(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】インジウムとヒ素を含む層状構造化合物、ナノシートおよびこれを用いた電気素子
(51)【国際特許分類】
C22C 30/00 20060101AFI20220803BHJP
C22C 28/00 20060101ALI20220803BHJP
H01L 27/11507 20170101ALI20220803BHJP
H01L 21/8239 20060101ALI20220803BHJP
H01L 27/105 20060101ALI20220803BHJP
H01L 45/00 20060101ALI20220803BHJP
H01L 49/00 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
C22C30/00
C22C28/00 B
H01L27/11507
H01L27/105 448
H01L45/00 Z
H01L49/00 Z
(21)【出願番号】P 2020201196
(22)【出願日】2020-12-03
【審査請求日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】10-2020-0117533
(32)【優先日】2020-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】506327586
【氏名又は名称】インダストリー-アカデミック コオペレイション ファウンデーション,ヨンセイ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】シム,ウ-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,テ-ヨン
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0352799(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0132294(KR,A)
【文献】G.Cordier et al.,International Journal for Structural, Physical, Chemical, Aspects of Crystalline Materials,195(1/2),1991年,pp.105-106,ISSN:0044-2968
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 30/00
C22C 28/00
H01L 27/11507
H01L 21/8239
H01L 45/00
H01L 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される層状構造化合物。
[化学式1]
Na
1-xIn
yAs
z
(0≦x
≦0.9、0.8≦y≦1.2、1.2≦z≦1.8)
【請求項2】
前記xは、0である、請求項1に記載の層状構造化合物。
【請求項3】
前記xは、0.1≦x≦0.9である、請求項1に記載の層状構造化合物。
【請求項4】
前記xは、0.3≦x≦0.8である、請求項1に記載の層状構造化合物。
【請求項5】
前記層状構造化合物は、Hをさらに含む、請求項1に記載の層状構造化合物。
【請求項6】
前記層状構造化合物は、CuKα線を使用したXRD測定において2θ=11.9°±0.50°、12.8°±0.50°、13.5°±0.50°、15.3°±0.50°、21.6°±0.50°、22.7°±0.50°、23.8°±0.50°、27.8°±0.50°の位置にピークを有し、前記ピークは、最も大きい強度を有するピークに対して1%以上の強度を有するピークである、請求項1から5のいずれか一項に記載の層状構造化合物。
【請求項7】
前記層状構造化合物の結晶構造は、P2
1/cの空間群を示す、請求項1から5のいずれか一項に記載の層状構造化合物。
【請求項8】
前記層状構造化合物は、CuKα線を使用したXRD測定において(002)面に対するピーク強度に対する(102)面のピーク強度であるI
(102)/I
(002)の値が、0.40以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載の層状構造化合物。
【請求項9】
前記層状構造化合物は、強誘電類似(ferroelectric-like)特性を示す、請求項1から5のいずれか一項に記載の層状構造化合物。
【請求項10】
前記層状構造化合物は、抵抗スイッチング特性を示す、請求項1から5のいずれか一項に記載の層状構造化合物。
【請求項11】
下記化学式1で表される組成物を含
む、ナノシート。
[化学式1]
Na
1-xIn
yAs
