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特許7116637導電性高分子分散液及びその製造方法、並びに導電性フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】導電性高分子分散液及びその製造方法、並びに導電性フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20220803BHJP
   C08L 25/18 20060101ALI20220803BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20220803BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20220803BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20220803BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20220803BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220803BHJP
   C08J 3/09 20060101ALI20220803BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
C08L65/00
C08L25/18
C08L101/12
C08L83/04
H01B1/20 A
H01B1/12 F
H01B13/00 Z
H01B13/00 503B
C08J3/09 CET
C08J5/18 CEZ
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018158628
(22)【出願日】2018-08-27
(65)【公開番号】P2019199591
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2018092350
(32)【優先日】2018-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-094495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
H01B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体が水系分散媒中に含まれる水分散液にカルボン酸エステル化合物を添加し、導電性複合体を析出させて析出物を得た後、前記析出物を回収することと、
回収した析出物に有機溶剤を添加することと、を含む、導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項2】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体が水系分散媒中に含まれる水分散液を乾燥して導電性複合体の乾燥体を得ることと、
前記乾燥体にカルボン酸エステル化合物及び有機溶剤を添加することと、を含む、導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項3】
バインダ成分を添加することをさらに含む、請求項又はに記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項4】
前記カルボン酸エステル化合物の添加により、前記ポリアニオンが有する一部のアニオン基が、該アニオン基の酸素原子に結合して下記化学式(A)を形成する反応により変性される、請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【化1】
[化学式(A)において、R は、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、又はアリール基のいずれかである。]
【請求項5】
前記有機溶剤がメチルエチルケトンを含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶剤が非水溶性有機溶剤を含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項7】
前記有機溶剤がトルエンを含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項8】
前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、請求項1~7のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項9】
前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸である、請求項1~8のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項10】
前記バインダ成分が、シリコーン化合物である、請求項3に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項11】
前記シリコーン化合物が、付加硬化型シリコーンである、請求項10に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の製造方法により導電性高分子分散液を得ることと、フィルム基材の少なくとも一方の面に前記導電性高分子分散液を塗工することと、塗工した導電性高分子分散液を乾燥することとを含む、導電性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子を含有する導電性高分子分散液及びその製造方法、並びに導電性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電層を形成するための塗料として、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)にポリスチレンスルホン酸がドープした導電性高分子水分散液を使用することがある。
通常、導電層が塗布されるフィルム基材は疎水性のプラスチックフィルムからなる。そのため、水系塗料である前記導電性高分子水分散液は、フィルム基材との密着性が低い傾向にあった。また、導電性高分子水分散液は乾燥時間が長くなるため、導電層形成の生産性が低くなる傾向にあった。
そこで、導電性高分子水分散液の分散媒である水を有機溶剤に置換した導電性高分子有機溶剤分散液を用いることがある。
導電性高分子有機溶剤分散液としては、π共役系導電性高分子及びポリアニオンからなる導電性複合体を含む導電性高分子水分散液を凍結乾燥して乾燥体を得た後、該乾燥体に有機溶剤及びアミン化合物を添加して得たものが知られている(特許文献1)。
