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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】車両の乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/207 20060101AFI20220803BHJP
   B60R 21/231 20110101ALI20220803BHJP
   B60N 2/427 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
B60R21/207
B60R21/231
B60N2/427
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018068590
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019177786
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-197004(JP,A)
【文献】特開2017-178146(JP,A)
【文献】特開2007-190988(JP,A)
【文献】特開2014-141194(JP,A)
【文献】米国特許第05586782(US,A)
【文献】特開2008-137456(JP,A)
【文献】特開2017-178147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
B60N 2/427
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が着座するシートにおけるシートバックの側方から前方に展開することが可能な第1エアバッグと、
前記第1エアバッグより下方に配置され、前記シートバックの側方から前側上方に展開、又はシートクッションの側方から上方に展開することが可能な第2エアバッグと
前記第1エアバッグ及び前記第2エアバッグの展開駆動を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記第2エアバッグの展開を開始し、前記第2エアバッグが所定の展開量に達した後に前記第1エアバッグを展開させ、展開中の第1エアバッグを第2エアバッグに接触させることで第1エアバッグの展開方向を前記シートの幅方向に変位させる、
車両の乗員保護装置。
【請求項2】
乗員が着座するシートにおけるシートバックの側方から前方に展開することが可能な第1エアバッグと、
前記第1エアバッグより下方に配置され、前記シートバックの側方から前側上方に展開、又はシートクッションの側方から上方に展開することが可能な第2エアバッグと、
前記第2エアバッグ及び前記第1エアバッグの展開駆動を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記第1エアバッグの展開を開始し、前記第1エアバッグが所定の展開量に達した後に前記第2エアバッグを展開させ、展開中の第2エアバッグを第1エアバッグに接触させることで第2エアバッグの展開方向を前記シートの幅方向に変位させる、
車両の乗員保護装置。
【請求項3】
前記第1エアバッグは、シート表面を介して展開され、又は、前記シートの周辺部材のいずれかから展開され、
前記第2エアバッグは、前記シート表面を介して展開され、又は、前記第1エアバッグが展開する前記周辺部材若しくは前記シートの他の周辺部材のいずれかから展開される、
請求項1又は2に記載の車両の乗員保護装置。
【請求項4】
前記第1エアバッグ及び前記第2エアバッグは前記シート表面を介して展開される、
請求項に記載の車両の乗員保護装置。
【請求項5】
前記第1エアバッグ及び前記第2エアバッグのうち前記シートの幅方向内側に変位する一方のエアバッグは、
他方のエアバッグと前記シートの幅方向で一部が重畳し、
前記他方のエアバッグより前記シートの幅方向内側で展開する、
請求項1~のいずれかに記載の車両の乗員保護装置。
【請求項6】
前記他方のエアバッグは、前記一方のエアバッグとの当接部位に形成されて成る案内手段を有し、
前記一方のエアバッグは、前記一方のエアバッグの展開方向が前記案内手段によって前記シートの幅方向内側に案内される、
