(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】ステンレス鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220803BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20220803BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C21D9/46 Q
(21)【出願番号】P 2018171442
(22)【出願日】2018-09-13
【審査請求日】2021-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【氏名又は名称】樺澤 襄
(72)【発明者】
【氏名】汐月 勝幸
(72)【発明者】
【氏名】松林 弘泰
(72)【発明者】
【氏名】溝口 太一朗
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-003099(JP,A)
【文献】特開平09-095756(JP,A)
【文献】特開2017-122244(JP,A)
【文献】国際公開第2008/013305(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107083519(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.05質量%以上0.30質量%以下、Si:1.50質量%以下
(無添加を含まず)、Mn:0.10質量%以上2.00質量%以下、P:
0質量%以上0.06質量%以下、S:
0質量%以上0.010質量%以下、Ni:5.00質量%以上7.00質量%以下、Cr:15.00質量%以上19.00質量%以下およびN:0.05質量%以上0.30質量%以下を含有するとともに、CおよびNの含有量の合計が0.20質量%以上で、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
Md
30=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-29(Ni+Cu)-13.7Cr-18.5Moで示すMd
30の値が5以上30以下で、
SFE=2.2Ni+6Cu-1.1Cr-13Si-1.2Mn+32で示すSFEの値が15以上25未満で、
オーステナイト相と加工誘起マルテンサイト相との複相組織を有し、
鋼
板表面の平均硬さが550HV以上で、硬さの標準偏差が3.5
HV以下である
ことを特徴とするステンレス鋼
板。
【請求項2】
Mo:
0質量%以上2.00質量%以下およびCu:
0質量%以上2.00質量%以下のうちの少なくとも1種を含有する
ことを特徴とする請求項1記載のステンレス鋼
板。
【請求項3】
表面の平均硬さおよび標準偏差は、測定荷重を50gfとし、400μm間隔で測定された硬さの値に基づいて算出されている
ことを特徴とする請求項1または2記載のステンレス鋼
板。
【請求項4】
C:0.05質量%以上0.30質量%以下、Si:1.50質量%以下
(無添加を含まず)、Mn:0.10質量%以上2.00質量%以下、P:
0質量%以上0.06質量%以下、S:
0質量%以上0.010質量%以下、Ni:5.00質量%以上7.00質量%以下、Cr:15.00質量%以上19.00質量%以下およびN:0.05質量%以上0.30質量%以下を含有するとともに、CおよびNの含有量の合計が0.20質量%以上で、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
Md
30=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-29(Ni+Cu)-13.7Cr-18.5Moで示すMd
30の値が5以上30以下で、
SFE=2.2Ni+6Cu-1.1Cr-13Si-1.2Mn+32で示すSFEの値が15以上25未満で、
オーステナイト相と加工誘起マルテンサイト相との複相組織を有するステンレス鋼
板を調質圧延し、
調質圧延後にテンションアニーリングし、
そのテンションアニーリングでは、ステンレス鋼
板に3kgf/mm
2以上7kgf/mm
2以下の張力を加えた状態において、材料の温度が室温から
最高到達温度480℃以上540℃以下となるまでの昇温時間が5秒以上10秒以下となるように加熱
