(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】ベーンポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 2/344 20060101AFI20220803BHJP
F04C 15/00 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
F04C2/344 331D
F04C15/00 E
(21)【出願番号】P 2018169639
(22)【出願日】2018-09-11
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米原 康裕
(72)【発明者】
【氏名】中村 善也
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-317660(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0153690(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/344
F04C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動されるロータと、
前記ロータの外周面に開口する複数のスリットと、
前記スリットに摺動自在に収装される複数のベーンと、
前記ロータの回転に伴って前記複数のベーンの先端部が摺接する内周カム面を有するカムリングと、
前記ロータ及び前記カムリングを挟んで配置される一対のサイド部材と、
前記ロータ、前記カムリング、隣り合う前記ベーン、前記一対のサイド部材によって画成されるポンプ室と、
前記ポンプ室に吸い込まれる作動流体を導く吸込ポートと、
前記ポンプ室から吐出される作動流体を導く吐出ポートと、
前記サイド部材の前記ベーンが摺動する面に設けられる凹部と、を備え、
前記凹部は、前記吸込ポートの終端と前記吐出ポートの始端との間に設けられ、回転する前記ベーンの側面が前記凹部を通過する際に、作動流体を一時的に保持
し、
前記凹部の周方向の長さは、前記ベーンの厚み以下であり、
前記ポンプ室を画成する一対の前記ベーンの一方が前記吐出ポートの始端部に位置し、前記一対のベーンの他方が前記凹部に位置したときに、前記吐出ポートと前記凹部とが連通する
ことを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
回転駆動されるロータと、
前記ロータの外周面に開口する複数のスリットと、
前記スリットに摺動自在に収装される複数のベーンと、
前記ロータの回転に伴って前記複数のベーンの先端部が摺接する内周カム面を有するカムリングと、
前記ロータ及び前記カムリングを挟んで配置される一対のサイド部材と、
前記ロータ、前記カムリング、隣り合う前記ベーン、前記一対のサイド部材によって画成されるポンプ室と、
前記ポンプ室に吸い込まれる作動流体を導く吸込ポートと、
前記ポンプ室から吐出される作動流体を導く吐出ポートと、
前記サイド部材の前記ベーンが摺動する面に設けられる凹部と、
前記凹部の底部に接続するように前記サイド部材に形成され、前記凹部内の圧力よりも低い低圧部に前記凹部内の気体を排出する気体排出通路と、を備え、
前記凹部は、前記吸込ポートの終端と前記吐出ポートの始端との間に設けられ、回転する前記ベーンの側面が前記凹部を通過する際に、作動流体を一時的に保持し、
前記凹部の周方向の長さは、前記ベーンの厚み以下である
ことを特徴とするベーンポンプ。
【請求項3】
請求項1に記載のベーンポンプにおいて、
前記凹部は、前記ベーンが摺動する面にのみ開口している
ことを特徴とするベーンポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ハウジングに嵌装されたカムリングに回転自在に設けられたロータと、ロータの複数のスリット内にて摺動自在に収容された複数のベーンと、カムリングとロータとの間において複数のベーンにより区画された複数のポンプ室と、を備えたベーンポンプが記載されている。各ポンプ室は、ロータの回転により容積が変化し、ポンプ室に作動油が給排される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ベーンポンプでは、回転速度の高速化が要望されている。しかしながら、特許文献1に記載のベーンポンプでは、ベーンポンプを高速で回転させると、ポンプ室に作動流体を吸い込む過程で、吸い込んだ作動流体の一部が再びポンプ室外に排出され、ベーンポンプの容積効率が低下してしまうおそれがある。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、ベーンポンプの容積効率を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ベーンポンプであって、ロータと、ロータの外周面に開口する複数のスリットと、スリットに摺動自在に収装される複数のベーンと、ロータの回転に伴って複数のベーンの先端部が摺接する内周カム面を有するカムリングと、ロータ及びカムリングを挟んで配置される一対のサイド部材と、ロータ、カムリング、隣り合うベーン、一対のサイド部材によって画成されるポンプ室と、ポンプ室に吸い込まれる作動流体を導く吸込ポートと、ポンプ室から吐出される作動流体を導く吐出ポートと、サイド部材のベーンが摺動する面に設けられる凹部と、を備え、凹部は、吸込ポートの終端と吐出ポートの始端との間に設けられ、回転するベーンの側面が凹部を通過する際に、作動流体を一時的に保持し、凹部の周方向の長さは、ベーンの厚み以下であり、ポンプ室を画成する一対のベーンの一方が吐出ポートの始端部に位置し、一対のベーンの他方が凹部に位置したときに、吐出ポートと凹部とが連通することを特徴とする。
