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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】幹細胞材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20220803BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220803BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20220803BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220803BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 47/08 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220803BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20220803BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20220803BHJP
   A61L 17/00 20060101ALI20220803BHJP
   A61L 15/44 20060101ALI20220803BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20220803BHJP
   C07K 14/495 20060101ALN20220803BHJP
   C07K 14/52 20060101ALN20220803BHJP
【FI】
C12N1/00 F
A61K38/19
A61K38/18
A61P17/02
A61P9/00
A61P29/00
A61P27/02
A61P17/14
A61K8/98
A61Q19/00
A61Q7/00
A61K9/06
A61K9/08
A61K9/107
A61K9/12
A61K47/24
A61K47/10
A61K47/08
A61K47/18
A61L27/54
A61L31/16
A61L17/00 100
A61L15/44 100
C12N5/0775 ZNA
C07K14/495
C07K14/52
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020216556
(22)【出願日】2020-12-25
(62)【分割の表示】P 2017547369の分割
【原出願日】2015-11-30
(65)【公開番号】P2021072789
(43)【公開日】2021-05-13
【審査請求日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】2014148251
(32)【優先日】2014-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
【微生物の受託番号】VKPM  H-154
(73)【特許権者】
【識別番号】517189799
【氏名又は名称】ティー-ヘルパー セル テクノロジーズ,エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】T-HELPER CELL TECHNOLOGIES, LLC
【住所又は居所原語表記】Dorozhnayia street, d. 3, korp. 11, str. 1, Moscow, 117545 Russia
(74)【代理人】
【識別番号】110002295
【氏名又は名称】弁理士法人M&Partners
(72)【発明者】
【氏名】ソコロフ アナトーリー
(72)【発明者】
【氏名】コレスニコヴァ アントニーナ イワノヴナ
(72)【発明者】
【氏名】ドフギイ アンドレイ イーゴレヴィチ
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-522553(JP,A)
【文献】NOORT W.A. et al.,Angiogenic factors produced by fetal lung mesenchymal stromal cells.,Progenitor Cells and Hypoxia in Angiogenesis,Chaptor 6 (2011),p.174-193
【文献】XING J. et al.,Cell Physiol Biochem,33 [Epub 2014 Mar 31],p.905-919
【文献】ZHEN Li et al.,J. Cell. Mol. Med.,Vol 14, No 6A (2010),p.1338-1346
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
A61K 35/00-35/768
A61K 8/00- 8/99
A61K 38/00-38/58
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/48
A61L 27/00-27/60
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数かつ非胎児性の間葉系幹細胞から得られた馴化培地であって、
少なくとも760pg/mlの血管内皮細胞増殖因子(VEGF)と、
少なくとも150pg/mlのCXCL1(GRO/KC)と、
形質転換増殖因子β1(TGF-β1)と、
形質転換増殖因子β2(TGF-β2)と、
を含み、且つ細胞が除去された馴化培地。
【請求項2】
少なくとも4000pg/mlの血管内皮細胞増殖因子(VEGF)と、
少なくとも1000pg/mlのCXCL1(GRO/KC)と、
少なくとも750pg/mlの形質転換増殖因子β1(TGF-β1)と、
少なくとも250pg/mlの形質転換増殖因子β2(TGF-β2)と
を含む、請求項1記載の馴化培地。
【請求項3】
前記VEGFの含有量が少なくとも8000pg/mlである、請求項1又は2記載の馴化培地。
【請求項4】
前記馴化培地がインターロイキン10(IL-10)及び/又はインターフェロンガンマ誘発タンパク質10(IP-10)を更に含むものである、
請求項1乃至3のいずれか1項記載の馴化培地。
【請求項5】
前記馴化培地は、破骨細胞形成抑制因子(OPG)の含有量が250pg/ml未満であり、
形質転換増殖因子β3(TGF-β3)の含有量が80pg/ml未満である、
請求項1乃至4のいずれか1項記載の馴化培地。
【請求項6】
前記馴化培地は、
破骨細胞形成抑制因子(OPG)の含有量が90pg/ml未満であり、形質転換増殖因子β3(TGF-β3)の含有量が40pg/ml未満であると共に、
VEGF,IP-10,IL-10,GRO/KC,OPG,TGF-β1、TGF-β2及びTGF-β3の総量が1487pg/ml以上26588pg/ml以下である、請求項4記載の馴化培地。
【請求項7】
前記馴化培地は、前記間葉系幹細胞として、0.7×10個の間葉系幹細胞が75cmフラスコに播種され、少なくとも96時間培養された場合に、以下(a)乃至(d)のうち少なくとも1つの追加の特徴を有するものを用いて調整されたものである、請求項1乃至6のいずれか1項記載の馴化培地。
(a)細胞は、培地交換の24時間以内に少なくとも4.5mMの乳酸塩を産生する;
(b)細胞は、培地交換の24時間以内に少なくとも150pg/mlのGRO/KCを産生する;
(c)細胞の、培地交換24時間後のOPG産生量が250pg/ml未満である。
または
(d)細胞の、培地交換24時間後のTGF-β3産生量が80pg/ml未満である。
【請求項8】
前記間葉系幹細胞は前記(a)乃至(d)のうち少なくとも2つの特徴を有する、請求項7記載の馴化培地。
【請求項9】
前記間葉系幹細胞は、CD29とCD44マーカーの陽性発現および、CD11bとCD45マーカーの陰性発現によって特徴づけられ、少なくとも90%の前記間葉系幹細胞が2n=42の核型を示すことを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか1項記載の馴化培地。
【請求項10】
前記馴化培地は受託番号H-154としてロシア国立工業用微生物コレクション(VKPM)に寄託された間葉系幹細胞株によって調整されたものである、請求項1乃至9のいずれか1項記載の馴化培地。
【請求項11】
