(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】ガスセンサの製造方法及びガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/409 20060101AFI20220803BHJP
【FI】
G01N27/409 100
(21)【出願番号】P 2018117573
(22)【出願日】2018-06-21
【審査請求日】2021-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】常吉 孝治
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-514947(JP,A)
【文献】特表2012-511713(JP,A)
【文献】特開2005-195516(JP,A)
【文献】実公昭50-044152(JP,Y1)
【文献】特開2018-084483(JP,A)
【文献】実開昭59-072549(JP,U)
【文献】特表2000-509824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/406-27/407
G01N 27/409
G01N 27/411
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ素子が筒状のホルダに支持されており、前記センサ素子に使用されているイオン伝導性セラミックスに生じる起電力に基づいてガス濃度を検出するガスセンサの製造方法であって、
前記ホルダは、その一端側に、中心軸に直交する方向における内周面間の距離である内周面間距離が不連続に拡大した段部が形成されていることにより、該段部より開口側の拡開部と、前記段部より内側で前記内周面間距離が前記拡開部より小さい内側筒部とを有しており、
前記センサ素子は、外形における最大長さが、前記拡開部の前記内周面間距離より小さいと共に前記内側筒部の前記内周面間距離より大きい素子本体を有しており、
前記段部にガラス製リングを載置した上で、該ガラス製リングに前記素子本体を載置し、
加熱により前記ガラス製リングを軟化させつつ、前記センサ素子を前記段部に向かって押圧する加熱押圧工程により、前記段部と前記素子本体との間、及び、前記拡開部の内周面と前記素子本体との間に、ガラスの封止層を形成する
ことを特徴とするガスセンサの製造方法。
【請求項2】
前記センサ素子は、前記素子本体の一端に、外形における最大長さが前記内側筒部の前記内周面間距離及び前記ガラス製リングの内径より小さい突出部を更に有しており、
前記ガラス製リングに前記素子本体を載置する際に、前記突出部を前記内側筒部に挿入し、
前記加熱押圧工程により、前記内側筒部の内周面と前記突出部との間に、ガラスの封止層を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載のガスセンサの製造方法。
【請求項3】
センサ素子が筒状のホルダに支持されており、前記センサ素子に使用されているイオン伝導性セラミックスに生じる起電力に基づいてガス濃度を検出するガスセンサであって、
前記ホルダは、その一端側に、中心軸に直交する方向における内周面間の距離である内周面間距離が不連続に拡大した段部が形成されることにより、該段部より開口側の拡開部と、前記段部より内側で前記内周面間距離が前記拡開部より小さい内側筒部とを有しており、
前記センサ素子は、外形における最大長さが、前記拡開部の前記内周面間距離より小さいと共に前記内側筒部の前記内周面間距離より大きい素子本体を有しており、
前記段部と前記素子本体との間、及び、前記拡開部の内周面と前記素子本体との間に、ガラスの封止層が形成されている
と共に、
前記センサ素子は、前記素子本体の一端に、外形における最大長さが前記内側筒部の前記内周面間距離及び前記ガラスの封止層の内径より小さく、前記内側筒部に挿入されている突出部を更に有しており、
前記内側筒部の内周面と前記突出部との間にもガラスの封止層が形成されている
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項4】
前記ホルダは、前記イオン伝導性セラミックスとは異なる非イオン伝導性のセラミックス製であり、