【0007】
この発明では、ベーンの側面が凹部を通過する際に、ベーンの回転方向前方側のポンプ室の作動流体が凹部に一時的に保持され、その後、凹部内の作動流体がベーンの回転方向後方側のポンプ室へ供給されることにより、ポンプ室が昇圧される。これにより、ポンプ室内における気体の体積を低減し、ポンプ室内における作動流体の体積を増加させることができるので、ベーンポンプの容積効率を向上することができる。
【0008】
本発明は、ベーンポンプであって、ロータと、ロータの外周面に開口する複数のスリットと、スリットに摺動自在に収装される複数のベーンと、ロータの回転に伴って複数のベーンの先端部が摺接する内周カム面を有するカムリングと、ロータ及びカムリングを挟んで配置される一対のサイド部材と、ロータ、カムリング、隣り合うベーン、一対のサイド部材によって画成されるポンプ室と、ポンプ室に吸い込まれる作動流体を導く吸込ポートと、ポンプ室から吐出される作動流体を導く吐出ポートと、サイド部材のベーンが摺動する面に設けられる凹部と、凹部の底部に接続するようにサイド部材に形成され、凹部内の圧力よりも低い低圧部に凹部内の気体を排出する気体排出通路と、を備え、凹部は、吸込ポートの終端と吐出ポートの始端との間に設けられ、回転するベーンの側面が凹部を通過する際に、作動流体を一時的に保持し、凹部の周方向の長さは、ベーンの厚み以下であることを特徴とする。
【0009】
この発明では、ベーンの側面が凹部を通過する際に、ベーンの回転方向前方側のポンプ室の作動流体が凹部に一時的に保持され、その後、凹部内の作動流体がベーンの回転方向後方側のポンプ室へ供給されることにより、ポンプ室が昇圧される。これにより、ポンプ室内における気体の体積を低減し、ポンプ室内における作動流体の体積を増加させることができるので、ベーンポンプの容積効率を向上することができる。
【0014】
本発明は、凹部が、ベーンが摺動する面にのみ開口している。
【0015】
この発明では、凹部は、ベーンが摺動する面にのみ開口しており、この開口以外からの作動流体の出入りがないため、安定してポンプ室を昇圧させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ベーンポンプの容積効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るベーンポンプの断面図である。
【
図2】
図2は、ロータ、ベーン及びカムリングの正面図であり、ロータ、ベーン及びカムリングを組み立てた状態を示す。
【
図3】
図3は、ボディ側サイドプレートの正面図である。
【
図4】
図4は、カバー側サイドプレートの正面図である。
【
図5】
図5は、
図2のV-V線に沿う油溜め部の断面模式図である。
【
図6】
図6は、油溜め部の位置について説明する図である。
【
図7】
図7は、油溜め部をベーンが通過する様子を示す図であり、ベーンが油溜め部に位置し、油溜め部が吐出ポートと連通している状態を示す。
【
図8】
図8は、油溜め部をベーンが通過する様子を示す図であり、油溜め部の開口がベーンによって塞がれている状態を示す。
【
図9】
図9は、油溜め部をベーンが通過する様子を示す図であり、ベーンの回転方向後側において油溜め部の開口が開放された状態を示す。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態の変形例に係るベーンポンプにおける油溜め部の位置について説明する図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施形態の別の変形例に係るベーンポンプにおける油溜め部の構成について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るベーンポンプについて説明する。ベーンポンプは、車両に搭載される流体圧機器(例えば、パワーステアリング装置や変速機等)の流体圧供給源として用いられる。ここでは、作動流体として作動油が用いられるベーンポンプについて説明するが、作動水等の他の流体を作動流体として用いてもよい。
【0019】
<第1実施形態>
図1から
図8を参照して本発明の第1実施形態に係るベーンポンプ100について説明する。
図1は、ベーンポンプ100の断面図である。
図2は、ロータ2、ベーン3及びカムリング4の正面図であり、ロータ2、ベーン3及びカムリング4を組み立てた状態を示す。
【0020】
図1及び
図2に示すように、ベーンポンプ100は、ポンプ収容凹部10Aが形成されたポンプボディ10と、ポンプ収容凹部10Aの開口部を覆い、ポンプボディ10に固定されるポンプカバー20と、ポンプボディ10及びポンプカバー20に軸受11,12を介して回転自在に支持される駆動シャフト1と、駆動シャフト1に連結され回転駆動されるロータ2と、ロータ2の外周面に開口する複数のスリット2sと、ロータ2のスリット2sに摺動自在に収装される複数のベーン3と、ロータ2及びベーン3を収容するカムリング4と、を備える。
【0021】
ベーンポンプ100は、例えばエンジン等の駆動装置(不図示)によって駆動され、駆動シャフト1に連結されたロータ2が、
図2の矢印で示すように時計回りに回転駆動されることにより流体圧を発生させる。
【0022】
