(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】サスペンション装置
(51)【国際特許分類】
F16F 9/32 20060101AFI20220803BHJP
【FI】
F16F9/32 B
(21)【出願番号】P 2018235810
(22)【出願日】2018-12-17
【審査請求日】2021-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 健太
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-011009(JP,U)
【文献】特開平10-176751(JP,A)
【文献】特開2015-148272(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00- 9/58
B60G 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと前記シリンダから突出するロッドとを有し、車体と車輪との間に設けられるショックアブソーバと、
前記ロッドの先端に取り付けられるアッパーマウントと、
前記シリンダの外周面に取り付けられるスプリングガイドと、
前記スプリングガイドと前記アッパーマウントとの間に設けられ、前記車体を弾性支持するコイルスプリングと、
筒状に形成され、前記スプリングガイドの外周を収縮力により締め付ける収縮性部材と、を備え、
前記スプリングガイドは、前記ショックアブソーバが挿通する挿通孔と、前記収縮性部材によって締め付けられる固定部と、を有し、
前記収縮性部材は、
熱によって収縮しその収縮力によって前記固定部を締め付ける熱収縮部材であり、前記固定部と前記シリンダの一部とを一括して被覆する
ことを特徴とするサスペンション装置。
【請求項2】
請求項1に記載のサスペンション装置において、
前記スプリングガイドは、内周が前記挿通孔とされた筒状の筒部を有し、
前記固定部は、前記筒部の端部に設けられ、
前記収縮性部材は、前記固定部と前記シリンダの一部とを前記シリンダの全周に亘って被覆することにより、前記シリンダと前記挿通孔との間の隙間を閉塞する
ことを特徴とするサスペンション装置。
【請求項3】
請求項1に記載のサスペンション装置において、
前記スプリングガイドは、内周が前記挿通孔とされた筒状の筒部を有し、
前記筒部は、本体部と、前記本体部から軸方向に突出する複数の前記固定部と、を有し、
前記収縮性部材は、前記固定部と、周方向に隣り合う前記固定部間における前記シリンダの外周面とを一括して被覆する
ことを特徴とするサスペンション装置。
【請求項4】
シリンダと前記シリンダから突出するロッドとを有し、車体と車輪との間に設けられるショックアブソーバと、
前記ロッドの先端に取り付けられるアッパーマウントと、
前記シリンダの外周面に取り付けられるスプリングガイドと、
前記スプリングガイドと前記アッパーマウントとの間に設けられ、前記車体を弾性支持するコイルスプリングと、
筒状に形成され、前記スプリングガイドの外周を収縮力により締め付ける収縮性部材と、を備え、
前記スプリングガイドは、前記ショックアブソーバが挿通する挿通孔と、前記収縮性部材によって締め付けられる固定部と、内周が前記挿通孔とされた筒状の筒部と、を有し、
前記筒部は、本体部と、前記本体部から軸方向に突出する複数の前記固定部と、を有し、
前記収縮性部材は、前記固定部と、周方向に隣り合う前記固定部間における前記シリンダの外周面とを一括して被覆する
ことを特徴とするサスペンション装置。
【請求項5】
請求項4に記載のサスペンション装置において、
前記収縮性部材は、前記固定部を弾性的に締め付ける弾性部材である
ことを特徴とするサスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ショックアブソーバのまわりに同心円状に配設されるコイルスプリングを備えたストラット型のダンパ(サスペンション装置)が知られている(特許文献1参照)。コイルスプリングは、ダンパのアッパースプリングシートとロアスプリングシートとの間に配置される。ロアスプリングシート(スプリングガイド)は、コイルスプリングを支持する環状部材と、環状部材から延在する管状部材と、を備える。管状部材は、ショックアブソーバのアウターチューブの周囲に配置される。管状部材の端部は、アウターチューブに溶接された支持リングに当接する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2016/0023529