請求項に記載の車両の乗員保護装置。
【請求項7】
前記案内手段は、前記一方のエアバッグにおけるシート表面からの膨出方向に向かって前記シートの幅方向内側に傾斜して成るテーパ部を有する、
請求項6に記載の車両の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の乗員に近い領域で乗員を保護するための技術としてシートに搭載されるエアバッグがある。例えば搭乗者の頭部を保護するために、車両のボディサイド部と搭乗者の胸部から頭部にかけての部位との間にて展開膨張するエアバッグ本体部と、エアバッグ本体部から搭乗者の顔面前方に突出するように展開膨張するエアバッグ突出部とを備えるサイドエアバッグ装置などが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-008105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動運転技術の発展に伴い、車室内空間での着座位置及び着座状態の自由化が実現した場合、シートを従来の配置とは異なるものにしたときに、従来使用していた、ステアリング、インストルメントパネルなどに設けられるエアバッグでは乗員の保護が困難となる可能性がある。これに鑑みて、エアバッグなどの乗員の保護デバイスをシートに設ける必要性が高まる。
上述したような従来のサイドエアバッグ装置では全方位の衝突には対応することが困難である。
【0005】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、乗員が着座するシートの構成のみで様々な衝突形態での乗員保護を実現することが可能な車両の乗員保護装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段として、本発明に係る車両の乗員保護装置は、乗員が着座するシートにおけるシートバックの側方から前方に展開することが可能な第1エアバッグと、前記第1エアバッグより下方に配置され、前記シートバックの側方から前側上方に展開、又はシートクッションの側方から上方に展開することが可能な第2エアバッグと、を備え、前記第1エアバッグ及び前記第2エアバッグは、展開軌道が交差するように展開し、前記第1エアバッグ又は前記第2エアバッグは、前記展開軌道が交差した後に、前記シートの幅方向内側に変位する。
【0007】
本発明に係る車両の乗員保護装置において、前記第1エアバッグは、シート表面を介して展開され、又は、前記シートの周辺部材のいずれかから展開され、前記第2エアバッグは、前記シート表面を介して展開され、又は、前記第1エアバッグが展開する前記周辺部材若しくは前記シートの他の周辺部材のいずれかから展開されることが好ましい。
【0008】
本発明に係る車両の乗員保護装置において、前記第1エアバッグ及び前記第2エアバッグは、前記シート表面を介して展開されることが好ましい。
【0009】
本発明に係る車両の乗員保護装置において、前記第1エアバッグ及び前記第2エアバッグのうち前記シートの幅方向内側に変位する一方のエアバッグは、他方のエアバッグと前記シートの幅方向で一部が重畳し、前記他方のエアバッグより前記シートの幅方向内側で展開することが好ましい。
【0010】
本発明に係る車両の乗員保護装置において、前記第1エアバッグ及び前記第2エアバッグの展開駆動を制御する制御手段を備え、前記制御手段は、前記一方のエアバッグを展開した後に、前記他方のエアバッグを展開させる制御を行うことが好ましい。
【0011】
本発明に係る車両の乗員保護装置において、前記他方のエアバッグは、前記一方のエアバッグとの当接部位に形成されて成る案内手段を有し、前記一方のエアバッグは、前記一方のエアバッグの展開方向が前記案内手段によって前記シートの幅方向内側に案内されることが好ましい。
【0012】
