(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】車いす
(51)【国際特許分類】
A61G 5/10 20060101AFI20220803BHJP
【FI】
A61G5/10 703
(21)【出願番号】P 2018200799
(22)【出願日】2018-10-25
【審査請求日】2021-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】516201869
【氏名又は名称】三貴ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【氏名又は名称】岩田 康利
(74)【代理人】
【識別番号】100084043
【氏名又は名称】松浦 喜多男
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【氏名又は名称】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】立道 智志
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-303447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 5/10
A61G 5/12
A61G 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪が取り付けられた本体フレーム部材と、
背もたれ部とフットレスト部とを具備した可動フレーム部材と、
を備え、
前記可動フレーム部材が、前記本体フレーム部材に対して左右方向の回動軸部を中心にして回動自在に軸支されており、当該回動軸部を中心として前記可動フレーム部材が前記本体フレーム部材に対して傾動可能とされることで、少なくとも、走行時における標準状態と、当該標準状態よりも着座者の姿勢が前傾となる前傾状態とに状態変化可能である車いすであって、
前記本体フレーム部材は、
着座者の臀部を支持する後方着座部を具備し、
前記可動フレーム部材は、
前記後方着座部の前方に位置して、前記着座者の太腿部を支持する前方着座部を具備し、
前記前傾状態で、前記可動フレーム部材が前記本体フレーム部材に対して前方へ傾動することで前記背もたれ部、前記フットレスト部、及び前記前方着座部が、前記標準状態に比して前傾した状態となり、前記フットレスト部が接地した状態となる
ことを特徴とする車いす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着座者が前傾姿勢をとることのできる車いすに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば特許文献1に開示されているような、折り畳み可能でかつ着座者の背を後側へ傾動することのできるリクライニング機構を有した車いすが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで車いすは一般的に、着座者が着座部に着座した状態で背もたれ部に背を預けた後傾姿勢で使用される。かかる姿勢により、着座者は安定した姿勢をとることができる。一方、着座者がこのような後傾姿勢で例えば薬や食事等を与えられた際には、首だけが上向きの状態でものを飲み込むこととなり、与えられたものが気管支に流入してしまういわゆる誤嚥が生じるおそれがある。
【0005】
そこで、誤嚥を防止するためには、着座者が前傾姿勢をとって首を前方やや下向きとした状態でものを飲み込むことが適するが、着座者に無理な姿勢を強いたり、介助者の支えが必要になったりする問題があった。また、車いすの着座者のなかには下半身のみならず上半身も不自由な者があるため、そのような者にとっては車いすの背もたれ部から背を離すことが困難であり、介助者に背を支えてもらう等によって前傾姿勢を維持する必要があった。
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、着座者が容易かつ安定して前傾姿勢をとることのできる車いすを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車輪が取り付けられた本体フレーム部材と、背もたれ部とフットレスト部とを具備した可動フレーム部材と、を備え、前記可動フレーム部材が、前記本体フレーム部材に対して左右方向の回動軸部を中心にして回動自在に軸支されており、当該回動軸部を中心として前記可動フレーム部材が前記本体フレーム部材に対して傾動可能とされることで、少なくとも、走行時における標準状態と、当該標準状態よりも着座者の姿勢が前傾となる前傾状態とに状態変化可能である車いすであって、前記本体フレーム部材は、着座者の臀部を支持する後方着座部を具備し、前記可動フレーム部材は、前記後方着座部の前方に位置して、前記着座者の太腿部を支持する前方着座部を具備し、前記前傾状態で、前記可動フレーム部材が前記本体フレーム部材に対して前方へ傾動することで前記背もたれ部、前記フットレスト部、及び前記前方着座部が、前記標準状態に比して前傾した状態となり、前記フットレスト部が接地した状態となることを特徴とする車いすである。