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のサスペンション装置は、スプリングガイドがコイルスプリングと支持リングとの間で挟まれた状態で使用される。このため、サスペンション装置の使用中に、スプリングガイドがショックアブソーバのシリンダから外れてしまうことはない。
【0005】
しかしながら、サスペンション装置を組み立てる際、ショックアブソーバのシリンダにスプリングガイドを嵌合させた状態であって、コイルスプリングが取り付けられる前の状態では、スプリングガイドに外力が作用することにより、スプリングガイドがショックアブソーバから外れてしまうおそれがある。その結果、サスペンション装置の組み立て作業の効率が悪化するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、サスペンション装置の組み立て作業の効率を向上すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、サスペンション装置であって、車体と車輪との間に設けられるショックアブソーバと、ロッドの先端に取り付けられるアッパーマウントと、シリンダの外周面に取り付けられるスプリングガイドと、スプリングガイドとアッパーマウントとの間に設けられ、車体を弾性支持するコイルスプリングと、筒状に形成され、スプリングガイドの外周を収縮力により締め付ける収縮性部材と、を備え、スプリングガイドは、ショックアブソーバが挿通する挿通孔と、収縮性部材によって締め付けられる固定部と、を有し、収縮性部材は、熱によって収縮しその収縮力によって固定部を締め付ける熱収縮部材であり、固定部とシリンダの一部とを一括して被覆することを特徴とする。
【0008】
この発明では、スプリングガイドに外力が作用したときに、収縮性部材によってスプリングガイドの移動が規制される。これにより、スプリングガイドがショックアブソーバから外れてしまうことを防止することができる。さらに、筒状の熱収縮部材をシリンダに取り付け、加熱することにより、スプリングガイドをシリンダに固定することができるので、スプリングガイドをシリンダに取り付ける作業を容易に行うことができる。
【0009】
本発明は、スプリングガイドが、内周が挿通孔とされた筒状の筒部を有し、固定部が、筒部の端部に設けられ、収縮性部材が、固定部とシリンダの一部とをシリンダの全周に亘って被覆することにより、シリンダと挿通孔との間の隙間を閉塞することを特徴とする。
【0010】
この発明では、収縮性部材によって、シリンダと挿通孔との間の隙間に、砂、水等の異物が侵入することを防止することができる。
【0011】
本発明は、スプリングガイドが、内周が挿通孔とされた筒状の筒部を有し、筒部が、本体部と、本体部から軸方向に突出する複数の固定部と、を有し、収縮性部材が、固定部と、周方向に隣り合う固定部間におけるシリンダの外周面とを一括して被覆することを特徴とする。
【0012】
この発明では、周方向に隣り合う固定部間におけるシリンダの外周面が収縮性部材によって被覆されるため、シリンダにスプリングガイドを固定するのに必要なシリンダに対する収縮性部材の被覆面積(接触面積)を容易に確保することができる。
【0013】
本発明は、サスペンション装置であって、車体と車輪との間に設けられるショックアブソーバと、ロッドの先端に取り付けられるアッパーマウントと、シリンダの外周面に取り付けられるスプリングガイドと、スプリングガイドとアッパーマウントとの間に設けられ、車体を弾性支持するコイルスプリングと、筒状に形成され、スプリングガイドの外周を収縮力により締め付ける収縮性部材と、を備え、スプリングガイドは、ショックアブソーバが挿通する挿通孔と、収縮性部材によって締め付けられる固定部と、内周が挿通孔とされた筒状の筒部と、を有し、筒部は、本体部と、本体部から軸方向に突出する複数の固定部と、を有し、収縮性部材は、固定部と、周方向に隣り合う固定部間におけるシリンダの外周面とを一括して被覆することを特徴とする。
【0014】