前記馴化培地は少なくとも2つの異なる期間前記間葉系幹細胞によって調整された培養培地の組み合わせである、請求項1乃至10のいずれか1項記載の馴化培地。
【請求項12】
前記間葉系幹細胞は骨髄由来であり、前記馴化培地は破骨細胞形成抑制因子(OPG)の含有量が50pg/ml未満である、請求項1乃至11のいずれか1項記載の馴化培地。
【請求項13】
治療用途のために被験体に投与するための請求項1乃至12のいずれか1項記載の馴化培地及び担体を備えた組成物。
【請求項14】
TGF-β2の含有量が、少なくとも150pg/mlである、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
GRO/KCの含有量が、少なくとも250pg/mlである、請求項13又は14記載の組成物。
【請求項16】
前記担体が、液体、クリーム、エアゾール、ローション、軟膏またはヒドロゲルを含むものである、請求項13乃至15のいずれか1項記載の組成物。
【請求項17】
防腐剤及び界面活性剤をさらに含み、
前記防腐剤が、1つ以上のチメロサール、クレゾール、ホルマリン、塩化ベンザルコニウム、またはベンジルアルコールであり、前記界面活性剤がトリトンX-100(登録商標)である、請求項13乃至16のいずれか1項記載の組成物。
【請求項18】
火傷治療、スキンケア、皮膚の治療的処置、血管新生及び脈管形成の刺激創傷または損傷を伴う臓器または組織の治癒、組織炎症の治癒、創傷適用、創傷又は損傷を伴う眼科組織の治癒、瘢痕の削減、発毛の刺激、患部の毛包の修復、皮膚や骨髄または臓器の移植に伴う創傷の治癒、または内的又は外的な傷口を含む潰瘍を伴う臓器や組織の治療に使用され、そして注入、インプラント、または局所適用することにより投与されるためのものである、請求項13乃至17のいずれか1項記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態に合致する組成物および方法は、一般に、少なくとも細胞生物学、分子生物学、および医学の分野に関係する。より詳細には、本発明の実施形態は、幹細胞、幹細胞馴化培地、幹細胞馴化培地を得る方法および、幹細胞並びに幹細胞馴化培地の用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞、すなわちMSCは、間葉系細胞タイプに分化する可能性のある、多能性間質細胞であり、例として、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞などがある。MSCは、多能性を維持しながら、自己再生ができるという優れた能力を有する。骨髄MSCは現在、様々な治療の臨床治験に応用されている。培養中のMSCを分離、精製、複製するための手順は当技術分野では公知のことである。
【0003】
MSCは、ビーズを用いて単層培養(つまり二次元培養)あるいは三次元培養することが可能である。これら標準的な方法は、生理学的環境に極めて類似した状態でMSCの増殖を可能にする。MSCの挙動は生体内と生体外の環境では異なり得ることが報告されている。異なるMSC株間の相違は、概して、分離技術と生体外培養条件の相違にあると考えられる。例えば、増殖条件の相違は、細胞表面のマーカーの発現に影響を及ぼすことを含め、生体外での細胞の挙動に影響を及ぼす可能性がある。細胞の表面での特異的マーカーの発現は、異なる細胞株を区別する、あるいは細胞株の系統を確認するのに使用することが可能である。
【0004】
すべての細胞は(MSCを含む)は、培養中に生物学的生産物を産生する。例えば、MSCは培養中に200以上の独自のタンパク質を産生することが知られている。培養中にMSCによって産生される特定の生物学的生産物は、様々なMSCに特性を与え区別するために使用することが可能である。しかしながら、同じ供給源からのMSCを使用しても、分離技術や生体外培養条件の違いが分泌生物学的生産物の生成に影響を与え、変化を生じさせることがある。もちろん、理想的な細胞増殖条件からの逸脱が、培養物の老化および喪失を招くことも知られている。
【発明の概要】
【0005】
本発明の一態様によると、ある特徴を1つあるいはそれ以上持つ、ウィスターラットの骨髄に由来する間葉系幹細胞の固有株が得られる。例えば、間葉系幹細胞の株は0.7×10個の細胞を75cmフラスコに播種し、少なくとも96時間培養した場合:
(a)培地交換の24時間以内で、少なくとも4.5 mMの乳酸塩を産生することができる;
(b)培地交換の24時間以内で、少なくとも150 pg/mlのGRO/KCを産生することができる;
(c)培地交換の24時間後のOPGの産生量が250 pg/ml未満である;
あるいは(d)培地交換の24時間後のTGF-β3の産生量が80 pg/ml未満である。
別の態様によれば、0.7×10個の細胞を75cmフラスコに播種し少なくとも150時間培養した場合:
(e)培地交換の24時間以内に培養培地のpHが7.0未満に低下する;
もしくは(f)培地交換の24時間以内に培養培地のpHが細胞の非存在下での培養培地のpHから少なくとも0.4単位減少する。培養培地はCOを5%添加したRPMI-1640培地としてもよい。さらに、同じ幹細胞株は、pH7.05未満で少なくとも1つの集団が倍増され得る。幹細胞株はまた、CD29とCD44マーカーの陽性発現および、CD11bとCD45マーカーの陰性発現によっても特徴づけられることがある。
【0006】
本発明の別の態様は、特定の調整期間中培養地に複数の固有幹細胞を維持することで調製することが可能な、馴化培地に関する。ある態様では、培養培地は5%のCOを添加したRPMI-1640である。細胞は、COの大気中濃度や低酸素条件を含む様々な条件下で培養培地中に維持することができる。本発明の態様によって、調整期間は多様になり得る。例えば、調整期間は少なくとも12時間としてもよく、または、馴化培地が少なくとも150 pg/mlのGRO/KCを含むに十分な期間としてもよい。
本発明の別の態様では、馴化培地は少なくとも以下の1つを満たすことができる:
(a)GRO/KCの含有量が少なくとも500 pg/ml、
(b)VEGFの含有量が少なくとも4000 pg/ml、
(c)OPGの含有量が250 pg/ml未満、
もしくは
(d)TGF-β3の含有量が80 pg/ml未満。
【0007】
本発明の別の態様は、固有の幹細胞株または固有の細胞によって調整された培地を含む組成物に関する。また、組成物には適切な担体を含めることができる。担体には、液体、クリーム、エアゾール、ローション、軟膏、ヒドロゲルを含めることができるが、これらに限定されない。本発明の態様のいくつかにおいては、組成物は、幹細胞のいくつかまたはすべてを除去するように処理され得る。
他の態様においては、組成物は、OPGの含有量が250 pg/ml未満、またはTGF-β3の含有量が80 pg/ml未満の馴化培地を含めることができる。
【0008】
本発明の態様によれば、固有の幹細胞株、馴化培地もしくは組成物は、注射、移植、もしくは局所適用により被検体に投与することが可能である。本発明の他の態様によると、細胞、馴化培地もしくは組成物は、縫合糸、包帯、編地メッシュ、インプラント、ステント、移植組織、ウェットワイプ、または歯周パッド、あるいは他の供給手段(アプリケータ)に適用することが可能である。細胞、馴化培地もしくは組成物には、例えば、火傷治療、スキンケア、血管新生、脈管形成、臓器または組織の治癒、化粧品、組織炎症、細菌感染症、創傷適用、糖尿病、薬学および眼科学用途、瘢痕の削減、育毛促進、免疫療法の適用と免疫矯正療法、皮膚や骨髄または臓器の移植、臓器や組織の治療、あるいはヒトまたは動物の他の病気の治療のためなど、様々な用途がある。
【0009】
本発明の上記および/または他の態様は、添付の図面を参照して、その実施形態例を詳細に説明することで、より明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】マーカーのタイプおよびマーカーの相対パーセンテージを含む、hb-MSCの表面細胞マーカーのフローサイトメトリー分析を図示したものである。
図2】継代No.9(p9)時点でのhb-MSCからのギムザ染色された染色体を図示している。
図3】hb-MSCとコントロールの、PCR分析の電気泳動図を図示している。
図4】RPMI-1640培地とhb-MSC組成物によって治療されて9日後のマウスの創傷の比較を示している。
図5】RPMI-1640培地とhb-MSC組成物によって治療されたマウスの創傷の創傷閉鎖の相対速度を示している。
図6】RPMI-1640培地、rb-MSC 馴化培地、およびhb-MSC馴化培地について、経時的なpHの変化を図示している。