しかし、アミン化合物を含む導電性高分子有機溶剤分散液から形成される導電層は、導電性高分子水分散液から形成される導電層よりも導電性が低くなる、色調が変化するなどの問題を生じることがあった。また、導電層に離型性を発現させるために導電性高分子有機溶剤分散液に付加硬化型シリコーンを配合した場合、アミン化合物の存在によって付加硬化型シリコーンが硬化阻害を起こすことがあった。したがって、アミン化合物を用いた導電性高分子有機溶剤分散液では、導電層に充分な離型性を発現させることはできなかった。
【0003】
前記問題の対策として、π共役系導電性高分子及びポリアニオンからなる導電性複合体を含む導電性高分子水分散液に、オキシラン基及びオキセタン基の少なくとも一方を有する環状エーテル化合物を添加して、導電性高分子有機溶剤分散液を得ることが知られている(特許文献2)。特許文献2に記載の方法では、π共役系導電性高分子にドープしていないアニオン基に、環状エーテル化合物のオキシラン基又はオキセタン基を反応させて疎水化することにより、導電性複合体を有機溶剤分散性にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-032382号公報
【文献】国際公開第2014/125827号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2に記載の方法においても、有機溶剤に対する導電性複合体の分散性が不充分になることがあり、特許文献2に記載の導電性高分子有機溶剤分散液から形成した導電層においては、導電性が低くなることがあった。
そこで、本発明は、分散媒として有機溶剤を用いているにもかかわらず、導電性複合体の分散性が高く、導電性が高い導電層を容易に形成できる導電性高分子分散液及びその製造方法を提供することを目的とする。また、導電性が高い導電層を容易に形成できる導電性フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1]π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、有機溶剤とを含有し、前記ポリアニオンは、アニオン基を有すると共に、一部のアニオン基の酸素原子に下記化学式(A)で表される置換基が結合している、導電性高分子分散液。
[化学式(A)において、Rは、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、又はアリール基のいずれかである。]
[2]前記有機溶剤の含有量が前記導電性高分子分散液の総質量に対して50質量%以上99.9質量%以下である、[1]に記載の導電性高分子分散液。
[3]前記有機溶剤がメチルエチルケトンを含有する、[1]又は[2]に記載の導電性高分子分散液。
[4]前記有機溶剤が非水溶性有機溶剤を含有する、[1]~[3]のいずれか一に記載の導電性高分子分散液。
[5]前記有機溶剤がトルエンを含有する、[1]~[4]のいずれか一に記載の導電性高分子分散液。
[6]前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、[1]~[5]のいずれか一に記載の導電性高分子分散液。
[7]前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸である、[1]~[6]のいずれか一に記載の導電性高分子分散液。
[8]バインダ成分をさらに含有する、[1]~[7]のいずれか一に記載の導電性高分子分散液。
[9]前記バインダ成分が、シリコーン化合物である、[8]に記載の導電性高分子分散液。
[10]前記シリコーン化合物が、付加硬化型シリコーンである、[9]に記載の導電性高分子分散液。
【0007】
【化1】
【0008】
[11]π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体が水系分散媒中に含まれる水分散液にカルボン酸エステル化合物を添加し、導電性複合体を析出させて析出物を得た後、前記析出物を回収することと、回収した析出物に有機溶剤を添加することと、を含む、導電性高分子分散液の製造方法。
[12]π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体が水系分散媒中に含まれる水分散液を乾燥して導電性複合体の乾燥体を得ることと、前記乾燥体にカルボン酸エステル化合物及び有機溶剤を添加することと、を含む、導電性高分子分散液の製造方法。
[13]バインダ成分を添加することをさらに含む、[11]又は[12]に記載の導電性高分子分散液の製造方法。
[14]フィルム基材の少なくとも一方の面に、[1]~[10]のいずれか一に記載の導電性高分子分散液を塗工することと、塗工した導電性高分子分散液を乾燥することとを含む、導電性フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の導電性高分子分散液は、分散媒として有機溶剤を用いているにもかかわらず、導電性複合体の分散性が高く、導電性が高い導電層を容易に形成できる。
本発明の導電性高分子分散液の製造方法によれば、上記効果を有する導電性高分子分散液を容易に製造できる。
本発明の導電性フィルムの製造方法によれば、導電性が高い導電層を容易に形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<導電性高分子分散液>
以下、本発明の導電性高分子分散液の一態様について説明する。
本態様の導電性高分子分散液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、有機溶剤とを含有する。
【0011】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば本発明の効果を有する限り特に制限されず、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0012】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
上記π共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0013】
(ポリアニオン)
ポリアニオンとは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。質量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィを用いて測定し、ポリスチレン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0014】
ポリアニオンが、π共役系導電性高分子にドープすることによって導電性複合体を形成する。ただし、ポリアニオンにおいては、全てのアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープせず、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有している。この余剰のアニオン基は親水基であるため、後述するようにカルボン酸エステル化合物と反応させる前の状態では、導電性複合体は水分散性が高く、有機溶剤分散性が低い。