この発明では、スプリングガイドに外力が作用したときに、収縮性部材によってスプリングガイドの移動が規制される。これにより、スプリングガイドがショックアブソーバから外れてしまうことを防止することができる。さらに、周方向に隣り合う固定部間におけるシリンダの外周面が収縮性部材によって被覆されるため、シリンダにスプリングガイドを固定するのに必要なシリンダに対する収縮性部材の被覆面積(接触面積)を容易に確保することができる。
【0015】
本発明は、収縮性部材が、固定部を弾性的に締め付ける弾性部材であることを特徴とする。
【0016】
この発明では、筒状の弾性部材を弾性変形させてシリンダに取り付けることにより、スプリングガイドをシリンダに固定することができるので、スプリングガイドをシリンダに取り付ける作業を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、サスペンション装置の組み立て作業の効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係るサスペンション装置の部分断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るスプリングガイドの斜視図である。
【
図3A】本発明の実施形態に係るサスペンション装置における、シリンダに対するスプリングガイドの取付部を拡大して示す拡大断面模式図であり、チューブが加熱される前の状態を示す。
【
図3B】本発明の実施形態に係るサスペンション装置における、シリンダに対するスプリングガイドの取付部を拡大して示す拡大断面模式図であり、チューブが加熱され、収縮した後の状態を示す。
【
図4】中間組立体を運搬する様子を説明する図である。
【
図5】本発明の実施形態の変形例4に係るスプリングガイドの筒部を軸方向に直交する平面で切断した平面断面模式図である。
【
図6】本発明の実施形態の変形例4に係るサスペンション装置における、シリンダに対するスプリングガイドの取付部を拡大して示す拡大断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面を参照して、本発明の実施形態に係るサスペンション装置10について説明する。
【0020】
図1は、サスペンション装置10の部分断面図である。
図1に示すように、サスペンション装置10は、自動車(図示せず)に取り付けられ、車輪(図示せず)を位置決めするとともに減衰力を発生させて車両走行中に路面から受ける衝撃や振動を吸収して車体を安定的に懸架する装置である。
【0021】
サスペンション装置10は、車体と車輪との間に設けられるストラット式のショックアブソーバ1と、ショックアブソーバ1のピストンロッド(以下、ロッドと記す)1aの先端に取り付けられるアッパーマウント2と、ショックアブソーバ1のシリンダ1bの外周面に取り付けられるスプリングガイド100と、スプリングガイド100とアッパーマウント2との間に設けられ、車体を弾性支持するコイルスプリング4と、ロッド1aに嵌装されショックアブソーバ1の縮み側のストロークを規制するバンプストッパ5と、シリンダ1bのロッド1a側の端部に嵌装されるキャップ部材としてのバンプキャップ6と、ロッド1aを保護する筒状のカバー部材としてのダストブーツ7と、筒状に形成され、スプリングガイド100の外周を収縮力により締め付ける収縮性部材としてのチューブ170と、を備える。
【0022】
ショックアブソーバ1は、シリンダ1bと、シリンダ1bの開口部142(
図3A、
図3B参照)から突出する円柱状のロッド1aと、を有する。ショックアブソーバ1は、複筒型のショックアブソーバであり、シリンダ1bは、シリンダ1bの外郭を構成する有底円筒状のアウターチューブ11oと、アウターチューブ11oの内側に設けられるインナーチューブ11i(
図3A、
図3B参照)と、を有する。ロッド1aの下端部には、インナーチューブ11i内を伸側室と圧側室とに区画するピストン(不図示)が連結されている。
【0023】
ロッド1aは、アウターチューブ11oの開口端部に設けられるロッド保持部145(
図3A、
図3B参照)により、摺動自在に支持される。ロッド保持部145は、ダストシール、オイルシール、軸受等が積層された積層構造とされる。ロッド保持部145及びインナーチューブ11iは、アウターチューブ11oの上端部を内側にかしめることにより形成されるかしめ部141(