前記センサ素子
のマトリクスは、前記イオン伝導性セラミックスの相と、前記ホルダを構成するセラミックスと同一のセラミックス相との混在相であり、前記イオン伝導性セラミックスの相が連続していることによりイオンの伝導路が形成されている
ことを特徴とする請求項3に記載のガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性セラミックスをセンサ素子に使用して気相または液相におけるガス濃度を検出するガスセンサの製造方法、及び、該製造方法により製造されるガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオン伝導性セラミックス(固体電解質)をセンサ素子に使用して、水素ガス、酸素ガス、炭酸ガス、水蒸気などのガス濃度を検出するガスセンサが種々提案されており、本出願人も過去に複数の提案を行っている。これらのガスセンサは、同一イオンの濃度差により固体電解質に電位差が生じる濃淡電池の原理を使用したものであり、センサ素子を挟んだ二つの空間で検出対象のガスの濃度が異なる場合に、センサ素子に生じる起電力を測定する。二つの空間のうち、第一の空間において検出対象ガスの濃度が既知であれば、ネルンストの式により、測定された起電力とセンサ素子の温度から、第二の空間におけるガス濃度を知ることができる。或いは、第一の空間のガス濃度を一定とした状態で、第二の空間におけるガス濃度を変化させて起電力を測定して予め検量線を作成しておくことにより、ガス濃度が未知の場合の起電力の測定値から、第二の空間のガス濃度を知ることができる。
【0003】
従って、このようなガスセンサでは、センサ素子によって二つの空間が区画されている必要がある。従来のガスセンサでは、筒状のホルダの一端に封止材を介してセンサ素子を固定することにより、二つの空間を区画している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところが、センサ素子とホルダとの間を完璧に気密に封止することは、このとのほか難しく、ごく僅かな空隙が残存し易いのが実情である。センサ素子とホルダとの間にごく僅かでも空隙が存在すると、検出対象ガスの濃度が既知である空間のガス(基準ガス)と測定ガス(測定雰囲気のガス)とが混合してしまい、正確な測定ができない。特に、測定ガスと基準ガスとで検出対象ガスの濃度差が大きい場合は、ガスの混合による検出結果への影響が大きい。また、検出対象ガスが水素の場合、分子のサイズが小さいため、空隙のサイズが極めて小さい場合であっても通過し易く、ガスの混合による検出結果への影響が大きい。
【0005】
そこで、本出願人は既に、ガラス製リングを加熱により軟化させつつ他の部材で押圧することにより、変形したガラスで封止層を形成し、センサ素子とホルダとの間を気密に封止する方法を提案している(特許文献2参照)。本出願は、この提案と同様にセンサ素子とホルダとの間を気密に封止できると共に、より簡易に封止層を形成することができる手段を探求する過程でなされたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-174832号公報
【文献】特開2018-84483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のように、センサ素子とホルダとの間が封止層で気密に封止されていることによりセンサ素子を挟んだ二つの空間のガスの混合が抑止されていると共に、より簡易に封止層を形成することができるガスセンサの製造方法、及び該製造方法により製造されるガスセンサの提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明にかかるガスセンサの製造方法(以下、単に「製造方法」と称することがある)は、
「センサ素子が筒状のホルダに支持されており、前記センサ素子に使用されているイオン伝導性セラミックスに生じる起電力に基づいてガス濃度を検出するガスセンサの製造方法であって、
前記ホルダは、その一端側に、中心軸に直交する方向における内周面間の距離である内周面間距離が不連続に拡大した段部が形成されていることにより、該段部より開口側の拡開部と、前記段部より内側で前記内周面間距離が前記拡開部より小さい内側筒部とを有しており、
