(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】コモンモードチョークコイル
(51)【国際特許分類】
H01F 17/06 20060101AFI20220803BHJP
H01F 37/00 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
H01F17/06 K
H01F37/00 G
H01F37/00 N
(21)【出願番号】P 2017102591
(22)【出願日】2017-05-24
【審査請求日】2020-01-30
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100117341
【氏名又は名称】山崎 拓哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148840
【氏名又は名称】松本 健志
(74)【代理人】
【識別番号】100191673
【氏名又は名称】渡邉 久典
(72)【発明者】
【氏名】岡 利昭
【合議体】
【審判長】酒井 朋広
【審判官】井上 信一
【審判官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-151210(JP,A)
【文献】実開平1-125522(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 37/00
H01F 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、2つのコイルと、
ノーマルモードインダクタンスを小さくするための2つの導体カバーとを備えるコモンモードチョークコイルであって、コモンモードのノイズを除去するためのチョークコイルであり、
前記コアは、前記コアを上下方向に貫通する中心孔を有しており、且つ、前記上下方向と直交する直交平面において閉磁路を構成しており、
前記コアの表面は、前記直交平面において前記コアの内周に位置する内周面を含んでおり、
前記表面は、前記コイルが夫々巻回された2つの巻回領域と、前記コイルのいずれも巻回されていない2つの非巻回領域とに分かれており、
前記巻回領域と前記非巻回領域とは、前記閉磁路に沿って交互に並んでおり、
前記導体カバーの夫々は、
前記非巻回領域全体を覆うようにして、前記表面に取り付けられており、
前記非巻回領域の夫々において、前記閉磁路に沿って中間に位置する中間部は、前記内周面を除き、前記導体カバーのいずれかによって完全に覆われており、
前記内周面には、前記導体カバーのいずれにも覆われていない開放領域が形成されており、
前記開放領域は、前記閉磁路に沿って前記内周面全体に亘って延びている
コモンモードチョークコイル。
【請求項2】
請求項1記載のコモンモードチョークコイルであって、
2つの前記コイルの巻数は、互いに同じである
コモンモードチョークコイル。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のコモンモードチョークコイルであって、
前記表面は、前記上下方向における上面及び下面と、前記直交平面において前記コアの外周に位置する外周面とを含んでおり、
前記中間部の夫々における前記上面、前記下面及び前記外周面は、前記導体カバーのいずれかによって完全に覆われている
コモンモードチョークコイル。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載のコモンモードチョークコイルであって、
前記内周面全体が、前記開放領域である
コモンモードチョークコイル。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載のコモンモードチョークコイルであって、
前記巻回領域は、前記導体カバーのいずれにも覆われていない
コモンモードチョークコイル。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載のコモンモードチョークコイルであって、
絶縁ケースを備えており、
前記絶縁ケースは、前記導体カバーが取り付けられた前記コア全体を覆っており、且つ、前記導体カバーを前記表面に対して位置決めしており、
前記コイルは、前記絶縁ケースの上から前記巻回領域に夫々巻回されている
コモンモードチョークコイル。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれかに記載のコモンモードチョークコイルであって、
前記導体カバーは、前記上下方向における前記表面の上下に夫々取り付けられている
コモンモードチョークコイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアと2つのコイルとを備えるコモンモードチョークコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、このタイプの磁性デバイス(コモンモードチョークコイル)が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された磁性デバイスは、磁性コア(コア)と、2つの巻線(コイル)と、2つの付加磁性片とを備えている。付加磁性片は、コイルが巻回されたコアの上下に夫々取り付けられている。磁性デバイスの使用時にコアから磁束が漏れたとしても、漏れ磁束は付加磁性片に流れる。この結果、磁性デバイスからの漏れ磁束による外部素子への影響が抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の付加磁性片を設けた場合、漏れ磁束による外部素子への影響を抑えることができる一方、コアと付加磁性片とが構成する磁路により、インダクタンスのノーマルモード成分が大きくなる。ノーマルモード成分が大きくなると、コアが磁気飽和し易くなる。
【0006】
そこで、本発明は、漏れ磁束による外部素子への影響を抑えつつ、ノーマルモード成分も小さくできるコモンモードチョークコイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、第1のコモンモードチョークコイルとして、
コアと、2つのコイルと、2つの導体カバーとを備えるコモンモードチョークコイルであって、
前記コアは、前記コアを上下方向に貫通する中心孔を有しており、且つ、前記上下方向と直交する直交平面において閉磁路を構成しており、
前記コアの表面は、前記直交平面において前記コアの内周に位置する内周面を含んでおり、
前記表面は、前記コイルが夫々巻回された2つの巻回領域と、前記コイルのいずれも巻回されていない2つの非巻回領域とに分かれており、
前記巻回領域と前記非巻回領域とは、前記閉磁路に沿って交互に並んでおり、
前記導体カバーの夫々は、前記表面に取り付けられており、
前記非巻回領域の夫々において、前記閉磁路に沿って中間に位置する中間部は、前記内周面を除き、前記導体カバーのいずれかによって完全に覆われており、