以下において、ロータ2の回転軸に沿う方向を「軸方向」と称し、ロータ2の回転軸を中心とする放射方向を「径方向」と称し、ベーンポンプ100の作動時にロータ2が回転する方向を「回転方向」と称する。
【0023】
図1に示すように、ベーンポンプ100は、ロータ2の軸方向一端側に設けられ、ロータ2及びカムリング4の一方の側面に当接する第1サイド部材としてのボディ側サイドプレート30と、ロータ2の軸方向他端側に設けられ、ロータ2及びカムリング4の他方の側面に当接する第2サイド部材としてのカバー側サイドプレート40と、をさらに備える。
【0024】
ボディ側サイドプレート30は、ポンプ収容凹部10Aの底面とロータ2との間に設けられる。ボディ側サイドプレート30には、ロータ2の軸方向一端面が摺接するとともにカムリング4の軸方向一端面が当接する。カバー側サイドプレート40は、ロータ2とポンプカバー20との間に設けられる。カバー側サイドプレート40には、ロータ2の軸方向他端面が摺接するとともにカムリング4の軸方向他端面が当接する。
【0025】
このようにして、ボディ側サイドプレート30とカバー側サイドプレート40は、ロータ2及びカムリング4の両側面に対向する状態で配置される。つまり、ボディ側サイドプレート30及びカバー側サイドプレート40は、ロータ2及びカムリング4を軸方向に挟んで配置される。
【0026】
ボディ側サイドプレート30、ロータ2、カムリング4、及びカバー側サイドプレート40は、ポンプボディ10のポンプ収容凹部10Aに収容される。この状態で、ポンプボディ10にポンプカバー20が取付けられることで、ポンプ収容凹部10Aは封止される。
【0027】
図2に示すように、ロータ2には、複数のスリット2sが放射状に形成される。スリット2sは、ロータ2の外周に開口部2aを有する。スリット2sの開口部2aは、ロータ2の外周から径方向外側に隆起した隆起部23に形成される。つまり、ロータ2の外周にはスリット2sの数だけ隆起部23が形成される。隆起部23は、ベーン3を回転方向前後で支持する。
【0028】
ベーン3は、矩形平板状に形成される。ベーン3は、スリット2sに摺動自在に挿入され、スリット2sから突出する方向の端部である先端部3aと、先端部3aとは反対側の端部である基端部3bと、を有する。スリット2s内の底部側において、スリット2sの内周面とベーン3の基端部3bとによって背圧室5が画成される。背圧室5は後述する吐出ポート31に連通しており、背圧室5には吐出ポート31から高圧の作動流体としての作動油が導かれる。ベーン3は、背圧室5の圧力によってスリット2sから突出する方向に押圧される。なお、隣り合う背圧室5同士は、ロータ2の端面に設けられる連通溝2bによって連通している。
【0029】
カムリング4は、略長円形状をした内周面である内周カム面4aと、位置決めピン8が挿通するピン孔4bと、を有する環状の部材である。内周カム面4aは、ロータ2の回転に伴って複数のベーン3の先端部3aが摺接する面である。
【0030】
ロータ2が回転すると、ベーン3に遠心力が生じる。この遠心力によって、ベーン3はスリット2sから突出する方向に付勢される。つまり、ベーン3は、基端部3bを押圧する背圧室5の流体圧力と、ロータ2の回転に伴って働く遠心力と、によってスリット2sから突出する方向(径方向外方)に付勢される。ベーン3が径方向外方に付勢されると、ベーン3の先端部3aがカムリング4の内周カム面4aに摺接する。これにより、カムリング4の内部には、ロータ2の外周面、カムリング4の内周カム面4a、隣り合うベーン3、ボディ側サイドプレート30及びカバー側サイドプレート40によってポンプ室6が画成される。
【0031】
内周カム面4aは、ロータ2の回転中心軸Oからの径が短い短径部141と、短径部141よりもロータ2の回転中心軸Oからの径が長い長径部143と、短径部141から長径部143に向かって徐々にロータ2の回転中心軸Oからの距離が長くなる移行部142と、を有する。
【0032】
カムリング4の内周カム面4aは略長円形状であるので、ロータ2の回転に伴って内周カム面4aを摺接する各ベーン3間によって区画されるポンプ室6の容積は、拡張と収縮とを繰り返す。ポンプ室6が拡張する拡張領域(吸込領域)では作動油が吸入され、ポンプ室6が収縮する収縮領域(吐出領域)では作動油が吐出される。
【0033】
図2に示すように、本実施形態に係るベーンポンプ100は、ベーン3が1回目の往復動をする第一の吸込領域42a、第一の吐出領域42bと、ベーン3が2回目の往復動をする第二の吸込領域42c、第二の吐出領域42dとを有する。ポンプ室6は、ロータ2が1回転する間に、第一の吸込領域42aにて拡張し、第一の吐出領域42bにて収縮し、第二の吸込領域42cにて拡張し、第二の吐出領域42dにて収縮する。ベーンポンプ100は、2つの吸込領域42a,42c及び2つの吐出領域42b,42dを有するが、これに限らず、1つまたは3つ以上の吸込領域及び1つまたは3つ以上の吐出領域を有する構成としてもよい。
【0034】
図1に示すように、ポンプボディ10のポンプ収容凹部10Aの底面側には、ポンプボディ10とボディ側サイドプレート30によって環状の高圧室14が画成される。高圧室14は、吐出通路62を介してベーンポンプ100の外部の流体圧機器70(例えば、パワーステアリング装置、変速機等)に接続される。
【0035】
ポンプカバー20には低圧室21が形成され、ポンプ収容凹部10Aの内周面には低圧室21と連通する迂回通路13が形成される。迂回通路13は、カムリング4を挟んで対向する位置に二か所設けられる。低圧室21は、吸込通路61を介してタンク60に接続される。
【0036】
図1及び