【0015】
本態様で使用されるポリアニオンは、アニオン基を有すると共に、一部のアニオン基の酸素原子に上記化学式(A)で表される置換基が結合している。すなわち、アニオン基のプロトンが上記化学式(A)で表される置換基に置換されている。
化学式(A)におけるRは、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、又はアリール基のいずれかであり、これらの基のなかでも、アルキル基が好ましい。
アルキル基としては、炭素数1以上12以下のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基等が挙げられる。炭素数3以上のアルキル基は直鎖状でもよいし、分枝状でもよい。
ヒドロキシアルキル基としては、炭素数1以上12以下のヒドロキシアルキル基、例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基等が挙げられる。
アリール基としては、炭素数6以上12以下のアリール基、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基等が挙げられる。
【0016】
化学式(A)で表される置換基は、ポリアニオンのアニオン基とカルボン酸エステル化合物との反応によって形成された疎水性置換基である。この反応により、ポリアニオンの一部のアニオン基におけるプロトンを前記疎水性置換基に置き換えることができる。
カルボン酸エステル化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。つまり、前記疎水性置換基は1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0017】
カルボン酸エステル化合物としては、例えば、下記化学式(B)で表される化合物が挙げられる。化学式(B)におけるR,Rは、各々独立して、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、又はアリール基のいずれかであり、これらの基のなかでも、R及びR共にアルキル基が好ましい。
化学式(B)におけるR,Rの種類は、化学式(A)におけるRと同様である。
【0018】
【化2】
【0019】
化学式(B)で表されるカルボン酸エステル化合物としては、例えば、モノカルボン酸のカルボキシ基とアルコールのヒドロキシ基とが脱水縮合することにより得られたエステル化合物が挙げられる。
前記モノカルボン酸としては、炭素数1以上12以下の飽和脂肪酸、例えば、ギ酸(メタン酸)、酢酸(エタン酸)、プロピオン酸(プロパン酸)、酪酸(ブタン酸)、吉草酸(ペンタン酸)、カプロン酸(ヘキサン酸)、エナント酸(ヘプタン酸)、カプリル酸(オクタン酸)、ペラルゴン酸(ノナン酸)、カプリン酸(デカン酸)、ラウリン酸(ドデカン酸)等が挙げられる。炭素数3以上のモノカルボン酸は直鎖状でもよいし、分枝状でもよい。
また、前記モノカルボン酸として、ヒドロキシ酸、芳香族カルボン酸等を使用することもできる。ヒドロキシ酸としては、例えば、グリコール酸、乳酸等が挙げられる。芳香族カルボン酸としては、例えば、安息香酸、メチル安息香酸、ジメチル安息香酸等が挙げられる。
前記モノカルボン酸は1種でもよいし、2種以上でもよい。
前記アルコールとしては、炭素数1以上12以下のアルコール、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール等が挙げられる。炭素数3以上のアルコールは直鎖状でもよいし、分枝状でもよい。
また、前記アルコールとして、ジオール、芳香族アルコール等を使用することもできる。ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール等が挙げられる。芳香族アルコールとしては、例えば、ベンジルアルコール等が挙げられる。
前記アルコールは1種でもよいし、2種以上でもよい。
前記モノカルボン酸と前記アルコールとの組み合わせは任意である。
【0020】
前記カルボン酸エステル化合物は、ラクトンであってもよい。ラクトンは、1分子内に1個のカルボキシ基及び1個のヒドロキシ基を有するヒドロキシ酸より得られ、1分子内のカルボキシ基とヒドロキシ基とが脱水縮合することにより得られた環状エステル化合物である。
ラクトンとしては、例えば、α-アセトラクトン、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン等が挙げられる。
【0021】
前記カルボン酸エステル化合物と反応するアニオン基の量(すなわち、上記化学式(A)で表される置換基を有する一部のアニオン基の量)は、ポリアニオンの全アニオン基のモル数に対して0.1モル%以上90モル%以下であることが好ましく、1モル%以上80モル%以下であることがより好ましい。カルボン酸エステル化合物と反応するアニオン基の量が前記下限値以上であれば、カルボン酸エステル化合物との反応によってポリアニオンを充分に疎水化できる。カルボン酸エステル化合物と反応するアニオン基の量が前記上限値以下であれば、導電性を確保できる。
反応制御性及び脱ドープ防止の点から、ポリアニオンは、一部のアニオン基にエポキシ化合物及びアミン化合物の少なくとも一方が反応して形成した疎水性置換基を実質的に有さないことが好ましい。例えば、全疎水性置換基のモル数に対して、アニオン基にエポキシ化合物及びアミン化合物の少なくとも一方が反応して形成した疎水性置換基の割合が0.01モル%未満であることが好ましい。
【0022】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、10質量部以上700質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲であることがさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、導電性複合体を容易に疎水化できる。
【0023】
導電性高分子分散液の総質量に対する、前記導電性複合体の含有量は、例えば、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.2質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.4質量%以上5.0質量%以下がさらに好ましい。
【0024】
(有機溶剤)
本態様で使用される有機溶剤は、水溶性有機溶剤でもよいし、非水溶性有機溶剤でもよいし、水溶性有機溶剤及び非水溶性有機溶剤の両方でもよい。ここで、水溶性有機溶剤は、温度20℃において水100gに対して溶解量が1g以上の有機溶剤であり、非水溶性有機溶剤は、温度20℃において水100gに対して溶解量が1g未満の有機溶剤である。
【0025】