前記センサ素子は、外形における最大長さが、前記拡開部の前記内周面間距離より小さいと共に前記内側筒部の前記内周面間距離より大きい素子本体を有しており、
前記段部にガラス製リングを載置した上で、該ガラス製リングに前記素子本体を載置し、
加熱により前記ガラス製リングを軟化させつつ、前記センサ素子を前記段部に向かって押圧する加熱押圧工程により、前記段部と前記素子本体との間、及び、前記拡開部の内周面と前記素子本体との間に、ガラスの封止層を形成する」ものである。
【0009】
「筒状のホルダ」は、円筒状、楕円筒状、角筒状とすることができる。「内周面間距離」は「ホルダの中心軸に直交する方向における内周面間の距離」であるため、ホルダが円筒である場合は「内径」であり、ホルダが四角筒状である場合は対向する内周面間の距離である。
【0010】
本製造方法では、ガラス製リングを加熱により軟化・変形させて、ホルダの内周面とセンサ素子との双方に密着させることにより、両者の間にガラスの封止層を形成する。加熱により軟化したガラスは接着性が高いため、ホルダの内周面ともセンサ素子の外表面とも良好に密着する。
【0011】
特に、本製造方法では、筒状のホルダの内周面に段部を形成している一方で、センサ素子の素子本体をホルダの段部に載置可能な外形寸法、すなわち、ホルダにおいて段部より開口側の部分である拡開部の内周面間距離より小さく、段部より内側の部分である内側筒部の内周面間距離より大きい外形寸法としている。そのため、素子本体をホルダの段部に載置することができる。なお、センサ素子は、段部に載置できる外形寸法の素子本体を有していれば、ホルダに支持させた状態でホルダの開口から突出する部分に、外形寸法がホルダの内周面間距離より大きい部分を有していても良いし、後述するように内側筒部に挿入される外形寸法の部分を有していても良い。
【0012】
ホルダの段部にガラス製リングを載置した状態で、更にその上に素子本体を載置し、加熱しつつセンサ素子を段部に向かって押圧する。そうすると、加熱により軟化したガラスが押圧力によって変形して、段部と素子本体との間で充分に広がり、段部と素子本体との双方に密着する。同時に、軟化したガラスが素子本体によって押圧されることにより、ホルダにおける拡開部の内周面と素子本体との間の空隙にも浸入し、ホルダの内周面と素子本体との双方に密着する。従って、ガラスが固化すれば、ホルダの段部と素子本体との間、及び、ホルダにおける拡開部の内周面と素子本体との間に、ホルダと素子本体の双方に密着したガラスの封止層が形成される。この封止層により、センサ素子を挟んだ二つの空間が気密に区画されるため、二つの空間のガスの混合が効果的に抑止される。
【0013】
このように、本製造方法では、段部にガラス製リングを載置するため、加熱し押圧する工程においてガラス製リングの位置決めが容易であり、押圧力をガラス製リングに十分に作用させることができる。また、ホルダに保持させるセンサ素子自体でガラス製リングを押圧しているため、他の部材を使用してガラスを押圧する場合に比べて、加熱押圧工程が極めて簡易である。
【0014】
本発明にかかるガスセンサの製造方法は、上記構成に加え、
「前記センサ素子は、前記素子本体の一端に、外形における最大長さが前記内側筒部の前記内周面間距離及び前記ガラス製リングの内径より小さい突出部を更に有しており、
前記ガラス製リングに前記素子本体を載置する際に、前記突出部を前記内側筒部に挿入し、
前記加熱押圧工程により、前記内側筒部の内周面と前記突出部との間に、ガラスの封止層を形成する」ものとすることができる。
【0015】
本構成では、センサ素子が素子本体の一端に突出部を有しており、この突出部はホルダの内側筒部に挿入できる外形寸法である。すなわち、突出部の外形における最大長さは、ホルダの内側筒部の内周面間距離より小さいと共に、ガラス製リングの内径よりも小さい。そのため、段部に載置したガラス製リングにセンサ素子を載置した際、突出部が内側筒部に挿入される。この状態で、加熱しつつセンサ素子を段部に向かって押圧すると、軟化したガラスがホルダにおける内側筒部の内周面とセンサ素子の突出部との間の空隙にも浸入し、ガラスの封止層が形成される。これにより、センサ素子とホルダとの間を、より確実に気密に封止することができる。