前記内周面には、前記導体カバーのいずれにも覆われていない開放領域が形成されており、
前記開放領域は、前記閉磁路に沿って前記内周面全体に亘って延びている
コモンモードチョークコイルが得られる。
【0008】
また、本発明によれば、第2のコモンモードチョークコイルとして、第1のコモンモードチョークコイルであって、
前記表面は、前記上下方向における上面及び下面と、前記直交平面において前記コアの外周に位置する外周面とを含んでおり、
前記中間部の夫々における前記上面、前記下面及び前記外周面は、前記導体カバーのいずれかによって完全に覆われている
コモンモードチョークコイルが得られる。
【0009】
また、本発明によれば、第3のコモンモードチョークコイルとして、第1又は第2のコモンモードチョークコイルであって、
前記内周面全体が、前記開放領域である
コモンモードチョークコイルが得られる。
【0010】
また、本発明によれば、第4のコモンモードチョークコイルとして、第1から第3までのいずれかのコモンモードチョークコイルであって、
前記巻回領域は、前記導体カバーのいずれにも覆われていない
コモンモードチョークコイルが得られる。
【0011】
また、本発明によれば、第5のコモンモードチョークコイルとして、第1から第4までのいずれかのコモンモードチョークコイルであって、
絶縁ケースを備えており、
前記絶縁ケースは、前記導体カバーが取り付けられた前記コア全体を覆っており、且つ、前記導体カバーを前記表面に対して位置決めしており、
前記コイルは、前記絶縁ケースの上から前記巻回領域に夫々巻回されている
コモンモードチョークコイルが得られる。
【0012】
また、本発明によれば、第6のコモンモードチョークコイルとして、第1から第5までのいずれかのコモンモードチョークコイルであって、
前記導体カバーは、前記上下方向における前記表面の上下に夫々取り付けられている
コモンモードチョークコイルが得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のコモンモードチョークコイルにおいて、非巻回領域の中間部は、漏れ磁束が最も生じやすい部位である。本発明によれば、少なくとも中間部は、内周面を除き、導体カバーのいずれかによって完全に覆われている。内周面には、導体カバーのいずれにも覆われていない開放領域が形成されており、開放領域は、閉磁路に沿って内周面全体に亘って延びている。この構造により、漏れ磁束による外部素子への影響を抑えることができる。更に、コアの表面が磁性体ではなく導体カバーで覆われているため、漏れ磁束の量の増大を防止でき、これによりノーマルモード成分を小さく保てる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態によるコモンモードチョークコイルを示す斜視図である。コイルの位置を破線で描画している。コアの閉磁路を1点鎖線で模式的に描画している。
【
図2】
図1のコモンモードチョークコイルのコア及び導電カバーを示す斜視図である。導電カバーのうちの1つは、コアに取り付けられており、導電カバーのうちの他の1つは、コアから外れている。コアの取付領域の境界を破線で描画している。コアの非巻回領域の中間部の位置を1点鎖線で描画している。
【
図3】
図1のコモンモードチョークコイルを半分に切り欠いて示す斜視図である。コイルの位置を破線で描画している。コアの閉磁路を1点鎖線で模式的に描画している。
【
図4】
図1のコモンモードチョークコイルの使用時に生じる磁束を、コアの閉磁路と共に模式的に示す上面図である。コアの輪郭及びコアにおける巻回領域と非巻回領域との間の境界を破線で描画している。非巻回領域の中間部の位置を1点鎖線で描画している。
【
図5】
図1のコモンモードチョークコイルの第1変形例を示す斜視図である。コイルの位置を破線で描画している。
【
図6】
図5のコモンモードチョークコイルを示す分解斜視図である。コイルは描画していない。コアにおける巻回領域と非巻回領域との間の境界を破線で描画している。非巻回領域の中間部の位置を1点鎖線で描画している。2つの取付領域の間の境界を2点鎖線で描画している。
【
図7】
図1のコモンモードチョークコイルの第2変形例を示す斜視図である。コイルの位置を破線で描画している。
【
図8】
図7のコモンモードチョークコイルのコアの閉磁路を模式的に示す上面図である。コアの輪郭及びコアにおける巻回領域と非巻回領域との間の境界を破線で描画している。非巻回領域の中間部の位置を1点鎖線で描画している。
【
図9】
図1のコモンモードチョークコイルの第3変形例を示す斜視図である。絶縁ケースによって隠されたコアの輪郭及び導体カバーの輪郭を破線で描画している。
【
図10】
図9のコモンモードチョークコイルを示す分解斜視図である。コイルは描画していない。コアの角柱部の境界を破線で描画している。
【
図11】
図1のコモンモードチョークコイルの第4変形例を半分に切り欠いて示す斜視図である。コイルは描画していない。
【
図12】本発明の実施例1のコモンモードチョークコイルを示す上面図である。絶縁ケースによって隠されたコアの輪郭及び導体カバーの輪郭を1点鎖線で描画している。
【
図13】
図12のコモンモードチョークコイルを示す側面図である。絶縁ケースによって隠されたコアの輪郭及び導体カバーの輪郭を1点鎖線で描画している。
【
図14】
図12のコモンモードチョークコイルをXIV-XIV線に沿って示す断面図である。コイルは描画していない。断面の一部(1点鎖線で囲んだ部分)を拡大して描画している。
【
図15】比較例1のコモンモードチョークコイルを示す断面図である。コイルは描画していない。
【
図16】比較例2のコモンモードチョークコイルを示す断面図である。コイルの一部の輪郭を1点鎖線で描画している。
【
図17】比較例3のコモンモードチョークコイルを示す断面図である。コイルは描画していない。断面の一部(1点鎖線で囲んだ部分)を拡大して描画している。
【
図18】実施例1及び比較例1~3の夫々について、コモンモードチョークコイルに印加した交流電流の周波数とインダクタンスのコモンモード成分との間の関係を示すグラフである。
【
図19】実施例1及び比較例1~3の夫々について、コモンモードチョークコイルに印加した交流電流の周波数とインダクタンスのノーマルモード成分との間の関係を示すグラフである。
【
図20】実施例1のコモンモードチョークコイルを2つ並べて示す上面図である。
【
図21】実施例1及び比較例1~3の夫々について、コモンモードチョークコイルに印加した交流電流の周波数と結合係数との間の関係を示す両対数グラフである。
【
図22】本発明の実施例2のコモンモードチョークコイルを示す上面図である。絶縁ケースによって隠されたコアの輪郭及び導体カバーの輪郭を1点鎖線で描画している。
【
図23】
図22のコモンモードチョークコイルを示す側面図である。絶縁ケースによって隠されたコアの輪郭及び導体カバーの輪郭を1点鎖線で描画している。