図3A、
図3B参照)と、アウターチューブ11oの底部とによって軸方向に挟持される。
【0024】
図1に示すように、シリンダ1bのロッド1a側とは反対側の端部には、車輪を保持するハブキャリア(図示せず)とショックアブソーバ1とを連結するためのブラケット1cが設けられる。説明の便宜上、アッパーマウント2側をサスペンション装置10の上側、ブラケット1c側をサスペンション装置10の下側として上下方向を図示するように規定する。なお、サスペンション装置10の上下方向は、サスペンション装置10の軸方向(中心軸方向)であり、ショックアブソーバ1の伸縮方向である。また、サスペンション装置10の径方向(ショックアブソーバ1の径方向)は、サスペンション装置10の軸方向に直交する。
【0025】
ショックアブソーバ1は、アッパーマウント2を介して車体に連結されるとともに、ブラケット1cによりハブキャリアに連結されて車両に組み付けられる。このように構成されたショックアブソーバ1は、ロッド1aがシリンダ1bに対して軸方向(
図1の上下方向)に移動したときに、減衰力が発生するように構成されている。サスペンション装置10は、このショックアブソーバ1の減衰力によって車体の振動を素早く減衰させる。
【0026】
コイルスプリング4は、アッパーマウント2とスプリングガイド100との間に圧縮状態で挟持され、ショックアブソーバ1を伸長方向に付勢する。アッパーマウント2とコイルスプリング4との間にはラバーシート8が設けられる。これにより、アッパーマウント2とコイルスプリング4とが直接当接しないようになっている。スプリングガイド100とコイルスプリング4との間には円弧状のラバーシート40が設けられる。これにより、スプリングガイド100とコイルスプリング4とが直接当接しないようになっている。
【0027】
図2は、スプリングガイド100の斜視図である。
図1及び
図2に示すように、スプリングガイド100は、シリンダ1bの外周に固定される樹脂製の皿状の部材である。スプリングガイド100は、コイルスプリング4を支持する円板状のベース部110と、ベース部110の外縁から上側(アッパーマウント2側)に延在する側壁111と、ベース部110をサスペンション装置10の軸方向(上下方向)に貫通するように設けられ、ショックアブソーバ1のシリンダ1bが挿通する開口部である挿通孔120と、ベース部110から上方及び下方に突出し挿通孔120を囲むように形成される円筒状の筒部112と、有底円筒形状のハブ113と、を備える。
【0028】
ベース部110におけるハブ113の周囲は、ラバーシート40が取り付けられる取付領域とされる。ベース部110には、ラバーシート40の位置を規制する位置規制部(不図示)が設けられる。ラバーシート40は、ゴムなどの弾性を有する材料によって形成される。ラバーシート40には、その断面がコイルスプリング4の断面形状に沿うように湾曲して形成される着座部40a(
図1参照)が設けられる。スプリングガイド100には、軽量化、及びベース部110に溜まった水を抜くために複数の貫通孔(不図示)が形成される。
【0029】
ベース部110から軸方向に突出する筒部112は、その内周が円形状の挿通孔120とされている。
図1に示すように、挿通孔120は、スプリングガイド100をシリンダ1bの外周に固定したときに、スプリングガイド100の中心から車体側に偏心した位置になるように形成される。
【0030】
シリンダ1bの外周には、金属製の支持リング3が溶接により固定されている。スプリングガイド100は、挿通孔120がシリンダ1bの外周に嵌合され、スプリングガイド100の筒部112の下端部が支持リング3によって支持されることで、シリンダ1bの外周に固定される。
【0031】
なお、シリンダ1bと挿通孔120のはめあい、具体的にはシリンダ1bと挿通孔120に形成されるリブ122(
図2参照)とのはめあいは、「すきまばめ」であってもよいし、「しまりばめ」であってもよい。「しまりばめ」を採用する場合、挿通孔120とシリンダ1bとの間のガタがなくなり、ガタによる異音の発生を防止することができる。また、サスペンション装置10の動作の応答性を向上することもできる。
【0032】