した後、直ちに冷却することで、鋼板表面の平均硬さが550HV以上で、硬さの標準偏差が3.5HV以下のステンレス鋼板を得る
ことを特徴とするステンレス鋼
板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疲労特性に優れるステンレス鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話端末やパーソナルコンピュータ等の電子機器は、高密度に実装化され、使用される部品は、軽量化、薄肉化および小型化が進行している。
【0003】
また、このような電子機器の部品に使用される金属材料では、繰り返し負荷される応力の上昇および回数の増加が著しいのが現状である。
【0004】
特に、電子機器におけるタクトスイッチ等の入力キースイッチとしては、薄い金属板によりメタルドームスイッチ装置が使用されており、このメタルドームスイッチ装置に適応する金属板では、操作時のクリック感と、耐久性(疲労特性)とが求められる。
【0005】
この種のスイッチ用の金属板としては、例えば特許文献1および2等のように、結晶粒径を小さくすることによって、疲労特性を向上させたステンレス鋼が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2008/41638号
【文献】特開2004-244725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、携帯電話端末や家電製品等の電子機器の小型化がますます進んでいるため、これまで以上に材料の特性の向上、特にスイッチの長寿命化につながる材料の疲労特性の向上が要求されている。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、疲労特性が良好なステンレス鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載されたステンレス鋼板は、C:0.05質量%以上0.30質量%以下、Si:1.50質量%以下(無添加を含まず)、Mn:0.10質量%以上2.00質量%以下、P:0質量%以上0.06質量%以下、S:0質量%以上0.010質量%以下、Ni:5.00質量%以上7.00質量%以下、Cr:15.00質量%以上19.00質量%以下およびN:0.05質量%以上0.30質量%以下を含有するとともに、CおよびNの含有量の合計が0.20質量%以上で、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、Md30=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-29(Ni+Cu)-13.7Cr-18.5Moで示すMd30の値が5以上30以下で、SFE=2.2Ni+6Cu-1.1Cr-13Si-1.2Mn+32で示すSFEの値が15以上25未満で、オーステナイト相と加工誘起マルテンサイト相との複相組織を有し、鋼板表面の平均硬さが550HV以上で、硬さの標準偏差が3.5HV以下であるものである。
【0010】
請求項2に記載されたステンレス鋼板は、請求項1記載のステンレス鋼板において、Mo:0質量%以上2.00質量%以下およびCu:0質量%以上2.00質量%以下のうちの少なくとも1種を含有するものである。
【0011】
請求項3に記載されたステンレス鋼板は、請求項1または2記載のステンレス鋼板において、表面の平均硬さおよび標準偏差は、測定荷重を50gfとし、400μm間隔で測定された硬さの値に基づいて算出されているものである。
【0012】
請求項4に記載されたステンレス鋼板の製造方法は、C:0.05質量%以上0.30質量%以下、Si:1.50質量%以下(無添加を含まず)、Mn:0.10質量%以上2.00質量%以下、P:0質量%以上0.06質量%以下、S:0質量%以上0.010質量%以下、Ni:5.00質量%以上7.00質量%以下、Cr:15.00質量%以上19.00質量%以下およびN:0.05質量%以上0.30質量%以下を含有するとともに、CおよびNの含有量の合計が0.20質量%以上で、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、Md30=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-29(Ni+Cu)-13.7Cr-18.5Moで示すMd30の値が5以上30以下で、SFE=2.2Ni+6Cu-1.1Cr-13Si-1.2Mn+32で示すSFEの