【
図24】
図22のコモンモードチョークコイルをXXIV-XXIV線に沿って示す断面図である。コイルは描画していない。断面の一部(1点鎖線で囲んだ部分)を拡大して描画している。
【
図25】比較例4のコモンモードチョークコイルを示す断面図である。コイルは描画していない。
【
図26】比較例5のコモンモードチョークコイルを示す断面図である。コイルの一部の輪郭を1点鎖線で描画している。
【
図27】実施例2及び比較例4、5の夫々について、コモンモードチョークコイルに印加した交流電流の大きさとインダクタンスのコモンモード成分との間の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1を参照すると、本発明の実施の形態によるコモンモードチョークコイル10は、軟磁性体からなるコア20と、2つのコイル30と、導電体からなる2つの導体カバー40とを備えている。本実施の形態によるコモンモードチョークコイル10は、電源回路(図示せず)等の大電流回路で使用される。但し、本発明は、これに限られず、例えば通信回路(図示せず)で使用されるコモンモードチョークコイルにも適用可能である。
【0016】
図1及び
図2を参照すると、コア20は、フェライト、電磁鋼板、ダストコア材、ナノ結晶材等の軟磁性材料からなる。コア20は、上下方向(Z方向)と直交する直交平面(XY平面)において、円形状を有しており、且つ、コア20をZ方向に貫通する中心孔202を有している。中心孔202は、XY平面において、円形状を有している。即ち、コア20は、トロイダル形状を有しており、XY平面において閉じた磁路(閉磁路CMP)を構成している。
図4を参照すると、閉磁路CMPは、XY平面において閉じた円を描くようにして、コア20の円周方向に沿って延びている。
【0017】
図2及び
図3を参照すると、コア20の表面22は、Z方向における上面222及び下面224と、直交平面(XY平面)においてコア20の外周に位置する外周面226と、XY平面においてコア20の内周に位置する内周面228とを含んでいる。上面222及び下面224の夫々は、XY平面と平行な平面である。外周面226は、XY平面においてコア20を囲む曲面である。内周面228は、XY平面において中心孔202を囲む曲面である。コア20には、ギャップが形成されておらず、外周面226及び内周面228の夫々は、XY平面において閉じている。
【0018】
図1及び
図3を参照すると、本実施の形態によるコイル30の夫々は、銅,アルミニウム等の導電線からなり、絶縁体によって被覆されている。特に、本実施の形態によるコイル30は、絶縁コーティングされた丸形銅線である。但し、コイル30は、本実施の形態に限られない。例えば、コイル30は、丸線や平角線であってもよいし、撚り線であってもよい。
【0019】
コイル30の夫々は、コイル本体32と、コイル本体32の両端から夫々延びる2つの端子部38とを有している。
【0020】
図1を参照すると、コモンモードチョークコイル10は、使用時に、例えば回路基板(図示せず)上に置かれ、端子部38は、例えば電源回路(図示せず)に接続される。本実施の形態のコイル30の夫々において、2つの端子部38は、コイル30の両端部である。即ち、端子部38の夫々は、コイル30の一部である。但し、本発明は、これに限られない。例えば、端子部38の夫々は、コイル30とは別体の部材であってもよい。この場合、端子部38の夫々は、コイル30のコイル本体32に半田付けや溶着等の方法で接続されていてもよい。
【0021】
2つのコイル30のコイル本体32は、コア20の円周方向において互いに離れるようにして、コア20の表面22に巻回されている。
図1及び
図4を参照すると、コア20の表面22は、コイル30のコイル本体32が夫々巻回された2つの巻回領域24と、コイル30のいずれも巻回されていない2つの非巻回領域26とに分かれている。巻回領域24及び非巻回領域26の夫々は、表面22の一部であり、コア20の円周方向と直交する断面においてコア20を切れ目なく囲む領域である。巻回領域24と非巻回領域26とは、コア20の円周方向において(即ち、閉磁路CMPに沿って)交互に並んでいる。換言すれば、非巻回領域26の夫々は、コア20の円周方向において、2つの巻回領域24の間に位置している。
【0022】
図1を参照すると、本実施の形態において、巻回領域24と非巻回領域26とは、コア20の円周方向に沿って連続しており、巻回領域24と非巻回領域26との間に明瞭な境界部は設けられていない。但し、本発明は、これに限られない。例えば、巻回領域24と非巻回領域26との間に、絶縁体からなる突起等の境界部を設けてもよい。
【0023】
2つのコイル30のコイル本体32は、コア20の円周方向において互いに離れた2つの巻回領域24に夫々巻回されている。この結果、2つのコイル30は、1つのコア20(即ち、1つの閉磁路CMP)を共有している。換言すれば、コモンモードチョークコイル10は、1つの閉磁路CMPを共有する2つのコイル30を備えている。このように構成されたコモンモードチョークコイル10は、コモンモードのノイズを除去するためのチョークコイルとして使用可能である。例えば、コモンモードチョークコイル10は、太いコイル30を備えることで、電源回路(図示せず)等の大電流に乗ったコモンモードのノイズを効果的に除去できる。
【0024】
詳しくは、
図4を参照すると、2つのコイル30にノーマルモードの電流が流れる際、電流に乗ったコモンモードのノイズに起因して、2つのコイル30に夫々対応する2つの磁束FCが生じる。2つの磁束FCは、閉磁路CMPに沿って同じ方向を向いている。コモンモードチョークコイル10は、この2つの磁束FCによる所定のコモンモードインダクタンス(以下、「インダクタンスのコモンモード成分Lc」又は単に「コモンモード成分Lc」という)を有し、これによりコモンモードのノイズを除去できる。
【0025】
本実施の形態において、2つの巻回領域24は、コア20の円周方向において互いに同じサイズを有しており、且つ、中心孔202を挟んでコア20の反対側に夫々配置されている。従って、2つの非巻回領域26は、コア20の円周方向において互いに同じサイズを有している。但し、本発明は、これに限られない。例えば、2つの非巻回領域26は、コア20の円周方向において互いに多少異なるサイズを有していてもよい。換言すれば、2つの巻回領域24は、コア20の円周方向における一方の端において互いに近づくように配置されていてもよい。
【0026】
図1及び
図3を参照すると、本実施の形態において、コイル本体32の夫々は、対応する巻回領域24に約6ターン巻回されている。但し、本発明は、これに限られない。コイル本体32の夫々は、コモンモードチョークコイル10の用途に応じて必要なターン数だけ巻回されていればよい。
【0027】
図1及び