図2に示すように、カムリング4には、その外周面から内周カム面4aに亘って貫通する切り欠き部4c,4dが設けられる。切り欠き部4cは、ボディ側サイドプレート30に接する側面に開口し、切り欠き部4dは、カバー側サイドプレート40に接する側面に開口する。
【0037】
図3は、カムリング4側から見たボディ側サイドプレート30の正面図である。
図3に示すように、ボディ側サイドプレート30は、ベーン3の側面が摺動する摺動面30aと、第一及び第二の吐出領域42b,42dのそれぞれに対応するように形成される吐出ポート31と、駆動シャフト1が挿通する貫通孔32と、第一及び第二の吸込領域42a,42cのそれぞれに対応するように形成される窪み部33と、位置決めピン8が挿通するピン孔39と、を有する板状部材である。
【0038】
吐出ポート31は、貫通孔32を挟んで対向する位置に二か所設けられる。吐出ポート31は、貫通孔32を中心とした円弧状に形成される。吐出ポート31は、ボディ側サイドプレート30を貫通し、ポンプボディ10に形成された高圧室14に連通する。吐出ポート31は、ポンプ室6から吐出される作動油を高圧室14に導く。高圧室14に流入した作動油は、吐出通路62を通じてベーンポンプ100の外部の流体圧機器70に供給される(
図1参照)。
【0039】
窪み部33は、貫通孔32を挟んで対向する位置に二か所設けられる。窪み部33は、ポンプ収容凹部10Aの迂回通路13に対応する位置に形成される。窪み部33は径方向外側に開口する凹形状となるように形成される。窪み部33の外周端はボディ側サイドプレート30の外周面まで達している。
【0040】
図1に示すように、ボディ側サイドプレート30をカムリング4に組み付けた状態では、ボディ側サイドプレート30の窪み部33がカムリング4の切り欠き部4cに臨む。迂回通路13内の作動油は、窪み部33と切り欠き部4cとによって形成されるポートを通じてポンプ室6に導かれる。つまり、ベーンポンプ100では、ボディ側サイドプレート30の窪み部33とカムリング4の切り欠き部4cとによって、吸込ポートとしての第1サイドポート51が形成される。第1サイドポート51は、低圧室21からポンプ室6に吸い込まれる作動油を導く。
【0041】
図3に示すように、ボディ側サイドプレート30の摺動面30aには、溝状の外側ノッチ37及び内側ノッチ36が形成される。外側ノッチ37及び内側ノッチ36は、吐出ポート31における、ロータ2の回転に伴ってポンプ室6が連通し始める連通開始側の端部(以下、始端部31eとも記す)に設けられ、吐出ポート31に連通する。吐出ポート31の始端部31eは円弧状に形成される。外側ノッチ37及び内側ノッチ36は、ロータ2の回転方向に向かって開口面積が徐々に大きくなるように形成される。外側ノッチ37は、内側ノッチ36より外周側に配置され、かつ内側ノッチ36よりもロータ2の回転方向の長さが短くなるように形成される。
【0042】
外側ノッチ37及び内側ノッチ36は、ロータ2の外周面とカムリング4の内周カム面4aとの間に配置される(
図2参照)。外側ノッチ37及び内側ノッチ36が形成されることにより、ポンプ室6が直接吐出ポート31に開口する前の段階で、外側ノッチ37及び内側ノッチ36を通じてポンプ室6に作動油が供給されることにより、ポンプ室6が昇圧されるので、高圧室14の急激な圧力変動が防止される。
【0043】
ボディ側サイドプレート30の摺動面30aには、貫通孔32を挟んで対向するように形成される一対の背圧溝34と、貫通孔32を挟んで対向するように形成される一対の背圧溝35と、を有する。一対の背圧溝35は、一対の背圧溝34に対して貫通孔32を中心として略90°ずれた位置に設けられる。背圧溝34は、第一及び第二の吸込領域42a,42cのそれぞれに設けられ、背圧溝35は、第一及び第二の吐出領域42b,42dのそれぞれに設けられる。
【0044】
背圧溝34,35は、摺動面30aに開口する溝状に形成される。背圧溝34,35は、貫通孔32を中心とした円弧状に形成され、背圧溝34,35と重なる複数の背圧室5と連通する。背圧溝34は、ボディ側サイドプレート30を貫通して形成される連通孔38と連通する。これにより、背圧溝34は、連通孔38を介して高圧室14と連通する(
図1参照)。なお、各背圧室5は連通溝2bによって連通しているので(
図2参照)、背圧溝35は背圧室5、連通溝2bを介して背圧溝34と連通する。つまり、背圧溝35は、背圧室5、連通溝2b、背圧溝34を介して高圧室14と連通する。
【0045】
図4は、ポンプカバー20側から見たカバー側サイドプレート40の正面図である。
図4に示すように、カバー側サイドプレート40は、ベーン3の側面が摺動する摺動面40a(
図2参照)と、駆動シャフト1が挿通する貫通孔42と、第一及び第二の吸込領域42a,42cのそれぞれに対応するように形成される窪み部43と、位置決めピン8が挿通するピン孔49と、を有する板状部材である。カバー側サイドプレート40は、位置決めピン8によってカムリング4及びボディ側サイドプレート30に対して位置決めされる。
【0046】
窪み部43は、貫通孔42を挟んで対向する位置に二か所設けられる。窪み部43は、ポンプ収容凹部10Aの迂回通路13に対応する位置に形成される。窪み部43は、径方向外側に開口する凹形状となるように形成される。窪み部43の外周端は、カバー側サイドプレート40の外周面まで達している。
【0047】