図7】rb-MSCおよびhb-MSCの細胞培養中の乳酸塩濃度(mM)の変化を図示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照し、本発明の様々な実施形態例を説明する。本発明の態様は本明細書に記載の実施形態に限定されることなく、様々な形態で実施することができる。本明細書を通して使用されるいかなる見出しまたは小見出しも便宜上の目的でのみ使用しており、請求項の範囲および意味を限定するものでは決してないことを理解すべきである。最後に、本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数を示す「a」、「an」および「the」は、文脈上ほかに明確に指示されない限り、複数の指示物を含むことを理解すべきである。
【0012】
本発明の実施形態の1つは、新規間葉系幹細胞株(以下「hb-MSC株」と称する)に関するものである。hb-MSC株のサンプルは、ロシア国立工業用微生物コレクション(VKPM)に受託番号H-154として寄託されている。細胞株はMSCR05P09という名称で寄託されている。hb-MSC株の表面細胞マーカーの発現は間葉系幹細胞のものと一致する。
【0013】
本発明の別の実施形態は、hb-MSCによって調整された培地およびこれを得る方法に関するものである。馴化培地は複数の生物学的機能を有する無数の生物学的生産物、小分子およびエキソソームを含む。
【0014】
その他の実施形態はhb-MSCの組成物に関する。hb-MSC組成物は以下のものを含み得る:
(1)hb-MSC、hb-MSCの培養によって調整された培地、あるいはそれらの任意の組み合わせ;および
(2)適切な担体。
hb-MSC、hb-MSCによって調整された培地、およびhb-MSC組成物は、任意の状態で使用され、当技術分野で周知の任意の方法を用いて送達され、様々な用途に使用することが可能である。
【0015】
細胞は、培地を利用して生体外で継代される。適切な培地としては、RPMI-1640、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハムF12培地、イスコフ培地、マッコイ培地、または細胞増殖のための十分な栄養を含有する任意のその他培地を含むが、これらに限定されるものではない。これら培地は、調製または商業的供給源から入手することが可能である。
【0016】
間葉系細胞を、それらが好む増殖環境から引き離すことは、典型的には、細胞増殖の減少または停止、プラスチック接着性の消失、および/または細胞形態の変化をもたらす。細胞増殖に関する重要な変化要素の1つは、細胞増殖中の環境のpHである。典型的には、培養中の条件が生理学的pHから逸脱する場合、幹細胞は増殖しない(あるいは増殖速度の減少に見舞われる)。このような理由から培養培地は、典型的には、細胞培養中は緩衝液として機能する。すべての細胞は増殖と生存のため、少量のCOを生成し必要とする。いくつかの培養培地の例では、溶解したCOは、培地のpHを緩衝するためCO/重炭酸反応を用いて重炭酸イオンと平衡状態になっている。COは培地に自由に溶解し、水と反応して炭酸を生成する。細胞が代謝し、より多くのCOを生成すると、培地のpHが低下する。最適pH範囲7.2から7.4は培地に重炭酸ナトリウム(NaHCO)を添加し、培地上の大気中のCO濃度を調整することで、維持可能となる。培地の緩衝能はNaHCOの量により決定される。一般的に、NaHCOを1.2から2.2 g/lに設定した緩衝能で最適なpHを達成するためにCOが5%添加される。別の例では、NaHCOを3.7 g/lに設定した緩衝能で最適なpHを達成するために、COが10%添加される。添加COが培養地の緩衝能を下回ると、培養地のpHを適正なレベルに保つことができず、これが老化につながる可能性がある。
【0017】
細胞培養培地は、所望の細胞培養を援護しあるいは維持するため、必要に応じて、ビタミン、成長因子、ホルモン、タンパク質、糖および/または抗酸化剤のような成分を追加することが可能である。ウシ胎児血清(FBS)などの血清を添加することが可能であることも理解すべきである。例えば、10%の添加FBSを培地に加えることもあり得るし、また血漿を動物の血清と同じ量加えることも可能である。あるいは、添加血清および/または添加血漿が存在しない状態でも、細胞を培養液中で維持し増殖させることが可能である。細胞により調整された培地が、培養培地に代えてあるいは培地に加えて使用され得る。
【0018】
hb-MSC株はウィスターラットの骨髄から分離することができる。hb-MSC株を分離する方法は一般的には少なくとも以下を含む:
(1)初代ラット骨髄細胞から継代No.1細胞を確保する;
(2)p1ラット間葉系幹細胞を適正なフラスコに播種する;
(3) 最初のインキュベーション工程、この工程で、最初の細胞インキュベーション時間の間、最初に設定されたCO濃度で細胞がインキュベーションされる;
(4)第二のインキュベーション工程、この工程で、2番目の細胞インキュベーション時間の間、2番目に設定されたCO濃度で細胞がインキュベーションされる;
(5)hb-MSCの採取。
【0019】
初代ラット骨髄幹細胞は、ウィスターラットの脛骨または大腿骨の骨髄から公知の方法によって採取できる。細胞採取後、細胞ペレットを再懸濁し、プラスチック組織培養フラスコに播種し、37℃、CO濃度5%の加湿雰囲気下で、培養培地(例えばFBSを10% 添加したRPMI-1640)中でインキュベーションすることができる。約70%コンフルエントまで成長した接着細胞を、継代No.1(p1)と称する。
【0020】
1つの実施形態では、最初の所定濃度のCOは、一般的に培地製造者によって決定されるので、培地の緩衝能のために処方されたCO濃度に合致するように設定することも可能である。例えば、RPMI-1640培地を培養に使用する場合、最初の所定のCO濃度は5%に設定することができる。同じ実施形態で、第二の所定濃度のCOは、一般的に培地製造者によって決定されるので、培地の緩衝能のために規定されたCO濃度から少なくとも50%低減することも可能である。RPMI-1640培地の場合、規定CO濃度は5%である。したがってこの方法の実施形態の1つによれば、第二の所定濃度のCOは、2.5%未満に設定されるべきである。別の実施形態では第二の所定濃度は大気中のCO濃度(すなわち約CO濃度0.03%)に設定することも可能である。当業者であれば、培養液中の第二の所定CO濃度が増加する場合、hb-MSC株を分離するため第二のインキュベーション時間を増加させる必要(例えば、1つあるいはそれ以上の追加の継代が必要とされる)が有り得ることを理解するだろう。
【0021】
1つの実施形態では、第一のインキュベーション時間は0~4細胞継代にすることもできる。第一のインキュベーション時間が0継代の場合、第一のインキュベーション工程は完全にスキップされることを理解すべきである。別の実施形態では、第一のインキュベーション時間は、培養において、1つの集団が倍増するのに必要とされる時間数(例えば約20から48時間)から約700時間の期間である。1つの実施形態では、第二のインキュベーション時間は1から8細胞継代の間であっても可能である。さらなる実施形態では第二のインキュベーション時間は、培養において、1つの集団が倍増するのに必要とされる時間数(例えば約20から48時間)から約2500時間の期間である。例えば、細胞は10% FBSを含むRPMI-1640中、CO濃度0.03%の雰囲気下で4継代を経ることが可能である。当業者であれば、必要であればいずれかのインキュベーション工程中にCO濃度の調整が可能であることを理解するだろう。
【0022】
「継代」とは、希釈の有無にかかわらず、1つの培養フラスコから新鮮な培養培地を含む別の培養フラスコに細胞を再分配することと理解されるべきである。例えば単一の細胞継代は以下を含むことができる:
(1)培養フラスコの表面上に細胞を播種すること(例えば175 cmの表面積上におよそ2.0×10個の細胞);
(2)培養培地を追加すること(例えばRPMI-1640);
(3)特定のCO雰囲気の設定;
(4)適正な温度(例えば37℃)に設定されたインキュベーターに培養フラスコを入れる;
(5)培養フラスコ内の細胞を所定の期間(「所定の培養期間」)維持する;
(6)細胞増殖のために、必要に応じて新鮮な培養培地を供給する;そして
(7)細胞の剥離および再播種。
【0023】