スプリングガイド100は、上方からシリンダ1bに嵌め込まれ、支持リング3に当接することで、シリンダ1bに取り付けられる。換言すれば、シリンダ1bは、スプリングガイド100の挿通孔120の下部開口端125Lから挿入される。つまり、下部開口端125Lは、シリンダ1bが挿入される入口であり、下部開口端125Lの反対側の開口端である上部開口端125Uからシリンダ1bの上端部が突出する。
【0033】
図2に示すように、挿通孔120には、その内周面121から径方向内側に向かって突出する凸部としてのリブ122が設けられる。リブ122は、ショックアブソーバ1のシリンダ1bの外周面を支持する支持部として機能する。各リブ122は、挿通孔120の軸方向(すなわち、サスペンション装置10の軸方向)に沿って直線状に設けられる。
【0034】
リブ122は、例えば、その断面形状が丸みを帯びた台形状あるいは半円形状となるように形成され、シリンダ1bの外周面に線接触する。リブ122は、挿通孔120の周方向に沿って等間隔で複数配置される。このため、スプリングガイド100は、挿通孔120の中心軸がシリンダ1bの中心軸に一致するように位置決めされる。
【0035】
図2及び
図3Bに示すように、筒部112は、円筒状の本体部112aと、本体部112aから軸方向一方(上方)に延在する円筒状の固定部112bと、を有する。換言すれば、筒部112のアッパーマウント側の端部(上端部)には、固定部112bが設けられている。本体部112aの内周と固定部112bの内周とは連続しており、本体部112aの内周と固定部112bの内周とによって挿通孔120が形成される。
【0036】
固定部112bの外径は、本体部112aの外径よりも小さい。このため、筒部112の上端部の外周面には、段部112cが形成される。
図3Bに示すように、固定部112bは、固定部112bとシリンダ1bの外周面の一部とを一括して被覆するチューブ170によって、径方向内方に向かって締め付けられる。
【0037】
チューブ170は、熱によって、径方向に収縮し、その収縮力によって固定部112bを締め付ける筒状の熱収縮部材である。チューブ170は、例えば、以下のようにして製造される。
【0038】
まず、ポリエチレン、ポリオレフィン、フッ素系ポリマーなどを主原料とする樹脂材を円筒状に押出成形する。その後、電子線を照射し架橋する。さらに、架橋した部材を加熱して軟化させ、内圧を加えるなどして拡径し、冷却して形状を固定する。これにより、熱収縮特性が付与されたチューブ170が完成する。なお、チューブ170は、収縮硬化した状態(
図3Bに示す状態)で弾力性を有する。
【0039】
図3A及び
図3Bを参照して、チューブ170によってスプリングガイド100をシリンダ1bに固定する方法について説明する。
図3A及び
図3Bは、シリンダ1bに対するスプリングガイド100の取付部を拡大して示す拡大断面模式図である。
図3Aは、チューブ170が加熱される前の状態を示し、
図3Bは、チューブ170が加熱され、収縮した後の状態を示す。なお、加熱により収縮する前のチューブ170の内径は、シリンダ1bの外径よりも大きい。
【0040】
まず、
図3Aに示すように、固定部112bの先端を跨ぐように、収縮前のチューブ170を配置する。例えば、図示するように、チューブ170の一端部を段部112cに配置し、固定部112bの外周面及びシリンダ1bの外周面の一部を径方向外方から覆うようにチューブ170を配置する。このとき、段部112cを構成する本体部112aの端面にチューブ170の下端面を当接させることにより、簡単にチューブ170を位置決めすることができる。
【0041】
図3Aに示すように、固定部112bの外周面とシリンダ1bの外周面の一部を覆うようにチューブ170を配置した後、チューブ170を加熱して収縮硬化させる。これにより、
図3Bに示すように、チューブ170が固定部112bとシリンダ1bの表面に密着する。
【0042】
チューブ170には、シリンダ1bの外径に対応して収縮し、シリンダ1bの外周面に密着するシリンダ密着部171と、固定部112bの外径に対応して収縮し、固定部112bの外周面に密着する固定部密着部172と、が形成される。シリンダ密着部171と固定部密着部172とは軸方向に隣接して配置される。
【0043】
このように、チューブ170をシリンダ1bに取り付け、加熱することにより、スプリングガイド100をシリンダ1bに固定することができるので、スプリングガイド100をシリンダ1bに取り付ける作業を容易に行うことができる。