水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、窒素原子含有溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
窒素原子含有溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本態様の導電性高分子分散液を導電層形成用塗工液として使用する場合、塗工液としての適性が良好になることから、水溶性有機溶剤としてはメチルエチルケトンが好ましい。
【0026】
非水溶性有機溶剤としては、例えば、炭化水素系溶剤等が挙げられる。炭化水素系溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。
脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
非水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
非水溶性有機溶剤のなかでも、本態様における導電性高分子分散液を容易に製造できる点では、芳香族炭化水素系溶剤が好ましく、トルエンがより好ましい。
【0027】
本態様の導電性高分子分散液における有機溶剤の含有割合は、導電性高分子分散液の総質量に対して有機溶剤が50質量%以上99.9質量%以下であることが好ましく、70質量%以上99.9質量%以下であることがより好ましく、90質量%以上99.9質量%以下であることがさらに好ましい。有機溶剤の含有割合が前記下限値以上であれば、疎水化された導電性複合体を容易に分散させることができ、前記上限値以下であれば、導電性高分子分散液から容易に導電層を形成できる。
【0028】
(バインダ成分)
本態様の導電性高分子分散液は、得られる導電層の製膜性を向上させるために、バインダ成分を含有してもよい。
本態様の導電性高分子分散液は、分散媒として有機溶剤を使用しているため、バインダ成分として、低極性であるシリコーン化合物を好適に使用できる。
【0029】
シリコーン化合物としては、硬化型シリコーンが挙げられる。バインダ成分が硬化型シリコーンである場合、硬化型シリコーンを硬化させることにより、導電層に離型性を発現させることができる。
硬化型シリコーンは、付加硬化型シリコーン、縮合硬化型シリコーンのいずれであってもよい。本態様では、付加硬化型シリコーンを使用しても硬化阻害が生じにくいため、好適である。
付加硬化型シリコーンとしては、シロキサン結合を有する直鎖状ポリマーであって、前記直鎖の両方の末端にビニル基を有するポリジメチルシロキサンと、ハイドロジェンシランとを有するものが挙げられる。このような付加硬化型シリコーンは、付加反応によって三次元架橋構造を形成して硬化する。硬化を促進させるために白金系硬化触媒を用いてもよい。
付加硬化型シリコーンの具体例としては、KS-3703T、KS-847T、KM-3951、X-52-151、X-52-6068、X-52-6069(信越化学工業社製)等が挙げられる。
付加硬化型シリコーンは有機溶剤に溶解又は分散しているものが好適に使用される。
【0030】
また、バインダ成分としては、シリコーン化合物以外の、熱可塑性樹脂(例えばポリエステル等)、熱硬化性化合物(例えば多官能エポキシ化合物等)、活性エネルギー線硬化性化合物(例えばアクリル化合物等)を使用してもよい。熱硬化性化合物を使用する場合には、熱重合開始剤をさらに含有することが好ましく、活性エネルギー線硬化性化合物を使用する場合には、光重合開始剤をさらに含有することが好ましい。
【0031】
バインダ成分の含有割合は、前記導電性複合体100質量部に対して50質量部以上100000質量部以下であることが好ましく、100質量部以上50000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上10000質量部以下であることがさらに好ましい。バインダ成分の含有割合が前記下限値以上であれば、得られる導電層の強度及び硬度を充分に向上させることができ、前記上限値以下であれば、充分な導電性を確保できる。
【0032】
(高導電化剤)
導電性高分子分散液は、導電性をより向上させるために、高導電化剤を含んでもよい。
ここで、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、カルボン酸エステル化合物、有機溶剤及びバインダ成分は、高導電化剤に分類されない。
高導電化剤は、糖類、窒素含有芳香族性環式化合物、2個以上のヒドロキシ基を有する化合物、1個以上のヒドロキシ基および1個以上のカルボキシ基を有する化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、ラクタム化合物、グリシジル基を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
導電性高分子分散液に含有される高導電化剤は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
高導電化剤の含有割合は導電性複合体の100質量部に対して、1質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上2500質量部以下であることがさらに好ましい。
高導電化剤の含有割合が前記下限値以上であれば、高導電化剤添加による導電性向上効果が充分に発揮され、前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子濃度の低下に起因する導電性の低下を防止できる。
【0033】
(その他の添加剤)
導電性高分子分散液には、公知のその他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。ただし、添加剤は、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、カルボン酸エステル化合物、有機溶剤、バインダ成分及び高導電化剤以外の化合物からなる。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
導電性高分子分散液が上記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体の固形分100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0034】
(導電性高分子分散液の製造方法)
本態様の導電性高分子分散液を製造する方法としては、析出と回収と分散とを含む第1の製造方法と、乾燥と分散とを含む第2の製造方法が挙げられる。
【0035】
[第1の製造方法]
・析出
第1の製造方法における析出は、導電性複合体を含む導電性高分子水分散液にカルボン酸エステル化合物を添加し、前記導電性複合体を析出させて析出物を形成させることである。
