(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】インジウムとリンを含む層状構造化合物、ナノシートおよびこれを用いた電気素子
(51)【国際特許分類】
C01B 25/08 20060101AFI20220803BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20220803BHJP
H01L 21/8239 20060101ALI20220803BHJP
H01L 27/105 20060101ALI20220803BHJP
H01L 45/00 20060101ALI20220803BHJP
H01L 49/00 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
C01B25/08 A
C22C30/00
H01L27/105 448
H01L27/105 449
H01L45/00 Z
H01L45/00 A
H01L49/00 Z
(21)【出願番号】P 2020201200
(22)【出願日】2020-12-03
【審査請求日】2020-12-03
(31)【優先権主張番号】10-2020-0115374
(32)【優先日】2020-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】506327586
【氏名又は名称】インダストリー-アカデミック コオペレイション ファウンデーション,ヨンセイ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】シム,ウ-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ミン-ジョン
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111117615(CN,A)
【文献】米国特許第10388727(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0352799(US,A1)
【文献】W. Blase et al.,International Journal for Structural, Physical, Chemical, Aspects of Crystalline Materials,1991年,195(1/2),pp.109-110,ISSN:0044-2968
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/08
C22C 30/00
H01L 21/8239
H01L 45/00
H01L 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される層状構造化合物。
[化学式1]
K
1-xIn
yP
z
(0≦x
<0.9、0.75≦y≦1.25、1.25≦z≦1.75)
【請求項2】
前記xは、0である、請求項1に記載の層状構造化合物。
【請求項3】
前記xは、0.1≦x<0.9である、請求項1に記載の層状構造化合物。
【請求項4】
前記xは、0.25≦x≦0.75である、請求項1に記載の層状構造化合物。
【請求項5】
前記層状構造化合物は、Hをさらに含む、請求項1に記載の層状構造化合物。
【請求項6】
前記層状構造化合物は、CuKα線を使用したXRD測定において2θ=11.51±0.50°、13.11±0.50°、25.54±0.50°、28.09±0.50°、29.49±0.50°、30.81±0.50°の位置にピークを有し、前記ピークは、最も大きい強度を有するピークに対して3%以上の強度を有するピークである、請求項1から5のいずれか一項に記載の層状構造化合物。
【請求項7】
前記層状構造化合物の結晶構造は、P2
1/cの空間群を示す、請求項1から5のいずれか一項に記載の層状構造化合物。
【請求項8】
前記層状構造化合物は、強誘電類似特性を示す、請求項1から
5のいずれか一項に記載の層状構造化合物。
【請求項9】
前記層状構造化合物は、抵抗スイッチング特性を示す、請求項1から
5のいずれか一項に記載の層状構造化合物。
【請求項10】
下記化学式1で表される組成物を含
む、ナノシート。
[化学式1]
K
1-xIn
yP
z
(0≦x
<0.9、0.75≦y≦1.25、1.25≦z≦1.75)
【請求項11】
前記xは、0である、請求項
10に記載のナノシート。
【請求項12】
前記xは、0.1≦x<0.9である、請求項
10に記載のナノシート。
【請求項13】
前記xは、0.25≦x≦0.75である、請求項
10に記載のナノシート。
【請求項14】
前記組成物は、Hをさらに含む、請求項
10に記載のナノシート。
【請求項15】