【0016】
また、センサ素子の表面には、ホルダの外部空間側で電極(外側電極)を形成する一方で、ホルダの内部空間側で電極(内側電極)を形成する必要がある。上記のように、加熱により軟化し押圧されたガラスは、ホルダにおける内側筒部の内周面とセンサ素子の突出部との間の空隙に浸入することにより、突出部の側周面に密着する。そのため、センサ素子においてホルダの内部空間に開放されるべき部分に、ガラスが回り込んで接着することが防止される。従って、センサ素子においてホルダの内部空間に接する面に、内側電極を問題なく形成することができる。
【0017】
次に、本発明にかかるガスセンサは、
「センサ素子が筒状のホルダに支持されており、前記センサ素子に使用されているイオン伝導性セラミックスに生じる起電力に基づいてガス濃度を検出するガスセンサであって、
前記ホルダは、その一端側に、中心軸に直交する方向における内周面間の距離である内周面間距離が不連続に拡大した段部が形成されることにより、該段部より開口側の拡開部と、前記段部より内側で前記内周面間距離が前記拡開部より小さい内側筒部とを有しており、
前記センサ素子は、外形における最大長さが、前記拡開部の前記内周面間距離より小さいと共に前記内側筒部の前記内周面間距離より大きい素子本体を有しており、
前記段部と前記素子本体との間、及び、前記拡開部の内周面と前記素子本体との間に、ガラスの封止層が形成されている」ものである。
【0018】
これは、上記の製造方法により製造されるガスセンサである。ガラス製リングが軟化して変形することにより形成されたガラスの封止層が、センサ素子の素子本体とホルダの内周面との間を気密に封止しているため、センサ素子を挟んだ二つの空間が気密に区画されており、二つの空間のガスの混合が効果的に抑止される。
【0019】
本発明にかかるガスセンサは、上記構成に加え、
「前記センサ素子は、前記素子本体の一端に、外形における最大長さが前記内側筒部の前記内周面間距離及び前記ガラスの封止層の内径より小さく、前記内側筒部に挿入されている突出部を更に有しており、
前記内側筒部の内周面と前記突出部との間にもガラスの封止層が形成されている」ものである。
【0020】
これは、センサ素子が突出部を備えている場合の製造方法により製造されるガスセンサである。内側筒部の内周面と突出部との間にもガラスの封止層が形成されていることにより、センサ素子とホルダとの間がより確実に気密に封止されている。また、突出部の存在により製造時においてガラスの過剰分が回り込むことが防止されているため、センサ素子においてホルダの内部空間に接する面にガラスの付着がなく、内側電極を問題なく形成することができる。
【0021】
本発明にかかるガスセンサは、上記構成に加え、
「前記ホルダは、前記イオン伝導性セラミックスとは異なる非イオン伝導性のセラミックス製であり、
前記センサ素子のマトリクスは、前記イオン伝導性セラミックスの相と、前記ホルダを構成するセラミックスと同一のセラミックス相との混在相であり、前記イオン伝導性セラミックスの相が連続していることによりイオンの伝導路が形成されている」ものとすることができる。
【0022】
固体電解質は、一般的に、数百℃から1000℃の高温域でイオン伝導性を示すため、これをセンサ素子とするガスセンサは高温雰囲気で使用される。ところが、センサ素子がホルダに封着されたガスセンサを高温雰囲気での測定に使用すると、センサ素子またはホルダに亀裂が生じることがある。特に、センサ素子は、外側電極と内側電極との間の部分における温度差を低減するために薄く形成されることが多く、ホルダより機械的強度が低いことが多いため、センサ素子の方に亀裂が発生し易い。センサ素子及びホルダの何れに亀裂が発生したとしても、二つの空間の区画が不完全となりガスが混合してしまう。
【0023】
本構成では、センサ素子のマトリクスを、ホルダを構成するセラミックスと同一のセラミックス相と、イオン伝導性セラミックス相との混在相としているため、センサ素子の熱膨張係数をホルダの熱膨張係数に近づけることができる。これにより、ガスセンサを高温雰囲気で使用する際に、熱膨張の大きさの差に起因してセンサ素子及びホルダに亀裂が生じるおそれを、低減することができる。ここで、「混在相」とは、イオン伝導性セラミックス相と、ホルダを構成するセラミックスと同一のセラミックス相とが、それぞれ別個の相でありながら、共にセンサ素子のマトリックスを構成している状態を指している。