前記水分散液にカルボン酸エステル化合物を添加した際には、前記導電性複合体を構成するポリアニオンの一部のアニオン基、具体的にはπ共役系導電性高分子へのドープに関与しないアニオン基とカルボン酸エステル化合物との反応が生じる。その反応の際には、エステル結合の形成と共に、脱アルコール、具体的には前記カルボン酸エステル化合物からROHの脱離が生じる。この反応により、ポリアニオンのアニオン基のプロトンが化学式(A)で表される疎水性置換基に置換されて、導電性複合体が疎水化される。
但し、π共役系導電性高分子へのドープに関与しないアニオン基の全てにカルボン酸エステル化合物が反応しなくてもよく、ドープに関与しないアニオン基が一部残留してもよい。
疎水化された導電性複合体(以下、「疎水化導電性複合体」ということがある。)は、水系分散媒中で分散することができないため、析出して析出物となる。
【0036】
カルボン酸エステル化合物の添加量は、導電性複合体100質量部に対して、1質量部以上100000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上50000質量部以下であることがより好ましく、50質量部以上10000質量部以下であることがさらに好ましい。カルボン酸エステル化合物の添加量が前記下限値以上であれば、導電性複合体の疎水性を充分に向上させることができる。カルボン酸エステル化合物の添加量が前記上限値以下であれば、導電性高分子分散液から形成される導電層の導電性低下を防止できる。
【0037】
第1の製造方法において、ポリアニオンのアニオン基にカルボン酸エステル化合物を反応させる際には、エポキシ化合物及びアミン化合物の少なくとも一方を添加しないことが好ましい。エポキシ化合物及びアミン化合物の少なくとも一方を添加する場合であっても、その添加量は、導電性複合体100質量部に対して1質量部未満であることが好ましい。
【0038】
前記析出において、カルボン酸エステル化合物が添加される前記導電性高分子水分散液は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体が水系分散媒中に含まれる分散液である。ここで、水系分散媒は、水を含有し、水溶性有機溶剤を含んでもよい。水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
水系分散媒における水の含有量は50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%であってもよい。
導電性高分子水分散液は、例えば、ポリアニオンの水溶液中で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを化学酸化重合することにより得られる。また、導電性高分子水分散液は市販のものを使用しても構わない。
前記化学酸化重合には、公知の触媒を適用してもよい。例えば、触媒及び酸化剤を用いることができる。触媒としては、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。酸化剤は、還元された触媒を元の酸化状態に戻すことができる。
導電性高分子水分散液に含まれる導電性複合体の含有量としては、導電性高分子分散液の総質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.3質量%以上5質量%以下が好ましく、0.5質量%以上4質量%以下がより好ましい。
【0039】
導電性高分子水分散液にカルボン酸エステル化合物を添加する前、添加と同時又は添加した後には、有機溶剤を添加してもよい。カルボン酸エステル化合物は疎水性であるため、有機溶剤に分散させてから導電性高分子水分散液に添加することが好ましい。カルボン酸エステル化合物を有機溶剤に分散させた溶液におけるカルボン酸エステル化合物の濃度は、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、3質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
有機溶剤としては、水溶性有機溶剤が好ましい。水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。水溶性有機溶剤を含む場合、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
導電性高分子水分散液にカルボン酸エステル化合物及び有機溶剤を添加することにより調製される調製液において、導電性複合体、水、カルボン酸エステル化合物及び有機溶剤の好ましい濃度は、下記の通りである。
前記調製液の総質量に対して導電性複合体の濃度は、0.01質量%以上10質量%以下にすることが好ましく、0.1質量%以上5質量%以下にすることがより好ましい。
前記調製液の総質量に対して水の濃度は、20質量%以上80質量%以下にすることが好ましく、30質量%以上70質量%以下にすることがより好ましい。
前記調製液の総質量に対してカルボン酸エステル化合物の濃度は、0.1質量%以上50質量%以下にすることが好ましく、1質量%以上40質量%以下にすることがより好ましい。
前記調製液の総質量に対して有機溶剤の濃度は、20質量%以上80質量%以下にすることが好ましく、30質量%以上70質量%以下にすることがより好ましい。
前記調製液における各成分の濃度が前記範囲内であれば、導電性複合体のポリアニオンのアニオン基にカルボン酸エステル化合物を容易に反応させることができ、また、析出物を容易に回収できる。
【0041】
導電性高分子水分散液にカルボン酸エステル化合物を添加する前、添加している最中、又は添加した後には、例えば50℃以上100℃以下の範囲で加熱してもよい。加熱により、アニオン基とカルボン酸エステル化合物との反応を促進させることができる。
また、導電性高分子水分散液にカルボン酸エステル化合物を添加している最中、又は添加した後には、攪拌、混合することが好ましい。
【0042】
・回収
第1の製造方法における回収は、疎水化導電性複合体からなる前記析出物を回収することである。
析出物を、水系分散媒から分取して回収する方法としては、例えば、ろ過、沈殿、抽出等の公知の分取方法を適用できる。これらの分取方法のなかでも、ろ過が好ましく、導電性複合体の形成に用いたポリアニオンがろ液とともに通過する程度に粗い目のフィルターを用いてろ過することが好ましい。このろ過方法によれば、析出物を分取するとともに、導電性複合体を形成していない余剰のポリアニオンをろ液側に残して、析出物と余剰のポリアニオンとを分離することができる。余剰のポリアニオンを除くことにより、析出物の導電性を高めることができる。
【0043】
ろ過に使用するフィルターとしては、化学分析分野で用いられるろ紙が好ましい。このろ紙としては、例えば、アドバンテック社製ろ紙、保留粒子径7μm等が挙げられる。ここで、ろ紙の保留粒子径は目の粗さの目安であり、JIS P 3801〔ろ紙(化学分析用)〕で規定された硫酸バリウムなどを自然ろ過したときの漏えい粒子径により求められる。ろ紙の保留粒子径は、例えば2μm以上20μm以下とすることができる。この保留粒子径は、余剰のポリアニオンを透過させて容易に分離できることから、5μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0044】