図1に示すように、カバー側サイドプレート40をカムリング4に組み付けた状態では、カバー側サイドプレート40の窪み部43がカムリング4の切り欠き部4dに臨む。迂回通路13及び低圧室21内の作動油は、窪み部43と切り欠き部4dとによって形成されるポートを通じてポンプ室6に導かれる。つまり、ベーンポンプ100では、カバー側サイドプレート40の窪み部43とカムリング4の切り欠き部4dとによって、吸込ポートとしての第2サイドポート52が形成される。第2サイドポート52は、低圧室21からポンプ室6に吸い込まれる作動油を導く。
【0048】
第1サイドポート51及び第2サイドポート52は、各吸込領域42a,42cに位置し、一対の吐出ポート31は、各吐出領域42b,42dに位置する。また、吸込ポートとしての第1サイドポート51及び第2サイドポート52は、ポンプ室6の軸方向両端側に設けられる。このため、ポンプ室6には、軸方向両側から作動油が導入される。
【0049】
ベーンポンプ100の動作について説明する。
【0050】
エンジン等の駆動装置(不図示)の動力によって駆動シャフト1が回転駆動されると、ロータ2が
図2に矢印で示す方向に回転する。ロータ2の回転に伴って、第一及び第二の吸込領域42a,42cに位置するポンプ室6が拡張する。これにより、タンク60内の作動油が、
図1に示すように、吸込通路61、低圧室21、第1サイドポート51及び第2サイドポート52を通ってポンプ室6に吸い込まれる。また、ロータ2の回転に伴って、第一及び第二の吐出領域42b,42dに位置するポンプ室6が収縮する。これにより、ポンプ室6内の作動油が、吐出ポート31(
図2参照)を通って高圧室14に吐出される。高圧室14に吐出された作動油は、吐出通路62を通じて外部の流体圧機器70へと供給される。本実施形態に係るベーンポンプ100では、ロータ2が1回転する間に、各ポンプ室6が作動油の吸込、吐出を2度繰り返す。
【0051】
高圧室14に吐出された作動油の一部は、連通孔38及び背圧溝34,35を通じて背圧室5に供給され、ベーン3の基端部3bを内周カム面4aに向かって押圧する。したがって、ベーン3は、基端部3bを押圧する背圧室5の流体圧力と、ロータ2の回転に伴って働く遠心力と、によってスリット2sから突出する方向に付勢される。これにより、ベーン3の先端部3aがカムリング4の内周カム面4aに摺接しながら回転するので、ポンプ室6内の作動油は、ベーン3の先端部3aとカムリング4の内周カム面4aとの間から漏れることなく吐出ポート31から吐出される。
【0052】
ところで、ベーンポンプ100のロータ2を高速で回転させると、ポンプ室6に作動油を吸い込む過程で、吸い込んだ作動油の一部が再びポンプ室6外に排出され、ベーン3の回転方向後方側の負圧領域に空気等の気体(気泡)が生じることによって、ベーンポンプ100の容積効率が低下してしまうおそれがある。
【0053】
そこで、本実施形態では、ポンプ室6内の負圧領域を低減し、気体(気泡)の体積を低減するために、回転方向前方側のポンプ室6の高圧の作動油を一時的に保持し、回転方向後方側のポンプ室6に供給するための油溜め部110をボディ側サイドプレート30に設けた(
図2参照)。本実施形態では、油溜め部110は、貫通孔32を挟んで対向する位置に二箇所設けられる。以下、油溜め部110の構成について詳細に説明する。
【0054】
図5は、
図2のV-V線に沿う油溜め部110の断面模式図であり、
図6は、油溜め部110の位置について説明する図である。
図5及び
図6に示すように、油溜め部110は、円形状の凹部として形成される。油溜め部110は、吐出ポート31に直接接続されているものではなく、ノッチ36,37とはその構成が異なる。
【0055】
油溜め部110の周方向の長さRは、ベーン3の厚みt以下となる。ここで、周方向の長さRとは、周方向に沿う油溜め部110の最大幅であり、本実施形態では油溜め部110の直径Dに相当する。つまり、油溜め部110の直径Dはベーン3の厚みt以下であり、油溜め部110は、その開口全体がベーン3の側面によって覆われるように形成される。
【0056】
油溜め部110の深さHは、周方向の長さRよりも大きいことが好ましい(H>R)。これにより、高圧の作動油の充填量を十分に確保することができる。
【0057】
凹状の油溜め部110の底部には、油溜め部110内に侵入した空気等の気体を抜くための気体排出通路111が接続される。気体排出通路111は、油溜め部110内の圧力よりも低い圧力部(低圧部)である吸込通路61(
図1参照)に接続され、油溜め部110内の気体を吸込通路61に排出する。したがって、気体排出通路111は、吸込通路61を介してタンク60及び低圧室21に連通する。なお、気体排出通路111は、油溜め部110内の圧力よりも低い圧力部(低圧部)に接続されていればよいため、種々の低圧部に接続することができる。
【0058】
気体排出通路111は、油溜め部110及び吸込通路61の断面積に比べて、小さい断面積を有し、油溜め部110から吸込通路61に流れる作動油に抵抗を付与する絞りとして機能する。このため、ポンプ室6から油溜め部110の気体排出通路111を通じて吸込通路61に向かう作動油の流れを制限することができる。これにより、油溜め部110に連通するポンプ室6の圧力の低下を抑えることができる。
【0059】
図6に示すように、油溜め部110は、回転方向に沿って見たときに、第1サイドポート51の終端(点P0)から吐出ポート31の始端(点P2)までの区間Aに設けられる。つまり、油溜め部110は、第1サイドポート51の終端(点P0)と吐出ポート31の始端(点P2)との間に設けられる。第1サイドポート51の終端(点P0)とは、第1サイドポート51において、ロータ2の回転に伴ってポンプ室6との連通が終了する位置である。吐出ポート31の始端(点P2)とは、吐出ポート31において、ロータ2の回転に伴ってポンプ室6との連通が開始する位置である。