本発明に係る車両の乗員保護装置において、前記案内手段は、前記一方のエアバッグにおけるシート表面からの膨出方向に向かって前記シートの幅方向内側に傾斜して成るテーパ部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、第1エアバッグと第2エアバッグとの各展開軌道が交差した後に、つまり第1エアバッグと第2エアバッグとが展開途中で相互接触が生じた後に、第1エアバッグ及び第2エアバッグのいずれかの展開方向がシートの幅方向内側に向かうものとなる。これにより、シートから展開したエアバッグが乗員に近接して延在することとなるので、乗員の周囲をエアバッグが展開された状態となり、結果としてシートの構成のみで様々な衝突形態での乗員保護を実現することが可能な車両の乗員保護装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1(a)~(b)は本発明の一実施形態である乗員保護装置を示す概略図であり、図1(a)は乗員保護装置を示す正面図であり、図1(b)は乗員保護装置を示す平面図である。
図2図2は、図1に示したエアバッグの展開駆動を行う際の制御フローについて示すフローチャート図である。
図3図3(a)~(b)は、本発明の他の実施形態に係る乗員保護装置において第1エアバッグと第2エアバッグとの位置関係を概略的に示す模式図であり、図3(c)は第1エアバッグと第2エアバッグとを展開させた乗員保護装置を示す平面図である。
図4図4は、図3に示した第1エアバッグ及び第2エアバッグの展開駆動を行う際の制御フローについて示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る車両の乗員保護装置の一実施形態について、図1及び図2を参照しつつ説明する。
なお、図1(a)~(b)は本発明の一実施形態である乗員保護装置1を示す概略図であり、図1(a)は乗員保護装置1を示す正面図であり、図1(b)は乗員保護装置1を示す平面図である。図2は、図1に示した第1エアバッグ2の展開駆動を行う際の制御フローについて示すフローチャート図である。
【0016】
図1に示すように、乗員保護装置1は、第1エアバッグ2と、第2エアバッグ3とを備えている。なお、乗員保護装置1は、第1エアバッグ2及び第2エアバッグ3の駆動のために、検知手段4、計時手段5及び制御手段6も併せて備えている。
【0017】
第1エアバッグ2は、乗員Pが着座するシート100のシート表面を介して展開される。なお、シート100は、乗員Pが着座可能なシートクッション101と、乗員Pが背面をもたれさせることのできるシートバック102とを有する。
特に図1(b)に示すように、第1エアバッグ2は、シートバック102の側方から前方に延在して乗員Pの側方に位置する基端部21と、基端部21より第1エアバッグ2の先端側であって、基端部21からシート100の幅方向内側に向かって延在し、乗員Pの前方に位置する先端部22とを有する。本実施形態で示した第1エアバッグ2は、本発明において展開軌道がシートの幅方向内側に変位する一方のエアバッグの一例である。
第1エアバッグ2は、布製の袋体であり、展開前にはシートバック102内に配置されて成る第1収容部71に折り畳まれて収容される。第1エアバッグ2は全体形状として略板状である。第1エアバッグ2が展開する際には、第1収容部71に付設されて成る第1インフレータ81から発生するガスが第1エアバッグ2内に圧入されることで、第1エアバッグ2が第1収容部71外に膨出し、更にシートバック102のシート表面を開裂させて車室内空間へ展開することとなる。
なお、本実施形態における第1エアバッグ2は展開部位がシート100のシート表面に設定されているが、本発明においてはシートにおける複数の周辺部材のいずれか、具体的には適宜の内装材のいずれかから第1エアバッグが展開することとしても良い。
【0018】
第2エアバッグ3は、第1エアバッグ2の下方において、乗員Pが着座するシート100のシート表面を介して展開される。
第2エアバッグ3は、シートクッション101の側方から上方に延在し、乗員Pの下肢の側方で立ち上がるように展開している。本実施形態で示した第2エアバッグ3は、本発明において上記一方のエアバッグをシートの幅方向内側に変位させる他方のエアバッグの一例である。
第2エアバッグ3は、布製の袋体であり、展開前にはシートクッション101内に配置されて成る第2収容部72に折り畳まれて収容される。第2エアバッグ3は全体形状として略三角柱形状である。第2エアバッグ3が展開する際には、第2収容部72に付設されて成る第2インフレータ82から発生するガスが第2エアバッグ3内に圧入されることで、第2エアバッグ3が第2収容部72外に膨出し、更にシートクッション101のシート表面を開裂させて車室内空間へ展開することとなる。