z
(0≦x
≦0.9、0.8≦y≦1.2、1.2≦z≦1.8)
【請求項12】
前記xは、0である、請求項11に記載のナノシート。
【請求項13】
前記xは、0.1≦x≦0.9である、請求項11に記載のナノシート。
【請求項14】
前記xは、0.3≦x≦0.8である、請求項11に記載のナノシート。
【請求項15】
前記組成物は、Hをさらに含む、請求項11に記載のナノシート。
【請求項16】
前記組成物は、CuKα線を使用したXRD測定において2θ=11.9°±0.50°、12.8°±0.50°、13.5°±0.50°、15.3°±0.50°、21.6°±0.50°、22.7°±0.50°、23.8°±0.50°、27.8°±0.50°の位置にピークを有し、前記ピークは、最も大きい強度を有するピークに対して1%以上の強度を有するピークである、請求項11から15のいずれか一項に記載のナノシート。
【請求項17】
前記組成物の結晶構造は、P2
1/cの空間群を示す、請求項11から15のいずれか一項に記載のナノシート。
【請求項18】
前記組成物は、CuKα線を使用したXRD測定において(002)面に対するピーク強度に対する(102)面のピーク強度であるI
(102)/I
(002)の値が、0.40以下である、請求項11から15のいずれか一項に記載のナノシート。
【請求項19】
前記組成物は、強誘電類似特性を示す、請求項11から15のいずれか一項に記載のナノシート。
【請求項20】
前記組成物は、抵抗スイッチング特性を示す、請求項11から15のいずれか一項に記載のナノシート。
【請求項21】
前記ナノシートの厚さは、500nm以下である、請求項11から15のいずれか一項に記載のナノシート。
【請求項22】
請求項1から5のいずれか一項に記載の層状構造化合物を含む、電気素子。
【請求項23】
請求項11から15のいずれか一項に記載のナノシートを含む、電気素子。
【請求項24】
前記電気素子は、メモリスタである、請求項22または23に記載の電気素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジウムとヒ素を含む層状構造化合物とナノシートおよびこれを用いた電気素子に関し、より詳細には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を含み、多様な電気的特性を有するインジウムとヒ素を含む層状構造化合物とナノシートおよびこれを用いた電気素子に関する。
【背景技術】
【0002】
層間(interlayer)にファンデルワールス結合を通して連結される層状構造化合物は、多様な特性を示すことができ、これを物理的または化学的方法で分離することによって、厚さが数ナノメートルから数百ナノメートル水準の二次元(2D)ナノシートを製造できて、これに対する研究が活発である。
【0003】
特に、ナノシートのような低次元の素材は、従来のバルク素材が有しない画期的な新機能が期待され、従来素材を代替する次世代未来素材として可能性が非常に大きい。
【0004】
しかしながら、二次元的結晶構造を有する層状構造化合物は、今まで黒鉛や遷移金属カルコゲン化合物等の物質に制限されていて、多様な組成の材料への展開にならない問題があった。
【0005】
一方、インジウムヒ素(Indium Arsenide)は、化合物半導体物質であって、高電力高周波電気素子に広範囲に使用されているが、現在まで層状構造を有する三元系インジウムヒ素については知られていない。
【0006】
層状構造からなる三元系インジウムヒ素化合物は、異なる結晶構造を有する従来のインジウムヒ素化合物においてさらに適用を多様化させることができると共に、従来適用されなかった新しい領域への適用も期待することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、インジウムとヒ素を含む層状構造化合物とこれを通して作製され得るナノシートおよび前記物質を含む電気素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記のような目的を達成するために、本発明では、[化学式1]Na1-xInyAsz(0≦x<1.0、0.8≦y≦1.2、1.2≦z≦1.8)で表現される層状構造化合物を提供することができる。
【0009】
また、本発明では、前記[化学式1]Na1-xInyAsz(0≦x<1.0、0.8≦y≦1.2、1.2≦z≦1.8)で表現される組成物を含み、物理的または化学的剥離方法で作製されるナノシートを提供することができる。
【0010】
また、本発明では、前記のような層状構造化合物またはナノシートを含む電気素子を提供することができる。
【0011】