図2を参照すると、本実施の形態による2つの導体カバー40は、互いに同じ形状を有している。導体カバー40の夫々は、1枚のアルミニウム板から、孔や隙間のない形状に形成されている。但し、本発明はこれに限られない。例えば、導体カバー40の夫々は、磁性を全く又は殆ど有さない導電体である限り、どのような材料から形成してもよい。導体カバー40の夫々は、孔や隙間なく形成されている限り、複数の部材を組み合わせて形成してもよい。また、2つの導体カバー40は、互いに異なる形状を有していてもよい。但し、部品の種類を削減するという観点から、2つの導体カバー40は、互いに同じ形状を有していることが好ましい。
【0028】
図2及び
図3に示されるように、導体カバー40の夫々は、上板42と、下板44と、側板46とを有している。上板42及び下板44の夫々は、直交平面(XY平面)と平行な平板形状を有している。側板46は、XY平面において、コア20の外周面226に対応した円弧形状を有しており、上板42と下板44とを上下に連結している。
【0029】
導体カバー40の夫々は、コア20の表面22に取り付けられている。表面22は、導体カバー40を夫々取り付けるための2つの取付領域28を有している。即ち、2つの導体カバー40は、コア20の表面22のうちの2つの取付領域28に夫々取り付けられている。取付領域28の夫々は、表面22の一部であり、コア20の円周方向と直交する断面においてコア20を切れ目なく囲む領域である。より具体的には、取付領域28の夫々は、上面222、下面224、外周面226及び内周面228を含む領域であり、コア20の円周方向において連続して延びている。
【0030】
本実施の形態において、コア20の表面22において、取付領域28と取付領域28以外の領域との間に明瞭な境界部は設けられていない。但し、本発明は、これに限られない。例えば、取付領域28と取付領域28以外の領域との間に、絶縁体からなる突起等の境界部を設けてもよい。
【0031】
図1から
図3までを参照すると、2つの取付領域28は、2つの非巻回領域26に夫々対応している。非巻回領域26の夫々は、中間部262を有している。中間部262は、非巻回領域26の夫々において、コア20の円周方向において(即ち、閉磁路CMPに沿って)中間に位置する部位である。中間部262の夫々は、表面22の一部であり、コア20の円周方向と直交する断面においてコア20を切れ目なく囲む領域である。取付領域28の夫々は、対応する非巻回領域26の中間部262全体を含んでいる。
【0032】
導体カバー40は、コア20の径方向外側から取付領域28に夫々取り付けられている。このように取り付けられた導体カバー40の夫々は、対応する非巻回領域26の中間部262を、内周面228を除いて完全に覆っている。換言すれば、非巻回領域26の夫々において、中間部262は、内周面228を除き、導体カバー40のいずれかによって完全に覆われている。詳しくは、中間部262の夫々において、上面222、下面224及び外周面226は、導体カバー40のいずれかによって完全に覆われている。一方、コア20の内周面228には、導体カバー40のいずれにも覆われていない開放領域230が形成されている。開放領域230は、コア20の円周方向において(即ち、閉磁路CMPに沿って)内周面228全体に亘って切れ目なく延びている。
【0033】
図4を参照すると、コモンモードチョークコイル10の2つのコイル30にノーマルモードの電流が流れる際、前述した2つの磁束FCに加えて、2つのコイル30に夫々対応する2つの磁束FNが生じる。この2つの磁束FNは、閉磁路CMPに沿って互いに反対の方向を向いており、理論的には互いに相殺される。但し、実際には、製造誤差によるコア20の不均一な形状、コイル30の巻回位置のずれ、電流の位相のずれなどの様々な要因に起因して、主として非巻回領域26の中間部262において漏れ磁束が生じる。コモンモードチョークコイル10は、この漏れ磁束による所定のノーマルモードインダクタンス(以下、「インダクタンスのノーマルモード成分Ln」又は単に「ノーマルモード成分Ln」という)を有する。
【0034】
一般的に、漏れ磁束は、コモンモードチョークコイル10の近傍の外部素子(図示せず)に対して、ノイズを伝搬させたり振動させるなどの好ましくない影響を及ぼす。また、例えば、コモンモードチョークコイル10が通信回路(図示せず)に使用される場合、コイル30を流れるノーマルモードの信号を減衰させる。更に、ノーマルモード成分Lnによってコア20が磁気飽和し易くなる。
【0035】
図1を参照すると、本実施の形態によれば、漏れ磁束が最も生じやすい中間部262は、内周面228を除き、導体カバー40のいずれかによって完全に覆われている。加えて、内周面228には、導体カバー40のいずれにも覆われていない開放領域230が形成されており、開放領域230は、閉磁路CMPに沿って内周面228全体に亘って延びている。この構造により、漏れ磁束による外部素子(図示せず)への影響を抑えることができる。更に、コア20の表面22が磁性体ではなく導体カバー40で覆われているため、漏れ磁束の量の増大を防止でき、これによりノーマルモード成分Lnを小さく保てる。
【0036】
図3を参照すると、導体カバー40の夫々には、コア20の円周方向(閉磁路CMP)と直交する平面において、隙間が形成されている。即ち、導体カバー40の夫々は、内周面228において繋がっておらず、ショートリングを形成していない。このように取り付けられた導体カバー40は、磁束FC(
図4参照)に殆ど影響を与えない。このため、コモンモード成分Lcの減衰を防止できる。更に、導体カバー40は、コア20に生じた熱を放熱する放熱板としても機能する。
【0037】
図1を参照すると、本実施の形態によれば、取付領域28の夫々は、対応する非巻回領域26の略全体に亘っている。従って、非巻回領域26の夫々における上面222、下面224及び外周面226は、巻回領域24と隣接する境界部を除く全体に亘って、導体カバー40のいずれかによって完全に覆われている。詳しくは、
図2を参照すると、導体カバー40の夫々において、上板42、下板44及び側板46は、対応する取付領域28の上面222、下面224及び外周面226を、夫々隙間なく覆っている。この構造により、漏れ磁束による外部素子(図示せず)への影響を、より確実に抑えることができる。
【0038】
本実施の形態によれば、コア20の非巻回領域26の夫々において、上面222、下面224及び外周面226の一部(巻回領域24と隣接する境界部)は、導体カバー40のいずれにも覆われていない。但し、本発明は、これに限られない。例えば、導体カバー40の夫々は、対応する非巻回領域26の上面222、下面224及び外周面226を完全に覆っていてもよい。この構造により、漏れ磁束による外部素子(図示せず)への影響を、更に確実に抑えることができる。
【0039】