各継代について、細胞は所定の培養期間が約30~700時間の培養培地中で維持される。1つの実施形態では、所定の培養期間は96時間未満である。別の実施形態では所定の培養期間は約96~168時間である。さらに別の実施形態では、所定の培養の期間は168時間を超える。さらに、所定の培養期間は細胞コンフルエントに基づくことができる。1つの実施形態では、所定の培養期間は、細胞がおよそ50%コンフルエントに達するのに必要な時間である。別の実施形態では、細胞がおよそ50%から70%コンフルエントの間に達した後に、細胞を継代する。さらなる実施形態では、細胞がおよそ70%コンフルエントに達した後に、細胞を継代する。
【0024】
hb-MSC株は、任意の数の次元(D)で細胞を培養することによって分離される。例えば、細胞は、ビーズ(0D)、単層(2D)あるいは3D足場を用いて培養することができる。hb-MSC株はまた、様々なシステムを用いて分離することも可能である。hb-MSC株は、オープンコンテナシステムあるいはクローズドコンテナシステム、またはそれらの組み合わせを用いて分離され得る。1つの実施形態では、hb-MSC株はクローズドコンテナシステムを用いて分離することができる。クローズドコンテナシステムでは、細胞培養フラスコは非透過性の蓋で閉鎖され、添加COへのアクセスを防ぐことができる。別の実施形態では、hb-MSC株は、CO濃度の制御が可能な細胞培養室内のオープンフラスコを用いて分離することができる。別の実施形態において、hb-MSC株は、CO濃度の制御ができる細胞培養室内で、ガス透過性膜で封をしたフラスコ内で分離することができる。
【0025】
当業者であれば、上記で挙げた様々な細胞培養方法は、単に例として提供されているものであり、いかなる請求項の範囲をも制限する目的で使用されるものではないと理解するだろう。当業者は、手順、インキュベーション期間、培養期間、培地、血清またはCO濃度および他の変化要素は、培養中の細胞の挙動を考慮に入れ変化させる必要が有ることを理解するだろう。
【0026】
本発明の別の実施形態は、固有のhb-MSC株に関する。細胞表面マーカー発現は、この株の間葉性の識別に利用できる。細胞表面マーカーは、例えばフローサイトメトリーを含む任意の適切な方法を用いて確認することができる。実施例4に記載され図1で示されているようにhb-MSCを得る方法は、hb-MSCの表面マーカーに変化をもたらさず、hb-MSCが、ラット骨髄間葉系幹細胞のものと一致する表面マーカーを示すという結論を導くことができる。
【0027】
図2は継代No.9(p9)のhb-MSCからのギムザ染色された染色体を図示する。図3はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析の結果を示す。COX-1とVN1R1遺伝子をラットミトコンドリアおよび核DNAのマーカーとしてそれぞれ利用した。継代No.9では、核型は、正常2倍体(すなわち2n=42)である。以下の実施例1に記載するように、細胞株のPCR分析は、これらがラット細胞であることを確認した。当業者は、細胞の核型分析が細胞の遺伝的安定性を確認するならば、細胞は任意の数の継代で維持し得ることを理解するだろう。
【0028】
hb-MSC株は、多くの様々な特徴付け方法を用いて示すことが可能なように、ラットから得られた幹細胞の他の株とは著しく異なる。標準条件下で得られたラットの間葉系幹細胞を培養して、典型的なラット間葉系幹細胞と固有のhb-MSC株との間の相違を示した。この比較目的で調製した典型的なラット間葉系細胞株をrb-MSC株と名付けた。rb-MSC株を得るため、p1ラット間葉系細胞を、実施例2に記載したように、当技術分野で公知の標準条件に従い継代した。
【0029】
実施例7(および図6)は、hb-MSCとrb-MSC株との間の培地pHの差異を示し、これは2つの株を区別するために使用することができる。別の比較において、hb-MSC株は、培養中の乳酸塩の総濃度によってrb-MSC株と区別することができる。hb-MSC株をrb-MSC株から区別する別の方法は、実施例8(および表3に示す)で説明するように、それぞれの株によって調整された培地中に見られる種々の因子を比較することである。もちろん、hb-MSC株はまた、当業者に公知の他の方法によって特徴付けることもできる。
【0030】
本発明の実施形態は、hb-MSCから分化した細胞または細胞株にも関連している。細胞株は、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞、または他の細胞を含むことができる。脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞に分化する方法は、当技術分野において公知である。幹細胞株を遺伝子改変するための方法も公知である。遺伝子改変hb-MSCから作製された幹細胞株、および遺伝子改変hb-MSCから分化した任意の細胞株も、本発明の範囲内である。
【0031】
当業者は、hb-MSCを特徴付ける様々な方法は、説明目的のためにのみ提供されることを理解している。hb-MSCの実施形態は、開示された様々な特徴付け方法のそれぞれを満たす必要はなく、いくつかの実施形態は、本明細書に開示される1つまたは複数の特徴付け方法のみを満たすことができる。
【0032】
本発明の1つの実施形態は、以下で「hb-MSC馴化培地」と呼ばれるhb-MSCによって調整された培養培地に関連している。1つの実施形態において、馴化培地は以下の工程により生産される;(1)複数のhb- MSCを適切なフラスコに播種する;(2)培養培地を供給する;(3)調整期間中培養培地中でhb-MSCを維持する;(4)馴化培地を採取する。馴化期間は数時間、数日、または数週間であってもよく、その間に培養培地は生物学的生産物が豊富になる。適切な時に(例えば、増殖因子、タンパク質および小胞などの生物学的生産物が培地中で望ましいレベルに達するように培地を調整した後)、馴化培地を採取することができる。例えば、馴化培地は、hb-MSCが、3、6、24、30、48、54、72、96、120、144、168、192、216、240、264、288、312または366時間、または他の期間培養された後に、採取することができる。hb-MSCを培養することによって得られた馴化培地は、無菌条件下で処理されるか、必要に応じて滅菌される。当業者は、培養に使用されるフラスコへの細胞の付着以前の馴化培地の採取は、増殖培地からの細胞の除去をもたらし、それは用途によっては好ましくないことを理解するでしょう。
【0033】
1つの実施形態では、hb-MSCは、馴化培地を除去した後にhb-MSCに培養培地を追加することによって、追加培地を調整するために再使用することができる。当業者は、細胞が再利用され得る回数が、培地を調整するために使用される時間ならびに細胞コンフルエントに依存することを理解しているだろう。異なった時間経過後に採取されたhb-MSC馴化培地(例えば、3、6、24、30、48、54、72、96、120、144、168、192、216、240、264、288、312または366時間、または他の時間)、単一継代培養内においてhb-MSCを再使用して採取された馴化培地、hb-MSCの異なる継代から集められた培地は、単一のhb-MSC馴化培地を形成するために組み合わせることができるということを理解すべきである。
【0034】
任意の細胞によって調整された培地は、培養中に分泌、排出、放出、または他の方法で産生される様々な生物学的生産物を含み得る。例えば、馴化培地は、増殖因子、抗炎症因子、シグナル伝達因子、ホルモン、調節因子、酵素、エキソソームを含む小胞、または任意の他の化合物などの生物学的生産物を含む。細胞培養方法および培地のpHは、細胞によって放出される生物学的生産物のタイプおよび量に影響を及ぼす。最初に播種された細胞の濃度は、馴化培地中に存在する生物学的生産物の量に影響することも理解されるべきである。添加血清の追加は、血清が一定量の種々の生物学的生産物を含むので、調整前の培地中の因子の初期濃度に影響を及ぼすことも理解されるであろう。hb-MSCによって調整された培地中のこれらの因子の濃度を測定すると、この培地はrb-MSCによって調整された培地と有意に異なることが示される。市販のアッセイを用いて、細胞によって産生される因子の濃度を測定することができる(例えば、EMD MilliporeまたはEve Technologiesから入手可能なアッセイ)。正確な測定は、アッセイにおいて使用される抗体対に依存することになり、従って、検出される因子の濃度は、使用されるアッセイまたは測定技術に依存して変化し得ることを理解すべきである。実施例8には、特定の期間におけるrb-MSCおよびhb-MSC株の因子濃度の比較を示す。
【0035】