また、前記電気素子は、メモリスタであり得る。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって提供することができる層状構造化合物とナノシートは、多様な電気的特性を有することができ、これを通して新しい電気素子の開発が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明によって作製される層状構造化合物とナノシートに対する概念図である。
【
図2】本発明による層状構造化合物に対するXRD回折パターンを示すグラフである。
【
図3】本発明による層状構造化合物に対するSEM(Scanning Electron Microscopy)イメージおよびEDS(Energy Dispersive Spectroscopy)分析結果を示す。
【
図4】本発明による層状構造化合物に対するTEM(Transmission Electron Microscopy)分析結果を示す。
【
図5】本発明によるNa
2In
2As
3の構造を示す模式図とSTEM(Scanning Transmission Electron Microscopy)分析結果を示す。
【
図6】本発明による層状構造化合物に対するXRD分析結果である。
【
図7】本発明による層状構造化合物とナノシートに対するSEMとTEMイメージである。
【
図8】本発明によるナノシートに対するAFM(Atomic Force Microscopy)イメージおよびそれに応じたラインプロファイル(line profile)を示す。
【
図9】本発明による層状構造化合物に対するSTEM分析結果である。
【
図10】本発明による層状構造化合物に対するTEM分析結果である。
【
図11】本発明によるナノシートに対するPFM(Piezoresponse Force Microscopy)を通した強誘電特性評価結果である。
【
図12】本発明によるナノシートに対する電圧に応じた電流変化グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について添付の図面を参考としてその構成および作用を説明することとする。下記で本発明を説明するに際して、関連した公知機能または構成に対する具体的な説明が本発明の要旨を不明にすることができると判断される場合には、その詳細な説明を省略する。また、任意の部分が或る構成要素を「含む」というとき、これは、特に反対になる記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含むこができることを意味する。
【0015】
本発明による層状構造化合物またはナノシートは、下記化学式1で表現され得る。
[化学式1]
Na1-xInyAsz(0≦x<1.0、0.8≦y≦1.2、1.2≦z≦1.8)
一般的に、InAsは、ジンクブレンド(Zinc Blende)結晶構造であって、層状構造が現れることができず、したがって、これを剥離してナノシートを作製することも不可能であった。
【0016】
このような問題を克服するために、本発明の発明者らは、InyAszに添加元素を添加することによって、InyAsz層間に添加元素を位置させて、結果的に、InyAsz層が続く層状構造化合物を製造することができると考えた。このために、発明者らは、計算を通して新しい組成と結晶構造を有する層状構造の物質を導き出し、その結果、従来報告されたことがない新しい組成である層状構造のNa2In2As3を合成し、これを通して前記[化学式1]の組成を有する層状構造化合物を製造することができた。
【0017】
[化学式1]の組成を有する層状構造の化合物は、InyAsz層間にNaが位置してInyAsz層をファンデルワールス結合を通して弱く結合させていて、これらNaが位置する面は、この面に沿って容易に割れる劈開面(cleavage plane)を成す。
【0018】
一方、Na1-xInyAsz層状構造化合物またはナノシートにおいてNaの組成は、上述した[化学式1]を基準として、xは、0であり得るが、上述したように、Na2In2As3は、従来合成された事実が報告されたことがない新しい物質であって、[化学式1]においてxは、0である場合に該当する。Naの除去がなくてもNaを含む面は、弱いファンデルワールス結合を成す劈開面であって、剥離が起こり得る。
【0019】
本発明による層状構造化合物は、上述したように、InyAsz層間にNaが位置してInyAsz層をファンデルワールス結合を通して弱く結合させていて、このような劈開面に沿ってInyAsz層に容易に物理的または化学的方法のうちいずれか一方または両方を通して剥離され得るが、このような剥離は、Naが除去されるほどさらに容易に行われる。したがって、このような層状構造化合物から物理的または化学的剥離方法を通して容易にInyAszナノシートを作製することができ、ここで、InyAszナノシートには、Naが一部残留することもできる。
【0020】