なお、本実施形態における第2エアバッグ3は展開部位がシート100のシート表面に設定されているが、本発明においてはシートの周辺部材のいずれか、具体的には適宜の内装材のいずれかから第2エアバッグが展開することとしても良い。
【0019】
特に図1(b)に示すように、第2エアバッグ3は後部においてテーパ部31を有する。
テーパ部31は、第1エアバッグ2におけるシート表面からの膨出方向に向かって、本実施形態であればシートバック102からの膨出方向である前方に向かって、シート100の幅方向内側に傾斜して成る傾斜面部である。テーパ部31は、第1エアバッグ2及び第2エアバッグ3の展開の際に、第2エアバッグ3における第1エアバッグ2との当接部位に形成される。
図1(b)に示すように、第1エアバッグ2は、第1エアバッグ2の展開方向がテーパ部31によってシート100の幅方向内側に案内される。
【0020】
図1に示す第1エアバッグ2と第2エアバッグ3とは、展開の際に各展開軌道が交差する。また、第1エアバッグ2は、展開軌道が交差した後に、シート100の幅方向内側に変位する。
ここで、第1エアバッグ2及び第2エアバッグ3の展開軌道が交差する形態としては、例えば第1エアバッグ2及び第2エアバッグ3を展開したときに相互に当接する形態であれば良い。つまり、第1エアバッグ2がシートバック102から前方に膨出するシート100の幅方向における領域と、第2エアバッグ3がシートクッション101から上方に膨出するシート100の幅方向における領域とが、少なくとも一部が重畳している。
【0021】
検知手段4は、車両の衝突又は衝突可能性を検知する。具体的には、検知手段4は、適宜のカメラ、センサなどにより車外の周辺環境の監視結果に基づいて、他車両又は障害物と自車両との衝突又は衝突可能性の有無を検知する。検知手段4は、検知結果を制御手段6に出力することが可能となっている。
衝突の検知は、例えば車両に搭載される加速度センサなどによって自車両に作用する衝撃を検知することで、衝突が発生したと判別することができる。
また、衝突可能性の検知は、例えば車両に搭載される車外監視用カメラ、監視用センサなどによる他車両又は障害物の監視結果と、自車両の走行速度、方向などのパラメータとを併せることで、自車両に他車両又は障害物が接触し得る可能性を導出する。更に、導出結果が適宜のしきい値を超えているか否かによって衝突可能性の高低を判別することができる。
検知手段4としては、例えば車載カメラ、監視用センサ、加速度センサなどと、監視結果の解析のための演算処理装置とを組合せて用いることができる。
【0022】
計時手段5は、第1インフレータ81又は第2インフレータ82の駆動開始後の経過時間を計測する。具体的には、計時手段5は、制御手段6が他方のエアバッグである第2エアバッグ3の展開用である第2インフレータ82に対して駆動信号を出力した旨の電気信号が制御手段6から入力されると経過時間の計測を開始し、計時結果に係る電気信号を制御手段6に出力する。
計時手段5としては、例えば時間の計測を行うタイマ部材と車載用の演算処理装置であるECUなどとを組合せて用いることができる。
【0023】
制御手段6は、第1インフレータ81及び第2インフレータ82の駆動を制御する。具体的には、制御手段6は、検知手段4から出力された検知結果に基づいて、第2インフレータ82を駆動させ、計時手段5から出力された計時結果に基づいて、第1インフレータ81を駆動させる制御を行う。第1インフレータ81及び第2インフレータ82を駆動させると、火薬への着火などによってガスが発生することとなる。制御手段6は第1インフレータ81及び第2インフレータ82に対して駆動信号を出力することが可能となっている。
制御手段6としては、例えば車載用の演算処理装置であるECUなどを用いることができる。
【0024】
ここで、乗員保護装置1の駆動制御について図2を参照しつつ制御フローの説明を行う。
【0025】
先ず、検知手段4が自車両の衝突又は衝突可能性の有無を判別する(ステップS1)。本工程では、検知手段4の検知結果に基づいて、実際に衝突が発生したと検知手段4が判別した場合に、次工程に移る(ステップS1のYES)。また、本工程では、検知手段4の検知結果に基づいて、他車両若しくは障害物が自車両に接近することで増大するリスクを検知手段4が導出し、該リスクが適宜のしきい値を超えていれば衝突の可能性があると検知手段4が判別し、この場合にも同様に次工程に移る(ステップS1のYES)。