【0024】
ホルダを構成するセラミックスはイオン伝導性を示さないものであるが、そのセラミックス相がセンサ素子のマトリクスに存在しても、イオン伝導性セラミックス相が連続してイオンの伝導路(電気パス)が形成されているため、センサ素子のイオン伝導性が損なわれることなく、センサ素子に生じる起電力に基づいて、正常にガス濃度を検出することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によれば、センサ素子とホルダとの間が封止層で気密に封止されていることによりセンサ素子を挟んだ二つの空間のガスの混合が抑止されていると共に、より簡易に封止層を形成することができるガスセンサの製造方法、及び該製造方法により製造されるガスセンサを、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】(a)本発明の一実施形態である製造方法で使用するセンサ素子の斜視図であり、(b),(c)本実施形態の製造方法の説明図である。
【
図2】
図1の製造方法で製造されたガスセンサの縦断面図である。
【
図3】
図2のガスセンサを使用し、測定ガスの酸素濃度を変化させた場合の起電力の測定値に基づき算出された酸素濃度の変化を示すグラフである。
【
図4】(a)変形例のセンサ素子の斜視図であり、(b)
図4(a)のセンサ素子の縦断面図(X-X線断面図)である。
【
図5】(a)他の変形例のセンサ素子の斜視図であり、(b)
図5(a)のセンサ素子の縦断面図(Y-Y線断面図)である。
【
図6】(a)更に他の変形例のセンサ素子の斜視図であり、(b)
図6(a)のセンサ素子の縦断面図(Z-Z線断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態であるガスセンサの製造方法、及び、製造されるガスセンサ1について、
図1及び
図2を用いて説明する。ガスセンサ1は、センサ素子10が筒状のホルダ20に支持されたものであり、センサ素子10に使用されているイオン伝導性セラミックスに生じる起電力に基づいてガス濃度を検出する。
【0028】
まず、本実施形態の製造方法で使用するセンサ素子10、ホルダ20、及びガラス製リング30の構成について説明する。ホルダ20は、酸化アルミニウム、ムライト等のセラミックスで形成されている。ホルダ20の形状は円筒であり、その一端の開口側で、内径(中心軸に直交する方向における内周面間の距離である内周面間距離)が不連続に拡大した段部23が形成されていることにより、段部23より開口側の拡開部21と、段部23より内側の内側筒部22とを有している。従って、内側筒部22の内径R2は拡開部21の内径R1より小さい。
【0029】
センサ素子10は、素子本体11と、素子本体11の一端から突出した突出部12を備えている。素子本体11は円柱状であり、突出部12は同軸の円柱状で素子本体11より外径が小さい。これにより、センサ素子10はその外周面において素子本体11と突出部12との境に段部13を有している。より具体的な外形寸法として、素子本体11の外径(外形における最大長さ)はホルダ20の拡開部21の内径R1より小さいと共に、内側筒部22の内径R2より大きい。突出部12の外径は、内側筒部22の内径R2より小さいと共に、ガラス製リング30の内径より小さい。また、センサ素子10は、素子本体11の端部から突出部12の端部に向かって、貫通しない円形の孔部15が穿設されていることにより、全体として有底筒状の形状を呈している。
【0030】
ガラス製リング30は円環状であり、その外径はホルダ20における拡開部21の内径R1より小さい共に内側筒部22の内径R2より大きい。ガラス製リング30の内径は、内側筒部22の内径R2より小さい場合を図示しているが、加熱による変形によってホルダ20とセンサ素子10とを密着させられる体積を有していれば、内側筒部22の内径R2より内径が大きくてもよい。
【0031】
上記構成のセンサ素子10、ホルダ20、及びガラス製リング30を使用した本実施形態の製造方法は、ホルダ20に対してセンサ素子10、及びガラス製リング30をセットするセット工程と、加熱によりガラス製リング30を軟化させ、押圧により変形させる加熱押圧工程と、軟化したガラスを固化(硬化)させる冷却工程とを具備している。