1つの実施形態では、馴化培地は、一般的に培地製造業者によって決定されている通り、培地の緩衝能に対して処方されたCO濃度でhb-MSCを維持することによって形成することができる。RPMI-1640培地の場合、規定のCO濃度は5%である。別の実施形態では、馴化培地は、一般的に培地製造業者によって規定されている通り、培地の緩衝能に対して処方されたCO濃度から少なくとも50%低減されたCO濃度でhb-MSCを維持することによって形成することができる。別の実施形態では、馴化培地は、hb-MSCを大気中のCO濃度(すなわち、CO濃度0.03%)で維持することによって形成することができる。
【0036】
1つの実施形態では、馴化培地は、hb-MSCを大気中のO濃度(すなわち、17%)で維持することによって形成することができる。別の実施例では、馴化培地は、10%未満に減少したO濃度でhb-MSCを維持することによって形成することができる。別の実施形態では、馴化培地は、2%未満に減少したO濃度でhb-MSCを維持することによって形成することができる。例えば生体内の骨髄環境を模倣するために、低濃度のO(低酸素状態)を使用することができる。
【0037】
いくつかの実施形態では、馴化培地は濃縮形態で使用可能である。例えば、馴化培地は、当技術分野で公知の任意の方法を用いて1~100倍の濃度で濃縮することができる。必要とされる適切な濃度は、馴化培地の用途に依存する。
【0038】
1つの実施形態では、採取された生の馴化培地をさらに処理して、特定の生物学的生産物を添加/除去、および/または濃縮/希釈する。生産物の分離および精製に使用される方法は、最適な生物学的活性が維持されるように選択されるべきである。例えば、成長因子、調節因子、ペプチドホルモン、抗体、エキソソームまたは任意の他の所望の生物学的化合物を精製することが望ましい。上記を実施する方法としては、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換、金属キレートアフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、疎水性相互作用クロマトグラフィー、または遠心分離が含まれるが、これらに限定されない。別の実施形態では、馴化培地中に存在するエキソソームまたは任意の他の小胞は、馴化培地中で濃縮することができるか、馴化培地から除去することができる。
【0039】
別の実施形態では、馴化培地を凍結乾燥することができる。凍結乾燥された馴化培地は、生理食塩水、リン酸緩衝化生理食塩水、細胞培養培地、調整された細胞培養培地、水、またはそれらの混合物を、これらに制限されることなく含む任意の適切な希釈剤を利用して再構成することができる。馴化培地は、元の馴化培地と同じ濃度で再構成が可能である。別の実施形態では、凍結乾燥された馴化培地は、濃度係数が1~100の範囲で変化する、元の馴化培地と比較して、より濃縮された形態で再構成が可能である。
【0040】
hb-MSC株は、多種多様な培地を調整するために使用することができる。いくつかの実施形態では、培養培地に追加の胎児血清、および/または、血漿を添加することが可能である。1つの実施形態では、培地を20%FBS存在下にて調整する。別の実施形態では、培地を10%FBS存在下にて調整する。別の実施形態では、培地を7%FBS存在下にて調整する。別の実施形態では、培地を3%FBS存在下にて調整する。別の実施形態では、培地はFBS非存在下にて調整する。他の実施形態では、細胞が特定のコンフルエントに達した後、低血清または無血清馴化培地を形成するために、低濃度の血清または無血清培地を代わりに使用することができる。
【0041】
本発明の他の実施形態は、hb-MSC組成物に関連している。hb-MSC組成物は、hb-MSC、hb-MSC馴化培地、またはそれらの組み合わせを含み得る。hb-MSC組成物は適切な担体をも、含み得る。hb-MSC組成物中のhb-MSC馴化培地の総量は、0.00001~99.99容積%の間で変動する可能性がある。
【0042】
hb-MSC組成物の実施形態は、hb-MSC、rb-MSC、または培地の用途/目的に基づいて選択された他の細胞と組み合わせたhb-MSC馴化培地を含み得る。例えば、hb-MSC組成物に添加することができる細胞は、自己細胞、同種異系細胞または異種細胞を含み得る。
【0043】
異なる実施形態では、hb-MSC組成物は、任意の他の馴化培地または所望の比率の訓化培地の任意のコンビネーションを組み合わせた、hb-MSCまたはhb-MSC馴化培地を含む。hb-MSC組成物はまた、自己細胞、同種異系細胞または異種細胞によって調整された培地と組み合わせた、hb-MSCまたはhb-MSC馴化培地を含む。別の例では、hb-MSC馴化培地を、ヒト間葉系幹細胞により調整された培地と組み合わせることができる。
【0044】
hb-MSC組成物は、バクテリア、ウイルス、マイコプラズマ、または菌類による汚染のない状態に保たなくてはならない。1つの実施形態では、この状態は、細胞培養および処理中の滅菌処理条件によって達成される。別の実施形態において、hb-MSC組成物は、あるレベルの抗菌活性を提供するための医薬防腐剤を含有する。いくつかの実施形態では、防腐剤は、溶液のコンタミネーションによって引き起こされる二次細菌感染、真菌感染、またはアメーバ感染を制限することができる。他の実施形態では、防腐剤の付加は、腐敗を防ぎ潜在能力を維持することによって、hb-MSCまたはhb-MSC馴化培地の貯蔵寿命を延ばす。非限定的な例として、防腐剤は、洗剤、酸化剤、キレート剤、または五価アンチモン、第四級アンモニウムおよび有機水銀を含む代謝阻害剤を含有できる。防腐剤の例としては、チメロサール、クレゾール、ホルマリン、塩化ベンザルコニウムまたはベンジルアルコールが含まれる。
【0045】
さらに別の実施形態において、hb-MSC組成物は、抗炎症剤、抗菌剤、鎮痛剤、抗真菌剤、殺菌剤、消毒剤、ビタミン剤、日焼け止め剤、抗生物質、抗遊離基剤、金属イオン封鎖剤、塩基性化または酸性化剤、香料、界面活性剤、賦形剤、天然産物または天然産物の抽出物を添加することができる。添加物には、有機小分子、有機金属化合物、ポリマー、無機塩、タンパク質、成長因子、ケモカイン、DNA、RNA、または酵素を含むことができる。さらなる実施形態では、培地には、糖、タンパク質、インスリン、シグナル伝達タンパク質、または着色剤、香料または甘味料を含む任意のさらなる小分子が添加できる。添加物にはまた、等張性または化学的安定性を高める物質のような少量の添加物を含むことができる。
【0046】
当業者は、hb-MSC組成物のための適切な担体が、例えば、液体、クリーム、エアゾール、ローション、軟膏またはヒドロゲルを含むことを理解するだろう。これらの担体は、水性添加剤(培地を含む)、非水性添加剤、油、標準脂肪物質、通常のゲル化剤、緩衝剤、増粘剤、懸濁剤、乳化剤、保湿剤、皮膚軟化剤、親水性または親油性の活性剤の添加を基にしている。これらの様々な成分の量は、hb-MSC組成物の用途および所望の効果に依存して変化するだろう。当然のことながら、当業者は、「適切な担体」は、2つ以上の担体、および/または、他の成分の混合物を含むことを理解するだろう。
【0047】
本明細書において開示されるhb-MSC組成物は、任意の研究、診断、治療または商業目的を含み、且つこれらに限定されない様々な目的のために使用することができる。hb-MSC組成物は、例えば、火傷治療、スキンケア、血管新生、脈管形成、臓器または組織の治癒、化粧品、組織炎症、細菌感染症、創傷適用、糖尿病、薬学および眼科学用途、瘢痕の削減、育毛促進、免疫療法の用途と免疫矯正療法、皮膚や骨髄または臓器の移植、臓器や組織の治療、もしくはヒトまたは動物の他の病気の治療のために使用することができる。
【0048】
ここで言う「治療」とは、疾患、障害または症状、またはその任意の指標もしくは徴候の、治癒、治療、改善、重症度の軽減、または経時的な減少を含む。hb-MSCまたはhb-MSC馴化培地は、hb-MSC組成物と同じまたは類似の目的のために使用できることを理解すべきである。
【0049】
hb-MSC組成物は、皮膚科学的または美容的用途、食品添加物または動物飼料添加物、細胞の培養、および医薬用途にも使用することができる。hb-MSC組成物は、予防的治療、急性傷害に応じて、または慢性的な傷害の治療に使用することができる。1つの実施形態では、hb-MSC組成物は、ヒトの病気または症状の治療のために使用される。別の実施形態において、治療には、獣医学的な用途が含まれる。
【0050】