なお、検知手段4の検知結果では衝突の発生が無いと検知手段4が判別した場合は、衝突に備える必要が無く、第1インフレータ81及び第2インフレータ82を駆動させる必要も無いので、本制御フローを完了する(ステップS1のNO)。また、他車両若しくは障害物が自車両に接近していないことで衝突の可能性が無い場合、又は、他車両若しくは障害物が自車両に接近しているが上記リスクが適宜のしきい値を超えていないことで衝突の可能性が低い場合にも、同様に本制御フローを完了する(ステップS1のNO)。
検知手段4の判別結果は制御手段6に出力される。
【0026】
衝突の発生又は衝突可能性があると検知手段4により判別がなされた場合は(ステップS1のYES)、制御手段6が第2インフレータ82の駆動制御を行う(ステップS2)。本工程では、第2エアバッグ3(他方のエアバッグ)に付設される第2インフレータ82に対して制御手段6から駆動信号が入力されることで、第2インフレータ82は例えば火薬に着火するなどしてガスを発生させる。第2インフレータ82から発生したガスは、第2エアバッグ3内に圧入されることでシートクッション101のシート表面を開裂させてシート100外に上方に膨出する。
なお、制御手段6は、本工程で第2インフレータ82に対して駆動信号を出力した旨の電気信号を、計時手段5に対して出力する。制御手段6からの信号入力がなされた計時手段5は、第2インフレータ82の駆動開始からの経過時間を計測し始める。
【0027】
展開を開始した第2エアバッグ3は、展開軌道上に干渉するものが無いので、上方に向かって直線的に展開し、更にシートクッション101から立ち上がった状態で展開が完了することになる。第2エアバッグ3が適宜の展開量以上に達すれば、次に第1エアバッグ2を展開する。
【0028】
第1エアバッグ2を展開するための乗員保護装置1の制御フローとしては、図2に示すように、先ず計時手段5が第2エアバッグ3の展開から所定の経過時間が経過したか否かを判別する(ステップS3)。本工程では、第2インフレータ82の駆動開始からの経過時間、つまり第2エアバッグ3の展開開始からの経過時間が、所定の時間しきい値を超えているか否かについて計時手段5が判別を行う。第2エアバッグ3が展開し始めてからの経過時間が所定の時間しきい値を超えていれば、次工程に移る(ステップS3のYES)。
本工程で用いる所定の時間しきい値は、第2エアバッグ3の展開途中となる時間に設定されても良く、展開が完了している時間に設定されていても良い。
なお、上記経過時間が所定の時間しきい値を超えていない場合は、本工程を繰り返し実行する(ステップS3のNO)。
計時手段5の判別結果は制御手段6に出力される。
【0029】
上記経過時間が所定の時間しきい値を超えていると計時手段5により判別がなされた場合は(ステップS3のYES)、制御手段6が第1インフレータ81の駆動制御を行う(ステップS4)。本工程では、第1エアバッグ2(一方のエアバッグ)に付設される第1インフレータ81に対して制御手段6から駆動信号が入力されることで、第1インフレータ81は例えば火薬に着火するなどしてガスを発生させる。第1インフレータ81から発生したガスは、第1エアバッグ2内に圧入されることでシートバック102のシート表面を開裂させてシート100外に前方に膨出する。
【0030】
第1エアバッグ2が展開を開始すると、シートバック102から前方に向かう展開軌道上に第2エアバッグ3のテーパ部31が配置された状態となっているので、第1エアバッグ2と第2エアバッグ3とが当接する。当接した第1エアバッグ2及び第2エアバッグ3のうち、第1エアバッグ2の展開軌道がテーパ部31によってシート100の幅方向内側に向けられる。第1エアバッグ2がテーパ部31に当接しつつ、第1エアバッグ2の膨張が進むと、図1に示す状態となって第1エアバッグ2の展開が完了する。
【0031】
結果として、図1に示すように、第2エアバッグ3が第1エアバッグ2をシート100の幅方向内側に向かうように案内することで、先端部22がシート100の幅方向内側に変位することになる。つまり、第1エアバッグ2は、シートバック102から第2エアバッグ3に当接するまでの基端部21が乗員Pの側方で湾曲し、第2エアバッグ3との当接部位から先端までの先端部22が乗員Pの上体前方に展開した状態となる。