【0044】
スプリングガイド100は、筒部112の下端部が支持リング3(
図1参照)に支持され、筒部112の上端部がチューブ170による締め付け力により固定されることにより、軸方向に位置決めされる。つまり、チューブ170は、スプリングガイド100の筒部112の上端部を径方向内方に向かって締め付け、シリンダ1bに対するスプリングガイド100の軸方向の移動を規制する。
【0045】
図4に示すように、サスペンション装置10を組み立てる工程において、ショックアブソーバ1のシリンダ1bにスプリングガイド100を嵌合させた状態の中間組立体90を吊り具91により吊り上げ、所定の場所まで運搬することがある。中間組立体90には、コイルスプリング4、アッパーマウント2、バンプストッパ5等が取り付けられていない。
【0046】
吊り具91は、スプリングガイド100のベース部110を下方から持ち上げるように支持し、中間組立体90を吊り上げる。本実施形態では、スプリングガイド100の筒部112の上端部が、チューブ170によってシリンダ1bの外周面に固定されている。このため、吊り具91からスプリングガイド100に上向きの外力が作用した場合であっても、スプリングガイド100がシリンダ1bから外れてしまうことを防止することができる。また、本実施形態では、チューブ170によってスプリングガイド100をシリンダ1bに固定することができるので、スプリングガイド100をシリンダ1bに圧入により固定する必要がない。樹脂製のスプリングガイド100をシリンダ1bに圧入により強固に固定する場合、スプリングガイド100に圧入による割れが生じるおそれがある。これに対して、本実施形態では、スプリングガイド100をシリンダ1bに圧入により固定する必要がないので、圧入に起因する割れの発生を防止することができる。
【0047】
車両は様々な環境で使用される。例えば、降雪の多い地域において車両が走行する場合、サスペンション装置10は、融雪剤を含んだ水と接触することがある。融雪剤は塩化カルシウムを含んでいる。このため、シリンダ1bの外周と挿通孔120の内周との間に塩化カルシウムを含んだ水が侵入してしまうと、挿通孔120の内周が劣化し、損傷してしまうおそれがある。
【0048】
本実施形態では、チューブ170は、筒部112の上端部に設けられた固定部112bとシリンダ1bの一部とをシリンダ1bの全周に亘って被覆することにより、シリンダ1bの外周と挿通孔120との間の隙間を閉塞する。
【0049】
このため、チューブ170によって、シリンダ1bと挿通孔120との間の隙間に、砂、水等の異物が侵入することを防止することができる。したがって、シリンダ1bの外周と挿通孔120の内周との間の隙間に異物が侵入することに起因した劣化、損傷を防止することができる。
【0050】
上述した実施形態によれば、次の作用効果を奏する。
【0051】
チューブ170が、固定部112bとシリンダ1bの一部とを一括して被覆し、その収縮力によって固定部112bを締め付け、スプリングガイド100をシリンダ1bに固定する。このため、サスペンション装置10の組み立て作業において、スプリングガイド100に外力が作用したときに、チューブ170によって、シリンダ1bに対するスプリングガイド100の軸方向の移動が規制される。
【0052】
これにより、サスペンション装置10の組み立て作業において、スプリングガイド100がショックアブソーバ1から外れてしまうことを防止することができる。したがって、サスペンション装置10の組み立て作業の効率を向上することができる。
【0053】
また、サスペンション装置10の組み立て作業において、吊り具91によってスプリングガイド100を支持し、中間組立体90を吊り上げ、所定の場所まで運搬するという工程を採用することもできるので、サスペンション装置10の組み立て作業の自由度が高い。
【0054】
次のような変形例も本発明の範囲内であり、変形例に示す構成と上述の実施形態で説明した構成を組み合わせたり、以下の異なる変形例で説明する構成同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0055】
<変形例1>
上記実施形態では、予め筒状に形成されたチューブ170を段部112cに配置し(