【0032】
セット工程に先立ち、センサ素子10に内側電極42及び外側電極41を形成する。内側電極42は、突出部12において素子本体11とは反対側の端面に形成する。一方、外側電極41は、センサ素子10の孔部15の底部から内周面にかけて形成すると共に、突出部12とは反対側の端面に形成することができる。なお、
図1(a)~
図1(c)では、内側電極42及び外側電極41の図示を省略している。
【0033】
セット工程では、まず、ガラス製リング30をホルダ20の段部23に載置する。ガラス製リング30の外径は拡開部21の内径R1より小さいと共に内側筒部22の内径R2より大きいことから、問題なく段部23上に載置される。そして更に、ガラス製リング30の上にセンサ素子10の素子本体11を載置する。素子本体11の外径は拡開部21の内径R1より小さく内側筒部22の内径R2より大きいことから、問題なく段部23に載置されたガラス製リング30の上に載置することができる。これにより、センサ素子10の段部13がガラス製リング30を介してホルダ20の段部23と接触する。また、センサ素子10は突出部12を有しており、突出部12の外径は、内側筒部22の内径R2より小さいため(ここでは、内側筒部22の内径R2より小さいガラス製リング30の内径より小さいため)、素子本体11をガラス製リング30の上に載置する際、突出部12が内側筒部22に挿入される。
【0034】
加熱押圧工程では、加熱によりガラス製リング30を軟化させた状態で、センサ素子10を段部に向かって押圧する。これにより、軟化したガラス製リング30に押圧力が作用することにより、ガラス製リング30は押し広げられるように変形し、ホルダ20の段部23及びセンサ素子10の段部13それぞれの全面に密着する。同時に、軟化したガラスは、ホルダ20における拡開部21の内周面とセンサ素子10における素子本体11の外周面との間の空隙に浸入すると共に、ホルダ20における内側筒部22の内周面とセンサ素子10における突出部12の外周面との間の空隙に浸入する。
【0035】
冷却工程では、センサ素子10をホルダ20の段部23に向かって押圧する力を除き、冷却する。これにより、軟化し変形したガラスが硬化し、ホルダ20の段部23とセンサ素子10の段部13との間、ホルダ20における拡開部21の内周面とセンサ素子10における素子本体11の外周面との間、及び、ホルダ20における内側筒部22の内周面とセンサ素子10における突出部12の外周面との間に、ガラスの封止層34が形成される。
【0036】
以上の工程により、
図2に示す構成のガスセンサ1が製造される。すなわち、センサ素子10が円筒状のホルダ20に支持されており、ホルダ20は、その一端側に、内径が不連続に拡大した段部23が形成されることにより、段部23より開口側の拡開部21と、段部23より内側で内径が拡開部21より小さい内側筒部22とを有しており、センサ素子10は、円柱状で外径が拡開部21の内径より小さいと共に内側筒部22の内径より大きい素子本体11を有していると共に、素子本体11と同軸の円柱状で外径が内側筒部22の内径より小さい突出部12を有しており、段部23と素子本体11の外周面との間、拡開部21の内周面と素子本体11の外周面との間、及び、内側筒部22の内周面と突出部12の外周面との間に、ガラスの封止層34が形成されているガスセンサ1である。
【0037】
ここで、
図2のガスセンサ1は、ホルダ20の内部空間にガスを導入する導入管48、センサ素子10の温度を測定するための熱電対49、外側電極41に電気的に接続されているリード線45、及び、内側電極42に電気的に接続されているリード線46を備えている。このような構成により、ガス導入管48に基準ガスを導入し、内側電極42及び外側電極41によってセンサ素子10に生じる起電力を測定することにより、外側電極41に接する空間におけるガス濃度を検出することができる。或いは、外側電極41を基準ガスに接触させ、ガス導入管48によってホルダ20の内部空間に測定ガスを導入し、内側電極42及び外側電極41によってセンサ素子10に生じる起電力を測定することにより、測定ガスにおけるガス濃度を検出することができる。なお、このガスセンサ1では、センサ素子10において突出部12とは反対側の先端部を、ホルダ20の外部空間に露出させている。