・分散
第1の製造方法における分散は、回収した前記析出物を有機溶剤に分散させることである。この分散によって、疎水化導電性複合体が有機溶剤中に分散している導電性高分子分散液を得る。
析出物を有機溶剤に分散させる際には、析出物を含む有機溶剤に分散処理を施すことが好ましい。分散処理としては、有機溶剤への析出物の分散性を高くできる点では、加圧可能な高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
【0045】
・バインダ成分の添加
本態様の導電性高分子分散液にバインダ成分を含有させる場合には、導電性高分子水分散液、析出物、又は、前記分散によって得られた導電性高分子分散液に、バインダ成分を添加すればよい。
これら添加方法のうち、導電性高分子分散液中にバインダ成分を安定に分散させるためには、前記分散によって得られた導電性高分子分散液にバインダ成分を添加することが好ましい。
バインダ成分が付加硬化型シリコーンである場合には、付加硬化型シリコーンと共に硬化触媒を添加することが好ましい。
【0046】
・高導電化剤、添加剤の添加
第1の製造方法において、高導電化剤、添加剤等を導電性高分子分散液に添加する場合、その添加方法としては、例えば、下記(i)~(iii)の方法が挙げられる。
(i)析出する前の導電性高分子水分散液に、高導電化剤、添加剤よりなる群から選ばれる1種を添加する方法。
(ii)析出物に、高導電化剤、添加剤よりなる群から選ばれる1種を添加する方法。
(iii)前記分散によって得られた導電性高分子分散液に、高導電化剤、添加剤よりなる群から選ばれる1種を添加する方法。
これらの方法のなかでも、前記分散によって得られた導電性高分子分散液中に、高導電化剤、添加剤よりなる群から選ばれる1種を安定に分散できる点では、(iii)の方法が好ましい。
【0047】
[第2の製造方法]
・乾燥
第2の製造方法における乾燥は、導電性高分子水分散液から水を除去し、乾燥して、乾燥体を得ることである。第2の製造方法において使用する導電性高分子水分散液は、第1の製造方法において使用する導電性高分子水分散液と同様である。
導電性高分子水分散液の乾燥方法としては、例えば、導電性高分子水分散液を凍結乾燥する方法、導電性高分子水分散液を加熱乾燥する方法、導電性高分子水分散液を真空乾燥する方法、導電性高分子水分散液を加熱真空乾燥する方法、膜分離により水を除去する方法等が挙げられる。前記の水の除去方法のなかでも、導電性複合体を劣化させることなく導電性高分子水分散液の水を充分に除去できることから、導電性高分子水分散液を凍結乾燥する方法が好ましい。
凍結乾燥では、前記導電性高分子水分散液中の水分を凍結させ、真空乾燥する。凍結乾燥の際の温度は、0℃以下とすることが好ましい。凍結乾燥温度が前記上限値以下であれば、水分を凍結させやすい。また、凍結乾燥温度は-60℃以上とすることが好ましく、-40℃以上とすることがより好ましい。凍結乾燥温度が前記下限値以上であれば、温度を容易に調整できる。
【0048】
この乾燥では、得られる乾燥体の総質量に対する水の含有量が好ましくは0質量%以上50質量%以下、より好ましくは0質量%以上10質量%以下になるまで水を除去する。
乾燥体における水の含有量を前記上限値以下にすれば、本態様の導電性高分子分散液の総質量に対する水の含有量を容易に1.0質量%以下にできる。
【0049】
・分散
第2の製造方法における分散は、前記乾燥により得た乾燥体にカルボン酸エステル化合物を加え、有機溶剤を混合して、導電性複合体を含む乾燥体を有機溶剤に分散させることである。この分散によって、疎水化導電性複合体が有機溶剤中に分散している導電性高分子分散液を得る。
この分散においては、乾燥体にカルボン酸エステル化合物を加えることによって、乾燥体に含まれるポリアニオンの一部のアニオン基とカルボン酸エステル化合物との反応を生じさせる。これにより、化学式(A)で表される置換基を形成して、疎水化導電性複合体を得る。得られた疎水化導電性複合体を有機溶剤に分散させる。
アニオン基とカルボン酸エステル化合物との反応を促進するために、乾燥体にカルボン酸エステル化合物を添加した後には、例えば50℃以上100℃以下の範囲で加熱してもよい。
【0050】
乾燥体にカルボン酸エステルを添加する前、添加と同時又は添加した後には、有機溶剤を添加してもよい。カルボン酸エステルは疎水性であるため、有機溶剤に分散させてから乾燥体に添加することが好ましい。カルボン酸エステルを有機溶剤に分散させた溶液におけるカルボン酸エステルの濃度は、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、3質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
有機溶剤としては、水溶性有機溶剤が好ましい。水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤が挙げられる。水溶性有機溶剤を含む場合、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0051】
疎水化導電性複合体を有機溶剤に分散させる際には、疎水化導電性複合体を含む有機溶剤に分散処理を施すことが好ましい。第1の製造方法と同様に、分散処理においては、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
【0052】
カルボン酸エステル化合物の添加量は、第1の製造方法と同様に、導電性複合体100質量部に対して、1質量部以上100000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上50000質量部以下であることがより好ましく、50質量部以上10000質量部以下であることがさらに好ましい。
【0053】
第2の製造方法において、ポリアニオンのアニオン基にカルボン酸エステル化合物を反応させる際には、エポキシ化合物及びアミン化合物の少なくとも一方を添加しないことが好ましい。エポキシ化合物及びアミン化合物の少なくとも一方を添加する場合であっても、その添加量は、導電性複合体100質量部に対して1質量部未満であることが好ましい。
【0054】
・バインダ成分の添加
本態様の導電性高分子分散液にバインダ成分を含有させる場合には、導電性高分子水分散液、乾燥体、又は、前記分散によって得られた導電性高分子分散液に、バインダ成分を添加すればよい。
導電性高分子分散液中にバインダ成分を安定に分散させるためには、前記分散によって得られた導電性高分子分散液にバインダ成分をさらに添加することが好ましい。
バインダ成分が付加硬化型シリコーンである場合には、付加硬化型シリコーンと共に硬化触媒を添加することが好ましい。
【0055】
・高導電化剤、添加剤の添加
第2の製造方法において、高導電化剤、添加剤等を導電性高分子分散液に添加する場合、その添加方法としては、例えば、下記(iv)~(vi)の方法が挙げられる。