【0008】
かかる構成にあっては、前記可動フレーム部材を前傾状態とすることで、前記背もたれ部、前記フットレスト部、及び前記前方着座部が、後方着座部に対して前傾して着座者に前傾姿勢を容易にとらせることができる。さらにこのとき、着座者が着座する着座部は、前後に配置された前方着座部と後方着座部とに区分けされており、後方着座部の位置や姿勢を変更しないまま前方着座部のみを前傾させることができる。かかる構成とすることにより、着座者が前方へずり落ちてしまうことを防止しつつ、誤嚥を防止できる前傾姿勢を安定して維持することができる。また、このようにフットレスト部が接地することで可動フレーム部材が安定して支持されることになるため、全体として車いすの姿勢が飛躍的に安定する利点がある。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車いすは、着座者が容易かつ安定して前傾姿勢をとることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】(a)は本体フレーム部材の右側面図であり、(b)は後方着座部の正面図である。
【
図5】前傾状態の車いすにおける後方着座部と前方着座部との高さの相違を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の車いすを具体化した実施例を詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に限定されることはなく、適宜設計変更が可能である。
【0012】
また、本実施例の車いす1は、主に左右一対のフレーム構造で構成されるところ、車いす1の左側部を主として説明する。なお、車いす1の右側部については左右対称形状とすればよく、説明を省略する。
【0013】
まず、車いす1の構造について説明する。
図1に示すように、車いす1は、前輪(車輪)であるキャスター11と後輪である主車輪12とが取り付けられた本体フレーム部材10と、背もたれ部31とフットレスト部32とを具備した可動フレーム部材30とを備えている。
【0014】
本体フレーム部材10は、
図2に示したように、キャスター11と主車輪12とが取り付けられた管材の組合せにより構成される本体フレーム部15と、本体フレーム部15に取り付けられ、車いす1を折り畳み自在とするX枠17,18と、X枠17,18の上端部に取り付けられた後方着座フレーム部21と、を備えている。
【0015】
ここで、車いす1において本体フレーム部15は左右一対で配されているところ、左右一対の後方着座フレーム部21,21間には、シート材からなる後方着座部22が差し渡されている。なお、後方着座部22は着座者の臀部を支持するものであり、
図2(b)に示したように、シート材が撓むことで着座者の臀部が沈み込む状態で支持される。
【0016】
また、本体フレーム部材10における本体フレーム部15の上端部には、左右方向の軸からなる回動軸部25が設けられている。
【0017】
一方、可動フレーム部材30は、
図3に示したように、背もたれ部31とフットレスト部32とを具備した管材の組合せにより構成される可動フレーム部35と、介助者が車いす1を後方から操作するハンドル部37と、を備えている。なお、背もたれ部31には、シート材が適宜取り付けられて、着座者が背を預けることが可能となっている。
【0018】
そして、可動フレーム部材30の可動フレーム部35には、本体フレーム部15に設けられた回動軸部25に軸支される軸支部45が設けられている。かかる構成により、可動フレーム部材30は、回動軸部25を中心にして前後方向に傾動自在とされている。
【0019】
また、左右一対で配された可動フレーム部35間には、シート材からなる前方着座部41が差し渡されている。なお、前方着座部41は、後方着座部22よりも前方に配されており、着座者は、後方着座部22に臀部を支持されると共に、前方着座部41に大腿部を支持される。
【0020】
また、本体フレーム部15には、筒状のアウター部材からなる状態維持杆挿通固定部27が設けられており、状態維持杆挿通固定部27には、長尺状のロッド部材からなる状態維持杆47が挿通されている。そして、状態維持杆47には、長尺方向に並んで配置された状態維持溝部47a,47b,47cが複数形成されており、状態維持杆挿通固定部27には、状態維持溝部47a,47b,47cのいずれかに嵌合するピン部材からなる係止部材28が配設されている。
【0021】
一方、可動フレーム部35には、上述した状態維持杆47の端部が取り付けられている。なお、状態維持杆挿通固定部27と状態維持杆47とによって、車いす1の姿勢を保持する状態維持手段が構成されている。