前記組成物は、CuKα線を使用したXRD測定において2θ=11.51±0.50°、13.11±0.50°、25.54±0.50°、28.09±0.50°、29.49±0.50°、30.81±0.50°の位置にピークを有し、前記ピークは、最も大きい強度を有するピークに対して3%以上の強度を有するピークである、請求項
10から
14のいずれか一項に記載のナノシート。
【請求項16】
前記組成物の結晶構造は、P2
1/cの空間群を示す、請求項
10から
14のいずれか一項に記載のナノシート。
【請求項17】
前記組成物は、強誘電類似特性を示す、請求項
10から
14のいずれか一項に記載のナノシート。
【請求項18】
前記組成物は、抵抗スイッチング特性を示す、請求項
10から
14のいずれか一項に記載のナノシート。
【請求項19】
前記ナノシートの厚さは、500nm以下である、請求項
10から
14のいずれか一項に記載のナノシート。
【請求項20】
請求項1から
5のいずれか一項に記載の層状構造化合物を含む、電気素子。
【請求項21】
請求項
10から
14のいずれか一項に記載のナノシートを含む、電気素子。
【請求項22】
前記電気素子は、メモリスタである、請求項
20または
21に記載の電気素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インジウムとリンを含む層状構造化合物とナノシートおよびこれを用いた電気素子に関し、より詳細には、アルカリ金属を含み、多様な電気的特性を有するインジウムとリンを含む層状構造化合物とナノシートおよびこれを用いた電気素子に関する。
【背景技術】
【0002】
層間(interlayer)にファンデルワールス結合を通して連結される層状構造化合物は、多様な特性を示すことができ、これを物理的または化学的方法で分離することによって、厚さが数ナノメートルから数百ナノメートル水準の二次元(2D)ナノシートを製造することができて、これに対する研究が活発である。
【0003】
特に、ナノシートのような低次元の素材は、従来のバルク素材が有しない画期的な新機能が期待され、従来の素材を代替する次世代未来素材として可能性が非常に大きい。
【0004】
しかしながら、二次元的結晶構造を有する層状構造化合物は、今まで黒鉛や遷移金属カルコゲン化合物等の物質に制限されていて、多様な組成の材料への展開にならない問題があった。
【0005】
一方、リン化インジウム(Indium Phosphide)は、化合物半導体物質であって、高電力高周波電気素子に広範囲に使用されているが、現在まで層状構造を有するリン化インジウムについては知られていない。
【0006】
層状構造からなるリン化インジウム化合物は、異なる結晶構造を有する従来のリン化インジウム化合物においてさらに適用を多様化させることができると共に、従来適用されなかった新しい領域への適用も期待することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】韓国特許登録第10-2057700号公報
【文献】韓国特許公開第2019-0058566号公報
【文献】韓国特許公開第2018-0057454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、インジウムとリンを含む層状構造化合物とこれを通して作製され得るナノシートおよび前記物質を含む電気素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記のような目的を達成するために、本発明の第1態様は、K1-xInyPz(0≦x≦1.0、0.75≦y≦1.25、1.25≦z≦1.75)で表される層状構造化合物を提供することである。
【0010】
前記のような目的を達成するために、本発明の第2態様は、K1-xInyPz(0≦x≦1.0、0.75≦y≦1.25、1.25≦z≦1.75)で表される組成物を含み、物理的または化学的剥離方法で作製されるナノシートを提供することである。
【0011】
前記のような目的を達成するための本発明の第3態様は、前記第1態様の層状構造化合物または第2態様のナノシートを含む電気素子を提供することである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって提供することができる層状構造化合物とナノシートは、多様な電気的特性を有することができ、これを通して新しい電気素子の開発が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明による層状構造化合物とこれを通して作製されるナノシートを示す概念図である。
【
図2】本発明の実施例によるサンプルのXRD分析結果を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施例によるサンプルのSTEM(Sacanning Transmission Electron Microscopy)イメージである。
【