値が15以上25未満で、オーステナイト相と加工誘起マルテンサイト相との複相組織を有するステンレス鋼板を調質圧延し、調質圧延後にテンションアニーリングし、そのテンションアニーリングでは、ステンレス鋼板に3kgf/mm2以上7kgf/mm2以下の張力を加えた状態において、材料の温度が室温から最高到達温度480℃以上540℃以下となるまでの昇温時間が5秒以上10秒以下となるように加熱した後、直ちに冷却することで、鋼板表面の平均硬さが550HV以上で、硬さの標準偏差が3.5HV以下のステンレス鋼板を得るものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、所定の化学組成の範囲において、Md30の値が5以上30以下で、SFEの値が15以上25未満で、オーステナイト相と加工誘起マルテンサイト相との複相組織を有し、表面の平均硬さが550HV以上で、硬さの標準偏差が3.5HV以下であるため、疲労特性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施の形態の構成について詳細に説明する。
【0015】
本発明に係るステンレス鋼は、C(炭素):0.05質量%以上0.30質量%以下、Si(ケイ素):1.50質量%以下、Mn(マンガン):0.10質量%以上2.00質量%以下、P(リン):0.06質量%以下、S(硫黄):0.010質量%以下、Ni(ニッケル):5.00質量%以上7.00質量%以下、Cr(クロム):15.00質量%以上19.00質量%以下およびN(窒素):0.05質量%以上0.30質量%以下を含有するとともに、CおよびNの含有量の合計が0.20質量%以上で、残部がFe(鉄)および不可避的不純物からなる。
【0016】
また、必要に応じて、Mo(モリブデン):2.00質量%以下およびCu(銅):2.00質量%以下のうちの少なくとも1種を含有する。
【0017】
上記化学組成の範囲において、オーステナイト安定度指数であるMd30=551-462(C+N)-9.2Si-8.1Mn-29(Ni+Cu)-13.7Cr-18.5Moの式で示すMd30の値が5以上30以下である。
【0018】
また、積層欠陥エネルギ生成指標であるSFE=2.2Ni+6Cu-1.1Cr-13Si-1.2Mn+32の式で示すSFEの値が15以上25未満である。
【0019】
さらに、1230℃で2時間加熱した後のδフェライト生成指標であるδcal=-15-44.91C-0.88Mn-2.31Ni+2.20Cr-1.08Cu-28.8Nの式で示すδcalの値が1.0以下であることが好ましい。
【0020】
なお、上記各式は、各元素の含有量に基づくものであり、各元素の含有量(質量%)の値が代入され、含有していない元素は0が代入される。
【0021】
CおよびNは、オーステナイト生成元素であり、これらの元素の含有量が少なすぎるとδフェライト相の生成量が増大し、熱間加工性が低下する。また、CおよびNは、加工誘起マルテンサイト相を固溶強化するために有用な元素である。そして、Cの含有量およびNの含有量をいずれも、0.05質量%以上にすることが、顕著な延性向上作用を安定して得るために重要である。一方、CおよびNを、0.30質量%を超えて過剰に含有させると、鋼が過度に硬質化し加工性を阻害する要因となる可能性がある。したがって、Cの含有量およびNの含有量は、いずれも0.05質量%以上0.30質量%以下とする。
【0022】
また、加工誘起マルテンサイト相の生成の際、TRIP現象による十分な延性を発現させるためには、C+N(CおよびNの合計含有量)を0.20質量%以上とする必要がある。したがって、CおよびNは、上記それぞれの含有量の範囲において、C+N≧0.20質量%とする。
【0023】
なお、C+Nが0.40質量%を超えると、硬質化による加工性を阻害する可能性がある。そのため、C+Nを0.40質量%以下にすることが好ましく、Cの含有量およびNの含有量をいずれも0.05質量%以上0.15質量%以下とし、C+Nを0.20質量%以上0.30質量%以下とするとより好ましい。
【0024】
Siは、製鋼での脱酸に有用な元素であるとともに、固溶強化に寄与する元素である。しかし、1.50質量%を超えて添加すると、鋼が硬質化し加工性を損なう要因となる。また、Siはフェライト生成元素であるため、過剰添加は高温域でのδフェライト相の多量生成を招き、熱間加工性を阻害する。したがって、Siの含有量は、1.50質量%以下(無添加を含まず。)とする。
【0025】