【0032】
本実施形態に係る乗員保護装置1では、上述したようにテーパ部31を有する第2エアバッグ3を先に展開させておき、テーパ部31に対して後で展開する第1エアバッグ2を当接させることで、第1エアバッグ2の展開軌道を幅方向内側に向ける。つまり、案内手段であるテーパ部31を第1エアバッグ2の展開軌道上に予め配置しておくことで、第1エアバッグ2がシート100の幅方向内側に向くように規制された仮想的な展開軌道を形成することができる。テーパ部31による案内後の第1エアバッグ2の展開軌道は、テーパ部31の形状、シート100の前後方向におけるテーパ部31の位置などによって様々に調節することができるので、乗員Pの上体前方における第1エアバッグ2の展開制御が容易である。
【0033】
図1に示したように、第1エアバッグ2は、シートバック102において乗員Pの上体に対してシート100の幅方向外側位置からシート100の前方に膨出し、第2エアバッグ3のテーパ部31によって、第1エアバッグ2の先端の展開方向がシート100における第1エアバッグ2の膨出位置よりシート100の幅方向内側に向けられ、乗員Pの上体前方に展開する。
【0034】
よって、シートバック102から展開した第1エアバッグ2が乗員Pの上体の側方及び前方を囲んだ状態になるので、結果としてシート100の構成のみで前方衝突、側方衝突、後方衝突及び斜め衝突などの様々な衝突形態での乗員保護を実現することが可能となる。
【0035】
上述した実施形態では第1エアバッグ2がシート100の幅方向内側に変位しつつ展開する、本発明における一方のエアバッグであると共に、第2エアバッグ3が一方のエアバッグを案内する、本発明における他方のエアバッグであった。なお、本発明においては、第2エアバッグを一方のエアバッグとし、第1エアバッグを他方のエアバッグとすることもできる。この場合、第1エアバッグの第2エアバッグとの当接部位に上記テーパ部31などの案内手段を設けるのが良い。
【0036】
なお、上記第2エアバッグ3を一方のエアバッグとすると、シートクッションから上方に展開した第2エアバッグ3が、他方のエアバッグとなる第1エアバッグ2の案内手段によって、シート100の幅方向内側に変位することになる。これにより、シートクッション101において乗員Pの下肢に対してシート100の幅方向外側位置からシート100の上方に膨出し、シート100の幅方向内側に向けられ、乗員Pの下肢上方に展開した状態となる。
この形態では、シートクッション101から展開した第2エアバッグ3が乗員Pの下肢の側方及び上方を囲んだ状態になるので、結果としてシート100の構成のみで前方衝突、側方衝突、後方衝突及び斜め衝突などの様々な衝突形態での乗員Pの下肢に対する保護性能を確保することが可能となる。
【0037】
また、上述した実施形態では第2エアバッグ3がシートクッション101から上方に向かって展開していたが、本発明において第2エアバッグは、シートバックの側部において第1エアバッグの下方から前側上方、つまり前方に向かって斜め上方に展開する形態であっても良い。結果として、上述した実施形態と同様に、第1エアバッグ又は第2エアバッグがシートの幅方向内側に変位することで、乗員の近傍の保護性能を確保することができる。
【0038】
図1及び図2に示した実施形態では、他方のエアバッグ(第2エアバッグ3)を先に展開させることで、後に展開する一方のエアバッグ(第1エアバッグ2)をシートの幅方向内側に案内していた。これに対して、本発明では他方のエアバッグに案内手段を設けない形態を採ることもできる。案内手段に依らずに、一方のエアバッグの展開軌道をシートの幅方向内側に向ける実施形態を、図3及び図4を参照しつつ説明する。
なお、図3(a)~(b)は、本発明の他の実施形態に係る乗員保護装置11において第1エアバッグ2と第2エアバッグ301との位置関係を概略的に示す模式図であり、図3(c)は第1エアバッグ2と第2エアバッグ301とを展開させた乗員保護装置11を示す平面図である。図4は、図3に示した第1エアバッグ2及び第2エアバッグ301の展開駆動を行う際の制御フローについて示すフローチャート図である。
【0039】