1つの実施形態では、hb-MSC組成物は、皮膚創傷、骨折、胃潰瘍または糖尿病性潰瘍、膵臓、肝臓、腎臓、脾臓、血管の損傷および、熱傷の治癒のような、他の内的または外的な傷口を含む創傷の治療に好適に使用することができる。例えば、hb-MSC組成物は、実施例5に記載され、図4および図5に示されるように、創傷治癒の促進、加速のための局所適用において使用することができる。別の実施形態において、hb-MSC組成物は、外科的切除またはドレナージを必要とする創傷を治療するために使用することができる。例えば、hb-MSC組成物は、創傷組織の灌流の増加をもたらし得る。
【0051】
hb-MSC組成物は、目尻のしわ、眉間のしわ、瘢痕の処置を含む、皮膚の美容処置や、紫外線や加齢によって誘発される有害な作用に起因するような他の皮膚状態を修復する目的で使用することができる。
【0052】
hb-MSC組成物の送達は、当技術分野における公知の方法で行うことができる。例えば、送達のためのいくつかの実施形態は、部位特異的、局所的、経口的、経鼻的、静脈内、皮下、皮内、経皮、筋肉内または腹腔内投与であり得る。さらなる実施形態において、hb-MSC組成物は、制御された徐放性媒体における使用のために製剤化される。
【0053】
特定の場合に適用されるhb-MSC組成物の実際の好適な量、投与様式、および投与間隔は、利用される特定の組成物、処方される特定の組成物、適用様式、特定の傷害、治療される患者に応じて変化することが認識される。各特定の症例の投薬量は、従来の考察、例えば、適切な従来の薬理学的プロトコルを用いて決定され得る。薬学的化合物の用量を決定する技術に熟練した医師および調剤者が、適切な用量を決定できる。
【0054】
hb-MSC組成物は、任意の状態で使用することができる。例えば、hb-MSC組成物は、錠剤、カプセル、皮膚パッチ、吸入器、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、液状洗浄剤、坐剤、ローション、クリーム、軟膏、注射剤、ゲル、ヒドロゲル、薄膜、パウダー、美容液、膏薬、ファンデーション、フェーシャルマスク、リップケア製品、日焼け止め、シャンプー、ディープコンディショナーを含むコンディショナー、ヘアトリートメントなどのヘアケア製品、肌用クレンジング剤、スクラブ剤、コンパクト製剤、またはその他当業者の公知の任意の形態にすることが可能である。
【0055】
いくつかの実施形態において、hb-MSC組成物は、縫合糸、医療器材、または移植器具をコーティングするために使用することができる。別の実施形態では、hb-MSC組成物は、縫合糸、包帯、インプラント、ステント、移植組織、または歯周塗布薬と組み合わせることができる。hb-MSC組成物はまた、ウェットワイプで使用することも可能である。hb-MSC組成物はまた、創傷治癒を促進するために、創傷充填材として添加してもよく、既存の創傷充填組成物に添加されてもよい。別の実施形態では、hb-MSC組成物は、アイシャドー、ケーキ状ファンデーション、コンパクトまたは他の化粧品に添加することもできる。
【0056】
さらなる実施形態では、hb-MSC組成物の液体調製物は、例えば、溶液、シロップまたは懸濁液の形態をとることができ、あるいは、使用前に適切な担体を用いて構成するための乾燥生成物として提供することが可能である。
【0057】
別の実施形態において、hb-MSC組成物は、一定期間、凍結することができる。あるいは、hb-MSC組成物を一定時間凍結乾燥し、かつ冷凍保存することができる。あるいは、上記のようにhb-MSC組成物を再構成し、一定期間冷凍保存することができる。あるいは、hb-MSC組成物は、室温(例えば、約28℃)と0℃との間の温度で貯蔵、保存することができる。使用される温度範囲は排他的なものではなく、当業者は用途の性質に応じて利用される代替の温度範囲を想定することができる。
【0058】
別の実施形態では、使用前にhb-MSC組成物を室温にすることができる。あるいは、hb-MSC組成物は、室温より低い温度で適用することができる。あるいは、hb-MSC組成物は、温度が生物学的材料を変性させるに十分なほど高くない限り、室温より高い温度で利用することができる。
【実施例
【0059】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態の実証のために含まれる。以下の実施例に開示される技術は、本発明者によって見出されたものであり、本発明の特定の実施形態を実施するための方法を構成すると考えられることは、当業者には理解されるべきことである。しかしながら、当業者であれば、本開示の観点から、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、以下の実施例に多くの変更を加えることができることを理解するべきである。
【0060】
(実施例1) ― hb-MSC細胞の種の識別
PCR分析を使用して、細胞が実際にラット由来であることを確認した。PCR分析のために、COX-1およびVN1R1遺伝子をそれぞれミトコンドリアおよび核DNAのために用いた。多重PCR法を用いてCOX-1遺伝子の増幅を行い、標準PCRを用いてVN1R1遺伝子の増幅を行った。38歳のヒト男性、32歳のヒト女性およびウィスターラットからの血液サンプルを対照として使用した。市販のキット(PREP-GS-GENETICS、DNA Technology社、ロシア)を製造業者の指示に従って使用し、細胞培養物からDNAを分離した。全てのプライマーは市販されており、Evrogen LLC社から購入した。
【0061】
PCR分析に用いた特異的プライマーは以下の通り:
・ COX1-human:
f`-TAGACATCGTACTACACGACACG
および
r`-TCCAGGTTTATGGAGGGTTC
・COX1-rat:
f`- CGGCCACCCAGAAGTGTACATC
および
r`- GGCTCGGGTGTCTACATCTAGG
・VN1R1-human:
f`-TGGTCTGGGCCAGTGGCTCC
および
r`-GAGTGTTTTCCTTGTCCTGCAGGCA
・VN1R1-rat:
f`- AGAAGAGTTACTGGCCCAAGGGACA
および
r`-GGGGCTGAACGCTGGGAAGC
【0062】
PCR産物の電気泳動は、SubCellGT電気泳動システム(Bio-Rad)を利用して2%アガロースゲル上で行った。ECX-F15.C(Vilber Lourmat社)トランスイルミネーターを用いてゲルを視覚化した。電気泳動図を図3に示す。具体的には、図3において、レーン1~5はCOX1遺伝子塩基対を示す。レーン1は対照ヒトDNAの結果を示し、レーン2は対照ラットDNAの結果を示す。レーン3および4は、hb-MSCサンプルの結果を示す。レーン5は陰性対照を示す。レーン7~10はVN1R1遺伝子塩基対を示す。レーン10は対照ヒトおよび対照ラットDNAの混合物を示す。レーン9および7は、hb-MSCサンプルの結果を示す。レーン8は陰性対照である。「M」はDNA断片マーカーレーンを意味する。電気泳動により、hb-MSCがラットから分離され、ヒト細胞由来の物質で汚染されていないことが確認された。
【0063】
(実施例2) - rb-MSCの培養
標準的な条件下で得られたラット間葉系幹細胞を培養し、固有の分離されたhb-MSC株と典型的なラット間葉系幹細胞(rb-MSC)との間の差異を示すために評価した。
【0064】
rb-MSC株およびhb-MSC株の両方を、ウィスターラット脛骨または大腿骨の骨髄から採取した初代細胞から分離した。全ての細胞の培養はGMP条件下で行った。1つの実施形態では、初代細胞を得るための手順は以下の通りである。動物を麻酔し、安楽死させた。滅菌条件下で、各ラットの大腿骨および脛骨の両方を切除した。骨髄は、15%ウシ胎児血清(FBS)を添加したMEM-Earle培地で洗浄することによって押し出した。骨髄充填物の懸濁液をピペットで分散し、70μmメッシュのナイロンフィルターで連続的に濾過し、200Gで10分間遠心分離した。上清を捨て、細胞ペレットを培地に再懸濁した。1匹のラットの細胞をプラスチックフラスコに播種し、37℃、CO濃度5%の加湿雰囲気下でインキュベートした。3日目に、赤血球および他の非接着性細胞を除去し、新鮮な添加培地を加えてさらなる増殖を可能にした。70%コンフルエントに成長した接着性細胞を初代培養細胞(p1)と定義した。
【0065】