添加元素であるNaを持続的に除去すると、化合物においてInyAsz層間の距離が次第に広がって層間の結合力が弱まって、結局、層間の結合がなくなり、層間にクラック(crack)を示すことができる。したがって、本発明で説明する層状構造化合物の層状構造は、繰り返される二次元のInyAsz層がNaによりファンデルワールス結合で層間に結合がなされた場合だけでなく、InyAsz層間の結合力が除去されて層間の距離が広がってクラックを示す場合も含む。このようにNaが除去されて、層間の結合が弱くなることによって、ナノシートへの剥離もさらに容易に行われ得る。
【0021】
このような層状構造化合物から剥離されて作製されるナノシートは、InyAsz単一層であってもよいが、複数の層が重なって作製されることもできるので、数百nmの厚さであってもよい。一般的に、ナノシートは、横方向の幅に対して厚さが一定水準以下である場合にのみ、二次元的な形状による異方性を示すことができるが、このために、ナノシートの幅Lに対する厚さdの比d/Lは、0.1以下であることが好ましい。本発明によって作製されるナノシートの幅は、5μm以上であることも可能なので、ナノシートの厚さは、500nm以下であることが好ましい。ここで、InyAszナノシートには、Naが一部残留することもできる。
【0022】
このように本発明によるナノシートは、層状構造化合物から物理的または化学的方法で剥離されるシートを意味し、InyAsz層が単一層である場合だけでなく、複数の層からなる場合も含む。
【0023】
このような層状構造化合物とナノシートの例に対する概念図は、
図1に示したが、NaIn
yAs
zのIn
yAs
z層10の間に添加元素であるNa11が位置してIn
yAs
z層10間に結合を維持することを示しており、ここで、Na11が除去されてNa
1-xIn
yAs
zになってIn
yAs
z層10間の結合が弱くなり、これを物理的または化学的に容易に剥離することができて、最終的にIn
yAs
zナノシート20に作製されることを示す。このように作製されるナノシートには、依然としてNa11が一部含まれ得る。
したがって、剥離が容易であると同時に、Naの過度な除去による層状構造の崩壊または結晶構造の変化がないように、xは、0.1≦x≦0.9であり得る。ここで、層状構造化合物の結晶構造は、空間群がP2
1/cであり得る。このようなxの範囲を有する層状構造化合物から剥離されるナノシートも、同一に、xは、0.1≦x≦0.9であり得る。
【0024】
また、Na1-xInyAsz層状構造化合物またはナノシートにおいて残留するNaは、上述した[化学式1]を基準として、xは、0.3≦x≦0.8の範囲であり得る。
【0025】
添加元素であるNaが一部除去され、一定量は残留する層状構造化合物は、層間で残留する添加元素であるNaが移動可能になって、これを通して多様な電気的特性を示すことができる。したがって、Na1-xInyAsz化合物において添加元素は、一定分率以上が除去され、一部は残ることが好ましい。このためのxの範囲は、0.3≦x≦0.8の範囲であり得る。
【0026】
[化学式1]においてyは、0.8≦y≦1.2であり、zは、1.2≦z≦1.8の範囲であり得るが、初めて作られたNa2In2As3においても、欠陥によってyおよびzは、小幅変動がありえ、Naが除去されて除去工程中にInとAsの比率も少しずつ変化することができるので、Na1-xInyAszにおいてyとzの値が定められたNaの含量に対して結晶構造を変化させない範囲で変動することができる。
【0027】
一方、添加元素の除去は、硝酸や塩酸のような強酸を用いることができるが、このような強酸を通して添加元素が除去されて強酸に含まれる水素イオンが添加元素が除去されたサイトに置換されて結合されて、水素が含まれる層状構造化合物とこれを通したナノシートを提供することができる。
【0028】
このように水素イオンが含まれる層状構造化合物またはナノシートは、下記[化学式2]で表現され得る。
[化学式2]
Na1-xHnInyAsz
(0≦x<1.0、0.8≦y≦1.2、1.2≦z≦1.8、0<n≦x)
ここで、水素イオンは、添加元素であるNaを代替することによって除去されるNaの量以下で追加される。
【0029】
Naが除去される量であるxの範囲は、0.1≦x≦0.9の範囲であり得、さらに好ましくは、0.3≦x≦0.8の範囲であり得る。上述したように、添加元素が一部除去され、一部は残留すると、初期層状構造化合物であるNaInyAszの層状構造をそのまま維持しつつ、添加元素であるNaが一部除去されることによって、層間の結合力が弱まって容易にInyAsz層に剥離され得、残留する添加元素によって多様な電気的特性を示すことができる。
【0030】
また、前記nは、xと同じ値であり得るが、除去される添加元素だけ水素イオンが代替して層状構造化合物に含まれ得る。