図3に示す乗員保護装置11における第1エアバッグ2は、図1に示した乗員保護装置1における第1エアバッグ2と同一部材を用いている。なお、乗員保護装置11における第2エアバッグ301は、乗員保護装置1における第2エアバッグ3に設けていたテーパ部31などの案内手段を設けていない。図3には、第1エアバッグ2と第2エアバッグ301との位置関係を示すために、仮に相互に当接しなかった場合の第1エアバッグ2及び第2エアバッグ301の仮想的な展開状態を示している。
【0040】
乗員保護装置11においても、上記乗員保護装置1と同様に、第1エアバッグ2が展開するとシート100の幅方向内側に変位するエアバッグ、つまり本発明における一方のエアバッグとして設けられている。また、乗員保護装置11における第2エアバッグ301が本発明における他方のエアバッグである。
【0041】
図3(a)~(b)に示すように、各エアバッグの一方を独立して展開した場合の第1エアバッグ2(一方のエアバッグ)の展開領域は、第2エアバッグ301(他方のエアバッグ)の展開領域に対して、シート100の幅方向で重畳する部位を有する。なお、エアバッグの展開領域は、例えば膨満状態のエアバッグが占める領域又は空間で表すことができる。
また、第1エアバッグ2は第2エアバッグ301よりシート100の幅方向内側で展開する。なお、エアバッグの位置関係は、例えばシート100の幅方向における第1エアバッグ2及び第2エアバッグ301のそれぞれの厚みの中心線(図3(a)~(b)に一点鎖線で図示)の位置関係で表すことができる。つまり、図3に示す実施形態では、第1エアバッグ2におけるシート100の幅方向に沿った厚みの中心線Aが、第2エアバッグ301におけるシート100の幅方向に沿った厚みの中心線Bより、シート100の幅方向内側に位置している。
【0042】
ここで、乗員保護装置11の駆動制御について図4を参照しつつ制御フローの説明を行う。
【0043】
先ず、検知手段4による自車両の衝突又は衝突可能性の有無の判別工程(ステップS1)は図2に示した制御フローと同様に実行される。
【0044】
衝突の発生又は衝突可能性があると検知手段4により判別がなされた場合は(ステップS1のYES)、制御手段6がシート100の幅方向内側に位置するエアバッグの展開駆動制御を行う(ステップS5)。本工程では、第1エアバッグ2(一方のエアバッグ)に付設される第1インフレータ81に対して制御手段6から駆動信号が入力されることで、第1インフレータ81は例えば火薬に着火するなどしてガスを発生させる。第1インフレータ81から発生したガスは、第1エアバッグ2内に圧入されることでシートバック102のシート表面を開裂させてシート100外に前方に膨出する。
なお、制御手段6は、本工程で第1インフレータ81に対して駆動信号を出力した旨の電気信号を、計時手段5に対して出力する。制御手段6からの信号入力がなされた計時手段5は、第1インフレータ81の駆動開始からの経過時間を計測し始める。
【0045】
展開を開始した第1エアバッグ2は、展開軌道上に干渉するものが無いので、前方に向かって直線的に展開し、更にシートバック102から前方に突出した状態で展開が完了することになる。第1エアバッグ2が適宜の展開量以上に達すれば、次に第2エアバッグ3を展開する。
【0046】
第2エアバッグ3を展開するための乗員保護装置11の制御フローとしては、図4に示すように、先ず計時手段5が第1エアバッグ2の展開から所定の経過時間が経過したか否かを判別する(ステップS31)。本工程では、第1インフレータ81の駆動開始からの経過時間、つまり第1エアバッグ2の展開開始からの経過時間が、所定の時間しきい値を超えているか否かについて計時手段5が判別を行う。第1エアバッグ2が展開し始めてからの経過時間が所定の時間しきい値を超えていれば、次工程に移る(ステップS31のYES)。
本工程で用いる所定の時間しきい値は、第1エアバッグ2の展開途中となる時間に設定されても良く、展開が完了している時間に設定されていても良い。
なお、上記経過時間が所定の時間しきい値を超えていない場合は、本工程を繰り返し実行する(ステップS31のNO)。
計時手段5の判別結果は制御手段6に出力される。
【0047】