rb-MSC株を得るために、p1ラット間葉系細胞を、当技術分野で公知の標準的な条件に従って、RPMI-1640について規定した製造者の指針に従って継代した。p1細胞をCa2+-Mg2+フリーの、ハンクス溶液(Sigma社、米国、H9394-500ml)で洗浄し、0.25%トリプシンEDTA溶液(Sigma社、米国、T4424-100ml)と37℃で5~10分間インキュベートすることにより剥離した。次に、5%FBS(Sigma社、米国、F6765)補充ハンクス溶液を添加して、トリプシンを不活性化した。細胞を200Gで10分間遠心分離し、15%FBSを添加した1~2mlのRPMI-1640培地に再懸濁し、ノイバウエル計算盤を備えた血球計数グリッドを用いて手作業で計数した。次に、15%FBS(Sigma社、米国、F6765)、100単位/mlペニシリン-100μg/mlストレプトマイシン(Sigma社、米国、P4458)、100ng/mlアムホテリシン(Sigma社、米国、A2942)、2mM Lグルタミン(Sigma社、米国、G7513)、RPMI-1640培地用0.005ml/mlビタミン(100x)(Sigma社、米国、R7256)、RPMI-1640培地用0.005ml/mlアミノ酸(Sigma社、米国、R7131)を添加したRPMI-1640培地(Sigma社、米国、R5886)を用いて、細胞を1.0×10細胞/フラスコの密度で75 cmフラスコにp2として播種した。透過性の無菌フィルターキャップを有するフラスコを、CO濃度5%雰囲気の加湿インキュベーター内で、37℃でインキュベートした。10~14日の期間にわたり、または70%コンフルエントに達するまで、RPMI-1640培地(15%FBSを添加)を3日ごとに交換した。継代No. 2(p2)の後、細胞を175 cmフラスコに2×10個細胞/フラスコの密度で播種し、FBSを10%添加したRPMI-1640を使用した。その後の継代培養ごとに、細胞を同様に播種し、70%コンフルエントまで増殖させた。70%コンフルエントの後、細胞を分配し、プラスチック培養フラスコ内に再播種した。継代5(p5)rb-MSCをhb-MSC株との比較として用いた。
【0066】
(実施例3) - hb-MSCの培養
hb-MSC株を得るために、p1ラット間葉系細胞を以下の手順に従って培養した。最初に、p1細胞をCa2+-Mg2+フリーのハンクス溶液(Sigma社、米国、H9394-500ml)で洗浄し、0.25%トリプシンEDTA溶液(Sigma社、米国、T4424-100ml)と共に、37℃で5~10分間インキュベートすることにより剥離した。次に、5%FBS(Sigma社、米国、F6765)添加ハンクス溶液を加え、トリプシンを不活性化した。細胞を200Gで10分間遠心分離し、15%FBSを補充した1~2mlのRPMI-1640培地に再懸濁し、ノイバウエル計算盤を備えた血球計数グリッドを用いて手作業で計数した。次に、15%FBS(Sigma社、米国、F6765)、100単位/ mlペニシリン-100μg/ mlストレプトマイシン(Sigma社、米国、P4458)、100ng/mlアムホテリシン(Sigma社、米国、A2942)、2mM Lグルタミン(Sigma社、米国、G7513)、RPMI-1640培地用0.005ml/mlビタミン(100x)(Sigma社、米国、R7256)、RPMI-1640培地用0.005ml/mlアミノ酸(Sigma社、米国、R7131)を添加したRPMI-1640培地(Sigma社、米国、R5886)を用いて、75 cmフラスコに1.0×10個細胞/フラスコの密度で細胞をp2として播種した。透過性の無菌フィルターキャップを有するフラスコを、CO濃度5%雰囲気の加湿インキュベーター内で、37℃でインキュベートした。FBSを15%添加したRPMI-1640培地を、10~14日の期間にわたり、または70%コンフルエントに達するまで、3日ごとに交換した。
【0067】
継代No. 2(p2)に続いて、細胞を175 cmフラスコに2×10個細胞/フラスコの密度で播種し、10%FBSを添加したRPMI-1640を使用した。培養物は、CO濃度5%雰囲気の加湿インキュベーター内で、37℃で培養を続けた。第3継代(p3)に続いて、CO濃度を下げて細胞を継代した。CO濃度を低下させるために、培養フラスコを大気CO条件下で非透過性キャップにより密封し、37℃でインキュベートした。以下のすべての継代で添加COは使用しなかった。先述した通り、FBSを10%添加した新鮮なRPMI-1640培地を添加し、約14日の期間にわたり3日または4日ごとに交換した。各継代について、細胞を同様に播種し、70%コンフルエントまで増殖させた。70%コンフルエントの後、細胞を分配し、プラスチック培養フラスコ内に再播種した。継代9(p9)hb-MSCをrb-MSCと比較した。PCR分析(Nanodiagostika LLC社、RUS)は、hb-MSCがバクテリア、ウイルス、マイコプラズマ、または菌類による汚染がないことを確認した。
【0068】
hb-MSC株は、10%DMSOおよび50%FBS培地を用いて、2ミリリットル(ml)アンプル中3.0×10~5.0×10個細胞濃度で、液体窒素温度で保存した。
【0069】
(実施例4) - hb-MSCのフローサイトメトリーの特徴付け
hb-MSCおよびrb-MSC株の細胞表面マーカーを識別するために、フローサイトメトリー実験を行った。この実験の目的のために、50μlの対応する抗体を100μlの細胞懸濁液に添加した。懸濁液を5秒間、高速旋回攪拌(BioVortexV1、BioSan)し、光を遮断した状態で+4℃で30分間静置した。インキュベーション後、混合物を500μlの食塩水で希釈し、遠心分離により2回洗浄して過剰の試薬を除去した。各遠心分離は400Gで10分間(ELMI)行った。各サンプルにおいて、少なくとも10,000カウントを分析した。WinMDI2.7分析プログラムを用いて分析した結果を、図1に示す。rb-MSCおよびhb-MSC株によって発現される表面マーカーの概要を以下の表1に示す。

【表1】
【0070】
典型的な骨髄ラット間葉系細胞は、CD44とCD29マーカーの陽性発現および、CD45とCD11bマーカーの陰性発現を示す。上記表1に示すように、hb-MSC株は、ラットの骨髄間葉系幹細胞の表面マーカーと一致する表面マーカーを示す。これは、hb-MSCを得る方法により、細胞の表面マーカーが変化しないことを実証している。
【0071】
(実施例5) - 創傷閉鎖の形態計測学的研究
形態計測学的研究を、実験用マウスの創傷治癒過程を追跡するために行った。すべての動物実験は、K.I. Scriabinにちなんで命名されたモスクワ州獣医学および生物工学アカデミーの獣医手術部門で行われた。全ての実験には、生後3~5ヶ月、体重が約22~25グラムの白色の実験用マウスを使用した。各実験で合計6匹のマウスを使用した。各麻酔された動物の新たに剃毛された肩甲骨領域を直径約0.5cmの大きさで切開した。切開後、動物を1群あたり3匹のマウスで対照およびサンプル群に分類した。それぞれの創傷を撮影して、デジタル形態計測パラメータを得た。切開30分後に、各創傷をRPMI-1640またはhb-MSC組成物の50μl滴で処置した。この実施例では、hb-MSC組成物は、実施例8に記載のようなhb-MSC馴化培地を含み、異なる調整時間(96、144、192、216、240、264および288時間)ごとに採取された馴化培地は一つの容器にまとめられた。組成物はまた、防腐剤としての塩化ベンザルコニウム(BEK)、および界面活性剤としてのトリトンX-100を含んでいた。創傷サイズを15日間、毎日1回測定した。hb-MSC組成物およびRPMI-1640を、創傷評価後、1日1回、各群の各動物に適用した。hb-MSC組成物およびRPMI-1640培地で処置した創傷の比較治癒過程を示すデジタル画像を図4に示す。図4は、処置後1日目の対照群(RPMI-1640で処置した)のマウス、および処置後9日目の同じマウスを示す。図4はまた、処置の1日目のサンプル群(hb-MSC組成物で処置した)のマウス、および処置後9日目の同じマウスを示す。hb-MSC組成物対RPMI-1640を用いた平均創傷サイズに対する処置の効果を図5に示す。
【0072】
(実施例6) - hb-MSC組成物の治療効果
hb-MSC組成物の治療効果をテストするために、実験は、イヌ(65+)、ネコ(80+)、ウマ(40+)、家畜(25+)、げっ歯類(200+)、鳥類(15+)など、様々な動物に実施された。hb-MSC組成物は、上記の実験被検体における様々な状態を治療するために使用された。本実施例で用いたhb-MSC組成物は、実施例5と同様のものであった。これらの治療法には以下のものが含まれる:
1)手術後の切開部位を含む創傷適用;
2)化学火傷を含む火傷の処置;
3)糖尿病性潰瘍を含む潰瘍;
4)瘻;
5)化膿炎症、結膜炎、角膜炎、乳腺炎、蜂窩、胃炎、皮膚炎を含む組織の炎症や細菌感染症;
6)骨折を含む整形外科適用、また;
7)皮膚、靭帯、筋肉組織を含む様々な組織の治療。