【0038】
実際に、センサ素子10を構成するイオン伝導性セラミックスをZr0.92Y0.08O2-αとしたガスセンサ1を使用し、ホルダ20の内部空間に酸素濃度が既知である基準ガスを導入し、外側電極41に接する空間に酸素ガスの濃度の異なる複数のガスを流通させたときの起電力を、温度600℃で測定した。
【0039】
測定された起電力に基づき算出した酸素濃度を、外側電極41に接する空間に流通させたガスの酸素濃度と共に
図3に示す。
図3から分かるように、酸素濃度の変化に伴い起電力は迅速に応答して変化し、酸素濃度が一定の間は起電力も一定に保持されていた。このことから、ホルダ20の内部空間と外部空間との間でガスの混合はなく、ガラスの封止層34によって二つの空間が気密に区画されていることが確認された。なお、起電力に基づいて算出した酸素濃度は、外側電極41に接する空間に流通させたガスの酸素濃度と一致しており、本構成のガスセンサ1で酸素濃度が正確に測定できることが確認された。
【0040】
以上のように、本実施形態の製造方法によれば、段部23と素子本体11との間、拡開部21の内周面と素子本体11の外周面との間、及び、内側筒部22の内周面と突出部12の外周面との間に、ガラスの封止層34を形成することにより、センサ素子10とホルダ20との間を気密に封止することができる。特に、ホルダ20の段部にガラス製リング30を載置するため、加熱押圧工程においてガラス製リング30の位置決めが容易であり、押圧力をガラス製リング30に十分に作用させることができる。また、ホルダ20に保持させるセンサ素子10自体でガラス製リング30を押圧しているため、他の部材を使用してガラスを押圧する場合に比べて、加熱押圧工程が極めて簡易である。
【0041】
また、本実施形態のセンサ素子10は内側筒部22に挿入される突出部12を有しているため、軟化し押圧されたガラスの過剰分が、センサ素子10においてホルダ20の内部空間に開放されるべき面に回り込むことなく、内側筒部22の内周面と突出部12との間の空隙に浸入する。これにより、センサ素子10においてホルダ20の内部空間に接する面に、内側電極42を問題なく形成することができる。
【0042】
加えて、センサ素子10には孔部15が穿設されており、少なくとも孔部15の底部に外側電極41が形成されていることにより、外側電極41と内側電極42との間でセンサ素子10の厚さが小さいものとなる。これにより、外側電極41と内側電極42との間の部分でセンサ素子10の温度が均一となり易く、起電力に基づくガス濃度の検出を、より正確に行うことができる。
【0043】
ここで、センサ素子10は上記形状のセンサ素子10に限定されず、
図4~
図6に示す形状のセンサ素子10b,10c,10dとすることができる。
図4に示すセンサ素子10bがセンサ素子10と相違する点は、突出部12とは反対側の先端部に、周方向の溝16が形成されている点である。この溝16の内周面まで外側電極(図示を省略)を形成し、リード線をこの溝に巻き付けることにより、外側電極とリード線との電気的な接続を、より確実なものとすることができる。
【0044】
図5に示すセンサ素子10cがセンサ素子10と相違する点は、孔部15がない一方で、センサ素子10cの全長(センサ素子10cを構成する円柱状の素子本体11及び円柱状の突出部12それぞれの軸方向の長さの和)が、センサ素子10の全長より小さい点である。これにより、孔部15がなくても、外側電極と内側電極との間でセンサ素子10cの厚さを小さくすることができるため、外側電極と内側電極との間の部分でセンサ素子10cの温度が均一となり易く、起電力に基づくガス濃度の検出を、より正確に行うことができる。
【0045】
図6に示すセンサ素子10dは、孔部15がなく全長が小さい点でセンサ素子10cと同様であるが、突出部12とは反対側の先端部に、複数の溝17が交差する方向に形成されている点でセンサ素子10cと相違している。溝17の底部に外側電極を形成すれば、外側電極と内側電極との間でセンサ素子10dの厚さが小さいものとなるため、外側電極と内側電極との間の部分でセンサ素子10dの温度が均一となり易く、起電力に基づくガス濃度の検出を、より正確に行うことができる。