上記経過時間が所定の時間しきい値を超えていると計時手段5により判別がなされた場合は(ステップS31のYES)、制御手段6がシート100の幅方向外側に位置するエアバッグの展開駆動制御を行う(ステップS6)。本工程では、第2エアバッグ3(他方のエアバッグ)に付設される第2インフレータ82に対して制御手段6から駆動信号が入力されることで、第2インフレータ82は例えば火薬に着火するなどしてガスを発生させる。第2インフレータ82から発生したガスは、第2エアバッグ3内に圧入されることでシートクッション101のシート表面を開裂させてシート100外に上方に膨出する。
【0048】
第2エアバッグ3が展開を開始すると、シートクッション101から上方に向かう展開軌道上に第1エアバッグ2が配置された状態となっているので、第1エアバッグ2と第2エアバッグ3とが当接する。当接した第1エアバッグ2及び第2エアバッグ3のうち、相対的にシート100の幅方向内側に配置されて成る第1エアバッグ2が、第2エアバッグ301によって押し退けられるように、シート100の幅方向内側に向けられる。第1エアバッグ2が第2エアバッグ301によって押圧されつつ、第1エアバッグ2及び第2エアバッグ301の膨張が進むと、図3(c)に示す状態となって第1エアバッグ2及び第2エアバッグ301の展開が完了する。
【0049】
結果として、図3(c)に示すように、第2エアバッグ301が第1エアバッグ2をシート100の幅方向内側に向かうように押圧することで、先端部22がシート100の幅方向内側に変位することになる。つまり、第1エアバッグ2は、シートバック102から第2エアバッグ301に当接するまでの基端部21が乗員Pの側方で湾曲し、第2エアバッグ301との当接部位から先端までの先端部22が乗員Pの上体前方に展開した状態となる。
【0050】
図3(c)に示したように、第1エアバッグ2は、シートバック102において乗員Pの上体に対してシート100の幅方向外側位置からシート100の前方に膨出し、第2エアバッグ301によって、第1エアバッグ2の先端の展開方向がシート100における第1エアバッグ2の膨出位置よりシート100の幅方向内側に向けられ、乗員Pの上体前方に展開する。
【0051】
よって、シートバック102から展開した第1エアバッグ2が乗員Pの上体の側方及び前方を囲んだ状態になるので、結果としてシート100の構成のみで前方衝突、側方衝突、後方衝突及び斜め衝突などの様々な衝突形態での乗員保護を実現することが可能となる。
【0052】
図3(c)に示したように、第1エアバッグ2は、シート100の前方という展開方向を展開の終盤又は展開完了時まで維持し続け、展開の終盤まで乗員Pに向かうような展開方向を有していない。これは、少なくとも第1エアバッグ2が乗員Pより前側で前方に向かって十分に展開した状態になったときに、第2エアバッグ301によって第1エアバッグ2がシート100の幅方向内側に押圧されるように、計時手段5の時間しきい値が設定されているからである。これにより、第1エアバッグ2の展開の終盤又は展開完了時、つまり展開に伴う第1エアバッグ2の様々な方向への動き、いわゆる展開暴れが収束しつつある段階又は収束した段階において、第2エアバッグ301の当接によって第1エアバッグ2が湾曲又は屈曲して乗員Pに近づくことになるので、第1エアバッグ2による乗員Pへの攻撃性を低減することができて好ましい。また、本発明における一方のエアバッグである第1エアバッグ2の展開の安定化を図ることができる。第1エアバッグ2の展開の安定化を図ることで、乗員Pの保護を直接行うこととなる一方のエアバッグの挙動を想定し易くなるので、所望の乗員Pの保護性能を想定した時間に想定した形態で実現することができて好ましい。
【0053】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により、本発明は限定されることはない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【符号の説明】
【0054】
1及び11:乗員保護装置、2:第1エアバッグ、21:基端部、22:先端部、3及び301:第2エアバッグ、31:テーパ部、4:検知手段、5:計時手段、6:制御手段、71:第1収容部、72:第2収容部、81:第1インフレータ、82:第2インフレータ、100:シート、101:シートクッション、102:シートバック、P:乗員
図1
図2
図3
図4