【0031】
上述した層状構造化合物とナノシートは、分析結果、多様な特性を示すが、このような特性を以下で説明する。
【0032】
上述した層状構造化合物とナノシートは、CuKα線を使用したXRD測定においてP21/cの空間群を有することができる。
【0033】
一方、上述した層状構造化合物またはナノシートは、CuKα線を使用したXRD測定において2θ=11.9°± 0.50°、12.8°±0.50°、13.5°±0.50°、15.3°±0.50°、21.6°±0.50°、22.7°±0.50°、23.8°±0.50°、27.8°±0.50°の位置にピークを有し、前記ピークは、最も大きい強度を有するピークに対して1%以上(好ましくは、3%以上、より好ましくは、5%以上)の強度を有するピークである、層状構造化合物またはナノシートであり得る。
【0034】
一方、層状構造化合物またはナノシートから添加元素が除去されることによって、XRD測定ピークにおいて微細な変化がありえるが、このような変化によってCuKα線を使用したXRD測定において層状構造化合物の(002)面に対するピーク強度に対する(102)面のピーク強度であるI(102)/I(002)の値が0.40以下であり得る。これは、層状構造化合物から添加元素が除去されることによって層間の距離が次第に広がって現れる現象であり、ナノシートに対しても同一である。
【0035】
このような添加元素であるNaが一部残留する状態である層状構造化合物とこれを通したナノシートは、残留するNaによって多様な電気的特性を示すことができる。
【0036】
上述したような層状構造化合物またはナノシートは、固有の層状構造と残留する添加元素によって多様な電気的特性を示すことができる。
【0037】
まず、本発明による層状構造化合物またはナノシートは、強誘電類似(ferroelectric-like)特性を示す。
【0038】
強誘電特性は、一般的にペロブスカイト構造のBaTiO3のような非対称構造の酸化物に現れる特性であって、中心に位置するBaの位置の変化によって強誘電特性が現れる。
【0039】
しかしながら、本発明による層状構造化合物またはナノシートは、このような非対称構造を有しないが、それにもかかわらず、強誘電類似特性を示す。非対称構造でないにもかかわらず、強誘電類似特性を示す理由は、残留する添加元素の位置が外部電界によって移動するのに伴ったものと考えられる。
【0040】
このような本発明による層状構造化合物またはナノシートの強誘電類似特性を通して多様な電気素子に適用が可能になる。
【0041】
また、本発明による層状構造化合物またはナノシートは、抵抗スイッチング特性を示す。
【0042】
或る物質が抵抗スイッチング特性を有すると、その物質に印加する電圧によって線形的に電流が増加するのではなく、初期電圧を印加するときには、物質が高抵抗状態を維持して電流の増加が微小であるが、一定の臨界点に到達すると、低抵抗状態に変わって急激に電流が増加する。
【0043】
このような抵抗スイッチング特性は、一般的に酸化物に現れる特徴であって、最近には、このような特性を用いてフラッシュメモリのように情報の保存が可能なメモリスタ(memristor)のようなメモリー素子の開発が活発であり、本発明の層状構造化合物とナノシートは、抵抗スイッチング特性を活用してこのようなメモリスタのようなメモリー素子の開発に積極的に活用され得る。
【0044】
[実施例]
1)層状Na2In2As3合成
NaとIn、Asをモル比で2:2:3の割合で称量して混合した後、アルミナるつぼに投入した。その後、クォーツチューブに入れ、二重密封して、外部空気を遮断した。この過程は、アルゴン雰囲気のグローブボックスで進めた。その後、ボックス炉で1,000℃に昇温し、12時間維持し、5℃/hの減温速度で500℃まで冷却後、500℃の温度で100時間維持した後、常温に冷却して、Na2In2As3サンプルを得ることができた。
【0045】
2)Naの除去
エタノールで希釈された0.25MのHCl溶液で時間別に反応させて、層状Na2In2As3からNaを除去した。その結果は、下記の表に示した。表1で、残留Naは、EDS分析を通して得られた結果を示す。
【0046】
【0047】
3)ナノシート化工程
前記表1のように製造されたサンプルに対してエタノールで超音波を照射した後、テープを用いて剥離されたナノシートを製造した。
【0048】
発明者らは、従来報告されたことがない新しいNa2In2As3化合物に対してVASP(Vienna Ab initio Simulation Package)を用いた計算を通して層状構造を予測し、予測結果は、知られたNa2Al2As3、Na2Ga2As3と同様に、P21/cの構造を有することができることが分かった。
【0049】