図4】本発明の実施例による層状構造化合物のSEM(Scannning Electron Microscopy)イメージとナノシートのTEM(Tramsmission Electron microscopy)イメージである。
【
図5】本発明の実施例によるナノシートのAFM(Atomic Force Microscopy)イメージおよびそれに応じたラインプロファイルを示す。
【
図6】本発明の実施例によるサンプルのXRD分析結果を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施例によるサンプルのSTEMイメージとこのようなイメージのFFT(Fast Fourier Tansform)結果を示す。
【
図8】本発明の実施例によるサンプルのXRD分析結果を示すグラフである。
【
図9】本発明の実施例による層状構造化合物のSEMイメージである。
【
図10】本発明の実施例によるナノシートのTEMイメージである。
【
図11】本発明の実施例によるナノシートのTEMイメージである。
【
図12】本発明の実施例によるサンプルのヒステリシスループ測定結果である。
【
図13】本発明の実施例によるサンプルの電圧-電流曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について添付の図面を参考としてその構成および作用を説明することとする。下記で本発明を説明するに際して、関連した公知機能または構成に対する具体的な説明が本発明の要旨を不明にすることができると判断される場合には、その詳細な説明を省略する。また、任意の部分が或る構成要素を「含む」というとき、これは、特に反対になる記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含むこができることを意味する。
【0015】
本発明による層状構造InP化合物は、下記化学式1で表される層状構造化合物で表現され得る。
[化学式1]
K1-xInyPz
(0≦x≦1.0、0.75≦y≦1.25、1.25≦z≦1.75)
一般的に、InPは、ジンクブレンド(Zinc Blende)結晶構造であって、層状構造が現れることができず、したがって、これを用いてナノシートを作製することも不可能であった。
【0016】
このような問題を克服するために、本発明のInyPzに添加元素を添加することによって、InyPz層間に添加元素を位置させて、結果的に、InyPz層が続く層状構造化合物を製造することができると考えた。このために、発明者らは、計算を通して新しい組成と結晶構造を有する層状構造の物質を導き出し、その結果、従来報告されたことがない新しい組成である層状構造のK2In2P3を合成し、これを通して前記[化学式1]の組成を有する層状構造化合物を製造することができた。
【0017】
[化学式1]の組成を有する層状構造の化合物は、InyPz層間にKが位置して、InyPz層をファンデルワールス結合を通して弱く結合させていて、これらKが位置する面は、この面に沿って容易に割れる劈開面(cleavage plane)を成す。
【0018】
K1-xInyPz層状構造化合物またはナノシートにおいてKの組成は、上述した[化学式1]を基準として、xは、0であり得るが、上述したように、K2In2P3は、従来合成された事実が報告されたことがない新しい物質であって、[化学式1]においてxは0である場合に該当する。また、xが0になって、Kの除去がなくてもKを含む面は、弱いファンデルワールス結合を成す劈開面であって、剥離が起こり得る。
【0019】
本発明による層状構造化合物は、上述したように、InyPz層間にKが位置してInyPz層をファンデルワールス結合を通して弱く結合させていて、このような劈開面に沿ってInyPz層に容易に物理的または化学的方法のうちいずれか一方または両方を通して剥離され得るが、このような剥離は、添加元素であるKが除去されるほど層間の結合力が弱まってさらに容易に行われる。したがって、このような層状構造化合物から物理的または化学的剥離方法を通して容易にInyPzナノシートを作製することができ、ここで、InyPzナノシートには、添加元素であるKが一部残留することもできる。
【0020】
添加元素であるKを持続的に除去すると、化合物においてInyPz層間の距離が次第に広がって、結局、層間の結合がなくなり、層間にクラック(crack)を示すことができる。したがって、本発明において説明する層状構造化合物の層状構造は、繰り返される二次元のInyPz層がファンデルワールス結合で層間に結合がなされた場合だけでなく、InyPz層間の結合力が除去されて層間の距離が広がってクラックを示す場合も含む。
【0021】
このような層状構造化合物とナノシートの例に対する概念図は、
図1に示したが、KIn
yP
zのIn
yP
z層10の間に添加元素であるK11が位置してIn
yP
z層10間に結合が維持されることを示しており、ここで、K11が除去されてIn