本実施の形態によれば、コア20の巻回領域24は、導体カバー40のいずれにも覆われていない。但し、本発明は、これに限られない。例えば、導体カバー40の夫々は、巻回領域24の上面222、下面224及び外周面226を部分的に覆っていてもよい。この場合、コイル30のコイル本体32は、部分的に導体カバー40の上から巻回領域24に巻回されていてもよい。但し、コモンモードチョークコイル10のサイズの増大を防ぐという観点から、導体カバー40をコイル30と重ならないよう配置することが好ましい。即ち、非巻回領域26のみを導体カバー40によって覆うことが好ましい。
【0040】
本実施の形態によれば、導体カバー40は、コア20の内周面228を覆う部位を有しておらず、内周面228は、導体カバー40のいずれの部位によっても覆われていない。従って、内周面228全体が、開放領域230である。但し、本発明は、これに限られない。例えば、導体カバー40は、内周面228を部分的に覆っていてもよい。
【0041】
本実施の形態によるコモンモードチョークコイル10は、既に説明した変形例に加えて、更に様々に変形可能である。以下、コモンモードチョークコイル10の4つの変形例について
図5から
図11までを参照して説明する。以下のいずれの変形例によっても、漏れ磁束による外部素子(図示せず)への影響を抑えつつ、漏れ磁束の量の増大を防止できる。加えて、コモンモード成分Lcの減衰を防ぎつつ、ノーマルモード成分Lnを小さく保てる。
【0042】
(第1変形例)
図5及び
図6を参照すると、第1変形例によるコモンモードチョークコイル10Aは、コモンモードチョークコイル10(
図1参照)と同じコア20及び2つのコイル30を備えている一方、コモンモードチョークコイル10の2つの導体カバー40(
図1参照)と異なる2つの導体カバー40Aを備えている。
【0043】
図6に示されるように、2つの導体カバー40Aは、互いに同じ形状を有している。導体カバー40Aの夫々は、1枚のアルミニウム板から、隙間なく連続した形状に形成されている。
【0044】
導体カバー40Aの夫々は、主板42Aと、外周板46Aと、内周板48Aとを有している。主板42Aは、直交平面(XY平面)と平行な平板形状を有しており、且つ、XY平面において円環形状を有している。主板42Aの直径は、コア20の直径よりも大きい。主板42Aの中心には、孔部422Aが形成されている。孔部422Aは、XY平面において円形状を有しており、Z方向において主板42Aを貫通している。孔部422Aの直径は、コア20の中心孔202の直径よりも小さい。外周板46Aは、主板42Aの外周全体から、Z方向に突出しており、内周板48Aは、主板42Aの内周全体から、Z方向に突出している。外周板46AのZ方向におけるサイズは、コア20の外周面226のZ方向におけるサイズの約半分である。内周板48AのZ方向におけるサイズは、コア20の内周面228のZ方向におけるサイズの半分よりも小さい。
【0045】
2つの導体カバー40Aは、Z方向におけるコア20の表面22の上下に夫々取り付けられている。表面22は、導体カバー40Aを夫々取り付けるための2つの取付領域28Aを有している。即ち、2つの導体カバー40Aは、コア20の表面22のうちの2つの取付領域28Aに夫々取り付けられている。取付領域28Aの夫々は、表面22の一部である。詳しくは、取付領域28Aの一方は、表面22の上半分であり、上面222全体、外周面226の上部全体及び内周面228の上部全体を含む連続した領域である。取付領域28Aの一方は、表面22の下半分であり、下面224全体、外周面226の下部全体及び内周面228の下部全体を含む連続した領域である。即ち、表面22は、2つの取付領域28Aに分かれている。
【0046】
図5及び
図6を参照すると、2つの導体カバー40Aは、2つの非巻回領域26の中間部262(
図6参照)を、内周面228を除いて完全に覆うようにして、表面22に取り付けられている。換言すれば、非巻回領域26の夫々において、中間部262は、内周面228を除き、導体カバー40Aのいずれかによって完全に覆われている。
【0047】
2つの導体カバー40Aは、コア20の上方及び下方から取付領域28Aに夫々取り付けられている。このように取り付けられた2つの導体カバー40Aの主板42Aは、巻回領域24及び非巻回領域26のいずれにおいても、コア20の上面222及び下面224全体を隙間なく覆っている。加えて、2つの導体カバー40Aの外周板46Aは、巻回領域24及び非巻回領域26のいずれにおいても、コア20の外周面226全体を隙間なく覆っている。一方、2つの導体カバー40Aの内周板48Aは、コア20の内周面228を部分的に覆っており、内周面228には、導体カバー40Aのいずれにも覆われていない開放領域230Aが形成されている。開放領域230Aは、コア20の円周方向において(即ち、閉磁路CMPに沿って)内周面228全体に亘って切れ目なく延びている。
【0048】
本変形例によれば、コア20の内周面228のうちの上端部及び下端部が2つの導体カバー40Aによって完全に覆われており、開放領域230Aは、内周面228のうちのZ方向における中間部分のみに形成されている。この構造により、漏れ磁束による外部素子(図示せず)への影響を、より確実に抑えることができる。
【0049】
(第2変形例)
図7を参照すると、第2変形例によるコモンモードチョークコイル10Bは、コモンモードチョークコイル10(
図1参照)と同じ2つのコイル30を備えている一方、コモンモードチョークコイル10のコア20(
図1参照)と異なるコア20Bと、2つの導体カバー40(
図1参照)と異なる2つの導体カバー40Bとを備えている。
【0050】
コア20Bは、コア20(
図1参照)と同様に軟磁性材料からなり、直交平面(XY平面)においてギャップのない閉じた形状を有している。但し、コア20Bは、コア20と異なる形状を有している。より具体的には、コア20Bは、XY平面において、矩形形状を有しており、且つ、コア20BをZ方向に貫通する中心孔202Bを有している。中心孔202Bは、XY平面において、矩形形状を有している。
【0051】
図7及び
図10を参照すると、コア20Bは、2つの第1角柱部204Bと、2つの第2角柱部206Bとを有している。2つの第1角柱部204Bは、横方向(Y方向)に沿って互いに平行に直線状に延びている。2つの第2角柱部206Bは、前後方向(X方向)に沿って互いに平行に直線状に延びている。第1角柱部204Bの一方は、2つの第2角柱部206Bの前端部(+X側の端部)をY方向に連結しており、第1角柱部204Bの他方は、2つの第2角柱部206Bの後端部(-X側の端部)をY方向に連結している。
【0052】
図8を参照すると、コア20Bは、第1角柱部204B及び第2角柱部206Bからなる4辺を有する矩形のフレーム形状を有しており、XY平面において閉磁路CMPBを構成している。閉磁路CMPBは、XY平面において閉じた矩形を描くようにして、コア20Bの4辺に沿って延びている。
【0053】