【0046】
次に、第二実施形態の製造方法について説明する。第二実施形態の製造方法が第一実施形態の製造方法と相違する点は、ホルダを、センサ素子に使用するイオン伝導性セラミックスとは異なる非イオン伝導性のセラミックス製とすると共に、センサ素子のマトリクスを、イオン伝導性セラミックスの相と、ホルダを構成するセラミックスと同一のセラミックス相との混在相で、且つ、イオン伝導性セラミックスの相が連続していることによりイオンの伝導路が形成されているものとする点である。
【0047】
これにより、センサ素子の熱膨張係数をホルダの熱膨張係数に近づけることができ、高温雰囲気でのガスセンサの使用に際して、熱膨張の大きさの差に起因してセンサ素子及びホルダに亀裂が生じるおそれを、低減することができる。センサ素子とホルダとの熱膨張係数の差は、常温から1000℃の温度範囲での絶対値で2.0×10-6K-1未満とすることが望ましい。
【0048】
また、ホルダを構成するセラミックスはコランダム(酸化アルミニウム)とし、センサ素子に使用するイオン伝導性セラミックスは、80質量%以上がジルコニア(酸化ジルコニウム)であるジルコニア系イオン伝導性セラミックスとすることが望ましい。ここで、ジルコニア系イオン伝導性セラミックスは、ジルコニアに酸化物ドーパントがドープされたものであり、酸化物ドーパントとしては、Y2O3、YbO3、CaO、MgO、SrO、CeOを例示することができる。
【0049】
コランダムは耐熱性、高温下での機械的強度、コスト等において、バランスの良いセラミックスである。そして、コランダムの構成元素とジルコニアの構成元素とは反応しないため、センサ素子のマトリクスを、ジルコニア系イオン伝導性セラミックス相とコランダム相とが、別個の相として混在している相とすることができる。
【0050】
実際にイットリアがドープされたジルコニア((Y2O3)a(ZrO2)1-a)とコランダムとが、質量比で50:50となるように調製した混合材料を、センサ素子の形状に成形し、1600℃の酸化雰囲気下で焼成してセンサ素子S1とした。一方、比較のために、同一組成の((Y2O3)a(ZrO2)1-a)のみからなる同一形状のセンサ素子S0を、同一の焼成条件で作製した。センサ素子S1、センサ素子S0、及び、コランダム製のホルダHについて、ガスセンサの使用温度域である600℃~1000℃で熱膨張率を測定した。測定された熱膨張率を熱膨張係数に換算した結果を、表1に示す。
【0051】
【0052】
表1に示すように、常温から1000℃の温度範囲で、比較例のセンサ素子S0とホルダHとの熱膨張係数の差は絶対値で2.36×10-6K-1~3.21×10-6K-1という大きな値であった。これに対し、本実施形態のセンサ素子S1とホルダHとの熱膨張係数の差は絶対値で0.13×10-6K-1~0.97×10-6K-1であり、熱膨張係数の差が大幅に低減されていた。
【0053】
また、他の実施形態として。ジルコニア系イオン伝導性セラミックスであるSrZrYbにコランダムを26質量%添加したセンサ素子を、コランダム製のホルダに保持させたガスセンサを製造した。このガスセンサについて、ホルダの内部空間に0.2MPaに加圧した空気を導入し、リークする気体の流量を測定したところ、気体のリークは全く生じていなかった。これにより、ホルダとセンサ素子との間がガラスの封止層で気密に封止されていると共に、センサ素子においてもホルダにおいても亀裂が生じていないことが確認された。
【0054】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0055】
例えば、上記の実施形態では、センサ素子の全体について、その外径がホルダの内径より小さい場合を例示した。これに限定されず、センサ素子は、ホルダの段部に載置できる外径寸法の素子本体を有していれば、ホルダから突出することとなる部分に、ホルダの内径より大きい部分を有していても構わない。
【符号の説明】
【0056】
1 固体電解質センサ
10,10b,10c,10d センサ素子
11 素子本体
12 突出部
20 ホルダ
21 拡開部
22 内側筒部
23 段部
25 開口
30 ガラス製リング
34 ガラスの封止層