yP
z層10間の結合が弱くなり、これを物理的または化学的方法で剥離することによって、最終的にIn
yP
zナノシート20に作製されることを示す。ここで、In
yP
zナノシートには、添加元素が一部残留することができる。
【0022】
このような層状構造化合物から作製されるナノシートは、InyPz単一層であってもよいが、複数の層が重なって作製されることもできるので、厚さが数百nmであってもよい。一般的に、ナノシートは、横方向の幅に比べて厚さが一定水準以下である場合にのみ、二次元的な形状による異方性を示すことができるが、このために、ナノシートの幅Lに対する厚さdの比d/Lは、0.1以下であることが好ましい。本発明によって作製されるナノシートの幅は、5μm以上であることも可能なので、ナノシートの厚さは、500nm以下であることが好ましい。ここで、InyPzナノシートには、添加元素が一部残留することもできる。
【0023】
このように本発明によるナノシートは、層状構造化合物から物理的または化学的方法で剥離されるシートを意味し、InyPz層が単一層である場合だけでなく、複数の層からなる場合も含む。
【0024】
残留する添加元素は、上述した[化学式1]を基準として、0≦x≦1の範囲であり、好ましくは、0.1≦m<0.9の範囲であり得、より好ましくは、0.25≦m≦0.75の範囲であり得る。K2In2P3のようにKが全部所定の位置に位置していて、xは、0になり得、層状構造を有するInyPz化合物を製造するに際して、層状構造を作製するために添加された元素は、一部が除去されることもでき、完全に除去されることもできる。
【0025】
また、剥離が容易であると同時に、Kの過度な除去による層状構造の崩壊または結晶構造の変化がないように、xは、0.1≦x<0.9であり得る。ここで、層状構造化合物の結晶構造は、空間群がP21/cであり得る。このようなxの範囲を有する層状構造化合物から剥離されるナノシートも、同一に、xは、0.1≦x<0.9であり得る。
【0026】
また、xの範囲は、0.25≦x≦0.75の範囲であってもよい。添加元素であるKが一部除去され、一定量は残留する層状構造化合物は、層間で残留する添加元素であるKが移動可能になって、これを通して多様な電気的特性を示すことができる。したがって、KInyPz化合物において添加元素は、一部除去され、一部は残ることが好ましい。これのためのxの範囲は、0.25≦x≦0.75の範囲であり得る。
【0027】
残留する添加元素は、上述した[化学式1]を基準として、xが0.9≦xの範囲であり得る。
【0028】
添加元素であるKが除去されることによって、層状構造化合物は、その結晶構造が変わることができるが、添加元素が除去されることによって、従来のInPが示すジンクブレンド構造または非晶質構造に変わることができる。xが0.9以上になると、InyPz層は、ジンクブレンド構造または非晶質構造に変わることができるが、この場合にも、一部の添加元素が残留する面は、依然として物理的剥離が容易に起こる劈開面になったり、InyPz層間の結合力が除去されて層間の距離が広がってクラックを示し、これに伴い、InyPz層は、二次元層を維持することになって、化合物は、層状構造を有する。
また、このような組成の化合物から剥離されたK1-xInyPzナノシートも、ジンクブレンド構造または非晶質構造を有することができる。
【0029】
[化学式1]においてyは、0.75≦y≦1.25であり、zは、1.25≦z≦1.75の範囲であり得るが、初めて作られたK2In2As3においても、欠陥によってyおよびzは、小幅変動がありえ、Kが除去されて除去工程中にInとPの比率も少しずつ変化することができるので、K1-xInyPzにおいてyとzの値が定められたKの含量に対して結晶構造を変化させない範囲で変動することができる。
【0030】
添加元素の除去は、硝酸や塩酸のような強酸を用いることができるが、このような強酸を通して添加元素が除去されて強酸に含まれる水素イオンが添加元素が除去されたサイトに置換されて結合されて、水素が含まれる層状構造化合物とこれを通したナノシートを提供することができる。
【0031】
このように水素イオンが含まれる層状構造化合物とナノシートは、下記[化学式2]で表現され得る。
[化学式2]
K1-xHaInyPz
(Mは、1族元素のうち1種以上であり、0≦x≦1.0、0<a≦x、0.75≦y≦1.25、1.25≦z≦1.75)
ここで、水素イオンは、添加元素を代替することによって除去される添加元素の量以下で追加される。
【0032】
添加元素が除去される量であるxは、0.9≦xの範囲であって、非常に小さい量のみが残っていてもよい。上述したように、xが0.9以上になるに従って、結晶構造が変わることができる。
【0033】