(iv)乾燥する前の導電性高分子水分散液に、高導電化剤、添加剤よりなる群から選ばれる1種を添加する方法。
(v)乾燥体に、高導電化剤、添加剤よりなる群から選ばれる1種を添加する方法。
(vi)前記分散によって得られた導電性高分子分散液に、高導電化剤、添加剤よりなる群から選ばれる1種を添加する方法。
これらの方法のなかでも、前記分散によって得られた導電性高分子分散液中に、高導電化剤、添加剤よりなる群から選ばれる1種を安定に分散できる点では、(vi)の方法が好ましい。
【0056】
(作用効果)
本態様においては、導電性複合体が、ポリアニオンの一部のアニオン基とカルボン酸エステル化合物との反応により形成した疎水性置換基、具体的には化学式(A)で表される置換基を有しているため、疎水化されている。そのため、分散媒として有機溶剤を用いているにもかかわらず、導電性複合体の分散性を高くすることができる。また、導電性複合体の分散性が高い導電性高分子分散液を塗工することにより、導電層中の導電性複合体の分散性も高くできるため、導電性が高い導電層を容易に形成できる。
アミン化合物等によってポリアニオンのアニオン基を疎水化した場合には、π共役系導電性高分子からポリアニオンのアニオン基が脱ドープして導電性が低下することがある。
しかし、本態様のように、カルボン酸エステル化合物をアニオン基に反応させることによってポリアニオンを疎水化する場合には、π共役系導電性高分子からのポリアニオンのアニオン基の脱ドープが起きにくい。そのため、ポリアニオンを疎水化した際の導電層の低下を抑制できる。この点からも、導電性高分子分散液から形成した導電層の導電性を高めることができる。
また、分散媒の主成分が有機溶媒である本態様の導電性高分子分散液は、バインダ成分、特にシリコーン化合物等の疎水性のバインダ成分を高い分散性で分散できる。バインダ成分を含む導電性高分子分散液から形成した導電層は、強度が高いものとなる。バインダ成分がシリコーン化合物である場合には、剥離性が高い導電層を容易に形成できる。
【0057】
<導電性フィルムの製造方法>
以下、本発明の導電性フィルムの製造方法の一態様について説明する。
本態様の導電性フィルムの製造方法は、フィルム基材の少なくとも一方の面に、前記態様の導電性高分子分散液を塗工することと、塗工した導電性高分子分散液からなる塗膜(導電層)を乾燥させることとを含む方法である。
【0058】
本態様の製造方法において使用するフィルム基材としては、例えば、プラスチックフィルム、紙が挙げられる。
プラスチックフィルムを構成するフィルム基材用樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。これらのフィルム基材用樹脂のなかでも、安価で機械的強度に優れる点から、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
前記フィルム基材用樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
また、フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
また、フィルム基材には、導電性高分子分散液から形成される導電層の密着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0059】
前記フィルム基材の平均厚みとしては、10μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上200μm以下であることがより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
【0060】
(塗工)
導電性高分子分散液を塗工する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた塗工方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
上記のうち、簡便に塗工できることから、バーコーターを用いることがある。バーコーターにおいては、種類によって塗工厚が異なり、市販のバーコーターでは、種類ごとに番号が付されており、その番号が大きい程、厚く塗工できるものとなっている。
前記導電性高分子分散液のフィルム基材への塗工量は特に制限されないが、固形分として、0.1g/m以上10.0g/m以下の範囲であることが好ましい。
【0061】
(乾燥)
塗工した導電性高分子分散液を乾燥する方法としては、例えば、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定され、例えば、50℃以上150℃以下に設定できる。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。
【0062】
前記導電性高分子分散液が熱硬化性のバインダ成分を含有する場合には、前記乾燥の際に加熱乾燥を適用することにより、塗膜を熱硬化させることが好ましい。
前記導電性高分子分散液が活性エネルギー線硬化性のバインダ成分を含有する場合には、前記乾燥工程後に、乾燥した導電性高分子の塗膜に活性エネルギー線を照射する活性エネルギー線照射工程をさらに有してもよい。活性エネルギー線照射工程を有すると、導電層の形成速度を速くでき、導電性フィルムの生産性が向上する。
活性エネルギー線照射工程を有する場合、使用される活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、可視光線等が挙げられる。紫外線の光源としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプなどの光源を用いることができる。
紫外線照射における照度は100mW/cm以上が好ましい。照度が100mW/cm未満であると、活性エネルギー線硬化性のバインダ成分が充分に硬化しないことがある。また、積算光量は50mJ/cm以上が好ましい。積算光量が50mJ/cm未満であると、充分に架橋しないことがある。なお、本明細書における照度、積算光量は、トプコン社製UVR-T1(工業用UVチェッカー、受光器;UD-T36、測定波長範囲;300nm以上390nm以下、ピーク感度波長;約355nm)を用いて測定した値である。
導電性高分子分散液がバインダ成分として硬化型シリコーンを含む場合には、シリコーンが未硬化であるため、基材に容易に密着できる。塗膜を硬化させると、シリコーンが硬化し、シリコーンの凝集力が向上するため、離型性を発現させることができる。
【0063】
(導電性フィルム)
本態様の製造方法により得られる導電性フィルムは、フィルム基材と、前記フィルム基材の少なくとも一方の面に形成された導電層とを備える。導電層は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体を含有する。導電層に含まれるポリアニオンの一部のアニオン基の水素原子は前記化学式(A)で表される疎水性置換基に置換されている。導電性高分子分散液がバインダ成分を含む場合には、導電層にバインダ成分又はバインダ成分が硬化した硬化物が含まれる。