図2は、VASPを活用した計算を通して予測されたNa
2In
2As
3のXRD回折パターン(Na
2In
2As
3_vasp)と上述した方法で合成されたサンプルA(Na
2In
2As
3_synthesis)のXRD回折パターンを示す。計算されたデータによるピークと実際に合成された化合物であるサンプルAに対するデータのピークを比較したとき、(002)、(200)、(102)、(111)、(212)、(302)、(311)、(114)の面が検出されることを確認した。前記面の2θ角は、それぞれ11.9°、12.8°、13.5°、15.3°、21.6°、22.7°、23.8°、27.8°であった。
【0050】
図3は、合成されたサンプルAに対するSEM(Scanning Electron Microscopy)イメージおよびEDS(Energy Dispersive Spectroscopy)分析結果を示す。EDS結果を通して合成したサンプルAは、Na、In、Asで構成されていることが分かった。
【0051】
図4は、サンプルAに対するTEM(Transmission Electron Microscopy)分析結果を示す。サンプルAに対してTEMによるSAED(Selected Area Diffraction)分析結果、(001)方向にP2
1/cの空間群が現れるパターンが測定され、それぞれの(100)、(020)、(120)面間の距離は、計算値と測定値が類似していることが示された。
【0052】
図5は、Na
2In
2As
3の構造を示す模式図とサンプルAに対するSTEM(Scanning Transmission Electron Microscopy)分析結果を示す。STEM分析結果、合成されたサンプルAは、P2
1/cの空間群を有することを確認した。
【0053】
このように
図2~
図5での結果を通して、合成されたサンプルAは、P2
1/cの空間群を有する新しい組成と結晶構造を有する層状構造物質であるNa
2In
2As
3であることを確認することができた。
【0054】
図6は、Na除去によるXRDピークの変化を示す。Naが除去されないサンプルAでは、(002)面の面間間隔は、7.42Åであり、ここで、Naが除去されるほど面間間隔は次第に広がって7.47Åまで増加することが認められた。このような面間間隔の変化によってXRDピークの変化も現れるが、Naの除去によって(002)面のピークに対して(102)面のピークの大きさが次第に減少することが分かった。したがって、I
(102)/I
(002)の値は、サンプルAでは0.46であり、サンプルBでは、0.13、サンプルDでは、0.09まで減少した。また、Na除去後にも、XRDピークを比較してみたとき、(002)、(102)面のピークが同一に現れることから見て、P2
1/cの空間群を有する結晶構造が維持されることが分かった。
【0055】
図7は、サンプルAからNaを除去してサンプルCになり、これからテープを用いて剥離されて作製されたナノシートを示す。サンプルAは、層間の劈開面が観察されるが、サンプルCでは、Naが除去されることによって、層間隔が広がってクラックが形成されたことが認められた。
【0056】
図8は、このようにサンプルCから剥離されて作製されたナノシートに対するAFM(Atomic Force Microscopy)イメージおよびそれに応じたラインプロファイル(line profile)を示す。10~30nmの厚さを有するナノシートに剥離されたことを確認することができた。
【0057】
図9は、サンプルDに対するSTEM(Scanning Transmission Electron Microscopy)分析結果である。このデータからNaが一部除去されたことが分かり、除去された後にも結晶構造の変化がないことが分かった。
図10は、サンプルEに対するTEM分析結果である。Naが過度に除去されることによって、非晶質構造が現れることが分かった。
【0058】
サンプルCから剥離されたナノシートに対してPFM(Piezoresponse Force Microscopy)を通して強誘電特性を測定し、それによる結果を
図11に示した。実際に強誘電類似特性を有していることを確認することができた。
【0059】
また、サンプルCから剥離されたナノシートに対して電圧に応じた電流変化を測定し、その結果を
図12に示した。
【0060】
初期電圧では、高抵抗状態1を維持して低い電流の流れを示すが、一定電圧以上になると、低抵抗状態2になって急激に電流が増加することを示し、反対電極方向でも同じ特性が現れることが認められて、抵抗スイッチング特性を示すことが分かった。
【0061】
このような抵抗スイッチング特性を利用すると、最近ニューロモーフィックメモリー素子として開発が活発に行われているメモリスタ素子に適用することができることが分かった。