また、xの範囲は、0.1≦x<0.9の範囲であり得、さらに好ましくは、0.25≦ x≦0.75の範囲であり得る。上述したように、初期層状構造化合物であるKInyPzの結晶構造をそのまま維持しつつ、添加元素であるKが一部除去されることによって、層間の結合力が弱まって、容易にInyPz層に剥離され得、残留する添加元素により多様な電気的特性を示すことができる。
【0034】
また、前記aは、xと同じ値であり得るが、除去される添加元素だけ水素イオンが代替して層状構造化合物に含まれ得る。
【0035】
上述した層状構造化合物またはナノシートは、分析結果、多様な特性を示すが、このような特性を下記で説明する。ここで説明する層状構造化合物とナノシートは、添加元素がある場合とない場合を全部含む。
【0036】
まず、本発明による層状構造化合物またはナノシートは、CuKα線を使用したXRD測定において2θ=11.51±0.50°、13.11±0.50°、25.54±0.50°、28.09±0.50°、29.49±0.50°、30.81±0.50°の位置にピークを有する結晶構造であり得る。本明細書でXRD測定においてピークは、XRD測定を通して示されるグラフにおいて最も大きい強度を有するピークに対して3%以上の強度を有するピークを意味する。
【0037】
また、このようなXRD測定結果、層状構造化合物またはナノシートは、P21/cの空間群を有することができる。
【0038】
一方、層状構造化合物から添加元素が除去されることによって、上述したように、結晶構造の変化が現れることができる。
【0039】
初期添加元素が除去されない状態のKInyPzにおいて示す結晶構造は、添加元素であるKが除去されることによって、一般的なInP層が有するジンクブレンド構造または非晶質構造に変換され得る。この場合にも、すでにKInyPzで形成された劈開面は、そのまま維持されたり、または次第に結合力が弱くなってクラックを示して層間の結合がなされずに広がる構造になり得るので、層状構造は維持され得る。
【0040】
これに伴い、InyPz層は、ジンクブレンド結晶構造または非晶質構造であり、且つ劈開面またはクラックを含む層状構造の化合物が作製され得、これを剥離して最終的にジンクブレンド構造または非晶質構造のInyPzナノシートが作製され得る。
【0041】
上述したような層状構造化合物またはナノシートは、固有の層状構造と残留する添加元素によって多様な電気的特性を示すことができる。
【0042】
まず、本発明による層状構造化合物またはナノシートは、強誘電類似(ferroelectric-like)特性を示す。
【0043】
強誘電特性は、一般的にペロブスカイト構造のBaTiO3のような非対称構造の酸化物に現れる特性であって、中心に位置するBaの位置の変化によって強誘電特性が現れる。
【0044】
しかしながら、本発明による層状構造化合物とナノシートは、このような非対称構造を有しないが、それにもかかわらず、強誘電類似特性を示す。非対称構造でないにもかかわらず、強誘電類似特性を示す理由は、残留する添加元素の位置が外部電界によって移動することによるものと考えられる。
【0045】
このような本発明による層状構造化合物とナノシートの強誘電類似特性を通して多様な電気素子に適用が可能になる。
【0046】
また、本発明による層状構造化合物とナノシートは、抵抗スイッチング特性を示す。
【0047】
或る物質が抵抗スイッチング特性を有すると、その物質に印加する電圧によって線形的に電流が増加するのではなく、初期電圧を印加するときは、物質が高抵抗状態を維持して電流の増加が微小であるが、一定の臨界点に到達すると、低抵抗状態に変わって、急激に電流が増加する。
【0048】
このような抵抗スイッチング特性は、一般的に酸化物に現れる特徴であって、最近には、このような特性を用いてフラッシュメモリのように情報の保存が可能なメモリスタ(memristor)のようなメモリー素子の開発が活発であり、本発明の層状構造化合物とナノシートは、抵抗スイッチング特性を活用してこのようなメモリスタのようなメモリー素子の開発に積極的に活用され得る。
【0049】
[実施例]
1)層状K2In2P3合成
KとIn、Pをモル比で2:2:3の割合で称量して混合した後、アルミナるつぼに投入した。その後、クォーツチューブに入れ、二重密封して、外部空気を遮断した。この過程は、アルゴン雰囲気のグローブボックスで進めた。その後、ボックス炉でK、In、Pが全部液体で存在し得る750℃に昇温し、20時間維持し、100時間の間500℃まで冷却し、さらに100時間を維持して、K2In2P3サンプルを得ることができた。
【0050】
2)Kの除去
IPAに塩酸を1.5Mの割合で混合した溶液で時間別に反応させて、層状K2In2P3からKを除去した。その結果は、下記の表に示した。
【0051】
【0052】
3)ナノシート化工程
前記表1のように製造されたサンプルに対してエタノールで超音波を照射した後、テープを用いて剥離されたナノシートを製造した。
【0053】
