1)、底面(#50)を除く他の5点(#3、#12、#25、#38、#48)で目標温度に達した。
【0056】
このように、実施例1の加熱装置では、電磁誘導加熱によりカーボンシートを直接加熱できるため、CFRTP成形品の積層数(膜厚)が大きくなっても、膜厚方向に均一な加熱が可能となった。
【0057】
以上の実施例、比較例からわかるように、Z軸方向に見た場合に、2つのコイルが重ならないように配置することで、2つのコイルの間の磁場の干渉を防止し、目標温度で均一な温度での加熱ができることがわかった。特に、成形品の膜厚が大きい場合であっても、均一で効率的な成形品の加熱が可能となることがわかった。
【符号の説明】
【0058】
10a、10b コイル
15a、15b 第1ローラ
16a、16b 第2ローラ
20a、20b インバータ回路
50 成形品
50a~50e シート
55 完成品
60a 第1ベルト
60b 第2ベルト
70a、70b 加熱プレスモジュール
72a、72b 加圧ローラ
74a、74b 誘導加熱機
80a 第1駆動ローラ
80b 第2駆動ローラ
100 加熱装置
200 プレス装置
1000 加工システム