前記導電層の平均厚さとしては、10nm以上20000nm以下であることが好ましく、20nm以上10000nm以下であることがより好ましく、30nm以上5000nm以下であることがさらに好ましい。導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、充分に高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層を容易に形成できる。
本明細書における平均厚さは、任意の10箇所について断面を観察して厚さを測定し、それらの測定値を平均した値である。
【0064】
(作用効果)
上記態様の導電性高分子分散液は、有機溶剤中で導電性複合体が高分散に分散しているから、導電性高分子分散液から形成される導電層中においても導電性複合体を高分散に含有させることができる。そのため、導電層の導電性を充分に高くできる。
また、導電性高分子分散液がシリコーン化合物を含む場合、導電性高分子分散液中でシリコーン化合物が高分散に分散しているから、導電性高分子分散液から形成される導電層中のシリコーン化合物の分散性を高くできる。そのため、シリコーン化合物によって発現する導電層の離型性を充分に高くできる。
また、本態様の導電性フィルムの製造方法では、親油性が高い上記態様の導電性高分子分散液をフィルム基材に塗工するため、導電性高分子分散液から形成される導電層はフィルム基材に対する密着性が高い。
【実施例
【0065】
(製造例1)
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃にて攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、その溶液を12時間攪拌した。
得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、限外ろ過法を用いてポリスチレンスルホン酸含有溶液の1000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶媒を除去し、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0066】
(製造例2)
14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、製造例1で得た36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。これにより得られた混合溶液を20℃に保ち攪拌を行いながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくりと添加し、3時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。次に、得られた溶液に、200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶媒を除去し、ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)を水洗した。この操作を8回繰り返して、固形分濃度1.2質量%のPEDOT-PSS水分散液を得た。なお、PEDOT-PSS固形分に対するPSSの含有量は75質量%である。
【0067】
(製造例3)
製造例2で得たPEDOT-PSS水分散液100gに、メタノール300gとデカン酸メチル25gを添加し、80℃で4時間加熱攪拌した。これにより、PEDOT-PSSとデカン酸メチルとから形成された導電性複合体の析出物を得た。その析出物をろ取し、メタノール100gをかけ流して洗浄し、1.3gの導電性複合体を得た。
【0068】
(製造例4)
製造例2で得たPEDOT-PSS水分散液100gに、メタノール300gと酪酸メチル25gを添加し、80℃で4時間加熱攪拌した。これにより、π共役系導電性高分子とポリアニオンと酪酸メチルとから形成された導電性複合体の析出物を得た。その析出物をろ取し、メタノール100gをかけ流して洗浄し、1.2gの導電性複合体を得た。
【0069】
(実施例1)
製造例3で得た導電性複合体1.3gにメチルエチルケトン300gを添加し、高圧ホモジナイザーを用いて分散処理して導電性高分子分散液を得た。
得られた導電性高分子分散液を、No.14のバーコーターを用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、ルミラーT60)に塗布し、100℃、1分間乾燥させ、非離型性導電層を形成して、導電性フィルムを得た。
また、得られた導電性高分子分散液8.55gに、付加硬化型シリコーン(信越化学工業株式会社製、KS-3703T、固形分濃度30質量%、トルエン溶液)0.15gと白金触媒(信越化学工業株式会社製、CAT-PL-50T)0.03gを混合して、シリコーン含有導電性高分子分散液を得た。
得られたシリコーン含有導電性高分子分散液を、No.14のバーコーターを用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、ルミラーT60)に塗布し、150℃、1分間乾燥させ、離型性導電層を形成して、導電性離型フィルムを得た。
【0070】
(実施例2)
製造例3で得た導電性複合体1.3gを製造例4で得た導電性複合体1.2gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、導電性フィルム及び導電性離型フィルムを得た。
【0071】
(比較例1)
製造例2で得たPEDOT-PSS水分散液にメタノール300gを添加し、80℃で4時間加熱撹拌した。得られた溶液をろ過したが、析出物がろ紙上に残らなかったため、導電性高分子分散液の製造を中止した。
【0072】
<評価>
[表面抵抗値の測定]
各例の導電性フィルム及び導電性離型フィルムについて、導電層の表面抵抗値を、抵抗率計(株式会社三菱化学アナリテック製ハイレスタ)を用い、印加電圧10Vの条件で測定した。測定結果を表1に示す。
[剥離力の測定]
各例の導電性離型フィルムの導電層における下記の方法により剥離力を測定して離型性を評価した。
各例の導電性離型フィルムの導電層の表面に幅25mmポリエステル粘着テープ(日東電工株式会社製、No.31B)を載せ、その粘着テープの上に1976Paの荷重を載せて25℃で20時間加圧処理した。次に、JIS Z0237に従い、引張試験機を用いて、上記導電層に貼った上記粘着テープを180゜の角度で剥離(剥離速度0.3m/分)して、剥離力(単位:N)を測定した。測定結果を表1に示す。剥離力が小さい程、導電層の離型性が高いことを意味する。
【0073】
【表1】
【0074】
各実施例の導電性フィルム及び導電性離型フィルムは表面抵抗値が小さく、高い導電性を有していた。また、各実施例の導電性離型フィルムは剥離力が小さく、高い離型性を有していた。