図3A参照)、加熱して収縮硬化させる(
図3B参照)例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、熱収縮部材として、帯状のテープを固定部112bとシリンダ1bの外周面の一部に複数回巻きつけて筒状とし、複数層からなる筒状のテープを加熱して収縮硬化させるようにしてもよい。
【0056】
<変形例2>
上記実施形態では、チューブ170が熱収縮部材である例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、チューブ170は、熱収縮特性を有していない部材であって、固定部112bを弾性的に締め付ける、ゴム等の弾性部材であってもよい。この場合、チューブ170に外力が作用していない状態において、チューブ170の内径は、シリンダ1bの外径よりも小さい。
【0057】
チューブ170は、径方向外方に引っ張られて拡径された状態でシリンダ1bに嵌め込まれる(
図3A参照)。チューブ170は、その下端部が段部112cに配置された状態で、引っ張り力が解除されることにより、弾性収縮力によって径方向に収縮し、固定部112bを径方向内方に向かって締め付ける(
図3B参照)。
【0058】
このような変形例によれば、筒状の弾性部材としてのチューブ170を弾性変形させてシリンダ1bに取り付けることにより、スプリングガイド100をシリンダ1bに固定することができるので、スプリングガイド100をシリンダ1bに取り付ける作業を容易に行うことができる。
【0059】
<変形例3>
上記実施形態では、スプリングガイド100の筒部112に形成される固定部112bの外径が、本体部112aの外径に比べて小さい例について説明したが(
図2、
図3B参照)、本発明はこれに限定されない。固定部112bの外径は、本体部112aの外径と同じにしてもよいし、本体部112aの外径よりも大きくしてもよい。
【0060】
ただし、シリンダ1bの外径と固定部112bの外径とが大きく異なると、シリンダ密着部171と固定部密着部172との間で、過大な引張応力が発生するおそれがある。このため、上記実施形態のように、本体部112aの外径に比べて、固定部112bの外径が小さくなるように筒部112を形成することが好ましい。これにより、チューブ170に過大な引張応力が発生することを防止することができる。また、本体部112aの肉厚は、固定部112bの肉厚に比べて大きいため、シリンダ1bの外周を保持する筒部112として必要な強度を確保することができる。
【0061】
<変形例4>
上記実施形態では、筒部112に形成される固定部112bが、筒状とされる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。固定部112bの形状は、種々の形状を採用することができる。
図5及び
図6を参照して、本実施形態の変形例4に係るスプリングガイド200とシリンダ1bの取付構造について説明する。
図5は、スプリングガイド200の筒部212を軸方向に直交する平面で切断した平面断面模式図であり、
図6は、シリンダ1bに対するスプリングガイド200の取付部を拡大して示す拡大断面模式図である。
図5において、シリンダ1b内の構造については、図示を省略している。
【0062】
本変形例では、
図5及び
図6に示すように、スプリングガイド200の筒部212に、本体部112aの端面(挿通孔120の上部開口縁部)から軸方向一方(上方)に突出する固定部212bが複数設けられる。
【0063】
本変形例では、固定部212bと、周方向に隣り合う固定部212b間におけるシリンダ1bの外周面とを、チューブ270によって一括被覆することにより、スプリングガイド200をシリンダ1bに固定することができる。本変形例に係るチューブ270は、シリンダ1bの外周面に密着するシリンダ密着部271と、固定部212bの外周面に密着する固定部密着部272と、を有する。シリンダ密着部271と固定部密着部272とは周方向に隣接して配置される。本変形例では、周方向に隣り合う固定部212b間におけるシリンダ1bの外周面がチューブ270によって被覆されるため、シリンダ1bにスプリングガイド200を固定するのに必要なシリンダに対するチューブ270の被覆面積(接触面積)を容易に確保することができる。