【0060】
また、一対の油溜め部110のうちの一方は、ロータ2の回転に伴ってポンプ室6が拡張する吸込領域42aとポンプ室6が収縮する吐出領域42bとの間の遷移領域42eに配置される。一対の油溜め部110のうちの他方は、ロータ2の回転に伴ってポンプ室6が拡張する吸込領域42cとポンプ室6が収縮する吐出領域42dとの間の遷移領域42fに配置される。
【0061】
より具体的には、
図7に示すように、ポンプ室6を画成する一対のベーン3の一方が吐出ポート31の始端部31eに位置し、一対のベーン3の他方が油溜め部110に位置したときに、吐出ポート31と油溜め部110とが連通するように油溜め部110の位置が設定される。
【0062】
また、
図6に示すように、油溜め部110は、ノッチ36に対応する区間A2に設けられる。つまり、油溜め部110は、ノッチ36において、ロータ2の回転に伴ってポンプ室6との連通が開始する位置であるノッチ36の始端(点P1)から吐出ポート31の始端(点P2)までの区間A2に設けられる。
【0063】
油溜め部110の回転方向後端は、ノッチ36の始端(点P1)よりも回転方向前方側に位置する。換言すれば、ベーン3が油溜め部110を通過する際、ノッチ36の先端部がポンプ室6に連通してから油溜め部110がポンプ室6に連通するように、油溜め部110の位置が設定されている。
【0064】
図7から
図9は、油溜め部110をベーン3が通過する様子を示す図である。
図7は、ベーン3が油溜め部110に位置し、油溜め部110が吐出ポート31と連通している状態を示す。
図8は、油溜め部110の開口がベーン3によって塞がれている状態を示す。
図9は、ベーン3の回転方向後側において油溜め部110の開口が開放された状態を示す。なお、
図7から
図9では、説明の便宜上、ベーン3及び内周カム面4aについて実線で示し、油溜め部110について実線と破線で示し、ロータ2及び吐出ポート31、ノッチ36,37については、二点鎖線で示し、その他の構成については図示を省略している。
【0065】
図7に示すように、ロータ2の回転に伴って、ベーン3が油溜め部110に位置すると、当該ベーン3(以下、後側ベーン3Rとも記す)とによってポンプ室6(以下、前側ポンプ室6Fとも記す)を画成する回転方向前方側のベーン3(以下、前側ベーン3Fとも記す)が吐出ポート31の始端部31eに位置する。これにより、前側ポンプ室6Fを介して、吐出ポート31と油溜め部110が連通する。その結果、油溜め部110には、高圧の作動油が充填される。
【0066】
図7に示す状態からベーン3が回転方向に前進すると、
図8に示すように、後側ベーン3Rによって油溜め部110が覆われる。油溜め部110の周方向の長さR(油溜め部110の直径D)は、ベーン3の厚みt以下に設定されているので、油溜め部110の開口は後側ベーン3Rの側面(軸方向端面)によって遮断される。つまり、後側ベーン3Rの側面によって油溜め部110の開口が遮断されている間、油溜め部110内に充填された高圧の作動油が、油溜め部110内で保持される。
【0067】
図8に示す状態からベーン3が回転方向にさらに前進すると、
図9に示すように、油溜め部110の開口が開放され、後側ベーン3Rの回転方向後方側のポンプ室6(以下、後側ポンプ室6Rとも記す)と油溜め部110とが連通する。これにより、油溜め部110に充填、保持されていた高圧の作動油が、後側ポンプ室6Rに供給され、後側ポンプ室6Rが昇圧される。
【0068】
このように、本実施形態によれば、回転するベーン3の側面が油溜め部110を通過する際に、前側ポンプ室6Fの高圧の作動油が油溜め部110に一時的に保持され、その後、油溜め部110内の作動油が後側ポンプ室6Rに供給されることにより、後側ポンプ室6Rが昇圧される。これにより、後側ポンプ室6R内における負圧領域を低減し、後側ポンプ室6R内における気体の体積を低減し、ポンプ室6内における作動油の体積を増加させることができるので、ベーンポンプ100の容積効率を向上することができる。また、ポンプ室6内における気体の体積を低減することができるので、ベーンポンプ100の吐出圧の脈動も低減する。
【0069】
油溜め部110の周方向の長さRは、ベーン3の厚みt以下であるので、ベーン3が油溜め部110を通過する際、油溜め部110の開口をベーン3の側面によって閉塞することができる。つまり、ベーン3が油溜め部110を通過する際に、前側ポンプ室6Fと後側ポンプ室6Rとが油溜め部110を介して連通し、前側ポンプ室6Fから後側ポンプ室6Rに作動油が流れ出てしまうことがない。これにより、ベーン3の回転方向前方側の前側ポンプ室6Fから油溜め部110に流入した作動油の圧力の低下を抑えることができる。
【0070】
後側ベーン3Rが吐出ポート31の始端部31eに位置し、前側ベーン3Fが油溜め部110に位置したときに、前側ポンプ室6Fと吐出ポート31の始端部31eの開口とが連通するとともに、前側ポンプ室6Fと油溜め部110の開口とが連通する。つまり、吐出ポート31と油溜め部110とが前側ポンプ室6Fを介して連通する。これにより、後側ベーン3Rが油溜め部110を通過する際、後側ベーン3Rの回転方向前方側の前側ポンプ室6Fを通じて、吐出ポート31から作動油を油溜め部110に導くことができる。その結果、後側ベーン3Rの回転方向後方側の後側ポンプ室6Rの圧力を効果的に高めることができる。
【0071】
なお、本実施形態では、ノッチ36が形成される区間A2に油溜め部110が設けられている。これにより、ノッチ36の昇圧効果に加えて、油溜め部110による昇圧効果により、ロータ2が高速で回転する際において、ポンプ室6での気体の体積を効果的に抑制することができる。