図7を参照すると、コア20Bの表面22Bは、Z方向における上面222B及び下面224Bと、直交平面(XY平面)においてコア20Bの外周に位置する外周面226Bと、XY平面においてコア20Bの内周に位置する内周面228Bとを含んでいる。上面222B及び下面224Bの夫々は、XY平面と平行な平面である。外周面226Bは、第1角柱部204B及び第2角柱部206Bの外側面からなる。内周面228Bは、第1角柱部204B及び第2角柱部206Bの内側面からなる。
【0054】
図7を参照すると、2つのコイル30のコイル本体32は、コア20Bの2つの第1角柱部204Bに夫々巻回されている。
図8を併せて参照すると、コア20Bの表面22Bは、コイル30のコイル本体32が夫々巻回された2つの巻回領域24Bと、コイル30のいずれも巻回されていない2つの非巻回領域26Bとに分かれている。巻回領域24Bは、第1角柱部204Bにおける表面22Bであり、非巻回領域26Bは、第2角柱部206Bにおける表面22Bである。巻回領域24Bと非巻回領域26Bとは、閉磁路CMPBに沿って交互に並んでいる。2つの巻回領域24Bは、Y方向に沿って互いに平行に直線状に延びており、2つの非巻回領域26Bは、X方向に沿って互いに平行に直線状に延びている。
【0055】
図7及び
図10を参照すると、2つの導体カバー40Bは、互いに同じ形状を有している。導体カバー40Bの夫々は、1枚のアルミニウム板から孔や隙間のない矩形の箱形状に形成されている。導体カバー40Bの夫々の箱の内部には、第2角柱部206Bと略同一の形状及びサイズの空間が形成されている。導体カバー40Bの夫々は、XZ平面について鏡対称に配置され、Y方向における両側からコア20Bの表面22Bに取り付けられている。表面22Bは、導体カバー40Bを夫々取り付けるための2つの取付領域28Bを有している。取付領域28Bの夫々は、表面22Bの一部であり、上面222B、下面224B、外周面226B及び内周面228Bを含む連続した領域である。
【0056】
図7及び
図8を参照すると、2つの取付領域28Bは、2つの非巻回領域26Bに夫々対応しており且つ一致している。非巻回領域26Bの夫々は、中間部262Bを有している。中間部262Bは、非巻回領域26Bの夫々において、閉磁路CMPBに沿って中間に位置する部位である。即ち、中間部262Bの夫々は、表面22Bの一部であり、閉磁路CMPBと直交する断面においてコア20Bを切れ目なく囲む領域である。取付領域28Bは、対応する非巻回領域26Bの中間部262B全体を含んでいる。導体カバー40Bの夫々は、対応する非巻回領域26Bの中間部262Bを、内周面228Bを除いて完全に覆っている。換言すれば、非巻回領域26Bの夫々において、中間部262Bは、内周面228Bを除き、導体カバー40Bのいずれかによって完全に覆われている。
【0057】
導体カバー40Bの夫々は、取付領域28B(非巻回領域26B)における上面222Bと、下面224Bと、外周面226Bとを隙間なく覆っている。一方、導体カバー40Bの夫々は、内周面228Bを覆う部位を有していない。このため、コア20Bの内周面228Bには、導体カバー40Bのいずれにも覆われていない開放領域230Bが形成されている。開放領域230Bは、閉磁路CMPBに沿って内周面228B全体に亘って延びている。
【0058】
本変形例のコア20Bは、矩形フレーム形状を有しているため、矩形箱形状の2つの導体カバー40Bによって、2つの非巻回領域26Bを完全に覆うことができる。導体カバー40Bは、1枚のアルミニウム板を折り曲げることで容易に作製できる。本変形例によれば、コモンモードチョークコイル10(
図1参照)と同様な効果を得つつ、コモンモードチョークコイル10Bの製造コストを低減できる。
【0059】
(第3変形例)
図9を参照すると、第3変形例によるコモンモードチョークコイル10Cは、コモンモードチョークコイル10B(
図7参照)と同じコア20B、2つのコイル30及び2つの導体カバー40Bを備えており、更に樹脂等の絶縁体からなる2つの絶縁ケース50Cを備えている。
【0060】
図10を参照すると、2つの絶縁ケース50Cは、互いに同じ形状を有している。絶縁ケース50Cの夫々は、導体カバー40Bが取り付けられた状態におけるコア20Bに対応する形状を有している。より具体的には、絶縁ケース50Cの夫々は、孔部52Cと、収容部54Cと、2つの位置決め部56Cとを有している。孔部52Cは、直交平面(XY平面)において矩形形状を有しており、絶縁ケース50CをZ方向に貫通している。収容部54Cは、絶縁ケース50Cの内部に形成された溝である。収容部54Cは、コア20Bに対応する形状を有している。より具体的には、収容部54Cは、直交平面において矩形形状を有しており、孔部52Cを囲んでいる。2つの位置決め部56Cは、2つの導体カバー40Bに夫々対応する凹みである。2つの位置決め部56Cは、収容部54CのY方向における両側に夫々設けられており、収容部54Cの外側に向かって凹んでいる。
【0061】
図9及び
図10を参照すると、2つの絶縁ケース50Cは、導体カバー40Bが取り付けられたコア20Bの上下に夫々取り付けられている。2つの絶縁ケース50Cは、導体カバー40Bが取り付けられたコア20B全体を覆っている。導体カバー40Bの夫々において、上端部は、上側の絶縁ケース50Cの対応する位置決め部56Cに挿入されており、下端部は、下側の絶縁ケース50Cの対応する位置決め部56Cに挿入されている。即ち、2つの絶縁ケース50Cの位置決め部56Cは、2つの導体カバー40Bをコア20Bの表面22Bに対して位置決めしている。換言すれば、導体カバー40Bの夫々は、位置ずれしないように表面22Bに取り付けられている。
【0062】
図9を参照すると、本変形例において、2つのコイル30は、絶縁ケース50Cの上から2つの巻回領域24B(
図7参照)に夫々巻回されている。本変形例によれば、コモンモードチョークコイル10B(
図7参照)と同様な効果を得つつ、絶縁ケース50Cによって、導体カバー40Bをコア20Bの所定位置に固定でき、且つ、コイル30とコア20Bとの間をより確実に絶縁できる。
【0063】
前述したように、本変形例の2つの絶縁ケース50Cは、互いに同じ形状を有している。但し、本発明は、これに限られない。例えば、
図10を参照すると、絶縁ケース50Cの一方に爪状の係合部を設け、絶縁ケース50Cの他方に孔状の被係合部を設けてもよい。この場合、係合部と被係合部との係合によって2つの絶縁ケース50Cを確実に組み合わせることができる。また、絶縁ケース50Cの一方を、導体カバー40Bが取り付けられた状態のコア20B全体に対応する形状に形成してもよい。この場合、絶縁ケース50Cの他方は、蓋状に形成して、絶縁ケース50Cの一方に取り付けてもよい。
【0064】
(第4変形例)
図11を参照すると、第4変形例によるコモンモードチョークコイル10Dは、コモンモードチョークコイル10(
図1参照)と同じ2つのコイル30(
図1参照)を備えている一方、コモンモードチョークコイル10と異なるコア20Dと、2つの導体カバー40Dとを備えている。