Mnは、Niの作用を代替できる有用なオーステナイト生成元素である。また、鋼を固溶強化する有用であるとともに加工硬化に影響を与える元素である。こられの作用を活用するためには、Mnを0.10質量%以上添加する必要がある。一方、Mnを、2.00質量%を超えて添加すると、熱間加工性を阻害する要因となる。したがって、Mnの含有量は、0.10質量%以上2.00質量%以下とする。
【0026】
PおよびSは、不可避的不純物として混入するが、その含有量は低いほど好ましい。そして、加工性およびその他の材料特性や、製造性への悪影響を考慮して、Pの含有量を0.06質量%以下(無添加を含む。)とし、Sの含有量を0.010質量%以下(無添加を含む。)とする。
【0027】
Niは、延性や靭性の向上に有効な元素である。その作用を十分に奏するには、Niを5.00質量%以上添加する必要がある。一方、Niを7.00質量%を超えて添加すると、強度特性を低下させる要因になるとともに、コストの増大により経済性も低下する。したがって、Niの含有量は、5.00質量%以上7.00質量%以下とする。
【0028】
Crは、ステンレス鋼の耐食性を担保する不動態皮膜の形成に必須の元素であり、15.00質量%以上含有させることで、耐食性を十分に確保できる。一方、Crは、フェライト生成元素であるため、19.00質量%を超えて添加すると、熱延前加熱温度が(γ+δ)の2相域となり、加熱後もδフェライトの多量生成を招き、熱間加工性を損なう要因となる。したがって、Crの含有量は、15.00質量%以上19.00質量%以下とする。
【0029】
Moは、耐食性の向上に有用な元素であるとともに、固溶強化に寄与する元素であるが、2.00質量%を超えて添加すると、熱間加工性を損なう要因となる。したがって、Moを添加する場合には、その含有量を2.00質量%以下とする。
【0030】
Cuは、加工誘起マルテンサイト相の生成に起因して加工硬化を抑制する元素であり、Md30、SFEおよびδcalを調整する目的で添加する。一方、Cuを2.00質量%を超えて添加すると、熱間加工性の低下につながる。したがって、Cuを添加する場合には、その含有量を2.00質量%以下とする。
【0031】
Md30は、オーステナイト安定度指数であり、その値が大きいほどオーステナイト相から加工誘起マルテンサイト相への変態が起こりやすくなる。そして、Md30の値を5以上にすることで、加工誘起マルテンサイト相の過度の生成を防止でき、硬さのばらつきを抑制できるとともに、延性を確保して製造加工性の低下も防止できる。一方、Md30が30を超えると、曲げ加工を施した場合等における加工誘起マルテンサイト相の生成量が多くなりすぎて、硬さにばらつきが生じやすくなる可能性がある。したがって、上記ステンレス鋼では、Md30の値が5以上30以下となるように各元素の含有量を調整する。
【0032】
SFEは、積層欠陥エネルギ生成指標であり、その値が大きいほどオーステナイト相の加工硬化が生じにくくなる。そして、SFEが15未満の場合には、オーステナイト相の加工硬化が生じやすくなるため、延性が低下する可能性がある。一方SFEが25以上の場合には、オーステナイト相の加工硬化が生じにくくなり、オーステナイト相と加工誘起マルテンサイト相との硬度差が大きくなり、硬さにばらつきが生じやすくなる可能性がある。したがって、上記ステンレス鋼では、SFEが15以上25未満となるように各元素の含有量を調整する。
【0033】
δcalは、1230℃で2時間加熱した後のδフェライト生成指標であり、1.0を超えると、熱間圧延の際に耳割れが発生しやすくなる可能性があるとともに、最終製品における機械的特性および疲労特性にも影響する可能性がある。したがって、上記ステンレス鋼は、δcalが1.0以下となるように各元素の含有量を調整することが好ましい。
【0034】
上記化学組成にて構成されたステンレス鋼は、後述の所定の製造工程(例えば、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍、仕上圧延、テンションアニーリングおよび調質圧延)を経て、そのステンレス鋼表面の平均硬さが550HV以上で、板厚が20μm以上100μmの箔状となる。
【0035】
このような箔状のステンレス鋼は、オーステナイト相と加工誘起マルテンサイト相との複相組織を有する。
【0036】
ここで、ステンレス鋼表面における硬さにばらつきが多いほど、繰り返し負荷(曲げ等)により、硬さの違う箇所同士で作用する応力が異なり、その応力の差によって歪が集中しやすくなってしまうため、疲労特性が低下する。
【0037】