【0072】
なお、油溜め部110には気体排出通路111が接続されている。このため、油溜め部110内に空気等の気体が流入した場合に、気体排出通路111を通じて気体が排出されるので、気体が油溜め部110内に滞留してしまうことを防止できる。その結果、ベーン3が油溜め部110を通過する際、ベーン3の回転方向前方側のポンプ室6の作動油を油溜め部110内に十分に取り入れることができる。
【0073】
上述した実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0074】
ベーン3の側面が油溜め部110を通過する際に、ベーン3の回転方向前方側のポンプ室6の作動油が油溜め部110に一時的に保持され、その後、油溜め部110内の作動油がベーン3の回転方向後方側のポンプ室6へ供給されることにより、ポンプ室6が昇圧される。これにより、ポンプ室6内における気体の体積を低減し、ポンプ室6における作動油の体積を増加させることができるので、ベーンポンプ100の容積効率を向上することができる。
【0075】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0076】
<変形例1>
上記実施形態では、ポンプ室6を画成する一対のベーン3の一方が吐出ポート31の始端部31eに位置し、一対のベーン3の他方が油溜め部110に位置したときに、一対のベーン3によって画成されるポンプ室6に、吐出ポート31の始端部31eの開口と油溜め部110の開口の双方が開放されるように油溜め部110の位置を設定する例について説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0077】
例えば、
図10に示すように、ポンプ室6を画成する一対のベーン3の一方が吐出ポート31の始端部31eに位置し、一対のベーン3の他方が油溜め部110に位置したときに、一対のベーン3によって画成されるポンプ室6に、吐出ポート31の始端部31eの開口と油溜め部110の開口の双方が開放されないように油溜め部110の位置を設定してもよい。この場合、ノッチ36を通じて吐出ポート31と油溜め部110が連通し、油溜め部110に高圧の作動油が充填される。
【0078】
<変形例2>
上記実施形態では、油溜め部110が円形状の凹部である例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図11に示すように、油溜め部210は、楕円形状の凹部であってもよい。また、油溜め部は、円形状及び楕円形状に限らず、多角形状など種々の断面の凹部として形成することができる。
【0079】
<変形例3>
上記実施形態では、油溜め部110の周方向の長さRが、ベーン3の厚みt以下となるように形成される例について説明したが、本発明はこれに限定されない。
図11に示すように、油溜め部210の周方向の長さRがベーン3の厚みtよりも大きくてもよい。
図11に示す例では、吐出ポート31の始端部31eの開口が、前側ポンプ室6Fに直接連通したとき、油溜め部210の回転方向前端部の開口が、前側ポンプ室6Fに直接連通するとともに、油溜め部210の回転方向後端部の開口が、後側ポンプ室6Rに直接連通する。
【0080】
高速で運転される仕様のベーンポンプ100では、油溜め部210の回転方向前端部の開口が前側ポンプ室6Fに直接連通するとともに、油溜め部210の回転方向後端部の開口が後側ポンプ室6Rに直接連通する時間が、低速で運転される仕様のベーンポンプ100よりも短くなる。このため、高速で運転される仕様のベーンポンプ100では、低速で運転される仕様のベーンポンプ100に比べて、油溜め部210が前側ポンプ室6Fと連通しているときに、油溜め部210の作動油が後側ポンプ室6Rに排出される量を少なく抑えることができる。つまり、油溜め部210と前側ポンプ室6Fとの連通が終了する前の段階で、油溜め部210の内部の圧力が後側ポンプ室6Rの圧力と同程度まで低下することはない。このため、油溜め部210が、前側ポンプ室6Fと後側ポンプ室6Rの双方に同時に連通する場合であっても、油溜め部210に前側ポンプ室6Fの高圧の作動油を一時的に保持し、後側ポンプ室6Rに供給することができる。
【0081】
換言すれば、油溜め部210の形状は、油溜め部210と前側ポンプ室6Fの連通が終了する前に、油溜め部210内の作動油の圧力が、後側ポンプ室6R内の作動油の圧力と同程度まで低下することがないように設定される。
【0082】
<変形例4>
上記実施形態では、遷移領域42eに1つの油溜め部110が設けられ、遷移領域42fに1つの油溜め部110が設けられる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図11に示すように、遷移領域42e,42fのそれぞれに油溜め部210を2つ設けてもよいし、3つ以上設けてもよい。例えば、油溜め部210の深さHが、周方向の長さRよりも小さい場合、油溜め部210の数を増やすことにより、高圧の作動油を一時的に保持する油溜め部210の総体積を大きくして、後側ポンプ室6Rの昇圧を効果的に行うことができる。
【0083】
<変形例5>
上記実施形態では、ボディ側サイドプレート30の摺動面30aに油溜め部110が設けられる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。ボディ側サイドプレート30の摺動面30a及びカバー側サイドプレート40の摺動面40aの双方に油溜め部110を設けてもよいし、カバー側サイドプレート40の摺動面40aにのみ油溜め部110を設けてもよい。