【0064】
<変形例5>
上記実施形態では、スプリングガイド100が樹脂製である例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、スプリングガイド100は、金属により形成してもよい。
【0065】
以上のように構成された本発明の実施形態の構成、作用、および効果をまとめて説明する。
【0066】
サスペンション装置10は、シリンダ1bとシリンダ1bから突出するロッド1aとを有し、車体と車輪との間に設けられるショックアブソーバ1と、ロッド1aの先端に取り付けられるアッパーマウント2と、シリンダ1bの外周面に取り付けられるスプリングガイド100,200と、スプリングガイド100,200とアッパーマウント2との間に設けられ、車体を弾性支持するコイルスプリング4と、筒状に形成され、スプリングガイド100,200の外周を収縮力により締め付ける収縮性部材としてのチューブ170,270と、を備え、スプリングガイド100,200は、ショックアブソーバ1が挿通する挿通孔120と、チューブ170,270によって締め付けられる固定部112b,212bと、を有し、チューブ170,270は、固定部112b,212bとシリンダ1bの一部とを一括して被覆する。
【0067】
この構成では、スプリングガイド100,200に外力が作用したときに、チューブ170,270によってスプリングガイド100,200の移動が規制される。これにより、スプリングガイド100,200がショックアブソーバ1から外れてしまうことを防止することができる。したがって、サスペンション装置10の組み立て作業の効率を向上することができる。
【0068】
サスペンション装置10は、スプリングガイド100が、内周が挿通孔120とされた筒状の筒部112を有し、固定部112bが、筒部112の端部に設けられ、チューブ170が、固定部112bとシリンダ1bの一部とをシリンダ1bの全周に亘って被覆することにより、シリンダ1bと挿通孔120との間の隙間を閉塞する。
【0069】
この構成では、チューブ170によって、シリンダ1bと挿通孔120との間の隙間に、砂、水等の異物が侵入することを防止することができる。
【0070】
サスペンション装置10は、スプリングガイド200が、内周が挿通孔120とされた筒状の筒部212を有し、筒部212が、本体部112aと、本体部112aから軸方向に突出する複数の固定部212bと、を有し、チューブ270が、固定部212bと、周方向に隣り合う固定部212b間におけるシリンダ1bの外周面とを一括して被覆する。
【0071】
この構成では、周方向に隣り合う固定部212b間におけるシリンダ1bの外周面がチューブ270によって被覆されるため、シリンダ1bにスプリングガイド200を固定するのに必要なシリンダ1bに対するチューブ270の被覆面積(接触面積)を容易に確保することができる。
【0072】
サスペンション装置10は、チューブ170,270が、熱によって収縮し、その収縮力によって固定部112b,212bを締め付ける熱収縮部材である。
【0073】
この構成では、筒状のチューブ170,270をシリンダ1bに取り付け、加熱することにより、スプリングガイド100,200をシリンダ1bに固定することができるので、スプリングガイド100,200をシリンダ1bに取り付ける作業を容易に行うことができる。
【0074】
サスペンション装置10は、チューブ170,270が、固定部112b,212bを弾性的に締め付ける弾性部材である。
【0075】
この構成では、筒状のチューブ170,270を弾性変形させてシリンダ1bに取り付けることにより、スプリングガイド100,200をシリンダ1bに固定することができるので、スプリングガイド100,200をシリンダ1bに取り付ける作業を容易に行うことができる。
【0076】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0077】
1・・・ショックアブソーバ、1a・・・ロッド、1b・・・シリンダ、2・・・アッパーマウント、4・・・コイルスプリング、10・・・サスペンション装置、100,200・・・スプリングガイド、112,212・・・筒部、112a・・・本体部、112b,212b・・・固定部、120・・・挿通孔、170,270・・・チューブ(収縮性部材)