具体的には、測定荷重を50gfとし、測定間隔をミクロ範囲(例えば400μm間隔)として、複数箇所(例えば30箇所)の硬さを測定した際に、平均硬さを550HV以上とした上で標準偏差が3.5HVより大きく、硬さにばらつきがあると、歪集中を効果的に抑制できない可能性がある。したがって、上記ステンレス鋼では、平均硬さを550HV以上とし、その硬さの標準偏差を3.5HV以下とする。
【0038】
そして、上記ステンレス鋼は、例えば携帯電話や家電製品等の電子機器に設けられているタクトスイッチ用のメタルドーム等のばね材として好適に用いられる。
【0039】
次に上記ステンレス鋼の製造方法を説明する。
【0040】
まず、ステンレス鋼の原料を溶解し、その溶鋼に酸素を吹き込むことで脱炭し、次いでSiを加えて溶鋼中の酸素と反応させて、酸素濃度を低減させる脱酸作業を行う。
【0041】
また、連続鋳造によってスラブとし、そのスラブを1100~1300℃に加熱し、熱間圧延を行って熱延鋼帯とする。
【0042】
熱延鋼帯に対して、冷間圧延と焼鈍を繰り返し、所定の板厚とし、仕上げ焼鈍後の調質圧延によって、オーステナイト相を加工硬化させるとともに、加工誘起マルテンサイト変態させ、硬さを550HV以上とする。
【0043】
また、調質圧延後には、テンションアニーリング(TA)によって、残留応力除去および形状矯正を行う。
【0044】
テンションアニーリングは、ステンレス鋼に3kgf/mm2以上7kgf/mm2以下の張力を加えた状態において、材料温度が室温から最高到達温度480℃以上540℃以下となるまでの昇温時間が5秒以上10秒以下となるように加熱し、その後直ちに冷却する。
【0045】
次に、上記第1の実施の形態の作用および効果を説明する。
【0046】
上記ステンレス鋼によれば、所定の化学組成の範囲において、Md30の値が5以上30以下で、SFEの値が15以上25未満となるように成分調整するとともに、表面の平均硬さが550HV以上で、硬さの標準偏差が3.5HV以下であるため、例えば従来鋼であるSUS301と平均結晶粒径が同程度であっても、歪集中を生じにくくでき、疲労特性を向上できる。
【0047】
また、調質圧延後に所定条件でテンションアニーリングすることで、残留応力を適切に除去でき硬さのばらつきを抑えることができるため、疲労特性を向上できる。
【実施例】
【0048】
以下、本実施例および比較例について説明する。
【0049】
表1に示す化学組成のステンレス鋼を電気炉で溶解し、鋳造、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍および調質圧延を行って、板厚40μmのステンレス鋼箔を製造した。
【0050】
【0051】
また、表2に示す条件でテンションアニーリングを行い、硬さ、引張強さおよび伸びを測定するとともに、疲労試験を行なった。
【0052】
表1における鋼No.1については、複数の条件でテンションアニーリングを行い、表2ではそれぞれ試験No.1a,1bとしており、鋼No.2ないし6についても同様である。
【0053】
なお、硬さは、測定荷重を50gfとし、測定間隔を400μmとして、1つのステンレス鋼につき30箇所測定した。
【0054】
また、強度(引張強さ)は、疲労特性を比較するために本実施例および比較例のいずれも同等とした。
【0055】
疲労試験は、JIS P 8115に準じ、通称MIT試験と呼ばれる曲げ疲労試験を行なった。具体的には、上記各ステンレス鋼から長さ110mm、幅15mmの試験片を切り出し、東洋精機製作所製の耐折疲労試験機を用いて、試験荷重を1kgとし、折り曲げ角度を135°とし、折り曲げ半径を2.0mmとし、折り曲げ速度を175回/分として、曲げ疲労試験を行なった。
【0056】
この曲げ疲労試験では、耐久回数が12000回以上のものを疲労特性が良好であると評価した。
【0057】
【0058】
表2に示すように、所定の化学組成の範囲において、平均硬さが550HV以上で、標準偏差が3.5HV以下である本実施例は、いずれも、曲げ疲労試験の耐久回数が12000回以上であり、疲労特性が良好であった。
【0059】
硬さの標準偏差が3.5HVを超える比較例のいずれも、曲げ疲労試験の耐久回数が12000回未満であった。
【0060】
また、本実施例である試験No.1a~6aと同一の組成のステンレス鋼を用い、異なる条件でテンションアニーリングを行なって、硬さの標準偏差が3.5HVを超える比較例である試験No.1b~6bのいずれも、曲げ疲労試験の耐久回数が12000回未満であった。