【0065】
コア20Dは、コア20(
図1参照)と同様に軟磁性材料からなり、直交平面(XY平面)においてギャップのない閉じた形状を有している。但し、コア20Dは、コア20と異なる形状を有している。より具体的には、コア20Dは、ドーナツ形状を有している。即ち、コア20Dは、コア20DをZ方向に貫通する中心孔202Dを有しており、コア20Dの表面22Dは、コア20Dの円周方向と直交する平面において円形状を有している。コア20Dは、XY平面において閉磁路CMP(
図1参照)を構成している。閉磁路CMPは、XY平面において閉じた円を描くようにして、コア20Dの円周方向に沿って延びている。
【0066】
コア20Dの表面22Dは、直交平面(XY平面)においてコア20Dの外周に位置する外周面226Dと、XY平面においてコア20Dの内周に位置する内周面228Dとを含んでいる一方、XY平面と平行な平面状の部位を含んでいない。即ち、コア20Dは、コア20(
図1参照)の上面222(
図1参照)及び下面224(
図1参照)に対応する部位を有していない。
【0067】
導体カバー40Dの夫々は、導体カバー40(
図2参照)に似た構造を有しており、導体カバー40と同様に機能する。但し、導体カバー40Dの夫々は、導体カバー40と多少異なる形状を有している。より具体的には、導体カバー40Dは、コア20Dの円周方向と直交する平面において、コア20Dの外周面226Dに対応した半円形状を有している。導体カバー40Dは、コア20Dの径方向外側からコア20Dの表面22Dに夫々取り付けられており、表面22Dのうちの外周面226Dを覆っている。
図3及び
図11を参照すると、コモンモードチョークコイル10Dは、コモンモードチョークコイル10と同様な効果を奏する。
【0068】
本発明は、上述の実施の形態や変形例に加えて、更に様々に応用可能である。例えば、コモンモードチョークコイルは、上述した部材に加えて、回路基板(図示せず)や端子台(図示せず)に取り付けるための部材等、様々な部材を有していてもよい。また、コモンモードチョークコイルの部材は、用途に応じて様々に配置すればよい。
【実施例】
【0069】
以下、本発明について実施例及び比較例を使用して更に具体的に説明する。
【0070】
(実施例1)
図12から
図14までを参照すると、本発明の実施例1に係るコモンモードチョークコイル10Mの部品として、フェライトからなるコア20Mと、2本の導電線と、2つの導体カバー40Mと、樹脂からなる2つの絶縁ケース50Mとを用意した。
【0071】
コア20Mは、トロイダル形状を有していた。詳しくは、コア20Mは、コア20(
図1参照)と同様な形状を有しており、38mmの外径(直径)と、19mmの内径(直径)と、13mmの厚さとを有していた。コア20Mの比透磁率は3500だった。導体カバー40Mの夫々は、厚さ0.3mmのアルミ板を、U字形状に折り曲げて、導体カバー40(
図1及び
図2参照)と同様な形状に形成した。導電線の夫々は、直径1.5mmの丸形銅線だった。絶縁ケース50Mの夫々は、1mmの厚みを有しており、且つ、上下に組み合わせた状態でコア20M及び導体カバー40Mからなる組立体全体を収容できるような形状及びサイズを有していた。
【0072】
2つの導体カバー40Mを、横方向(Y方向)におけるコア20Mの反対側に夫々位置するようにして、コア20Mの表面に被せた。このとき、導体カバー40Mの夫々は、コア20Mの上面、下面、及び外周面に亘ってコア20Mの表面を覆う一方、コア20Mの内周面を全く覆っていなかった。また、コア20Mの表面には、上面、下面、外周面及び内周面のいずれも導体カバー40Mによって覆われていない領域(巻回領域)が2つ形成されていた。次に、導体カバー40Mを被せたコア20Mの上下に絶縁ケース50Mを被せた。絶縁ケース50Mの上から、2本の導電線を2つの巻回領域に夫々6ターンだけ巻回させて2つのコイル30Mを夫々形成した。以上のように作製したコモンモードチョークコイル10Mは、コモンモードチョークコイル10(
図1参照)のコア20(
図1参照)及び導体カバー40(
図1参照)に対して絶縁ケース50Mを被せた後でコイル30を巻回させた形状を有していた。
【0073】
図15から
図17までを参照すると、比較例1~3として、コモンモードチョークコイル10V,10W,10Xを夫々作製した。
【0074】
図14及び
図15を参照すると、比較例1のコモンモードチョークコイル10Vは、従来のコモンモードチョークコイルであり、導体カバー40Mを備えていないこと、及び、絶縁ケース50Mと僅かに異なる形状の絶縁ケース50Vを備えていることを除き、実施例1のコモンモードチョークコイル10Mと同じ構造を有していた。換言すれば、比較例1のコモンモードチョークコイル10Vは、実施例1のコモンモードチョークコイル10Mから、導体カバー40Mを外したものだった。
【0075】
図15及び
図16を参照すると、比較例2のコモンモードチョークコイル10Wは、特許文献1のコモンモードチョークコイルであり、比較例1のコモンモードチョークコイル10Vの上下に2つの磁性片60Wを夫々配置して作製した。磁性片60Wの夫々は、フェライトからなり、円板形状を有していた。詳しくは、磁性片60Wの夫々は、38mmの直径と、3mmの厚さとを有していた。磁性片60Wの夫々の比透磁率は3500だった。
【0076】
図14及び
図17を参照すると、比較例3のコモンモードチョークコイル10Xは、導体カバー40Mと異なる形状の導体カバー40Xを備えていることを除き、実施例1のコモンモードチョークコイル10Mと同じ構造を有していた。比較例3の2つの導体カバー40Xは、コア20Mの上下に夫々取り付けられており、コア20Mの上面、下面及び内周面を完全に覆っていた。一方、コア20Mの外周面のうち上下方向(Z方向)における中間部は、導体カバー40Xによって覆われていなかった。換言すれば、導体カバー40Xによって覆われない開放領域がコア20Mの外周面のみに設けられていた。
【0077】
以上の実施例1及び比較例1~3のインダクタ(コモンモードチョークコイル10M,10V,10W,10X)の夫々について、インダクタンスのコモンモード成分Lc及びノーマルモード成分Lnの周波数特性を測定した。
図18及び
図19に周波数特性の測定結果を示す。
【0078】
図18を参照すると、実施例1及び比較例1~3のコモンモード成分Lcは、殆ど同じである。即ち、実施例1の導体カバー40M(
図14参照)は、コモンモード成分Lcを殆ど減衰させない。
図19を参照すると、比較例1のノーマルモード成分Lnは、周波数によらず一定である。比較例2のノーマルモード成分Lnは、比較例1のノーマルモード成分Lnの約1.5倍であり、ノーマルモード成分Lnが増大している。比較例3のノーマルモード成分Lnは、比較例1のノーマルモード成分Lnの約0.35倍であり、ノーマルモード成分Lnが減衰している。実施例1のノーマルモード成分Lnは、比較例1のノーマルモード成分Lnの約0.4倍であり、比較例3と同程度にノーマルモード成分Lnが減衰している。