実験では、以下の方法で、hb-MSC組成物を送達した:局所、経口、経鼻、静脈、皮下、皮内、経皮、筋肉内および腹腔内。また、hb-MSC組成物は、エアゾールとして滅菌ナプキンを使用し、患部に直接適用した(乳頭ディップカップを含む)。hb-MSC組成物は、上記のすべての状態の治療に有効で、再生効果改善、創傷閉鎖速度、炎症および局所細菌の転移増殖の著しい減少、抗菌作用、血管新生および脈管形成、組織の瘢痕の減少と患部の毛包の修復を示した。これらの実験で示された実質的な再生効果は、実施例5で説明したマウス創傷実験の結果と一致した。いずれの場合も、動物はhb-MSC組成物で治療した後、健康状態を維持した。すべてのケースにおいて、毒性、刺激、感作と生体内蓄積が評価された。hb-MSC組成物の投与から30日以内の全動物に対する全追跡指標は、血液検査によって評価されたように正常範囲内に留まった。腎臓、肝臓、肺、脾臓、腸、軟組織の組織像は、hb-MSC 組成物の適用による急性または慢性毒性の兆候を示さなかった。また、アレルギー反応、感染症、または他の副作用が記録された実例もなかった。
まとめると、これらの実験によって、火傷治療、スキンケア、血管新生、脈管形成、臓器または組織の治癒、化粧品、組織炎症、細菌感染症、創傷適用、糖尿病、薬学および眼科学用途、瘢痕の削減、育毛促進、免疫療法の適用と免疫矯正療法、皮膚や骨髄または臓器の移植、臓器や組織の治療、またはその他の病気の治療を含むヒトと動物の多種多様な状態の安全かつ効果的な治療のために、hb-MSC組成物を使用することができることが示された。
【0073】
(実施例7) - rb-MSCおよびhb-MSCの細胞株によって調整された培養培地の分析
培養培地におけるhb-MSCとrb-MSCの影響を比較するために、各細胞株をそれぞれ、9個の別々の75cmフラスコに0.7×10個細胞/フラスコの密度で播種した。細胞は、37℃に設定されたインキュベーター内でCOを5%添加したRPMI-1640/10% FBSで継代された。細胞フラスコは、ガス透過性の蓋で封じた。24、48、96、144、192、216、240、264および288 時間の、合計9期間、分析した。一つの細胞フラスコを、所定の時間ごとに分析した。培地は、3日(72時間)、5日(120時間)、7日(168時間)、そしてその後毎日、残りのすべての試料瓶で交換した。9期間のそれぞれで、培地の乳酸塩濃度とpHを測定した。48時間の測定を除いて、培地が交換されてから24時間後に測定が行われるように、期間を選択した。乳酸塩は、生化学分析器を活用し、SPINREACT の乳酸塩特性決定キットを用いて三重に測定した。pHは電子pH計(METTLER TOLEDO社、InLab Versatile Pro)を用いて測定した。細胞数もそれぞれの期間で測定し、細胞は、7.05未満のpHで倍増する少なくとも1つの集団を形成した。
【0074】
図6は、この実施例で説明した細胞採取時に測定された、生のRPMI-1640培養培地、rb-MSC馴化培地、およびhb-MSC馴化培地に対する時系列のpHの変化を示す。図7は、培養時のrb-MSCおよびhb-MSC株の乳酸塩濃度(mM)の変化を示す。エラーバ―は、乳酸塩濃度の一つの標準偏差を表す。以下の表は、図6および図7のデータに基づく、この実施例におけるrb-MSCおよびhb-MSCに対する各種測定値の比較を示す。
【表2】
【0075】
(実施例8) - rb-MSCおよびhb-MSC細胞株によって調整された培地における因子比較
rb-MSCおよびhb-MSC株は、株が培地で維持されているときに、各株によって生成された因子を比較することによって区別することができる。hb-MSCとrb-MSCによって産生された因子を比較するために、各細胞株を、7つの別々の75cmフラスコに、0.7×10個細胞/フラスコの密度で播種した。37°Cに設定されたインキュベーター内で、COを5%添加したRPMI-1640/10% FBSで細胞が継代された。当業者は、添加血清の追加は、調整前の培地中の因子の開始濃度に影響を与えることを理解するだろう。細胞フラスコをガス透過性のキャップで封じた。96、144、192、216、240、264、および288 時間の、合計7期間、分析した。一つの細胞フラスコを、所定の時間ごとに分析した。培地は、3日(72時間)、5日(120時間)、7日(168時間)、そしてその後毎日、残りのすべての試料瓶で交換した。培地が交換されてから24時間後に測定が行われるように、期間を選択した。因子分析は、Eve Technologies Rat Cytokine Array/Chemokine Array 27-Plex Panel、TGF-Beta 3-Plex Cytokine ArrayとRat Bone 1-Plex Arrayを使用して実施された。表1で比較した具体的因子は、インターロイキン10(IL-10)、インターフェロンガンマ誘発タンパク質10 (IP-10)、CXCL1(GRO/KC)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、破骨細胞形成抑制因子(OPG)、形質転換増殖因子β1(TGF-β1)、形質転換増殖因子β2(TGF-β2)、形質転換増殖因子β3(TGF-β3)である。当業者には理解されているように、多重測定値は検量線に依存し、従ってある程度変化する可能性があることを理解されるべきである。
【0076】
分析された期間中に観察される因子の範囲を、以下の表3に要約する。因子の濃度は、細胞が培養される期間およびフラスコ内の細胞数に依存する可能性があることが理解されるべきである。
【表3】
【0077】
(rb-MSC株とhb-MSC株の比較分析)
【0078】
rb-MSC株からhb-MSC株を区別する方法は数多くある。2つの株を区別する1つの方法は、細胞増殖中のpHを測定することである。実施例7では、rb-MSC株とhb-MSC株によって調整された培地(RPMI-1640)のpHを288時間にわたり測定している。培養前に、RPMI-1640のpHは約7.01と測定された。期待通り、RPMI-1640の規定CO添加量(すなわち5%)は、実験の全期間中、対照RPMI-1640のpHを7.2に効果的に緩衛した。rb-MSC培養物のpHは、全実験期間を通して約7.08から7.2に留まった。しかし、hb-MSCについては、pHは、24時間後の約7.2から、続く216時間の間に約6.6に減少し、実験期間中、約pH 6.6のままであった。150時間の培養後、培地のpHは、培地交換の24時間以内に7.0 未満に減少する。同様に、150時間の培養後、培地のpHは、培地交換の24時間以内に、RPMI-1640のpHから少なくとも0.4単位で減少する。rb-MSC株とhb-MSC株によって調整された培地のpHの差は、2つの株が異なることを示している。
【0079】
rb-MSC株からhb-MSC株を区別する別の方法に、実施例7に記載のように培地中の細胞による乳酸塩の産生を測定するものがある。図7は、hb-MSC株が、rb-MSC株によって産生される濃度を超える濃度の乳酸塩を産生することを示す。約96時間の培養後、hb-MSCは、培地交換の24時間以内に少なくとも4 mMの乳酸塩を産生し、培地交換の24時間以内に12.4 mMもの乳酸塩を産生することができる。対照的に、rb-MSC株によって生成される乳酸塩の濃度は、培地交換の24時間以内に3mMを超えることはない。rb-MSC株とhb-MSC株によって調整された培地中の乳酸塩濃度の差異は、2つの株が異なることを示している。
【0080】
rb-MSC株からhb-MSC株を区別する別の方法に、各株によって調整された培地の評価をする方法がある。この比較のため、実施例8で説明したように培地を採取した。因子測定の結果を上記表3にまとめる。rb-MSC株によって調整された培地とhb-MSC株によって調整された培地中の因子濃度の違いは、2つの株が異なることを示すものである。
【0081】
全体として、上記の特徴付け方法では、hb-MSC株とrb-MSC株は異なるという結論に至る。
【0082】
以上、本発明の典型的な実施形態について特に詳細に説明したが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲およびそれと均等のものによって定義される本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく、形態および詳細の様々な変更を行うことができることを理解するだろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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