【0084】
<変形例6>
上記実施形態では、ノッチ36が設けられる区間A2に油溜め部110を設ける例について説明したが、本発明はこれに限定されない。第1サイドポート51の終端(点P0)からノッチ36の始端(点P1)までの区間A1に油溜め部110を設けてもよい。
【0085】
<変形例7>
上記実施形態では、油溜め部110に気体排出通路111が接続される例について説明したが、本発明はこれに限定されない。
図11に示すように、油溜め部210に気体排出通路111は設けなくてもよい。本変形例では、油溜め部210は、ベーン3が摺動する面にのみ開口しており、この開口以外からの作動油の出入りがないため、安定してポンプ室6を昇圧させることができる。
【0086】
以上のように構成された本発明の実施形態の構成、作用、および効果をまとめて説明する。
【0087】
ベーンポンプ100は、回転駆動されるロータ2と、ロータ2の外周面に開口する複数のスリット2sと、スリット2sに摺動自在に収装される複数のベーン3と、ロータ2の回転に伴って複数のベーン3の先端部3aが摺接する内周カム面4aを有するカムリング4と、ロータ2及びカムリング4を挟んで配置される一対のサイド部材(ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40)と、ロータ2、カムリング4、隣り合うベーン3、一対のサイド部材(ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40)によって画成されるポンプ室6と、ポンプ室6に吸い込まれる作動流体を導く吸込ポート(第1サイドポート51、第2サイドポート52)と、ポンプ室6から吐出される作動流体を導く吐出ポート31と、サイド部材(ボディ側サイドプレート30、カバー側サイドプレート40)のベーン3が摺動する面に設けられる凹部(油溜め部110,210)と、を備え、凹部(油溜め部110,210)は、吸込ポート(第1サイドポート51、第2サイドポート52)の終端(点P0)と吐出ポート31の始端(点P2)との間(区間A)に設けられ、回転するベーン3の側面が凹部(油溜め部110,210)を通過する際に、作動流体を一時的に保持する。
【0088】
この構成では、ベーン3の側面が凹部(油溜め部110,210)を通過する際に、ベーン3の回転方向前方側のポンプ室6の作動流体が凹部(油溜め部110,210)に一時的に保持され、その後、凹部(油溜め部110,210)内の作動流体がベーン3の回転方向後方側のポンプ室6へ供給されることにより、ポンプ室6が昇圧される。これにより、ポンプ室6内における気体の体積を低減し、ポンプ室6内における作動流体の体積を増加させることができるので、ベーンポンプ100の容積効率を向上することができる。
【0089】
ベーンポンプ100は、凹部(油溜め部110,210)の周方向の長さRが、ベーン3の厚みt以下である。
【0090】
この構成では、凹部(油溜め部110,210)の開口をベーン3の側面によって閉塞できるので、ベーン3の回転方向前方側のポンプ室6から凹部(油溜め部110,210)に流入した作動流体の圧力の低下を抑えることができる。
【0091】
ベーンポンプ100は、ポンプ室6を画成する一対のベーン3の一方が吐出ポート31の始端部31eに位置し、一対のベーン3の他方が凹部(油溜め部110,210)に位置したときに、吐出ポート31と凹部(油溜め部110,210)とが連通する。
【0092】
この構成では、ベーン3が凹部(油溜め部110,210)を通過する際、ベーン3の回転方向前方側のポンプ室6を通じて、吐出ポート31から作動流体を凹部(油溜め部110,210)に導くことができるので、ベーン3の回転方向後方側のポンプ室6の圧力を効果的に高めることができる。
【0093】
ベーンポンプ100は、凹部(油溜め部110,210)には、凹部(油溜め部110,210)内の圧力よりも低い低圧部(吸込通路61)に凹部(油溜め部110,210)内の気体を排出する気体排出通路111が接続される。
【0094】
この構成では、凹部(油溜め部110,210)内に気体が流入した場合に、気体排出通路111を通じて気体が排出されるので、気体が凹部(油溜め部110,210)内に滞留してしまうことを防止できる。その結果、ベーン3が凹部(油溜め部110,210)を通過する際、ベーン3の回転方向前方側のポンプ室6の作動流体を凹部(油溜め部110,210)内に十分に取り入れることができる。
【0095】
ベーンポンプ100は、凹部(油溜め部210)が、ベーン3が摺動する面にのみ開口している。
【0096】
この構成では、凹部(油溜め部210)は、ベーン3が摺動する面にのみ開口しており、この開口以外からの作動流体の出入りがないため、安定してポンプ室6を昇圧させることができる。
【0097】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0098】
2・・・ロータ、2s・・・スリット、3・・・ベーン、3a・・・先端部、4・・・カムリング、4a・・・内周カム面、6・・・ポンプ室、30・・・ボディ側サイドプレート(サイド部材)、31・・・吐出ポート、31e・・・始端部、40・・・カバー側サイドプレート(サイド部材)、51・・・第1サイドポート(吸込ポート)、52・・・第2サイドポート(吸込ポート)、61・・・吸込通路(低圧部)、100・・・ベーンポンプ、110,210・・・油溜め部(凹部)、111・・・気体排出通路