【0022】
その他に、本体フレーム部材10には、図示しない駐車ブレーキ等が配置されている。例えば駐車ブレーキは公知のものを好適に適用可能である。また、可動フレーム部材30には、図示しないアームレスト部やサイドガード等が配置されている。例えばアームレスト部やサイドガードは公知のものを好適に適用可能である。
【0023】
次に、車いす1の状態変化について説明する。
【0024】
車いす1の可動フレーム部材30は、
図1に示すように、通常の走行が可能となる標準状態αとすることができる。具体的には、上述した状態維持杆47の状態維持溝部47bに係止部材28が嵌合されることで、背もたれ部31が略直立状となって固定される。また、かかる標準状態αにあっては、後方着座部22の最下端よりも前方着座部41の最下端が上側に配されている。したがって、かかる標準状態αでは、着座者が背を背もたれ部31に預けることによって、やや上向きの姿勢を安定的にとることが可能となる。
【0025】
次に、可動フレーム部材30を前傾状態βとする過程を説明する。
【0026】
まず、上述した状態維持杆挿通固定部27の係止部材28を抜いて状態維持溝部47bとの嵌合を一旦解除し、可動フレーム部材30を、回動軸部25を中心として前方へ傾動させる。そうすると、少なくとも背もたれ部31、フットレスト部32、及び前方着座部41が、標準状態αのときを基準として前傾する。
【0027】
また、この可動フレーム部材30の前傾動作に伴い、状態維持杆47が状態維持杆挿通固定部27内を移動して、状態維持溝部47aに係止部材28を嵌合させると、
図4に示したように、可動フレーム部材30が前傾状態βで固定される。
【0028】
前傾状態βにあっては、背もたれ部31が前傾状態となっており、着座者は背を押されて自然と前傾姿勢をとることができる。
【0029】
またこの前傾状態βにあっては、フットレスト部32が接地している。これにより、車いす1及び着座者の姿勢がより一層安定している。
【0030】
ところで、車いす1に乗車している着座者が前傾姿勢をとると、通常は、着座者が前方へずり落ちてしまうおそれが生じる。しかしながら本実施例の車いす1にあっては、
図5に示したように、前傾状態βにおいても、後方着座部22の最下端よりも前方着座部41の最下端が上側に配されており、着座者の臀部よりも大腿部が上側となるような配置となっている。これによって、着座者が前方へずり落ちてしまうことを防止している。なお、着座者が前方へずり落ちてしまうことを防止する手段としては、ベルトを用いるなどの他の方策がとられてもよい。
【0031】
また車いす1は、
図6に示したように、標準状態αを基準として可動フレーム部材30を後傾状態γとすることができる。
【0032】
具体的に、可動フレーム部材30を後傾状態γとする場合には、係止部材28と状態維持溝部47a又は状態維持溝部47bとの嵌合を一旦解除し、可動フレーム部材30を、回動軸部25を中心として後方へ傾動させて、背もたれ部31、フットレスト部32、及び前方着座部41を後傾した状態とすることができる。このとき、状態維持溝部47cに係止部材28を嵌合させることで、可動フレーム部材30を後傾状態γで固定することができる。
【0033】
なお、後傾状態γにおいても、後方着座部22の最下端よりも前方着座部41の最下端が上側に配されることにより、着座者の体が足側へずり落ちてしまうことを防止することができる。
【0034】
上記実施例において、各部の寸法形状は適宜自由に選択可能である。
【0035】
また、車いす1の強度向上を図るために、適宜、補強部材が設けられていてもよい。例えば、前方着座部41に着座者が大腿部を載せて体重をかけると、左右の可動フレーム部材30が中央側へ歪んでしまうおそれがあるが、これを防止すべく、例えば前方着座部41の下方において高い剛性を有する金属製やプラスチック製の棒状体を左右一対の可動フレーム30間に架け渡す構成が提案される。なお、かかる棒状体は、車いす1を折り畳み自在とするために、例えば中央部にヒンジ構造を設けて、車いす1を折り畳んだ際に適切に折り畳まれる構造としてもよい。また、前傾状態βでは、必ずしもフットレスト部32が接地しなくてもよい。
【0036】
また、状態維持固定手段としては、他の構成が採用されても勿論よい。例えば、可動フレーム部材30を、相異なる複数の位置で固定することができる構成であっても構わない。
【符号の説明】
【0037】
1 車いす
10 本体フレーム部材
11 キャスター(前輪)
12 主車輪(後輪)
15 本体フレーム部
17,18 X枠
21 後方着座フレーム部
22 後方着座部
25 回動軸部
27 状態維持杆挿通固定部
30 可動フレーム部材
31 背もたれ部
32 フットレスト部
35 可動フレーム部
37 ハンドル部
41 前方着座部
45 軸支部
47 状態維持杆
47a,47b,47c 状態維持溝部
α 標準状態
β 前傾状態
γ 後傾状態