【0079】
以上の実施例1及び比較例1~3の夫々について、2つのインダクタを作製し、互いに隣接させた状態で、2つのインダクタの間の結合係数を測定した。
図20に示されるように、実施例1の2つのインダクタを、5mm離して、コア40M(
図14参照)に生じたコモンモードの磁束FN(
図4参照)が相殺される中間部262(
図4参照)が対向するように配置した。比較例1~3の夫々における2つのインダクタも、実施例1の2つのインダクタと同様に配置した。
【0080】
図21に結合係数の測定結果を示す。
図21に示されるように、比較例2の結合係数は、比較例1の結合係数の約0.5倍であり、結合係数が多少低減できている。一方、比較例3の結合係数は、比較例1の結合係数の約0.95倍であり、結合係数が殆ど低減できていない。実施例1の結合係数は、比較例1の結合係数の約0.06倍であり、結合係数が比較例1の1/15程度まで大きく低減できている。
【0081】
以上の測定結果から理解されるように、本発明に係る実施例1によれば、コモンモード成分Lcを殆ど減衰させることなくノーマルモード成分Lnを十分に減衰できる。また、結合係数を大きく低減でき、これにより漏れ磁束による外部素子(図示せず)への影響を抑えることができる。
【0082】
(実施例2)
図22から
図24までを参照すると、本発明の実施例2に係るコモンモードチョークコイル10Nの部品として、フェライトからなるコア20Nと、2本の導電線と、2つの導体カバー40Nと、樹脂からなる2つの絶縁ケース50Nとを用意した。
【0083】
コア20Nは、コア20B(
図10参照)と同様な矩形のフレーム形状を有していた。詳しくは、コア20Nは、38mmの幅と、28mmの長さと、6mmの厚さとを有しており、コア20Nには、24mmの幅と、14mmの長さとを有する中心孔が形成されていた。コア20Nの比透磁率は3500だった。導体カバー40Nの夫々は、厚さ0.3mmの十字形状のアルミ板を箱型に折り曲げて、導体カバー40B(
図10参照)と同様な形状に形成した。導電線の夫々は、直径1.5mmの丸形銅線だった。絶縁ケース50Nの夫々は、1mmの厚みを有しており、且つ、上下に組み合わせた状態でコア20N及び導体カバー40Nからなる組立体全体を収容できるような形状及びサイズを有していた。
【0084】
2つの導体カバー40Nを、横方向(Y方向)におけるコア20Nの反対側の2辺に夫々被せた。このとき、導体カバー40Nの夫々は、コア20Nの上面、下面、及び外周面に亘ってコア20Nの2辺の表面を覆う一方、コア20Nの内周面を全く覆っていなかった。また、コア20Nの表面には、上面、下面、外周面及び内周面のいずれも導体カバー40Nによって覆われていない領域(巻回領域)が2つ形成されていた。導体カバー40Nを被せたコア20Nの上下に絶縁ケース50Nを被せた。絶縁ケース50Nの上から、2本の導電線を2つの巻回領域に夫々12ターンだけ巻回させて2つのコイル30Nを夫々形成した。以上のように作製したコモンモードチョークコイル10Nは、コモンモードチョークコイル10C(
図9参照)と同様な形状を有していた。
【0085】
図25及び
図26を参照すると、比較例4、5として、コモンモードチョークコイル10Y,10Zを夫々作製した。
【0086】
図24及び
図25を参照すると、比較例4のコモンモードチョークコイル10Yは、従来のコモンモードチョークコイルであり、導体カバー40Nを備えていないことと、絶縁ケース50Nと僅かに異なる形状の絶縁ケース50Yを備えていることを除き、実施例2のコモンモードチョークコイル10Nと同じ構造を有していた。換言すれば、比較例4のコモンモードチョークコイル10Yは、実施例2のコモンモードチョークコイル10Nから、導体カバー40Nを外したものだった。
【0087】
図25及び
図26を参照すると、比較例5のコモンモードチョークコイル10Zは、特許文献1のコモンモードチョークコイルであり、比較例4のコモンモードチョークコイル10Yの上下に2つの磁性片60Zを夫々配置して作製した。磁性片60Zの夫々は、フェライトからなり、矩形形状を有していた。詳しくは、磁性片60Zの夫々は、38mmの幅と、28mmの長さと、3mmの厚さとを有していた。磁性片60Zの夫々の比透磁率は3500だった。
【0088】
以上の実施例2及び比較例4、5のインダクタ(コモンモードチョークコイル10N,10Y,10Z)の夫々について、ノーマルモードの交流電流を印加した状態におけるコモンモード成分Lcを測定した。
図27にコモンモード成分Lcの測定結果を示す。
【0089】
図27から理解されるように、比較例4における漏れ磁束を、比較例5のように磁性片60Zを備えることで減衰させる場合、磁気飽和が起こり易い。一方、実施例2によれば、比較例4に比べても、磁気飽和が起こり難い。
【0090】
図12及び
図22を参照すると、一般に、実施例2のような矩形形状のコア20Nを備えたコモンモードチョークコイル10Nは、実施例1のようなトロイダル形状のコア20Mを備えたコモンモードチョークコイル10Mに比べて、ノーマルモード成分Lnが大きくなり易い。ノーマルモード成分Lnが大きいと、ノーマル電流による磁気飽和によってコモンモード成分Lcが減衰する恐れがある。一方、本発明によれば、矩形形状のコア20Nを備えたコモンモードチョークコイル10Nに交流のノーマル電流やノイズによる大電流が流れた場合でも、磁気飽和し難い。
【符号の説明】
【0091】
10,10A,10B,10C,10D コモンモードチョークコイル
10M,10N (実施例の)コモンモードチョークコイル
10V,10W,10X,10Y,10Z (比較例の)コモンモードチョークコイル
20,20B,20D コア
20M,20N (実施例及び比較例の)コア
202,202B,202D 中心孔
204B 第1角柱部
206B 第2角柱部
22,22B,22D 表面
222,222B 上面
224,224B 下面
226,226B,226D 外周面
228,228B,228D 内周面
230,230A,230B 開放領域
24,24B 巻回領域
26,26B 非巻回領域
262,262B 中間部
28,28A,28B 取付領域
30 コイル
30M,30N (実施例及び比較例の)コイル
32 コイル本体
38 端子部
40,40A,40B,40D 導体カバー
40M,40N (実施例の)導体カバー
40X (比較例の)導体カバー
42 上板
42A 主板
422A 孔部
44 下板
46 側板
46A 外周板
48A 内周板
50C 絶縁ケース
50M,50N (実施例の)絶縁ケース
50V,50X,50Y (比較例の)絶縁ケース
52C 孔部
54C 収容部
56C 位置決め部
60W,60Z (比較例の)磁性片
CMP,CMPB 閉磁路
FC,FN 磁束