上述した実施例を通して得られる層状構造化合物とナノシートに対する分析結果を以下で詳細に説明する。
【0054】
まず、計算を通して導き出された層状構造のK
2In
2P
3を合成しようとし、その結果として合成された層状構造K
2In
2P
3(サンプルA)に対するXRD測定結果は、
図2に示した。(a)は、サンプルAに対するXRD測定結果ピークを示す。下記の(b)は、類似した構造であると予測したK
2Al
2Sb
3のピークを示す。K
2Al
2Sb
3は、P2
1/cの空間群を有する物質であって、サンプルAがこれと類似したピークを有することから見て、サンプルAのK
2In
2P
3は、P2
1/c空間群を有することが分かった。
【0055】
図3は、サンプルAに対してゾーン軸(zone-axis)[010]方向のSTEM(Sacanning Transmission Electron Microscopy)イメージとEDS(Energy dispersive Spectroscopy)分析結果である。
【0056】
STEMイメージは、前記でXRDで予測したP21/c物質の構造と一致する原子構造イメージを示しており、同一サンプルのEDS元素構成の分析結果、29.35:27.84:42.82であって、ほぼ2:2:3に近い分析結果を示した。これによって、合成されたK、In、Pの化合物がP21/c構造を有する2:2:3化合物であることを明らかにして、新物質を合成したことが分かった。
【0057】
図4は、Kを除去する前のサンプルAとKを一部除去した状態のサンプルB、そしてサンプルBから剥離されたナノシートを示す。
【0058】
Kを除去する前のサンプルAは、層状構造を示し、層間には緻密に密着した状態であるが、Kが一部除去された状態であるサンプルBでは、層状構造の層間の距離が広がってクラックを示した。これに伴い、容易にナノシートに剥離が可能になった。
【0059】
図5は、サンプルBから剥離されたナノシートのAFM(Atomic Force Microscopy)イメージおよびそれに応じたラインプロファイルを示す。6~16nmの厚さを有し、幅が数μmであるナノシートであることが分かった。
【0060】
図6は、一般的なジンクブレンド構造であるInPのXRDピークと、サンプルAに対するXRDピーク、そしてKが一部除去されたサンプルBに対するXRDピークを示す。
【0061】
サンプルAとサンプルBは、一般的なジンクブレンド構造のInPとは異なる構造であることが分かり、K2In2P3からKが除去されることによって(002)面のピーク強度が、他の面のピーク強度に比べて強くなることが分かった。
【0062】
図7は、サンプルBに対するSTEMイメージとこのようなイメージのFFT(Fast Fourier Tansform)結果を示す。STEMイメージとFFT結果を通して、添加元素が一部除去されても、他の構造への変化や非晶質化なしに結晶構造を維持し、c-axis方向[001]への若干の拡張(7.67Å→7.83Å)が起こることが分かった。
【0063】
図8は、一般的なジンクブレンド構造であるInPのXRDピークと、サンプルAに対するXRDピーク、そしてKを大部分除去したサンプルCに対するXRDピークを示す。
【0064】
サンプルCでは、Kを除去する前のサンプルAのピークから次第にジンクブレンド構造のInPのピークに転換されることを示している。しかしながら、
図9のサンプルCに対するSEMイメージから明らかなように、サンプルCは、ジンクブレンド結晶構造を有しても、依然として二次元層を有していて、これを剥離して容易にナノシートを作製することができた。
【0065】
このように作製されたナノシートに対するゾーン軸[110]に対するTEMイメージを
図10に示したが、ジンクブレンド結晶構造を有していることを確認した。
【0066】
一方、サンプルDのように、K元素を大部部除去した層状構造化合物は、非晶質構造であり得るが、これを通して剥離されたナノシートも、非晶質構造を維持した(
図11参照)。
【0067】
図12では、サンプルBから剥離されたナノシートに対するAFMイメージとこのナノシートにおいてPFM(Piezoresponse Force Microscopy)を通して強誘電特性を測定し、それによるヒステリシスループを示した。実際に電気素子に適用可能なほどの強誘電特性を有していた。
【0068】
また、サンプルBから剥離されたナノシートに対して電圧に応じた電流変化を測定し、その結果を
図13に示した。
【0069】
初期電圧では、高抵抗状態1を維持して低い電流の流れを示すが、一定電圧以上になると、低抵抗状態2になって急激に電流が増加することを示して、抵抗スイッチング特性を示すことが分かった。
【0070】
このような抵抗スイッチング特性を利用すると、最近ニューロモーフィックメモリー素子として開発が活発に行われているメモリスタ素子に適用することができることが分かった。